(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】酸素を検出するための層
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20220831BHJP
C08J 9/36 20060101ALI20220831BHJP
C08J 9/28 20060101ALI20220831BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20220831BHJP
C08L 25/06 20060101ALI20220831BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20220831BHJP
C08L 33/26 20060101ALI20220831BHJP
C08L 41/00 20060101ALI20220831BHJP
C08L 29/10 20060101ALI20220831BHJP
C08K 5/3417 20060101ALI20220831BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20220831BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20220831BHJP
G01N 21/77 20060101ALI20220831BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20220831BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220831BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
G01N21/64 C
C08J9/36
C08J9/28 101
C08L27/16
C08L25/06
C08L33/06
C08L33/26
C08L41/00
C08L29/10
C08K5/3417
B01D69/00
B01D69/02
G01N21/77 A
G01N21/78 C
B32B27/30 D
B01D71/34
(21)【出願番号】P 2019541868
(86)(22)【出願日】2017-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2017076193
(87)【国際公開番号】W WO2018073120
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】102016119810.2
(32)【優先日】2016-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519139790
【氏名又は名称】ハミルトン ボナドゥズ エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】オルテガ シュルツ、クラウディウス-マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ショーンフス、ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ウィリ、スペラ
(72)【発明者】
【氏名】シモナト、サラ
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0102024(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0243618(US,A1)
【文献】国際公開第2013/142886(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/83
G01N 31/00-31/22
B01D 71/34
C08J 5/18
C08J 9/36
C08J 9/28
C08L 27/16
C08L 25/06
C08L 33/06
C08L 33/26
C08L 41/00
C08L 29/10
C08K 5/3417
B01D 69/00
B01D 69/02
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素分子を検出するための酸素透過性層であって、前記層は0.05μm~2μmの直径の孔と、少なくとも1つの粒子を有する担体材料とを有し、前記担体材料はポリフッ化ビニリデンまたはポリフッ化ビニリデンのコポリマーであり、前記粒子はポリマーまたはコポリマーを有し、前記粒子のポリマーまたはコポリマーは、前記粒子のポリマーまたはコポリマーに化学的に共有結合している、酸素分子を検出するための指標化合物を有する、酸素透過性層。
【請求項2】
請求項1に記載の層において、前記層が、10μm~300μmの厚さを有する、層。
【請求項3】
請求項1~2のいずれか1つに記載の層において、前記粒子が、第1のモノマー及び少なくとも第2のモノマーとしての指標化合物からなるコポリマーを有し、前記第2のモノマーがスチレン、一置換スチレン、多置換スチレン、ジビニルベンゼン、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ビスメタクリレート、アクリルアミド、ビス-アクリルアミド、ビニルスルホンアミド、O-ビニルエーテル、およびそれらの混合物からなる群から選択される、層。
【請求項4】
請求項3に記載の層において、前記指標化合物が式(I)の化合物であり、
式中、
MはPd
2+またはPt
2+であり、
各R
1は独立してCF
3またはHであり、
各R
2は独立して-(CH
2)
n-R
3またはHであり、少なくとも1つのR
2は-(CH
2)
n-R
3であり、
各R
3は、独立して、オルト-スチリル、メタ-スチリル、パラ-スチリル、ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレート、メタクリレート、ビニルスルホネート、またはビニルスルホンアミドであり、
R
3がビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレート、メタクリレート、ビニルスルホネート、またはビニルスルホンアミドである場合、nは0~12の整数であり、
R
3がオルト-スチリル、メタ-スチリル、またはパラ-スチリルである場合、nは1~12の整数である、層。
【請求項5】
請求項3に記載の層において、前記指標化合物が式(II)の化合物であり、
式中、
MはPd
2+またはPt
2+であり、
各R
1は独立してCF
3またはHであり、
各R
2は独立して-(CH
2)
n-R
3またはHであり、少なくとも1つのR
2は-(CH
2)
n-R
3であり、
各R
3は、独立して、オルト-スチリル、メタ-スチリル、パラ-スチリル、ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレート、メタクリレート、ビニルスルホネート、またはビニルスルホンアミドであり、
nは1~12の整数である、層。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載の層において、前記粒子が、0.1μm~50μmの平均粒径を有する、層。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載の層において、複数の粒子が前記担体材料中に含まれ、前記粒子が好ましくは前記担体材料中に均一に分布している、層。
【請求項8】
酸素分子を検出するための多層システムであって、前記多層システムは少なくとも第1の酸素透過性層と第2の酸素透過性層とを有し、前記第1の層は請求項1~7のいずれか1つに記載の層であり、前記第2の層は酸素分子を検出するための指標化合物を含まない、
多層システム。
【請求項9】
前記第2の層が多孔質ポリフッ化ビニリデンからなる、請求項8に記載の多層システム。
【請求項10】
前記第2の層が白色に着色されている、請求項8または9に記載の多層システム。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1つに記載の層を製造する方法であって、
(a)担体材料と少なくとも1つの粒子とを有する混合物を提供する工程であって、前記担体材料はポリフッ化ビニリデンまたはポリフッ化ビニリデンのコポリマーであり、前記粒子はポリマーまたはコポリマーを有し、前記粒子のポリマーまたはコポリマーは、溶媒中の酸素分子を検出するための化学的に共有結合した指標化合物を有し、前記溶媒は、前記担体材料が実質的に溶解するものの、前記粒子が実質的に溶解しないように選択される、前記提供する工程と、
(b)前記混合物を攪拌しながら約15℃~約25℃の温度で均質化する工程と、
(c)ナイフコーティングによって前記混合物をキャリア箔に塗布する工程と、
(d)暗所で約15℃~約25℃の温度の非溶媒中に工程(c
)においてコーティングされたキャリア箔を浸漬することによって前記層を析出させる工程と、
(e)前記層を乾燥する工程と
を有する、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記溶媒が、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、またはジメチルスルホキシドである、方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の方法において、前記非溶媒が、脱イオン水、メタノール、エタノール、ブタノール、またはそれらの混合物である、方法。
【請求項14】
酸素分子を検出するための、請求項1~7のいずれか1つに記載の層または請求項8~10のいずれか1つに記載の多層システムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素分子を検出するための酸素透過性層に関する。本発明はさらに、酸素分子を検出するための多層システムに関する。本発明はさらに、前記層を製造する方法、および酸素分子を検出するための層または多層システムの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発光指標化合物は、酸素分子の光学的検出に使用される。当該指標化合物は、特定の波長の光を照射することによって励起することができ、吸収された光エネルギーの一部を異なる波長を有する発光放射線として放出することができる。酸素の存在下では、当該指標化合物の発光は動的に消光され、励起された指標化合物からのエネルギーは無放射的に酸素に伝達される。試験媒体に溶解した酸素の量は、指標化合物の消光または発光の減少に基づいて決定することができる。この目的のために、発光消光は、例えば発光減衰時間の測定によって、またはいわゆる位相変調技術によって検出される。適切な較正により、試験媒体中の酸素濃度は、シュテルン-フォルマー式によって記述される関係を使用して決定することができる。
【0003】
酸素分子の定量化のために、指標化合物は多くの場合、混合または他の組み込み技術によって酸素透過性層(膜)に埋め込まれるか、またはそのような層に物理的に吸着される。センサー層とも呼ばれるこの層は、担体材料としてシリコーンまたはポリジメチルシロキサンを有することが多く、一般にゾルゲル法によって製造される。しかしながら、ゾルゲル法によって製造された層は機械的に不安定であり、そのためそれらは容易に破壊され得る。
【0004】
多くの応用分野において、センサー層は化学的ストレスに対して安定でなければならない。
【0005】
現在一般的な層は、いくつかの化学物質が層内に拡散し、物理的に吸着された指標化合物をポリマー層から溶解する可能性があるため、様々な化学物質における用途には適していない。指標化合物が層から溶出すると、動作時間が長くなるにつれて酸素測定の質が低下し、層の動作時間が制限される。
【0006】
したがって、酸素測定の一貫した品質を保証し、層の動作時間を延ばすためには、層の高い化学的安定性が必要である。
【0007】
さらに、所望の酸素含有量から逸脱した場合に直ちに介入することができるようにするために、気体または液体中の酸素分子の量をリアルタイムで監視しなければならない用途がある。これらには、例えば、飲料水中の酸素含有量、溶媒、または溶媒含有ガスの試験が含まれる。そのような用途には、極めて短い応答時間を有するセンサー層が必要とされる。
