(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】表面実装インダクタ
(51)【国際特許分類】
H01F 27/29 20060101AFI20220831BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20220831BHJP
H01F 27/02 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
H01F27/29 123
H01F27/29 F
H01F27/29 X
H01F17/04 A
H01F27/02 120
(21)【出願番号】P 2018090126
(22)【出願日】2018-05-08
【審査請求日】2019-12-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100221512
【氏名又は名称】山中 誠司
(72)【発明者】
【氏名】小池 聖人
【合議体】
【審判長】酒井 朋広
【審判官】山本 章裕
【審判官】畑中 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-160507(JP,A)
【文献】特開2010-147272(JP,A)
【文献】特開2012-79870(JP,A)
【文献】特開2006-32430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F27/29
H01F17/00-17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線を巻回した巻回部および前記巻回部の外周からそれぞれ引き出される第1および第2の引出部を有するコイルと、金属磁性粉末を含有し、前記コイルが埋設された成型体と、前記成型体に設けられた外部端子を備え、
前記成型体は、対向する第1の主面と第2の主面、および4つの側面を有する矩形体形状を有し、
前記第1の主面の長さ方向の両端部には、それぞれ前記第1の引出部の端部に接続される第1の外部端子と前記第2の引出部の端部に接続される第2の外部端子が形成され、
前記成型体の表面には、前記第1の外部端子と前記第2の外部端子が形成されている領域を除いて、樹脂被膜が形成され、
前記樹脂被膜が形成された成型体の第1の主面の幅方向において対向する第1の稜線と第2の稜線との間の幅をW
0とし、前記樹脂被膜が形成された成型体の第1の主面の幅方向における前記第1の外部端子および前記第2の外部端子の幅をW
1とした時、W
1がW
0よりも小さく、かつ前記第1の外部端子と前記第2の外部端子の幅方向の両端は、前記第1の稜線と前記第2の稜線に接しておらず、
前記成型体は前記金属磁性粉末が露出した領域を有し、前記第1の引出部の端部と前記第2の引出部の端部は前記成型体の前記第1の主面に露出しており、前記露出した領域上、並びに前記第1の引出部の端部および前記第2の引出部の端部の前記導線上に、めっき層からなる前記第1の外部端子と前記第2の外部端子が形成され、
前記コイルの巻軸が前記成型体の前記第1の主面と平行になるように、前記コイルが前記成型体に埋設され、
前記導線は、断面平角状に形成され、対向する第1幅広面と第2幅広面を有し、
前記巻回部は、前記第1幅広面が前記巻回部の径方向内側を向きかつ前記第2幅広面が前記巻回部の径方向外側を向くように、前記導線を渦巻き状に2段に巻回して構成され、
前記第1の引出部の端部と前記第2の引出部の端部は、それぞれ、前記導線の前記第1幅広面が前記成型体の前記第1の主面に露出するように折り曲げられ、
前記第1の引出部と前記第2の引出部は、互いに交差しないように、前記巻回部に対して反対側に位置
し、
前記第1の外部端子は、前記成型体の前記第1の主面に隣接する第1の前記側面まで延在しており、前記第2の外部端子は、前記成型体の前記第1の主面に隣接し前記第1の側面に対向する第2の前記側面まで延在しており、
前記第1の引出部の先端は、前記成型体の前記第1の側面に露出しており、前記第2の引出部の先端は、前記成型体の前記第2の側面に露出しており、
