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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】眼科組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/18 20060101AFI20220831BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 31/69 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20220831BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
A61K47/18
A61K31/198
A61K31/69
A61K47/04
A61P27/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021008690
(22)【出願日】2021-01-22
(62)【分割の表示】P 2019096240の分割
【原出願日】2016-11-16
(65)【公開番号】P2021063133
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2015232964
(32)【優先日】2015-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【弁理士】
【氏名又は名称】江守 英太
(72)【発明者】
【氏名】松村 泰子
(72)【発明者】
【氏名】林 紗衣子
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/107069(WO,A1)
【文献】特開平07-304670(JP,A)
【文献】国際公開第2011/034192(WO,A1)
【文献】特開2015-199697(JP,A)
【文献】日本医史学雑誌、平成26年6月20日発行、第60巻、第2号、第165頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/18
A61K 31/198
A61K 31/69
A61K 47/04
A61P 27/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルギニン及びその塩からなる群より選択される1種以上と、(B)緩衝剤とを含有する眼科組成物であって、
前記(B)緩衝剤はホウ酸又はその塩であり、
前記眼科組成物と接する部分の一部又は全部がポリエチレンテレフタレートから形成された容器に収容してなる、眼科組成物(ただし、ソルビトール及びポロキサマー188を含有する眼科組成物を除く)
【請求項2】
(C)等張化剤(ただし、ソルビトールを除く)を更に含有する、請求項1に記載の眼科組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩基性アミノ酸であるアルギニンを配合した眼科用医薬製剤として、例えば、特許文献1には、重篤な上皮障害に伴うドライアイの予防又は治療に有用な眼科用医薬製剤が開示されている。
【0003】
眼科用医薬製剤を収容する容器として、ポリエチレンテレフタレート製、ポリエチレンナフタレート製、ポリプロピレン製、ポリアリレート製、ポリブチレンテレフタレート製、ポリカーボネート製及びガラス製の容器が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2010/107069号
【文献】特開2014-214085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルギニン及びその塩からなる群より選択される1種以上を含有する眼科組成物であって、プラスチックへの濡れが抑制された眼科組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、意外にもアルギニン及びその塩を含有する眼科組成物が、アルギニン及びその塩を含有しない眼科組成物と比較して、プラスチックに対する動的接触角が大きく、濡れが抑制されることを見出した。本発明はこの知見に基づくものであり、以下の各発明を提供するものである。
【0007】
[1](A)アルギニン及びその塩からなる群より選択される1種以上を含有する眼科組成物であって、該眼科組成物と接する部分の一部又は全部がプラスチックで形成された容器に収容してなる眼科組成物。
[2](B)緩衝剤を更に含有する、[1]に記載の眼科組成物。
[3](C)等張化剤、及び(D)粘稠剤からなる群より選択される1種以上を更に含有する、[1]又は[2]に記載の眼科組成物。
[4]眼科組成物に、(A)アルギニン及びその塩からなる群より選択される1種以上を配合することを含む、該眼科組成物にプラスチックに対する濡れ抑制作用を付与する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の眼科組成物は、アルギニン又はその塩を含有しているため、アルギニン及びその塩を含有しない眼科組成物と比較して、プラスチックに対する動的接触角が大きく、濡れが抑制されるという効果を奏する。これにより、眼科組成物を、該眼科組成物と接する部分の一部又は全部がプラスチックで形成された容器(プラスチック容器)に収容した場合でも、液残りが抑制され、液切れが向上するという効果を奏する。またこれにより、眼科組成物の品質の低下、及び使用性能の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
本明細書において、特に記載のない限り、含有量の単位「%」は「w/v%」を意味し、「g/100mL」と同義である。本明細書において、特に記載のない限り、略号「POE」はポリオキシエチレンを意味し、略号「POP」はポリオキシプロピレンを意味する。
【0011】
〔1.眼科組成物〕
本実施形態に係る眼科組成物は、(A)アルギニン及びその塩からなる群より選択される1種以上(単に「(A)成分」とも表記する。)を含有する。
【0012】
<(A)成分>
アルギニンは、遊離体であってもよく、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される塩であってもよい。
【0013】
アルギニンの塩として、具体的には、例えば、塩酸塩等の無機酸塩等が挙げられる。アルギニン及びその塩は、D体、L体、DL体のいずれであってもよいが、L体が好ましい。
【0014】
アルギニン及びその塩としては、アルギニン及びその無機酸塩が好ましく、アルギニン及びアルギニン塩酸塩がより好ましく、アルギニンが更に好ましい。
【0015】
アルギニン又はその塩は、市販のものを用いることもできる。アルギニン又はその塩は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本実施形態に係る眼科組成物における(A)成分の含有量は特に限定されず、(A)成分の種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。(A)成分の含有量としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、眼科組成物の総量を基準として、(A)成分の総含有量が、0.001~10w/v%であることが好ましく、0.01~10w/v%であることがより好ましく、0.05~5w/v%であることが更に好ましく、0.1~3w/v%であることが更により好ましく、0.1~2w/v%であることが特に好ましい。
【0017】
<(B)成分>
本実施形態に係る眼科組成物は、更に(B)緩衝剤(単に「(B)成分」とも表記する。)を含有してもよい。眼科組成物が(B)成分を更に含有することで、本発明による効果がより顕著に奏される。
【0018】
緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。このような緩衝剤としては、例えば、酸性緩衝剤、塩基性緩衝剤が挙げられる。
【0019】
酸性緩衝剤としては、例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、及び酢酸緩衝剤が挙げられる。
【0020】
ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸又はその塩(ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等)が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸又はその塩(リン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等)が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸又はその塩(炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等)が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸又はその塩(クエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等)が挙げられる。酢酸緩衝剤としては、酢酸又はその塩(酢酸アルカリ金属塩、酢酸アルカリ土類金属塩等)が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝又は酢酸緩衝剤として、ホウ酸塩、リン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩又は酢酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等)などが例示できる。
【0021】
酸性緩衝剤の中でも、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤が好ましく、ホウ酸、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸がより好ましい。
【0022】
塩基性緩衝剤としては、例えば、トリス緩衝剤、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールが挙げられる。トリス緩衝剤としては、例えば、トロメタモール又はその塩(トロメタモール塩酸塩等)が挙げられる。
【0023】
塩基性緩衝剤の中でも、トリス緩衝剤、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールが好ましく、トロメタモール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールがより好ましい。
【0024】
緩衝剤は、市販のものを用いることもできる。緩衝剤は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本実施形態に係る眼科組成物における(B)成分の含有量は特に限定されず、(B)成分の種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。(B)成分の含有量としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、眼科組成物の総量を基準として、(B)成分の総含有量が、0.001~10w/v%であることが好ましく、0.005~5w/v%であることがより好ましく、0.01~4w/v%であることが更に好ましく、0.01~3w/v%であることが更により好ましく、0.01~2w/v%であることが特に好ましく、0.01~1.5w/v%であることがより特に好ましく、0.1~1w/v%であることが更に特に好ましい。
【0026】
本実施形態に係る眼科組成物における、(A)成分に対する(B)成分の含有比率は特に限定されず、(A)成分及び(B)成分の種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。(A)成分に対する(B)成分の含有比率としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、本実施形態に係る眼科組成物に含まれる(A)成分の総含有量1質量部に対して、(B)成分の総含有量が、0.005~300質量部であることが好ましく、0.01~250質量部であることがより好ましく、0.01~100質量部であることが更に好ましく、0.05~50質量部であることが特に好ましく、0.1~30質量部であることがより特に好ましく、0.1~20質量部であることが更に特に好ましく、0.5~10質量部であることが更により特に好ましく、0.5~5質量部であることが最も好ましい。
【0027】
<(C)成分>
本実施形態に係る眼科組成物は、更に(C)等張化剤(単に「(C)成分」とも表記する。)を含有してもよい。眼科組成物が(C)成分を更に含有することで、本発明による効果がより顕著に奏される。(C)成分は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。
【0028】
(C)成分である等張化剤としては、例えば、イオン性等張化剤、非イオン性等張化剤、及び両性等張化剤が挙げられる。
【0029】
イオン性等張化剤としては、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の無機塩類、エデト酸ナトリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンが挙げられる。
【0030】
イオン性等張化剤の中でも、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、塩化ナトリウム、エデト酸ナトリウム、モノエタノールアミンが好ましい。
【0031】
非イオン性等張化剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(400、4000、6000等)、グルコース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、及びトレハロース等のアルコール類が挙げられる。
【0032】
非イオン性等張化剤の中でも、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、グリセリン、プロピレングリコールが好ましい。
【0033】
両性等張化剤としては、例えば、グリシン、タウリン(アミノエチルスルホン酸)、及びトリメチルグリシンが挙げられる。
【0034】
両性等張化剤の中でも、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、グリシン、タウリンが好ましい。
【0035】
等張化剤は、市販のものを用いることもできる。等張化剤は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
本実施形態に係る眼科組成物における(C)等張化剤の総含有量は、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、眼科組成物の総量を基準として、0.0001~10w/v%であることが好ましく、0.0005~7w/v%であることがより好ましく、0.001~6w/v%であることが更に好ましく、0.005~5w/v%であることが更により好ましく、0.005~4w/v%であることが特に好ましく、0.005~3w/v%であることがより特に好ましく、0.01~2w/v%であることが更に特に好ましく、0.01~1w/v%であることが更により特に好ましく、0.1~0.5w/v%であることが最も好ましい。
【0037】
本実施形態に係る眼科組成物における、(A)成分に対する(C)等張化剤の含有比率は特に限定されず、(A)成分及び(C)成分の種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。(A)成分に対する(C)等張化剤の含有比率としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、本実施形態に係る眼科組成物に含まれる(A)成分の総含有量1質量部に対して、(C)等張化剤の総含有量が、0.0005~500質量部であることが好ましく、0.001~400質量部であることがより好ましく、0.001~200質量部であることが更に好ましく、0.005~100質量部であることが更により好ましく、0.01~50質量部であることが特に好ましく、0.01~30質量部であることがより特に好ましく、0.1~20質量部であることが更に特に好ましく、0.1~10質量部であることが更により特に好ましく、0.1~5質量部であることが最も好ましい。
【0038】
<(D)成分>
本実施形態に係る眼科組成物は、更に(D)粘稠剤(単に「(D)成分」とも表記する。)を含有してもよい。眼科組成物が(D)成分を更に含有することで、本発明による効果がより顕著に奏される。(D)成分は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。
