(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】腫瘍マーカー、メチル化検出試薬、キット及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20220831BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20220831BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20220831BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220831BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20220831BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20220831BHJP
【FI】
C12N15/12
C12Q1/68 ZNA
C12Q1/6886 Z
C12M1/34 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
(21)【出願番号】P 2020565478
(86)(22)【出願日】2019-05-05
(86)【国際出願番号】 CN2019085583
(87)【国際公開番号】W WO2019223516
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-11-20
(31)【優先権主張番号】201810494478.2
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518221830
【氏名又は名称】広州康立明生物科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】劉相林
(72)【発明者】
【氏名】趙栄淞
(72)【発明者】
【氏名】鄒鴻志
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-545437(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107727865(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107326065(CN,A)
【文献】特開2008-118915(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0229876(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105543354(CN,A)
【文献】特開2012-149994(JP,A)
【文献】Epigenetics,2013年,Vol. 8, No. 9 ,921-934
【文献】BMC Cancer,2014年,Vol. 14, Article Number 54,P. 1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12Q 1/00 - 3/00
C12M 1/00 - 3/10
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流プライマーは配列番号2に示されるヌクレオチド配列を有し、下流プライマーは配列番号3に示されるヌクレオチド配列を有する、プライマーペア。
【請求項2】
配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有する、核酸断片。
【請求項3】
配列番号4に示されるヌクレオチド配列を有する、プローブ。
【請求項4】
COL4A1遺伝子のメチル化検出のための、核酸断片、プライマー及び/又はプローブを含み、
前記核酸断片は、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有し、
前記プライマーにおける上流プライマーは、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を有し、前記プライマーにおける下流プライマーは、配列番号3に示されるヌクレオチド配列を有し、
前記プローブは、配列番号4に示されるヌクレオチド配列を有する、COL4A1遺伝子メチル化検出試薬。
【請求項5】
請求項2に記載の核酸断片、請求項1に記載のプライマーペア、請求項3に記載のプローブ、又は請求項4に記載のメチル化検出試薬を含む、キット。
【請求項6】
前記核酸断片を含む第1容器と、増幅に使用される前記プライマーペアを含む第2容器と、前記プローブを含む第3容器とを含む、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
腫瘍の検出キットの製造における請求項2に記載の核酸断片、請求項1に記載のプライマーペア、請求項3に記載のプローブ、又は請求項4に記載のメチル化検出試薬の使用であって、
前記腫瘍は結腸直腸腫瘍である、使用。
【請求項8】
腫瘍検出における請求項2に記載の核酸断片、請求項1に記載のプライマーペア、請求項3に記載のプローブ、請求項4に記載のメチル化検出試薬、又は請求項5に記載のキットの使用であって、
前記腫瘍は結腸直腸腫瘍である、使用。
【請求項9】
前記腫瘍は結腸直腸がん又は腺腫である、請求項7又は8に記載の使用。
【請求項10】
検出の対象となるサンプルは組織、体液又は排泄物である、請求項7又は8に記載の使用。
【請求項11】
前記組織は腸組織である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記体液は血液、血清、血漿、細胞外液、組織液、リンパ液、脳脊髄液又は房水である、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
前記排泄物は喀痰液、尿液、唾液又は糞便である、請求項10に記載の使用。
【請求項14】
インビトロの腫瘍のリスクの決定方法であって、
