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特許7132800水酸化マグネシウム粒子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】水酸化マグネシウム粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 5/22 20060101AFI20220831BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220831BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C01F5/22
C08L101/00
C08K3/22
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018170558
(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公開番号】P2020040859
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390036722
【氏名又は名称】神島化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 泰洋
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-286668(JP,A)
【文献】特開2007-261923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00- 17/38
C08K 3/00- 13/08
C08L101/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が0.01m /g以上0.5m/g未満であり、
平均粒子径が10μm以上200μm以下であり、
X線回折における[001]面と[110]面に由来する回折ピークの半値幅の比([001]/[110])が0.75以上1.15未満である水酸化マグネシウム粒子。
【請求項2】
高級脂肪酸、高級脂肪酸アルカリ土類金属塩、カップリング剤、脂肪酸と多価アルコールとからなるエステル類、及びリン酸と高級アルコールとからなるリン酸エステル類からなる群より選択される少なくとも1種の表面処理剤により表面処理されている請求項1に記載の水酸化マグネシウム粒子。
【請求項3】
樹脂100質量部に対し、請求項1又は2に記載の水酸化マグネシウム粒子が5~500質量部配合されている樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂は、熱可塑性樹脂である請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の樹脂組成物を含む成形体。
【請求項6】
水酸化マグネシウムを含む懸濁液に、アルカリ金属水酸化物を、水酸化マグネシウム固形分100質量部に対して800質量部超となるよう添加して、230℃超で水熱処理し、BET比表面積が0.01m /g以上0.5m /g未満であり、平均粒子径が10μm以上200μm以下である水酸化マグネシウム粒子の製造方法。
【請求項7】
BET比表面積が0.5m/g未満であり、平均粒子径が10μm以上である水酸化マグネシウム粒子を、前記水酸化マグネシウム中に含む請求項6に記載の水酸化マグネシウム粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項6で得られた水酸化マグネシウム粒子を種粒子として、水酸化マグネシウムを含む懸濁液に前記種粒子を水酸化マグネシウム固形分のうち5質量%以上となるよう添加して、アルカリ金属水酸化物を水酸化マグネシウム固形分100質量部に対して800質量部超となるよう添加して、230℃超で水熱処理する水酸化マグネシウム粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化マグネシウム粒子及びその製造方法、並びに、前記水酸化マグネシウム粒子を含む樹脂組成物及び前記樹脂組成物を含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウム等の金属水酸化物は、無毒の無機物であり、ハロゲンを含有せず環境にも優しいことから、様々な分野で広く用いられるようになっている。例えば、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウム等の金属水酸化物は、自動車車両、鉄道車両、船舶、航空機、産業機材、電子機器、電子部品、絶縁電線、光ファイバーケーブル等の幅広い分野で、難燃剤、添加剤、樹脂フィラー、高機能性材料、及び触媒等の用途で幅広く用いられている。
【0003】
水酸化アルミニウムは、耐酸性に優れた無機材料であるが、分解温度が低く、約180℃から分解が始まり、300℃までに結晶構造の約80%の水分が放出される。例えば、水酸化アルミニウムを熱可塑性樹脂に樹脂添加剤として用いて成形した場合、約200℃以上の温度で発泡現象を起こして、成形体とした際の機械的強度を低下させるという問題がある。
【0004】
一方、水酸化マグネシウムは、約300℃で分解が始まるため、高い加工温度でも耐えることができる。例えば、特許文献1には、BET比表面積が1~25m/gで、平均粒子径が5~500μmである水酸化マグネシウムを用いることで、球形度の良い、緻密度の高い水酸化マグネシウムを提供できることが記載されている。また、特許文献1には、水可溶性マグネシウム塩とアンモニアを特定条件下で反応させて、水酸化マグネシウムを製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-29004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らの検討によると、特許文献1に記されている水酸化マグネシウムでは、BET比表面積が大きく、一次粒子が凝集した構造のため、樹脂に配合した際には樹脂の流動性や力学特性を低下させてしまうことが分かり、更に改善する余地があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、樹脂と組み合わせた後でもその流動性や力学特性の低下をきたさない水酸化マグネシウム粒子及びその製造方法、並びに、前記水酸化マグネシウム粒子を含む樹脂組成物及び前記樹脂組成物を含む成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、下記構成を採用することにより、前記した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の水酸化マグネシウム粒子は、BET比表面積が0.5m/g未満であり、平均粒子径が10μm以上であることを特徴とする。本発明における各種の物性値は、実施例において採用する方法により測定される値である。
