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特許7133084合わせガラス中間膜用樹脂組成物、合わせガラス中間膜および合わせガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】合わせガラス中間膜用樹脂組成物、合わせガラス中間膜および合わせガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20220831BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220831BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20220831BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20220831BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20220831BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C03C27/12 F
C08K3/013
C08K5/5415
C08L23/08
B32B17/10
B32B27/28
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021507205
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009651
(87)【国際公開番号】W WO2020189335
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019053411
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】礒川 素朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】久木田 佳那
(72)【発明者】
【氏名】飛永 駿
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-513586(JP,A)
【文献】特開2010-024061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B32B 17/10
B32B 27/00
B32B 27/28
C08K 3/013
C08K 5/5415
C08L 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合わせガラス中間膜を形成するために用いられる合わせガラス中間膜用樹脂組成物であって、
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、
無機フィラー(B)と、
を含み、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を構成する金属イオンがリチウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、およびバリウムイオンからなる群より選ばれる1種以上を含み、
前記無機フィラー(B)が、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、および水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1種を含み、
レーザー回折散乱法により測定される前記無機フィラー(B)の体積基準累積10%径(D10)が0.1μm以上10μm以下である、合わせガラス中間膜用樹脂組成物。
【請求項2】
下記方法により測定されるヘイズが80%以上、全光線透過率が50%以上80%未満である請求項1に記載の合わせガラス中間膜用樹脂組成物。
(方法)
上記合わせガラス中間膜用樹脂組成物により構成された120mm×75mm×厚み0.35~0.45mmの合わせガラス中間膜を得る。次いで、得られた上記合わせガラス中間膜を120mm×75mm×3.2mmの2枚のガラス板で挟み、真空ラミネーターにて140℃、5分間、真空保持したのち、0.1MPa(ゲージ圧)で3分間プレスを行い、合わせガラスを得る。次いで、得られた前記合わせガラスのヘイズおよび全光線透過率をJIS K7136:2000に準じてヘイズメータにより測定する。
【請求項3】
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度が5%以上95%以下である請求項1または2に記載の合わせガラス中間膜用樹脂組成物。
【請求項4】
シランカップリング剤をさらに含む請求項1乃至のいずれか1項に記載の合わせガラス中間膜用樹脂組成物。
【請求項5】
前記シランカップリング剤がアミノ基、グリシジル基またはエポキシ基を有するアルコキシシランである請求項に記載の合わせガラス中間膜用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至いずれか1項に記載の合わせガラス中間膜用樹脂組成物により構成された合わせガラス中間膜。
【請求項7】
請求項に記載の合わせガラス中間膜と、
前記合わせガラス中間膜の両面に設けられた透明板状部材と、
を備える合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラス中間膜用樹脂組成物、合わせガラス中間膜および合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合わせガラスは意匠性を高めることにより利用価値の向上が図られている。意匠性が高められた合わせガラスとして、乳白色を呈する合わせガラスが知られている。このような合わせガラスに関する技術としては、例えば、顔料としてアルミナ三水和物やアルミナなどを使用した特許文献1に記載のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2015-513586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
合わせガラスについて要求される技術水準は、ますます高くなっている。本発明者らは、合わせガラスに関し、以下のような課題を見出した。
特許文献1に記載されているような粒径および種類の顔料を含む樹脂組成物では、光学特性の向上と、ガラスに対する接着性の向上とを両立させることが困難であることが明らかになった。
