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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】多孔質体および多孔質体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20220831BHJP
   C08G 59/06 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/26 CFC
C08G59/06
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021504033
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2020008184
(87)【国際公開番号】W WO2020179642
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2019038971
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505191803
【氏名又は名称】株式会社エマオス京都
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】石塚 紀生
(72)【発明者】
【氏名】小田 俊和
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-114399(JP,A)
【文献】特開2011-137183(JP,A)
【文献】特開2011-148911(JP,A)
【文献】特開2014-088490(JP,A)
【文献】特開2014-088491(JP,A)
【文献】特開2010-077358(JP,A)
【文献】特開2009-269948(JP,A)
【文献】国際公開第2011/019033(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/026426(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0135710(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28、9/00-9/42、99/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物と硬化剤との共重合体により形成された多孔質体であって、
前記硬化剤が、1分子中にフェノール性水酸基を3個以上含むフェノール化合物であり、
前記多孔質体は、1~3級のアミノ基を含まない多孔質体であり、かつ、その内部に、多孔構造が連通している孔を有することを特徴とする多孔質体。
【請求項2】
エポキシ化合物と硬化剤との共重合体により形成された多孔質体であって、
前記硬化剤が、1分子中にフェノール性水酸基を3個以上含むフェノール化合物であり、
前記多孔質体は、酸処理により4級化する窒素原子を含まない多孔質体であり、かつ、その内部に、多孔構造が連通している孔を有することを特徴とする多孔質体。
【請求項3】
前記エポキシ化合物が、1~3級のアミノ基を含まないエポキシ化合物である請求項1または2記載の多孔質体。
【請求項4】
前記エポキシ化合物が、酸処理により4級化する窒素原子を含まないエポキシ化合物である請求項1から3のいずれか一項に記載の多孔質体。
【請求項5】
前記エポキシ化合物が、下記化学式(E1)で表されるエポキシ化合物である請求項1から4のいずれか一項に記載の多孔質体。
【化E1】
前記化学式(E1)中において、nは、正の整数であり、Rは、水素原子または置換基である。
【請求項6】
前記化学式(E1)において、nが、10~15である請求項5記載の多孔質体。
【請求項7】
前記化学式(E1)で表されるエポキシ化合物が、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物である請求項5または6記載の多孔質体。
【請求項8】
前記硬化剤が、1~3級のアミノ基を含まない硬化剤である請求項1から7のいずれか一項に記載の多孔質体。
【請求項9】
前記硬化剤が、酸処理により4級化する窒素原子を含まない硬化剤である請求項1から8のいずれか一項に記載の多孔質体。
【請求項10】
前記多孔構造が連通している孔は、多孔構造が連通している貫通孔である請求項1からのいずれか一項に記載の多孔質体。
【請求項11】
前記貫通孔の端部が、前記多孔質体の外部に向かって開口している請求項10記載の多孔質体。
【請求項12】
多孔性粒子である請求項1から11のいずれか一項に記載の多孔質体。
【請求項13】
前記多孔性粒子が、球状の粒子である請求項12記載の多孔質体。
【請求項14】
前記多孔性粒子の長径が短径の1.6倍以下である請求項12記載の多孔質体。
【請求項15】
前記多孔性粒子の平均粒径が0.5~30,000μmの範囲である請求項12から14のいずれか一項に記載の多孔質体。
【請求項16】
エポキシ化合物と硬化剤とを含む多孔質体原料を、分散媒中に分散させて分散液を調製する分散液調製工程と、
前記多孔質体原料を前記分散液中で重合させる重合工程と、を含み、
前記重合工程において、スピノーダル分解により前記孔を形成する請求項1から15のいずれか一項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項17】
前記分散液調製工程において、さらに、硬化促進剤を分散媒中に分散させる請求項16記載の多孔質体の製造方法。
【請求項18】
前記分散液調製工程において、前記多孔質体原料を、分散剤とともに分散媒中に分散させる請求項16または17記載の多孔質体の製造方法。
【請求項19】
前記分散剤が、疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックを含んで形成されたブロックコポリマーである請求項18記載の多孔質体の製造方法。
【請求項20】
さらに、前記分散剤を製造する分散剤製造工程を含み、
前記分散剤製造工程が、リビングラジカル重合により前記疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックの一方を形成する第1のリビングラジカル重合工程と、
前記第1のリビングラジカル重合工程後に、リビングラジカル重合により前記疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックの他方を形成する第2のリビングラジカル重合工程と、を含む
請求項19記載の多孔質体の製造方法。
【請求項21】
前記分散剤が、界面活性剤である請求項18記載の多孔質体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体および多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピノーダル分解により形成される共連続構造の孔を有するエポキシ樹脂製多孔質体が、種々提案されている。これらは、例えば、電池用セパレーター用薄膜、分離剤用粒子等に用いられる(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5153142号公報
【文献】特許第4940367号公報
【文献】WO2017/026424
【文献】特開2017-037070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スピノーダル分解を用いたエポキシ樹脂製多孔質体の製造に使用されている硬化剤は、アミン系硬化剤が殆どである。アミン系硬化剤で硬化したエポキシ樹脂製多孔質体は、主鎖にアミノ基を含むため、酸性の条件下では4級化により膨潤するおそれがある。このようなエポキシ樹脂製多孔質体を、例えば、カラムの充填剤として使用した場合、酸性の液を流すと膨潤して液が流れにくくなるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、酸性条件下での膨潤が抑制された多孔質体および多孔質体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の第1の多孔質体は、
エポキシ化合物と硬化剤との共重合体により形成された多孔質体であって、
前記多孔質体は、1~3級のアミノ基を含まない多孔質体であり、かつ、その内部に、多孔構造が連通している孔を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の第2の多孔質体は、
エポキシ化合物と硬化剤との共重合体により形成された多孔質体であって、
前記多孔質体は、酸処理により4級化する窒素原子を含まない多孔質体であり、かつ、その内部に、多孔構造が連通している孔を有することを特徴とする。
【0008】
なお、以下において、本発明の第1の多孔質体と、本発明の第2の多孔質体とを、まとめて「本発明の多孔質体」ということがある。
【0009】
本発明の多孔質体の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある。)は、本発明の多孔質体を製造する方法であり、
エポキシ化合物と硬化剤とを含む多孔質体原料を、分散媒中に分散させて分散液を調製する分散液調製工程と、
前記多孔質体原料を前記分散液中で重合させる重合工程と、を含み、
前記重合工程において、スピノーダル分解により前記孔を形成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸性条件下での膨潤が抑制された多孔質体および多孔質体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1の多孔質体表面のSEM像である。
図2図2は、実施例5の多孔質体(粒子1)表面のSEM像である。
図3図3は、実施例6の多孔質体(粒子2)表面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について例を挙げて説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0013】
本発明の多孔質体は、例えば、前記エポキシ化合物が、1~3級のアミノ基を含まないエポキシ化合物であってもよい。
【0014】
本発明の多孔質体は、例えば、前記エポキシ化合物が、酸処理により4級化する窒素原子を含まないエポキシ化合物であってもよい。
【0015】
本発明の多孔質体は、例えば、前記エポキシ化合物が、下記化学式(E1)で表されるエポキシ化合物であってもよい。
【0016】
【化E1】
【0017】
前記化学式(E1)中において、nは、正の整数であり、Rは、水素原子または置換基である。
【0018】
本発明の多孔質体は、例えば、前記化学式(E1)において、nが、10~15であってもよい。
【0019】
本発明の多孔質体は、例えば、前記化学式(E1)で表されるエポキシ化合物が、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物であってもよい。
【0020】
本発明の多孔質体は、例えば、前記硬化剤が、1~3級のアミノ基を含まない硬化剤であってもよい。
【0021】
本発明の多孔質体は、例えば、前記硬化剤が、酸処理により4級化する窒素原子を含まない硬化剤であってもよい。
【0022】
本発明の多孔質体は、例えば、前記硬化剤が、フェノール化合物であってもよい。
【0023】
本発明の多孔質体は、例えば、前記フェノール化合物が、1分子中にフェノール性水酸基を3個以上含むフェノール化合物であってもよい。
【0024】
本発明の多孔質体において、例えば、前記多孔構造が連通している孔は、多孔構造が連通している貫通孔であってもよい。
【0025】
本発明の多孔質体は、例えば、前記貫通孔の端部が、前記多孔質体の外部に向かって開口していてもよい。
【0026】
本発明の多孔質体は、例えば、多孔性粒子であってもよい。
【0027】
本発明の多孔質体は、例えば、前記多孔性粒子が、略球状の粒子であってもよい。
【0028】
本発明の多孔質体は、例えば、前記多孔性粒子の長径が短径の1.6倍以下であってもよい。
【0029】
本発明の多孔質体は、例えば、前記多孔性粒子の平均粒径が0.5~30,000μmの範囲であってもよい。
【0030】
本発明の多孔質体の製造方法は、例えば、前記分散液調製工程において、さらに、硬化促進剤を分散媒中に分散させてもよい。
【0031】
本発明の多孔質体の製造方法は、例えば、前記分散液調製工程において、前記多孔質体原料を、分散剤とともに分散媒中に分散させてもよい。
【0032】
本発明の多孔質体の製造方法は、例えば、前記分散剤が、疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックを含んで形成されたブロックコポリマーであってもよい。
【0033】
本発明の多孔質体の製造方法は、例えば、さらに、前記分散剤を製造する分散剤製造工程を含み、前記分散剤製造工程が、リビングラジカル重合により前記疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックの一方を形成する第1のリビングラジカル重合工程と、前記第1のリビングラジカル重合工程後に、リビングラジカル重合により前記疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックの他方を形成する第2のリビングラジカル重合工程と、を含んでいてもよい。
【0034】
本発明の多孔質体の製造方法は、例えば、前記分散剤が、界面活性剤であってもよい。
【0035】
[1.多孔質体]
本発明の多孔質体は、前述のとおり、エポキシ化合物と硬化剤との共重合体により形成された多孔質体である。
【0036】
[1-1.エポキシ化合物]
前記エポキシ化合物は、1~3級のアミノ基を含まないことが好ましい。また、前記エポキシ化合物は、酸処理により4級化する窒素原子を含まないことが好ましい。アミド結合、ウレタン結合等の窒素原子であれば、酸性下でも4級化しない。
【0037】
本発明の第1の多孔質体は、前述のとおり、1~3級のアミノ基を含まない。この場合において、前記エポキシ化合物が1~3級のアミノ基を含んでいるか、または前記エポキシ化合物が酸処理により4級化する窒素原子を含んでいても、製造される本発明の第1の多孔質体が、1~3級のアミノ基を含まなければよい。
【0038】
本発明の第2の多孔質体は、前述のとおり、酸処理により4級化する窒素原子を含まない。この場合において、前記エポキシ化合物が1~3級のアミノ基を含んでいるか、または前記エポキシ化合物が酸処理により4級化する窒素原子を含んでいても、製造される本発明の第1の多孔質体が、酸処理により4級化する窒素原子を含まなければよい。
【0039】
前記エポキシ化合物は、1種類のみ用いても複数種類併用してもよい。また、例えば、膨潤による悪影響や付加反応時の阻害が許容できる範囲においては、窒素原子を含むエポキシ化合物の使用または併用も可能である。
【0040】
前記エポキシ化合物は、1分子中のエポキシ基の数が多い方が、多孔質構造が形成されやすく好ましい。具体的には、例えば、前記エポキシ化合物1分子中のエポキシ基の数が、5個以上または10個以上であってもよく、上限は特に限定されないが、例えば、30以下または15以下であってもよい。また、前記エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基が2個以下であるエポキシ化合物を含まないことが好ましい。
【0041】
前記エポキシ化合物は、例えば、エポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーの少なくとも一方であってもよい。例えば、前記エポキシ化合物として、製造される多孔質体の構造に対応したエポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーの少なくとも一方を用いることができる。
【0042】
