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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】体動抑制バッグ
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20220831BHJP
   A61B 6/04 20060101ALI20220831BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
A61N5/10 T
A61B6/04 303
A61B6/03 377
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018549072
(86)(22)【出願日】2017-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2017039688
(87)【国際公開番号】W WO2018084232
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2016216186
(32)【優先日】2016-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591189812
【氏名又は名称】エンジニアリングシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 和正
(72)【発明者】
【氏名】河村 好紀
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-104011(JP,U)
【文献】実開昭53-092988(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2009/0308400(US,A1)
【文献】特開平07-148279(JP,A)
【文献】特表2001-510064(JP,A)
【文献】特開2012-183714(JP,A)
【文献】特開2013-017491(JP,A)
【文献】特開平07-171147(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0031888(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
A61B 6/04
A61B 6/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を透過する非磁性の材料から成り、患者の胸部の体動を抑制するためのもので鳩尾を含む胸部に対応する体表面を押圧する押圧部材と、前記鳩尾に対応する体表面との間に生じた隙間に挿入される、放射線を透過する非磁性の材料から成る生地で形成された袋状部と、
前記袋状部材から延出され、前記鳩尾に対応する体表面を押圧する押圧力が調整可能となるように前記袋状部を膨出する空気を供給する空気供給路とを具備する体動抑制バッグであって、
前記袋状部の前記押圧部材側の面に、前記袋状部よりも小形で且つ放射線を透過する非磁性体の材料から成り、前記袋状部を形成する前記生地よりも厚い板体が、前記袋状部が膨出したとき、前記袋状部が前記鳩尾に対応する体表面を押圧できるように前記押圧部材に形成されている位置決め用凹部に挿入される位置に接合されていることを特徴とする体動抑制バッグ。
【請求項2】
前記袋状部が、前記患者の前記鳩尾に対応する体表面に沿って変形できるように柔軟性を有する材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の体動抑制バッグ。
【請求項3】
前記空気供給路を含む前記袋状部への空気供給経路に、前記袋状部内の圧力を測定する圧力計が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の体動抑制バッグ。
【請求項4】
前記袋状部を形成する前記生地の厚さが0.1~1mmであり、前記板体は樹脂又はその発泡体から成り、その厚さが3~10mmであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の体動抑制バッグ。
