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特許7132596緩み止め具及び緩み止め具を用いた被固定体の緩み止め構造
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  • 特許-緩み止め具及び緩み止め具を用いた被固定体の緩み止め構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】緩み止め具及び緩み止め具を用いた被固定体の緩み止め構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/22 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
F16B39/22 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018112523
(22)【出願日】2018-06-13
(65)【公開番号】P2019215041
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】521126726
【氏名又は名称】太西精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165755
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 典彦
(72)【発明者】
【氏名】太西 洋義
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-058953(JP,U)
【文献】実公昭46-021878(JP,Y1)
【文献】実開平07-001317(JP,U)
【文献】実開昭62-139187(JP,U)
【文献】実開昭59-011915(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00- 43/02
F16F 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の雌ねじ部を有する被固定体に雄ねじを有する固定ボルトを固定するにおいて前記雌ねじ部に内在させる緩み止め具であって、
前記緩み止め具は、所定長さを有する弾性体と、該弾性体の長手方向の一端を固定する支持部を有する支持片と、からなり、
前記支持片は、外周方向に延長する鍔部を有する本体部と、該本体部から突出する支持部と、を有し、
前記鍔部の外方端が前記弾性体の外周縁よりも外方に位置することを特徴とする緩み止め具。
【請求項2】
支持片の支持部は、弾性体であるコイルバネの内周縁を係合する係合溝を有することを特徴とする請求項に記載の緩み止め具。
【請求項3】
雄ネジを有する固定ボルトと、該固定ボルトを内部に螺入する雌ねじ部を有する被固定体と、からなり、
被固定体の雌ねじ部内に請求項1または2のいずれかに記載の緩み止め具を内在した状態で、固定ボルトの雄ねじを雌ねじ部に螺入したことを特徴とする緩み止め具を用いた被固定体の緩み止め構造。
【請求項4】
支持片は、本体部と、該本体部から外周方向に延長する薄肉状の鍔部を有し、
前記鍔部の外方端から前記本体部の中心位置までの長さは、被固定体の雌ねじ部の内径の半径と略同一若しくは前記内径の半径よりも長いことを特徴とする請求項に記載の緩み止め具を用いた被固定体の緩み止め構造。
【請求項5】
弾性体であるコイルバネは、被固定体の雌ねじ部内のネジ山の先端部分に至る自然長を有することを特徴とする請求項4に記載の緩み止め具を用いた被固定体の緩み止め構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空ナットや固定ボルトを螺入する被固定体と、固定ボルトとの螺合状態の緩み止めをするための緩み止め具、及び、被固定体の緩み止め構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、中空ナット等のボルトの被固定体に形成された雌ねじ部に締付けられた締付け状態からの緩むことを防止するための緩み止め具として、リング状のスプリングワッシャが用いられている。このスプリングワッシャは、スプリングワッシャの厚み分しか緩み止め効果が発揮されないといった欠点がある。その他にも、ボルトやナット等に外力による振動、又は、スプリングワッシャの経年劣化による復元力の低下等の原因によって緩み止めの効果が低下して、ガタツキや脱落することなどの欠点があった。
