(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】低温障害を防止する農産物保管方法及び該方法による低温障害防止装置
(51)【国際特許分類】
A01F 25/00 20060101AFI20220831BHJP
F25D 23/00 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
A01F25/00 C
F25D23/00 302J
(21)【出願番号】P 2020153995
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2022-02-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517080717
【氏名又は名称】マルキタフーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】百合野 博
(72)【発明者】
【氏名】河野 智謙
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-147101(JP,A)
【文献】特開2009-264665(JP,A)
【文献】特開2001-336870(JP,A)
【文献】特開2016-114323(JP,A)
【文献】HUNG, D.V. et al.,Controlling the weight loss of fresh produce during postharvest storage under a nano-size mist environment,Journal of Food Engineering,2011年05月30日,Vol. 106,pp. 325-330
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01F 25/00 - 25/22
F25D 23/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温に感受性を示す低温感受性農産物と低温に感受性を示さない低温非感受性農産物とを同室内で保管する低温障害防止装置により低温障害を防止する農産物保管方法であって、低温障害防止装置は、低温感受性農産物と低温非感受性農産物とを約0~7℃の温度で同室内に保管するための保管室と、同保管室内の所定位置に設置され、相対湿度90~100%の水蒸気含有空気と液体水とを切換生成可能に構成した加湿器と、を備え、
さらに、保管室は、加湿器から近傍位置に配設され、低温感受性農産物を設置可能とすると共に低温感受性農産物の表面に加湿器から生成される液体水を接触可能とする感受性農産物設置部と、加湿器から遠方位置に配設され、低温非感受性農産物を設置可能とすると共に同低温非感受性農産物の表面に加湿器から生成される液体水を非接触とする非感受性農産物設置部と、を備えることにより、
低温感受性農産物の表面には相対湿度90~100%の水蒸気含有空気を供給すると共に液体水を接触させ、低温非感受性農産物の表面には相対湿度90~100%の水蒸気含有空気を主体的に供給して接触させ、低温感受性農産物と低温非感受性農産物とを同時に保存する環境下において低温感受性農産物の低温障害を抑制可能としたことを特徴とする低温障害を防止する農産物保管方法。
【請求項2】
請求項1に記載の低温障害を防止する農産物保管方法による低温障害防止装置であって、低温感受性農産物と低温非感受性農産物とを約0~7℃の温度で同室内に保管するための保管室と、同保管室内の所定位置に設置され、相対湿度90~100%の水蒸気含有空気と液体水とを切換生成可能に構成した加湿器と、を備え、
保管室は、
加湿器から近傍位置に配設され、低温感受性農産物を設置可能とすると共に低温感受性農産物の表面に加湿器から生成される液体水を接触可能とする感受性農産物設置部と、
加湿器から遠方位置に配設され、低温非感受性農産物を設置可能とすると共に同低温非感受性農産物の表面に加湿器から生成される液体水を非接触とする非感受性農産物設置部と、
を備えることを特徴とする低温障害防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温障害を防止する農産物保管方法及び該方法による低温障害防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、収穫直後の花卉類、果物類や野菜類等の農産物の鮮度を可及的保持することは、市場での商品価値を低下させないために重要である。
【0003】
一般的に、農産物は、収穫直後から、養分消費を伴う呼吸の促進による呼吸劣化、カビや雑菌などの微生物の繁殖による腐敗劣化、蒸散に伴う含水率の低下による乾燥劣化、などの各種劣化が始まる。
【0004】
このような農産物の各種劣化要因のうち、呼吸劣化に対しては例えば保冷庫や冷蔵庫などの冷却装置により農産物を低温休眠状態にして抑制したり、また、腐敗劣化や乾燥劣化に対しては例えば気化式の加湿器により保管室内を気体状の水分(以下、単に水蒸気含有空気とも言う。)で満たしてカビや雑菌の温床となる液体状の水分をなくしつつ農産物の蒸散を抑制したりして、農産物の鮮度を保持せんとする技術が種々存在する(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、保管室に保存される農産物は、例えばキュウリ、ナスなど低温度に高い感受性を持ち低温ストレスにより傷害が発生する低温感受性農産物(以下、単に感受性農産物とも言う。)と、低温ストレスにより傷害を受けない低温非感受性農産物(以下、単に非感受性農産物とも言う。)と、に大別される。
【0007】
非感受性農産物は、長期保存に最適な温度帯(以下、単に最適保存温度帯とも言う。)を約0~7℃とし、これよりも高い温度帯で保存した場合には前述の通り呼吸を促進させて呼吸劣化を生起する恐れがある。
【0008】
一方で、感受性農産物は、最適保存温度帯を約8~12℃とし、これよりも低い温度帯で保存した場合には休眠を促して呼吸劣化を抑制できるものの果肉組織中の水分喪失を促進させて乾燥劣化を助長してしまう。
【0009】
すなわち、感受性農産物は、低温度帯に伴う湿度低下に対して過敏であり、果実表面に孔や凹部などの陥没が生起するピッティングや果肉内に褐色の組織が生起するブラウニングといった、いわゆる低温障害を生起する虞がある。
【0010】
このように最適保存温度帯の異なる感受性農産物と非感受性農産物とを、それぞれの最適保存温度帯に適合した別々の保管室に分けて保存することも考えられるが、その分保管スペースを要したり冷却装置を余分に必要とするなど管理コストを高額とするだけでなく、各種農産物ごとにそれぞれの保管室へ保存する手間を増大させて農産物の保管作業効率を低下させる問題があった。
【0011】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、低温感受性農産物と低温非感受性農産物とを一定温度に管理された同一の保管室に一緒に保管した場合であっても、両農産物の腐敗劣化及び乾燥劣化を可及的抑制しつつ、特に低温感受性農産物の低温障害を可及的抑制して、農産物全般の鮮度を良好に保持することができ、管理コストを低減化できるとともに保管作業を簡素化できる農産物の低温障害防止方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記従来の課題を解決するために、本発明では、(1)低温に感受性を示す低温感受性農産物と低温に感受性を示さない低温非感受性農産物とを同室内で保管する低温障害防止装置により低温障害を防止する農産物保管方法であって、低温障害防止装置は、低温感受性農産物と低温非感受性農産物とを約0~7℃の温度で同室内に保管するための保管室と、同保管室内の所定位置に設置され、相対湿度90~100%の水蒸気含有空気と液体水とを切換生成可能に構成した加湿器と、を備え、さらに、保管室は、加湿器から近傍位置に配設され、低温感受性農産物を設置可能とすると共に低温感受性農産物の表面に加湿器から生成される液体水を接触可能とする感受性農産物設置部と、加湿器から遠方位置に配設され、低温非感受性農産物を設置可能とすると共に同低温非感受性農産物の表面に加湿器から生成される液体水を非接触とする非感受性農産物設置部と、を備えることにより、低温感受性農産物の表面には相対湿度90~100%の水蒸気含有空気を供給すると共に液体水を接触させ、低温非感受性農産物の表面には相対湿度90~100%の水蒸気含有空気を主体的に供給して接触させ、低温感受性農産物と低温非感受性農産物とを同時に保存する環境下において低温感受性農産物の低温障害を抑制可能としたことを特徴とする低温障害を防止する農産物保管方法を提供する。
