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特許7132819止水シート用樹脂組成物および止水シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】止水シート用樹脂組成物および止水シート
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/38 20060101AFI20220831BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
E21D11/38 A
C08L23/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018200547
(22)【出願日】2018-10-25
(65)【公開番号】P2020066931
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】立石 浩一
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-143316(JP,A)
【文献】特開2001-115791(JP,A)
【文献】特開2010-215762(JP,A)
【文献】特開2002-294015(JP,A)
【文献】特開2008-019664(JP,A)
【文献】特開2012-102593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/38
C08L 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含有し、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の総質量を100質量%としたとき、酢酸ビニルを由来とする構造単位の総含有率が20質量%以上32質量%以下であり、
下記条件で測定される引張破断伸度が500%以上である止水シート用樹脂組成物。
(引張破断伸度測定条件)
(1)前記止水シート用樹脂組成物を用いて、試料裁断機により、厚さ1mm、長さ60mm、幅3mmの試験片を作製する。
(2)恒温槽付き引張試験機を用いて、恒温槽内設定温度-10℃の環境下で、引張速度200mm/min、標線間距離12mmの条件で引張破断伸度を測定する。
【請求項2】
酢酸ビニルを由来とする構造単位の含有率が40質量%以上65質量%以下であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)と、
酢酸ビニルを由来とする構造単位の含有率が8質量%以上25質量%以下であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)と、
を含み、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の総質量を100質量%としたとき、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の含有率が40質量%以上53質量%以下であり、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の含有率が35質量%以上60質量%以下である請求項1に記載の止水シート用樹脂組成物。
【請求項3】
以下の条件で測定される破断強度が35MPa以上である請求項1または2に記載の止水シート用樹脂組成物。
(破断強度測定条件)
(1)前記止水シート用樹脂組成物を用いて、試料裁断機により、厚さ1mm、長さ60mm、幅3mmの試験片を作製する。
(2)恒温槽付き引張試験機を用いて、恒温槽内設定温度-10℃の環境下で、引張速度200mm/min条件で破断強度を測定する。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の止水シート用樹脂組成物で形成された止水シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水シート用樹脂組成物および止水シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル用の止水シート(防水シートまたは遮水シートともいう。以下、止水シート、防水シートおよび遮水シートを同義として扱う。)として、エチレン-酢酸ビニル共重合体の押出成形によるシートが用いられてきた。たとえば、特許文献1には、酢酸ビニル含量が異なる2種以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体の混合物を主成分としてなるトンネル用防水シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-115791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
止水シートに要求される特性として、粘着性、破断強度および伸びが良好であることがある。ただし、伸びに関しては、特許文献1に記載されているように、室温レベルの温度(20℃)での改良が進められていた。近年、上述した止水シートの各種特性について、低温(たとえば、-10℃)においても良好であることが求められるようになり、従来の止水シートでは要求を満たすことができなくなっている。
【0005】
そこで、本発明は、止水シートを形成したときに、優れた粘着性を発揮しつつ、低温下において良好な破断強度と伸びをバランス良く発揮させる止水シート用樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、1種類以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含み、前記エチレン・酢酸ビニル共重合体の総質量を100質量%としたとき、酢酸ビニルを由来とする構造単位の総含有率が20質量%以上32質量%以下であり、下記条件で測定される引張破断伸度が500%以上である止水シート用樹脂組成物が提供される。
(引張破断伸度測定条件)
(1)厚さ1mmのシート状にした前記止水シート用樹脂組成物を用いて、試料裁断機により、厚さ1mm、長さ60mm、幅3mmの試験片を作製する。
(2)恒温槽付き引張試験機を用いて、恒温槽内設定温度-10℃の環境下で、引張速度200mm/min、標線間距離12mmの条件で引張破断伸度を測定する。
【0007】
また、本発明によれば、上述した止水シート用樹脂組成物で形成された止水シートが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シートを形成したときに、優れた粘着性を発揮しつつ、低温下において良好な破断強度と伸びをバランス良く発揮させる止水シート用樹脂組成物に関する技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。
