IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人静岡大学の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】イネを遺伝的に頑健化する方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/02 20060101AFI20220831BHJP
   A01H 6/46 20180101ALI20220831BHJP
【FI】
A01H1/02
A01H6/46
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018119252
(22)【出願日】2018-06-22
(65)【公開番号】P2019216690
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-04-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.一般社団法人日本育種学会第133回講演会要旨集 発行日:平成30年3月25日 2.一般社団法人日本育種学会第133回講演会 開催日:平成30年3月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26~29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】富田 因則
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】松岡信,1つで収量を増やし、倒れにくくするイネの遺伝子を発見,名大トピックス,No. 214,名古屋大学,2011年03月01日,8-9,URL: https://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/publication/upload_images/no214.pdf
【文献】廣津直樹、柏木孝幸、円由香、石丸健,バイオマスエネルギー生産に向けたイネ草丈の制御,日本作物学会紀事,日本作物学会,2007年11月07日,第76巻、第4号,501-507
【文献】小川孔輔,「みどり豊」のこと:コシヒカリの突然変異種の発見とそのテスト栽培,Official Website of Professor Ogawa,2009年11月05日,URL: http://www.kosuke-ogawa.com/?eid=1029
【文献】富田因則,半矮性遺伝子sd1を導入した短稈コシヒカリ型の水稲品種'ヒカリ新世紀',農業および園芸,養賢堂,2009年01月01日,第84巻、第1号,58-66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
A01H 1/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
みどり豊とみどり豊以外のイネ品種を交雑し、次いで、該みどり豊以外のイネ品種を反復親とする戻し交雑を行うことを特徴とする、該みどり豊以外のイネ品種と比べて分げつ数および穂数が多く、稈径が太く、かつ、株元が太く、地際で匍匐状に湾曲した強稈を持つ、頑健型イネの作出方法。
【請求項2】
みどり豊以外のイネ品種が晩生性ではなく、頑健型イネが晩生性ではない、請求項1記載の方法。
【請求項3】
みどり豊以外のイネ品種がコシヒカリである、請求項1記載の頑健型イネの作出方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の方法により作出した頑健型イネを短稈イネと交雑することを特徴とする、頑健型かつ短稈のイネの作出方法。
【請求項5】
短稈イネが半矮性遺伝子を有するイネである、請求項記載の作出方法。
【請求項6】
半矮性遺伝子を有するイネがヒカリ新世紀である、請求項記載の作出方法。
【請求項7】
みどり豊あるいは請求項1~3のいずれか1項記載の方法によって作出した頑健型イネを、みどり豊以外のイネ品種と交雑することを特徴とする、頑健性をイネに付与する方法。
【請求項8】
さらに、該みどり豊以外のイネ品種を反復親とする戻し交雑を行うことを特徴とする、請求項記載の方法。
【請求項9】
みどり豊とみどり豊以外のイネ品種を交雑し、次いで該みどり豊以外のイネ品種を反復親とする戻し交雑を行うことによって得られる、該みどり豊以外のイネ品種と比べて分げつ数および穂数が多く、稈径が太く、かつ、株元が太く、地際で匍匐状に湾曲した強稈を持つ、頑健型イネ。
