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  • 特許-グラフェン層構造体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】グラフェン層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/26 20060101AFI20220831BHJP
   C01B 32/186 20170101ALI20220831BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C23C16/26
C01B32/186
H01L21/205
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020559036
(86)(22)【出願日】2019-01-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 GB2019050062
(87)【国際公開番号】W WO2019138231
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-09-09
(31)【優先権主張番号】1800451.5
(32)【優先日】2018-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520258057
【氏名又は名称】パラグラフ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PARAGRAF LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,サイモン
(72)【発明者】
【氏名】ギニー,アイバー
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-527471(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0124788(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/26
C01B 32/186
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン層構造体の製造方法であって、前記方法は、
反応チャンバ内の加熱されたサセプタの上に基板を与えるステップを含み、前記チャンバは冷却された複数の入口を有し、前記複数の入口は、使用時に前記基板全体にわたって分散するように、かつ前記基板からの離隔距離が一定になるように配置されており、
前記加熱されたサセプタを、少なくとも300rpmの回転数で回転させるステップと、
前記入口を通して前記反応チャンバ内に前駆体化合物を含む流れを供給し、それにより、前記前駆体化合物を分解して前記基板上にグラフェンを形成するステップとを含み、
前記入口は、100℃未満、好ましくは50~60℃に冷却され、前記サセプタは、前記前駆体の分解温度を上回る、少なくとも50℃の温度まで加熱され、
前記一定の離隔距離は、少なくとも12cm、好ましくは12~20cmである、方法。
【請求項2】
前記グラフェン層構造体は、1~100のグラフェン層を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記回転数は、600~3000rpm、好ましくは1000~1500rpmである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記一定の離隔距離は、約15cmである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記基板は、サファイアまたは炭化ケイ素を含み、好ましくはサファイアを含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記基板の直径は、少なくとも2インチ、好ましくは6~12インチである、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば電気デバイスに使用するのに適したグラフェン層構造体の製造方法に関する。特に、本発明の方法は、高純度グラフェン層構造体を大量生産するための改善された方法を提供し、より広い範囲の前駆体化合物の使用を許容する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、グラフェンという材料の理論上の並外れた特性から導き出された極めて多くの用途が提案されている、周知の材料である。このような特性および用途の良い例が、"The Rise of Graphene" A.K. Geim and K. S. Novoselev, Nature Materials, vol. 6, March 2007, 183-191に詳述されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