【0008】
したがって、高い化学的安定性および熱的安定性を有し、異なる化学物質への適用を可能にし、かつ非常に短い応答時間を有する酸素分子を検出するための層が必要とされている。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 米国特許出願公開第2007/243618号明細書
(特許文献2) 国際公開第2013/142886号
(特許文献3) 英国特許出願公開第2132348号明細書
(特許文献4) 米国特許出願公開第2013/102024号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、酸素分子を検出するための酸素透過性層に関し、前記層は少なくとも1つの粒子を有する担体材料を有し、前記担体材料は、ポリフッ化ビニリデンまたはポリフッ化ビニリデンのコポリマーであり、前記粒子はポリマーまたはコポリマーを有し、前記粒子のポリマーまたはコポリマーは、酸素分子を検出するための化学的に共有結合した指標化合物を有する。
【0010】
本発明はさらに、酸素分子を検出するための多層システムに関し、前記多層システムは少なくとも第1の酸素透過性層と第2の酸素透過性層とを有し、前記第1の層は本発明の層であり、前記第2の層は酸素分子を検出するための指標化合物を有さない。
【0011】
本発明はさらに、本発明の層を製造する方法に関し、この方法は、
(a)担体材料と少なくとも1つの粒子とを有する混合物を提供する工程であって、前記担体材料はポリフッ化ビニリデンまたはポリフッ化ビニリデンのコポリマーであり、前記粒子はポリマーまたはコポリマーを有し、前記粒子のポリマーまたはコポリマーは、溶媒中の酸素分子を検出するための化学的に共有結合した指標化合物を有し、前記溶媒は、前記担体材料が実質的に溶解するものの、前記粒子が実質的に溶解しないように選択される、前記提供する工程と、
(b)前記混合物を攪拌しながら約15℃~約25℃の温度で均質化する工程と、
(c)ナイフコーティングによって前記混合物をキャリア箔に塗布する工程と、
(d)暗所で約15℃~約25℃の温度の非溶媒中に工程(c)からの前記コーティングを有するキャリア箔を浸漬することによって前記層を析出させる工程と、
(e)前記層を乾燥する工程と
を有する。
【0012】
さらに、本発明は、酸素分子を検出するための本発明の層または本発明の多層システムの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の層を用いた酸素分子の測定を示す。
【
図2】
図2は、本発明の層および本発明の多層システムを用いた、異なる酸素濃度での強度の測定を示す。
【
図3】
図3は、本発明の多層システムを用いた酸素分子の測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の観点において、本発明は、酸素分子を検出するための酸素透過性層に関し、前記層は、少なくとも1つの粒子を有する担体材料を有し、前記担体材料は、ポリフッ化ビニリデンまたはポリフッ化ビニリデンのコポリマーであり、前記粒子はポリマーまたはコポリマーを有し、前記粒子のポリマーまたはコポリマーは酸素分子を検出するための化学的に共有結合した指標化合物を有する。
【0015】
本発明による層は酸素透過性であり、したがって酸素分子の検出に適している。担体材料は、ポリフッ化ビニリデンまたはポリフッ化ビニリデンのコポリマーである。ポリフッ化ビニリデンは、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)とも呼ばれ、複数の溶媒に対して高い化学的安定性を有する。本明細書で使用される「化学的安定性」という用語は、化合物、ポリマー、コポリマー、粒子、および他の材料の化学物質の影響に対する耐性を指す。担体材料としてポリフッ化ビニリデンまたはポリフッ化ビニリデンのコポリマーを使用するため、前記層は複数の溶媒に対して高い化学的安定性を有する。
【0016】
本明細書で使用される「コポリマー」という用語は、2つ以上の異なるモノマーからなるポリマーを指す。
【0017】
好ましい実施形態では、ポリフッ化ビニリデンのコポリマーはポリ(フッ化ビニリデン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)である。
【0018】
少なくとも1つの粒子が前記担体材料に含まれる。前記粒子は前記担体材料に機械的に固定化されている。
【0019】
前記粒子はポリマーまたはコポリマーを有し、前記粒子のポリマーまたはコポリマーは酸素分子を検出するための化学的に共有結合した指標化合物を有する。本明細書で使用される「指標化合物」という用語は、酸素分子の存在に応答して光学特性の検出可能な変化を示す化合物を指す。酸素分子を検出するための既知の指標化合物の例は、ルテニウム錯体、並びに例えば白金(II)メソ-テトラキス(ペンタフルオロフェニル)テトラベンゾポルフィリン、およびパラジウム(II)メソ-テトラキス(ペンタフルオロフェニル)テトラベンゾポルフィリンのような非金属化および金属化ポルフィリンである。
【0020】
好ましい実施形態では、前記粒子のコポリマーはターポリマーであり、これは3つの異なるモノマーまたはモノマー単位からなるコポリマーである。
【0021】
好ましい実施形態において、前記粒子は実質的にまたは完全にポリマーまたはコポリマーからなる。
【0022】
層に物理的に吸着されるかまたは層の担体材料に埋め込まれる指標化合物は、特に100℃を超える温度で有機溶媒中に適用する場合には、ポリマー層材料から溶出する可能性がある。結果として、酸素測定の品質は動作時間の増加と共に低下し、層の動作寿命はかなり短くなる。さらに、測定システムは化学的および熱的ストレスの後に再較正する必要がある。しかしながら、特に化学産業における爆発性有機溶媒-酸素混合物の監視の場合、または油性の天然物質または食品の低温殺菌の場合においては、繰り返しおよび長期間の化学的および熱的ストレスに持ちこたえる層の能力が最も重要である。
【0023】
