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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】イオン注入装置およびビームパーク装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20220831BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
H01J37/317 Z
H01L21/265 603B
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018212925
(22)【出願日】2018-11-13
(65)【公開番号】P2020080242
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】八木田 貴典
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-226645(JP,A)
【文献】特開2008-262756(JP,A)
【文献】特開2008-047459(JP,A)
【文献】特開2005-327713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェハに向けてイオンビームが輸送されるビームラインの途中にビームパーク装置を備えるイオン注入装置であって、前記ビームパーク装置は、
前記ビームラインを挟んで対向する一対のパーク電極と、
前記一対のパーク電極よりも前記ビームラインの下流側において前記一対のパーク電極の対向方向に前記ビームラインから離れて設けられるビームダンプと、を備え、
前記一対のパーク電極の少なくとも一方は、前記ビームラインの延びる方向および前記対向方向の双方と直交する所定方向に間隔を空けて配置される複数の電極体を含み、
前記複数の電極体のそれぞれは、前記ビームラインの上流側から下流側に向けて延在することを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記複数の電極体の少なくとも一つは、前記所定方向と直交する方向に延在することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記複数の電極体の少なくとも一つは、前記所定方向に対して斜めに延在することを特徴とする請求項1または2に記載のイオン注入装置
【請求項4】
前記一対のパーク電極の前記対向方向は、重力方向であり、
前記複数の電極体は、少なくとも重力方向下側のパーク電極に設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記ビームダンプは、前記ビームラインから重力方向下側に離れた位置に設けられることを特徴とする請求項4に記載のイオン注入装置。
【請求項6】
前記一対のパーク電極の一方は、前記複数の電極体を含み、
前記一対のパーク電極の他方は、前記ビームラインを挟んで前記複数の電極体と対向する平坦面を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項7】
前記一対のパーク電極のそれぞれが前記複数の電極体を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項8】
前記複数の電極体のそれぞれは、前記ビームラインを挟んで対向するパーク電極に向けて露出する部分の少なくとも縁がR面取りされていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項9】
前記複数の電極体のそれぞれの前記露出する部分の表面は、平面と、R面取りされた曲面とを有することを特徴とする請求項8に記載のイオン注入装置。
【請求項10】
前記複数の電極体のそれぞれの前記R面取りの曲率半径は、5mm以上30mm以下であることを特徴とする請求項8または9に記載のイオン注入装置。
【請求項11】
前記複数の電極体の少なくとも一つの側面であって、隣合う電極体と前記所定方向に対向する側面が平坦面であることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項12】
前記複数の電極体の少なくとも一つの延在方向に直交する断面は、円形、長円形または楕円形であることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項13】
前記複数の電極体を含むパーク電極は、前記所定方向に延在して前記複数の電極体のそれぞれの上流端を接続する上流側接続部をさらに含み、前記上流側接続部は、前記ビームラインを挟んで対向するパーク電極に向けて露出する部分がR面取りされていることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項14】
前記複数の電極体を含むパーク電極は、前記所定方向に延在して前記複数の電極体のそれぞれの下流端を接続する下流側接続部をさらに含み、前記下流側接続部は、前記ビームラインを挟んで対向するパーク電極に向けて露出する部分がR面取りされていることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項15】
前記一対のパーク電極の一方は、前記ビームラインに沿って設けられ、
前記一対のパーク電極の他方は、前記ビームラインの下流側に向かうにつれて前記ビームラインから前記対向方向に離れて前記ビームダンプに近づくように前記ビームラインに対して斜めに設けられることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項16】
前記ビームラインに対して斜めに設けられるパーク電極の傾斜角は、10度以上30度以下であることを特徴とする請求項15に記載のイオン注入装置。
【請求項17】
前記ビームパーク装置は、前記一対のパーク電極を同電位とすることにより、前記イオンビームを前記ビームラインに沿って下流側に通過させる第1モードと、前記一対のパーク電極間に所定の電圧を印加することにより、前記イオンビームを前記ビームダンプに入射させる第2モードとを切り替えて動作可能であることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項18】