本発明は上述のような課題を鑑みたものであり、光学特性およびガラスに対する接着性が向上した合わせガラス中間膜用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、合わせガラス中間膜を形成するために用いられる合わせガラス中間膜用樹脂組成物であって、
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、
無機フィラー(B)と、
を含み、
レーザー回折散乱法により測定される前記無機フィラー(B)の体積基準累積10%径(D10)が0.1μm以上10μm以下である、合わせガラス中間膜用樹脂組成物が提供される。
また、本発明によれば、上述した合わせガラス中間膜用樹脂組成物により構成された合わせガラス中間膜が提供される。
また、本発明によれば、上述した合わせガラス中間膜と、前記合わせガラス中間膜の両面に設けられた透明板状部材と、を備える合わせガラスが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、光学特性およびガラスに対する接着性が向上した合わせガラス中間膜用樹脂組成物に関する技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。また、(メタ)アクリルとはアクリルあるいはメタクリルを意味する。
【0008】
実施形態に係る合わせガラス中間膜用樹脂組成物は、合わせガラス中間膜を形成するために用いられる合わせガラス中間膜用樹脂組成物である。当該合わせガラス中間膜用樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、無機フィラー(B)と、を含む。以下、本実施形態の合わせガラス中間膜用樹脂組成物の各成分について詳細を説明する。
【0009】
(エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A))
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)は、エチレンと、不飽和カルボン酸の少なくとも1種とを共重合した重合体に対し、カルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和した樹脂である。エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体としては、エチレンと不飽和カルボン酸とを含む共重合体を例示することができる。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体における不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2-エチルアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等が挙げられる。これらの中でも、上記不飽和カルボン酸としては、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の生産性、衛生性等の観点から、アクリル酸およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの不飽和カルボン酸は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態において、特に好ましいエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体である。
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を構成する構造単位の全体を100質量%としたとき、エチレンに由来する構造単位は、好ましくは65質量%以上95質量%以下、より好ましくは75質量%以上92質量%以下である。
エチレンに由来する構造単位が上記下限値以上であると、得られる合わせガラス中間膜の耐熱性や機械的強度、耐水性、加工性等をより良好にすることができる。また、エチレンに由来する構造単位が上記上限値以下であると、得られる合わせガラス中間膜の透明性や柔軟性、ガラスに対する接着性等をより良好にすることができる。
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を構成する構造単位の全体を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸に由来する構造単位は、好ましくは5質量%以上35質量%以下、より好ましくは8質量%以上25質量%以下である。
不飽和カルボン酸に由来する構造単位が上記下限値以上であると、得られる合わせガラス中間膜の透明性や柔軟性、ガラスに対する接着性等をより良好にすることができる。また、不飽和カルボン酸に由来する構造単位が上記上限値以下であると、得られる合わせガラス中間膜の耐熱性や機械的強度、耐水性、加工性等をより良好にすることができる。
【0010】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体には、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を構成する構造単位の全体を100質量%としたとき、好ましくは0質量%以上30質量%以下、より好ましくは0質量%以上25質量%以下のその他の共重合性モノマーに由来する構造単位が含まれていてもよい。その他の共重合性モノマーとしては不飽和エステル、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。その他の共重合性モノマーに由来する構造単位が上記範囲で含まれていると、合わせガラス中間膜用樹脂組成物を用いて得られる合わせガラス中間膜の柔軟性および透明性が向上する点で好ましい。
【0011】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を構成する金属イオンとしては、リチウムイオン、カリウムイオン、銀イオン、水銀イオンおよび銅イオン等の一価金属イオン;カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、バリウムイオン、ベリリウムイオン、ストロンチウムイオン、銅イオン、カドミウムイオン、水銀イオン、錫イオン、鉛イオン、鉄イオン、コバルトイオンおよびニッケルイオン等の多価金属イオン等が挙げられる。
