(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】ジオポリマー固化材、ジオポリマー固化方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/26 20060101AFI20220831BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20220831BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20220831BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20220831BHJP
C04B 22/12 20060101ALI20220831BHJP
G21F 9/30 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B40/02
C04B22/08 Z
C04B22/06 A
C04B22/06 Z
C04B22/12
G21F9/30 511A
(21)【出願番号】P 2018145248
(22)【出願日】2018-08-01
【審査請求日】2021-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 久夫
(72)【発明者】
【氏名】堀内 伸剛
(72)【発明者】
【氏名】小松 隆一
(72)【発明者】
【氏名】麻川 明俊
(72)【発明者】
【氏名】木村 勇気
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102180606(CN,A)
【文献】特開2017-067679(JP,A)
【文献】特表2016-534964(JP,A)
【文献】特開平05-098257(JP,A)
【文献】特開平08-059314(JP,A)
【文献】特開2010-150431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/02
G21F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリアルミナ粉末と非晶質シリカ粉末とからなる、固化時にゼオライト化する2種類の粉末のみを混合してな
り、
前記アルカリアルミナ粉末に対する前記非晶質シリカ粉末の混合比率は、Si/Alのモル比で1.0以上、2.0以下の範囲であることを特徴とするジオポリマー固化材。
【請求項2】
前記アルカリアルミナ粉末は、アルミン酸ナトリウム粉末を含むことを特徴とする請求項1記載のジオポリマー固化材。
【請求項3】
前記アルミン酸ナトリウム粉末は、斜方晶であることを特徴とする請求項2記載のジオポリマー固化材。
【請求項4】
前記非晶質シリカ粉末は、シリカヒューム粉末、溶融シリカ粉末のうち、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項記載のジオポリマー固化材。
【請求項5】
前記ジオポリマー固化材は、ナトリウム水酸化物、ナトリウムハロゲン化物のうち、少なくとも一方を更に含むことを特徴とする請求項1ないし
4いずれか一項記載のジオポリマー固化材。
【請求項6】
請求項1ないし
5いずれか一項記載のジオポリマー固化材を用いたジオポリマー固化方法であって、
前記ジオポリマー固化材と水と被固化物とを混練した混練物を形成する混練工程を備えたことを特徴とするジオポリマー固化方法。
【請求項7】
前記ジオポリマー固化材に対する前記水の混合比率は、質量比で0.5以上、1.5以下の範囲であることを特徴とする請求項
6記載のジオポリマー固化方法。
【請求項8】
前記混練物を室温以上に加熱する加熱工程を更に備えたことを特徴とする請求項
6または
7記載のジオポリマー固化方法。
【請求項9】
前記被固化物は、放射性廃棄物であることを特徴とする請求項
6ないし
8いずれか一項記載のジオポリマー固化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被固化物を固化させるジオポリマー固化材およびジオポリマー固化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砂利や砂を固化材であるセメントによって固化させたコンクリートは、ビル、橋梁、ダムなどの構造体に広く用いられている。一方で、セメントを製造する際に排出される多量の二酸化炭素は、温室効果ガスとして排出削減が求められている。
