(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 141/08 20060101AFI20220831BHJP
C10M 135/18 20060101ALN20220831BHJP
C10M 129/40 20060101ALN20220831BHJP
C10N 10/16 20060101ALN20220831BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20220831BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20220831BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20220831BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
C10M141/08
C10M135/18
C10M129/40
C10N10:16
C10N10:02
C10N10:12
C10N20:00 Z
C10N30:00 Z
(21)【出願番号】P 2019509411
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013906
(87)【国際公開番号】W WO2018181994
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】P 2017070689
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆史
(72)【発明者】
【氏名】仁平 貴大
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-140480(JP,A)
【文献】特開平11-140479(JP,A)
【文献】特開2009-161685(JP,A)
【文献】特開2008-255160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/02
C10N 10/10
C10N 10/12
C10N 10/16
C10N 20/00
C10N 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnDTPを含有せず、下記の成分(a)~(c)を含有する潤滑油組成物:
(a)基油、
(b)ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び
(c)短周期表の8族金属
又は銅を中心金属とする、有機酸金属塩化合物
であって、構成する有機酸が下記式(2)で表される、前記有機酸金属塩化合物
R
3
(COOH)
p
(
2)
(
式中、R
3
は、炭素数1~10の分岐アルキル基である。pは1~4の整数である)。
【請求項2】
(c)が、短周期表の8族金属を中心金属とする有機酸金属塩化合物である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
(
c)が、コバルト又はニッケルと、式(2)で表わされる有機酸との塩である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
有機酸金属塩化合物が、中心金属の酸化電位(有機酸金属塩化合物における中心金属の価数をXとしたとき、その金属が0価の状態から電子を放出してX価の金属カチオンに変化する際の電位とする)が+0.50V(vs SHE)以下である化合物である、請求項1
~3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
組成物における有機酸金属塩化合物の含有量が、中心金属元素換算濃度で100~1000ppmである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用潤滑油等の広範な分野において用いることができる潤滑油組成物に関する。詳しくは、本発明は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)と組み合わせることで、MoDTCを単独で基油に添加したときよりも低温から摩擦低減効果を得られる添加剤を含む潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の環境施策(CO2排出量削減)に伴い、求められる燃費性能は年々高くなっている。燃費性能向上のため動力ロス、具体的には摩擦損失を低減することが重要であり、カーメーカーによる動力系の改善や、潤滑剤メーカーによる高性能潤滑剤の開発が進められている。
【0003】
高性能潤滑剤の摩擦調整剤としてMoDTCが広く使われている。MoDTCの摩擦低減機構はまだ十分に解明されていない点はあるものの、潤滑面で反応して、固体潤滑剤として知られる二硫化モリブデン(以下、「MoS2」と略称する)を生成することは広く知られている。
しかしMoDTCは低温では反応性が低く摩擦低減効果を得られにくい特徴があるため、主に高温でのアプリケーションに適合する。
【0004】
一方、近年普及し始めたアイドリングストップ等のエコカー技術により、エンジン油温は上がりにくくなっている。さらに、自動車の利用シーンの多くは短距離走行であり、このような場面でもエンジン油温は上がりにくい。
【0005】
