(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-30
(45)【発行日】2022-09-07
(54)【発明の名称】ゴムの混練方法
(51)【国際特許分類】
B29B 7/72 20060101AFI20220831BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220831BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20220831BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20220831BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B29B7/72
C08K3/22
C08K5/00
C08J3/20 B CEQ
C08L21/00
(21)【出願番号】P 2022523475
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2021040025
【審査請求日】2022-04-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】長良 賢一
(72)【発明者】
【氏名】松原 崇之
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 雄太
(72)【発明者】
【氏名】内山 千明
(72)【発明者】
【氏名】久々宮 壮
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-026709(JP,A)
【文献】特開平02-227209(JP,A)
【文献】特開平07-124942(JP,A)
【文献】国際公開第01/057493(WO,A1)
【文献】特開2001-232632(JP,A)
【文献】特開2005-199503(JP,A)
【文献】特開2013-170268(JP,A)
【文献】特開2019-104109(JP,A)
【文献】特開2019-202507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00-11/14
C08L 1/00-101/14
C08J 3/00-3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振ゴム製造用の
基準ロットの原料ゴムと副材料とを特定組成で配合し混練することにより基準ゴム組成物を調製し、該基準ゴム組成物を架橋した基準ゴム架橋物のばね特性を測定する第一工程と、
防振ゴム製造用の
対象ロットの原料ゴムと副材料とを該第一工程と同じ特定組成で配合し混練することにより対象ゴム組成物を調製し、該対象ゴム組成物を架橋した対象ゴム架橋物のばね特性を測定する第二工程と、
該対象ゴム架橋物のばね特性を、該基準ゴム架橋物のばね特性と比較して、該対象ロットの原料ゴムを
防振ゴム用の製品組成で混練する場合に採用する配合条件および練り条件のうちの一つ以上を設定する第三工程と、
を有し、
該第一工程および該第二工程における該特定組成は、防振ゴム用の該製品組成とは異なり、かつ、該副材料として少なくとも脂肪酸、酸化亜鉛、架橋剤、および加硫促進剤を有し、
該第三工程において設定される条件で、該対象ロットの原料ゴムを該製品組成で混練して
防振ゴム用ゴム組成物を得ることを特徴とするゴムの混練方法。
【請求項2】
前記特定組成は、前記副材料が脂肪酸、酸化亜鉛、架橋剤、および加硫促進剤からなる純ゴム組成、または該副材料が脂肪酸、酸化亜鉛、補強剤、架橋剤、および加硫促進剤からなる標準組成である請求項1に記載のゴムの混練方法。
【請求項3】
前記特定組成は、前記副材料が脂肪酸、酸化亜鉛、架橋剤、および加硫促進剤からなる純ゴム組成である請求項1に記載のゴムの混練方法。
【請求項4】