【0003】
上記欠点を解決するために、例えば、特許文献1には、ボルトの雄ねじ部の先端に螺旋状の弾性体を設置したボルト緩み止め構造が開示されており、そのボルトの緩み止め構造によって、ボルトの締付け状態から一度緩んだとしても、復元力により緩み止め効果を発揮することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-298218号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したボルト緩み止め構造では、螺旋状の弾性体を固定するボルトの先端部に細径部を形成した特殊なボルトを用意する必要があり、従来使用されている種々のボルトに対して使用することができず、汎用性に乏しいという欠点を有する。これのみならず、特許文献1に記載の緩み止め構造は、弾性体を雌ネジに挿入して緩み止めを行うものであり、ボルトの螺入時に大きな抵抗がかかってしまう。
【0006】
したがって、ボルトの先端部に特殊な形状の緩み止めを形成する必要がなく汎用性を備えるとともに、ボルトの締付状態から一度緩んだとしても緩み止め効果を継続して発揮することが可能な緩み止め具、及び、この緩み止め具を用いた被固定体に対するボルトの緩み止め構造を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明の緩み止め具は、筒状の雌ねじ部を有する被固定体に雄ねじを有する固定ボルトを固定するにおいて前記雌ねじ部に内在させる緩み止め具であって、前記緩み止め具は、所定長さを有する弾性体と、該弾性体の長手方向の一端を固定する支持部を有する支持片と、からなり、前記支持片は、外周方向に延長する鍔部を有する本体部と、該本体部から突出する支持部と、を有し、前記鍔部の外方端が前記弾性体の外周縁よりも外方に位置することを特徴とする。
【0008】
また、鍔部の外方端が弾性体であるコイルバネの外周縁よりも外方に位置することが好ましい。
【0009】
また、上述した構成に加え、支持片の支持部は、弾性体であるコイルバネの内周縁を係合する係合溝を有することが好ましい。
【0010】
また、上述した緩み止め具を用いた被固定体の緩み止め構造は、雄ねじを有する固定ボルトと、該固定ボルトを内部に螺入する雌ねじ部を有する被固定体と、からなり、被固定体の雌ねじ部内に請求項1または2のいずれかに記載の緩み止め具を内在した状態で、固定ボルトの雄ねじを雌ねじ部に螺入したことを特徴とする。
【0011】
また、支持片は、本体部と、該本体部から外周方向に延長する薄肉状の鍔部を有し、前記鍔部の外方端から前記本体部の中心位置までの長さは、被固定体の雌ねじ部の内径の半径と略同一若しくは前記内径の半径よりも長いことが好ましい。
【0012】
また、上述した構成に加え、弾性体であるコイルバネは、被固定体の雌ねじ部内のネジ山の先端部分に至る自然長を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1及び記載の発明によれば、従来のボルトを締付けるための被固定体に形成された雌ねじ部内に内在させることで、固定ボルトの先端部に特殊な形状の緩み止めを形成する必要がなく汎用性を備え、固定ボルトの締付状態から一度緩んだとしても抜け落ちるまで緩み止め効果を継続することができる緩み止め具、及び、それを用いた被固定体の緩み止め構造を提供することが可能である。
【0014】
また、支持片の鍔部が雌ねじ部の側面に係合し、本体部が雌ねじ部の端面に係合することで、緩み止め具を雌ねじ部内に入れ込んで保持することが可能になる。しかも、鍔部が弾性変形して、雌ねじ部や端面部の側面のサイズに応じて係合可能にできるとともに、雌ねじ部のタップが切削タップや転造タップのいずれのときであっても、挿入されて内在していくことが可能になるという効果がある。
【0015】
また、請求項に記載の発明により、支持片の支持部に係合溝が配置され、この係合溝にコイルバネを保持することができるとともに、その中央にある支持部によりコイルバネが中心円方向に歪むことを防止することができる。
【0016】