【0014】
また、本発明では、(1)の低温障害を防止する農産物保管方法による低温障害防止装置であって、低温感受性農産物と低温非感受性農産物とを約0~7℃の温度で同室内に保管するための保管室と、同保管室内の所定位置に設置され、相対湿度90~100%の水蒸気含有空気と液体水とを切換生成可能に構成した加湿器と、を備え、保管室は、加湿器から近傍位置に配設され、低温感受性農産物を設置可能とすると共に低温感受性農産物の表面に加湿器からの液体水を接触可能とする感受性農産物設置部と、加湿器から遠方位置に配設され、低温非感受性農産物を設置可能とすると共に低温非感受性農産物の表面に加湿器からの液体水を非接触とする非感受性農産物設置部と、を備えることを特徴とする低温障害防止装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1にかかる発明によれば、低温に感受性を示す低温感受性農産物を約0~7℃の保存環境下に置いて、相対湿度90~100%の水蒸気含有空気と共に液体水と接触させることとしたため、感受性農産物が本来的に低温障害を生起する約0~7℃の温度帯にあっても、感受性農産物の表面全体を相対湿度90~100%の水蒸気含有空気で被包して感受性農産物の果肉組織内部から外部への蒸散による水分の逸失を可及的抑制しつつ、水分逸失傾向にある感受性農産物の表面から液体水を供給することにより低温障害を抑制して良好な鮮度状態で感受性農産物を長期保存できる効果がある。
【0016】
また、低温に感受性を示す低温感受性農産物と低温に感受性を示さない低温非感受性農産物とを各農産物の鮮度保持に機能する約0~7℃の保存環境下において、低温感受性農産物の表面には相対湿度90~100%の水蒸気含有空気を供給すると共に液体水を接触させ、低温非感受性農産物の表面には相対湿度90~100%の水蒸気含有空気を主体的に供給して接触させることにより、感受性農産物と非感受性農産物とを約0~7℃の温度帯、すなわち非感受性農産物の最適保存温度帯で温度管理された同一保管室内で一緒に同室保管した場合であっても、非感受性農産物の劣化防止は勿論、感受性農産物の低温障害を液体水の供給により可及的抑制して、両農産物の鮮度を良好に保持することができ、管理コストを低減化できるとともに保管作業を簡素化できる効果がある。
【0017】
すなわち、非感受性農産物と感受性農産物とを非感受性農産物の最適保存温度帯に適合させて両農産物の呼吸劣化を可及的抑制し、また、両農産物の表面に相対湿度90~100%の水蒸気含有空気を接触させて腐敗劣化と乾燥劣化を可及的抑制し、さらには、感受性農産物の表面に液体水を接触させて感受性農産物の低温障害を可及的抑制することができる。
【0018】
したがって、非感受性農産物及び感受性農産物とについてそれぞれの最適温度帯に管理された保管室を別々に用意する必要がなく両農産物を良好な鮮度状態に保持でき、農産物の管理場所の省スペース化を図ることができ、農産物の保管コストを低減化できる効果がある。
【0019】
また、請求項2にかかる発明によれば、低温感受性農産物と低温非感受性農産物とを約0~7℃の温度で同室内に保管するための保管室と、同保管室内の所定位置に設置され、相対湿度90~100%の水蒸気含有空気と液体水とを切換生成可能に構成した加湿器と、を備え、保管室は、加湿器から近傍位置に配設され、低温感受性農産物を設置可能とすると共に低温感受性農産物の表面に加湿器から生成される液体水を接触可能とする感受性農産物設置部と、加湿器から遠方位置に配設され、低温非感受性農産物を設置可能とすると共に同低温非感受性農産物の表面に加湿器から生成される液体水を非接触とする非感受性農産物設置部と、を備えることとしたため、保管室内のスペースの有効活用をしつつ、感受性農産物を非感受性農産物の最適保存温度帯に適合させて両農産物の呼吸劣化を可及的抑制することができ、両農産物の表面に相対湿度90~100%の水蒸気含有空気を十分に接触させて腐敗劣化と乾燥劣化を可及的抑制し、さらには、感受性農産物の表面に液体水を接触させて低温障害を可及的抑制し、両農産物を良好な鮮度状態に保持できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の低温障害防止方法に使用する加湿器を備えた保管室全体の概略的構成を示すシステム図である。
【
図2】本発明の低温障害防止方法に使用する加湿器を備えた保管室全体の構成を示す模式的側面図である。
【
図3】本発明の低温障害防止方法に使用する加湿器の多孔質フィルタブロックの同方向フィルタパターンの構成を示す斜視図及び模式的部分拡大平面図である。
【
図4】本発明の低温障害防止方法に使用する加湿器の多孔質フィルタブロックの異方向フィルタパターンの構成を示す斜視図及び模式的部分拡大平面図である。
【
図5】他の実施例に係る加湿器の多孔質フィルタブロックの構成を示す斜視図である。
【
図6】本発明の低温障害防止方法に使用する加湿器から保管室への水蒸気含有空気の流入形態を示す模式的側面図である。
【
図7】本発明の低温障害防止方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の要旨は、低温に感受性を示す低温感受性農産物を約0~7℃の保存環境下に置いて、相対湿度90~100%の水蒸気含有空気と共に液体水と接触させることにより低温感受性農産物を保存することを特徴とする農産物の低温障害防止方法を提供することにある。
【0022】
また、低温に感受性を示す低温感受性農産物と低温に感受性を示さない低温非感受性農産物とを各農産物の鮮度保持に機能する約0~7℃の保存環境下において、低温感受性農産物の表面には相対湿度90~100%の水蒸気含有空気を供給すると共に液体水を接触させ、低温非感受性農産物の表面には相対湿度90~100%の水蒸気含有空気を主体的に供給して接触させることにより、低温感受性農産物と低温非感受性農産物とを同時に保存する環境下において低温感受性農産物の低温障害を抑制可能としたことにも特徴を有する。
【0023】
また、前述の低温障害防止方法による低温障害防止装置であって、低温感受性農産物と低温非感受性農産物とを約0~7℃の温度で同室内に保管するための保管室と、同保管室内の所定位置に設置され、相対湿度90~100%の水蒸気含有空気と液体水とを切換生成可能に構成した加湿器と、を備え、保管室は、加湿器から近傍位置に配設され、低温感受性農産物を設置可能とすると共に低温感受性農産物の表面に加湿器から生成される液体水を接触可能とする感受性農産物設置部と、加湿器から遠方位置に配設され、低温非感受性農産物を設置可能とすると共に同低温非感受性農産物の表面に加湿器から生成される液体水を非接触とする非感受性農産物設置部と、を備えることを特徴とする低温障害防止装置。低温障害防止装置についても提供する。
【0024】
本発明の低温障害防止方法及び該方法による低温障害防止装置に供される農産物は、低温に感受性を示す低温感受性農産物と低温に感受性を示さない低温非感受性農産物との両農産物を意図し、例えば、花卉類、果実類、葉菜類、根菜類、果菜類などの農業的手法により収穫された植物類全般を意図している。
【0025】
