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特許7133125糊剤を繊維品に付与する方法、糊剤付き繊維品の製造方法、糊剤付き繊維品から糊剤を除去する方法、及び糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】糊剤を繊維品に付与する方法、糊剤付き繊維品の製造方法、糊剤付き繊維品から糊剤を除去する方法、及び糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   D06B 1/00 20060101AFI20220901BHJP
   D06L 1/00 20170101ALI20220901BHJP
   D06M 15/07 20060101ALI20220901BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20220901BHJP
【FI】
D06B1/00
D06L1/00
D06M15/07
D06M101:06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021084556
(22)【出願日】2021-05-19
(65)【公開番号】P2021121700
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2021-06-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年5月28日 「一般社団法人日本繊維機械学会第73回年次大会 予稿集 C1-08頁」を通じて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】722004388
【氏名又は名称】伊澤タオル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 正司
(72)【発明者】
【氏名】奥林 里子
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05863298(US,A)
【文献】中国特許出願公開第104389153(CN,A)
【文献】特開2002-180369(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132867(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06B 1/00 - 23/30
D06C 3/00 - 29/00
D06G 1/00 - 5/00
D06H 1/00 - 7/24
D06J 1/00 - 1/12
D06L 1/00 - 4/75
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糊剤を繊維品に付与する方法であって、
前記糊剤及び超臨界二酸化炭素を含む流体と前記繊維品とを接触させて、前記繊維品に糊付けを行う工程を含
前記糊剤がセルロースアセテートを含む、前記方法。
【請求項2】
糊剤付き繊維品の製造方法であって、
糊剤及び超臨界二酸化炭素を含む流体と繊維品とを接触させて、前記繊維品に糊付けを行う工程を含
前記糊剤がセルロースアセテートを含む、前記方法。
【請求項3】
糊剤付き繊維品から糊剤を除去する方法であって、
超臨界二酸化炭素を含む流体と前記糊剤付き繊維品とを接触させて、前記糊剤付き繊維品の糊抜きを行う工程を含
前記糊剤がセルロースアセテートを含む、前記方法。
【請求項4】
糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法であって、
超臨界二酸化炭素を含む流体と前記糊剤付き繊維品とを接触させて、前記糊剤付き繊維品の糊抜きを行う工程を含
前記糊剤がセルロースアセテートを含む、前記方法。
【請求項5】
前記流体が共溶媒をさらに含む、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記共溶媒がアセトンを含む、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記繊維品が綿糸を含む、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記糊抜きを行う工程が、金属球と前記糊剤付き繊維品とを接触させることを含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項9】
前記糊抜きを行う工程が、バッチ処理又は連続処理によるものである、請求項3、4、又はに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糊剤を繊維品に付与する方法、糊剤付き繊維品の製造方法、糊剤付き繊維品から糊剤を除去する方法、及び糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に綿製品の織物は、経糸・緯糸の交錯によってつくられる。そこで、織物をつくるには、まず原糸の経糸と緯糸に分けることから始まる。経糸と緯糸に分けられた原糸は様々な工程に通される。最後に織機にかけられ、出来上がった織物は検査されて仕上げ工程に送られる。綿製品製造の主な工程は、紡績、糊付け、製織、糊抜き・精錬・漂白、染色、仕上げの各工程である。これらの工程の中で糊付け、糊抜き・精練、染色の各工程では、多量の水が使用されると同時に、多量の廃水を排出する。衣服の製造で排出される廃水は全世界の20%に及ぶとされている。世界的に環境負荷低減が大きな課題とされる中、こうした廃水問題を解決する環境にやさしい製造工程が必要とされている。
