(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】メラニン生成抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/64 20060101AFI20220831BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20220831BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20220831BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220831BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
A61K8/64
A61K38/05
A61Q19/02
A61P17/00
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2017079423
(22)【出願日】2017-04-13
【審査請求日】2020-04-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】398010472
【氏名又は名称】株式会社協和
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】服部 淳彦
(72)【発明者】
【氏名】丸山 雄介
(72)【発明者】
【氏名】宮内 大治
(72)【発明者】
【氏名】横川 剛
(72)【発明者】
【氏名】高野 裕二朗
(72)【発明者】
【氏名】松野 圭吾
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/126163(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/002840(WO,A1)
【文献】特開2006-022066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/05
A61K 8/64
A61P 43/00
A61P 17/00
A61Q 19/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gly-Val、Lys-ValおよびVal-Aspからなる群から選択される1種または2種以上のジペプチドを含有する、ジヒドロキシインドールカルボン酸の重合阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン生成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
しみやそばかすなどの色素沈着を抑えて皮膚をより白くする(美白)ことが、美容上の観点から強く望まれている。
色素沈着は、紫外線照射、酸化的刺激、ホルモン異常などの影響で表皮に存在する黒色素細胞(メラノサイト)が活性化され、メラニン色素の生成が著しく亢進することにより生じている。
メラニンの生成、色素沈着についてより具体的に説明すると、まず、酵素であるチロシナーゼの働きにより、アミノ酸の1種であるチロシンが酸化されてドーパが生成される。チロシナーゼはこのドーパにも作用し、ドーパからドーパキノンが生成される。次いで、ドーパキノンがドーパクロムに変換された後、ジヒドロキシインドール(DHI)またはジヒドロキシインドールカルボン酸(DHICA)に変換され、さらに該DHICAやDHIが自動的に重合することでメラニンが生成される。そして、生成したメラニンが皮膚中で沈着することにより、いわゆる「しみ」や「そばかす」などの色素沈着となる。
【0003】
そのため、色素沈着を抑えて美白するための技術が提案されている。
例えば、メラニンの生成原因となる紫外線から皮膚を守る日焼け止めクリームなどが広く用いられている。
また、チロシナーゼを阻害してメラニン生成を抑制することも提案されている。例えば、チロシナーゼを阻害する物質としてビタミンC、アルブチン、コウジ酸などがこれまでに見出されており、これらを用いてメラニン生成を抑制する方法が知られている。
【0004】
また、牛や豚などの胎盤からの抽出物(プラセンタエキス)にもチロシナーゼの阻害作用があることが知られており、当該プラセンタエキスを用いたメラニンの生成抑制も提案されている。特許出願人も、メラニン生成抑制作用が増強されている胎盤抽出物の製造方法を提案している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-079026号公報
【文献】特願2015-234222
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