【請求項5】
前記固定部材が、押圧板又は熱可塑性樹脂から成る固定用シェルであることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の体動抑制バッグ。
【請求項6】
前記固定用シェルは、前記患者の前記鳩尾を含む胸部の形状に倣って成形されている成形物であって、前記鳩尾を含む胸部全体に被着された前記患をベースプレート上の所定位置に固定して前記胸部の体動を抑制するように、前記ベースプレートに固設された連結部に連結され、且つ前記鳩尾に対応する位置に、前記袋状部が膨出したとき、前記板体が挿入される位置決め用凹部が形成されており、前記袋状部からの前記空気供給路が前記固定用シェルの外方に延出されていることを特徴とする請求項5に記載の体動抑制バッグ。
【請求項7】
前記固定用シェルを形成する熱可塑性樹脂が、ポリ-ε-カプロラクトンであることを特徴とする請求項5に記載の体動抑制バッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療等が施される患者の所定部位の体表面を押圧して所定部位の体動を抑制する体動抑制バッグに関する。
【背景技術】
【0002】
癌等の悪性腫瘍の治療として、患部にX線又は陽子線・重粒子線のような粒子線等の放射線を照射する放射線治療が行われることがある。この放射線治療では、患部に正確に放射線を照射することが必要である。しかし、患者が放射線の照射中に動くと患部も移動し、放射線を患部に正確に照射できないことがある。胸腹部内又は骨盤内に患部が存在する場合、患者の呼吸に伴う胸腹部の動きによっても、患部の位置が移動することがある。従って、患部が存在する患者の所定部位の体動を確実に抑制しつつ、放射線を照射することが必要である。また、放射線治療前に、患者の患部の位置を正確に把握すべく、コンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)、核磁気共鳴画法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)等による検査もなされる。その際にも、患者の所定部位の体動を充分に抑制することが必要である。
【0003】
従来、放射線治療やCT,MRI等の検査を施す患者の体動を抑制する押圧部材としては、例えば下記非特許文献1に記載されているように、患者の所定部位の体表面の形状に倣って成形した熱可塑性樹脂から成る固定用シェルが用いられている。具体的には、予め患者の所定部位の体表面の形状に倣って固定シェルを成形し、この固定シェルを所定部位に被着した患者をベースプレートに載せて、固定用シェルの端部をベースプレートに固設した連結部に連結することにより、患者をベースプレートの所定位置に位置決めしつつ、所定部位の体動も抑制できる。
【0004】
固定用シェルを用いた患者の体動抑制手段は、従来から用いられてきた放射線照射装置や検査装置に簡単に適用できる。しかし、固定用シェルは、熱可塑性樹脂製の薄い板体又はメッシュ状体で形成されていることから、例えば呼吸に伴う胸腹部の体動に基づく患部の移動を放射線治療や検査を施すに充分な程度に抑制することは困難である。また、放射線治療等は、患者が浴びる放射線量との兼ね合いからも長期間に亘って行われることが多く、その間に患者の体形が変化して固定用シェルによる患者の所定部位の体動抑制力が低下したり、或いは固定用シェルと患者の所定部位の体表面との間に隙間が生じたりする場合がある。このような場合、患者の所定部位の体動抑制が困難となることから、患者の体形に適合した固定用シェルを再成形することが必要となる。
【0005】
患者の体形変化による体動抑制力の低下を防止する体動抑制手段には、例えば下記特許文献1に提案されているように、内部に粒状材料が充填されて患者の所定部位に被着された内バッグと、この内バックを覆う外バッグとの間に、加圧空気を供給し、粒状材料で患者の体動を抑制することが考えられる。この体動抑制手段によれば、内バッグに挿入された患者の一部の体表面と粒状材料とが接触することから、患者の体形変化が生じても体動抑制力の低下を防止できる。しかしながら、この体動抑制手段は、粒状材料が充填された内バッグと、この内バッグを覆う外バッグとが用いられることから、患者の胸部や腹部の体動を抑制しようとすると、体動抑制手段が複雑化・大型化し、患者への装脱等の取扱いが煩雑となるおそれがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Yoshiyuki Shioyama et al(ヨシユキ シオヤマ等)), Radiation Medicine(ラディエーション メディスン):Vol.23, No.6, p.407-413, 2005