低温非感受性農産物は、比較的低温ストレスに耐性をもつ農産物であって、最適保存温度帯を約0~7℃とし、例えばアスパラガス、メキャベツ、キャベツ、ニンジン、カリフラワー、ホウレンソウ、カブなどの大半の農産物がこれにあたる。
【0026】
一方、低温感受性農産物は、低温度帯に伴う湿度低下に対して過敏で低温ストレスにより傷害が発生する農産物であって、最適保存温度帯を約8~12℃とし、例えばトマト、ナス、キュウリ、サヤインゲン、サツマイモ、ウメ、ジャガイモ、カボチャ、ペッパー、バナナ、レモン、グレープフルーツ、パイナップル、マンゴー、パパイヤ、アボカドなどの特定の農産物がこれにあたる。
【0027】
この感受性農産物は、最適保存温度帯8~12℃よりも低温度環境下におかれると、呼吸劣化を抑制できるものの、果肉組織中の水分を大量に喪失して乾燥劣化を助長させ、果実表面に孔や凹部などの陥没が生起するピッティングや果肉内に褐色の組織が生起するブラウニングといった、いわゆる低温障害を生起する。
【0028】
このような感受性農産物の低温障害に対し、本発明者は植物体のクチクラ層を介して感受性農産物に液体水を適宜付与することで乾燥劣化を抑制できることを鋭意研究の下で見出した。
【0029】
クチクラ層とは、ワックス層とも称され、クチンやロウを主成分とした植物体の表皮外側を全体的に覆う透明な膜であり、撥水性を有した植物組織の一種である。このクチクラ層は、植物体の果肉組織からの水の発散や、外部からの生物や物質の侵入、紫外線による傷害を防止する機能を果たす。
【0030】
すなわち、本発明者は、植物体において、本来的にこれまで外部から果肉組織内部への液体水を完全に遮断するものと考えられてきたクチクラ層が、外部から下層の果肉組織へ液体水を浸透させる「クチクラ層の水交換現象」を見出し、本発明にを完成させるに至った。
【0031】
すなわち、本発明は、最適保存温度帯の異なる非感受性農産物と感受性農産物とを一定温度に管理した保管室に一緒に保存した場合であっても、両農産物の呼吸劣化や腐敗劣化、乾燥劣化を可及的抑制し、特に低温度帯で乾燥劣化を助長させて低温障害を引き起こす感受性農産物に対しては適宜液体水を接触させて「クチクラ層の水交換現象」を利用して果肉組織内へ液体水をダイレクトに取り込ませることにより低温障害を可及的抑制し感受性農産物を適切に保存しつつも農産物全体の鮮度を保持せんとするものである。
【0032】
保管室は、農産物を収納する空間を有した冷蔵・保冷施設であればよく、例えば、冷凍・冷蔵機能を備える輸送コンテナやトラックを含む。
【0033】
また、保管室の内容積は特に限定されることはないが、例えば内容積を大型のもので約1400~1500m3、中型のもので約500~700m3、小型のもので約10~50m3のものを採用することができる。また、保管室は、高さ寸法が約3~7mであれば、対流空気の庫内循環が行われやすくなる。また、大型の保管室の場合には、同保管室内を相対湿度90~100%の飽和雰囲気に迅速にすべく、後述する加湿器を2台以上設置する。
【0034】
また、農産物を冷蔵するための冷蔵装置は、庫内温度を非感受性農産物の最適保存温度帯である5℃前後、詳細には約0~7℃、好ましくは3~5℃に保持する。
【0035】
感受性農産物の外表面に接触させて「クチクラの水交換現象」を介して植物体の果肉組織内部へ供給するための液体水の供給方法は、例えば、水槽内の水に浸漬する浸漬供給方法や、シャワーによる散水供給方法、ミストによる散布供給方法、水を含浸させた布やペーパー等で包被する包被供給方法のいずれの方法であってもよい。
【0036】
これら液体水供給方法により、最適保存温度帯より低温度帯に曝された感受性農産物に対し、クチクラ層を介した水交換現象を促して該農産物の鮮度を保持した長期保存を可能とし、瑞々しく美しい外観を保持した高品質状態の農産物を市場に提供することができる。
【0037】
非感受性農産物と感受性農産物の両農産物の外表面に接触させて腐敗劣化や乾燥劣化に対応するための相対湿度90~100%の水蒸気含有空気は、加湿器により生成する。すなわち、保管室内の空気を水蒸気含有空気に置換することで室内を相対湿度90~100%の飽和蒸気雰囲気とし、相対湿度90~100%の水蒸気含有空気を両農産物に接触させる。
【0038】
加湿器は、例えば、水を蒸発して加湿する加熱式、水を霧状に噴霧して加湿するミスト式、水を超音波振動で強制気化して加湿する超音波式、水を庫内の冷却空気で強制気化して加湿する気化式のいずれであってもよい。このうち、加湿器としては、気化式を採用することが、腐敗劣化や農産物を収納するダンボール等の水濡れなどの資材劣化を防止する上で好ましい。
【0039】
特に本発明の低温障害防止方法による低温障害防止装置では、非感受性農産物の最適保存温度帯である約0~7℃に冷却維持した保管室と連通し、保管室に収納した果実や野菜等の農産物のうち、非感受性農産物と感受性農産物の表面に相対湿度90~100%の水蒸気含有空気を接触させて腐敗劣化と乾燥劣化を抑制すると共に感受性農産物の表面に液体状の水分を適宜接触させるべく、水蒸気含有空気と液体水とを切換生成、すなわち気化式とミスト式とを切換可能とした加湿器を使用する。
【0040】
これにより、非感受性農産物と感受性農産物とを、非感受性農産物の鮮度保持に機能する最適保存温度帯の5℃前後に管理された環境下で保存した場合であっても、両農産物の表面に相対湿度90~100%の水蒸気含有空気を接触させるとともに、感受性農産物の表面に液体状の水分を適宜接触させることができる。
【0041】
なお、低温で保管される農産物の中には、桜桃や枇杷のように収穫後の低温保蔵や低温流通の過程あるいは販売店頭での陳列中といった低温条件下で、裂果損傷を生じるもの(以下、単に裂果農産物とも言う。)がある。
【0042】
本発明者は、この裂果農産物の裂果は前述のごとくクチクラ層を介した水交換現象により生起すると推測している。すなわち、クチクラ層の水交換現象は生体内外の浸透圧差や水との接触頻度に応じて水の移動の方向や速度が決定されるため、比較的糖分が多い裂果農産物は外部からの水の取り込み速度を速くして膨圧の異常な高まりにより裂果損傷を発生させると推測する。
【0043】
このため、裂果農産物は、低温環境から常温環境へ移動させる場合や低温感受性農産物への液体状の水分を付与させる場合には、農産物の外表面への液体状の水分付着を防止すべく布製乾燥フィルタからなる被覆材で被包する。
【0044】
以下、低温障害防止方法の実施例について説明する。なお、以下では[1.低温障害防止装置]、[2.低温障害防止装置の性能試験]、[3.低温障害防止方法]、[4.低温障害防止方法の効果検証試験]の順番にそれぞれ詳説する。
【0045】
[1.低温障害防止装置]
以下、本発明の低温障害防止方法による低温障害防止装置について説明する。
図1は低温障害防止装置の概略的構成を示すシステム図、
図2は低温障害防止装置の構成を示す模式的側面図、
図3(a)及び
図3(b)はそれぞれ加湿器の多孔質フィルタブロックの同方向フィルタパターンにおける構成を示す斜視図及び模式的部分拡大平面図、
図4(a)及び
図4(b)はそれぞれ加湿器の多孔質フィルタブロックの異方向フィルタパターンにおける構成を示す斜視図及び模式的部分拡大平面図、
図5は他の実施例に係る加湿器の多孔質フィルタブロックの構成を示す斜視図、
図6は加湿器から保管室への水蒸気含有空気の流入形態を示す模式的側面図である。図中、符号G1は加湿器により加湿されていない状態の乾燥空気、符号G2は同方向フィルタパターンの多孔質フィルタブロックを通過して生成された水蒸気含有空気、符号G3は異方向フィルタパターンを通過して生成されたミスト含有空気をそれぞれ示す。
【0046】
本実施例に係る低温障害防止装置B(以下、単に本装置Bとも言う。)は、該っ略的には、
図2に示すように感受性農産物SNと非感受性農産物INとを約0~7℃の温度で同一室内に保冷保管するための保管室1と、同保管室内の所定位置に設置され、水蒸気含有空気と液体水とを切換生成可能に構成した加湿器2と、を備える。