【請求項10】
みどり豊以外のイネ品種が晩生性ではなく、頑健型イネが晩生性ではない、請求項9記載の頑健型イネ。
【請求項11】
みどり豊以外のイネ品種がコシヒカリである、請求項9記載の頑健型イネ。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項記載の頑健型イネと短稈イネを交雑することによって得られる、頑健型かつ短稈のイネ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イネを遺伝的に頑健化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イネは、コメを主食とする我が国においては極めて重要である。しかし、我が国のコメの生産はコシヒカリが約4割を占めており、激化する気象変動のもとで大型台風による倒伏害が拡大し、温暖化による病虫害の増大が危惧されている。さらに、グローバル化によって安価な外国産コシヒカリが流入すると、我が国のコメの自給体制が崩壊する恐れがある。このような危機的状況を打開するために、外国産コシヒカリよりも低コストで、多収で、かつ、気象変動にも強いスーパーコシヒカリの育成が求められている。
【0003】
従来より、耐倒伏性イネとして、イネ品種の短稈化が試みられてきた。なかでも、稈長が適度に短縮される半矮性遺伝子sd1が見出された。sd1遺伝子を有する短稈イネ品種は、現在、世界各地で栽培されており、例えば、米国のCalrose76、東南アジアのIR36、日本のヒカリ新世紀などがある。さらに、sd1とは別の半矮性遺伝子d60が見出され、d60遺伝子を有するイネが作出された(特許文献1)。しかしながら、これらの短稈遺伝子だけでは生産が安定するものの、これ以上の多収は望めない。したがって、遺伝的に今以上に多収化し、かつ頑健化する方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6056042号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐倒伏性に優れたイネを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、コシヒカリより背丈が約10cm高くて耐倒伏性が強い品種「みどり豊」の頑健性に注目し、該頑健性をコシヒカリに移入すべく鋭意研究した。その結果、驚くべきことに、みどり豊とコシヒカリを交雑し、次いで、得られた頑健型交雑種をコシヒカリに連続戻し交雑することによって、コシヒカリよりも分げつ数および穂数が多く、かつ、地際で匍匐状に湾曲した強稈を持つ表現型(頑健型)のイネが得られた。さらに、みどり豊から頑健性を戻し交雑でコシヒカリに移入する過程で該頑健性の遺伝様式を解析した結果、その表現型に基づいて、1頑健型:2中間型:1コシヒカリ型に分離したことから、該頑健性が一遺伝子によって支配されることを見出した。さらに、みどり豊由来の頑健性をコシヒカリに移入して作出したイネを短稈イネ品種と交雑することにより、頑健性と短稈を併せ持つコシヒカリ型品種の育成に成功した。かくして、本発明を完成させた。なお、上記頑健性を支配する遺伝子を「Bms」と命名した。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]みどり豊とみどり豊以外のイネ品種を交雑し、次いで、該みどり豊以外のイネ品種を反復親とする戻し交雑を行うことを特徴とする、頑健型イネの作出方法、
[2]みどり豊以外のイネ品種がコシヒカリである、[1]記載の頑健型イネの作出方法、
[3][1]または[2]記載の方法により作出した頑健型イネを短稈イネと交雑することを特徴とする、頑健型かつ短稈のイネの作出方法、
[4]短稈イネが半矮性遺伝子を有するイネである、[3]記載の作出方法、
[5]半矮性遺伝子を有するイネがヒカリ新世紀である、[4]記載の作出方法、
[6]みどり豊あるいは請求項1または2記載の方法によって作出した頑健型イネを、みどり豊以外のイネ品種と交雑することを特徴とする、頑健性をイネに付与する方法、
[7]さらに、該みどり豊以外のイネ品種を反復親とする戻し交雑を行うことを特徴とする、[6]記載の方法、
[8]みどり豊とみどり豊以外のイネ品種を交雑し、次いで該みどり豊以外のイネ品種を反復親とする戻し交雑を行うことによって得られる、頑健型イネ、および
[9][8]記載の頑健型イネと短稈イネを交雑することによって得られる、頑健型かつ短稈のイネ
