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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/06 20060101AFI20220831BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20220831BHJP
   B23B 51/02 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B23B51/06 E
B23B51/00 M
B23B51/02 S
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021528551
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2019024400
(87)【国際公開番号】W WO2020255315
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000103367
【氏名又は名称】オーエスジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100174344
【弁理士】
【氏名又は名称】安井 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】大沢 二朗
(72)【発明者】
【氏名】依田 智紀
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-513725(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0107264(US,A1)
【文献】特開昭64-2807(JP,A)
【文献】実開昭57-189710(JP,U)
【文献】特開昭61-506(JP,A)
【文献】特開2012-250343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00-51/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金からなる棒状のボディと、多結晶焼結ダイヤモンドからなり、前記ボディの前記先端部に接合され、先端部に切刃を有するヘッドとを備え、外周面に軸線を中心に螺旋状に延びる溝部が形成された切削工具であって、
前記ボディの内部に設けられ、前記ボディの後端部から前記先端部に向けて前記軸線を中心に螺旋状に延びる第一冷却剤通路と、
前記ボディの前記先端部に設けられたボディ側接合面に設けられ、前記第一冷却剤通路の出口である第一油穴と、
前記ヘッドの内部に設けられ、前記ヘッドの前記先端部に設けられた開口部から前記後端部に向けて前記溝部の捩じれる方向に沿うように延び、且つ前記軸線に対して傾斜する直線状に形成された延びる第二冷却剤通路と、
前記ヘッドの前記後端部であって、前記ボディ側接合面に接合されるヘッド側接合面に設けられ、前記第二冷却剤通路の入口であって、前記ボディ側接合面の前記第一油穴と連通する第二油穴と、
前記ボディ側接合面と前記ヘッド側接合面の間であって、前記第一油穴及び前記第二油穴の夫々の周囲を含む領域に亘って設けられ、銀ロウで形成された接着層とを備え、
前記ボディ側接合面には、内側に側面視V字状に凹む凹部が設けられ、
前記ヘッド側接合面には、側面視逆V字状に突出し、前記凹部に密着して嵌る凸部が設けられ、
前記第一油穴は、前記ボディ側接合面の前記凹部の底部に配置され、
前記第二油穴は、前記ヘッド側接合面の前記凸部の頂上部に配置されたことを特徴とする切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の回転切削工具は、円筒状の本体とニブ部を備える。本体は、炭化物材料で形成され、第1の端部と第2の端部を有する。第1の端部は、被削材を切削可能に構成される。第2の端部は、工作機械の主軸に装着されるように構成される。本体の外周面には、複数のフルートが、本体の長手方向軸線を中心に螺旋状に形成される。本体の内部には、複数の冷却剤通路が設けられる。複数の冷却剤通路は、本体の第1の端部に形成された第1の開口部から第2の端部に形成された第2の開口部まで長手方向軸線を中心に螺旋状に形成される。本体の第1の端部には溝が形成され、長手方向軸線に対して横方向に配置される。ニブ部は、ベース部と被覆部を備える。ベース部は、炭化物材料で形成される。被覆部は、多結晶焼結ダイヤモンド(PCD)で形成され、ベース部に堆積される。ニブ部は、溝に挿入されてロウ付けされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-250343号公報