摩擦係数の低減について、MoDTCと添加剤の組み合わせによる発明は数多くなされている。例えば、MoDTCと有機酸金属塩化合物とを組み合わせた発明(特許文献1)が報告されているが、特許文献1における試験実施温度は80℃又は120℃であり、80℃よりも低温における試験は行われていない。
【0006】
前記特許文献1の出願人は、MoDTCと有機酸塩とジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)とを組み合わせた発明(特許文献2)もまた報告している。特許文献2における試験実施温度は25℃、80℃又は120℃である。特許文献2の必須成分であるZnDTPは極圧剤として知られており、エンジン油をはじめとする数多くの潤滑剤に用いられているが、リンによる触媒毒の懸念があり、使用量に注意を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-140480号公報
【文献】特開平11-140479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ZnDTPを用いることなく低温域で摩擦係数を下げることは難しい。このような状況下、潤滑油組成物の摩擦低減効果を、これまでよりも低い温度でZnDTPを用いることなく発揮させることは、エコカーをはじめとする自動車の燃費性能向上と排出ガスの後処理装置として用いられる触媒の寿命延長に寄与すると考えられる。
そこで、本発明はZnDTPを用いることなく、摩擦低減剤としてMoDTCを単独で基油に添加したときに摩擦係数低減効果を示す点よりも低い温度から摩擦低減効果を発揮させることのできる添加剤を用いた潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らはMoDTCを含む潤滑油組成物について、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、MoDTCに特定の有機酸金属塩化合物を組み合わせると、摩擦低減剤としてMoDTCを単独で基油に添加したときに摩擦係数低減効果を示す点よりも低い温度から摩擦低減効果を発揮させることができることを見出した。さらに、そのような有機酸金属塩化合物の金属の酸化電位の低さと、MoDTCと有機酸金属塩化合物を混合した基油の低温における摩擦係数の低さに一定の相関があることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明により、下記1.~3.に示す潤滑油組成物を提供する。
1. ZnDTPを含有せず、下記の成分(a)~(c)を含有する潤滑油組成物:
(a)基油、
(b)ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び
(c)短周期表の8族金属、銅又はビスマスを中心金属とする、有機酸金属塩化合物。
2.(c)が、短周期表の8族金属を中心金属とする有機酸金属塩化合物である、前記1項に記載の潤滑油組成物。
3. 有機酸金属塩化合物が、中心金属の酸化電位(有機酸金属塩化合物における中心金属の価数をXとしたとき、その金属が0価の状態から電子を放出してX価の金属カチオンに変化する際の電位とする)が+0.50V(vs SHE)以下である化合物である、前記1又は2項に記載の潤滑油組成物。
4. 組成物における有機酸金属塩化合物の含有量が、中心金属元素換算濃度で100~1000ppmである、前記1~3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の潤滑油組成物により、触媒の寿命を延ばしつつ、摩擦低減剤としてMoDTC単独を基油に添加したときよりも低い温度でも摩擦低減効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記(a)成分である基油としては、鉱油、エーテル系合成油、エステル系合成油及び炭化水素系合成油等の通常に使用されている潤滑油基油またはそれらの混合油が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでも合成油が好ましい。炭化水素系合成油がより好ましい。ポリαオレフィンが特に好ましい。
基油の40℃における動粘度は、特に制限はないが、5~400mm2/sであるのが好ましく、5~200mm2/sであるのがより好ましく、5~70mm2/sであるのが更に好ましい。動粘度がこのような範囲にあると、MoDTCが潤滑表面で効率よく被膜を形成できるため好ましい。
本発明の組成物における(a)成分の含有量は、一般には主要量であって、(b)及び(c)成分よりも多い量であり、好ましくは40質量%以上、より好ましくは40~99.5質量%、最も好ましくは40~90質量%である。
【0013】
上記(b)成分であるMoDTCは、下記式(1)で表されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンが好ましい。
(R1R2N-CS-S)2-Mo2OmSn (1)
(式中、R1及びR2は、独立して、炭素数1~24、好ましくは炭素数2~18のアルキル基を表し、mは0~3、nは4~1であり、m+n=4である。)
本発明の組成物における上記MoDTCの含有量は、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.5質量%である。この範囲とすることにより、経済的に合理的な濃度で摩擦低減効果を発揮できるので好ましい。
