(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】流体封入式防振装置と流体封入式防振装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 13/10 20060101AFI20220831BHJP
B60K 5/12 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
F16F13/10 L
F16F13/10 H
B60K5/12 E
(21)【出願番号】P 2018223115
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-08-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 弘基
(72)【発明者】
【氏名】大木 健司
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214968(JP,A)
【文献】特開2017-180779(JP,A)
【文献】特開2009-092137(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135312(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0267184(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 13/10
B60K 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と第二の取付部材が第一のゴム弾性体で弾性連結されていると共に、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側には該第一のゴム弾性体で壁部の一部が構成された第一の流体室と壁部の一部が第二のゴム弾性体で構成された第二の流体室とが形成されており、それら第一の流体室と第二の流体室が該仕切部材によって形成された流通流路で連通されている流体封入式防振装置において、
前記仕切部材の外周部分が、前記第一のゴム弾性体と一体形成された第一のシールゴムを挟んで前記第二の取付部材に重ね合わされていると共に、該第一のシールゴムよりも外周側に設けられた第一の引掛部によって該仕切部材と該第二の取付部材とが係止固定されている一方、
前記第二のゴム弾性体の外周部分を保持する保持部材が、前記第二のゴム弾性体の外周部分に一体形成された第二のシールゴムを挟んで前記仕切部材の外周部分に重ね合わされていると共に、該第二のシールゴムよりも外周側に設けられた第二の引掛部によって該仕切部材と該保持部材とが係止固定されて
おり、
前記第一の引掛部と前記第二の引掛部が何れも可撓性の係止片と、該係止片が引っ掛けられる係止面を有する係止部位とによって構成されていると共に、
該第一の引掛部は前記第二の取付部材に対する前記仕切部材のマウント上下方向での重ね合わせによって引掛状態とされており、且つ、
該第二の引掛部は該仕切部材に対する前記保持部材のマウント上下方向での重ね合わせによって引掛状態とされている流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記第二の取付部材が側方から差し入れられる嵌合溝を備えたブラケットが設けられており、該嵌合溝の対向する溝側面間に対して、該第二の取付部材と前記保持部材とが、前記仕切部材を挟む重ね合わせ方向に嵌合されている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記第一の引掛部と前記第二の引掛部とが、前記仕切部材の周方向で互いに異なる位置にそれぞれ複数設けられている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記仕切部材が、前記第二の取付部材への重ね合わせ方向で分割された複数の分割構造体からなり、それら分割構造体の重ね合わせ面間には可動体が組み込まれている請求項1~
3の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
第一の取付部材と第二の取付部材が第一のゴム弾性体で弾性連結されていると共に、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側には該第一のゴム弾性体で壁部の一部が構成された第一の流体室と壁部の一部が第二のゴム弾性体で構成された第二の流体室とが形成されており、それら第一の流体室と第二の流体室が該仕切部材によって形成された流通流路で連通されている流体封入式防振装置を製造するに際して、
前記第一の取付部材と前記第二の取付部材が固着された前記第一のゴム弾性体の一体加硫成形品を得る工程と、
前記仕切部材の外周部分を、前記第一のゴム弾性体と一体形成された第一のシールゴムを挟んで前記第二の取付部材に重ね合わせると共に、該第一のシールゴムよりも外周側に設けられた第一の引掛部によって該仕切部材と該第二の取付部材とを係止固定する工程と、
前記第二のゴム弾性体の外周部分を保持する保持部材を、該第二のゴム弾性体の外周部分に一体形成された第二のシールゴムを挟んで前記仕切部材の外周部分に重ね合わせると共に、該第二のシールゴムよりも外周側に設けられた第二の引掛部によって該仕切部材と該保持部材とを係止固定する工程と
を、含
み、
前記第一の引掛部と前記第二の引掛部が何れも可撓性の係止片と、該係止片が引っ掛けられる係止面を有する係止部位とによって構成されており、
該第一の引掛部は前記第二の取付部材に対する前記仕切部材のマウント上下方向での重ね合わせによって引掛状態とすると共に、
該第二の引掛部は該仕切部材に対する前記保持部材のマウント上下方向での重ね合わせによって引掛状態とする
流体封入式防振装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンマウントなどに適用される防振装置に係り、特に内部に流体が封入された流体室を備える流体封入式防振装置と流体封入式防振装置の製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のエンジンマウントなどに用いられる防振装置の一種として、流体が封入された流体室を内部に備える流体封入式防振装置が知られている。流体封入式防振装置は、例えば、特開2017-180779号公報(特許文献1)に開示された液封防振装置のように、第一の取付部材と第二の取付部材が第一のゴム弾性体で弾性連結されていると共に、壁部の一部が第一のゴム弾性体で構成された第一の流体室と、壁部の一部が第二のゴム弾性体で構成された第二の流体室とが、仕切部材を挟んだ両側に設けられており、更にそれら第一の流体室と第二の流体室が流通流路で連通されている構造を、有している。
【0003】