また、請求項に記載の発明により、支持片の薄肉状の鍔部の外方端が雌ねじ部の側面に突っ張るように支持するため、抜け止め部材が被固定部の内部で抜け落ちないように保持される。また、鍔部が薄肉状であるため、雌ねじ部内に挿入されていくときには、鍔部が弾性変形をしながら挿入されるので、適切に抜け止め部材を被固定部内に内在させることが可能になる。
【0017】
また、請求項に記載の発明により、雌ねじ部の先端部分に至るまでコイルバネの先端部分が位置することによって、雄ねじが雌ねじ部から完全に抜け落ちるまで緩み止め効果を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る緩み止め具を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る緩み止め具に使用する支持片を示すものであって、(a)はその平面図、(b)はその側面図である。
図3】本発明の緩み止め具を示すものであって、(a)はその側面図、(b)はその縦方向断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る緩み止め具を被固定体に内在させる状態を示す分解斜視図である。
図5図4の状態を示す中央縦断面図及び雌ねじ部の端面部付近を一部拡大した断面図である。
図6図5の状態から緩み止め具を雌ねじ部に内在させた状態の中央縦断面図及び一部拡大断面図である。
図7図6の状態から固定ボルトをねじ込んだ状態(第一の締付け状態)の中央縦断面図及び一部拡大断面図である。
図8図7の状態から固定ボルトが緩んだ状態を示すものであって、(a)は固定ボルトが一度緩んだ後の締付け状態(第二の締付け状態)であり、(b)は上記(a)より更に緩んだ後の締付け状態(第三の締付け状態)、を示す中央縦断面図である。
図9】本発明の別の実施形態を示すものであって、コイルバネの先端を雌ねじ部の開口部分まで延長した状態を示す中央縦断面図である。
図10】本発明の別の実施形態を示すものであって、支持片の鍔部がその外方端から支持片の中央位置までの長さが雌ねじ部の内径の半径より長い場合の係合状態を示す一部拡大中央縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施形態)
本発明の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。図1に示すように、緩み止め具1は、弾性体であるコイルバネ2と、該コイルバネ2の一端に固定された支持片11と、からなるものである。この緩み止め具1は、後述するように、被固定体4の雌ねじ部3にねじ込んだ固定ボルト5の緩み止めをするために雌ねじ部3内に内在させて使用する(図4参照)。
【0020】
本実施形態において、弾性体はコイルバネ2を用いるものであるが、所定の長さを有し、その一端が支持片11に支持され、もう一方端で固定ボルト5の先端部5cを押圧するように接触可能であればよい。また、固定ボルト5を完全にねじ込んだときに、雌ねじ部3の基端部3bに収縮するようにコイルバネを用いることが好ましいが、その他の弾性体によるものであってもよい。
【0021】
図1、4、5に示すように、本実施形態の緩み止め具1に用いるコイルバネ2は、その長手方向(矢印線Lの方向)にかけて伸縮により弾性力を有するものである。被固定体4の雌ねじ部3の形態や使用する固定ボルト5の内容によって適宜変更するものであるが、本実施形態においては、直径0.5mm程度の鋼材を主体とする線材を複数回(本実施形態では巻き数5)巻いて、その長手方向の自然長Lをナット等に形成された雌ねじ部3のネジ山の先端部分に至るようにした。このバネの平均の直径(コイル径)は、使用する固定ボルト5の雄ねじ5aの径に比べて若干小さいものを使用することが好ましい。例えば、後述する被固定体4の一つである中空ナット4に形成された雌ねじ部3及び固定ボルト5の径より若干小さい直径5.5mm程度であることが好ましい。
【0022】
支持片11は、プラスチック等の軽量かつ強度を有するプラスチック等の素材を主体として一体成形されるものであって、図2(a)、(b)、図3(a)、(b)に示すように、円盤状で比較的肉厚のある本体部12と、この本体部12から上方へ突出する円盤状の支持部13と、からなり、本体部12の外周縁から外方へ突出した比較的薄肉の鍔部14を有し、本体部12と鍔部14との間には本体部傾斜面12aが形成される。