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2010-516311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、患者への装脱等の取扱いが簡単であり、且つ患者の所定部位の体表面を押圧する押圧部材による体動抑制力が患者の体形変化があっても維持できる体動抑制バッグ及びこの体動抑制バッグを用いた押圧力調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するためになされた本発明は、放射線を透過する非磁性の材料から成り、患者の胸部の体動を抑制するためのもので鳩尾を含む胸部に対応する体表面を押圧する押圧部材と、前記鳩尾に対応する体表面との間に生じた隙間に挿入される、放射線を透過する非磁性の材料から成る生地で形成された袋状部と、前記袋状部材から延出され、前記鳩尾に対応する体表面を押圧する押圧力が調整可能となるように前記袋状部を膨出する空気を供給する空気供給路とを具備する体動抑制バッグであって、前記袋状部の前記押圧部材側の面に、前記袋状部よりも小形で且つ放射線を透過する非磁性体の材料から成り、前記袋状部を形成する前記生地よりも厚い板体が、前記袋状部が膨出したとき、前記袋状部が前記鳩尾に対応する体表面を押圧できるように前記押圧部材に形成されている位置決め用凹部に挿入される位置に接合されていることを特徴とする体動抑制バッグである。
【0010】
前記袋状部が、前記患者の前記鳩尾に対応する体表面に沿って変形できるように柔軟性を有する材料で形成されていることにより、袋状部の体表面側の面が患者の鳩尾に対応する体表面に沿って接触でき、膨出した袋状部により患者の鳩尾に対応する体表面を所定の押圧力で押圧できる。
【0011】
前記空気供給路を含む前記袋状部への空気供給経路に、前記袋状部内の圧力を測定する圧力計が設けられていることにより、患者の鳩尾に対応する体表面への押圧力を圧力計で測定でき、圧力を調整して適正な押圧力に簡単に調整できる。
【0012】
前記袋状部を形成する前記生地の厚さが0.1~1mmであり、前記板体は樹脂又はその発泡体から成り、その厚さが3~10mmであることが好ましい。
【0013】
前記固定部材が、押圧板又は熱可塑性樹脂から成る固定用シェルであることが好ましい。
【0014】
前記固定用シェルは、前記患者の前記鳩尾を含む胸部の形状に倣って成形されている成形物であって、前記鳩尾を含む胸部全体に被着された前記患をベースプレート上の所定位置に固定して前記胸部の体動を抑制するように、前記ベースプレートに固設された連結部に連結され、且つ前記鳩尾に対応する位置に、前記袋状部が膨出したとき、前記板体が挿入される位置決め用凹部が形成されており、前記袋状部からの前記空気供給路が前記固定用シェルの外方に延出されていることにより、患者の胸部の体動を広範囲に抑制できる。
【0015】
前記固定用シェルを形成する熱可塑性樹脂がポリ-ε-カプロラクトンであることが好ましい。
【0016】
上述した本発明に係る体動抑制バッグ、すなわち放射線を透過する非磁性の材料から成り、患者の胸部の体動を抑制するためのもので鳩尾を含む胸部に対応する体表面を押圧する押圧部材と、前記鳩尾に対応する体表面との間に生じた隙間に挿入される、放射線を透過する非磁性の材料から成る生地で形成された袋状部と、前記袋状部材から延出され、前記袋状部を膨出する空気を供給する空気供給路とを具備し、前記袋状部の前記押圧部材側の面に、前記袋状部よりも小形で且つ放射線を透過する非磁性体の材料から成り、前記袋状部を形成する前記生地よりも厚い板体が、前記袋状部が膨出したとき、前記袋状部が前記鳩尾に対応する体表面を押圧できるように前記押圧部材に形成されている位置決め用凹部に挿入される位置に接合されている体動抑制バッグを用いて体表面の押圧力を調整するには、前記袋状部から延出されている空気供給路を介して前記袋状部内に空気を供給し、前記鳩尾に対応する体表面の押圧力を調整可能となるように前記袋状部を膨出することにより行うことができる。