前記エポキシ化合物の具体例は、特に限定されないが、例えば、以下のとおりである。
【0043】
1~3級の窒素原子を含まないエポキシ化合物としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂やEHPE3150(株式会社ダイセルの商品名、詳細は後述)等が挙げられる。
【0044】
1~3級の窒素原子を含むエポキシ化合物としては、例えば、グリシジルアミンタイプのTETRAD-C(テトラッド-Cともいう、三菱ガス化学株式会社の商品名)、トリアジン環を有するTEPIC(テピックともいう、日産化学株式会社の商品名)等が挙げられる。
【0045】
TETRAD-Cの構造は、下記化学式(1)で表される。
【0046】
【化1】
【0047】
TEPICの構造は、下記化学式(4)で表される。また、TEPICのシリーズとしては、例えば、TEPIC-L(テピックL)、TEPIC-VL(テピックVL)、TEPIC-FL(テピックFL)、TEPIC-PAS(テピックPAS)、TEPIC-UC(テピックUC)が挙げられる。これらは、下記化学式(4)の構造の一部を変化させたものであり、TEPICと類似の構造を有する。
【0048】
【化4】
【0049】
窒素原子を含まないエポキシ化合物としては、ビスフェノール型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂環式タイプのEHPE3150(株式会社ダイセルの商品名)などが挙げられる。特に、EHPE3150、ノボラック型エポキシ化合物が好ましい。なお、EHPE3150は「2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物」という化学構造を有し、下記化学式(E1)で表すことができる。下記化学式(E1)において、nは、正の整数であり、例えば、10~15である。
【0050】
【化E1】
【0051】
前記エポキシ化合物(例えば、エポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーの少なくとも一方)は、例えば、多官能エポキシ基含有化合物であっても良い。
【0052】
前記多官能エポキシ基含有化合物は、1分子中にエポキシ基を2以上有するエポキシ化合物であり、1分子中にエポキシ基を3個以上、例えば3個または4個有することが好ましい。1分子中に3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物を用いることにより、例えば、適切な細孔径と強度を合わせ持った多孔性エポキシ樹脂粒子を製造することが可能となる。前記多官能エポキシ基含有化合物は、例えば、芳香族エポキシ化合物であっても非芳香族エポキシ化合物であってもよい。また、前記多官能エポキシ基含有化合物は、例えば、高分子化合物(例えばオリゴマーまたはプレポリマー)であっても、低分子化合物(例えばモノマー)であってもよい。
【0053】
前記芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、スチルベン型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールAノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ化合物、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースなどのポリフェニルベースエポキシ化合物、フルオレン含有エポキシ化合物、トリアジン環含有エポキシ化合物等、複素芳香環を含むエポキシ化合物等が挙げられる。
【0054】
前記芳香族エポキシ化合物は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、フルオレン含有エポキシ化合物、トリグリシジルイソシアヌレートであり、特に好ましくは、エポキシ当量が500以下で、融点が100℃以下である、ビスフェノールA型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、フルオレン含有エポキシ化合物等であっても良い。また、前記芳香族エポキシ化合物は、例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン(前記化学式(1)のシクロヘキサン環をベンゼン環に変えた化合物)等であっても良い。
【0055】
前記非芳香族エポキシ化合物としては、例えば、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ化合物、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂環族グリシジルエステル型エポキシ化合物などが挙げられる。好ましくは脂環族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂環族グリシジルエステル型エポキシ化合物等が挙げられる。特に好ましくは、エポキシ当量が500以下で、融点が100℃以下の脂環族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、または脂環族グリシジルエステル型エポキシ化合物である。
【0056】
また、前記非芳香族エポキシ化合物としては、前述の理由により、1分子中にエポキシ基を3個以上、例えば3~4個有する脂環式エポキシ化合物が好ましい。
【0057】
1分子中に3個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物としては特に限定されず、脂環式の炭化水素基と3個以上のエポキシ基とを有するものを適宜利用することができる。また、より親水性を高めるという観点からは、脂環式エポキシ化合物中に窒素原子を含むことが好ましい。脂環式エポキシ化合物中に窒素原子を含む化合物としては、例えば、下記化学式(A)で表される化合物でも良い。

X-(NY (A)
【0058】
前記化学式(A)中、Xは、式中の窒素原子と直接または炭素数が1~5の直鎖アルキレン基を介して結合する炭素数が3~8の脂環式炭化水素基を表す。Yは、同一であっても異なっても良く、それぞれ、水素原子であるか、または、式中の窒素原子と直接または炭素数が1~5の直鎖アルキレン基を介して結合するエポキシ基である。mは、2、3または4(特に好ましくは2)である。ただし、Yおよびmは、前記化学式(A)中にエポキシ基が3個以上含まれるように選択される。また、各「NY」は、それぞれ同一でも異なっていても良い。
【0059】
前記化学式(A)中のXは、前述のとおり、式中の窒素原子と直接または炭素数が1~5(より好ましくは1~3、さらに好ましくは1)の直鎖アルキレン基を介して結合する炭素数が3~8(より好ましくは4~7、さらに好ましくは5~6)の脂環式炭化水素基である。また、窒素原子と脂環式炭化水素基との間に存在し得る前記直鎖アルキレン基は、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等である。前記直鎖アルキレン基の炭素数は、多孔性粒子の機械的強度低下防止の観点から、前記上限を超えないことが好ましい。このようなXとしては、例えば、下記式(I)~(VI)で表される基が挙げられる。
【0060】
【化I-VI】
【0061】
また、前記化学式(A)中のYは、前述のとおり、式中の窒素原子と直接または炭素数が1~5(より好ましくは1~3、さらに好ましくは1)の直鎖アルキレン基を介して結合するエポキシ基である。前記直鎖アルキレン基は、特に限定されないが、例えば、Xで説明した直鎖アルキレン基と同様である。
【0062】
また、前記化学式(A)中のmは、前述のとおり2、3または4である。架橋反応が不十分とならない観点から、mは2以上が好ましく、立体障害による反応性の低下を引き起こさない観点から、mは4以下が好ましい。また、前記化学式(A)中の各「NY」において、前述のとおり、Yは、同一であっても異なっても良く、それぞれ、水素原子であるか、または、式中の窒素原子と直接または炭素数が1~5の直鎖アルキレン基を介して結合するエポキシ基である。各「NY」において、Yの少なくとも1つ(好ましくは2つとも)が、前記エポキシ基であることが好ましい。前記化学式(A)中のエポキシ基の数は、架橋反応が不十分とならない観点から、少なすぎないことが好ましく、立体障害による反応性の低下を引き起こさない観点から、多すぎないことが好ましい。
【0063】
1分子中に3個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物としては、具体的には、例えば、下記化学式(1A)または(1)で表される化合物が挙げられる。
【0064】
【化1A-1】
【0065】
前記非芳香族エポキシ化合物としては、例えば、後述の実施例の化学式(4)で表される「イソシアヌル酸トリグリシジル」すなわちトリグリシジルイソシアヌレート(2,2,2,-トリ-(2,3-エポキシプロピル)-イソシアヌレート)のように、イソシアヌル環を有する化合物であっても良い。
【0066】
得られる多孔質体に高い親水性を付与できる観点から、多官能エポキシ基含有化合物としては窒素原子を有するものが好ましい。特に多官能アミノ基含有化合物との相溶性や反応性、得られる多孔性エポキシ樹脂粒子の強度の観点から、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンが好ましい。また、高い親水性および原料の汎用性の観点からトリグリシジルイソシアヌレートが好ましい。
【0067】
これらの多官能エポキシ基含有化合物は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0068】
また、前記多孔質体の原料となる多官能エポキシ基含有化合物は、例えば、芳香族アミノ化合物であっても非芳香族アミノ化合物であってもよい。
【0069】
前記芳香族アミノ化合物としては、例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼン等の芳香族アミノ化合物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの芳香族酸無水物、フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、トリアジン環などの複素芳香環を有するアミノ化合物等が挙げられる。好ましくは分子内に一級アミノ基を2以上有する芳香族アミノ化合物であり、特に好ましくは、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンである。
【0070】
前記非芳香族アミノ化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6-トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン等の脂肪族アミノ化合物、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンやこれらの変性物等の脂環式アミノ化合物、その他、ポリアミノ化合物とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミノ化合物等が挙げられる。
【0071】
これらのうち、効率的な架橋反応を達成するという観点から、分子内に1級アミノ基を2個以上有する脂環式アミノ化合物が好ましく、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、およびこれらの変性物からなる群の中から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、中でも、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、後述の実施例の化学式(2)で表されるビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンが特に好ましい。なお、このようなアミンの変性物としては、エポキシ変性物、カルボン酸変性物、尿素変性物、ケトン化合物による変性物、シラン化合物による変性物等の各種変性物が挙げられ、前述のような脂環式アミノ化合物を公知の方法で変性させたものを適宜用いることができる。
【0072】
これらの多官能アミノ基含有化合物は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0073】
[1-2.硬化剤]
本発明の多孔質体は、前述のとおり、エポキシ化合物と硬化剤との共重合体により形成された多孔質体である。前記硬化剤は、特に限定されない。また、前記硬化剤は、1種類のみ用いても複数種類を併用しても良い。
【0074】
本発明の第1の多孔質体は、前述のとおり、1~3級のアミノ基を含まない。この場合において、前記硬化剤が1~3級のアミノ基を含んでいるか、または前記硬化剤が酸処理により4級化する窒素原子を含んでいても、製造される本発明の第1の多孔質体が、1~3級のアミノ基を含まなければよい。
【0075】
本発明の第2の多孔質体は、前述のとおり、酸処理により4級化する窒素原子を含まない。この場合において、前記硬化剤が1~3級のアミノ基を含んでいるか、または前記硬化剤が酸処理により4級化する窒素原子を含んでいても、製造される本発明の第2の多孔質体が、酸処理により4級化する窒素原子を含まなければよい。
【0076】
前記硬化剤としては、例えば、一般的なエポキシ樹脂用の硬化剤を用いることができる。1~3級のアミノ基を含まない硬化剤としては、フェノール化合物、酸無水物、ポリメルカプタン等が挙げられ、特にフェノール化合物が好ましい。
【0077】
エポキシ化合物と、1~3級の窒素原子を含まない硬化剤との共重合体により実際に多孔質体を製造した例は、これまでになかった。本発明者らは、本発明の多孔質体を発明するにあたり、エポキシ化合物とフェノール化合物の組み合わせを種々検討した。その結果、一般的なフェノールノボラック樹脂ではなく水酸基が二個以下の低官能基成分を除去したフェノール樹脂を使用することにより、窒素原子を含まない硬化剤で多孔質構造が形成できることを見出した。ただし、本発明の多孔質体において、前記エポキシ化合物および前記フェノール化合物は、前述のとおり、これらに限定されるものではない。
【0078】
前記硬化剤として用いるフェノール化合物としては、フェノールノボラックタイプ、トリフェニルメタンタイプ、テトラキスフェノールエタンタイプ、キシリレンタイプ、ビフェニレンタイプ、ナフトール/クレゾールタイプ、ジシクロペンタジエンタイプなどがあるが、1分子中にフェノール性水酸基を3個(3官能)以上含むことが好ましい。また、前記フェノール化合物は、1分子中にフェノール性水酸基が2個(2官能)以下であるフェノール化合物を含まないことが好ましい。前記硬化剤において、1分子中に含まれるフェノール性水酸基が多い方が、スピノーダル分解による相分離で共連続構造(多孔構造が連通している孔を有する構造)が形成されやすいためである。
【0079】
前記硬化剤としては、好ましくは、2官能以下の成分を含まないフェノールノボラックタイプ、トリフェニルメタンタイプ、キシリレンタイプ、ビフェニレンタイプ、ナフトール/クレゾールタイプであり、特に好ましくは2官能以下の成分を含まないフェノールノボラックタイプ、トリフェニルメタンタイプである。
【0080】
前記硬化剤は、前述のとおり、2種類以上の併用も可能であり、スピノーダル分解による相分離で共連続構造ができる限りにおいては2官能成分以下の併用も可能である。2官能以下の成分を含まないフェノールノボラックタイプとしてはDL-92(明和化成株式会社の商品名、同社製品のフェノールノボラックタイプH-4からダイマー(2量体)を除いたもの)、MEH-7500(明和化成株式会社の商品名)などが挙げられる。DL-92は、下記化学式(F1)で表すことができる。下記化学式(F1)において、nは、正の整数であり、例えば、3~10程度である。
【0081】
【化F1】
【0082】
[1-3.硬化促進剤]
