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特許7132727Al合金の凝固割れ感受性の予測方法および予測装置と予測プログラム
<図1>
  • 特許-Al合金の凝固割れ感受性の予測方法および予測装置と予測プログラム 図1
  • 特許-Al合金の凝固割れ感受性の予測方法および予測装置と予測プログラム 図2
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  • 特許-Al合金の凝固割れ感受性の予測方法および予測装置と予測プログラム 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】Al合金の凝固割れ感受性の予測方法および予測装置と予測プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/06 20060101AFI20220831BHJP
   G01N 25/04 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
G01N25/06 B
G01N25/04 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018043597
(22)【出願日】2018-03-09
(65)【公開番号】P2019158480
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】谷口 兼一
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-221282(JP,A)
【文献】特開2009-262235(JP,A)
【文献】特開平09-311114(JP,A)
【文献】特開平06-186181(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0072170(US,A1)
【文献】高井 量資,アルミニウム合金およびマグネシウム合金の 鋳造時の凝固割れ感受性(その2),軽金属,第68巻 第2号,日本,2018年,79頁-90頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00-25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成に応じた複数のAl合金の凝固時の割れの発生のし易さを予測する方法であって、
予測するべきAl合金の組成を用い、液相から固相までの温度毎の相変化を求め、求めた温度と凝固率の関係を示す凝固率曲線を求める凝固率曲線策定ステップと、
前記凝固率曲線において当該Al合金の凝固率が0.6~0.8の範囲内で任意の第1の位置を策定し、初晶の晶出が終了して前記凝固率曲線にその勾配が不連続な変化点を示す位置か、該変化点を生じない場合は凝固率が0.95となる場合の早い方の位置を第2の位置として策定し、前記第1の位置と前記第2の位置を結ぶ直線を求め、該直線と先に求めた凝固率曲線とで囲まれる領域の面積Sを求める面積算出ステップと、
予測するべき複数のAl合金の組成に応じて求めた前記複数の面積Sの対比により、前記面積Sの大きい方のAl合金が凝固割れを発生し易いと判断する判断ステップを具備することを特徴とするAl合金の凝固割れ感受性の予測方法。
【請求項2】
温度と固相率との関係を示す熱力学データベースに基づき、凝固計算にScheil-Gulliverの偏析モデルを用いて液相から固相までの温度毎の相変化を計算する方法に基づいて前記凝固曲線策定ステップを行うか、示差走査熱量計による測定結果に基づいて前記凝固曲線策定ステップを行うか、示差熱分析結果に基づいて前記凝固曲線策定ステップを行うことを特徴とする請求項1に記載のAl合金の凝固割れ感受性の予測方法。
【請求項3】
前記面積Sは熱力学的データベースによる凝固率を示す関数fdと前記直線を示す関数flとの差の足し算であり、前記fdと前記flは温度Tの関数であり、凝固率0.6~0.8の際の温度をT0.6~0.8、初晶晶出終了時の温度をTeとして以下の(1)式の関係を有することを特徴とする請求項2に記載のAl合金の凝固割れ感受性の予測方法。
【数1】
【請求項4】
前記Al合金が、質量%でSi:0.0001~3.3%、Fe:0.0001~2.0%、Cu:0.0001~10.0%、Mn:0.0001~10.0%、Mg:0.0001~10.0%、Cr:0.0001~1.0%、Zn:0.0001~10.0%、Ti:0.0001~1.0%、Ni:0.0001~1.5%、Li:0.0001~5.0%、Zr:0.0001~1.0%、B:0.0001~1.0%、Pb:0.0001~0.5%、Bi:0.0001~0.5%、V:0.0001~0.5%のうち、1種または2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物からなり、凝固後のAl合金のα相の体積率が80%以上であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のAl合金の凝固割れ感受性の予測方法。
【請求項5】
組成に応じた複数のAl合金の凝固時の割れの発生のし易さを予測する装置であって、
予測するべきAl合金の組成を用い、液相から固相までの温度毎の相変化を求め、求めた温度と凝固率の関係を示す凝固率曲線を求める凝固率曲線策定手段と、
前記凝固率曲線において当該Al合金の凝固率が0.6~0.8の範囲内で任意の第1の位置を策定し、初晶の晶出が終了して前記凝固率曲線にその勾配が不連続な変化点を示す位置か、該変化点を生じない場合は凝固率が0.95となる場合の早い方の位置を第2の位置として策定し、前記第1の位置と前記第2の位置を結ぶ直線を求め、該直線と先に求めた凝固率曲線とで囲まれる領域の面積Sを求める面積算出手段と、
予測するべき複数のAl合金の組成に応じて求めた前記複数の面積Sの対比により、前記面積Sの大きい方のAl合金が凝固割れを発生し易いと判断する判断手段を具備することを特徴とするAl合金の凝固割れ感受性の予測装置。
【請求項6】
前記凝固曲線策定手段が、温度と固相率との関係を示す熱力学データベースに基づき、凝固計算にScheil-Gulliverの偏析モデルを用いて液相から固相までの温度毎の相変化を計算する手段であることを特徴とする請求項5に記載のAl合金の凝固割れ感受性の予測装置。
【請求項7】
前記面積Sは熱力学的データベースによる凝固率を示す関数fdと前記直線を示す関数flとの差の足し算であり、前記fdと前記flは温度Tの関数であり、凝固率0.6~0.8の際の温度をT0.6~0.8、初晶晶出終了時の温度をTeとして以下の(1)式の関係を有することを特徴とする請求項6に記載のAl合金の凝固割れ感受性の予測装置。
【数2】
【請求項8】
前記Al合金が、質量%でSi:0.0001~3.3%、Fe:0.0001~2.0%、Cu:0.0001~10.0%、Mn:0.0001~10.0%、Mg:0.0001~10.0%、Cr:0.0001~1.0%、Zn:0.0001~10.0%、Ti:0.0001~1.0%、Ni:0.0001~1.5%、Li:0.0001~5.0%、Zr:0.0001~1.0%、B:0.0001~1.0%、Pb:0.0001~0.5%、Bi:0.0001~0.5%、V:0.0001~0.5%のうち、1種または2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物からなり、凝固後のAl合金のα相の体積率が80%以上であることを特徴とする請求項5~請求項7のいずれか一項に記載のAl合金の凝固割れ感受性の予測装置。