【0017】
前記袋状部を、前記患者の前記鳩尾に対応する体表面に沿って変形できるように柔軟性を有する材料で形成することにより、袋状部の体表面側の面が患者の鳩尾に対応する体表面に沿って接触でき、膨出した袋状部により患者の鳩尾に対応する体表面を所定の押圧力で押圧できる。
【0018】
前記空気供給路を含む前記袋状部への空気供給経路に、前記袋状部内の圧力を測定する圧力計を設け、前記袋状部内を所定圧となるように前記袋状部内への空気量を調整することにより、患者の鳩尾に対応する体表面への押圧力を圧力計で測定でき、圧力を調整することにより適正な押圧力に簡単に調整できる。
【0019】
前記袋状部を形成する生地の厚さを0.1~1mmとし、前記板体を樹脂又はその発泡体で形成し、その厚さを3~10mmとすることが好ましい。
【0020】
前記固定部材として、押圧板又は熱可塑性樹脂から成る固定用シェルを用いることが好ましい。
【0021】
前記固定用シェルとして、前記患者の前記鳩尾を含む胸部の形状に倣って成形した成形物であって、前記鳩尾を含む胸部全体に被着した前記患をベースプレート上の所定位置に固定して前記胸部の体動を抑制するように、前記ベースプレートに固設された連結部に連結され、且つ前記鳩尾に対応する位置に、前記袋状部が膨出したとき、前記板体が挿入される位置決め用凹部が形成されているものを用い、前記袋状部からの前記空気供給路を前記固定用シェルの外方に延出していることにより、患者の胸部の体動を広範囲に抑制できる。
【0022】
前記固定用シェルを形成する熱可塑性樹脂として、ポリ-ε-カプロラクトンを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る体動抑制バッグによれば、患者への装脱が簡単にでき、患者が放射線照射等の治療中に体形が変化し、患者の所定部位を押圧して所定部位の体動を抑制する押圧部材による体動抑制力が低下したとき、押圧部材と患者の所定部位の体表面との間に挿入した袋状部に空気を供給して膨出することによって、患者の所定部位の体表面を押圧する体動抑制力を回復できる。従って、患者の体形変化があっても、押圧部材による患者の体動抑制力を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明を適用する第1の体動抑制バッグを用いた第1実施態様を示す斜視図である。
図2】本発明を適用する第1の体動抑制バッグの平面図及び断面図である。
図3】本発明を適用する第1の体動抑制バッグを装着した状態を示す部分断面図である。
図4】本発明を適用する第1の体動抑制バッグを装着した状態で隙間が形成された状態を示す部分断面図である。
図5】本発明を適用する第1の体動抑制バッグを装着した状態で空気供給手段を連結した状態を示す斜視図である。
図6】本発明を適用する第1の体動抑制バッグを装着した状態で袋状部を膨出して隙間を閉塞した状態を示す部分断面図である。
図7】本発明を適用する第2の体動抑制バッグを示す平面図及び断面図である。
図8】本発明を適用する第2の体動抑制バッグを用いた第2実施態様を示す斜視図である。
図9】本発明に係る第2の体動抑制バッグを装着した状態を示す部分断面図である。
図10】本発明を適用する第2の体動抑制バッグを装着して隙間が形成された状態を示す部分断面図及び第2の体動抑制バッグの袋状部を膨出して隙間を閉塞した状態を示す部分断面図である。
図11】本発明を適用する第2の体動抑制バッグを装着して隙間が形成された他の状態を示す部分断面図及び第2の体動抑制バッグの袋状部を膨出して隙間を閉塞した状態を示す部分断面図である。
図12】本発明を適用する第3の体動抑制バッグを示す平面図である。
図13】本発明を適用する第1の体動抑制バッグを用いた第3実施態様を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0026】
