(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】スクリュー式真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 18/16 20060101AFI20220831BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
F04C18/16 C
F04C29/00 D
(21)【出願番号】P 2019511766
(86)(22)【出願日】2017-08-14
(86)【国際出願番号】 EP2017070566
(87)【国際公開番号】W WO2018041614
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-08-07
(31)【優先権主張番号】202016005209.9
(32)【優先日】2016-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508206070
【氏名又は名称】レイボルド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ドライフェルト,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】シラー,ダーク
(72)【発明者】
【氏名】ギーマン,ウルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,ローランド
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-525690(JP,A)
【文献】特表2001-520353(JP,A)
【文献】特開平08-189485(JP,A)
【文献】特表2004-505210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/16
F04C 25/02
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプチャンバを画定し、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されているハウジングと、
複数の巻きを定めるための螺旋状の凹部を有してアルミニウム又はアルミニウム合金から形成された
2つのディスプレーサ要素を夫々有して、前記ポンプチャンバに配置された2つのスクリューロータと
を備えており、
出口圧力の5%~20%が存在する領域と前記スクリューロータの圧力側端部(ポンプ出口)との間に、少なくとも6の巻き、特には少なくとも8の巻き、特に好ましくは少なくとも10の巻きが設けられており、
前記スクリューロータ毎に前記2つのディスプレーサ要素は圧力側のディスプレーサ要素
及び更なるディスプレーサ要素
であり、前記圧力側のディスプレーサ要素の凹部及び前
記更なるディスプレーサ要素の凹部は、夫々の全長に亘って同一の外形を夫々有して
おり、
各スクリューロータの2つのディスプレーサ要素間に、ツール逃げゾーンのためのリング状の凹部が設けられていることを特徴とするスクリュー式真空ポンプ。
【請求項2】
前記圧力側のディスプレーサ要素は、20未満、特には10未満、特に好ましくは5未満の圧力比を生じさせることを特徴とする請求項1に記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項3】
前記圧力側のディスプレーサ要素は、少なくとも6の巻き、特には少なくとも8の巻き、特に好ましくは少なくとも10の巻きで50mbarを超える平均作動圧力を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項4】
前記ディスプレーサ要素の表面と前記ポンプチャンバの内面との間に、高さが0.05mm~0.3 mmの範囲内であり、特には0.05mm~0.2 mmの範囲内である間隙が設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項5】
前記圧力側のディスプレーサ要素は、前記圧力側のディスプレーサ要素の全長に亘って一定のピッチを有していることを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項6】
前記圧力側のディスプレーサ要素の凹部は、前記圧力側のディスプレーサ要素の全長に亘って均一な、特には対称な外形を有していることを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項7】
