(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】金属微粒子、金属微粒子含有分散液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 25/04 20060101AFI20220831BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20220831BHJP
A01N 59/20 20060101ALI20220831BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220831BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220831BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20220831BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220831BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220831BHJP
【FI】
A01N25/04 102
A01N59/16 A
A01N59/16 Z
A01N59/20 Z
A01P3/00
B22F1/00 K
B22F1/00 L
B22F1/00 R
B22F1/102
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2016246577
(22)【出願日】2016-12-20
【審査請求日】2019-11-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000229874
【氏名又は名称】TOMATEC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】石河 明
(72)【発明者】
【氏名】下村 洋司
(72)【発明者】
【氏名】大橋 和彰
(72)【発明者】
【氏名】小坂 泰啓
(72)【発明者】
【氏名】緒方 章子
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】土屋 知久
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/064700(WO,A1)
【文献】特開平11-080647(JP,A)
【文献】特開2010-202943(JP,A)
【文献】特開2014-055332(JP,A)
【文献】若原章博,スラリー分散 WEB連載講座,online,ビックケミー・ジャパン,2013年9月10日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に脂肪酸とグリセリドが配位したAg,Cu,Znの何れかの金属微粒
子に、分散剤が配位した金属微粒子であって、
前記分散剤が、酸価及びアミン価の両方が0~20mgKOH/gの範囲(但し、酸価又はアミン価の何れか一方が0のとき他方は0ではない)にあ
り、1つ以上の低極性鎖と1つ以上の極性鎖を有するスターポリマー構造を有している
分散剤であることを特徴とする金属微粒子。
【請求項2】
溶剤中に、請求項1記載の金属微粒子を含有することを特徴とする金属微粒子含有分散液。
【請求項3】
前記溶剤が、グリセリンと二相分離可能な溶剤である請求項2記載の金属微粒子含有分散液。
【請求項4】
前記グリセリンと二相分離可能な溶剤の濃度が5重量%以下である請求項3記載の金属微粒子含有分散液。
【請求項5】
前記溶剤が、水系,炭化水素系,エーテル系,エステル系,グリコールエーテル系,ケトン系、アルコール系の何れかの溶剤である請求項2~4の何れかに記載の金属微粒子含有分散液。
【請求項6】
グリセリンに脂肪酸金属塩を添加し、これを加熱混合することにより、金属微粒子表面に脂肪酸とグリセリドが配位した金属微粒子が分散したグリセリンを調製する工程、
該金属微粒子が分散したグリセリンに、酸価及びアミン価が0~20mgKOH/gの範囲(但し、酸価又はアミン価の何れか一方が0のとき他方は0ではない)にある分散剤及びグリセリンと二相分離可能な溶剤とを添加混合することにより、金属微粒子表面に脂肪酸とグリセリド、及び分散剤が配位した金属微粒子を含有する混合液を調製する工程、