【0047】
保管室1は、
図2に示すように感受性農産物SNや非感受性農産物INなどの農産物Nを載置収納可能な所定空間を有した方形状の保管室本体10と、同保管室本体10内に設置され、農産物Nを冷却するための冷却装置11と、で構成している。なお、保管室本体10の一側には、
図2に示すように農産物Nの搬入搬出用扉12が開閉自在に設けられている。
【0048】
加湿器2は、
図1及び
図2に示すように内部中空方形箱型状の水蒸気生成用ケース3と、空気を取込むための空気吸入機構4と、空気吸入機構4に連通して設けた多孔質フィルタブロック5と、多孔質フィルタブロック5に散水する散水機構6とより構成している。
【0049】
空気吸入機構4は、水蒸気生成用ケース3外の空気を水蒸気生成用ケース3内に吸入するためにケース一側面に形成した空気吸入孔と、ケース内空気を保管室1へ排出するためにケース他側面に形成した空気排出孔と、空気排出孔側に設けた送風ファン40とで構成している。
【0050】
散水機構6は、
図1に示すように多孔質フィルタブロック5の下方位置でケース底部に配設した貯水槽60と、多孔質フィルタブロック5の上方位置に配設した散水パイプ61と、送水ポンプ62を介して貯水槽60から散水パイプ61へ水を引上げ循環するための循環パイプ63と、で構成している。
【0051】
また、多孔質フィルタブロック5は、多孔質シート50、50’を波形に形成して一定の間隔を保持して多数積層し、多数の多孔質シート50、50’の波形上端面を散水機構6からの散水受け面とすると共に、多孔質シート50、50’のうち最上流側に配置される多孔質シート50の波形後面を空気吸入孔から流入する空気の空気受け面に構成している。
【0052】
具体的には、多孔質フィルタブロック5は、
図3(a)~
図4(b)に示すように平面視において、多孔質シート50、50’を波形に形成して一定の間隔を保持して多数積層して構成すると共に、積層した多孔質シート50、50’の波形の方向を同位相に整順して配設した同方向フィルタパターンに構成する場合と、波形振幅の略1/2だけ位相をずらして波形の方向を谷部と山部とが互いに対峙するように逆位相に整順して配設した異方向フィルタパターンに構成する場合とに変更可能に構成している。
【0053】
すなわち、多孔質フィルタブロック5は、同方向フィルタパターン5Aと異方向フィルタパターン5Bとの各形態変化を可能とすべく、それぞれ分離可能な2つ以上の多孔質シート50、50’の仮想後側平面54と仮想前側平面53’との面当接状態を保持しつついずれか一方の多孔質シート50’を平行移動し、多孔質シート50、50’同士を相対的に同位相・逆位相に姿勢変位するフィルタ位相変更機構55を備えている。
【0054】
同方向フィルタパターン5Aの多孔質フィルタブロック5は、
図3(b)に示すように上流側の多孔質シート50の複数の山部51と下流側の多孔質シート50’の複数の山部51’を対向させると共に上流側の多孔質シート50の複数の谷部52と下流側の多孔質シート50’の複数の谷部52’とを対向させて、上流側の多孔質シート50と下流側の多孔質シート50’との間にシート端面視(平面視)略蛇形状の送風空間5A-1を左右方向に沿って連続的に形成する。なお、送風空間5A-1の幅員(2つの多孔質シート50、50’の対向面同士の間隔幅)は、約5~15mmである。
【0055】
異方向フィルタパターン5Bの多孔質フィルタブロック5は、
図4(b)に示すように上流側の多孔質シート50の複数の谷部52と下流側の多孔質シート50’の複数の山部51’と対峙当接させると共に上流側の多孔質シート50の複数の山部51と下流側の多孔質シート50’の複数の谷部52’とを対向させて、上流側の多孔質シート50と下流側の多孔質シート50’との間で、シート端面視(平面視)略ひし形状の閉塞空間5Bー1を複数、左右方向に沿って区画形成する。
【0056】
フィルタ位相変更機構55は、
図3(a)及び
図4(a)に示すように多孔質フィルタブロック5を構成する多数の多孔質シート50、50’において、一方の多孔質シート50を支持して同シートを不動状態に定置固定するシート固定部56と、他方の多孔質シート50’を支持して一方の多孔質シート50の位相を基準に他方の多孔質シート50'の位相を同位相・逆位相に変位移動するシート移動部57と、で構成している。
【0057】
フィルタ位相変更機構55は、シート固定部56に支持した一方の多孔質シート50の位相を基準に、他方の多孔質シート50'を支持して同シート50’の位相を同位相・逆位相に変位移動可能であれば特に限定されることなく、例えばシート移動部57についてラック・アンド・ピニオン、又は油圧又は空圧シリンダにより移動可能に構成して構築することとしてもよい。
【0058】
本実施例のシート移動部57は、多孔質シート50’を嵌着可能とする断面視上方開放コ字状のフレーム体と、同フレーム体の下底面の長手に沿って同下底面に歯面を形成したラック部と、駆動モータにより回転駆動し、ラック部に歯合対応する歯面を有するピニオン部と、で移動可能に構成している。
【0059】
同方向フィルタパターン5Aの多孔質フィルタブロック5は、
図3(b)に示すように上流側の多孔質シート50の谷部52へ流入した流入空気G1により、ベンチュリー効果を生起して多孔質フィルタブロック5に含浸された液体状の水分を強制的に引き出しつつ段階的に気化し、非感受性農産物INと感受性農産物SNの両農産物Nの外表面に接触させて腐敗劣化と乾燥劣化を可及的抑制する水蒸気含有空気G2を生成する。なお、水蒸気含有空気G2は飽和空気を含む相対湿度90~100%の湿り空気である。
【0060】
一方で、多孔質フィルタブロック5の異方向フィルタパターン5Bは、
図4(b)に示すように上流側の多孔質シート50の谷部52へ流入した流入空気G1により、多孔質フィルタブロック5に含浸された水を直接的に下流側へと押出すように圧送し、感受性農産物の外表面に接触させて同感受性農産物の低温障害を可及的抑制する液体状の微細水滴状のミスト、すなわち液体水としてのミスト含有空気G3を生成する。
【0061】
このようにして加湿器2は、多孔質フィルタブロック5のフィルタパターンを同位相又は逆位相に切替可能に構成し、同フィルタパターンの切り換えにより液体水としてのミスト含有空気G3又は気体状の水分である水蒸気含有空気G2を切り換え生成可能としている。
【0062】
他の実施例として、多孔質フィルタブロック500は、
図5に示すように軸中心に半径方向へ放射状に伸延する山部511と谷部512とを周方向について等間隔で交互に形成して波形とした正面視真円状の多数の多孔質シート510、510’を、それぞれ同軸心上に前後並設して構成することもできる。
【0063】
また、加湿器2は、
図6に示すように生成した水蒸気含有空気G2の保管室1への流入形態を上下3層流とすると共に、中間層流CFは高湿度の上下層流UF、DFに比して低湿度とするように構成している。
【0064】
具体的には、加湿器2内に配設した空気吸入機構4において、
図6に示すようにケース他側面に形成した矩形窓状の空気排出孔30の上下中心軸AXに送風ファン40の回転軸43を同一軸上とするように配置することより、送風時に相対湿度を増した水蒸気含有空気G2の気流からなる上下層流UF、DFと同上下層流UF、DFよりも相対湿度を低くした気流からなる中間層流CFとを生成するように構成している。
【0065】
かかる構成の加湿器2において、同方向フィルタパターン5Aの多孔質フィルタブロック5を通過して生成された水蒸気含有空気G2は、空気吸入機構4の旋回により空気排出孔30から3流層を形成した気流で排出される。
【0066】
すなわち、空気吸入機構4により空気排出孔へ送風される際の水蒸気含有空気G2の気流は、空気吸入機構4のハブ41周囲近傍を通過する内周側気流とハブ41周廻りに支持したプロペラ42周囲近傍を通過する外周側気流とに分かれる。
