(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】圧電性高分子領域を含むフィルム
(51)【国際特許分類】
H01L 41/313 20130101AFI20220831BHJP
H01L 41/193 20060101ALI20220831BHJP
H01L 41/257 20130101ALI20220831BHJP
【FI】
H01L41/313
H01L41/193
H01L41/257
(21)【出願番号】P 2019540713
(86)(22)【出願日】2017-10-06
(86)【国際出願番号】 GB2017053040
(87)【国際公開番号】W WO2018069680
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-09-14
(32)【優先日】2016-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517054888
【氏名又は名称】ウニベルシテテット イ トロムソ-ノルゲス アークティスク ウニベルシテット
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】フランク、メランジュオ
(72)【発明者】
【氏名】サナト、ワグレ
(72)【発明者】
【氏名】アノワルル、ハビブ
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/073628(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101714608(CN,A)
【文献】特表2014-529752(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0031170(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0311012(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02919249(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0218663(US,A1)
【文献】国際公開第2013/004541(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/313
H01L 41/193
H01L 41/257
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回路シートに積層されたフィルムを含む積層素子であって、
上面と下面とを有するフィルムであって、前記フィルムは、(i)前記フィルムの前記上面から前記フィルムの前記下面まで延在する厚さを有し圧電性高分子を含む活性領域と、(ii)第1の接着シートとを含み、前記第1の接着シートが前記フィルムの前記上面または前記下面の一部を規定し、
前記第1の回路シートがポリマー層と金属層とを含み、
電極領域が前記金属層内に形成されており、前記電極領域は、前記フィルムの活性領域に隣接し、並びに、前記金属層内の前記電極領域に隣接するポリマー充填剤を含み、
前記第1の回路シートが、前記活性領域の外側で前記フィルムの前記第1の接着シートに接着される、積層素子。
【請求項2】
前記ポリマー充填剤は、前記電極領域の表面と同一平面上の表面を有し、並びに/あるいは、前記ポリマー充填剤および前記電極領域は、等しい厚さを有する、請求項1に記載の積層素子。
【請求項3】
前記ポリマー充填剤は、前記第1の回路シートが前記フィルムに積層される場合に前記第1の接着シートに接着するように配置されている、請求項1または請求項2に記載の積層素子。
【請求項4】
前記フィルムに積層された第2の回路シートを含み、前記フィルムが前記第1の回路シートと前記第2の回路シートとの間に位置する、請求項1から3のいずれか一項に記載の積層素子。
【請求項5】
前記活性領域が、前記活性領域全体にわたって前記フィルムの前記上面から前記下面まで延在し、並びに/あるいは、前記活性領域が前記
第1の接着シートによって囲まれており、並びに/あるいは、PVDFまたはPVDFのコポリマーを備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の積層素子。
【請求項6】
前記第1の接着シートが、前記フィルム内の前記活性領域の端面で前記活性領域と接する、請求項1から5のいずれか一項に記載の積層素子。
【請求項7】
前記第1の接着シートは、前記フィルムの前記上面から前記フィルムの前記下面まで延在する厚さを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の積層素子。