ところで、流体封入式防振装置は、第一のゴム弾性体に固着された第二の取付部材と、第二のゴム弾性体を保持する保持部材と、第一の流体室と第二の流体室を仕切る仕切部材とが、組み合わされて構成されている。特許文献1では、第二の取付部材に設けられた突起状の係止部に対して、保持部材に設けられた弾性フック部が引っ掛けられることにより、それら第二の取付部材と保持部材が仕切部材を挟み込んだ状態で軸方向に連結されている。
【0004】
しかしながら、発明者が検討したところ、新規な課題が明らかになった。すなわち、特許文献1の構造において、仕切部材と第二の取付部材および保持部材との間の安定したシール性能の確保が難しくなる場合もあることがわかった。特に、仕切部材と第二の取付部材の間のシール性能と、仕切部材と保持部材の間のシール性能とを、充分に且つ両立して得ることが難しくなるおそれがあることがわかってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決課題は、第一の流体室と第二の流体室の流体密性を安定して得ることができる、新規な構造の流体封入式防振装置と流体封入式防振装置の製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0008】
すなわち、本発明の第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が第一のゴム弾性体で弾性連結されていると共に、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側には該第一のゴム弾性体で壁部の一部が構成された第一の流体室と壁部の一部が第二のゴム弾性体で構成された第二の流体室とが形成されており、それら第一の流体室と第二の流体室が該仕切部材によって形成された流通流路で連通されている流体封入式防振装置において、前記仕切部材の外周部分が、前記第一のゴム弾性体と一体形成された第一のシールゴムを挟んで前記第二の取付部材に重ね合わされていると共に、該第一のシールゴムよりも外周側に設けられた第一の引掛部によって該仕切部材と該第二の取付部材とが係止固定されている一方、前記第二のゴム弾性体の外周部分を保持する保持部材が、前記第二のゴム弾性体の外周部分に一体形成された第二のシールゴムを挟んで前記仕切部材の外周部分に重ね合わされていると共に、該第二のシールゴムよりも外周側に設けられた第二の引掛部によって該仕切部材と該保持部材とが係止固定されており、前記第一の引掛部と前記第二の引掛部が何れも可撓性の係止片と、該係止片が引っ掛けられる係止面を有する係止部位とによって構成されていると共に、該第一の引掛部は前記第二の取付部材に対する前記仕切部材のマウント上下方向での重ね合わせによって引掛状態とされており、且つ、該第二の引掛部は該仕切部材に対する前記保持部材のマウント上下方向での重ね合わせによって引掛状態とされているものである。
【0009】
このような第一の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、仕切部材と第二の取付部材が第一の引掛部によって係止固定されると共に、仕切部材と保持部材が第二の引掛部によって係止固定される。それ故、第二の取付部材と保持部材の間で仕切部材が適切に位置決めされて、仕切部材と第二の取付部材および保持部材との間において、目的とするシール性能が安定して確保される。
【0010】
また、仕切部材と第二の取付部材の間のシール性能が、第一のシールゴムに及ぼされる第一の引掛部による締付力によって設定されると共に、仕切部材と保持部材の間のシール性能が、第二のシールゴムに及ぼされる第二の引掛部による締付力によって設定される。それ故、仕切部材と第二の取付部材の間のシール構造と、仕切部材と保持部材の間のシール構造とにおいて、各シール性能を互いに独立して設定することができる。従って、例えば第一のシールゴムと第二のシールゴムの特性に違いがある場合に変形剛性の違い等を考慮して、或いは、第一の流体室と第二の流体室に作用する内圧の差などに応じて、各シール構造の性能を適切に調節することができる。加えて、係止片が係止部位を乗り越えた後で形状復元することで、係止片が係止面に簡単に引っ掛けられることから、仕切部材を、第二の取付部材と保持部材に対して、接近させるだけで容易に係止固定される。
【0011】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材が側方から差し入れられる嵌合溝を備えたブラケットが設けられており、該嵌合溝の対向する溝側面間に対して、該第二の取付部材と前記保持部材とが、前記仕切部材を挟む重ね合わせ方向に嵌合されているものである。
【0012】
第二の態様によれば、仕切部材と第二の取付部材が第一の引掛部によって係止固定されていると共に、仕切部材と保持部材が第二の引掛部によって係止固定された状態で、第二の取付部材がブラケットの嵌合溝に差し入れられる。このように、ブラケットの装着時には、仕切部材が第二の取付部材と保持部材に対してそれぞれ位置決めされていることから、第二の取付部材と保持部材が、嵌合溝の対向する溝側面に対して、仕切部材を挟む重ね合わせ方向に嵌合されても、仕切部材と第二の取付部材および保持部材の間のシール性能が安定して確保される。
【0013】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記第一の引掛部と前記第二の引掛部とが、前記仕切部材の周方向で互いに異なる位置にそれぞれ複数設けられているものである。
【0014】
第三の態様によれば、第一の引掛部と第二の引掛部をスペース効率よく設けることができて、流体封入式防振装置の小型化や製造の容易化が図られる。
【0017】
本発明の第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記仕切部材が、前記第二の取付部材への重ね合わせ方向で分割された複数の分割構造体からなり、それら分割構造体の重ね合わせ面間には可動体が組み込まれているものである。
【0018】
第五の態様によれば、仕切部材が分割構造体の重ね合わせ面間に可動体を組み込んだ構造とされていることにより、防振性能の向上が図られる。しかも、仕切部材が第二の取付部材への重ね合わせ方向で分割されていることから、仕切部材の分割構造体を第二の取付部材と保持部材の間で重ね合わせ方向に挟み込んで保持することもできる。特に、第一の引掛部と第二の引掛部が仕切部材において同じ分割構造体に設けられていれば、仕切部材が第二の取付部材と保持部材に対して第一の引掛部と第二の引掛部によって係止固定されることで、複数の分割構造体が相互に重ね合わされた状態に保持される。
【0019】