その内容を本明細書に引用により援用するWO2017/029470は、二次元材料の製造方法を開示している。具体的には、WO2017/029470はグラフェンのような二次元材料の製造方法を開示しており、この方法は、反応チャンバ内で保持されている基板を、前駆体の分解範囲内の温度であって分解した前駆体から放出された化学種からグラフェンを形成することが可能な温度まで、加熱することと、基板表面から前駆体の入口に向かって延びる急峻な温度勾配(好ましくは1メートルあたり>1000℃)を確立することと、前駆体を、相対的に低温の入口を通して上記温度勾配を通って基板表面に向かうように導入することとを含む。WO2017/029470の方法は、気相成長(vapor phase epitaxy)(VPE)システムおよび有機金属化学気相成長(metal-organic chemical vapor deposition)(MOCVD)反応器を用いて実行することができる。
【0004】
WO2017/029470の方法は、非常に良好な結晶品質、大きな材料粒径、最小限の材料欠陥、大きなシートサイズ、および自立性を含む、多数の有益な特徴を備えた、二次元材料を提供する。しかしながら、二次元材料からデバイスを製造するための高速で低コストの加工方法は依然として必要である。
【0005】
WO2017/029470は、入口と基板との間の離隔距離を小さくする必要性を強調している。これは、分解する前駆体のために大きな温度勾配を実現するためである。最大100mmの離隔距離が意図されているが、20mm以下が一層好ましい。この出願の基板は回転させることができるが、反応器の設計は200rpm以下の低い回転数を好ましいものとしている。
【0006】
US2017/0253967は、化学気相成長(CVD)反応器に関する。
CN204151456は、半導体のエピタキシャルウェハを作製するためのMOCVD反応装置を開示している。
【0007】
EP1240366およびUS2004/028810は、化学気相成長反応器の設計を開示している。
【0008】
本発明の目的は、先行技術に付随する課題を克服するかもしくは実質的に低減するグラフェン層構造体を製造するための改善された方法を提供すること、または、少なくとも、それに代わる商業的に有用なものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、グラフェン層構造体の製造方法を提供し、この方法は、
反応チャンバ内の加熱されたサセプタの上に、基板を与えるステップを含み、上記チャンバは冷却された複数の入口を有し、当該複数の入口は、使用時に上記基板全体にわたって分散しかつ上記基板からの離隔距離が一定になるように配置されており、
上記加熱されたサセプタを、少なくとも300rpm、好ましくは600~3000rpmの回転数で回転させるステップと、
上記入口を通して上記反応チャンバ内に前駆体化合物を含む流れを供給し、それにより、上記前駆体化合物を分解して上記基板上にグラフェンを形成するステップとを含み、
上記入口は、100℃未満、好ましくは50~60℃に冷却され、上記サセプタは、上記前駆体の分解温度を上回る、少なくとも50℃の温度まで加熱され、
上記一定の離隔距離は、少なくとも12cm、好ましくは12~20cmである。
【0010】
次に、本開示についてさらに説明する。以下の記載では、本開示のさまざまな局面/実施形態をより詳細に明らかにする。そのようにして明らかにされた各局面/実施形態は、それを否定する明確な表示がないかぎり、その他のいずれか1つの局面/実施形態または複数の局面/実施形態と組み合わせることができる。特に、好ましいまたは好都合であると記載されているいずれの特徴も、好ましいまたは好都合であると記載されているその他のいずれか1つまたは複数の特徴と組み合わせることができる。
【0011】
本開示は、1~100のグラフェン層、好ましくは1~40のグラフェン層、より好ましくは1~10のグラフェン層を有するもののようなグラフェン層構造体の製造方法に関する。層が多いほど優れた電気的特性が観察される。グラフェンは、当該技術では周知の用語であり、六角形格子状の炭素原子からなる1つの層を含む炭素の同素体を意味する。本明細書で使用するグラフェンという用語は、積層された複数のグラフェン層を含む構造体を含む。本明細書で使用するグラフェン層という用語は、グラフェン単一層を意味する。上記グラフェン単一層は、ドープされてもされなくてもよいが、本明細書に記載の方法の利点を考慮すれば、一般的にはドープされない。本明細書に開示されるグラフェン層構造体は、グラファイトとは異なる。なぜなら、この層構造体はグラフェンと同様の特性を保っているからである。