前記第三工程における前記基準ゴム架橋物のばね特性は、一つの基準ロットの原料ゴムを用いて測定されるばね特性、または異なる基準ロットの原料ゴムを用いて該基準ロットごとに測定されるばね特性の平均値である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のゴムの混練方法。
【請求項5】
前記第三工程における前記基準ゴム架橋物のばね特性は、一つの基準ロットの原料ゴムを用いて測定されるばね特性である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のゴムの混練方法。
【請求項6】
前記一つの基準ロットは、前記対象ロットの一つ前のロットである請求項4または請求項5に記載のゴムの混練方法。
【請求項7】
前記ばね特性は、静的ばね定数、動的ばね定数、および硬さから選ばれる一つ以上である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のゴムの混練方法。
【請求項8】
前記ばね特性は、静的ばね定数である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のゴムの混練方法。
【請求項9】
前記第三工程における前記配合条件は、原料ゴムのブレンド量、カーボンブラック量、架橋剤量、およびオイル量から選ばれる一つ以上である請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のゴムの混練方法。
【請求項10】
前記第三工程における前記練り条件は、使用する密閉式混練機の電力値、ローターの回転速度、混練時のゴム材料の温度、および練り時間から選ばれる一つ以上である請求項1ないし請求項9のいずれかに記載のゴムの混練方法。
【請求項11】
前記基準ロットおよび前記対象ロットの前記原料ゴムは、天然ゴムである請求項1ないし請求項10のいずれかに記載のゴムの混練方法。
【請求項12】
前記基準ロットおよび前記対象ロットの前記原料ゴムは、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴムから選ばれる一種以上である請求項1ないし請求項10のいずれかに記載のゴムの混練方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、原料ゴムに配合剤を加えて混練りするゴムの混練方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム製品の製造には、原料ゴムに充填剤、架橋剤などの配合剤を混ぜ合わせて練り込んだ練りゴム(ゴム組成物)が用いられる。練りゴムは、まず原料ゴムを必要に応じて素練りし、次に配合剤のうち架橋系以外の薬剤を加えて混練り(A練り)し、最後に架橋系の薬剤を加えて混練り(B練り)することにより製造される。練りゴムの特性は、後工程における架橋性、加工性などに影響するだけでなく、最終的にはゴム製品の品質に関わる。したがって、ゴム製品の品質向上および品質均一化を図るためには、練りゴムの特性のばらつきを低減することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-227209号公報
【文献】特開2005-199503号公報
【文献】特開平2-26709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば天然ゴムは、引張り強さが大きく、振動による発熱が少ないなどの優れた性質を有しているため、タイヤ、防振ゴム、ベルトなどの様々なゴム製品に用いられる。天然ゴムの原料ゴム(生ゴム)は、分子量が大きく粘度が高いため、素練りによりゴム分子を切断し分子量を低下させて可塑性を付与してから、配合剤を加える混練りが行われる。原料ゴムの粘度は、産地、加工方法などにより異なる他、温度などの保管環境によっても変化する。このため、同じ練り条件で素練りや混練りを行っても、粘度の違いによりゴムに加わるせん断力などが変化し、配合剤の分散状態が変化するなどして、得られる練りゴムの特性に大きなばらつきが生じてしまう。
【0005】