前記ビームパーク装置よりも前記ビームラインの上流側に配置される質量分析磁石と、
前記ビームパーク装置よりも前記ビームラインの下流側に配置され、前記質量分析磁石により偏向されるイオンビームを質量分析するための質量分析スリットと、をさらに備えることを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項19】
前記ビームパーク装置の下流側に配置され、前記ビームライン上に挿入してイオンビームを遮蔽可能なインジェクタファラデーカップをさらに備えることを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項20】
ビームラインの途中に配置されるビームパーク装置であって、
前記ビームラインを挟んで対向する一対のパーク電極と、
前記一対のパーク電極よりも前記ビームラインの下流側において前記一対のパーク電極の対向方向に前記ビームラインから離れて設けられるビームダンプと、を備え、
前記一対のパーク電極の少なくとも一方は、前記ビームラインの延びる方向および前記対向方向の双方と直交する所定方向に間隔を空けて配置される複数の電極体を含み、
前記複数の電極体のそれぞれは、前記ビームラインの上流側から下流側に向けて延在することを特徴とするビームパーク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置およびビームパーク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、半導体の導電性を変化させる目的、半導体の結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウェハにイオンを注入する工程(イオン注入工程ともいう)が標準的に実施されている。イオン注入工程では、注入対象の半導体ウェハに向けて延びるビームラインに沿ってイオンビームを輸送するイオン注入装置が用いられる。ビームラインの途中には、ビームラインからイオンビームを一時的に退避させ、半導体ウェハにイオンビームが照射されないようにするためのビームパーク装置が設けられることがある。ビームパーク装置は、例えばビームラインを挟んで対向する一対のパーク電極を備え、パーク電極間に印加される電場を用いてイオンビームを偏向させる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5242937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオンビームが輸送される真空チャンバ内では、様々な要因によりパーティクルが生じることがあり、上述のパーク電極の表面にもパーティクルが付着することがある。発明者らの知見によれば、パーク電極の表面にパーティクルが付着した状態でイオンビームの退避のためにパーク電極に高電圧を印加すると、パーク電極の表面で放電が発生し、放電時にパーク電極表面のパーティクルが飛散しうることが分かっている。ビームラインに向けてパーティクルが飛散した場合、半導体ウェハへのイオン注入処理に影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、ビームパーク装置でのパーティクルの飛散を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のイオン注入装置は、ウェハに向けてイオンビームが輸送されるビームラインの途中にビームパーク装置を備える。ビームパーク装置は、ビームラインを挟んで対向する一対のパーク電極と、一対のパーク電極よりもビームラインの下流側において一対のパーク電極の対向方向にビームラインから離れて設けられるビームダンプと、を備える。一対のパーク電極の少なくとも一方は、ビームラインの延びる方向および対向方向の双方と直交する所定方向に間隔を空けて配置される複数の電極体を含む。複数の電極体のそれぞれは、ビームラインの上流側から下流側に向けて延在する。
【0007】
本発明のさらに別の態様は、ビームラインの途中に配置されるビームパーク装置である。この装置は、ビームラインを挟んで対向する一対のパーク電極と、一対のパーク電極よりもビームラインの下流側において一対のパーク電極の対向方向にビームラインから離れて設けられるビームダンプとを備える。一対のパーク電極の少なくとも一方は、ビームラインの延びる方向および対向方向の双方と直交する所定方向に間隔を空けて配置される複数の電極体を含む。複数の電極体のそれぞれは、ビームラインの上流側から下流側に向けて延在する。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ビームパーク装置でのパーティクルの飛散を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
図2図1のイオン注入装置の概略構成を示す側面図である。
図3】ビームパーク装置の構成を詳細に示す側面図である。
図4図3のビームパーク装置の構成を詳細に示す正面図である。
図5】第2パーク電極の構成を示す断面図である。
図6】第2パーク電極の構成を示す上面図である。
図7】パーティクルの付着を抑制するメカニズムを模式的に示す図である。
図8】変形例に係る第2パーク電極の構成を示す上面図である。
図9】変形例に係るビームパーク装置の構成を示す正面図である。
図10図10(a)および(b)は、変形例に係る第2パーク電極の構成を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0012】
実施の形態を詳述する前に概要を説明する。本実施の形態は、ウェハに向けてイオンビームが輸送されるビームラインの途中にビームパーク装置が設けられるイオン注入装置である。ビームパーク装置は、ビームラインを挟んで対向する一対のパーク電極と、一対のパーク電極よりもビームラインの下流側において一対のパーク電極の対向方向にビームラインから離れて設けられるビームダンプと、を備える。ビームパーク装置は、パーク電極間に印加される電場を利用してイオンビームを偏向させ、ビームラインから外れたビームダンプにイオンビームを入射させることにより、ビームパーク装置より下流側にイオンビームが通過しないようにする。