該混合液を二相分離することにより、金属微粒子表面に脂肪酸とグリセリド、及び分散剤が配位した金属微粒子をグリセリンから前記溶剤中に抽出する抽出工程、
該抽出工程により得られた金属微粒子含有分散液の溶剤濃度が5重量%以下となるように溶剤を留去する濃縮工程、
から成ることを特徴とする金属微粒子含有分散液の製造方法。
【請求項7】
前記濃縮工程により得られた金属微粒子含有分散液を水系,炭化水素系,エーテル系,エステル系,グリコールエーテル系の何れかの溶剤で希釈する請求項6記載の金属微粒子含有分散液の製造方法。
【請求項8】
前記脂肪酸金属塩が、Ag、Cu、Znの何れかの金属の脂肪酸塩である請求項6又は7記載の金属微粒子含有分散液の製造方法。
【請求項9】
前記金属微粒子が分散したグリセリンの調製工程において、脂肪酸金属塩と共にサッカリンをグリセリンに添加する請求項6~8の何れかに記載の金属微粒子含有分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子、該金属微粒子が分散して成る分散液及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、金属微粒子を種々の溶剤に凝集・沈殿することなく均一分散させることが可能で、種々の材料に優れた抗菌性能を付与可能な金属微粒子及び金属微粒子含有分散液並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療用品や、台所、浴室、洗面所等高温多湿の条件下で使用される容器等の細菌や黴等が繁殖しやすい場所で用いられる製品以外にも、例えば、吊り革等のように公共の場所で使用されるもの、或いは壁紙や建具等の住宅関連部材、エアコン等のフィルター、更には文具等、種々の製品に抗菌性能が求められていることから、種々の抗菌性組成物が提案されている。
このような抗菌性組成物としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂に抗菌剤を含有させて成る成形体や、塗料に抗菌剤を含有させて成る塗膜、或いは溶剤中に抗菌剤を分散させてなる分散液等種々の形態で提供されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、溶媒と、銀ナノ粒子と、安定剤とを含む組成物が記載されており、この組成物は、溶媒中に銀ナノ粒子を分散してなる分散液からなるものであるが、銀ナノ粒子を凝集することなく分散させることは困難であり、凝集を防止するために安定化剤が必須であり、また透明性及び銀の効率的な利用という点で、未だ充分満足するものではなかった。
また下記特許文献2には、光硬化性アクリル系樹脂に銀塩が含有されて成る抗菌性被覆用光硬化性組成物が記載されており、更に、下記特許文献3には、光硬化性樹脂に抗菌剤及び/又は防黴剤を含有させてなる、抗菌性等を有する各種ディスプレイ用保護板等の樹脂成形体が提案されている。
特許文献2及び3記載の樹脂組成物のように、光硬化性のアクリル系樹脂に銀塩を配合してなる樹脂組成物においては、銀塩を効率よくアクリル系樹脂に均一に分散させることが難しく、抗菌性能と経済性の両方を兼ね備えた樹脂組成物を得ることができないことから、優れた抗菌性能を発揮可能な銀微粒子を凝集することなく樹脂組成物中に含有させることが望まれている。
【0004】
このような観点から、本発明者等は、脂肪酸銀とサッカリンから形成される銀微粒子を含有することを特徴とする透明性を有する銀微粒子含有分散液及びその製造方法を提案した(特許文献4及び5)。この製造方法によれば、抗菌性能に優れた銀微粒子を比較的簡単な操作で、樹脂組成物への抗菌性付与用途に好適な低沸点溶媒中に凝集することなく分散できると共に、分散液の透明性に影響を与える副生物を効率的に除去することができる。しかも、得られた銀微粒子含有分散液は、銀微粒子が凝集することなく均一に分散し、優れた抗菌性能を有すると共に、透明性にも顕著に優れている。また特許文献5記載の製造方法によれば、更に長時間経過後も優れた分散性を維持することができ、塗料組成物や樹脂組成物などと混合した場合にも優れた透明性を発現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2008-508321号公報
【文献】特開平8-311373号公報
【文献】国際公開第2011/007650
【文献】特開2013-241643号公報