本発明の多孔質体の製造においては、前記エポキシ化合物および前記硬化剤以外の他の物質を適宜用いてもよいし、用いなくてもよい。なお、本発明の多孔質体の製造方法については、後述する。前記他の物質としては、例えば、硬化促進剤を使用することもできる。硬化促進剤としては特に限定されず、既知のあらゆる化合物を使用することができるが、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の三級アミン、2-フェノール-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェノール-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類などを好適に用いることができる。また、前記硬化促進剤は、1種類のみ用いても複数種類併用してもよい。
【0083】
前記硬化促進剤を使用することで、例えば、反応温度を低下させて前記エポキシ化合物と前記硬化剤との共重合を促進することができる。
【0084】
硬化促進剤としては、前述のとおり、特に限定されず、公知のものが使用できるが、イミダゾールおよびその誘導体、三級アミンとしてDBU、DBNおよびそれらの有機酸との塩が好ましい。イミダゾールおよびその誘導体は、一部が本発明の多孔質体中に残存した場合は、例えば、酸性下での膨潤や付加反応時の阻害要因になるおそれがある。DBUおよびDBNは、そのような問題が生じにくいのでより好ましい。なお、DBUおよびDBNの正式名称および化学構造式は、下記のとおりである。
【0085】
DBU
ジアザビシクロウンデセン
(1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene)
【0086】
【化DBU】
【0087】
DBN
ジアザビシクロノネン
(1,5-diazabicyclo[4.3.0]non-5-ene)
【0088】
【化DBN】
【0089】
[1-4.ポロゲン]
本発明の多孔質体の製造においては、前記エポキシ化合物および前記硬化剤以外の他の物質としては、例えば、ポロゲンを使用することもできる。
【0090】
本発明において、用語「ポロゲン」とは、細孔形成剤としての不活性溶媒または不活性溶媒混合物を指称する。ポロゲンは、重合のある段階で多孔性ポリマーを形成させる重合反応中に存在し、所定の段階でこれを反応混合物中から除去することによって、三次元網目状骨格構造および連通する空隙を有するエポキシ樹脂硬化物多孔体が得られる。
【0091】
本発明において、前記ポロゲンは、例えば、前記多孔性粒子原料および前記硬化剤を溶解させることができ、かつ前記多孔性粒子原料および前記硬化剤が重合した後、反応誘起相分離を生じさせることが可能な溶媒である。前記ポロゲンとしては、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類等が挙げられる。中でも分子量200~20,000程度のポリエチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましく、特に分子量200~20,000程度のポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。前記ポロゲンは、1種類のみ用いても良いし、2種類以上併用しても良い。
【0092】
本発明においては、ポロゲンとして、例えば、水酸基を有し、水酸基価100(mgKOH/g)以上のポリアルキレングリコールまたはポリアルキレングリコール誘導体を使用することが望ましい。水酸基価が100(mgKOH/g)より小さくなると粘度が高くなり、形成されるエポキシ樹脂硬化物多孔体の孔径を大きくすることが困難になったり、エポキシ樹脂硬化物多孔体への親水性の付与効果が低下することがある。エポキシ樹脂硬化物多孔体表面の水酸基量とポロゲンの水酸基当量とは密接な関係にあり、ポロゲンの水酸基価が小さくなるに連れてエポキシ樹脂硬化物表面に現れる水酸基量も減少し、表面の親水性が低下するためと考えられる。また、前記ポロゲンは、エポキシ樹脂製多孔性粒子の合成のみならず、他の材質から形成された多孔性粒子の合成においても同様に用いることができる。
【0093】
前記ポロゲンとしては、前述のとおり、特に限定されないが、例えば、分子量約200のPEGと、より大きな分子量のPEGを併用することが好ましい。特に分子量約200と約10000のPEGを併用することが好ましい。
【0094】
[2.本発明の多孔質体の製造方法]
本発明の多孔質体の製造方法は、前述のとおり、エポキシ化合物と硬化剤とを含む多孔質体原料を、分散媒中に分散させて分散液を調製する分散液調製工程と、前記多孔質体原料を前記分散液中で重合させる重合工程と、を含み、前記重合工程において、スピノーダル分解により前記孔を形成する。前記孔は、例えば、前述のとおり、貫通孔であってもよい。
【0095】
本発明の多孔質体の製造方法は、例えば、前記分散液調製工程において、前記多孔質体原料を、分散剤とともに分散媒中に分散させる。前記分散剤は、例えば、界面活性剤であっても良い。
【0096】
本発明の多孔質体の製造方法において、例えば、前記分散剤が、疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックを含んで形成されたブロックコポリマーであっても良い。なお、以下において、このようなブロックコポリマーを「本発明のブロックコポリマー」ということがある。この場合において、例えば、本発明の多孔質体の製造方法が、さらに、前記分散剤(本発明のブロックコポリマー)を製造する分散剤製造工程を含み、前記分散剤製造工程が、リビングラジカル重合により前記疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックの一方を形成する第1のリビングラジカル重合工程と、前記第1のリビングラジカル重合工程後に、リビングラジカル重合により前記疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックの他方を形成する第2のリビングラジカル重合工程と、を含んでいても良い。なお、前記本発明のブロックコポリマーは、疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックを含んで形成されているから、広義の「界面活性剤」ということができる。
【0097】
本発明の製造方法により、例えば、多孔構造が連通している貫通孔を有する、外形が略球状の、スキン層がない多孔質体を製造することができる。このメカニズムは不明であるが、例えば、前記多孔質体原料と前記分散媒との界面を適切な状態に維持することができるためと推測される。具体的には、例えば、前記界面を適切な状態に維持することによって、前記多孔質体原料を凝集させずに重合することができるため、前記貫通孔を形成できると考えられる。また、例えば、前記多孔質体原料が前記分散媒中に粒子状に分散した状態を維持できるので、略球状の本発明の多孔質体を製造できると考えられる。また、例えば、前記界面において、前記多孔質体原料中の親水性物質または疎水性物質の一方が偏在すると、それが重合等を起こすことにより、スキン層が形成されるおそれがある。このスキン層により、多孔質体表面で貫通孔が塞がれてしまいやすい。しかし、前記界面において、親水性物質と疎水性物質との比を適切な状態に制御することで、スキン層の形成を防止することができる。ただし、このメカニズムは例示であり、本発明をなんら限定しない。
【0098】
前記多孔質体原料と前記分散媒との界面を適切な状態に維持する方法は、特に限定されないが、例えば、前記界面活性剤、または広義の界面活性剤であるブロックコポリマー(分散剤)を用いる方法が挙げられる。また、前記界面活性剤または本発明のブロックコポリマー(分散剤)において、後述するように、疎水性部分と親水性部分の比を適切に制御することが好ましい。また、前記多孔質体原料と前記分散媒との界面を適切な状態に維持する方法として、例えば、前記分散液を物理的に攪拌する方法等も挙げられる。
【0099】
本発明において「スピノーダル分解」は、多成分混合系が共連続構造を形成して相分離(例えば、2成分混合系が2相分離)する現象、または相分離した状態をいう。「スピノーダル分解」は、例えば、2成分混合系を高温度から急冷し不安定状態においた場合におこる2相分離の過程をいう場合もあるが、本発明では、前記急冷した場合に限定されない。すなわち、本発明において、前記スピノーダル分解を起こさせる方法は、特に限定されず、どのような方法でも良い。例えば、前記多孔質体原料が分散媒中に分散され、かつ、前記多孔質体原料と前記分散媒との界面を適切な状態に維持したまま、前記多孔質体原料を重合または架橋させることで、スピノーダル分解が生じてその構造が固定されると考えられる。前記多孔質体原料と前記分散媒との界面を適切な状態に維持する方法は、例えば、前述のとおりである。
【0100】
以下、本発明の多孔質体の製造方法について、例を挙げて、より具体的に説明する。
【0101】
[2-1.分散液]
本発明の製造方法では、まず、エポキシ化合物と硬化剤とを含む多孔質体原料を、分散媒中に分散させて分散液を調製する(分散液調製工程)。前記エポキシ化合物は、特に限定されないが、例えば、前述の各エポキシ化合物が挙げられる。前記エポキシ化合物は、製造しようとする多孔質体の形成材料(例えば、エポキシ樹脂)の原料である。前記エポキシ化合物としては、例えば、前記多孔質体の形成材料に対応したエポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーの少なくとも一方を用いることができる。前記エポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーは、1種類のみ用いても2種類以上併用しても良い。前記エポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーとしては、例えば、前述のとおり、三菱ガス化学工業株式会社の商品名「テトラッド-C」、および日産化学株式会社の商品名「テピック」、三菱化学株式会社の商品名「エピコート828」等が挙げられる。
【0102】
前記エポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーは、例えば、多官能エポキシ基含有化合物であっても良い。また、前記エポキシ樹脂は、例えば、前記エポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーと、硬化剤とを重合させたものでも良い。前記硬化剤は、例えば、多官能アミノ基含有化合物であっても良い。すなわち、前記エポキシ樹脂は、例えば、多官能エポキシ基含有化合物と多官能アミノ基含有化合物との重合体であっても良い。また、前記エポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーは、1種類のみ用いても複数種類を併用しても良く、前記硬化剤は、1種類のみ用いても複数種類を併用しても良い。
【0103】
前記多官能エポキシ基含有化合物は、1分子中にエポキシ基を2以上有するエポキシ化合物であり、1分子中にエポキシ基を3個以上、例えば3個または4個有することが好ましい。1分子中に3個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物を用いることにより、例えば、適切な細孔径と強度を合わせ持った多孔性エポキシ樹脂粒子を製造することが可能となる。前記多官能エポキシ基含有化合物は、例えば、芳香族エポキシ化合物であっても非芳香族エポキシ化合物であってもよい。また、前記多官能エポキシ基含有化合物は、例えば、高分子化合物(例えばオリゴマーまたはプレポリマー)であっても、低分子化合物(例えばモノマー)であってもよい。
【0104】
前記芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、スチルベン型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールAノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ化合物、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースなどのポリフェニルベースエポキシ化合物、フルオレン含有エポキシ化合物、トリアジン環含有エポキシ化合物等、複素芳香環を含むエポキシ化合物等が挙げられる。
【0105】
前記芳香族エポキシ化合物は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、フルオレン含有エポキシ化合物、トリグリシジルイソシアヌレートであり、特に好ましくは、エポキシ当量が500以下で、融点が100℃以下である、ビスフェノールA型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、フルオレン含有エポキシ化合物等であっても良い。また、前記芳香族エポキシ化合物は、例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン(後述の化学式(1)のシクロヘキサン環をベンゼン環に変えた化合物)等であっても良い。
【0106】
前記非芳香族エポキシ化合物としては、例えば、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ化合物、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂環族グリシジルエステル型エポキシ化合物などが挙げられる。好ましくは脂環族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂環族グリシジルエステル型エポキシ化合物等が挙げられる。特に好ましくは、エポキシ当量が500以下で、融点が100℃以下の脂環族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、または脂環族グリシジルエステル型エポキシ化合物である。
【0107】
また、前記非芳香族エポキシ化合物としては、前述の理由により、1分子中にエポキシ基を3個以上、例えば3~4個有する脂環式エポキシ化合物が好ましい。
【0108】
1分子中に3個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物としては特に限定されず、脂環式の炭化水素基と3個以上のエポキシ基とを有するものを適宜利用することができる。また、より親水性を高めるという観点からは、脂環式エポキシ化合物中に窒素原子を含むことが好ましい。脂環式エポキシ化合物中に窒素原子を含む化合物としては、例えば、下記化学式(A)で表される化合物でも良い。

X-(NY (A)
【0109】
前記化学式(A)中、Xは、式中の窒素原子と直接または炭素数が1~5の直鎖アルキレン基を介して結合する炭素数が3~8の脂環式炭化水素基を表す。Yは、同一であっても異なっても良く、それぞれ、水素原子であるか、または、式中の窒素原子と直接または炭素数が1~5の直鎖アルキレン基を介して結合するエポキシ基である。mは、2、3または4(特に好ましくは2)である。ただし、Yおよびmは、前記化学式(A)中にエポキシ基が3個以上含まれるように選択される。また、各「NY」は、それぞれ同一でも異なっていても良い。
【0110】
前記化学式(A)中のXは、前述のとおり、式中の窒素原子と直接または炭素数が1~5(より好ましくは1~3、さらに好ましくは1)の直鎖アルキレン基を介して結合する炭素数が3~8(より好ましくは4~7、さらに好ましくは5~6)の脂環式炭化水素基である。また、窒素原子と脂環式炭化水素基との間に存在し得る前記直鎖アルキレン基は、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等である。前記直鎖アルキレン基の炭素数は、多孔質体の機械的強度低下防止の観点から、前記上限を超えないことが好ましい。このようなXとしては、例えば、下記式(I)~(VI)で表される基が挙げられる。
【0111】