【0039】
(D)成分である粘稠剤としては、例えば、多糖類、及びビニル化合物が挙げられる。
【0040】
多糖類は、デキストラン、ムコ多糖類、キサンタンガム、ジェランガム、セルロース系高分子化合物及びこれらの塩を含む。多糖類は、公知の多糖類から適宜選択して用いることができる。
【0041】
デキストランの具体例としては、例えば、デキストラン40及びデキストラン70が挙げられる。
【0042】
ムコ多糖類の具体例としては、例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、キトサン、ヘパリン、ヘパラン、アルギン酸、これらの誘導体(例えば、アセチル化体)及びこれらの塩等が挙げられる。
【0043】
ムコ多糖類としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸及びこれらの塩が好ましい。ヒアルロン酸の塩、コンドロイチン硫酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。ヒアルロン酸の塩、コンドロイチン硫酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩等がより好ましく、ナトリウム塩が更に好ましい。ムコ多糖類の塩としては、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウムが好ましい。
【0044】
ムコ多糖類は、市販のものを用いることもできる。ムコ多糖類は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
セルロース系高分子化合物としては、セルロースのヒドロキシル基を他の官能基で置き換えることで得られるセルロース系高分子化合物を用いることができる。セルロースのヒドロキシル基を置換する官能基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシメトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、ヒドロキシプロポキシ基、カルボキシメトキシ基及びカルボキシエトキシ基が挙げられる。セルロース系高分子化合物は、市販のものを用いることもできる。
【0046】
セルロース系高分子化合物の具体例としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース及びこれらの塩が挙げられる。ここで、塩としては医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであればよく、中でもアルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩等がより好ましい。
【0047】
セルロース系高分子化合物としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(2208、2906、2910など)、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はこれらの塩が好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、又はカルボキシメチルセルロースナトリウムがより好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースが更に好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが更により好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2208、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2906、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910が特に好ましい。
【0048】
セルロース系高分子化合物は、市販のものを用いることもできる。セルロース系高分子化合物は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
多糖類としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、ムコ多糖類が好ましく、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸及びこれらの塩がより好ましく、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウムが更に好ましい。
【0050】
ビニル化合物は、ビニル系高分子化合物及びこれらの塩を含む。ビニル化合物は、公知のビニル化合物から適宜選択して用いることができる。
【0051】
ビニル化合物の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール(完全又は部分ケン化物)等のビニルアルコール系高分子、ポリビニルピロリドン等のビニルピロリドン系高分子及びカルボキシビニルポリマー、並びにこれらの塩が挙げられる。
【0052】
ビニル化合物としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、ポリビニルアルコール(部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン(K17、K25、K30、K90など)、カルボキシビニルポリマー及びこれらの塩が好ましく、ポリビニルピロリドン及びその塩がより好ましく、ポリビニルピロリドンK30が更に好ましい。
【0053】
ビニル化合物は、市販のものを用いることもできる。ビニル化合物は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
本実施形態に係る眼科組成物における(D)粘稠剤の総含有量は、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、眼科組成物の総量を基準として、0.0005~6w/v%であることが好ましく、0.001~5w/v%であることがより好ましく、0.005~4w/v%であることが更に好ましく、0.01~3w/v%であることが特に好ましく、0.01~2w/v%であることがより特に好ましく、0.01~1w/v%であることが更に特に好ましく、0.1~0.5w/v%であることが更により特に好ましい。
【0055】
本実施形態に係る眼科組成物における、(A)成分に対する(D)粘稠剤の含有比率は特に限定されず、(A)成分及び(D)粘稠剤の種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。(A)成分に対する(D)粘稠剤の含有比率としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、本実施形態に係る眼科組成物に含まれる(A)成分の総含有量1質量部に対して、(D)粘稠剤の総含有量が、0.0001~500質量部であることが好ましく、0.0001~300質量部であることがより好ましく、0.0005~200質量部であることが更に好ましく、0.0005~100質量部であることが特に好ましい。
【0056】
本実施形態に係る眼科組成物は、更に非イオン界面活性剤を含有してもよい。眼科組成物が非イオン界面活性剤を更に含有することで、本発明による効果がより顕著に奏される。
【0057】