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、みどり豊とみどり豊以外のイネ品種を交雑し、次いで、得られた頑健型交雑子孫を該みどり豊以外のイネ品種に戻し交雑することによって、該みどり豊以外のイネ品種よりも分げつ数および穂数が多く、かつ、地際で匍匐状に湾曲した強稈を持つ表現型(頑健型)のイネが得られる。さらに本発明によれば、驚くべきことに、みどり豊由来の該頑健性は、みどり豊の晩生性とは分離して交雑子孫に遺伝される。さらに、かくして得られた頑健型イネを短稈イネ品種と交雑することにより、頑健性と短稈を併せ持つイネが得られる。さらに驚くべきことに、該頑健性と短稈を併せ持つイネは、上記頑健型イネよりも分げつ数および穂数が増加する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で行った、みどり豊とコシヒカリの交雑およびコシヒカリへの連続戻し交雑実験の模式図である。
図2-1】実施例1で行った連続戻し交雑実験のBCで得られた頑健型個体の写真である。
図2-2】実施例1で行った連続戻し交雑実験のBCで得られた頑健型個体の写真である。
図3-1】実施例1で行った連続戻し交雑実験のBCにおける遺伝解析および出穂日の結果を示す図である。
図3-2】実施例1で行った連続戻し交雑実験のBCにおける遺伝解析および出穂日の結果を示す図である。
図4-1】実施例2で得られた交雑F個体の写真である。
図4-2】実施例2で得られた交雑F個体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.定義
「みどり豊」は、コシヒカリの突然変異種から固定育成された品種であり、2011年に品種登録されている(第20529号)。「みどり豊」は、コシヒカリより背丈が10cm程度高いが、耐倒伏性が強く、さらに、コシヒカリと比べて収穫時期が2週間程度遅い晩生品種である。
【0011】
「ヒカリ新世紀」は、短稈の在来種「十石」を利用して、半矮性遺伝子sd1を戻し交雑によってコシヒカリに導入して開発された短稈品種であり、2004年に品種登録されている(第12273号)。
【0012】
本明細書において、「頑健性」とは、みどり豊ではない方の親のイネ品種と比べて、分げつ数および穂数が多く、稈径が太く、かつ、株元が太く、地際で匍匐状に湾曲した強稈を持つ形質をいい、該頑健性を表す表現型を「頑健型」という。栽培条件にもよるが、例えば、分げつ数、穂数、および稈径はそれぞれ、みどり豊以外の親品種と比べて、1.2倍以上、好ましくは1.4倍以上、より好ましくは1.6倍以上、さらに好ましくは1.8倍以上になる。
【0013】
本明細書において、交雑および戻し交雑の父体(花粉親)および母体(種子親)は特に限定されない。頑健性を有する品種(すなわち、みどり豊、またはみどり豊と他のイネ品種の交雑により得られた頑健型子孫)および頑健性を付与したい品種(すなわち、みどり豊以外のイネ品種、例えば、コシヒカリ)のいずれを父体としてもよく、いずれを母体としてもよい。例えば、母体として、頑健性を有する品種(すなわち、みどり豊、またはみどり豊と他のイネ品種の交雑により得られた頑健型子孫)を用い、父体として、頑健性を付与したい品種(すなわち、みどり豊以外のイネ品種、例えば、コシヒカリ)を用いてもよい。また、頑健型イネと短稈イネを交雑する場合も同様に、頑健型イネおよび短稈イネのいずれを父体としてもよく、いずれを母体としてもよい。例えば、短稈イネを母体とし、頑健型イネを父体としてもよい。本発明においては、交雑後、所望の表現型(頑健型、または頑健型かつ短稈)を有する交雑子孫を選択し、必要に応じて戻し交雑を行う。
【0014】
本明細書において、戻し交雑は、2回以上の連続戻し交雑であってもよい。また、戻し交雑の回数は、当業者によって適宜決定され、限定されないが、例えば、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、または5回以上行ってもよい。
【0015】
交雑子孫が頑健型であるか否か、または交雑子孫に頑健性が移入されたか否かの判断は、交雑子孫の形質によって当業者が適宜判断することができる。栽培条件にもよるが、例えば、みどり豊以外の親品種と比べて1.2倍以上、好ましくは1.4倍以上、より好ましくは1.6倍以上、さらに好ましくは1.8倍以上の分げつ数、穂数、および稈径を有する子孫を頑健型交雑子孫として選択してもよい。
【0016】