【文献】特開2015-86435公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記方法により得られる金属微粒子含有分散液は、金属微粒子の収率の点で未だ充分満足するものではなく、より高い収率で金属微粒子を分散液中に含有させることが望まれている。また上記方法により得られる金属微粒子含有分散液を希釈溶剤として塗料組成物等に使用した場合に、金属微粒子の濃度が高くなると金属微粒子の分散安定性が低下する場合があり、種々の濃度での使用に対応可能な分散安定性を有することが望まれている。更に、上記方法により得られる金属微粒子含有分散液は、金属微粒子を分散可能な溶剤が、メチルイソブチルケトン等の特定の低沸点溶剤に限定されていることから、その用途が限定的であるという問題があり、種々の溶剤に金属微粒子が分散された金属微粒子含有分散液が望まれている。
【0007】
従って本発明の目的は、種々の溶剤で希釈することが可能であり、希釈後も分散性に優れた金属微粒子を提供することである。
また本発明の他の目的は、種々の溶剤中に金属微粒子が凝集・沈降することなく均一に分散された金属微粒子含有分散液を提供することである。
更に本発明の他の目的は、金属微粒子を収率よく生成且つ分散可能な金属微粒子含有分散液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、表面に脂肪酸とグリセリドが配位したAg,Cu,Znの何れかの金属微粒子に、分散剤が配位した金属微粒子であって、前記分散剤が、酸価及びアミン価の両方が0~20mgKOH/gの範囲(但し、酸価又はアミン価の何れか一方が0のとき他方は0ではない)にあり、1つ以上の低極性鎖と1つ以上の極性鎖を有するスターポリマー構造を有している分散剤であることを特徴とする金属微粒子が提供される。
本発明によればまた、溶剤中に、上記金属微粒子を含有することを特徴とする金属微粒子含有分散液が提供される。
本発明の金属微粒子含有分散液においては、
1.前記溶剤が、グリセリンと二相分離可能な溶剤であること、
2.前記グリセリンと二相分離可能な溶剤の濃度が5重量%以下であること、
3.前記溶剤が、水系,炭化水素系,エーテル系,エステル系,グリコールエーテル系,ケトン系、アルコール系の何れかの溶剤であること、
が好適である。
【0009】
本発明によれば更に、グリセリンに脂肪酸金属塩を添加し、これを加熱混合することにより、金属微粒子表面に脂肪酸とグリセリドが配位した金属微粒子が分散したグリセリンを調製する工程、 該金属微粒子が分散したグリセリンに、酸価及びアミン価が0~20mgKOH/gの範囲(但し、酸価又はアミン価の何れか一方が0のとき他方は0ではない)にある分散剤及びグリセリンと二相分離可能な溶剤とを添加混合することにより、金属微粒子表面に脂肪酸とグリセリド、及び分散剤が配位した金属微粒子を含有する混合液を調製する工程、該混合液を二相分離することにより、金属微粒子表面に脂肪酸とグリセリド、及び分散剤が配位した金属微粒子をグリセリンから前記溶剤中に抽出する抽出工程、該抽出工程により得られた金属微粒子含有分散液の溶剤濃度が5重量%以下となるように溶剤を留去する濃縮工程、から成ることを特徴とする金属微粒子含有分散液の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の金属微粒子含有分散液の製造方法においては、
1.前記濃縮工程により得られた金属微粒子含有分散液を水系,炭化水素系,エーテル系,エステル系,グリコールエーテル系の何れかの溶剤で希釈すること、
2.前記脂肪酸金属塩が、Ag、Cu、Znの何れかの金属の脂肪酸塩であること、
3.前記金属微粒子が分散したグリセリンの調製工程において、脂肪酸金属塩と共にサッカリンをグリセリンに添加すること、
が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属微粒子は、特定の分散剤が配位していることにより、種々の希釈溶剤に凝集・沈降することなく均一に分散可能であり、優れた抗菌性能を種々の分散液に付与することが可能になる。
また本発明の金属微粒子含有分散液は、特定の分散剤が配位した金属微粒子が分散性よく、しかも長期にわたって安定して分散状態を維持可能であると共に、水系又は有機溶剤系の何れの溶剤をも分散媒とすることができ、種々の用途に使用することが可能になる。また本発明の金属微粒子含有分散液は、抗菌性能を発現する金属イオンを効率よく溶出可能であり、優れた抗菌性能を発現できる。