【0012】
この方法の基板は、任意の周知のMOCVDまたはVPE基板とすることができる。良好なグラフェン結晶オーバーグロース(overgrowth)の形成を促進する核生成サイトの規則正しいアレイを提供する、規則正しい結晶格子サイトとして、グラフェンが生成される結晶面を、基板が提供することが好ましい。最も好ましい基板は、高密度の核生成サイトを提供する。半導体の堆積に使用される基板の規則正しい繰り返し可能な結晶格子が理想的であり、段差がある原子の面は拡散バリアを提供する。好ましくは、基板は、サファイアまたは炭化ケイ素、好ましくはサファイアを含む。その他の好適な基板は、ケイ素、ダイヤモンド、窒化物半導体材料(AlN、AlGaN、GaN、InGaNおよびその錯体)、ヒ化物/リン化物半導体(GaAs、InP、AlInPおよびその錯体)を含む。
【0013】
MOCVDは、基板上に層を堆積させるための特定の方法に使用されるシステムを説明するために用いられる用語である。この頭字語は有機金属化学気相成長(metal-organic chemical vapor deposition)を表すが、MOCVDは、当該技術における用語であり、一般的なプロセスおよびそのために使用される装置に関連すると理解され、必ずしも有機金属反応物の使用または有機金属材料の製造に限定されるとみなされる訳ではない。むしろ、この用語の使用は、当業者に対し、プロセスおよび装置の一般的な一組の特徴を示すものである。さらに、MOCVDは、システムの複雑さおよび精度の点で、CVD技術とは異なる。CVD技術では簡単な化学量論および構造で反応を実施することが可能であるのに対し、MOCVDでは難しい化学量論および構造の製造が可能である。MOCVDシステムは、少なくともガス分配システム、加熱および温度制御システム、ならびに化学物質制御システムという点で、CVDシステムと異なる。典型的には、MOCVDシステムのコストは典型的なCVDシステムの少なくとも10倍である。CVD技術を用いて高品質のグラフェン層構造体を得ることはできない。
【0014】
MOCVDは、原子層堆積(atomic layer deposition)(ALD)技術とも容易に区別することができる。ALDは、試薬の段階的反応に依拠しており、望ましくない副生成物および/または余剰の試薬を除去するために使用される洗浄工程を介在させる。これは、気相の試薬の分解または分離に依拠しているのではない。これは、特に、反応チャンバから除去するのに過剰な時間を要するシランのような蒸気圧が低い試薬の使用には不向きである。
【0015】
一般的に、グラフェン製造中の基板全体の熱的均一性を保証するためには基板ができる限り薄いことが好ましい。好ましい厚さは、50~300ミクロン、好ましくは100~200ミクロン、より好ましくは約150ミクロンである。しかしながら、より厚い基板も機能し、厚いシリコンウェハの厚さは最大2mmである。しかしながら、基板の最小厚さは、一部は基板の機械的特性および基板を加熱する最大温度によって決まる。基板の最大面積は、反応チャンバのサイズによって必然的に決まる。好ましくは、基板の直径は少なくとも2インチ、好ましくは2~24インチ、より好ましくは6~12インチである。成長後にこの基板を任意の周知の方法を用いて切断することにより、個々のデバイスを形成することが可能である。
【0016】
基板は、本明細書に記載のように反応チャンバ内の加熱されたサセプタの上に与えられる。この方法に使用するのに適した反応器は、周知であり、基板を必要な温度まで加熱することが可能な加熱されたサセプタを含む。サセプタは、基板を加熱するための抵抗加熱素子またはその他の手段を含み得る。
【0017】
チャンバは冷却された複数の入口を有し、複数の入口は、使用時に基板全体にわたって分散しかつ基板からの離隔距離が一定になるように配置される。前駆体化合物を含む流れは、水平層流として供給されてもよく、または、実質的に鉛直方向に供給されてもよい。このような反応器に適した入口は、周知である。
【0018】
その上にグラフェンを形成する基板表面と、基板表面の直上の反応器の壁との間の間隔は、反応器の熱勾配に大きな影響を与える。以前より、好ましいできる限り小さい間隔と相関関係がある熱勾配はできる限り急峻でなければならないと考えられてきた。しかしながら、本発明者らは、より高い回転数と組み合わせると、より大きな間隔には付随する利点があることを見出した。特に、これら2つの特徴は、結果としてチャンバ内に渦を発生させる。そうすると、基板表面における前駆体の滞留時間が長くなり、グラフェンの成長が促進される。