非イオン界面活性剤の具体例としては、例えば、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;POE(5)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5)、POE(10)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10)、POE(20)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20)、POE(30)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油30)、POE(40)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40)、POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)、POE(80)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油80)、POE(100)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100)等のPOE硬化ヒマシ油;POE(3)ヒマシ油(ポリオキシエチレンヒマシ油3)、POE(10)ヒマシ油(ポリオキシエチレンヒマシ油10)、POE(35)ヒマシ油(ポリオキシエチレンヒマシ油35)、POE(70)ヒマシ油(ポリオキシエチレンヒマシ油70)等のPOEヒマシ油;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル;POE(20)POP(20)グリコール(プルロニックL44)、POE(42)POP(67)グリコール(ポロクサマー403、プルロニックP123)、POE(54)POP(39)グリコール(ポロクサマー235、プルロニックP85)、POE(120)POP(40)グリコール(プルロニックF87)、POE(160)POP(30)グリコール(ポロクサマー188、プルロニックF68)、POE(196)POP(67)グリコール(ポロクサマー407、プルロニックF127)、POE(200)POP(70)グリコール等のPOE・POPグリコール;ステアリン酸ポリオキシル10、ステアリン酸ポリオキシル40等のモノステアリン酸ポリエチレングリコール等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0058】
非イオン界面活性剤としては、POEソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、POE・POPグリコールが好ましく、POEソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、モノステアリン酸ポリエチレングリコールがより好ましく、POEソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が更に好ましく、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が特に好ましい。
【0059】
非イオン界面活性剤としてPOE・POPグリコールを使用する場合、POE(42)POP(67)グリコール、POE(120)POP(40)グリコール、POE(160)POP(30)グリコール、POE(196)POP(67)グリコール、POE(200)POP(70)グリコールが好ましく、POE(42)POP(67)グリコール、POE(196)POP(67)グリコールがより好ましく、POE(196)POP(67)グリコールが更に好ましい。
【0060】
非イオン界面活性剤は、市販のものを用いることもできる。非イオン界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
本実施形態に係る眼科組成物における非イオン界面活性剤の含有量は特に限定されず、非イオン界面活性剤の種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。非イオン界面活性剤の含有量としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、眼科組成物の総量を基準として、非イオン界面活性剤の総含有量が、0.0001~10w/v%であることが好ましく、0.001~5w/v%であることがより好ましく、0.005~1w/v%であることが更に好ましく、0.01~0.5w/v%であることが更により好ましく、0.01~0.1w/v%であることがより特に好ましく、0.01~0.05w/v%であることが特により好ましい。
【0062】
本実施形態に係る眼科組成物における、(A)成分に対する非イオン界面活性剤の含有比率は特に限定されず、(A)成分及び非イオン界面活性剤の種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。(A)成分に対する非イオン界面活性剤の含有比率としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、本実施形態に係る眼科組成物に含まれる(A)成分の総含有量1質量部に対して、非イオン界面活性剤の総含有量が、0.0001~10質量部であることが好ましく、0.0005~5質量部であることがより好ましく、0.001~3質量部であることが更に好ましく、0.01~1質量部であることが更により好ましく、0.01~0.5重量部であることが特に好ましい。
【0063】
本実施形態に係る眼科組成物は、更にキレート剤を含有してもよい。眼科組成物がキレート剤を更に含有することで、本発明による効果がより顕著に奏される。
【0064】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、及びエチドロン酸が挙げられる。
【0065】
キレート剤は、市販のものを用いることもできる。キレート剤は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
本実施形態に係る眼科組成物におけるキレート剤の含有量は特に限定されず、キレート剤の種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。キレート剤の含有量としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、眼科組成物の総量を基準として、キレート剤の総含有量が、0.001~1w/v%であることが好ましく、0.005~0.5w/v%であることがより好ましく、0.01~0.2w/v%であることが更に好ましい。
【0067】
本実施形態に係る眼科組成物における、(A)成分に対するキレート剤の含有比率は特に限定されず、(A)成分及びキレート剤の種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。(A)成分に対するキレート剤の含有比率としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、本実施形態に係る眼科組成物に含まれる(A)成分の総含有量1質量部に対して、キレート剤の総含有量が、0.001~10質量部であることが好ましく、0.005~5質量部であることがより好ましく、0.005~3質量部であることが更に好ましく、0.01~1質量部であることが更により好ましく、0.01~0.5重量部であることが特に好ましい。
【0068】
本実施形態に係る眼科組成物は、更に殺菌剤又は防腐剤を含有してもよい。眼科組成物が殺菌剤又は防腐剤を更に含有することで、本発明による効果がより顕著に奏される。
【0069】
殺菌剤又は防腐剤は、殺菌作用又は静菌作用を有する化合物、及びその塩である。殺菌剤又は防腐剤は、公知の防腐剤又は抗菌剤から適宜選択して用いることができる。
【0070】
殺菌剤又は防腐剤の具体例としては、例えば、カチオン系殺菌剤(防腐剤)(ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、アレキシジン、ポリヘキサニド)、アルキルポリアミノエチルグリシン、安息香酸、クロロブタノール、ソルビン酸、デヒドロ酢酸、パラベン(例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル及びパラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル)、オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ポリクオータニウム類、グローキル(ローディア社製、商品名)、亜鉛、スルフイソキサゾール、スルフイソミジン及びスルファメトキサゾール、並びにこれらの塩が挙げられる。
【0071】
殺菌剤又は防腐剤の塩の具体例としては、例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、硫酸オキシキノリン、塩酸ポリヘキサニド、塩化ポリドロニウム、塩化亜鉛、スルフイソミジンナトリウム及びスルファメトキサゾールナトリウムが挙げられる。
【0072】