前記第1の外部端子は、前記成型体の前記第1の主面に露出した前記第1の引出部の導線、前記成型体の前記第1の側面に露出した前記第1の引出部の先端の導線、および、前記成型体の表面に露出した金属磁性粉末に接続するめっき層により形成され、前記第2の外部端子は、前記成型体の前記第2の主面に露出した前記第2の引出部の導線、前記成型体の前記第2の側面に露出した前記第2の引出部の先端の導線、および、前記成型体の表面に露出した金属磁性粉末に接続するめっき層により形成される、表面実装インダクタ。
【請求項2】
前記W
1は、前記W
0の55%以上95%以下である、請求項1記載の表面実装インダクタ。
【請求項3】
前記第1の主面の前記第1の稜線の近傍と、前記第2の稜線の近傍の少なくともいずれかに、導体が付着した請求項2記載の表面実装インダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面実装インダクタに関し、さらに詳しくは少なくとも1つのコイルが成型体に埋設されている表面実装インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
パワーインダクタに用いられる表面実装インダクタとしては、例えば、金属磁性粉末を含む成型体に、導線を巻回して形成したコイルが埋設された表面実装インダクタが用いられている。表面実装インダクタとしては、例えば、導線の両端が外周に位置する様に巻回して形成された巻回部と、巻回部の外周から引き出された引出部を有するコイルを用い、コイルの引出部の端部を成型体の側面に引出し、成型体の側面と側面に隣接する実装面に形成された外部端子に、その引出部の端部を接続したものが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子機器の小型化、軽量化に伴い、電源回路に用いられるパワーインダクタにも、小型化や軽量化と同時に、電源電圧の低電圧化に伴い、低電圧でも大電流が流せるようにする、いわゆる大電流対応が求められている。しかしながら、従来の表面実装インダクタでは、コイルの引出部の端部を成型体の側面に引き出し、成型体の側面において外部端子と接続しているので、外部端子におけるコイルの引出部の端部との接続部分から成型体の実装面までの電流経路が長くなる結果、電気抵抗が増加し、大電流に対応できる低抵抗化が困難であるという問題があった。
これに対し、コイルの引出部の端部を成型体の実装面に露出させ、その露出した引出部の端部の表面に外部端子を形成する方法が考えられる。しかしながら、この方法では、コイルの引出部の端部における形状加工が困難であり、製造品質に問題が生じる場合があった。
また、従来の表面実装インダクタは、成型体に絶縁性の低い金属磁性粉末が用いられるため、十分な耐電圧が確保できないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、耐電圧を向上させることが可能な表面実装インダクタを提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様に係る表面実装インダクタは、導線を巻回した巻回部および巻回部の外周からそれぞれ引き出される第1および第2の引出部を有するコイルと、金属磁性粉末を含有し、コイルが埋設された成型体と、成型体に設けられた外部端子を備え、成型体は、対向する第1の主面と第2の主面、および4つの側面を有する矩形体形状を有し、第1の主面の長さ方向の両端部には、それぞれ第1の引出部の端部に接続される第1の外部端子と第2の引出部の端部に接続される第2の外部端子が形成され、成型体の表面には、第1の外部端子と第2の外部端子が形成されている領域を除いて樹脂被膜が形成され、樹脂被膜が形成された成型体の第1の主面の幅方向において対向する第1の稜線と第2の稜線との間の幅をW0とし、樹脂被膜が形成された成型体の第1の主面の幅方向における第1の外部端子および第2の外部端子の幅をW1とした時、W1がW0よりも小さく、かつ第1の外部端子と第2の外部端子の幅方向の両端は、第1の稜線と第2の稜線に接しない様に形成される。
【0007】
