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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】摩擦ダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20220831BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20220831BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
F16F15/02 E
F16F7/08
F16F15/02 L
E04H9/02 311
E04H9/02 321B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019025835
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020133722
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】安達 大悟
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-190611(JP,A)
【文献】特開2001-090775(JP,A)
【文献】特開平03-135096(JP,A)
【文献】特開平09-291970(JP,A)
【文献】特開2009-210048(JP,A)
【文献】特開2005-188277(JP,A)
【文献】特開平05-235558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 7/08
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な2つの支持材と、
前記2つの支持材の挟持により圧縮力が加わる方向で隣接配置され、前記2つの支持材からの前記圧縮力によって互いに押圧される少なくとも2つの摩擦材と、を含んでなる摩擦ダンパーであって、
前記圧縮力が加わる方向で隣接する前記摩擦材同士が互いに当接する内側接触部と、
前記圧縮力が加わる方向で最外に位置する2つの前記摩擦材のうちの少なくとも一方の前記摩擦材と前記支持材とが互いに当接する外側接触部と、
前記内側接触部を形成する一方の前記摩擦材に形成され、前記圧縮力が加わる方向との直交方向で前記摩擦材同士が相対移動した際に他方の前記摩擦材と当接することで摩擦抵抗を上昇させる抵抗上昇部と、を含み、
前記相対移動の際に前記内側接触部を形成する前記他方の摩擦材が前記抵抗上昇部に当接し、当該相対移動に伴う荷重が前記外側接触部の静摩擦力を超えると、前記外側接触部を形成する前記一方の摩擦材が前記支持材に対して相対移動することを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項2】
前記外側接触部の静摩擦力は、前記内側接触部で前記他方の摩擦材が前記抵抗上昇部に当接した際の初期の摩擦力よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の摩擦ダンパー。
【請求項3】
前記外側接触部の摩擦係数は、前記抵抗上昇部の摩擦係数よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の摩擦ダンパー。
【請求項4】
前記抵抗上昇部は、前記内側接触部を形成する前記一方の摩擦材における前記摩擦材同士の相対移動方向で互いに離間した2つの部位に設けられ、前記相対移動方向で互いに離間するに従って前記圧縮力が加わる方向で前記他方の摩擦材側へ近づくように高さが変化する形状であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の摩擦ダンパー。
【請求項5】
前記外側接触部は、2つの前記摩擦材と各前記支持材との間にそれぞれ設けられて、各前記外側接触部の摩擦力は互いに異なっていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の摩擦ダンパー。
【請求項6】
前記内側接触部において、前記他方の摩擦材には、前記一方の摩擦材側へ突出する凸部が設けられ、前記一方の摩擦材には、前記凸部が接触する平面が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の摩擦ダンパー。
