(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】耐火カバー、耐火装置、配線器具の設置構造及び配線器具を設置する方法
(51)【国際特許分類】
H02G 3/08 20060101AFI20220831BHJP
H02G 3/12 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
H02G3/08 030
H02G3/12 030
H02G3/08 080
(21)【出願番号】P 2019020228
(22)【出願日】2019-02-07
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000243803
【氏名又は名称】未来工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 真之
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-201049(JP,A)
【文献】特開2014-239635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/08
H02G 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁材に形成された貫通孔を介して配線器具を固定するための配線器具固定具を壁裏に収容するとともに、前記貫通孔を閉塞するように壁裏に設置される耐火カバーであって、
耐火材料により底壁及び側壁を有する有底箱状に形成されたカバー本体を備え、
前記カバー本体は、
前記底壁に対向する前面で開口する開口部と
前記配線器具固定具を収容するための収容部と、
前記開口部の外周に沿って延在し、前面で壁裏面に当接する当接部と、
前記配線器具が前記配線器具固定具に固定されるときに、前記配線器具及び前記配線器具固定具によって前記壁材とともに挟持される被挟持部と、を備えてなることを特徴とする耐火カバー。
【請求項2】
前記当接部は、壁裏に張着する張着部を備えてなることを特徴とする請求項1に記載の耐火カバー。
【請求項3】
前記カバー本体は、前記貫通孔を通過できるように圧縮変形可能に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐火カバー。
【請求項4】
前記カバー本体は、熱膨張性の弾性材料で形成されてなることを特徴とする請求項3に記載の耐火カバー。
【請求項5】
前記カバー本体の側壁は、山部及び谷部が交互に連続する蛇腹形状を有していることを特徴とする請求項3又は4に記載の耐火カバー。
【請求項6】
前記カバー本体の底壁は、前記側壁よりも厚いことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の耐火カバー。
【請求項7】
前記当接部及び/又は前記被挟持部は、前記配線器具が挿入可能な開口を有する硬質材料の枠部材からなることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の耐火カバー。
【請求項8】
前記カバー本体内に配置される発泡性材料からなる吸音性の充填部材をさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の耐火カバー。
【請求項9】
壁材に形成された貫通孔を介して壁表に配線器具を固定するとともに、前記貫通孔を閉塞するように壁裏に設置される耐火装置であって、
請求項1から8のいずれか一項に記載の耐火カバーと、
配線器具を固定するための固定部を備え、壁表から前記貫通孔を介して壁裏に配置される配線器具固定具と、を備えることを特徴とする耐火装置。
【請求項10】
貫通孔が形成された壁表面及び壁裏面を有する壁材と、
壁裏に設置された請求項1から8のいずれか一項に記載の耐火カバーと、
前記耐火カバーの収容部に収容され、前記貫通孔を介して固定部が壁表に臨むように設置された配線器具固定具と、
前記配線器具固定具に固定された配線器具と、を備え、
壁裏面の貫通孔周縁に前記耐火カバーのカバー本体前面の当接部を当接させた状態で、前記配線器具と前記配線器具固定具とが前記壁材とともに前記耐火カバーの被挟持部を挟持していることを特徴とする配線器具の設置構造。
【請求項11】
壁材に形成された貫通孔を介して配線器具を設置する方法であって、
前面に開口し、耐火材料により底壁及び側壁を有する有底箱状に形成されたカバー本体を備える耐火カバーを壁表から前記貫通孔を介して壁裏に配置する工程と、
前記配線器具を固定するための配線器具固定具を前記カバー本体の収容部に収容する工程と、