【0010】
本発明の酸化マグネシウム粒子は、BET比表面積が0.5m/g未満であり、平均粒子径が10μm以上であるため、本発明の酸化マグネシウム粒子を樹脂と組み合わせた後でもその流動性や力学特性の低下をきたさないようにすることができる。このメカニズムは定かではないものの、下記の通りと考えられる。水酸化マグネシウム粒子の平均粒子径を10μm以上とコントロールすることで、粒子の構造体としての強度が増加するため、樹脂への充填性やメルトフローレート等の流動性や力学特性を向上できると推測される。さらに、水酸化マグネシウム粒子のBET比表面積を0.5m/g未満とコントロールすることで、樹脂等に配合した際に樹脂等との接触面積が小さくなるため、樹脂への充填性やメルトフローレート等の流動性や力学特性を向上し易くなり、本発明の効果がより確実に得られ易くなると推測される。
【0011】
本発明の水酸化マグネシウム粒子は、X線回折における[001]面と[110]面に由来する回折ピークの半値幅の比([001]/[110])が0.75以上1.15未満であることが好ましい。これにより、得られた水酸化マグネシウム粒子が偏った方向に結晶成長しない形態となるため、樹脂への充填性やメルトフローレート等の流動性や力学特性が向上する。
【0012】
本発明の水酸化マグネシウム粒子は、高級脂肪酸、高級脂肪酸アルカリ土類金属塩、カップリング剤、脂肪酸と多価アルコールとからなるエステル類、及びリン酸と高級アルコールとからなるリン酸エステル類からなる群より選択される少なくとも1種の表面処理剤により表面処理されている水酸化マグネシウム粒子であることが好ましい。これにより、水酸化マグネシウム粒子の有機高分子材料中(成形体中)への分散度をより向上させることができる。
【0013】
本発明には、樹脂100質量部に対し、前記水酸化マグネシウム粒子が5~500質量部配合されている樹脂組成物も含まれる。これにより、本発明の樹脂組成物は、樹脂への充填性やメルトフローレート等の流動性や力学特性等が良好な水酸化マグネシウム粒子を含んでいるので、優れた流動性や力学特性等を発揮することができるとともに、それから得られる成形体の物性低下を抑制して所望の特性を確保することができる。
【0014】
本発明の樹脂組成物では、前記樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。これにより、樹脂の特性を損なうことなく、本発明の効果がより確実に得られ易くなる。
【0015】
さらに、本発明には、前記樹脂組成物を含む成形体も含まれる。
【0016】
本発明の水酸化マグネシウム粒子の製造方法は、水酸化マグネシウムを含む懸濁液に、アルカリ金属水酸化物を、水酸化マグネシウム固形分100質量部に対して800質量部超となるよう添加して、230℃超で水熱処理する製造方法であることを特徴とする。アルカリ金属水酸化物の添加量が多く、かつ、水熱処理時の温度が高い過酷な条件で水酸化マグネシウム粒子を製造することで、得られた水酸化マグネシウム粒子の一次粒子の結晶成長が促進されて、粒子サイズが大きくなり易いため、得られた酸化マグネシウム粒子を樹脂と組み合わせた後でも流動性や力学特性の低下をきたさないようにすることができる。
【0017】
本発明では、BET比表面積が0.5m/g未満であり、平均粒子径が10μm以上である水酸化マグネシウム粒子を、前記水酸化マグネシウム中に含む水酸化マグネシウム粒子の製造方法であることが好ましい。粒子サイズの大きい粒子を用いることで、粒子サイズをより大きい水酸化マグネシウム粒子を効率的に製造できるため、より確実に、流動性や力学特性が良好な水酸化マグネシウム粒子を製造できる。
【0018】
本発明では、前記で得られた水酸化マグネシウム粒子を種粒子として、水酸化マグネシウムを含む懸濁液に前記種粒子を水酸化マグネシウム固形分のうち5質量%以上となるよう添加して、アルカリ金属水酸化物を水酸化マグネシウム固形分100質量部に対して800質量部超となるよう添加して、230℃超で水熱処理する水酸化マグネシウム粒子の製造方法であることが好ましい。粒子サイズの大きい種粒子を用いることで、粒子サイズをより大きい水酸化マグネシウム粒子を効率的に製造できるため、より確実に、樹脂への充填性やメルトフローレート等の流動性や力学特性が良好な水酸化マグネシウム粒子を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1で得られた水酸化マグネシウム粒子を示す走査型電子顕微鏡(FESEM)の写真である。
図2】実施例3で得られた水酸化マグネシウム粒子を示す走査型電子顕微鏡(FESEM)の写真である。
図3】比較例1で得られた水酸化マグネシウム粒子を示す走査型電子顕微鏡(FESEM)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[水酸化マグネシウム粒子]
本発明における水酸化マグネシウム粒子は、水酸化マグネシウムを主成分とする粉体からなるものであり、主成分となる水酸化マグネシウムの割合は、95%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上が更に好ましい。なお、原料由来の不純物成分を含むことができる。水酸化マグネシウムは、安価であること、化学的に安定であること、塩基性を示すこと、無毒性を有すること、それ自体が燃焼しないこと、分解時に吸熱をすること、そして分解して熱容量の大きな水分子を放出すること等により、ノンハロゲン系難燃剤、耐トラッキング剤、添加剤、樹脂フィラー、高機能性材料、及び触媒等の用途で優れた特性を有する。