【請求項8】
前記第1の接着シートの面積の一部または全部にわたって、前記第1の接着シートが前記フィルムの前記上面から前記フィルムの前記下面まで延在しない、請求項1から6のいずれか一項に記載の積層素子。
【請求項9】
前記フィルムは、前記フィルムの前記下面または前記上面の一部を規定する第2の接着シートを含み、前記第2の接着シートと前記第1の接着シートとの間にある非接着シートをさらに含む、請求項8に記載の積層素子。
【請求項10】
前記第2の接着シートは、前記フィルム内の前記活性領域の端面で前記活性領域と接している、並びに、前記活性領域を囲んでいる、の少なくとも一方である、請求項9に記載の積層素子。
【請求項11】
前記第1の接着シートおよび前記第2の接着シートが、それぞれ前記フィルムの前記上面および前記下面の一部を規定する、請求項9または10に記載の積層素子。
【請求項12】
前記活性領域が圧電セラミック-ポリマー複合材料を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の積層素子。
【請求項13】
1または複数の前記第1の接着シートが、エポキシ接着剤、アクリル接着剤またはポリイミド接着剤を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の積層素子。
【請求項14】
前記フィルムは、各々が圧電性高分子を含んだ複数の離隔(spaced-apart)活性領域を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の積層素子。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の積層素子の製造方法であって、前記積層素子の製造方法は、前記第1の回路シートを前記フィルムに積層することを含み、
前記第1の回路シートを前記フィルムに積層することは、
前記フィルムの前記活性領域に隣接する前記第1の回路シートの前記電極領域を配置することと、
前記第1の回路シートを前記活性領域の外側で前記フィルムの第1の接着シートに接着することと、によって行われる、積層素子の製造方法。
【請求項16】
前記活性領域を少なくとも部分的に溶融させ、それによって前記電極領域と前記活性領域との間の接着を強めるように前記活性領域を加熱すること、
前記活性領域の少なくとも一部をポーリングする、および/または、アニールすること、
前記活性領域および/または前記電極領域にプラズマを印加すること、
前記活性領域および/または前記電極領域をカップリング剤で下塗りすること、のいずれか1つを含む、請求項15に記載の積層素子の製造方法。
【請求項17】
第2の回路シートを前記フィルムに積層することによって、前記フィルムが前記第1の回路シートと前記第2の回路シートとの間に位置するように
することを含む、請求項15または16に記載の積層素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型圧電素子に関し、積層型圧電素子を製造するための構成要素および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料は、機械的応力を受けた場合に電圧を発生し、マイクロフォンおよびセンサなどにおいて多くの用途を有している。圧電材料はまた、外部から印加された電圧を受けた場合に変形する可能性があるので、拡声器、モータ、アクチュエータなどとして使用することができる。いくつかの圧電材料はまた焦電効果を示し、圧電材料を赤外線検出器などの用途に使用することができる。圧電材料は、製造、自動車、電気通信、医療機器など、幅広い業界で使用されている。
【0003】
圧電素子は、圧電効果を示すことができるバルク結晶材料またはセラミック材料を伝統的に使用している。しかし最近になって、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのポリマー、およびポリ(ビニリデンフルオライド-コ-トリフルオロエチレン)(P(VDF-TrFE))などのコポリマーの使用が増えている。セラミックとは異なり、これらの圧電性高分子は可撓性である。圧電性高分子はまた、噴霧、スピンコーティングおよび浸漬コーティングなどの技術を使用して処理することができる。音響用途のために、圧電性高分子は、水、生物組織、およびポリマーなどの多くの他の材料との良好な音響整合をもたらす。圧電性高分子である必要はない圧電セラミック粒子(例えば、エポキシ樹脂)を(例えば粉末形態で)ポリマーに組み込む圧電複合材料によっても、同様の利点が得られる。本特許出願の目的のために、圧電セラミック-ポリマー複合材料は、一般用語「圧電性高分子」内に含まれると見なされるべきである。
【0004】