殺菌剤又は防腐剤としては、カチオン系殺菌剤(防腐剤)、ポリクオータニウム類、クロロブタノールが好ましく、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、ソルビン酸カリウム、アレキシジン、塩酸ポリヘキサニド、塩化ポリドロニウム、クロロブタノールがより好ましく、塩酸ポリヘキサニド、アレキシジン、塩化ポリドロニウム、クロロブタノールが更に好ましく、塩酸ポリヘキサニド、クロロブタノールが更により好ましい。
【0073】
殺菌剤又は防腐剤は、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、2種以上を組み合わせて使用するとより好ましい。中でも、カチオン系殺菌剤(防腐剤)とポリクオータニウム類、カチオン系殺菌剤(防腐剤)とクロロブタノールの組み合わせが好ましく、塩化ポリドロニウムとカチオン系殺菌剤(防腐剤)、カチオン系殺菌剤(防腐剤)とクロロブタノールの組み合わせがより好ましく、塩化ポリドロニウムと塩酸ポリヘキサニド、塩化ポリドロニウムとアレキシジン、又は塩化ベンザルコニウムとクロロブタノールの組み合わせが更に好ましい。
【0074】
殺菌剤又は防腐剤は、市販のものを用いることもできる。殺菌剤又は防腐剤は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0075】
本実施形態に係る眼科組成物における殺菌剤又は防腐剤の含有量は特に限定されず、殺菌剤又は防腐剤の種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。殺菌剤又は防腐剤の含有量としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、眼科組成物の総量を基準として、殺菌剤又は防腐剤の総含有量が、0.00001~2w/v%であることが好ましく、0.00001~1w/v%であることがより好ましく、0.00005~0.5w/v%であることが更に好ましく、0.00005~0.4w/v%であることが更により好ましい。
【0076】
殺菌剤又は防腐剤が、アレキシジン、塩酸ポリヘキサニド又は塩化ポリドロニウムである場合には、眼科組成物の総量を基準として、殺菌剤又は防腐剤の総含有量が、0.000001~0.01w/v%、中でも0.000001~0.005w/v%、中でも0.000005~0.002w/v%、中でも0.000005~0.001w/v%、中でも0.00001~0.0005w/v%、中でも0.00005~0.0002w/v%、中でも0.00007~0.0002w/v%であることが好ましい。
【0077】
本実施形態に係る眼科組成物は、本発明による効果をより一層高める観点から、更にアミノ酸類(但し、(A)成分、(C)成分及び(D)成分であるアミノ酸類は除く。)を含有することが好ましい。
【0078】
アミノ酸類としては、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、リジン、ヒスチジン、セリン、メチオニン、トレオニン、システイン、アミノ酢酸、バリン、トリプトファン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン並びにそれらの塩等が挙げられる。アミノ酸類として、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、アスパラギン酸、グルタミン酸及びそれらの塩が好ましい。
【0079】
アミノ酸類は、D体、L体、DL体のいずれであってもよいが、L体が好ましい。
【0080】
アミノ酸類は、市販のものを用いることもできる。アミノ酸類は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
本実施形態に係る眼科組成物におけるアミノ酸類の含有量は特に限定されず、アミノ酸類の種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。アミノ酸類の含有量としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、眼科組成物の総量を基準として、アミノ酸類の総含有量が、0.001~5w/v%であることが好ましく、0.01w/v%~2w/v%であることがより好ましく、0.1~1w/v%であることが更に好ましい。
【0082】
本実施形態に係る眼科組成物における、(A)成分に対するアミノ酸類の含有比率は特に限定されず、(A)成分及びアミノ酸類の種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。(A)成分に対するアミノ酸類の含有比率としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、本実施形態に係る眼科組成物に含まれる(A)成分の総含有量1質量部に対して、アミノ酸類の総含有量が、0.001~5質量部であることが好ましく、0.01~2質量部であることがより好ましく、0.1~1質量部であることが更に好ましい。
【0083】
本実施形態に係る眼科組成物は、本発明による効果をより一層高める観点から、更にテルペノイドを含有することが好ましい。テルペノイドとしては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。このようなテルペノイドとしては、例えば、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、シトロネロール、カルボン、アネトール、オイゲノール、リモネン、リナロール、酢酸リナリル、これらの誘導体等が挙げられる。これらの化合物はD体、L体又はDL体のいずれでもよい。また、本発明において、テルペノイドとして、上記化合物を含有する精油を使用してもよい。このような精油としては、例えば、ユーカリ油、ベルガモット油、ペパーミント油、クールミント油、スペアミント油、ハッカ油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ローズ油等が挙げられる。これらのテルペノイドは、1種単独で使用してもよく、又は2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0084】
これらのテルペノイドの中でも、メントール、カンフル、ボルネオール等が好ましく、これらを含有する好ましい精油としてクールミント油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油等が例示される。メントールがより好ましい。
【0085】
テルペノイドは、市販のものを用いることもできる。テルペノイドは、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0086】
テルペノイドを含有する場合、本実施形態に係る眼科組成物におけるテルペノイドの含有量としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、眼科組成物の総量を基準として、テルペノイドの総含有量が、0.00005~1w/v%であることが好ましく、0.0001~0.5w/v%であることがより好ましく、0.001~0.1w/v%であることが更に好ましい。
【0087】
本実施形態に係る眼科組成物における、(A)成分に対するテルペノイドの含有比率は特に限定されず、(A)成分及びテルペノイドの種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。(A)成分に対するテルペノイドの含有比率としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、本実施形態に係る眼科組成物に含まれる(A)成分の総含有量1質量部に対して、テルペノイドの総含有量が、0.00005~1質量部であることが好ましく、0.0001~0.5質量部であることがより好ましく、0.001~0.1質量部であることが更に好ましい。
【0088】
本実施形態に係る眼科組成物のpHは、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば、特に限定されるものではない。本実施形態に係る眼科組成物のpHとしては、例えば、4.0~9.5であってよく、4.0~9.0であることが好ましく、4.5~9.0であることがより好ましく、4.5~8.5であることが更に好ましく、5.0~8.5であることが更により好ましく、5.5~8.5であることが特に好ましい。
【0089】
