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特許7132959異物検査用の空洞共振器、異物検査装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】異物検査用の空洞共振器、異物検査装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 22/00 20060101AFI20220831BHJP
   G01N 22/02 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
G01N22/00 G
G01N22/02 B
G01N22/00 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020016130
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021124309
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小倉 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康元
(72)【発明者】
【氏名】山口 雄平
(72)【発明者】
【氏名】大工原 秀吾
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-265725(JP,A)
【文献】実開昭60-082256(JP,U)
【文献】特開2011-220684(JP,A)
【文献】特開2010-276416(JP,A)
【文献】特開2006-226963(JP,A)
【文献】特開昭62-185151(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3281536(EP,A1)
【文献】池田 誠人ほか二名,マイクロ波空洞共振器による微小導電性異物の検出特性,電気学会論文誌D,2012年,Vol.132 No.8,p.788-793
【文献】佐藤 康元ほか5名,共振現象を利用したマイクロ波によるGFRP内部の樹脂異物の可視化,平成26年度秋季講演大会講演概要集,日本非破壊検査協会,2014年10月28日,p.77-78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 22/00-22/04
G01B 15/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異物検査用の空洞共振器において、
前記空洞共振器の内面の少なくとも一部を形成する空洞壁と、
前記空洞壁における一部の領域を欠損させた欠損領域と、を有し、
前記欠損領域は、導体の検査対象物によって覆われることを特徴とする空洞共振器。
【請求項2】
請求項1に記載の空洞共振器において、
導波管と、前記導波管の両端に設けられた端壁と、を有し、
前記空洞壁は、前記導波管の管壁によって形成されていることを特徴とする空洞共振器。
【請求項3】
請求項2に記載の空洞共振器において、
前記導波管は、矩形導波管であり、
前記欠損領域は、縦方向に広がる管壁または横方向に広がる管壁のいずれかに形成されていることを特徴とする空洞共振器。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の空洞共振器と、
前記空洞共振器に電磁波を励振する信号発生器と、
前記空洞共振器から出力される信号を検出する信号検出器と、を備えることを特徴とする異物検査装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の空洞共振器と、
前記空洞共振器から出力される信号を検出する信号検出器と、
前記信号検出器による検出値に基づいて、前記検査対象物の表面に異物があるか否かを判定する制御部と、を備えることを特徴とする異物検査装置。
【請求項6】
空洞共振器を用いた異物検査方法において、
前記空洞共振器は、
前記空洞共振器の内面の少なくとも一部を形成する空洞壁と、
前記空洞壁における一部の領域を欠損させた欠損領域と、を有し、