すなわち、本発明の第六の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が第一のゴム弾性体で弾性連結されていると共に、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側には該第一のゴム弾性体で壁部の一部が構成された第一の流体室と壁部の一部が第二のゴム弾性体で構成された第二の流体室とが形成されており、それら第一の流体室と第二の流体室が該仕切部材によって形成された流通流路で連通されている流体封入式防振装置を製造するに際して、(a)前記第一の取付部材と前記第二の取付部材が固着された前記第一のゴム弾性体の一体加硫成形品を得る工程と、(b)前記仕切部材の外周部分を、前記第一のゴム弾性体と一体形成された第一のシールゴムを挟んで前記第二の取付部材に重ね合わせると共に、該第一のシールゴムよりも外周側に設けられた第一の引掛部によって該仕切部材と該第二の取付部材とを係止固定する工程と、(c)前記第二のゴム弾性体の外周部分を保持する保持部材を、該第二のゴム弾性体の外周部分に一体形成された第二のシールゴムを挟んで前記仕切部材の外周部分に重ね合わせると共に、該第二のシールゴムよりも外周側に設けられた第二の引掛部によって該仕切部材と該保持部材とを係止固定する工程とを、含み、前記第一の引掛部と前記第二の引掛部が何れも可撓性の係止片と、該係止片が引っ掛けられる係止面を有する係止部位とによって構成されており、該第一の引掛部は前記第二の取付部材に対する前記仕切部材のマウント上下方向での重ね合わせによって引掛状態とすると共に、該第二の引掛部は該仕切部材に対する前記保持部材のマウント上下方向での重ね合わせによって引掛状態とするものである。
【0020】
このような第六の態様に従う流体封入式防振装置の製造方法によれば、仕切部材と第二の取付部材を第一の引掛部によって係止固定する工程によって、仕切部材と第二の取付部材が適切に位置決めされることから、仕切部材と第二の取付部材との間において、目的とするシール性能が安定して確保される。また、仕切部材と保持部材を第二の引掛部によって係止固定する工程によって、仕切部材と保持部材が適切に位置決めされることから、仕切部材と保持部材との間において、目的とするシール性能が安定して確保される。
【0021】
また、仕切部材と第二の取付部材の間のシール性能が、第一のシールゴムに及ぼされる第一の引掛部による締付力によって設定されると共に、仕切部材と保持部材の間のシール性能が、第二のシールゴムに及ぼされる第二の引掛部による締付力によって設定される。それ故、仕切部材と第二の取付部材の間のシール構造と、仕切部材と保持部材の間のシール構造とにおいて、各シール性能を互いに独立して設定することができる。従って、第一のシールゴムと第二のシールゴムの特性の違いや、第一の流体室と第二の流体室に作用する内圧の差などに応じて、各シール構造の性能を適切に調節することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、第一の流体室と第二の流体室において、目的とする流体密性を容易に且つ高度に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図。
【
図7】
図2に示すエンジンマウントの断面図であって、
図5のVII-VII断面に相当する図。
【
図8】
図2に示すエンジンマウントを構成するマウント本体の斜視図。
【
図9】
図8のマウント本体を別の角度で示す斜視図。
【
図15】
図8に示すマウント本体を構成する一体加硫成形品の断面図。
【
図16】
図8に示すマウント本体を構成する仕切部材と可撓性膜と保持部材とを含んで構成された組立体の斜視図。
【
図21】
図16に示す組立体を一体加硫成形品に組み付ける工程を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1~7には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、マウント本体12に対してインナブラケット14とアウタブラケット16が装着された構造を有している。さらに、マウント本体12は、
図8~14にも示すように、一体加硫成形品18を備えている。なお、以下の説明において、原則として、上下方向とは
図2中の上下方向を、前後方向とは
図4中の左右方向を、それぞれ言う。
【0026】
より詳細には、一体加硫成形品18は、第一の取付部材20と第二の取付部材22が、第一のゴム弾性体としての本体ゴム弾性体24によって弾性連結された構造を有している。
【0027】
第一の取付部材20は、金属や硬質の合成樹脂などで形成されて、軸方向視で略円柱状の中実ブロック状とされている。本実施形態の第一の取付部材20は、鉄やアルミニウム合金などの金属で形成されて、変形に対する剛性が大きく確保されている。第一の取付部材20は、下方へ向かって次第に小径となっており、本実施形態では、
図14に示す縦断面において、第一の取付部材20の外周面が外側へ向けて凸となる湾曲面で構成されている。さらに、第一の取付部材20は、上端部分が軸方向視で略四角形の外周面を有して外周へ突出している。更にまた、第一の取付部材20は、中心軸上を上下方向に延びて上面に開口するねじ穴26を備えている。
【0028】
第二の取付部材22は、硬質の合成樹脂や金属などで形成されて、全体として枠状とされている。本実施形態の第二の取付部材22は、繊維強化樹脂材などの合成樹脂材で形成されて、軽量化や形状自由度の向上などが図られている。また、本実施形態の第二の取付部材22は、軸方向視において、外周面が略四角形とされていると共に、内周面が略円形とされている。さらに、第二の取付部材22の内周面は、略軸直角方向に広がる環状の段差面28を有している。第二の取付部材22の内周面は、段差面28によって、下部が上部よりも大径とされている。また、第二の取付部材22は、左右両面に嵌合ゴム層30がそれぞれ固着されている。嵌合ゴム層30は、第二の取付部材22の上面および下面まで延びている。
【0029】
さらに、
図10~12に示すように、第二の取付部材22の前後両端部分には、左右両側部分の下部に凹部32が形成されている。それら4つの凹部32,32,32,32には、それぞれ第一の係止片34が設けられている。第一の係止片34は、略U字形状とされて可撓性を有しており、上部の両端部が凹部32の内面に一体的につながっていると共に、先端部分である下部が第二の取付部材22よりも下側まで突出している。
【0030】
そして、第一の取付部材20と第二の取付部材22は、
図15に示すように、略同一中心軸上に配置されて、本体ゴム弾性体24によって相互に弾性連結されている。本体ゴム弾性体24は、略円錐台形状とされており、小径側の端部である上端部に第一の取付部材20が加硫接着されていると共に、大径側の端部である下端部に第二の取付部材22が加硫接着されている。このように、本体ゴム弾性体24は、第一の取付部材20と第二の取付部材22を備える一体加硫成形品18として形成されている。
【0031】
さらに、本体ゴム弾性体24は、逆向きの略すり鉢形状を有して下面に開口する凹所36を備えている。更にまた、凹所36の開口周縁部から下向きに延び出す第一のシールゴム38が、本体ゴム弾性体24と一体形成されている。この第一のシールゴム38は第二の取付部材22の内周面に固着されており、段差面28を含む第二の取付部材22の内周面が、第一のシールゴム38によって覆われている。
【0032】
また、本体ゴム弾性体24の一体加硫成形品18には、仕切部材40が取り付けられている。仕切部材40は、