【0019】
サセプタを回転させることによって基板を回転させる。回転数は少なくとも300rpmである。好ましくは、回転数は600~3000rpm、好ましくは1000~1500rpmである。理論に縛られることを望むものではないが、この回転数により、存在する可能性があるドーパントは、グラフェン成長領域から、おそらくは向心力によって排出されると考えられる。このことは、何らかの汚染物質がドーパントとしてグラフェンに含まれるリスクが大幅に下がることを意味する。
【0020】
実験は、最小間隔として約12cmが好適であることを示唆している。しかしながら、好ましくはこの間隔は12~20cmであり、好ましくは約15cmである。このように間隔を大きくすると、分解する前駆体化合物の滞留時間を長くするのに役立ち、このことは申し分のないグラフェン層構造体の形成に役立つ。
【0021】
製造方法の実施中に、前駆体化合物を含む流れを入口を通して反応室内に供給し、それにより、前駆体化合物が分解して基板上にグラフェンを形成する。前駆体化合物を含む流れは、希釈ガスをさらに含み得る。好適な希釈ガスについては以下でより詳細に説明する。
【0022】
好都合なことに、このようなプロセス条件を使用すると、プロセスの前駆体化合物の範囲が非常に広くなる。特に、分解温度がより低い前駆体化合物を、たとえこれが望ましくない不純物を生じさせると予想されていたとしても、使用することができる。
【0023】
好ましくは、前駆体化合物は、少なくとも1つのヘテロ原子を含む有機化合物を含み、好ましくは少なくとも1つのヘテロ原子を含む有機化合物である。有機化合物は、炭素を含み典型的にはC-HまたはC-C結合のような少なくとも1つの共有結合を有する化合物を意味する。ヘテロ原子は、炭素または水素以外の原子を意味する。好ましくは、ヘテロ原子は、金属原子、またはN、S、P、Sまたはハロゲンである。例として、好適な有機化合物は、トリメチルインジウム、ジメチル亜鉛、トリメチルアルミニウムもしくはトリメチルガリウムのような有機金属、またはCHBrである。発明者らは、トリメチルガリウムまたはCHBr前駆体化合物を使用する場合、驚くべきことにGaもBrもドーパントとしてグラフェンに取り込まれないことを発見した。
【0024】
加えて、本プロセスは使用することが可能な化合物の範囲を広げる。たとえば、WO2017/029470のプロセスはOH基を含む化合物と適合しないであろうが、これらは本発明では使用することが可能である。なぜなら好ましくない酸素原子は構造体に導入されないからである。加えて、レベルが引き上げられたHOを汚染物質として含有するものを含めて、純度が低い材料を使用することも可能である。このことは、より安価な前駆体を使用できることを意味する。
【0025】
好ましくは、前駆体化合物は室温で液体である。化合物は、室温で液体の場合、一般的には純度が高い液体の形態で低コストで得ることができる。任意の存在としてのヘテロ原子により、高純度かつ低コストの、より広い範囲の化合物を、望ましくないドーピングを生じさせることなく使用できるようになることが、理解されるであろう。
【0026】
前駆体は、好ましくは加熱された基板上を通るときに気相である。考慮すべき変数がさらに2つあり、それらは、反応チャンバ内の圧力およびチャンバへのガスの流量である。
【0027】
選択される好ましい圧力は、選択される前駆体に応じて決まる。大まかに説明すると、分子の複雑度が高い前駆体を使用した場合、改善された二次元結晶材料品質および生産率が、低い圧力、たとえば500mbar未満の圧力を使用すると観察される。理論上、圧力は低いほど良いが、非常に低い圧力(たとえば200mbar未満)で得られる利点は、非常に遅いグラフェン形成速度によって相殺されることになる。
【0028】
逆に、分子の複雑度が低い前駆体の場合は、圧力は高いほど好ましい。たとえば、グラフェン製造用の前駆体としてメタンを使用した場合、600mbar以上の圧力が適しているであろう。典型的に、大気圧を超える圧力を使用することは、基板表面の力学およびシステムへの機械的応力に与えるその好ましくない影響のため、考えられない。どの前駆体についても、好適な圧力は、たとえば、それぞれ50mbar、950mbar、およびこれら2つの圧力の間の等間隔のその他3つの圧力を使用する、5回のテスト実行を含み得る、単純な経験的実験を通して選択することができる。次に、最も好適な範囲を狭めるために、最初の実行で最も好適であると識別された間隔以内の圧力で、さらに実行してもよい。
【0029】
