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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】イオン注入装置および測定装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20220831BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
H01J37/317 C
H01L21/265 603Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018247339
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020107559
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】松下 浩
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-144841(JP,A)
【文献】特開平06-196122(JP,A)
【文献】特表2007-531239(JP,A)
【文献】特開2017-174505(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0262533(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェハに照射されるイオンビームの角度分布を測定する測定装置を備えるイオン注入装置であって、前記測定装置は、
前記イオンビームが入射するスリットと、
前記スリットから前記イオンビームの基準となるビーム進行方向に延ばした中心線上に配置されるビーム測定面を有する中央電極体と、
前記スリットと前記中央電極体の間に配置され、前記中心線から前記スリットのスリット幅方向に離れて配置されるビーム測定面をそれぞれが有する複数の側方電極体と、
前記複数の側方電極体の少なくとも一つのビーム測定面に前記スリットのスリット長方向の軸周りに曲がる磁場を印加する磁石装置と、を備えることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記磁石装置は、前記複数の側方電極体の少なくとも一つのビーム測定面から出射する磁力線が同じ側方電極体の表面に入射するように、または、前記複数の側方電極体の少なくとも一つのビーム測定面に入射する磁力線が同じ側方電極体の表面から出射するように磁場を印加することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記複数の側方電極体の少なくとも一つのビーム測定面に印加される磁場強度は、前記イオンビームの入射により前記ビーム測定面にて発生する二次電子のラーモア半径が前記ビーム測定面から前記中心線までの距離よりも小さくなるように定められることを特徴とする請求項1または2に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記磁石装置は、前記複数の側方電極体の少なくとも一つのビーム測定面よりも前記ビーム進行方向の上流側に配置される第1磁極と、前記複数の側方電極体の少なくとも一つのビーム測定面よりも前記ビーム進行方向の下流側に配置され、前記第1磁極と極性の異なる第2磁極とを含み、前記第1磁極と前記第2磁極の間の磁力線の少なくとも一部が対応する側方電極体のビーム測定面と交差するように磁場を印加することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記第1磁極の前記ビーム進行方向における中心は、前記対応する側方電極体のビーム測定面よりも前記対応する側方電極体の上流端の近くに位置し、前記第2磁極の前記ビーム進行方向における中心は、前記対応する側方電極体のビーム測定面よりも前記対応する側方電極体の下流端の近くに位置することを特徴とする請求項4に記載のイオン注入装置。
【請求項6】
前記第1磁極の前記ビーム進行方向における中心は、前記対応する側方電極体の前記上流端よりも下流側に位置し、前記第2磁極の前記ビーム進行方向における中心は、前記対応する側方電極体の前記下流端よりも上流側に位置することを特徴とする請求項5に記載のイオン注入装置。
【請求項7】
前記第1磁極および前記第2磁極は、前記複数の側方電極体よりも前記中心線から前記スリット幅方向に離れて配置されることを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項8】
前記複数の側方電極体は、前記ビーム進行方向に並べられる第1グループの側方電極体と、前記第1グループの側方電極体に対して前記中心線を挟んで前記スリット幅方向に対称に配置される第2グループの側方電極体とを含み、
前記磁石装置は、前記第1グループの側方電極体に印加される磁場分布と、前記第2グループの側方電極体に印加される磁場分布とが前記中心線を挟んで前記スリット幅方向に対称となるように磁場を印加することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項9】
前記磁石装置は、前記中心線上の磁力線が前記中心線に沿うように磁場を印加することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項10】
前記複数の側方電極体のそれぞれは、前記ビーム測定面の少なくとも一部を有する本体部と、前記本体部から前記ビーム進行方向の上流側に延在する上流側延在部と、前記本体部から前記ビーム進行方向の下流側に延在する下流側延在部とを有し、
前記上流側延在部および前記下流側延在部のそれぞれから前記中心線までの前記スリット幅方向の距離は、前記本体部から前記中心線までの前記スリット幅方向の距離よりも大きいことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項11】
前記下流側延在部から前記中心線までの前記スリット幅方向の距離は、前記上流側延在部から前記中心線までの前記スリット幅方向の距離よりも小さいことを特徴とする請求項10に記載のイオン注入装置。
【請求項12】
前記上流側延在部および前記下流側延在部のそれぞれの前記ビーム進行方向の長さは、前記本体部の前記ビーム進行方向の長さよりも大きいことを特徴とする請求項10または11に記載のイオン注入装置。
【請求項13】
前記本体部のビーム測定面は、前記スリットに向けて前記ビーム進行方向に露出する上面と、前記中心線に向けて前記スリット幅方向に露出する内側面とを有することを特徴とする請求項10から12のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項14】
前記上流側延在部の前記中心線に向けて露出する内側面の少なくとも一部は、前記上流側延在部よりも上流側の構造によって前記スリットを通過したビームの入射が遮られるビーム非照射面であり、かつ、前記ビーム測定面にて生じる二次電子が入射する二次電子吸収面であることを特徴とする請求項10から13のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項15】