請求項2に記載の核酸断片、請求項1に記載のプライマーペア、請求項3に記載のプローブ、請求項4に記載のメチル化検出試薬又は請求項5に記載のキットにより、被験体から得られたサンプルのCOL4A1遺伝子のメチル化レベルを検出するステップ(1)と、
前記被験体のCOL4A1遺伝子のメチル化レベルと正常対照サンプルのメチル化レベルとを比較するステップ(2)と、
前記被験体のCOL4A1遺伝子のメチル化レベルが前記正常対照サンプルのメチル化レベルよりも高い場合、前記被験体が腫瘍に罹患しているか又は腫瘍に罹患するリスクがあることを示し、正常サンプルと腫瘍サンプルを区別するステップ(3)と、
を含み、
前記腫瘍は結腸直腸腫瘍である、
方法。
【請求項15】
ステップ(1)において、被験体のCOL4A1遺伝子のメチル化レベルの検出が、
磁気ビーズ捕捉法により被験サンプルのDNAを抽出するステップa)と、
被験サンプルのDNAを亜硫酸水素塩、重亜硫酸水素塩又はヒドラジン塩により転換するステップb)と、
メチル化特異的定量PCRにより検出するステップc)と、
を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ステップa)において、磁気ビーズ捕捉法による被験サンプルのDNAの抽出は、
被験サンプルを取り、保護液中で混合し、研磨し、遠心分離した後、上清を取るステップと、
上清を再度遠心分離し、上清を取り、溶解液及び特定の相補的なオリゴヌクレオチド核酸断片を有する磁気ビーズを上清液に入れ、インキュベートするステップと、
一部の上清を捨て、磁気ビーズを洗浄して除去し、清潔な遠沈管に移し、洗浄液を加え、室温、100-2000rpmで0.5-5minインキュベートし、磁気スタンドに置き、上清を吸って除去し、3回繰り返すステップと、
緩衝液で標的遺伝子DNAを溶出するステップと、
を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
(1)COL4A1遺伝子のメチル化検出機構と、
(2)データ処理機構と、
(3)結果出力機構と、
を含む腫瘍の検出システムであって、
前記メチル化検出機構は、請求項2に記載の核酸断片、請求項1に記載のプライマーペア、請求項3に記載のプローブ、請求項4に記載のメチル化検出試薬又は請求項5に記載のキットをさらに含み、
前記腫瘍は結腸直腸腫瘍である、腫瘍の検出システム。
【請求項18】
前記メチル化検出機構は、蛍光定量PCR装置、PCR装置、シーケンサーのうちの1種又は複数種を含む、請求項17に記載の腫瘍の検出システム。
【請求項19】
前記データ処理機構は、
a.被検サンプル及び正常対照サンプルのテストデータを受信し、
b.被検サンプル及び正常対照サンプルのテストデータを記憶し、
c.同じタイプの被検サンプルと正常対照サンプルのテストデータを比較し、
d.比較結果に基づいて、被験体が腫瘍に罹患する確率又は可能性を判断するように配置される、請求項17に記載の腫瘍の検出システム。
【請求項20】
前記結果出力機構は、被験体が腫瘍に罹患する概率又は可能性を出力するために使用される、請求項17に記載の腫瘍の検出システム。
【請求項21】
前記腫瘍は結腸直腸がん又は腺腫である、請求項14から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前
記方法により検出されるサンプルのタイプは、組織、体液又は排泄物である、請求項14から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記組織は腸組織である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記体液は血液、血清、血漿、細胞外液、組織液、リンパ液、脳脊髄液又は房水である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記排泄物は喀痰液、尿液、唾液又は糞便である、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野に関し、特に腫瘍マーカー、メチル化検出試薬、キット及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
結腸直腸がんは、大腸がんとも呼ばれ、消化管の一般的な悪性腫瘍である。中国では結腸直腸がんの発生率は年々増加しており、上海や広州など中国の一部の沿岸地域では、肺がんに次ぐ2位になった。腸がんの形成は、遺伝的欠陥及びエピジェネティックな欠陥の累積によるものであると考えられている。結腸直腸がんの早期発症は潜行性であり、多くの場合明らかな症状がなく、後期では血便、腹痛、下痢などの症状が現れることがある。通常、症状が現れると、既に後期段階になっており、患者に大きな痛みと高価な治療をもたらす。そこで、早期発見、早期診断、早期治療は、結腸直腸がんの発生率と死亡率を減らすための重要な手段である。
【0003】
スクリーニングにより、腸癌及び前癌病変を早期に検出し、病巣を除去することにより、腸癌の発生を防ぐことができる。結腸直腸がんの現在のスクリーニング方法には、主に潜血検査と大腸内視鏡検査が含まれる。しかし、潜血検査は、食物の影響を受けやすく、腺腫の検出率が高くないという問題がある。大腸内視鏡検査は腸がん診断のゴールドスタンダードであるが、スクリーニング方法として使用される場合、群集コンプライアンスが高くない。そのため、高正確性、高コンプライアンスの結腸直腸がんのスクリーニング法が必要である。
【0004】
腸がんの新しいスクリーニング法としての糞便遺伝子検査は、現在ますます注目を集めている。この方法(Cologuard(登録商標))は、2016年に米国の腸がんスクリーニングガイドラインに組み込まれた。この方法は便利で非侵襲的であり、腸がん及び前がん性腺腫の検出率が高いなどの特徴を有する。結腸直腸がん検出用の高性能糞便遺伝子検出キットを作成するには、糞便DNAの抽出及びマーカーの選択の2つの主要な障害を克服する必要がある。糞便の組成は複雑であり、下流の反応に対する多くの阻害物があり、そして多くの細菌のDNAがあり、このような混合物からヒト標的遺伝子を抽出するためには、高感度の遺伝子抽出及び精製方法が必要である。一方、DNAメチル化は腫瘍形成の初期事象であることが研究によって示されているため、腸がんに関連する多くのマーカー、特にDNAメチル化マーカーがある。しかし、多くのメチル化マーカーは、細胞及び組織レベルで良好に機能するが、糞便や血液などのスクリーニング媒体に使用されると、腸がんに対する感度及び特異性は低下する。例えば、vimentin遺伝子は、組織において感度が83%であるが、糞便検体において46%に下がる。SFRP1、SFRP2などの遺伝子は同様である。このようなマーカーは、腸がんの臨床的検出に対する真の需要を満たすことができない。従って、糞便において腸がんに対して極めて高い検出感度及び特異性を有するマーカーを選択することは、腸がん糞便遺伝子検出の鍵であり、このようなマーカーは、腸がんの臨床検出に使用されることが期待される。
