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特許7132878嵌合継手施工方法、この方法に使用可能なバイブレータおよび防護パイプ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】嵌合継手施工方法、この方法に使用可能なバイブレータおよび防護パイプ
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/20 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
E02D5/20 103
E02D5/20 102
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019057856
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020159010
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】山田 諭
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 匠光
(72)【発明者】
【氏名】折橋 恒春
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-101711(JP,A)
【文献】特開昭62-178624(JP,A)
【文献】特開2003-003795(JP,A)
【文献】特開2001-288738(JP,A)
【文献】特開2017-095972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続壁構造の構築のために第1の壁部材と第2の壁部材とを流動性のある固化材を充填し固化することで連結する嵌合継手を施工する方法であって、
前記第1の壁部材は前記固化材が充填される内部空洞を有する雌継手を端部に備え、
前記第2の壁部材は前記雌継手に挿入される雄継手を端部に備え、
前記第1の壁部材が構築位置に建て込まれ前記雌継手内に防護パイプが挿入されており、前記雌継手の内周面と前記防護パイプの外周面との間に間隙を有している状態で前記第2の壁部材の建て込みのために地盤を掘削する工程と、
前記掘削された原位置土砂と固化液とを攪拌混合して流動性のある固化材とする工程と、
前記固化材を検知可能な検知センサを有するバイブレータを前記防護パイプ内へ挿入することで前記雌継手内に配置する工程と、
前記雌継手内の固化材に前記バイブレータにより振動を加える工程と、
前記検知センサにより前記雌継手内における固化材の有無を検知する工程と、
前記バイブレータを前記雌継手内において引き上げる工程と、
前記バイブレータおよび前記防護パイプの引き抜き完了後に前記第2の壁部材を建て込む際に前記第1の壁部材の前記雌継手に前記第2の壁部材の雄継手を挿入し前記嵌合継手を形成する工程と、を含み、
前記検知センサによる前記固化材の検知結果に基づいて前記バイブレータの引き上げを制御する嵌合継手施工方法。
【請求項2】
前記検知センサにより前記固化材を検知した後に、前記バイブレータを所定高さだけ引き上げるとともに前記防護パイプを所定高さだけ引き上げる請求項1に記載の嵌合継手施工方法。
【請求項3】
前記防護パイプは上部からの力により開放可能な蓋部を下端に有し、
前記バイブレータは、前記防護パイプに挿入されて前記蓋部に当接することで前記蓋部が開放されてから、前記防護パイプの下端を通して前記雌継手内に配置される請求項1または2に記載の嵌合継手施工方法。
【請求項4】
前記防護パイプの前記蓋部は、付勢部材に付勢されて前記防護パイプの下端の開口を閉塞しており、前記バイブレータが前記防護パイプに挿入されたとき前記蓋部に当接して前記蓋部が前記付勢部材による付勢力に抗して開放される請求項3に記載の嵌合継手施工方法。
【請求項5】
前記バイブレータは、その外周部から前記雌継手の内周面に向けて突き出て前記内周面を清掃するための清掃ブラシを有し、前記雌継手内で引き上げられる間に前記清掃ブラシにより前記内周面に付着した付着物を除去する請求項1乃至4のいずれかに記載の嵌合継手施工方法。
【請求項6】
前記バイブレータは、その外周部から前記雌継手の内周面に向けて突き出て前記内周面を清掃するための清掃ブラシを有し、