前記下流側延在部の前記中心線に向けて露出する内側面の少なくとも一部は、前記本体部によって前記スリットを通過したビームの入射が遮られるビーム非照射面であり、かつ、前記ビーム測定面にて生じる二次電子が入射する二次電子吸収面であることを特徴とする請求項10から14のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項16】
前記磁石装置は、前記中央電極体のビーム測定面に印加される磁場分布が前記中心線を挟んで前記スリット幅方向に非対称となるように磁場を印加することを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項17】
前記中央電極体は、前記スリットに向けて前記ビーム進行方向に露出するビーム測定面を有する基部と、前記基部の前記スリット幅方向の両端のそれぞれから前記ビーム進行方向の上流側に延在する一対の延在部とを有し、
前記磁石装置は、前記基部のビーム測定面から出射する磁力線が前記一対の延在部の一方の表面に入射するように、または、前記基部のビーム測定面に入射する磁力線が前記一対の延在部の前記一方の表面から出射するように磁場を印加することを特徴とする請求項16に記載のイオン注入装置。
【請求項18】
前記測定装置は、前記スリットの電位を基準として負電圧を前記中央電極体および前記複数の側方電極体に印加するバイアス電源をさらに備えることを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項19】
イオンビームの角度分布を測定する測定装置であって、
前記イオンビームが入射するスリットと、
前記スリットから前記イオンビームの基準となるビーム進行方向に延ばした中心線上に配置されるビーム測定面を有する中央電極体と、
前記スリットと前記中央電極体の間に配置され、前記中心線から前記スリットのスリット幅方向に離れて配置されるビーム測定面をそれぞれが有する複数の側方電極体と、
前記複数の側方電極体の少なくとも一つのビーム測定面に前記スリットのスリット長方向の軸周りに曲がる磁場を印加する磁石装置と、を備えることを特徴とする測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、半導体の導電性を変化させる目的、半導体の結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウェハにイオンを注入する工程(イオン注入工程ともいう)が標準的に実施されている。イオン注入工程では、ウェハに照射されるイオンビームの角度に応じてイオンビームとウェハとの相互作用の態様が変化し、イオン注入の処理結果に影響を与えることが知られている。そのため、イオン注入前にイオンビームの角度分布が測定される。例えば、スリットを通過したビームの電流値をスリット幅方向に並べられた複数の電極で測定することにより、スリット幅方向の角度分布が得られる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-174505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
測定装置の電極にイオンビームが照射されると、電極から二次電子が発生しうる。二次電子が生じると、発生した二次電子量に応じて測定される電荷量が変化するため、測定誤差につながる可能性がある。例えば、角度分布を測定するために複数の電極が並べられる構成では、二次電子が発生する電極とは別の電極、例えば隣の電極に二次電子が入射することもある。そうすると、二次電子が発生した電極および二次電子が入射した電極の双方で測定される電荷量が二次電子に起因して変化し、角度分布の測定誤差につながる。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、二次電子発生による計測精度の低下を防ぐための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のイオン注入装置は、ウェハに照射されるイオンビームの角度分布を測定する測定装置を備えるイオン注入装置であって、測定装置は、イオンビームが入射するスリットと、スリットからイオンビームの基準となるビーム進行方向に延ばした中心線上に配置されるビーム測定面を有する中央電極体と、スリットと中央電極体の間に配置され、中心線からスリットのスリット幅方向に離れて配置されるビーム測定面をそれぞれが有する複数の側方電極体と、複数の側方電極体の少なくとも一つのビーム測定面にスリットのスリット長方向の軸周りに曲がる磁場を印加する磁石装置と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、測定装置である。この装置は、イオンビームの角度分布を測定する測定装置であって、イオンビームが入射するスリットと、スリットからイオンビームの基準となるビーム進行方向に延ばした中心線上に配置されるビーム測定面を有する中央電極体と、スリットと中央電極体の間に配置され、中心線からスリットのスリット幅方向に離れて配置されるビーム測定面をそれぞれが有する複数の側方電極体と、複数の側方電極体の少なくとも一つのビーム測定面にスリットのスリット長方向の軸周りに曲がる磁場を印加する磁石装置と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ビームの角度分布測定装置の計測精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
図2図1のイオン注入装置の概略構成を示す側面図である。
図3】実施の形態に係る測定装置の概略構成を示す外観斜視図である。
図4】測定装置の構成を詳細に示す断面図である。
図5】各電極体のビーム測定面の範囲を示す図である。
図6】各電極体に印加される磁場分布の一例を示す図である。
図7】側方電極体に印加される磁場分布の一例を詳細に示す図である。
図8】中央電極体に印加される磁場分布の一例を詳細に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0012】
実施の形態を詳述する前に概要を説明する。本実施の形態は、ウェハに照射されるイオンビームの角度分布を測定する測定装置を備えるイオン注入装置である。測定装置は、イオンビームが入射するスリットと、スリットからイオンビームの基準となるビーム進行方向に延ばした中心線上に配置されるビーム測定面を有する中央電極体と、スリットと中央電極体の間に配置され、中心線からスリットのスリット幅方向に離れて配置されるビーム測定面をそれぞれが有する複数の側方電極体と、複数の側方電極体の少なくとも一つのビーム測定面にスリットのスリット長方向の軸周りに曲がる磁場を印加する磁石装置と、を備える。本実施の形態によれば、側方電極体のビーム測定面に適切な磁場を印加することで、ビーム測定面にイオンビームが入射することで生じる二次電子に起因する計測精度の低下を好適に防止できる。
【0013】
図1は、実施の形態に係るイオン注入装置10を概略的に示す上面図であり、図2は、イオン注入装置10の概略構成を示す側面図である。イオン注入装置10は、被処理物Wの表面にイオン注入処理をするよう構成される。被処理物Wは、例えば基板であり、例えば半導体ウェハである。説明の便宜のため、本明細書において被処理物WをウェハWと呼ぶことがあるが、これは注入処理の対象を特定の物体に限定することを意図しない。