前記圧力側のディスプレーサ要素は一条ねじであることを特徴とする請求項1~6のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項8】
各スクリューロータは、前
記ディスプレーサ要素を支持するロータ軸を有していることを特徴とする請求項1~7のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項9】
前記スクリューロータの前記ディスプレーサ要素は一体に形成されていることを特徴とする請求項1~8のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項10】
アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されたスクリューロータは、前記ハウジングの膨張係数より低い膨張係数を有し、特には22×10
-61/K未満の膨張係数を有し、特に好ましくは20×10
-61/K未満の膨張係数を有することを特徴とする請求項1~9のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項11】
前記スクリューロータ、特に前
記ディスプレーサ要素は、前記スクリューロータ毎に前記ハウジングの膨張係数より低い膨張係数を有し、前記ハウジングの膨張係数は特に、前記スクリューロータ、ひいては前
記ディスプレーサ要素の膨張係数より少なくとも高いことを特徴とする請求項1~10のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項12】
前記スクリューロータの内部冷却が行われないことを特徴とする請求項1~11のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項13】
前記スクリューロータは、冷却媒体、特に液体の冷却媒体が流れるチャネルを有していないことを特徴とする請求項1~12のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項14】
前記スクリューロータは固体であることを特徴とする請求項1~13のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項15】
前記圧力側のディスプレーサ要素と前記ハウジングとの間の前記圧力側のディスプレーサ要素の領域における通常動作の温度差が50 K未満であり、特に20 K未満であることを特徴とする請求項1~14のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項16】
前記圧力側のディスプレーサ要素の領域における平均熱流量密度は、20000 W/m
2未満であり、好ましくは15000 W/m
2未満であり、特には10000 W/m
2未満であることを特徴とする請求項1~15のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【請求項17】
前記出口圧力の5%~20%が存在する領域と前記圧力側のディスプレーサ要素の最後の巻きとの間の距離が、少なくとも前記スクリューロータの長さの20%~30%の範囲内であることを特徴とする請求項1~16のいずれか1つに記載のスクリュー式真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュー式真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
スクリュー式真空ポンプは、2つのスクリューロータが配置されているポンプチャンバをハウジング内に備えている。各スクリューロータは、螺旋状の凹部を有する少なくとも1つのディスプレーサ要素を有している。凹部によって複数の巻きが形成されている。特定の電源入力が低い一方、低圧、ひいては200 mbar(絶対圧)未満の高真空をスクリュー式真空ポンプによって達成し得るために、公知のスクリュー式真空ポンプの内部圧縮は高い。内部圧縮は、ポンプの入口から出口に運ぶ体積の減少を定めている。特に少なくとも1つのディスプレーサ要素の外側とポンプチャンバの内側との間に高さが低い間隙が設けられている状態で、低い出力圧力が得られる。このような小さい間隙を実現し得るために、スクリューロータの確実な冷却を保証しなければならない。冷却を保証することによってのみ、温度に起因するディスプレーサ要素の膨張によりディスプレーサ要素の外側とポンプチャンバの内側との間で相互接触が生じるように、特に高い圧力差が生じるスクリュー式真空ポンプの圧力側領域でロータ、ひいてはロータの少なくとも1つのディスプレーサ要素の温度が上昇し得ることを防止することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この点について、ロータのための内部冷却が欧州特許出願公開第1242743 号明細書から公知である。ロータのための内部冷却は、ロータ、ひいてはロータに連結されているか又はロータと一体に形成されている少なくとも1つのディスプレーサ要素の効果的な冷却を保証し、従って、間隙の高さを小さくすることが可能になる。ロータのためのこのような内部冷却は非常に複雑であり、従ってコストがかかる。