【0003】
近年、こうしたセメントに代えて、より環境負荷の少ない固化材として、ジオポリマー固化材が注目されている。従来のジオポリマー固化材は、反応性の高い活性フィラー(充填剤)と呼ばれる焼成処理したメタカオリンを原料とするアルミノシリケートもしくは火山灰などのガラス質原料と、その反応を活性化させるための水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液と、様々な不活性フィラーと呼ばれる粒子状材料とを混錬して乾燥させることによって、粒子状材料の粒子間にシリケート系ポリマーを生成させて固化させるものである。
【0004】
例えば、特許文献1には、活性フィラーとアルカリ活性剤と骨材、すなわち不活性フィラーとを原料としたジオポリマー組成物が開示されている。このジオポリマー組成物の活性フィラーは、少なくともフライアッシュ、高炉スラグ、下水焼却汚泥のいずれかを含み、アルカリ活性剤は少なくとも水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムのいずれかを含むとされている。
【0005】
また、例えば特許文献2には、ケイ酸ナトリウム水溶液とフライアッシュとを混合して型枠に流しこみ、常温でそのまま固化させるジオポリマー固化方法が開示されている。
【0006】
また、例えば特許文献3には、活性フィラーとアルカリ活性剤を混合する際の温度管理・時間管理を実施するジオポリマーの製造技術が開示されている。ここでは、活性フィラーとしてアルミノシリケートを成分として含む物質、フライアッシュ、高炉スラグ、赤泥、シリカヒューム、下水汚泥焼却灰などの産業廃棄物、天然アルミノシリケート鉱物及びその仮焼物、火山灰を用い、アルカリ活性剤として、高アルカリ性を示す水溶液、すなわちアルカリ水酸化物や炭酸アルカリ塩、アルカリケイ酸塩の水溶液を用いることが記載されている。
【0007】
また、例えば特許文献4には、活性フィラーにフライアッシュを用い、アルカリ活性剤に水酸化カリウム溶液または水酸化ナトリウム溶液とケイ素粉末又はシリカヒュームとを予め混合したもの用いて固化させるジオポリマー硬化体の製造方法が開示されている。
【0008】
また、例えば特許文献5には、活性フィラーにフライアッシュ・高炉スラグを、アルカリ活性剤に水酸化ナトリウム溶液を用い、これらを先に混合した後にシリカ源としてシリカの微粒子粉体であるシリカヒュームを徐々に溶解させるジオポリマー製品の製造方法が開示されている。
【0009】
また、例えば特許文献6には、活性フィラーにフライアッシュや高炉スラグ微粉末、シリカヒュームを用い、アルカリ活性剤に水酸化ナトリウム溶液を用いて骨材(不活性フィラー)と混合し、常温による前養生と蒸気養生によりジオポリマー硬化体を製造する製造方法が開示されている。
【0010】
こうした特許文献6では、簡便性及び汎用性の問題を解決するために、活性フィラーであるフライアッシュ、高炉スラグ、シリカヒュームなどの無機粉体とアルカリ活性剤の水酸化ナトリウム溶液、不活性フィラーを混合し、常温による前養生と蒸気養生の2段階養生を用いている。これにより、簡便性及び汎用性を確保しながら、固化開始時間を十分に遅らせることを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5091519号公報
【文献】特開平8-301639号公報
【文献】特許第6018682号公報
【文献】特開2016-222528号公報
【文献】特許第6058474号公報
【文献】特開2017-100905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した特許文献1~6に開示された従来のジオポリマー固化材やその製造方法では、固化開始時間を制御するために、構成材料の事前の加温や一定時間以上の攪拌、および固化のための前養生などが必要となり、固化プロセスが複雑で作業性が悪いという課題があった。
また、いずれもアルカリ活性剤として水溶液を用いるため、混合物の水分量を独立して制御することができず、また、濃度調整のための手段が別途必要であり、取扱性が悪いという課題があった。
【0013】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、固化開始時間を制御でき、かつ固化させる手順が簡便で作業性に優れたジオポリマー固化材、およびこれを用いたジオポリマー固化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明のジオポリマー固化材は、アルカリアルミナ粉末と非晶質シリカ粉末とからなり、前記アルカリアルミナ粉末に対する前記非晶質シリカ粉末の混合比率は、Si/Alのモル比で1.0以上、2.0以下の範囲であることを特徴とする。