この点、例えば特許文献1には、天然ゴムのロットによるばらつきの影響を受けることなく、素練り完了時に所望のゴム粘度を得る素練り方法として、素練り中にゴム温度と混練装置の駆動用モータの瞬時電力とを監視して、当該瞬時電力が所定の値以下になった時に素練りを停止する方法が記載されている。また、特許文献2には、混練り前および/または混練り中に、原料ゴムの粘度を測定または推測し、その値に基づいて、配合剤の少なくとも一種の配合量を決定する混練方法が記載されている。また、特許文献3には、混練工程中のエラストマーの粘弾性特性に基づいて、混練工程の終了時を決定する混練制御装置が記載されている。
【0006】
特許文献1、2に記載されている方法によると、素練り中または混練り中のゴム材料の粘度を推測し、それに基づいて練り時間を調整したり配合剤の配合量を調整したりして、素練りまたは混練り後のゴム材料における粘度のばらつきを抑制している。しかしながら、そもそも天然ゴムの品質には、天然物由来の大きなばらつきがある。本発明者の検討によると、練り工程においてゴム材料の粘度を制御したとしても、得られる練りゴムの特性、具体的には架橋後の硬さ、静的ばね定数などにばらつきが生じることがわかった。練りゴムの特性のばらつきは、最終製品の性能のばらつきに直結する。特に、防振ゴムなどのゴム製品においては、硬さ、静的ばね定数などのばね特性の管理が重要になる。よって、安定した品質のゴム製品を製造するためには、練り工程における粘度管理だけでは充分ではない。特許文献3に記載されている装置によると、混練り中のゴム材料の粘弾性特性を測定し、それに基づいて練り時間を調整して、練りゴムの弾性率のばらつきを抑制している。しかしながら、混練り中に粘弾性特性を測定することは煩雑であり、適用できる装置も限られる。
【0007】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、ばね特性のばらつきが小さい練りゴムを得ることができるゴムの混練方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本開示のゴムの混練方法は、基準ロットの原料ゴムと副材料とを特定組成で配合し混練することにより基準ゴム組成物を調製し、該基準ゴム組成物を架橋した基準ゴム架橋物のばね特性を測定する第一工程と、対象ロットの原料ゴムと副材料とを該第一工程と同じ特定組成で配合し混練することにより対象ゴム組成物を調製し、該対象ゴム組成物を架橋した対象ゴム架橋物のばね特性を測定する第二工程と、該対象ゴム架橋物のばね特性を、該基準ゴム架橋物のばね特性と比較して、該対象ロットの原料ゴムを製品組成で混練する場合に採用する配合条件および練り条件のうちの一つ以上を設定する第三工程と、を有し、該第三工程において設定される条件で、該対象ロットの原料ゴムを該製品組成で混練して製品用ゴム組成物を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
前述したように、天然ゴムの品質にはばらつきが大きく、原料ゴムのロットが違えば品質も異なる場合が多い。本発明者は、素練り後のゴム材料(以下適宜、「素練りゴム」と称す)の特性のばらつきが、練りゴムの特性のばらつきの要因になると考えて検討を重ねた結果、素練りゴムに架橋に必要な薬剤のみを添加して製造されたゴム架橋物と、製品組成で製造された練りゴムの架橋物と、を比較した場合、ばね特性に相関があることを見いだした。本開示のゴムの混練方法は、この知見に基づいてなされたものであり、予め原料ゴム(素練りゴムを含む)が有するばね特性を把握し、その情報を実際の混練りに活かすことにより、得られるゴム組成物(練りゴム)の特性のばらつきを低減している。すなわち、本開示のゴムの混練方法においては、混練り中のゴム材料の粘度を推測したり粘弾性特性を測定するのではなく、原料ゴムが有するばね特性に基づいて練りゴムのばね特性を予測して、それが所望の値になるよう、混練りに必要な配合条件、練り条件を設定する。
【0010】