検査対象物の導体面によって前記欠損領域を覆いながら前記検査対象物を搬送し、前記空洞共振器の共振特性の変化に基づいて、前記導体面に異物があるか否かを検査することを特徴とする異物検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物検査用の空洞共振器、異物検査装置および方法に関し、特に、導体の検査対象物の表面に付着した異物を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック等の絶縁体を薄膜状に加工したシートが広く用いられている。シートに金属等の異物が付着すると、シートを用いる製品の製造が困難となったり、そのような製品の性能が十分に発揮されなかったりすることがある。そこで、シートに付着した異物を検出する技術が従来から提案されている。例えば、特許文献1および2には、空洞共振器の対向する管壁にスリットを設け、シートをスリットを通して空洞共振器に貫通させながら、共振特性を観測する装置が記載されている。この装置では、共振特性の変化が観測されることで、シートに付着した異物が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-276416号公報
【文献】特開2013-72702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バッテリ等の電気機器には、薄膜状の導体が用いられることがある。このような薄膜導体に異物が付着すると、電気機器の性能が十分に発揮されないことがある。そこで、特許文献1および2に記載されているように、空洞共振器を用いて薄膜導体の表面に付着した異物を検出することも考えられる。しかし、これらの文献に記載されている技術によって、薄膜導体に付着した異物を検出することは困難である。薄膜導体をスリットを通して空洞共振器に貫通させると、空洞共振器の共振特性が著しく変化してしまい、異物による共振特性の変化を観測することが困難となってしまうためである。
【0005】
本発明の目的は、導体の表面に付着した異物を空洞共振器を用いて検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、異物検査用の空洞共振器において、前記空洞共振器の内面の少なくとも一部を形成する空洞壁と、前記空洞壁における一部の領域を欠損させた欠損領域と、を有し、前記欠損領域は、導体の検査対象物によって覆われることを特徴とする。
【0007】
望ましくは、導波管と、前記導波管の両端に設けられた端壁と、を有し、前記空洞壁は、前記導波管の管壁によって形成されている。
【0008】
望ましくは、前記導波管は、矩形導波管であり、前記欠損領域は、縦方向に広がる管壁または横方向に広がる管壁のいずれかに形成されている。
【0009】
本発明に係る異物検査装置は、前記空洞共振器と、前記空洞共振器に電磁波を励振する信号発生器と、前記空洞共振器から出力される信号を検出する信号検出器と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る異物検査装置は、前記空洞共振器と、前記空洞共振器から出力される信号を検出する信号検出器と、前記信号検出器による検出値に基づいて、前記検査対象物の表面に異物があるか否かを判定する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明は、空洞共振器を用いた異物検査方法において、前記空洞共振器は、前記空洞共振器の内面の少なくとも一部を形成する空洞壁と、前記空洞壁における一部の領域を欠損させた欠損領域と、を有し、検査対象物の導体面によって前記欠損領域を覆いながら前記検査対象物を搬送し、前記空洞共振器の共振特性の変化に基づいて、前記導体面に異物があるか否かを検査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、導体の表面に付着した異物を空洞共振器を用いて検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】異物検査用の空洞共振器を示す図である。
図2】薄膜導体に付着した異物を検出するときの空洞共振器の状態を示す図である。
図3】空洞共振器をy軸正方向側から見た図である。
図4】異物検査装置を模式的に示す図である。
図5】透過係数の周波数特性の解析結果を示す図である。
図6】異物がある場合とない場合のそれぞれについて透過係数の値を示した表を示す図である。