【化I-VI】
【0112】
また、前記化学式(A)中のYは、前述のとおり、式中の窒素原子と直接または炭素数が1~5(より好ましくは1~3、さらに好ましくは1)の直鎖アルキレン基を介して結合するエポキシ基である。前記直鎖アルキレン基は、特に限定されないが、例えば、Xで説明した直鎖アルキレン基と同様である。
【0113】
また、前記化学式(A)中のmは、前述のとおり、例えば、2、3または4である。架橋反応が不十分とならない観点から、mは2以上が好ましく、立体障害による反応性の低下を引き起こさない観点から、mは4以下が好ましい。また、前記化学式(A)中の各「NY」において、前述のとおり、Yは、同一であっても異なっても良く、それぞれ、水素原子であるか、または、式中の窒素原子と直接または炭素数が1~5の直鎖アルキレン基を介して結合するエポキシ基である。各「NY」において、Yの少なくとも1つ(好ましくは2つとも)が、前記エポキシ基であることが好ましい。前記化学式(A)中のエポキシ基の数は、架橋反応が不十分とならない観点から、少なすぎないことが好ましく、立体障害による反応性の低下を引き起こさない観点から、多すぎないことが好ましい。
【0114】
1分子中に3個以上のエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物としては、具体的には、例えば、下記化学式(1A)または(1)で表される化合物が挙げられる。
【0115】
【化1A-1】
【0116】
前記非芳香族エポキシ化合物としては、例えば、後述の実施例の化学式(4)で表される「イソシアヌル酸トリグリシジル」すなわちトリグリシジルイソシアヌレート(2,2,2,-トリ-(2,3-エポキシプロピル)-イソシアヌレート)のように、イソシアヌル環を有する化合物であっても良い。
【0117】
得られる本発明の多孔質体(例えば、多孔性エポキシ樹脂粒子)に高い親水性を付与できる観点から、多官能エポキシ基含有化合物としては窒素原子を有するものが好ましい。特に多官能アミノ基含有化合物との相溶性や反応性、得られる多孔性エポキシ樹脂粒子の強度の観点から、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンが好ましい。また、高い親水性および原料の汎用性の観点からトリグリシジルイソシアヌレートが好ましい。
【0118】
これらの多官能エポキシ基含有化合物は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0119】
また、本発明の多孔質体(例えば、前記多孔性エポキシ樹脂粒子)の原料となる多官能エポキシ基含有化合物は、例えば、芳香族アミノ化合物であっても非芳香族アミノ化合物であってもよい。
【0120】
前記芳香族アミノ化合物としては、例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼン等の芳香族アミノ化合物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの芳香族酸無水物、フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、トリアジン環などの複素芳香環を有するアミノ化合物等が挙げられる。好ましくは分子内に一級アミノ基を2以上有する芳香族アミノ化合物であり、特に好ましくは、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンである。
【0121】
前記非芳香族アミノ化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6-トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン等の脂肪族アミノ化合物、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンやこれらの変性物等の脂環式アミノ化合物、その他、ポリアミノ化合物とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミノ化合物等が挙げられる。
【0122】
これらのうち、効率的な架橋反応を達成するという観点から、分子内に1級アミノ基を2個以上有する脂環式アミノ化合物が好ましく、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、およびこれらの変性物からなる群の中から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、中でも、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、後述の実施例の化学式(2)で表されるビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンが特に好ましい。なお、このようなアミンの変性物としては、エポキシ変性物、カルボン酸変性物、尿素変性物、ケトン化合物による変性物、シラン化合物による変性物等の各種変性物が挙げられ、前述のような脂環式アミノ化合物を公知の方法で変性させたものを適宜用いることができる。
【0123】
これらの多官能アミノ基含有化合物は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0124】
また、前記多孔質体原料は、例えば、エポキシ化合物以外のモノマーおよびプレポリマーの少なくとも一方を含んでいてもよい。エポキシモノマーおよびエポキシプレポリマー以外のモノマーまたはプレポリマーの例としては、例えば、スチレン、エチルスチレン、メチルスチレン、ヒドロキシスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体などの芳香族モノビニル化合物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリロニトリルのようなニトリル類;グリシジル(メタ)アクリレート、4,5-エポキシブチル(メタ)アクリレート、9,10-エポキシステアリル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有化合物;その他のビニルエステル類、ビニルエーテル類等のモノビニル単量体が挙げられる。本発明の多孔質体は、例えば、前記多孔質体原料の1種または2種以上を(共)重合物した後、得られた(共)重合物に対してエピクロルヒドリン、(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテル、アルキレンジイソシアネート等の架橋剤を用いて架橋構造を導入することにより多孔質架橋粒子としたものや、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等の芳香族ポリビニル化合物、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、グリセロールジ(メタ)アクリル酸エステル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリカルボン酸ポリビニルエステル類、ポリカルボン酸ポリアリルエステル類、ポリオールポリビニルエーテル類、ポリオールポリアリルエーテル類、ブタジエン、メチレンビスアクリルアミド、イソシアヌル酸トリアリル等のポリビニル化合物の1種または2種以上を(共)重合させたもの、もしくはこのようなポリビニル化合物の1種または2種以上と、上述のモノビニル単量体の1種または2種以上とを共重合して得られる多孔質架橋粒子などであっても良い。工業的な生産性の観点からは、ポリビニル化合物の1種または2種以上とモノビニル単量体の1種または2種以上を共重合させたものが好ましい。
【0125】
前記分散媒としては、特に限定されないが、有機溶媒および水が挙げられ、単独で用いても二種類以上併用しても良い。前記有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、イソデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジグライム、トリグライム、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルトリエチレングリコール、メチルジプロピレングリコール、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶剤;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルシクロプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノンなどのケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、カプロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤;クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、カプロラクタムなどのアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチル、炭酸エチル、ニトロメタン、アセトニトリル、ニトロベンゼン、ジオクチルフタレートなどが挙げられ、1種類のみ用いても2種類以上併用しても良い。
【0126】
前記分散液中において、前記多孔質体原料の濃度は、特に限定されないが、前記分散媒に対し、例えば0.01~10,000g/L、1~5,000g/L、または5~3,000g/Lである。
【0127】
また、本発明の多孔質体の製造方法は、例えば、前記分散液調製工程において、前記多孔質体原料を、分散剤とともに分散媒中に分散させても良い。前記分散剤の濃度は、特に限定されないが、前記分散媒に対し、例えば1~500g/L、2~300g/L、または3~250g/Lである。
【0128】
前記分散剤は、例えば、界面活性剤であっても良い。前記界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、親水性ブロックと疎水性ブロックからなるブロックコポリマー、例えばポリアクリル酸ブロックとポリアクリルエステルブロックからなるブロックコポリマー、ポリオキシエチレンブロックとポリアクリルエステルブロックからなるブロックコポリマー、ポリオキシエチレンブロックとポリオキシプロピレンブロックからなるブロックコポリマー、等が挙げられる。
【0129】
アニオン界面活性剤としては、脂肪酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩、脂肪アルコールのリン酸エステル塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ホルマリン縮合ナフタレンスルホン酸塩等が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、アルキル1級アミン塩、アルキル2級アミン塩、アルキル3級アミン塩、アルキル4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類等が挙げられる。高分子界面活性剤としては、部分ケン化ポリビニルアルコール、澱粉、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、部分ケン化ポリメタクリル酸塩等が例示される。
【0130】
用いる界面活性剤を選択することにより、得られる多孔性エポキシ樹脂粒子の平均粒径や粒度分布、粒子の凝集状態を制御することができ、例えば、アニオン界面活性剤やカチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤を用いることにより、平均粒径を小さく且つ粒度分布を狭くすることができる。また、高分子界面活性剤を用いることにより平均粒径を大きくすると共に、粒子の凝集を抑制することができる。なかでも、界面活性剤として、親水性ブロックと疎水性ブロックからなるブロックコポリマーを用いる場合には、少量の添加で乳化できることから、重合反応時の溶液の粘度を低く保つことができるため撹拌が容易となり好ましい。
【0131】
これらの界面活性剤は、1種類のみ用いても良く、2種類以上併用しても良い。
【0132】
また、例えば、前記分散剤が、疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックを含んで形成されたブロックコポリマーであっても良い。この場合において、例えば、本発明の多孔質体の製造方法が、さらに、前記分散剤を製造する分散剤製造工程を含み、前記分散剤製造工程が、リビングラジカル重合により前記疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックの一方を形成する第1のリビングラジカル重合工程と、前記第1のリビングラジカル重合工程後に、リビングラジカル重合により前記疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックの他方を形成する第2のリビングラジカル重合工程と、を含んでいても良い。なお、前記ブロックコポリマー(分散剤)および前記分散剤製造工程については、後述の[2-2.ブロックコポリマー(分散剤)および分散剤製造工程]において詳しく説明する。
【0133】
また、前記分散液調製工程において、前記分散液中に、前記多孔質体原料および前記分散剤以外の他の成分を含有させても良い。前記他の成分は、特に限定されないが、例えば、本来の分散に影響を生じない範囲でノニオン活性剤以外の他の界面活性剤、消泡剤等が挙げられる。
【0134】
[2-2.ブロックコポリマー(分散剤)および分散剤製造工程]
以下において、前記ブロックコポリマー(分散剤)および前記分散剤製造工程について詳しく説明する。
【0135】
まず、前記ブロックコポリマーは、疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックを含んで形成されているから、前述のとおり、広義の「界面活性剤」ということができる。また、前記ブロックコポリマーおよび前記分散剤製造工程は、例えば、特開2015-83688号公報の記載と同様もしくはそれに準じても良いし、または、それを参考にしても良い。具体的には、例えば、以下のとおりである。
【0136】
前記ブロックコポリマーは、例えば、前記疎水性ポリマーブロック(以下、単に「疎水性ブロック」または「疎水性ブロックA」または「Aブロック」ということがある。)-前記親水性ポリマーブロック(以下、単に「親水性ブロック」または「親水性ブロックB」または「Bブロック」ということがある。)からなるジブロックコポリマーであっても良い。前記ブロックコポリマーは、例えば、有機ヨウ化物を重合開始化合物とし、有機リン化合物、有機窒素化合物または有機酸素化合物を触媒として、ラジカル発生剤を用いて付加重合性モノマーを重合して得られたブロックコポリマーであっても良い。
【0137】
前記ブロックコポリマー分子中において、前記Aブロック(疎水性ブロック)の含有率は、例えば、5~95質量%、10~90質量%、15~85質量%、または20~80質量%である。また、前記ブロックコポリマー分子中において、前記Bブロック(親水性ブロック)の含有率は、例えば、5~95質量%、10~90質量%、15~85質量%、または20~80質量%である。
【0138】
また、前記Aブロック(疎水性ブロック)の原料である疎水性モノマーは、例えば、疎水基を有する(メタ)アクリレート((メタ)アクリス酸エステル)、疎水基を有するビニル化合物、疎水基を有するアリル化合物、等が挙げられる。前記Bブロック(親水性ブロック)の原料である親水性モノマーは、例えば、親水基を有する(メタ)アクリレート((メタ)アクリス酸エステル)、親水基を有するビニル化合物、親水基を有するアリル化合物、等が挙げられる。例えば、前記疎水性モノマーがラウリル(メタ)アクリレートを含み、かつ、親水性モノマーがポリエチレングリコールメタクリレートを含んでいても良い。