【0021】
本発明の水酸化マグネシウム粒子は、流動性や力学特性等を向上させる観点から、BET比表面積が0.5m/g未満であり、好ましくは0.48m/g以下であり、更に好ましくは0.3m/g以下である。本発明の水酸化マグネシウム粒子のBET比表面積の下限値は、本発明の効果を損なわなければ良いとの観点から特に限定されないものの、実用性の観点から、0.01m/g以上が好ましく、0.03m/g以上がより好ましく、0.05m/g以上がさらに好ましい。また、本発明の水酸化マグネシウム粒子のBET比表面積は、流動性や力学特性等を向上させる観点から、0.01m/g以上0.5m/g未満が好ましく、0.03m/g以上0.48m/g以下がより好ましく、0.05m/g以上0.3m/g以下がさらに好ましい。
【0022】
本発明の水酸化マグネシウム粒子は、流動性や力学特性等を向上させる観点から、平均粒子径が10μm以上であり、好ましくは11μm以上であり、更に好ましくは12μm以上である。本発明の水酸化マグネシウム粒子の平均粒子径の上限値は、本発明の効果を損なわなければ良いとの観点から特に限定されないものの、実用性の観点から、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましい。また、本発明の水酸化マグネシウム粒子の平均粒子径は、流動性や力学特性等を向上させる観点から、10μm以上200μm以下が好ましく、11μm以上100μm以下がより好ましく、12μm以上80μm以下がさらに好ましい。
【0023】
本発明の水酸化マグネシウム粒子は、結晶成長の方向の偏りを少なくする観点から、X線回折における[001]面と[110]面に由来する回折ピークの半値幅の比([001]/[110])が0.75以上1.15未満であることが好ましく、0.80以上1.14以下であることがより好ましい。また、本発明の水酸化マグネシウム粒子は、X線回折における[001]の回折ピーク(2θ=18.6°)の半値幅は、結晶化度を高める観点から、0.30度以下が好ましく、0.25度以下がより好ましく、0.20度以下がさらに好ましい。また、同様の観点から、X線回折における[110]の回折ピーク(2θ=58.6°)の半値幅は、結晶化度を高める観点から、0.30度以下が好ましく、0.20度以下がより好ましく、0.18度以下がさらに好ましい。本発明の水酸化マグネシウム粒子のX線回折における[001]の回折ピーク(2θ=18.6°)の半値幅の下限値、及び、X線回折における[110]の回折ピーク(2θ=58.6°)の半値幅の下限値は、本発明の効果を損なわなければ良いとの観点から特に限定されないものの、実用性の観点から、各々、0.01度以上が好ましく、0.05度以上がより好ましく、0.07度以上がさらに好ましい。
【0024】
また、本発明の水酸化マグネシウム粒子の形状は、1次粒子あるいは2次粒子が、平板状、不定形、針状等のいずれの形状でも良いが、流動性や力学特性等を向上させる観点から、1次粒子の形状が、平板状、不定形の形状であることが好ましく、平板状がより好ましい。平板状としては、実質的に平板状の立体形状であれば、平板状の頂点が丸みを帯びる等多少変形したものでもよいが、六角形平板状の形状であることが好ましい。
【0025】
本発明の水酸化マグネシウム粒子は、必ずしも純度100%である必要はなく、その製法等に応じて不純物を含有する場合がある。例えば、鉄、銅、マンガン、クロム、コバルト、ニッケル、バナジウムなどの金属の化合物である。これらの不純物の含有量は、金属換算で、粒子中に0.1質量%以下であることが望ましい。
【0026】
本発明の水酸化マグネシウム粒子は、表面処理剤を用いるなどして表面処理された表面処理物であってもよい。表面処理剤としては当該用途に用いられる公知の化合物を用いることができる。前記表面処理は、高級脂肪酸、高級脂肪酸アルカリ土類金属塩、カップリング剤、脂肪酸と多価アルコールとからなるエステル類、及びリン酸と高級アルコールとからなるリン酸エステル類からなる群より選択される少なくとも1種を用いて行われることが好ましい。表面処理を行なうことにより、水酸化マグネシウム粒子の樹脂中(ないし成形体中)への分散性の向上、並びにこれによる樹脂組成物及び成形体の物性の維持ないし向上を図ることができる。なかでも、シランカップリング剤等のカップリング剤を用いることが、引張強度が向上する観点より好ましい。その他、表面処理剤として界面活性剤も用いることができる。
【0027】
カップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、p-トリメトキシシリルスチレン、p-トリエトキシシリルスチレン、p-トリメトキシシリル-α-メチルスチレン、p-トリエトキシシリル-α-メチルスチレン3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル) 3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2(アミノエチル) 3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-プロピル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、4-アミノブチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシランなどシラン系カップリング剤や、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロフォスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート等のチタネート系カップリング剤、さらには、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤が挙げられる。このようなカップリング剤は、単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0028】