【0014】
イオン注入装置10は、ビームを一方向に往復走査させ、ウェハWを走査方向と直交する方向に往復運動させることによりウェハWの処理面全体にわたってイオンビームを照射するよう構成される。本書では説明の便宜上、設計上のビームラインAに沿って進むイオンビームの進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。イオンビームを被処理物Wに対し走査する場合において、ビームの走査方向をx方向とし、z方向及びx方向に垂直な方向をy方向とする。したがって、ビームの往復走査はx方向に行われ、ウェハWの往復運動はy方向に行われる。
【0015】
イオン注入装置10は、イオン源12と、ビームライン装置14と、注入処理室16と、ウェハ搬送装置18とを備える。イオン源12は、イオンビームをビームライン装置14に与えるよう構成される。ビームライン装置14は、イオン源12から注入処理室16へイオンビームを輸送するよう構成される。注入処理室16には、注入対象となるウェハWが収容され、ビームライン装置14から与えられるイオンビームをウェハWに照射する注入処理がなされる。ウェハ搬送装置18は、注入処理前の未処理ウェハを注入処理室16に搬入し、注入処理後の処理済ウェハを注入処理室16から搬出するよう構成される。イオン注入装置10は、イオン源12、ビームライン装置14、注入処理室16およびウェハ搬送装置18に所望の真空環境を提供するための真空排気系(図示せず)を備える。
【0016】
ビームライン装置14は、ビームラインAの上流側から順に、質量分析部20、ビームパーク装置24、ビーム整形部30、ビーム走査部32、ビーム平行化部34および角度エネルギーフィルタ(AEF;Angular Energy Filter)36を備える。なお、ビームラインAの上流とは、イオン源12に近い側のことをいい、ビームラインAの下流とは注入処理室16(またはビームストッパ46)に近い側のことをいう。
【0017】
質量分析部20は、イオン源12の下流に設けられ、イオン源12から引き出されたイオンビームから必要なイオン種を質量分析により選択するよう構成される。質量分析部20は、質量分析磁石21と、質量分析レンズ22と、質量分析スリット23とを有する。
【0018】
質量分析磁石21は、イオン源12から引き出されたイオンビームに磁場を印加し、イオンの質量電荷比M=m/q(mは質量、qは電荷)の値に応じて異なる経路でイオンビーム偏向させる。質量分析磁石21は、例えばイオンビームにy方向(例えば-y方向)の磁場を印加してイオンビームをx方向に偏向させる。質量分析磁石21の磁場強度は、所望の質量電荷比Mを有するイオン種が質量分析スリット23を通過するように調整される。
【0019】
質量分析レンズ22は、質量分析磁石21の下流に設けられ、イオンビームに対する収束/発散力を調整するよう構成される。質量分析レンズ22は、質量分析スリット23を通過するイオンビームのビーム進行方向(z方向)の収束位置を調整し、質量分析部20の質量分解能M/dMを調整する。なお、質量分析レンズ22は必須の構成ではなく、質量分析部20に質量分析レンズ22が設けられなくてもよい。
【0020】
質量分析スリット23は、質量分析レンズ22の下流に設けられ、質量分析レンズ22から離れた位置に設けられる。質量分析スリット23は、質量分析磁石21によるビーム偏向方向(x方向)がスリット幅となるように構成され、x方向が相対的に短く、y方向が相対的に長い形状の開口23aを有する。
【0021】
質量分析スリット23は、質量分解能の調整のためにスリット幅が可変となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅方向に移動可能な二枚の遮蔽体により構成され、二枚の遮蔽体の間隔を変化させることによりスリット幅が調整可能となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅の異なる複数のスリットのいずれか一つに切り替えることによりスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。
【0022】
ビームパーク装置24は、ビームラインAからイオンビームを一時的に退避し、下流の注入処理室16(またはウェハW)に向かうイオンビームを遮蔽するよう構成される。ビームパーク装置24は、ビームラインAの途中の任意の位置に配置することができるが、例えば、質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間に配置できる。質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間には一定の距離が必要であるため、その間にビームパーク装置24を配置することで、他の位置に配置する場合よりもビームラインAの長さを短くすることができ、イオン注入装置10の全体を小型化できる。
【0023】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25(25a,25b)と、ビームダンプ26と、を備える。一対のパーク電極25a,25bは、ビームラインAを挟んで対向し、質量分析磁石21のビーム偏向方向(x方向)と直交する方向(y方向)に対向する。ビームダンプ26は、パーク電極25a,25bよりもビームラインAの下流側に設けられ、ビームラインAからパーク電極25a,25bの対向方向に離れて設けられる。
【0024】
第1パーク電極25aはビームラインAよりも重力方向上側に配置され、第2パーク電極25bはビームラインAよりも重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、ビームラインAよりも重力方向下側に離れた位置に設けられ、質量分析スリット23の開口23aの重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、例えば、質量分析スリット23の開口23aが形成されていない部分で構成される。ビームダンプ26は、質量分析スリット23とは別体として構成されてもよい。
【0025】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bの間に印加される電場を利用してイオンビームを偏向させ、ビームラインAからイオンビームを退避させる。例えば、第1パーク電極25aの電位を基準として第2パーク電極25bに負電圧を印加することにより、イオンビームをビームラインAから重力方向下方に偏向させてビームダンプ26に入射させる。図2において、ビームダンプ26に向かうイオンビームの軌跡を破線で示している。また、ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bを同電位とすることにより、イオンビームをビームラインAに沿って下流側に通過させる。ビームパーク装置24は、イオンビームを下流側に通過させる第1モードと、イオンビームをビームダンプ26に入射させる第2モードとを切り替えて動作可能となるよう構成される。
【0026】