【0015】
本発明のジオポリマー固化材は、アルカリアルミナ粉末と非晶質シリカ粉末とを混合した粉末(粉体)であるため、従来のように水溶液を含むジオポリマー固化材と比較して可搬性に優れ、取扱いが容易である。また、粉末(粉体)であるため、従来のようにアルカリ活性剤として水溶液を用いていた場合と比較して、混練物に含まれる水分量を容易に制御することができ、固化に係る作業性を向上させることができる。そして、固化時に被固化物および水と混練するだけで固化させることができるので、固化に係る手間が少なく、作業性に優れたジオポリマー固化材を実現できる。
【0016】
また、本発明では、前記アルカリアルミナ粉末は、アルミン酸ナトリウム粉末を含んでいてもよい。
【0017】
また、本発明では、前記アルミン酸ナトリウム粉末は、斜方晶であってもよい。
【0018】
また、本発明では、前記非晶質シリカ粉末は、シリカヒューム粉末、溶融シリカ粉末のうち、少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0021】
本発明のジオポリマー固化方法は、前記各項記載のジオポリマー固化材を用いたジオポリマー固化方法であって、前記ジオポリマー固化材と水と被固化物とを混練した混練物を形成する混練工程を備えたことを特徴とする。
【0022】
また、本発明では、前記ジオポリマー固化材に対する前記水の混合比率は、質量比で0.5以上、1.5以下の範囲であってもよい。
【0023】
また、本発明では、前記混練物を室温以上に加熱する加熱工程を更に備えていてもよい。
【0024】
また、本発明では、前記被固化物は、放射性廃棄物であってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、固化開始時間を制御でき、かつ固化させる手順が簡便で作業性に優れたジオポリマー固化材、およびこれを用いたジオポリマー固化方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】アルカリアルミナ粉末と非晶質シリカ粉末による反応生成物を示す顕微鏡写真である。
【
図2】検証例1で得られた固化物を示す写真である。
【
図7】検証例4の結果を示す反射電子像、元素マップおよび輝度分布である。
【
図8】検証例5の結果を示す顕微鏡写真および元素マップである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態のジオポリマー固化材およびこれを用いたジオポリマー固化方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0028】
(ジオポリマー固化材)
本発明のジオポリマー固化材は、アルカリアルミナ粉末と非晶質シリカ粉末とを混合した粉体の固化材である。ジオポリマー固化材を構成するアルカリアルミナ粉末は、ジオポリマー固化材のアルカリ活性剤であり、例えば、アルミン酸ナトリウム粉末を用いることができる。
【0029】
本実施形態では、アルカリアルミナ粉末として、アルミン酸ナトリウム粉末を用いている。アルミン酸ナトリウムは、ナトリウムとアルミニウムの複酸化物である二酸化ナトリウムアルミニウム(NaAlO2)であり、水に易溶で水溶液は加水分解によって強塩基性を示す。
【0030】
ジオポリマー固化材に用いられるアルミン酸ナトリウム粉末は、結晶構造が斜方晶(β相)のものを用いることが好ましい。
【0031】
ジオポリマー固化材を構成する非晶質シリカ粉末は、ジオポリマー固化材の活性フィラーである。非晶質シリカ粉末としては、例えば、シリカヒューム粉末、溶融シリカ粉末などを用いることができる。本実施形態では、非晶質シリカ粉末としてシリカヒューム粉末を用いている。シリカヒューム粉末は、例えば、フェロシリコン、金属シリコン、電融ジルコニア等を製造する際に発生するダスト中に含まれる高純度二酸化ケイ素の非晶質微粒子である。
【0032】
ジオポリマー固化材に用いられるシリカヒューム粉末は、例えば平均粒径が100nm以上、45μm以下の範囲が好ましく、本実施形態では150nmのものを用いている。また、本実施形態では、シリカヒューム粉末の比表面積(N2-BET法測定による)は、15m2/g以上、30m2/g以下の範囲である。
【0033】