図16~20にも示すように、全体として略円板形状を有しており、分割構造体としての仕切部材本体42と分割構造体としての蓋部材44とが、上下方向に重ね合わされた構造を有している。
【0033】
仕切部材本体42は、硬質の合成樹脂や金属などで形成されて、
図19,20に示すように、上部が略円板形状とされている。本実施形態の仕切部材本体42は、繊維強化樹脂材などの合成樹脂材で形成されて、軽量化や形状自由度の向上などが図られている。さらに、仕切部材本体42は、上面に開口する収容凹所46と下面に開口する下側凹所48を備えている。仕切部材本体42は、上面に開口して周方向に延びる周溝50を備えている。
図19に示すように、収容凹所46の底壁部には、上下方向に貫通する複数の第一の透孔52が形成されている。収容凹所46の底壁部の中央部分および収容凹所46の周壁部には、上側へ向けて突出する略円柱形状の連結ピン54が設けられている。
【0034】
仕切部材本体42の上部には、前後方向の外側へ向けて突出する係止部位としての第一の係止突起56が設けられている。第一の係止突起56は、前後方向に延びる略矩形棒状とされて、仕切部材本体42の上部における左右方向の両端部分に設けられている。なお、本実施形態では、第一の係止突起56の下面によって、係止面58が構成されている。
【0035】
仕切部材本体42の下部は、軸方向視で略四角形の外周面を有する係止部位としての第二の係止突起60が一体形成されている。第二の係止突起60は、仕切部材本体42の四隅部分において上部よりも外周へ突出する略板状であって、その上面によって係止面62が構成されている。
【0036】
蓋部材44は、金属などで形成されて、薄肉の略円板形状とされている。蓋部材44には、上下方向に貫通する複数の第二の透孔64が形成されている。蓋部材44における第二の透孔64を外れた部分には、複数のピン挿通孔66が上下方向に貫通して形成されている。
【0037】
そして、仕切部材本体42と蓋部材44は、上下方向で重ね合わされて、相互に連結されている。本実施形態では、仕切部材本体42に設けられた複数の連結ピン54が、蓋部材44に設けられた複数のピン挿通孔66の各一つに挿通されて、各連結ピン54の先端部分が拡径変形せしめられることによって、各連結ピン54の先端部分がピン挿通孔66の開口周縁部に係止固定されている。これにより、仕切部材本体42と蓋部材44が分離不能に連結されて、仕切部材40が構成されている。
【0038】
仕切部材本体42と蓋部材44が重ね合わされることにより、仕切部材本体42における収容凹所46の上側開口が、蓋部材44によって覆われている。そして、仕切部材本体42と蓋部材44の重ね合わせ面間に設けられた収容凹所46には、可動体としての可動膜68が収容されている。可動膜68は、略円板形状のゴム弾性体であって、内周端部と外周端部がそれぞれ厚肉とされている。可動膜68の中央部分には、上下方向に貫通する軸挿通孔70が形成されている。この軸挿通孔70に蓋部材44の中央の連結ピン54が挿通されることで、可動膜68は、中央部分が蓋部材44に位置決めされた状態で、収容凹所46に収容配置されており、薄肉とされた径方向中間部分が弾性変形によって上下方向に変位可能とされている。
【0039】
仕切部材本体42と蓋部材44が重ね合わされて固定されることにより、仕切部材本体42の周溝50の開口が、蓋部材44によって覆われている。これにより、周方向に延びるトンネル状の流路が仕切部材本体42と蓋部材44の間に形成されている。
【0040】
かくの如き構造とされた仕切部材40は、上部が第二の取付部材22の内周側へ差し入れられた状態で、第二の取付部材22によって支持されている。すなわち、仕切部材本体42の第一の係止突起56が、第二の取付部材22の第一の係止片34の内周へ差し入れられて、第一の係止片34の先端部分が第一の係止突起56の係止面58に引っ掛けられて係止固定されることにより、第二の取付部材22と仕切部材40が上下方向で相互に連結されている。このように、本実施形態において、第二の取付部材22と仕切部材40を相互に係止固定する第一の引掛部72は、第二の取付部材22の第一の係止片34と、仕切部材40の第一の係止突起56とによって構成されている。また、第一の係止片34と第一の係止突起56が各複数設けられていることから、複数の第一の引掛部72が周方向で相互に離れた位置に設けられている。
【0041】
第二の取付部材22と仕切部材40が第一の引掛部72によって係止固定された状態において、仕切部材40における蓋部材44の外周端部の上面が、第二の取付部材22の段差面28に対して、第一のシールゴム38を挟んだ状態で全周に亘って押し付けられている。
【0042】
これにより、第一のシールゴム38は、第一の引掛部72による係止方向で圧縮される。すなわち、第一のシールゴム38の圧縮の反力によって第二の取付部材22と仕切部材40とが相互に離隔しようとするのを、第一の引掛部72の係止で阻止する構造とされており、第一の引掛部72の係止によって第一のシールゴム38が全周に亘って圧縮状態に保持されている。
【0043】
そして、蓋部材44の外周端部と第二の取付部材22との対向面に第一のシールゴム38が押し付けられていることにより、蓋部材44と第二の取付部材22との間が流体密に封止されている。要するに、仕切部材40は第二の取付部材22に対して上下方向で重ね合わされており、それら第二の取付部材22と仕切部材40の上下方向の重ね合わせ面間に第一のシールゴム38が挟まれていることによって、第二の取付部材22と仕切部材40の間が第一のシールゴム38によって全周に亘って流体密にシールされている。
【0044】
第二の取付部材22と仕切部材40は、第一の引掛部72によって相互に係止固定された状態において、上下方向で僅かに離れて隙間が形成されていることが望ましい。これにより、第一のシールゴム38に及ぼされる圧縮力が、第二の取付部材22と仕切部材40の当接によって小さくなってしまうのを防ぐことができる。
【0045】
第二の取付部材22と仕切部材40は、第一の引掛部72によって相互に係止固定された状態において、重ね合わせ方向となる上下方向だけでなく、横方向でも相互の位置決め機構が構成される。すなわち、第一の係止片34が仕切部材40の側面に当接する当接作用によって、第二の取付部材22と仕切部材40の間で横方向の位置決め作用が発揮され得る。さらに、本実施形態において、第二の取付部材22と仕切部材40は、第一のシールゴム38を挟んで横方向で相互にオーバーラップしていることによっても、横方向の位置決め機構が構成されている。
【0046】
また、仕切部材40の第一の係止突起56は、蓋部材44よりも下側に位置する仕切部材本体42に設けられている。それ故、仮に仕切部材本体42と蓋部材44が連結されずに重ね合わされていたとしても、第二の取付部材22の第一の係止片34が第一の係止突起56に係止されることによって、仕切部材本体42と蓋部材44が上下方向で相互に離れず、仕切部材本体42と蓋部材44が重ね合わされた状態に保持される。したがって、仕切部材本体42と蓋部材44は、仕切部材40と第二の取付部材22が第一の引掛部72によって係止固定されることによっても、上下方向で相互に重ね合わされた連結状態に保持される。