メラニンの抑制について以上のように様々な提案がされている一方、さらなる要求が存在する。
本発明は、メラニン生成を抑制できる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は胎盤の抽出物によるメラニン抑制作用について研究を重ねたところ、該抽出物にも含まれる、バリンを構成アミノ酸とするジペプチドが優れたDHICA重合阻害作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] バリンを構成アミノ酸として含むジペプチドを含有する、メラニン生成抑制剤。
[2] 前記ジペプチドとして、Ala-Val、Gly-Val、Lys-Val、Val-Asp、およびVal-Thrからなる群から選択される1種または2種以上を含む[1]に記載のメラニン生成抑制剤。
[3] バリンを構成アミノ酸として含むジペプチドを含有する、ジヒドロキシインドールカルボン酸(DHICA)の重合阻害剤。
[4] バリンを構成アミノ酸として含むジペプチドを含有する、色素沈着抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、メラニン生成を抑制できる新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例のメラニン生成抑制剤と黒化抑制率との関係を示すグラフである。
【
図2】実施例のメラニン生成抑制剤による黒化抑制の様子の一例を示した写真である。
【
図3】実施例のメラニン生成抑制剤とDHICAの2量体生成抑制率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の1つの実施形態について詳述する。
本実施形態はバリン(Val)を構成アミノ酸として含むジペプチド(以下、単にバリンを含むジペプチド、ともいう)を含有する、メラニン生成抑制剤に関する。
【0012】
本実施形態のメラニン生成抑制剤に係るバリンを含むジペプチドは、合成品や天然物由来の精製物を用いてもよく、また、該ジペプチドを含む組成物の態様で用いられるようにしてもよい。例えば、上述のとおりバリンを含むジペプチドは胎盤の抽出物に含まれており、該胎盤の抽出物やその精製物に含まれる形でメラニン生成抑制のために使用されるようにすることもできる。
【0013】
なお、本明細書において、胎盤の抽出物とは、胎盤(凍結・融解等の処理が行われていてもよい)または胎盤の分解物を必要に応じて水等の抽出溶媒に浸漬または混合した後、不溶物等を除くことにより得られる抽出液、この抽出液から水分等を除去したもの、あるいは上記抽出液や水分等の除去物を適当な溶剤を用いるなどして溶解、分散、希釈したものなどをいう。
また、本明細書において、胎盤の分解物とは、ヒト、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、マウスなどの動物の胎盤に対し成分を分解する処理を行うことにより得られる組成物をいう。成分を分解する処理としては公知の方法を用いることができ、例えば酵素分解、加水分解、酸・アルカリ分解などが挙げられる。
【0014】
ここで、メラニン生成をより抑制できるようにする観点から、本実施形態のメラニン生成抑制剤は、バリンを含むジペプチドとして、Ala-Val、Gly-Val、Lys-Val、Val-AspおよびVal-Thrからなる群から選択される1種または2種以上を含有することが好ましく、Gly-ValまたはVal-Aspの少なくともいずれかを含有することがより好ましく、Val-Aspを少なくとも含有することがさらにより好ましい。
【0015】
本実施形態のメラニン生成抑制剤において、ジペプチドの投与量は特に限定されず、当業者が適宜設定できる。例えば、経口により摂取される場合には、一回当たり1 mg以上30 g以下が投与されるようにすることができる。また、経皮摂取される場合には、一回当たり1 cm2につき100 ng以上100 mgが投与されるようにすることが例示できる。なお、一日あたりの摂取回数についても特に限定されないが、経口摂取および経皮摂取いずれの場合も例えば一日3回などの摂取が例示できる。
【0016】
本実施形態のメラニン生成抑制剤は、様々な態様とすることができる。また、本実施形態のメラニン生成抑制剤は、バリンを含むジペプチドに加えて、本発明の目的を達成できる範囲で他の成分を含んでもよく、特に限定されない。例えば、バリンを含むジペプチド(上述のとおり、胎盤の抽出物等に含まれる態様であってもよい)と他の成分と混合し、飲食品や化粧料等の組成物を構成することができる。さらに、本実施形態のメラニン生成抑制剤は、医薬品、医薬部外品等であってもよい。
【0017】