【発明の概要】
【0005】
上記状況に鑑み、本発明は、腫瘍マーカー、捕捉配列、プライマーペア、プローブ、メチル化検出試薬、キット及びその使用を提供する。糞便において腸がんに対する本発明の腫瘍マーカーの感度は、組織における感度に近く、組織の感度よりもさらに高い。
【0006】
本発明の別の目的は、腫瘍を非侵襲的に検出するマーカー、捕捉配列、プライマーペア、プローブ、メチル化検出試薬、キット及び方法を提供することである。上述した本発明の目的を達成するために、本発明は、以下の技術案を提供する。
【0007】
本発明は、腫瘍マーカーの製造におけるCOL4A1遺伝子の使用を提供する。
【0008】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記COL4A1遺伝子の配列は、ジーンバンクアクセッション番号NC_000013.11に示される配列と少なくとも97.8%の同一性を有する。
【0009】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記COL4A1遺伝子の配列は、ジーンバンクアクセッション番号NC_000013.11に示される配列と少なくとも98.9%の同一性を有する。
【0010】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記COL4A1遺伝子の配列は、ジーンバンクアクセッション番号NC_000013.11に示される配列と少なくとも99.9%の同一性を有する。
【0011】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記COL4A1遺伝子の配列は、ジーンバンクアクセッション番号NC_000013.11に示される配列と100%の同一性を有する。
【0012】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記腫瘍は結腸直腸腫瘍又は腺腫である。
【0013】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、被検サンプルは組織、体液又は排泄物である。
【0014】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記組織は腸組織である。
【0015】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記体液は、血液、血清、血漿、細胞外液、組織液、リンパ液、脳脊髄液又は房水を含むが、これらに限定されない。本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記排泄物は喀痰液、尿液、唾液又は糞便である。
【0016】
本発明は、腫瘍検出試薬又はキットの製造におけるCOL4A1遺伝子のメチル化検出試薬の使用をさらに提供する。
【0017】
前記COL4A1遺伝子のメチル化検出試薬は、従来技術におけるメチル化検出試薬であってもよい。従来技術には、標的遺伝子のメチル化を検出可能な方法が多くあり、例えば、メチル化特異的PCR(MSP)、メチル化特異的定量PCR(qMSP)、メチル化DNA特異的結合タンパク質のPCR、定量PCR及びDNAチップ、メチル化感受性制限エンドヌクレアーゼ、重亜硫酸塩シーケンシング法又はパイロシーケンシング法などが挙げられる。各検出方法には、それぞれ対応する試薬があり、これらの試薬は、いずれも本発明のCOL4A1遺伝子のメチル化の検出に使用できる。
【0018】
本発明は、捕捉配列をさらに提供する。前記捕捉配列は、
I:配列番号1に示されるヌクレオチド配列、
II:配列番号1に示されるヌクレオチド配列において1つ又は複数の塩基が修飾、置換、欠失又は付加されたヌクレオチド配列、或いは配列番号1に示されるヌクレオチド配列のCpGアイランドを有して得られた機能が類似するヌクレオチド配列、
III:与配列番号1に示されるヌクレオチド配列具有少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%同一性的配列又は配列番号1に示されるヌクレオチド配列のCpGアイランドを有して得られた機能が類似するヌクレオチド配列、及び
IV:I、II又はIIIに示される配列の相補的な配列、
のうちのいずれか1つを有する。
【0019】
本発明は、プライマーペアをさらに提供する。
上流プライマーは、
V:配列番号2に示されるヌクレオチド配列、
VI:配列番号2に示されるヌクレオチド配列において1つ又は複数の塩基が修飾、置換、欠失又は付加されたヌクレオチド配列、
VII:配列番号2に示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の同一性を有する配列、或いは配列番号2に示されるヌクレオチド配列のCpGアイランドを有して得られた機能が類似するヌクレオチド配列、及び
VIII:V、VI又はVIIに示される配列の相補的な配列、
のうちのいずれか1つを有する。
下流プライマーは、
IX:配列番号3に示されるヌクレオチド配列、
X:配列番号3に示されるヌクレオチド配列において1つ又は複数の塩基が修飾、置換、欠失又は付加されたヌクレオチド配列、
XI:配列番号3に示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の同一性を有する配列、或いは配列番号3に示されるヌクレオチド配列のCpGアイランドを有して得られた機能が類似するヌクレオチド配列、及び
XII:IX、X又はXIに示される配列の相補的な配列、