【0047】
また、仕切部材40には、可撓性膜74が取り付けられている。可撓性膜74は、薄肉のゴム膜であって、内周部分が略円形ドーム状とされている。可撓性膜74の外周側には、環状の第二のシールゴム76が一体形成されている。第二のシールゴム76は、略円板状であって、可撓性膜74よりも厚肉とされている。
【0048】
可撓性膜74は、外周部分に一体形成された第二のシールゴム76が、仕切部材40の下面に重ね合わされて、仕切部材40と保持部材78の間で挟持されることで、仕切部材40および保持部材78に取り付けられている。
【0049】
保持部材78は、硬質の合成樹脂や金属で形成されて、
図17や
図20に示すように、全体として枠状とされている。本実施形態の保持部材78は、繊維強化樹脂材などの合成樹脂材で形成されて、軽量化や形状自由度の向上などが図られている。また、本実施形態の保持部材78は、軸方向視において、外周面が略四角形とされていると共に、内周面が略円形とされている。
【0050】
保持部材78には、外周部分において上側へ向けて延び出す第二の係止片80が設けられている。第二の係止片80は、全体としてL字断面を有する板状とされており、保持部材78の外周面から延び出して、保持部材78よりも上側まで突出している。第二の係止片80の突出先端部分には、保持部材78の内周側へ向けて突出する係止爪部82が設けられている。また、第二の係止片80は、軸方向視で外形を四角形状とされた保持部材78の各辺部分に対して、それぞれ2つ設けられている。
【0051】
そして、保持部材78は、仕切部材40に対して下方から重ね合わされており、保持部材78における第二の係止片80の係止爪部82が、仕切部材40の仕切部材本体42における第二の係止突起60の係止面62に引っ掛けられて、軸方向で係止固定されている。これにより、仕切部材40と保持部材78が相互に連結されて、仕切部材40の第二の係止突起60と保持部材78の第二の係止片80とによって、仕切部材40と保持部材78を相互に係止固定する第二の引掛部84が構成されている。なお、
図16~19には、仕切部材40と可撓性膜74と保持部材78が、第二の引掛部84によって連結固定された組立体として示されている。
【0052】
本実施形態では、第二の係止突起60と第二の係止片80が各複数設けられていることから、複数の第二の引掛部84が周方向で相互に離れて設けられている。また、
図8~13に示すように、第一の引掛部72と第二の引掛部84は、周方向で相互に異なる位置に配置されている。すなわち、第一の引掛部72は、
図10,11に示すように、前後両側に設けられた第二の引掛部84に対して、左右方向の外側へ外れた位置に設けられている。
【0053】
保持部材78が仕切部材40に連結された状態において、保持部材78と仕切部材40は、可撓性膜74の外周部分に一体形成された第二のシールゴム76を挟んで、上下方向で相互に重ね合わされている。第二のシールゴム76は、第二の引掛部84による係止方向(上下方向)で全周に亘って圧縮されている。すなわち、第二のシールゴム76の圧縮の反力によって仕切部材40と保持部材78とが相互に離隔しようとするのを、第二の引掛部84の係止で阻止する構造とされており、第二の引掛部84の係止によって第二のシールゴム76が圧縮状態に保持されている。これにより、可撓性膜74の外周部分が仕切部材40と保持部材78によって挟持されていると共に、仕切部材40と保持部材78の重ね合わせ面間が第二のシールゴム76によって全周に亘って流体密にシールされている。
【0054】
また、仕切部材40と保持部材78は、第二の引掛部84によって相互に係止固定された状態において、上下方向で僅かに離れて隙間が形成されていることが望ましい。これにより、第二のシールゴム76に及ぼされる圧縮力が、仕切部材40と保持部材78の当接によって小さくなってしまうのを防ぐことができる。
【0055】
また、仕切部材40と保持部材78は、第二の引掛部84によって相互に係止固定された状態において、重ね合わせ方向となる上下方向だけでなく、横方向でも相互の位置決め機構が構成される。すなわち、第二の係止片80が仕切部材40の側面に当接する当接作用によって、仕切部材40と保持部材78の間で横方向の位置決め作用が発揮される。
【0056】
なお、仕切部材40に対して、一体加硫成形品18の第二の取付部材22と、可撓性膜74および保持部材78が取り付けられた状態において、第二の取付部材22の第一の係止片34と保持部材78の第二の係止片80は、周方向で互いに異なる位置に配置されている。これにより、第一の係止片34と第二の係止片80が上下に並んで配置される場合に比して、エンジンマウント10を上下方向で小型化することができる。
【0057】
以上のように、一体加硫成形品18の第二の取付部材22と、可撓性膜74および保持部材78とが、仕切部材40に取り付けられることにより、マウント本体12が構成されている。マウント本体12は、仕切部材40を挟んだ上側に、壁部の一部が本体ゴム弾性体24で構成された第一の流体室としての受圧室86を備えていると共に、仕切部材40を挟んだ下側に、壁部の一部が可撓性膜74で構成された第二の流体室としての平衡室88を備えている。
【0058】
それら受圧室86および平衡室88には、非圧縮性流体が封入されているが、封入される非圧縮性流体の種類は特に限定されない。具体的には、例えば、水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などの液体が、好適に採用される。
【0059】
仕切部材40に設けられた周溝50からなるトンネル状の流路は、一方の端部において受圧室86に連通されていると共に、他方の端部において平衡室88に連通されている。これにより、受圧室86と平衡室88を相互に連通する流体流路としてのオリフィス通路90が、仕切部材40の外周部分を周方向に延びて形成されている。オリフィス通路90は、通路断面積Aと通路長さLの比A/Lによって、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が調節されており、本実施形態では、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波にチューニングされている。
【0060】
仕切部材40の内周部分には、仕切部材40の第一の透孔52および第二の透孔64と収容凹所46とによって、受圧室86と平衡室88を相互に連通する流体流路としての連通路92が形成されている。この連通路92は、通路上に広がる可動膜68が弾性変形することにより、実質的な連通状態とされて流体流動が許容される。
【0061】
また、マウント本体12は、
図1~7に示すように、第一の取付部材20にインナブラケット14が取り付けられていると共に、第二の取付部材22にブラケットとしてのアウタブラケット16が取り付けられている。