【請求項7】
前記2つの支持材は互いにボルト止めされて各前記摩擦材に圧縮力を付与することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の摩擦ダンパー。
【請求項8】
前記ボルトは、各前記摩擦材を貫通していることを特徴とする請求項7に記載の摩擦ダンパー。
【請求項9】
前記2つの支持材の間に、前記少なくとも2つの摩擦材、前記内側接触部、前記外側接触部、前記抵抗上昇部を含んでなる組が、前記摩擦材同士の相対移動方向に対して複数直列又は並列に配置されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の摩擦ダンパー。
【請求項10】
前記2つの支持材、前記少なくとも2つの摩擦材、前記内側接触部、前記外側接触部、前記抵抗上昇部を含んでなる組が、前記摩擦材同士の相対移動方向に対して複数直列又は並列に接続されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の摩擦ダンパー。
【請求項11】
少なくとも1つの制震材が、前記摩擦材同士の相対移動方向に対して直列又は並列に接続されていることを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の摩擦ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の制振に用いられる摩擦ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
建物への振動を抑制する制震ダンパーとして、部材同士の摩擦を利用した摩擦ダンパーが知られている。例えば特許文献1には、一方の部材の面を湾曲凹面に形成し、他方の部材の面を湾曲凸面に形成すると共に、湾曲凹面の曲率が湾曲凸面の曲率以上となる関係とした摩擦ダンパーが開示されている。この摩擦ダンパーの場合、湾曲凸面と湾曲凹面との間の静止摩擦力以上の力が作用すると、湾曲凸面と湾曲凹面とが互いに滑り始め、湾曲凸面と湾曲凹面との距離が近づくことで摩擦力が徐々に大きくなり、エネルギー吸収量が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6317865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような摩擦ダンパーでは、滑りによって摩擦力が徐々に大きくなることから移動ストロークを短くでき、平面同士の摩擦ダンパーと比較して小型化を図ることができる。しかし、湾曲凹面と湾曲凸面との間の摩擦抵抗以上の力が加わり、部材同士が最大限に変位した場合はそれ以上のエネルギー吸収ができなくなってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、変位が大きい場合でも大きな摩擦力を生じさせることができ、コンパクトな形状で低変位から高変位まで対応可能となる摩擦ダンパーを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、互いに平行な2つの支持材と、
2つの支持材の挟持により圧縮力が加わる方向で隣接配置され、2つの支持材からの圧縮力によって互いに押圧される少なくとも2つの摩擦材と、を含んでなる摩擦ダンパーであって、
圧縮力が加わる方向で隣接する摩擦材同士が互いに当接する内側接触部と、
圧縮力が加わる方向で最外に位置する2つの摩擦材のうちの少なくとも一方の摩擦材と支持材とが互いに当接する外側接触部と、
内側接触部を形成する一方の摩擦材に形成され、圧縮力が加わる方向との直交方向で摩擦材同士が相対移動した際に他方の摩擦材と当接することで摩擦抵抗を上昇させる抵抗上昇部と、を含み、
相対移動の際に内側接触部を形成する他方の摩擦材が抵抗上昇部に当接し、当該相対移動に伴う荷重が外側接触部の静摩擦力を超えると、外側接触部を形成する一方の摩擦材が支持材に対して相対移動することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、外側接触部の静摩擦力は、内側接触部で他方の摩擦材が抵抗上昇部に当接した際の初期の摩擦力よりも大きいことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1の構成において、外側接触部の摩擦係数は、抵抗上昇部の摩擦係数よりも大きいことを