上記の態様によれば、表面実装インダクタの耐電圧を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐電圧を向上させることが可能な表面実装インダクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一態様に係る表面実装インダクタの構造の一例を示す模式透過斜視図である。
【
図2】外部端子幅を稜線間幅に対して変化させた時の、表面実装インダクタの限界固着力と限界耐電圧の値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
本実施の形態に係る表面実装インダクタは、導線を巻回した巻回部および巻回部の外周からそれぞれ引き出される第1および第2の引出部を有するコイルと、金属磁性粉末を含有し、コイルが埋設された成型体と、成型体に設けられた外部端子を備える。成型体は、対向する第1の主面と第2の主面、および4つの側面を有する矩形体形状を有し、第1の主面の長さ方向の両端部には、それぞれ第1の引出部の端部に接続される第1の外部端子と第2の引出部の端部に接続される第2の外部端子が形成される。成型体の表面には、第1の外部端子と第2の外部端子が形成されている領域を除いて樹脂被膜が形成される。樹脂被膜が形成された成型体の第1の主面の幅方向において対向する第1の稜線と第2の稜線との間の幅をW0とし、樹脂被膜が形成された成型体の第1の主面の幅方向における第1の外部端子および前記第2の外部端子の幅をW1とした時、W1がW0よりも小さく、かつ第1の外部端子と第2の外部端子の幅方向の両端は、第1の稜線と前記第2の稜線に接しない様に形成される。
【0012】
また、別の態様では、W1は、W0の55%以上95%以下である。
【0013】
上記の態様によれば、実装基板と外部端子との接続強度を確保しながら、耐電圧を向上させることができる。
【0014】
また、別の態様によれば、第1の主面の第1の稜線の近傍と、第2の稜線の近傍の少なくともいずれかに、導体が付着する。
【0015】
上記の態様によれば、稜線近傍に導体が存在する場合でも、実装基板と外部端子との接続強度を確保しながら、耐電圧を向上させることができる。
【0016】
また、別の態様によれば、コイルの巻軸が成型体の第1の主面と平行になるように、コイルが成型体に埋設されている。
【0017】
上記の態様によれば、引出部の端部に捻り等の複雑な加工が不要となるので、品質のバラツキを抑制でき、信頼性を向上させることが可能となる。
【0018】
図1は、本実施の形態に係る表面実装インダクタ1(以下、インダクタ素子ともいう)の構造の一例を示す模式透過斜視図であり、外部端子を設けた主面側から見たものである。表面実装インダクタ1は、金属磁性粉末と樹脂を含む成型体12を有し、その中には導線が巻回された1つのコイル11が埋設されている。
図1では、成型体12が、矩形体である例を示している。成型体12は、対向する一対の主面として、第1の主面12aと第2の主面12bを有し、第1の主面12aが実装面に相当する(以下、第1の主面を実装面ともいう)。成型体12は、4つの側面を有し、その4つの側面は、第1の主面12aの長手方向において対向する一対の側面12c、12dと、第1の主面12aの幅方向において対向する一対の側面12e,12fである。第1の主面12aは、幅方向に第1の稜線121bと第2の稜線122bを有し、第1の稜線121bは第1の主面12aと側面12eとの間に位置し、第2の稜線122bは第1の主面12aと側面12fとの間に位置している。コイル11は、空芯コイルであって、導線がその両端部がコイルの外周面に沿って互いに反対方向に位置する様に渦巻き状に2段に巻回された巻回部11aと、導線の両端部を巻回部11aから引き出して形成された第1の引出部11bと第2の引出部11cとを備えたコイルである。コイル11は、巻回部11aの巻軸Aが、成型体12の第1の主面12aに平行になるように、成型体12の中に埋設されている。導線には断面が平角状の平角線を用いることができる。
【0019】