本実施形態に係る眼科組成物は、必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調節することができる。適切な浸透圧比は適用部位、剤型等により異なるが、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、0.05~6とすることが好ましく、0.4~5とすることがより好ましく、0.6~3とすることが更に好ましく、0.8~2とすることが更により好ましい。浸透圧の調整は無機塩類、多価アルコール等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十六改正日本薬局方に基づき、286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧)に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(凝固点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500~650℃で40~50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いることができる。
【0090】
本実施形態に係る眼科組成物の粘度は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば、特に限定されるものではない。本実施形態に係る眼科組成物の粘度としては、例えば、回転粘度計(RE550型粘度計、東産業社製、ローター;1°34’×R24)で測定した20℃における粘度が0.01~10000mPa・sであることが好ましく、0.05~8000mPa・sであることがより好ましく、0.1~1000mPa・sであることが更に好ましく、1~100mPa・sであることが更により好ましく、1~10mPa・sであることが特に好ましく、1~5mPa・sであることがより特に好ましい。
【0091】
本実施形態に係る眼科組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記成分の他に種々の薬理活性成分及び生理活性成分から選択される成分を組み合わせて適当量含有していてもよい。当該成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造販売承認基準2012年版(一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会 監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。眼科用薬において用いられる成分として、具体的には、例えば、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸ケトチフェン、塩酸オロパタジン、塩酸レボカバスチン等。
抗アレルギー剤:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、トラニラスト、ペミロラストカリウム等。
ステロイド剤:例えば、プロピオン酸フルチカゾン、フランカルボン酸フルチカゾン、フランカルボン酸モメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾン、フルニソリド等。
消炎剤:例えば、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、プラノプロフェン、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アラントイン、トラネキサム酸、ε-アミノカプロン酸、ベルベリン、アズレンスルホン酸ナトリウム、塩化リゾチーム、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、甘草等。
充血除去剤:塩酸テトラヒドロゾリン、硝酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硝酸ナファゾリン、エピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸フェニレフリン、dl-塩酸メチルエフェドリン等。
眼筋調節薬剤:例えば、アセチルコリンと類似した活性中心を有するコリンエステラーゼ阻害剤、具体的にはメチル硫酸ネオスチグミン、トロピカミド、ヘレニエン、硫酸アトロピン等。
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノール、酢酸トコフェロール等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
局所麻酔剤:例えば、リドカイン、プロカイン等。
その他:レバミピド等。
【0092】
本実施形態に係る眼科組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途及び製剤形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。このような添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性溶媒。
基剤:例えば、オクチルドデカノール、酸化チタン、臭化カリウム、プラスチベース、流動パラフィン、軽質流動パラフィン、精製ラノリン、白色ワセリン等。
pH調節剤:塩酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等。
糖類:例えば単糖類、二糖類、具体的にはマルトース、スクロース、シクロデキストリン等。
安定化剤:ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、シクロデキストリン等。
陰イオン界面活性剤:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、N-アシルタウリン塩等。
両性界面活性剤:ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等。
【0093】
本実施形態に係る眼科組成物は、例えば、(A)成分、及び必要に応じて他の含有成分を所望の含有量となるように添加及び混和することにより調製することができる。具体的には、例えば、精製水で上記成分を溶解又は懸濁させ、所定のpH及び浸透圧に調整し、濾過滅菌等により滅菌処理することで調製できる。
【0094】
本実施形態に係る眼科組成物は、目的に応じて種々の剤型をとることができ、例えば、液剤、ゲル剤、半固形剤(軟膏等)、ゲル軟膏剤等が挙げられる。これらの中でも、液剤が好ましい。また、液剤の中でも水性液剤が好ましい。本実施形態に係る眼科組成物を水性液剤にする場合、眼科組成物の総量に対して、例えば、水の含有量が50w/v%以上であり、70w/v%以上であることが好ましく、80w/v%以上であることがより好ましく、90w/v%以上であることが更に好ましく、95w/v%以上であることが更により好ましい。本実施形態に係る眼科組成物に用いられる水としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される水を使用すればよく、このような水として、例えば、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水が挙げられる。
【0095】
本実施形態に係る眼科組成物は、眼科分野で用いられるものであって、眼に接触するように使用されるものであれば、その製剤形態については制限されない。例えば、点眼剤(但し、点眼剤にはコンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む)、眼軟膏剤、洗眼剤(但し、洗眼剤にはコンタクトレンズ装用中に洗眼可能な洗眼剤を含む)、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用液剤(コンタクトレンズ消毒液、コンタクトレンズ用保存液、コンタクトレンズ用洗浄液、コンタクトレンズ用洗浄保存液、コンタクトレンズ用消毒・洗浄・保存液(マルチパーパスソリューション)等)等を挙げることができる。これらの中でも、点眼剤、洗眼剤及びコンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用液剤が好ましい。特に、本実施形態に係る眼科組成物は、使用時の滴下量のバラツキが少ないため、特に一回の使用量が少ない、点眼剤、コンタクトレンズ装着液に好適に用いられる。なお、本明細書において、単にコンタクトレンズと表記する場合には、ハードコンタクトレンズ、酸素透過性ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを含むあらゆるコンタクトレンズを包含する。
【0096】