前記バイブレータが前記防護パイプに挿入された状態で前記清掃ブラシが前記防護パイプ内に曲げられて収まっており、
前記防護パイプが引き上げられることで前記清掃ブラシが前記雌継手内で拡がり、
前記バイブレータが前記雌継手内で引き上げられる間に前記清掃ブラシにより前記内周面に付着した付着物を除去する請求項1乃至4のいずれかに記載の嵌合継手施工方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の嵌合継手施工方法において用いられるバイブレータ。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の嵌合継手施工方法において用いられる防護パイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続壁構造の構築のための嵌合継手において充填性を向上可能な嵌合継手施工方法、この方法に使用可能なバイブレータおよび防護パイプに関する。
【背景技術】
【0002】
地中に鋼製の壁部材を連続して建て込む工法が鋼製地中連続壁工法として公知である。この工法では、地中を掘削し、この掘削で生じた原位置土砂と固化液とを混合攪拌して得たソイルセメント中に壁部材を建て込むが、壁部材と隣接の壁部材との連結のために壁部材間に嵌合継手が設けられる。隣接の壁部材の建て込みまで一定時間が経過し、壁部材の継手に付着したソイルセメントが固化すると、嵌合継手の効果が不充分になってしまう。このため、図7(a)のように壁部材の建て込みの際に雌継手JI内に防護パイプBPを挿入しておき、一定時間経過後の次工程において防護パイプBPを引き抜いてから隣接の壁部材を建て込むのが一般的である。
【0003】
特許文献1は、地中連続壁の継手部に付着したマッドケーキを取り除くための継手清掃機を開示し、溝内に満たされた安定液内において、ブラシを本体の側面に密植した清掃機を昇降させることでブラシの先端が継手筋や仕切鋼板の表面に摺接し、鉄筋や鋼板の表面に付着したマッドケーキを掻き落す(図7)。特許文献2は、ブラシ付きバイブレータを清掃機本体の側面部に周設した継手清掃機を開示し、ブラシ付きバイブレータの接している鉄筋や仕切鋼板に微小振動を伝えることで表面に付着しているマッドケーキを剥離させる(図5図6)。
【0004】
特許文献3は、地盤中に掘削された矩形状の掘削孔内に、継手部を介して相互に連結した鋼材パネルを建込んだ後に、前記掘削孔内にコンクリートなどの硬化性材料を充填して、横方向に連結された先,後行パネルを順次構築する地中連続壁工法における鋼材の洗浄方法において、前記先行パネルの横方向に前記後行パネル用の掘削孔を掘削した状態で、この掘削孔の端部に露出する前記鋼材パネルに、前記掘削孔内に充満されている安定液を上下方向に移動させながら噴射するとともに、前記継手部内に洗浄ブラシを挿入して上下移動させる地中連続壁用鋼材の洗浄方法を開示する(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2613541号公報
【文献】特許第2613542号公報
【文献】特許第3009846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の鋼製地中連続壁工法において、たとえば前日に建て込んだ壁部材の雌継手JIは、ソイルセメントの充填性がソイルセメントの自己充填に依存する上、図7(a)のように防護パイプBPとの隙間gp(たとえば、10mm程度)に脆弱なソイルセメントや土砂が付着した状態となる。この状態で、防護パイプBPを引き抜き、雌継手JIの内部空洞にソイルセメントが充填されると、図7(b)のように、旧ソイルセメントLCと新ソイルセメントNCとの境界bdに水みちが生じたり、充填不足が発生してしまい易く、止水性が低下し、漏水の原因になるおそれがある。
【0007】
特許文献1~3は、清掃対象の継手の溝内に安定液を満たしたり噴射することにより、または、ブラシ付きバイブレータで鉄筋や仕切鋼板に微小振動を伝えることにより、表面に付着しているマッドケーキを剥離するもので、安定液や噴射手段や振動手段が特別に必要となる。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、ソイルセメント等の流動性のある固化材が充填されて連結される壁部材間の嵌合継手において充填性が向上し固化材が密実に充填され固化後に良好な止水性を発揮できる嵌合継手施工方法、この方法に使用可能なバイブレータおよび防護パイプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための嵌合継手施工方法は、連続壁構造の構築のために第1の壁部材と第2の壁部材とを流動性のある固化材を充填し固化することで連結する嵌合継手を施工する方法であって、