図1は、本発明の第1の体動抑制バッグを適用する第1実施態様を示す斜視図であって、長方形状のベースプレート12上に載せられている患者10は、その胸部に押圧部材としての固定用シェル14が被着されている状態を示す。固定用シェル14は、その両端部の各々がベースプレート12の各長辺側に固設されている連結部15に連結されており、患者10はベースプレート12上の所定位置に固定されつつ、胸部の体動、すなわち患者10の深呼吸が抑制され、深呼吸に因る胸部の体動が抑制されている。
【0027】
ベースプレート12と患者10の背面側には、患者10の背側の体表面の形状に倣って凹凸状に形成されている固定バッグが配されていることが、患者10をベースプレート12上の所定位置に位置決めを簡単に行うことができ好ましい。固定バッグは、その袋状内に粒状材料が充填されており、袋状内が大気圧状態のとき、粒状材料が袋状内を自由に移動でき、袋状内が減圧状態となったとき、袋状内で拘束状態となる。このような固定バッグをベースプレート12の所定位置に載置し、この固定バッグ上に患者10を載せたとき、大気圧状態の袋状内では、粒状材料が患者10の背側の体表面の形状に沿って移動し、固定バッグの上面側が患者10の背側の体表面の形状に倣う形状となる。次いで、固定バッグの袋状内を減圧状態とすることにより、袋状内の粒状材料が拘束状態となり、固定バッグの上面側の形状が固定される。尚、患者10の膝に相当するベースプレート12上に、患者10の膝を「く」字状に曲げる部材を載置してもよい。
【0028】
また、患者10の胸部に被着された固定用シェル14は、熱可塑性樹脂から成り、患者10の胸部の体表面の形状に倣って成形されている。この熱可塑性樹脂としては、熱可塑性エラストマー、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリイソプレン、熱可塑性ポリエステル、熱可塑性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンまたはこれらの材料のうちの2種又はそれ以上の種のブレンドが挙げられる。熱可塑性ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン又はエチレン-プロピレンコポリマーが挙げられ、熱可塑性エラストマーとしては、エチレンと少なくとも1種の炭素数3~10のα-オレフィンとのコポリマー、又はこのようなコポリマーのうちの2種又はそれ以上の種のブレンドであり、好ましくはエチレンと1-ブテンとのコポリマー若しくはエチレンと1-オクテンとのコポリマー又はこのようなコポリマーのうちの2種またはそれ以上の種のブレンドである。ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンビニルアセテート、ポリアクリレート又はポリメタクリレート、高分子量脂肪酸エステル、ポリ-ε-カプロラクトンが挙げられる。
【0029】
これらの熱可塑性樹脂から成る固定用シェル14は、熱可塑性樹脂から成る板体又はメッシュ状体を用いて得ることができる。具体的には、予め形成した患者10の胸部の体表面の形状に倣った型に、その熱可塑性樹脂の加工温度まで加熱した板体又はメッシュ状体を押し付けることによって固定用シェル14を得ることができる。また、融点が60℃のポリ-ε-カプロラクトン等の低融点の熱可塑性樹脂から成る板体又はメッシュ状体を用いることが好ましい。このような低融点の熱可塑性樹脂から成る板体又はメッシュ状体を加熱して、加工可能な程度に曲折でき且つ火傷をしない程度の温度に調整してから患者10の胸部に直接押し付けることによって、患者10の胸部の体表面形状に倣った固定用シェル14を得ることができ好ましい。
【0030】
患者10の胸部の体表面形状に倣った固定用シェル14は、患者10の胸部に被着されて、その両端部の各々がベースプレート12の各長辺側に固設されている連結部15に連結されている。患者10は、被着した固定用シェル14により、ベースプレート12の所定位置に固定されつつ、深呼吸が抑制され、深呼吸に因る胸部の体動が抑制される。
【0031】