【0062】
インナブラケット14は、金属や硬質の合成樹脂などで形成されて、厚肉の板状乃至はロッド状とされている。本実施形態のインナブラケット14は、鉄やアルミニウム合金などの金属で形成されて、変形に対する剛性が大きく確保されている。インナブラケット14は、第一の取付部材20に連結固定される連結部94を有しており、上下方向に貫通するインナ連結用ボルト孔96が連結部94に形成されている。インナブラケット14は、図示しないパワーユニットに取り付けられる取付部98を有しており、取付部98が左右方向に広がっていると共に、取付部98を上下方向に貫通する取付用ボルト孔100が形成されている。
【0063】
そして、インナブラケット14は、連結部94がマウント本体12における第一の取付部材20の上面に重ね合わされて、インナ連結用ボルト孔96に挿通された連結用ボルト102がねじ穴26に螺着されることにより、マウント本体12に取り付けられている。インナブラケット14が第一の取付部材20に固定された状態において、インナブラケット14の取付部98は、マウント本体12に対して前方へ突出している。
【0064】
アウタブラケット16は、金属や硬質の合成樹脂などで形成されて、全体として略門形とされている。本実施形態のアウタブラケット16は、繊維強化樹脂材などの合成樹脂材で形成されて、軽量化や形状自由度の向上などが図られている。アウタブラケット16は、左右方向で対向して配置された一対の側壁部104,104を備えている。側壁部104は、上下方向に延びる板状とされており、下端部には左右方向の外側へ向けて広がる取付片106が一体形成されて、各取付片106にボルト孔108が貫通形成されている。さらに、側壁部104には、左右方向の内側へ向けて開口して、前後方向に延びる嵌合溝110が形成されている。嵌合溝110は、上部の溝底面が下部の溝底面よりも左右方向で外側に位置しており、上側溝側面112を有する上部が、下側溝側面114を有する下部よりも左右外側に位置している。
【0065】
さらに、側壁部104,104の前端部分間に跨るようにして、前壁部116が一体形成されている。前壁部116は、
図2,7に示すように、前後方向と略直交して広がる板状とされており、一対の側壁部104,104の間を前側において塞ぐように設けられている。また、前壁部116の上部には、前後方向に貫通するインナブラケット挿通孔118が形成されている。
【0066】
さらに、側壁部104,104の上端部分間に跨るようにして、上壁部120が一体形成されている。上壁部120は、上下方向に対して略直交して広がる板状とされており、左右方向の両端部分が一対の側壁部104,104の各一方の上端部に対して一体的につながっていると共に、前端部分が前壁部116の上端部に対して一体的につながっている。さらに、上壁部120には、上下方向に貫通する円形の締結用穴122が設けられている。なお、本実施形態のアウタブラケット16は、上壁部120に対して下方に離れて対向する底壁部124を備えており、底壁部124の中央部分に上下方向に貫通する円形穴126が形成されていると共に、底壁部124の外周部分の一部によって嵌合溝110の下側溝側面114が構成されている。
【0067】
そして、アウタブラケット16は、マウント本体12に装着されている。すなわち、マウント本体12がアウタブラケット16における一対の側壁部104,104と上壁部120と底壁部124とで囲まれた領域へ後方から差し入れられて、第二の取付部材22および保持部材78の左右両端部が、アウタブラケット16の嵌合溝110,110に嵌め入れられることにより、アウタブラケット16がマウント本体12に固定されている。
【0068】
マウント本体12は、第二の取付部材22および保持部材78が嵌合溝110,110の両溝側面112,114の間に嵌合されることで、アウタブラケット16に対して分離不能に固定されている。本実施形態では、第二の取付部材22に固着された嵌合ゴム層30が、第二の取付部材22と嵌合溝110の上部の側壁面および底面との間に介在している。それ故、アウタブラケット16が、マウント本体12に対して、部品の寸法誤差などによるがたつきなどを生じることなく安定して装着される。
【0069】
アウタブラケット16がマウント本体12に装着されることにより、マウント本体12の第二の取付部材22と保持部材78が、嵌合溝110の上側溝側面112と下側溝側面114との対向面間に対して上下方向に嵌合されている。これにより、第二の取付部材22と保持部材78が相互に接近方向へ押し込まれており、第一のシールゴム38が第二の取付部材22と仕切部材40の間でより強く挟まれて、第二の取付部材22と仕切部材40の間のシール性能の向上が図られる。また、第二のシールゴム76が仕切部材40と保持部材78の間でより強く挟まれることで、仕切部材40と保持部材78の間のシール性能の向上が図られる。
【0070】
要するに、第二の取付部材22と仕切部材40が第一の引掛部72で連結されると共に、仕切部材40と保持部材78が第二の引掛部84で連結された状態において、仕切部材40と第二の取付部材22および保持部材78の間が、封入された非圧縮性流体が漏出しない程度の仮シール状態とされている。そして、仮シール状態のマウント本体12にアウタブラケット16が装着されることにより、仕切部材40と第二の取付部材22および保持部材78の各重ね合わせ面間が、車両装着状態で振動が入力されても非圧縮性流体が漏出しない使用時のシール状態である本シール状態とされる。
【0071】
仕切部材40は、仮シール状態において、第二の取付部材22および保持部材78に対して、上下方向で適切な位置に位置決めされることから、アウタブラケット16がマウント本体12に装着されて、本シール状態に移行する際に、仕切部材40と第二の取付部材22および保持部材78との相対位置が大幅には変化し難い。それ故、本シール状態においても、仕切部材40と第二の取付部材22および保持部材78との間のシール性能が、それぞれ安定して確保される。
【0072】
マウント本体12にインナブラケット14とアウタブラケット16が装着された構造のエンジンマウント10は、インナブラケット14が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、アウタブラケット16が図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、車両に装着されて使用される。
【0073】
車両装着状態のエンジンマウント10に対して、エンジンシェイクに相当する低周波振動が上下方向に入力されると、受圧室86と平衡室88の相対的な圧力変動が惹起される。そして、受圧室86と平衡室88の間でオリフィス通路90を通じた流体流動が生ぜしめられて、流体の流動作用に基づいた防振効果(高減衰効果)が発揮される。
【0074】
なお、エンジンシェイクに相当する振動入力時には、入力振動の振幅が大きいことから、第一,第二の透孔52,64が可動膜68によって塞がれる。これにより、第一,第二の透孔52,64と収容凹所46とによって構成される連通路92が、可動膜68によって遮断されて、連通路92を通じた流体流動が制限されることから、オリフィス通路90を通じた流体流動が効率的に生ぜしめられる。