高級脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、エルカ酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ベヘニン酸等の炭素数10以上の高級脂肪酸が挙げられ、ステアリン酸が分散性やハンドリング性の点で好ましい。高級脂肪酸アルカリ金属塩としては、上述の高級脂肪酸のアルカリ金属塩が挙げられ、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等を好適に用いることができる。分散性の観点から高級脂肪酸アルカリ金属塩が好ましく、中でも、ステアリン酸ナトリウムがより好ましい。これらは、単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0029】
脂肪酸と多価アルコールとからなるエステル類としては、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート等の多価アルコールと脂肪酸とのエステル等が挙げられる。
【0030】
リン酸と高級アルコールとからなるリン酸エステル類としては、例えば、オルトリン酸とオレイルアルコール、ステアリルアルコール等のモノまたはジエステルまたは両者の混合物であって、それらの酸型またはアルカリ金属塩またはアミン塩等のリン酸エステル等が挙げられる。
【0031】
界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン系界面活性剤が好適に使用可能である。
【0032】
アニオン系界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩;ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸塩;アルキルジフエニルエーテルジスルホン酸ナトリム等のアルキルジフエニルエーテルジスルホン酸塩;アルキルリン酸カリウム等のアルキルリン酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキル(又はアルキルアリル)硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0033】
カチオン系界面活性剤及び両性界面活性剤としては、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライト、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルペンジルジメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩:ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のアルキルベタイン;ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアミンオキサイド等が挙げられる。
【0034】
非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ポリオキシエチレン誘導体;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタンジステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレエート、自己乳化型グリセロールモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル:ポリオキシエチレンアルキルアミン;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0035】
このような表面処理剤を用いて、水酸化マグネシウム粒子の表面処理を行うには、公知の乾式法ないし湿式法を適用することができる。乾式法としては、水酸化マグネシウム粒子をヘンシェルミキサー等の混合機により、攪拌下で表面処理剤を液状、エマルジョン状、あるいは固体状で加え、加熱又は非加熱下に充分に混合すればよい。湿式法としては、水酸化マグネシウム粒子を水系溶媒若しくは非水系溶媒スラリーに表面処理剤を溶液状態又はエマルジョン状態で加え、例えば1~100℃程度の温度で機械的に混合し、その後、非水系溶媒の場合、乾燥等によって非水系溶媒を除去すればよい。非水系溶媒としては、例えばイソプロピルアルコールやメチルエチルケトン等が挙げられる。表面処理剤の添加量は適宜選択することができるが、乾式法を採用する場合、湿式法に比べて不均一な表面処理レベルとなりやすいため、湿式法よりは若干多めの添加量とした方が良い。具体的には、水酸化マグネシウム粒子100質量%に対して0.5~10質量%の範囲が好ましく、1~5質量%の範囲がより好ましい。湿式法を採用する場合、充分な表面処理及び表面処理剤の凝集防止の点から、水酸化マグネシウム粒子100質量%に対して0.1~5質量%の範囲が好ましく、0.3~3質量%の範囲がより好ましい。
【0036】
表面処理を行った水酸化マグネシウム粒子は、必要に応じて、造粒、乾燥、粉砕、及び分級等の手段を適宜選択して実施することができる。なお、表面処理前の水酸化マグネシウム粒子の各物性値は、前記の通りであるが、表面処理する割合が水酸化マグネシウム粒子に対してわずかな量であるため、表面処理後の水酸化マグネシウム粒子の各物性値も、表面処理前の水酸化マグネシウム粒子の各物性値と殆ど同じ値を採用することができる。従って、表面処理後の水酸化マグネシウム粒子の各物性値の記載は、ここでは省略する。
【0037】
[水酸化マグネシウム粒子の製造方法]
本発明の水酸化マグネシウム粒子の製造方法は、水酸化マグネシウムを含む懸濁液に、アルカリ金属水酸化物を、水酸化マグネシウム固形分100質量部に対して800質量部超となるよう添加して、230℃超で水熱処理することを特徴とする。
【0038】