【0139】
前記分散剤(ブロックコポリマー)は、前述のとおり、疎水性ポリマーブロックAおよび親水性ポリマーブロックBを含んで形成されたジブロックの構造で(以下「A-Bジブロックポリマー」という場合がある。)ある。例えば、前記分散液調製工程において、前記分散剤(ブロックコポリマー)を、前記多孔質体原料(モノマーおよびプレポリマーの少なくとも一方を含む)とともに前記分散媒中に分散させる。前記多孔質体原料が前記分散媒に対し相対的に親水性が高い場合、例えば、親水性ポリマーブロックBが前記多孔質体原料に吸着し、前記多孔質体原料が凝集してできた粒子の表面を、疎水性ポリマーブロックAが被覆する。これにより、疎水性ポリマーブロックAが、疎水性の前記分散媒に向き合う形となる。逆に、前記多孔質体原料が前記分散媒に対し相対的に疎水性が高い場合、例えば、疎水性ポリマーブロックAが前記多孔質体原料に吸着し、前記多孔質体原料が凝集してできた粒子の表面を、親水性ポリマーブロックBが被覆する。これにより、親水性ポリマーブロックBが、親水性の前記分散媒に向き合う形となる。このようにして、前記多孔質体原料が前記分散媒中に粒子状に分散した状態とすることができる。この状態は、例えば、前記多孔質体原料が前記分散媒中に乳化(懸濁)した状態ということもできる。これにより、例えば、重合前および重合後の前記分散液の分散安定性や保存安定性を向上させることもできる。
【0140】
なお、前記多孔質体原料(モノマーおよびプレポリマーの少なくとも一方を含む)については前述のとおりであるが、例えば、前記多孔性原料が、ラジカル重合性あるいは熱硬化性のモノマーおよびプレポリマーの少なくとも一方を含んでいても良い。また、前記モノマーおよびプレポリマーは、例えば、親水性のモノマーおよびプレポリマーであっても良い。
【0141】
つぎに、前記ブロックコポリマー(分散剤)の製造方法は、例えば、前述のとおり、有機ヨウ化物を重合開始化合物とし、有機リン化合物、有機窒素化合物または有機酸素化合物を触媒として、ラジカル発生剤を用いて付加重合性モノマー(疎水性モノマーおよび親水性モノマー)を重合する製造方法であっても良い。このような製造方法は、例えば、特開2015-83688号公報に記載されている。この製造方法によれば、重金属、臭気、着色、コストなどの問題がない。具体的には、例えば、下記(1)~(6)の利点がある。

(1)重金属化合物を使用しない;ATRP法やDT法のような重金属化合物を使用しない。
(2)精製が必須ではない;ATRP法やDT法は重金属、RAFT法やMADIX法は硫黄化合物の除去が必要である。
(3)特殊で高価な化合物を必要とせず、市場にある比較的安価な材料が使用でき、よって低コストである;他のリビングラジカル重合方法では特別な化合物が必要である。
(4)重合条件が温和で、従来のラジカル重合方法と同様の条件で重合を行うことができる;NMP法では高温が必要であり、ATRP法では酸素の除去が必要である。
(5)使用するモノマーや溶媒なども精製する必要がなく、様々なモノマーが使用でき、酸基、アミノ基などの様々な官能基を有するモノマーを使用することが可能で、ポリマーブロックに様々な官能基を導入することができる;特にATRP法では酸基がその触媒毒となり、酸基をそのまま使用することはできない。NMP法ではメタクリレートはうまく重合しない。
(6)分子量と構造が制御でき、所望の結合状態のブロックポリマーが容易に得られ、かつ重合率も非常によい。
【0142】
なお、前記説明は例示であって、本発明において、前記ブロックコポリマー(分散剤)の製造方法は、特に限定されない。すなわち、前記ブロックコポリマー(分散剤)の製造方法は、特開2015-83688号公報に記載の方法のみには限定されず、どのような製造方法でも良い。
【0143】
前記Aブロックを形成する疎水性モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-メチルプロパン(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、べへニル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、2,2,4-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート、シクロデシルメチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、t-ブチルベンゾトリアゾールフェニルエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレートなどの脂肪族、脂環族、芳香族アルキル(メタ)アクリレート等が挙げられ、特にラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル基の長いものが好ましい。前記疎水性モノマーは、1種類のみ用いても良いが、複数種類併用しても良い。
【0144】
Bブロックを構成する親水性モノマーは、特に限定されないが、例えば、ポリグリコール基を有するモノマーが挙げられ、より具体的には、例えば、ポリ(n=2以上)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(n=2以上)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(n=2以上)テトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、モノまたはポリ(n=2以上)エチレングリコールモノまたはポリ(n=2以上)プロピレングリコールランダムコポリマーのモノ(メタ)アクリレート、モノまたはポリ(n=2以上)エチレングリコールモノまたはポリ(n=2以上)プロピレングリコールブロックコポリマーのモノ(メタ)アクリレート、などのポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、さらには(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノオクチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノラウリルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノステアリルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノオレイルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノステアリン酸エステル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノノニルフェニルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノオクチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノラウリルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレートなどの(ポリアルキレン)グリコールモノアルキル、アルキレン、アルキンエーテルまたはエステルのモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、特にポリ(n=6以上)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが望ましい。なお、前記nは、前記ポリグリコール基における重合度を表す。また、前記親水性モノマーは、1種類のみ用いても複数種類併用しても良い。
【0145】
また、前記ブロックコポリマー(分散剤)は、前記疎水性ポリマーブロックA(Aブロック)および親水性ポリマーブロックB(Bブロック)のみから形成されていても良いが、それ以外の構成要素を含んで(共重合されて)いても良い。前記AブロックおよびBブロックの基本的性質を変えない範囲で共重合し得るモノマーとしては、従来公知のモノマーが挙げられ、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ビニルヒドロキシベンゼン、クロロメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、ビニルエチルベンゼン、ビニルジメチルベンゼン、α-メチルスチレン、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブテン、ブタジエン、1-ヘキセン、シクロヘキセン、シクロデセン、ジクロロエチレン、クロロエチレン、フロロエチレン、テトラフロロエチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、イソシアナトジメチルメタンイソプロペニルベンゼン、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、ヒドロキシメチルスチレンなどのビニル系モノマー、水酸基を含有するモノマーとして、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシへキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレートなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル、さらには、その他のモノマーとしては、(メタ)アクリロイロキシエチルモノまたはポリ(n=2以上)カプロラクトンなどの前記した(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、ε-カプロラクトンやγ-ブチロラクトンなどのラクトン類を開環重合して得られるポリエステル系モノ(メタ)アクリル酸エステル;2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタレートや2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルスクシネートなどの前記した(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルに2塩基酸を反応させてハーフエステル化したのち、もう一方のカルボキシル基にアルコール、アルキレングリコールを反応させたエステル系(メタ)アクリレート;グリセロールモノ(メタ)アクリレートやジメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレートなどの3個以上の水酸基をもつ多官能水酸基化合物のモノ(メタ)アクリレート;3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロオクチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロエチル(メタ)アクリレートなどのハロゲン元素含有(メタ)アクリレート;2-(4-ベンゾキシ-3-ヒドロキシフェノキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5-(メタ)アクリロイロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールの如き紫外線を吸収するモノマー、特にこのモノマーは色素の耐光性を向上させるのに共重合するとよい;エチル-α-ヒドロキシメチルアクリレートなどのα位水酸基メチル置換アクリレート類などが挙げられる。
【0146】
前記ブロックコポリマー(分散剤)の分子量は、特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下GPC)におけるスチレン換算の数平均分子量(以下数平均分子量はGPCのスチレン換算を言い、単に分子量という)で、例えば1,000以上、1,500以上、2,000以上または3,000以上であり、例えば300,000以下、100,000以下、または50,000以下である。前記分子量の範囲は、例えば、1,000~300,000、好ましくは1,500~100,000、さらに好ましくは2,000~50,000、さらに好ましくは3,000~50,000である。前記多孔質体原料の、前記分散媒中への分散安定性の観点からは、前記ブロックコポリマー(分散剤)の分子量が1,000以上であることが好ましい。また、前記ブロックコポリマー(分散剤)の、前記分散媒に対する溶解性の観点からは、前記ブロックコポリマー(分散剤)の分子量が300,000以下であることが好ましい。前記ブロックコポリマー(分散剤)の分子量が大きすぎると分散媒中での分散剤同士の凝集や分子間の絡まりが強くなりすぎて前記多孔質体原料の分散が出来ないおそれがある。
【0147】
前記ブロックコポリマー(分散剤)における、重量平均分子量と数平均分子量の比である分散度(以下PDIと称す)は、特に限定されない。リビングラジカル重合では非常に小さいPDI(~1.3)の高分子分散剤とすることができるが、本発明では前記ブロックコポリマー(分散剤)が前記したブロック構造をとることが重要であるので、PDIは大きくは関与しない。しかし、あまりに広いPDIであると、前記ブロックコポリマー(分散剤)が、分子量の大きいポリマーから分子量の小さいポリマーまで含むことになり、前記した分子量範囲以外の現象が起こる可能性があり好ましくない。本発明で用いる前記ブロックコポリマー(分散剤)では、PDIは好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.8以下である。
【0148】
つぎに、前記ブロックコポリマー(分散剤)中における疎水性ブロックと親水性ブロックの質量比は、特に限定されないが、例えば、前述のとおりである。この疎水性ブロックと親水性ブロックの質量比を適切に制御することで、例えば、本発明の多孔質体の製造方法において、前記多孔質体原料と前記分散媒との界面を適切な状態に維持することができる。これによって、例えば、前記多孔質体原料が前記分散媒中に粒子状に分散した状態を維持できるので、略球状の本発明の多孔質体を製造できる。また、例えば、前記疎水性ブロックと親水性ブロックの質量比を適切に制御することで、前記多孔質体原料と前記分散媒との界面において、親水性物質と疎水性物質との比を適切な状態に制御することができる。例えば、前記界面において、親水性物質または疎水性物質の一方が偏在すると、それが重合等を起こすことにより、スキン層が形成されるおそれがある。このスキン層により、多孔質体表面で貫通孔が塞がれてしまいやすい。しかし、前記界面において、親水性物質と疎水性物質との比を適切な状態に制御することで、スキン層の形成を防止することができる。ただし、これらの説明は例示であって、本発明を限定しない。
【0149】
つぎに本発明で用いる前記ブロックコポリマー(分散剤)を得る重合方法(製造方法)について説明する。この重合方法は、特に限定されないが、例えば、前述のとおり、有機ヨウ化物を重合開始化合物とし、有機リン化合物、有機窒素化合物または有機酸素化合物を触媒として、ラジカル発生剤を用いて付加重合性モノマー(疎水性モノマーおよび親水性モノマー)を重合する方法であっても良い。この重合方法は、金属化合物やリガンドを使用せず、ニトロキサイド、ジチオカルボン酸エステルやザンテートなどの特殊な化合物を使用しなくてもよく、従来の付加重合性モノマーとラジカル発生剤である重合開始剤を使用するラジカル重合に、有機ヨウ化物である開始化合物と触媒を併用するだけで、容易に行えるリビングラジカル重合である。
【0150】
上記重合方法は、下記一般反応式1で表される反応機構で進み、ドーマント種Polymer-X(P-X)の成長ラジカルへの可逆的活性反応であると考えられる。この重合機構は触媒の種類によって変わる可能性があるが、つぎのように進むと考えられる。下記式1では、重合開始剤から発生したP・がXAと反応して、in siteで触媒A・が生成する。A・はP-Xの活性化剤として作用して、この触媒作用によってP-Xは高い頻度で活性化する。