【請求項9】
組成に応じた複数のAl合金の凝固時の割れの発生のし易さを予測するプログラムであって、コンピューターを、
予測するべきAl合金の組成を用い、液相から固相までの温度毎の相変化を求め、求めた温度と凝固率の関係を示す凝固率曲線を求める凝固率曲線策定手段と、
前記凝固率曲線において当該Al合金の凝固率が0.6~0.8の範囲内で任意の第1の位置を策定し、初晶の晶出が終了して前記凝固率曲線にその勾配が不連続な変化点を示す位置か、該変化点を生じない場合は凝固率が0.95となる場合の早い方の位置を第2の位置として策定し、前記第1の位置と前記第2の位置を結ぶ直線を求め、該直線と先に求めた凝固率曲線とで囲まれる領域の面積Sを求める面積算出手段と、
予測するべき複数のAl合金の組成に応じて求めた前記複数の面積Sの対比により、前記面積Sの大きい方のAl合金が凝固割れを発生し易いと判断する判断手段として機能させることを特徴とするAl合金の凝固割れ感受性の予測プログラム。
【請求項10】
前記凝固曲線策定手段が、温度と固相率との関係を示す熱力学データベースに基づき、凝固計算にScheil-Gulliverの偏析モデルを用いて液相から固相までの温度毎の相変化を計算する手段であることを特徴とする請求項9に記載のAl合金の凝固割れ感受性の予測プログラム。
【請求項11】
前記面積Sは熱力学的データベースによる凝固率を示す関数fdと前記直線を示す関数flとの差の足し算であり、前記fdと前記flは温度Tの関数であり、凝固率0.6~0.8の際の温度をT0.6~0.8、初晶晶出終了時の温度をTeとして以下の(1)式の関係を有することを特徴とする請求項10に記載のAl合金の凝固割れ感受性の予測プログラム。
【数3】
【請求項12】
前記Al合金が、質量%でSi:0.0001~3.3%、Fe:0.0001~2.0%、Cu:0.0001~10.0%、Mn:0.0001~10.0%、Mg:0.0001~10.0%、Cr:0.0001~1.0%、Zn:0.0001~10.0%、Ti:0.0001~1.0%、Ni:0.0001~1.5%、Li:0.0001~5.0%、Zr:0.0001~1.0%、B:0.0001~1.0%、Pb:0.0001~0.5%、Bi:0.0001~0.5%、V:0.0001~0.5%のうち、1種または2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物からなり、凝固後のAl合金のα相の体積率が80%以上であるAl合金に適用することを特徴とする請求項10または請求項11に記載のAl合金の凝固割れ感受性の予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al合金の凝固割れ感受性の予測方法および予測装置と予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
Al合金はAlを主成分としてFe、Si、Mn、Mg、Cu、Znなどの様々な添加元素が含まれている。Al合金を製造する場合はこれら添加元素が溶質元素として共晶反応を伴うことがあり、凝固過程で残留融液中に添加元素が濃縮されると、亜共晶領域では濃縮が進むにつれてAl合金の凝固温度が低下する。また、冷却過程で熱収縮に伴う熱応力が作用するが、濃縮の進行に伴って凝固温度が低下すると冷却に伴って発生した熱収縮によるひずみによって凝固部分に割れを生じるおそれがある。
【0003】
このような凝固割れを生じた鋳造品は、後工程に利用することが難しいから、スクラップとして再溶融して利用することとなり、甚大なロスを生じる。従って、Al合金の成分による凝固割れの影響や鋳造工程における凝固割れ発生の有無はAl合金の製造工程における解決するべき重要な課題と考えられる。
【0004】
例えば、以下の特許文献1あるいは非特許文献1には、Al合金の凝固割れ感受性を予測する方法が開示されている。
特許文献1に記載の技術では、凝固観察領域を複数に区切り、1区分ずつ凝固が進行すると仮定し、液体組成から液相線温度と固相分配係数を算出する工程と、固相分配係数を基に生成する固相とそれに隣接した液相の成分を算出する工程を有する。そして、これらの工程で求められた隣接液相の成分組成から液相の凝固温度を算出する工程と、想定合金温度が凝固温度を下回った時点で新たに生成する固相および液相について上述の計算を繰り返す工程を備えている。
特許文献1に記載の技術は、凝固シミュレーションを用いて偏析を考慮し、液相線温度と固相線温度の差を求め、凝固割れの傾向を求める技術と考えられる。
【0005】
非特許文献1に記載の技術では、ある程度の強度を持ち、かつ、その強度が低く容易に変形し、固相が破断しても融液が補給されない領域を固相率0.75~0.95の領域と設定し、この固相率領域でのひずみとひずみ速度の差で割れが起きると定義する。そして、鋳塊表面の鋳造方向位置では、鋳造初期表面部が拘束部となり、固相率領域のデンドライトが収縮することでひずみが生じて割れると仮定している。また、鋳塊表面の厚さ方向では、固相率領域に固相率が異なる半凝固部が存在し、低固相率部が拘束となって高固相率部が割れると仮定している。
非特許文献1に記載の技術では、固相率と強度発生の相関、偏析の計算、ひずみを考慮し、固相率0.75と0.95の場合において、温度変化に対するひずみ発生の速度差を指標として用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005―062108号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】森下誠他、「DC鋳造におけるAl-Mn系およびAl-Mg系アルミニウム合金の割れ感受性予測方法」、軽金属、第59巻、第8号、(2009)、P417~P423
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されている技術は、凝固シミュレーションを用いて偏析を考慮し、液相線温度と固相線温度の差を求め、凝固割れの傾向を求めている。しかし、この技術では凝固の際のひずみの発生を考慮しておらず、温度情報のみに基づいて解析しているので、凝固割れ発生の検出感度を高くできない問題がある。
非特許文献1に記載されている技術は、固相率と強度発生の相関、偏析の計算、ひずみの影響を考慮することで予測精度を向上させていると考えられるが、本願出願人が種々のアルミニウム合金の鋳造について研究したところ、非特許文献1の技術によっても鋳造時の割れ発生状況を十分には把握できないと認識している。
Al合金は、種々の要望に応じて様々な添加元素を加え、新規組成の合金を鋳造する機会も多いが、新たな組成比のAl合金において鋳造前に割れやすい合金であるのか、割れ難い合金であるのかの方向性を把握できることは重要な課題であると考えられる。
【0009】