【発明の概要】
【0004】
ニブ部を厚くするには、第1の端部に形成する溝幅を大きくする必要がある。溝幅を大きくすると、本体の第2の端部において溝以外の領域が狭くなってしまい、第2の開口部を設けるのが困難であった。また、溝幅を大きくすると、本体に形成するフルートの螺旋状のねじれを強くすることができないという問題点もあった。また、溝幅を大きくすると、ニブ部と溝内面との接触面積が減少してしまい、溝に対するニブ部の接着強度が弱くなるという問題点もあった。
【0005】
本発明の目的は、PCDで形成したヘッドの先端部から冷却剤を吐出できる切削工具を提供することである。
【0006】
本発明の切削工具は、超硬合金からなる棒状のボディと、多結晶焼結ダイヤモンドからなり、前記ボディの前記先端部に接合され、先端部に切刃を有するヘッドとを備え、外周面に軸線を中心に螺旋状に延びる溝部が形成された切削工具であって、前記ボディの内部に設けられ、前記ボディの後端部から前記先端部に向けて前記軸線を中心に螺旋状に延びる第一冷却剤通路と、前記ボディの前記先端部に設けられたボディ側接合面に設けられ、前記第一冷却剤通路の出口である第一油穴と、前記ヘッドの内部に設けられ、前記ヘッドの前記先端部に設けられた開口部から前記後端部に向けて延びる第二冷却剤通路と、前記ヘッドの前記後端部であって、前記ボディ側接合面に接合されるヘッド側接合面に設けられ、前記第二冷却剤通路の入口であって、前記ボディ側接合面の前記第一油穴と連通する第二油穴とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本態様の切削工具によれば、ヘッド全体がPCDで形成されるので、被削材に対してPCDを確実に接触させることができる。故に切削工具は、被削材を高精度に加工でき、特に仕上げ加工に最適である。ボディ側接合面にヘッド側接合面が接合した状態で、第二油穴は第一油穴と連通する。故に第一冷却剤通路を流れた冷却剤は、第一油穴と第二油穴を介して第二冷却剤通路に流入する。第二冷却剤通路に流入した冷却剤は、ヘッドの先端部に設けられた開口部から被削材に向けて吐出される。PCDのヘッドで被削材を加工するとき熱が発生するが、切削工具は、被削材との接触点に向けて冷却剤を良好に供給できるので、被削材を良好に切削できる。
【0008】
なお、切削工具の製造工程において、第二冷却剤通路をヘッドに形成するとき、作業者は例えば、ボディ側接合面にヘッド側接合面を接合した状態で、ヘッドの先端部からボディ側接合面の第一油穴を目標位置に設定し、放電加工、又はレーザ加工等を用いて第二冷却剤通路を形成するとよい。故に作業者は、ヘッド側接合面において、ボディ側接合面の第一油穴と連通する第二油穴を適切な位置に形成できる。また、切削工具は、螺旋状の溝部を、PCDのヘッドの先端部から軸線を中心に螺旋状に設けることができるので、被削材の加工中に発生する切り屑の流れを考慮し、溝部のねじれ角度を自由に設計できる。
【0009】
本態様の切削工具の前記第二冷却剤通路は、前記溝部の捩じれる方向に沿うように、前記軸線に対して傾斜する直線状に形成されるとよい。故に切削工具は、溝部と第二冷却剤通路との間に最小距離の肉厚を確保できる。最小距離とは、ヘッドに一定以上の剛性を確保する為に必要な最低限の距離を意味する。
【0010】
本態様の切削工具の前記ボディ側接合面と前記ヘッド側接合面の間には、銀ロウで形成された接着層が設けられるとよい。ボディ側接合面とヘッド側接合面は、銀ロウで接合するので、超硬合金のボディの先端部にPCDのヘッドを強固に固定できる。
【0011】
本態様の切削工具の前記ボディ側接合面及び前記ヘッド側接合面の何れか一方には、内側に凹む凹部が設けられ、他方には、前記凹部に嵌る凸部が設けられるとよい。故に切削工具は、ボディに対してヘッドをより強固に固定できる。また、本態様は、ボディに対してヘッドの位置合わせが容易になるので、ボディとヘッドの固定作業を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ドリル1の斜視図である。
図2】ドリル1の分解斜視図である。
図3図2とは異なる角度から見たドリル1の分解斜視図である。
図4】ボディ10の軸線方向先端側から見た図である。
図5】ヘッド30の軸線方向先端側から見た図である。
図6】ドリル1の内部を透過した斜視図である。
図7】ヘッド30の内部を透過した斜視図である。
図8】PCDドリル製造工程のフローである。