本発明では、原料となる水酸化マグネシウムは、代表的には以下のようにして得られる。塩化マグネシウム又はその水和物の水溶液を調製し、そこにアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)を添加してサスペンジョンを得た後、このサスペンジョンに水熱処理を施してスラリーを得て、次いでスラリーをろ過、洗浄、乾燥することで所望の水酸化マグネシウムを製造することができる。なお、前記サスペンジョンの状態で、公知の粉砕法(例えば、湿式粉砕法等)により、原料となる水酸化マグネシウムの平均粒子径等の粒子物性を調製することができる。後工程である表面処理を湿式法で行う場合には、水熱処理を経たスラリーをろ過、洗浄した後、再度純水に戻して水酸化マグネシウムのスラリーとした上で、表面処理剤を添加することが好ましい。上記水熱処理は、オートクレーブ等の公知の耐圧加熱容器にて、撹拌下、100~250℃で1~10時間程度熱処理することで行うことができる。その後、必要に応じて、水洗、脱水、造粒、乾燥、粉砕、及び分級等することで表面処理された水酸化マグネシウムを製造することができる。
【0039】
前記工程で用い得る塩化マグネシウム又はその水和物としては、塩化マグネシウム六水和物、塩化マグネシウム二水和物、塩化マグネシウム無水和物等の水溶性マグネシウム塩が好適に挙げられる。通常、水溶性マグネシウム塩は水溶液として用いる。その他、マグネシウム原料として海水、潅水を用いてもよい。各水溶液中のマグネシウムイオン濃度としては、反応を充分に進行させる観点から、0.01~5mol/Lが好ましく、0.05~4mol/Lがより好ましい。
【0040】
前記工程で用い得るアルカリとしては、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等を用いることができる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。また、アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。アルカリ水溶液のアルカリ濃度としては、0.1~18N程度であればよく、0.5~15Nが好ましい。
【0041】
上記手順でそれぞれ調製した水溶性マグネシウム塩とアルカリ水溶液とを1~100℃程度で0.01~10時間反応させることで水酸化マグネシウムを含む懸濁液を調製することができる。
【0042】
本発明では、原料となる水酸化マグネシウムは、上記手順で製造することもできるが、天然物および合成物共に用いることができ、市販品として入手することもできる。また、本発明では、原料となる水酸化マグネシウムは、酸化マグネシウムを水和させて用いることも可能である。原料となる水酸化マグネシウムは、流動性や力学特性等を向上させる観点から、BET比表面積が0.5m/g未満であり、平均粒子径が10μm以上である水酸化マグネシウム粒子を、原料となる水酸化マグネシウム中に含むことが好ましい。なお、原料となる水酸化マグネシウムの各物性値(BET比表面積や平均粒子径を含む各物性値)は、前述の水酸化マグネシウム粒子の各物性値と同じ値を採用することができる。従って、ここでは省略する。
【0043】
本発明では、粗大粒子を製造する観点から、原料となる水酸化マグネシウムを含む懸濁液に、アルカリ金属水酸化物を、水酸化マグネシウム固形分100質量部に対して800質量部超、好ましくは820質量部以上、より好ましくは850質量部以上となるよう添加する。アルカリ金属水酸化物の添加量の上限値は、本発明の効果を損なわなければ良いとの観点から特に限定されないものの、生産性を向上させる観点から、水酸化マグネシウム固形分100質量部に対して2000質量部以下が好ましく、1500質量部以下がより好ましく、1200質量部以下がさらに好ましい。また、生産性を向上させる観点から、水酸化マグネシウム固形分100質量部に対して800質量部超2000質量部以下が好ましく、820質量部以上1500質量部以下がより好ましく、850質量部以上1200質量部以下がさらに好ましい。なお、本発明では、アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。
【0044】
本発明では、水酸化マグネシウムを含む懸濁液に、アルカリ金属水酸化物を、前記添加量を添加して得られたサスペンジョンに水熱処理を行うことが好ましい。上記水熱処理は、オートクレーブ等の公知の耐圧加熱容器にて、撹拌下、230℃超、好ましくは235℃以上、より好ましくは250℃以上で行う。水熱処理の温度の上限値は、本発明の効果を損なわなければ良いとの観点から特に限定されないものの、実用性の観点から、350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、280℃以下がさらに好ましい。また、実用性の観点から、230℃超350℃以下が好ましく、235℃以上300℃以下がより好ましく、250℃以上280℃以下がさらに好ましい。また、水熱処理の時間は、1~100時間程度水熱処理することが好ましく、5~50時間程度水熱処理することがより好ましい。本発明では、粗大粒子を製造する観点から、230℃超300℃以下で1~50時間程度、水熱処理することができる。
【0045】
本発明では、水熱処理して得たスラリーを、必要に応じて、水洗、脱水、造粒、乾燥、粉砕、及び分級等することで所望の水酸化マグネシウム粒子を製造することができる。
【0046】
また、後工程である表面処理を湿式法で行う場合には、水熱処理を経たスラリーをろ過、洗浄した後、再度純水に戻して水酸化マグネシウムのスラリーとした上で、表面処理剤を添加することが好ましい。上記水熱処理は、オートクレーブ等の公知の耐圧加熱容器にて、撹拌下、100~250℃で1~10時間程度熱処理することで行うことができる。その後、必要に応じて、水洗、脱水、造粒、乾燥、粉砕、及び分級等することで表面処理された水酸化マグネシウム粒子を製造することができる。
【0047】