【0003】
また、超臨界二酸化炭素を用いて繊維加工を行うことが知られている。超臨界状態とは、各化合物固有の臨界温度(Tc)、臨界圧力(Tp)を超えた状態で発現する。この状態は超臨界流体と呼ばれ、気体と液体の中間の性質を持つ。図1に示すように、二酸化炭素のTcは31.1 ℃、Tpは7.38 MPaと比較的温和な条件で超臨界状態を発現することができ、爆破性がなく、無毒で安全性が高く、安価で入手しやすいといった利点がある。また、超臨界二酸化炭素は、(1)臨界温度付近では圧力をわずかに変化させると密度が大きく変動する、(2)低粘度、高拡散性のため、輸送物性に優れ、物質への浸透力が大きい、(3)熱伝導度が大きく、熱移動速度が速い、(4)溶媒和効果より反応速度が速い、(5)水より誘電率が小さく通常の無極性有機溶媒と同程度となるため、無極性有機物質に対して良好な溶媒となる、(5)二酸化炭素を回収し再利用することが可能である、といった特徴を持つ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、繊維品の糊付け工程及び/又は糊抜き工程において、従来使用していた水の代わりの溶媒を用い、廃水問題を解決する環境にやさしい繊維品の製造工程の実現が望まれている。
【0005】
本発明は、繊維品の糊付け工程及び/又は糊抜き工程において、従来使用していた水の代わりの溶媒を用い、廃水問題を解決する環境にやさしい繊維品の製造工程を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究した結果、従来使用していた水の代わりに、超臨界状態の二酸化炭素を溶媒として用いることで上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。超臨界二酸化炭素が有する上述の(1)~(5)の特徴から、超臨界二酸化炭素を糊付け工程及び/又は糊抜き工程の溶媒として用いることで、水を使わず廃水が出ない製造工程が実現可能となる。
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
【0007】
[1] 糊剤を繊維品に付与する方法であって、
前記糊剤及び超臨界二酸化炭素を含む流体と前記繊維品とを接触させて、前記繊維品に糊付けを行う工程を含む、前記方法。
[2] 糊剤付き繊維品の製造方法であって、
糊剤及び超臨界二酸化炭素を含む流体と繊維品とを接触させて、前記繊維品に糊付けを行う工程を含む、前記方法。
[3] 糊剤付き繊維品から糊剤を除去する方法であって、
超臨界二酸化炭素を含む流体と前記糊剤付き繊維品とを接触させて、前記糊剤付き繊維品の糊抜きを行う工程を含む、前記方法。
[4] 糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法であって、
超臨界二酸化炭素を含む流体と前記糊剤付き繊維品とを接触させて、前記糊剤付き繊維品の糊抜きを行う工程を含む、前記方法。
[5] 前記糊剤がセルロースアセテートを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記流体が共溶媒をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記共溶媒がアセトンを含む、[6]に記載の方法。
[8] 前記繊維品が綿糸を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 前記糊抜きを行う工程が、金属球と前記糊剤付き繊維品とを接触させることを含む、[3]又は[4]に記載の方法。
[10] 前記糊抜きを行う工程が、バッチ処理又は連続処理によるものである、[3]、[4]、又は[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法は、繊維品の糊付け工程及び/又は糊抜き工程において、従来使用していた水の代わりの溶媒を用い、廃水問題を解決する環境にやさしい繊維品の製造工程を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、二酸化炭素の温度-圧力の状態図である。
図2図2(a)は高圧容器、図2(b)はオーブンにセットした高圧容器に関する写真である。
図3図3は、実施例で使用した装置の概要を示す図である。
図4図4は、糊剤が付着していない綿糸のSEM画像である。
図5図5は、でんぷん糊が約3%付着した綿糸のSEM画像である。
図6図6は、セルロースアセテートが10.0%付着した綿糸のSEM画像である。
図7図7は、糊剤が付着していない綿糸のSS曲線である。
図8図8は、でんぷん糊が付着している綿糸のSS曲線である。
図9図9は、セルロースアセテート(Sigma Aldrich社製)が付着している綿糸のSS曲線である。
図10図10は、図7~9で示した各綿糸のSS曲線を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「X~Y」を用いて数値範囲を表す際は、その範囲は両端の数値を含むものとする。
【0011】