本願発明は、これらの背景に鑑み、新規組成のAl合金であっても凝固割れ感受性をこれまで以上の高い精度で予測できる方法および凝固割れ感受性を改善したAl合金の製造方法の提供を目的とする。また、本願発明は、新規組成のAl合金であっても凝固割れ感受性を予測できる装置と凝固割れ感受性予測プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係るAl合金の凝固割れ感受性の予測方法は、組成に応じた複数のAl合金の凝固時の割れの発生のし易さを予測する方法であって、予測するべきAl合金の組成を用い、液相から固相までの温度毎の相変化を求め、求めた温度と凝固率の関係を示す凝固率曲線を求める凝固率曲線策定ステップと、前記凝固率曲線において当該Al合金の凝固率が0.6~0.8の範囲内で任意の第1の位置を策定し、初晶の晶出が終了して前記凝固率曲線にその勾配が不連続な変化点を示す位置か、該変化点を生じない場合は凝固率が0.95となる場合の早い方の位置を第2の位置として策定し、前記第1の位置と前記第2の位置を結ぶ直線を求め、該直線と先に求めた凝固率曲線とで囲まれる領域の面積Sを求める面積算出ステップと、予測するべき複数のAl合金の組成に応じて求めた前記複数の面積Sの対比により、前記面積Sの大きい方のAl合金が凝固割れを発生し易いと判断する判断ステップを具備することを特徴とする。
【0011】
(2)本発明に係るAl合金の凝固割れ感受性の予測方法において、温度と固相率との関係を示す熱力学データベースに基づき、凝固計算にScheil-Gulliverの偏析モデルを用いて液相から固相までの温度毎の相変化を計算する方法に基づいて前記凝固曲線策定ステップを行うか、示差走査熱量計による測定結果に基づいて前記凝固曲線策定ステップを行うか、示差熱分析結果に基づいて前記凝固曲線策定ステップを行うことができる。
(3)本発明に係るAl合金の凝固割れ感受性の予測方法において、前記面積Sは熱力学的データベースによる凝固率を示す関数fdと前記直線を示す関数flとの差の足し算であり、前記fdと前記flは温度Tの関数であり、凝固率0.6~0.8の際の温度をT0.6~0.8、初晶晶出終了時の温度をTeとして以下の(1)式の関係を有することが好ましい。
【0012】
【数1】
【0013】
(4)本発明に係るAl合金の凝固割れ感受性の予測方法において、前記Al合金が、質量%でSi:0.0001~3.3%、Fe:0.0001~2.0%、Cu:0.0001~10.0%、Mn:0.0001~10.0%、Mg:0.0001~10.0%、Cr:0.0001~1.0%、Zn:0.0001~10.0%、Ti:0.0001~1.0%、Ni:0.0001~1.5%、Li:0.0001~5.0%、Zr:0.0001~1.0%、B:0.0001~1.0%、Pb:0.0001~0.5%、Bi:0.0001~0.5%、V:0.0001~0.5%のうち、1種または2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物からなり、凝固後のAl合金のα相の体積率が80%以上であるAl合金を適用できる。
【0014】
(5)本発明に係るAl合金の凝固割れ感受性の予測装置は、組成に応じた複数のAl合金の凝固時の割れの発生のし易さを予測する装置であって、予測するべきAl合金の組成を用い、液相から固相までの温度毎の相変化を求め、求めた温度と凝固率の関係を示す凝固率曲線を求める凝固率曲線策定手段と、前記凝固率曲線において当該Al合金の凝固率が0.6~0.8の範囲内で任意の第1の位置を策定し、初晶の晶出が終了して前記凝固率曲線にその勾配が不連続な変化点を示す位置か、該変化点を生じない場合は凝固率が0.95となる場合の早い方の位置を第2の位置として策定し、前記第1の位置と前記第2の位置を結ぶ直線を求め、該直線と先に求めた凝固率曲線とで囲まれる領域の面積Sを求める面積算出手段と、予測するべき複数のAl合金の組成に応じて求めた前記複数の面積Sの対比により、前記面積Sの大きい方のAl合金が凝固割れを発生し易いと判断する判断手段を具備することを特徴とする。
【0015】
(6)本発明に係るAl合金の凝固割れ感受性の予測装置において、前記凝固曲線策定手段が、温度と固相率との関係を示す熱力学データベースに基づき、凝固計算にScheil-Gulliverの偏析モデルを用いて液相から固相までの温度毎の相変化を計算する手段であることが好ましい。
(7)本発明に係るAl合金の凝固割れ感受性の予測装置において、前記面積Sは熱力学的データベースによる凝固率を示す関数fdと前記直線を示す関数flとの差の足し算であり、前記fdと前記flは温度Tの関数であり、凝固率0.6~0.8の際の温度をT0.6~0.8、初晶晶出終了時の温度をTeとして以下の(1)式の関係を有することが好ましい。
【0016】
【数2】
【0017】
(8)本発明に係るAl合金の凝固割れ感受性の予測装置において、前記Al合金が、質量%でSi:0.0001~3.3%、Fe:0.0001~2.0%、Cu:0.0001~10.0%、Mn:0.0001~10.0%、Mg:0.0001~10.0%、Cr:0.0001~1.0%、Zn:0.0001~10.0%、Ti:0.0001~1.0%、Ni:0.0001~1.5%、Li:0.0001~5.0%、Zr:0.0001~1.0%、B:0.0001~1.0%、Pb:0.0001~0.5%、Bi:0.0001~0.5%、V:0.0001~0.5%のうち、1種または2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物からなり、凝固後のAl合金のα相の体積率が80%以上であるAl合金を適用することができる。
【0018】
(9)本発明に係るAl合金の凝固割れ感受性の予測プログラムは、組成に応じた複数のAl合金の凝固時の割れの発生のし易さを予測するプログラムであって、コンピューターを、
予測するべきAl合金の組成を用い、液相から固相までの温度毎の相変化を求め、求めた温度と凝固率の関係を示す凝固率曲線を求める凝固率曲線策定手段と、
前記凝固率曲線において当該Al合金の凝固率が0.6~0.8の範囲内で任意の第1の位置を策定し、初晶の晶出が終了して前記凝固率曲線にその勾配が不連続な変化点を示す位置か、該変化点を生じない場合は凝固率が0.95となる場合の早い方の位置を第2の位置として策定し、前記第1の位置と前記第2の位置を結ぶ直線を求め、該直線と先に求めた凝固率曲線とで囲まれる領域の面積Sを求める面積算出手段と、予測するべき複数のAl合金の組成に応じて求めた前記複数の面積Sの対比により、前記面積Sの大きい方のAl合金が凝固割れを発生し易いと判断する判断手段として機能させることを特徴とする。
【0019】
(10)本発明に係るAl合金の凝固割れ感受性の予測プログラムにおいて、前記凝固曲線策定手段が、温度と固相率との関係を示す熱力学データベースに基づき、凝固計算にScheil-Gulliverの偏析モデルを用いて液相から固相までの温度毎の相変化を計算する手段であることが好ましい。
(11)本発明に係るAl合金の凝固割れ感受性の予測プログラムにおいて、前記面積Sは熱力学的データベースによる凝固率を示す関数fdと前記直線を示す関数flとの差の足し算であり、前記fdと前記flは温度Tの関数であり、凝固率0.6~0.8の際の温度をT0.6~0.8、初晶晶出終了時の温度をTeとして以下の(1)式の関係を有することが好ましい。

【0020】
【数3】
【0021】
(12)本発明に係るAl合金の凝固割れ感受性の予測プログラムにおいて、前記Al合金が、質量%でSi:0.0001~3.3%、Fe:0.0001~2.0%、Cu:0.0001~10.0%、Mn:0.0001~10.0%、Mg:0.0001~10.0%、Cr:0.0001~1.0%、Zn:0.0001~10.0%、Ti:0.0001~1.0%、Ni:0.0001~1.5%、Li:0.0001~5.0%、Zr:0.0001~1.0%、B:0.0001~1.0%、Pb:0.0001~0.5%、Bi:0.0001~0.5%、V:0.0001~0.5%のうち、1種または2種以上を含み、残部Al及び不可避不純物からなり、凝固後のAl合金のα相の体積率が80%以上であるAl合金に適用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、凝固率曲線において凝固率0.6~0.8の間の第1の位置と、初晶の晶出終了時の凝固率曲線の勾配が不連続な変化点か凝固率0.95の第2の位置とを結ぶ直線を策定し、凝固率曲線と直線とで囲まれる面積Sを算出し、比較するAl合金どうしの面積Sの大きさを比較することで比較したAl合金の中で面積Sが大きいものを凝固割れが発生し易い合金であると予測することができる。