【0010】
(止水シート用樹脂組成物)
実施形態に係る止水シート用樹脂組成物は、1種類以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含む。止水シート用樹脂組成物の総質量を100質量%としたとき、エチレン‐酢酸ビニル共重合体の含有率は85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が最も好ましい。
本実施形態の止水シート用樹脂組成物では、エチレン-酢酸ビニル共重合体の総質量を100質量%としたとき、酢酸ビニルを由来とする構造単位の総含有率の下限が20質量%以上であり、好ましくは25質量%以上である。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体の総質量を100質量%としたとき、酢酸ビニルを由来とする構造単位の総含有率の上限が32質量%以下であり、好ましくは30質量%以下である。さらに、下記条件で測定される引張破断伸度が500%以上である。酢酸ビニルを由来とする構造単位の総含有率の下限が20質量%以上、当該総含有率の上限が32質量%以下であることにより、優れた粘着性を発揮しつつ、低温下での破断強度と引張破断伸度のバランスをとることができる。当該引張破断伸度の上限は特に限定されないが、止水フィルムが薄くなりすぎ、強度が低下することを抑制する観点から600%以下が好ましい。
(引張破断伸度測定条件)
(1)厚さ1mmのシート状にした止水シート用樹脂組成物を用いて、試料裁断機により、長さ60mm、幅3mmの試験片を作製する。
(2)温槽付き引張試験機を用いて、恒温槽内設定温度-10℃の環境下で、引張速度200mm/min、標線間距離12mmの条件で引張破断伸度を測定する。
【0011】
本実施形態に係る止水シート用樹脂組成物は、トンネルの防水に用いられる止水シートを形成する材料として好適に用いられる。
【0012】
本実施形態の止水シート用樹脂組成物は、酢酸ビニルを由来とする構造単位の含有率が25質量%以上33質量%以下である1種類のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含んでいてもよく、酢酸ビニルを由来とする構造単位の含有率が異なる2種類以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含んでいてもよい。
【0013】
酢酸ビニルを由来とする構造単位の含有率が異なる2種類以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体を主成分とする場合、酢酸ビニルの含有率が40質量%以上65質量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)および酢酸ビニルの含有率が8質量%以上25質量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を含むことが好ましい。
【0014】
本実施形態の止水シート用樹脂組成物において、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)は、主に粘着性や低温下での引張破断伸度を高める役割を担い、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)は、主に低温下での引張破断伸度や破断強度を高める役割を担うと推察される。本発明者は、止水シート用樹脂組成物において、エチレン-酢酸ビニル共重合体の総質量を100質量%としたとき、酢酸ビニルを由来とする構造単位の総含有率Sを20質量%以上32質量%以下としつつ、酢酸ビニルを由来とする構造単位の含有率が当該総含有率Sより高いエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)と、酢酸ビニルを由来とする構造単位の含有率がエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)より低いエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)とを下記に記載する適量含むことにより、当該止水シート用樹脂組成物で止水シートを形成したとき、破断強度および低温下での伸びをより一層バランス良く発揮させることができることを見出した。
【0015】
(エチレン-酢酸ビニル共重合体(A))
エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)における酢酸ビニルの含有率の下限は40質量%以上が好ましく、43質量%以上がより好ましく、45質量%以上がさらに好ましい。一方、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)における酢酸ビニルの含有率の上限は、65質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)における酢酸ビニルの含有率を上記範囲とすることにより、エチレン-酢酸ビニル共重合体を用いてシートを形成したとき、粘着性や低温下での引張破断伸度を高めることができると推察される。本実施形態の止水シート用樹脂組成物は、酢酸ビニルの含有率が異なるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)を2種以上含有していてもよい。
【0016】
エチレン-酢酸ビニル共重合体の総質量を100質量%としたとき、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の含有率の下限は40質量%以上が好ましく、42質量%以上がより好ましく、44質量%以上がさらに好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の含有率の上限は、53質量%以下が好ましく、51質量%以下がより好ましく、49質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
エチレン-酢酸ビニル共重合体の総質量に対するエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の含有率を上記範囲とすることにより、本実施形態の止水シート用樹脂組成物を用いてシートを形成したとき、粘着性や低温下での引張破断伸度を高めることができる。本実施形態の止水シート用樹脂組成物が酢酸ビニルの含有率の異なるエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)を2種以上含む場合は、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)の総含有率が上記の範囲にあればよい。