質量分析スリット23の下流にはインジェクタファラデーカップ28が設けられる。インジェクタファラデーカップ28は、インジェクタ駆動部29の動作によりビームラインAに出し入れ可能となるよう構成される。インジェクタ駆動部29は、インジェクタファラデーカップ28をビームラインAの延びる方向と直交する方向(例えばy方向)に移動させる。インジェクタファラデーカップ28は、図2の破線で示すようにビームラインA上に配置された場合、下流側に向かうイオンビームを遮断する。一方、図2の実線で示すように、インジェクタファラデーカップ28がビームラインA上から外された場合、下流側に向かうイオンビームの遮断が解除される。
【0027】
インジェクタファラデーカップ28は、質量分析部20により質量分析されたイオンビームのビーム電流を計測するよう構成される。インジェクタファラデーカップ28は、質量分析磁石21の磁場強度を変化させながらビーム電流を測定することにより、イオンビームの質量分析スペクトラムを計測できる。計測した質量分析スペクトラムを用いて、質量分析部20の質量分解能を算出することができる。
【0028】
ビーム整形部30は、四重極収束/発散装置(Qレンズ)などの収束/発散レンズを備えており、質量分析部20を通過したイオンビームを所望の断面形状に整形するよう構成されている。ビーム整形部30は、例えば、電場式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)で構成され、三つの四重極レンズ30a,30b,30cを有する。ビーム整形部30は、三つのレンズ装置30a~30cを用いることにより、イオンビームの収束または発散をx方向およびy方向のそれぞれについて独立に調整しうる。ビーム整形部30は、磁場式のレンズ装置を含んでもよく、電場と磁場の双方を利用してビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0029】
ビーム走査部32は、ビームの往復走査を提供するよう構成され、整形されたイオンビームをx方向に走査するビーム偏向装置である。ビーム走査部32は、ビーム走査方向(x方向)に対向する走査電極対を有する。走査電極対は可変電圧電源(図示せず)に接続されており、走査電極対の間に印加される電圧を周期的に変化させることにより、電極間に生じる電界を変化させてイオンビームをさまざまな角度に偏向させる。その結果、イオンビームがx方向の走査範囲全体にわたって走査される。図1において、矢印Xによりビームの走査方向及び走査範囲を例示し、走査範囲でのイオンビームの複数の軌跡を一点鎖線で示している。
【0030】
ビーム平行化部34は、走査されたイオンビームの進行方向を設計上のビームラインAの軌道と平行にするよう構成される。ビーム平行化部34は、中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧形状の複数の平行化レンズ電極を有する。平行化レンズ電極は、高圧電源(図示せず)に接続されており、電圧印加により生じる電界をイオンビームに作用させて、イオンビームの進行方向を平行に揃える。なお、ビーム平行化部34は他のビーム平行化装置で置き換えられてもよく、ビーム平行化装置は磁界を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0031】
ビーム平行化部34の下流には、イオンビームを加速または減速させるためのAD(Accel/Decel)コラム(図示せず)が設けられてもよい。
【0032】
角度エネルギーフィルタ(AEF)36は、イオンビームのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方に偏向して注入処理室16に導くよう構成されている。角度エネルギーフィルタ36は、電界偏向用のAEF電極対を有する。AEF電極対は、高圧電源(図示せず)に接続される。図2において、上側のAEF電極に正電圧、下側のAEF電極に負電圧を印加させることにより、イオンビームを下方に偏向させる。なお、角度エネルギーフィルタ36は、磁界偏向用の磁石装置で構成されてもよく、電界偏向用のAEF電極対と磁石装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0033】
このようにして、ビームライン装置14は、ウェハWに照射されるべきイオンビームを注入処理室16に供給する。
【0034】
注入処理室16は、ビームラインAの上流側から順に、エネルギースリット38、プラズマシャワー装置40、サイドカップ42、センターカップ44およびビームストッパ46を備える。注入処理室16は、図2に示されるように、1枚又は複数枚のウェハWを保持するプラテン駆動装置50を備える。
【0035】
エネルギースリット38は、角度エネルギーフィルタ36の下流側に設けられ、角度エネルギーフィルタ36とともにウェハWに入射するイオンビームのエネルギー分析をする。エネルギースリット38は、ビーム走査方向(x方向)に横長のスリットで構成されるエネルギー制限スリット(EDS;Energy Defining Slit)である。エネルギースリット38は、所望のエネルギー値またはエネルギー範囲のイオンビームをウェハWに向けて通過させ、それ以外のイオンビームを遮蔽する。
【0036】
プラズマシャワー装置40は、エネルギースリット38の下流側に位置する。プラズマシャワー装置40は、イオンビームのビーム電流量に応じてイオンビームおよびウェハWの表面(ウェハ処理面)に低エネルギー電子を供給し、イオン注入で生じるウェハ処理面の正電荷のチャージアップを抑制する。プラズマシャワー装置40は、例えば、イオンビームが通過するシャワーチューブと、シャワーチューブ内に電子を供給するプラズマ発生装置とを含む。
【0037】
サイドカップ42(42R,42L)は、ウェハWへのイオン注入処理中にイオンビームのビーム電流を測定するよう構成される。図2に示されるように、サイドカップ42R,42Lは、ビームラインA上に配置されるウェハWに対して左右(x方向)にずれて配置されており、イオン注入時にウェハWに向かうイオンビームを遮らない位置に配置される。イオンビームは、ウェハWが位置する範囲を超えてx方向に走査されるため、イオン注入時においても走査されるビームの一部がサイドカップ42R、42Lに入射する。これにより、イオン注入処理中のビーム電流量がサイドカップ42R、42Lにより計測される。
【0038】
センターカップ44は、ウェハ処理面におけるビーム電流を測定するよう構成される。センターカップ44は、駆動部45の動作により可動となるよう構成され、イオン注入時にウェハWが位置する注入位置から待避され、ウェハWが注入位置にないときに注入位置に挿入される。センターカップ44は、x方向に移動しながらビーム電流を測定することにより、x方向のビーム走査範囲の全体にわたってビーム電流を測定することができる。センターカップ44は、ビーム走査方向(x方向)の複数の位置におけるビーム電流を同時に計測可能となるように、複数のファラデーカップがx方向に並んでアレイ状に形成されてもよい。
【0039】