【0151】
【数1】
【0152】
さらに詳しくは、ヨウ素(X)が結合した開始化合物の存在下、重合開始剤から生じるラジカルが、触媒の活性水素や活性ハロゲン原子を引き抜き、触媒ラジカルA・となる。ついでそのA・が開始化合物のXを引き抜きXAとなり、その開始化合物がラジカルとなって、そのラジカルにモノマーが重合し、すぐにXAからXを引き抜き、停止反応を防止する。さらに熱などによってA・が末端XからXを引き抜きXAと末端ラジカルとなってそこにモノマーが反応して、すぐに末端ラジカルにXを与え安定化させる。この繰り返しで重合が進行して分子量や構造の制御ができる。但し、場合によっては、副反応として、二分子停止反応や不均化を伴うことがある。
【0153】
前記リビングラジカル重合を開始させる開始化合物は、従来公知の有機ヨウ化物であって特に限定されない。具体的に例示すると、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化イソプロピル、ヨウ化ブチル、ヨウ化t-ブチル;アイオドフェニルメタン、アイオドジフェニルメタン、アイオドトリフェニルメタン、2-アイオド-1-フェニルエタン、1-アイオド-1-フェニルエタン、1-アイオド-1,1-ジフェニルエタン、ジヨードメタンなどのアルキルヨウ化物;アイオドジクロロメタン、アイオドクロロメタン、アイオドトリクロロメタン、アイオドジブロモメタンなどのヨウ素原子を含む有機ハロゲン化物;1-アイオドエタノール、1-アイオドプロパノール、2-アイオドプロパノール、2-アイオド-2-プロパノール、2-アイオド-2-メチルプロパノール、2-フェニル-1-アイオドエタノール、2-フェニル-2-アイオドエタノールなどのヨウ化アルコール;それらのヨウ化アルコールを酢酸、酪酸、フマル酸などのカルボン酸化合物とのエステル化合物;アイオド酢酸、α-アイオドプロピオン酸、α-アイオド酪酸、α-アイオドイソ酪酸、α-アイオド吉草酸、α-アイオドイソ吉草酸、α-アイオドカプロン酸、α-アイオドフェニル酢酸、α-アイオドジフェニル酢酸、α-アイオド-α-フェニルプロピオン酸、α-アイオド-β-フェニルプロピオン酸、β-アイオドプロピオン酸、β-アイオド酪酸、β-アイオドイソ酪酸、β-アイオド吉草酸、β-アイオドイソ吉草酸、β-アイオドカプロン酸、β-アイオドフェニル酢酸、β-アイオドジフェニル酢酸、β-アイオド-α-フェニルプロピオン酸、β-アイオド-β-フェニルプロピオン酸などのヨウ化カルボン酸;それらヨウ化カルボン酸のメタノール、エタノール、フェノール、ベンジルアルコール、さらには前記したヨウ化アルコールなどとのエステル化物;それらのヨウ化カルボン酸の酸無水物;それらのヨウ化カルボン酸のクロライド、ブロマイドなどの酸無水物;ヨードアセトニトリル、2-シアノ-2-アイオドプロパン、2-シアノ-2-アイオドブタン、1-シアノ-1-アイオドシクロヘキサン、2-シアノ-2-アイオドバレロニトリルなどのシアノ基含有ヨウ化物などが挙げられる。また、ヨウ素を2つもつ2官能開始化合物も使用でき、例えば、1,2-ジアイオドエタン、1,2-ジアイオドテトラフロロエタン、1,2-ジアイオドテトラクロロエタン、1,2-ジアイオド-1-フェニルエタン、前記したα-アイオドイソ酪酸などのヨウ化カルボン酸とエチレングリコールなどのジオール、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミンとの反応物などが挙げられる。なお、「アイオド」は「ヨード」と同義であり、ヨウ化物を表す。以下において同様である。また、前記開始化合物は、1種類のみ用いても2種類以上併用しても良い。
【0154】
また、これらの化合物は、例えば、市販品をそのまま使用しても良いし、従来公知の方法で得ることもできる。例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物とヨウ素の反応によって得られるし、または前記した有機ヨウ化物のヨウ素の代わりにブロマイド、クロライドなどの他のハロゲン原子が置換した有機ハロゲン化物を、第4級アンモニウムアイオダイドやヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物塩を使用しハロゲン交換反応させて本発明で用いる有機ヨウ化物を得ることができる。それらは特に限定されない。
【0155】
前記触媒としては、例えば、前記開始化合物のヨウ素原子を引き抜き、ラジカルとなる有機リン化合物、有機窒素化合物、または有機酸素化合物であって、好ましくは、ヨウ素原子を含むハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート系化合物である有機リン化合物、またはイミド系化合物、ヒダントイン系化合物である有機窒素化合物、またはフェノール系化合物、アイオドオキシフェニル化合物、ビタミン類である有機酸素化合物の1種以上から選ばれる。これらの化合物は特に限定されないが、具体的に例示すると、リン化合物では、ヨウ素原子を含むハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート系化合物であり、例えば、ジクロロアイオドリン、ジブロモアイオドリン、三ヨウ化リン、ジメチルフォスファイト、ジエチルフォスファイト、ジブチルフォスファイト、ジパーフロロエチルフォスフィネート、ジフェニルフォスファイト、ジベンジルフォスファイト、ビス(2-エチルヘキシル)フォスファイト、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)フォスファイト、ジアリルフォスファイト、エチレンフォスファイト、エトキシフェニルフォスフィネート、フェニルフェノキシフォスフィネート、エトキシメチルフォスフィネート、フェノキシメチルフォスフィネートなどが挙げられる。窒素化合物ではイミド系化合物、ヒダントイン系化合物であり、例えば、スクシンイミド、2,2-ジメチルスクシンイミド、α,α-ジメチル-β-メチルスクシンイミド、3-エチル-3-メチル-2,5-ピロリジンジオン、シス-1,2,3,6-テトラヒドロフタルイミド、α-メチル-α-プロピルスクシンイミド、5-メチルヘキサヒドロイソインドール-1,3-ジオン、2-フェニルスクシンイミド、α-メチル-α-フェニルスクシンイミド、2,3-ジアセトキシスクシンイミド、マレイミド、フタルイミド、4-メチルフタルイミド、N-クロロフタルイミド、N-ブロモフタルイミド、N-ブロモフタルイミド、4-ニトロフタルイミド、2,3-ナフタレンカルボキシイミド、ピロメリットジイミド、5-ブロモイソインドール-1,3-ジオン、N-クロロスクシンイミド、N-ブロモスクシンイミド、N-アイオドスクシンイミド、ヒダントイン、ジアイオドヒダントインなどが挙げられる。酸素化合物としては、芳香環に水酸基を有するフェノール性水酸基であるフェノール系化合物、そのフェノール性水酸基のヨウ素化物であるアイオドオキシフェニル化合物、ビタミン類であり、例えば、フェノール類としてフェノール、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、t-ブチルフェノール、t-ブチルメチルフェノール、カテコール、レソルシノール、ジ-t-ブチルヒドロキシトルエン、ジメチルフェノール、トリメチルフェノール、ジ-t-ブチルメトキシフェノール、ヒドロキシスチレンを重合したポリマーまたはそのヒドロキシフェニル基担持ポリマー微粒子などが挙げられる。これらはモノマーの保存として重合禁止剤として添加されているので、市販品のモノマーを精製せずそのまま使用することで効果を発揮することもできる。アイオドオキシフェニル化合物としてはチモールジアイオダイドなどが挙げられ、ビタミン類としてはビタミンC、ビタミンEなどが挙げられる。
【0156】
前記触媒の量としては、特に限定されないが、例えば、前記重合開始剤のモル数未満である。前記触媒のモル数が多すぎると、重合が制御されすぎて重合が進行しないおそれがある。
【0157】
つぎに、本発明で使用される重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、通常用いられている有機過酸化物やアゾ化合物等の、従来公知の重合開始剤を使用することができる。具体例としては、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシル-3,3-イソプロピルヒドロパーオキシド、t-ブチルヒドロパーオキシド、ジクミルヒドロパーオキシド、アセチルパーオキシド、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、イソブチルパーオキシド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソブチレート)、2,2’-アゾビス(メトキシジメチルバレロニトリル)などが挙げられ、1種類のみ用いても2種類以上併用しても良い。
【0158】
前記重合開始剤の使用量は特に限定されないが、例えば、モノマーモル数に対して0.001~0.1モル倍、さらに好ましくは0.002~0.05モル倍である。前記重合開始剤の使用量があまりに少ないと重合が不十分になる恐れがあり、また、多すぎると付加重合モノマーだけのポリマーができてしまう恐れがある。
【0159】
以上のとおり、有機ヨウ化物である開始化合物、付加重合性モノマー、重合開始剤および触媒を少なくとも使用して重合することによって、本発明で用いる前記ブロックコポリマー(分散剤)を得ることができる。上記重合は、有機溶剤を使用しないバルクで重合を行ってもよいが、溶媒を使用する溶液重合が好ましい。用いる有機溶剤は特に限定されず、本発明に使用する有機ヨウ化物、触媒、付加重合性モノマーおよび重合開始剤を溶解する溶媒であればよい。前記有機溶剤を例示すると、ヘキサン、オクタン、デカン、イソデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジグライム、トリグライム、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルトリエチレングリコール、メチルジプロピレングリコール、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶剤;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルシクロプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノンなどのケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、カプロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤;クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、カプロラクタムなどのアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチル、炭酸エチル、ニトロメタン、アセトニトリル、ニトロベンゼン、ジオクチルフタレートなどが挙げられ、1種類のみ用いても2種類以上併用しても良い。
【0160】
モノマー濃度としては、特に限定されないが、例えば5~80質量%、好ましくは20~60質量%である。重合をスムーズに完結させる観点からは、前記モノマー濃度が低すぎないことが好ましい。また、重合液の粘度が高くなりすぎ、攪拌が困難になったり、重合率が悪くなったりすることを防止する観点からは、前記モノマー濃度が高すぎないことが好ましい。
【0161】
重合温度は特に限定されず、0℃~150℃、さらに好ましくは30℃~120℃である。重合温度は、それぞれの重合開始剤の半減期によって調製される。また、重合時間は、モノマーがなくなるまで重合を続けることが好ましいが、特に限定されず、例えば、0.5時間~48時間、実用的な時間として好ましくは1時間~24時間、さらに好ましくは2時間~12時間である。
【0162】
前記重合反応の雰囲気は、特に限定されず、例えば大気中でそのまま重合してもよく、すなわち、系内に通常の範囲内で酸素が存在してもよいし、必要に応じて、酸素を除去するため窒素やアルゴン気流下で行ってもよい。また、使用する材料は、蒸留、活性炭やアルミナで不純物を除去してもよいが、市販品をそのまま使用できる。また、重合は、遮光下で行ってもよいし、ガラスのような透明容器中で行ってもなんら問題はない。
【0163】
前記ブロックコポリマー(分散剤)の製造方法(重合方法)の操作およびメカニズムは、例えば、以下のとおりである。まず、1官能の有機ヨウ化物を開始化合物として、少なくとも酸基を有する付加重合性モノマーを前記方法によって重合し、1つのポリマーブロック(Aブロックとする)を得る。このポリマー末端はヨウ素基で置換されているため安定化しており、再度モノマーを添加し、熱などによって解離させ、あるいは更に少しラジカル開始剤を少し追加して再び重合を開始することができる。
【0164】
このAブロックを取り出して精製して、再び有機溶剤に溶解させ、これを開始化合物として、次のモノマーを追加して、好ましくは触媒および重合開始剤を追加して重合することにより、ポリマー末端ヨウ素が解離して再度重合が開始し、BブロックがAブロックに連結したジブロックポリマーを得ることができる。また、Aブロックを形成後、ポリマーを取り出さずにそのままBブロックモノマーを加えて、好ましくは触媒および重合開始剤を加えて重合を行うことによって前記ブロックコポリマー(分散剤)を得ることができる。
【0165】
同様にして、上記ブロックの生成を逆にして、先に親水性のポリマーであるBブロックモノマーを重合して、ついで疎水性基を有するモノマーを少なくとも含むモノマーを重合してA-Bのジブロックポリマー(前記ブロックコポリマー)を得てもよい。
【0166】
本発明で用いる重合では、例えば、開始化合物の量によってポリマーの分子量をコントロールすることができる。より具体的には、例えば、開始化合物のモル数に対してモノマーのモル数を設定することで、任意の分子量、または分子量の大小を制御できる。例えば、開始化合物を1モル使用して、分子量100のモノマーを500モル使用して重合した場合、1×100×500=50,000の理論分子量を与えるものであり、すなわち、設定分子量として、
[開始化合物1モル×モノマー分子量×モノマー対開始化合物モル比]
で算出することができる。
【0167】
しかし、本発明で用いる重合方法では、二分子停止や不均化の副反応を伴う場合があり、上記の理論分子量にならない場合がある。これらの副反応がないポリマーが好ましいが、カップリングして分子量が大きくなっても、停止して分子量が小さくなっていてもよい。また、重合率が100%でなくてもよく、残ったモノマーは留去したり、ブロックポリマーを析出する際に除去したり、所望のブロックポリマーを得た後、重合開始剤や触媒を加えて重合を完結させてもよい。本発明で用いるジブロックポリマーを生成、含有していればよく、それぞれのブロックポリマー単位を含んでいてもなんら問題はない。好ましくは、本発明のブロックポリマーを50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上含有する前記ブロックコポリマー(分散剤)であればよい。また、前記した副反応を伴うことによってPDIは広くなるが、そのPDIは特に限定されず、好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.8以下である。
【0168】
以上のようにして、有機ヨウ化物を開始化合物として、付加重合性モノマー、重合開始剤および触媒を少なくとも使用して重合することによって、本発明で用いる前記ブロックコポリマー(分散剤)であるジブロックポリマーを得ることができる。ただし、前述のとおり、この製造方法(重合方法)は任意であり、本発明で用いる前記ブロックコポリマー(分散剤)は、どのような方法で製造しても良い。
【0169】
[2-3.重合による多孔質体の製造]