本実施形態のメラニン生成抑制剤が飲食品である場合、例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、または機能性表示食品といった保健機能食品、特別用途食品、一般食品とすることができる。具体的には、錠剤、口腔内速崩壊錠、カプセル、顆粒、細粒などの固形投与形態や清涼飲料水のような液体投与形態のものを挙げることができる。
飲食品として構成される場合、他の成分は、食品用として使用可能なものを適宜選択して配合でき、特に限定されない。
【0018】
また、本実施形態のメラニン生成抑制剤が化粧料である場合、例えば、乳液、クリーム、化粧水、パック、分散液、洗浄料、メーキャップ化粧料、頭皮・毛髪用品等の化粧品などとすることができる。配合される他の成分も化粧料を製造する際に認められている成分を適宜選択して用いることができ、特に限定されない。
【0019】
以上、本実施形態によれば、本実施形態のメラニン生成抑制剤が有するバリンを含むジペプチドによりDHICAの重合が阻害されるので、メラニンの生成を抑制することができる。また、このようにメラニンの生成が抑制されることにより、個人差はあるが、しみやそばかすなどの色素沈着を抑えることができる。
【実施例】
【0020】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
なお、Ala-Val (実施例1-1)とGly-Val (実施例1-2)はAnaSpec社、Lys-Val (実施例1-3)とVal-Asp (実施例1-4)、Val-Thr (実施例1-5)はGenScript社にて合成・購入したものを使用した。各実施例に係るジペプチドをDWによって10 mMとなるように溶解し、適宜希釈して試験を行った。
[試験例1:黒化抑制率の測定]
ジヒドロキシインドールカルボン酸(5,6-Dihydloxy-1h-indole-2-calboxylic acid (DHICA):Combi Blocks社)は0.02 Mリン酸緩衝生理食塩水(2×PBS)に溶解して用いた。96 ウェルプレートを用い、DHICAの最終濃度が1 mM、PBSの最終濃度が0.01 Mになるように添加し、そこにジペプチド溶液 (実施例1-1~5)、あるいはDW (比較例)を添加した。
具体的にはジペプチド溶液60 mlに2.5 mM DHICA溶液60 mlと1×PBS 30 mlを加えて150 mlに合わせた。
反応開始(DHICAとジペプチドの混合時)から24時間後に、マイクロプレートリーダー (ARVO-SX:株式会社パーキンエルマージャパン)を用いて405 nmの吸光度を測定した。黒化抑制率は比較例の黒化度を100%とした時の実施例の黒化の抑制率として求めた。具体的には、以下の式によって求めた。
黒化抑制率(%)= { (比較例の黒化度)-(実施例の黒化度) } / (比較例の黒化度)
また各ジペプチドの黒化抑制率から、4パラメータ・ロジスティック回帰によって50%阻害濃度 (IC50)を算出した。
【0021】
実施例について黒化抑制率を比較した結果を
図1に示す。また、実施例 (1-4と1-5)の黒化の様子を示した写真を例示として
図2に示すとともに、各実施例のIC
50の値を表1に示す。
【0022】
【0023】
図1から理解できるように、ジペプチドの作用により、濃度依存的に黒化が抑制されていることが理解できる。
【0024】
[試験例2:2量体生成抑制率の測定]
5 mMになるようにDHICAをPBSに添加するとともに該溶液に各実施例に係るジペプチドを
図3において示す濃度となるように添加し、0時間と18時間後にHPLCによって2量体の量的変化を測定した。
サンプルはオートサンプラSIL20A (島津製作所)にて100 μLを注入した。HPLCのバッファーはpH3.0の10 mM酢酸アンモニウム溶液 / メタノール (=70/30)を用い、流速は0.4 ml/minとした。逆相カラムCAPCEL PAK C18 MGII (5 mm, 4.6 mm I.D. ×250 mm;資生堂)を用い、40℃で溶出を行った。検出は蛍光分析器RF-20A (島津製作所)を用いて励起光310 nm、蛍光380 nmで測定を行った。同条件にて質量分析器LCMS8050 (島津製作所)を用いてエレクトロスプレーイオン化法によってアニオン化したDHICA2量体 (m/z=383.1)をモニタリングし、HPLC-蛍光解析における同位置のピーク面積をLCsolutions (島津製作所)によって測定し、2量体生成量の相対値として算出した。
2量体生成抑制率は、比較例の2量体生成量に対する実施例の2量体生成量の抑制率として求めた。具体的には以下の式によって求めた。
2量体生成抑制率(%)= { (比較例の2量体生成量)-(実施例の2量体生成量) } / (比較例の2量体生成量)
【0025】
結果を
図3に示す。
例示したいずれの実施例においてもDHICAの2量体生成が抑制されている。
当該結果から、ジペプチドによる黒化抑制作用の一部は、DHICAの重合抑制によると理解できる。