第一工程においては、基準ロットの原料ゴムを用いた基準ゴム架橋物のばね特性を測定する。第二工程においては、対象ロットの原料ゴムを用いた対象ゴム架橋物のばね特性を測定する。ここで、基準ゴム架橋物と対象ゴム架橋物とは、同じ特定組成を有する。特定組成は、原料ゴムと副材料とからなり、実際の製品組成とは異なる。例えば、副材料を、ばね特性を測定するために必要な最低限の薬剤のみにすることにより、配合剤の影響を極力少なくして原料ゴム自体の特性を求めることができる。第三工程においては、対象ゴム架橋物のばね特性を、基準ゴム架橋物のばね特性と比較して、得られた結果に基づいて、対象ロットの原料ゴムを実際の製品組成で混練する際の配合条件および練り条件のうちの一つ以上を設定する。これにより、対象ロットの原料ゴムを用いて得られる製品用ゴム組成物のばね特性と、基準ロットの原料ゴムを用いて得られる製品用ゴム組成物のばね特性と、の差が小さくなる。すなわち、ばね特性のばらつきが小さくなる。
【0011】
このように、本開示のゴムの混練方法によると、製品用ゴム組成物のばね特性のばらつきを低減することができる。結果、ゴム製品の品質向上および品質均一化を図ることができる。また、製品用ゴム組成物のばね特性のばらつきが低減されるため、ゴム製品の不良率が低減し、原料ゴムのロットの無駄を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】防振ゴムの静的ばね定数の測定結果を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示のゴムの混練方法の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。本開示のゴムの混練方法は、第一工程、第二工程、および第三工程を有し、該第三工程において設定される条件で、対象ロットの原料ゴムを製品組成で混練して製品用ゴム組成物を得る。以下、各工程の詳細を説明する。
【0014】
<第一工程>
第一工程においては、基準ロットの原料ゴムと副材料とを特定組成で配合し混練することにより基準ゴム組成物を調製し、該基準ゴム組成物を架橋した基準ゴム架橋物のばね特性を測定する。
【0015】
本開示における基準ロット、対象ロットの「ロット」とは、原料ゴムの製造者の管理形態により異なるが、例えば、同一製造日または同一条件で製造された原料ゴムの最小単位を意味する。基準ロットは、対象ロットとは異なるロットであるが、基準ロットと対象ロットとにおける原料ゴムの種類は同じである。原料ゴムの種類は限定されず、製造するゴム製品に応じて適宜選択すればよい。例えば、天然ゴムでも、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴムなどの合成ゴムでもよい。本開示のゴムの混練方法で得られる製品用ゴム組成物を用いて防振ゴムを製造する場合には、天然ゴムが好適である。原料ゴムには、製造後のゴムの他、製造後に素練りした素練りゴムも含まれる。
【0016】
基準ゴム組成物は、原料ゴムに副材料を配合し混練して調製される。基準ゴム組成物の組成である特定組成は、製品用ゴム組成物の組成、すなわち、対象ロットの原料ゴムを用いて実際にゴム製品を製造する際の製品組成と異なり、架橋可能な組成であれば、特に限定されない。特定組成としては、副材料を脂肪酸、酸化亜鉛、架橋剤、および加硫促進剤に限定した純ゴム組成が望ましい。あるいは、純ゴム組成に補強剤を加えた標準組成が望ましい。配合剤の影響を極力少なくして原料ゴム自体の特性を求めるという観点においては、純ゴム組成がより好適である。各々の薬剤については、原料ゴムの種類に応じて適宜選択すればよい。脂肪酸としては、ステアリン酸、パルミチン酸などが挙げられる。架橋剤としては、硫黄、アルキルフェノールジスルフィドなどの有機硫黄化合物、有機過酸化物などが挙げられる。加硫促進剤としては、グアニジン系、チウラム系、チアゾール系、スルフェンアミド系、ジチオカルバミン酸塩系などの化合物が挙げられる。補強剤としては、カーボンブラック、シリカなどが挙げられる。
【0017】
混練は、バンバリーミキサー、ニーダーなどの密閉式混練機、オープンロールなどを用いて行えばよい。原料ゴムに加える副材料は、全てを同時に添加してもよいが、架橋反応を抑制するという観点から、まずは架橋系以外の薬剤を加えて混練りし、その後で架橋系の薬剤を加えて混練りすることが望ましい。このようにして調製された基準ゴム組成物を、所定の温度下で所定時間保持することにより架橋する。例えば、原料ゴムが天然ゴムの場合には、140~180℃の温度下で、5~30分間保持すればよい。そして、得られた基準ゴム架橋物のばね特性を測定する。