本発明の多孔質体の製造方法は、具体的には、例えば、以下のようにして行うことができる。なお、以下においては、主に、熱硬化性のモノマーおよびプレポリマーの少なくとも一方を含む前記多孔質体原料を用いた製造方法について説明する。また、前記熱硬化性のモノマーおよびプレポリマーの中でも、特に、エポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーの少なくとも一方を含む前記多孔質体原料について説明する。ただし、前記多孔質体原料は、前述のとおり、以下の例に限定されず任意である。
【0170】
まず、モノマーおよびプレポリマーの少なくとも一方を含む多孔質体原料を、前記ブロックコポリマー(分散剤)を予め添加している分散媒中に分散させて分散液を調製する(分散液調製工程)。多孔質体原料については、前述のとおりである。前記分散液調製工程は、具体的には、例えば、少なくともポロゲンとなる溶媒を含む熱硬化性組成物と、前記ブロックコポリマー(分散剤)を予め添加している疎水性有機溶剤(分散媒)とを混合して熱硬化性組成物を疎水性有機溶剤中に粒子状に分散させる。前記熱硬化性組成物(多孔質体原料)は、例えば、エポキシ樹脂原料(エポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーの少なくとも一方)、硬化剤およびポロゲンを含むエポキシ樹脂原料組成物である。そして、その後、例えば、前記分散液を加熱して前記重合工程を行う。この重合工程において、重合(硬化)によりエポキシ樹脂製の多孔質体を得る。その後、必要に応じ、前記多孔質体(粒子状硬化物)からポロゲン、溶媒、未反応物等を除去する。
【0171】
原料であるエポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーについては前述のとおりであるが、なかでも、エポキシ当量が600以下でポロゲンに溶解可能なエポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーが特に好ましい。
【0172】
本発明の多孔質体の製造方法で用いる前記硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、前述のとおり、アミン類、ポリアミドアミン類、酸無水物、フェノール系などを挙げることができる。前記硬化剤のうち、多官能アミノ基含有化合物については、例えば、前述のとおりである。より具体的には、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミンなどが挙げられる。本発明においては、エポキシ樹脂と反応して水酸基を形成し、得られる多孔体に親水性を付与する、あるいは後で化学的に修飾することの出来る機能を有する硬化剤を用いることが好ましい。
【0173】
本発明の多孔質体の製造方法においては、硬化促進剤を使用することもできる。硬化促進剤としては、前述のとおり、特に限定されず、既知のあらゆる化合物を使用することができるが、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の三級アミン、2-フェノール-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェノール-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類、DBUおよびDBNのなどの強塩基などを好適に用いることができる。
【0174】
前記熱硬化性組成物(多孔質体原料)は、前述のとおり、例えば、エポキシ化合物(例えば、エポキシモノマーおよびエポキシプレポリマーの少なくとも一方)および硬化剤を含み、その他に、硬化促進剤、ポロゲン等を含んでいてもよい。この前記熱硬化性組成物(多孔質体原料)は、例えば、前記エポキシ化合物および前記硬化剤を、前記硬化促進剤および前記ポロゲンに混合して均一化することにより調製することができる。
【0175】
前記熱硬化性組成物中におけるエポキシ樹脂原料(例えば多官能エポキシ基含有化合物)と硬化剤(例えば多官能フェノール樹脂)の含有割合は、例えば、エポキシ樹脂原料中のエポキシ基1当量に対して硬化剤中の官能基(例えばフェノール性水酸基)が1.1~4当量、特に1.5~3当量となるように調製することが好ましい。例えば、エポキシ樹脂原料の当量比を上記下限以上とすると、得られる多孔性エポキシ樹脂の架橋密度を高めることができ、機械的強度、耐熱性、耐溶剤性等が向上する傾向にあり、他方、上記上限以下とすると、未反応の硬化剤を低減することができ、前記硬化剤が未反応のまま多孔性エポキシ樹脂中に残留することを抑制し、架橋密度を高めることができる傾向にある。
【0176】
また、前記熱硬化性組成物中のポロゲンとなる溶媒の含有割合は、例えば、得られる多孔性エポキシ樹脂粒子の細孔径、細孔分布等に影響し、ポロゲンの含有割合が多いと細孔径は大きく、少ないと細孔径は小さくなる傾向にある。また、ポロゲンの含有割合が多いと細孔分布はブロードとなり、少ないとシャープとなる傾向にある。
【0177】
前記熱硬化性組成物中のポロゲン溶媒の含有割合は、前記熱硬化性組成物に含まれる多官能エポキシ基含有化合物と多官能アミノ基含有化合物の合計に対して、通常50~500重量%であることが好ましく、100~400重量%であることがより好ましい。ポロゲンの含有割合が上記下限以上であるとより空孔率の高い多孔質構造を形成することができ、他方、上記上限以下であると得られる多孔性エポキシ樹脂の空孔率を適度な範囲に抑えることができ、機械的強度が向上する傾向にある。
【0178】
また、前記熱硬化性組成物には、前述のとおり、硬化促進剤を添加してもよい。前記硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、前述のとおりである。
【0179】
また、前記熱硬化性組成物には、前記エポキシ樹脂原料および前記硬化剤以外の反応原料化合物を混合して用いてもよい。前記エポキシ樹脂原料および前記硬化剤と共に付加重合反応に供し得る反応原料化合物としては、例えば、前記エポキシ樹脂原料および前記硬化剤と共に付加重合し得るものであればよく、特に制限はないが、例えば、前述の、エポキシ樹脂以外のポリマーの原料として例示したモノマーおよびプレポリマーの1種または2種以上が挙げられる。ただし、多孔性エポキシ樹脂本来の耐衝撃性、耐薬品性、耐久性、取り扱い性、生産性等の特長を有効に得る上で、前記エポキシ樹脂原料および前記硬化剤以外の反応原料化合物は、全反応原料化合物中に30重量%以下、特に0~15重量%であることが好ましい。また、前記熱硬化性組成物には、前記エポキシ樹脂原料および前記硬化剤以外の非反応原料化合物を混合して用いてもよい。例えば一次粒子径が数nmから数十nmの微粉シリカを添加して増粘すると重合体の表面に孔のないスキン層が生成するのを低減する効果が得られる。
【0180】
前記熱硬化性組成物の調製方法としては特に制限されず、常温でまたは加温しながら多官能エポキシ基含有化合物、多官能アミノ基含有化合物およびポロゲンを混合する方法を採用してもよく、常温でまたは加温しながら多官能エポキシ基含有化合物および多官能アミノ基含有化合物の混合物をポロゲン中に添加して混合ないしは溶解させる方法を採用してもよい。
【0181】
つぎに、前記分散液調製工程において、例えば、十分に剪断力を与えて撹拌すれば、前記多孔質体原料(熱硬化性組成物)を粒子状に分散させることが可能である。この場合において、前記粒子の大きさや粒径分布を考慮して適切な方法をとることが出来る。例えば、前記多孔質体原料(熱硬化性組成物)の分散方法としては、十分な剪断力を与えられる方法で良い。より具体的には、例えば、プロペラ型、パドル型、タービン型、スクリュー型などの各種の形状の撹拌羽根を有する装置だけでなく、自転・公転ミキサーや試験管の底部を高速旋回して内容液を撹拌する「ボルテックスミキサー」、超音波撹拌、膜乳化法など公知の方法が使用できる。出来るだけ粒径が一定になる方法を選ぶことが好ましい。
【0182】
前記分散液調製工程においては、前述のとおり、例えば、前記熱硬化性組成物と、前記ブロックコポリマー(分散剤)を予め添加している疎水性有機溶剤(分散媒)とを混合して熱硬化性組成物を疎水性有機溶剤中に粒子状に分散させても良い。前記ブロックコポリマー(分散剤)を予め添加している疎水性有機溶剤(分散媒)中において、前記ブロックコポリマー(分散剤)濃度は、特に限定されないが、例えば、前述のとおり1~500g/L、2~300g/L、または3~250g/Lである。前記ブロックコポリマー濃度を上記下限以上とすると、粒径の制御が容易であったり、重合時の凝集を抑制することができ、上記上限以下とすると、重合時に泡が立ったり粘度が上昇することを抑制でき、製造が容易となる。そして、前述のとおり、熱硬化性組成物を疎水性有機溶剤中に粒子状に分散させた油中水滴型の乳化物を形成した状態で、次の重合工程を行うことができる。
【0183】
また、前記多孔質体原料を前記分散液中で重合させる重合工程において、分散剤(例えば、前記ブロックコポリマーまたは界面活性剤)の使用量は、特に限定されないが、前記エポキシ樹脂原料、前記硬化剤、およびポロゲンの合計量に対して、例えば、1~20重量%、または2~10重量%程度である。前記分散剤の使用量は、例えば、得られる多孔質体の平均粒径や粒度分布、粒子の凝集に影響する。前記分散剤の使用量が多いと平均粒径や粒度分布、粒子の凝集を制御とすることができ、少ないと泡立ちや粘度を低く保つことができる傾向にある。よって、前記分散剤の使用量が上記下限以上であると、原料混合液を均一に乳化できて粒度分布を狭い範囲にすることができたり、粒子の凝集を抑制することができる。また、上記上限以下であると、泡立ちや粘度の上昇を抑制することができ、製造が容易となる。
【0184】
前記重合工程において、反応温度は、特に限定されず、適宜設定可能である。前記反応温度は、基本的にはエポキシ樹脂と硬化剤の組合せによって決まり、また、撹拌速度やポロゲン、界面活性剤の使用量等によっても異なるが、例えば、20~250℃、40~220℃、または50~200℃である。前記加熱温度は、例えば、得られる多孔質体の細孔径に影響する。加熱温度が高いと得られる多孔質体の細孔径が小さくなり、加熱温度が低いと得られる多孔質体の細孔径が大きくなる傾向がある。加熱温度が適度に高いと付加重合反応が円滑に進行し、加熱温度が適度に低いと反応速度が速くなり過ぎることを防止し、多孔質構造をうまく形成することができる。
【0185】
前記重合工程において、反応時間も特に限定されず、適宜設定可能である。前記反応時間は、撹拌速度、加熱温度やポロゲン、界面活性剤の使用量等によっても異なるが、例えば、0.01~100hr、0.05~24hr、または0.1~20hrである。前記反応時間は、例えば、得られる多孔質体の反応率に影響する。反応時間が長いと反応率が高く未反応物が少ないため機械的強度が高くなる傾向があり、反応時間が短いと反応率が低く未反応物が多いため機械的強度が低くなる傾向がある。反応時間が適度に長いと付加重合反応が十分に進行して所望の多孔質構造を形成でき、適度に短いと撹拌による破砕などの可能性を低減することができる。
【0186】
また、前記重合工程において、前記分散液を攪拌しながら反応を行うことが好ましい。攪拌速度は特に限定されず、加熱温度や反応スケール、ポロゲン、界面活性剤の使用量等によっても異なるが、例えば、10~20,000rpm、30~10,000rpm、50~5,000rpm、50~800rpm、または100~400rpmである。なお、「rpm」は、1分間あたりの回転数を表す。前記撹拌速度は、例えば、得られる多孔質体の粒径に影響する。一般的に、撹拌速度が大きいと得られる多孔質体の粒径が小さくなり、撹拌速度が小さいと得られる多孔質体の粒径が大きくなる傾向がある。撹拌速度が適度に大きいと相分離等が抑制され、均一な粒径のものを得ることができ、撹拌速度が適度に小さいと粒子径が小さくなりすぎず、泡立ちも抑制可能である。
【0187】
前記重合工程が終了したら、前述のとおり、必要に応じ、前記多孔質体(粒子状硬化物)からポロゲン、溶媒、未反応物等を除去する。具体的には、例えば、前記多孔性微粒子を含む分散媒を多量の洗浄用溶媒で希釈して沈降粒子を遠心分離機で分けることを繰り返して十分に洗浄した後、減圧乾燥機で前記洗浄用溶媒を除く。なお、前記洗浄用溶媒は、分散媒とポロゲンに対する溶解性が高い溶媒が好ましく、また、沸点が低く除去しやすい溶媒が好ましい。前記洗浄用溶媒としては、具体的には、テトラヒドロフラン等が挙げられる。このようにして、本発明の多孔質体を得ることが出来る。なお、本発明の多孔質体の材質は、前述のとおり、特に限定されない。例えば、熱硬化性樹脂以外から形成された多孔質体の場合は、熱硬化性のモノマーおよびプレポリマーの少なくとも一方を含む前記多孔質体原料に代えて、多孔質体の材質に応じた多孔質体原料を用い、ポロゲンおよび硬化剤を用いなくても良い。
【0188】
また、製造した前記多孔質体は、例えば、物理的処理または化学的処理による表面の改質等を行っても良い。前記物理的処理または化学的処理は、例えば、クロマトグラフィー用の分離剤としての特性を向上させる目的で行うことができる。前記物理的処理または化学的処理としては、例えば、表面親水化、表面疎水化、官能基導入等が挙げられる。本発明の多孔質体は、例えば、前述のとおり、1~3級のアミノ基を含まない、または、酸処理により4級化する窒素原子を含まないことにより、前記アミノ基または前記窒素原子が、前記官能基導入(表面処理)の妨げになることを抑制または防止できる。
【0189】
[3.多孔質体の形状、用途(使用方法)等]
本発明の多孔質体の形状および大きさは、特に限定されない。本発明の多孔質体は、例えば、前述のとおり、多孔性粒子であってもよい。また、前記多孔性粒子は、例えば、略球状の粒子であってもよい。また、本発明の多孔質体の形状および大きさは、これに限定されず任意であり、例えば、バルク体でも薄膜(フィルム)状でもよい。例えば、前述のとおり、重合前の多孔質体原料が液体(例えば、溶液、分散液等)であることから、適切な型の中で重合することにより自由な形状を作ることができる。例えば、本発明の多孔質体は、バルクとしての四角形や円柱状、円筒状に、HPLCのカラムの中で作成すれば均一な多孔性を持つ一体型の充填剤として、ガラス板などの平板の間で作成すれば薄膜状のものが、疎水性溶媒中での乳化重合あるいは分散重合では粒子形状のものなど様々な形状のものを製造することができる。また、例えば、ガラス繊維、セルロースナノファイバー、カーボンファイバー、不織布や和紙などの補強材と組み合わせることも可能である。
【0190】
本発明の多孔質体の用途は特に限定されないが、例えば、新規な吸着分離剤としてとして非常に有用である。より具体的には、多孔性粒子である本発明の多孔質体は、例えば、クロマトグラフィー用の分離剤として用いることができる。前記クロマトグラフィーの分離対象物としては、例えば、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸等の生体関連物質やそれ以外の化学物質の分離、等が挙げられる。また、本発明の多孔性粒子の用途は、これに限定されず、例えば、化粧品用フィラー、タイヤ用フィラー、塗料・インキ用のフィラー、徐放性薬剤用基剤、反応触媒を担持してカラムリアクター用充填剤、殺菌剤、電池用セパレータ等、種々の用途に使用可能である。なお、電池用セパレータの場合は、例えば、薄膜状である本発明の多孔質体を用いてもよいし、例えば、多孔性粒子である本発明の多孔質体を、電極の表面にコーティングして電池用セパレータとすることができる。
【実施例
【0191】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0192】
<合成例:A-Bブロックコポリマー(分散剤)の合成>