サイドカップ42およびセンターカップ44の少なくとも一方は、ビーム電流量を測定するための単一のファラデーカップを備えてもよいし、ビームの角度情報を測定するための角度計測器を備えてもよい。角度計測器は、例えば、スリットと、スリットからビーム進行方向(z方向)に離れて設けられる複数の電流検出部とを備える。例えば、スリットを通過したビームをスリット幅方向に並べられる複数の電流検出部で計測することにより、スリット幅方向のビームの角度成分を測定できる。サイドカップ42およびセンターカップ44の少なくとも一方は、x方向の角度情報を測定可能な第1角度測定器と、y方向の角度情報を測定可能な第2角度測定器とを備えてもよい。
【0040】
プラテン駆動装置50は、ウェハ保持装置52と、往復運動機構54と、ツイスト角調整機構56と、チルト角調整機構58とを含む。ウェハ保持装置52は、ウェハWを保持するための静電チャック等を含む。往復運動機構54は、ビーム走査方向(x方向)と直交する往復運動方向(y方向)にウェハ保持装置52を往復運動させることにより、ウェハ保持装置52に保持されるウェハをy方向に往復運動させる。図2において、矢印YによりウェハWの往復運動を例示する。
【0041】
ツイスト角調整機構56は、ウェハWの回転角を調整する機構であり、ウェハ処理面の法線を軸としてウェハWを回転させることにより、ウェハの外周部に設けられるアライメントマークと基準位置との間のツイスト角を調整する。ここで、ウェハのアライメントマークとは、ウェハの外周部に設けられるノッチやオリフラのことをいい、ウェハの結晶軸方向やウェハの周方向の角度位置の基準となるマークをいう。ツイスト角調整機構56は、ウェハ保持装置52と往復運動機構54の間に設けられ、ウェハ保持装置52とともに往復運動される。
【0042】
チルト角調整機構58は、ウェハWの傾きを調整する機構であり、ウェハ処理面に向かうイオンビームの進行方向とウェハ処理面の法線との間のチルト角を調整する。本実施の形態では、ウェハWの傾斜角のうち、x方向の軸を回転の中心軸とする角度をチルト角として調整する。チルト角調整機構58は、往復運動機構54と注入処理室16の壁面の間に設けられており、往復運動機構54を含むプラテン駆動装置50全体をR方向に回転させることでウェハWのチルト角を調整するように構成される。
【0043】
プラテン駆動装置50は、イオンビームがウェハWに照射される注入位置と、ウェハ搬送装置18との間でウェハWが搬入または搬出される搬送位置との間でウェハWが移動可能となるようにウェハWを保持する。図2は、ウェハWが注入位置にある状態を示しており、プラテン駆動装置50は、ビームラインAとウェハWとが交差するようにウェハWを保持する。ウェハWの搬送位置は、ウェハ搬送装置18に設けられる搬送機構または搬送ロボットにより搬送口48を通じてウェハWが搬入または搬出される際のウェハ保持装置52の位置に対応する。
【0044】
ビームストッパ46は、ビームラインAの最下流に設けられ、例えば、注入処理室16の内壁に取り付けられる。ビームラインA上にウェハWが存在しない場合、イオンビームはビームストッパ46に入射する。ビームストッパ46は、注入処理室16とウェハ搬送装置18の間を接続する搬送口48の近くに位置しており、搬送口48よりも鉛直下方の位置に設けられる。
【0045】
イオン注入装置10は、中央制御装置60を備える。中央制御装置60は、イオン注入装置10の動作全般を制御する。中央制御装置60は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現され、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現され、中央制御装置60により提供される各種機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの連携によって実現されうる。
【0046】
図3は、実施の形態に係る測定装置62の概略構成を示す外観斜視図である。測定装置62は、筐体64と、筐体64の前面64aに設けられるスリット66とを備える。筐体64の内部には複数の電極体が設けられる。測定装置62は、イオンビームの角度分布を測定するための装置であり、スリット66を通過するイオンビームを複数の電極体で検出し、各電極体の検出結果に基づいてイオンビームの角度分布を求める。測定装置62は、例えば、上述のイオン注入装置10のサイドカップ42やセンターカップ44の位置に配置して用いることができる。
【0047】
図示する例では、イオンビームの進行方向をz方向とし、スリット66のスリット幅方向をx方向とし、スリット66のスリット長方向をy方向としており、測定装置62がx方向の角度分布を測定するよう構成される。なお、測定装置62の角度分布の測定方向はx方向に限られず、y方向の角度分布を測定可能となるように測定装置62を用いてもよい。また、x方向およびy方向の双方に対して斜めとなる方向の角度分布を測定可能となるように測定装置62を用いてもよい。
【0048】
図4は、測定装置62の構成を詳細に示す断面図であり、スリット66のスリット長方向(y方向)に直交する断面(xz平面)の構造を示している。測定装置62は、筐体64と、中央電極体70と、複数の側方電極体80a,80b,80c,80d,80e,80f(総称して側方電極体80ともいう)と、磁石装置90とを備える。
【0049】
筐体64は、スリット部64bと、角度制限部64cと、電極収容部64dとを有する。スリット部64bは、スリット66が設けられる前面64aを有する。角度制限部64cは、スリット部64bよりもビーム進行方向(z方向)の下流側に設けられる。角度制限部64cは、側方電極体80(例えば第1側方電極体80aおよび第2側方電極体80b)に向かうイオンビームの一部を遮蔽し、計測範囲外の角度成分を有するビームが側方電極体80に入射しないようにする。電極収容部64dは、角度制限部64cよりもビーム進行方向(z方向)の下流側に設けられる。電極収容部64dは、磁石装置90の磁気回路を形成するためのヨークを含むように構成される。
【0050】
中央電極体70は、スリット66からビーム進行方向(z方向)に延ばした中心線C上に配置され、スリット66からビーム進行方向に離れた最下流に配置される。中央電極体70は、スリット幅方向(x方向)の角度成分がゼロまたは極めて小さいビーム、つまり、複数の側方電極体80a~80fに入射せずに中心線Cに沿ってほぼ真っ直ぐに進行するビームを測定対象とする。
【0051】
中央電極体70は、基部71と、一対の延在部72L,72Rとを有する。基部71は、中心線C上に配置される。基部71は、スリット66に向けてビーム進行方向に露出するビーム測定面74を有する。一対の延在部72L,72Rは、基部71のスリット幅方向(x方向)の両端のそれぞれからビーム進行方向(z方向)の上流側に延在する。
【0052】
複数の側方電極体80a~80fは、スリット66と中央電極体70の間に配置され、中心線Cを挟んでスリット幅方向(x方向)に対称に配置される。図示する例では、6個の側方電極体80a~80fが設けられ、中心線Cを挟んで3個ずつの側方電極体が設けられる。具体的には、第1側方電極体80aおよび第2側方電極体80bが中心線Cを挟んでスリット幅方向(x方向)に対称に配置され、第3側方電極体80cおよび第4側方電極体80dが中心線Cを挟んでスリット幅方向(x方向)に対称に配置され、第5側方電極体80eおよび第6側方電極体80fが中心線Cを挟んでスリット幅方向(x方向)に対称に配置される。