更に本発明の金属微粒子含有分散液の製造方法においては、簡単な操作で金属微粒子を収率よく分散液中に抽出することができ、高濃度で金属微粒子を含有する分散液を経済性良く製造することができる。また得られた分散液を濃縮することにより、グリセリンと二相分離可能な抽出溶剤以外の水系又は有機溶剤系の種々の希釈溶剤にも再分散させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】溶剤による金属微粒子上の分散剤を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(金属微粒子及び金属微粒子含有分散液)
本発明の金属微粒子は、Ag、Cu,Znの何れかの金属微粒子表面に、酸価及びアミン価の両方が0~20mgKOH/gの範囲(但し、酸価又はアミン価の何れか一方が0のとき他方は0ではない)にある分散剤が配位していることが重要な特徴である。
【0014】
本発明者等の前述した先行技術によれば、グリセリン中で脂肪酸金属塩を加熱混合することにより、金属微粒子表面に脂肪酸とグリセリドが配位された金属微粒子が形成される。この金属微粒子は脂肪酸基の低極性鎖が及ぼす立体障害の効果が弱く、金属微粒子の分散性、経時安定性が十分ではなく、更に動的光散乱法を用いた電気泳動移動度から求められるゼータ電位は低いが、本発明の金属微粒子においては、更に特定の分散剤が用いられることにより、酸価が0~20mgKOH/g及びアミン価が0~20mgKOH/gの範囲(但し、酸価又はアミン価の何れか一方が0のとき他方は0ではない)の分散剤が脂肪酸とグリセリド上に配位している。この金属微粒子表面に配位された特定の分散剤は、1つ以上の低極性鎖と1つ以上の極性鎖を有しており、無極性溶剤中では分散剤の低極性鎖が分散媒側に配向されるため、無極性溶媒と金属微粒子のぬれ性を高め、低極性鎖同士の立体障害により金属微粒子の凝集を抑制している。一方、水に代表される極性溶媒中では分散剤の極性鎖が界面電気二重層による電気的反発により凝集を抑制している。
【0015】
本発明の金属微粒子においては、特定の分散剤が金属微粒子表面に配位することで、動的光散乱法を用いた電気泳動移動度から求められるゼータ電位が、無極性溶媒中では低極性鎖が分散媒側に配向するため正の電荷を帯び、一方極性溶媒中では分散剤の極性鎖が分散媒側に配向するため負の電荷を帯びているため、ケトン系溶剤のみならず種々の希釈溶剤中に凝集することなく、金属微粒子が再分散することが可能になる。
また本発明の金属微粒子も、脂肪酸及びグリセリドが金属微粒子表面に配位されていることから、上記分散剤の存在と相俟って、溶剤中で凝集することなく均一分散し、一定期間経過後においても金属微粒子は沈殿することがなく、優れた分散安定性を有している。
【0016】
本発明の金属微粒子含有分散液は、上述したAg、Cu,Znの何れかの金属微粒子表面に、酸価及びアミン価の両方が0~20mgKOH/gの範囲(但し、酸価又はアミン価の何れか一方が0のとき他方は0ではない)にある分散剤が配位している金属微粒子が、溶剤中に分散して成ることが重要な特徴である。
本発明の金属微粒子含有分散液は、後述する金属微粒子分散液の製造方法により得られる、グリセリンと二相分離可能な溶剤(以下、単に「抽出溶剤」ということがある)中に、上記金属微粒子が分散した分散液の他、この分散液を濃縮した金属微粒子を高濃度で含有するペースト状分散液を、抽出溶剤以外の他の溶剤に再分散させて成る分散液を含むものである。
前述したとおり、本発明の金属微粒子は、特定の分散剤が配位していることから、種々の溶剤中に、凝集することなく均一に再分散することができ、しかも経時安定性にも優れ、長期にわたって安定した分散状態を維持することができ、透明性にも優れている。また、本発明の金属微粒子分散液は、抗菌成分である金属イオンの溶出性に顕著に優れていることから、優れた抗菌性能を有している。尚、本明細書において、抗菌とは菌の増殖や繁殖を抑制し得ることを意味する。
更に本発明の金属微粒子含有分散液においては、抗菌性能に優れた金属微粒子が溶剤中に均一に分散していることから、この分散液を塗料組成物や樹脂組成物の希釈溶剤として使用することにより、塗膜や樹脂成形体に優れた抗菌性能を付与することができる。
【0017】
本発明の金属微粒子は、後述するように平均一次粒径が100nm以下、平均二次粒径が900nm以下であることから、塗料組成物や樹脂組成物と混合した場合、組成物自体の透明性を低下させることがない。