図7】透過係数の周波数特性の解析結果を示す図である。
図8】異物検査装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
各図を参照して本発明の実施形態に係る異物検査用の空洞共振器、異物検査装置および異物検査方法について説明する。複数の図面に示されている同一の事項については同一の符号を付してその説明を簡略化する。また、以下の説明における上下左右の方向は、図面における上下左右の方向を示す。上下左右の方向を示すこれらの用語は、空洞共振器および異物検査装置の構造を説明するための便宜上のものであり、空洞共振器および異物検査装置を配置する際の姿勢を限定するものではない。
【0015】
図1には、本発明の実施形態に係る異物検査用の空洞共振器1が示されている。この図では、手前側から奥側に空洞共振器1が伸びる方向がz軸正方向として定義されている。また、z軸に垂直な平面における上方向がx軸正方向として定義され、z軸に垂直な平面における右方向がy軸正方向として定義されている。
【0016】
空洞共振器1は、矩形導波管10と、矩形導波管10の両端に設けられた端壁20によって構成されている。矩形導波管10は、対向する一対のH面管壁18、E面管壁16およびE面欠損付き管壁12を備えている。H面管壁18はxz平面に沿って縦方向に広がり、E面管壁16およびE面欠損付き管壁12はyz平面に沿って横方向に広がっている。H面管壁18のx軸方向の幅は、E面管壁16およびE面欠損付き管壁12のy軸方向の幅よりも広い。E面欠損付き管壁12は、図の奥側から手前に向かって順に配置された第1E面管壁121、欠損領域123および第2E面管壁122から構成されている。E面欠損付き管壁12は、1枚の管壁において一部の領域が欠損領域123として欠損したものである。第1E面管壁121および第2E面管壁122は、それぞれ、E面管壁16に対向している。
【0017】
一方のH面管壁18の下側の縁と、他方のH面管壁18の下側の縁との間には、E面管壁16が広がっている。また、一方のH面管壁の上側の縁と、他方のH面管壁18の上側の縁との間の奥側には、第1E面管壁121が広がっており、一方のH面管壁18の上側の縁と、他方のH面管壁18の上側の縁との間の手前側には、第2E面管壁122が広がっている。このように矩形導波管10は、上側の管壁に欠損領域123が設けられており、欠損領域123を通して上側から管内を見通せる形状を有している。
【0018】
一対のH面管壁18、第1E面管壁121およびE面管壁16は、z軸に垂直な平面内において矩形を描く。同様に、一対のH面管壁18、第2E面管壁122およびE面管壁16は、z軸に垂直な平面内において矩形を描く。矩形導波管10の両端は端壁20で覆われており、矩形導波管10およびその両端の端壁20によって空洞共振器1が構成されている。
【0019】
両側の端壁20のそれぞれには結合孔22が開けられている。結合孔22の形状は、円形や楕円形、略楕円形等であってもよいし多角形であってもよい。端壁20の外側には、伝送線路としての矩形導波管が取り付けられてもよい。また、同軸導波管変換器を介して伝送線路としての同軸ケーブルが接続されてもよい。結合孔22は、伝送線路側の電磁波と空洞共振器1内の電磁波とを結合させる。一方側の結合孔22から空洞共振器1内に電磁波が励振され、他方側の結合孔22から電磁波が出力される。なお、結合孔は、矩形導波管10の両端近傍におけるH面管壁18に設けられてもよい。
【0020】
矩形導波管10を伝搬する電磁波のモードには、電磁界分布やz軸方向の波長が異なる複数種のモードがある。一般に、矩形導波管10に対して定められた使用周波数帯域では、複数種のモードのうちの1つがz軸方向に波動として伝搬する伝搬モードとなり、他のモードはz軸方向に進むに従って減衰する遮断モードとなる。以下の説明では、矩形導波管10を波動として伝搬する電磁波は基本モードの電磁波であるとする。矩形導波管10の基本モードは、E面管壁16に平行な電界成分と、H面管壁18に平行な磁界成分を有する。
【0021】
図2には、薄膜導体50に付着した異物を検出するときの空洞共振器1の状態が示されている。薄膜導体50はyz平面に沿って広がっており、そのz軸方向の長さWは、空洞共振器1における欠損領域123のz軸方向の長さLと同一であるか若干短い。薄膜導体幅Wと欠損領域長Lとの相違は、異物の検出に影響を及ぼさない程度の相違であってよい。
