(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】高コンダクタンス熱リンク
(51)【国際特許分類】
H05K 7/20 20060101AFI20220831BHJP
B64G 1/50 20060101ALI20220831BHJP
C01B 32/20 20170101ALI20220831BHJP
【FI】
H05K7/20 F
B64G1/50 600
C01B32/20
(21)【出願番号】P 2020535115
(86)(22)【出願日】2017-12-29
(86)【国際出願番号】 ES2017070866
(87)【国際公開番号】W WO2019129896
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】517174522
【氏名又は名称】エアバス ディフェンス アンド スペース,エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カセレス デル ヴィソ,フェリペ
(72)【発明者】
【氏名】ペレロン マルサ,マーク
(72)【発明者】
【氏名】アパリシオ オルドバス,マリア ホセ
(72)【発明者】
【氏名】サマルティン プリアン,カルロス ロベルト
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-126081(JP,A)
【文献】特開2002-344095(JP,A)
【文献】米国特許第6286591(US,B1)
【文献】米国特許第5255738(US,A)
【文献】米国特許第6131651(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/50
C01B 32/20
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性ストラップ(2)であって、スタック(5)に配置された熱分解黒鉛層と、各スタック(5)を少なくとも部分的に覆うポリイミドフィルム(6)とを含み、接着材料が前記熱分解黒鉛層間に存在し、前記熱伝導性ストラップ(2)が両端部(4)を有する、熱伝導性ストラップ(2)と、
前記熱伝導性ストラップ(2)の対応する前記両端部(4)を収容する2つの端部取付部(3,3’)であって、前記熱伝導性ストラップ(2)の前記両端部(4)のうちの少なくとも一方が、中間隙間(8)によって分離された複数の突出部(7)を含む
平面視での形状を有する、2つの端部取付部と、
を含み、
前記熱伝導性ストラップ(2)の前記両端部(4)において、前記熱分解黒鉛層間および前記熱分解黒鉛層のスタック(5)間に接着材料が存在し、前記端部取付部(3,3’)は、接合手段(10)によって取り付けられた2つの対称的な半体(9)を含むことを特徴とする、
高コンダクタンス熱リンク(1)。
【請求項2】
前記熱分解黒鉛の層がシートとして構成されている、請求項1に記載の高コンダクタンス熱リンク(1)。
【請求項3】
前記端部取付部(3,3’)の内側に収容された前記熱伝導性ストラップ(2)の前記両端部(4)の熱分解黒鉛の前記スタック(5)がポリイミドフィルム(6)によって覆われていない、請求項1または2に記載の高コンダクタンス熱リンク(1)。
【請求項4】
前記端部取付部(3,3’)が金属または有機材料で作製される、請求項1から3のいずれか一項に記載の高コンダクタンス熱リンク(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙環境における宇宙船の機器およびアビオニクスの熱管理に対処するために特に使用される高コンダクタンス熱リンクに関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙ベースの研究で使用される機器の熱制御は、非常に厳しい要件があるこれらの複雑なツールの完璧な性能への鍵である。
【0003】
熱制御システムは、宇宙船または衛星の全任務の間、部品温度範囲を維持する責任がある。サーマルストラップは、宇宙船構造内のこれらの温度を制御するツールとして使用される熱伝達用の熱経路である。熱経路は、熱流がシステムに入る箇所から、システムを出る表面または箇所までの熱流の形跡である。
【0004】
これらの熱制御部品の通常の部分は、冷却装置または機器をヒートシンクに結び付ける柔軟な熱ストリップである。それは熱を輸送する必要があり(つまり、高コンダクタンス特性を有する必要がある)、その性能を低下させることなく、宇宙船構造の任意の正確な位置に設置できる柔軟性も備えている必要がある。飛行ハードウェアの熱制御システムを設計する場合、機械的および/または幾何学的制約は非常に重要である。