【0067】
また、空気吸入機構4のハブ41は、内蔵した駆動部41aの回転駆動により生じた熱によりその外周面が加熱される。なお、ハブ41外周面の発熱温度は約50~70℃である。
【0068】
すなわち、ハブ41に沿って流れる水蒸気含有空気G2の内周側気流は、高温度状態のハブ41による加熱蒸発作用を受け、相対湿度を約90~100%から約50~80%まで低下させた中間層流CFとなって矩形窓状の空気排出孔30の中央部から排出される。
【0069】
一方、ハブ41の径方向外方のプロペラ42周囲近傍を通過する外周側気流は、ハブ41による加熱蒸発作用を受けることなく、相対湿度約90~100%を維持した高湿度の上下層流UF、DFとなって矩形窓状の空気排出孔30の上下部から排出される。
【0070】
なお、ハブ41は、外周面について複数の凹溝部を形成することにより、水蒸気含有空気G2との接触面積を可及的拡大することとしてもよい。
【0071】
具体的には、凹溝部は、ハブ41外周面において、プロペラ42の回転によりなす接線方向、すなわちハブ41の伸延方向に沿って伸延形成することにより、水蒸気含有空気G2の流速を可及的減速することなく相対湿度を約50~80%とした中間層流CFを形成することができる。
【0072】
一方で凹溝部は、プロペラ42の回転によりなす接線方向に直交方向、すなわちハブ41の伸延方向に直交方向で伸延形成することにより、水蒸気含有空気G2の流速を減速させて相対湿度をより低下させた中間層流CFを形成することができる。
【0073】
このように、高湿度とした上下層流UF、DFにより保管室1内を飽和蒸気雰囲気に常時維持して農産物の乾燥劣化を防止することができる。また、上下層流UF、DFよりも低湿度とした中間層流CFにより加湿器近傍の保管室1の床面や壁面に付着した結露等の液体状の水分を蒸発させ、農産物の腐敗劣化を防止することができる。
【0074】
また、空気吸入機構4は、空気排出孔30から、同方向フィルタパターン5Aでは水蒸気含有空気G2を風速0.5m/s~7.0m/sで吐出生成し、異方向フィルタパターン5Bではミスト含有空気G3を風速1.5m/s~8.0m/sで吐出生成するように、風速を可変可能に構成している。
【0075】
同方向フィルタパターン5Aにおいて、0.5m/sより遅い風速とすると水分の蒸発気化が適切に行われず、7.0m/sより速い風速とすると水分の蒸発量に対しする空気量が多くなりすぎ、水蒸気含有空気G2を適切に生成できない恐れがある。
【0076】
また、異方向フィルタパターン5Bにおいて、1.5m/sより遅い風速ではフィルタに含浸された液体水を飛ばすことができず、8.0m/sより速い風速では装置に異常を来す恐れがあり、ミスト含有空気G3を適切に生成できない恐れがある。
【0077】
また、他の実施例として、散水機構6は、保管室1の内外側のいずれかに別途配置したドレン循環装置7に連通連設するように構成してもよい。
【0078】
ドレン循環装置7は、冷却装置11の冷却稼働に伴い冷却装置11内部で生じるドレンを更に冷却して冷媒(冷却ドレン)に利用し、同冷媒により外気を冷却して外気中の水蒸気を凝結して得られた液体状の水分を集水ドレンW3として多孔質フィルタブロック5への散水に利用できるように構成したものである。
【0079】
すなわち、ドレン循環装置7は、
図1に示すようにドレンケース70内に配設したドレンパイプ71と、ドレンパイプ71に外気を送風するための外気送風機構72と、ドレンパイプ71へ保管室1の冷却に用いる冷却装置11からの冷却ドレンR1を流通させるためのドレン流通パイプ73と、ドレンケース70の底部に配設すると共にドレンパイプ71の下方位置に配設し、ドレンパイプ71の外周で外気から生成した滴下ドレンW2を集水するためのドレン回収トレイ74と、ドレン回収トレイ74から加湿器2内の多孔質フィルタブロック5の散水機構6へ集水ドレンW3を送水するためのドレン送水パイプ75と、より構成している。
【0080】
なお、
図1中符号76は、冷却装置11のドレン排出口から排出されたドレンを冷却して冷却ドレンR1を生成するための冷却ドレン生成部であり、
図1中符号R2は、冷却ドレンR1をドレンケース内で熱交換した後のドレンである。
【0081】
ドレンパイプ71は基端でドレン流通パイプ73の先端に連通すると共に終端でドレイン戻しパイプ77に連通し、ドレイン戻しパイプ77はドレン流通パイプ73の始端部近傍部に連通している。ドレイン戻しパイプ77の中途部には冷却ドレインR1をパイプ内に還流させるための還流ポンプPを配設している。
【0082】
すなわち、ドレン循環装置7は、各パイプ71、73、77を互いに連通接続することにより、冷却装置11から供給される冷却ドレインR1を中途部に設けたパイプ内で循環させる略環状のドレイン還流パイプ78を構成している。
【0083】
換言すれば、ドレイン還流パイプ78は、
図1に示すように、保管室本体10の一側壁を堺に、保管室本体10の内側で露出する室内露出部と保管室本体10の外側で露出する室外露出部とを有し、同室内露出部に相当するドレン流通パイプ73及びドレイン戻しパイプ77の一部を冷却ドレン生成部76とすると共に室外露出部のうちドレンケース70に内挿した部分をドレンパイプ71として形成している。
【0084】
外気送風機構72は、ケース一側壁下部に設けられ、外気をケース70内へ取り込むための外気吸入口と、ケース一側壁上部に設けられ、取り込んだ外気をケース70外へ排出するための外気排出口と、ケース内の所定位置に設けられ、外気をドレンパイプ71に送風すると共に外気をケース内外に吸入排出するための送風機72aと、で構成している。
【0085】
なお、冷媒としての冷却ドレンR1は、加湿器2の散水として直接使用できないような液体、例えばコンテナやトラック、船舶など加湿器2が搭載設置される施設から排出される工業用排水や低温海水、或いはオイルや有機溶媒成分含有の汚染水などを使用することができる。
【0086】
このように構成したドレン循環装置7により、外気から得た集水ドレンW3を多孔質フィルタブロック5の散水に利用して散水機構6に供給される水源からの水を節水できる効果がある。
【0087】
また、他の実施例として、加湿器2は、
図1に示すように水蒸気生成用ケース3内で散水機構6から多孔質フィルタブロック5へ散水される水の温度を、保管室1内の温度よりも約10~45℃の高温度に維持することにより水蒸気含有空気圧を高めて保管室1内を急速な加湿状態を可能とする急速加湿機構8を備えて構成してもよい。
【0088】
急速加湿機構8は、
図1に示すように貯水槽60と散水パイプ61とに連通連設して散水パイプ61に温水を供給するための温水供給パイプ80と、貯留水W1を加温して保管室1内の温度よりも約10~45℃高い温度の温水を生成するための温水生成用ヒータ81と、で構成している。なお、本実施例の温水生成用ヒータ81は、温水供給パイプ80の中途部に設けているが、貯水槽60内部に設置することとしてもよい。
【0089】
このような構成の急速加湿機構8により、加湿器2の稼働初期や農産物の出し入れ作業に伴う水蒸気含有空気の逸失等、保管室1内部が低湿度雰囲気の場合に、保管室1の内部環境を加湿器2により可及的速やかに飽和蒸気雰囲気にすることができ、農産物全体の乾燥劣化の防止を堅実とすることができる効果がある。
【0090】
なお、急速加湿機構8は、常時稼働させるものではなく、保管室1内の加湿開始時や、開閉作業による保管室1の水蒸気逸失時など、保管室1内部が低湿度状態となった場合に急速加湿を要する際に使用することが好ましい。
【0091】
このように水蒸気含有空気G2と液体水G3(ミスト含有空気G3)とを切換生成可能に構成した加湿器2は、
図2に示すように保管室1の搬入搬出用扉12近傍の床面13に設置している。また、冷却装置11は、加湿器2とは逆に搬入搬出用扉12と対向する壁部近傍の天井面から垂設している。
【0092】
感受性農産物SNや非感受性農産物INの各農産物Nは、