圧電性高分子は微細加工に非常に適している。このような素子を可撓性にすることができ、様々な感知用途に、および可撓性回路に組み込むのによく適したものにすることができる。
【0005】
圧電センサおよび圧電トランスデューサ用の現在の素子のほとんどは、圧電材料に直接取り付けられたか、または外部回路に取り付けられた導電性電極材料を使用している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ping Yuらによる「Flexible Piezoelectric Tactile Sensor Array for Dynamic Three-Axis Force Measurement」、Sensors第16巻、No.6:819
【文献】Takahashiによる「Properties and characteristics of P(VDF/TrFE)transducers manufactured by a solution casting method for use in the MHz-range ultrasound in air」、Ultrasonics第52巻(2012年)第422~126頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
直接装着の例は、市販の金属化圧電フィルムシートであり、この金属化圧電フィルムシートは、上面および/または底面が適合性銀インクなどの金属または1つ以上のスパッタ金属で被覆されたPVDFフィルムからなる。Ping Yuらによる「Flexible Piezoelectric Tactile Sensor Array for Dynamic Three-Axis Force Measurement」、Sensors第16巻、No.6:819に記載の通り、これらの金属層をエッチングして、回路に接続するための電極を作成してもよい。しかし、このようなエッチングは複雑であり、かつ環境的に有害な化学物質を含んでいる。電子回路を電極に接続すること(例えばワイヤボンディングまたは導電性接着剤によって)は、PVDF材料の温度制限のために複雑なことである。
【0008】
あるいは、製造工程中に外部回路を圧電材料に取り付けることができる。薄膜誘電接着層を使用して、圧電材料を回路材料または電極に接着することができる。圧電材料の内部の電界の著しい減少を回避するために、この接着層は薄くなければならない。接着剤はまた、他の材料の音響インピーダンスと整合することが必要な場合がある。これらの要件は、製造工程において満たすことが困難になりかねない。Takahashiによる論文「Properties and characteristics of P(VDF/TrFE)transducers manufactured by a solution casting method for use in the MHz-range ultrasound in air」、Ultrasonics第52巻(2012年)第422~426頁は、接着接合の課題を特定している。当該論文は、P(VDF/TrFE)がアルミニウム製バッキングプレート上に直接流延される代替的な手法を記載している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかし、本発明は異なる手法を取る。
【0010】
第1の態様では、本発明は、上面と下面とを有するフィルムを提供し、当該フィルムは、(i)フィルムの上面からフィルムの下面まで延在する厚さを有し圧電性高分子を含む活性領域と、(ii)接着シートとを含み、当該接着シートはフィルムの上面または下面の一部を規定または画定(define)する。
【0011】
第2の態様では、本発明は、回路シートに積層されたフィルムを含む積層素子を提供し、
フィルムは、(i)フィルムの上面からフィルムの下面まで延在する厚さを有し圧電性高分子を含む活性領域と、(ii)接着シートとを含み、当該接着シートはフィルムの上面または下面の一部を画定し、
回路シートはフィルムの活性領域に隣接する電極領域を含み、
回路シートは活性領域の外側でフィルムの接着シートに接着される。
【0012】
第3の態様では、本発明は、フィルムと回路シートとを含む積層素子を製造する方法を提供し、
フィルムは、(i)フィルムの上面からフィルムの下面まで延在する厚さを有し圧電性高分子を含む活性領域と、(ii)接着シートとを含み、当該接着シートはフィルムの上面または下面の一部を画定し、
回路シートは電極領域を含み、
当該方法は、回路シートをフィルムに積層することを含み、回路シートをフィルムに積層することは、
フィルムの活性領域に隣接する回路シートの電極領域を配置することと、
回路シートを活性領域の外側でフィルムの接着シートに接着することと
によって行われる。
【0013】