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、抵抗上昇部は、内側接触部を形成する一方の摩擦材における摩擦材同士の相対移動方向で互いに離間した2つの部位に設けられ、相対移動方向で互いに離間するに従って圧縮力が加わる方向で他方の摩擦材側へ近づくように高さが変化する形状であることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかの構成において、外側接触部は、2つの摩擦材と各支持材との間にそれぞれ設けられて、各外側接触部の摩擦力は互いに異なっていることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の何れかの構成において、内側接触部において、他方の摩擦材には、一方の摩擦材側へ突出する凸部が設けられ、一方の摩擦材には、凸部が接触する平面が設けられていることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6の何れかの構成において、2つの支持材は互いにボルト止めされて各摩擦材に圧縮力を付与することを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、請求項7の構成において、ボルトは、各摩擦材を貫通していることを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8の何れかの構成において、2つの支持材の間に、少なくとも2つの摩擦材、内側接触部、外側接触部、抵抗上昇部を含んでなる組が、摩擦材同士の相対移動方向に対して複数直列又は並列に配置されていることを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至8の何れかの構成において、2つの支持材、少なくとも2つの摩擦材、内側接触部、外側接触部、抵抗上昇部を含んでなる組が、摩擦材同士の相対移動方向に対して複数直列又は並列に接続されていることを特徴とする。
請求項11に記載の発明は、請求項1乃至10の何れかの構成において、少なくとも1つの制震材が、摩擦材同士の相対移動方向に対して直列又は並列に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、低変位時は内側接触部で低荷重滑りが発生し、中変位で内側接触部を形成する他方の摩擦材が一方の摩擦材の抵抗上昇部に当接することで摩擦抵抗が増加し、さらなる変位による大荷重が外側接触部の静摩擦力を超えると外側接触部で大荷重滑りが発生する多段階の摩擦構造となる。よって、変位が大きい場合でも大きな摩擦力を生じさせることができ、コンパクトな形状で低変位から高変位まで対応可能となる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、外側接触部の静摩擦力を、内側接触部で他方の摩擦材が抵抗上昇部に当接した際の初期の摩擦力よりも大きくしたことで、低荷重滑りの際に外側接触部で滑りが生じるおそれがなく、多段階の滑りが確実に実現可能となる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、外側接触部の摩擦係数を、抵抗上昇部の摩擦係数よりも大きくしたことで、抵抗上昇部を含む摩擦材の形状が簡略化し、圧縮力が加わる方向にコンパクトとなる。
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の何れかの効果に加えて、抵抗上昇部を、内側接触部を形成する一方の摩擦材における摩擦材同士の相対移動方向で互いに離間した2つの部位に設けられ、相対移動方向で互いに離間するに従って圧縮力が加わる方向で他方の摩擦材側へ近づくように高さが変化する形状としたことで、摩擦抵抗の増加と他方の摩擦材の滑りのロックとが容易に設定可能となる。
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の何れかの効果に加えて、外側接触部を、2つの摩擦材と各支持材との間にそれぞれ設けて、各外側接触部の摩擦力を互いに異ならせているので、各摩擦材の固定及び滑りの設定が容易に行える。
請求項6に記載の発明によれば、請求項1乃至5の何れかの効果に加えて、内側接触部において、他方の摩擦材には、一方の摩擦材側へ突出する凸部が設けられ、一方の摩擦材には、凸部が接触する平面が設けられているので、低荷重滑りが容易に設定可能となる。