ポリマーまたはコポリマー中の指標化合物の共有結合により、層からの前記化合物の溶解が防止される。他の要因の中でも、指標化合物の移動性は粒子への共有結合によって妨げられ、層からの前記化合物の輸送は著しく困難になる。このため、本発明による層を使用する場合、これまで使用されていた層とは対照的に、高温での化学的ストレス後の測定システムの再較正を実施する必要はない。
【0024】
前記層の高い化学的および熱的安定性は、100℃を超える温度においてさえも、例えばn-ヘプタン、エタノール、アセトニトリル、ジクロロメタン、およびアセトンのような有機溶媒中の酸素の測定のためのその使用を可能にする。
【0025】
前記層の安定性のために、酸素測定の一貫した品質が保証され、前記層の動作時間が増加する。したがって、長期安定性および多様な適用可能性を有する酸素測定システムは、前記層の使用を通して提供され得る。
【0026】
さらに、前記ポリマーまたはコポリマー中の前記指標化合物の共有結合は、位相反転法による前記層の製造を容易にする。この方法では、前記担体材料を最初に例えばN-メチルピロリドンのような溶媒に溶解し、少なくとも1つの粒子と接触させる。N-メチルピロリドンなどの溶媒は、粒子のポリマーまたはコポリマーから非共有結合した指標化合物を溶解することができる。結果として、その指標化合物の光化学的性質は、好ましくない方法で変化し得る。前記粒子のポリマーまたはコポリマーは化学的に共有結合した指標化合物を有するため、前記指標化合物が溶出するのが防止される。結果として、位相反転法を用いて信頼性のある方法で本発明による層を製造することが可能である。
【0027】
既知のセンサー層を製造するために使用されるゾルゲル法と比較して、位相反転法はより良好な再現性を有する。さらに、ゾルゲル法によって製造された層は機械的に不安定であり、そのため表面へのわずかな損傷でさえ層を破壊することがある。これとは対照的に、本発明による層は良好な機械的安定性を有しているため、この層は複数の適用分野で使用することができる。
【0028】
要約すると、本発明による層は、既知の層と比較してより高い機械的安定性、化学的安定性、および熱安定性を有する。
【0029】
好ましい実施形態では、前記層は位相反転法によって製造される。良好な再現性に加えて、位相反転法の他の利点は、ポリフッ化ビニリデンおよびポリフッ化ビニリデンのコポリマーが位相反転法によって製造された場合に多孔質構造を有するという事実にある。したがって、位相反転法によって製造された本発明による層は孔を有する。本明細書で使用される「孔」という用語は、層内の空洞を指し、この空洞は少なくとも50nmのサイズまたは直径を有する。前記層の酸素透過性は前記孔のために増加する。これにより、前記層の応答時間が短縮される。
【0030】
本発明者らは、位相反転法によって製造された本発明による層は非常に短い応答時間を有することを見出した。本明細書で使用される「応答時間」という用語は応答時間t90を指し、これは最終シグナル強度の0%から90%へのシグナル上昇の持続時間、または100%から10%へのシグナル減少の持続時間を表す。本発明者らは、酸素分圧33~200ミリバールの位相反転法によって製造された層の応答時間は42~84msであると判断した。したがって、前記層の応答時間は100msよりも短くなる。その結果、前記層は、気体または液体中の酸素分子の量をリアルタイムで監視しなければならない用途に特に適している。この層は、例えば爆発性混合物の監視に使用することができる。
【0031】
前記層の短い応答時間は、気体中の酸素分子の量を測定するのに特に有利である。
【0032】
前記層中の孔の直径が大きいほど、前記層の酸素透過性は高い。孔の最大サイズは、前記担体材料に機械的に保持されている粒子のサイズに依存する。
【0033】
好ましい実施形態では、前記層は、約0.05μm~約2μm、好ましくは約0.1μm~約1μm、さらに好ましくは約0.2μm~約0.5μm、さらに好ましくは約0.45μm~約0.5μm、さらに好ましくは約0.45μmの直径を有する孔を有する。この孔径では、前記層は非常に良好な酸素透過性を有し、粒子は担体材料中に特に良好に捕捉されたままである。
【0034】
指標化合物をセンサー層の担体材料中の適切に官能化されたポリマーに結合させることによって、この指標化合物を前記担体材料に直接、化学的に結合させる可能性が知られている。しかしながら、これは指標化合物の化学的修飾を必要とし、その結果として化合物の光安定性は好ましくない方法で変化し得る。本発明による層において、指標化合物は層の担体材料に直接結合していない。代わりに、本発明による層中の指標化合物は粒子のポリマーまたはコポリマー中にのみ存在する。結果として、化合物の光安定性は、センサー層の製造中に保存される。化合物の光安定性は、特に光強度が高い用途や長時間の測定に重要である。さらに、カップリングのために官能化された層のポリマーは、指標化合物がカップリング部位に到達することができるように特定の溶媒膨潤能を有しなければならない。官能化ポリマーが層の製造中にあまりにも高度に架橋されると、それらは膨潤能力を失うので、指標化合物の直接カップリングの場合にはポリマー層材料の架橋度は制限される。これとは対照的に、指標化合物を有するポリマーまたはコポリマーを含む粒子の使用は、適用領域に応じて所望どおりに層の担体材料の架橋度を設計することを容易にする。
【0035】
酸素分子の定量化のために、前記層を透明基板、例えば透明箔に固定することができる。例えば、励起光源、光検出器、適切な光学フィルター、および分析電子機器を有する光学システムを、透明基板の後ろに配置することができる。励起光および放射光もまた導光体を通して伝達することができる。励起光源は、例えば発光ダイオード(LED)とすることができる。光検出器は通常フォトダイオードからなる。
【0036】
好ましい実施形態では、前記層は、約10μm~約300μm、好ましくは約50μm~約250μm、さらに好ましくは約80μm~約200μmの厚さを有する。
【0037】