【0004】
本発明は、ロータのための内部冷却を省略することができる一方、特に200 mbar未満、特に好ましくは10mbar未満の高真空を達成し得るスクリュー式真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、上記の目的は請求項1に係るスクリュー式真空ポンプによって達成される。
【0006】
本発明のスクリュー式真空ポンプは、2つのスクリューロータが内部に配置されているポンプチャンバを画定するハウジングを備えている。本発明によれば、ハウジング及びロータはアルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている。ここでハウジングのためのアルミニウム合金として、AlSi7Mg 又はAlMg0,75Siが特に好ましい。特に、スクリューロータの材料の膨張係数はハウジングの材料の膨張係数より低い。スクリューロータの膨張係数が22×10-61/K未満であり、特に好ましくは20×10-61/K未満であることが特に好ましい。
【0007】
ポンプチャンバに配置された2つのスクリューロータは、螺旋状の凹部を有する少なくとも1つのディスプレーサ要素を有している。螺旋状の凹部は複数の巻きを画定している。本発明によれば、少なくとも1つのディスプレーサ要素はアルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている。AlSi9Mg 又はAlSi17Cu4Mg から少なくとも1つのディスプレーサ要素を製造することが好ましい。アルミニウム及びアルミニウム合金が特に22×10-61/K未満、特に好ましくは20×10-61/K未満の低膨張係数を有することが特に好ましい。
【0008】
スクリューロータ、特に少なくとも1つのディスプレーサ要素は、ハウジングの膨張係数より低い膨張係数をスクリューロータ毎に有することが特に好ましい。ここで、ハウジングの膨張係数は、スクリューロータ、ひいては少なくとも1つのディスプレーサ要素の膨張係数より少なくとも5%、特に好ましくは少なくとも10%高いことが特に好ましい。ロータの合金は、低い熱膨張係数を実現するように好ましくは少なくとも9%、特に好ましくは15%を超える高いシリコン割合を有していることが特に好ましい。
【0009】
本発明によれば、スクリューロータ及び少なくとも1つのディスプレーサ要素は、出口圧力の5%~20%が存在する領域とロータの圧力側端部との間に少なくとも6の巻き、特には少なくとも8の巻き、特に好ましくは少なくとも10の巻きが設けられているように構成されている。ここでロータの圧力側端部はポンプ出口の領域である。ここで好ましい実施形態によれば、この領域における本発明に係る多数の巻きは、ロータ毎に設けられた1つの圧力側のディスプレーサ要素に設けられ得る。しかしながら、相当する数の巻きをこの圧力側領域に、例えば2つのディスプレーサ要素に設けることが更に可能である。本発明に従って運ばれる媒体の比較的低い圧縮のみが巻き毎に生じる領域に多数の巻きを、本発明に従って設けることにより、ロータの内部冷却を省略することが可能になる。特にこの領域の比較的低い圧縮により、圧縮に起因するこの領域におけるディスプレーサ要素の温度の上昇がより低いので、ロータの内部冷却の省略が可能になる。更に、ここでもこの領域における媒体の比較的高い密度のため、運ばれる媒体自体は、ディスプレーサ要素からハウジングへの高い熱放散をもたらす。
【0010】
更に多数の巻きの結果として、大きな表面積がハウジングへの熱交換に利用可能である。
【0011】
少なくとも6の巻き、特には少なくとも8の巻き、特に好ましくは少なくとも10の巻きが圧力側のディスプレーサ要素に設けられていることが特に好ましい。ここで、(出口圧力/圧力側のディスプレーサ要素前の中間圧力に等しい)圧力側のディスプレーサ要素によってもたらされる圧力比が20未満であり、特には10未満であり、特に好ましくは5未満であることが特に好ましい。従って、ポンプ出口で大気圧に圧縮すると、本発明によって設けられている最後の6の巻き、特には最後の8の巻き、特に好ましくは最後の10の巻きは20の圧力比で50mbar~1,000 mbarの圧縮を達成する。従って、10の圧力比で100 mbar~1,000 mbarの圧縮が生じ、5の圧力比で200 mbar~1,000 mbarの圧縮が生じる。