【0018】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)の下限は0.5g/10分以上が好ましく、1.0g/10分以上がより好ましく、1.5g/10分以上がさらに好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)のMFRの上限は100g/10分以下が好ましく、70g/10分以下がより好ましく、60g/10分以下がさらに好ましい。本実施形態の止水シート用樹脂組成物が酢酸ビニルの含有率の異なる2種以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)を含む場合には、混合物としてのエチレン-酢酸ビニル共重合体(A)のMFRが上記の範囲にあればよい。
【0019】
(エチレン-酢酸ビニル共重合体(B))
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)における酢酸ビニルの含有率の下限は8質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、14質量%以上がさらに好ましい。一方、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)における酢酸ビニルの含有率の上限は、25質量%以下が好ましく、23質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)における酢酸ビニルの含有率を上記範囲とすることにより、本実施形態の止水シート用樹脂組成物を用いてシートを形成したとき、低温下での破断強度や引張破断伸度を高めることができる。本実施形態の止水シート用樹脂組成物は、酢酸ビニルの含有率が異なるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を2種以上含有していてもよい。
【0020】
エチレン-酢酸ビニル共重合体の総質量を100質量%としたとき、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の含有率の下限は35質量%以上が好ましく、37質量%以上がより好ましく、39質量%以上がさらに好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の含有率の上限は、60質量%以下が好ましく、58質量%以下がより好ましく、56質量%以下がさらに好ましい。
【0021】
エチレン-酢酸ビニル共重合体の総質量に対するエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の含有率を上記範囲とすることにより、本実施形態の止水シート用樹脂組成物を用いてシートを形成したとき、低温下での破断強度や引張破断伸度を高めることができる。本実施形態の止水シート用樹脂組成物が酢酸ビニルの含有率の異なるエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を2種以上含む場合は、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の総含有率が上記の範囲にあればよい。
【0022】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のMFRの下限は0.5g/10分以上が好ましく、1.0g/10分以上がより好ましく、1.5g/10分以上がさらに好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のMFRの上限は30g/10分以下が好ましく、20g/10分以下がより好ましく、10g/10分以下がさらに好ましい。本実施形態の止水シート用樹脂組成物が酢酸ビニルの含有率の異なる2種以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を含む場合には、混合物としてのエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のMFRが上記の範囲にあればよい。
【0023】
本実施形態の止水シート用樹脂組成物が2種類以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を含む場合、エチレン-酢酸ビニル共重合体の総質量を100質量%としたとき、酢酸ビニルの含有率が8質量%以上15質量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B1)と、酢酸ビニルの含有率が15質量%を超え25質量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体(B2)とを含むことが好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)がエチレン-酢酸ビニル共重合体(B1)およびエチレン-酢酸ビニル共重合体(B2)を含むことにより、エチレン-酢酸ビニル共重合体(A)と、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B)との相溶性を高め、本実施形態の止水シート用樹脂組成物で止水シートを形成したとき、クラックが生じることを抑制し、止水シートの止水性能や信頼性を高めることができる。
【0024】
エチレン-酢酸ビニル共重合体の総質量を100質量%としたとき、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B1)の含有率の下限は、37質量%以上が好ましく、38質量%以上がより好ましい。一方、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B1)の含有率の上限は、50質量%以下が好ましく、47質量%以下がより好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体(B2)の含有率の下限は、10質量%以上が好ましく、13質量%以上がより好ましい。一方、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B2)の含有率の上限は、23質量%以下が好ましく、22質量%以下がより好ましい。ただし、エチレン-酢酸ビニル共重合体(B1)とエチレン-酢酸ビニル共重合体(B2)とを合計した総含有率は35質量%以上60質量%以下の範囲内である。
【0025】