【0013】
イオンビームが輸送される真空チャンバ内では、様々な要因によりパーティクルが生じることがあり、上述のパーク電極の表面にもパーティクルが付着することがある。発明者らの知見によれば、パーク電極の表面にパーティクルが付着した状態でイオンビームの退避のためにパーク電極に高電圧を印加すると、パーク電極の表面で放電が発生し、放電時にパーク電極表面のパーティクルが飛散しうることが分かっている。ビームラインに向けてパーティクルが飛散した場合、下流側の半導体ウェハへのイオン注入処理に影響を及ぼすおそれがある。そこで、本実施の形態では、パーク電極の表面形状をパーティクルが付着しにくい形状とする。具体的には、パーク電極を所定方向に間隔を空けて配置される複数の電極体で構成し、パーティクルが電極体間の隙間に落ちるようにしている。これにより、放電が発生しうるパーク電極の電極面上にパーティクルが残存する可能性を低くし、放電によるパーティクルの飛散を抑制できる。
【0014】
図1は、実施の形態に係るイオン注入装置10を概略的に示す上面図であり、図2は、イオン注入装置10の概略構成を示す側面図である。イオン注入装置10は、被処理物Wの表面にイオン注入処理をするよう構成される。被処理物Wは、例えば基板であり、例えば半導体ウェハである。説明の便宜のため、本明細書において被処理物WをウェハWと呼ぶことがあるが、これは注入処理の対象を特定の物体に限定することを意図しない。
【0015】
イオン注入装置10は、ビームを一方向に往復走査させ、ウェハWを走査方向と直交する方向に往復運動させることによりウェハWの処理面全体にわたってイオンビームを照射するよう構成される。本書では説明の便宜上、設計上のビームラインAに沿って進むイオンビームの進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。イオンビームを被処理物Wに対し走査する場合において、ビームの走査方向をx方向とし、z方向及びx方向に垂直な方向をy方向とする。したがって、ビームの往復走査はx方向に行われ、ウェハWの往復運動はy方向に行われる。
【0016】
イオン注入装置10は、イオン源12と、ビームライン装置14と、注入処理室16と、ウェハ搬送装置18とを備える。イオン源12は、イオンビームをビームライン装置14に与えるよう構成される。ビームライン装置14は、イオン源12から注入処理室16へイオンビームを輸送するよう構成される。注入処理室16には、注入対象となるウェハWが収容され、ビームライン装置14から与えられるイオンビームをウェハWに照射する注入処理がなされる。ウェハ搬送装置18は、注入処理前の未処理ウェハを注入処理室16に搬入し、注入処理後の処理済ウェハを注入処理室16から搬出するよう構成される。イオン注入装置10は、イオン源12、ビームライン装置14、注入処理室16およびウェハ搬送装置18に所望の真空環境を提供するための真空排気系(図示せず)を備える。
【0017】
ビームライン装置14は、ビームラインAの上流側から順に、質量分析部20、ビームパーク装置24、ビーム整形部30、ビーム走査部32、ビーム平行化部34および角度エネルギーフィルタ(AEF;Angular Energy Filter)36を備える。なお、ビームラインAの上流とは、イオン源12に近い側のことをいい、ビームラインAの下流とは注入処理室16(またはビームストッパ46)に近い側のことをいう。
【0018】
質量分析部20は、イオン源12の下流に設けられ、イオン源12から引き出されたイオンビームから必要なイオン種を質量分析により選択するよう構成される。質量分析部20は、質量分析磁石21と、質量分析レンズ22と、質量分析スリット23とを有する。
【0019】
質量分析磁石21は、イオン源12から引き出されたイオンビームに磁場を印加し、イオンの質量電荷比M=m/q(mは質量、qは電荷)の値に応じて異なる経路でイオンビームを偏向させる。質量分析磁石21は、例えばイオンビームにy方向(例えば-y方向)の磁場を印加してイオンビームをx方向に偏向させる。質量分析磁石21の磁場強度は、所望の質量電荷比Mを有するイオン種が質量分析スリット23を通過するように調整される。
【0020】
質量分析レンズ22は、質量分析磁石21の下流に設けられ、イオンビームに対する収束/発散力を調整するよう構成される。質量分析レンズ22は、質量分析スリット23を通過するイオンビームのビーム進行方向(z方向)の焦点位置を調整し、質量分析部20の質量分解能M/dMを調整する。なお、質量分析レンズ22は必須の構成ではなく、質量分析部20に質量分析レンズ22が設けられなくてもよい。
【0021】
質量分析スリット23は、質量分析レンズ22の下流に設けられ、質量分析レンズ22から離れた位置に設けられる。質量分析スリット23は、質量分析磁石21によるビーム偏向方向(x方向)がスリット幅となるように構成され、x方向が相対的に短く、y方向が相対的に長い形状の開口23aを有する。
【0022】
質量分析スリット23は、質量分解能の調整のためにスリット幅が可変となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅方向に移動可能な二枚の遮蔽体により構成され、二枚の遮蔽体の間隔を変化させることによりスリット幅が調整可能となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅の異なる複数のスリットのうちのいずれか一つに切り替えることによりスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。
【0023】
ビームパーク装置24は、ビームラインAからイオンビームを一時的に退避し、下流の注入処理室16(またはウェハW)に向かうイオンビームを遮断するよう構成される。ビームパーク装置24は、ビームラインAの途中の任意の位置に配置することができるが、例えば、質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間に配置できる。質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間には一定の距離が必要であるため、その間にビームパーク装置24を配置することで、他の位置に配置する場合よりもビームラインAの長さを短くすることができ、イオン注入装置10の全体を小型化できる。