請求項7に記載の発明によれば、請求項1乃至6の何れかの効果に加えて、2つの支持材を互いにボルト止めして各摩擦材に圧縮力を付与するので、各摩擦材への適正な圧縮力が設定可能となる。
請求項8に記載の発明によれば、請求項7の効果に加えて、ボルトは、各摩擦材を貫通しているので、圧縮力が各摩擦材へ確実に伝わる。
請求項9に記載の発明によれば、請求項1乃至8の何れかの効果に加えて、2つの支持材の間に、少なくとも2つの摩擦材、内側接触部、外側接触部、抵抗上昇部を含んでなる組が、摩擦材同士の相対移動方向に対して複数直列又は並列に配置されていることで、各組ごとに大荷重滑りが生じる設定を変えることができ、荷重設計の自由度が高まる。
請求項10に記載の発明によれば、請求項1乃至8の何れかの効果に加えて、2つの支持材、少なくとも2つの摩擦材、内側接触部、外側接触部、抵抗上昇部を含んでなる組が、摩擦材同士の相対移動方向に対して複数直列又は並列に接続されていることで、建物のフレーム内に適した配置が可能となる。
請求項11に記載の発明によれば、請求項1乃至10の何れかの効果に加えて、少なくとも1つの制震材が、摩擦材同士の相対移動方向に対して直列又は並列に接続されていることで、摩擦ダンパーで対応できない領域を制震材でカバーすることができ、制震性能の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】摩擦ダンパーの説明図で、(A)は変位前、(B)は変位して低荷重滑りがロックされた状態をそれぞれ示す。
図2】制震ダンパーの説明図で、(A)は側面、(B)は正面をそれぞれ示す。
図3】制震ダンパーの変更例を示す正面図である。
図4】(A)~(E)は制震ダンパーをフレームに組み込んだ例を示す説明図である。
図5】(A)~(C)は制震ダンパーをフレームに組み込んだ他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1(A)は、摩擦ダンパーの一例を示す説明図である。この摩擦ダンパー1は、平板状の第1支持材2と第2支持材3とを所定間隔をおいて平行に配置し、第1支持材2側に第1摩擦材4を、第2支持材3側に第2摩擦材5をそれぞれ対向状に配置してなる。
なお、図1では、上下の矢印方向を、第1、第2支持材2,3の挟持によって第1、第2摩擦材4,5に圧縮力が加わる方向とし、便宜上紙面上側を上方、紙面下側を下方として説明する。また、矢印方向と直交する左右の矢印方向を、外力によって第1、第2支持材2,3が相対移動する方向(可動方向)として、便宜上紙面右側を前方、紙面左側を後方として説明する。図2,3においても同様である。
この第1摩擦材4は、可動方向に沿って長く延びる平板状で、下面には、半円状の凸部6が下向きに突設されている。
また、第2摩擦材5は、可動方向と直交する図面交差方向では第1摩擦材4と同じ幅を有し、可動方向では第1摩擦材4よりも長く延びる平板状で、上面における中央部分には、可動方向と平行な平面7が形成されている。平面7と隣接する可動方向の前後両端には、一対の抵抗上昇部8,8が突設されている。この抵抗上昇部8,8の上面には、可動方向で互いに離間するに従って上下方向で第1摩擦材4側へ近づくように高さが変化する傾斜面9,9が、平面7を中心とする前後対称に形成されて、抵抗上昇部8,8はテーパ形状となっている。
【0010】
第1摩擦材4と第2摩擦材5とは、それぞれ第1支持材2と第2支持材3とに接着等で直接固定されておらず、第1支持材2と第2支持材3とが図示しないボルトによって互いに緊締されることで、第1支持材2と第2支持材3との間に圧縮された状態で固定されている。この状態で、第1摩擦材4の凸部6が第2摩擦材5の平面7に当接し、凸部6と平面7との間に、凸部6が平面7の前後に亘って可動方向へ相対移動可能な内側接触部10が形成される。また、第2支持材3の上面と第2摩擦材5の下面との間には、第2摩擦材5が第2支持材3の上面に沿って可動方向へ相対移動可能な第1外側接触部11が形成される。さらに、第1支持材2の下面と第1摩擦材4の上面との間にも、第1摩擦材4が第1支持材2の下面に沿って可動方向へ相対移動可能な第2外側接触部12が形成される。各接触部間の摩擦抵抗(摩擦力)の関係は、支持材や摩擦材に用いられる鋼材の表面処理や接触面積の調整によって以下のように設定されている。
内側接触部10<第1外側接触部11<第2外側接触部12
【0011】