Al合金において第1の位置は凝固時の強度を持ち始める位置であり、この第1の位置と第2の位置との間の潜熱発生の非線形性の積分値がAl合金凝固時の割れやすさの指標になると考えられる。
Al合金が一定の冷却速度で冷却されると、早くても、遅くても冷却による熱応力は発生しないが、潜熱発生による線形差からのズレの積分値が凝固割れを生じさせるひずみの原因であると考えることができ、このズレの積分値、即ち、面積Sの大小を比較することでAl合金の割れやすさの比較ができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】Al合金の鋳塊を縦型半連続鋳造装置にて鋳造する状態の一例を示す概略図。
図2】本発明の第1実施形態に係る凝固割れ感受性の予測方法のフローを示すフローチャート。
図3】第1実施形態のフローにおいて多元系合金の物性値計算ソフトウエアを適用して凝固率曲線を策定し、面積Sを算出する場合のフローを示すフローチャート。
図4】第1実施形態に係る凝固割れ感受性の予測装置及び凝固割れ感受性の予測プログラムの一実施形態を示すブロック図。
図5】実施例において多元系合金の物性値計算ソフトウエアを用いて特定組成のAl合金の凝固率曲線を策定した一例を示すグラフ。
図6】同多元系合金の物性値計算ソフトウエアを用いてAl合金の凝固率曲線を策定する場合に得られる凝固率と温度の関係の一例を示すグラフ。
図7】凝固率曲線において凝固率0.95付近に特異点が生じた場合の一例を示すグラフ。
図8】同特異点の部分を拡大して示すグラフ。
図9】凝固率曲線を算出したデータを表計算ソフトにはき出して得た数列の一例と温度幅および凝固率曲線の傾きを計算する過程を説明するための説明図であり、(A)は700~682℃における温度の列と勾配の列と0.75との差の列と線形y座標の列と非線形の差のdtの列の数値を示す図、(B)は635~625℃における同列の数値を示す図、(C)は558~548℃における同列の数値を示す図、(D)はこれらの数値を用いてT1、T2、R1、R2、T1-T2、R1-R2、|R1-R2|/dtなどの値を計算した結果の数値を示す図。
図10】複数の組成のAl合金について、物性値計算ソフトウエアを用いて算出した各Al合金の凝固率曲線を対比して示すグラフ。
図11図10に示す各合金の凝固率曲線の対比から、面積Sを算出した結果を対比して示す説明図。
図12図10に示す各Al合金において、凝固率0.75~0.95の領域IIにおけるひずみ速度差とΔTIIの関係を示すグラフ。
図13図7に示す特異点が生じた場合に該当するAl合金の凝固率曲線において晶出直前の傾きを手動で採用した場合に得られた補正結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る凝固割れ感受性の予測方法、及び、これを用いた凝固割れ感受性の予測装置と凝固割れ感受性の予測プログラムについて、添付図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明の第1実施形態に係る凝固割れ感受性の予測方法は、Al合金の鋳塊を半連続鋳造方法により製造する場合に凝固過程でみられる凝固割れ発生の難易を予測する方法に関する。
ここで、本実施形態に係る凝固割れ感受性の予測方法の詳細について説明する前に、半連続鋳造方法を実施する場合に用いる縦型水冷式の半連続鋳造装置(DC鋳造装置)について図1を参照しつつ説明する。
【0025】
図1に示す半連続鋳造装置1は、Al合金の溶湯2が収容されているローンダー3と、ローンダー3の下に設けられているノズル5と、ノズル5の下方を囲むように設けられた鋳型6と、図示略の油圧シリンダー等により鋳型6の下方において上下方向に移動自在に設けられたボトムブロック7を備えて構成されている。
前記鋳型6内には冷却水Wが満たされており、鋳型6の下方に移動する溶湯2の周囲に鋳型下部の吐出部6aから冷却水Wを供給することで溶湯2を冷却し、所定形状の鋳塊9としてボトムブロック7の上に連続的に鋳造することができるようになっている。
鋳塊9が所定の長さになると、鋳型6への溶湯2の注入とボトムブロック7の引き下げを停止することで所定の形状、大きさの鋳塊9を得ることができる。
なお、ノズル5の先端側周囲部分に図示略のフロート型の湯面制御システムを設けて鋳塊9の上方に形成されている溶湯プール10の流れを制御しても良い。
【0026】
本発明に係る凝固割れ感受性の予測方法は、このようなDC鋳造を行うにあたり、例えば、新規あるいは所望する組成成分を有するAl合金を用いて鋳塊9を鋳造する場合に先立って、当該Al合金からなる鋳塊9が凝固割れし易いものであるか否かを予測するための方法と装置およびプログラムを提供するものである。
【0027】
図2に示すように、本発明の第1実施形態に係る凝固割れ感受性の予測方法は、入力ステップS1と凝固率曲線策定ステップS2と面積S算出ステップS3と判断ステップS4と出力ステップS5を含み、この手順に基づいて実行される。
以下、入力ステップS1と凝固率曲線策定ステップS2を実施する場合に用いて好適な物性値計算ソフトウエアについて説明する。
本実施形態においては、株式会社ユーイーエス・ソフトウエア・アジアが市販している物性値計算ソフトウエアのJmatPro(商品名)を用いて入力ステップS1と凝固率曲線策定ステップS2の主要な部分を実施することができる。
【0028】
JmatPro(商品名)は、合金の温度、冷却速度、ひずみ速度依存性の物理的、熱力学的物性値および機械的物性値をその化学成分より計算するソフトウエアとして広く知られている。適用されている熱力学データベース、物性値データベースは、現在、Al合金、Mg合金、鋳鉄、一般鋼、ステンレス鋼、Cu合金、Ni合金、Ti合金、Co合金、はんだ用合金、Zr合金など多岐に渡っている。
この物性値計算ソフトウエア(JmatPro:商品名)では、凝固物性(凝固率、密度、熱伝導率、エンタルピー、比熱、粘性)を計算によって求めることができる。
この物性値計算ソフトウエアでは、多元系合金の状態図計算として確立された手法として知られるCALPHAD法(CAL-culation of PHAse Diagram)を使用し、合金系に依存する各相のギブスの自由エネルギーを数学的に表現し、エネルギーが最少になる混合状態を計算し、相境界を求め、ギブスの自由エネルギーを表す熱力学パラメーターを実験から求めて熱力学データベースに登録している。
【0029】
図3にこの物性値計算ソフトウエアを用いる場合のスタートプロセスから凝固率計算までの主要プロセスについてフローチャートを示す。
まず、ステップS1において合金成分組成を入力する。この物性値計算ソフトウエアはこの合金成分入力情報に応じて熱力学データベース(サーモテック社データーベース)DB1に基づき、ステップS21において凝固計算にSheile-Gulliver(SG)モデルあるいはScheilの式を使用し、液相から固相までの各温度毎の相変化をCALPHAD法とリンクさせて詳細に計算することができる。