好ましい実施形態では、前記粒子は、第1のモノマーおよび少なくとも第2のモノマーとしての指標化合物からなるコポリマーを有し、前記第2のモノマーは、スチレン、一置換スチレン、多置換スチレン、ジビニルベンゼン、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ビスメタクリレート、アクリルアミド、ビス-アクリルアミド、ビニルスルホンアミド、O-ビニルエーテル、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0038】
一置換スチレンは、例えば、オルト-ビニルトルエン、メタ-ビニルトルエン、パラ-ビニルトルエン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン(2-フェニルプロペン)、β-メチルスチレン(1-プロペニルベンゼン)、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、メタ-イソプロピルスチレン、パラ-イソプロピルスチレン、メタ-イソブチルスチレン、パラ-アミノスチレン、またはパラ-アセチルスチレンであり得る。
【0039】
多置換スチレンは、例えば、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、2,4,5-トリメチルスチレン、または2,4,6-トリメチルスチレンであり得る。
【0040】
ジビニルベンゼンは、オルト-ジビニルベンゼン、メタ-ジビニルベンゼン、パラ-ジビニルベンゼン、またはオルト-、メタ-、およびパラ-ジビニルベンゼンの混合物であり得る。ジビニルベンゼンは、好ましくは、メタ-ジビニルベンゼン、パラ-ジビニルベンゼン、またはメタ-およびパラ-ジビニルベンゼンの混合物である。
【0041】
アルキルアクリレートは、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレートイソブチルアクリレート、ビス-(ジメチルアミノ)-イソプロピルアクリレート、または1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルアクリレートであり得る。
【0042】
アルキルメタクリレートは、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ビス-(ジメチルアミノ)-イソプロピルメタクリレート、または1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートであり得る。
【0043】
ビスアクリルアミドは、N,N’-メチレンビスアクリルアミドとも呼ばれる。
【0044】
O-ビニルエーテルは、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、アリルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、またはブタンジオールジビニルエーテルであり得る。
【0045】
好ましい実施形態において、前記第2のモノマーはスチレンとジビニルベンゼンとの混合物である。
【0046】
コポリマーの性質、例えばコポリマーの架橋度は、第2のモノマーから選択するのに利用できる単位の異なる化学的性質を通して制御することができる。
【0047】
特に好ましい実施形態では、前記粒子のコポリマーはターポリマーであり、これは第1のモノマー、第2のモノマー、および第3のモノマーとしての指標化合物からなる。好ましくは、第2のモノマーはスチレン、一置換スチレン、多置換スチレン、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、アクリルアミド、ビニルスルホンアミド、およびO-ビニルエーテルからなる群から選択され、第3のモノマーはジビニルベンゼン、ビスメタクリレート、およびビス-アクリルアミドからなる群から選択される。この場合、第3のモノマーは架橋剤として働く。
【0048】
好ましい実施形態では、前記指標化合物は式(I)の化合物であり、
【化1】
式中、
MはPd
2+またはPt
2+であり、
各R
1は独立してCF
3またはHであり、
各R
2は独立して-(CH
2)
n-R
3またはHであり、少なくとも1つのR
2は-(CH
2)
n-R
3であり、
各R
3は、独立して、オルト-スチリル、メタ-スチリル、パラ-スチリル、ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレート、メタクリレート、ビニルスルホネート、またはビニルスルホンアミドであり、
R
3がビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレート、メタクリレート、ビニルスルホネート、またはビニルスルホンアミドである場合、nは0~12の整数であり、
R
3がオルト-スチリル、メタ-スチリル、またはパラ-スチリルである場合、nは1~12の整数である。
【0049】
式(I)の化合物は、例えば、
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(3-(4-ビニルフェニル)プロピル)フェニル)-テトラベンゾポルフィリン、
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(5-メタクリルアミドペンチル)フェニル)-テトラベンゾポルフィリン、
パラジウム(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(5-メタクリルアミドペンチル)フェニル)-テトラベンゾポルフィリン、
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(6-アクリロイルオキシヘキシル)フェニル)-テトラベンゾポルフィリン、または
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(p-ビニルフェニル)-テトラベンゾポルフィリン
であり得る。
【0050】
式(I)の化合物は、例えば、
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(4-アクリロイルオキシブチル)フェニル)-22,72,122,172-テトラ(トリフルオロメチル)-テトラベンゾポルフィリン、