【0075】
また、アイドリング振動に相当する中乃至高周波の小振幅振動が上下方向に入力されると、可動膜68が収容凹所46内で上下方向に弾性変形して液圧を伝達することにより、連通路92が実質的な連通状態とされる。そして、受圧室86と平衡室88の間で連通路92を通じて流動する流体の流動作用に基づいて、目的とする防振効果(低動ばね効果)が発揮される。
【0076】
なお、アイドリング振動の周波数はオリフィス通路90のチューニング周波数よりも高周波であることから、アイドリング振動の入力時に、オリフィス通路90は反共振によって実質的な遮断状態とされている。その結果、オリフィス通路90を通じた流体流動が制限されるが、連通路92を通じた流体流動が生じることにより、受圧室86が密閉状態になるのが防止されて、低動ばね化が図られる。
【0077】
ところで、本実施形態に係るエンジンマウント10は、例えば、以下のようにして製造される。
【0078】
先ず、予め準備した第一の取付部材20と第二の取付部材22を本体ゴム弾性体24の成形用金型にセットした状態で、本体ゴム弾性体24を加硫成形する。これにより、第一の取付部材20と第二の取付部材22が固着された本体ゴム弾性体24の一体加硫成形品18を得る工程を、完了する。
【0079】
また、予め準備された仕切部材本体42に可動膜68を取り付けた後、仕切部材本体42の上側に蓋部材44を重ね合わせて、仕切部材40を構成する工程を、完了する。本実施形態では、仕切部材本体42の複数の連結ピン54を、蓋部材44の複数のピン挿通孔66に挿通した状態で、各連結ピン54の先端部分を拡径変形させることにより、仕切部材本体42と蓋部材44が係止固定されるようになっている。
【0080】
また、仕切部材40を一体加硫成形品18に対して下側から重ね合わせて、第二の取付部材22の第一の係止片34を、仕切部材40の第一の係止突起56に対して上下方向で係止固定する。これにより、第二の取付部材22と仕切部材40とを第一の引掛部72によって係止固定する工程を完了し、第二の取付部材22と仕切部材40の重ね合わせ面間を仮シール状態とする。
【0081】
本実施形態では、第二の取付部材22と仕切部材40を上下方向で相互に接近させることにより、第一の係止片34が撓んで第一の係止突起56を乗り越えた後、第一の係止片34が弾性によって元の形状に戻ることで、第一の係止片34が第一の係止突起56の係止面58に係止される。それ故、第二の取付部材22と仕切部材40を第一の引掛部72の係止固定によって連結する作業が容易であり、製造に必要な手間や時間を削減することができる。
【0082】
また、予め準備された可撓性膜74の第二のシールゴム76を仕切部材40の下面に重ね合わせると共に、保持部材78を仕切部材40に対して下側から重ね合わせて、保持部材78の第二の係止片80を仕切部材40の第二の係止突起60に対して上下方向で係止固定する。これにより、仕切部材40と保持部材78とを第二の引掛部84によって係止固定する工程を完了し、可撓性膜74を仕切部材40および保持部材78に取り付けると共に、仕切部材40と保持部材78の重ね合わせ面間を仮シール状態とする。以上により、マウント本体12を得ることができる。
【0083】
本実施形態では、仕切部材40と保持部材78を上下方向で相互に接近させることにより、第二の係止片80が撓んで第二の係止突起60を乗り越えた後、第二の係止片80が弾性によって元の形状に戻ることで、第二の係止片80の係止爪部82が第二の係止突起60の係止面62に係止される。それ故、仕切部材40と保持部材78を第二の引掛部84の係止固定によって連結する作業が容易であり、製造に必要な手間や時間を削減することができる。
【0084】
また、本実施形態では、第二の取付部材22と仕切部材40を第一の引掛部72によって係止固定する工程と、仕切部材40と保持部材78を第二の引掛部84によって係止固定する工程とを、非圧縮性流体中で行う。これにより、仕切部材40に対して第二の取付部材22と保持部材78を第一の引掛部72と第二の引掛部84によって係止固定する際に、内部に非圧縮性流体を封入することができる。上記2つの工程の両方を非圧縮性流体中で行ってもよいが、それら2つの工程のうちで後から実施する工程を非圧縮性流体中で行えば、非圧縮性流体を封入することができる。
【0085】
本実施形態では、
図21に示すように、仕切部材40と保持部材78とを第二の引掛部84で係止固定して
図16~19に示す組立体を構成した後、当該組立体を一体加硫成形品18の第二の取付部材22に対して第一の引掛部72によって係止固定する。それ故、少なくとも第一の引掛部72による係止固定工程を液中で行うことにより、係止固定作業の完了をもって非圧縮性流体の封入作業を完了することができる。
【0086】
なお、仕切部材40に対して第二の取付部材22および保持部材78を大気中で組み付けた後で、非圧縮性流体を後から注入することもできる。具体的には、例えば、第一の取付部材20に流体注入用の孔を形成して、当該注入用孔を通じて受圧室86へ非圧縮性流体を注入することもできる。
【0087】
次に、予め準備したアウタブラケット16をマウント本体12に装着する。すなわち、アウタブラケット16の後側からマウント本体12を差し入れて、マウント本体12の第二の取付部材22と保持部材78の各左右両端部を、アウタブラケット16の嵌合溝110,110の各一方に差し入れて上下方向で嵌合させることにより、アウタブラケット16をマウント本体12に装着する。アウタブラケット16をマウント本体12に装着することにより、第二の取付部材22と保持部材78をそれぞれ仕切部材40に対して接近方向へ押し込んで、それら仕切部材40と第二の取付部材22および保持部材78との重ね合わせ面間を、より高度に封止された本シール状態とする。
【0088】
次に、アウタブラケット16のインナブラケット挿通孔118からインナブラケット14の連結部94を差し入れて、連結部94を第一の取付部材20の上面に重ね合わせる。そして、アウタブラケット16の上壁部120に設けられた締結用穴122を通じて連結用ボルト102で第一の取付部材20とインナブラケット14をボルト固定する。以上により、マウント本体12にインナブラケット14とアウタブラケット16が装着されたエンジンマウント10を得る。
【0089】
このような本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント10によれば、マウント本体12において、仕切部材40と第二の取付部材22が第一の引掛部72によって係止固定されることにより、仕切部材40が第二の取付部材22に対して軸方向で適切な位置に配置される。これにより、仕切部材40と第二の取付部材22の間で第一のシールゴム38が適切に圧縮されることから、マウント本体12単体の仮シール状態において十分なシール性能が発揮されて、封入された非圧縮性流体の漏れを防ぐことができる。