以下、本発明の糊剤を繊維品に付与する方法、糊剤付き繊維品の製造方法、糊剤付き繊維品から糊剤を除去する方法、及び糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法について、説明する。
【0012】
[糊剤を繊維品に付与する方法及び糊剤付き繊維品の製造方法]
本願の実施形態の1つは、糊剤を繊維品に付与する方法であって、前記糊剤及び超臨界二酸化炭素を含む流体と前記繊維品とを接触させて、前記繊維品に糊付けを行う工程を含む、前記方法である。
また、本願の別の実施形態は、糊剤付き繊維品の製造方法であって、糊剤及び超臨界二酸化炭素を含む流体と繊維品とを接触させて、前記繊維品に糊付けを行う工程を含む、前記方法である。
【0013】
本実施形態において、繊維品としては、特に限定されないが、繊維、糸、生地等が挙げられる。繊維としては、糸となる前のトウ等が挙げられる。糸としては、特に限定されないが、スパン糸、フィラメント糸、これらを混撚した混撚糸や混紡糸等が挙げられる。生地としては、糸を用いた織物や編物、あるいは不織布、フェルト等があげられる。本実施形態の方法においては、繊維品として糸を使用することが好ましく、この場合、当該方法により得られた糊剤を付与した糸を、その後の製織工程にかけることができる。
【0014】
糸の種類は、特に限定されないが、例えば、綿、麻等の植物繊維、絹、羊毛等の動物繊維等の天然繊維、ポリエステル、アクリル等の合成繊維、アセテート、トリアセテート、プロミックス等の半合成繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等の再生繊維、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維等の無機繊維等の化学繊維を用いることができる。これらの糸を2種類以上混紡したものや混撚したものであってもよい。また、これらの糸は、単糸、双糸、三子糸あるいは4本以上の糸を撚り合わせたものでもよい。
本実施形態においては、タオルとしての肌触りの観点から、綿糸を使用することが好ましい。
【0015】
本実施形態において、糊剤としては、特に限定されないが、セルロースアセテート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン等が挙げられ、これらの糊剤の1種又は2種以上の組み合わせを使用することができる。超臨界二酸化炭素への溶解性の観点から、糊剤は、セルロースアセテートが好ましい。
【0016】
糊剤がセルロースアセテートを含む場合、セルロースアセテートの粘度は、超臨界二酸化炭素への溶解性の観点から、30×10-3~200×10-3Pa・sが好ましく、また、40×10-3~150×10-3Pa・sとすることもできる。セルロースアセテートの粘度は、25℃の条件においてオストワルド粘度計を用いて測定することができる。
【0017】
糊剤がセルロースアセテートを含む場合、セルロースアセテートの酢化度は、55~62.5%が好ましい。セルロースアセテートの酢化度は、例えば、アルカリけん化法(ASTM:D‐817‐91)により測定することができる。
【0018】
本実施形態において、糊剤及び超臨界二酸化炭素を含む流体を繊維品に接触させる際の処理条件は、特に限定されないが、糊付け性を向上させる観点から、温度としては、31~150℃を使用することができ、また、圧力としては、8~25MPa、さらに、時間としては、30~800分を使用することができる。
糊剤及び超臨界二酸化炭素を含む流体を繊維品に接触させる工程は、バッチ処理によるものとすることができる。
【0019】
糊剤の使用量は、特に限定されないが、例えば、繊維品として綿糸を使用する場合には、糊付け性を向上させる観点から、1gの綿糸当たり、1~5gの糊剤を使用することが好ましい。
【0020】
本実施形態において、糊剤及び超臨界二酸化炭素を含む流体は、処理容器内に糊剤を予め入れておいて当該処理容器内に超臨界二酸化炭素を送液することにより作製しても良い。
【0021】
本実施形態において、糊剤及び超臨界二酸化炭素を含む流体は、共溶媒をさらに含んでもよい。当該流体が共溶媒を含むことにより、糊剤の溶媒(超臨界二酸化炭素と共溶媒とを含む)への溶解性を向上させて糊付け性を向上させることができる。
共溶媒としては、糊剤の溶媒(超臨界二酸化炭素と共溶媒とを含む)への溶解性を向上させて糊付け性を向上させる観点より、アセトンが好ましい。
【0022】
本実施形態において、共溶媒を使用する場合、処理容器内に超臨界二酸化炭素とは別に共溶媒を送液することができる。
【0023】
共溶媒を使用する場合、超臨界二酸化炭素に対する共溶媒の割合(モル%)は、特に限定されないが、糊剤の溶媒への溶解性を向上させて糊付け性を向上させる観点より、5~15モル%が好ましい。
【0024】
本実施形態において、糊剤付き繊維品における糊剤の付着率(%)は、特に限定されないが、0.1~100%などとすることができる。糊剤の付着率(%)は、後述の実施例2の(4-1)に記載の式(2)に基づいて算出することができる。
【0025】
本実施形態の方法により得られる糊剤付き繊維品は、高い引張強度を示すことができる。また、当該糊剤付き繊維品は、摩擦に対し高い耐久性があり、摩擦試験後でも引張強度の低下が起きにくい。
【0026】