【0022】
薄膜導体50は、空洞共振器1における欠損領域123を覆い、かつ、対向する一対のH面管壁18の上側の縁に接触しないように、欠損領域123の上方をy軸の正方向に向かって搬送される。この搬送は、薄膜導体50を搬送する機構によって行われてもよいし、ユーザの手によって行われてもよい。
【0023】
搬送は、空洞共振器1の特性が測定されるごとにある距離だけ薄膜導体50が移動するように行われてもよい。すなわち、空洞共振器1の特性を測定するときには薄膜導体50を停止させ、測定後に薄膜導体50を移動させて異物の検出範囲を変更した後、再び薄膜導体50を停止させて空洞共振器1の特性を測定するという工程によって搬送が行われてもよい。また、搬送は、空洞共振器1の特性が測定されている間に薄膜導体50が移動するように行われてもよい。
【0024】
図3には、空洞共振器1をy軸正方向側から負方向側を見たときの図面が示されている。ただし、薄膜導体50については断面が示されている。図3の左上には、破線の丸印Aで囲まれた領域の拡大図が示され、右上には破線の丸印Bで囲まれた領域の拡大図が示されている。図3の左上に示されているように、薄膜導体50は欠損領域123を覆っているものの、H面管壁18の上側の縁には接触せず、薄膜導体50とH面管壁18との間には幅tの隙間がある。図3の右上には、薄膜導体50の下面に付着した異物52が示されている。薄膜導体50に付着した異物52は、空洞共振器1の共振特性に影響を及ぼす。なお、薄膜導体50の表面の状態等によっては、薄膜導体50をH面管壁18の上側の縁に接触させ、薄膜導体50を欠損領域123に当接させてもよい。
【0025】
薄膜導体50が、欠損領域123を覆うように搬送されている間、後述するように空洞共振器1の透過係数が測定される。透過係数に変化があったときに薄膜導体50の表面に異物があったと判定される。
【0026】
このように、本発明の実施形態に係る空洞共振器1は、矩形導波管10と、矩形導波管10の両端に設けられた端壁20と、矩形導波管10の管壁の一部を欠損させた欠損領域123とを有している。すなわち、矩形導波管10の管壁が、空洞共振器1の内面の少なくとも一部を形成する空洞壁をなし、空洞壁としての管壁の一部を欠損させた欠損領域123が形成されている。上記では、空洞共振器1の内面が、矩形導波管10の管壁および端壁20によって形成された実施形態が示されているが、空洞共振器1の内面は、凹みを有する導体の部材と、その凹みの開口を覆う導体の空洞壁によって構成されてもよい。
【0027】
図4には、異物検査装置100が模式的に示されている。異物検査装置100は、信号発生器62、空洞共振器1、信号検出器64および制御部66を備えている。信号発生器62、信号検出器64および制御部66は、ネットワークアナライザに含まれるものであってよい。制御部66は、プログラムを実行するコンピュータによって構成されてもよい。この場合、制御部66は、プログラムを実行することで信号発生器62および信号検出器64を制御する。
【0028】
制御部66は、所定の周波数の電磁波を信号発生器62に出力させる。信号発生器62は、伝送線路70を介して空洞共振器1に電磁波を出力し、空洞共振器1内に電磁波を励振する。信号検出器64は、空洞共振器1から出力された電磁波を伝送線路72を介して検出する。信号検出器64は、電磁波の検出値を制御部66に出力する。制御部66は、信号検出器64が出力する検出値に基づいて透過係数を求める。透過係数は、信号発生器62と信号検出器64とを直結したときにおける検出値に対する、信号発生器62と信号検出器64との間に空洞共振器1を介在させたときにおける検出値の比率として定義される。
【0029】
制御部66は、所定の周波数における透過係数を時間経過と共に順次求める。透過係数が所定の基準範囲内の値であるときは、制御部66は、薄膜導体50に異物が付着していないとの判定をする。そして、基準範囲外の値となったときに、制御部66は薄膜導体50に異物が付着しているとの判定をする。基準範囲は、所定の上限値以上、所定の下限値以下の範囲として定義されてよい。
【0030】
制御部66は、複数の周波数のそれぞれについて透過係数を時間経過と共に順次求め、複数の周波数に対して求められた複数の透過係数が、それぞれの基準範囲内にあるときに薄膜導体50に異物が付着していないと判定してもよい。そして、複数の周波数に対して求められた複数の透過係数のうちのいずれかが基準範囲外にあるときに、制御部66は薄膜導体50に異物が付着していると判定してもよい。