図9】ドリル70(変形例)の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。以下記載するドリル1の形状は、特定的な記載がない限り、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明する為に用いられるものである。
【0014】
ドリル1の全体構造を説明する。図1に示すドリル1は、切削工具の一例であり、被削材(図示略)に穴空け加工を行う工具である。ドリル1は2枚刃であり、ボディ10とヘッド30を備える。ボディ10は略円柱状に形成される。ヘッド30は略短円柱状に形成され、ボディ10の先端部11に例えばロウ付けで接合される。ボディ10とヘッド30の間には、接着層60が形成される。接着層60は、銀ロウを主成分とする。
【0015】
ボディ10の形状を説明する。図2図3に示すように、ボディ10は超硬合金で形成され、先端部11と後端部12を備える。後端部12は、図示しない工具ホルダに固定される。工具ホルダはドリル1のボディ10の後端部12を支持し、図示しない工作機械の主軸に装着されて回転駆動される。ボディ10の外周面には、2条の排出溝部14、15が設けられる。排出溝部14、15は、軸線Oを挟んで互いに対向する位置に設けられ、先端部11から長さ方向中間部まで軸線Oを中心に螺旋状に延びる。排出溝部14、15の夫々の螺旋角度は互いに同一である。螺旋角度とは、軸線O方向に対する角度である。排出溝部14、15は、軸線Oに対して、後端部12側から先端部11側に向かうに従って、後端部12側から見て時計回り方向に捩じれる。ボディ10の先端側の部位は、排出溝部14、15により、軸線Oを中心に捩じれた形状を有する。
【0016】
図6に示すように、ボディ10の内部には、2本の冷却剤通路17、18が設けられる。冷却剤通路17、18は、軸線Oを挟んで互いに対向する位置に設けられる。冷却剤通路17、18は、後端部12から先端部11に向けて、軸線Oを中心に螺旋状に延びる。冷却剤通路17、18の夫々の螺旋角度は互いに同一である。冷却剤通路17、18には、後端部12から先端部11に向かって外部から供給される冷却剤が流れる。後端部12には、2つの油穴21、22が軸線Oを中央に挟んで径方向に並んで設けられる。油穴21、22は、冷却剤通路17、18の入口である。
【0017】
図3図4に示すように、ボディ10の先端部11には、ボディ側接合面23が設けられる。ボディ側接合面23は、側面視略V字状に内側に凹んで形成される。それ故、ボディ側接合面23は全体で凹部を形成する。ボディ側接合面23の底部231は、中心部を径方向に通過する中心線に沿って形成される。ボディ側接合面23には、2つの油穴25、26が軸線Oを中央に挟んで底部231上に並んで設けられる。油穴25、26は、冷却剤通路17、18の出口である。
【0018】
ヘッド30の形状を説明する。図2図3に示すように、ヘッド30は多結晶焼結ダイヤモンド(以下、PCDと呼ぶ)で形成され、先端部31と後端部32を備える。後端部32には、ヘッド側接合面33(図2参照)が設けられる。ヘッド側接合面33は、ボディ10側に側面視略逆V字状に突出して形成される。その稜線331は、ヘッド側接合面33の中心部を径方向に通過する中心線に沿って形成される。ヘッド側接合面33の形状は、ボディ10のボディ側接合面23の形状に対応する。それ故、ヘッド側接合面33は、ボディ側接合面23に密着する(図1参照)。ヘッド側接合面33は、ボディ側接合面23に銀ロウでロウ付けされる。
【0019】
図2図3図5に示すように、ヘッド30の外周面には、2条の排出溝部34、35が設けられる。排出溝部34、35は、軸線Oを挟んで互いに反対側に設けられ、先端部31から後端部32まで軸線Oを中心に螺旋状に延びる。排出溝部34、35の夫々の螺旋角度は同一であり、ボディ10の排出溝部34、35の夫々の螺旋角度と同一である。排出溝部34、35は、ボディ10側の排出溝部14、15と同様に、軸線Oに対して、後端部32側から先端部31側に向かうに従って、後端部12側から見て時計回り方向に捩じれる。ヘッド30は、排出溝部34、35により、軸線Oを中心に捩じれた形状を有する。ボディ10のボディ側接合面23に対し、ヘッド30のヘッド側接合面33が接合した状態では、排出溝部34、35の夫々の後端部は、ボディ10の排出溝部14、15の夫々の先端部と接続して連通する(図1図6参照)。
【0020】
図5に示すように、排出溝部34、35は先端部31において開口し、該開口部分に2枚の切刃55、56が形成される。ドリル1は、軸線Oを中心に回転することにより、被削材を切刃55、56で切削し、切粉を排出溝部34、35、14、15で排出しながら穴を形成する。加工時のドリル1の回転方向Tは、軸線方向先端側から見たときに反時計回り方向である。