ジオポリマー固化材を構成するアルカリアルミナ粉末と非晶質シリカ粉末との好ましい混合比率は、生成しうる鉱物の化学量論比を元に、Si/Alのモル比で1.0以上、2.0以下の範囲である。こうしたモル混合比率の範囲よりもアルカリアルミナ粉末の割合が多いと、固化後に未反応のアルカリアルミナが多く残留し、活性度の高いアルカリアルミナによって固化体の劣化を招く懸念がある。一方、上述したモル混合比率の範囲よりも非晶質シリカ粉末の割合が多いと、固化後に未反応の非晶質シリカ粉末が多く残留し、固化体の強度低下をもたらす懸念がある。
【0034】
本発明のジオポリマー固化材は、アルカリアルミナ粉末と非晶質シリカ粉末に加えて、更に水酸化マグネシウム粉末を含んでいてもよい。ジオポリマー固化材として強アルカリ環境で安定な水酸化マグネシウム粉末を更に添加することによって、マグネシウムケイ酸塩の外縁部を有する数十μmの球状の凝集体が形成され、さらにこれらが空隙を均等に充填することで、一種の枯渇効果を発現し、凝集体の持つ電気二重層斥力によりジオポリマー固化をより強固に保つ、構造安定剤の効果を得ていると考えられる。これらの水酸化マグネシウム凝集体の界面はマグネシウムケイ酸塩水和物化が進行し、これによっても固化が強固になっていると思われる。
水酸化マグネシウム粉末の好ましい混合比率は、アルカリアルミナ粉末と非晶質シリカ粉末の合計に対して、質量比で0.7以上、1.8以下の範囲である。
アルカリアルミナ粉末以外の余剰のナトリウム化合物、例えば水酸化ナトリウム塩(NaOH)や塩化ナトリウム(NaCl)を含む場合、塩素などの海水成分の固定が期待できるソーダライトが生成する。
【0035】
以上のような構成のジオポリマー固化材は、水を加えて混練し、所定の温度で所定時間静置することにより固化する。ジオポリマー固化材の固化時の化学反応は、以下のとおりである。なお、「Si/Al」は、アルカリアルミナ粉末に含まれるAlと、非晶質シリカ粉末に含まれるSiとのモル比を示している。
(1)Si/Al=1.0の場合
2SiO2+2NaAlO2→Na2Al2Si2O8(ネフェリン)
但し、余剰のナトリウム化合物がある場合
3SiO2+3NaAlO2+NaOH, Cl=Na4Si3Al3O12(OH、Cl)(ソーダライト)
(2)Si/Al=1.5の場合
3SiO2+2NaAlO2+nH2O→Na2Al2Si2O10・nH2O(ナトロライト)
(3)Si/Al=2.0の場合
2SiO2+NaAlO2+nH2O→NaAlSi2O6・nH2O(アナルサイム・チャバザイト)
【0036】
図1に反応生成物の観察像を示す。なお、
図1(a)は結晶化を伴うSi/Alモル比1.0のジオポリマー反応生成物(150℃、23h)の光学顕微鏡写真、
図1(b)はガラス質を伴うSi/Alモル比1.4のジオポリマー反応生成物(150℃、26h)の光学顕微鏡写真、
図1(c)はSi/Alモル比1.0、水混練時のジオポリマー固化材結晶質(NEP:ネフェリン、NAT:ナトロライト)の走査電子顕微鏡写真、
図1(d)はSi/Alモル比1.0、テトラブチルアミン水酸化物(TBAH)添加後の結晶質の走査電子顕微鏡写真、
図1(e)はSi/Alモル比1.0の固化物断面のEPMAの反射電子線像(ZEO: ゼオラム粒子、白色矢印: 結晶化したマトリクス)、
図1(f)はSi/Alモル比1.0でTBAH添加後の固化物断面のEPMAの反射電子線像(ZEO: ゼオラム粒子、白色矢印: 結晶化したマトリクス)をそれぞれ示している。
【0037】
なお、ジオポリマー固化材が固化した時に生成する反応物は、これらに限定されるものではなく、更に別な組成のNa-Al-Si系の酸化物(非晶質又は結晶質ケイ酸塩)が生成することもある。
【0038】
本発明のジオポリマー固化材を固化させる際に加える水の量(W)は、ジオポリマー固化材(GP)に対する水(W)の重量混合比(W/GP)として、0.5以上、1.5以下の範囲である。こうした範囲よりも水が少ないとアルミン酸ナトリウムの溶解が不完全になるため、遊離したシラノールイオン([Si(OH)4]4-)と遊離した4配位構造体もしくはAl-O-Al架橋構造のテトラヒドロキシドアルミン酸イオン([Al(OH)4]-,[(OH)3AlOAl(OH)3]2-)成分が不足し、ジオポリマー固化材の固化が充分に進行しない虞がある。例えば、アルミン酸ナトリウムの水に対する溶解度が約500g/Lのとき、水(W)とアルミン酸ナトリウム(NA)の比率W/NAは2.0となる。また、水が多すぎると固化反応に寄与する遊離したAlがギブサイト(Al(OH)3)として先に沈殿してしまい、ゼオライトなどのSi-Al系二次鉱物に対する過飽和が達成できないと考えられる。