壁裏面の貫通孔周縁に前記カバー本体前面の開口を包囲する当接部を当接させた状態で、前記カバー本体の被挟持部を前記配線器具と前記配線器具固定具とによって前記壁材とともに挟持するように、前記配線器具固定具に前記配線器具を固定する工程と、を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁材に形成された貫通孔に設置される配線器具のための耐火カバー、耐火装置、配線器具の設置構造及び配線器具を設置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建造物の壁材にコンセントやスイッチ等の配線器具が設置される際、壁材に貫通孔が形成され、該壁材を介して配線器具が壁表に臨むように配置されるとともに、壁裏空間に配線が配置される。そして、火災時に壁材の貫通孔を通して有毒ガス、炎、煙などが壁材を介した空間に流入又は流出することを防止するために、貫通孔を耐火材で隙間なく閉塞する耐火措置が必要となる。
【0003】
例えば、特許文献1は、壁材に形成された貫通孔を覆うように壁裏に設置される耐火カバーを開示する。以下、当該段落において、()内に特許文献1の符号を示す。特許文献1は、合成樹脂製の配線ボックス(10)と、この配線ボックス(10)を収容する収容空間(33)を有する金属性の耐火カバー(30)とから形成された耐火性配線ボックス(1)を開示する。耐火カバー(30)は、前面(一面)に開口(31a)を有する有底四角箱状に形成された金属材料製のカバー本体(31)を備えている。カバー本体(31)は、底壁(32)及び側壁(32a~32d)によって囲み形成されて配線ボックス(10)を収容可能とする収容空間(33)を有する。カバー本体(31)における開口(31a)の周縁部全周には、四角環状をなすフランジ(41)が一体形成されている。このフランジ(41)は、開口(31a)の周縁部全周からカバー本体(31)の外方に向けて延びるように形成されている。配線ボックス(10)を設置するには、まず、カバー本体(31)の左側壁(32d)の外面(321d)を柱(H)の側面に当接させるとともに、フランジ(41)の左側後面が柱(H)の前面に当接するように耐火性配線ボックス(1)を配置する。続いて、配線ボックス(10)の挿通孔(16)及びカバー本体(31)の貫挿孔(38)に固定ビス(B)を挿通するとともに、固定ビス(B)を柱(H)に強制的に螺入する。すると、耐火性配線ボックス(10)が柱(H)に固定される。続いて、ケーブル(C)をケーブル挿通孔(14)を介して配線ボックス(10)内に引き込む。そして、柱(H)の前面側に壁材(W1)を立設する。このようにして、耐火性配線ボックス(10)の設置構造が形成される。このとき、フランジ(41)の前面全体が壁材(W1)の後面に面接触しているため、耐火カバー(30)内に流入した火炎、煙、有毒ガス等が壁W裏に流入し難くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような従来の配線器具の設置方法では、耐火カバーは、間柱(軽量形鋼材)に固定された後に壁材を立設することによって壁裏に設置可能であった。そのため、壁材が既に立設された建造物では、新たに耐火カバーを設置することが困難であった。また、特許文献1の耐火カバーでは、壁材を立設するときにフランジに圧接させることによって貫通孔を閉塞する。しかしながら、僅かな施工ずれによって、フランジと壁裏面との間に隙間が生じ易い。当該隙間から有毒ガス、煙、炎などが流入又は流出する虞があることから、フランジ全周面を壁裏面に確実に圧接させるために、施工時において壁材や貫通孔の位置ずれをなくすことが必須であり、施工に正確を期するべく、施工作業に細心の注意を要し、施工に手間や時間がかかることもまた問題として挙げられる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、貫通孔が形成された壁材に対して設置可能であり、且つ、貫通孔をより確実に閉塞可能である耐火カバー、耐火装置、配線器具の設置構造及び配線器具を設置する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の耐火カバーは、壁材に形成された貫通孔を介して配線器具を固定するための配線器具固定具を壁裏に収容するとともに、前記貫通孔を閉塞するように壁裏に設置される耐火カバーであって、
耐火材料により底壁及び側壁を有する有底箱状に形成されたカバー本体を備え、
前記カバー本体は、
前記底壁に対向する前面で開口する開口部と
前記配線器具固定具を収容するための収容部と、
前記開口部の外周に沿って延在し、前面で壁裏面に当接する当接部と、