第1の引出部11bは、成型体12内を延在して、端部が第1の主面12aで露出し、先端部分が側面12cに露出するように折り曲げ加工されている。また、第2の引出部11cも、成型体12内を延在して、端部が第1の主面12aで露出し、先端部分が側面12dに露出するように折り曲げ加工されている。さらに、第1の主面12aで一部が露出した第1の引出部11bの端部は、第1の外部端子13と接続され、第1の主面12aで一部が露出した第2の引出部11cの端部は、第2の外部端子14と接続されている。第1の外部端子13と第2の外部端子14は、第1の主面12aの長手方向に離間して形成され、第1の外部端子13が第1の主面12aと側面12cに跨って形成され、第2の外部端子14が第1の主面12aと側面12dに跨って形成される。
【0020】
この成型体12の表面には、第1の外部端子と第2の外部端子が形成されている領域を除いて絶縁被覆用の樹脂被膜が形成されている。また、樹脂被膜が形成された成型体12の第1の主面12aの幅方向において対向する第1の稜線121bと第2の稜線122bとの間の幅をW0とし(以下、稜線間幅ともいう)、第1の主面12aの幅方向における第1の外部端子13または第2の外部端子14の幅をW1とした時(以下、外部端子幅ともいう)、W1がW0よりも小さく、かつ第1の外部端子13と第2の外部端子14の幅方向の両端は、第1の稜線121bと第2の稜線122bに接しない様に形成される。
【0021】
成型体12は、金属磁性粉末と樹脂を含み、金属磁性粉末としては、例えば、Fe、Fe-Si系、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系、Fe-Ni-Al系、Fe-Cr-Al系等の鉄系の金属磁性粉末や、鉄を含まない組成系の金属磁性粉末、鉄を含む他の組成系の金属磁性粉、アモルファス状態の金属磁性粉末、表面がガラス等の絶縁体で被覆された金属磁性粉末、表面を改質した金属磁性粉末、ナノレベルの微小な金属磁性粉末等を用いることができる。また、成型体12に用いる樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン樹脂やポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂等をそれぞれ用い、これらを混合したものを用いることができる。さらに、樹脂被膜には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を用いることができる。またさらに、第1の外部端子13と第2の外部端子14は、Cu、Ni、Sn、銀、銀を含む合金等の導体を用いて形成され、1層又は複数層の導体膜で形成される。
成型体12の大きさは、表面実装用に使用可能な大きさであれば特に限定されない。例えば、樹脂被膜が形成された状態で、L(長さ)2.5mm×W(幅)2.0mm×T(高さ)2.0mmの大きさとすることができる。また、樹脂被膜は、例えば、8μm~12μmの厚みを有する様に形成される。
【0022】
本実施の形態に係る表面実装インダクタは、例えば、以下の製造方法を用いて製造することができる。絶縁被覆が施された断面が平角状の導線をその両端が外周に沿って反対側に位置する様に渦巻き状に2段に巻回して、
図1に示す巻回部11aを形成する。次いで導線の両端を巻回部の外周から引き出して第1の引出部11bと第2の引出部11cを形成してコイル11を形成する。絶縁被覆に用いる樹脂は、耐熱温度が高いものが好ましく、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、イミド変成ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。導線には、丸線や断面が多角形状のものを用いることもできる。
【0023】
次に、金属磁性粉末として、例えば、Fe、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系、Fe-Ni-Al系、Fe-Cr-Al系等の鉄系の金属磁性粉末や、鉄を含まない組成の金属磁性粉末、鉄を含む他の組成の金属磁性粉末、アモルファス状態の金属磁性粉末、表面がガラス等の絶縁体で被覆された金属磁性粉末、表面を改質した金属磁性粉末、ナノレベルの微小な金属磁性粉末等を、樹脂として例えばエポキシ樹脂をそれぞれ用い、これらを混合した封止材(以下、成型体用材料という)を製造する。次に、コイル11を、その巻軸が成型体の実装面と平行になるように、所定の成型用金型内に配置し、成型体用材料をその金型内に充填し、圧縮成型する。これにより、