【0021】
切刃55は、排出溝部34の内面のうち回転方向T側を向く内面47と、先端部31の逃げ面52とが交差する稜線部分に形成される。排出溝部34の内面47はすくい面であって、切刃55が切削した切り屑をすくい取って排出溝部34に流す。排出溝部34の内面47と、ヘッド30の外周面41とが交差する部分には、リーディングエッジ551が形成される。排出溝部35の内面のうち、回転方向Tとは反対側を向く内面48と外周面41とが交差する部分には、裏刃481が形成される。
【0022】
切刃56は、排出溝部35の内面のうち回転方向T側を向く内面49と、先端部31の逃げ面53とが交差する稜線部分に形成される。排出溝部35の内面49はすくい面であって、切刃56が切削した切り屑をすくい取って排出溝部35に流す。排出溝部35の内面49と、ヘッド30の外周面41とが交差する部分には、リーディングエッジ491が形成される。排出溝部34の内面のうち、回転方向Tとは反対側を向く内面50と外周面41とが交差する部分には、裏刃501が形成される。
【0023】
ヘッド30の内部には、2本の冷却剤通路37、38(図2図6図7参照)が設けられる。後端部32のヘッド側接合面33には、2つの油穴57、58(図2参照)が設けられる。油穴57、58は、軸線Oを挟む位置で稜線331上に並んで設けられる。油穴57は冷却剤通路38の入口であり、油穴58は冷却剤通路37の入口である。図5に示すように、先端部31には、2つの油穴45、46が設けられる。油穴45は逃げ面53に設けられ、油穴46は逃げ面52に設けられる。油穴45は冷却剤通路37の出口であり、油穴46は冷却剤通路38の出口である。
【0024】
図2に示すように、冷却剤通路37は、後端部32のヘッド側接合面33に設けられた油穴58から排出溝部34の捩じれる方向に沿うように、ヘッド30の軸線Oに対して傾斜する直線状に形成される。冷却剤通路38は、後端部32のヘッド側接合面33に設けられた油穴57から排出溝部35の捩じれる方向に沿うように、ヘッド30の軸線Oに対して傾斜する直線状に形成される。このように、冷却剤通路37、38は、排出溝部34、35の捩じれ形状に沿った直線状であるので、冷却剤通路37と排出溝部34の間、冷却剤通路38と排出溝部35の間に最小距離の肉厚を夫々確保できる。なお、最小距離とは、ヘッド30に一定以上の剛性を確保する為に必要な最低限の距離を意味し、例えば実験等によって求められる。
【0025】
ボディ10のボディ側接合面23に対し、ヘッド30のヘッド側接合面33が接合された状態では、ヘッド側接合面33の油穴57、58は、ボディ側接合面23の油穴25、26(図4図6参照)と接続して連通する。
【0026】
図8を参照し、ドリル1の製造方法の一例を説明する。PCDドリル製造工程は、ボディ製造工程とヘッド中間体製造工程を備える。本実施形態において、ヘッド中間体とは、ヘッド30の製造過程におけるヘッド30の中間体である。ヘッド中間体は、後端部32にヘッド側接合面33を備えるが、排出溝部34、35、冷却剤通路37、38、切刃55、56等が形成されていない略短円柱状のPCD焼結体である。
【0027】
ボディ製造工程では、粉砕・混合工程(S11)、加圧工程(S12)、本焼結工程(S13)、冷却剤通路形成工程(S14)、研削工程(S15)の順に行われる。粉砕・混合工程では、超硬合金の原料粉末を混ぜ合わせる。加圧工程では、粉砕・混合工程で混合された材料を加圧して所定の形状を作る。このとき、先端部11となる部分に、側面視略V字状のボディ側接合面23を形成する。本焼結工程では、加圧された形状品の本焼結を行う。冷却剤通路形成工程では、本焼結した形状品の内部に2本の冷却剤通路17、18を例えば放電加工機等で形成する。研削工程では、本焼結した形状品の外周面に、螺旋状の排出溝部14、15を研削する。これら一連の工程を経ることによって、略円柱状のボディ10(図1図3参照)が製造される。
【0028】
ヘッド中間体製造工程では、成形工程(S21)が行われる。成形工程では、PCD焼結体を略短円柱状に成形し、後端部32となる部分に、ヘッド側接合面33を形成する。これにより、略短円柱状のヘッド中間体が製造される。
【0029】
次いで、接合工程(S31)が行われる。接合工程では、ボディ10とヘッド中間体の接合を行う。具体的には、ボディ10の先端部11に形成されたボディ側接合面23に対し、ヘッド中間体の後端部32に形成されたヘッド側接合面33をロウ付けで接合する。上記の通り、ボディ側接合面23は側面視略V字状の凹部であり、ヘッド側接合面33は側面視略逆V字状に突出する凸部である。それ故、ヘッド側接合面33はボディ側接合面23に嵌合して密着するので、ボディ10に対するヘッド中間体の位置合わせが容易である。また、ボディ側接合面23に対してヘッド側接合面33が周方向に回転しないので、ボディ10に対するヘッド中間体の周方向における位置ずれを防止できる。