この物性値計算ソフトウエアにおいては、凝固が完了すると、凝固中に形成された固相についての相分率を保持し、固相線以下は鉄合金を除いて相変化はしないものとして各物性値を計算する。
【0030】
本実施形態においては、Al合金として、質量%でSi:0.0001~3.3%、Fe:0.0001~2.0%、Cu:0.0001~10.0%、Mn:0.0001~10.0%、Mg:0.0001~10.0%、Cr:0.0001~1.0%、Zn:0.0001~10.0%、Ti:0.0001~1.0%、Ni:0.0001~1.5%、Li:0.0001~5.0%、Zr:0.0001~1.0%、B:0.0001~1.0%、Pb:0.0001~0.5%、Bi:0.0001~0.5%、V:0.0001~0.5%のうち、1種または2種以上を含み、、残部Al及び不可避不純物からなり、凝固後のAl合金のα相の体積率が80%以上であるAl合金に適用することができる。
【0031】
以下に本発明の第1実施形態に係る凝固割れ感受性の予測方法に適用可能なAl合金の成分元素について個々に説明する。以下の説明において%と表記するのは質量%を意味する。
「Si:0.0001~3.3%」
SiはAl合金の固溶強化、析出強化に寄与する成分であり、0.0001%未満は不可避不純物レベルであり、3.3%を超えて含有する場合は25%を超える共晶相が発生し、凝固率0.75がすべて共晶凝固以降となり本予測方法の適用が難しい。凝固割れ感受性の予測方法に適用する場合により望ましいSi含有量は、1.68%以下である。
Al合金において比較的多くの量のSiが入る合金が存在する。多くのSiが入ると共晶相が増加し、強度発現の固相率が合致しなくなる。具体的には、共晶組成が12.6%Si、固溶限は1.1%であり、Siの濃度をX%とし、状態図の液相線を直線と近似すれば、α相と残存液相の比率は、X>1.1において、(12.6-X):(X-1.1)である。本実施形態では固相率0.75~0.95の範囲について論議するが、3.3%Siを超えると共晶温度直上での固相率が0.75を下回るため、本発明で用いる論理が成立しにくくなる。本実施形態の凝固割れ感受性の予測方法に適用する場合、より望ましくは固相率0.95まで共晶が発生しないSi含有量1.68%以下の範囲である。
【0032】
「Fe:0.0001~2.0%」
FeはAl合金の析出強化に寄与する成分であり、0.0001%未満は不可避不純物レベルであり、2.0%を超えて含有する場合は針状晶出物による強度低下、圧延割れを生じるおそれが高くなる。
【0033】
「Cu:0.0001~10.0%」
CuはAl合金の析出強化、電位調整に寄与する成分であり、0.0001%未満は不可避不純物レベルであり、10.0%を超えて含有する場合は脆性的な金属間化合物晶出による耐食性低下を生じるおそれが高くなる。さらに、共晶相の割合も25%に近づくことから、本予測手法の適用が困難となる。
Cuの固溶限は4.9%であるが、共晶組成が33%Cuであり、共晶になる残存液相が増え難いため、後述するMgと同じく上述の理由が優先される。
【0034】
「Mn:0.0001~10.0%」
MnはAl合金の固溶強化、析出強化に寄与する成分であり、0.0001%未満は不可避不純物レベルであり、10.0%を超えて含有する場合は粗大晶出物による加工性の悪化を生じるおそれが高くなる。
Mnの固溶限は1.82%と小さいが、共晶組成も1.95%であり、Mn亜共晶では固相率が低下する問題は起きない。Mn過共晶では一般的な平衡相とされるAl6Mnが晶出するが、Mnの増加によってAl6Mnの晶出温度が高くなり過ぎてしまう。10.0%Mnでの融点が800℃であり、Al合金の溶解温度としては限界に近くなる。Al合金nの溶解温度が800℃より高いと、ガス吸収、酸化物発生量の増加などの問題が起きやすい。
【0035】
「Mg:0.0001~10.0%」
MgはAl合金の固溶強化、析出強化、軽量化に寄与する成分であり、0.0001%未満は不可避不純物レベルであり、10.0%を超えて含有する場合は溶湯流動性悪化を生じ、加工性の悪化を生じるおそれが高くなる。
MgはSiと異なり、固溶限が高く18.9%であり、Siでの事象が起きる前に、上述の理由で10.0%を超える範囲が選択されない。
「Cr:0.0001~1.0%」
CrはAl合金の固溶強化、析出強化に寄与する成分であり、0.0001%未満は不可避不純物レベルであり、1.0%を超えて含有する場合は加工性の悪化を生じるおそれが高くなる。
【0036】
「Zn:0.0001~10.0%」
ZnはAl合金の固溶強化、析出強化、電位調整に寄与する成分であり、0.0001%未満は不可避不純物レベルであり、10.0%を超えて含有する場合は加工性の悪化を生じるおそれが高くなる。Znは固溶限が50%近くと極めて大きく、添加する場合に問題を生じ難い。
「Ti:0.0001~1.0%」
TiはAl合金の固溶強化に寄与し、微細化剤として寄与する成分であり、0.0001%未満は不可避不純物レベルであり、1.0%を超えて含有する場合は粗大晶出物(TiAl)を生じ、加工性の悪化を生じるおそれが高くなり、溶湯に溶けきらないおそれがある。
【0037】
「Ni:0.0001~1.5%」
NiはAl合金の固溶強化、析出強化に寄与する成分であり、0.0001%未満は不可避不純物レベルであり、1.5%を超えて含有する場合は25%を超える共晶相が発生し、凝固率0.75がすべて共晶凝固以降となり本予測方法の適用が難しい。
「Li:0.00001~5.0%」
LiはAl合金の固溶強化、析出強化、軽量化に寄与する成分であり、0.00001%未満は不可避不純物レベルであり、5.0%を超えて含有する場合は酸化膜が生成され易く、DC鋳造装置の耐火材への侵食の問題を生じやすくなる。
【0038】
「Zr:0.0001~1.0%」
ZrはAl合金の析出強化に寄与する成分であり、0.0001%未満は不可避不純物レベルであり、1.0%を超えて含有する場合は加工性の悪化を生じるおそれが高くなる。
「B:0.0001~1.0%」
BはAl合金の微細化剤として有用な成分であり、0.0001%未満は不可避不純物レベルであり、1.0%を超えて含有する場合は粗大晶出物を生じ易く、溶湯に溶解しないおそれが高くなる。
【0039】
「Pb:0.0001~0.5%、Bi:0.0001~0.5%」
Pb、BiはAl合金の低融点相の生成に寄与する元素であり、0.0001%未満は不可避不純物レベルとなる。多い場合には熱処理時、時効時などの熱を加える際に容易に液相が生じ、欠陥の原因となり、鋳造時に低融点相の表面へのしみ出しが生じる場合がある。
「V:0.0001~0.5%」
Vは、0.0001%未満は不可避不純物レベルであり、0.5%を超えて含有する場合は加工性の悪化を生じるおそれが高くなる。
【0040】
以上説明のAl合金に適用することができるが、Al合金として、質量%でSi:0.0001~1.68%、Fe:0.0001~1.5%、Cu:0.00001~7.0%、Mn:0.0001~3.0%、Mg:0.0001~5.0%、Cr:0.0001~0.5%、Zn:0.0001~8.5%、Ti:0.0001~0.5%、Ni:0.0001~2.5%、Li:0.0001~3.5%、Zr:0.0001~0.5%、B:0.0001~0.1%、Pb:0.0001~0.2%、Bi:0.0001~0.3、V:0.0001~0.25%のうち、1種または2種以上を含み、残部Alおよび不可避不純物の組成を有し、凝固後のAl合金のα相の体積率が80%以上であるAl合金に適用することがより好ましい。
【0041】