これらの中でもリチウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、およびバリウムイオンから選択される1種または2種以上を含むことが好ましく、カリウムイオン、亜鉛イオンおよびマグネシウムイオンから選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、マグネシウムイオンおよび亜鉛イオンから選択される少なくとも1種を含むことが特に好ましい。
なお、上述した金属イオンでエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を構成することにより、金属イオンとしてナトリウムイオンを用いた場合に比べて、合わせガラス中間膜の成膜時に発泡やゲル化が生じにくく、製造安定性を高めることができる。
【0012】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度の上限は、合わせガラス中間膜用樹脂組成物を用いて得られる合わせガラス中間膜の柔軟性やガラスに対する接着性、機械的強度、加工性等をより良好にする観点から、95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、80%以下がさらに好ましく、70%以下がさらにより好ましく、60%以下が特に好ましい。
また、本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度の下限は、合わせガラス中間膜用樹脂組成物を用いて得られる合わせガラス中間膜の透明性や耐熱性、耐水性等をより良好にする観点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましく、20%以上が特に好ましい。
ここで、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体中に含まれる全カルボキシル基のうち、金属イオンによって中和されているカルボキシル基の割合(%)を指す。
【0013】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、各重合成分を高温、高圧下でラジカル共重合することによって得ることができる。また、本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体と金属化合物を反応させることによって得ることができる。また、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)は市販されているものを用いてもよい。
【0014】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)としては、加工性および機械強度を考慮すると、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210-1999)が、0.1~150g/10分であることが好ましく、0.1~50g/10分であることがより好ましい。
【0015】
合わせガラス中間膜用樹脂組成物全体に対するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の含有率の下限は、75質量%以上が好ましく、78質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
合わせガラス中間膜用樹脂組成物全体に対するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の含有率の上限は、99質量%以下が好ましく、98質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましく、90質量%以下が特に好ましく、87質量%以下が最も好ましい。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の含有率を上記下限値以上とすることにより、ガラスに対する接着性および耐水性、剛性を十分に高めることができる。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の含有率を上記上限値以下とすることにより、合わせガラス中間膜用樹脂組成物の光学性、混錬性や成膜性を十分なものとすることができる。
【0016】
(無機フィラー(B))
無機フィラー(B)を構成する金属として、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、バリウム、ベリリウム、ストロンチウム、銅、錫、および鉛から選択される1種以上が挙げられる。これらの中で、カルシウム、マグネシウムおよびバリウムが好ましく用いられる。
上記金属は、酸化物、炭酸塩、硫酸塩として含まれていてもよく、炭酸塩、硫酸塩がより好ましい。光学特性のバランスの観点から、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、および水酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも1種が好ましく、炭酸カルシウムが特に好ましい。
レーザー回折散乱法により測定される無機フィラー(B)の体積基準累積10%径(D10)の下限は、0.1μm以上であり、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。無機フィラー(B)の体積基準累積10%径(D10)の上限は、10μm以下であり、7μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
無機フィラー(B)のD10を上記下限値以上とすることにより、合わせガラス中間膜用樹脂組成物を用いて得られる合わせガラスのヘイズが増大し、当該合わせガラスの外観を乳白色とすることができる。また、無機フィラー(B)のD10を上記上限値以下とすることにより、合わせガラス中間膜用樹脂組成物を用いて得られる合わせガラスの全光線透過率を高め、当該合わせガラスの目隠し性を適切な範囲とすることができる。
【0017】
無機フィラー(B)は、表面がコーティング処理されたものであってもよい。例えば、脂肪酸、脂環族カルボン酸、芳香族カルボン酸、樹脂酸、及びこれらの金属塩・アミン塩・エステル等の誘導体、シリカ、カップリング剤、有機ケイ素化合物、シリコーンオイル、パラフィン並びに縮合リン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の処理剤で無機フィラー(B)の表面がコーティング処理されていてもよい。これによれば、成形加工時にエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)中への無機フィラー(B)の分散性を向上させ、均一な乳白色調の外観が得られるとともに合わせガラス中間膜用樹脂組成物の成膜性をより一層向上させることができる。