のうちのいずれか1つを有する。
【0020】
本発明は、プローブをさらに提供する。
前記プローブは、
XIII:配列番号4に示されるヌクレオチド配列、
XIV:配列番号4に示されるヌクレオチド配列において1つ又は複数の塩基が修飾、置換、欠失又は付加されたヌクレオチド配列、
XV:配列番号4に示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の同一性を有する配列、或いは配列番号4に示されるヌクレオチド配列のCpGアイランドを有して得られた機能が類似するヌクレオチド配列、及び
XVI:XIII、XIV又はXVに示される配列の相補的な配列、
のうちのいずれか1つを有する。
【0021】
本発明は、COL4A1遺伝子のメチル化検出に対する捕捉配列、プライマー及び/又はプローブを含むCOL4A1遺伝子のメチル化検出試薬をさらに提供する。
【0022】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、COL4A1遺伝子のCpGアイランドに対して得られた捕捉配列、プライマー及び/又はプローブを含む。
【0023】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、プライマー及び/又はプローブは、メチル化特異的定量PCR(quantitative Methylation-Specific PCR,qMSP)によりCOL4A1遺伝子のメチル化を検出する。
【0024】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明で提供されるメチル化検出試薬は、COL4A1遺伝子のゲノソーム、遺伝子間領域、又はプロモーター領域及びびプロモーター領域に近い領域のメチル化レベルを検出する。
【0025】
腫瘍組織に存在するメチル化は、潜在的な臨床的価値を有するDNAエピジェネティックな修飾であると考えられている。ゲノソーム、遺伝子間領域、プロモーター領域又はそれに近い領域のいずれにもメチル化が存在し、かつこれらの領域のメチル化はいずれも腫瘍に関連する可能性がある。現在、多くの腫瘍において、腫瘍抑制遺伝子プロモーター又はそれに近い領域のCpGアイランドの異常メチルにより転写の不活性化を引き起こすことが実証された。本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明で提供されるメチル化検出試薬は、COL4A1遺伝子のプロモーター領域又は前記プロモーター領域に近い領域のCpGアイランドに対して得られた捕捉配列、プライマー及び/又はプローブを含む。
【0026】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明で提供されるメチル化検出試薬における前記捕捉配列は、
I:配列番号1に示されるヌクレオチド配列、
II:配列番号1に示されるヌクレオチド配列において1つ又は複数の塩基が修飾、置換、欠失又は付加されたヌクレオチド配列、或いは配列番号1に示されるヌクレオチド配列のCpGアイランドを有して得られた機能が類似するヌクレオチド配列、
III:配列番号1に示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の同一性を有する配列、或いは配列番号1に示されるヌクレオチド配列のCpGアイランドを有して得られた機能が類似するヌクレオチド配列、及び
IV:I、II又はIIIに示される配列の相補的な配列、
のうちのいずれか1つを有する。
【0027】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明で提供されるメチル化検出試薬では、前記プライマーにおける上流プライマーは、
V:配列番号2に示されるヌクレオチド配列、
VI:配列番号2に示されるヌクレオチド配列において1つ又は複数の塩基が修飾、置換、欠失又は付加されたヌクレオチド配列、
VII:配列番号2に示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の同一性を有する配列、或いは配列番号2に示されるヌクレオチド配列のCpGアイランドを有して得られた機能が類似するヌクレオチド配列、及び
VIII:V、VI又はVIIに示される配列の相補的な配列、
のうちのいずれか1つを有する。
【0028】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明で提供されるメチル化検出試薬では、前記プライマーにおける下流プライマーは、
IX:配列番号3に示されるヌクレオチド配列、
X:配列番号3に示されるヌクレオチド配列において1つ又は複数の塩基が修飾、置換、欠失又は付加されたヌクレオチド配列、
XI:配列番号3に示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の同一性を有する配列、或いは配列番号3に示されるヌクレオチド配列のCpGアイランドを有して得られた機能が類似するヌクレオチド配列、及び
XII:IX、X又はXIに示される配列の相補的な配列、
のうちのいずれか1つを有する。
【0029】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明で提供されるメチル化検出試薬の前記プローブは、
XIII:配列番号4に示されるヌクレオチド配列、
XIV:配列番号4に示されるヌクレオチド配列において1つ又は複数の塩基が修飾、置換、欠失又は付加されたヌクレオチド配列、
XV:配列番号4に示されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の同一性を有する配列、或いは配列番号4に示されるヌクレオチド配列のCpGアイランドを有して得られた機能が類似するヌクレオチド配列、及び
XVI:XIII、XIV又はXVに示される配列の相補的な配列、
のうちのいずれか1つを有する。
【0030】
本発明は、前記捕捉配列、プライマーペア、プローブ又はメチル化検出試薬を含む腫瘍の検出キットをさらに提供する。
【0031】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明で提供されるキットは、内部が試薬を収容するように区画される1つ又は複数の容器を含む。