図2に示すように段積み可能に構成した方形状のコンテナ16に収納され、それぞれ保管室1内の感受性農産物設置部14や非感受性農産物設置部15に同コンテナ16を複数段積み載置される。
【0093】
感受性農産物SNを収納するためのコンテナ16は上方開口のメッシュコンテナ160であって、同メッシュコンテナ160は底側壁及び四側壁を複数の格子穴を有する格子板160aで構成しており上方開口及び複数の格子穴を介してコンテナ内空間と外部空間とを連通させて通気性を確保している。
【0094】
一方、非感受性農産物INを収納するためのコンテナ16は上方開口のいわゆる一般的なコンテナ161であって、同コンテナ161は底側壁及び四側壁を扁平板161aで閉塞するように構成しており上方開口でのみコンテナ内空間と外部空間とを連通可能としている。
【0095】
また、保管室1は、
図2に示すように加湿器2から近傍位置に配設され、感受性農産物SNを設置可能とすると共に同感受性農産物SNの表面に加湿器2からの液体水G3を接触可能とする感受性農産物設置部14と、加湿器2から遠方位置に配設され、非感受性農産物INを設置可能とすると共に加湿器2からの液体水G3を非接触とする非感受性農産物設置部15と、を備えて構成している。
【0096】
感受性農産物設置部14及び非感受性農産物設置部15は、それぞれ加湿器2から吐出された液体水G3飛沫の飛散距離に応じて、加湿器2を基準に一定距離を保って保管室本体10の床面13に所定高さの段部を設けて形成している。なお、液体水G飛沫の飛散距離は、加湿器2の送風能力に依存するが、本実施例の加湿器2では風速8.0~1.5m/sでミスト含有空気G3の約0.3~2.2mの飛散距離となるように構成している。
【0097】
すなわち、感受性農産物設置部14は、同感受性農産物設置部14と加湿器2との間の一定距離を加湿器2から吐出された液体水G3が実質的に感受性農産物SNに届く距離を保持して、加湿器2の空気排出孔30の前方の保管室本体10の床面に形成している。なお、本実施例の感受性農産物設置部14と加湿器2との間の一定距離は、約0.1m~2.0mである。
【0098】
また、非感受性農産物設置部15は、同非感受性農産物設置部15と加湿器2との間の一定距離を加湿器2から吐出された液体水G3が実質的に非感受性農産物INに届かない距離を保持して非感受性農産物設置部15の後方の保管室本体10の床面に形成している。なお、本実施例の非感受性農産物設置部15と加湿器2との間の一定距離は、約2.0m~4.0mである。
【0099】
これら感受性農産物設置部14及び非感受性農産物設置部15は、加湿器2と一定距離を保持した保管室本体10の床面13に、それぞれ感受性農産物SNや非感受性農産物INの設置位置を示すための位置決め手段17を設けることにより構成している。
【0100】
位置決め手段17は、例えば、コンテナ16の設置範囲を示す平面視方形区画の設置目印を床面13に表示して構成することができる。本実施例の位置決め手段17は、所定厚みを有する扁平板状の農産物載置台170を加湿器2と一定距離を保持した保管室本体10の床面13に敷設することにより構成している。
【0101】
また、他の実施例として、感受性農産物設置部14は、位置決め手段17としての農産物載置台170について、その上面を一定方向に傾斜する傾斜面に形成し、同傾斜面を加湿器2の設置方向に向けて保管室本体10の床面13に敷設して構成してもよい。
【0102】
[2.低温障害防止装置の性能試験]
以下、低温障害防止装置による水蒸気含有空気の生成能試験について説明する。本試験は、相対湿度25%、3~5℃、約33m3容量の略密閉状態とした小型の保管室内に加湿器を1台設置し、加湿器稼働後、保管室内部を相対湿度90%~100%の飽和蒸気雰囲気にするまでの相対湿度の経時的変化を湿度測定器により計測して行った。
【0103】
保管室と連通する加湿器の実験区としては、多孔質フィルタブロックを並設内蔵した検証区A、多孔質フィルタブロックを有していない検証区B、を用いた。
【0104】
検証区Bでは、送風ファンのみを稼働させ、散水パイプへの送水ポンプは停止状態とした。各検証区は、風速を一定とし、湿度測定器にて保管室内の相対湿度を装置稼働から1分ごとに測定した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0105】
表1によれば、検証区Aは、同方向フィルタパターンで、稼働直後から保管室内の相対湿度が検証区Bに比べて有意に上昇をはじめた。保管室内の相対湿度は、装置稼働から約13分前後で約90%(表1中、破線で示す。)に達し、約20分前後で100%に至った。20分後は、その後も相対湿度を100%に維持していた。
【0106】
水の消費量についてみると、毎時約310~330gが気化されていた。換言すれば、検証区Aは、3~5℃の環境下で加湿能力310~330g/hを有していることが分かった。
【0107】
これらの結果から算出するに、加湿器が、3~5℃環境下において、室内の乾燥空気を相対湿度90~100%の飽和蒸気雰囲気にするために必要な水量は、例えば内容積1400~1500m3の大型の保管室で約9000g~9400g、内容積500~700m3の中型の保管室で約4000g~4400gである。
【0108】
また、異方向フィルタパターンに切り替えた際には、霧状の微細水滴を含んだミスト含有空気が、風速1.5m/s~8.0m/sで加湿器の空気排出孔から約0.1m~2.0m程度飛散することが確認された。飛散したミスト水滴の大きさは約0.1~1.0mmであった。
【0109】
一方、検証区Bでは、相対湿度の上昇したものの、他の検証区に比べて有意に低い値であった。すなわち、検証区Bでは、相対湿度の上昇勾配は不安定であり、最高相対湿度は65%前後に留まった。
【0110】
さらに、保管室の扉開放時に水蒸気含有空気が室外へ逃げて室内湿度が低下した場合における、検証区Aの湿度回復能の検証を行った。冷却装置を停止して室内温度を外気温と略同じ13~17℃となるまで保管室の搬入搬出用扉を開放した。次いで、保管室の搬入搬出用扉を閉めて検証区Aを稼働させ、相対湿度の経時的変化を湿度測定器により測定した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0111】
表2によれば、扉を開放をして室温13~17℃とし、扉閉塞後、検証区Aを稼働させた保管室内の相対湿度は100%の状態から緩やかに降下をはじめ約15分後に約90%前後となった。しかし、その後の相対湿度は、略一次直線的に上昇に転じ、扉閉塞から約17分後には95%に、約22分後には100%に達した。
【0112】
水の消費量についてみると、毎時約2400~2500gが気化されていた。換言すれば、検証区Aは、13~17℃の環境下で加湿能力2400~2500g/hを有していることが分かった。
【0113】
これらの結果から、加湿器が、13~17℃の環境下で、室内の乾燥空気を相対湿度90~100%の飽和蒸気雰囲気とするのに必要な水量は、例えば内容積1400~1500m3の大型の保管室で約18300g~18700g、内容積500~700m3の中型の保管室で約8000g~8400gである。
【0114】
このように、本発明に係る低温障害防止装置によれば、大容積の保管室内を短時間で相対湿度90%以上の水蒸気含有空気で満たすことができ、扉の開閉動作等によって散失した湿度の回復を早くして保管室内を迅速に飽和蒸気雰囲気に戻すことができることが示された。
【0115】
[3.低温障害防止方法]
次に、本発明の農産物の低温障害防止方法について説明する。
図7は、本実施例の低温障害防止方法を示すフロー図である。
【0116】
本発明にかかる低温障害防止方法Aは、低温に感受性を示す感受性農産物SNを5℃前後(0~7℃)の保存環境下に置いて、感受性農産物SNに水蒸気含有空気G2と共に液体水G3と接触させることにより感受性農産物SNを保存する。
【0117】