したがって本発明によれば、圧電性フィルムは、フィルムの厚さ内に圧電性活性領域と並んで接着シートを有することが当業者には理解されるであろう。いくつかの実施形態では、圧電性高分子の1つ以上の領域は、「島」を接着シート内に、および接着シートを介して形成してもよい。フィルムの上面および下面の少なくとも一方は、活性面積および別の接着領域を有する。これにより、フィルムと回路シートとの間に追加の接着層を塗布する必要なく、回路シートをフィルムに接着することが可能になる。特に、任意の接着層が介在することなく、回路シート上の電極がフィルムの活性面積または活性領域と直接接触することが可能になる。これにより、電極と活性領域との間の良好で一貫した電気的結合が保証される。また、マイクロフォンなどの特定の用途にとっても同様に重要となり得る良好な音響結合を、電極と活性領域との間に提供することができる。
【0014】
接着シートはフィルムを支持することもでき、フィルムの取扱いを容易にする。また、接着シートは、(接着シート自体で、または他の要素と組み合わせて)フィルムの厚さおよび大きさ、およびフィルム内の活性領域の厚さおよび大きさを画定してもよい。
【0015】
製造方法は、回路シートをフィルムに積層する場合に活性領域を加熱することを含んでもよいが、これは必須ではない。これにより、例えば活性領域を少なくとも部分的に溶融させ、かつ電極領域に向かって変形させることによって、活性領域を電極領域とより強く接着させることができる。このような加熱はまた、電極領域との界面における活性領域の均一性を改善することができる。(伝統的に適用された接着層を使用しないことが好ましいが、)電極領域は、好ましくは活性領域に接触し、好ましくは活性領域に接着される。
【0016】
活性領域が圧電効果を示す前に、(例えば、適切な温度条件下で活性領域の少なくとも一部にわたって強い電界を印加することによって)圧電性高分子を分極させる必要があることがあることが理解されるであろう。したがって、本明細書で使用される「圧電」という用語は、アニーリングおよび/またはポーリングなどの適切な処理後に圧電効果を与えることができる全ての材料を含むものであると理解されるべきである。
【0017】
フィルムは、任意の適切な厚さを有してもよい。しかし、いくつかの実施形態では、フィルムは、1マイクロメートル~1ミリメートルの厚さ、または5マイクロメートル~500マイクロメートルの厚さ、例えば約50マイクロメートルの厚さ(平均厚さ、または最大厚さもしくは最小厚さ、または一点における厚さ)を有する。フィルムは、好ましくは略均一な厚さであり、例えばフィルムの面積の少なくとも50%、75%、90%または100%にわたって、最大で±1%、±10%または±50%だけずれた厚さを有する。フィルムの上面および下面は任意の形状を有してもよく、いくつかの実施形態では、それら形状は矩形であってもよい。フィルムは任意の適切な大きさあってもよく、例えば長さが1、10または100センチメートル以上であってもよく、幅が1、10または100センチメートル以上であってもよい。フィルムは、好ましくは可撓性である。フィルムは、弛緩状態にある場合に略平坦な上面および/または下面を有してもよい。「上部」、「下部」、「長さ」および「幅」などの用語は便宜上使用されているに過ぎず、フィルムが水平配向で使用されることに限定することを意図するものではないことが理解されるであろう。いくつかの実施形態では、積層素子は可撓性である。
【0018】
フィルムは、接着シートおよび圧電性高分子以外の他の材料を含んでもよい。しかし、好ましい一連の実施形態では、接着シートおよびポリマーは一体となって、フィルムの質量の少なくとも50%、75%、90%もしくは100%を構成し、またはフィルムの上面または下面の表面積の少なくとも50%、75%、90%もしくは100%を構成する。
【0019】
活性領域は、フィルムが平らに置かれている場合にフィルムの平面内に、例えば正方形、矩形または円形の断面を有するなど、任意の適切な形状を有してもよい。活性領域は、活性領域の表面積の少なくとも90%にわたって、好ましくは全面積にわたって、フィルムの上面から下面まで延在することが好ましい。活性領域は、好ましくはフィルムの上面の活性面積を画定し、好ましくはフィルムの下面の活性面積を画定する。
【0020】
活性領域は、フィルムの厚さの少なくとも一部について、接着シートによって囲まれていることが好ましい。これにより、回路シートとの確実な接続が保証される。それによって接着シートはまた、フィルムの製造中および/または使用中(例えば活性領域が液相にある場合)に、活性領域を含む活性領域用の枠を提供することができる。しかし、接着シートが活性領域を完全に取り囲むことは必須ではない。
【0021】
接着シートは、接着シート自体の深さおよび/または面積にわたって、組成が実質的に均質であってもよい。