前記第1の壁部材は前記固化材が充填される内部空洞を有する雌継手を端部に備え、
前記第2の壁部材は前記雌継手に挿入される雄継手を端部に備え、
前記第1の壁部材が構築位置に建て込まれ前記雌継手内に防護パイプが挿入されており、前記雌継手の内周面と前記防護パイプの外周面との間に間隙を有している状態で前記第2の壁部材の建て込みのために地盤を掘削する工程と、
前記掘削された原位置土砂と固化液とを攪拌混合して流動性のある固化材とする工程と、
前記固化材を検知可能な検知センサを有するバイブレータを前記防護パイプ内へ挿入することで前記雌継手内に配置する工程と、
前記雌継手内の固化材に前記バイブレータにより振動を加える工程と、
前記検知センサにより前記雌継手内における固化材の有無を検知する工程と、
前記バイブレータを前記雌継手内において引き上げる工程と、
前記バイブレータおよび前記防護パイプの引き抜き完了後に前記第2の壁部材を建て込む際に前記第1の壁部材の前記雌継手に前記第2の壁部材の雄継手を挿入し前記嵌合継手を形成する工程と、を含み、
前記検知センサによる前記固化材の検知結果に基づいて前記バイブレータの引き上げを制御する。
【0010】
この嵌合継手施工方法によれば、第1の壁部材が建て込まれた状態でその雌継手内の流動性のある固化材にバイブレータにより振動を加えることで、固化材が下方に移動し易くなって雌継手内に密実に充填され、充填性が向上し、固化後に良好な止水性を発揮できる。検知センサにより雌継手内における固化材の有無を検知し、その検知結果に基づいてバイブレータの引き上げを制御することで、固化材の雌継手内における充填性が向上し密実な充填を確実に行うことができる。たとえば、検知センサにより固化材が検知されないとき、バイブレータの引き上げを停止し、バイブレータによる振動を続行することで、雌継手における固化材の未充填部分を確実に無くし、固化材を密実に充填することができる。
【0011】
上記嵌合継手施工方法において前記検知センサにより前記固化材を検知した後に、前記バイブレータを所定高さだけ引き上げるとともに前記防護パイプを所定高さだけ引き上げることが好ましい。
【0012】
なお、前記第1の壁部材が構築位置に建て込まれ前記雌継手内に防護パイプが挿入されている状態で前記第2の壁部材の建て込みのために地盤を掘削し、前記掘削された原位置土砂と固化液とを攪拌混合して流動性のある固化材としてから前記防護パイプに前記バイブレータを挿入して前記雌継手内に配置し、次に、前記バイブレータによる振動を行い、前記検知センサにより前記固化材を検知した後に、前記防護パイプを所定高さだけ引き上げることが好ましい。
【0013】
前記防護パイプは上部からの力により開放可能な蓋部を下端に有し、前記バイブレータは、前記防護パイプに挿入されて前記蓋部に当接することで前記蓋部が開放されてから、前記防護パイプの下端を通して前記内部空洞内に配置されることが好ましい。
また、前記防護パイプの前記蓋部は、付勢部材に付勢されて前記防護パイプの下端の開口を閉塞しており、前記バイブレータが前記防護パイプに挿入されたとき前記蓋部に当接して前記蓋部が前記付勢部材による付勢力に抗して開放されることが好ましい。

【0014】
また、前記バイブレータは、その外周部から前記雌継手の内周面に向けて突き出て前記内周面を清掃するための清掃ブラシを有し、前記雌継手内で引き上げられる間に前記清掃ブラシにより前記内周面に付着した付着物を除去することが好ましい。清掃ブラシは、バイブレータの引き上げに連動して雌継手の内周面の清掃を行うことができる。
【0015】
また、前記バイブレータは、その外周部から前記雌継手の内周面に向けて突き出て前記内周面を清掃するための清掃ブラシを有し、前記バイブレータが前記防護パイプに挿入された状態で前記清掃ブラシが前記防護パイプ内に曲げられて収まっており、前記防護パイプが引き上げられることで前記清掃ブラシが前記雌継手内で拡がり、前記バイブレータが前記雌継手内で引き上げられる間に前記清掃ブラシにより前記内周面に付着した付着物を除去することが好ましい。