【0053】
第1側方電極体80a、第3側方電極体80cおよび第5側方電極体80eは、ビーム進行方向(z方向)に並べられる第1グループの側方電極体を構成する。第2側方電極体80b、第4側方電極体80dおよび第6側方電極体80fは、ビーム進行方向(z方向)に並べられる第2グループの側方電極体を構成する。第2グループの側方電極体80b,80d,80fは、第1グループの側方電極体80a,80c,80dに対して、中心線Cを挟んでスリット幅方向(x方向)に対称となるように配置される。
【0054】
複数の側方電極体80a~80fの中心線Cからのスリット幅方向(x方向)の距離d,d,d,d,d,dは、ビーム進行方向の下流側に配置されるほど小さくなる。第1側方電極体80aおよび第2側方電極体80bのそれぞれの中心線Cからの距離dおよびdは相対的に大きく、例えばスリット66のスリット幅wの1.5倍である。第3側方電極体80cおよび第4側方電極体80dのそれぞれの中心線Cからの距離dおよびdは中程度であり、例えばスリット66のスリット幅wの1倍(つまり同じ)である。第5側方電極体80eおよび第6側方電極体80fのそれぞれの中心線Cからの距離dおよびdは相対的に小さく、例えばスリット66のスリット幅wの0.5倍である。
【0055】
複数の側方電極体80a~80fのそれぞれは、本体部81a,81b,81c,81d,81e,81f(総称して本体部81ともいう)と、上流側延在部82a,82b,82c,82d,82e,82f(総称して上流側延在部82ともいう)と、下流側延在部83a,83b,83c,83d,83e,83f(総称して下流側延在部83ともいう)とを有する。複数の側方電極体80a~80fのそれぞれは、スリット66を通過したビームが入射しうるビーム測定面78a,78b,78c,78d,78e,78f(総称してビーム測定面78ともいう)を有する。
【0056】
本体部81は、中心線Cに向けてスリット幅方向(x方向)に突出する部分である。したがって、中心線Cから本体部81までの距離(例えば距離d)は、中心線Cから上流側延在部82または下流側延在部83までの距離よりも小さい。本体部81は、スリット66を通過するビームが主に入射する部分である。したがって、本体部81の少なくとも一部の表面は、側方電極体80のビーム測定面78の少なくとも一部を構成する。
【0057】
上流側延在部82は、本体部81から上流側に延在する部分である。上流側延在部82は、本体部81よりも中心線Cからスリット幅方向(x方向)に離れて設けられる。下流側延在部83は、本体部81から下流側に延在する部分である。下流側延在部83は、本体部81よりも中心線Cからスリット幅方向(x方向)に離れて設けられる。上流側延在部82および下流側延在部83のそれぞれのビーム進行方向(z方向)の長さは、本体部81のビーム進行方向(z方向)よりも大きい。
【0058】
図5は、各電極体70,80のビーム測定面74,78の範囲を示す図である。図5では、中央電極体70のビーム測定面74および複数の側方電極体80のそれぞれのビーム測定面78の範囲を太線で示している。各電極体のビーム測定面は、スリット66を通過したビームが入射しうる各電極体の表面の範囲である。
【0059】
スリット66を通過するビームのうち、スリット幅方向(x方向)の角度成分がθよりも大きいビームは筐体64の角度制限部64cの内面に入射する。その結果、スリット幅方向(x方向)の角度成分がθよりも大きいビームは、電極体では検出されず、測定装置62の測定範囲外となる。一方、スリット幅方向(x方向)の角度成分がθ以下であるビームは、中央電極体70または複数の側方電極体80のいずれかに入射しうる。
【0060】
角度成分が相対的に大きいビームは、第1側方電極体80aの第1ビーム測定面78aまたは第2側方電極体80bの第2ビーム測定面78bに入射しうる。第1ビーム測定面78aは、第1本体部81aの表面の一部および第1上流側延在部82aの表面の一部により構成される。一方、第1下流側延在部83aの表面にはスリット66を通過するビームは入射しない。スリット66から見たときに、第1下流側延在部83aの表面は中心線Cに向けて突出する第1本体部81aの裏側に位置するためである。なお、第1ビーム測定面78aは、第1本体部81aの表面の一部のみで構成され、第1上流側延在部82aの表面にスリット66を通過したビームが入射しない構成であってもよい。第2ビーム測定面78bは、第1ビーム測定面78aと中心線Cを挟んでスリット幅方向に対称になるように構成される。
【0061】
角度成分が中程度のビームは、第3側方電極体80cの第3ビーム測定面78cまたは第4側方電極体80dの第4ビーム測定面78dに入射しうる。第3ビーム測定面78cは、第3本体部81cの表面の一部により構成される。一方、第3上流側延在部82cおよび第3下流側延在部83cの表面にはスリット66を通過するビームは入射しない。スリット66から見たときに、第3上流側延在部82cの表面は第1側方電極体80aの裏側に位置し、第3下流側延在部83cの表面は中心線Cに向けて突出する第3本体部81cの裏側に位置するためである。なお、第3上流側延在部82cの表面の一部が第3ビーム測定面78cとなるよう構成されてもよい。第4ビーム測定面78dは、第3ビーム測定面78cと中心線Cを挟んでスリット幅方向に対称になるように構成される。
【0062】
角度成分が相対的に小さいビームは、第5側方電極体80eの第5ビーム測定面78eまたは第6側方電極体80fの第6ビーム測定面78fに入射しうる。第5ビーム測定面78eは、第5本体部81eの表面の一部により構成される。一方、第5上流側延在部82eおよび第5下流側延在部83eの表面にはスリット66を通過するビームは入射しない。スリット66から見たときに、第5上流側延在部82eの表面は第3側方電極体80cの裏側に位置し、第5下流側延在部83eの表面は中心線Cに向けて突出する第5本体部81eの裏側に位置するためである。なお、第5上流側延在部82eの表面の一部が第5ビーム測定面78eとなるよう構成されてもよい。第6ビーム測定面78fは、第5ビーム測定面78eと中心線Cを挟んでスリット幅方向に対称になるように構成される。
【0063】
角度成分がほぼゼロであるビームは、中央電極体70のビーム測定面74に入射しうる。中央電極体70のビーム測定面74は、中央電極体70の基部71の表面の一部により構成される。なお、中央電極体70の延在部72L,72Rの内面の少なくとも一部がビーム測定面74として構成されてもよい。
【0064】
磁石装置90は、中央電極体70および複数の側方電極体80のそれぞれのビーム測定面74,78に磁場を印加するよう構成される。磁石装置90は、複数の第1磁石91a,91b,91c,91d,91e,91f(総称して第1磁石91ともいう)と、複数の第2磁石92a,92b,92c,92d,92e,92f(総称して第2磁石92ともいう)と、二つの第3磁石93L,93R(総称して第3磁石93ともいう)と、一つの第4磁石94とを含む。各磁石91~94は、中央電極体70および複数の側方電極体80よりも中心線Cからスリット幅方向(x方向)に離れて配置される。各磁石91~94は、筐体64の電極収容部64dの内壁面に沿って配置される。図示される矢印は、各磁石91~94の磁化方向を模式的に示す。