前記配線器具が前記配線器具固定具に固定されるときに、前記配線器具及び前記配線器具固定具によって前記壁材とともに挟持される被挟持部と、を備えてなることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の耐火カバーは、請求項1に記載の耐火カバーにおいて、前記当接部は、壁裏に張着する張着部を備えてなることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の耐火カバーは、請求項1又は2に記載の耐火カバーにおいて、前記カバー本体は、前記貫通孔を通過できるように圧縮変形可能に形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の耐火カバーは、請求項1から3のいずれか一項に記載の耐火カバーにおいて、前記カバー本体は、熱膨張性の弾性材料で形成されてなることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の耐火カバーは、請求項3又は4に記載の耐火カバーにおいて、前記カバー本体の側壁は、山部及び谷部が交互に連続する蛇腹形状を有していることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の耐火カバーは、請求項1から5のいずれか一項に記載の耐火カバーにおいて、前記カバー本体の底壁は、前記側壁よりも厚いことを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の耐火カバーは、請求項1から6のいずれか一項に記載の耐火カバーにおいて、前記当接部及び/又は前記被挟持部は、前記配線器具が挿入可能な開口を有する硬質材料の枠部材からなることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の耐火カバーは、請求項1から7のいずれか一項に記載の耐火カバーにおいて、前記カバー本体内に配置される発泡性材料からなる吸音性の充填部材をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の耐火装置は、壁材に形成された貫通孔を介して壁表に配線器具を固定するとともに、前記貫通孔を閉塞するように壁裏に設置される耐火装置であって、
請求項1から8のいずれか一項に記載の耐火カバーと、
配線器具を固定するための固定部を備え、壁表から前記貫通孔を介して壁裏に配置される配線器具固定具と、を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載の配線器具の設置構造は、貫通孔が形成された壁表面及び壁裏面を有する壁材と、
壁裏に設置された請求項1から8のいずれか一項に記載の耐火カバーと、
前記耐火カバーの収容部に収容され、前記貫通孔を介して固定部が壁表に臨むように設置された配線器具固定具と、
前記配線器具固定具に固定された配線器具と、を備え、
壁裏面の貫通孔周縁に前記耐火カバーのカバー本体前面の当接部を当接させた状態で、前記配線器具と前記配線器具固定具とが前記壁材とともに前記耐火カバーの被挟持部を挟持していることを特徴とする。
【0017】
請求項11に記載の方法は、壁材に形成された貫通孔を介して配線器具を設置する方法であって、
前面に開口し、耐火材料により底壁及び側壁を有する有底箱状に形成されたカバー本体を備える耐火カバーを壁表から前記貫通孔を介して壁裏に配置する工程と、
前記配線器具を固定するための配線器具固定具を前記カバー本体の収容部に収容する工程と、
壁裏面の貫通孔周縁に前記カバー本体前面の開口を包囲する当接部を当接させた状態で、前記カバー本体の被挟持部を前記配線器具と前記配線器具固定具とによって前記壁材とともに挟持するように、前記配線器具固定具に前記配線器具を固定する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の耐火カバーによれば、カバー本体には、その開口部外周に沿って延在し、カバー本体前面で壁裏面に当接する当接部と、配線器具及び配線器具固定具によって前記壁材とともに挟持される被挟持部が設けられている。すなわち、壁材に形成された貫通孔を介して、カバー本体を壁裏に配置し、配線器具固定具をカバー本体の収容部に収容し、壁裏面に当接部を当接させるとともに被挟持部を配線器具と配線器具固定具とによって壁材とともに挟持することにより、貫通孔をより確実に閉塞した状態で耐火カバーを壁裏により簡単に設置することができる。したがって、本発明の耐火カバーは、予め立設された壁材に対して、耐火構造をより簡単且つ確実に形成することを可能とするものである。
【0019】
請求項2に記載の耐火カバーによれば、請求項1の発明の効果に加えて、当接部を張着部によって壁裏面に張り付けることによって、耐火カバーを壁裏で仮保持することができる。これにより、耐火カバーの設置作業における施工容易性が向上する。