本明細書において、「コシヒカリ型」とは、大部分がコシヒカリのゲノムDNAにより構成されるイネをいう。例えば、コシヒカリの突然変異種や、コシヒカリを反復親として戻し交雑して得られた交雑種等が挙げられる。また、表現型について「コシヒカリ型」なる語を用いる場合は、コシヒカリの表現型を示すイネをいう。
【0017】
本明細書において、交雑および育種は、当該分野で既知の方法にしたがって行えばよい。
【0018】
2.Bms遺伝子および頑健性の遺伝
本発明において、みどり豊に由来する上記頑健性が一つの遺伝子によって支配されることが見出された。具体的には、みどり豊とコシヒカリを交雑し、交雑Fで分離した頑健型F個体を一回親、コシヒカリを反復親とする戻し交雑を行い、戻し交雑BCおよびBCで頑健性の遺伝解析を行った。その結果、どの世代も、その表現型に基づき、1頑健型:2中間型:1コシヒカリ型に分離したことから、頑健性が一つ遺伝子によって支配されていることがわかった。この遺伝子を「Bms」と命名した。
【0019】
さらに、みどり豊とコシヒカリの戻し交雑BCにおいて、頑健型個体の出穂時期がコシヒカリの出穂時期とほぼ同時期になった。このことから、みどり豊に由来する該頑健性は、みどり豊が有する晩生性とは分離して遺伝されることが分かった。
【0020】
3.頑健型イネの作出
本発明によれば、Bms遺伝子をイネに導入することによって、該イネに頑健性を付与することができる。Bms遺伝子の導入は、例えば、みどり豊、またはみどり豊と他のイネ品種の交雑により得られた頑健型子孫を、みどり豊以外のイネ品種と交雑することによって行う。次いで、頑健型交雑子孫を選択し、必要に応じて、該みどり豊以外のイネ品種を反復親として1回以上の戻し交雑を行ってもよい。ここで、Bms遺伝子を導入するイネは特に限定されず、野生イネ、ジャポニカ種、インディカ種等のいずれの品種であってもよい。したがって、本発明の一の態様において、Bms遺伝子を導入することを特徴とする、頑健性をイネに付与する方法が提供される。
【0021】
本発明の別の態様において、みどり豊とみどり豊以外のイネ品種を交雑し、次いで、該みどり豊以外のイネ品種を反復親とする戻し交雑を行うことを特徴とする、頑健型イネの作出方法(以下、「本発明の頑健型イネの作出方法」ともいう)が提供される。みどり豊以外のイネ品種は、頑健性を付与したいいずれのイネ品種であってもよく、特に限定されない。ジャポニカ種に限らず、野生イネやインディカ種等であってもよい。例えば、みどり豊以外のイネ品種として、コシヒカリ、ひとめぼれ、キヌヒカリ、ゆめぴりか、きぬむすめ等を使用してもよい。本発明の頑健型イネの作出方法において戻し交雑の回数を増やすことによって、Bms遺伝子領域以外のほとんど全て、好ましくは全てが、反復親由来の染色体で構成されてなる頑健型イネが得られる。
【0022】
本発明の更なる態様において、みどり豊、または上記の本発明の頑健型イネの作出方法によって作出した頑健型イネを、みどり豊以外のイネ品種と交雑することを特徴とする、頑健性をイネに付与する方法が提供される。該導入方法においては、必要に応じて、さらに、該みどり豊以外のイネ品種を反復親とする戻し交雑を行ってもよい。
【0023】
かくして、本発明によれば、頑健型のイネが得られる。かかる頑健型イネも、本発明の一態様である(以下、「本発明の頑健型イネ」ともいう)。本発明の頑健型イネは、出穂期に影響しない。本発明の頑健型イネは、好ましくは87%以上、さらに好ましくは93%以上、またさらに好ましくは96%以上が反復親由来のゲノムDNAで構成されている。
【0024】
4.頑健型かつ短稈のイネの作出
本発明によれば、本発明の頑健型イネを短稈イネと交雑することによって、頑健性および短稈を併せ持つイネを作出することができる。本発明においては、Bms遺伝子が短稈遺伝子、例えば半矮性遺伝子と独立して遺伝することが見出された。
【0025】
上記短稈イネは、短稈のイネであればいずれであってもよく、特に限定されないが、収量性の見地から、好ましくは、半矮性遺伝子を有するイネが使用される。半矮性遺伝子としては、例えば、sd1およびd60が知られている。sd1遺伝子を有する短稈イネには、例えば、Calrose76、IR36、ヒカリ新世紀、コシヒカリつくばSD1号、コシヒカリえいち4号、キヌヒカリ、まっしぐら等が挙げられる。d60遺伝子を有する短稈イネは、例えば、特許文献1に記載の方法によって作出することができる。本発明においては、いずれの半矮性遺伝子を有する短稈イネを使用してもよい。上記頑健型イネがコシヒカリ型の頑健型イネである場合は、好ましくは、コシヒカリ型の短稈イネが使用される。
【0026】