更に本発明の金属微粒子含有分散液においては、分散液中に存在する金属微粒子は、粒子表面に脂肪酸が配位し、この脂肪酸の周囲又は粒子表面にグリセリドが配位し、更に特定の酸価及びアミン価を有する分散剤が配位した金属微粒子であることから、分散安定性に顕著に優れており、長時間経過した場合でも沈殿することがほとんどなく、透明材を構成する樹脂組成物層に使用された場合においても分散性よく均一に分散する。またこの分散液においては、金属微粒子は、脂肪酸の周囲又は粒子表面にグリセリド、更に分散剤が配位した金属微粒子であることから樹脂組成物層で、金属微粒子表面と樹脂が直接接触することが低減されており、樹脂の分解を有効に抑制して、樹脂の分子量の低下等を低減することができ、成形性や加工性を阻害することも有効に防止されている。
本発明の金属微粒子を製造する方法としては、ガス化などにより気相状態とした原料から反応、凝結、結晶化により粒子化する気相法(電気炉法、レーザー法、熱プラズマ)、溶解などにより液とした原料から反応、分散・固化により粒子化する液相法(ゾルゲル法、還元法)、固層状態の原料から反応による核生成、又は粉砕により粒子化する固層法がある。
【0018】
[抗菌成分]
本発明の金属微粒子において、抗菌成分となる金属種は、Ag(銀),Cu(銅),Zn(亜鉛)の何れかであり、かかる金属を金属種として有する脂肪酸金属塩を用いることにより、脂肪酸が金属微粒子表面に配位する。
このような脂肪酸金属塩における脂肪酸としては、ミリスチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,パルミチン酸,n-デカン酸,パラトイル酸,コハク酸,マロン酸,酒石酸,リンゴ酸,グルタル酸,アジピン酸、酢酸等を挙げることができ、中でもステアリン酸を好適に使用することができる。また金属成分としては、特に銀が好ましい。
[金属微粒子の粒径]
本発明の金属微粒子は、平均一次粒径が100nm以下、特に10~50nmの範囲にあり、平均二次粒径が900nm以下、特に200~700nmの範囲にあることが好適である。
尚、本明細書でいう平均一次粒径とは、金属粒子と金属粒子との間に隙間がないものを一つの粒子とし、その平均をとったものをいい、平均二次粒径は、金属粒子と金属粒子がパッキングした状態の粒子とし、その平均をとったものをいう。
【0019】
[分散剤]
本発明の金属微粒子に配位する、酸価及びアミン価の両方が0~20mgKOH/gの範囲(但し、酸価又はアミン価の何れか一方が0のとき他方は0ではない)にある分散剤としては、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性官能基と、アミノ基、イミノ基、アンモニウム塩基、塩基性窒素原子を有する複素環基等の塩基性官能基とを、モノマー単位で少なくとも一方、好適には両方を有するスターポリマー構造を有する湿潤分散剤であることが望ましく、特に酸価が5~20、11~20、15~20mgKOH/g、アミン価が10~20、15~20mgKOH/gの範囲にある分散剤であることが好ましい。
尚、本発明における湿潤分散剤とは、重量平均分子量が1,000以上の分散剤である。湿潤分散剤の重量平均分子量が1,000以下の場合は、酸性官能基及び/又は塩基性官能基の十分な立体障害を受けられない。また、これらの官能基が結合する樹脂骨格は、特に制限されず、スチレン-マレイン酸共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等から成ることができる。
上記分散剤の酸性官能基及び/又は塩基性官能基が金属微粒子に強固に吸着することにより、金属微粒子に極性が与えられて、金属微粒子同士が電荷により反発すると共に、金属微粒子表面にある程度の長さの修飾基が存在することによって立体障害を形成し、その結果、金属微粒子は溶剤中で凝集や沈降することなく、均一に分散することが可能になると考えられる。
また、本発明の金属微粒子含有分散液に好適に使用できる分散剤としては、これに限定されないが、Disperbyk2091(BYK Chemie社製)等を使用することができる。
【0020】
[溶剤]
本発明の金属微粒子含有分散液において、金属微粒子を分散させる溶剤は、前述したとおり、本発明の金属微粒子含有分散液の製造方法により直接調製された分散液の場合は、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶剤、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等のシクロ環系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤等のグリセリンと二相分離可能な抽出溶剤を例示することができる。