本実施形態に係る眼科組成物は、その製剤形態に応じた使用方法に従って使用される。例えば、眼科組成物が点眼剤(コンタクトレンズ用点眼剤を含む)である場合、裸眼又はコンタクトレンズを装用した眼に、該点眼剤の適量を点眼すればよい。また、眼科組成物が洗眼剤(コンタクトレンズ用洗眼剤を含む)である場合も、裸眼又はコンタクトレンズを装用した眼に、該洗眼剤の適量を洗眼に使用すればよい。また、眼科組成物がコンタクトレンズ装着液である場合、コンタクトレンズの装着時にコンタクトレンズと該装着液の適量を接触させることにより使用される。更に、眼科組成物がコンタクトレンズケア用液剤である場合であれば、適量の該ケア用液剤中にコンタクトレンズを浸漬したり、該ケア用液剤にコンタクトレンズを接触させて擦り洗いすること等によって使用される。コンタクトレンズを浸漬させる場合、浸漬時間は、通常1分以上であればよく、10分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、4時間以上がさらに好ましい。
【0097】
<プラスチック容器>
本実施形態に係る眼科組成物は、該眼科組成物と接する部分の一部又は全部がプラスチックで形成された容器(単に「プラスチック容器」とも表記する。)に収容して提供される。
【0098】
プラスチックを構成するポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE))、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリイミド、及びこれらを構成するモノマーの共重合体、並びにこれら2種以上を混合したものが挙げられる。プラスチックを構成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)が好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)がより好ましい。また、プラスチックは、エラストマーを含んでいてもよい。
【0099】
プラスチックは、安定化剤等の添加剤を含んでいてもよい。また、プラスチックは、ガラス繊維などの補強剤を含んで強化したものであってもよい。
【0100】
プラスチックは、市販されているものを特に制限なく用いることができる。市販品としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートRT543C(日本ユニペット株式会社)、ポリカーボネートS-3000R(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社),アクリロニトリルブタジエンスチレン150(テクノポリマー株式会社)、ポリスチレン403R(PSジャパン株式会社)、高密度ポリエチレンHR120R(日本ポリエチレン株式会社)、低密度ポリエチレン175K(東ソー株式会社)、ポリプロピレンNLB340G(日本ポリプロ株式会社)、エラストマーAR830C(アロン化成株式会社)、ノバデュラン(登録商標)5010R5(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)、バロックス(登録商標)315(SABICジャパン合同会社)及びバロックス(登録商標)195(SABICジャパン合同会社)が挙げられる。
【0101】
眼科組成物を収容するプラスチック容器としては、例えば、点眼容器、洗眼液容器、コンタクトレンズ装着液収容容器、コンタクトレンズケア用液収容容器(コンタクトレンズ洗浄液収容容器、コンタクトレンズ保存液収容容器、コンタクトレンズ消毒液収容容器、コンタクトレンズマルチパーパスソリューション収容容器等が含まれる)等がある。眼科組成物を収容する容器のうち眼科組成物と接する部分は、例えば、中栓、穴あき中栓、容器内面(容器が複数の層からなる構造の場合、最も内側の層)が挙げられる。
【0102】
本実施形態に係るプラスチック容器は、眼科組成物と接する部分の一部又は全部がプラスチックで形成されている。例えば、プラスチック容器が穴あき中栓(ノズル)を有する容器の場合、穴あき中栓部分のみがプラスチックで形成されていてもよく、穴あき中栓以外の収容部分等がプラスチックで形成されていてもよく、また、容器全体がプラスチックで形成されていてもよい。
【0103】
本実施形態に係るプラスチック容器は、眼科組成物と接する部分の一部がプラスチックで形成されていればよいが、本発明による効果をより一層顕著に奏するという観点から、眼科組成物と接する部分の全部がプラスチックで形成されていることが好ましい。また、プラスチック容器は1種単独のプラスチックで形成されていてもよく、2種以上のプラスチックで形成されていてもよい。例えば、プラスチック容器が穴あき中栓(ノズル)を有する容器の場合、穴あき中栓部分が例えばポリエチレン(PE)を含有するプラスチックで形成されていてもよく、穴あき中栓以外の収容部分等が例えばポリエチレンテレフタレート(PET)を含有するプラスチックで形成されていてもよい。
【0104】
本実施形態に係る眼科組成物を収容する容器及び容器注口周辺部の好ましい組み合わせとしては、ポリエチレンテレフタレート製容器とポリエチレン製容器注口周辺部の組み合わせ、より好ましくはポリエチレンテレフタレート製点眼容器とポリエチレン製ノズルの組み合わせ、特に好ましくはポリエチレンテレフタレート製点眼容器と低密度ポリエチレン製ノズルの組み合わせである。また、本実施形態に係る眼科組成物を収容する容器及び容器注口周辺部の組み合わせとしては、ポリエチレンテレフタレート製容器とポリプロピレン製ノズルの組み合わせ、ポリプロピレン製容器とポリプロピレン製ノズルの組み合わせも好ましい。また、本実施形態に係る眼科組成物を収容する容器及び容器注口周辺部の組み合わせとしては、ポリエチレン製容器とポリエチレン製ノズルの組み合わせ、又はその一体成型の容器、中でも、低密度ポリエチレン製容器と低密度ポリエチレン製ノズルの組み合わせ、又はその一体成型の容器も好ましい。
【0105】
プラスチック容器の形状及び容量は特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。例えば、プラスチック容器が、点眼剤又はコンタクトレンズ装着液を収容する容器の場合、例えば、容量が0.1mL以上50mL以下であってよく、2mL以上40mL以下であることが好ましく、4mL以上25mL以下であることがより好ましい。またプラスチック容器が、洗眼剤又はコンタクトレンズケア用液を収容する容器であれば、例えば、容量が40mL以上600mL以下であってよい。また、プラスチック容器が、洗眼剤又はコンタクトレンズケア用液を収容する容器であれば、別の態様として、例えば、容量が5mL以上20mL以下であってもよい。
【0106】
プラスチック容器の種類としては、眼科分野で一般的に使用されている容器であってよく、具体的には、例えば、点眼容器、洗眼液容器、コンタクトレンズ装着液収容容器、コンタクトレンズケア用液収容容器(コンタクトレンズ洗浄液収容容器、コンタクトレンズ保存液収容容器、コンタクトレンズ消毒液収容容器、コンタクトレンズマルチパーパスソリューション収容容器等が含まれる)であってよい。容器の種類は、点眼容器、コンタクトレンズ装着液収容容器、コンタクトレンズケア用液収容容器であることが好ましい。
【0107】
プラスチック容器は、複数回の使用量が収容されるマルチドーズ型であってもよく、単回の使用量が収容されるユニットドーズ型であってもよい。
【0108】
本実施形態に係る眼科組成物は、プラスチック容器入り眼科組成物としても提供され得る。本発明はまた、プラスチック容器に本発明の眼科組成物が収容された眼科用製品(点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ関連製品等)と捉えることもできる。
【0109】
〔2.プラスチックに対する濡れの抑制〕
本実施形態に係る眼科組成物は、プラスチックに対する濡れが抑制されている。したがって、本発明の一実施形態として、眼科組成物に、(A)アルギニン及びその塩からなる群より選択される1種以上を配合することを含む、該眼科組成物にプラスチックに対する濡れ抑制作用を付与する方法が提供される。
【0110】
なお、本実施形態における、(A)成分の種類及び含有量等、その他の成分の種類及び含有量等、眼科組成物の製剤形態及び用途等については、〔1.眼科組成物〕で説明したとおりである。
【実施例
【0111】
以下、試験例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0112】
〔試験方法:動的接触角(前進角)の測定方法〕