かくして得られる頑健型で短稈のイネも、本発明の一態様である。該頑健型で短稈のイネは、交雑親の頑健型イネと比べて穂数が増加する。栽培条件にもよるが、該頑健型で短稈のイネは、交雑親の頑健型イネと比べて穂数が、例えば、約20%増加する。したがって、Bms遺伝子と短稈遺伝子の相乗的効果が明らかとなった。
【0027】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
頑健型イネの作出
コシヒカリとみどり豊を交雑すると、Fでコシヒカリより分げつおよび穂数が多く、地際で匍匐状に湾曲した強稈を持つ頑健な表現型(頑健型)が出現した。その頑健型F個体を1回親にして、コシヒカリを反復親とする連続戻し交雑を行った(図1)。BCおよびBCにおいても、コシヒカリより分げつおよび穂数が多く、地際で匍匐状に湾曲した強稈を持つ頑健な表現型(頑健型)が出現した(図2-1)。BCおよびBCにおいて、表現型に基づいて遺伝解析を行った。コシヒカリと比べて、分げつ数、穂数および稈径がそれぞれ約1.3倍以上の個体を頑健型と分類し、分げつ数、穂数および稈径がそれぞれ約1.1倍~1.3倍未満の個体を中間型に分類し、分げつ数、穂数および稈径がそれぞれ約1.1倍未満の個体をコシヒカリ型に分類した。その結果、BCで、81個体が頑健型、135個体が中間型、80個体がコシヒカリ型に分類され、頑健型:中間型:コシヒカリ型が一遺伝子遺伝の理論比1:2:1(X2=4.3、0.1<P<0.15)に分離していた(図3-1および図3-2)。したがって、みどり豊由来の頑健性は一遺伝子(Bms)に支配されることが明らかとなった。
【0029】
また、BCにおいて得られた頑健コシヒカリ型同質遺伝子系統(コシヒカリBms)は、コシヒカリと比べて、穂数が約1.9倍(コシヒカリ:平均4.4本、コシヒカリBms:平均8.7本)、分げつ数が約1.8倍(コシヒカリ:平均5本、コシヒカリBms:平均9.3本)、稈径が約1.6倍(コシヒカリ:平均5mm、コシヒカリBms:平均8mm)に増加していた(図2-2)。
【0030】
さらに、BCおよびBCにおいて出穂日を記録した(図3)。その結果、頑健遺伝子Bmsが晩生性とは連関せずに分離し、すなわちBmsが出穂期に関する遺伝子とは独立遺伝することが明らかとなった。その結果、BCでは、出穂日がみどり豊よりも早く、コシヒカリとほぼ同時期の頑健型コシヒカリが得られた。
【実施例2】
【0031】
頑健型かつ短稈のイネの作出1
実施例1で実施した連続戻し交雑BCで得られた頑健型コシヒカリ(以下、「コシヒカリBms」という)とヒカリ新世紀(短稈コシヒカリ型同質遺伝子系統コシヒカリsd1)を交雑した。その交雑Fにおいて、Bmsとsd1は独立遺伝し、頑健性を示し、かつ、短稈である個体(以下、「頑健sd1型コシヒカリ」という)が得られた。交雑F個体の写真を図4-1および図4-2に示す。得られた頑健sd1型コシヒカリは、コシヒカリと比べて、分げつ数が約2.3倍(コシヒカリ:平均4.4本、頑健sd1型コシヒカリ:平均10.4本)、穂数が約2.3倍(コシヒカリ:平均5本、頑健sd1型コシヒカリ:平均11.8本)に増加しており、分げつ数および穂数ともに、コシヒカリBmsと比べても約20%増加していた。したがって、Bmsおよびsd1の両遺伝子を移入することにより、分げつ数および穂数増大効果が増すことが分かった。Bmsおよびsd1の組み合わせにより、画期的多収化が期待される。
【実施例3】
【0032】
頑健型かつ短稈のイネの作出2
実施例1で実施したコシヒカリとみどり豊の交雑Fで得られた頑健型コシヒカリを一回親にして、短稈コシヒカリ型同質遺伝子系統コシヒカリd60(以下、「コシヒカリd60」という)を反復親とする2回の戻し交雑を行った。コシヒカリd60は、コシヒカリと北陸100号を交雑し、Fで得られた短稈型個体を一回親としてコシヒカリを反復親とする6回の戻し交雑によって得た。BCおよびBCにおいて、Bmsとd60は独立遺伝し、頑健性を示し、かつ、短稈である個体(以下、「頑健d60型コシヒカリ」という)が得られた。頑健d60型コシヒカリは、コシヒカリと比べて、分げつ数が約1.4倍(コシヒカリ:平均5.2本、頑健d60型コシヒカリ:平均7本)、穂数が約1.4倍(コシヒカリ:平均5本、頑健d60型コシヒカリ:平均7本)に増加していた。したがって、Bmsおよびd60の両遺伝子を移入することにより、分げつ数および穂数増大効果が増すことが分かった。Bmsおよびd60の組み合わせにより、画期的多収化が期待される。
図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】