【0022】
接着シートは、好ましくは活性領域に接触する。接着シートは、フィルム内の活性領域の端面で活性領域と接していてもよい。この端面はフィルムの上面から下面まで延在してもよいが、必須ではない。端面は平面であってもよく、フィルムの上面または下面に対して垂直であってもよい。
【0023】
一連の実施形態では、接着シートは、フィルムの上面からフィルムの下面まで延在する厚さを有する。したがって、接着シートはフィルムの上面および下面の両方の一部を画定する。このような実施形態では、接着シートは、接着シートの少なくとも90%、好ましくは全体にわたってフィルムの上面から下面まで延在してもよく、すなわち、これにより、好ましくはフィルムは、接着剤シートが存在するフィルムの面積にわたって接着シートのみで構成されるかまたは実質的に接着シートで構成される。
【0024】
このようなフィルムは、例えば接着シートを貫通する穴を開けるかまたは当該穴を形成し、かつ接着シートと同じ厚さになるまで穴を圧電性高分子で充填することによって製造されてもよい。あるいは、接着シートを、圧電性高分子のスラブの周りに堆積するかまたは形成することができる。これらフィルムの製造方法は、本発明のさらなるそれぞれの態様である。
【0025】
別の一連の実施形態では、接着シートの面積の一部または全部にわたって、接着シートはフィルムの上面からフィルムの下面まで延在しない。回路シートをフィルムの片面のみに接着することが望ましい場合、これは適切な場合がある。また、追加の構造的支持を必要とすることがある厚い(例えば、50マイクロメートルを超える厚さを有する)フィルムにおいても有利な場合がある。したがっていくつかの実施形態では、フィルムは、フィルムの下面または上面の一部を画定する第2の接着シートを含み、好ましくは非接着材料の支持シート(例えば補強シート)、好ましくは第2の接着剤シートと第1の接着剤シートとの間にあるポリマーシートをさらに含む。支持シートは、第1の接着シートおよび/または第2の接着シートが占める全面積にわたって存在してもよく、またはこの面積の一部のみに存在してもよい。第2の接着シートは、好ましくは活性領域に接触する。第2の接着シートは、フィルム内の活性領域の端面で活性領域と接していてもよい。第2の接着シートは、活性領域を囲んでもよい。第1の接着シートおよび第2の接着シートは、好ましくはそれぞれフィルムの上面および下面の一部を画定する。
【0026】
活性領域は、好ましくはPVDFまたはP(VDF-TrFE)などのPVDFのコポリマーを含む。活性領域は、圧電性高分子のみで構成されてもよく、または圧電性高分子およびカップリング剤のみで構成されてもよい。しかし、他の実施形態では、活性領域は圧電性高分子と少なくとも1つの他の材料との混合物を含んでもよい。圧電性高分子は、圧電セラミック-ポリマー複合材料(例えば、Meggitt A/SによるPiezoPaint(商標)など)であってもよく、または圧電セラミック-ポリマー複合材料を含んでいてもよい。
【0027】
積層素子を製造することは、圧電セラミック粉末とポリマーとの混合物を溶融することを含んでもよい。
【0028】
製造方法はまた、活性領域の少なくとも一部をポーリングして圧電性高分子を分極させてもよい。これは、当技術分野で知られているように、活性領域の少なくとも一部にわたって電界を印加すること、および/または活性領域を加熱するかまたは冷却することによって達成することができる。電極領域は、電界を印加するために使用されてもよい。また、圧電性高分子を処理して相変化を活性化させること、例えばPVDFをアルファ相からベータ相に変化させることも必要な場合がある。これは、アニーリングと呼ばれる。コポリマーP(VDF-TrFE)を使用する場合、熱および圧力を一定期間(例えば、2~3時間)加えることによって、積層後にアニーリングを実施してもよい。
【0029】
いくつかの実施形態では、回路シートの活性領域および/または電極領域は、活性領域と電極領域との間の接着強度を高めるように処理されてもよい。可能な処理としては、プラズマ処理、化学プライマ、またはこれらの組合せが挙げられる。したがって製造方法は、プラズマまたは化学プライマを活性領域または電極領域に加えることを含んでもよい。例えば、活性領域および/または電極領域は、シランなどのカップリング剤(架橋剤とも呼ばれる)で下塗りされてもよい。このような処理は、活性領域と電極領域との間の電気的接続を改善することができる。したがっていくつかの実施形態では、活性領域はカップリング剤をさらに含んでもよい。カップリング剤は、好ましくは活性領域の表面に存在する。
【0030】