合わせガラス中間膜用樹脂組成物全体に対する無機フィラー(B)の含有率の下限は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上が特に好ましく、13質量%以上が最も好ましい。
合わせガラス中間膜用樹脂組成物全体に対する無機フィラー(B)の含有率の上限は、25質量%以下が好ましく、22質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
無機フィラー(B)の含有率を上記下限値以上とすることにより、合わせガラス中間膜用樹脂組成物を用いて得られる合わせガラスのヘイズが増大し、当該合わせガラスの外観を乳白色とすることができる。
無機フィラー(B)の含有率を上記上限値以下とすることにより、合わせガラス中間膜用樹脂組成物を用いて得られる合わせガラスの全光線透過率を高め、当該合わせガラスの透明性を適切な範囲とすることができる。
【0018】
本実施形態に係る合わせガラス中間膜用樹脂組成物は、シランカップリング剤をさらに含むことが好ましい。シランカップリング剤を含むことにより、成膜性を向上させることができる。
シランカップリング剤としては、アミノ基、グリシジル基またはエポキシ基を有するアルコキシシランなどのシランカップリング剤が挙げられる。より具体的には、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプピルトリメトキシシランおよびN-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、得られる合わせガラスの光学特性、耐水性およびガラスに対する接着性の性能バランスをより一層良好にし、シート加工時の成膜性を安定させる観点から、アミノ基、グリシジル基またはエポキシ基を有するシランカップリング剤が好ましく、アミノ基を有するシランカップリング剤がより好ましい。
本実施形態に係る合わせガラス中間膜用樹脂組成物において、シランカップリング剤の含有量は、得られる合わせガラスの光学特性、耐水性およびガラスに対する接着性の性能バランスをより一層良好にする観点から、合わせガラス中間膜用樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは0.001質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.005質量%以上2質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上1質量%以下である。
【0019】
本実施形態に係る合わせガラス中間膜用樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内において、各種添加剤を含有させることができる。各種添加剤としては特に限定されないが、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、波長変換剤、帯電防止剤、界面活性剤、着色剤、光安定剤、発泡剤、潤滑剤、結晶核剤、結晶化促進剤、結晶化遅延剤、触媒失活剤、熱線吸収剤、熱線反射剤、放熱剤、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、無機充填剤、有機充填剤、耐衝撃性改良剤、スリップ剤、架橋剤、架橋助剤、粘着付与剤、加工助剤、離型剤、加水分解防止剤、耐熱安定剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、難燃剤、難燃助剤、光拡散剤、抗菌剤、防黴剤、分散剤やその他の樹脂等を挙げることができる。各種添加剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本実施形態の合わせガラス中間膜用樹脂組成物は、合わせガラスの外観を乳白色とし、かつ透明性を適切な範囲とする観点から、下記方法により測定されるヘイズが80%以上であり、全光線透過率が50%以上80%未満であることが好ましく、ヘイズが90%以上であり、全光線透過率が50%以上80%未満であることがより好ましく、ヘイズが90%以上であり、全光線透過率が60%以上70%未満であることがさらに好ましい。
(ヘイズおよび全光線透過率の評価方法)
本実施形態に係る合わせガラス中間膜用樹脂組成物により構成された120mm×75mm×厚み0.35~0.45mmのガラス中間膜を得る。次いで、得られた上記ガラス中間膜を120mm×75mm×3.2mmの2枚のガラス板で挟み、真空ラミネーターにて140℃、5分間、真空保持したのち、0.1MPa(ゲージ圧)で3分間プレスを行い、合わせガラスを得る。次いで、得られた上記合わせガラスのヘイズおよび全光線透過率をJIS K7136:2000に準じてヘイズメータにより測定する。
【0021】
本実施形態に係る合わせガラス中間膜用樹脂組成物において、下記方法により測定されるガラス板に対する接着強度が14N/15mm以上であることが好ましく、20N/15mm以上であることがより好ましい。上記ガラス板に対する接着強度が上記下限値以上であると、得られる合わせガラスの層間接着性をより良好にすることができる。
このようなガラス板に対する接着強度を達成するためには、本実施形態に係る合わせガラス中間膜用樹脂組成物中のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)や必要に応じて用いるシランカップリング剤の含有量や種類等を適宜調整すればよい。
(接着強度の評価方法)
本実施形態に係る合わせガラス中間膜用樹脂組成物により構成された120mm×75mm×厚み0.35~0.45mmの合わせガラス中間膜を得る。次いで、得られた上記合わせガラス中間膜を120mm×75mm×3.9mmのガラス板の非スズ面に積層し、真空ラミネーターにて140℃、3分間、真空保持したのち、0.1MPa(ゲージ圧)で30分間プレスを行い、上記合わせガラス中間膜を上記ガラス板の非スズ面に接着させる。次いで、引張速度100mm/分で上記合わせガラス中間膜を上記ガラス板から180°の角度で引き離し、最大応力をガラス板に対する接着強度(N/15mm)として算出する。
【0022】