【0031】
また、制御部66は、透過係数が基準範囲内にあるか否かに基づいて、異物の有無を判定する代わりに、透過係数の時間変化率の絶対値が所定値を超えたか否かに基づいて異物の有無を判定してもよい。
【0032】
図5には、透過係数S21の周波数特性の解析結果が示されている。この解析結果は、欠損領域123を薄膜導体50が覆って停止した状態について取得されたものである。横軸は周波数を示し、縦軸は透過係数S21の対数値を示す。「S21」の符号は、信号発生器62側の伝送線路接続端をポート1とし、信号検出器64側の伝送線路接続端をポート2としたときに、ポート1から入力されポート2から出力される電磁波の透過係数であることを示している。ここで、伝送線路接続端とは、伝送線路と空洞共振器1とが接続される箇所をいう。
【0033】
解析では、H面管壁18の内面の幅は22.8mmとされ、E面管壁16の内面の幅は10.1mmとされた。一方の端壁20から他方の端壁20までの距離は154.4mmとされた。薄膜導体50の幅Wおよび欠損領域123の長さは100mmとされた。異物は、長さが12.1mmの50μm角の導体とされた。結合孔22の径は6mmとされた。第1E面管壁121および第2E面管壁122の厚みは1mmとされ、各H面管壁18の上側の縁と薄膜導体50との間の隙間は0.2mmとされた。
【0034】
特性80は異物がないときの特性であり、特性82は異物があるときの特性である。図5に示されているように、11.6GHz~12.4GHzの周波数帯において、異物があるときとないときにおいて透過係数S21の値に差異が認められる。
【0035】
図6には、信号発生器62が出力する電磁波の周波数が11.702GHz(第1周波数)のとき、11.794GHz(第2周波数)のとき、および11.989GHz(第3周波数)のときについて、異物がある場合とない場合のそれぞれについて、透過係数S21の値を示した表が示されている。
【0036】
制御部66は、異物がない場合における透過係数S21に対し、例えば、±3dBの範囲を基準範囲として記憶してよい。すなわち、制御部66は、第1周波数における透過係数S21の基準範囲を、-42.9864dB≦S21≦-36.9864dBとして記憶してよい。また、制御部66は、第2周波数における透過係数S21の基準範囲を、-62.2756dB≦S21≦-56.2756dBとして記憶してよい。また、制御部66は、第3周波数における透過係数S21の基準範囲を、-35.8957dB≦S21≦-29.8957dBとして記憶してよい。
【0037】
薄膜導体50が、空洞共振器1の欠損領域123を覆うように搬送されている状態で、制御部66は、第1周波数~第3周波数のそれぞれについて透過係数を時間経過と共に順次求める。制御部66は、第1周波数~第3周波数のそれぞれについて求められた透過係数S21が、第1周波数~第3周波数のそれぞれの基準範囲内にあるときに薄膜導体50に異物が付着していないと判定する。そして、第1周波数~第3周波数のそれぞれについて求められた透過係数S21のうちいずれかが、その基準範囲外にあるときに、制御部66は薄膜導体50に異物が付着していると判定する。
【0038】
上記では、xz平面に沿って広がる幅が広い方のH面管壁、およびyz平面に広がる幅が狭い方のE面管壁のうち、E面管壁に欠損領域123を設けた実施形態が示された。欠損領域は、幅が広い方のH面管壁に設けられてもよい。
【0039】
図7には、H面管壁に欠損領域が設けられた空洞共振器についての透過係数S21の周波数特性の解析結果が示されている。特性84は異物がないときの特性であり、特性86は異物があるときの特性である。図7に示されているように、11.6GHz~12.2GHzの周波数帯において、異物がある場合とない場合において透過係数S21の値に差異が認められる。
【0040】
制御部66は、11.6GHz~12.2GHzの周波数範囲に含まれる複数の周波数について、透過係数の基準範囲を記憶してよい。各基準範囲は、図7に示されている特性84および特性86の差異に基づいて定められてよい。薄膜導体50が、欠損領域を覆うように搬送されているときに、制御部66は、複数の周波数のそれぞれについて透過係数を時間経過と共に順次求める。制御部66は、複数の周波数に対して求められた複数の透過係数が、それぞれの基準範囲内にあるときに薄膜導体50に異物が付着していないと判定してよい。そして、複数の周波数に対して求められた複数の透過係数のうちいずれかが基準範囲外にあるときに、制御部66は薄膜導体50に異物が付着していると判定してよい。