【0039】
本発明のジオポリマー固化材を用いて固化させる被固化物(非活性フィラー)の例としては、各種骨材、砂利、砂などが挙げられ、これらを固化させて土木、建築用構造体として用いることができる。また、産業廃棄物などを固化して安定化させる目的に使用することもできる。例えば、福島原子力発電所の事故で生じた放射性廃棄物の固化や、九州南部一帯の地層に存在する火山灰由来のシラス(火山ガラス)の固化などにも用いることができる。
【0040】
以上のような構成の本発明のジオポリマー固化材によれば、アルカリアルミナ粉末と非晶質シリカ粉末とを混合した粉末であるため、従来のように水溶液を含むジオポリマー固化材と比較して可搬性に優れ、取扱いが容易である。そして、固化時に被固化物および水と混練するだけで固化させることができるので、固化に係る手間が少なく、作業性に優れたジオポリマー固化材を実現できる。
【0041】
また、本発明のジオポリマー固化材によれば、アルカリアルミナ粉末と非晶質シリカ粉末とを混合した粉末であるため、従来のようにアルカリ活性剤として水溶液を用いていた場合と比較して、混練物に含まれる水分量を容易に制御することができ、固化に係る作業性を向上させることができる。
【0042】
(ジオポリマー固化方法)
上述した本発明のジオポリマー固化材を用いて固化を行う際には、まず、被固化物(非活性フィラー)に本発明のジオポリマー固化材および水を加えて混練して混練物を形成する(混練工程)。この時、被固化物(FL)と、ジオポリマー固化材(GP)、および水(W)とGPの重量混合比は、それぞれFL/GP=1.0以上、3.0以下、W/GP=0.5以上、1.5以下の範囲内にすることが好ましい。混練には、セメント混練用のミキサーなどを利用することができる。
【0043】
次に、この混練物を例えば型枠などに流し込む。そして、例えば、この混練物を太陽光の下に放置することにより、水の存在下でアルカリアルミナ粉末と非晶質シリカ粉末とが反応し、ガラス質が生成し、次に結晶質Na2Al2Si2O8(ネフェリン)などが生成して被固化物とともに固化体が形成される。
【0044】
一方、この混練物を室温以上の所定温度まで昇温させて所定時間保持し(加熱工程)、アルカリアルミナ粉末と非晶質シリカ粉末との固化反応を促進させることもできる。所定温度としては、実用上の観点から例えば、80℃以下であることが好ましい。加熱には、赤外線ヒーター、温風ヒーターなど、各種ヒーターを用いることができる。こうした加熱工程を行うことにより、固化に要する時間を短縮し、より容易に固化体を形成することができる。
【0045】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0046】
本発明の効果を検証した。
(検証例1)
表1に示す配合割合で、ゼオライト(被固化物)、アルミン酸ナトリウム粉末、シリカヒューム粉末、水を混合し4種類の試料(1)~(4)を得た。
・ゼオライト:「東ソー製 ゼオラム A-3 585」を混練時の吸着熱による加熱を避けるため一度水に浸漬し、60℃にて乾燥させたものを使用(含水率約20wt%)。
・アルミン酸ナトリウム粉末:浅田化学工業製 P100を使用。
・シリカヒューム:「Elkem製 マイクロシリカ940U」を使用。
それぞれの試料を型枠に充てん・脱枠後、250℃にて1.5時間および試料(1-2),(3-2)は3.0時間、それぞれ加熱した。
検証例1の結果を表1に示す。また、試料1-2(試料A)、試料3-2(試料B)の固化物の様子を
図2に示す。
【0047】
【0048】
表1に示す結果によれば、1.5時間の加熱で6~13MPa、3時間の加熱で15MPaの圧縮強度の固化物が得られた。
【0049】
(検証例2)
表1に示す配合割合で、ゼオライト(被固化物)、炭酸塩スラリー、アルミン酸ナトリウム粉末、シリカヒューム粉末、水を混合し、3種類の試料(5)~(7)を得た。なお、炭酸塩スラリーは、炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムを10wt%塩化ナトリウム水溶液に固形分が10wt%となるように懸濁したものを、脱水ろ過したものである。
そして、それぞれの試料を型枠に充てん・封かんした状態で室温にて約2週間から4か月間養生し固化させた。
検証例2の結果を表2に示す。
【0050】
【0051】
表2に示す結果によれば、圧縮強度は約2週間経過後には5MPa、約4か月後には8MPa~22MPaの圧縮強度の固化物が得られた。
【0052】
(検証例3)