【0023】
本体部12の支持部13は、本体部12の上面から、本体部12と同心円となる円盤状に突出した形態となり、その突出した下端から円周面に沿って所定幅を凹ませた係合溝15が形成される。この係合溝15は、コイルバネ2のコイル径よりも若干大きい直径としてあり、コイルバネ2の一端の内径にしっかりと嵌合固定する。係合溝15の上方では、支持部13が上方に向けて先細り状になる方に支持部傾斜面13aが形成されており、この係合溝15にコイルバネ2の一方端を挿入したときに、支持部13がコイルバネ2の一方端の内径に入り込みやすい形態となっている。
【0024】
後述する締付け状態において、コイルバネ2の一端が歪んで変形しないように、支持部13は、コイルバネ2の線材の直径に比べて数倍程度の厚みを有するように突出して形成することが好ましい。例えば、呼び径8mmの雄ねじと雌ねじを用いた本実施形態においては、コイルばね2の線材が5mm程度の直径であるため、支持部13の厚みは15mm程度、係合溝15の溝幅は5mm程度が好ましい。このようにすると、係合溝15にコイルバネ2を嵌合固定した状態で、支持部13がコイルバネ2の内方に突出して入り込んだ状態となり、コイルバネ2の歪みを防止することができる。
【0025】
また、支持片11は、本体部12と支持部13の中心から所定の半径を有する円状の貫通孔16が形成される。この貫通孔16は、支持片11にコイルバネ2を装着するときや、被固定体4に後述する中空ナットの雌ねじ部3内の奥まで支持片11の本体部12を内在させるために、ピン等を差し込んで係止しうる程度の2mm程度の直径で貫通するように形成される。
【0026】
また、支持片11の本体部12の外周端に位置する鍔部14は、本体部12の外方から更に外方に突出するように形成され、雌ねじ部3の内周面に接触し得る程度の長さで略円形状に延設される。図3(a)、(b)に示すように、鍔部14は、少なくとも係合溝15にコイルバネ2を取り付けた状態で、そのコイルバネ2の外縁よりも外方に突出している。
【0027】
さらに、この鍔部14は、本体部12に比してその厚みが先端に向かって薄肉状に成型されたものである。例えば、本実施形態では、支持片の厚みは15mm程度であるため、鍔部14の厚みは0.1mm程度の薄板状であることが好ましい。この薄板状に形成されることで、後述する締付け状態において、緩み止め具1の鍔部14が雌ねじ部3の基端部3bの側面(内周面)に係合して抜け落ちないようにしたり、基端面3cの傾斜に沿って変形することができ、コイルバネ2の復元力でしっかりと押圧固定することも可能である。また、被固定体4の雌ねじ部3内の奥に支持片11を内在させた状態において、雌ねじ部3の基端部3bの側面(内周面)に形成されたネジ山に引掛って抜け落ちないようにする効果もある。また、この鍔部14は、略円形状に限らず、雌ねじ部3内の側面に接する複数の頂点を有する多角形状にしてもよい。
【0028】
また、被固定体4の雌ねじ部3の製造が、いわゆる切削タップと呼ばれる切削により形成されるのであれば、雌ねじ部3のネジ谷は内周面から凹んだ状態となるが、いわゆる転造タップと呼ばれる製造方法により形成される場合には雌ねじ部3の内周面はネジ谷の形成する山が突出した状態となる。このような転造タップによる雌ねじ部であっても、本実施形態の鍔部14が弾性変形して挿入されていくため、雌ねじ部3内に適切に内在させることが可能になる。
【0029】
次に、上述の緩み止め具1を用いた被固定体4の緩み止め構造について説明する。図4、5に示すように、本実施形態における被固定体4は中空ナットであり、内部に雌ねじ部3を有して固定ボルト5を固定するものである。被固定体4は、中空ナットの他、一般的なボルトを螺入する構造体や、中空ナット以外の固定ボルトをねじ込む部材であってもよい。
【0030】
本説明において雌ねじ部3とは、中空ナット等の被固定体4の内部に形成される雌ねじ3aを有する筒状の内部を示すものである。後述のとおり、雌ねじ部3には基端部3bが形成されていることが多く、この基端部3bがあることを前提とするが、基端部3bがない雌ねじ部3であってもよく、基端部3bの基端面3cに一部開口があるものであってもよい。
【0031】