【0024】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25(25a,25b)と、ビームダンプ26と、を備える。一対のパーク電極25a,25bは、ビームラインAを挟んで対向し、質量分析磁石21のビーム偏向方向(x方向)と直交する方向(y方向)に対向する。ビームダンプ26は、パーク電極25a,25bよりもビームラインAの下流側に設けられ、ビームラインAからパーク電極25a,25bの対向方向に離れて設けられる。
【0025】
第1パーク電極25aはビームラインAよりも重力方向上側に配置され、第2パーク電極25bはビームラインAよりも重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、ビームラインAよりも重力方向下側に離れた位置に設けられ、質量分析スリット23の開口23aの重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、例えば、質量分析スリット23の開口23aが形成されていない部分で構成される。ビームダンプ26は、質量分析スリット23とは別体として構成されてもよい。
【0026】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bの間に印加される電場を利用してイオンビームを偏向させ、ビームラインAからイオンビームを退避させる。例えば、第1パーク電極25aの電位を基準として第2パーク電極25bに負電圧を印加することにより、イオンビームをビームラインAから重力方向下方に偏向させてビームダンプ26に入射させる。図2において、ビームダンプ26に向かうイオンビームの軌跡を破線で示している。また、ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bを同電位とすることにより、イオンビームをビームラインAに沿って下流側に通過させる。ビームパーク装置24は、イオンビームを下流側に通過させる第1モードと、イオンビームをビームダンプ26に入射させる第2モードとを切り替えて動作可能となるよう構成される。
【0027】
質量分析スリット23の下流にはインジェクタファラデーカップ28が設けられる。インジェクタファラデーカップ28は、インジェクタ駆動部29の動作によりビームラインAに出し入れ可能となるよう構成される。インジェクタ駆動部29は、インジェクタファラデーカップ28をビームラインAの延びる方向と直交する方向(例えばy方向)に移動させる。インジェクタファラデーカップ28は、図2の破線で示すようにビームラインA上に配置された場合、下流側に向かうイオンビームを遮断する。一方、図2の実線で示すように、インジェクタファラデーカップ28がビームラインA上から外された場合、下流側に向かうイオンビームの遮断が解除される。
【0028】
インジェクタファラデーカップ28は、質量分析部20により質量分析されたイオンビームのビーム電流を計測するよう構成される。インジェクタファラデーカップ28は、質量分析磁石21の磁場強度を変化させながらビーム電流を測定することにより、イオンビームの質量分析スペクトラムを計測できる。計測した質量分析スペクトラムを用いて、質量分析部20の質量分解能を算出できる。
【0029】
ビーム整形部30は、四重極収束/発散装置(Qレンズ)などの収束/発散レンズを備えており、質量分析部20を通過したイオンビームを所望の断面形状に整形するよう構成されている。ビーム整形部30は、例えば、電場式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)で構成され、三つの四重極レンズ30a,30b,30cを有する。ビーム整形部30は、三つのレンズ装置30a~30cを用いることにより、イオンビームの収束または発散をx方向およびy方向のそれぞれについて独立に調整しうる。ビーム整形部30は、磁場式のレンズ装置を含んでもよく、電場と磁場の双方を利用してビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0030】
ビーム走査部32は、ビームの往復走査を提供するよう構成され、整形されたイオンビームをx方向に走査するビーム偏向装置である。ビーム走査部32は、ビーム走査方向(x方向)に対向する走査電極対を有する。走査電極対は可変電圧電源(図示せず)に接続されており、走査電極対の間に印加される電圧を周期的に変化させることにより、電極間に生じる電界を変化させてイオンビームをさまざまな角度に偏向させる。その結果、イオンビームがx方向の走査範囲全体にわたって走査される。図1において、矢印Xによりビームの走査方向及び走査範囲を例示し、走査範囲でのイオンビームの複数の軌跡を一点鎖線で示している。
【0031】
ビーム平行化部34は、走査されたイオンビームの進行方向を設計上のビームラインAの軌道と平行にするよう構成される。ビーム平行化部34は、中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧形状の複数の平行化レンズ電極を有する。平行化レンズ電極は、高圧電源(図示せず)に接続されており、電圧印加により生じる電界をイオンビームに作用させて、イオンビームの進行方向を平行に揃える。なお、ビーム平行化部34は他のビーム平行化装置で置き換えられてもよく、ビーム平行化装置は磁界を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0032】
ビーム平行化部34の下流には、イオンビームを加速または減速させるためのAD(Accel/Decel)コラム(図示せず)が設けられてもよい。
【0033】
角度エネルギーフィルタ(AEF)36は、イオンビームのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方に偏向して注入処理室16に導くよう構成されている。角度エネルギーフィルタ36は、電界偏向用のAEF電極対を有する。AEF電極対は、高圧電源(図示せず)に接続される。図2において、上側のAEF電極に正電圧、下側のAEF電極に負電圧を印加させることにより、イオンビームを下方に偏向させる。なお、角度エネルギーフィルタ36は、磁界偏向用の磁石装置で構成されてもよく、電界偏向用のAEF電極対と磁界偏向用の磁石装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0034】