【0014】
上記(c)成分である、短周期表の8族金属、銅又はビスマスを中心金属とする有機酸金属塩化合物は、中心金属の酸化電位(有機酸金属塩化合物における中心金属の価数をXとしたとき、その金属が0価の状態から電子を放出してX価の金属カチオンに変化する際の電位とする)が、+0.5V(vs SHE)以下の化合物であるのが好ましい。
有機酸金属塩化合物を構成する中心金属としては、短周期表の8属金属が好ましい。8族金属としては、特に、鉄(酸化電位:+0.440V(vs SHE))、コバルト(酸化電位:+0.277V(vs SHE))、ニッケル(酸化電位:+0.250V(vs SHE))が好ましい。さらに特にニッケルが好ましい。なお、本明細書に記載する酸化電位は、後藤佐吉著、日本化学会編、「金属の化学」、p18-21、大日本図書(1971)又は電気化学会編、「電気化学便覧」、第6版、p92-95、丸善(2013)に記載の値である。
有機酸金属塩化合物を構成する有機酸は、下記式(2)で表すことができ、脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸および芳香族カルボン酸を挙げることができる。また、モノカルボン酸、ジカルボン酸、他のポリカルボン酸等のいずれでもよく、飽和または不飽和カルボン酸も用いられる。
【0015】
R3(COOH)p (2)
(式中、R3は炭素数1~30の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基であるか、または少なくとも1個の鎖状の飽和又は不飽和炭化水素基で置換された脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基であって総炭素数が1~30である前記脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。炭素数1~30の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基であるのが好ましい。炭素数1~30の直鎖又は分岐アルキル基であるのが好ましい。炭素数1~18の分岐アルキル基であるのがより好ましい。炭素数1~10の分岐アルキル基であるのがさらに好ましい。pは1~4の整数である。pは1であるのが特に好ましい。)
本発明の(c)成分の具体例としては、上記カルボン酸のコバルト塩、ニッケル塩、銅塩、ビスマス塩等が挙げられる。なかでも、2-エチルヘキサン酸コバルト、2-エチルヘキサン酸ニッケル、ネオデカン酸銅、2-エチルヘキサン酸ビスマスが好ましい。2-エチルヘキサン酸コバルト、2-エチルヘキサン酸ニッケルが特に好ましい。
【0016】
本発明の組成物における(c)成分の含有量は、中心金属元素換算濃度で、好ましくは50~5000ppm、より好ましくは50-3000ppm、さらに好ましくは100~1000ppm、特に好ましくは200~500ppmである。この範囲とすることにより、MoDTCの潤滑面での反応を阻害することなく、摩擦低減効果を発揮することができる。特に、中心金属が8属元素の場合、200~500ppmであるのが好ましく、銅の場合、100~250ppmであるのが好ましく、ビスマスの場合、100~250ppmであるのが好ましい。(c)成分の中心金属元素換算濃度は、(b)成分のモリブデン換算濃度よりも低いのが好ましく、(c)成分の中心金属元素換算濃度を1とした場合、(b)成分のモリブデン換算濃度が0.1~10、好ましくは0.2~5である。(c)成分と(b)成分の含有量がこのような範囲にあると、MoDTCの潤滑面での反応を阻害することなく、摩擦低減効果を発揮することができるので好ましい。
【0017】
本発明の潤滑油組成物はZnDTPを含まないが、これは、触媒活性を失わせしめる量のZnDTPを含まないことを意味する。
【0018】
本発明の潤滑油組成物には、必要に応じて、さらに、粘度指数向上剤、無灰分散剤、酸化防止剤、極圧剤、摩耗防止剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、腐食防止剤、他の摩擦調整剤等を適宜選択して配合することができる。本発明の潤滑油組成物が任意の添加剤を含む場合、通常、粘度指数向上剤を除いたこれらの添加剤とMoDTCの合計で25重量%以下の割合で使用される。
【0019】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート系、ポリイソブチレン系、エチレン-プロピレン共重合体系、スチレンーブタジエン水添共重合体系等のものを用いることができ、これらは、通常、3重量%~30重量%の割合で使用される。
【0020】
無灰分散剤としては、例えば、ポリブテニルコハク酸イミド系、ポリブテニルコハク酸アミド系、ベンジルアミン系、コハク酸エステル系のものがあり、これらは、通常、0.05重量%~7重量%の割合で使用される。
【0021】
酸化防止剤としては、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、4,4´-メチレンビス-(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤等を挙げることができ、これらは、通常0.05重量%~5重量%の割合で使用される。
【0022】
極圧剤としては、例えば、ジベンジルサルファイド、ジブチルジサルファイド等があり、これらは、通常、0.05重量%~3重量%の割合で使用される。