【0020】
請求項3に記載の耐火カバーによれば、請求項1又は2の発明の効果に加えて、カバー本体を前後方向(設置時における貫通孔の深さ方向)に圧縮することにより、耐火カバーを貫通孔を介して簡単に壁裏に配置することが可能となる。
【0021】
請求項4に記載の耐火カバーによれば、請求項3の発明の効果に加えて、カバー本体が弾性材料からなることにより、耐火カバーの大きさに対して貫通孔が相対的に小さい場合でも、カバー本体を無理矢理変形させて貫通孔を通過させることが可能となる。また、カバー本体を熱膨張性材料とすることで、火災の際、カバー本体の体積が熱膨張して貫通孔を効果的に塞ぐことを可能とする。
【0022】
請求項5に記載の耐火カバーによれば、請求項3又は4の発明の効果に加えて、蛇腹形状によってカバー本体の側壁をその高さ方向に自在に伸縮変形させることが可能であることから、簡易な構造で、カバー本体を前後方向に容易に伸縮変形可能となる。
【0023】
請求項6に記載の耐火カバーによれば、請求項1から5のいずれかの発明の効果に加えて、貫通孔の正面側に臨むカバー本体の底壁を相対的に厚くすることにより、同量の耐火材料において、より効率的に耐火効果を発揮することができる。
【0024】
請求項7に記載の耐火カバーによれば、請求項1から6のいずれかの発明の効果に加えて、当接部及び/又は被挟持部を硬質材料とすることにより、より強い力で配線器具及び配線器具固定具によって挟圧することが可能となる。
【0025】
請求項8に記載の耐火カバーによれば、請求項1から7のいずれかの発明の効果に加えて、カバー本体に発泡性材料からなる吸音性の充填部材を設けることによって、設置時に高い吸音性能を発揮することが可能となる。
【0026】
請求項9に記載の耐火装置によれば、請求項1から8のいずれかの発明の効果を耐火装置として発揮しつつ、壁裏に配置された配線器具固定具に配線器具を固定して、壁材に配線器具の設置構造を構築することが可能である。
【0027】
請求項10に記載の配線器具の設置構造によれば、請求項1から8のいずれかの発明の効果を発揮しつつ、より簡単且つ確実に貫通孔を閉塞して、安定した耐火性を発揮可能である。
【0028】
請求項11に記載の配線器具の設置方法によれば、壁材に形成された貫通孔を介して、カバー本体を壁裏に配置し、配線器具固定具をカバー本体の収容部に収容し、壁裏面の貫通孔周縁に当接部を当接させるとともに被挟持部を配線器具と配線器具固定具とによって壁材とともに挟持することにより、貫通孔をより確実に閉塞した状態で耐火カバーを壁裏により簡単に設置することができる。特に、配線器具を配線器具固定具に固定すると同時に、貫通孔を確実に閉塞した状態で耐火カバーを壁裏に固定することができるので、配線器具の設置作業を迅速化することができる。したがって、本発明の方法は、予め立設された壁材に対して、耐火措置された配線器具の設置構造をより簡単且つ確実に構築することを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に係る一実施形態の耐火装置の分解斜視図。
【
図2】
図1の耐火装置の耐火カバーの(a)前面から見た概略斜視図及び(b)後面から見た概略斜視図。
【
図3】
図2の耐火カバーの(a)平面図、(b)正面図、(c)側面図及び(d)背面図。
【
図5】
図1の耐火装置の配線器具固定具の(a)前面から見た概略斜視図及び(b)後面から見た概略斜視図。
【
図6】
図6の配線器具固定具の(a)正面図、(b)側面図、及び(c)平面図。
【
図8】本発明の一実施形態の配線器具の設置構造の概略断面図。
【
図10】壁材に形成された貫通孔を介して配線器具を設置する方法において、耐火カバーを壁表から貫通孔を介して壁裏に配置する工程を示す模式図。
【
図11】壁材に形成された貫通孔を介して配線器具を設置する方法において、配線器具固定具をカバー本体の収容部に収容する工程を示す模式図。
【
図12】壁材に形成された貫通孔を介して配線器具を設置する方法において、配線器具固定具に配線器具を固定する工程を示す模式図。
【
図13】本発明の別実施形態の配線器具の設置構造の概略断面図。
【
図14】本発明の別実施形態の耐火カバーを示す模式図。
【
図15】本発明の別実施形態の耐火カバーを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において参照する各図の形状は、好適な形状寸法を説明する上での概念図又は概略図であり、寸法比率等は実際の寸法比率とは必ずしも一致しない。つまり、本発明は、図面における寸法比率に限定されるものではない。
【0031】