以上の如く構成された摩擦ダンパー1は、柱と横架材とからなるフレーム内に、例えばブレース状に組み込まれる。そして、地震等によってフレームに水平方向の変位が生じ、ブレースへ軸方向に引張力と圧縮力とが交互に加わると、摩擦ダンパー1に、可動方向へ向きが交互に変わる外力が加わる。すると、第1支持材2と第2支持材3とが可動方向で相対変位しようとする。この変位力が内側接触部10での摩擦抵抗を超える低荷重であると、第1摩擦材4の凸部6が第2摩擦材5の平面7を相対的に滑ることでエネルギーを吸収する。このとき、凸部6が第2摩擦材5の抵抗上昇部8,8の傾斜面9,9に当接すると摩擦抵抗が増加するが、変位力が傾斜面9,9に凸部6が当接した際の初期の摩擦抵抗を超えない間は、凸部6が抵抗上昇部8,8間を相対的に往復動する。第1外側接触部11の静摩擦力は、傾斜面9,9に凸部6が当接した際の初期の摩擦抵抗よりも大きいため、第1外側接触部11での滑りは生じない。
そして、変位力が、凸部6と傾斜面9との当接により増加した際の初期の摩擦抵抗及び第1外側接触部11の静摩擦力を超える高荷重となると、図1(B)に示すように、凸部6が傾斜面9に当接して低荷重滑りがロックされ、そのまま第1外側接触部11で第2摩擦材5と第2支持材3とが相対的に滑ることでエネルギーを吸収する。このとき第1支持材2は、高荷重よりも大きい第2外側接触部12の摩擦抵抗によって滑りは生じない。こうして二段階の滑りによって変位力に対応可能となる。
【0012】
このように、上記形態の摩擦ダンパー1によれば、圧縮力が加わる方向で隣接する第1、第2摩擦材4,5同士が互いに当接する内側接触部10と、圧縮力が加わる方向で最外に位置する第1、第2摩擦材4,5と第1、第2支持材2,3とが互いに当接する第1、第2外側接触部11,12と、内側接触部10を形成する第2摩擦材5(一方の摩擦材)に形成され、圧縮力が加わる方向との直交方向で第1、第2摩擦材4,5同士が相対移動した際に第1摩擦材4(他方の摩擦材)と当接することで摩擦抵抗を上昇させる抵抗上昇部8,8と、を含み、相対移動の際に内側接触部10を形成する第1摩擦材4が抵抗上昇部8に当接し、当該相対移動に伴う荷重が第1外側接触部11の静摩擦力を超えると、第1外側接触部11を形成する第2摩擦材5が第2支持材3に対して相対移動する。
これにより、低変位時は内側接触部10で低荷重滑りが発生し、中変位で第1摩擦材4が第2摩擦材5の抵抗上昇部8に当接することで摩擦抵抗が増加し、さらなる変位による大荷重が第1外側接触部11の静摩擦力を超えると第1外側接触部11で大荷重滑りが発生する二段階の摩擦構造となる。よって、変位が大きい場合でも大きな摩擦力を生じさせることができ、コンパクトな形状で低変位から高変位まで対応可能となる。
【0013】
特にここでは、第1外側接触部11の静摩擦力を、内側接触部10で第1摩擦材4が抵抗上昇部8に当接した際の初期の摩擦力よりも大きくしているので、低荷重滑りの際に第1外側接触部11で滑りが生じるおそれがなく、二段階の滑りが確実に実現可能となる。
また、抵抗上昇部8を、内側接触部10を形成する第2摩擦材5における可動方向で互いに離間した2つの部位に設けられ、可動方向で互いに離間するに従って圧縮力が加わる方向で第1摩擦材4側へ近づくように傾斜するテーパ形状としているので、摩擦抵抗の増加と第1摩擦材4の滑りのロックとが容易に設定可能となる。
【0014】
そして、第1、第2摩擦材4,5と第1、第2支持材2,3との間に2つの第1、第2外側接触部11,12をそれぞれ設けて、各外側接触部11,12の摩擦力を互いに異ならせているので、第1、第2摩擦材4,5の固定及び滑りの設定が容易に行える。
また、内側接触部10において、第1摩擦材4には、第2摩擦材5側へ突出する凸部6を設け、第2摩擦材5には、凸部6が接触する平面7を設けているので、低荷重滑りが容易に設定可能となる。
【0015】
なお、摩擦材の形状は上記形態に限らず、例えば凸部を半円でなく台形状や円弧状としたり、抵抗上昇部の傾斜面の傾斜角度に変化点を持たせたり、抵抗上昇部の上面を凹曲面や凸曲面の円弧状としたり、曲線のRが変化するものとしたりしてもよい。また、抵抗上昇部を四角形状の突起として凸部の当接でロックするようにしたり、突起に段差を設けたりしてもよい。
さらに、抵抗上昇部は、可動方向の前後で対称に形成するものに限らず、同じ傾斜面や凹曲面等であっても可動方向での長さや圧縮力が加わる方向での高さを互いに変えたりしてもよいし、前後で異なる形状(例えば前側では傾斜面、後側では凹曲面等)を採用したりしてもよい。