前駆体の流量を利用してグラフェンの堆積速度を制御することができる。選択される流量は、前駆体内部の化学種の量と、作製すべき層の面積とに応じて決まる。基板表面上において凝集したグラフェンの層の形成を可能にするには前駆体ガスの流量が十分に高くなければならない。流量が、高い方のしきい値流量を上回っている場合、バルク材の形成、たとえばグラファイトが一般的には発生する、または、気相反応が増し結果として固体粒子が気相内に浮遊することになり、これらはグラフェンの形成に悪影響を及ぼし、および/またはグラフェン層を汚染させる可能性がある。最小しきい値流量は、理論上は、当業者に周知の技術を用い、基板表面において層の形成に使用できる十分な原子濃度を保証するために基板に供給する必要がある化学種の量を推定することにより、計算することが可能である。所定の圧力および温度における、最小しきい値流量と最大しきい値流量との間の流量およびグラフェン層の成長速度は概ね線形的に関連がある。
【0030】
好ましくは、前駆体と希釈ガスとの混合物を、反応チャンバ内の加熱された基板の上に流す。希釈ガスを使用することにより、炭素供給速度の制御をさらに精密にすることができる。
【0031】
希釈ガスが水素、窒素、アルゴンおよびヘリウムのうちの1つ以上を含むことが好ましい。これらのガスが選択される理由は、典型的な反応器の条件下で、使用できる多数の前駆体と容易に反応せず、グラフェン層に含まれてもいないからである。それでも水素は特定の前駆体と反応する場合がある。WO2017/029470の反応器内において窒素がグラフェン層に取り込まれる可能性はあるが、これが本明細書に記載の条件下で生じる可能性は低い。このような場合は、その他の希釈ガスのうちの1つを使用すればよい。
【0032】
水素および窒素は、MOCVDおよびVPEシステムにおいて使用される標準的なガスなので、特に好ましい。
【0033】
サセプタは、前駆体の分解温度を上回る、少なくとも50℃、より好ましくは100~200℃の温度まで、加熱される。基板が加熱されて到達する好ましい温度は、選択される前駆体に応じて決まる。選択される温度は、化学種を放出させるために前駆体を少なくとも部分的に分解させることができるよう十分高くなければならないが、基板表面から離れた気相における再結合率の上昇を、ひいては望ましくない副生成物の発生を促すほど高くないことが好ましい。選択される温度は、完全分解温度よりも高く、それにより、基板表面の力学の改善を促し、良好な結晶品質のグラフェンの形成を促進する。ヘキサンの場合、最も好ましい温度は、約1200℃、たとえば1150~1250℃である。プロセスコストを削減するためには分解温度がより低い化合物を使用することが望ましい。
【0034】
基板表面と前駆体の導入ポイントとの間に熱勾配を設けるためには、入口の温度を基板よりも低くする必要がある。離隔距離が固定されている場合、温度差が大きいほど温度勾配は急峻になる。少なくとも、前駆体を導入する際に通過させるチャンバの壁、より好ましくはチャンバの複数の壁を冷却することが好ましい。冷却は、冷却システムを用いる、たとえば、流体、好ましくは液体、最も好ましくは水による冷却を用いることにより、実現できる。反応器の壁は、水冷によって一定温度に保つことができる。冷却流体は、入口(複数の入口)の周りを流れることにより、入口が貫通している反応器の壁の内側の面の温度、したがって入口を通って反応チャンバに入るときの前駆体そのものの温度が、実質的に基板温度よりも低いことを保証することができる。入口は、100℃未満、好ましくは50~60℃に冷却される。
【0035】
この方法は、任意で、レーザを用いて基板からグラフェンを選択的にアブレートするステップをさらに含む。好適なレーザは、600nmを上回る波長および50Watt未満の出力を有するものである。好ましくは、レーザの波長は700~1500nmである。好ましくは、レーザの出力は1~20Wattである。これにより、グラフェンを、近傍のグラフェンまたは基板に損傷を与えることなく、容易に取り除くことができる。
【0036】
レーザスポットサイズをできる限り小さく保つこと(すなわち解像度がより高いこと)が好ましい。たとえば、本発明者らは、25ミクロンのスポットサイズで作業した。焦点はできる限り正確でなければならない。基板の損傷を防ぐためには、連続レーザではなくレーザをパルス状にする方がよいことも見出されている。
【0037】
次に、上記方法の要素についてより詳細に説明する。
本発明は、異なる設計のMOCVD反応器の使用を含む。その一例として、本明細書に記載のグラフェン成長にとって効率が良いことが実証されているものが意図されている。この設計は、いわゆる高回転数(High Rotation Rate)(HRR)または「渦」流システムである。WO2017/029470に記載の密結合反応器は非常に高い熱勾配を用いてグラフェンを作製することを重視するが、上記新たな反応器は注入ポイントと成長面または基板との間隔が非常に広い。密結合は、元素状態の炭素を、場合によってはその他のドーピング元素を基板表面に与えてグラフェン層が形成されるようにする前駆体を極めて急速に解離させることができる。一方、新たな設計は前駆体の渦に依拠する。