【0016】
上記目的を達成するためのバイブレータは、上述の嵌合継手施工方法において用いられるものである。
【0017】
上記目的を達成するための防護パイプは、上述の嵌合継手施工方法において用いられるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、流動性のある固化材が充填されて連結される壁部材間の嵌合継手において充填性が向上し固化材が密実に充填され固化後に良好な止水性を発揮できる嵌合継手施工方法、この方法に使用可能なバイブレータおよび防護パイプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態の鋼製地中連続壁工法により連続壁を構築するため地中に建て込んだ壁部材の上面図(a)およびその壁部材に隣接して同様に建て込んだ連壁部材の上面図(b)である。
図2】本実施形態で使用可能な防護パイプおよびバイブレータの要部を示す要部縦断面図(a)、防護パイプの下端の閉じた状態の蓋部を示す要部斜視図(b)および開いた状態の蓋部を示す要部斜視図(c)である。
図3図2(a)のバイブレータに設け防護パイプ内に収まった状態の清掃ブラシを示す上面図(a)および雌継手内の内周面に向けて拡がった状態の清掃ブラシを示す上面図(b)である。
図4】本実施形態による連続壁構築の各工程S01~S12を説明するためのフローチャートである。
図5図4の工程S07と工程S08との間に実行される嵌合継手の施工に関する各工程S21~S27を説明するためのフローチャートである。
図6】本実施形態による嵌合継手の施工においてバイブレータが挿入された状態で防護パイプを引き上げる様子を概略的に示す図2(a)と同様の要部縦断面図(a)およびバイブレータによる振動と清掃の様子を概略的に示す要部縦断面図(b)である。
図7】鋼製地中連続壁工法において壁部材の建て込みの際に壁部材の雌継手内に防護パイプを挿入した状態を示す上面図(a)および従来の工法でソイルセメントの充填・固化後に生じる水みちを概略的に示す上面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態の鋼製地中連続壁工法により地中に連続壁を構築するため地中に建て込んだ壁部材の上面図(a)およびその壁部材に隣接して同様に建て込んだ連壁部材の上面図(b)である。
【0021】
まず、本実施形態において鋼製地中連続壁工法により地中に連続壁を構築するため地中に建て込む第1の壁部材および第2の壁部材について図1(a)(b)を参照して説明する。
【0022】
図1(a)のように、連続壁構築区域Aには、図の左から横方向に順に、第1の壁部材11a,第2の壁部材12a、第1の壁部材11bが地中に建て込まれている。第1の壁部材11a,11bは、鋼板からなる一対のフランジ13,13と、一対のフランジ13,13を連結する鋼板からなるウェブ14と、一対のフランジ13,13の両端にそれぞれ設けられ雌継手を構成する小径管15と、を有する。小径管15は、鋼管からなり、縦方向に延びる内部空洞15aと縦方向に形成された切欠部15bとを有する。
【0023】
第2の壁部材12aは、鋼板からなる一対のフランジ13,13と、一対のフランジ13,13を連結する鋼板からなるウェブ14と、一対のフランジ13,13の両端にそれぞれ設けられ雄継手を構成する鋼板からなる小幅板16と、を有する。第2の壁部材12aは、その小幅板16が第1の壁部材11aの小径管15の切欠部15bを通して内部空洞15a内に挿入されて建て込まれる。これにより、第1の壁部材11aの小径管15と第2の壁部材12aの小幅板16とが第1の壁部材11aと第2の壁部材12aとの連結のための嵌合継手を構成する。なお、第1の壁部材11bの右端側の内部空洞15aには、次の工程で隣接の第2の壁部材12b(図1(b))を建て込むために防護パイプ20が挿入されている。
【0024】
図1(b)のように、連続壁構築区域Aに隣接する連続壁構築区域Bには、図の左から横方向に順に、上述と同様の構成の第2の壁部材12b、第1の壁部材11cが地中に建て込まれる。
【0025】