このように患者10の胸部に被着された固定用シェル14と胸部の鳩尾に相当する体表面との間には、図1に示すように第1の体動抑制バッグB(以下、バッグBという。)の袋状部16が挿入されている。図1に示すように固定用シェル14よりも小形の袋状部16を具備するバッグBの正面図を図2(a)に示す。バッグBの袋状部16は、六角形であって、袋状部16からは、先端部に空気供給手段と連結されるコネクタ20が取り付けられた空気供給路18が引き出されている。袋状部16は、図2(a)のX-Xでの断面図である図2(b)に示すように、二枚のガスバリア性を有する生地16a,16bから形成されており、生地16a,16bの両端部16c,16cが4~6mm幅で溶着されている。また、空気供給路18も、図2(a)のY-Yでの横断面図である図2(c)に示すように、二枚のガスバリア性を有する生地18a,18bの両端部18c,18cが幅4~6mmに亘って溶着されて筒状に形成されている。この空気供給路18は、その中央部18dが中心線に沿って2~5mm幅で溶着され、空気供給路18が膨らみ過ぎないようにしている。
【0032】
ガスバリア性を有する生地16a,16b及び生地18a,18bは、X線等の放射線を透過する非磁性体の材料から成るものであることが好ましく、塩化ビニルフィルムやポリウレタンフィルムから成る生地、エラストマー等の弾性樹脂フィルムから成る生地、レトルトパウチ等に用いられるポリエステル等の複数種の合成樹脂フィルムがラミネートされてガスバリア性が付与された生地を挙げることができる。また、ナイロン等の化学繊維や天然繊維から成る織物、編物、紙を含む不織布等の布帛の一面側に塩化ビニルやポリウレタン等の樹脂をコーティング或いは樹脂フィルムをラミネートしてガスバリア性を付与した生地であってもよい。生地16a,16bは、バッグBを構成して人体に直接接触することから、柔軟性を有するものであることが好ましいが、後述するように袋状部16に空気が供給されて膨出することから、袋状部16の強度との兼ね合いから生地16a,16bの厚さは0.1~1mm程度とすることが好ましい。尚、空気供給路18を構成する生地18a,18bは、生地16a,16bと同一生地であっても、異なる生地であってもよいが、袋状部16と同一圧力が加えられることから、その厚さを0.1~1mm程度とすることが好ましい。
【0033】
図1に示すように患者10の胸部の鳩尾に対応する体表面と固定用シェル14との間に挿入されたバッグBの袋状部16は、患者10の体形が固定用シェル14を成形したときと略同一であれば、図3に示すように患者10の胸部10aの鳩尾に対応する体表面と固定用シェル14とに密着する。図3に示す状態では、固定用シェル14のみで胸部10aの体動を抑制できるので、袋状部16を膨出させることなく患者10に放射線治療或いはCT、MRI等の検査を施すことができる。尚、このような場合には、袋状部16を患者10の胸部の鳩尾に対応する体表面と固定用シェル14との間に挿入しなくてもよい。
【0034】
しかし、患者10の体形が固定用シェル14を成形したときよりも変形し、図4に示すように、患者10の胸部の鳩尾に対応する体表面と固定用シェル14との間に隙間22が形成されると、固定用シェル14のみでは胸部10aの鳩尾を充分に押圧できず、胸部10aの呼吸による体動を充分に抑制できない。このような場合、図4に示すように隙間22内にバッグBの袋状部16を挿入し、図5に示すように袋状部16から固定用シェル14の外方に延出されている空気供給路18の先端部のコネクタ20に、空気供給手段としての空気バッグ24が繋がれているチューブ28を連結する。チューブ28の途中には、袋状部16内の圧力を測定する圧力計26が取り付けられている。
【0035】
空気供給手段としての空気バッグ24から空気供給路18を介して空気を袋状部16に供給することにより、袋状部16は図6に示すように膨出し、図4に示す隙間22を塞ぎ、胸部10aの鳩尾を充分に押圧することができる。圧力計26で測定した袋状部16の圧力を所定圧力に調整することにより、胸部10aの鳩尾に対応する体表面を所定押圧力で押圧でき、胸部10aの呼吸による体動を充分に抑制できる。尚、コネクタ20或いは空気バッグ24に逆止弁を設けることが、袋状部16内の圧力を調整する上で好ましい。
【0036】