【0090】
さらに、マウント本体12において、仕切部材40と保持部材78が第二の引掛部84によって係止固定されることにより、仕切部材40が保持部材78に対して軸方向で適切な位置に配置される。これにより、仕切部材40と保持部材78の間で第二のシールゴム76が適切に圧縮されることから、マウント本体12単体の仮シール状態において十分なシール性能が発揮されて、封入された非圧縮性流体の漏れを防ぐことができる。
【0091】
すなわち、前記特許文献1に記載されているような従来構造では、第二の取付部材と保持部材が仕切部材を挟み込んだ状態で軸方向に連結されることで同時に組み合わされることから、第二の取付部材と保持部材の間で仕切部材を精度よく位置決めすることが難しい。そして、仕切部材の組付位置のばらつきに起因して、第二の取付部材と仕切部材の間に設定されるシール構造と、仕切部材と保持部材の間に設定されるシール構造とにおいて、安定したシール性能を得難い場合があった。これに対して、本実施形態のエンジンマウント10では、第二の取付部材22と仕切部材40および仕切部材40と保持部材78が、それぞれ相互に直接に係止されて組み付けられるから、各シール構造においてより安定したシール性能を得ることができる。
【0092】
また、仕切部材40と第二の取付部材22の間のシール性能と、仕切部材40と保持部材78の間のシール性能とが、第一の引掛部72によって第一のシールゴム38に及ぼされる圧縮力と、第二の引掛部84によって第二のシールゴム76に及ぼされる圧縮力とによって、互いに独立して設定されている。それ故、第一のシールゴム38と第二のシールゴム76の特性の違いや、受圧室86と平衡室88に作用する内圧の差などに応じて、各シール構造の性能をそれぞれ適切に設定することができる。
【0093】
本実施形態のエンジンマウント10では、第一のゴム弾性体が荷重を受ける厚肉の本体ゴム弾性体24である一方、第二のゴム弾性体が可撓性膜74とされていることから、要求される特性に応じて第一のゴム弾性体と第二のゴム弾性体の材質、即ち第一のシールゴム38と第二のシールゴム76の材質を相互に異ならせる場合もある。また、シールゴム38,76の大きさや形状を互いに異ならせる場合もある。それ故、特許文献1に記載の如き従来の組付構造では、両シールゴムへ作用する圧縮力が等しくなることから、第一のゴム弾性体と一体形成された第一のシールゴムと、第二のゴム弾性体と一体形成された第二のシールゴムとにおいて、同等に有効なシール性能を得ることが難しい場合があった。これに対して、本実施形態のエンジンマウント10では、それぞれのシールゴム38,76に対して各別に設定された圧縮力又は圧縮量を及ぼすことができる。それ故、第一,第二のシールゴム38,76のそれぞれにおいて、目的とするシール性能を安定して得ることが可能になる。
【0094】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、第一,第二の係止片および第一,第二の係止部位の数や配置などは、特に限定されない。また、第一の係止片が仕切部材に設けられると共に、第一の係止部位が第二の取付部材に設けられていてもよい。同様に、第二の係止片が仕切部材に設けられると共に、第二の係止部位が保持部材に設けられていてもよい。
【0095】
また、第一のシールゴム38を挟み込む第二の取付部材22と仕切部材40の対向面は、必ずしも相互に平行に対向していなくてもよく、相対的に傾斜していてもよい。同様に、第二のシールゴム76を挟み込む仕切部材40と保持部材78の対向面も、相対的に傾斜していてもよい。従って、それらの対向面は、第一,第二の引掛部72,84によって係止固定される方向(前記実施形態では上下方向)に対して、直交して広がる面に限定されず、例えば、傾斜して広がっていてもよい。また、第一のシールゴム38を挟み込む対向面と、第二のシールゴム76を挟み込む対向面は、例えば、平面であってもよいし、湾曲していてもよいし、凹凸が形成されていてもよい。
【0096】
また、流体流路は、前記実施形態のようなオリフィス通路90と可動膜68による連通路92との両方を備える構造に限定されず、例えば、オリフィス通路90と連通路92の何れか一方だけで構成されていてもよい。さらに、連通路92に設けられる可動体は、仕切部材40によって部分的に拘束された可動膜68には限定されず、例えば、仕切部材40によって拘束されることなく、収容凹所46において上下方向に移動可能なフロート状態で配設される可動板であってもよい。
【0097】
さらに、内部に可動体を配設しない場合には、仕切部材は複数の分割構造体を組み合わせた構造に限定されない。また、仕切部材は、3つ以上の分割構造体を組み合わせて構成することもできる。更にまた、仕切部材が複数の分割構造体によって構成される場合に、それら複数の分割構造体は、仕切部材が第二の取付部材22や保持部材78に係止固定される際に相互に位置決めされるようになっていてもよく、前記実施形態において示した連結ピン54とピン挿通孔66による固定構造は必須ではない。
【0098】
また、第二のゴム弾性体は、保持部材78に予め固着されていてもよく、保持部材78を備える一体加硫成形品として形成することも可能である。更に、第二のゴム弾性体が厚肉のゴム弾性体とされて、第二の流体室が受圧室とされていてもよい。
【0099】
例えば、マウント本体12をアウタブラケット16に嵌め付けた状態で、アウタブラケット16の後側の開口を塞ぐ抜止部材が設けられるなど、マウント本体12のアウタブラケット16からの抜けを防ぐフェイルセーフ(抜止構造)を設けても良い。
【0100】
第一の引掛部72によって第二の取付部材22と仕切部材40を係止固定する工程と、第二の引掛部84によって仕切部材40と保持部材78を係止固定する工程は、何れを先に行ってもよい。具体的には、例えば、第一の引掛部72によって仕切部材40に本体ゴム弾性体24の一体加硫成形品18を取り付けた後で、第二の引掛部84によって仕切部材40に可撓性膜74と保持部材78を取り付けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0101】
10:エンジンマウント(流体封入式防振装置)、12:マウント本体、16:アウタブラケット(ブラケット)、18:一体加硫成形品、20:第一の取付部材、22:第二の取付部材、24:本体ゴム弾性体(第一のゴム弾性体)、34:第一の係止片(係止片)、38:第一のシールゴム、40:仕切部材、42:仕切部材本体(分割構造体)、44:蓋部材(分割構造体)、56:第一の係止突起(係止部位)、58:係止面、60:第二の係止突起(係止部位)、62:係止面、68:可動膜(可動体)、72:第一の引掛部、74:可撓性膜(第二のゴム弾性体)、76:第二のシールゴム、78:保持部材、80:第二の係止片(係止片)、84:第二の引掛部、86:受圧室(第一の流体室)、88:平衡室(第二の流体室)、90:オリフィス通路(流体流路)、92:連通路(流体流路)、110:嵌合溝、112:上側溝側面(溝側面)、114:下側溝側面(溝側面)