本発明では、粗大粒子を製造する観点から、前記で得られた水酸化マグネシウム粒子を種粒子として、水酸化マグネシウムを含む懸濁液に前記種粒子を水酸化マグネシウム固形分のうち5質量%以上となるよう添加して、アルカリ金属水酸化物を水酸化マグネシウム固形分100質量部に対して800質量部超となるよう添加して、230℃超で水熱処理することができる。本発明では、好ましくは、水酸化マグネシウムを含む懸濁液に前記種粒子を水酸化マグネシウム固形分のうち5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上となるよう添加できる。また、前記種粒子の添加量の上限値は、本発明の効果を損なわなければ良いとの観点から特に限定されないものの、生産性を向上させる観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。また、前記種粒子の添加量は、生産性を向上させる観点から、5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましく、20質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。また、粗大粒子を製造する観点から、種粒子を用いて得られた水酸化マグネシウム粒子を、さらに種粒子として用いることができる。
【0048】
前記で得られた水酸化マグネシウム粒子を種粒子として用いる場合、流動性や力学特性等を向上させる観点から、BET比表面積が0.5m/g未満であり、平均粒子径が10μm以上である水酸化マグネシウム粒子を種粒子として用いることが好ましい。なお、種粒子となる水酸化マグネシウムの各物性値(BET比表面積や平均粒子径を含む各物性値)は、前述の水酸化マグネシウム粒子の各物性値と同じ値を採用することができる。従って、ここでは省略する。また、種粒子を用いた場合でも、アルカリ金属水酸化物の添加量や水熱処理の条件等は、前述と同じ値を採用することができる。
【0049】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、樹脂100質量部に対し、前記水酸化マグネシウム粒子が5~500質量部配合されていることを特徴とする。樹脂100質量部に対し、前記水酸化マグネシウム粒子を好ましくは50~300質量部、より好ましくは100~200質量部配合できる。
【0050】
前記樹脂として、特に制限されないものの、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。前記熱可塑性樹脂として、特に制限されないものの、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸メチル・メタクリル酸メチルコポリマー等の(メタ)アクリル酸エステル類の単独重合体又は共重合体等のアクリル樹脂;高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、EVA(エチレンビニルアセテート樹脂)、EEA(エチレンエチルアクリレート樹脂)、EMA(エチレンアクリル酸メチル共重合樹脂)、EAA(エチレンアクリル酸共重合樹脂)、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレン樹脂(PE);ポリプロピレンホモポリマー、エチレンプロピレン共重合体等のポリプロピレン樹脂(PP);ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマー);ポリスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリフェニレン樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46等の各種ナイロンを含むポリアミド樹脂が挙げられる。これら樹脂は単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
本発明では、例えば、前記熱可塑性樹脂として、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレン樹脂、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含有することが好ましい。流動性や力学特性等を向上させる観点から、前記熱可塑性樹脂として、アクリル樹脂及びポリエチレン樹脂(PE)を含有することがより好ましい。
【0052】
上記樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分以外に他の添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、例えば酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、発泡剤、可塑剤、充填剤、補強剤、難燃剤、架橋剤、光安定剤、紫外線吸収剤、及び滑剤等が挙げられる。
【0053】
上記他の添加剤の配合量は、本発明の効果を損なわなければ良いとの観点から特に限定されないものの、上記樹脂100質量部に対し、0.1~10質量部配合するのが好ましい。
【0054】
[成形体]
成形体は前記樹脂組成物を用いて得ることができる。このような成形体は、樹脂等に所定量の水酸化マグネシウム粒子を配合した後、公知の成形方法により得ることができる。このような成形方法としては、例えば押出成形、射出成形、カレンダー成形などである。
【0055】
成形体には、前述した所定の水酸化マグネシウム粒子が配合されているので、機械特性、難燃性等が優れている。このような成形体は機械特性、難燃性等が求められる各種用途に用いることができ、例えば、OA機器、自動車部品(内外装品)、鉄道車両、船舶、航空機、産業機材、ゲーム機、建築部材(室内用、住宅用材)、電気製品(エアコン、冷蔵庫の外側、いわゆる電子・電気機器全般のハウジング用途)、室内装飾品、絶縁電線、光ファイバーケーブル、雑貨、文具、家具、楽器(リコーダー)、機械部品等の用途に用いることができる。
【実施例
【0056】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[水酸化マグネシウム粒子での分析]
下記の実施例及び比較例で得られた各水酸化マグネシウム粒子(試料粉末)について、以下のような分析を行った。各分析結果を表1~2及び図1~3に示す。
【0058】
(1)BET比表面積
8連式プリヒートユニット(MOUNTECH社製)を用いて窒素ガス雰囲気下、約130℃、約30分間で前処理した試料粉末を、BET比表面積測定装置としてMacsorb HM Model-1208(MOUNTECH社製)を用いて、窒素ガス吸着法で、BET比表面積を測定した。
【0059】
(2)平均粒子径