本実施形態の耐火カバー110は、中空壁を構成する壁材11に形成された貫通孔12を介して配線器具固定具120及び配線器具13を壁材11に設置する際、貫通孔12を封止して火災時に発生する有毒ガス、煙、炎などの流入や流出を防止することに用いられる。また、本実施形態の耐火装置100は、耐火カバー110及び配線器具固定具120から構成され、貫通孔12を介して壁材11に配線器具13を設置するための装置である。さらに、本実施形態の設置構造10は、本実施形態の配線装置100(耐火カバー110及び配線器具固定具120)によって、配線器具10が壁材11に設置された構造である。
【0032】
図1は、本実施形態の耐火装置100の分解斜視図である。
図1に示すとおり、耐火装置100は、貫通孔12を閉塞するように壁裏に設置される耐火カバー110と、壁表から貫通孔12を介して壁裏の耐火カバー110内に配置され、壁表に配線器具13を固定する配線器具固定具120とを備えてなる。
【0033】
まず、
図2乃至
図4を参照して、本実施形態の耐火カバー110の構成を説明する。
図2(a),(b)は、耐火カバー110の概略斜視図である。
図3(a)~(d)は、耐火カバー110の平面図、正面図、側面図及び背面図である。
図4は、耐火カバー110のA-A断面図である。
【0034】
本実施形態の耐火カバー110は、耐火材料により前面に開口した有底箱状に形成されたカバー本体111を備える。カバー体111は、後面を定める略矩形平板状の底壁111aと、該底壁111の四辺から前面側に立設した側壁111bと、全ての側壁111bの前端から内側に所定長さで張り出したフランジ111cとから一体的に構成されてなる。各側壁111bは、複数対の山部及び谷部が交互に連続する蛇腹形状を有している。本実施形態では、側壁111bには、2対の山部及び谷部が形成されている。蛇腹構造の側壁111bが高さ(立設)方向に変形することで、カバー本体111は前後に伸縮変形可能である。また、本実施形態では、カバー体111の底壁111aの方が側壁111bよりも厚く形成されている。これにより、相対的に厚い底壁111aが壁材11の正面方向に伝播する音を効果的に遮音するとともに、相対的に薄い側壁111bにより、カバー体111の高い伸縮性を担保している。本実施形態では、底壁111aの厚みが2mmであり、側壁111b及びフランジ111cの厚みが1mmである。前後方向に伝播する音に対する遮音性能の向上を実感するには、底壁の厚みは側壁の厚みの約1.5倍以上であることが好ましい。すなわち、耐火カバー110には、遮音性が付与されてもよい。なお、底壁111aをケーブルが通過するように配線される場合、底壁111aはカッター等によって切断可能である。また、耐火カバー110の厚みは設置環境に応じて任意に定めることが可能であり、底壁111aと側壁111bとが同じ厚みであってもよいことはいうまでもない。
【0035】
カバー体111のフランジ111cの内方には、底壁111aに対向する前面で略矩形状に開口する開口部112が設けられている。換言すると、フランジ111cが開口部112全周を包囲する周縁を形成する。開口部112の大きさは、壁材11の貫通孔12よりも大きいことが好ましい。また、カバー体111の内部には、周壁(全側壁111a)に包囲された収容部113が形成されている。収容部113は、配線器具固定具120や任意に配線器具13の一部を収容するための空間である。フランジ111cの前面には、開口部112の外周に沿って環状に延在する当接部114が形成されている。当接部114は、前面で壁裏面の貫通孔12周縁に隙間なく全周で当接するように平面状に構成されている。好ましくは、当接部114前面には、張着部として両面テープが配置されてもよい(図示せず)。張着部を貫通孔12の周縁に張り付けることによって、耐火カバー110を壁裏面の所定位置に仮保持可能となる。また、フランジ111cは、後述するように、配線器具13が配線器具固定具120に固定されるときに、配線器具13及び配線器具固定具120(又は壁裏面)によって挟持される被挟持部115として機能する。
【0036】
本実施形態の耐火カバー110は、耐火材料として、自身で形状を維持可能な熱膨張性材料で一体成形されたものである。より具体的には、熱膨張性材料は熱膨張性ゴムであり、この熱膨張性ゴムは高熱(例えば300℃以上)に曝されると体積が加熱前の2倍以上に膨張する膨張材(膨張黒鉛)を混入し、所定形状に成形した(成形工程を経た)ゴムに加硫工程を経てなるものである。なお、加硫工程とは、成形工程を経たゴムに熱を加え、加硫(架橋)反応や接着反応を起こさせ、ゴム弾性を有する製品を得る工程である。そして、耐火部材110は、熱膨張性ゴム自身により有底箱形状を維持している。
【0037】
次に、