【0005】
熱ストリップは、電気機器や光学機器の温度変化を制御するシステムとして、様々な産業で使用されている。これらは通常、両端にコネクタが付いたストラップとして商品化され、通常は銅、アルミニウム、または有機材料で作製されている。
【0006】
熱リンクは、宇宙船の熱制御の受動システムである。熱リンクは、機械的な可動部または可動流体を有さない。熱リンクは、電力消費がなく、質量が小さく、信頼性が高い。
【0007】
熱は伝導または放射によって衛星に伝達され得る。サーマルストラップは、伝導プロセスを通じて機器からラジエータに熱を伝導する。
【0008】
熱リンクは、金属製リンクおよび黒鉛製リンクで使用される材料に応じて分類でき、これら2つのタイプには、箔もしくはシート製又はねじ式ワイヤリンクがある。金属製のサーマルストラップが最も広く使用されている。それらはアルミ合金または銅で作製される。金属製ストラップの柔軟性は、単一のワイヤの直径に依存する。これらの金属は高い堅牢性および信頼性を有するため、宇宙用途で有用なツールとなっている。ただし、主に銅の場合、その質量は欠点になる可能性がある。
【0009】
黒鉛系熱リンクの開発により、軽量化の可能性が広がった。それらは、例えば、熱分解黒鉛または高導電性炭素繊維で作製され得る。
【0010】
熱管理に熱分解黒鉛を使用する構造の例は、「High Conductivity Hybrid Material for Thermal Management」と題された、特許文献1に見いだすことができる(Thermacore社によって商品化されたk-Core(登録商標)製品と呼ばれる)。
【0011】
特許文献2は「Flexible Heat Transfer Device and Method」に言及している。熱源からヒートシンクに熱を伝達するための熱伝達装置は、熱分解黒鉛または高度に秩序化された熱分解黒鉛の高熱伝導率コア材料を含む。
【0012】
特許文献3は、繊維または箔で形成され、柔軟性中間部分および2つの剛性端部を含むサーマルストラップに言及している。繊維または箔は、剛性マトリックス材料に埋め込まれているため、剛性端部が形成される。
【0013】
層状黒鉛は、その平面における熱伝導特性は良好であるが、垂直方向の伝導性が悪い材料である。
【0014】
したがって、垂直方向にも強化されたコンダクタンスを有する黒鉛系熱リンクを得る必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】US5296310A
【文献】EP1025586B1
【文献】EP2597041B
【発明の概要】
【0016】
本発明の目的は、垂直方向(法線方向)においても強化されたコンダクタンスを有する熱リンクを提供することである。
【0017】
本発明は、高コンダクタンス熱リンクにおいて、
熱伝導性ストラップであって、スタックに配置された複数の熱分解黒鉛層と、各スタックを少なくとも部分的に覆うポリイミドフィルムと、を含み、接着材料が複数の熱分解黒鉛層間に存在し、熱伝導性ストラップが両端部を有する、熱伝導性ストラップと、
熱伝導性ストラップの対応する両端部を収容する2つの端部取付部と、を含み、
熱伝導性ストラップの両端部において、複数の熱分解黒鉛層間および複数の熱分解黒鉛層の複数のスタック間に接着材料が存在し、熱伝導性ストラップの両端部のうちの少なくとも一方は、中間隙間によって分離された複数の突出部を含む形状を有する、
高コンダクタンス熱リンクを提供する。
【0018】
本発明は、金属製のものを含む従来技術の熱リンクよりも優れた伝導性を可能にする。したがって、電子機器や光学機器で発生した熱をより適切に放散し、宇宙船や衛星の過熱を回避できる。
【0019】
本発明の別の利点は、先行技術の熱リンクに対して必要な質量を低減することである。
【0020】
本発明の別の利点は、長さまたは幅に制限がないため、様々なニーズに応じて様々な形状を採用できることである。
【0021】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面に関連してその目的を例示するいくつかの実施形態の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の高コンダクタンス熱リンクの実施形態の斜視図を示す。
【
図2】
図1の高コンダクタンス熱リンクの側面図を示す。
【
図3】
図1の高コンダクタンス熱リンクの一方の端部取付部の正面図を示す。
【
図4】
図1の高コンダクタンス熱リンクの他方の端部取付部の正面図を示す。