このようにして、ビームライン装置14は、ウェハWに照射されるべきイオンビームを注入処理室16に供給する。
【0035】
注入処理室16は、ビームラインAの上流側から順に、エネルギースリット38、プラズマシャワー装置40、サイドカップ42、センターカップ44およびビームストッパ46を備える。注入処理室16は、図2に示されるように、1枚又は複数枚のウェハWを保持するプラテン駆動装置50を備える。
【0036】
エネルギースリット38は、角度エネルギーフィルタ36の下流側に設けられ、角度エネルギーフィルタ36とともにウェハWに入射するイオンビームのエネルギー分析をする。エネルギースリット38は、ビーム走査方向(x方向)に横長のスリットで構成されるエネルギー制限スリット(EDS;Energy Defining Slit)である。エネルギースリット38は、所望のエネルギー値またはエネルギー範囲のイオンビームをウェハWに向けて通過させ、それ以外のイオンビームを遮蔽する。
【0037】
プラズマシャワー装置40は、エネルギースリット38の下流側に位置する。プラズマシャワー装置40は、イオンビームのビーム電流量に応じてイオンビームおよびウェハWの表面(ウェハ処理面)に低エネルギー電子を供給し、イオン注入で生じるウェハ処理面の正電荷のチャージアップを抑制する。プラズマシャワー装置40は、例えば、イオンビームが通過するシャワーチューブと、シャワーチューブ内に電子を供給するプラズマ発生装置とを含む。
【0038】
サイドカップ42(42R,42L)は、ウェハWへのイオン注入処理中にイオンビームのビーム電流を測定するよう構成される。図2に示されるように、サイドカップ42R,42Lは、ビームラインA上に配置されるウェハWに対して左右(x方向)にずれて配置されており、イオン注入時にウェハWに向かうイオンビームを遮らない位置に配置される。イオンビームは、ウェハWが位置する範囲を超えてx方向に走査されるため、イオン注入時においても走査されるビームの一部がサイドカップ42R、42Lに入射する。これにより、イオン注入処理中のビーム電流量がサイドカップ42R、42Lにより計測される。
【0039】
センターカップ44は、ウェハ処理面におけるビーム電流を測定するよう構成される。センターカップ44は、駆動部45の動作により可動となるよう構成され、イオン注入時にウェハWが位置する注入位置から待避され、ウェハWが注入位置にないときに注入位置に挿入される。センターカップ44は、x方向に移動しながらビーム電流を測定することにより、x方向のビーム走査範囲の全体にわたってビーム電流を測定することができる。センターカップ44は、ビーム走査方向(x方向)の複数の位置におけるビーム電流を同時に計測可能となるように、複数のファラデーカップがx方向に並んでアレイ状に形成されてもよい。
【0040】
サイドカップ42およびセンターカップ44の少なくとも一方は、ビーム電流量を測定するための単一のファラデーカップを備えてもよいし、ビームの角度情報を測定するための角度計測器を備えてもよい。角度計測器は、例えば、スリットと、スリットからビーム進行方向(z方向)に離れて設けられる複数の電流検出部とを備える。例えば、スリットを通過したビームをスリット幅方向に並べられる複数の電流検出部で計測することにより、スリット幅方向のビームの角度成分を測定できる。サイドカップ42およびセンターカップ44の少なくとも一方は、x方向の角度情報を測定可能な第1角度測定器と、y方向の角度情報を測定可能な第2角度測定器とを備えてもよい。
【0041】
プラテン駆動装置50は、ウェハ保持装置52と、往復運動機構54と、ツイスト角調整機構56と、チルト角調整機構58とを含む。ウェハ保持装置52は、ウェハWを保持するための静電チャック等を含む。往復運動機構54は、ビーム走査方向(x方向)と直交する往復運動方向(y方向)にウェハ保持装置52を往復運動させることにより、ウェハ保持装置52に保持されるウェハをy方向に往復運動させる。図2において、矢印YによりウェハWの往復運動を例示する。
【0042】
ツイスト角調整機構56は、ウェハWの回転角を調整する機構であり、ウェハ処理面の法線を軸としてウェハWを回転させることにより、ウェハの外周部に設けられるアライメントマークと基準位置との間のツイスト角を調整する。ここで、ウェハのアライメントマークとは、ウェハの外周部に設けられるノッチやオリフラのことをいい、ウェハの結晶軸方向やウェハの周方向の角度位置の基準となるマークをいう。ツイスト角調整機構56は、ウェハ保持装置52と往復運動機構54の間に設けられ、ウェハ保持装置52とともに往復運動される。
【0043】
チルト角調整機構58は、ウェハWの傾きを調整する機構であり、ウェハ処理面に向かうイオンビームの進行方向とウェハ処理面の法線との間のチルト角を調整する。本実施の形態では、ウェハWの傾斜角のうち、x方向の軸を回転の中心軸とする角度をチルト角として調整する。チルト角調整機構58は、往復運動機構54と注入処理室16の壁面の間に設けられており、往復運動機構54を含むプラテン駆動装置50全体をR方向に回転させることでウェハWのチルト角を調整するように構成される。
【0044】
プラテン駆動装置50は、イオンビームがウェハWに照射される注入位置と、ウェハ搬送装置18との間でウェハWが搬入または搬出される搬送位置との間でウェハWが移動可能となるようにウェハWを保持する。図2は、ウェハWが注入位置にある状態を示しており、プラテン駆動装置50は、ビームラインAとウェハWとが交差するようにウェハWを保持する。ウェハWの搬送位置は、ウェハ搬送装置18に設けられる搬送機構または搬送ロボットにより搬送口48を通じてウェハWが搬入または搬出される際のウェハ保持装置52の位置に対応する。
【0045】
ビームストッパ46は、ビームラインAの最下流に設けられ、例えば、注入処理室16の内壁に取り付けられる。ビームラインA上にウェハWが存在しない場合、イオンビームはビームストッパ46に入射する。ビームストッパ46は、注入処理室16とウェハ搬送装置18の間を接続する搬送口48の近くに位置しており、搬送口48よりも鉛直下方の位置に設けられる。