【0038】
上記新たな反応器設計において、このシステムは、表面上の層流を促進するために、より高い回転数を用いて、高レベルの遠心加速が注入されたガスの流れに影響を与えるようにする。結果として渦タイプの流体の流れがチャンバ内に発生する。この流れのパターンの効果は、他のタイプの反応器と比較すると、成長/基板表面近傍における前駆体分子の滞留時間が非常に長いことである。グラフェンの堆積のために、この長い時間は基本となる層の形成を促進する。
【0039】
しかしながら、このタイプの反応器には付随する問題が2つある。第1に、他の反応器と同量の成長を実現するのに必要な前駆体の量が増加することである。なぜなら、この流れの形態のために平均自由行程が短くなり、結果として前駆体分子の衝突が多くなり非グラフェン成長原子再結合をもたらすからである。しかしながら、比較的安価な試薬を使用することは、この問題を簡単に克服できることを意味する。加えて、遠心運動は、サイズが異なる原子および分子に対して異なる影響を与え、結果として、異なる元素が異なる速度で放出される。望ましくない前駆体の副生成物が放出され均一的な速度で炭素が供給されるので、これは、グラフェンの成長を促すが、一方で、元素ドーピングのような所望の効果については好ましくない可能性がある。したがって、この反応器の設計を、ホールセンサまたはフィルタに使用するのが望ましくかつ不純物レベルの低減を実現できるもののような、ドープされていないグラフェンに対して使用することが好ましい。
【0040】
冷却される入口のアレイのほぼ中央に、いわゆる光パージ(optical purge)入口と呼ばれる第2の入口があってもよい。この入口において、反応チャンバに導入されるガスのガス流量を、他の個々の入口の各々よりも高くすることができる。これは、高回転速度にもかかわらず層流を促進するのに役立つ。
【0041】
このような反応システムの一例は、Veeco Instruments Inc.のターボディスクテクノロジー(Turbodisc technology)、K455iまたはPropelツールである。
【0042】
図面
次に、本発明を、非限定的な以下の図面を参照しながらさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本明細書に記載の方法に使用されるグラフェン層成長チャンバの概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1の反応器は、気相成長(VPE)という方法で基板上にグラフェン層を堆積させるために構成されたものであり、この反応器に前駆体を導入して基板の近傍および基板上において熱的、化学的、および物理的に相互作用させることによって1~40、好ましくは1~10のグラフェン層を有するグラフェン層構造体を形成する。
【0045】
この装置は、密結合反応器1を含み、反応器1は、壁1Aを貫通するように設けられた1つまたは複数の入口3と少なくとも1つの排出口4とを有するチャンバ2を含む。サセプタ5がチャンバ2の内部に配置されている。サセプタ5は、1つ以上の基板6を保持するための1つ以上の凹部5Aを含む。この装置はさらに、チャンバ2内でサセプタ5を回転させるための手段と、ヒータ7とを含み、ヒータ7は、たとえば、基板6を加熱するためにサセプタ5に結合された、抵抗加熱素子またはRF誘導コイルを含む。ヒータ7は、基板6を良好に熱的に均一にするために必要に応じて1つまたは複数の素子を含み得る。チャンバ2内の1つ以上のセンサ(図示せず)を、コントローラ(図示せず)とともに使用することにより、基板6の温度を制御する。
【0046】
反応器1の壁の温度は、水冷によって実質的に一定の温度に保たれる。
反応器の壁は、壁1Aの内側表面1Bを含む反応器の壁の内側表面に対して実質的に隣接して(典型的には数ミリメートルの距離で)延在する1つ以上の内部チャネルおよび/またはプレナム(plenum)8を画定する。動作中、水をポンプ9によりチャネル/プレナム8を通してポンピングすることにより、壁1Aの内側表面1Bを200℃以下に保つ。一部には入口3の直径が比較的狭いことから、(典型的には内側表面1Bの温度よりも遥かに低い温度で保存される)前駆体の温度は、壁1Aの入口3を通ってチャンバ1に入るときに、実質的に壁1Aの内側表面1Bの温度以下になる。
【0047】