【0012】
出口圧力の5%~20%が存在する領域から搬送方向に最後の巻き、つまり実質的にポンプ出口までの距離は、好ましくはスクリューロータの長さの少なくとも20%~30%である。このため、比較的大きな領域で、非常に低い圧縮のみが依然として生じるという利点がある。このため、低い圧縮により温度の上昇が比較的低い。
【0013】
更に、本発明によって提供されているような内部冷却無しのスクリューロータの構成のため、最小で6の巻き、特には最小で8の巻き、特に好ましくは最小で10の巻きの圧力側のディスプレーサ要素は50mbarを超える平均作動圧力を有することが好ましい。ポンプの終圧動作、つまり、入口が閉じられた状態で、50mbarの(経時的に平均した)圧力がポンプのこの領域で達する。
【0014】
従って、本発明によれば、内部冷却無しのロータでも、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成されたハウジングの場合に、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成された少なくとも1つのディスプレーサ要素を用いて、少なくとも1つのディスプレーサ要素の表面とポンプチャンバの内側との間に、特には圧力側の領域に0.05mm~0.3 mmの範囲、特には0.1 mm~0.2 mmの範囲の高さを有する冷却間隙を設けることが可能である。このような比較的大きな間隙高さは、最後の6の巻き、特には最後の8の巻き、特に好ましくは最後の10の巻きの本発明に係る上述した構成のために設けられ得る。
【0015】
各ディスプレーサ要素は、ディスプレーサ要素の全長に沿って同一の外形を有する少なくとも1つの螺旋状の凹部を好ましくは有している。外形はディスプレーサ要素毎に異なっていることが好ましい。従って、夫々のディスプレーサ要素が一定のピッチ及び均一な外形を好ましくは有している。その結果、製造がかなり容易になるので、製造コストを大幅に下げることができる。
【0016】
吸込み能力を更に高めるために、吸込み側のディスプレーサ要素、つまり特に送出方向に見て最初のディスプレーサ要素の外形は非対称である。外形、つまり輪郭の非対称な形状によって、漏れ表面、いわゆるブローホールが好ましくは完全に除去されるか、又は少なくとも小さな断面を有するように、フランクが構成され得る。特に有用な非対称の輪郭は、いわゆる「クインビー輪郭」である。このような輪郭の製造が比較的難しくても、連続的なブローホールがないという利点がある。2つの隣り合うチャンバ間のみに短絡回路が存在する。輪郭が、異なる輪郭フランクを有する非対称の輪郭であるので、2つのフランクを非対称性故に2つの異なる作業工程で製造する必要があるため、その製造は少なくとも2つの作業工程を必要とする。
【0017】
圧力側のディスプレーサ要素、特に送出方向に見て最後のディスプレーサ要素は、好ましくは対称な外形を有して設けられている。対称な外形は、特に製造がより簡単になるという利点を有する。特に、対称な外形を有する両方のフランクは、回転式エンドミル又は回転式側フライスを使用することによって1つの作業工程で生成され得る。このタイプの対称な輪郭はブローホールを有するが、これらは連続して設けられており、つまり2つの隣り合うチャンバ間のみに設けられていない。ブローホールの大きさは、ピッチの減少と共に減少する。従って、好ましい実施形態によれば、圧力側のディスプレーサ要素が吸込み側のディスプレーサ要素より、好ましくは更に吸込み側のディスプレーサ要素と圧力側のディスプレーサ要素との間に配置されたディスプレーサ要素より小さなピッチを有するので、このような対称の輪郭が、特に圧力側のディスプレーサ要素のために設けられ得る。このような対称の輪郭の漏れ緊密性が幾分より低くても、このような対称の輪郭の製造は明らかにより簡単であるという利点がある。特に、対称の輪郭を単純なエンドミル又は側フライスを使用して1つの作業工程で生成することが可能である。そのため、コストが大幅に下げられる。特に有用な対称の輪郭は、いわゆる「サイクロイド輪郭」である。
【0018】
少なくとも2つのこのようなディスプレーサ要素を設けることにより、電源入力が低い一方、対応するスクリュー式真空ポンプが低い入口圧力を生成し得ることが可能になる。更に熱応力が低い。一定のピッチ及び均一な外形を有する、本発明に従って構成された少なくとも2つのディスプレーサ要素を真空ポンプに配置することにより、ピッチが変わるディスプレーサ要素を備えた真空ポンプのような同一の結果が実質的にもたらされる。高い特定の体積比の場合、3つ又は4つのディスプレーサ要素がロータに応じて設けられ得る。