【0046】
イオン注入装置10は、中央制御装置60を備える。中央制御装置60は、イオン注入装置10の動作全般を制御する。中央制御装置60は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現され、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現され、中央制御装置60により提供される各種機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの連携によって実現されうる。
【0047】
つづいて、ビームパーク装置24の構成について詳述する。図3は、ビームパーク装置24の構成を詳細に示す側面図である。図3において、紙面の上下方向(y方向)は重力方向Gと平行である。したがって、第1パーク電極25aが重力方向上側に配置され、第2パーク電極25bが重力方向下側に配置されている。
【0048】
図3は、上述の第1モードで動作するビームパーク装置24を示しており、パーク電極25a,25bの間を通過するイオンビームBは、質量分析スリット23の開口23aを通ってビームラインAの下流側に向かっている。質量分析スリット23の基部23bは、ステンレスやアルミニウムなどの材料で構成される。ビームパーク装置24と対向する質量分析スリット23の上流側の表面23cおよび開口23aには、グラファイトなどで構成されるカバー部材23dが設けられる。カバー部材23dを設けることにより、質量分析スリット23の少なくとも一部がビームダンプ26として好適に機能しうる。
【0049】
第1パーク電極25aおよび第2パーク電極25bのそれぞれは、ベースプレート80に対して固定されている。ベースプレート80は、第1パーク電極25aおよび第2パーク電極25bの重力方向下側に配置されている。第1パーク電極25aは、ベースプレート80から重力方向上側に延在する第1支持部材82により支持される。第2パーク電極25bは、ベースプレート80から重力方向上側に延在する第2支持部材84により支持される。第1支持部材82および第2支持部材84の取付位置は特に問わないが、例えば、第1支持部材82をビームラインAの下流側の位置に設け、第2支持部材84をビームラインAの上流側の位置に設けることができる。
【0050】
第1パーク電極25aは、グラファイトやアルミニウムなどの導電性部材の平板62で構成され、第2パーク電極25bと対向する第1電極面64が平坦面となるよう構成される。平板62は、第1電極面64がビームラインAと沿うように配置される。平板62は、ビームラインAに対して第1電極面64が厳密に平行となるように配置されてもよいし、ビームラインAに対する第1電極面64の傾斜角が5度以下といった小さな角度となるようにビームラインAに対して第1電極面64が略平行となるように配置されてもよい。第1パーク電極25aと第2パーク電極25bの間での放電を防ぐため、平板62の縁や角はR面取りされている。
【0051】
第2パーク電極25bは、グラファイトやアルミニウムなどの導電性部材で構成される。第2パーク電極25bは、第1パーク電極25aと対向する第2電極面74の少なくとも一部がビームラインAに対して斜めに傾斜し、ビームラインAから離れて質量分析スリット23の開口23aの下方に位置するビームダンプ26に近づくように構成される。第2電極面74の傾斜角θ2は、イオンビームBをビームダンプ26に向けて退避させるときのビーム偏向角θ1と同じであり、例えば10度~30度程度の角度に設定され、好ましくは15度~25度の角度に設定される。一方、第2パーク電極25bの底面75は、ビームラインAと平行である。第2パーク電極25bの底面75の上流側の位置には第2支持部材84を接続するための取付部79が設けられる。
【0052】
第2パーク電極25bは、本体部70と、上流側接続部71と、下流側接続部72とを有する。本体部70は、ビームラインAに対して斜めに傾斜する電極面を有する部分である。本体部70は、複数の電極体73(後述する図4の電極体73a~73f)で構成される。上流側接続部71は、本体部70の上流側に設けられ、複数の電極体73のそれぞれの上流端を接続する。下流側接続部72は、本体部70の下流側に設けられ、複数の電極体73のそれぞれの下流端を接続する。
【0053】
第2パーク電極25bの外周面76には、電源接続部86が取り付けられる。電源接続部86は、第2パーク電極25bの外周面76からx方向に延在した後(図4参照)、ビームラインAの上流側に向けて延びる。電源接続部86は、切替スイッチ87を介して電源88またはグランド89に接続される。切替スイッチ87は、ビームパーク装置24を第1モードで動作させる場合にグランド89に接続し、ビームパーク装置24を第2モードで動作させる場合に電源88の負極に接続する。電源88の正極はグランド89に接続されている。
【0054】
第1パーク電極25a、ベースプレート80および第1支持部材82は同電位となるよう構成され、例えばグランド89に接続される。一方、第2パーク電極25bは、第1パーク電極25aに対して負電位が印加されうる。そのため、第2パーク電極25bとベースプレート80の間の電気的絶縁を確保する必要があり、第2支持部材84は、碍子などの絶縁部材84aを含む。したがって、第2パーク電極25bとベースプレート80の間は絶縁部材84aを介して接続される。
【0055】
絶縁部材84aの周囲には内側絶縁カバー84bおよび外側絶縁カバー84cが設けられる。内側絶縁カバー84bは、ベースプレート80から第2パーク電極25bに向けて延在し、外側絶縁カバー84cは、第2パーク電極25bからベースプレート80に向けて延在する。絶縁カバー84b,84cは、例えば円筒形状であり、軸方向(y方向)に部分的に重なり合う一方で、径方向に離れて設けられる。絶縁カバー84b,84cは、汚れの付着による絶縁部材84aの絶縁性低下を防ぐ。
【0056】
図4は、ビームパーク装置24の構成を詳細に示す正面図である。図4は、質量分析スリット23の位置からビームパーク装置24をビームラインAの下流側から上流側に向けて見たときの図である。
【0057】