これら適用可能なAl合金の成分組成を入力するとJmatPro(商品名)は、ステップS22と外挿ステップS23と各相物性値計算ステップS24においてScheil-Gulliver(SG)モデルまたはScheilモデルを使用し、CALPHAD法とリンクさせて固相線温度下への外挿を行い、凝固プロセス中の各相のエンタルピー、比熱、潜熱、固相率、量、組成を物性値データベースDB2を基に各相物性値計算ステップS24において直接計算式から計算することができる。ここでの物性値データベースDB2は、各相のモル体積を熱力学的モデルとリンクした実験から得られた成分組成によるモル体積計算パラメーターを収納した物性値データベースとして知られている。
【0042】
材料物性値計算ステップS25において実験から得られた相互作用係数を導入して混合側に基づき計算し、算出ステップS26において材料凝固物性値、凝固率、密度、熱伝達係数、エンタルピー、比熱、潜熱、粘性などを計算で得ることができる。
以上説明のように、物性値計算ソフトウエアであるJmatPro(商品名)を用いることにより種々の物性値を算出できるが、これらのうち、本実施形態では凝固率を主体として求め、例えば、後述するようにデータの入力と計算により図5に例示する凝固率曲線を策定する。(凝固率曲線策定ステップ:S2)
【0043】
例えば、AA3104合金の標準的な組成を用いて計算する場合、JmatPro(商品名)の初期入力画面の組成入力欄に、Al:97.5質量%、Cu:0.15質量%、Fe:0.4質量%、Mg:1.2質量%、Mn:1.0質量%、Si:0.2質量%として、合金成分組成の入力を行う。
凝固率については、偏析をScheilの式(液相は完全拡散、固相は拡散なしと仮定)で熱力学計算する。JmatPro(商品名)の初期入力画面でスタート温度を700℃(凝固開始点以上の温度)に設定し、ステップを1℃刻みに設定し、Phases項目のTake all solid phases into account を選択し、Extend calculation 項目のCalculation strength and dendrite arm spacing を選択し、Start caluculation 釦を押して計算をスタートすることができる。
【0044】
Sheilの式は以下の(2)式、(3)式として知られている。なお、(2)式と(3)式において、Csは固体の組成、Cは元の合金の組成、fsは凝固率、k:平衡分配係数、T、T:平衡状態の液相線、固相線温度を示す。
【0045】
【数4】
【0046】
【数5】
【0047】
上述の合金成分の入力内容に応じてJmatPro(商品名)は、ステップS21~ステップS26に従い該当組成のAl合金の凝固率を算出する。
【0048】
図4は、JmatPro(商品名)と本願に係る上述の他のステップを実施するソフトウエアが記憶された凝固割れ感受性の予測装置の一例を示す。
この例の凝固割れ感受性の予測装置12は、所謂コンピュータであって、主として入力手段13と、制御部14と、記憶手段15と、出力手段16を備えている。
入力手段13は、例えば、文字や数字を入力するキーボードなどであり、これによってAl合金の含有元素の種類や添加量などの情報を記憶手段15または制御部14に入力することができる。
制御部14は、所謂CPU(中央演算処理装置)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などで構成されており、プログラムによって様々な数値計算や情報処理、機器制御などを行うことができる。
【0049】
記憶手段15は、例えば、HDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)などの情報記録媒体であり、前記したJmatPro(商品名)などのプログラムや、算出手段17、予測手段18の実行に必要な、例えば、Al合金の組成に基づく凝固率曲線、後述する第1の位置と第2の位置の策定情報、第1の位置と第2の位置を結ぶ直線の策定情報、該直線と凝固率曲線とで囲まれる領域の面積Sの算出とその結果などの各種情報、これらによって得られた結果などを必要に応じて記憶させたり読み出したりすることができる。
出力手段14は、例えば、モニターやプリンターなどであり、JmatPro(商品名)などのプログラムから得られる各種の情報に加え、後述する凝固率と温度の関係のグラフ、凝固率と温度変化量とひずみ速度差の関係などの情報を画面上又は紙面上に必要に応じて表示または印刷することができる。
【0050】
なお、記憶手段15には、前記したJmatPro(商品名)などのプログラムや、後記する算出手段17、予測手段18の実行に必要な各種の情報を当該プログラム実行前に予め記憶させておくことでこれらを任意に読み出し、操作することができる。また、当該プログラムを実行することによって得られた算出結果などを必要に応じて記憶させたり読み出したりすることが可能である。なお、記憶手段15にインターネットやネットワークへの通信機能のみを備え、インターネットやネットワークに接続された他のパーソナルコンピュータに備えられた記憶手段や算出手段、予測手段を利用して予測装置12と同様に計算し結果を算出できるように構成しても良いのは勿論である。
【0051】
上述のAA3104合金の組成を入力すると、JmatPro(商品名)はステップS21~ステップS26に従い該当組成のAl合金の凝固率を算出し、凝固率曲線を策定するので、出力手段16により図5に示す一例を示す凝固率曲線をモニターの画面に表示するか、プリンターにより紙面上に印刷することができる。なお、JmatPro(商品名)は必要に応じて組成を入力したAl合金の密度、熱伝達係数、エンタルピー、比熱、潜熱、粘性なども計算することができる。
また、JmatPro(商品名)から得られた凝固率曲線に基づき、図6に示すように温度変化あたりの凝固率変化を出力し、温度変化あたりのひずみとして、図6に示すグラフの傾きからひずみを求めることができる。
【0052】
例えば、凝固率0~0.75の範囲を図6に示す領域I、0.75~0.95の範囲を領域II、0.95~1.0の範囲を領域IIIと仮定し、凝固率0.75の温度をT、凝固率0.75における曲線の傾きをR、凝固率0.95の温度をT、凝固率0.95における曲線の傾きをRと仮定すると、ひずみ速度差(ΔRII/ΔTII)は以下の(4)式の関係を有する。ただし、図6に示すようにΔTII=T-Tとする。ΔTは温度変化量を示すので、ΔTIIは凝固率0.75~0.95の範囲(領域IIの範囲)の温度変化量を意味する。
【0053】
【数6】
【0054】
制御部14は、JmatPro(商品名)で計算された1℃毎の凝固率の計算結果をテキストデータではき出し、1℃毎の凝固率を記憶手段15に記憶されていて実行された表計算ソフトを利用し、その対応する列に自動入力する機能を有する。また、これらの数値が入力された列の横の列に、表計算ソフトにより自動的に1℃毎の温度勾配を入力し、その横の列に凝固率0.75との凝固率差を入力し、その横の列に線形y座標(凝固率曲線のグラフにおけるy座標)を入力し、その横の列に非線形の差のdtをとった値、がそれぞれ計算されて入力されるように表計算ソフトの自動計算列を設定しておくことが好ましい。
【0055】