本実施形態の方法は、繊維加工の1つである糊付け工程として使用することができ、また、他の繊維加工の工程である、紡績、製織、糊抜き・精錬・漂白、染色、仕上げの各工程と組み合わせて使用することもできる。また、本実施形態の糊剤を繊維品に付与する方法又は糊剤付き繊維品の製造方法は、後述の糊剤付き繊維品から糊剤を除去する方法又は糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法と組み合わせて、一つの方法又は製造方法とすることもできる。
【0027】
[糊剤付き繊維品から糊剤を除去する方法及び糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法]
本願の実施形態の1つは、糊剤付き繊維品から糊剤を除去する方法であって、超臨界二酸化炭素を含む流体と前記糊剤付き繊維品とを接触させて、前記糊剤付き繊維品の糊抜きを行う工程を含む、前記方法である。
また、本願の別の実施形態は、糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法であって、超臨界二酸化炭素を含む流体と前記糊剤付き繊維品とを接触させて、前記糊剤付き繊維品の糊抜きを行う工程を含む、前記方法である。
【0028】
本実施形態において、繊維品としては、上記[糊剤を繊維品に付与する方法及び糊剤付き繊維品の製造方法]に記載したものを使用することができる。
本実施形態においては、タオルとしての肌触りの観点から、綿糸を使用することが好ましい。
【0029】
本実施形態において、糊剤としては、特に限定されないが、上記[糊剤を繊維品に付与する方法及び糊剤付き繊維品の製造方法]に記載したものを使用することができる。超臨界二酸化炭素への溶解性の観点から、糊剤は、セルロースアセテートが好ましい。
【0030】
糊剤がセルロースアセテートを含む場合、セルロースアセテートの粘度は、上記[糊剤を繊維品に付与する方法及び糊剤付き繊維品の製造方法]に記載した数値範囲を使用することができる。
【0031】
本実施形態において、糊剤付き繊維品としては、特に限定されないが、上記[糊剤を繊維品に付与する方法及び糊剤付き繊維品の製造方法]に記載した方法により得られたものを使用することができる。
【0032】
本実施形態において、超臨界二酸化炭素を含む流体を糊剤付き繊維品に接触させる際の処理条件は、特に限定されないが、糊抜き性を向上させる観点から、温度としては、31~150℃を使用することができ、また、圧力としては、8~25MPaさらに、時間としては、30~800分を使用することができる。
本実施形態において、上記糊抜きを行う工程は、バッチ処理又は連続処理によるものとすることができる。
【0033】
本実施形態において、超臨界二酸化炭素を含む流体は、共溶媒をさらに含んでもよい。当該流体が共溶媒を含むことにより、糊剤の溶媒(超臨界二酸化炭素と共溶媒とを含む)への溶解性を向上させて糊抜き性を向上させることができる。
共溶媒としては、特に限定されず、上記[糊剤を繊維品に付与する方法及び糊剤付き繊維品の製造方法]に記載したものを使用することができる。共溶媒としては、糊剤の溶媒(超臨界二酸化炭素と共溶媒とを含む)への溶解性を向上させて糊抜き性を向上させる観点より、アセトンが好ましい。
【0034】
本実施形態において、共溶媒を使用する場合、処理容器内に超臨界二酸化炭素とは別に共溶媒を送液することができる。
【0035】
本実施形態において、上記糊抜きを行う工程をバッチ処理によるものとし、かつ共溶媒を使用する場合、超臨界二酸化炭素に対する共溶媒の割合(モル%)は、特に限定されないが、糊剤の溶媒への溶解性を向上させて糊抜き性を向上させる観点より、5~15モル%が好ましい。
【0036】
本実施形態において、上記糊抜きを行う工程を連続処理によるものとする場合、超臨界二酸化炭素の処理容器への流量は、特に限定されないが、糊剤の溶媒への溶解性を向上させて糊抜き性を向上させる観点より、繊維1gあたり、50ml~2000mlが好ましく、100ml~1500mlがより好ましい。
【0037】
本実施形態において、上記糊抜きを行う工程を連続処理によるものとし、かつ共溶媒を使用する場合、共溶媒の処理容器への流量は、特に限定されないが、繊維1gあたり、1ml~500mlが好ましく、10ml~400mlがより好ましい。
【0038】
本実施形態の方法による糊抜き後の糊剤の除去率(%)は、特に限定されないが、1~99%などとすることができる。糊剤の除去率(%)は、後述の実施例3の(4)に記載の式(3)に基づいて算出することができる。
【0039】
本実施形態において、上記糊抜きを行う工程は、金属球と糊剤付き繊維品とを接触させることを含むことができる。金属球と糊剤付き繊維品とを接触させることにより、糊抜き性を向上させることができる。金属球の材質としては、特に限定されないが、ステンレス、スチール、チタン等を使用することができ、この中でもステンレスが好ましい。
また、本実施形態において、処理容器内で、ワイヤーで作成したスタンドなどの部材で糊剤付き繊維品を支持している場合には、当該部材を取り除くことにより、超臨界二酸化炭素を含む流体と糊剤付き繊維品とがより接触しやすくなり、糊抜き性を向上させることができる。
【0040】
本実施形態の方法は、繊維加工の1つである糊抜き工程として使用することができ、また、他の繊維加工の工程である、紡績、製織、糊付け、精錬・漂白、染色、仕上げの各工程と組み合わせて使用することもできる。また、本実施形態の糊剤付き繊維品から糊剤を除去する方法又は糊剤付き繊維品から繊維品を製造する方法は、上述の糊剤を繊維品に付与する方法又は糊剤付き繊維品の製造方法と組み合わせて、一つの方法又は製造方法とすることもできる。