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(4-アクリロイルオキシブチル)フェニル)-22,73,122,173-テトラ(トリフルオロメチル)-テトラベンゾポルフィリン、
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(4-アクリロイルオキシブチル)フェニル)-22,72,123,173-テトラ(トリフルオロメチル)-テトラベンゾポルフィリン、および
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(4-アクリロイルオキシブチル)フェニル)-22,72,122,173-テトラ(トリフルオロメチル)-テトラベンゾポルフィリン
の位置異性体混合物であり得る。
【0051】
式(I)の化合物は、例えば、
パラジウム(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(3-アクリルアミドプロピル)フェニル)-22,72,122,172-テトラ(トリフルオロメチル)-テトラベンゾポルフィリン、
パラジウム(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(3-アクリルアミドプロピル)フェニル)-22,73,122,173-テトラ(トリフルオロメチル)-テトラベンゾポルフィリン、
パラジウム(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(3-アクリルアミドプロピル)フェニル)-22,72,123,173-テトラ(トリフルオロメチル)-テトラベンゾポルフィリン、
パラジウム(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(3-アクリルアミドプロピル)フェニル)-22,72,122,173-テトラ(トリフルオロメチル)-テトラベンゾポルフィリン、
の位置異性体混合物であり得る。
【0052】
式(I)の化合物が化学的に共有結合しているコポリマーは、例えば、ポリ(白金(II)-5,10,15,20-テトラ(p-ビニルフェニル)-テトラベンゾポルフィリン-コ-ジビニルベンゼン)である。
【0053】
式(I)の化合物が化学的に共有結合しているターポリマーは、例えば、ポリ(白金(II)-5,10,15,20-テトラ(p-ビニルフェニル)-テトラベンゾポルフィリン-コ-スチレン-コ-ジビニルベンゼン)またはポリ(白金(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(6-アクリロイルオキシヘキシル)フェニル)-テトラベンゾポルフィリン-co-スチレン-co-ジビニルベンゼン)である。
【0054】
好ましい実施形態では、前記指標化合物は式(II)の化合物であり、
【化2】
式中、
MはPd
2+またはPt
2+であり、
各R
1は独立してCF
3またはHであり、
各R
2は独立して-(CH
2)
n-R
3またはHであり、少なくとも1つのR
2は-(CH
2)
n-R
3であり、
各R
3は、独立して、オルト-スチリル、メタ-スチリル、パラ-スチリル、ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレート、メタクリレート、ビニルスルホネート、またはビニルスルホンアミドであり、
nは1~12の整数である。
【0055】
式(II)の化合物は、例えば、
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(4’-(3-アクリルアミドプロピル)-2,3,5,6-テトラフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-テトラベンゾポルフィリン、
パラジウム(II)-5,10,15,20-テトラ(2,3,5,6-テトラフルオロ-4’-(メタクリロイルオキシ)-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-テトラベンゾポルフィリン、
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(2,3,5,6-テトラフルオロ-4’-ビニル-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-テトラベンゾポルフィリン、または
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(2,3,5,6-テトラフルオロ-4’-(ウンデカ-10-エン-1-イル)-[1,1’-ビフェニル]-4)-イル)-テトラベンゾポルフィリン
であり得る。
【0056】
式(II)の化合物は、例えば、
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(2,3,5,6-テトラフルオロ-4’-ビニル-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-22,72,122,172-テトラ(トリフルオロメチル)-テトラベンゾポルフィリン、
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(2,3,5,6-テトラフルオロ-4’-ビニル-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-22,72,123,173-テトラ(トリフルオロメチル)-テトラベンゾポルフィリン、
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(2,3,5,6-テトラフルオロ-4’-ビニル-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-22,73,122,173-テトラ(トリフルオロメチル)-テトラベンゾポルフィリン、および
白金(II)-5,10,15,20-テトラ(2,3,5,6-テトラフルオロ-4’-ビニル-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-22,72,122,173-テトラ(トリフルオロメチル)-テトラベンゾポルフィリン