図1に示す様に、コイル11が埋設された成型体12を得る。また、成型法は、圧縮成型法に限定されず、圧粉成型法を用いることもできる。また、バレル研磨等を行って、バリ等を除き、成型体の形状を整える。
【0024】
そして、この成型体の表面に絶縁被覆用の樹脂被膜を形成する。この樹脂被膜には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を用いることができる。
【0025】
次に、成型体12の第1の主面12aと側面12c、12dの外部端子が形成される部分の表面に存在する樹脂成分、および、樹脂被膜を、レーザー照射、ブラスト処理、研磨等の樹脂成分除去手段を用いて除去する。これにより、成型体12の第1の主面12aと側面12c、12dに、金属磁性粉末が露出した領域を形成する。また、この樹脂成分除去手段を用いて、コイル11の両端の第1の引出部11bおよび第2の引出部11cの絶縁被覆を除去して導線を露出させる。
【0026】
さらに、成型体12にめっき処理を施して、成型体12の第1の主面12aと側面12c、12dの金属磁性粉末が露出した領域と導線上にめっきを成長させることにより第1の外部端子13と第2の外部端子14を形成する。これにより、第1の外部端子13は、コイル11の第1の引出部11bの端部と接続され、第2の外部端子はコイル11の第2の引出部11cの端部と接続される。なお、第1の外部端子13と第2の外部端子14は、成型体12の実装面12aと側面12c、12dの金属磁性粉末が露出した領域と導線上に、Cuにより第1のめっき層を形成し、その上にNiにより第2のめっき層を形成し、その上にSnにより第3のめっき層を形成することにより形成されるが、めっきに用いられる導電材料としては、めっき可能な導体であれば特に限定されず、Cu、Ni、およびSn以外にも銀、銀を含む合金等の導体を用いることができ、用いられる導体の順番も特性に応じて変えても良い。また、第1の外部端子13と第2の外部端子14が、1層や2層、さらには、3層以上の層で形成されても良い。
【0027】
この様にして得られた本実施の形態に係る表面実装インダクタは、樹脂被膜が形成された成型体の第1の主面12aの幅方向において対向する第1の稜線121bと第2の稜線122bとの間の幅をW0とし(以下、稜線間幅ともいう)、第1の主面12aの幅方向における第1の外部端子13または第2の外部端子14の幅をW1とした時(以下、外部端子幅ともいう)、W1がW0よりも小さく、かつ第1の外部端子13と第2の外部端子14の幅方向の両端は、第1の稜線121bと第2の稜線122bに接していない。この理由について、以下に説明する。
【0028】
成型体の稜線部分は、成型体を構成する金属磁性粉末と樹脂の密度が低くなりやすく、バレル研磨時に金属磁性粉末が脱粒しやすい傾向にある。金属磁性粉末が脱粒した場合、成型体の表面に、直径0.05mm程度の空隙が生じる。この様な状況の中、成型体の表面に絶縁被覆用の樹脂被膜が形成されるが、金属磁性粉末が脱粒した空隙が小さいため、空隙に樹脂被膜が付着せず、成型体の稜線部分に空隙が生じたままとなりやすい。そのため、めっき法で外部端子を形成する場合、その空隙にめっき液が侵入し、その空隙に導体が付着する(いわゆる、めっき伸びやめっき跳び)が発生する結果、稜線付近の絶縁抵抗が低下し、表面実装インダクタの耐電圧が低下しやすくなる。これに対し、外部端子の幅を樹脂被膜が形成された成型体の稜線間の幅よりも小さくし、かつ外部端子の幅方向の両端が樹脂被膜が形成された成型体の稜線と接しないように、稜線から離すことで、稜線付近の絶縁抵抗の影響を外部端子が受けにくくなるので、表面実装インダクタの耐電圧を向上させることが可能となる。なお、本発明で用いる耐電圧とは、外部端子間に電圧を加えたときに、外部端子間において成型体の表面で絶縁破壊を起こしてインダクタとしての性能を失なうことがない電圧である。
【0029】