以上説明した合わせガラス中間膜用樹脂組成物によれば、当該合わせガラス中間膜用樹脂組成物を合わせガラス中間膜とした合わせガラスの外観を乳白色とし、当該合わせガラスの光学特性の向上と、ガラス板に対する接着性の向上との両立を図ることができる。
【0023】
本実施形態に係る合わせガラス中間膜は、本実施形態に係る合わせガラス中間膜用樹脂組成物により構成される。
合わせガラス中間膜の成形は、T-ダイ押出機、カレンダー成形機、インフレーション成形機などを使用する公知の方法によって行なうことができる。例えば、無機フィラー(B)を含むマスターバッチと、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、必要に応じ、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤及びシランカップリング剤等の添加剤と、を予めドライブレンドして押出機にそのホッパーから供給し、シート状に押出成形することにより得ることができる。
上記マスターバッチは、無機フィラー(B)の他に、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)および分散剤を含んでもよい。マスターバッチに用いられるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)は、マスターバッチとは別に加えられるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の成分と同一でも異なっていてもよい。ただし、マスターバッチに用いられるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、マスターバッチとは別に加えられるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)との合計量を、上述した合わせガラス中間膜用樹脂組成物全体に対するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の含有率の範囲とすることが好ましい。
また、合わせガラス中間膜用樹脂組成物全体に対するマスターバッチの含有率は、特に限定されないが、10質量%以上30質量%以下とすることにより、合わせガラス中間膜用樹脂組成物の混錬性や押出性を良好とすることができる。
分散剤としては、ポリエーテル系分散剤などが挙げられる。
合わせガラス中間膜の厚みは、特に制限されるものではないが、通常は0.05~1.2mm程度である。
【0024】
本実施形態に係る合わせガラスは、2枚の透明板状部材と、前記2枚の透明板状部材間に配置された本実施形態に係る合わせガラス中間膜と、を備える。
本実施形態に係る合わせガラスは、本実施形態に係る合わせガラス中間膜を備えることにより、光学特性及び透明板状部材と合わせガラス中間膜との接着性に優れている。
合わせガラスの構成としては、例えば、透明板状部材/合わせガラス中間膜/透明板状部材の構成が挙げられる。合わせガラス中間膜は2層以上使用してもよく、また他の樹脂からなる層を2枚の合わせガラス中間膜の間に挟んで3層以上としてもよい。
透明板状部材は特に限定されないが、例えば、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができ、例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収板ガラス、熱線反射板ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ポリカーボネート板、ポリ(メタ)アクリレート板、ポリメチル(メタ)アクリレート板、ポリスチレン板、環式ポリオレフィン板、ポリエチレンテレフタレート板、ポリエチレンナフタレート板、ポリエチレンブチレート板等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
また透明板状部材は、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理等の表面処理を適宜施していてもよい。
透明板状部材の厚みは特に制限がないが、通常は20mm以下、好ましくは10mm以下である。透明板状部材の厚みの下限は制限が無いものの、通常は0.1mm以上、好ましくは0.5mm以上である。本実施形態に係る合わせガラスにおいて、合わせガラス中間膜の両面に設けられるそれぞれの透明板状部材は、同一のものを用いてもよく、異なる板状部材を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態に係る合わせガラスの製造方法は特に限定されず、例えば、ニップロール法、オートクレーブ法、真空バッグ法、真空ラミネーター法等の従来公知の製造方法を用いることができる。これらの手法を1種類用いて製造をしてもよいし、2種以上の製造方法を組み合わせて製造することもできる。
本実施形態に係る合わせガラスの製造方法としては、例えば、2枚のシート状のガラスの間に前記合わせガラス中間膜を入れ、加熱及び加圧下で熱圧着することで行うことができる。加熱温度は、例えば、100℃~250℃程度が好ましく、圧力は、例えば、10kPa~3MPa(0.1kg/cm~30kg/cm)程度が好ましい。
これらの合わせガラスは、種々の用途に使用することができ、例えば、建築用合わせガラス、自動車用合わせガラス、一般建造物、農業用建造物、鉄道用窓等に使用されるが、これらの用途に限定されるものではない。
【0025】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0026】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
(1)材料
合わせガラスの作製に用いた材料の詳細は以下の通りである。
<エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー>
アイオノマー1:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(エチレン含有量85質量%、メタクリル酸含有量:15質量%、金属イオン:亜鉛イオン、中和度:21%、MFR(JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定):16g/10分)
アイオノマー2:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(エチレン含有量91質量%、メタクリル酸含有量:9質量%、金属イオン:亜鉛イオン、中和度:18%、MFR(JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定):5.5g/10分)