次に、本実施形態において使用する防護パイプおよびバイブレータについて図2図3を参照して説明する。図2は、本実施形態で使用可能な防護パイプおよびバイブレータの要部を示す要部縦断面図(a)、防護パイプの下端の閉じた蓋部を示す要部斜視図(b)および開いた蓋部を示す要部斜視図(c)である。図3は、図2(a)のバイブレータに設け防護パイプ内に収まった状態の清掃ブラシを示す上面図(a)および内部空洞の内周面に向けて拡がった状態の清掃ブラシを示す上面図(b)である。
【0026】
図2(a)のように、防護パイプ20は、図1の第1の壁部材11a,11b,11cの雌継手を構成する小径管15の内部空洞15a内に挿入可能な寸法を有し、その先端21が尖るように傾斜している。図2(b)のように、蓋部22が防護パイプ20の先端21に傾斜して取り付けられ、ヒンジ23でコイルバネ(図示省略)により付勢されて先端21の開口を閉塞している。防護パイプ20の先端21の開口を蓋部22で閉塞することで、攪拌されたソイルセメントが防護パイプ20内に流入しない。
【0027】
図2(c)のように、防護パイプ20内にバイブレータ30が挿入され、その先端31が蓋部22に当接し、蓋部22が上方から押される力を受けると、ヒンジ23のコイルバネ(図示省略)の付勢力に抗して回動することで、防護パイプ20の先端21が開放される。防護パイプ20は、後述のバイブレータ30が挿入されてから、引き上げられるようになっている。
【0028】
図2(a)のように、バイブレータ30は、先端31側に配置され振動する振動部32と、先端31から所定高さF(たとえば、50cm)に設けられソイルセメント等の固化材を検知可能な検知センサ33と、外周面に設けられた清掃ブラシ34,35と、を有し、全体的にパイプ状の細長い形状をし、その上端にワイヤ36が連結されている。このワイヤ36が地上に設置された電動リール(図示省略)により巻かれた状態から巻き戻されることで、バイブレータ30が防護パイプ20内に挿入され、また、内部空洞15a内で固化材に振動を加える際に所定高さH(図6)に対応して自動的に巻き上げられることで、バイブレータ30が引き上げられるようになっている。
【0029】
検知センサ33は、一対の電極(図示省略)からなる印加電圧式の公知のセンサを用いることができ、ソイルセメントやコンクリートやモルタル、水、空気を検知可能である。なお、ワイヤ36には検知センサ33の配線や振動部32への電源供給のための電気ケーブルが収容されている。
【0030】
図2(a)のように、清掃ブラシ34,35は、内部空洞15aの内周面を清掃するようにバイブレータ30の内周面に縦方向に離れて二段に設けられており、図3(a)のように、バイブレータ30が防護パイプ20に挿入された状態で防護パイプ20内に弾性的に曲げられて収まっている。防護パイプ20が内部空洞15aから引き抜かれると、図3(b)のように、清掃ブラシ34,35が内部空洞15a内で弾性復元して拡がり、バイブレータ30が内部空洞15a内で引き上げられる間に清掃ブラシ34,35により内部空洞15aの内周面に付着した付着物を除去するようになっている。
【0031】
また、清掃ブラシ34,35は、たとえば、ポリエチレン等の樹脂からなり弾力性のある多数の線状材料から構成できる。清掃ブラシ34,35の半径方向長さは、バイブレータ30の外周面から内部空洞15aの内周面までの距離よりも若干長めとすることが好ましい。また、清掃ブラシはさらに多段に設けてもよい。
【0032】
次に、本実施形態により地中に連続壁を構築する各工程について図4図6をさらに参照して説明する。図4は、本実施形態による連続壁構築の各工程S01~S12を説明するためのフローチャートである。図5は、図4の工程S07と工程S08との間に実行される嵌合継手の施工に関する各工程S21~S27を説明するためのフローチャートである。図6は、本実施形態による嵌合継手の施工においてバイブレータが挿入された状態で防護パイプを引き上げる様子を概略的に示す図2(a)と同様の要部縦断面図(a)およびバイブレータによる振動と清掃の様子を概略的に示す要部縦断面図(b)である。
【0033】
図1図4を参照して説明すると、まず、連続壁の構築位置において地盤を掘削機械により掘削し(S01)、掘削により生じた原位置土砂と、セメントと水とからなる固化液と、を混合攪拌して得たソイルセメントを攪拌してから(S02)、壁部材をソイルセメント中に建て込む(S03)。たとえば、図1(a)の連続壁構築区域Aにおいて、第1の壁部材11a,第2の壁部材12a、第1の壁部材11bを順に建て込む。
【0034】