【0019】
達成可能な入口圧力を下げるため、並びに/又は電源入力及び/若しくは熱応力を下げるため、特に好ましい実施形態によれば、圧力側のディスプレーサ要素、つまり特に送出方向に見て最後のディスプレーサ要素は多数の巻きを有している。多数の巻きにより、スクリューロータとハウジングとの間のより大きな間隙が受け入れられ得る一方、性能が同一のままである。ここでの間隙は、0.05~0.3 mmの範囲内の冷却間隙幅を有し得る。本発明によれば、圧力側のディスプレーサ要素は一定のピッチ、及び特に対称な外形も有するので、多数の出口巻き、ひいては圧力側のディスプレーサ要素の巻きの製造が安価である。このため、多数の巻きを設けることが受け入れ可能であるように、簡単且つ安価な製造工程が可能になる。この圧力側のディスプレーサ要素又は最後のディスプレーサ要素は、6を超える数の巻き、特に8を超える数の巻き、特に好ましくは10を超える数の巻きを有していることが好ましい。対称の輪郭を使用することにより、特に好ましい実施形態ではフライスを使用して輪郭の両方のフランクを同時的に切断することができるという利点がある。この工程では、フライスは夫々の反対側のフランクによって更に支持されるので、この工程中のフライスの変形又は撓み、及びその結果の不正確さが回避される。
【0020】
製造コストを更に下げるために、ディスプレーサ要素及びロータ軸が一体に形成されていることが特に好ましい。
【0021】
更なる好ましい実施形態によれば、隣り合うディスプレーサ要素間のピッチが非均一に変わっているか、又は急変している。任意には2つのディスプレーサ要素が長手方向に互いに離れて配置されているため、2つのディスプレーサ要素間に、ツール逃げゾーンとしての機能を果たす囲んでいるリング状の円筒形チャンバが形成されている。このため、ロータの領域で螺旋状のラインを生成するツールが簡単な方法で取り出され得るので、特に一体化された構成のロータで有利になる。ディスプレーサ要素が互いに独立して製造され、次に軸に取り付けられる場合、ツール逃げゾーン、特にこのようなリング状の円筒形領域を設ける必要がない。
【0022】
本発明の好ましい実施形態によれば、2つの隣り合うディスプレーサ要素間のピッチが変わる位置にツール逃げゾーンが設けられてない。ピッチが変わる領域では、好ましくは両方のフランクは、ツールが取り出され得るように空所又は凹部を有している。空所又は凹部が局所的であり、空所又は凹部の大きさが完全に制限されているので、このような空所はポンプの圧縮性能に著しい影響を及ぼさない。
【0023】
本発明の真空ポンプのスクリューロータは、特に複数のディスプレーサ要素を備えている。これらのディスプレーサ要素は夫々、同一の直径又は異なる直径を有し得る。この点において、圧力側のディスプレーサ要素の直径が吸込み側のディスプレーサ要素の直径より小さいことが好ましい。
【0024】
ロータ軸から独立して製造されたディスプレーサ要素の場合、ディスプレーサ要素は、例えば圧入によってロータ軸に取り付けられる。ここでは、ディスプレーサ要素を互いに対する角度位置で固定するためのダウエルピンのような要素を設けることが好ましい。
【0025】
特に、スクリューロータの一体化された構成の場合だけでなく、複数の要素が組み立てられた構成の場合にも、スクリューロータをアルミニウム又はアルミニウム合金から製造することが好ましい。ロータをアルミニウム又はアルミニウム合金、特にAlSi9Mg 又はAlMg0,7Si から製造することが特に好ましい。合金のシリコン割合は、好ましくは膨張係数を減少させるように9%を超えており、特には15%を超えている。
【0026】
本発明の更なる好ましい実施形態によれば、ロータに使用されるアルミニウムの膨張係数は低い。材料の膨張係数は22×10-6 1/K未満、特には20×10-6 1/K未満であることが好ましい。更なる好ましい実施形態によれば、ディスプレーサ要素の表面は覆われており、特に摩耗及び/又は腐食に対する被膜が設けられている。ここで適用分野に応じて、好ましくは陽極被膜又は別の適切な被膜が設けられている。
【0027】
スクリューロータが特にアルミニウム又はアルミニウム合金から一体に製造されていることが特に好ましい。スクリューロータは、少なくとも1つのディスプレーサ要素を支持するロータ軸を更に有し得る。このため、特に複数のディスプレーサ要素が設けられている場合、ディスプレーサ要素を互いに独立して製造することができ、その後、特にディスプレーサ要素を所定の位置に押し付けるか又は焼き嵌めすることによりロータ軸に連結するという利点がある。ここで、個々のディスプレーサ要素の角度位置を定めるために、嵌合ピンなどを設けることが可能である。ロータ軸は鋼から形成されて、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成された少なくとも1つのディスプレーサ要素を支持することができる。