【0041】
以下、本発明について実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例に記載の内容に限定されるものではない。
【実施例
【0042】
(実施例1:種々のポリマーの超臨界二酸化炭素への溶解性試験)
(1)糊剤(ポリマー)
従来、綿製品などの製造工程で使用されている糊剤としては、でんぷん糊、ポリビニルアルコールが代表として挙げられる。これらの糊剤は、親水性のポリマーであり水に溶かし使用される。しかし、二酸化炭素は無極性の物質であり、疎水性ポリマーを溶解する性質を示す。従って、超臨界二酸化炭素を用いた糊付けには、疎水性を示し、二酸化炭素に対して高い溶解性を示す糊剤を使用することが好ましい。
そこで、疎水性を示し、従来使用されているでんぷん糊と類似の構造を示すポリマーとして、ポリメタクリル酸メチル(Polymethyl methacrylate)、ポリエチレングリコール(Polyethylene glycol)、ポリ酢酸ビニル(Polyvinyl acetate)、セルロースアセテート(Celluloses acetate)、及びポリスチレン(Polystyrene)を準備した。また、従来使用されている糊剤(ポリマー)として、ポリビニルアルコール(Polyvinyl alcohol)を準備した。これらのポリマーの詳細を、下記の表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
(2)装置及び試薬
超臨界二酸化炭素への溶解性試験において使用した装置を図2及び3に示す。図2の(a)は高圧容器(日本分光株式会社製 EV-3-50-2/4、内容量 50 ml)を、図2の(b)は日本分光株式会社製のオーブン SCF-Sro内にセットした当該高圧容器をそれぞれ示す写真である。図3は、装置全体の概要を示す図である。
上記高圧容器に、二酸化炭素を送る送液ポンプ(日本分光株式会社製のPU-2086 インテリジェント HPLCポンプ)及びアセトンを送る送液ポンプ(日本分光株式会社製のPU-2080 インテリジェントHPLC ポンプ)を取り付けた。上記二酸化炭素を送る送液ポンプに冷却ヘッドを取り付け、-10℃以下の冷媒を通すことで二酸化炭素を液相に保った。また、日本分光株式会社の全自動圧力調整弁 BP-2080型を上記高圧容器の放圧部に取り付け、高圧容器内の圧力及び二酸化炭素を放圧する速度を調節し一定に保った。
二酸化炭素供給源には、液化二酸化炭素ボンベ(株式会社カインドガス、純度99.5%以上)を使用した。
【0045】
(3)操作及び評価の手順
上記の(1)で挙げた各ポリマーを約1g秤量し、円筒状のガラスフィルター(ADVANTEC 88R)に入れて各試料を作成した。高圧容器をあらかじめ100℃に加温しておき、作成した各試料を高圧容器内にそれぞれ設置した。次に、送液ポンプを用いて二酸化炭素を高圧容器に送り、高圧容器内を加圧した。超臨界二酸化炭素流体により各試料を処理する条件は、圧力20MPa、温度100℃、時間180分、バッチ式とし、マグネティックスターラーで高圧容器内を撹拌しながら処理を行った。超臨界二酸化炭素流体による処理後、高圧容器のバルブを開放し大気圧まで放圧した。高圧容器を放圧した後、各試料を取り出し再び秤量した。
その後、超臨界二酸化炭素流体による処理前後でのポリマーを入れたガラスフィルターの重量(g)をそれぞれ秤量し、そこからガラスフィルターの重量(g)を差し引くことにより、超臨界二酸化炭素流体による処理前のポリマーの重量(g)及び超臨界二酸化炭素流体による処理後のポリマーの重量(g)をそれぞれ算出した。そして、下記式(1)に基づいて、各ポリマーの超臨界二酸化炭素への溶解度(Solubility)を算出した。
【0046】
【数1】
【0047】
(4)評価結果
上記(3)において算出した各ポリマーの超臨界二酸化炭素への溶解度の結果を表2に示す
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、溶解度が最大となったのはセルロースアセテートであり、19.5%の溶解度の値を示した。セルロースアセテートが、他のポリマーに比べて超臨界二酸化炭素への高い溶解性を示した理由としては、セルロースアセテートの側鎖のアセチル基による影響が大きいと考えられる。セルロースアセテートは、ヒドロキシ基がアセチル化されていて、アセチル基が多く極性が低い。このような官能基の極性の違いにより、セルロースアセテートが、無極性溶媒である超臨界二酸化炭素に対して高い溶解性を示したと考えられる。
以上の結果より、セルロースアセテートが超臨界二酸化炭素により糊付けを行う際の好ましい糊剤であることがわかった。
【0050】
(実施例2:超臨界二酸化炭素を用いた糊付け)
(1)糊剤(ポリマー)
糊剤(ポリマー)として、上述の実施例1において超臨界二酸化炭素に対して高い溶解性を示したセルロースアセテートを使用した。セルロースアセテートとしては、上述の実施例1と同様のSigma-Aldrich社製のセルロースアセテートを使用した。使用したセルロースアセテートを下記の表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
また、セルロースアセテートの構造式を改めて以下に示す。
【0053】
【化1】
【0054】
(2)装置及び試薬
上記実施例1と同様の装置及び二酸化炭素供給源を使用した。
【0055】
(3)操作手順