エタノール50mLを100mL容量のビーカーに採り、約0.2gの試料粉末を入れ、3分間の超音波処理(トミー精工社製 UD-201)を施して分散液を調製した。この調製液をレーザー回折法-粒度分布計(日機装株式会社製 Microtrac HRA Model 9320-X100)を用いて、体積基準のD50値を平均粒子径(μm)として、測定した。
【0060】
(3)走査電子顕微鏡での粒子観察
アルミ試料台上に両面テープを貼り付け、その上から試料粉末をスパチュラのヘラでなぞるように塗布した。金蒸着を行った後、試料粉末の粒子像を走査電子顕微鏡(FE-SEM:日立製作所株式会社製S-4700)を用いて1千倍の写真を撮った。図1図3にSEM写真を示す。
【0061】
(4)X線回折におけるX線回折における[001]面と[110]面に由来する回折ピークの半値幅の比([001]/[110])
X線回折装置(株式会社リガク、RINT-2500、CuのKα線、40kV、50mA、統合粉末X線解析ソフトウェア「PDXL2」)を用い、走査間隔は0.03°、走査速度は5.0°/minで3~60°の範囲で試料粉末を測定した。X線回折における[001]面と[110]面に由来する回折ピークの半値幅の比([110]面に由来する回折ピークの半値幅に対する[001]面に由来する回折ピークの半値幅の比=[001]面に由来する回折ピークの半値幅/[110]面に由来する回折ピークの半値幅)は、[001]の回折ピーク(2θ=18.6°)の半値幅及び[110]の回折ピーク(2θ=58.6°)の半値幅から算出した。
【0062】
<実施例1>
BET比表面積が35m/g、平均粒子径が4.4μmの水酸化マグネシウム100gが含まれる懸濁液に、NaOHフレークを1000g添加して(水酸化マグネシウム固形分100質量部に対して1000質量部)、1.5Lの液量に調製した。調整した懸濁液を2L容量のテフロン(登録商標)製の接液部を有するオートクレーブ内に流し込み、攪拌下で250℃で10時間の水熱処理を行った。水熱処理後の懸濁液を真空濾過後、固形分に対して20倍容量以上の水で充分に洗浄した。その後、120℃で8時間以上乾燥させ、粉砕して水酸化マグネシウム粒子(試料粉末)を得た。
【0063】
<実施例2>
実施例1で得られた水酸化マグネシウム粒子25gを種粒子として、BET比表面積が35m/g、平均粒子径が4.4μmの水酸化マグネシウム75gが含まれる懸濁液に加えた以外は、実施例1と同様な操作を行って水酸化マグネシウム粒子を得た。
【0064】
<実施例3>
実施例2で得られた水酸化マグネシウム粒子25gを種粒子として、BET比表面積が35m/g、平均粒子径が4.4μmの水酸化マグネシウム75gが含まれる懸濁液に加えた以外は、実施例1と同様な操作を行って水酸化マグネシウム粒子を得た。
【0065】
<実施例4>
NaOHフレークを850g添加し(水酸化マグネシウム固形分100質量部に対して850質量部)、水熱処理条件を235℃で30時間にした以外は、実施例1と同様な操作を行って水酸化マグネシウム粒子を得た。
【0066】
<比較例1>
NaOHフレークを800g添加し(水酸化マグネシウム固形分100質量部に対して800質量部)、水熱処理条件を200℃で10時間にした以外は、実施例1と同様な操作を行って水酸化マグネシウム粒子を得た。
【0067】
<比較例2>
常法により海水を脱炭酸処理したのち、石灰乳を用いて公知の手段により水酸化マグネシウムスラリーを得た。かかるスラリーに水酸化ナトリウムを加え、水熱合成を行い粒径6μmの水酸化マグネシウムスラリーを得た。かかるスラリーは減圧ろ過機により分離され、乾燥することで水酸化マグネシウム粒子を得た。
【0068】
かかる水酸化マグネシウム紛体を、内容積10Lのステンレス容器にスラリー濃度6wt%となるように乳化した。かかるスラリーを撹拌装置により十分な撹拌状態を維持し、水酸化マグネシウム結晶を種晶として、12.7wt%の塩化マグネシウム溶液と25%アンモニア水をチューブポンプを用いて連続的に供給し、温度を60℃に維持しながら水酸化マグネシウムの結晶を析出せしめた。水酸化マグネシウムの沈殿はろ過器により分離し、水洗後120℃で乾燥して、水酸化マグネシウム粒子を得た。
【0069】
[樹脂組成物での分析と評価]
前記実施例及び比較例で得られた各水酸化マグネシウム粒子を、下記樹脂にそれぞれ配合して樹脂組成物を作製し、樹脂組成物、又は、これを成形した成形体について、以下のような評価試験を行った。各評価結果を表1~2に示す。
【0070】
(5)充填性とメルトフローレートの評価
a.表1における充填性とメルトフローレートの測定
PMMA(Polymethyl methacrylate)樹脂(商品名:アクリペットSV001、メーカー:三菱ケミカル社)を用いた。PMMA樹脂100質量部に対して、試料粉末(水酸化マグネシウム粒子)150質量部を、220℃に加熱されたラボプラストミル(東洋精機製)内に充填させ、その場合の充填しやすさを評価した。試料粉末において、ハンチングが1分以内に収まる物を〇、1分超~3分未満で収まるのものを△、3分以上続くものを×とした。
【0071】
その後、ラボプラストミルにより、220℃で5分間溶融混練して得た混練物を、樹脂シュレッダーで破砕し、目開き5mmの篩で5mm以下のコンパウンドを調製した。メルトフローレートの測定は、JIS K7210に準拠して加重3.8kg、温度230℃の条件で試験した。メルトフローレートの目標値は、3.0g/10分以上とした。
【0072】
b.表2における充填性とメルトフローレートの測定
PMMA(Polymethyl methacrylate)樹脂(商品名:住化MGSS、メーカー:住友化学社)、又は、EVA(エチレンビニルアセテート)樹脂(商品名:EV-180、メーカー:三井デュポンポリケミカル社)を用いた。PMMA樹脂、又は、EVA樹脂100質量部に対して、試料粉末(水酸化マグネシウム粒子)150質量部を、PMMA樹脂は220℃、EVA樹脂は180℃に加熱されたラボプラストミル(東洋精機製)内に充填させ、その場合の充填しやすさを評価した。試料粉末において、1分未満に全量充填できた場合は○、1~3分未満の場合は△、3分以上の場合は×とした。
【0073】