特に、本発明にかかる低温障害防止方法Aは、感受性農産物SNと非感受性農産物INとを5℃前後(0~7℃)の保存環境下において、感受性農産物SNの表面には水蒸気含有空気G2を供給すると共に液体水G3を接触させ、非感受性農産物INの表面には水蒸気含有空気G2を主体的に供給して接触させることにより、感受性農産物SNと非感受性農産物INとを同時に同環境下で保存する方法である。
【0118】
この低温障害防止方法Aは、
図7に示すように感受性農産物SN及び非感受性農産物INの各農産物Nを5℃前後(0~7℃)の低温環境とした保管室1内に載置収納する農産物収納ステップS1と、相対湿度100%の水蒸気含有空気G2を各農産物Nの外表面に接触付与させる水蒸気含有空気付与ステップS2と、液体水を感受性農産物SNの外表面に接触付与させる液体水付与ステップS3と、からなる。
【0119】
農産物収納ステップS1は、各農産物Nの種類に応じて保管室1に設けた感受性農産物設置部14や非感受性農産物設置部15にそれぞれ感受性農産物SNや非感受性農産物INを整然と載置する工程である。
【0120】
具体的には、感受性農産物SNは、メッシュコンテナ160に収納され、保管室1内において、冷却装置11から最遠方位置且つ加湿器2から最近傍位置の床面13に設けた感受性農産物設置部14に設置する。
【0121】
一方、非感受性農産物INは、メッシュコンテナ160に収納され、保管室1内において、加湿器2から最遠方位置且つ冷却装置11から最近傍位置に設けた非感受性農産物設置部15に設置する。特に非感受性農産物設置部15は、加湿器2との間で感受性農産物設置部14を介して保管室1の奥側に設けている。
【0122】
なお、桜桃や枇杷のような裂果農産物については、上述のごとくクチクラ層の水交換現象を抑制するための被覆材で包被した状態とし、加湿器2から離れた感受性農産物設置部14に載置する。
【0123】
水蒸気含有空気付与ステップS2は、保管室1内を加湿器2により水蒸気含有空気G2で満たして室内を相対湿度90~100%の飽和蒸気雰囲気とし、保管室1内に載置した農産物Nに対して相対湿度90~100%の水蒸気含有空気G2を常時接触させる工程である。
【0124】
加湿器2を使用した場合には、水蒸気含有空気付与ステップS2は、加湿器2の多孔質フィルタブロック5を同方向フィルタパターン5Aに切り換えて同多孔質フィルタブロック5により含浸水を気化して水蒸気含有空気G2を生成する水蒸気含有空気発生ステップS2-1と、同加湿器2により生成した水蒸気含有空気G2により保管室1内を満たして相対湿度90~100%の庫内を飽和蒸気雰囲気とする飽和蒸気雰囲気形成ステップS2-2とからなる。
【0125】
水蒸気含有空気発生ステップS2-1は、加湿器2の多孔質フィルタブロック5をフィルタ位相変更機構55により同方向フィルタパターン5Aへ切り換え、水蒸気生成用ケース3内部に低温に冷却された5℃(0~7℃)前後の乾燥空気を空気吸入機構4により散水機構6から散水した水を含浸した多孔質フィルタブロック5に送風して、ベンチュリー効果により水蒸気含有空気を生成する。なお、水蒸気含有空気付与ステップS2における水蒸気含有空気発生ステップS2-1は、前述の急速加湿機構8を稼働させて急速に水蒸気含有空気G2を大量生成する急速加湿ステップS2-1aとしてもよい。
【0126】
液体水付与ステップS3は、保管室1での農産物Nの全保存時間のうち一定回数及び一定時間、水槽内の水に浸漬したり、シャワーで散水したり、ミストを散布したり、また、水を含浸させた布やペーパー等で包被することにより、感受性農産物SNの外表面に液体状の水分を接触させてクチクラ層を介した水交換現象により直接的に果実組織に水分を付与する工程である。
【0127】
加湿器2を使用した場合には、液体水付与ステップS3は、加湿器2の多孔質フィルタブロック5を同方向フィルタパターン5Aに切り換えて同多孔質フィルタブロック5の含浸水を風圧により圧送して液体状の微細な水からなるミストを生成するミスト生成ステップS3-1と、同加湿器2から保管室1内へミストを一定時間散布するミスト散布ステップS3-2とからなる。
【0128】
ミスト生成ステップS3-1は、加湿器2の多孔質フィルタブロック5をフィルタ位相変更機構55により同方向フィルタパターン5Aから異方向フィルタパターン5Bへ切り換え、水蒸気生成用ケース3内部に低温に冷却された5℃前後の乾燥空気を空気吸入機構4により散水機構6から散水した水を含浸した異方向フィルタパターン5Bの多孔質フィルタブロック5に対して送風し、同多孔質フィルタブロック5の含浸水を物理的に多孔質ブロックの細孔から下流側へと押し出して微細水飛沫からなる液体状の水分としてのミストを発生させる。
【0129】
ミスト散布ステップS3-2で加湿器2から保管室1内に散布されたミストは、加湿器2近傍の感受性農産物設置部14に載置された感受性農産物SNの外表面に付着し、感受性農産物SNのクチクラ層の水交換現象により果実組織に取り込まれる。
【0130】
液体水付与ステップS3の回数や時間、すなわち感受性農産物SNへの水の接触時間や接触回数は、保管室1に収納される感受性農産物SNの種類や大きさ、数によって異なるが、前述の加湿器2を用いた場合には感受性農産物SNの表面に水滴が付着する程度に、1時間ごとに5~10分ミストを散布し、感受性農産物SNの果実組織にクチクラ層を介して液体状の水分を付与する。
【0131】
なお、感受性農産物SNの表面への水滴付与は、感受性農産物SNのクチクラ層を有する表皮組織への水滴付着状態が目視できる程度であればよい。具体的には、水滴付着面積は、感受性農産物SNのクチクラ層を有する表皮組織の全体面積あたり10~100%を指標であればよく、より好ましくは50~100%である。
【0132】
また、液体水付与ステップS3後には、再び水蒸気含有空気付与ステップS2を実行することにより庫内を飽和蒸気雰囲気に保持するとともに保管室1内における余分な液体状の水分を蒸発させて農産物の腐敗劣化と乾燥劣化を防止し、また、梱包資材や保管室1内壁の水濡れ損傷と言った高湿度障害を防止する。
【0133】
すなわち、高湿度とした上下層流UF、DFにより保管室1内を飽和蒸気雰囲気に常時維持して農産物の乾燥劣化を防止し、それよりも低湿度とした中間層流CFにより庫内表面や農産物表面に残留する液体状の水分を蒸発する。
【0134】
なお、液体水付与ステップS3と水蒸気含有空気付与ステップS2とは、相互に入れ替えることができる。すなわち、農産物収納ステップS1後に、液体水付与ステップS3を実行し、次いで水蒸気含有空気付与ステップS2を実行することとしてもよい。
【0135】
このように、本発明は、低温に感受性を示さない非感受性農産物INと低温に感受性を示す感受性農産物SNの鮮度保持に機能する低温の保存環境下において、両農産物Nの表面に水蒸気含有空気を接触させるとともに、非感受性農産物INの表面に液体状の水分を接触させることにより感受性農産物SNの低温障害を抑制可能とし、管理コストを低減化できるとともに保管作業を容易とすることができる。
【0136】
[4.低温障害防止方法の効果検証試験]
次に本実施例の低温障害防止方法の効果検証試験について説明する。検証試験は、市場に流通する農産物の大半を占める非感受性農産物の最適保存温度帯(0~7℃)の条件下に、感受性農産物を置いた際の(1)クチクラ層の水交換現象検証試験、(2)保水評価試験、(3)低温障害抑制評価試験の各種試験を、保湿条件を違えた実験区に分けて行った。同時に、本発明に準じて同一庫内に保存された(4)非感受性農産物と感受性農産物の鮮度保持評価試験を行った。
【0137】
(1)クチクラ層の水交換現象検証試験
本試験は、農産物外部から内部へ取り込まれる水を測定するために安定同位体法に基づいて行った。試料とする感受性農産物には、収穫直後のキュウリを用いた。また、キュウリの果肉組織内にもともと存在する水(以下、単に組織水とも言う。)と区別すべく、感受性農産物に外部から付与する処理水に、安定同位体比率(δ18O値)が日本国内の水とは大きく異るアラスカ氷河水源のボトルドウォータを用いた。