の位置異性体混合物であり得る。
【0057】
式(II)の化合物が化学的に共有結合しているコポリマーは、例えば、ポリ(白金(II)-5,10,15,20-テトラ(4’-(3-アクリルアミドプロピル)-2,3,5,6-テトラフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-テトラベンゾポルフィリン-コ-ジビニルベンゼン)である。
【0058】
式(II)の化合物が化学的に共有結合しているターポリマーは、例えば、ポリ(白金(II)-5,10,15,20-テトラ(4’-(3-アクリルアミドプロピル)-2,3,5,6-テトラフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-テトラベンゾポルフィリン-コ-スチレン-コ-ジビニルベンゼン)、またはポリ(パラジウム(II)-5,10,15,20-テトラ(2,3,5,6-テトラフルオロ-4’-(メタクリロイルオキシ)-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-テトラベンゾポルフィリン-コ-スチレン-コ-ジビニルベンゼン)である。
【0059】
式(I)および(II)の化合物は、本発明による層のための指標化合物として特に適している。R3は、前記化合物の重合、特にフリーラジカル重合を可能にする重合性単位である。結果として、前記化合物はコポリマー中で共有結合することができる。重合反応は、フリーラジカル重合、アニオン重合、またはカチオン重合であり得る。
【0060】
式(I)および(II)の化合物は近赤外領域で発光し、かつ高い光安定性および非常に良好な量子効率を有する。本明細書で使用される「光安定性」という用語は、光の作用下での化合物の安定性を指す。これに関連して、高い光安定性は、光の作用が化合物の破壊および/または光退色をもたらさないか、またはわずかな程度しかもたらさないことを意味する。化合物の光退色または退色は、光の作用による化合物の破壊によって引き起こされる化合物の発光強度の減少を意味する。
【0061】
式(I)および(II)の化合物は、白金(II)メソ-テトラキス(ペンタフルオロフェニル)テトラベンゾポルフィリン、およびパラジウム(II)メソ-テトラキス(ペンタフルオロフェニル)テトラベンゾポルフィリンのような構造的に関連する既知の指標化合物と比較して、酸化性物質に関してより高い化学的安定性を有する。酸化性物質の例には、次亜塩素酸ナトリウムおよび/または次亜塩素酸カリウム、過酢酸、過蟻酸、過プロピオン酸、過酸化水素、および溶解二酸化塩素の溶液が含まれる。したがって、式(I)または(II)の化合物を使用すると、前記層はさらに、酸化性物質に関して高い化学的安定性を有する。
【0062】
好ましい実施形態において、前記粒子は、約0.1μm~約50μm、好ましくは約2μm~約30μm、さらに好ましくは約5μm~約10μmの平均粒径を有する。
【0063】
好ましい実施形態では、複数の粒子が前記担体材料中に含まれ、前記粒子は好ましくは前記担体材料中に均一に分布している。前記粒子が均一に分布しているため、前記担体材料中で前記粒子が凝集することはない。前記粒子の凝集は、前記層の応答時間の増加を招き得る。
【0064】
より良いシグナル品質を達成するために、本発明による層は、指標化合物を含まない1またはそれ以上の追加の酸素透過性層を備えることができる。
【0065】
第2の態様では、本発明は酸素分子を検出するための多層システムに関し、前記多層システムは少なくとも第1の酸素透過性層と第2の酸素透過性層とを有し、第1の層は本発明による層であり、第2の層は酸素分子を検出するための指標化合物を含まない。
【0066】
本発明者らは、本発明による多層システムも100ms未満の非常に短い応答時間を有することを見出した。その結果、前記多層システムは、酸素含有量をリアルタイムで監視するために使用することができる。
【0067】
第2の層は好ましくは第1の層に適用される。第1の層に適用される第2の層は、例えば、第1の層が、試験される媒体と直接接触するのを避けるために保護層として働くことができる。その結果、第1の層は機械的損傷から保護される。さらに、第2の層は酸素分子を検出するための指標化合物を含まないので、指標化合物と試験される媒体の成分との化学反応が防止される。
【0068】
第2の層は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、酢酸セルロース、または硝酸セルロースからなることができる。
【0069】
好ましい実施形態では、第2の層はポリフッ化ビニリデン、好ましくは多孔質ポリフッ化ビニリデンからなる。多孔質ポリフッ化ビニリデンは、良好な酸素透過性および複数の溶媒に対する高い化学的安定性を有する。
【0070】
好ましい実施形態において、第2の層は白色に着色されている。結果として、前記多層システムの発光効率が改善される。
【0071】
好ましい実施形態では、第2の層は、約10μm~約300μm、好ましくは約10μm~約200μm、さらに好ましくは約45μm~約130μmの厚さを有する。
【0072】
好ましい実施形態では、前記多層システムは、酸素分子を検出するための指標化合物を含まない第3の酸素透過性層をさらに有する。第3の層は、好ましくは第2の層に適用される。第3の層は、前記多層システムの使用中に、試験される媒体と接触するのが好ましく、黒色に着色されている。その結果、外光の侵入が防止される。
【0073】
第3の態様では、本発明は、本発明による層を製造する方法に関し、その方法は、
(a)担体材料と少なくとも1つの粒子とを有する混合物を提供する工程であって、前記担体材料はポリフッ化ビニリデンまたはポリフッ化ビニリデンのコポリマーであり、前記粒子はポリマーまたはコポリマーを有し、前記粒子のポリマーまたはコポリマーは、溶媒中の酸素分子を検出するための化学的に共有結合した指標化合物を有し、前記溶媒は、前記担体材料が実質的に溶解するものの、前記粒子が実質的に溶解しないように選択される、前記提供する工程と、