図5乃至
図7を参照して、本実施形態の配線器具固定具120の構成を説明する。
図5(a),(b)は、配線器具固定具120の概略斜視図である。
図6(a)~(c)は、配線器具固定具120の正面図、側面図及び平面図である。
図7は、配線器具固定具120のB-B断面図である。
【0038】
配線器具固定具120は、壁裏に設置され、壁材11に形成された貫通孔12を介して配線器具13を固定するように構成されている。具体的には、配線器具固定具120は、中央に矩形状の開口121aを有する平板状の枠体121からなる。該枠体121の開口121aを貫通して配線器具13の一部が壁裏側に収容され得る。また、枠体121は、前面が貫通孔12周縁に対向配置可能であるように壁材11の貫通孔12の外周よりも大きく形成されている。そして、枠体121前面の外周部分には、耐火カバー110のフランジ111c(被挟持部115)を挟持する挟持面121bが形成されている。
【0039】
枠体121には、貫通孔12を介して配線器具13を固定するための固定部122が形成されている。固定部122は、幅方向中央において開口121aの上下に穿設された一対のビス孔からなる。また、固定部122の上下方向外側には、枠体121から前方に突出した係止部123が設けられている。係止部123は、貫通孔12の内周面の形状に沿うように形成された円弧状の突片である。すなわち、一対の係止部123を貫通孔12の内周面に当接させることで、配線器具固定具120の壁材11への設置位置を定めることができる。つまり、係止部123は位置決め手段として機能する。
【0040】
本実施形態では、配線器具固定具120は、硬質の合成樹脂からなるが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、配線器具固定具120は、金属製や木製であってもよい。
【0041】
続いて、
図8,
図9を参照して、本実施形態の耐火装置100(又は耐火カバー110)によって構築された配線器具13の設置構造10について説明する。
図9は、設置構造10を示す断面図である。
図10は、該設置構造10の分解斜視図である。
【0042】
図9に示すように、本実施形態の設置構造10では、貫通孔12を介して配線器具13が壁表に臨むように壁材11に設置されている。すなわち、本実施形態の設置構造10は、貫通孔11が形成された壁表面及び壁裏面を有する壁材11と、壁裏に設置された耐火カバー110と、耐火カバー110の収容部113に収容され、貫通孔12を介して壁表に臨むように設置された配線器具固定具120と、該配線器具固定具120に固定された配線器具13と、を備えてなる。配線器具13は、コンセント、スイッチ、照明装置などの壁材11に設置される任意の器具から選択され得る。配線器具13は、配線器具固定具120にビス孔13cを介して固定される取付枠部13aと、該取付枠部13aに支持された本体部13bとを備えてなる。
【0043】
より詳細には、設置構造10において、耐火カバー110の開口部112が貫通孔12に連通するように壁裏空間に耐火カバー110が配置され、カバー本体111のフランジ111c前面の当接部114が壁裏面の貫通孔12周縁に全周に亘って密接している。すなわち、貫通孔12が耐火カバー110によって閉塞されている。換言すると、貫通孔12において耐火カバー110が封止状態で壁表空間と壁裏空間とを分離している。耐火カバー110の収容部113には、配線器具固定具120及び配線器具13の一部(本体部13b)が配置されている。配線器具固定具120が壁材11及び耐火カバー110に対して固定され、配線器具固定具120の係止部123が貫通孔12の内周面に当接するとともに開口121aが貫通孔12に連通している。また、配線器具固定具120の枠体121外周部分の挟持面121bが壁裏面に対向するように位置している。挟持面121bは、貫通孔12外周の全周に亘って、耐火カバー110のフランジ111c後面に圧接している。そして、配線器具13が配線器具固定具120に固定されている。配線器具13の取付枠部13aの裏面が壁表面の貫通孔12の周縁全周に当接している。取付枠部13aのビス孔13cと、配線器具固定具120の固定部122とが貫通孔12の深さ方向に整列した状態で、ビス孔13c及び固定部122にビス125が螺着されている。この状態で、配線器具固定具120の枠体121の挟持面121bと、配線器具13の取付枠部13a裏面(挟持面)とで壁材11とともに耐火カバー110のフランジ111cが挟圧されている。その結果、設置構造10において、貫通孔12が耐火材料で閉塞された状態で該貫通孔12を介して壁材11に配線器具13が設置されている。すなわち、設置構造10は、耐火カバー110が貫通孔12を閉塞することで、火災で発生した有毒ガス、煙、炎等が貫通孔12を介して壁裏空間に流出したり、あるいは、壁裏側から壁表空間に有毒ガス、煙、炎等が流入することを効果的に防止する。また、壁表側から配線器具13が熱溶融するような激しい火災が発生しても、耐火カバー110が数倍に熱膨張して貫通孔12を塞ぐことにより、有毒ガス、煙、炎等が貫通孔12を介して別の空間に流出することをより確実に防止することができる。