第1パーク電極25aは、第2パーク電極25bの左右に配置される第1支持部材82L,82Rにより支持される。同様に、第2パーク電極25bは、左右に配置される第2支持部材84L,84Rにより支持される。第2パーク電極25bの底面75の左右には、取付部79L,79Rが設けられている。第2パーク電極25bの外周面76には電源接続部86が取り付けられている。電源接続部86は、外周面76と直交する方向(x方向)に延びている。
【0058】
第2パーク電極25bの本体部70は、複数の電極体73a,73b,73c,73d,73e,73f(総称して電極体73ともいう)を有する。複数の電極体73は、紙面の左右方向(x方向)に間隔を空けて配置される。つまり、複数の電極体73は、ビームラインAの延びる方向(z方向)およびパーク電極25a,25bの対向方向(y方向)の双方に直交する所定方向(x方向)に間隔を空けて並べられている。複数の電極体73のそれぞれは、ビームラインAの上流側から下流側に向けて延在し、例えば、複数の電極体73が並べられる所定方向(x方向)と直交する方向(yz平面に沿う方向)に延びる。複数の電極体73のそれぞれの間には、第2電極面74から底面75に向けて本体部70を貫通する隙間77が設けられる。
【0059】
第2パーク電極25bの第2電極面74の縁や角部はR面取りされており、第2電極面74を構成する上流側接続部71、下流側接続部72および電極体73の表面の少なくとも一部が凸曲面で構成される。例えば、第2電極面74を構成する上流側接続部71および下流側接続部72の表面の少なくとも一部は、x方向に延びる円筒面で構成される。また、第2電極面74を構成する電極体73の表面の少なくとも一部は、x方向に直交する所定方向(yz平面に沿う方向)に延びる円筒面で構成される。
【0060】
図5は、第2パーク電極25bの構成を示す断面図であり、図4の正面図に対応する。図5は、複数の電極体73a~73fのそれぞれの断面形状を示している。図示されるように、第2電極面74を構成する各電極体73a~73fの上面は、凸曲面で構成されており、図5において円弧状の断面形状となっている。一方、底面75を構成する各電極体73a~73fの下面は平坦面となっている。また、各電極体73a~73fの隣合う電極体と対向する側面78も平坦面となっている。例えば、隣合う第1電極体73aと対向する第2電極体73bの側面78は平坦面で構成される。
【0061】
複数の電極体73a~73fのそれぞれは、適切なR面取り加工が可能となる程度の大きさの幅wを有することが好ましく、例えば5mm以上、好ましくは10mm以上の幅wを有することが好ましい。複数の電極体73a~73fのそれぞれの間隔d(つまり、隙間77の幅)は、パーティクルの落下が容易となる程度の大きさの間隔dを有することが好ましく、例えば5mm以上、好ましくは10mm以上の間隔dを有することが好ましい。複数の電極体73a~73fにおけるR面取り加工の曲率半径は、例えば5mm以上30mm以下である。
【0062】
図示する例において、複数の電極体73a~73fの幅wは、複数の電極体73a~73fの間隔dよりも大きい。例えば、複数の電極体73a~73fの幅wは10mm~30mm程度であり、複数の電極体73a~73fの間隔dは5mm~15mm程度である。各電極体73の幅wを各電極体73の間隔dよりも大きくすることで、イオンビームBに対してより均一な偏向電場を印加することができる。なお、各電極体73の幅wは、各電極体73の間隔dと同程度であってもよいし、各電極体73の間隔dより小さくてもよい。
【0063】
図示する例において、複数の電極体73a~73fのそれぞれの配列方向(x方向)の幅wは互いに等しい。なお、複数の電極体73a~73fの幅wを異ならせてもよい。例えばビームラインAに近い中央付近の電極体(例えば、第3電極体73cおよび第4電極体73d)の幅を相対的に小さくし、ビームラインAから遠い左右端に位置する電極体(例えば、第1電極体73aおよび第6電極体73f)の幅を相対的に大きくしてもよい。
【0064】
図示する例において、複数の電極体73a~73fのそれぞれの間隔dも互いに等しい。なお、複数の電極体73a~73fの間隔dを異ならせてもよい。例えば、ビームラインAに近い中央付近の電極体(例えば、第3電極体73cおよび第4電極体73d)の間隔を相対的に大きくし、ビームラインAから離れた左右に位置する電極体(例えば、第1電極体73aと第2電極体73b、または、第5電極体73eと第6電極体73f)の間隔を相対的に小さくしてもよい。
【0065】
図6は、第2パーク電極25bの構成を示す上面図であり、第1パーク電極25aの位置から見た第2電極面74の形状を示している。図6では図面の分かりやすさのため、第2電極面74が占める範囲を網掛けしている。図示されるように、第2電極面74は、梯子状に構成される。また、第2パーク電極25bの外周面76は、角部がR面取りされた形状を有する。また、複数の電極体73a~73fの隙間77を囲う側面78(または内周面)も角部がR面取りされた形状を有する。
【0066】
以上の構成によれば、第2パーク電極25bの第2電極面74へのパーティクルの付着を好適に抑制できる。図7は、パーティクルPの付着を抑制するメカニズムを模式的に示す図であり、図5の断面図に対応する。ビームライン装置14の内部では、様々な箇所でパーティクルが発生しうるが、例えば、質量分析スリット23の開口23aの周囲やビームダンプ26においてイオンビームを構成するイオンが堆積したり、イオンビームによりカバー部材23dなどがスパッタされることで昇華したグラファイト等が堆積したりして、堆積物の一部が剥がれ落ちることでパーティクルが生じうる。このようにして発生したパーティクルは、重力方向下側のパーク電極25の第2電極面74に向けて落下しうる。
【0067】
第2電極面74は、本体部70、上流側接続部71および下流側接続部72の全てにおいて凸曲面で構成されるため、第2電極面74に到達したパーティクルPはこの凸曲面に沿って落下しうる。第2パーク電極25bには、第2電極面74から底面75に向けて貫通する隙間77が設けられるため、凸曲面に沿って落下するパーティクルPは、破線Dで示されるように、隙間77を通って第2パーク電極25bの下方に落ちる。このようにして、第2パーク電極25bの第2電極面74へのパーティクルPの付着(残存)を抑制できる。その結果、第2電極面74に付着するパーティクルに起因するパーク電極25a,25b間での放電の発生を防ぐことができ、放電によってパーティクルが飛散し、ビームラインAに沿って下流側にパーティクルが移動するのを防ぐことができる。