(b)前記混合物を攪拌しながら約15℃~約25℃の温度で均質化する工程と、
(c)ナイフコーティングによって前記混合物をキャリア箔に塗布する工程と、
(d)暗所で約15℃~約25℃の温度の非溶媒中に工程(c)からの前記コーティングを有するキャリア箔を浸漬することによって前記層を析出させる工程と、
(e)前記層を乾燥する工程と
を有する。
【0074】
本発明による方法は、位相反転法である。位相反転法では、溶媒は、担体材料が実質的に溶解するものの、粒子は実質的に溶解しないように選択されなければならない。したがって、非溶媒は、担体材料が実質的にその中に溶解しないように選択される。
【0075】
既知のセンサー層を製造するゾル-ゲル法と比較して、位相反転法はより良好な再現性を有する。さらに、ゾル-ゲル法によって製造された層は機械的に不安定であり、そのためその層は容易に損傷を受けることがある。これとは対照的に、本発明による層は良好な機械的安定性を有しているため、この層は複数の適用分野で使用することができる。
【0076】
前記粒子は最初にできるだけ均一に前記担体材料中に分布している。この目的のために、前記混合物を撹拌しながら約15℃~約25℃の温度、例えば20℃でインキュベートする。均質化する工程は数時間、例えば4時間実施することができる。
【0077】
前記キャリア箔上への前記混合物のナイフコーティングは、例えば金属製のドクターブレードを用いて実施することができる。前記ナイフコーティングは、好ましくは約15℃~約25℃の温度、例えば20℃で行われる。
【0078】
前記キャリア箔は、例えば、ポリプロピレン箔またはポリフッ化ビニリデン箔であり得る。
【0079】
工程(c)からのコーティングを有するキャリア箔を非溶媒中に浸漬することによって、前記溶媒は溶液になり、前記コーティングは層として沈殿しながら孔を形成する。
【0080】
前記層の乾燥は、例えば90℃の温度で行うことができる。好ましくは、前記乾燥は乾燥キャビネットまたはオーブン中で行われる。乾燥する工程は数時間、例えば16時間実施することができる。
【0081】
乾燥後、前記層を前記キャリア箔から剥離することができ、または多層システムとしてキャリア箔と一緒に使用することができる。
【0082】
好ましい実施形態では、前記溶媒は、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、またはジメチルスルホキシド、好ましくはジメチルアセトアミドである。
【0083】
好ましい実施形態において、前記非溶媒は脱イオン水、メタノール、エタノール、ブタノール、またはそれらの混合物、好ましくは脱イオン水である。
【0084】
別の態様において、本発明は、酸素分子の検出のための、好ましくは酸素分子の定量的検出のための、本発明による層の使用または本発明による多層システムの使用に関する。
【0085】
前記酸素分子は、固体、気体、または液体の媒体で識別できる。好ましい実施形態において、前記層または前記多層システムは有機溶媒の蒸気中の酸素の測定に使用される。別の実施形態では、溶存酸素分子は液体媒体中、好ましくは有機溶媒中で測定される。
【0086】
実施例
【実施例1】
【0087】
位相反転法による酸素分子測定のための層および二層システムの製造
準備
【表1】
【0088】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の1.00gのペレットを15mlのN-メチルピロリドンに溶解した。完全に溶解した後、430mgのポリ(白金(II)-5,10,15,20-テトラ(p-(6-アクリロキシヘキシル)フェニル)-テトラベンゾポルフィリン-コ-スチレン-コ-ジビニルベンゼン)の粒子を添加して少なくともさらに4時間攪拌した。次いで、均質な塊を、実験用ドクターブレード(200マイクロメートル設定)を使用してポリプロピレンキャリア箔上に層または単層膜を製造するためにナイフコーティングし、または多孔質PVDFホイル上に二層システムまたは二層膜を製造するためにナイフコーティングした。その直後に、コーティングと共に当該ホイルを脱イオン水で満たされた水槽に浸し、少なくとも12時間暗所に放置して沈殿させた。次に前記膜をオーブン中で90℃で16時間乾燥させた。
【実施例2】
【0089】
分子酸素を測定するための層の使用
実施例1からの層の応答時間を試験するために、160ミリバールの低圧(0.00に正規化)と960ミリバールの大気圧(1.00に正規化)との間で非常に速い圧力変化を実施した。測定中、高速圧力センサー(PAA-M5 HB, Keller AG,スイス, Winterthur)を用いて圧力変化を同時に測定した。測定値は、42msごとに両方のセンサー(圧力センサーと酸素センサー)について記録した。結果をわかりやすくするために、実験的に得られた位相のデータも同様に正規化され、グラフにまとめた(
図1)。圧力センサーの測定値は×印で示した。酸素分圧に対応する位相変化の測定値は黒い四角で表した。0.00から1.00への圧力変化により、位相は2つの測定値(2×42ms=84ms)内で変化し、これは酸素分圧33~200mbarの応答時間(t
90)が42~84msであることを意味する。その結果、酸素分圧に対応する位相変化は、100ms未満で前記層によって達成される。
【実施例3】
【0090】
酸素分子の測定のための二層システムの使用
実施例1からの2層システムは、酸素分子の測定にも同様に使用される。位相反転法で同時にキャリア箔として使用される第2の層は、酸素分子の妨げのない拡散を可能にする厚さ130μmの多孔質の白色PVDF膜で構成される。
図2は、室温で異なる酸素濃度における単層層(黒いバー)と比較した、2層システム(濃いバー)の強度の改善を示す。強度はボルトで測定した。フォトダイオードを検出器として使用した。励起光源として、繰り返し周波数8kHzで波長約500nmの放射線を放射する発光ダイオードを使用した。
図3は、実施例2と同様に実施した2層システムの応答時間の決定を示す。結果は、単層層と比較して、応答時間(t
90)を減少させることなく、2層システムでは2倍以上の強度の増加が達成されたことを示した。その結果、酸素分圧に対応する位相変化もまた、2層システムによって100ms未満で達成された。