【0028】
好ましくは複数のディスプレーサ要素をスクリューロータ毎に設ける場合、ディスプレーサ要素を一体化された部材として構成することが可能である。
【0029】
本発明によれば、スクリューロータの内部冷却を行わないことが好ましい。この点において、スクリューロータが、特には液体の冷却媒体が流れるチャネルを有していないことが特に好ましい。しかしながら、スクリューロータは、例えば重量を減らす、平衡を保つなどのために孔又はチャネルを有することができる。特に、スクリューロータが固体であることが好ましい。
【0030】
更に、圧力側のディスプレーサ要素の領域、つまり、特には最後の6の巻き、特に最後の8の巻き、特に好ましくは最後の10の巻きの領域に、温度の僅かな差がディスプレーサ要素とハウジングとの間に存在することが好ましい。通常動作では、この温度差が、好ましくは50 K未満であり、特には20 K未満である。通常動作は、終圧から開いた入口(大気の吸込み)までの吸込圧力範囲全体として理解されるべきである。
【0031】
更に、圧力側のディスプレーサ要素の領域、つまり、特には最後の6の巻き、特に最後の8の巻き、特に好ましくは最後の10の巻きの領域におけるハウジングは20,000W/m2未満、好ましくは15,000W/m2未満、特には10,000W/m2未満の平均熱流束密度を有していることが好ましい。平均熱流束密度は圧縮性能と出口領域の壁の表面積との比である。
【0032】
本発明を、好ましい実施形態により添付図面を参照して以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明のスクリュー式真空ポンプのスクリューロータの第1の好ましい実施形態を示す平面略図である。
【
図2】本発明のスクリュー式真空ポンプのスクリューロータの第2の好ましい実施形態を示す平面略図である。
【
図3】輪郭が非対称なディスプレーサ要素を示す断面略図である。
【
図4】輪郭が対称なディスプレーサ要素を示す断面略図である。
【
図5】スクリュー式真空ポンプを示す断面略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1及び
図2に示されているスクリューロータは、
図5に示されているようなスクリュー式真空ポンプで使用され得る。
【0035】
真空ポンプのスクリューロータの第1の好ましい実施形態によれば、スクリューロータは2つのディスプレーサ要素10, 12を備えている。第1の吸込み側のディスプレーサ要素10は、約10~150 mm/回転の大きなピッチを有する。ピッチは、ディスプレーサ要素10全体に沿って一定である。更に螺旋状の凹部の外形が一定である。第2の圧力側のディスプレーサ要素12もディスプレーサ要素12の長さに沿って一定のピッチ及び凹部の一定の外形を有する。圧力側のディスプレーサ要素12のピッチは、好ましくは10~30mm/回転の範囲内である。2つのディスプレーサ要素間に、リング状の円筒形凹部14が設けられている。前記円筒形凹部14は、
図1に示されているスクリューロータの一体化された構成を考慮して、ツール逃げゾーンを実現するという目的を有する。
【0036】
更に、一体化されたスクリューロータは2つの軸受座16及び軸端部18を有している。軸端部18には、例えば駆動するための歯車が連結されている。
【0037】
図2に示されている第2の好ましい実施形態では、2つのディスプレーサ要素10, 12が別々に製造され、その後、例えばディスプレーサ要素10, 12をロータ軸20に押し付けることによってロータ軸20に固定される。この製造方法は幾分より複雑かもしれないが、ツール逃げのために2つの隣り合うディスプレーサ要素10, 12間の円筒状の間隔14の必要性が取り除かれる。軸受座16及び軸端部18はロータ軸20の一体の構成要素になり得る。或いは、連続的な軸20が、ディスプレーサ要素10, 12の材料とは異なる別の材料から製造され得る。
【0038】
図3は、非対称の輪郭(例えばクインビー輪郭)の側面略図を示す。図示された非対称の輪郭はいわゆる「クインビー輪郭」である。断面図は、互いに噛合する2つのスクリューロータを示し、スクリューロータの長手方向が図面の面に対して垂直に延びている。ロータの反対方向の回転が、2つの矢印15によって示されている。ディスプレーサ要素の長手軸芯に垂直に延びている面17に関して、2つのフランク19, 21の輪郭は各ロータで異なる。従って、互いに対向するフランク19, 21を、互いに独立して製造する必要がある。しかしながら、この理由で幾分より複雑でより困難な製造では、貫通したブローホールが存在せず、2つの隣り合うチャンバ間に短絡回路のみが設けられるという利点がある。