以下の表3に示す配合比率で、ゼオライト(被固化物)、炭酸塩スラリー、アルミン酸ナトリウム粉末、シリカヒューム粉末、水を混合し、各サンプルを型枠に充てんした後、60℃乾燥雰囲気または150℃水蒸気雰囲気にて養生した。炭酸塩スラリーは検証例2と同じものである。
【0053】
【0054】
検証例3の結果を
図3~
図6に示す。なお、
図3(a)は、固化体の圧縮強度(MPa)と、水(W)およびジオポリマー固化材(GP)の質量比W/GP(a)との関係を示している。また、
図3(b)は、固化体の圧縮強度(MPa)と、水(W)およびアルミン酸ナトリウム(NA)の質量比W/NA(a)との関係を示している。
【0055】
図4(a)は、固化体の圧縮強度(MPa)と、ジオポリマー固化材(GP)のSi/Alモル比との関係を示している。また、
図4(b)は、固化体の圧縮強度(MPa)と密度との関係を示している。また、
図4(c)は、固化体の圧縮強度(MPa)と、被固化物(FL)/ジオポリマー固化材(GP)質量比との関係を示している。
【0056】
これら
図4によれば、2.0MPa以上の圧縮強度は、Si/Alモル比が1.0~2.0の間に集中している。スラリー系固化体は密度も圧縮強度も最大であることを示している。また、被固化体(非活性フィラー)では密度依存性は異なっており、水蒸気処理したものは密度が高くても強度は低くなる傾向にある。被固化体の充填比(FL/GP)が小さいとジオポリマー固化材(GP)のみの固化体の強度に漸近することを示している。
【0057】
図5(a)は、固化体の陽イオン交換容量(CEC、meq/100g)と、被固化物(非活性フィラー)/ジオポリマー固化材の質量比との関係を示している。また、
図5(b)は、固化体の陽イオン交換容量(CEC、meq/100g)と、ジオポリマー固化材のSi/Alモル比との関係を示している。
【0058】
これら
図5によれば、養生方法に係わらず、ゼオライト系固化体(GPZ)のCECはゼオラムと同等若しくは上回ることを示している。また、スラリー混合系のSL-GPZでは、ゼオラムと炭酸塩スラリーの混合比率を50wt%:50wt%としても、CECは、ゼオラムの値の50%を上回っていることを示している。以上の結果より、GPZ及びSL-GPZにおいて、固化時に二次的なゼオライト化が進行し、陽イオン交換特性(核種閉じ込め性能)が付与された固化体となっていることがわかる。
【0059】
図6はアルミン酸ナトリウム粉末とシリカヒュームのみを水と混合し、60℃で24時間加熱した後、室温で養生したものの顕微鏡写真である。このうち、
図6(a)は、Si/Alモル比=0.5(比較例)、
図6(b)は、Si/Alモル比=1.25である。
図6(a)のようにSi/Alモル比=0.5の場合、潮解性の水酸化ナトリウム成分が残留ないし析出し、固化しないことが分かった。Si/Alモル比=0.5(比較例)での反応式は、以下の通りである。
(4)Si/Al=0.5の場合
SiO
2+2NaAlO
2+H
2O→2NaOH+Al
2SiO
5
【0060】
(検証例4)
検証例4として、水酸化マグネシウムを投入した効果を確認した。以下の表4に検証例4に用いた試料の配合比率を示す。水酸化マグネシウムは検証例2と同じく炭酸塩スラリーとして添加した。
【0061】
【0062】
図7に、検証例4の結果を示す。このうち、
図7(a)は、ゼオライトと炭酸塩スラリーの混合ジオポリマーの反射電子像(BEI)、SiおよびMgの元素マップ(拡大)である。また、
図7(b)は、
図7(a)のラインに沿った輝度分布を示し、水酸化マグネシウム粒子の周縁部にはSiが含まれていることを示している。
【0063】
(検証例5)
検証例5として、余剰ナトリウム化合物を含む系でのSi/Alのモル比1.0におけるジオポリマー反応物を観察した。
図8に検証例5の結果を示す。なお、
図8(a)は、余剰のNaOHを含む系の水酸基ソーダライト=OH-SODとナトロライト=NATを示している。また、
図8(b)は、余剰のNaOH-NaClを含む系の塩素を含むソーダライト=Cl-SODとSiに富むゼオライトであるアナルサイム=ANAを示している。また、
図8(c)は、
図8(a),(b)と同一視野のCl-Si元素マップを示している。
【0064】
図8に示す検証例5の結果によれば、ソーダライトが形成されていることが確認でき、塩素などの海水成分の固定が期待できる。ゼオライトと炭酸塩スラリーの混合系において固化できており、炭酸塩スラリーに由来する塩素濃度が高い系においても固化が可能であることが確認された。