【0032】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明で提供されるキットは、捕捉配列を含む第1容器と、増幅に使用されるプライマーペアを含む第2容器と、プローブを含む第3容器と、を含む。
【0033】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明で提供されるキットは、キットに一般的に使用される試薬、例えば、qMSPに一般的に使用される転換剤を含む。このような試薬により、非メチル化のシトシン塩基はウラシルに転換し、メチル化シトシン塩基は変化しない。前記転換剤は、亜硫酸水素塩、重亜硫酸水素塩又はヒドラジン塩などを含むが、これらに限定されない。また、COL4A1遺伝子の増幅に一般的に使用されるDNAポリメラーゼ、dNTPs、Mg2+イオン及び緩衝液などもある。
【0034】
本発明は、前記捕捉配列、プライマーペア、プローブ、メチル化検出試薬、腫瘍検出におけるキットの使用をさらに提供する。
【0035】
本発明は、COL4A1遺伝子のメチル化レベルを検出することで、正常サンプルと腫瘍サンプルを区分する腫瘍の検出方法をさらに提供する。
【0036】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、
被験体のCOL4A1遺伝子のメチル化レベルを検出するステップ(1)と、
被験体のCOL4A1遺伝子のメチル化レベルと正常対照サンプルのメチル化レベルとを比較するステップ(2)と、
前記被験体のCOL4A1遺伝子のメチル化レベルが前記正常対照サンプルのメチル化レベルよりも高い場合、前記被験体が腫瘍に罹患しているか又は腫瘍に罹患するリスクがあることを示し、正常サンプルと腫瘍サンプルを区別するステップ(3)と、を含む。
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明は、COL4A1遺伝子のゲノソーム、遺伝子間領域、又はプロモーター領域及びびプロモーター領域に近い領域のメチル化レベルを検出することで正常サンプルと腫瘍サンプルを区別する。
【0037】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明は、COL4A1遺伝子プロモーター領域及びプロモーター領域に近い領域のメチル化レベルを検出することで正常サンプルと腫瘍サンプルを区別する。
【0038】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記メチル化レベルは、メチル化特異的PCR、又はメチル化特異的定量PCR(qMSP)、又はメチル化DNA特異的結合タンパク質的PCR、定量PCR、及びDNAチップ、又はメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼ、又は重亜硫酸塩シーケンシング法、又はパイロシーケンシング法により検出される。
【0039】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記のメチル化レベルは、メチル化特異的定量PCR(qMSP)により検出される。
【0040】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、メチル化レベルは、前記捕捉配列、プライマーペア、プローブ、メチル化検出試薬又は前記キットにより検出される。
【0041】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、ステップ(1)では、被験体のCOL4A1遺伝子のメチル化レベルの検出は、
磁気ビーズ捕捉法により被検サンプルのDNAを抽出するステップa)と、
被検サンプルのDNAを亜硫酸水素塩、重亜硫酸水素塩又はヒドラジン塩により転換するステップb)と、
メチル化特異的定量PCR(qMSP)により検出するステップc)と、
を含む。
【0042】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、ステップa)では、磁気ビーズ捕捉法による被検サンプルのDNAの抽出は、
被検サンプルを取り、保護液中で混合し、研磨し、遠心分離した後、上清を取るステップと、
上清を再度遠心分離し、上清を取り、溶解液及び特定の相補的なオリゴヌクレオチド捕捉配列を有する磁気ビーズを上清液に入れ、インキュベートするステップと、
一部の上清を捨て、磁気ビーズを洗浄して除去し、清潔な遠沈管に移し、洗浄液を加え、室温、100-2000rpmで0.5-5minインキュベートし、磁気スタンドに置き、上清を吸って除去し、3回繰り返すステップと、
緩衝液で標的遺伝子DNAを溶出するステップと、
を含む。
【0043】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、検出基準は以下の通りである。限界値に基づいて腫瘍検体及び正常検体を判断し、糞便検体においてCt値の限界値は32~42であり、好ましくは、糞便検体においてCt値の限界値は35.2である。前記糞便検体のCt値が前記Ct値の限界値より小さい場合、腫瘍検体として判断され、前記糞便検体のCt値が前記Ct値の限界値以上である場合、正常検体として判断される。組織検体においてメチル化レベル値の限界値は1~10であり、好ましくは、組織検体においてメチル化レベル値の限界値は3.9である。前記組織検体のメチル化レベル値が前記メチル化レベル値の限界値より大きい場合、腫瘍検体として判断され、前記組織検体のメチル化レベル値が前記メチル化レベル値の限界値以下である場合、正常検体として判断される。この限界値は、実際の状況に応じて調整することができる。
【0044】
本発明は、腫瘍的検出システムをさらに提供する。前記システムは、
(1)COL4A1遺伝子のメチル化検出機構と、
(2)データ処理機構と、
(3)結果出力機構と、
を含む。
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記メチル化検出機構は、蛍光定量PCR装置、PCR装置、シーケンサーのうちの1種又は複数種を含む。