高圧容器を40℃にあらかじめ加温しておき、下記の表4に示す各重量(g)のセルロースアセテートを高圧容器内に入れた。また、超臨界二酸化炭素に対するアセトンの割合(モル%)が表4に示したものとなるように、所定量の共溶媒であるアセトンを高圧容器内に送液した。
また、伊澤タオル株式会社製の精練漂白済み綿糸(20番手、単糸)を0.175g秤量し、2時間、105℃で乾燥し、乾燥後の綿糸を秤量した。乾燥後の綿糸を、撹拌子(スターラーチップ)と接触しないようにワイヤーで作製したスタンドで隔離して、高圧容器内に設置した。次に、送液ポンプを用いて二酸化炭素を高圧容器に送り、高圧容器内を加圧した。超臨界二酸化炭素流体により各綿糸を処理する条件は、表4に示すように、(40℃、10MPa)又は(100℃、20MPa)、時間30分、バッチ式とし、マグネティックスターラーで高圧容器内を撹拌しながら処理を行った。超臨界二酸化炭素流体による処理後、高圧容器について、0.1MPa/min の一定速度で大気圧まで放圧した。高圧容器を放圧した後、各綿糸を取り出し、2時間、105 ℃で乾燥し、乾燥後の各綿糸を秤量した。
【0056】
(4)評価
(4-1)糊剤の付着率
上記(3)のようにして得られた超臨界二酸化炭素流体による処理前(糊付け前)の綿糸の重量(g)及び超臨界二酸化炭素流体による処理後(糊付け後)の綿糸の重量(g)を用いて、下記式(2)に基づいて、糊剤であるセルロースアセテートの付着率(Sizing rate S)を算出した。
【0057】
【数2】
【0058】
(4-2)引張強度試験
糊付け後の各綿糸の強度を測定するために以下の手順に沿って引張試験を行った。
まず、糊付け後の各綿糸(長さ20cm)及び厚紙(幅4cm×長さ23cm)を準備し、当該綿糸の長さ方向と厚紙の長さ方向とが一致し、当該綿糸が伸びた状態となるようにして、当該綿糸を厚紙に固定して測定用の試料を作成した。作成した試料を卓上型精密万能試験機 AGS-J(SHIMADZU 製)にセットした後、厚紙の両端部分(それぞれ2cm)を残して中央部分をカットして除去し、つかみ部(厚紙の両端部分)を有する綿糸の試験片とした。そして、各綿糸の試験片に対して、200 mm/minの引張速度の条件で引張試験を行った。1種類の糊付け後の綿糸について、10回引張試験を行って平均値を算出した。
糊剤が付着していない綿糸及びでんぷん糊が約3重量%付着した綿糸についても、同様にして引張試験を行って平均値を算出した。
【0059】
(4-3)走査型電子顕微鏡による観察
FINECOAT JFC-1100E(日本電子株式会社製)を使用して、糊付け後の各綿糸の表面に対して1分間処理し75Åの金を蒸着させた後、日本電子株式会社製のFE-SEM JSM-7001Fを使用して加速電圧1.5kVにて蒸着後の各綿糸の表面の観察を行った。
【0060】
(4-4)摩擦試験
ローラー上に研磨紙(CW-C P1000)を巻いて研磨紙付きローラーを作成した。
糊付け後の綿糸(長さ20cm)及び厚紙(幅4cm×長さ23cm)を準備し、上記(4-2)と同様の手順により、綿糸が厚紙に固定された測定用の試料を作成した。作成した試料について、厚紙の両端部分(それぞれ2cm)を残して中央部分をカットして除去し、つかみ部(厚紙の両端部分)を有する綿糸の試験片とした。
得られた試験片をマットの上にセットし、マット上の試験片の中央部分(綿糸の部分)に対して研磨紙付きローラーを100回往復運動させて、綿糸の部分を摩擦した。摩擦試験後の綿糸を、卓上型精密万能試験機AGS-J(SHIMADZU 製)にセットし、上記(4-2)と同様の条件にて引張試験を行った。1種類の綿糸について、10回引張試験を行って平均値を算出した。
【0061】
上記(4―1)の評価結果を表4及び5に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
表4に示すように、糊剤の重量:1.000g及び共溶媒のアセトンの含有割合:0モル%においては、40℃、10MPaの条件、100℃、20MPaのいずれの条件でも、糊剤の付着率は共に1.2%であった。この結果より、セルロースアセテートを糊剤として使用した際には、温度、圧力を高くしても、超臨界二酸化炭素に対する糊剤の溶解度の上昇はほとんど見られないと考えられる。
【0064】
また、表4に示すように、共溶媒であるアセトンを添加しない場合(アセトンの含有割合0モル%)は、糊剤の付着率は1.2%であった(糊剤の重量:1.000g、40℃、10MPa又は100℃、20MPaの条件)。また、糊剤の重量及び温度・圧力を変化させずに(糊剤の重量:1.000g、40℃、10MPaの条件)、アセトンを10モル%となるように添加すると、糊剤の付着率は62.6%に上昇した。
これらの結果より、無極性に近い溶媒である超臨界二酸化炭素に、セルロースアセテートへ溶解性を示すアセトンを共溶媒として添加することにより、超臨界二酸化炭素単体の場合に比べて溶媒のセルロースアセテートに対する溶解性が向上し、溶媒にセルロースアセテートが溶解しやすくなり、その結果、綿糸への糊剤の付着率が大きくなったと考えられる。
【0065】
さらに、表4に示すように、40℃、10MPaの条件を使用し、アセトンの含有割合を10モル%とし、糊剤の重量を変化させた場合(1.000、0.501、0.326、又は0.250g)に、糊剤の重量を1.000gとした時に、糊剤の付着率が最大値の62.6%となった。また、糊剤の重量0.326gとした時に、糊剤の付着率が10.0%の綿糸が得られ、この綿糸の風合いは、従来の方法によってでんぷん糊が約3%付着した綿糸と類似した風合いであった。