ところで、図4に示す隙間22の面積が広い場合、図1図6に示すバッグBの袋状部16に空気を供給し膨出したとき、膨出した袋状部16が予定していた場所と異なる場所に移動するおそれがある。このようなおそれは、図7に示す第2の体動抑制バッグB(以下、バッグBという。)を用いることにより解消できる。図7に示すバッグBは、その正面図である図7(a)及び図7(a)のZ-Zでの断面図である図7(b)に示すように、袋状部16の一面側に、袋状部16よりも変形し難い板体17が接合されているものである。図7(a)(b)に示す板体17は、六角形の袋状部16よりも小形の相似形であって、袋状部16を形成する生地16aの一面側に接合されている。板体17は、放射線を透過する非磁性体の材料、例えばポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂又はその発泡体で形成されており、袋状部16よりも変形し難くなるように、その厚さは3~10mm程度とすることが好ましい。また、板体17と生地16aとは、市販されている有機接着剤、両面テープ、粘着テープ、のり等で接合できる。尚、図7に示すバッグBは、板体17が袋状部16の一面側に接合されていることを除き、図1図6に示すバッグBと同一部材で構成されていることから、バッグBの構成部材のうち、バッグBの構成部材と同一部材については同一番号を付与し、各部材の詳細な説明を省略する。
【0037】
図7に示すバッグBを用いた第2実施態様を図8に示す。バッグBは、その袋状部16が図8に示すように患者10の胸部の鳩尾に対応する体表面と固定用シェル14との間に、板体17が固定用シェル14側となるように挿入される。このように挿入されたバッグBの板体17は、図9に示すように固定用シェル14に予め形成された位置決め用凹部14aに挿入される。このような位置決め用凹部14aを具備する固定用シェル14は、例えば融点が60℃のポリ-ε-カプロラクトン等の低融点の熱可塑性樹脂から成る板体又はメッシュ状体を加熱して、加工可能な程度に曲折でき且つ火傷をしない程度の温度に調整した後、図7に示す袋状部16が所定位置に載置された患者10の胸部に直接押し付けることにより、患者10の胸部の体表面形状に倣った形状で且つ内面側の所定位置に開口された位置決め用凹部14aが形成された固定用シェル14を得ることができる。固定用シェル14の位置決め用凹部14aは、再度の放射線治療や検査の際に、固定用シェル14及びバッグBを患者の所定部位に装着したとき、バッグBを所定位置に位置決めすることができる。
【0038】
患者10の体形が固定用シェル14を成形したときよりも変形し、図10(a)に示すように、患者10の胸部の鳩尾に対応する体表面及び袋状部16と固定用シェル14との間に隙間22が形成されたとき、固定用シェル14のみでは胸部10aの鳩尾を充分に押圧できず、胸部10aの体動を充分に抑制できない。このような場合、図10(b)に示すように袋状部16内に空気供給路18を介して空気バッグ24(図5)から空気を供給し、袋状部16を膨出することにより、隙間22を閉塞して胸部10aの鳩尾に対応する体表面を所定圧力で押圧でき、胸部10aの呼吸による体動を抑制できる。この際、図10(b)に示すように、膨出した袋状部16の板体17が固定用シェル14の位置決め用凹部14a内に挿入され、膨出した袋状部16により正確に胸部10aの鳩尾に対応する体表面を押圧できる。
【0039】
図8図10に示すバッグBの袋状部16は、患者10の胸部の鳩尾に対応する体表面と固定用シェル14との間隙22に、板体17が固定用シェル14側となるように挿入されているが、患者10の体形変形が少ないとき、図11(a)に示すように板体17を患者10の体表面側となるように間隙22に挿入してもよい。この場合、固定用シェル14に位置決め用凹部14aを形成することは要しない。図11(a)に示すように板体17が患者10の体表面側となるように挿入された袋状部16は、空気供給路18を介して空気バッグ24(図5)から空気が供給され膨出すると、図11(b)に示すように板体17を患者10の対応する体表面に押し付けて、その体表面の形状を矯正しつつ、間隙22を閉塞して患者10の胸部の鳩尾に対応する体表面を所定の圧力で押圧できる。
【0040】