[メルトフローレート(MFR)]
本実施形態の止水シート用樹脂組成物および当該止水シート用樹脂組成物に含まれるエチレン-酢酸ビニル共重合体のMFRは、JIS K7210-1999に準拠して温度190℃及び荷重2.16kgの条件で測定される値をいい、単位は「g/10分」で表される。MFRが高いほど熱溶融時の流動性は高く、MFRが低いほど熱溶融時の流動性は低い。
【0026】
本実施形態の止水シート用樹脂組成物のMFRの下限は、0.5g/10分以上が好ましく、1.0g/10分以上がより好ましい。本実施形態の止水シート用樹脂組成物のMFRの上限は、40g/10分以下が好ましく、30g/10分以下がより好ましい。止水シート用樹脂組成物のMFRが0.5g/10分以上40g/10分以下であることにより、止水シートの成形加工性を向上させることができる。
【0027】
[破断強度]
本実施形態の止水シート用樹脂組成物は、以下の条件で測定される破断強度が35MPa以上が好ましく、40MPa以上がより好ましく、45MPa以上がさらに好ましい。
(破断強度測定条件)
(1)厚さ1mmのシート状にした前記止水シート用樹脂組成物を用いて、試料裁断機により、厚さ1mm、長さ60mm、幅3mmの試験片を作製する。
(2)恒温槽付き引張試験機を用いて、恒温槽内設定温度-10℃の環境下で、引張速度200mm/min条件で破断強度を測定する。
【0028】
以上説明した止水シート用樹脂組成物によれば、止水シートを形成したとき、低温下での破断強度および伸びをバランス良く発揮させることができる。
[添加剤]
本実施形態の止水シート用樹脂組成物は、止水シートを形成したときの特性を損なわない範囲でその他の樹脂や添加剤を含んでいてもよい。
添加剤としては、たとえば、シリカ、炭酸カルシウムなどの無機充填剤が挙げられる。コンクリートなどの水硬性材料に対する止水用途で止水シート用樹脂組成物を用いる場合、当該止水シート用樹脂組成物に含まれる無機充填剤が水硬性材料中の無機成分と相互作用を起こすことにより、水硬性材料を硬化して得られる水硬物と止水シートとの接着性の向上を図ることができる。また本実施形態の止水シート用樹脂組成物は、シリコーン系滑剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0029】
(止水シート)
上述した止水シート用樹脂組成物をシート状に加工することにより、止水シートが形成される。シート加工の方法は特に限定されないが、単軸押出機、二軸押出機などを用いて止水シート用樹脂組成物からペレットを作製し、当該ペレットをカレンダー成形法、押出成形法などにより止水シートを形成する方法が挙げられる。止水シートの厚さは特に限定されないが、典型的には400μm以上2000μm以下である。
【0030】
本実施形態の止水シート用樹脂組成物からなる止水シートは、その形態は制限されず、たとえば、止水シート全体が本実施形態の止水シート用樹脂組成物よりなるシートから形成されていても、または、一方または両面の表面部分のみが本実施形態の止水シート用樹脂組成物で形成されていてもよい。
【0031】
本実施形態の止水シート用樹脂組成物からなる止水シートの用途として、トンネル用の止水シートの他に、廃棄物処分場、糞尿貯留槽、雨水貯留槽の遮水、ダム、河川、用水路、仮設水路の遮水、建築物における屋上防水、プール・タンク等の構造物の外壁防水などが挙げられる。
【0032】
本実施形態の止水シートは、優れた粘着性を発揮しつつ、低温下で破断強度および伸びをバランス良く発揮する。
【0033】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0034】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1~5、比較例1~3の各止水シート用樹脂組成物を表1に示すエチレン-酢酸ビニル共重合体の種類および配合にて作製した。
表1中のエチレン-酢酸ビニル共重合体A-1~A-4、エチレン-酢酸ビニル共重合体B1-1、B1-2およびエチレン-酢酸ビニル共重合体B2-1~B2-3に関し、酢酸ビニルに由来する構造単位の含有率(質量%)およびMFR(g/10分)を表1に示す。
【0035】
[引張試験]
実施例1~5、比較例1~3の各止水シート用樹脂組成物について、以下に説明する引張試験を実施した。
JIS K-7113に準拠して、恒温槽付き引張試験機を用いて、恒温槽内設定温度-10℃の環境下で、引張速度200mm/min、試験片の形状:2号半(長さ60mm、幅3mm)、標線間距離12mmの条件で引張破断伸度および破断強度を測定した。引張試験機として、株式会社島津製作所社製、オートグラフAG-X Plusを使用した。なお、試験片は株式会社ダンベル社製SD型試料裁断機により作製した。
引張破断伸度および破断強度の測定結果を表1に示す。
【0036】
【表1】


表1に示すように、実施例1~5の各止水シート用樹脂組成物は、止水シートを形成したときに、低温下で破断強度および引張破断伸度をバランス良く発揮させることが確認された。
【0037】
[剥離強度測定]
実施例2、3および参考例1、2の各止水シート用樹脂組成物について剥離強度を測定した。なお、参考例1は、実施例2の止水シート用樹脂組成物での酢酸ビニルを由来とする構造単位の含有率(27.6質量%)と近い、酢酸ビニルを由来とする構造単位の含有率(28質量%)であるエチレン・酢酸ビニル共重合体C-1を100質量%含有する。また、参考例2は、実施例3の止水シート用樹脂組成物での酢酸ビニルを由来とする構造単位の含有率(30.0質量%)と近い、酢酸ビニルを由来とする構造単位の含有率(33質量%)であるエチレン・酢酸ビニル共重合体C-2を100質量%含有する。
【0038】
剥離強度の測定条件を以下に記載する。剥離強度の測定結果を表2に示す。
(試験片の作製)
PETフィルム厚:50μm
止水シート用樹脂組成物シート厚:1000μm(1mm)
試験片作成条件:温度160℃、熱圧着時間5分
(剥離試験条件)
剥離試験装置:株式会社島津製作所社製、オートグラフAG-X
剥離速度:100mm/分
温度:23℃
湿度:50%RH
【表2】
【0039】
止水シート用樹脂組成物全体における酢酸ビニルを由来とする構造単位の含有率が同様である、実施例2の止水シート用樹脂組成物と参考例1の止水シート用樹脂組成物、実施例3の止水シート用樹脂組成物と参考例2の止水シート用樹脂組成物とをそれぞれ比較すると、酢酸ビニルに由来する構造単位の含有率が比較的高いエチレン-酢酸ビニル共重合体を有する場合に、酢酸ビニルを由来とする構造単位の含有率が単一のエチレン-酢酸ビニル共重合体で構成した場合より、23℃の環境下で剥離強度、換言すると粘着性が高まることが確認され、低温下でも優れた粘着性を示すことが示唆された。