ここで、好ましくは、W1は、W0の55%以上95%以下である。より好ましくは、W1は、W0の58%以上90%以下である。W1がW0の55%より小さいと、実装基板に対する外部端子の接続強度が不十分となり、W1がW0の95%より大きいと耐電圧が低下し易くなるからである。例えば、樹脂被膜が形成された成型体に、L(長さ)2.5mm×W(幅)2.0mm×T(高さ)2.0mmの大きさのものを用いた場合、W0が2.0mmであるので、W0の55%以上95%以下の場合、W1は1.1mm~1.9mmとなり、樹脂被膜が形成された成型体の稜線と外部端子の間にそれぞれ0.05mm~0.45mmの隙間が形成される。
【0030】
また、第1の主面12aの第1の稜線121bの近傍と、第2の稜線122bの近傍の少なくともいずれかに、導体が付着している場合でも、W1は、W0の55%以上95%以下であることが好ましい。ここで、導体とは、上記のめっき伸びやめっき跳びにより形成されためっきで析出した金属の粒を意味し、1個以上の金属の粒が含まれる。
【0031】
また、外部端子は、少なくとも実装面に形成されていればよいが、
図1に示すように、外部端子が第1の主面12aから、その第1の主面12aに隣接する側面12c、12dにまで延在して、断面L字形状を有することが好ましい。外部端子と成型体との間の固着強度をより増加させることができるからである。さらに、コイルの引出部は、端部が少なくとも第1の主面に露出していればよいが、
図1に示す様に、コイルの引出部の端部の先端部分が第1の主面12aに隣接する側面12c、12dに露出することが好ましい。引出部の端部と外部端子との接合面積を増加させて、引出部の端部と外部端子の間の抵抗を低減することができる。
【実施例】
【0032】
実験例
本実験例では、外部端子幅を稜線間幅に対して変化させた時の、インダクタ素子の耐電圧について評価した。用いたインダクタ素子は、樹脂被膜が形成された成型体の大きさが、L(長さ)2.5mm×W(幅)2.0mm×T(高さ)2.0mmである。また、成型体に用いた金属磁性粉末はFe-Si-Cr、樹脂はエポキシ樹脂である。また、樹脂被膜にはアクリル樹脂を用いた。
【0033】
(限界固着力の評価方法)
固着力は、AEC-Q200に基づき、測定治具の基板にインダクタ素子を実装し、測定治具の基板の配線間にインダクタ素子をはんだで接続した状態で、押し治具で、測定治具基板と平行な方向に加圧することにより計測することができる。また、本実施例の限界固着力は、インダクタ素子が破壊又は、インダクタンス素子が測定治具の基板の配線から外れた圧力を計測した。
【0034】
(限界耐電圧の評価方法)
耐電圧は、インパルス試験機(19301A クロマジャパン社製)を用いてインダクタ素子が破壊された電圧を測定する限界耐電圧試験を行って評価した。
【0035】
(結果)
外部端子幅を稜線間幅に対して変化させた時の、限界固着力と限界耐電圧の測定結果を
図2に示す。外部端子幅を稜線間幅に対して小さくすると、限界耐電圧は向上するが、限界固着力は低下し易くなる。下限を55%としたのは、稜線間幅に対する外部端子幅の割合が55%未満であると、AEC-Q200で求められている限界固着力を満たさなくなるからである。また、上限を95%としたのは、稜線間幅に対する外部端子幅の割合が95%を超えると樹脂被膜が形成された成型体の第1主面の幅方向において対向する稜線に、樹脂被膜から成型体の表面が露出したり、導体が付着したりした場合、限界耐電圧が低下するからである。
【0036】
なお、上記の実施の形態では、コイルの引出部を成型体の実装面に露出させる方法として、コイルの巻軸が成型体の実装面となる第1の主面と平行になるように、コイルを成型体に埋設する方法について説明したが、本発明では、それ以外の方法を用いることができる。例えば、コイルの巻軸が成型体の実装面となる第1の主面に対して垂直になるように、コイルを成型体に埋設し、引出部を捻り加工して、成型体の実装面に露出させる方法を用いることもできる。
【符号の説明】
【0037】
1 表面実装インダクタ
11 コイル
11a 巻回部
11b 第1の引出部
11c 第2の引出部
12 成型体
12a 第1の主面
12b 第2の主面
12c 側面
12d 側面
12e 側面
12f 側面
121b 第1の稜線
122b 第2の稜線
13 第1の外部端子
14 第2の外部端子