また本発明の金属微粒子含有分散液においては、上記製造方法から調製された分散液における抽出溶剤濃度が5重量%以下になるように濃縮したペースト状の分散液を、抽出溶剤以外の他の溶剤に希釈した分散液であってもよく、この場合には、種々の溶剤に分散することが可能になる。
このような溶剤としては、上記溶剤の他、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、ジエチルエーテル等のエーテル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系溶剤、イソプロピルアルコール等の炭素数3以上のアルコール系溶剤等の他、スチレン、メタクリル酸メチル、蒸留水,イオン交換水,純水等の各種水、等を例示することができる。
【0021】
本発明の分散液においては、上述した種々の溶剤中に種々の濃度で金属微粒子を含有した場合にも、金属微粒子が凝集や沈降することなく、長期にわたって均一に分散可能であるが、抗菌性と分散性のバランスの観点から、10重量%以下の量で金属微粒子を含有することが好ましい。
【0022】
(金属微粒子含有分散液の製造方法)
本発明の金属微粒子含有分散液の製造方法においては、グリセリンに脂肪酸金属塩を添加し、これを加熱混合することにより、金属微粒子表面に脂肪酸とグリセリドが配位した金属微粒子が分散したグリセリンを調製する工程(以下、「工程(A)」という)、上記工程(A)で調製された、金属微粒子が分散したグリセリンに、酸価及びアミン価が0~20の範囲にある分散剤、及びグリセリンと二相分離可能な抽出溶剤とを添加混合することにより、金属微粒子表面に脂肪酸とグリセリド、及び分散剤が配位した金属微粒子を含有する混合液を調製する工程(以下、「工程(B)」という)、上記工程(B)で調製された混合液を二相分離することにより、金属微粒子表面に脂肪酸とグリセリド、及び分散剤が配位した金属微粒子をグリセリンから前記抽出溶剤中に抽出する抽出工程「以下、「工程(C)」という)、から成ることが重要な特徴である。
【0023】
[工程(A)]
工程(A)では、グリセリン中で、金属微粒子表面に脂肪酸及びグリセリドが配位して成る金属微粒子が生成される。工程(A)における加熱条件は、脂肪酸及びグリセリドが配位した金属微粒子が形成され得る限り特に制限はないが、脂肪酸金属塩をグリセリンに添加し、添加した後のグリセリンの温度が120~230℃、特に140~170℃の範囲となるように加熱し、加熱温度によって左右されるが、10~120分間、特に30~80分間加熱混合することにより、金属微粒子表面に脂肪酸とグリセリドが配位した金属微粒子をグリセリン中に形成することが可能になる。すなわち、脂肪酸金属塩を上記温度範囲で加熱することにより、脂肪酸金属塩が脂肪酸と金属に分解還元されて、金属微粒子を形成し、脂肪酸が粒子表面に配位する。脂肪酸とグリセリンのエステル化反応が進行してグリセリドが生成されると共に、金属微粒子表面に脂肪酸と同様にグリセリドが配位することにより、脂肪酸とグリセリドが配位して成る金属微粒子がグリセリン中に分散される。
この際、抗菌成分である脂肪酸金属塩は、グリセリン100重量部に対して0.1~30重量部の量で配合することが望ましい。より好ましくは、グリセリン100重量部に対して0.1~10重量部が望ましい。上記範囲よりも脂肪酸金属塩の配合量が少ない場合には、充分な抗菌性能を分散液に付与することができず、その一方上記範囲よりも脂肪酸金属塩の配合量が多ければ、より抗菌効果を高くすることが可能であるが、経済性及び成形性の点で好ましくない。
また本発明においては、脂肪酸金属塩と共にサッカリンを配合することが、脂肪酸及びグリセリドが配位した金属微粒子を効率よく生成する上で好適である。サッカリンの配合量は、グリセリン100重量部に対して0.01~1重量部の量であることが好適である。
【0024】
[工程(B)]
次いで、工程(A)で調製した金属微粒子含有グリセリンに、酸価が0~20mgKOH/g及びアミン価が0~20mgKOH/gの範囲(但し、酸価又はアミン価の何れか一方が0のとき他方は0ではない)にある分散剤と抽出溶剤を添加した後、攪拌混合して、金属微粒子表面に脂肪酸とグリセリド、及び分散剤が配位した金属微粒子を含有する混合液を調製する。