【0065】
第1磁石91および第2磁石92は、互いに極性が反対となるよう構成される。第1磁石91は、例えばN極である第1磁極を有し、第1磁極が内側となるように配置される。第2磁石92は、例えばS極である第2磁極を有し、第2磁極が内側となるように配置されている。同様に、第3磁石93および第4磁石94は互いに極性が反対となるよう構成される。第3磁石93は、例えばN極である第3磁極を有し、第3磁極が内側となるように配置される。第4磁石94は、例えばS極である第4磁極を有し、第4磁極が内側となるように配置される。なお、第1磁極および第3磁極がS極であり、第2磁極および第4磁極がN極であってもよい。
【0066】
複数の第1磁石91および複数の第2磁石92は、筐体64の電極収容部64dの内壁面に沿ってビーム進行方向に交互に並ぶように配置され、第1磁石91と第2磁石92のペアが複数の側方電極体80a~80fのそれぞれに対応するように配置される。例えば、第1側方電極体80aの近傍には第1磁石91aおよび第2磁石92aのペアが配置される。第1磁石91は、対応する側方電極体80の本体部81よりも上流側に配置され、第2磁石92は、対応する側方電極体80の本体部81よりも下流側に配置される。第1磁石91および第2磁石92は、対応する側方電極体80のビーム測定面78にスリット66のスリット長方向(y方向)の軸周りに曲がる磁場を印加する(後述の図6及び図7を参照)。複数の第1磁石91および複数の第2磁石92のそれぞれは、中心線Cを挟んでスリット幅方向(x方向)に対称に配置されており、中心線Cを挟んでスリット幅方向(x方向)におおむね対称となる分布の磁場を印加する。
【0067】
二つの第3磁石93L,93Rおよび第4磁石94は、中央電極体70の近傍に配置される。二つの第3磁石93L,93Rは、中央電極体70を挟んで(つまり、中心線Cを挟んで)スリット幅方向(x方向)に対称に配置される。一方、第4磁石94は、中央電極体70を挟んで(つまり、中心線Cを挟んで)片側にのみ配置される。図示する例において、第5側方電極体80eの近傍に配置される第2磁石92eの下流側には第3磁石93Lおよび第4磁石94が配置される。一方、第6側方電極体80fの近傍に配置される第2磁石92fの下流側には第3磁石93Rのみが配置され、第4磁石は配置されない。その結果、二つの第3磁石93L,93Rおよび第4磁石94は、中心線Cを挟んでスリット幅方向に非対称となる分布の磁場を印加する(後述の図6及び図8を参照)。
【0068】
図6は、各電極体に印加される磁場分布の一例を示す図である。図6では、各電極体の内部の磁場分布が分かるように、中央電極体70および複数の側方電極体80の輪郭線のみを示し、ハッチングを省略している。図示されるように、第1磁石91から第2磁石92に向けて円弧状に磁力線が延びている。第1磁石91から第2磁石92に向けて延びる磁力線は、図6の紙面に直交する方向(つまりy方向)に延びる軸周りに曲がっている。また、側方電極体80のビーム測定面78から出射する磁力線が同じ側方電極体80の表面に入射するよう構成され、または、側方電極体80のビーム測定面78に入射する磁力線が同じ側方電極体80の表面から出射するよう構成される。また、側方電極体80のビーム測定面78の近傍を通過する磁力線は、同じ側方電極体80の表面から出射して同じ側方電極体80の表面に入射するよう構成される。
【0069】
図7は、側方電極体80に印加される磁場分布の一例を詳細に示す図であり、図6の第1側方電極体80aの近傍の拡大図である。図7では、側方電極体80に印加される磁場分布の一例として、第1磁石91と第2磁石92の間の3本の磁力線B1,B2,B3を描いている。第1磁石91から出射する磁力線B1~B3は、側方電極体80のビーム測定面78と交差するか、または、ビーム測定面78の近傍を通過し、その後に第2磁石92に入射する。
【0070】
第1磁力線B1は、上流側延在部82を通過して上流側延在部82の内側面86から出射する。第1磁力線B1は、ビーム測定面78の一部を構成する本体部81の内側面85の近傍を中心線Cに沿うように進んだ後、下流側延在部83の内側面87に入射する。第2磁力線B2は、上流側延在部82の内側面86から出射した後、ビーム測定面78の一部を構成する本体部81の内側面85に入射する。第3磁力線B3は、上流側延在部82の内側面86から出射した後、ビーム測定面78の一部を構成する本体部81の上面84に入射する。ここで、本体部81の上面84は、スリット66(図4図6を参照)に向けてビーム進行方向(z方向)の上流側に露出する表面である。また、本体部81、上流側延在部82および下流側延在部83の内側面85,86,87は、中心線Cに向けてスリット幅方向(x方向)の内側に露出する表面である。
【0071】
図示されるような磁場分布とすることにより、測定対象となるイオンビームの入射によってビーム測定面78にて二次電子が生じる場合であっても、磁力線B1,B2,B3のそれぞれに巻き付くような螺旋軌道E1,E2,E3に沿って二次電子を移動させ、同一の側方電極体80の内側面86,87に二次電子を入射させることができる。つまり、側方電極体80のビーム測定面78で生じる二次電子を同じ側方電極体80の内側面86,87に吸収させることができる。その結果、二次電子が発生する電極体とは別の電極体に二次電子が吸収され、異なる電極体間で電荷移動が発生して測定誤差となるのを防ぐことができる。別の言い方をすれば、側方電極体80の上流側延在部82および下流側延在部83の内側面86,87の少なくとも一部が二次電子吸収面となるように側方電極体80を構成することで、二次電子に起因する測定誤差の発生を防ぐことができる。
【0072】
図示されるように、磁力線に沿って移動する二次電子は螺旋軌道を描くため、二次電子が発生する側方電極体(例えば第1側方電極体80a)とは別の側方電極体(例えば中心線Cを挟んで対向する第2側方電極体80b)に二次電子が入射しないように螺旋軌道Eの半径を小さくすることが好ましい。発明者らの知見によれば、イオンビームの入射によりビーム測定面78にて発生する二次電子のエネルギーは30eV以下である。したがって、30eVの電子が螺旋運動する場合のラーマ半径が中心線Cから側方電極体80までの距離dよりも小さくなるような強度の磁場を印加することが好ましい。
【0073】
図7に示される磁場分布を側方電極体80に印加するためには、第1磁石91および第2磁石92のビーム進行方向(z方向)の位置を適切に設定する必要がある。第1磁石91のビーム進行方向(z方向)における中心95は、上流側延在部82に対応する位置、つまり、ビーム測定面78よりも上流側であって側方電極体80の上流端88よりも下流側の位置に配置する必要がある。同様に、第2磁石92のビーム進行方向(z方向)における中心96は、下流側延在部83に対応する位置、つまり、ビーム測定面78よりも下流側であって側方電極体80の下流端89よりも上流側の位置に配置する必要がある。なお、第1磁石91の中心95は、ビーム測定面78よりも上流端88の近くに配置されることが好ましい。第2磁石92の中心96は、ビーム測定面78よりも下流端89の近くに配置されることが好ましい。また、第1磁石91および第2磁石92のビーム進行方向(z方向)における中間点は、ビーム測定面78のビーム進行方向(z方向)の位置と一致することが好ましい。