本実施形態では被固定体4の一例として中空ナットと呼ばれるボルトを螺入して固定する部材として説明する。この中空ナット4の一般的な使用形態は、図5乃至8に示すように、異なる板材W1、W2とを張り合わせ、中空ナット4を一方から挿入し、もう一方からボルト5を挿入して螺入することで、異なる板材W1、W2が抜け落ちないように固定するものである。単なる板材以外にも、例えば折り畳み椅子でX字状に脚部が交わる交差位置に取り付けたり、幼児用ジャングルジムのような遊技体において、交差するポールの交差位置にボルトが緩まないように固定するために用いる。本発明の被固定体4は、固定ボルト5を固定するものであればよく、上記張り合わせを維持するものの他にも、単に固定ボルト5を締め付ける部材であってもよい。
【0032】
本実施形態にかかる中空ナット4は、軸体の内方でその基端から先端にかけて固定ボルト5の雄ねじ5aを螺入できる雌ねじ部3を有する。この雌ねじ部3は、山型の雄ねじ5aと噛み合う雌ねじ3aと、雌ねじ部3の底にあたるねじ切りがなされていない基端部3bがあり、この基端部の基端側の面には固定ボルト5が貫通しないように先細りとなった基端面3cを有している。
【0033】
固定ボルト5は、中空ナット4の雌ねじ部3にねじ込み得る雄ねじ5aと、固定ボルト5の基端には基端部5bと、が一体形成されているものである。この基端部5bは、通常のボルト頭のようなフランジ状体であるのみならず、物掛部を形成しているものでもよい。なお、この固定ボルト5には、上述の緩み止め具1に加えて、より一層締付け状態を保持するために金属材を主体として形成されたワッシャを併せて用いてもよい。
【0034】
図4、5に示すように、緩み止め具1を中空ナット4の雌ねじ部3内に挿入する。これは、緩み止め具1の支持片11側を中空ナット4の基端側に向けて、雌ねじ部3内に入れる。そして、固定ボルト5を通常通りに中空ナット4の雌ねじ部3にねじ込むだけでよい。このねじ込みにおいては、通常の固定ボルト5のねじ込みに加え、コイルバネ2を収縮させるための力を加えることになるが、この力は雌ねじ部3に樹脂コーティングをする等の緩み止めに比べるとさほどのものではない。そのため、所定の緩み止め効果を得ることができ、かつ、締め込みにおいても大きな締付力を必要とせず、何度も使用することができる。
【0035】
中空ナット4の雌ねじ部3に挿入された緩み止め具1は、図6に示すように、支持片11の鍔部14が、雌ねじ部3の先細りする基端部3bの側面(内周面)に接触するとともに、雌ねじ部3の途中に形成された雌ねじ3a間の側面に引っ掛かるため、コイルバネ2の他方が自由端になっていたとしても緩み止め具1が雌ねじ部3から抜け落ちずに内在させることが可能である。
【0036】
また、図7は、固定ボルト5を中空ナット4の雌ねじ部にねじ込んだ状態を示すものである。このとき、コイルバネ2の支持片11が固定されていない反対側の自由端側は、固定ボルト5の雄ねじ5aの先端部5cに接触する。雄ねじ5aがねじ込まれるにつれて、コイルバネ2の復元力を高め、固定ボルト5のねじ込む方向とは逆方向にその復元力を掛けることができ、固定ボルト5の雄ねじ5aと雌ねじ3aとの接触面の摩擦力を増加させて固定ボルト5の緩む方向の回動を防止することで緩み止めをすることが可能である。
【0037】
また、このとき、コイルバネ2の一端に嵌合固定された支持片11によって、コイルバネ2が最大に縮んだ状態(第一の締付け状態)において、コイルバネ2の支持片11側にも復元力が掛かるため、コイルバネ2の支持片11側の端部の巻き形状を歪むことを防止するとともに、鍔部14が傾斜する基端面3cに沿って変形することで雄ねじ5aの所定位置からずれることを防止することができ、復元力を安定して固定ボルト5のねじ込む方向の逆方向に復元力をしっかりと加えることができ、より一層緩み止めをすることが可能である。
【0038】
また、図8(a)に示すように、固定ボルト5を完全に締め付けた状態から何らかの外力によって一度緩んだ後の締付け状態(第二の締付け状態)を示すものである。このときでも、コイルバネ2の自由端側は固定ボルト5の雄ねじ5aの先端を押圧しているため、固定ボルト5のねじ込む方向とは反対方向に復元力をコイルバネ2が自然長L(図5参照)に戻るまで加え続けることができる。また、図8(b)のように、図8(a)から更に固定ボルト5が外力によって緩んだとしても、それ以上のコイルバネ2が自然長Lに戻るまでの間で固定ボルト5の緩み止めをすることが可能である(第三の締付け状態)。
【0039】