【0023】
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール等があり、これらは、通常、0.01重量%~3重量%の割合で使用される。
【0024】
流動点降下剤としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、これらは、通常、0.1重量%~10重量%の割合で使用される。
【0025】
摩耗防止剤としては、例えば、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、イオウ化合物等を挙げることができ、これらは、通常、0.01重量%~5重量%の割合で使用される。
【0026】
そのほかの添加剤として、本発明のMoDTC及び有機酸塩金属化合物の作用を阻害しないものであれば、任意に選択して使用することができる。
本発明の潤滑油組成物は、エンジン油に添加して使用するのが好ましい。本発明の潤滑油組成物はまた、そのまま適用することもできるし、増ちょう剤を加えてグリース組成物とすることもできる。本発明の潤滑油組成物をそのまま適用すると、軸受等の金属表面又は樹脂表面で被膜を形成する。グリース組成物とするのに用いることのできる増ちょう剤としては、Li石けん等の金属せっけんや、脂肪族ジウレア、脂環式ジウレア、芳香族ジウレア、又はこれらの混合物等のジウレア化合物を用いることができる。グリース組成物のちょう度(JIS K2220 7.により測定される60回混和ちょう度)及び増ちょう剤の割合は、当業者であれば、グリースの適用箇所に応じて適宜決定することができる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明する。実施例及び比較例において用いた基油、MoDTC、有機金属化合物及び潤滑油組成物の摩擦係数測定条件及び方法は次の通りである。
【0028】
〔潤滑油基油〕
α-オレフィンオリゴマー(動粘度(@40℃)48.5mm2/s)(以下「PAO」と略称する)
〔MoDTC〕
MoDTC:モリブデンジアルキルジチオカーバメート(構造は式(1)の通り)
〔有機酸塩化合物〕
Ni-OCTOATE(中心金属をNi、有機酸を2-エチルヘキサン酸とする塩)
Co-OCTOATE(中心金属をCo、有機酸を2-エチルヘキサン酸とする塩)
ネオデカン酸Cu(中心金属をCu、有機酸をネオデカン酸とする塩)
Bi-OCTOATE(中心金属をBi、有機酸を2-エチルヘキサン酸とする塩)
Zn-OCTOATE(中心金属をZn、有機酸を2-エチルヘキサン酸とする塩)
Mn-OCTOATE(中心金属をMn、有機酸を2-エチルヘキサン酸とする塩)
Zr-OCTOATE(中心金属をZr、有機酸を2-エチルヘキサン酸とする塩)
なお、表中のMoDTC濃度(重量%)はいずれも、Mo換算濃度で200ppmである。
【0029】
〔摩擦係数測定法〕
ボールオンディスク試験機を用いて、次の条件で摩擦係数を測定した。
摩擦材 : 鋼(SUJ-2)/鋼(SUJ-2)、φ8mmボール/ディスク
温度 : 60℃、80℃
荷重 : 10N
速度 : 0.5m/s
時間 : 30min
30分の測定の最後の5分間の平均値をもって摩擦係数の測定値とした。
【0030】
比較例1及び実施例
比較例1は、PAOを潤滑油基油とし、これにMoDTCを0.4重量%配合した。実施例には、さらに、有機酸金属塩化合物を表1に示す割合で各々配合した。
得られた潤滑油組成物の摩擦係数を測定したところ、比較例1では、80℃で良好な摩擦係数を示したが、60℃では、80℃における摩擦係数よりも高い値を示した。したがって、MoDTC単独で摩擦低減効果を発揮するのは80℃付近であると考えられる。一方、実施例では、80℃及び60℃で、比較例1の80℃における摩擦係数と同程度の摩擦係数を示した。このことから、有機酸金属塩化合物と組み合せると、MoDTCを単独で基油に添加したときよりも低温から摩擦低減効果を得られることが分かった。
【0031】
比較例2~7
PAOを潤滑油基油とし、これにMoDTCを0.4重量%と、さらに、有機酸金属塩化合物を表2に示す割合で各々配合した。
得られた潤滑油組成物の摩擦係数を測定したところ、いずれも、80℃における摩擦係数よりも60℃における摩擦係数の方が高くなった。したがって、比較例2~7の潤滑油組成物が摩擦低減効果を発揮するのは、比較例1と同様、80℃付近であると考えられる。
【0032】
実施例及び比較例2~7で用いた有機酸金属塩の金属元素について、対応する金属カチオンの酸化電位(後藤佐吉著、日本化学会編、「金属の化学」、p18-21、大日本図書(1971))と摩擦係数を比較したところ、酸化電位が低いほど、MoDTCと組み合わせた際の低温における摩擦係数は低い傾向が見られた。本発明者らの実験結果から、上記効果を示す金属カチオンの酸化電位の閾値はZn-OCTOATE(Zn2+の塩)の+0.763Vと、Co-OCTOATE(Co2+の塩)の+0.277Vの間にあると推定される。
【0033】
【0034】
表中の摩擦係数:○は0.060以下、△は0.061~0.100、×は0.101以上を意味する。
有機酸金属塩化合物の酸化電位の値は、前記「金属の化学」又は「電気化学便覧」から引用した。
【表2】
【0035】
表中の摩擦係数:○は0.060以下、△は0.061~0.100、×は0.101以上を意味する。
有機酸金属塩化合物の酸化電位の値は、前記「金属の化学」又は「電気化学便覧」から引用した。