カップリング剤で活性領域の表面を下塗りすること、またはプラズマを使用して表面を処理することは、従来技術から知られているように、従来の接着層を圧電材料上に加えることとは非常に異なる。特に、活性領域のポリマー中のカップリング剤の架橋作用は、一般的な接着剤に伴うファンデワールス力または機械的作用よりもむしろイオン結合に依存する一般的な接着層の化学的相互作用とは異なる。例えば、シランカップリング剤は、一方端が有機側(例えばPVDFポリマー)によく結合するように調整される一方で、他方側が無機側(例えばAuのような電極材料)に強く結合するように調整される単一分子である。したがってカップリング剤は、好ましくは、わずか約1分子の厚さまたは約2分子の厚さで堆積される。このような単層を達成するために、好ましくはエタノールなどの溶液を使用して、回路シートの活性領域または電極領域から過剰なカップリング剤を洗浄する。
【0031】
カップリング剤は、好ましくは一般的な接着層よりもはるかに薄い。好ましくは、表面処理は、例えば積層素子において10、100または1,000ナノメートル未満の厚さを有する活性領域と電極領域との間の界面の周りの数分子層のみに影響を及ぼす。特に、カップリング剤層は、好ましくは下塗りされた活性領域全体にわたって、10、100または1,000ナノメートル以下、例えば約0.8nmの平均厚さまたは最大厚さを有する。任意の表面処理は非常に薄いので、活性領域内の電界をわずかに減少させるだけである。対照的に、従来のエポキシ接着剤またはアクリル接着剤は、このような層を作ることができる厚さが制限される非常に長い分子に重合する必要がある。このような接着剤が一般的に適用される方法はまた、(例えば1ミクロン未満の)均一な層を製造することを困難にする。
【0032】
接着シートは、エポキシ接着剤、アクリル接着剤またはポリイミド接着剤を含んでもよい。接着剤は、積層前に部分的にのみ硬化されてもよい。これは、フィルムの製造中に圧電性高分子を充填するための空隙の形成を容易にすることが分かった。接着シートは、Dupont(商標)製のPyralux(商標)LFシート接着剤を含んでもよい。
【0033】
回路シートは、ポリマー層と金属層とを含んでもよい。電極領域は、金属層に形成されていてもよい。電極領域は、フィルムの上面または下面上の活性領域の面積と実質的に同じ大きさおよび/または形状であってもよいか、または当該面積よりも小さいかまたは大きくてもよい。回路シート内の複数の電極領域は、1つの活性領域に接着されてもよい。回路シートは、任意の適切な材料を含んでもよい。回路シートは、PCBにおいて一般的に使用されているFR4などの複合材料を含んでもよい。しかしいくつかの実施形態では、回路シートは、等方性ポリマー、好ましくはポリイミド(PI)またはポリエチレンイミン(PEI)のような高いガラス転移温度を有するものを含んでもよい。これらは、等方性および/または低音響減衰のために好ましい場合がある。
【0034】
回路シートは、電極領域に隣接するかまたは電極領域を囲む(例えば、ポリイミド接着剤または高温エポキシを含む)ポリマー充填剤を含んでもよい。ポリマー充填剤は、電極領域の表面と同一平面上の表面を有してもよい。ポリマー充填剤および電極領域は、等しい厚さを有してもよい。ポリマー充填剤は、回路シートがフィルムに積層される場合に接着シートに接着するように配置されてもよい。このように回路シートの表面を平滑にするためにポリマー充填剤を使用することにより、回路シートのフィルムへの接着を改善することができる。
【0035】
回路シートは、フィルムの上面または下面に積層されてもよい。いくつかの実施形態では、積層素子は、フィルムの第1の回路シートとは反対側の面に積層されてもよい第2の回路シートを含む。第2の回路シートは、好ましくはフィルムの活性領域に隣接する第2の電極領域を含む。第1の回路シートおよび/または第2の回路シートの電極領域は、好ましくは、電源、電圧測定システム、増幅器、アナログドライバ、DAC、ADC、プロセッサ、DSP、ASIC、FPGA、抵抗器、コンデンサ、ワイヤ、ソケット、アンテナなどのうちのいずれか1つ以上を含んでもよい1つ以上の電気回路に接続するように配置される。これらの構成要素の一部または全部は、(例えば、回路シートの一方または他方の一部であるかまたは回路シートの一方または他方に接続されている)積層素子の一部であってもよく、または積層素子から分離されていてもよい。
【0036】
回路シートをフィルムに積層することは、回路シートおよびフィルムの一方または両方に熱および/または圧力を適切なレベルで適切な期間加えることを含んでもよい。
【0037】
フィルムは、例えば10または100以上の活性領域など、各々が圧電相を有するポリマーを含む複数の活性領域を含んでもよい。活性領域の各々は、上述の活性領域と同じ任意選択の特徴の一部または全部を有してもよい。活性領域は、好ましくはフィルム内で互いに離間しており、例えば接着シートによって分離されている。活性領域は、例えば矩形の配列などの規則的な格子に配置されてもよい。これは、アレイマイクロフォンまたはハイドロフォンなどのビーム形成トランスデューサ、またはアレイスピーカとしてフィルムを使用する場合に望ましい。