次に、図1(a)の第1の壁部材11bのように、未施工の雌継手端部の内部空洞15a内に防護パイプ20を挿入する(S04)。そして、所定時間が経過することで図1(a)の区域Aにおけるソイルセメントが固化する(S05)。上述のようにして、図1(a)のように、第1の壁部材11aと第2の壁部材12aとが嵌合継手により連結され、さらに第2の壁部材12aと第1の壁部材11bとが嵌合継手により連結される。上述の工程S01~S05までを一本目(基準杭)の壁部材の施工とし、次に、翌日以降の施工が続く。
【0035】
たとえば、図1(b)の連続壁構築区域Aに隣接する区域Bにおいて、上述と同様に地盤を掘削し(S06)、ソイルセメントを攪拌し(S07)、図2(a)の防護パイプ20を地上のクレーンにより引き抜き、さらに地上の電動リールによりバイブレータ30を引き抜き(S08)、清掃ブラシ34,35を点検し(S09)、内部空洞15aの内周面の清掃状態を確認してから、壁部材を建て込む(S10)。たとえば、図1(b)の連続壁構築区域Bにおいて、第2の壁部材12b、第1の壁部材11cを順に建て込む。
【0036】
次に、図1(b)の第1の壁部材11cのように、掘削土砂浸入防止のため未施工の雌継手の内部空洞15a内に防護パイプ20を挿入する(S11)。なお、第1の壁部材11cと防護パイプ20とを一緒に建て込むようにしてもよい。そして、所定時間が経過することで図1(b)の区域Bにおけるソイルセメントが固化する(S12)。上述のようにして、第1の壁部材11bと第2の壁部材12bとが嵌合継手により連結され、さらに第2の壁部材12bと第1の壁部材11cとが嵌合継手により連結される。さらに隣接区域の施工を行う場合(S13)、隣接区域に移動し上記工程S06から同様の各工程を繰り返す。
【0037】
以上のようにして、第1の壁部材11a,11b,11c,・・・と、第2の壁部材12a,12b,・・・と、をソイルセメントが充填された嵌合継手により連結した連続壁を地中に構築することができる。
【0038】
次に、図1図6を参照して嵌合継手の施工の各工程S21~S27(図5)について説明すると、図4のソイルセメント攪拌工程S07の後、図2(a)のように、図1(a)(b)の第1の壁部材11bの内部空洞15a内の防護パイプ20内にバイブレータ30を挿入する(S21)。
【0039】
図2(a)~(c)のように、バイブレータ30の挿入により、その先端31が防護パイプ20の先端21の蓋部22に当接すると、蓋部22が開き、先端21の開口を通してバイブレータ30が防護パイプ20の先端21から突き出る(S22)。
【0040】
第1の壁部材の雌継手の内部空洞15aの底部に切欠部15b(図1)を通して、攪拌工程S07(図4)で攪拌されたソイルセメントが流入するが、バイブレータ30の振動部32により内部空洞15a内のソイルセメントに振動を加える(S23)。これにより、内部空洞15aへのソイルセメントSCの流入が促進される。
【0041】
上述のバイブレータ30の振動部32による振動の開始とともに検知センサ33が作動しソイルセメントの有無を検知する(S24)。検知センサ33がソイルセメントを検知しないときは、バイブレータ30を引き上げずにそのままの状態でバイブレータ30による振動を続ける。
【0042】
上記検知工程S24で検知センサ33がソイルセメントSCを検知すると、図6(a)(b)のように、防護パイプ20を上方に引き上げるとともに、バイブレータ30を所定の高さHだけ上方に引き上げる(S25)。
【0043】
上述の防護パイプ20の引き上げにより、防護パイプ20内にあった清掃ブラシ34,35が図3(b)のように、内部空洞15a内で拡がるとともに、バイブレータ30の引き上げにより、清掃ブラシ34,35が内部空洞15aの内周面に対し相対移動することで、内部空洞15aの内周面に付着した脆弱なソイルセメントや土砂等の付着物を除去する。
【0044】
上記工程S25におけるバイブレータ30の引き上げの所定の高さHは、ソイルセメントSCの充填高さに合わせることが好ましいが、具体的にはたとえば、50cm程度である。また、防護パイプ20の引き上げ高さは、初回で、図6(a)のように、清掃ブラシ34,35が防護パイプ20から脱して内部空洞15a内で拡がることができる程度とし、以降、たとえば、バイブレータ30の引き上げの所定の高さHとほぼ同一とするようにしてよい。
【0045】