【0066】
加えて、表4に示すように、40℃、10MPaの条件を使用し、糊剤の重量を0.326又は0.325gとし、アセトンの含有割合を変化させた場合(10、5、又は2.5モル%)に、アセトンの量が小さくなると糊剤の付着率が低下することがわかった。この結果より、共溶媒であるアセトンの含有割合は、10モル%が最適であると考えられる。
【0067】
糊剤が付着していない綿糸、従来の方法によってでんぷん糊が約3%付着した綿糸、及び超臨界二酸化炭素による糊付けによりセルロースアセテートが10.0%付着した綿糸の表面のSEM画像を、それぞれ図4~6に示す。でんぷん糊が付着した綿糸(図5)では糊が付着していない綿糸(図4)とほとんど差は見られなかった。一方、セルロースアセテートが付着した綿糸(図6)では、綿糸の内部まで糊剤が付着している様子が見られた。これは超臨界二酸化炭素が水などの通常の液体よりも高い拡散性を持つため、セルロースアセテートが綿糸の細部まで浸透したためと考えられる。
【0068】
【表5】
【0069】
表5に示すように、アセトンを10モル%添加した場合、10.0%の付着率となった。また、アセトンを7モル%添加した場合、6.9%の付着率となった。このように、アセトンを7モル%添加した場合では10モル%添加した場合に比べて付着率が低くなり、アセトンの含有割合は10モル%が好適であると考えられる。
【0070】
上記(4―2)の評価結果を表6に示す。また、図7~9に各綿糸のSS曲線を示す。また、それぞれのSS曲線において平均値に最も近いグラフをまとめたものを図10に示す。
【0071】
【表6】
【0072】
表6の結果より、でんぷん糊が付着した綿糸の引張強度は、糊剤が付着していない綿糸の引張強度より高く、1.75cN/dtexであった。また、超臨界二酸化炭素によってセルロースアセテートを付着させた綿糸は、でんぷん糊が付着した綿糸より高い引張強度を示した。これらの結果より、セルロースアセテートが付着した綿糸は、でんぷん糊が付着した綿糸の引張強度のような、基準となる引張強度の値はクリアしていると考えられる。
さらに、図10のグラフに示すように、ヤング率に関して、セルロースアセテートが付着した綿糸は高い値を示し、でんぷん糊が付着した綿糸は低い値を示した。この結果より、セルロースアセテートが付着した綿糸は、でんぷん糊が付着した綿糸より固いことがわかった。
【0073】
上記(4―4)の評価結果を表7に示す。
【0074】
【表7】
【0075】
表7の結果より、でんぷん糊が付着した綿糸及びセルロースアセテートが付着した綿糸のいずれにおいても摩擦試験後に大幅に引張強度が低下したことがわかる。しかし、セルロースアセテートが付着した綿糸は、でんぷん糊が付着した綿糸よりも摩擦試験後の引張強度の値が高く、摩擦に対し高い耐久性があることがわかった。
【0076】
(実施例3:超臨界二酸化炭素を用いた糊抜き)
(1)糊剤が付着した綿糸
上記実施例2に記載の超臨界二酸化炭素による糊付け方法と同様にして、伊澤タオル株式会社製の精練漂白済み綿糸(20番手、単糸)を処理して、セルロースアセテート(Sigma-Aldrich社製)が付着した綿糸(糊剤の付着率:15.5%)を調製した。
【0077】
(2)装置及び試薬
上記実施例1と同様の装置及び二酸化炭素供給源を使用した。
【0078】
(3)操作手順
(3-1)バッチ法
高圧容器を40℃にあらかじめ加温しておき、上記(1)に示したセルロースアセテート(Sigma-Aldrich社製)が付着した綿糸を、撹拌子(スターラーチップ)と接触しないようにワイヤーで作製したスタンドで隔離して高圧容器内に設置した。次に、超臨界二酸化炭素に対するアセトンの割合(モル%)が10mol%となるように、送液ポンプを用いてアセトンを高圧容器内に入れた。次に、送液ポンプを用いて二酸化炭素を高圧容器に送り、高圧容器内を加圧した。超臨界二酸化炭素流体により各綿糸を処理する条件は、40℃、10MPa、時間60分、バッチ式とし、マグネティックスターラーで高圧容器内を撹拌しながら処理を行った。超臨界二酸化炭素流体による処理後、高圧容器について、バルブを開放し大気圧まで放圧した。高圧容器を放圧した後、各綿糸を取り出し、2時間、105 ℃の条件で乾燥し、乾燥後の各綿糸を秤量した。そして、乾燥後の各綿糸に対し、同様の超臨界二酸化炭素流体による処理を計5回、繰り返し行った。
【0079】
(3-2)連続法
高圧容器をあらかじめ加温しておき、上記(1)に示したセルロースアセテート(Sigma-Aldrich社製)が付着した綿糸:0.2gを、撹拌子(スターラーチップ)と接触しないようにワイヤーで作製したスタンドで隔離して高圧容器内に設置した。次に、高圧容器を密閉し、全自動調整弁を所定の圧力に設定した。その後、送液ポンプを用いて二酸化炭素を高圧容器に所定の流速で送液し、全自動調整弁が放圧を開始した時点を処理開始点とした。また、 アセトンの送液は高圧容器内の圧力が全自動調整便で設定した圧力程度まで上昇した後に送液を開始した。二酸化炭素の送液と同様に全自動調整弁が放圧を開始した時点を処理開始点とした。超臨界二酸化炭素流体による処理後、高圧容器を急速に放圧した。高圧容器を放圧した後、各綿糸を取り出し、2 時間、105℃の条件で乾燥し、乾燥後の各綿糸を秤量した。
【0080】