【0038】
積層素子は、例えば追加の回路層を間に挟んで積層された本明細書に記載の複数のフィルムを含んでもよい。積層素子は追加の回路シートを含んでもよく、追加の回路シートは、上部回路シートおよび/または下部回路シートに接着されてもよく、かつ、ビアを使用して上部回路シートおよび/または下部回路シートに電気的に接続されてもよい。
【0039】
積層素子は、マイクロフォン、ハイドロフォン、拡声器、赤外線センサ、アクチュエータ、電圧発生器、圧力センサ、微量てんびん、超音波ノズル、発振器、または他の適切な素子であってもよく、またはそれらの一部を形成してもよい。好ましい一連の実施形態では、積層素子は、例えば超音波を受信するためおよび/または送信するための単一のマイクロフォンもしくはアレイマイクロフォンまたは拡声器である。
【0040】
無接着剤界面を外部可撓性回路上に位置する圧電材料と電極との間に使用することは、電気信号の接続を単純化する。標準的な接着(接合)材料は、活性圧電領域の外側で使用することができる。これは、例えば全体的な接着強度を高め、かつ(例えば、ビア接続のための既知の解決策を用いることによって)異なる回路層間の接続を単純化するという点で利点があると考えられる。接着材料は様々な厚さで購入することができ、次いで積層工程のための「ストッパ」としても作用して、圧電フィルムの最終厚さを制御することができる。これは、積層方法において使用される外部の「停止」部品を必要とせずに温度および圧力のパラメータの制御を寛容にすることによって、積層工程を単純化することができる。
【0041】
本明細書に記載の任意の態様または実施形態の特徴は、適切な場合には、本明細書に記載の任意の他の態様または実施形態に適用されてもよい。異なる実施形態または一連の実施形態を参照する場合、これらは必ずしも異なるわけではなく重複してもよいことが理解されるべきである。
【0042】
本発明の特定の好ましい実施形態を、添付の図面を参照してほんの一例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明を具体化した圧電性フィルムの上面図である。
【
図2】上部回路シートおよび下部回路シートと組み合わせたフィルムの分解断面側面図である。
【
図5】フィルムおよび2つの代替回路シートを有する第1の変形例の分解断面側面図である。
【
図6】2つの回路シートと1つの代替フィルムとを有する第2の変形例の分解側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図面は縮尺通りではない。特に、層の厚さ(高さ)は大いに誇張されている。
【0045】
図1は、薄い矩形のポリフッ化ビニリデン(PVDF)2が接着シート3によって囲まれている可撓性の矩形のフィルム1を示している。
図1に示す矩形のフィルム1は、フィルム全体であってもよく、またはより大きなフィルムの一部であってもよく、このより大きなフィルムは、複数のPVDF矩形(例えばこのような矩形の規則な間隔を空けた矩形グリッド)を含んでいてもよい。
【0046】
図2は、
図1の線A-Aに沿ったフィルム1の側面図を示している。矩形のPVDF2および接着シート3は互いに同じ厚さであり、この厚さもまたフィルム1の厚さである。この厚さは5~50ミクロンであってもよい。部分的に硬化したエポキシ接着剤もしくはアクリル接着剤の均一な矩形のシートを作り、次いでその矩形を(例えばフライス削り、レーザー切断、または型抜きによって)切り抜き、PVDF2と置き換えることによってフィルム1を作製してもよい。
【0047】
可撓性上部回路シート4および可撓性下部回路シート5は、それぞれ、フィルム1の上およびフィルム1の下に示されており、フィルム1と平行に位置している。これらのシート4およびシート5は、見やすくするためにフィルム1と間隔を置いて示されている。しかし実際には、これらの回路シート4および回路シート5は、積層前にフィルム1と接触して配置され、積層後にフィルム1に接着される。
【0048】
上部回路シート4は、ポリイミド(PI)またはポリエチレンイミン(PEI)であってもよいポリマー層6を有する。パターン化された金属層は、ポリマー層の下面に堆積されるかまたはエッチングされている。この金属層は矩形電極7を含み、フィルム1のPVDF矩形2と(比較してより小さいが)整列している。
【0049】
下部回路シート5は、PIであってもPEIであってもよいポリマー層8を有する。パターン化された金属層は、ポリマー層の上面に堆積されるかまたはエッチングされている。この金属層は矩形電極9を含み、上部回路シート4の金属矩形7と整列している。