また、バイブレータ30の所定高さHの引き上げに先行して、防護パイプ20を所定高さだけ引き上げることで、バイブレータ30の引き上げを確実に行うことができ、また、清掃ブラシ34,35が防護パイプ20内に入り込まず内部空洞15aの内周面の清掃に支障が生じない。
【0046】
次に、バイブレータ30の深度位置が壁部材の天端に達したか否かを確認し(S26)、達していないときは振動工程S23に戻り、図6(b)のように、同様にソイルセメントSCに振動を加え、同様の工程S24~S26を繰り返し、達したときはバイブレータ30による振動が完了する(S27)。次に、上述の図4の工程S09,S10が続く。
【0047】
以上の本実施形態による嵌合継手施工方法によれば、第1の壁部材が建て込まれた状態でその雌継手の内部空洞15a内の流動性のあるソイルセメントにバイブレータ30により振動を加えることで、ソイルセメントが下方に移動し易くなって内部空洞15a内に密実に充填され、充填性が向上し、固化後に良好な止水性を発揮できる。
【0048】
また、検知センサ33により内部空洞15a内におけるソイルセメントの有無を検知し、その検知結果に基づいてバイブレータ30の引き上げを制御することで、ソイルセメントの内部空洞15a内における密実な充填を確実に行うことができる。検知センサ33によりソイルセメントが検知されないとき、バイブレータ30の引き上げを停止し、バイブレータ30による振動を続行することで、内部空洞における固化材の未充填部分を確実に無くし、固化材を密実に充填することができる。
【0049】
また、内部空洞15a内におけるバイブレータ30の引き上げに連動して、バイブレータ30に設けた清掃ブラシ34,35が内部空洞15aの内周面を清掃するので、特許文献1~3のような特別な安定液や噴射手段や振動手段は不要となる。清掃ブラシ34,35が内部空洞15aの内周面に付着した脆弱なソイルセメントや土砂等の付着物を除去するので、内部空洞15aの内周面近傍における新旧ソイルセメントの境界に水みちが生じることを防止でき、止水性が向上する。
【0050】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本実施形態では、建て込まれた状態の第1の壁部材に隣接した区域において地盤掘削をし、その掘削位置でソイルセメントを攪拌し、その区域に隣接した雌継手内にソイルセメントが充填されてから、第2の壁部材を建て込んだが、本発明は、これに限定されず、建て込まれた状態の第1の壁部材の雌継手内に直接ソイルセメント等の固化材が投入され、バイブレータで振動を加え検知センサにより固化材の非充填部分がないことを確認してから、第2の壁部材の雄継手を第1の壁部材の雌継手内に挿入するようにして第2の壁部材を建て込むようにしてもよい。この場合は、防護パイプを省略することができる。
【0051】
また、図5の工程S25におけるバイブレータ30の引き上げは、所定の高さだけ間欠的に行うようにしたが、これに限定されず、バイブレータ30を連続的に引き上げ、その引き上げの途中でソイルセメントが検知されないときは、引き上げを止め、ソイルセメントが検知されるまで振動を行うようにしてもよい。
【0052】
また、固化材としては、ソイルセメント以外に、たとえば、コンクリートやモルタルを使用可能である。
【0053】
また、本実施形態では、鋼製地中連続壁工法により構築される連続壁を対象としたが、これに限定されず、嵌合継手により連結される矢板等による連続壁構造であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の嵌合継手施工方法によれば、流動性のある固化材が充填されて連結される壁部材間の嵌合継手において充填性が向上し固化材が密実に充填され固化後に良好な止水性を発揮できるので、構築される連続壁構造において止水性が向上し漏水の発生を確実に防止できる。
【符号の説明】
【0055】
11a,11b,11c 第1の壁部材
12a,12b 第2の壁部材
15 小径管(雌継手)
15a 内部空洞
15b 切欠部
16 小幅板(雄継手)
20 防護パイプ
22 蓋部
23 ヒンジ
30 バイブレータ
32 振動部
33 検知センサ
34,35 清掃ブラシ
36 ワイヤ
A,B 連続壁構築区域
SC ソイルセメント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7