接触角計DM-501(協和界面科学株式会社製)を用いて、同接触角計の拡張/収縮法の測定手順に従い、各試験液の動的接触角(前進角)を測定した。動的接触角(前進角)は、固体と液体の界面が運動する際の接触角である。
【0113】
具体的には、表1に示す容器材質を接触角計のステージの上に置き、試験液をディスペンサにセットした。室温下で試験液の液滴1μLを容器材質上に滴下して半球状に着滴させた。次に、速やかに、半球上部にディスペンサの液吐出部の先端を着液させた。その状態で、試験液を吐出速度6μL/秒で連続的に吐出し、液滴の形状を側面から0.1秒毎に15回撮影した。測定条件を合せるため、動的接触角の変化率を算出する際に対にする試験液は、同一の容器材質を使用して同一の温度条件下(室温下)で続けて測定した。
【0114】
【表1】
【0115】
次に、同接触角計の解析ソフトFAMASを用いて、各画像ごとに左右の接触角を求めた。ここで接触角は、プラスチック板の表面、試験液及び空気の接触点Pから試験液に引いた接線と、プラスチック板の表面に引いた接線のなす角のうち、試験液を含む側の角を意味する。接触点Pは、各液滴について左右の2点存在する。試験液の吐出に従い液滴が拡張するにつれて、接触角は変化し、次いでほぼ一定になる挙動を示した。そこで、各画像ごとに左右の接触角の平均値を算出し、画像を撮影した順番に当該平均値を並べて連続した5つを選択したとき、当該5つの平均値の標準偏差が最初に2.0°以下になったときの最初の平均値(5つの平均値のうち最も先に撮影した画像における左右の接触角の平均値)を、同測定における動的接触角の測定値とした。なお、全ての試験液について、標準偏差が最初に2.0°以下となった以降に、2.0°より大きい標準偏差は認められなかった。液滴が拡張する過程で接触角が変化しなかった場合も、上記基準に従い動的接触角の測定値を得た。
【0116】
各試験液について、上記操作を3回繰り返し行い、得られた3つの測定値の平均値をその試験液の動的接触角とした。3つの測定値の標準偏差は、全ての試験液で2.0°以下であった。
【0117】
〔試験例1:動的接触角(前進角)の評価(1)〕
表2、3-1及び3-2に示す各実施例の試験液、及び各実施例に対応する処方液を常法により調製した。表2、3-1及び3-2における各成分の単位はw/v%である。なお、対応する処方液とは、各実施例の試験液の処方からL-アルギニンを除き、塩酸及び水酸化ナトリウム適量によりpHを調整した処方である(残部は精製水)。例えば、実施例1-1の試験液に対応する処方液は、ホウ酸を0.05w/v%含有するpH8.0の処方液である。実施例1-12の試験液に対応する処方液は、ホウ酸を0.1w/v%及び塩化ナトリウム0.8w/v%含有するpH5.0の処方液である。なお、実施例1-6及び実施例1-15については、対応する処方液として、それぞれ実施例1-5及び実施例1-14に対応する処方液を使用した。
【0118】
上記の試験方法に示した手順に従い、表1に示す容器材質について、各実施例の試験液及び対応する処方液の動的接触角を求めた(3つの測定値の平均値)。次いで、下記[式1]により、対応する処方液に対する実施例の試験液の動的接触角の変化率を算出した。算出した結果は、表2、3-1及び3-2に示す。
[式1]動的接触角の変化率(%)={(実施例の試験液の動的接触角/対応する処方液の動的接触角)-1}×100
【0119】
また、実施例1-2、1-7、1-9、1-17、1-22及び1-25の試験液については、対応する処方液と共に熱処理を行った後、動的接触角の測定に供した。熱処理は、試験液を調製後に10mL容量ガラス製ヘッドスペースバイアルに5mLずつ充填し、60℃で13日間静置することを意味し、室温で約3年間保管した場合に相当する。他の試験液は調製した後、直ちに試験を行った。
【0120】
【表2】
【0121】
【表3-1】
【0122】
【表3-2】
【0123】
表2、3-1及び3-2に示すとおり、条件が異なるいずれの試験においても、L-アルギニンを含有する実施例の試験液の動的接触角は、L-アルギニンを含有しない処方液の動的接触角よりも大きくなることが確認された。すなわち、(A)アルギニン及びその塩からなる群より選択される1種以上を含有する眼科組成物では動的接触角が大きくなり、プラスチック容器に対する濡れ抑制作用が向上することが明らかとなった。また、L-アルギニンに加えて更に(D)成分のヒアルロン酸ナトリウムを含有する実施例1-6及び1-15の試験液の動的接触角は、ヒアルロン酸ナトリウムを含有しない、実施例1-5及び1-14に対応する処方液の動的接触角よりも大きくなることが確認された。さらに、熱処理を行った眼科組成物でも動的接触角が大きくなっており、長期に亘り保管した場合でも、プラスチック容器に対する濡れを抑制できることが確認された。
【0124】
〔試験例2:動的接触角(前進角)の評価(2)〕
表4に示す各実施例の試験液、及び各実施例に対応する処方液を常法により調製した。表4における各成分の単位はw/v%である。なお、対応する処方液とは、各実施例の試験液の処方からL-アルギニン以外の成分を除き、塩酸及び水酸化ナトリウム適量によりpHを調整した処方である(残部は精製水)。例えば、実施例2-1の試験液に対応する処方液は、L-アルギニンを0.1w/v%含有するpH7.5の処方液である。実施例2-3の試験液に対応する処方液は、L-アルギニンを0.08w/v%含有するpH9.0の処方液である。
【0125】
上記の試験方法に示した手順に従い、表1に示す容器材質について、各実施例の試験液及び対応する処方液の動的接触角を求めた(3つの測定値の平均値)。次いで、前記[式1]により、対応する処方液に対する実施例の試験液の動的接触角の変化率を算出した。算出した結果は、表4に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
表4に示すとおり、(A)成分に加えて更に(B)緩衝剤、又は(C)等張化剤及び(D)粘稠剤からなる群より選択される1種以上を含有することで、動的接触角がより大きくなり、プラスチック容器に対する濡れ抑制作用がより向上することが確認された。
【0128】
〔試験例3:滴下量のばらつきの評価〕
表6に示す各実施例及び各比較例の試験液を常法により調製した。表6における各成分の単位はw/v%である。次に、表5に示す容器に各試験液を収容した。
【0129】
【表5】
【0130】
容器1については、穴あき中栓をほぼ垂直に下を向けて滴下し、1滴滴下毎に滴下重量を測定する操作を20回繰り返した。容器2については、穴あき中栓をほぼ水平に向けて滴下し、10滴滴下毎に滴下重量を測定する操作を10回繰り返した。滴下重量を1回測定する毎に、リントフリー(小津産業社製)で穴あき中栓の外面を拭き取り、穴あき中栓の外面に液が残らないようにした。次に、平均滴下量(AVG:mg)及び標準偏差(SD:mg)から、下記[式2]により、滴下量のばらつき(変動係数CV:%)を算出した。
[式2]滴下量のばらつき(CV:%)=(標準偏差(SD:mg)/平均滴下量(AVG:mg))×100
【0131】
さらに、下記[式3]を用いて、対応する比較例に対する実施例の滴下量のばらつきの改善率(%)を算出した。算出した結果は、表6に示す。
[式3]対応する比較例に対する実施例の滴下量のばらつきの改善率(%)=(実施例の滴下量のばらつき/対応する比較例の滴下量のばらつき)×100
なお、対応する比較例とは、実施例3-1については比較例3-1、実施例3-2及び3-3については比較例3-2、実施例3-4及び3-5については比較例3-3である。
【0132】
【表6】
【0133】
表6に示すとおり、L-アルギニンを含有しない比較例の試験液と比較して、L-アルギニンを含有する実施例の試験液では、滴下量のばらつきが改善することが確認された(実施例3-1、3-2及び3-4)。また、L-アルギニンに加えて更に(D)成分のヒアルロン酸ナトリウム又はカルボキシビニルポリマーを添加すると、滴下量のばらつきが顕著に改善することが確認された(実施例3-3及び3-5)。
【0134】
(眼科組成物調製と容器収容例)
表7に記載の処方で製剤例1~10の眼科組成物を調製した。各眼科組成物を表7に示す容器例1-1~1-4のプラスチック含有容器本体に充填し、容器の開口部に表7に示す容器例1-1~1-4のプラスチック含有穴あき中栓又は蓋付き液注出部を取り付けた。また、各眼科組成物を表7に示す容器例2-1~2-2のプラスチック含有容器本体及び液注出部に充填した。容器例2-1~2-2は、容器本体と液注出部が一体成型された容器である。表中の数値の単位は、表中に記載があるもの以外は全て「w/v%」である。
【0135】
【表7】