【0030】
なお、ロウ付けは種々の方法を適用できるが、例えば、銀ロウによるロウ付けが好ましい。銀ロウは、金属と金属の接合に使うロウ付け用の素材の一つであり、アルミニウムやマグネシウム以外の殆どの金属に使用可能である。また、銀ロウはぬれ性が良く、強度にも優れていることから、汎用性が高い。銀ロウの主成分は銀、銅、亜鉛の三元素の合金がベースになっている。さらに、カドミウムやニッケル、スズ、リチウムといった元素を含む銀ロウも適用可能である。銀ロウを用いることによって、接合が容易な上、ボディ側接合面23とヘッド側接合面33をひずみが殆ど無く接合できる。また、銀ロウを用いることによって、接着層60を高強度、高気密にできる。
【0031】
次いで、ヘッド研削工程が行われる(S32)。ヘッド研削工程では、ヘッド中間体の外周面に対し、螺旋状の排出溝部34、35を研削する。さらに、ヘッド中間体の先端部31に2枚の切刃55、56等を研削し、先端形状を整える。最後に、ヘッド冷却剤通路形成工程(S33)が行われる。ヘッド冷却剤通路形成工程では、ヘッド中間体の内部に、2本の冷却剤通路37、38を形成する。冷却剤通路37、38は、ヘッド中間体の先端部31から例えば放電加工機、若しくはレーザ加工機等により形成するとよい。
【0032】
冷却剤通路37、38を形成するとき、作業者は、ヘッド中間体の先端部31側から見て、ボディ10のボディ側接合面23に設けられた油穴25、26(図3参照)の各位置を確認する。油穴25は、先端部31に油穴46を空けて冷却剤通路37を形成するときの目標位置となる。油穴26は、先端部31から油穴45を空けて冷却剤通路38を形成するときの目標位置となる。次いで、作業者は、先端部31における油穴45、46の各位置を決定する。油穴45は、先端部31から冷却剤通路37を形成するときの開始位置となる。油穴46は、先端部31から冷却剤通路38を形成するときの開始位置となる。
【0033】
油穴45の位置は、逃げ面53(図5参照)に決定する。さらに、油穴45からボディ側接合面23の油穴26(図3参照)に向けて形成する冷却剤通路37と、排出溝部34との間に最小距離を確保できるように、油穴45の位置を最終的に決定する。これにより、冷却剤通路37と排出溝部34の間には、最小距離の肉厚が確保される。後端部32のヘッド側接合面33には、冷却剤通路37の入口となる油穴58(図2参照)が形成される。油穴58は、ボディ側接合面23の油穴26と対向して連通する。これにより、ボディ10側の冷却剤通路17と、ヘッド30側の冷却剤通路37が互いに連通する(図6参照)。
【0034】
油穴46の位置は、逃げ面52(図5参照)に決定する。さらに、油穴46からボディ側接合面23の油穴25に向けて形成する冷却剤通路38と、排出溝部35との間に最小距離を確保できるように、油穴46の位置を最終的に決定する。これにより、冷却剤通路38と排出溝部35の間には、最小距離の肉厚が確保される。後端部32のヘッド側接合面33には、冷却剤通路38の入口となる油穴57(図2参照)が形成される。油穴57は、ボディ側接合面23の油穴25と対向して連通する。これにより、ボディ10側の冷却剤通路18と、ヘッド30側の冷却剤通路38が互いに連通する(図6参照)。このようにして、ヘッド中間体はヘッド30となる。作業者は、これら一連の工程を行うことによって、PCDのヘッド30を備えたドリル1を製造できる。
【0035】
上記工程で製造されたドリル1は、PCDのヘッド30の先端部31に2つの油穴45、46を備えるので、被削材の切削領域に冷却剤を効率よく供給できる。また、ドリル1は、ヘッド30の外周面に排出溝部34、35を備えるので、切り屑の排出性能を考慮し、排出溝部34、35の螺旋状の捩じれを自由に設計できる。また、ドリル1は、ボディ10の先端部11に設けられたボディ側接合面23に対し、ヘッド30の後端部32に設けられたヘッド側接合面33をロウ付けにより接合する。これにより、ドリル1は、ボディ側接合面23に対し、ヘッド側接合面33を歪みなく強固に固定できる。よって、ドリル1は、ボディ10の先端部11に対し、ヘッド30を歪みなく強固に固定できる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態のドリル1は、ボディ10とヘッド30を備える。ボディ10は超硬合金製で棒状である。