【0039】
このような対称の輪郭は、好ましくは吸込み側のディスプレーサ要素10に設けられている。
【0040】
次に
図4の側面略図は、ここでも反対方向(矢印15)に回転する2つのディスプレーサ要素、ひいては2つのスクリューロータの断面図を示す。対称軸芯17に関して、フランク23は各ディスプレーサ要素で対称な構成を有している。
図4に示されている対称的に構成された外形の好ましい実施形態では、サイクロイド輪郭が使用されている。
【0041】
図4に示されているような対称の輪郭は、好ましくは圧力側のディスプレーサ要素12に設けられている。
【0042】
更に、3以上のディスプレーサ要素を設けることが可能である。これらのディスプレーサ要素は任意に異なる頭部直径及び対応する足部直径を有することが可能である。ここで、より大きな頭部直径を有するディスプレーサ要素が、入口、つまり吸込み側の領域でより大きな吸込み能力を実現する、及び/又は体積比を増加させるように、入口、つまり吸込み側に配置されていることが好ましい。更に、上述した実施形態の組合せが可能である。例えば、2以上のディスプレーサ要素が軸と一体に製造され得るか、又は追加のディスプレーサ要素が軸から独立して製造されて、次に軸に取り付けられ得る。
【0043】
本発明のスクリュー式真空ポンプの好ましい実施形態を示す
図5の概略図では、
図1に示されているような2つのスクリューロータがポンプハウジング26に配置されている。真空ポンプのポンプハウジング26は、ガスが矢印30の方向に吸い込まれる入口28を有している。入口28は、例えば媒体が排出されるチャンバに連結されている。ポンプハウジング26は、ガスが矢印38の方向に排出される圧力側の出口32を更に有している。プレ真空ポンプが出口32にこれ以上連結されないように、本発明のスクリュー式真空ポンプが大気に対して媒体を直接送るが、プレ真空ポンプが出口32に連結されることも可能であることが好ましい。
【0044】
図示された例示的な実施形態では、2つの圧力側のディスプレーサ要素12はスクリューロータ毎に10の巻きを有している。特に領域40に、つまり、搬送方向に見て圧力側のディスプレーサ要素12の最初の巻きの領域に出口32の圧力の5%~20%の圧力が存在する。
【0045】
2つの圧力側のディスプレーサ要素12の表面42と、ポンプハウジング26によって画定されたポンプチャンバ46の内面44との間に、高さが好ましくは0.05mm~0.3 mmの範囲内であり、特に0.1 mm~0.2 mmの範囲内である間隙が形成されている。
【0046】
図示された例示的な実施形態では、真空ポンプのポンプハウジング26が2つのハウジングカバー47によって閉じられている。
図5に示されている左側のハウジングカバー47は2つの軸受座を有しており、2つの軸受座には、2つのロータ軸を支持するために1つの玉軸受48が夫々配置されている。
図5の右側には、2つのスクリューロータのロータ軸の軸ジャーナル50がハウジングカバー47を通って延びている。2つの軸ジャーナル50は、軸ジャーナル50に配置された歯車52を外側に夫々有している。図示された例示的な実施形態では、歯車52は、2つのスクリューロータの相互同期のために互いに噛合する。更に、
図5に示されているように右側のハウジングカバー47にも、2つの軸受48がスクリューロータを支持するために配置されている。
【0047】
図5に示されている下側の軸は駆動軸であり、駆動軸は図示されていない駆動モータに連結されている。
【0048】
本発明に係る特に良好な結果を、従って特に好ましい以下の仕様によって得ることができる。
【0049】
ハウジングの材料 AlSi7Mg(鋳造、膨張係数22×10-6K-1)又は
AlMg0,7Si(押出し、膨張係数23×10-6K-1)
ロータの材料 AlSi9Mg(鋳造、膨張係数21×10-6K-1)又は
AlSi17Cu4Mg(鋳造、膨張係数18×10-6K-1)
ロータのシリコン割合 少なくとも9%、特に好ましくは15%を超える
ハウジング/ロータの熱膨張係数 少なくとも5%より大きく、特に好ましくは10
%より大きい
【0050】
吸込み側のディスプレーサ要素と圧力側のディスプレーサ要素との間の中間圧力:
圧力比
出口圧力/中間圧力
【0051】
【0052】
冷却間隙の高さ 0.05mm~0.3 mm
0.1 mm~0.2 mmが特に好ましい。