以下の合成例1~2のようにして、疎水性ポリマーブロックAおよび親水性ポリマーブロックBから形成されたA-Bブロックコポリマー(分散剤)を製造(合成)した。これらのブロックコポリマーは、構成するモノマーがすべて(メタ)アクリレート系モノマーで、A鎖のポリマーブロックが、疎水性基を有する(メタ)アクリレートであり、B鎖のポリマーブロックが親水性基を有する(メタ)アクリレートを構成成分とする。また、GPCにおけるポリスチレン換算の数平均分子量が2,000~100,000であり、そのPDIが1.6以下であり、疎水性基を有する(メタ)アクリレートからなるAのポリマーブロックの数平均分子量が80,000未満かつ全体の構成成分の20~98質量%である。なお、以下において、各物質の部数は、特に断らない限り、質量部(重量部)である。
【0193】
[合成例1]
撹拌機、還流コンデンサー、温度計および窒素導入管を取り付けた反応容器に、トルエン5.23部、ラウリルメタクリレート(以下、LMAと略記)5部、ヨウ素0.0495部、重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(以下、V-70と略記)0.909部、アゾビスジメチルイソバレロニトリル(以下、V-65と略記)0.0183部、およびテトラブチルアンモニウムヨージド(以下、BNIと略す)0.0726部を仕込んで、窒素を流しながら60℃で撹拌した。16時間重合して、ポリマーブロックAを得た。これをサンプリングして、固形分を測定し、不揮発分から換算した重合転化率は90%であった。この時のGPCの示差屈折計での数平均分子量(以下、RI-Mnと略記)は16,500であり、PDIは1.27であった。
【0194】
次いで、トルエン2.33部、ポリエチレングリコールメタクリレート(以下、PEGMAと略記)9.34部、V-70を0.121部、加え、さらに、上記と同じ60℃で3時間重合することにより、B鎖を形成、B鎖の数平均分子量は2,100、PDIは1.28、重合転化率は87%であった。このようにしてA-Bブロックコポリマーの溶液を得た。この重合溶液をほぼ同重量のテトラヒドロフランで溶解後、大量のメタノール中に沈殿させ暫く放置した後上澄み液を除去して遠心分離した。その後、得られた沈殿物を同様にテトラヒドロフランに溶解しメタノール中へ沈殿させる工程を2回行った後、得られた沈殿物を乾燥して半流動体状のA-Bブロックコポリマー(分散剤)を得た。収率は41%であった。得られたA-Bブロックコポリマーの数平均分子量は18,700、PDIは1.27であった。以下、このようにして得られた本合成例(合成例1)のブロックコポリマー(分散剤)を「ブロックコポリマーK-1」と称す。
【0195】
[合成例2]
撹拌機、還流コンデンサー、温度計および窒素導入管を取り付けた反応容器に、トルエン5.23部、ラウリルメタクリレート(以下、LMAと略記)3部、ヨウ素0.0495部、重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(以下、V-70と略記)0.909部、アゾビスジメチルイソバレロニトリル(以下、V-65と略記)0.0183部、およびテトラブチルアンモニウムヨージド(以下、BNIと略す)0.0726部を仕込んで、窒素を流しながら60℃で撹拌した。16時間重合して、ポリマーブロックAを得た。これをサンプリングして、固形分を測定し、不揮発分から換算した重合転化率は90%であった。この時のGPCの示差屈折計での数平均分子量(以下、RI-Mnと略記)は9800であり、PDIは1.19であった。
【0196】
次いで、トルエン2.33部、ポリエチレングリコールメタクリレート(以下、PEGMAと略記)4.0部、V-70を0.121部、加え、さらに、上記と同じ60℃で3時間重合することにより、B鎖を形成、B鎖の数平均分子量は900、PDIは1.27、重合転化率は88%であった。このようにしてA-Bブロックコポリマーの溶液を得た。この重合溶液をほぼ同重量のテトラヒドロフランで溶解後、大量のメタノール中に沈殿させ暫く放置した後上澄み液を除去して遠心分離した。その後、得られた沈殿物を同様にテトラヒドロフランに溶解しメタノール中へ沈殿させる工程を2回行った後、得られた沈殿物を乾燥して半流動体状のA-Bブロックコポリマー(分散剤)を得た。収率は42%であった。得られたA-Bブロックコポリマーの数平均分子量は10,700、PDIは1.22であった。以下、このようにして得られた本合成例(合成例1)のブロックコポリマー(分散剤)を「ブロックコポリマーK-2」と称す。
【0197】
以下の各実施例では、それぞれ、本発明の多孔性粒子を製造した。
【0198】
〔実施例1〕
<多孔質体原料の分散液調製工程>
ガラス製の5号サンプル管瓶(容量20ml)に、PEG200 2.75g、EHPE3150(ダイセル化学株式会社の商品名、下記化学式(E1)、n=10~15、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物)1.0g、DL-92(硬化剤、下記化学式(F1)、n=3~10程度、明和化成製株式会社製)0.35g、PEG10000 0.15gを80℃加温下に均一に溶解した後、2-メチルイミダゾール(2-Methylimidazole、硬化促進剤)0.06gを加えて十分に溶解し均一な状態とし、多孔質体原料の分散液(重合液)を調製した。
【0199】
<重合工程>
上記の重合液を120℃の恒温槽中に1時間静置することにより、前記多孔質体原料を前記分散液中で重合させる重合工程を行った。得られた重合物をサンプル管ごと水槽に二日間浸けて重合物中の水溶性成分(PEG200、PEG10000)を水と置換することで除去した。この間適宜サンプル管瓶中の水が入れ替わる様にした。その後サンプル管を水槽から取り出し、送風乾燥機中でサンプル管中の多孔質体を十分に乾燥させて白色の本実施例のエポキシ樹脂多孔質体を得た。得られた多孔質体は、その内部に、多孔構造が連通している貫通孔を有していた。なお、この多孔質体の表面には、孔のほとんどないスキン層が薄く形成されていた。この多孔質体内部の貫通孔は、前記重合工程におけるスピノーダル分解により形成された貫通孔である。図1に、そのSEM写真を示す。
【0200】
【化E1】
【0201】
【化F1】
【0202】
〔実施例2〕
実施例1のEHPE3150の一部をエポキシ基のモル量が同じようになる様にTETRAD-C(テトラッド-Cともいう、三菱ガス化学株式会社の商品名)に置き換えたこと以外は、実施例1と同様にして本実施例の多孔質体を製造した。
【0203】
〔実施例3〕
実施例1の硬化促進剤をDBUに置き換えた以外は、実施例1と同様にして本実施例の多孔質体を製造した。
【0204】
〔実施例4〕
実施例1の硬化剤をMEH-7500(明和化成株式会社の商品名、トリフェニルメタン型フェノール樹脂)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして本実施例の多孔質体を製造した。
【0205】
〔比較例1〕
実施例1に於いて、硬化剤としてDL-92の代わりにH-4(明和化成株式会社の商品名)を使用した以外は同様にしてバルク状の樹脂を製造した。得られた樹脂は、多孔構造が連通している孔を有していなかった。
【0206】
〔比較例2〕
実施例1において、エポキシ化合物としてEHPE-3150の代わりにTETRAD-C(三菱ガス化学株式会社の商品名)を使用した以外は同様にしてバルク状の樹脂を製造した。得られた樹脂は、多孔構造が連通している孔を有していなかった。
【0207】
〔比較例3〕
<多孔質体原料の分散液調製工程>
ガラス製の5号サンプル管瓶(容量20ml)に、PEG200 4.0g、グリシジルアミン型のエポキシ化合物であるTETRAD-C 1.0g、アミン型の硬化剤としてBACM(試薬、和光純薬株式会社の商品名)0.32g、を60℃加温下に均一に溶解し、多孔質体原料の分散液(重合液)を調製した。
【0208】
<重合工程>
上記の重合液を110℃の恒温槽中に1時間静置することで重合を行ない、得られた重合物をサンプル管ごと水槽に二日間浸けて重合物中の水溶性成分(PEG200)を水と置換することで除去した。この間適宜サンプル管瓶中の水が入れ替わる様にした。その後サンプル管を水槽から取り出し、送風乾燥機中でサンプル管中のモノリスを十分に乾燥させて白色のエポキシ樹脂多孔質体を得た。得られた多孔質体は、その内部に、多孔構造が連通している貫通孔を有していた。なお、この多孔質体の表面には、孔のほとんどないスキン層が薄く形成されていた。この多孔質体内部の貫通孔は、前記重合工程におけるスピノーダル分解により形成された貫通孔である。
【0209】
[耐水、耐酸、耐アルカリの測定方法]
前記実施例1~4の多孔質体および前記比較例1~3のエポキシ樹脂を、それぞれ5mm程度の大きさの立方体にしたのち、これを常温(25℃)の純水、1モル濃度の塩酸および苛性ソーダ水溶液に浸漬し24時間放置した。各サンプルの最大辺の大きさ(長さ)を浸漬前後にノギスで測定し、浸漬前との比率(長さ)を%で表した。収縮膨潤がない場合を100%(長さ)とした。この結果を、下記表1に示す。
【0210】
【表1】
【0211】
さらに、以下のとおり、WO2017/026424実施例に記載の製造方法に準じることで、多孔性エポキシ粒子(多孔性粒子である多孔質体)を製造した。
【0212】
〔実施例5:粒子1〕
<エポキシモノマー組成物(分散液)の調製>
分散相として、100mLの四つ口フラスコにポリエチレングリコール200(和光純薬工業株式会社製)27.5重量部およびポリエチレングリコール10000(和光純薬工業株式会社製)1.25重量部、エポキシ当量170~190(平均180)のエポキシ化合物(商品名「EHPE3150」、(株)ダイセル製)10.0重量部、フェノールノボラック(硬化剤、明和化成株式会社製)3.2重量部、2-メチルイミダゾール(硬化促進剤、和光純薬工業株式会社製)0.55重量部を80℃に加熱下、撹拌して均一溶液(分散液)とした。
【0213】
<重合工程および後処理>
連続相として200mLフラスコにドデカン(和光純薬工業株式会社製)40.0gにブロックポリマーK-2(ポリラウリルメタクリレート(Mn=9200、PDI=1.17)-b-ポリ-ポリエチレングリコールメタクリレート(Mn=900)(ブロックポリマー全体Mn=10700、PDI=1.22、固形分濃度99%)2.4gを80℃で十分に混合溶解したものに前記の分散相を全量入れ400回転/分で5分間乳化分散後、回転数を50回転/分とした後120℃に昇温して1時間重合することで、多孔性のエポキシ粒子を得た。
【0214】
重合して得られた多孔性のエポキシ粒子をMEK(メチルエチルケトン)に入れ十分撹拌した後遠心分離機を用いて粒子を分離した。このMEKによる洗浄工程を10回繰り返してポロゲンや残存モノマー等を十分に除去した後、減圧乾燥してエポキシ樹脂からなる球形の多孔性粒子(多孔性粒子である本実施例の多孔質体)を11.85g得た。前記多孔性粒子の平均粒径は、26μmであった。この多孔性粒子は、その内部に、多孔構造が連通している貫通孔を有していた。また、前記球形の多孔性粒子(球形微粒子)の外観および粒子内部のSEM写真を図2に示した。このエポキシ樹脂製多孔性粒子の表面にはスキン層が無く、前記貫通孔の端部が、前記多孔性粒子の外部に向かって開口していた。平均粒径(レーザー式粒度計使用)が26.7μm、細孔径(水銀圧入式ポロシメーター使用)が330nmのものが得られた。
【0215】
〔実施例6:粒子2〕
ポリエチレングリコール10000(和光純薬工業株式会社製)の使用量を1.88重量部とした以外は〔実施例5:粒子1〕と同じにして本実施例の多孔性のエポキシ粒子(多孔性粒子である本発明の多孔質体)が得られた。このエポキシ粒子は、平均粒径が29.4μm、細孔径(水銀圧入式ポロシメーター使用)が1100nmであった。また、この多孔性粒子は、その内部に、多孔構造が連通している貫通孔を有していた。本実施例で製造した前記球形の多孔性粒子(球形微粒子)の外観および粒子内部のSEM写真を図3に示す。図示のとおり、このエポキシ樹脂製多孔性粒子の表面にはスキン層が無く、前記貫通孔の端部が、前記多孔性粒子の外部に向かって開口していた。
【0216】
〔比較例4:粒子3〕
<エポキシモノマー組成物の調製>
エポキシモノマーとして、エポキシ当量が95~110(平均102)である下記式(1)で表されるエポキシ化合物(商品名「テトラッド-C」、三菱ガス化学工業株式会社)2.00重量部、硬化剤として、アミン価が520~550である下記式(2)で表されるビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン(東京化成工業株式会社製)1.15重量部、ポロゲンとして、平均分子量が200である下記式(3)で表されるポリエチレングリコール200(和光純薬工業株式会社製)8重量部を用い、これらを、自転・公転ミキサーの「あわとり練太郎」(株式会社シンキーの商品名)で5分間混合することで、エポキシモノマー組成物を得た。
【0217】
【化1】
【0218】
【化2】
【0219】
【化3】
【0220】
<分散液調製工程>
円筒状のガラス製サンプル瓶(内径19mm、高さ60mmの)に上記で得られたエポキシモノマー組成物11.15gを、分散媒としてドデカン10gに上記の前記ブロックコポリマー(分散剤)K-1を0.6g溶解したものの中に加え、分散液を調製した。
【0221】
<重合工程および後処理>
前記分散液を、撹拌翼で常温で毎分2000回転で30分間撹拌して乳化分散させた後、毎分回転数を、粒子が沈降および相互付着しない程度の回転数である50回転に下げて高温浴槽中温度140℃で60分間重合した。重合して得られたものをMEKに入れ十分撹拌した後遠心分離機を用いて粒子を分離した。このMEKによる洗浄工程を10回繰り返してポロゲンや残存モノマー等を十分に除去した後、減圧乾燥してエポキシ樹脂からなる球形の多孔性粒子を2.85g得た。前記多孔性粒子の平均粒径は、28μmであった。なお、このエポキシ樹脂製多孔性粒子は、その内部に、多孔構造が連通している貫通孔を有していた。また、このエポキシ樹脂製多孔性粒子の表面にはスキン層が無く、前記貫通孔の端部が、前記多孔性粒子の外部に向かって開口していた。
【0222】
これら実施例5、実施例6および比較例4の多孔質粒子について、メスシリンダーに粒子を入れ、常温(25℃)の純水、1モル濃度の塩酸および苛性ソーダ水溶液に浸漬し24時間放置後の高さを測定したこと以外は実施例1~4および比較例1~3と同様の方法で膨潤率を測定した。その結果を、下記表2に示す。
【0223】
(表2)
[実施例5:粒子1] 純水;100%、1M苛性ソーダ水溶液;101%、1M塩酸水溶液;105%
[実施例6:粒子2] 純水;100%、1M苛性ソーダ水溶液;101%、1M塩酸水溶液;106%
[比較例4:粒子3] 純水;100%、1M苛性ソーダ水溶液;114%、1M塩酸水溶液;188%
【0224】
前記表1および表2に示したとおり、実施例の多孔質体は、特に酸性条件下において、比較例の多孔質体と比較して膨潤率が小さかったことから、酸性条件下での膨潤が抑制できていることが確認された。
【0225】
さらに、実施例5~6の多孔性粒子をクロマトグラフィー用の分離剤として用いたところ、良好な分離特性を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0226】
以上説明した通り、本発明によれば、酸性条件下での膨潤が抑制された多孔質体および多孔質体の製造方法を提供することができる。本発明の多孔性粒子の用途は特に限定されないが、例えば、新規な吸着分離剤としてとして非常に有用である。より具体的には、本発明の多孔性粒子は、例えば、クロマトグラフィー用の分離剤として用いることができる。前記クロマトグラフィーの分離対象物としては、例えば、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸等の生体関連物質やそれ以外の化学物質の分離、等が挙げられる。また、本発明の多孔性粒子の用途は、これに限定されず、例えば、化粧品用フィラー、タイヤ用フィラー、塗料・インキ用のフィラー、徐放性薬剤用基剤、反応触媒を担持してカラムリアクター用充填剤、等、種々の用途に使用可能である。
【0227】
この出願は、2019年3月4日に出願された日本出願特願2019-038971を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2
図3