その後、ラボプラストミルにより、PMMA樹脂については220℃で5分間溶融混練して混練物をえた。メルトフローレートの測定は、JIS K7210に準拠して加重3.8kg、温度230℃の条件で試験した。メルトフローレートの目標値は、1.5g/分以上とした。
【0074】
(6)黒度
分光測色系(KONICA MINOLTA製)の検出器と黒色板の間にシート状成形体を挟み、黒度を測定することで透明性を測定した。数値が低い方が透明性が高いことを示す。目標値は、78%未満とした。
【0075】
(7)曲げ強度
a.測定用成型体の作製
PMMA樹脂(商品名:住化MGSS、メーカー:住友化学社)に対して、試料粉末(水酸化マグネシウム粒子)150質量部を配合した後に、ラボプラストミル(東洋精機株式会社)を用いて、220℃で5分間、回転数50rpmで溶融混練して得た混練物を、縦125mm×横13mm×厚み3mmの空間のある型枠に入れて220℃でプレス成型し、縦125mm×横13mm×厚み3mmの成形体を作成した。
【0076】
b.曲げ強度の測定
成形体の曲げ弾性率(N/mm)をJIS K7171に基づいて測定した。具体的
には、島津製作所社製オートグラフAG-5000A型を用い、試験法としてひずみ速度
を変更しないA法を採用し、支点間距離40mm、試験速度10mm/min、圧子の半
径R1=2mm、支持台の半径R2=2mmの条件で行った。目標値は、曲げ強度で69MPa以上とした。
【0077】
(8)引張試験(引張強度、引張伸び)
EVA(エチレンビニルアセテート)樹脂(商品名:EV-180、メーカー:三井デュポンポリケミカル社)を用いた。EVA樹脂100質量部に対して、試料粉末(水酸化マグネシウム粒子)150質量部を、ラボプラストミル(東洋精機製)により、180℃で5分間溶融混練して得た混練物を180℃でプレス成型して、厚み2mmのシート成形体を作成した。このシート成形体から2号形ダンベル状に打ち抜いた試験片を用いて、JIS-K-7113に準拠して、引張強度と引張伸びを測定した。目標値は、引張強度で0.9kgf/mm以上、引張伸びで1000%以上とした。
【0078】
(9)燃焼試験(難燃性)
上記(7)、(8)と同様の手順で、試験片(長さ125mm、幅13mm、厚さ3mm)を得て、UL94Vに従い燃焼試験を行った。目標値はV-0とした。
【0079】
(10)熱伝導率の測定
レーザーフラッシュ法を用いて熱伝導率の測定を行った。PMMA樹脂(商品名:住化MGSS、メーカー:住友化学社)100質量部に対して、試料粉末(水酸化マグネシウム粒子)150質量部を配合した後に、ラボプラストミル(東洋精機株式会社)を用いて、220℃で5分間、回転数50rpmで溶融混練して得た混練物を、縦125mm×横13mm×厚み1mmの空間のある型枠に入れて220℃でプレス成型し、縦125mm×横13mm×厚み1mmの成形体を作成した。その後成型体を縦10mm×横10mm×厚み1mmとなるように切り取り、LFA 467 HyperFlash(NETZSCH社)を用いて熱伝導率を測定した。目標値は0.8W/m・k以上とした。
【0080】
以上の分析および評価の結果を表1~2及び図1~3に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
表1に示すように、実施例1~4の水酸化マグネシウム粒子を用いて作製した樹脂組成物では、PMMA樹脂への充填性が良好で、かつ、メルトフローレートの目標値である3.0g/10分以上も達成でき、良好な結果が得られた。一方、比較例1のように、BET比表面積が大きく、平均粒子径が小さい水酸化マグネシウム粒子の場合、PMMA樹脂への充填性が悪く、かつ、メルトフローレートの目標値である3.0g/10分以上を達せできず、良好な結果が得られなかった。これは、水酸化マグネシウム粒子のBET比表面積を0.5m/g未満、かつ、平均粒子径を10μm以上とコントロールすることで、一次粒子の結晶成長が促進され、さらに粒子の構造体としての強度が増加するため、樹脂への充填性やメルトフローレート等の流動性や力学特性等を向上できたと推測される。
【0084】
また、実施例1~3を比較すると、水酸化マグネシウム粒子の原料として種粒子を用いることで、粒子を粗大化できることが分かった。表1の原料欄に示す通り、実施例1で得られた水酸化マグネシウム粒子を実施例2へ、実施例2で得られた水酸化マグネシウム粒子を実施例3へ用いることで、平均粒子径が大きくなり、BET比表面積が小さくなっていくことが分かった。
【0085】
水酸化マグネシウム粒子の走査型電子顕微鏡(FESEM)の写真を図1~3に示す。図1は実施例1で得られた水酸化マグネシウム粒子、図2は実施例3で得られた水酸化マグネシウム粒子、図3は比較例1で得られた水酸化マグネシウム粒子を示す。実施例1(図1)及び実施例3(図2)では、粒子1つ1つのサイズが大きく、さらに、一次粒子の結晶成長が促進されていることが観察された。一方、比較例1(図3)では、粒子各々が凝集しており、実施例1及び3とは粒子の結晶成長が異なることが観察された。
【0086】
表2は、実施例4及び比較例1~2の水酸化マグネシウム粒子の、X線回折における[001]面と[110]面に由来する回折ピークの半値幅の比([001]/[110])を示す。さらに、表2は、実施例4及び比較例1~2の水酸化マグネシウム粒子を用いて、PMMA樹脂又はEVA樹脂へ配合した際の流動性や力学特性を示す。PMMA樹脂で評価すると、実施例4のような[110]に対する[001]の半値幅の比([001]/[110])であると、比較例1~2と比較して、PMMA樹脂への充填性が良好で、メルトフローレートも高く、さらに、黒度、熱伝導率の測定、曲げ強度、難燃性等の流動性や力学特性も良好であった。なお、熱伝導率(PMMA樹脂で評価)については、水酸化マグネシウム粒子のBET比表面積の低下とともに、熱伝導率が上がっていくことが分かった。EVA樹脂で評価すると、実施例4のような[110]に対する[001]の半値幅の比([001]/[110])であると、比較例1~2と比較して、EVA樹脂への充填性が良好で、メルトフローレートも高く、さらに、黒度、引張強度、引張伸び、難燃性等の流動性や力学特性も良好であった。これは、粒子の構造体としての強度が増加するため、樹脂への充填性やメルトフローレート等の流動性や力学特性を向上できたと推測される。





図1
図2
図3