【0018】
ばね特性としては、静的ばね定数、動的ばね定数、および硬さから選ばれる一つ以上を測定することが望ましい。なかでも、防振性能の指標になるという理由から、静的ばね定数の測定が好適である。静的ばね定数、動的ばね定数については、例えばJIS K6385:2012に規定される方法に従って測定すればよい。硬さについては、例えばJIS K6253-3:2012に規定されるタイプAデュロメータ硬さを測定すればよい。
【0019】
<第二工程>
第二工程においては、対象ロットの原料ゴムと副材料とを該第一工程と同じ特定組成で配合し混練することにより対象ゴム組成物を調製し、該対象ゴム組成物を架橋した対象ゴム架橋物のばね特性を測定する。
【0020】
本工程においては、混練対象の対象ロットの原料ゴムについて、第一工程と同様にばね特性を測定する。原料ゴム、対象ゴム組成物の特定組成については、前述した基準ロットのそれと同じである。また、混練方法、架橋方法、対象ゴム架橋物のばね特性の測定方法についても第一工程と同じである。
【0021】
<第三工程>
第三工程においては、第二工程で測定された対象ゴム架橋物のばね特性を、第一工程で測定された基準ゴム架橋物のばね特性と比較して、対象ロットの原料ゴムを製品組成で混練する場合に採用する配合条件および練り条件のうちの一つ以上を設定する。
【0022】
本工程においては、対象ゴム架橋物のばね特性を基準ゴム架橋物のばね特性と比較して、その値が同等であるか、どの程度大きいかまたは小さいかを確認する。比較対象である基準ゴム架橋物のばね特性は、一つの基準ロットの原料ゴムを用いて測定されるばね特性、または異なる基準ロットの原料ゴムを用いて該基準ロットごとに測定されるばね特性の平均値にするとよい。比較が容易であるという理由から、比較対象である基準ゴム架橋物のばね特性として、一つの基準ロットの原料ゴムを用いて測定されるばね特性を採用するとよい。この場合、一つの基準ロットをどのロットにするかは限定されないが、管理しやすいという理由から、対象ロットの一つ前のロットを基準ロットにするとよい。一つ前のロットとは、対象ロットの直前に混練に供されたロットである。原料ゴムのロットには、通常、管理するための番号(ロット番号)が付与される。例えば、原料ゴムのロット番号が、混練される順に1、2、・・・と連続する自然数で付与される場合、対象ロットのロット番号が「n」であれば、ロット番号「n-1」のロットが一つ前のロットになる(nは2以上の自然数)。
【0023】
実際に対象ロットの原料ゴムを混練する際の製品組成は、製造するゴム製品に応じて適宜選択すればよい。例えば、原料ゴムに添加する配合剤として、脂肪酸、酸化亜鉛、補強剤、非補強性充填剤(炭酸カルシウム、タルクなど)、老化防止剤、軟化剤、着色剤、架橋剤、および加硫促進剤などが挙げられる。例えば、防振ゴム用の製品組成としては、天然ゴム(原料ゴム)、脂肪酸、酸化亜鉛、補強剤、老化防止剤、軟化剤、架橋剤、および加硫促進剤からなる組成が好適である。この場合、脂肪酸としては、ステアリン酸、パルミチン酸などを用いればよい。補強剤としては、カーボンブラック、シリカなどを用いればよい。老化防止剤としては、カルバメート系、フェニレンジアミン系、フェノール系、ジフェニルアミン系、キノリン系、イミダゾール系の化合物、ワックス類などを用いればよい。軟化剤としては、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、アロマ系オイルなどを用いればよい。架橋剤としては、硫黄、アルキルフェノールジスルフィドなどの有機硫黄化合物などを用いればよい。加硫促進剤としては、グアニジン系、チウラム系、チアゾール系、スルフェンアミド系、ジチオカルバミン酸塩系などの化合物を用いればよい。
【0024】