入口3は、実質的に1つ以上の基板6の面積以上の面積全体にわたってアレイ状に配置され、入口3に面している1つ以上の基板6の表面6Aの実質的に全体にわたって実質的に均一的な体積流を提供する。
【0048】
チャンバ2内の圧力は、入口3を通る前駆体のガスの流れおよび排出口4を通る排出ガスを制御することによって制御する。この方法により、チャンバ2内のガス、基板表面6Aを通るガス、および、さらに入口3から基板表面6Aへの分子の平均自由行程が、制御される。希釈ガスを使用する場合、その制御を利用して、入口3を通る圧力を制御することもできる。
【0049】
サセプタ5は、堆積に必要な温度、前駆体、および希釈ガスに対する耐性を有する材料からなる。サセプタ5は通常、基板6が均一的に加熱されることを保証する均一的に熱伝導する材料で構成される。好適なサセプタ材料の例は、グラファイト、炭化ケイ素、またはこれら2つの組み合わせを含む。
【0050】
基板6は、図1にXで示される離隔距離を12cm~20cmの間として壁1Aに面するように、チャンバ2内でサセプタ5によって支持される。入口3がチャンバ2内に突出しているかそうでなければチャンバ2内にある場合、関連する離隔距離は、基板6と入口3の出口との間で測定される。
【0051】
基板6と入口3との間隔は、サセプタ5、基板6、およびヒータ7を移動させることによって変えることができる。
【0052】
サセプタ5を、少なくとも300rpm、好ましくは最大3000rpm、たとえば好ましくは1000~1500rpmの回転数で回転させる。
【0053】
気体ストリームの中で懸濁している気体の形態または分子の形態の前駆体が、入口3を通してチャンバ2に導入され(矢印Yで示される)、そうすると、これらは基板表面6Aに当たるかまたは基板表面6A上を流れる。相互に反応し得る前駆体は、異なる入口3を通して導入されてチャンバ2に入るまで、分離された状態で保たれる。前駆体またはガスの流速/流量は、ガスマスフローコントローラ等のフローコントローラ(図示せず)を介してチャンバ2の外部から制御される。
【0054】
希釈ガスを1つまたは複数の入口3から導入することにより、チャンバ2内における、ガス力学、分子濃度、および流速を修正することができる。希釈ガスは通常、グラフェン層構造体の成長プロセスに影響を与えないよう、プロセスまたは基板6材料を基準として選択される。一般的な希釈ガスは、窒素、水素、アルゴンを含み、より少ないがヘリウムを含む。
【0055】
1~40、好ましくは1~10のグラフェン層を有するグラフェン層構造体の形成後、反応器は冷却され、グラフェン層構造体が上にある基板6を取り出す。次に、波長が1152nmで強度が10WのHeNeレーザを含むレーザアブレーション装置内で、基板6を位置合わせしてもよい。次に、このレーザ装置を用いて、基板上にグラフェンコンタクトを有する回路を定める。
【0056】
実施例
次に、本発明を、非限定的な以下の例を参照しながらさらに説明する。
【0057】
化学種そのものを格納している容器が32℃で700Torrのときに370sccmの流量で流れるジブロモメタン前駆体を反応チャンバに入れた。これを、反応器が1025℃で140Torrのときに層が成長するまで11分20秒続けた。この場合の回転数は710RPMであった。
【0058】
反応器の主要な流れは窒素であり、反応器に対する主要な反応器入口(冷却された複数の入口の間に分散している)に流れるのは50000sccmであり光パージ出口に流れるのは4700sccmである。この光パージラインは、通常は反応器の丁度中心にあり、反応器の温度等を測定するために使用される光ポートに堆積が集中するのを阻止するために使用される。しかしながら、好ましい反応器設計においては、このパージラインをわずかにずらすことにより、回転数が高いときにサセプタの丁度中心でデッド容積(dead volume)が生じるのを防止するのに役立つようにしている。
【0059】
化学種そのものを格納している容器が30℃で900Torrのときに55sccmの流量で流れるトリメチルガリウム前駆体を反応チャンバに入れた。これを、反応器が1150℃で75Torrのときに層が成長するまで7分続けた。この場合の回転数は850RPMであった。
【0060】
反応器の主要な流れは窒素であり、反応器に対する主要な反応器入口に流れるのは45000sccmであり光パージ出口に流れるのは4100sccmである。
【0061】
本明細書におけるすべての百分率は、特に明記しない限り、重量百分率である。
上記詳細な説明は、説明および例示のために提供され、添付の請求項の範囲を限定することを意図している訳ではない。本明細書に例示されている現在好ましい実施形態の多数の変形は、当業者には明らかであろう変形であり、なおも添付の請求項およびその均等物の範囲に含まれる。
図1