【
図8】端部取付部に対応する
図2の断面B-Bを示す。
【
図9】端部取付部に対応する
図2の断面B-Bを示す。
【
図10】本発明の高コンダクタンス熱リンクの別の複雑な実施形態の斜視図を示す。
【
図11】
図10の高コンダクタンス熱リンクの図であり、熱伝導性ストラップの両端部のうちの一方の端部の構成を示す。
【
図12】熱伝導性ストラップの他方の端部の構成を示す。
【
図14】ポリイミドフィルムで覆われた熱分解黒鉛層のスタックの断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、2つの端部取付部3,3’と熱伝導性ストラップ2とを含む高コンダクタンス熱リンク1を示す。
【0024】
熱伝導性ストラップ2は、スタック5内に配置された複数の熱分解黒鉛層と、熱分解黒鉛層の各スタック5を少なくとも部分的に覆うポリイミドフィルム6とを含み、接着材料が熱分解黒鉛層間に存在する。熱伝導性ストラップ2は両端部4を有し、両端部4の各々は対応する端部取付部3,3’の内側に配置され、端部取付部3,3’は熱伝導性ストラップ2の対応する端部4を収容する(
図5~
図9を参照)。
【0025】
図8および
図9において、熱伝導性ストラップ2の両端部4は、中間隙間8によって分離された2つの突出部7を備えた形状を有することが分かる。
【0026】
熱伝導性ストラップ2の両端部4には、複数の熱分解黒鉛層間および熱分解黒鉛層の複数のスタック5間に接着材料が存在する。
【0027】
高コンダクタンス熱リンク1のこの構成により、熱分解黒鉛層と端部取付部3,3’との間の熱伝達が向上する。
【0028】
熱分解黒鉛の層は、シートとして構成できる(つまり、平面形状又は扁平)。
【0029】
一実施形態において、端部取付部3,3’の内側に収容された熱伝導性ストラップ4の両端部4の熱分解黒鉛のスタック5は、ポリイミドフィルム6によって覆われていない(すなわち、それらは、両端部4間の熱伝導性ストラップ2の中間部分においてポリイミドフィルム6によって覆われているのみである)。
【0030】
端部取付部3,3’は、接合手段10(
図5および
図6を参照)によって取り付けることができる2つの対称的な半体9で構成でき、端部取付部(半体)は熱伝導性ストラップ2の対応する両端部4を収容する。
【0031】
端部取付部3,3’は、金属(アルミニウムなど)または有機材料で作製できる。
【0032】
図10から
図13は、本発明の高コンダクタンス熱リンク1の別の複雑な実施形態を示す。見て分かるように、本発明の熱リンク1は、異なるニーズおよび形状に適応することができるのに十分な柔軟性を有する。
【0033】
図11および
図12は、熱伝導性ストラップ2の両端部4の構成を示す。熱伝導性ストラップ2の両端部4は、中間隙間8によって分離された複数の突出部7(この場合、2つより多い突出部)を備えた形状を有することが分かる。
【0034】
強化された性能を得ることができるように、熱リンク1の両端は最適化された設計になっており、熱分解黒鉛層が高伝導性接着剤内に配置され、熱伝導性ストラップ2と対応する端部取付部3,3’との間の良好な熱伝導性が保証される。
【0035】
熱分解黒鉛は平面内でのみ良好な伝導特性を有するため、熱リンク1の両端部の内部設計は、熱伝導性ストラップ2の垂直方向に伝導性を生成するための重要な要素である。
【0036】
一実施形態によれば、端部取付部3,3’の内側に収容された熱伝導性ストラップ2の両端部4の熱分解黒鉛のスタック5は、ポリイミドフィルム6によって覆われていない。
【0037】
図14は、ポリイミドフィルム6で覆われた熱分解黒鉛層のスタック5の断面を示す。
【0038】
端部取付部3,3’の内側に収容された熱伝導性ストラップ2の両端部4における熱分解黒鉛のスタック5の配置と共に、端部取付部3,3’の対称構成により、熱が端部取付部3,3’の面を通って流れることができる(つまり、複数の熱経路を可能にする)。
【0039】
サーマルストラップ2には長さや幅に制限がないため、様々なニーズに応じて様々な形状を採用できる(つまり、長方形、正方形、または望ましい寸法を備えた任意の望ましい形状にすることができる)。
【0040】
別の利点は、本発明の熱リンク1は、サーマルストラップ2の一方の端部を他方の端部から機械的に分離するその高い柔軟性のために、端部取付部3,3’の間で機械的負荷を伝達しないことである。
【0041】
本発明は、好ましい実施形態に関連して十分に説明したが、変更はこれらの実施形態によってではなく、以下の特許請求の内容によって限定されることを考慮して、変更は本発明の範囲内で導入され得ることは明らかである。