【0041】
また、上記では、制御部66が空洞共振器1の透過係数を求め、透過係数に基づいて異物の有無を判定する実施形態について説明した。制御部66は、空洞共振器1の反射係数を求め、反射係数に基づいて異物の有無を判定してもよい。図8には、反射係数に基づいて異物の有無を判定する場合の異物検査装置102が模式的に示されている。
【0042】
信号発生器62と空洞共振器1との間には、方向性結合器68が挿入されている。信号発生器62、信号検出器64、方向性結合器68および制御部66は、ネットワークアナライザに含まれるものであってよい。方向性結合器68は、伝送線路74を介して信号検出器64に接続されている。空洞共振器1の出力側の伝送線路接続端には終端器90が接続されている。終端器90は、空洞共振器1から出力された電磁波を吸収する機能を有する。方向性結合器68は、信号発生器62から出力された電磁波を空洞共振器1に至る伝送線路70に導く。また、空洞共振器1で反射した電磁波を、信号検出器64に至る伝送線路74に導く。
【0043】
信号検出器64は、反射電磁波の検出値を制御部66に出力する。制御部66は、信号検出器64が出力する検出値に基づいて反射係数を求める。反射係数は、反射係数の大きさが1である反射器を、空洞共振器1の代わりに方向性結合器68に接続したときの検出値を反射基準値とし、反射基準値に対する反射電磁波の検出値の比率として定義される。
【0044】
制御部66は、所定の周波数における反射係数を時間経過と共に順次求める。反射係数が所定の基準範囲内の値であるときは、制御部66は、薄膜導体50に異物が付着していないとの判定をする。そして、基準範囲外の値となったときに、制御部66は薄膜導体50に異物が付着しているとの判定をする。基準範囲は、所定の下限値以上、所定の上限値以下の範囲として定義されてよい。
【0045】
制御部66は、複数の周波数のそれぞれについて反射係数を時間経過と共に順次求め、複数の周波数に対して求められた複数の反射係数が、それぞれの基準範囲内にあるときに薄膜導体50に異物が付着していないと判定してもよい。そして、複数の周波数に対して求められた複数の反射係数のうちいずれかが基準範囲外にあるときに、制御部66は薄膜導体50に異物が付着していると判定してもよい。
【0046】
また、制御部66は、反射係数が基準範囲内にあるか否かに基づいて、異物の有無を判定する代わりに、反射係数の時間変化率の絶対値が所定値を超えたか否かに基づいて異物の有無を判定してもよい。制御部66は、反射係数の代わりに、定在波比(VSWR)等反射電磁波の大きさを表すその他の反射評価値を求め、反射評価値に基づいて異物の有無を判定してもよい。
【0047】
上記では、空洞共振器1として、矩形導波管10の両端に端壁20が設けられたものが示された。空洞共振器は、円筒導波管等、その他の形状の導波管の両端に端壁が設けられたものであってもよい。この場合であっても、管壁の一部を欠損させた欠損領域が設けられ、欠損領域を覆いながら薄膜導体が搬送されているときにおける共振特性の変化に基づいて異物の有無が判定される。
【0048】
空洞共振器では、検査対象となる導体平面を有し、その導体平面によって欠損領域を覆いながらy軸方向に搬送することができる物体であれば、異物の有無の判定が可能であり、検査対象物の形状に自由度がある。例えば、空洞共振器は、厚みのある板状の導体の表面に異物が付着しているか否かの判定に用いられてよい。
【符号の説明】
【0049】
1 空洞共振器、10 矩形導波管、12 E面欠損付き管壁、121 第1E面管壁、122 第2E面管壁、123 欠損領域、16 E面管壁、18 H面管壁、20 端壁、22 結合孔、50 薄膜導体、52 異物、62 信号発生器、64 信号検出器、66 制御部、68 方向性結合器、70,72,74 伝送線路、80,82,84,86 透過係数の特性、100,102 異物検査装置。
図1
図2
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図8