混練する際に設定が必要な条件は種々あるが、本工程において設定する配合条件としては、原料ゴムのブレンド量、カーボンブラック量(補強剤量)、架橋剤量、オイル量(軟化剤量)などが挙げられる。例えば、対象ゴム架橋物のばね特性が、基準ゴム架橋物のばね特性よりも大きい場合、対象ロットの原料ゴムと同種で、ばね特性がより小さい(より軟らかい)ゴムをブレンドするとよい。これ以外にも、予め設定されている基準仕様より、カーボンブラック量を少なくしたり、架橋剤量を少なくしたり、オイル量を多くしてもよい。本工程において設定する練り条件としては、使用する密閉式混練機の電力値、ローターの回転速度、混練時のゴム材料の温度、練り時間などが挙げられる。例えば、対象ゴム架橋物のばね特性が、基準ゴム架橋物のばね特性と異なる場合、予め設定されている基準仕様に対して、密閉式混練機の積算電力量、ローターの回転速度、混練時のゴム材料の温度、練り時間などを調整するとよい。本工程においては、配合条件、練り条件のいずれか一方を設定してもよく、両方を設定してもよい。条件の設定としては、基準仕様からの変更だけでなく、基準仕様をそのまま採用することも含まれる。例えば、対象ゴム架橋物のばね特性が、基準ゴム架橋物のばね特性と同等の場合など、予め設定されている基準仕様を変更する必要がないと判断した場合には、当該基準仕様をそのまま採用して、すなわち配合条件、練り条件を調整せずに設定すればよい。
【0025】
本開示のゴムの混練方法においては、第三工程において設定される条件で、対象ロットの原料ゴムを製品組成で混練して製品用ゴム組成物を得る。混練は、バンバリーミキサー、ニーダーなどの密閉式混練機、オープンロールなどを用いて行えばよい。原料ゴムに加える配合剤は、全てを同時に添加してもよいが、架橋反応を抑制するという観点から、まずは架橋系以外の薬剤を加えて混練りし、その後で架橋系の薬剤を加えて混練りすることが望ましい。防振ゴム用の製品組成を一例としてより詳しく説明すると、まず原料ゴムとしての天然ゴムに、架橋剤および加硫促進剤を除いた配合剤を加えてバンバリーミキサーにより混練した後、混練物をオープンロールに移し、架橋剤および加硫促進剤を加えて、さらに混練すればよい。得られた製品用ゴム組成物は、射出成形などの方法で架橋、成形することにより、防振ゴムなどのゴム製品になる。なお、同一ロットの原料ゴムを複数回に分けて混練する場合がある。この場合、各々の混練工程において、配合条件および練り条件を追加調整しても構わない。
【実施例】
【0026】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。
【0027】
(1)実施例1
<第一工程>
まず、基準ロットとしてのロット1の天然ゴムと副材料とを、表1に示す純ゴム組成で配合し、混練することにより基準ゴム組成物を調製した。
【表1】
表1中、使用した副材料の詳細は、次のとおりである。なお、使用した天然ゴムは、予め素練りしておいた素練りゴムである(以下、対象ロットの天然ゴムについても同じ)。
脂肪酸:ステアリン酸(花王(株)製「ルナック(登録商標)S-70V」)。
酸化亜鉛:酸化亜鉛2種(堺化学工業(株)製)。
架橋剤:硫黄(細井化学工業(株)製、微粉硫黄)。
加硫促進剤:チアゾール系(三新化学工業(株)製「サンセラー(登録商標)M-G」)。
【0028】
基準ゴム組成物の調製は、左右二本のロールを備えるオープンロールを用いて、次の(a)~(f)の手順で行った。
(a)ロール間隙を0.2mmにして、天然ゴムをロールに巻き付けないで2回通す。
(b)ロール間隙を1.4mmにして、天然ゴムをロールに巻き付けて練り、平滑な帯状になったらロール間隙を1.8mmに広げる。
(c)副材料を全て加える。
(d)左右交互に切り返しを各3回行う。
(e)ゴム材料をロールから切り放し、ロールの間隙を0.8mmにして丸め通しを6回行う。
(f)ゴム材料が厚さ2.2mmのシート状になったらロールから取り出す。
【0029】