【0068】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【0069】
上述の実施の形態では、第2パーク電極25bが本体部70、上流側接続部71および下流側接続部72を有する場合について示したが、上流側接続部71および下流側接続部72の少なくとも一方が設けられなくてもよい。
【0070】
図8は、変形例に係る第2パーク電極125bの構成を示す上面図であり、上述の図6に対応する。本変形例に係る第2パーク電極125bは、上流側接続部171と、複数の電極体173a、173b,173c,173d,173e,173f(総称して電極体173ともいう)とを有する。第2パーク電極125bは、図示されるように櫛歯状に構成され、複数の電極体173の上流端が上流側接続部171により接続される一方、複数の電極体173の下流端172は互いに接続されていない。複数の電極体173の下流端172は、凸曲面を有するように構成される。本変形例においても、上述の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0071】
上述の実施の形態では、第2パーク電極25bの第2電極面74の全てを凸曲面で構成する場合について示したが、第2電極面74の一部が平坦面で構成されてもよい。上述の実施の形態では、第2パーク電極25bの側面(外周面76や内周面78)を平坦面で構成する場合について示したが、第2パーク電極25bの側面の少なくとも一部が凸曲面で構成されてもよい。例えば、複数の電極体73のそれぞれが円柱状、長円柱状または楕円柱状に構成されてもよい。複数の電極体73の延在方向に直交する断面は、円形、長円形または楕円形であってもよい。
【0072】
図9は、変形例に係るビームパーク装置224の構成を示す正面図であり、上述の図4に対応する。本変形例に係る第2パーク電極225bは、複数の電極体273a、273b,273c,273d,273e,273f(総称して電極体273ともいう)を有し、上流側接続部や下流側接続部を有しない。各電極体273は、円柱状、長円柱状または楕円柱状に構成され、各電極体273の上流端271および下流端272が凸曲面を有するように構成される。各電極体273は、例えば、図3および図4に示した取付部79および第2支持部材84と類似する構造によりベースプレート80などの構造体に対して固定される。また、各電極体の側面276,278は、凸曲面となるように構成される。本変形例においても上述の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0073】
上述の実施の形態では、重力方向上側に配置される第1パーク電極25aを平板62で構成する場合を示したが、第1パーク電極が所定方向(x方向)に間隔を空けて配置される複数の電極体を有してもよい。つまり、第1パーク電極が梯子状または櫛歯状に構成されてもよいし、所定方向に間隔を空けて配置される複数の電極体のみで構成されてもよい。
【0074】
上述の実施の形態では、複数の電極体73を所定方向(x方向)と直交する方向に延在させる場合について示した。変形例においては、複数の電極体を所定方向(x方向)と交差する斜めの方向に延在させてもよい。
【0075】
図10(a)および(b)は、変形例に係る第2パーク電極325bの構成を模式的に示す上面図であり、上述の図6に対応する。図10(a)に示されるように、上流側接続部371aから下流側接続部372aに向けて複数の電極体373aをビームラインAに対して斜めに延在させるとともに、複数の電極体373aを互いに平行に延在させてもよい。また、図10(b)に示されるように、上流側接続部371bから下流側接続部372bに向けて複数の電極体373bの一部をビームラインAに対して斜めに延在させる一方で、残りの電極体373bをビームラインAに沿って延在させてもよい。また、複数の電極体373bの間隔が上流側から下流側に向けて徐々に大きくなるようにしてもよい。逆に、複数の電極体373bの間隔が上流側から下流側に向けて徐々に小さくなるようにしてもよい。
【0076】
上述の実施の形態では、複数の電極体73の幅w(太さ)が上流端から下流端まで均一となる場合について示した。変形例においては、複数の電極体73の幅wを上流端から下流端に向けて徐々に大きくしたり、逆に小さくしたりしてもよい。
【0077】
上述の実施の形態では、第1パーク電極25aが平板62で構成され、第1パーク電極25aの第1電極面64が平坦である場合について示した。変形例では、第1パーク電極25aが平板で構成されるのではなく、第1電極面64が湾曲形状や階段形状となるように構成されてもよい。
【0078】
上述の実施の形態では、ビームパーク装置24を第2モードで動作させてイオンビームを退避させる際にイオンビームを重力方向下側に偏向させる構成について示した。変形例においては、イオンビームの退避時にイオンビームを重力方向上側に偏向させるよう構成されてもよい。この場合、相対的に正電圧が印加される第1パーク電極が重力方向下側に配置され、相対的に負電位が印加される第2パーク電極が重力方向上側に配置される。このとき、重力方向下側に配置される第1パーク電極は、所定方向(x方向)に間隔を空けて配置される複数の電極体を有するよう構成され、第2パーク電極と対向する第1電極面が凸曲面で構成されてもよい。一方で、重力方向上側に配置される第2パーク電極は、複数の電極体を有する第1パーク電極と対向する第2電極面が平坦面で構成されてもよく、第2電極面が複数の電極体を有しなくてもよい。その他、第1パーク電極および第2パーク電極のそれぞれが複数の電極体を有してもよい。
【符号の説明】
【0079】
10…イオン注入装置、21…質量分析磁石、23…質量分析スリット、24…ビームパーク装置、25…パーク電極、25a…第1パーク電極、25b…第2パーク電極、26…ビームダンプ、64…第1電極面、71…上流側接続部、72…下流側接続部、73…電極体、74…第2電極面、A…ビームライン、B…イオンビーム、W…ウェハ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10