このように、通常のスプリングワッシャではその幅分以上に緩んでしまった場合には緩み止め効果が発揮し得ないところ、本発明の締め付け具1及びこれを用いた被固定体4の締め付け構造によると、コイルバネ2の自然長Lの長さ未満まで緩んだとしても、なおも緩み止め効果が発揮しうる。これは、単なる板材W1、W2との繋ぎ合わせに使用する場合よりも、稼働部分を連結するための中空ナット4と固定ボルト5による繋ぎ合わせに高い効果を発揮するものである。
【0040】
弾性体であるコイルバネ2の自然長Lについてさらに説明する。図5、6に示すように、本実施形態のコイルバネ2の自然長Lは、中空ナット4の雌ねじ部3の先端部分3dに至るようにしている。この先端部分3dとは、雌ねじ部3の雌ねじ3aの長手方向のうち、基端側よりも固定ボルト5を挿入するための開口部分側の位置を示すものである。これは、一般的に中空ナット4は雌ねじ部3の基端側にねじ切りされていない基端部3bが存在しており、雌ねじ3aの基端側の位置から基端部3bの基端面3cまでの一定の幅(D)が製造者ごとに設定される。支持片11が基端部3bで係合した状態において、この幅(D)の分だけコイルバネ2の自然長が先端部分3dと前後する。そのため、この先端部分3dとは開口部分のみに限定するものではない。
【0041】
図6乃至図8に示すコイルバネ2の自然長Lは、中空ナット4の雌ねじ部3の雌ねじ3aが切られている部分の長手方向長さと一致する長さとしたもので、開口部分から若干基端部側にコイルバネ2の先端が位置している。一方、図9に示すように、他の実施形態として、コイルバネ2の自然長Lをさらに長くし、支持片11が雌ねじ部3の基端面3cに沿う位置で内在した状態で、その先端が雌ねじ部3の開口部分にまで至るようにしたものである。
【0042】
また、支持片11の鍔部14について説明する。図6乃至図8に示す緩み止め具1の支持片11の鍔部14は、その外方端から本体部12の中心位置までの長さが被固定体4の雌ねじ部3の内径の半径と略同一長さとなっている。この略同一長さとは、鍔部14が雌ねじ部3に挿入可能な程度であって、誤差や微差を含むものである。
【0043】
図10に示すように、鍔部14の外方端から本体部12の中心位置までの長さが雌ねじ部3の内径よりも長いものであってもよい。この場合であっても、薄板状の鍔部14が弾性変形しながら雌ねじ部3内に挿入され、鍔部14の外方端が雌ねじ部3の側壁に突っ張るように位置決めをすることができる。
【0044】
ここで、本体部12の中心位置までの長さとは、図3(a)、(b)に示すように、コイルバネ2を上下方向にした状態で、鍔部14の外方端から本体部12の中心まで水平方向(図3における左右方向)の長さをいう。本実施形態における本体部12が円盤状であり、鍔部14もその円盤状の本体部12から突出したものなので、鍔部14のいずれの外方端であってもよいが、本体部12や鍔部14を多角形状や花弁形状にした場合には(図示しない)、突出した鍔部の一つの外方端からの長さを指すものである。図10に示すように、この形態にすることによって、薄肉状の鍔部14が雌ねじ部3や基端部3bの側面に弾性変形して係合し、雌ねじ部3内から抜け落ちない。これにより、いったん支持片11を雌ねじ部3に内在させ、固定ボルト5を被固定体4から取り外したときであっても、支持片11が抜け落ちることを防止することができる。
【0045】
上記の実施形態では本発明の好ましい実施形態を例示したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で改善や変更が可能である。例えば、コイルバネの両端に支持片を固定したり、コイルバネと支持片とを接着固定することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1・・・緩み止め具
2・・・コイルバネ(弾性体)、L・・・自然長、D・・・基端部の幅
3・・・雌ねじ部、3a・・・雌ねじ、3b・・・基端部、3c・・・基端面、3d・・・先端部分
4・・・被固定体(中空ナット)
11・・・支持片、12・・・本体部、13・・・支持部、14・・・鍔部、15・・・係合溝、16・・・貫通孔
5・・・固定ボルト、5a・・・雄ねじ、5b・・・基端部、5c・・・先端部
W1・・・壁、W2・・・壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10