次に、得られた基準ゴム組成物を金型に収容し、150℃で30分間保持することにより架橋して、基準ゴム架橋物の円柱状のサンプルを製造した。サンプルの大きさは、直径29.0±0.5mm、厚さ12.5±0.5mmとした。製造したサンプルを用いて、基準ゴム架橋物の静的ばね定数を測定した。静的ばね定数の測定は、JIS K6385:2012に規定される方法に従って行った。具体的には、サンプルの厚さ方向に荷重を加えてサンプルを10±1mm/minの速度で圧縮し、サンプルの変形量が所定量に達したら直ちに同じ速度で除荷して復元した。そして、得られた荷重-変形曲線から静的ばね定数を求めた。結果、基準ゴム架橋物の静的ばね定数は、80N/mmであった。
【0030】
<第二工程>
対象ロットとしてのロット2の天然ゴムと副材料とを、先の表1に示した純ゴム組成で配合し、混練することにより対象ゴム組成物を調製した。対象ゴム組成物の調製方法は、前述した基準ゴム組成物の調製方法と同じであり、オープンロールを用いて行った。そして、前述した基準ゴム架橋物のサンプルの製造方法と同様の方法で、対象ゴム組成物を架橋して対象ゴム架橋物のサンプルを製造し、前述した静的ばね定数の測定方法により、同サンプルの静的ばね定数を測定した。ロット2の対象ゴム架橋物の静的ばね定数は、80N/mmであった。
【0031】
<第三工程>
ロット2の対象ゴム架橋物の静的ばね定数を、基準ゴム架橋物の静的ばね定数と比較したところ、いずれも80N/mmで両者は同等であった。したがって、ロット2の天然ゴムを製品組成で混練する場合の配合条件、練り条件については、予め設定されている基準仕様を変更する必要がないと判断し、基準仕様のまま設定した。ちなみに、基準仕様においては、原料ゴムのブレンドは行わない設定(「原料ゴムのブレンド量0」)になっている。
【0032】
<製品組成での混練>
ロット2の天然ゴムと配合剤とを、表2に示す防振ゴム用の製品組成で配合し、混練することにより防振ゴム用ゴム組成物を調製した。
【表2】
表2中、使用した配合剤の詳細は、次のとおりである。
脂肪酸:ステアリン酸(花王(株)製「ルナック(登録商標)S-70V」)。
酸化亜鉛:酸化亜鉛2種(堺化学工業(株)製)。
老化防止剤:フェニレンジアミン系(住友化学(株)製「アンチゲン(登録商標)6C」。
補強剤:HAF級カーボンブラック(東海カーボン(株)製「シースト(登録商標)3」)
軟化剤:ナフテン系オイル(日本サン石油(株)製「SUNTHENE410」)
架橋剤:硫黄(細井化学工業(株)製、微粉硫黄)。
加硫促進剤:スルフェンアミド系(三新化学工業(株)製「サンセラー(登録商標)CM-G」)。
【0033】
防振ゴム用ゴム組成物の調製は、次のようにして行った。まず、ロット2の天然ゴムに架橋剤および加硫促進剤以外の薬剤を加え、バンバリーミキサーを用いて60~160℃で5分間混練した。次に、混練物をオープンロールに移し、架橋剤および加硫促進剤を加えて80~100℃で5分間混練した。
【0034】
(2)実施例2
<第一工程>
基準ロットを実施例1のロット1とし、後の第三工程で対象ゴム架橋物と比較するばね特性を、実施例1と同じ基準ゴム架橋物の静的ばね定数とした。
【0035】
<第二工程>
対象ロットとしてのロット3の天然ゴムと副材料とを、先の表1に示した純ゴム組成で配合し、混練することにより対象ゴム組成物を調製した。対象ゴム組成物の調製方法は、実施例1の基準ゴム組成物の調製方法と同じであり、オープンロールを用いて行った。そして、実施例1の基準ゴム架橋物のサンプルの製造方法と同様の方法で、対象ゴム組成物を架橋して対象ゴム架橋物のサンプルを製造し、実施例1と同じ静的ばね定数の測定方法により、同サンプルの静的ばね定数を測定した。ロット3の対象ゴム架橋物の静的ばね定数は、84N/mmであった。
【0036】
<第三工程>
ロット3の対象ゴム架橋物の静的ばね定数を、基準ゴム架橋物の静的ばね定数と比較したところ、ロット3の対象ゴム架橋物の静的ばね定数の方が4N/mm大きかった。したがって、ロット3の天然ゴムを製品組成で混練する場合に、配合条件の「原料ゴムのブレンド量」を変更して設定することにした。具体的には、調整用ゴムとして、ロット3の対象ゴム架橋物と同じ純ゴム組成で測定された静的ばね定数が76N/mmの天然ゴムを準備して、ロット3の天然ゴムと当該調整用天然ゴムとが質量比で1:1になるようにブレンドすることにした。
【0037】
<製品組成での混練>