図1図11に示すバッグB,Bの袋状部16は、六角形であったが、図12に示す第3の体動抑制バッグB(以下、バッグBという。)のように四角形であってもよい。また、図3に示すように固定用シェル14が患者10の体形に倣って形成されており、患者10の胸部の体表面と固定用シェル14との間に隙間が存在しない場合であっても、固定用シェル14により患者10の胸部をベースプレート12の所定位置に位置決めした後、胸部の鳩尾の押圧力が不足するときは、鳩尾に対応する体表面と固定用シェル14との間に挿入したバッグBの袋状部16を膨出することにより、鳩尾を所定圧力で押圧して胸部の体動を抑制するようにしてもよい。
【0041】
固定用シェル14による患者10の胸部の体動抑制は、患者10の呼吸を抑制することから、患者10に呼吸困難となる苦痛を与えるおそれがある。このようなおそれを解消するように、固定用シェル14により患者10の胸部を呼吸困難にならないような力でベースプレート12の所定位置に位置決めした後、放射線或いは磁気を患者10に照射する直前に、胸部の所定位置と固定用シェル14との間に挿入した袋状部16に空気供給手段から自動的に空気を供給し、袋状部16を膨出して胸部の所定位置を所定圧力で押圧し胸部の体動を抑制するようにしてもよい。
【0042】
これまで説明してきた押圧部材としての固定用シェル14は、患者10の胸部全体を覆っているが、胸部の体動抑制は、患者10の鳩尾部分のみを押圧することでも可能であることから、第3実施態様である図13に示すように患者10の鳩尾部分を押圧する押圧板30を押圧部材として用いることができる。図13に示す押圧板30は、ベースプレート12の側端に立設された二本の支柱32a,32bで両端部が支承されている湾曲状の横桟34に螺着されている螺子杵36の先端に取り付けられている。螺子杵36の後端に取り付けられたツマミ38を左右方向に回動して、螺子杵36を回動すると、押圧板30は上下動し、ベースプレート12上に載せられた患者10の鳩尾部分を所定圧力で押圧することができる。この押圧板30と患者10の鳩尾部分に対応する体表面との間に、バッグBの袋状部16が挿入される。押圧板30,支柱32a,32b,横桟34,螺子杵36,ツマミ38は、放射線を透過する非磁性の材料、例えば樹脂から形成されている。
【0043】
通常、押圧板30は、患者10の鳩尾部分の体表面形状に倣って形成されておらず、押圧板30のみでは鳩尾部分の体表面を所定圧力で均等に押圧することは困難である。このような押圧板30と鳩尾部分の体表面との間に図2に示すバッグBの袋状部16を挿入し、袋状部16に空気を供給して所定圧力に調整すると、袋状部16の患者10側の部分が鳩尾部分の体表面形状に倣って膨出し、鳩尾部分の体表面を均等に押圧することができる。図13では、図2に示すバッグBを用いたが、図7に示すバッグB或いは図12に示すバッグBであってもよい。バッグBを用いる場合、押圧板30に板体17が挿入される位置決め用凹部を形成しておくことが好ましい。また、バッグBを、その板体17を患者10の体表面側となるように押圧板30と患者との間に配置してもよい。更に、バッグB,B,Bを、押圧板30に接着剤、両面テープや粘着テープで貼着してもよい。
【0044】
以上説明してきたバッグB,B,Bは、患者10の胸部の体動抑制に使用されるものであるが、患者10の腹部、頭部、手、足等の体動抑制にも用いることができる。その際に、患者10の体動抑制部位に適合するように、袋状部16の形状や材料を任意に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、放射線治療やX線や磁気を用いた検査等に効果的に使用できる。
【符号の説明】
【0046】
:第1の体動抑制バッグ、B:第2の体動抑制バッグ、B:第3の体動抑制バッグ、10:患者、10a:胸部、12:ベースプレート、14:固定用シェル、14a:位置決め用凹部、15:連結部、16:袋状部、16a,16b,18a,18b:生地、16c,16c:袋状部16の両端部、17:板体、18:空気供給路、18c,18c:空気供給路18の両端部、18d:空気供給路18の中央部、20:コネクタ、22:隙間、24:空気バッグ、26:圧力計、28:チューブ、30:押圧板、32a,32b:支柱、34:横桟、36:螺子杵、38:ツマミ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13