【0045】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記メチル化検出機構は、前記捕捉配列、プライマーペア、プローブ、メチル化検出試薬又はキットをさらに含む。
【0046】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記データ処理機構は、
a.被検サンプル及び正常対照サンプルのテストデータを受信し、
b.被検サンプル及び正常対照サンプルのテストデータを記憶し、
c.同じタイプの被検サンプルと正常対照サンプルのテストデータを比較し、
d.比較結果に基づいて、被験体が腫瘍に罹患する確率又は可能性を判断するように配置される。
【0047】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記結果出力機構は、被験体が腫瘍に罹患する概率又は可能性を出力するために使用される。
【0048】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、データ処理機構の判断基準は、以下の通りである。
限界値に基づいて腫瘍検体及び正常検体を判断する。糞便検体においてCt値の限界値は32~42であり、好ましくは、糞便検体においてCt値の限界値は35.2である。前記糞便検体のCt値が前記Ct値の限界値より小さい場合、腫瘍検体として判断され、前記糞便検体のCt値が前記Ct値の限界値以上である場合、正常検体として判断される。組織検体においてメチル化レベル値の限界値は1~10であり、好ましくは、組織検体においてメチル化レベル値の限界値は3.9である。前記組織検体のメチル化レベル値が前記メチル化レベル値の限界値より大きい場合、腫瘍検体として判断され、前記組織検体のメチル化レベル値が前記メチル化レベル値の限界値以下である場合、正常検体として判断される。この限界値は、実際の状況に応じて調整することができる。
【0049】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明に記載の腫瘍は結腸直腸腫瘍である。
【0050】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明に記載の腫瘍は結腸直腸がん又は腺腫である。
【0051】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、本発明で提供される被検サンプル又はサンプルのタイプは組織、体液又は排泄物である。
【0052】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記組織は腸組織である。
【0053】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記体液は、血液、血清、血漿、細胞外液、組織液、リンパ液、脳脊髄液又は房水を含む。
【0054】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、前記排泄物は喀痰液、尿液、唾液又は糞便である。
【0055】
本発明では、研究により、COL4A1遺伝子プロモーター領域のメチル化レベルを検出することで、健常者の糞便検体から結腸直腸がん検体が良好に区別されることが発見された。本発明は、この遺伝子を含むメチル化検出試薬により結腸直腸がんを検出するとともに、腸がんの検出感度及び特異性が非常に高い。
【0056】
従来の腸がん検出マーカーに比べ、本発明で提供されるマーカー及び技術案により、非常の高い感度及び特異性で結腸直腸がんを検出できるとともに、糞便における結腸直腸がんに対する検出率が組織検体よりも高い。具体的には、以下の利点を有する。
1、前記技術案の1つでは、COL4A1遺伝子のメチル化検出試薬は、糞便検体において特異性が95.2%である場合、85%の結腸直腸がんを検出することができ、結腸直腸がんに対する検出率は組織検体よりも高く、簡単に糞便を検出サンプルとして結腸直腸がんに対して信頼性の高い診断を行うことができる。糞便サンプルは入手され易く、サンプリングが非侵襲的で簡単であり、患者に痛みや不便を与えることはない
【0057】
2、前記技術案の1つでは、COL4A1遺伝子のメチル化検出試薬は、組織検体において特異性が95.2%である場合、80%の結腸直腸がんを検出することができる。
【0058】
3、前記技術案の1つでは、COL4A1遺伝子を含むメチル化検出試薬及び抽出検出方法により、結腸直腸がんと健常者を非常に便利で正確に判断することができる。この遺伝子のメチル化検出試薬は、糞便遺伝子検出キット及び腸がんの臨床検出への使用が期待され得る。
【0059】
4、前記技術案の1つにおける試薬/キットは、メチル化レベルによりがんを検出及び診断する。多くの研究により、メチル化変化は腫瘍発生過程における初期段階であり、異常なメチル化の検出により初期病変がより簡単に発見されることが確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
本発明の実施例又は先行技術における技術案をより明確に説明するために、以下は、実施例又は先行技術の説明に使用される必要がある図面を簡単に紹介する。
【0061】
【
図1】実施例1の糞便実験でCOL4A1遺伝子により結腸直腸がんを検出したROC曲線である。
【
図2】実施例1の糞便実験におけるCOL4A1遺伝子の標準曲線増幅スペクトルである。
【
図3】実施例2の組織実験におけるCOL4A1遺伝子により結腸直腸がんを検出したROC曲線である。
【
図4】比較例2の19ペアの組織実験におけるSFRP1遺伝子により結腸直腸がんを検出したROC曲線である。
【
図5】比較例2の36例の糞便実験におけるSFRP1遺伝子により結腸直腸がんを検出したROC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明は、腫瘍マーカー、メチル化検出試薬、キット及びその使用を開示し、当業者が本明細書の内容に基づいてプロセスパラメータを適切に改善することができる。すべての同様の置換及び修正は当技術分野の当業者には明らかであり、それらはすべて本発明に含まれるとみなされる。本発明の方法及び使用は、好ましい実施例を通して説明される。当業者は、本発明の内容、精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の方法及び使用を適切に変更及び組み合わせることで本発明の技術を実現及び使用することができる。