【0044】
次いで、
図10乃至
図12を参照して、該設置構造10を構築すべく、壁材13に形成された貫通孔12を介して配線器具13を壁材11に設置する方法を説明する。なお、説明の便宜上、図面において配線器具13の本体部13bの描写を省略する。
【0045】
まず、
図10に示すように、壁材11に穿設された貫通孔12を介して壁表から壁裏に耐火カバー110を配置する。詳細には、耐火カバー110を前後方向(側壁111bの立設方向)に押し潰して、耐火カバー110全体を貫通孔12を通過できる大きさ又は通過し易い大きさに圧縮変形させる。そして、弾性圧縮した状態の耐火カバー110を壁材11に対して傾けつつ、貫通孔12に通過させて壁裏空間に配置する。好ましくは、壁裏空間において、壁裏面の貫通孔12周縁にフランジ111cの当接部114を張着部(両面テープ)で張り付けることによって、耐火カバー110を壁裏の所定位置に保持することができる。
【0046】
次に、
図11に示すように、壁表から壁裏へと貫通孔12に配線器具固定具120を挿入して、配線器具固定具120をカバー本体111の収容部113に収容する。そして、配線器具固定具120の枠体121の挟持面121bを壁裏面の貫通孔12周縁及びフランジ111c裏面に対向させる。この際、貫通孔12を介して、耐火カバー110の開口部112及び配線器具固定具120の開口121aが壁表に臨むように耐火カバー110及び配線器具固定具120を配置する。
【0047】
そして、
図12に示すように、壁裏面の貫通孔12周縁にフランジ111c前面の当接部114を当接させた状態で、カバー本体111の被挟持部115を配線器具13と配線器具固定具120とによって壁材11とともに挟持するように、配線器具固定具120に配線器具13を固定する。具体的には、配線器具13のビス孔13cと配線器具固定具120の固定部122とを合致させて、一対のビス125を各ビス孔13c及び各固定部122に螺着する。ビス125を強く締結することにより、配線器具13及び配線器具固定具120に互いに引き寄せられて、配線器具13及び配線器具固定具120で被挟持部115cを挟圧することができる。また、この締結力により、当接部114を壁裏面に強い力でより確実に圧接(密着)させて、壁材11とフランジ111cとの間を隙間なく封止することができる。その結果、貫通孔12を耐火材料で閉塞しつつ、壁材11に対して配線器具13、耐火カバー110及び配線器具固定具120を設置することができる。すなわち、本実施形態の方法によれば、予め立設された壁材11に対して、配線器具13を設置すると同時に耐火構造を構築することが可能である。
【0048】
なお、
図13に示す設置構造10’のように、遮音性能を付加すべく、発泡ウレタンなどの発泡性材料からなる吸音性の充填部材117がカバー本体111内面に吹き付けられて収容部113の少なくとも一部の空間に追加で充填又は補填されてもよい。あるいは、充填部材117として、発泡ウレタンの代わりに、耐火性能を高めるべく、耐熱性パテや熱膨張性パテが収容部113の少なくとも一部の空間に充填されてもよい。熱膨張性パテは、粘土状の熱膨張性耐熱シール材であり、この熱膨張性ゴムは高熱(例えば300℃以上)に曝されると体積が加熱前の2倍以上に膨張する膨張材(膨張黒鉛)等を未加流ゴムに混合したものである。
【0049】
以下、本発明に係る一実施形態の耐火装置100及び耐火カバー110における作用効果について説明する。補填部材
【0050】
本実施形態の耐火カバー110のカバー本体111には、その開口部112外周に沿って延在し、カバー本体111前面で壁裏面に当接する当接部114と、配線器具13及び配線器具固定具120によって壁材11とともに挟持される被挟持部115がフランジ111cに設けられている。すなわち、壁材11に形成された貫通孔12を介して、耐火カバー110を壁裏に配置し、配線器具固定具120をカバー本体111の収容部113に収容し、壁裏面に当接部114を当接させるとともに被挟持部115を配線器具13と配線器具固定具120とによって壁材11とともに挟持することにより、貫通孔13を封止した状態で耐火カバー110を壁裏により簡単に設置することができる。特には、従来のように耐火カバー設置後に壁材を立設した場合と比べて、既に立設された壁材11に対して直接的に取付作業を行うことにより、より確実に耐火措置を行うことが可能である。したがって、本実施形態の耐火装置100及び耐火カバー110は、予め立設された壁材11に対して配線器具13を設置するとともに、耐火構造をより簡単且つ確実に構築することを可能とするものである。