分散剤は、脂肪酸金属塩100重量部に対して0.1~5重量部の量で配合されることが好適である。上記範囲よりも分散剤の量が少ない場合には、金属微粒子の分散性が上記範囲にある場合に比して劣るようになり、抽出溶剤以外の溶剤への再分散性に劣るおそれがあり、一方上記範囲よりも分散剤の量が多くても更なる効果の向上は望めず、経済性に劣るおそれがある。
【0025】
グリセリンと二相分離可能な抽出溶剤としては、前述した、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶剤、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等のシクロ環系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤等、を例示することができるが、本発明においては特に、二相分離に際してグリセリン中の金属微粒子を効率よく抽出可能とするために、上述した脂肪酸又はグリセリドと相溶性の高い溶剤を選択することが望ましいことから、粒子表面に配位する脂肪酸又はグリセリドのSP値(溶解度パラメータ)との差(絶対値)が、3以下となるようなSP値を有する溶剤を選択することが望ましい。このような抽出溶剤としては、トルエンを例示することができる。
グリセリンと二相分離可能な抽出溶剤の添加量は、グリセリン100重量部に対して10~200重量部の範囲にあることが望ましい。また、抽出溶剤の添加量を変化させることで抽出溶剤中の銀濃度を変更することができる。
また混合液の調製に際して、抽出溶剤と共に抽出補助剤としてエチレングリコール等の高沸点溶剤を一緒に添加することもでき、このような高沸点溶剤は、抽出溶剤100重量部に対して10~200、特に50~100重量部の範囲にあることが好ましい。
【0026】
[工程(C)]
上記工程(B)で調製されたグリセリンと抽出溶剤の混合液を二相分離することにより、金属微粒子表面に脂肪酸とグリセリド、及び分散剤が配位した金属微粒子をグリセリンから前記抽出溶剤中に抽出する。
二相分離は、混合液を0~40℃の温度で60分以上、好適には、1日~1週間静置することにより、グリセリン及び抽出溶剤が相分離され、グリセリン中に存在していた、表面に脂肪酸とグリセリドが配位すると共に、特定の酸価及びアミン価を有する分散剤が配位して成る金属微粒子は抽出溶剤側に抽出される。また未反応の脂肪酸金属塩や還元が進行しすぎて金属のみとなった凝集体はグリセリン中に残存するため、グリセリンを除去することによって、抽出溶剤中には金属微粒子のみが分散した分散液を得ることができる。
尚、グリセリンの除去は、単蒸留、減圧蒸留、精密蒸留、薄膜蒸留、抽出、膜分離等、従来公知の方法により行うことができる。が、より好適にはデカンテーションすることでグリセリンを除去することができる。
【0027】
[工程(D)]
本発明の金属微粒子含有分散液においては、上述した工程(A)~(C)から成る製造方法により得られた、抽出溶剤中に金属微粒子が均一に分散する金属微粒子含有分散液のみならず、抽出溶剤以外の種々の溶剤に金属微粒子が均一に分散した分散液を提供することができる。
すなわち、上記工程(A)~(C)を経て得られた、抽出溶剤中に金属微粒子が均一に分散する金属微粒子含有分散液を、抽出溶剤の濃度が5重量%以下になるように抽出溶剤を留去して、分散液を濃縮する。
濃縮方法としては、抽出溶剤の揮発温度以上の温度で加熱して揮発させる方法の他、分散液を遠心分離器等を用いて沈澱処理して、抽出溶剤をデカンテーションなどにより分離する方法、膜分離等、従来公知の方法により濃縮することができる。
このようにして抽出溶剤の濃度が5重量%以下に濃縮された金属微粒子含有分散液は、抽出溶剤のみならず、前述した他の溶剤、すなわち、水系,炭化水素系,エーテル系,エステル系,グリコールエーテル系の何れかの溶剤で種々の濃度となるように希釈して、金属微粒子含有分散液とすることが可能であり、これにより、各種の塗料組成物や樹脂組成物の希釈溶剤として使用することができる。
【0028】
(金属微粒子含有分散液の使用)
本発明の金属微粒子含有分散液は、塗料組成物や樹脂組成物の希釈溶剤として好適に使用することができ、これにより、塗料組成物や樹脂組成物の透明性を損なうことなく、かかる塗料組成物からなる塗膜、或いは樹脂組成物から成る樹脂成形体を得ることが可能となる。
このような塗料組成物としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂や、或いは光硬化型アクリル系樹脂等をベース樹脂とするものを挙げることができる。