【0063】
本発明で提供される腫瘍マーカー、メチル化試薬、キット及びその使用に用いる原料、補助材料及び試薬はすべて、市場で購入又は合成することができる。
【0064】
差異性メチル化を検出可能なCpG部位があれば、COL4A1遺伝子のいずれかの核酸断片も本発明に使用できる。CpGアイランドは核酸配列におけるCpGリッチ領域である。CpGアイランドは、プロモーターの上流から下流に向かって転写領域まで延びる。プロモーター上のCpGアイランドのメチル化は、通常遺伝子の発現を抑制する。プロモーター内のCpGアイランドは、メチル化の一部であり、ゲノソームにおけるCpG open seaには、保存されたDNAメチル化ターゲットが存在する。最近の研究により、非プロモーター領域(例えば、ゲノソーム及びUTR)メチル化の遺伝子発現に対する相乗効果が発見され、ゲノソームのメチル化は、がんの潜在的な治療標的となる可能性がある。
【0065】
一般的に、CpGアイランドは、CpGが多く含まれるジヌクレオチドのいくつかの領域であり、通常、プロモーター及びその近くの領域に位置する。本発明のCpGアイランドは、CpGジヌクレオチドが多く含まれるプロモーター及びその近くの領域を指すだけでなく、ヘテロメチル化CpG部位又は孤立したCpG部位も含む。
【0066】
通常、CpGを含む核酸はDNAである。しかし、本発明では、例えば、DNA、又はDNA及びmRNA含有RNAを含むサンプルが適用できる。DNA又はRNAは、一本鎖と二本鎖であってもよい。DNA-RNAハイブリッド鎖もサンプルに含まれてもよい。
【0067】
本発明における「プライマー」又は「プローブ」は、オリゴヌクレオチドを指し、標的核酸分子(例えば、標的遺伝子)の少なくとも6つの連続したヌクレオチドの配列に相補的な領域を含む。いくつかの実施形態において、プライマー又はプローブは、標的分子の少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19又は少なくとも20個の連続又は非連続のブロックヌクレオチドの配列に相補的な領域を含む。プライマー又はプローブが標的分子の少なくともx個の連続したヌクレオチドに相補的な領域を含む場合、前記プライマー又はプローブは、標的分子の少なくともx個の連続するヌクレオチドと少なくとも95%相補的である。いくつかの実施形態において、プライマー又はプローブは、標的分子と少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%相補的である。
【0068】
本発明における「検出」は、診断と同様に、結腸直腸腫瘍の早期診断を除いて、結腸直腸腫瘍の中期及び後期診断も含み、また、結腸直腸腫瘍のスクリーニング、リスク評価、予後、疾患の同定、病期の診断、及び治療標的の選択をさらに含む。
【0069】
結腸直腸腫瘍マーカーCOL4A1の使用により、結腸直腸腫瘍の早期診断は可能になる。がん細胞中でメチル化された遺伝子が臨床的又は形態学的に正常な細胞中でメチル化されたと確定された場合、正常な細胞ががんへ発展していることを示す。このように、結腸直腸がんは、外観が正常な細胞における結腸直腸腫瘍特異的遺伝子COL4A1のメチル化によって早期に診断することができる。
【0070】
早期診断とは、転移前、好ましくは組織又は細胞の形態の観察可能な変化の前にがんの可能性を発見することを指す。
【0071】
結腸直腸腫瘍の早期診断に加え、本発明の試薬/キットは、結腸直腸腫瘍のスクリーニング、リスク評価、予後診断、疾患同定、病期の診断、及び治療標的の選択のために使用されることが期待される。
【0072】
疾患の病期の代替実施形態として、異なる病期又は期間における結腸直腸腫瘍の進行においてサンプルから得られたCOL4A1のメチル化の程度を測定することによって診断を行うことができる。結腸直腸がんの各段階のサンプルから分離された核酸のCOL4A1遺伝子のメチル化程度と、異常な細胞増殖がない腸組織におけるサンプルから分離された1つ又は複数の核酸のCOL4A1遺伝子のメチル化程度とを比較することにより、サンプルにおける結腸直腸腫瘍の具体的段階を検出することができる。
【0073】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
実施例1
163例の糞便検体(80例の結腸直腸がん、83例の正常検体;全て大腸内視鏡検査又は病理的検査により確診された)を研磨して遠心分離し、100ul捕捉磁気ビーズ(COL4A1遺伝子の捕捉配列を含む)を加え、以下の手順に従って操作した。
【0074】
手順は以下の通りである。
1)大腸内視鏡結果を有する健常者及び結腸直腸腫瘍患者の糞便検体を収集し、1g糞便:4mL保護液で混合して研磨した後、5000rpmで10min遠心分離し、上清を取り、沈殿を捨てた。
2)10mL上清を取り、再度遠心分離し、上清3.2mLを取り、2mL溶解液及び100ul捕捉磁気ビーズM1を加え、92℃で10minインキュベートし、その後、室温で1時間放置した。
3)磁気スタンドに置き、一部の上清を捨てた後、磁気ビーズを洗浄して除去し、2mL遠沈管に移し、800ul洗浄液W1を加え、室温、1300rpmで1minインキュベートし、磁気スタンドに置き、上清を吸って除去し、3回繰り返した。
4)55ul溶出液を加え、92℃、1300rpmで10minインキュベートし、磁気スタンドに置き、3min内で50ul溶出液を新しいEP管に移した。
5)EZ DNA Methylation Kit(Zymo Research)により前のステップにおけるDNA断片をメチル化処理し、最後の溶出液15ulをqMSP検出に使用した。
最後に、Bisulfiteで転換された後のDNAを15ul得た。次に、qMSPによりCOL4A1のメチル化のレベルを検出した。
【0075】