図9(A)、(B)、(C)に制御部14が表計算ソフトにはき出したテキストデータの一部を示す。このデータは図5に示す凝固率曲線が得られた合金のデータに相当し、開始温度は融点より十分に高い温度である700℃からスタートし、常温までデータがはき出される。そのデータの内、図9(A)に700~682℃までのデータ列を示し、図9(B)に655~625℃までのデータ列を示し、図9(C)に558~548℃までのデータ列を示す。また、図9(D)にこれらのデータ列から表計算ソフトで抽出したT1、T2、R1、R2の各値、T1-T2、R1-R2の計算値、|R1-R2|/dtの計算値をそれぞれ表示した。図9(E)では、|R1-R2|/dtの計算値の欄の見出しは、/dtのみ表示している。また、凝固率Fs=0.75の場合の温度(x)、凝固率(y)、Fs=0.95の場合の温度(x)、凝固率(y)を表示した。図9(E)に後述する実施例に示す各合金の値を併記した。
【0056】
これらの設定により、凝固率0.75~0.95の温度幅とグラフの傾きを自動計算することができる。
この自動計算を行う場合、図7に示すように凝固率0.95前後の領域に凝固率変化のギャップを示すAl合金が存在する場合がある。このギャップは金属間化合物の析出などにより凝固率の特異点として生成するギャップである。図8にこのギャップGと凝固率の特異点周りを拡大して示す。
凝固率0.75~0.95の範囲に特異点を示すAl合金の場合、ギャップ前後で曲線の傾きが大きく変わるので、この場合は、晶出直前の傾きとなるように値を補正する必要がある。制御部14は凝固率0.75~0.95の範囲にこのようなギャップを確認すると、晶出直前の傾きを補正する。あるいは、この補正は手動で値を採用し、手作業で行っても良い。この手動補正については後に記載する比較例において詳細に説明する。
なお、JmatPro(商品名)で計算する場合、上述の如く1℃毎の温度刻みを設定しているが、新たな相が出るか、消える場合は、その温度を刻み関係なしとして連続的に計算することが望ましい。その場合、小数点以下の温度が出現することがある。図9(C)に示す552.75℃の結果はこのことを意味する。
また、図9(A)に示す#VALUE!、#DIV/0!は、固相率あるいは固相率の差が0であり、ゼロで割る割り算が発生しているため、値が算出されないことを意味し、勾配の具体値は、この例では図9(B)に示す650℃で8.07134がデータとして出され、非線形の差*dtは634℃からデータとして出される。
なお、図9(B)に示す651.02℃は凝固開始の極端な点であるため、この実施形態では通常の凝固中の温度650℃に設定している。
【0057】
制御部14は、JmatPro(商品名)が算出して求めた各Al合金の凝固率曲線に対し、凝固率0.6~0.8の間の任意の位置、例えば、0.75の位置を第1の位置と策定して把握し、記憶手段15に記憶する機能を有する。次に制御部14は、同凝固率曲線に対し、初晶の晶出が終了して凝固率曲線にその勾配が不連続な変化点を示す位置か、該変化点を生じない場合は凝固率が0.95となる場合の早い方の位置を第2の位置として策定して把握し、記憶手段15に記憶する機能を有する(第1の位置と第2の位置の具体的な位置は後の実施例と比較例並びに図9参照)。
次に制御部14は、先に求めた複数のAl合金の凝固率曲線に対し、それぞれ第1の位置と第2の位置を策定し、第1の位置と第2の位置を結ぶ直線を描き、それぞれの凝固率曲線に対し、直線と凝固率曲線の一部が囲む領域の面積Sを計算する機能を有する。
【0058】
前記面積Sは熱力学的データベースによる凝固率を示す関数fdと前記直線を示す関数flとの差の足し算であり、前記fdと前記flは温度Tの関数であり、凝固率0.6~0.8の際の温度をT0.6~0.8、初晶晶出終了時の温度をTeとして以下の(1)式の関係を有する。
【0059】
【数7】
【0060】
このため、上述のAl合金において凝固率0.75~0.95の範囲の面積Sを求める場合は、T0.75~T0.95までの範囲として上述の(1)式の解を求めると、面積Sを算出することができる。
【0061】
次に制御部14は、比較するべき複数のAl合金で個々に求めた面積Sの値を比較し、面積の大きい順に並べ、並べた結果と個々の面積Sの値を記憶手段15に記憶し、出力手段16からモニターやプリンターなどに出力し、画面に表示する、または、紙面に印刷する機能を有する(図11参照)。
図11に示すように凝固率曲線を求めたAl合金の種類に応じて面積Sの大きさ順に比較し、面積Sの大きなAl合金ほど、凝固割れ感受性が高く、DC鋳造などの鋳造時に割れが生じ易いAl合金であると把握することができる。
図11に示す例では、AA3104(5Mg)とAA7075が割れやすく、AA2024、AA3104(4Mn)、AA3104(1Si)が割れ難いと判断できる。
このうち、凝固割れ感受性が高く、割れやすいと予測されたAl合金を鋳造する場合には、鋳造割れを生じ難い条件にて該当Al合金を鋳造することが好ましい。
【0062】
図11に示す対比において、AA3104(5Mg)とAA7075が割れやすく、AA2024、AA3104(4Mn)、AA3104(1Si)が割れ難いと判断できるのは、本発明者が把握している実際の鋳造工程において、AA3104(5Mg)とAA7075が割れやすく、AA2024、AA3104(4Mn)、AA3104(1Si)が割れ難い合金であるからである。
例えば、溶湯温度:700℃、サイズ:幅1200mm、厚さ600mm、長さ4000mm、冷却水量:2000L/min、鋳造速度50mm/minの同一条件で鋳造する場合、AA3104(5Mg)とAA7075が割れやすく、AA2024、AA3104(4Mn)、AA3104(1Si)が割れ難いが合金であると把握している。
なお、図11に示す対比に記載したAA3104(5Mg)の組成は後述する実施例に示す表1の合金9の組成に対応し、AA7075の組成は後述する実施例に示す表1の合金11の組成に対応し、AA2024の組成は後述する実施例に示す表1の合金12の組成に対応し、AA3104(4Mn)の組成は後述する実施例に示す表1の合金6の組成に対応し、AA3104(1Si)の組成は後述する実施例に示す表1の合金3の組成に対応する。
【0063】
本実施形態の凝固割れ感受性の予測プログラムは、上述した図4に示す構成の凝固割れ感受性の予測装置12を用い、上述の組成に応じた複数のAl合金の凝固時の割れの発生のし易さを予測装置12に予測させるプログラムである。
凝固割れ感受性の予測プログラムは、予測装置12を用い、作業者が予測するべきAl合金の組成をJmatPro(商品名)に入力すると、上述のステップS21~S26に従いJmatPro(商品名:凝固率曲線策定手段)に凝固率曲線を描かせる。図9はその一例である。
次いで凝固割れ感受性の予測プログラムは、予測装置12を用い、上述のステップS3に従い、凝固率曲線に第1の位置と第2の位置を策定し、それらを結ぶ直線を描き、凝固率曲線と直線とで囲まれる面積Sを面積算出手段に算出させる。
具体的には、先の(1)式に従い、予測装置12に備えている算出手段17に面積Sを算出させる。
【0064】
次いで凝固割れ感受性の予測プログラムは、予測装置12を用い、予測するべき複数のAl合金の組成に応じて求めた前記複数の面積Sを対比する。
凝固割れ感受性の予測プログラムは、予測するべきAl合金について面積Sの大きさを出力手段16からモニターやプリンターなどに出力し、画面または紙面に面積Sの大きい順に並べて表示するか印刷する機能を有する。この表示機能や印刷機能は、面積Sの小さい順から順次並べて表示する形式でも良く、また、Al合金の種別に応じて面積Sの具体値を表示する形式でも良く、面積Sの値の大小に応じた大小の図形で表示する形式などであっても良い。