また樹脂組成物としては、上記熱硬化性樹脂の他、低-,中-,高-密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、プロピレン-エチレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタエート等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂から成るものを挙げることができる。
本発明の金属微粒子含有分散液は、透明性に優れていることから、特に高い透明性が要求されるアクリル系樹脂、中でも光硬化型アクリル系樹脂から成る組成物の希釈溶剤として使用することが好適である。
【実施例】
【0029】
以下に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
(銀濃度の測定試験)
表1、表2に記載の銀濃度ついて測定試験を行った。分散液2.0gに5mlの純水と5mlの硝酸を加え加熱した後、250mlに純水でメスアップした液を誘導結合プラズマ発光分析装置にて銀濃度を測定した。尚、MIBK中の銀が沈降し分散が維持できていないものは、表中で「不可」として示した。
【0031】
(極大吸収波長と吸光度の測定試験)
表2に記載の極大吸収波長および吸光度について測定試験を行った。各金属微粒子含有分散液は銀濃度を0.01wt%に統一し、紫外可視分光光度計(日本分光(株)社製V-570)を用いて、400nm付近の極大吸収波長と吸光度absを評価した。吸光度absは、2以上をA、2未満1以上をB、1未満をCとして評価した。尚、銀ナノ粒子が存在する場合、波長400nm付近に銀ナノ粒子の表面プラズモンに由来する鋭い吸収が認められる。
【0032】
(ゼータ電位の測定試験)
表3に記載のゼータ電位について測定試験を行った。ゼータ電位・粒径システム(大塚電子(株)社製ELSZ-1000ZS)を用いて、金属微粒子上のゼータ電位を評価した。
【0033】
(実施例1~3)
グリセリン1000gにステアリン酸銀5.56gとサッカリン0.56gを加え、毎分150回転で150℃、15分間加熱撹拌し、80℃まで冷却した。メチルイソブチルケトン 1kgに酸価が0~20mgKOH/g及びアミン価が0~20mgKOH/gの範囲にある分散剤を50g添加し、上記グリセリンへゆっくり加え撹拌した。24時間静置した後にメチルイソブチルケトン層を採取し、銀粒子含有した分散液を得た。
【0034】
(比較例1)
実施例1の製造において用いられた抽出溶剤 メチルイソブチルケトンに分散剤を添加しない以外は、実施例1の製造と同様に作製した。
【0035】
(比較例2~10)
実施例1の製造において用いられた抽出溶剤 メチルイソブチルケトンに酸価が>20mgKOH/g及び/もしくはアミン価が>20mgKOH/gの範囲にある分散剤を添加した以外は、実施例1の製造と同様に作製した。
【0036】
【0037】
(実施例4)
実施例2の分散液をEYELA社製エバポレーター(NVC-2100)により40hPa、50℃で濃縮することにより、濃縮液を作製した。濃縮後に残された分散溶媒は10質量%以下まで低減されていた。尚、この濃縮液でも同様に、波長400nm付近の極大吸収波長があり、銀ナノ粒子に由来する表面プラズモンが確認できた。
【0038】
(実施例5)
実施例4の濃縮液にトルエン 1000gを滴下し、300rpmで10分間撹拌することでトルエンに銀粒子が分散した分散液を得た。
【0039】
(実施例6~7)
実施例5の製造において用いられたトルエンの量を変更した以外は、実施例5の製造と同様に作製した。
【0040】
(実施例8~12)
実施例5の製造において用いられた溶剤 トルエンを表に記載した溶剤に変更した以外は実施例5の製造と同様に作製した。
【0041】
【0042】
表2より明らかなように、実施例4の濃縮液はSP値が異なる溶剤に分散した場合でも極大吸収波長および吸光度が同等であることがわかる。また、溶剤量を変えても極大吸収波長および吸光度が変化せず、銀濃度が上昇したことから、銀濃度に関わらず分散を維持していることがわかる。
【0043】
実施例2、実施例5、実施例8について、ゼータ電位を評価した結果、表3より明らかなように、金属微粒子表面上に配位した分散剤の低極性鎖および極性鎖は、溶媒種によって変化することができ、金属微粒子の凝集を抑制していることがわかる。
【0044】