加えて、抵抗上昇部の間を平面とせずに抵抗上昇部を含む全体を凹曲面として徐々に抵抗力を上げるようにしたり等、適宜変更可能である。逆に凸部とこれらの抵抗上昇部とは上記形態と上下逆の摩擦材側に設けてもよい。
【0016】
また、このような抵抗上昇部の形状によって摩擦抵抗の増加を図る他、圧縮力が加わる方向で高さが変わらない平面であっても、例えばエンボス加工等の表面処理やコーティング等によって両端に中間部と摩擦係数が異なる抵抗上昇部を形成すれば、上記形態と同じ作用を得ることができる。これにより第1外側接触部の摩擦係数を、抵抗上昇部の摩擦係数よりも大きくすることで二段階の滑りを設定すれば、抵抗上昇部を含む摩擦材の形状が簡略化し、圧縮力が加わる方向にコンパクトとなる。
さらに、摩擦材は上記形態のように2つの場合に限らず、3つ以上の摩擦材を圧縮力が加わる方向に重ねて各摩擦材間に内側接触部を形成し、各内側接触部を形成する摩擦材の一方に抵抗上昇部を形成することもできる。この場合、各内側接触部ごとに摩擦抵抗を変えて、抵抗上昇部に当接することで順番に内側接触部で低荷重滑りが生じるように設定すれば、多段階での摩擦構造が得られる。
その他、上記形態では第1摩擦材を圧縮力により固定しているが、第1支持材に溶接等によって物理的に固定してもよい。
【0017】
そして、上記形態では摩擦ダンパーのみを用いた例で説明しているが、粘弾性ダンパー等の他の制震材との併用も可能である。図2はその一例である粘弾性ダンパーを併用した制震ダンパー20を示すもので、ここでは上方からの平面視が矩形状の第1支持材2と第2支持材3とを図2(B)での左右方向にずらして中央部分を重ね合わせて、重合部分の中央に摩擦ダンパー1Aを配置している。但し、この摩擦ダンパー1Aは、第1摩擦材4と第2摩擦材5、内側接触部10、第1、第2外側接触部11,12、抵抗上昇部8を含んでなる組が、左右に所定間隔をおいて、可動方向となる前後方向に対して複数並列に配置された構成となっている。各組の間と左右との3箇所で第1支持材2には、前後方向の長穴21,21・・が形成されて、各長穴21に上方から貫通させたボルト22を第2支持材3に貫通させてその裏側でナットで締結することで、厚み方向での圧縮力を付与している。このように第1、第2支持材2,3を互いにボルト止めして第1、第2摩擦材4,5に圧縮力を付与することで、第1、第2摩擦材4,5への適正な圧縮力が設定可能となる。特に、ボルト22は各摩擦材4,5を貫通しないので、各摩擦材4,5の外部で間接的に圧縮力をかけることができ、各摩擦材4,5のコンパクト化が可能となる。
摩擦ダンパー1Aを挟んで前後両側には、平面視が矩形状の粘弾性体23,23が、第1支持材2と第2支持材3との互いの対向面に接着させた状態で配設されて、第1、第2支持材2,3の相対変位によって粘弾性体23,23が剪断変形する粘弾性ダンパー24,24を構成している。
【0018】
このハイブリッド型の制震ダンパー20においては、摩擦ダンパー1Aにおいて内側接触部10や第1外側接触部11で滑りが生じる際は各粘弾性ダンパー24の粘弾性体23も滑りに伴う変位に追従して剪断変形するため、エネルギー吸収が大きくなる。また、摩擦ダンパー1Aの初期剛性が低下しても、粘弾性ダンパー24によって初期のエネルギー吸収が行える。
そして、摩擦ダンパー1Aの第2外側接触部12で滑りが生じるような大きな荷重に対しても、各粘弾性ダンパー24の粘弾性体23が剪断変形することでエネルギー吸収が可能となる。すなわち、摩擦ダンパー1Aで対応できない領域を粘弾性ダンパー24でカバーすることができる。
また、ここでは第1、第2摩擦材4,5、内側接触部10、第1、第2外側接触部11,12、抵抗上昇部8を含んでなる組を、摩擦材4,5同士の相対移動方向に対して複数並列に配置して摩擦ダンパー1Aを構成しているので、各組ごとに大荷重滑りが生じる設定を変えることができ、荷重設計の自由度が高まる。なお、各組は3つ以上配置してもよいし、直列に配置してもよい。
【0019】
図3は、制震ダンパー20の変更例を示すもので、ここでは長穴21及びボルト22を摩擦ダンパー1Aの第1、第2摩擦材4,5の位置にそれぞれ設けて、ボルト22を各摩擦材4,5に貫通させている点が図2と異なる。よって、摩擦材4,5に設けるボルト22の貫通孔25は、前後に延びる長穴となっている。作用は図2の形態と同じであるが、摩擦材4,5の位置でボルト22が貫通しているので、摩擦材4,5が大きくなるものの、圧縮力が摩擦材4,5へ確実に伝わることになる。
【0020】
そして、このような制震ダンパー20は、図4,5に例示する形態で、左右の柱31と上下の横架材32,32とからなるフレーム30内に組み込まれる。