Al合金の種別と面積Sの値を図形の大きさで表示した一例を図11に示す。図11に示す例は、面積Sを確定する凝固率曲線の一部と直線をそのままの形状で大きい順に図形表示した一例であり、作業者はこれらの図形を比較参照することで、予測するべきAl合金の凝固割れ発生のし易さを対比したAl合金と比較の上、認識することができる。
【0065】
ところで、上述した実施形態では凝固率曲線を求めるための物性値計算ソフトウエアとして、JmatPro(商品名)を用いたが、用いる物性値計算ソフトウエアはJmatPro(商品名)に限らず、サーモカルクなどの汎用熱力学データベースを用いたソフトウエアであっても良い。また、凝固率曲線を求める方法は、ソフトウエアに限らず、示差走査熱量計(DSC)を用いた熱分析結果や実際のAl合金を用いて鋳造を行う過程で得られる凝固率曲線を用いてもよい。
これら何れの方法で求めた凝固率曲線であっても本発明方法を実施する場合に適用することができる。
【実施例
【0066】
上述の各元素含有量の望ましい範囲に基づき、複数のAl合金について、JmatPro(商品名:Ver9.1)を用いて凝固率曲線を求めた。
凝固率については、偏析をScheilの式(液相は完全拡散、固相は拡散なしと仮定)で熱力学計算する条件とした。JmatPro(商品名)の初期入力画面でスタート温度を700℃(凝固開始点以上の温度)に設定し、ステップを1℃刻みに設定し、Phases項目のTake all solid phases into account を選択し、Extend calculation 項目のCalculation strength and dendrite arm spacing を選択し、Start calculation 釦を押して計算をスタートした。
【0067】
【表1】
【0068】
表1において1~12の各合金に対し、AA3104合金の組成との関連性を理解し易いように表1に示す各合金組成の中で代表的な元素の含有量をAA3104の後に記載する( )の中に記載し、各合金を区別しつつ以下に説明する。代表的な元素の含有量は前記表1に示す組成の中で太字で表示した数値を採用した。なお、表1の合金9はMgを5質量%含んでいるので、3000系の合金として表示するよりも5000系の合金として表示するべきであるが、この例ではあえてAA3104(5Mg)と表記している。
【0069】
これら合金試料のJmatPro(商品名)による凝固率曲線の算出結果の例を図10にまとめて示す。求めた凝固率曲線に対し、図10に示すように0.75の位置を第1の位置に策定し、初晶の晶出が終了して凝固率曲線にその勾配が不連続な変化点を示す位置か、該変化点を生じない場合は凝固率が0.95となる場合の早い方の位置を第2の位置として策定した。
次に、凝固率曲線に対し前記第1の位置と第2の位置を結ぶ直線を描き、この直線と凝固率曲線の一部が囲む領域の面積Sを計算した。
面積Sの算出は、先の(1)式に従い、凝固率を示す関数fdと前記直線を示す関数flとの差の足し算を、それぞれの凝固率曲線において凝固率0.75の位置(第1の位置)からそれぞれの凝固率曲線の第2の位置まで行う算出方法により求めた。
以上の算出結果を以下の表2に示す。
また、この例の場合、面積Sの値は0.10~2.79の範囲に分布したので、中間値の1.5を境界として、割れやすいか、割れにくいかの目安の指標とした。
また、A3104合金(合金1)の割れ率を1と仮定し、各Al合金の割れ率を相対表示した。
【0070】
図10に示す凝固率曲線において、AA3104(4Mn):(表1のNo.6の試料)の凝固率曲線は2箇所の変化点を有するが、初晶の晶出は最初の変化点の凝固率0.95であるので、その位置を第2の位置と策定した。
合わせて、表3に示す組成のAl合金に対し、同様の計算を行って表4の結果を得た。
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
表2、表4に示す各合金試料の割れ率は、A3104(1):(表1のNo.1の試料)の割れ率を1と仮定し、各Al合金試料の割れ率を相対表示した。
表2、表4の割れ率は、溶湯温度:700℃、サイズ:幅1200mm、厚さ600mm、長さ4000mm、冷却水量:2000L/min、鋳造速度50mm/minの同一条件で実際に鋳造する場合の各合金の割れ率を示している。
【0075】
次に、比較のために、先に求めた凝固率曲線からはき出した1℃毎の凝固率のテキストデータを記憶手段15に記録されている表計算ソフトにはき出し、凝固率0.75~0.95の温度幅グラフの傾きを自動計算した。また、各Al合金の凝固率曲線から求められるΔTIIとひずみ速度差の関係を求めた。
これらの関係を求めるには、図9(A)~(C)に示した数列を表計算ソフトに自動入力し、図9(D)に示すようにT1、T2、R1、R2を抽出し、T1-T2、R1-R2、|R1-R2|/dtの値を計算することで得ることができる。
【0076】
図12は各合金のひずみ速度差(ΔRII/ΔTII)の値とΔTIIとの関係についてプロットした結果を示し、図13は各合金のひずみ速度差において特異点によるギャップを有する合金の場合に、上述の補正を行った結果を示す。
図12に示す各種Al合金のうち、AA3104(1Si)、AA3104(2Mg)、AA3104(2.8Si)の試料は、いずれも特異点を有し、ひずみ速度差の値が小さすぎるので、補正を行った。
この補正は凝固中の相変化を見て、凝固終盤で共晶相の発現により、温度がほぼ一定となる点がある場合、その点が固相率0.95より前であれば、その点が固相率0.95に代わる値として補正した。
【0077】
ひずみ速度差(ΔRII/ΔTII)の値は任意の瞬間における凝固率0.75と0.95のひずみ差、即ち、ひずみ速度差であり、この値が大きいほど割れが発生し易いと非特許文献1に記載の従来技術で把握される値である。
図12図13において、計算に用いた各合金の組成比は表1、表3に示した通りである。
【0078】
図13に示す結果が示すのは、同一鋳造条件の場合、図13の右上側に記載されている合金の方がひずみ速度差が大きいので、従来技術から割れ感受性が高い、割れやすいと思われる合金である。
図10図11に示す実施例の評価結果と照合した場合、図10図11に示す結果から導かれて、割れやすいと評価されたAA2024、AA7075、AA3104(5Mg)のうち、図13に示す結果でもAA3104(5Mg)が割れやすいという傾向は見られたが、AA3104(4Mn)は図13の関係に基づく結果では割れやすいと判断されている。
しかし、このAA3104(4Mn)は本発明者が製造現場で実際に鋳造を行った場合に割れ難いと評価される合金である。
AA3104(1Si)は図10図11に示す本実施形態の予測結果と図13に示す従来技術による予測結果がいずれも割れにくいという、同じ結果となった。
【0079】
図13に示す予測結果は、非特許文献1に記載されている従来技術に対し、本発明者が手動で行った補正結果を加味した予測結果に対応するが、先に図10図11に示す関係から求めた割れ感受性の予測結果の方が実際のAl合金の鋳造を行った場合の状態に近く、より正確な予測が得られることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、新規組成のAl合金であっても凝固割れ感受性をこれまで以上の高い精度で予測できる方法および装置とプログラムを提供できる。
【符号の説明】
【0081】
1…DC鋳造装置、2…溶湯、3…ローンダー、5…ノズル、6…鋳型、6a…吐出部、7…ボトムブロック、8…冷却水、9…鋳塊、10…溶湯プール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13