【0074】
本実施の形態の側方電極体80によれば、中心線Cに向けて突出する本体部81のビーム進行方向(z方向)の長さが小さいため、ビーム測定面78のビーム進行方向(z方向)における範囲を小さくでき、二次電子が発生しうる箇所(つまりビーム測定面78)を限定できる。言いかえれば、上流側延在部82および下流側延在部83の中心線Cからの距離d,dを本体部81の中心線Cからの距離dより大きくすることで、上流側延在部82の内側面86の少なくとも一部および下流側延在部83の内側面87の全体をビームが照射されない「ビーム非照射面」とすることができる。また、上流側延在部82および下流側延在部83の内側面86,87の少なくとも一部をビーム測定面78にて発生する二次電子を吸収させる「二次電子吸収面」とすることができる。さらに、上流側延在部82および下流側延在部83のビーム進行方向(z方向)の長さを本体部81よりも大きくすることで、ビーム進行方向(z方向)において「ビーム非照射面」かつ「二次電子吸収面」となる範囲を大きくでき、ビーム測定面78にて生じた二次電子を上流側延在部82および下流側延在部83にて確実に吸収できる。
【0075】
また、中心線Cから下流側延在部83までの距離dを中心線Cから上流側延在部82までの距離dよりも小さくし、下流側延在部83の内側面87を可能な限りビーム測定面78(本体部81の内側面85)に近づけることで、ビーム測定面78から下流側に向かう二次電子を下流側延在部83の内側面87に効率的に吸収させることができる。なお、中心線Cから下流側延在部83までの距離dは、下流側延在部83の内側面87の全体が「ビーム非照射面」となる程度に、つまり、本体部81の裏側に隠れる程度に大きくする必要がある。
【0076】
図8は、中央電極体70に印加される磁場分布の一例を詳細に示す図であり、図6の中央電極体70の近傍の拡大図である。図8では、中央電極体70に印加される磁場分布の一例として、二つの第3磁石93L,93Rと第4磁石94の間の3本の磁力線B4,B5,B6を描いている。図示されるように、中央電極体70の近傍の磁場分布は、中心線Cに対してスリット幅方向(x方向)に非対称となっている。例えば、ビーム測定面74(基部71の表面)と交差する第4磁力線B4は、第3磁石93Rから出射した後、延在部72Rを通過して延在部72Rの内側面73Rから出射し、ビーム測定面74に入射する。その後、第4磁力線B4は、基部71を通過して第4磁石94に入射する。
【0077】
中央電極体70のビーム測定面74にて生じる二次電子は、第4磁力線B4に巻き付くような螺旋軌道E4に沿って移動して延在部72Rの内側面73Rに入射する。したがって、延在部72Rの内側面73Rの少なくとも一部は、「ビーム非照射面」かつ「二次電子吸収面」となる。図示されるような非対称な磁場分布とすることで、ビーム測定面74にて生じる二次電子を一方の延在部72Rの内側面73Rに入射させることができる。仮に、中心線Cに対してスリット幅方向(x方向)に対称な磁場分布とした場合、中心線Cの近傍において中心線Cに沿う方向に磁力線が延びるため、ビーム測定面74にて生じた二次電子が中心線Cに沿って中央電極体70よりも上流側に抜けてしまうおそれがある。そうすると、中央電極体70の上流側に位置する側方電極体80(例えば第5側方電極体80eや第6側方電極体80f)に中央電極体70にて生じた二次電子が吸収され、測定誤差につながるおそれがある。一方、本実施の形態によれば、中央電極体70に印加される磁場分布が非対称なため、中心線Cの近傍で生じた二次電子を一方の延在部72Rの内側面73Rに確実に吸収させることができる。
【0078】
なお、図8に示されるような磁場分布を中央電極体70に印加するためには、第3磁石93L,93Rのビーム進行方向(z方向)の位置を延在部72L,72Rに対応する位置、つまり、ビーム測定面74よりも上流側であって中央電極体70の上流端75よりも下流側の位置に配置する必要がある。第3磁石93L,93Rのビーム進行方向(z方向)における中心97L,97Rは、ビーム測定面74よりも上流端75の近くに配置されることが好ましい。一方、第4磁石94は、ビーム測定面74よりも下流側に配置する必要があり、第4磁石94のビーム進行方向(z方向)における中心98がビーム測定面74よりも下流側に配置されることが好ましい。
【0079】
以上の構成の測定装置62によれば、スリット66を通過するイオンビームのスリット幅方向(x方向)の角度成分を中央電極体70および複数の側方電極体80を用いて測定できる。複数の側方電極体80に印加される磁場分布は、中心線Cに対してスリット幅方向にほぼ対称であるため、中心線Cの近傍の磁力線は中心線Cに沿った方向となる。その結果、中心線Cの近傍を通過するイオンビームの軌道が磁場の印加によって変化してしまう影響を小さくでき、ビーム軌道の変化による測定誤差が生じないようにできる。一方、中央電極体70に印加される磁場分布は、中心線Cに対してスリット幅方向に非対称であるため、中心線Cの近傍を通過するイオンビームの軌道に影響を及ぼすおそれがあるが、中央電極体70の近傍を通過するビームは全て中央電極体70で検出されるため、測定誤差にはつながらない。したがって、本実施の形態によれば、各電極体に磁場を印加することで、二次電子に起因する測定誤差の発生を好適に防止することができ、イオンビームの角度分布の測定精度を向上させることができる。
【0080】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【0081】
上述の実施の形態において、筐体64(スリット66)の電位(例えばグランド電位)に対して負電圧を中央電極体70および複数の側方電極体80に印加してもよい。中央電極体70および複数の側方電極体80に印加される負のバイアス電圧の絶対値は30V以上であってもよい。つまり、負のバイアス電圧は-30V以下であってもよい。例えば測定対象のイオンビームのエネルギーをE、イオンの電荷をqとした場合、絶対値がE/q×0.1程度となる負のバイアス電圧を印加してもよい。中央電極体70および複数の側方電極体80に負のバイアス電圧を印加することで、イオンビームの入射により角度制限部64cの内面にて生じる二次電子が中央電極体70および複数の側方電極体80の少なくともいずれかに流れ込むのを好適に防止できる。これにより、測定装置62の測定精度をさらに向上させることができる。
【0082】
上述の実施の形態では、中央電極体70および複数の側方電極体80の全てに磁場を印加する構成とした。変形例においては、中央電極体70および複数の側方電極体80の一部にのみ磁場を印加する構成としてもよい。例えば、二次電子の発生による測定誤差が顕著な一部の電極体にのみ磁場が印加されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0083】
10…イオン注入装置、62…測定装置、66…スリット、70…中央電極体、71…基部、72…延在部、74,78…ビーム測定面、80…側方電極体、81…本体部、82…上流側延在部、83…下流側延在部、90…磁石装置、C…中心線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8