【0050】
図3は、上部回路シート4の下面を示している。電極7に加えて、パターン化された金属層は、フィルム1から離れて位置する構成要素を含んでもよい電気回路に電極7を接続するためのワイヤ10などの他の回路特徴を提供してもよい。
【0051】
図4は、下部回路シート5の上面を示している。これは、上部回路シート4上の電極7と同じ電気回路に電極9を接続するためのワイヤ11などの他の回路特徴を同様に含んでもよい。
【0052】
製造中、フィルム1は上部回路シート4と下部回路シート5との間に挟まれ、例えば加熱されたプレスまたはローラによって熱および圧力が加えられる。これにより、回路シート4および回路シート5のポリマー層6およびポリマー層8は、それぞれ、フィルム1の接着シート3の上面および下面に、矩形のPVDF2に隣接する場所を除くあらゆる場所で粘着する。代わりに、電極7および電極9は矩形のPVDF2と接触し、機構の組合せによって物理的かつ電気的に接触する。
【0053】
第一に、ポリマー層6およびポリマー層8が接着シート3に接着されると、回路シート4および回路シート5のポリマー層6およびポリマー層8の張力は電極7および電極9を矩形のPVDF2に押し付ける。
【0054】
第二に、積層中に、PVDF2を溶融させるかまたは融点に近づけるのに十分な熱がPVDF2に加えられ、PVDF2が冷却するにつれて、PVDF2は電極7および電極9の表面に密接に適合し、良好な接触が得られる。
【0055】
第三に、積層前に、電極7および電極9および/またはPVDF矩形2の露出面をプラズマおよび/またはシランなどの化学プライマで処理して、接着を改善してもよい。この表面処理は、好ましくはPVDF2における電界の減少を最小限に抑えるために、電極とPVDFとの界面の周りの数分子層のみに影響を及ぼす。
【0056】
積層後、電極7および電極9を使用して、PVDF2を圧電性にするようにPVDF2を分極させるために矩形のPVDF2にわたって電界を印加する。その後、積層素子は、必要に応じてマイクロフォン、拡声器、アクチュエータ、または他の構成要素もしくは回路として使用されてもよく、またはそれらに組み込まれてもよい。
【0057】
他の実施形態では、PVDF2の代わりに、接着手順に必要な温度および圧力、および可撓性回路4と可撓性回路5との間への埋込みに適合させることができる限り、異なる種類の圧電材料をフィルム1に使用してもよい。適用可能な圧電材料の例としては、P(VDF-TrFE)、他のPVDFのコポリマー、および1種以上のポリマーと混合されたセラミック粉末の複合材料が挙げられる。圧電材料は、積層プレスに挿入される場合に、例えば溶媒と混合された流体もしくはゲルなどの異なる初期形態を有することもできる。代わりに、圧電材料は、例えばペレット、粉末またはフィルムの形態などの固相にあってもよい。既に述べたように、積層中、圧電材料は少なくとも一部の積層サイクルの間、溶融相にあるかまたはほぼ溶融状態にあるべきであり、ここで、圧電材料は、可撓性回路4および可撓性回路5ならびに電極7および電極9に向かって変形して、外装材に対する十分に強固な接着性および均一性を提供することができる。
【0058】
図5は、同じフィルム1が代替の回路シート4’と回路シート5’との間に挟まれている変形実施形態を示している。矩形電極7’を含むパターン化された金属層内の空隙が充填材料12で充填されて、上部回路シート4’に平坦な下面を提供することを除いて、上部回路シート4’は
図1の上部回路シート4と同一である。これにより、フィルム1の上面への接着を向上させることができる。同様に、矩形電極9’を含むパターン化された金属層内の空隙が充填材料13で充填されて、下部回路シート5’に平坦な上面を提供することを除いて、下部上部回路シート5’は
図1の下部回路シート5と同一である。
【0059】
図6は、代替のフィルム14の構造体が上部回路シート4と下部回路シート5との間に挟まれている変形実施形態を示している。この変形例は、より厚い圧電領域、例えば50ミクロンを超える厚さが望まれる場合に特に適している。矩形のPVDF2”は、上部接着シート15、下部接着シート16、およびこれら上部接着シート15と下部接着シート16との間に挟まれた適切な可撓性ポリマー製の補強シート17を含む3層構造体によって囲まれている。フィルム14は、2枚の接着シートの完全な矩形を補強シートで積層し、次いで矩形の穴を切り抜いてPVDF2”で充填することによって形成されてもよい。変形例は追加の剛性を有し、フィルム14の取扱いを単純化することができる。
【0060】
本発明を、その1つ以上の特定の実施形態を記載することによって説明してきたが、当業者であれば、本発明はこれらの実施形態に限定されないこと、および、多くの変形および変更が添付の特許請求の範囲内で可能であることを理解するであろう。