qMSP反応系:25ul(ヌクレアーゼフリー水8.2ul、5×Colorless GoTaq Flexi Buffer 5ul、MgCl2(25mM)5ul、dNTPs(10mM)1ul、GoTaq Hot Start polymerase 0.5ul、フォワードプライマー(Forward primer(100uM))0.125ul、リバースプライマー(Reverse primer(100uM))0.125ul、プローブ(Probe(100uM))0.05ul、DNA 5ul)。反応プログラム:95℃4min(95℃20s、56℃30s、72℃30s)×45Cycles、37℃30s。
【0076】
最後に、標準曲線に基づいて検体における遺伝子のコピー数を計算した。
【0077】
COL4A1遺伝子のメチル化が発生した部位は相対的一定であり、主にプロモーター領域又はその近くのCpGアイランドに位置する。これらの領域に対して1群の捕捉配列、プライマー及びプローブを設計し、COL4A1遺伝子メチル化検出試薬に使用した。
【0078】
試薬に含まれる捕捉配列、プライマープローブは以下の通りである。
COL4A1の捕捉配列(配列番号1):5’-CTGCCCGGCGTGCGGGGGCCGCGGCGGACAGCTAGCTCTC-3’
COL4A1のqMSPプライマープローブ:
Forward Primer(配列番号2):5’-CGTTTGGAGTCGTCGTATTC-3’
Reverse Primer(配列番号3):5’-CGACGAACAACTAACTCTCG-3’
Probe(配列番号4):5’-CGTAGCGTTGGAAGTTCGGTTTTT-3’
糞便実験では、COL4A1遺伝子により結腸直腸がんを検出したROC曲線を
図1に示す。
結腸直腸がんについては、COL4A1遺伝子の検出感度は83.8%(67/80)、特異性は95.2%(79/83)、ROC曲線下面積は0.965であった(95%CI:0.941-0.989、p<0.0001)。
糞便実験では、COL4A1遺伝子の標準曲線増幅スペクトルを図に示す。
標準曲線増幅効率は103%、線形性はR2=0.993であった。
【0079】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
注:「増幅なし」は、増幅曲線がなく、Ctデータがなく、限界値より大きい範囲に属することを示す。
【0080】
実施例2
105ペアの結腸直腸がんと傍がん正常組織検体(全て大腸内視鏡検査又は病理的検査により確診された)を選択し、Protocolに従って、それぞれQIAamp DNA Kit(QIAGEN)により組織DNAを抽出した後、EZ DNA Methylation Kit(Zymo Research)でDNAを転換した。
【0081】
次に、qMSPによりCOL4A1のメチル化レベルを検出した。
【0082】
qMSP反応系及びステップは、実施例1の糞便実験と同様である。最後、標準曲線に基づいて検体における遺伝子のメチル化値:(Target/ACTB)*100を計算した。用いたqMSPプライマープローブは実施例1と同様であった。
【0083】
組織実験では、COL4A1遺伝子により結腸直腸がんを検出したROC曲線を
図3に示す。
結腸直腸がんについては、COL4A1遺伝子の検出感度は81.9%(86/105)、特異性は95.2%(100/105)、ROC曲線下面積は0.884であった(95%CI:0.829-0.939、p<0.0001)。
【0084】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【0085】
比較例1
QIAamp DNA Stool Mini Kit(QIAGEN)により糞便検体のDNAを抽出し、次に、メチル化特異的PCR(MSP)又は定量メチル化特異的PCR(qMSP)により検体中のマーカーのレベルを定性又は定量的に検出する研究がある。この研究では、MSPにより結腸直腸がんを検出し、電気泳動を実行する必要があるので、操作が不便であり、製品汚染のリスクがある。また、QIAamp DNA Stool Mini Kitにより抽出された糞便中のDNAは、ヒトと細菌の総DNAであり、ヒトの腫瘍DNAは極めて少なく、後続のPCR検出に不利である。
【0086】
比較例2
研究によりSFRP1遺伝子のメチル化は腸がんに関係があり、糞便においてこの遺伝子のメチル化の程度を検出することにより結腸直腸がんを検出できることが分かった。53例の糞便検体(29例の腸がん検体、7例の腺腫検体、17例の正常検体)実験では、特異性が86%である場合、89%の結腸直腸腫瘍を検出することができる(Zhang W, Bauer M, Croner RS,Pelz JO,Lodygin D,Hermeking H,Sturzl M,Hohenberger W,Matzel KE.DNA stool test for colorectal cancer: Hypermethylation of the secreted frizzled-related protein-1 gene.DISEASES OF THE COLON&RECTUM 2007;50(10):1618-26;discussion 1626-7.)。
【0087】
19ペアの組織及び36例の糞便検体において同様にSFRP1遺伝子のメチル化レベルが検出された。標的遺伝子の抽出方法は実施例1、2と同様である。19ペアの組織実験では、SFRP1遺伝子により結腸直腸がんを検出したROC曲線を
図4に示す。
結腸直腸がん組織については、SFRP1遺伝子の検出感度は89%、特異性は95%、ROC曲線下面積は0.972であった(95%CI:0.929-1、p<0.001)。
36例の糞便実験では、SFRP1遺伝子により結腸直腸がんを検出したROC曲線を
図5に示す。
結腸直腸がんについては、SFRP1遺伝子の検出感度は67%、特異性は94%、ROC曲線下面積は0.892であった(95%CI:0.790-0.994、p<0.0001)。
【0088】
以上より、SFRP1遺伝子は、結腸直腸がん組織に対して比較的高い検出感度及び特異性を有し、糞便検体においてその感度は大幅に低下した。
【0089】
以上の説明は本発明の好ましい実施形態に過ぎない。当業者は、本発明の原理から逸脱しない限り、いくつかの改良及び修飾を行うことができ、これらの改良及び修飾も本発明の保護範囲に含まれるとみなされるべきである。
【配列表】