図4(A)は、フレーム30内に架設されるブレース33に設けた例で、摩擦ダンパー1Aの可動方向がブレース33と平行となる向きで、上下に分割した上側の第1ブレース34に第1支持材2が連結され、下側の第2ブレース35に第2支持材3が連結される。ここでは粘弾性ダンパー24を1つとしている。
図4(B)はフレーム30内の中央で水平に架設された中間材36の上下にそれぞれ第1ブレース34と第2ブレース35とが架設されてなるKブレースに設けた例で、第1ブレース34と第2ブレース35とをそれぞれ上下に分割して制震ダンパー20が組み込まれている。
図4(C)は、Kブレースと一方の柱31との連結部分に制震ダンパー20を設けた例で、第1支持材2が第1ブレース34と第2ブレース35とに連結され、第2支持材3が柱31に連結される。摩擦ダンパー1Aの可動方向は上下方向となる。
図4(D)は、同じくKブレースと一方の柱31との連結部分に制震ダンパー20を設けた例であるが、ここでは第1支持材2と第2支持材3とを、互いの対向面をフレーム面と直交させて上下に延びるバー形状として、互いの対向面間に摩擦ダンパー1Aと粘弾性ダンパー24とを設けている。この場合も摩擦ダンパー1Aの可動方向は上下方向となるが、Kブレースの圧縮・引張に伴って第1支持材2が変形しないような変形防止構造(補強板等)を設けるのが望ましい。
図4(E)は、制震ダンパー20をフレーム30内の上側に配置して、上側の横架材32に第1支持材2を連結し、第2支持材3を、フレーム30下側の左右の仕口部に一対の連結材37,37を介して連結したやぐら型である。摩擦ダンパー1Aの可動方向は水平方向となる。
なお、図4(A)~(E)の形態では、摩擦ダンパー1Aを粘弾性ダンパー24から分離させて、ブレース33と仕口部との連結際(図4(E)では連結材37と仕口部との連結際)にそれぞれ摩擦ダンパーを設けることもできる。このように複数の摩擦ダンパーを異なる支持材にそれぞれ別々に設けて直接又は並列に接続すれば、フレーム内に適した配置が可能となる。
【0021】
図5(A)は、制震ダンパー20をフレーム30内の中央に配置して、第1支持材2を正面視矩形状の制震パネル38を介して上側の横架材32に、第2支持材3を同じく正面視矩形状の制震パネル38を介して下側の横架材32にそれぞれ連結したものである。摩擦ダンパー1Aの可動方向は水平方向となる。
図5(B)は、制震ダンパー20をフレーム30内の中央で、図4(D)と同様に第1支持材2と第2支持材3とを、互いの対向面をフレーム面と直交させて上下に延びるバー形状として、互いの対向面間に、それぞれ2つの摩擦ダンパー1A,1Aと粘弾性ダンパー24,24とを交互に配置し、第1支持材2を制震パネル38を介して左側の柱31に、第2支持材3を制震パネル38を介して右側の柱31にそれぞれ連結したものである。
図5(C)は、支持材を省略して、フレーム30内の中央に配置した制震パネル38と左右の柱31,31との間に、それぞれ2つの摩擦ダンパー1Aと粘弾性ダンパー24,24とを交互に配置したものである。
【0022】
なお、図4(A)~(C)(E)及び図5(A)の制震ダンパー20では、平板状の支持材を3枚以上として、各支持材の間に摩擦ダンパーと粘弾性ダンパーとを設けた積層構造とし、支持材を交互にブレースや制震パネルに連結するようにしてもよい。また、各例において摩擦ダンパーは、第1、第2摩擦材等の組を2つ設けた図2,3の形態でなく、当該組を3つ以上並列又は直列に設けた形態としたり、当該組を1つとした図1の形態としたりしてもよい。
また、上記形態の制震ダンパーでは、制震材として粘弾性ダンパーを採用しているが、摩擦ダンパーと組み合わせる制震材としてはこれに限らず、鋼材ダンパー、オイルダンパー、弾性ダンパー、バネ等も採用可能である。このように摩擦ダンパーに他の制震材を直列又は並列に接続すれば、摩擦ダンパーで対応できない領域を制震材でカバーすることができ、制震性能の向上が期待できる。
【符号の説明】
【0023】
1,1A・・摩擦ダンパー、2・・第1支持材、3・・第2支持材、4・・第1摩擦材、5・・第2摩擦材、6・・凸部、7・・平面、8・・抵抗上昇部、9・・傾斜面、10・・内側接触部、11・・第1外側接触部、12・・第2外側接触部、20・・制震ダンパー、22・・ボルト、23・・粘弾性体、24・・粘弾性ダンパー、30・・フレーム、31・・柱、32・・横架材、33・・ブレース。
図1
図2
図3
図4
図5