【0051】
[変形例]
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の実施形態や変形例を取り得る。以下、本発明の複数の変形例を説明する。各実施形態において、下二桁が共通する構成要素は、特定のない限り、同一又は類似の特徴を有し、その説明を一部省略する。
【0052】
(1)本発明の耐火カバーは上記実施形態に限定されない。
図14の耐火カバー210のように、フランジ211cに硬質材料からなる枠部材218を装着してもよい。硬質材料は、金属材料や硬質合成樹脂等から選択され得る。また、耐火カバー210では、枠部材218の前面に当接部214が形成され、枠部材218が配線器具及び配線器具固定具に挟持される被挟持部215として機能する。すなわち、当接部214及び/又は被挟持部215を硬質材料の枠部材とすることにより、より強い力で配線器具及び配線器具固定具によって挟圧することが可能となる。なお、壁裏に凹凸が多い場合には、壁裏面への密接性を踏まえて軟質な当接部及び被挟持部が選択される方が好ましい。
【0053】
(2)本発明の耐火カバーの形状寸法は、上記実施形態に限定されない。耐火カバーの開口部やカバー本体の正面形状は、矩形状でなくてもよく、円形や楕円形や他の多角形状などの任意の形状から選択されてもよい。また、側壁の蛇腹構造は省略されてもよい。
【0054】
(3)上記実施形態では、耐火カバーのフランジに当接部及び被挟持部が一体的に形成されているが、当接部及び被挟持部が別々に形成されてもよい。例えば、
図15の耐火カバー310のように、フランジの代わりに開口部312の内側に延在する突出片を被挟持部315とし、開口部312の外側に延出する環状のフランジを当接部314としてもよい。被挟持部の挟圧により、当接部314を壁裏面により確実に密接させるべく、当接部314を前面に傾倒させてもよい。
【0055】
(4)上記実施形態の配線器具及び配線器具固定具は、例示にすぎず、種々の形状及び用途のものを採用可能である。例えば、配線器具固定具は、貫通孔の全周で被挟持部に圧接しないC字形状の枠体であってもよい。あるいは、配線器具固定具は、配線ボックスの形態であってもよい。この場合、配線ボックスが耐火カバーの収容部に収容された状態で、配線器具が配線ボックスに固定される。固定の際、配線ボックスの固定部が貫通孔を介して壁表に臨み、配線器具及び配線ボックスの開口によって耐火カバーの被挟持部が壁材とともに挟持される。
【0056】
(5)本実施形態の耐火カバーは、熱膨張性ゴムから形成されたが、熱膨張性のない耐火材料によって形成されてもよい。例えば、耐火カバーは、難燃性ゴム、難燃性樹脂、金属などからなってもよい。さらに、耐火カバーは、遮音性を有する耐火材料で形成されてもよい。例えば、遮音性材料として、加硫成形法によって製造される高比重且つ高硬度のゴムが挙げられる。なお、高硬度のゴムとしては、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)が使用され、比重が2以上且つ硬度が85~95のゴムが使用される。また、ゴムの硬度は、加硫ゴムに採用する測定方法であるデュロメータを用いた測定方法(JIS K6253)で計測される。そして、耐火カバーは、高硬さ用のタイプDのデュロメータを用いて硬度が計測されるゴムによって製造され得る。耐火カバーの硬度は、壁表側で発生した音が耐火カバーに伝播したとき、カバー本体が音によって振動することが抑制できるように、硬度85以上に設定されるのが好ましい。また、耐火カバーの硬度は、カバー本体(特に、フランジ)の形状を維持するために、硬度85以上に設定されるのが好ましい。さらに、耐火カバーの硬度は、耐火カバー110を容易に変形可能とすべく、硬度95以下に設定されるのが好ましい。
【0057】
本発明は上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【符号の説明】
【0058】
10 設置構造
11 壁材
12 貫通孔
13 配線器具
13a 取付枠部
13b 本体部
13c ビス孔
100 耐火装置
110 耐火カバー
111 カバー本体
111a 底壁
111b 側壁
111c フランジ
112 開口部
113 収容部
114 当接部
115 被挟持部
117 充填部材
120 配線器具固定具
121 枠体
121a 開口
121b 挟持面
122 固定部
123 係止部
125 ビス