アイオノマー3:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(エチレン含有量80質量%、メタクリル酸含有量:20質量%、金属イオン:マグネシウムイオン、中和度:40%、MFR(JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定):2.1g/10分))
アイオノマー4:エチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマー(エチレン含有量80質量%、メタクリル酸含有量:20質量%、金属イオン:亜鉛イオン、中和度:40%、MFR(JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定):1.6g/10分)
【0028】
<白色顔料樹脂>
白色顔料樹脂A:アイオノマー1(50質量部)に対し、ポリエーテル系分散剤で表面処理を施した炭酸カルシウム(レーザー回折散乱法により測定した体積基準累積10%径(D10)5.0μm)50質量部とともに2軸押し出し機にて160℃で溶融混錬し、白色顔料樹脂Aを得た。
白色顔料樹脂B:アイオノマー1(50質量部)に対し、ポリエーテル系分散剤で表面処理を施した硫酸バリウム(レーザー回折散乱法により測定した体積基準累積10%径(D10)180nm)50質量部とともに2軸押し出し機にて160℃で溶融混錬し、白色顔料樹脂Bを得た。
白色顔料樹脂C:アイオノマー1(50質量部)に対し、ポリエーテル系分散剤で表面処理を施した酸化チタン(レーザー回折散乱法により測定した体積基準累積10%径(D10)50nm)50質量部とともに2軸押し出し機にて160℃で溶融混錬し、白色顔料樹脂Cを得た。
【0029】
<シランカップリング剤>
Si―C:アミノ基を有するシランカップリング剤(N-(2-アミノエチル)-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、KBM-602、信越化学工業社製)
【0030】
[実施例1~10および比較例1、2]
表1に示す配合割合で、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー、白色顔料樹脂およびシランカップリング剤を160℃で溶融混練し、合わせガラス中間膜用樹脂組成物を得た。当該合わせガラス中間膜用樹脂組成物をダイ出口樹脂温度160℃、加工速度5m/分の条件で押出シート成形することにより、厚さ0.4mmの合わせガラス中間膜をそれぞれ得た。
実施例1~10および比較例1、2の合わせガラス中間膜用樹脂組成物は、合わせガラス中間膜(シート)の成形性に問題がなかった(表1に、シート成形性が○(良好)と記載した)。
なお、表1において、白色顔料樹脂A、BおよびCは、上述したように、アイオノマー1と無機フィラー(B)とを含むマスターバッチであり、たとえば、実施例1は、95質量部のアイオノマー1を含み、実施例10は80質量部のアイオノマー3と10質量部のアイオノマー1とを含む。
【0031】
(2)評価方法
[光学特性-ヘイズおよび全光線透過率]
実施例および比較例で得られた合わせガラス中間膜用樹脂組成物により構成された合わせガラス中間膜を120mm×75mm×厚み0.4mmのサイズに裁断した。次いで、得られた合わせガラス中間膜を120mm×75mm×3.2mmの2枚のガラス板(旭硝子社製、製品名:フロート板ガラス)で挟み、真空ラミネーターにて140℃、5分間、真空保持したのち、0.1MPa(ゲージ圧)で3分間プレスを行い、合わせガラスを得た。なお、得られた合わせガラスは30分かけて室温に戻るように徐冷にて冷却した。次いで、得られた合わせガラスのヘイズおよび全光線透過率をJIS K7136:2000に準じてヘイズメータ(村上色彩社製、製品名:ヘイズメータHM150)により測定した。得られたヘイズの値および以下の評価基準に基づいて、ヘイズの評価結果を分類した。また、得られた全光線透過率の値および以下の評価基準に基づいて、全光線透過率の評価結果を分類した。
<ヘイズの評価基準>
A(優良):ヘイズが90%以上
B(良好):ヘイズが80%以上90%未満
C(不良):ヘイズが80%未満
<全光線透過率の評価基準>
A(優良):全光線透過率が60%以上70%未満
B(良好):全光線透過率が50%以上60%未満、または70%以上80%未満
C(不良):全光線透過率が50%未満、または80%以上
【0032】
[ガラス接着性]
実施例および比較例で得られた各合わせガラス中間膜用樹脂組成物により構成された合わせガラス中間膜を120mm×75mm×0.4mmのサイズに裁断した。次いで、得られた上記合わせガラス中間膜を120mm×75mm×3.9mmのガラス板(旭硝子社製、製品名:青板ガラス)の非スズ面に積層し、真空ラミネーターにて140℃、3分間、真空保持したのち、0.1MPa(ゲージ圧)で30分間プレスを行い、上記合わせガラス中間膜を上記ガラス板の非スズ面に接着させた。得られたサンプルを85℃、90%湿度下で500時間保持し、次いで、当該サンプルを室温まで冷却後、室温(25℃)にて引張速度100mm/分で上記合わせガラス中間膜を上記ガラス板から180°の角度で引き離し、最大応力をガラス板に対する接着強度(N/15mm)として算出した。次いで、以下の基準により、ガラス板に対する合わせガラス中間膜の接着性を評価した。
<ガラス接着性の評価基準>
A(優良):ガラス板(非スズ面)に対する接着強度が20N/15mm以上
B(良好):ガラス板(非スズ面)に対する接着強度が14N/15mm以上20N/15mm未満
C(不良):ガラス板(非スズ面)に対する接着強度が14N/15mm未満
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示すように、実施例1~10の合わせガラス中間膜用樹脂組成物は、ヘイズおよび全光線透過率が優良または良好であり、シート成形性が良好(表1に○と記載)であり、かつガラス接着性が優良または良好であった。これに対して、比較例1、2の合わせガラス中間膜用樹脂組成物は、それぞれ、ヘイズ、全光線透過率が不良であった。
【0035】
この出願は、2019年3月20日に出願された日本出願特願2019-053411号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。