ロット3の天然ゴムおよび調整用天然ゴムと配合剤とを、表3に示す防振ゴム用の製品組成で配合し、混練することにより防振ゴム用ゴム組成物を調製した。
【表3】
使用した配合剤は全て、実施例1の防振ゴム用ゴム組成物を調製した際に使用したものと同じである。また、混練方法についても、ロット2の天然ゴムを、ロット3の天然ゴムおよび調整用天然ゴムに変更した点以外は、実施例1と同じである。
【0038】
(3)実施例3
実施例2における第三工程を変更し、ロット3の天然ゴムを用いて防振ゴム用ゴム組成物を調製した。本実施例3の第三工程においては、ロット3の天然ゴムを製品組成で混練する場合の条件として、配合条件の「原料ゴムのブレンド量」ではなく、練り条件の「密閉式混練機の電力値」を変更して設定した。具体的には、バンバリーミキサーを用いた混練工程における積算電力量の狙い値を、基準仕様の16kWhよりも大きい20kWhに設定した。
【0039】
ロット3の天然ゴムと配合剤との製品組成は、表4に示すとおりである。
【表4】
使用した配合剤は全て、実施例1の防振ゴム用ゴム組成物を調製した際に使用したものと同じである。まず、ロット3の天然ゴムに架橋剤および加硫促進剤以外の薬剤を加え、バンバリーミキサーを用いて60~160℃で5分間混練した。この際、バンバリーミキサーの積算電力量の狙い値を20kWhに設定した。次に、混練物をオープンロールに移し、架橋剤および加硫促進剤を加えて80~100℃で5分間混練した。
【0040】
(4)ばね特性のばらつきの評価
実施例2の混練方法、すなわち、第三工程において、対象ゴム架橋物の静的ばね定数と基準ゴム架橋物の静的ばね定数とを比較した結果に基づいて「原料ゴムのブレンド量」を設定する混練方法により、天然ゴムのロットごとに防振ゴム用ゴム組成物を調製し、それを架橋して防振ゴムを製造した。静的ばね定数の比較は、対象ロットとその一つ前のロットとを用いて行った。使用した天然ゴムのロット数は60ロットである。なお、同一ロットの防振ゴム用ゴム組成物から複数の防振ゴムを製造したため、最終的に得られた防振ゴムの個数は265個であった。そして、製造された防振ゴムの静的ばね定数を、前述したJIS K6385:2012に規定される方法に従って測定した。これとは別に、比較のため、ロットごとのばね特性を考慮せず、配合条件、練り条件などを基準仕様のまま一定にして混練することにより防振ゴム用ゴム組成物を調製し、それを架橋して防振ゴムを製造した。以下、この混練方法を「比較例の混練方法」と称す。比較例の混練方法においては、使用した天然ゴムのロット数は65ロットであり、実施例2の場合と同様、同一ロットの防振ゴム用ゴム組成物から複数の防振ゴムを製造したため、最終的に得られた防振ゴムの個数は283個であった。そして、製造された防振ゴムの静的ばね定数を、実施例2と同じ方法で測定した。
【0041】
図1に、各々の混練方法により得られた防振ゴムの静的ばね定数の測定結果を示す。表5に、静的ばね定数の測定結果から算出された標準偏差などの値を示す。
【表5】
【0042】
図1および表5に示すように、実施例2の混練方法を用いた場合、比較例の混練方法を用いた場合と比較して、静的ばね定数のばらつきが小さくなった。すなわち、本開示のゴムの混練方法を用いると、ばね特性のばらつきが小さく、安定した品質の防振ゴムを製造できることが確認された。
【要約】
ゴムの混練方法は、基準ロットの原料ゴムと副材料とを特定組成で配合し混練することにより基準ゴム組成物を調製し、該基準ゴム組成物を架橋した基準ゴム架橋物のばね特性を測定する第一工程と、対象ロットの原料ゴムと副材料とを該第一工程と同じ特定組成で配合し混練することにより対象ゴム組成物を調製し、該対象ゴム組成物を架橋した対象ゴム架橋物のばね特性を測定する第二工程と、該対象ゴム架橋物のばね特性を、該基準ゴム架橋物のばね特性と比較して、該対象ロットの原料ゴムを製品組成で混練する場合に採用する配合条件および練り条件のうちの一つ以上を設定する第三工程と、を有し、該第三工程において設定される条件で、該対象ロットの原料ゴムを該製品組成で混練して、ばね特性のばらつきが小さい製品用ゴム組成物を得る。