ヘッド30は、多結晶焼結ダイヤモンドからなり、ボディ10の先端部11に接合される。ヘッド30の先端部31には、切刃55、56が設けられる。ドリル1の外周面には、排出溝部14、15、34、35が形成される。排出溝部14、15、34、35は、ドリル1の先端部(ヘッド30の先端部31)から後端部(ボディ10の後端部12)側に向けて軸線Oを中心に螺旋状に延びる。ボディ10の内部には、2本の冷却剤通路17、18が設けられる。冷却剤通路17、18は、ボディ10の後端部12から先端部11に向けて軸線Oを中心に螺旋状に延びる。ボディ10の先端部11には、ボディ側接合面23が設けられる。ボディ側接合面23には、冷却剤通路17、18の出口である2つの油穴25、26が設けられる。ヘッド30の内部には、冷却剤通路37、38が設けられる。冷却剤通路37、38は、ヘッド30の先端部31に設けられた2つの油穴45、46から後端部32に向けて延びる。ヘッド30の後端部32には、ヘッド側接合面33が設けられる。ヘッド側接合面33は、ボディ側接合面23に接合される。ヘッド側接合面33には、油穴57、58が設けられる。油穴57、58は、冷却剤通路37、38の入口であり、ボディ側接合面23の油穴25、26と連通する。これにより、ドリル1は、PCDで形成したヘッド30の先端部31から被削材の切削点に向けて冷却剤を効率良く吐出できる。
【0037】
冷却剤通路37、38は、排出溝部34、35の螺旋状の方向に沿い、且つ排出溝部34,35との間に最小距離が確保できるように、ヘッド30の軸線に対して傾斜する直線状に形成される。故にドリル1は、排出溝部34、35と冷却剤通路37、38との間に最小距離の肉厚を確保できる。
【0038】
ボディ側接合面23とヘッド側接合面33の間には、接着層60が設けられる。接着層60は銀ロウで形成される。それ故、ドリル1は、ボディ10に対してヘッド30を強固に固定できる。
【0039】
ボディ側接合面23は、後端部12側に凹む側面視略V字状に形成される。ヘッド側接合面33は、側面視略逆V字状に突出して形成される。ヘッド側接合面33の凸形状は、ボディ側接合面23の凹形状に嵌って密着する。これにより、ボディ10に対してヘッド30をより強固に固定できる。また、ボディ10に対してヘッド30の位置合わせが容易になる。
【0040】
上記説明において、ドリル1は本発明の「切削工具」の一例である。排出溝部14、15、34、35は本発明の「溝部」の一例である。冷却剤通路17、18は本発明の「第一冷却剤通路」の一例である。油穴25、26は本発明の「第一油穴」の一例である。油穴45、46は本発明の「開口部」の一例である。冷却剤通路37、38は本発明の「第二冷却剤通路」の一例である。ボディ側接合面23は本発明の「凹部」の一例である。ヘッド側接合面33は本発明の「凸部」の一例である。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。上記実施形態のドリル1は2枚刃であるが、刃数はこれに限らず、これ以上であってもよい。本実施形態は、ドリル1を本発明の切削工具の一例として説明したが、ドリル以外の工具、例えば、エンドミル、スレッドミル、リーマ、カッタ等にも適用可能である。
【0042】
上記実施形態のドリル1は、外周面に2本の排出溝部14、15(34、35)が形成されているが、排出溝部は1本、若しくは3本以上であってもよい。
【0043】
ボディ10の内部には、2本の冷却剤通路17、18が設けられ、ヘッド30の内部には、2本の冷却剤通路37、38が設けられるが、1本でもよく、3本以上であってもよい。
【0044】
上記実施形態では、ボディ側接合面23全体で凹部を形成するが、ボディ側接合面23の一部に凹部を形成してもよい。また、ヘッド側接合面33全体で凸部を形成するが、ヘッド側接合面33の一部に凸部を形成してもよい。例えば、ボディ側接合面23の中心に円形状の穴を形成し、ヘッド側接合面33の中心に円柱状の凸部を形成してもよい。また、ボディ側接合面23及びヘッド側接合面33はフラット形状にしてもよい。例えば、図9に示すドリル70は、ボディ100とヘッド300を備える。ボディ100の先端部110には、上記実施形態のボディ側接合面23(図3参照)の代わりに、フラット形状のボディ側接合面123が形成される。ヘッド300の後端部320には、上記実施形態のヘッド側接合面33(図2参照)の代わりに、フラット形状のヘッド側接合面(図示略)が形成される。なお、ボディ側接合面123及びヘッド側接合面以外の構造は、上記実施形態のドリル1の構造と同じであるので、説明は省略する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9