【0138】
実験区は、液体状の水分の付与条件ごとに、液体状の水分を散布して微細な水を表皮に付着させた条件のミスト区B1、直接水に浸漬した条件の浸漬区B2、対照区として放置条件の開放区B3、の3つに分けた。
【0139】
ミスト区B1は、ミストを生成する装置として前述の加湿器2を用い、前述の[2.低温障害防止方法]に準じて相対湿度90~100%の庫内環境でミストを所定時間散布処置する実験区とした。
【0140】
これら感受性農産物からなる実験区を、非感受性農産物の適正保存温度である0~7℃の保管室に入庫して6日間放置した。各実験区を、入庫前(0日目)、入庫後2日目、入庫後6日目の経過日数ごとに分けて、熱分解型元素分析計/同位体比質量分析計(vario PYRO cube;IsoPrime,Cheadle, UK/ IsoPrime100;IsoPrime, Cheadle, UK)により組織水と処理水との水交換比率を測定した測定値により求めた。かかる
経時的な果実組織内水におけるδ
18Oの変化をクチクラ層による水交換現象の割合として評価した。その結果を表3に示す。
【表3】
【0141】
ミスト区B1と浸漬区B2は、表3からも分かるように、開放区B3に比べて2日目では有意に果実組織内の水交換比率が高くなり、また、入庫後6日目では組織水の半分以上が処理水に置換されていることが分かった。特に、本発明の低温障害防止方法に準じて処置したミスト区B1は、単に処理水溶液中に浸漬した浸漬区B2に比べて水交換比率が高い結果を得た。
【0142】
すなわち、本発明にかかる低温障害防止方法によれば、低温非感受性農産物の最適保存温度帯(0~7℃)の条件下に低温感受性農産物を置いた場合に、農産物の表面に積極的に液体状の水分を付与することが有効であることは勿論、相対湿度90~100%の条件下におくことで相乗的に農産物の外部からクチクラ層を介してその内部の果実組織に水が供給できることが示された。
【0143】
(2)保水評価試験
本試験は、前述「(1)クチクラ層の水交換現象検証試験」の試験方法に準じ、入庫後6日目の飽和水蒸気区B4、浸漬区B2、開放区B3の感受性農産物(キュウリ)を試料とした。
【0144】
飽和水蒸気区B4は、水蒸気含有空気を生成する装置として前述の加湿器2を用い、前述の[2.低温障害防止方法]に準じて庫内環境を相対湿度90~100%の飽和蒸気雰囲気とした実験区とした。
【0145】
これらの試料のそれぞれについて、果実硬度計により果実中央組織の果実硬度(kgf/cm
2)を求めた。かかる果実硬度を指標に保水評価を行った。その結果を表4に示す。
【表4】
【0146】
飽和水蒸気区B4と浸漬区B2は、表4からも分かるように、開放区B3に比べて果果実硬度が高い傾向にあった。また、試料調整時に半分に切断した際には、飽和水蒸気区B4と浸漬区B2の内部の果実組織は瑞々しく鮮やかで水を多く蓄えていることが目視で確認できた。一方で、開放区B3の内部の果実組織は全体的に艶がなく乾燥劣化が始まっていることが示唆された。
【0147】
すなわち、本発明にかかる低温障害防止方法によれば、非感受性農産物の最適保存温度帯の条件下に感受性農産物を置いた場合であっても、クチクラ層の水交換現象を利用して農産物の内部に果実組織を取り入れることにより農産物の水分が保持されることが示された。
【0148】
(3)低温障害抑制評価試験
本試験において、試料とする感受性農産物には、収穫直後のキュウリとナスを用いた。かかる試料は、ミストを生成する装置として前述の加湿器2を用い、前述の[2.低温障害防止方法]に準じて相対湿度90~100%の庫内環境に置きつつミストを所定時間散布する加湿群C(キュウリC1及びナスC2)、対照に無加湿環境に置く無加湿群D(キュウリD1及びナスD2)とに分けて供した。
【0149】
これら実験群C及びDを、非感受性農産物の適正保存温度である約5℃前後(0~7℃)の保管室に入庫して14日間放置した。
【0150】
その後、入庫前(0日目)、入庫後8日目及び入庫後14日目の各群の外観観察及び内部の果実組織の観察をした。
【0151】
かかる観察において、外観観察により各群C、DのキュウリC1、ナスC2、キュウリD1、ナスD2の果実表面が陥没化するピッティングの有無を確認し、また、内部の果実組織観察により各群C、DのナスC2及びナスD2の果実組織が褐色化するブラウニングの有無を確認し、それぞれ5段階(無5~有1)の点数を付けることで低温障害の有無を評価した。その結果を表5及び表6に示す。
【表5】
【表6】
【0152】
外観観察においては、表5からも分かるように加湿群CにおけるキュウリC1やナスC2は、入庫後8日目ではやや艶を失いつつあったが陥没凹部は確認されず、入庫後14日目であっても特段の外観上の変化は見られなかった。
【0153】
一方で、無加湿群DにおけるキュウリD1やナスD2は、入庫後8日目ではその表面に陥没凹部が散在していることが確認され、入庫後14日目では陥没凹部の範囲が拡大したり数が増加するなどしたピッティングが明らかに生じていた。
【0154】
また、果実組織観察においては、表6からも分かるように加湿群CにおけるナスC2は、入庫後8日目では特段の変化はなかったが、入庫後14日目では少し褐色を帯びていた。
【0155】
一方で、無加湿群DにおけるナスD2は、入庫後8日目で薄っすらと褐色を帯び、入庫後14日目ではその褐色が濃くなるブラウニングが明らかに生じていた。
【0156】
このように、本発明にかかる低温障害防止方法によれば、非感受性農産物の最適保存温度帯の条件下に感受性農産物を置いた場合であっても、クチクラ層の水交換現象を利用して農産物の内部に果実組織を取り入れることにより農産物の鮮度が保持するとともに、低温障害が抑制できることが示された。
【0157】
(4)農産物の鮮度保持評価試験
本試験の感受性農産物には、前述の(3)低温障害抑制評価試験の加湿群C及び無加湿群DのナスC2、ナスD2をそれぞれ加湿区G及び無加湿区Hとした。また、非感受性農産物には、収穫直後のニンジンを用い、(3)低温障害抑制評価試験に準じて加湿区G及び無加湿区Hと同じ保管室に保管して加湿区Eと無加湿区Fとした。
【0158】
これら、実験区E~Hについて、それぞれ入庫前(0日目)、入庫後8日目及び入庫後14日目の各実験区の官能試験を実施した。官能試験は、鮮度評価項目を「変色(無~有)」、「食味(良~悪)」、「感触(硬~軟)」、「腐敗(無~有)」に分け5段階(5~1)で点数をつけて行った。その結果を表7に示す。
【表7】
【0159】
感受性農産物の加湿区Eと非感受性農産物の加湿区Gとは、表7に示すようにいずれの評価項目も良好な値を示し、安定した状態で保存されていた。
【0160】
一方で、感受性農産物の無加湿区Fと非感受性農産物の無加湿区Hでは、8日目で明らかに変色、食味、感触に変化が生じ、14日目では明らかな鮮度低下が認められた。特に感受性農産物の無加湿区Fでは前述の低温障害による著しい鮮度低下が認められた。
【0161】
このように、本発明にかかる低温障害防止方法によれば、低温感受性農産物と低温非感受性農産物とを一定温度に管理された同一保管室に一緒に保管した場合であっても、両農産物の劣化要因を可及的抑制すると共に低温感受性農産物の低温障害を可及的抑制して農産物全般の鮮度を保持できることが示された。
【0162】
以上、説明してきたように、本発明によれば、低温感受性農産物と低温非感受性農産物とを一定温度に管理された同一の保管室に一緒に保管した場合であっても、両農産物の腐敗劣化及び乾燥劣化を可及的抑制しつつ、特に低温感受性農産物の低温障害を可及的抑制して、農産物全般の鮮度を良好に保持することができ、管理コストを低減化できるとともに保管作業を簡素化できる効果がある。
【符号の説明】
【0163】
A 低温障害防止方法
S1 農産物収納ステップ
S2 水蒸気含有空気付与ステップ
S3 液体水付与ステップ