また、超臨界二酸化炭素流体により各試料を処理する条件である、温度、圧力、撹拌、及び流速は下記の(i)~(iii)のように変更して実験を行った。
(i)温度・圧力
温度・圧力をそれぞれ(40℃、10MPa)、(40℃、20MPa)、(100℃、10MPa)の条件に設定し超臨界処理を行った。二酸化炭素は流速 1 ml/min、アセトンは流速 0.2 ml/minの設定で送液し、5 時間、超臨界処理を行った。
(ii)撹拌
上述したようなワイヤーで作成したスタンドを取り除き、綿糸と撹拌子を接触させた。また、ステンレス製の金属球(インチサイズ 1/4)10個を高圧容器に入れ、さらに撹拌させ糊抜きを行った。超臨界処理における温度・圧力の条件は40℃、10MPaで行った。二酸化炭素は流速 1 ml/min、アセトンは流速 0.2 ml/minの設定で送液し、5時間、超臨界処理を行った。
(iii)流速
二酸化炭素の流速、アセトンの流速、及び超臨界処理の時間をそれぞれ(5 ml/min、1 ml/min、60 min)、(1 ml/min、0.2 ml/min、300 min)、(0.5 ml/min、0.1 ml/min、600 min)で行った。超臨界処理における温度・圧力の条件は40℃、10MPaで行った。
【0081】
(4)評価(糊剤の付着率、糊剤の除去率)
まず、糊付け及び糊抜きの処理を行う前の綿糸(上述の精練漂白済み綿糸)の重量(g)並びに糊抜き処理後の綿糸の重量(g)を用いて、上述の式(2)に基づいて、糊抜き処理後のセルロースアセテート(糊剤)の付着率を算出した。
そして、糊付き綿糸(糊付け処理後及び糊抜き処理前の綿糸を行う前の綿糸)の糊剤の付着率(%)並びに上記の糊抜き処理後の綿糸の糊剤の付着率(%)を用いて、下記式(3)に基づいて、糊剤の除去率(Desizing rate D)を算出した。
【0082】
【数3】
【0083】
上述のバッチ法において、超臨界処理前(糊抜き処理前)の付着率をS0とし、1回目処理後の付着率、除去率をそれぞれS1、DD1、2回目の処理以降をS1~S5、D1~D5と表記した。
【0084】
バッチ法の評価結果を表8に、連続法の評価結果を表9にそれぞれ示す。
【0085】
【表8】
【0086】
【表9】
【0087】
表8に示すように、バッチ法では1回目の処理では質量変化(除去率の変化)はほとんど見られなかったが、2回目の処理以降大きく除去率が上がり、5回目の処理において最大82.4%の除去率(D5)が得られた。5回の処理を経てもすべて除去することはできなかった。これは、綿糸を構成するセルロースと糊剤であるセルロースアセテートとの親和性が高く、互いに強く結びついている可能性が考えられる。このように親和性が高いことに起因して、1回目の処理では、超臨界二酸化炭素へセルロースアセテートがあまり溶解しなかった可能性が考えられる。
【0088】
また、表9において、No.2の試験は、表8に示したバッチ法による処理5回の試験と同様の温度、圧力、時間の条件となるが、その除去率は43.9%となり、バッチ法の除去率(82.4%)に比べて低い結果となった。これは、連続法において撹拌子による撹拌が十分ではなく、セルロースアセテートが超臨界二酸化炭素に溶解する前に、超臨界二酸化炭素が高圧容器から流れ出てしまっている可能性が考えられる。
【0089】
表9において、No.3の試験は、No.2の試験に比べて圧力が高いが、除去率は38.3%であり、No.2の試験と同程度となった。この結果より、圧力を10~20MPaの範囲で変化させてもセルロースアセテートの超臨界二酸化炭素への溶解性は変化しないものと考えられる。
また、No.4の試験は、No.2の試験より温度が高いが、除去率は2.24%であり、ほとんど糊抜きができていなかった。この結果は、セルロースアセテートが低温において超臨界二酸化炭素に高い溶解性を示すためによると考えられる。
【0090】
表9において、No.5の試験は、No.2の試験と同じ条件を採用し、ワイヤーで作成したスタンドを取り除き、綿糸と撹拌子を接触させた試験である。No.5の試験は除去率が72.4%となり、No.2の試験に比べて除去率が大きく上昇した。この結果より、糊抜き試験において、綿糸との物理的な接触の度合いが大きく除去率に関わっていると考えられる。この結果を踏まえて、No.6の試験では、ステンレス製の金属球を高圧容器内に入れてさらに綿糸との物理的な接触の度合いを大きくして糊抜き試験を行った。その結果、除去率が81.1%となり、No.5の試験よりさらに上昇した。この結果より、糊抜きにおいて、綿糸との物理的な接触の要因の影響はかなり高いことがわかった。
【0091】
表9において、処理時間が短く、超臨界二酸化炭素及びアセトンの流速が速いNo.1の試験では、除去率が17.7%と低くなり、一方、処理時間が長く、流速が遅いNo.2の試験では、除去率が43.9%となり、No.1に比べて高い除去率を示した。これは、セルロースアセテートの溶媒への溶解速度が原因として考えられ、ポリマーであるセルロースアセテートは溶媒への溶解速度が遅く、流速が速いNo.1の条件ではセルロースアセテートが溶媒へ十分に溶解しておらず除去率が低くなったと考えられる。
No.7の試験は、金属球を使用した条件において、No.6よりも処理時間を延ばし、流速を遅くした試験であるが、除去率は75.9%となり、No.6の試験に比べて少し低い結果となった。この結果より、本実施例の綿糸及び高圧容器を使用した場合には、処理時間 300 min、超臨界二酸化炭素の流速 1 ml/min、アセトンの流速 0.2 ml/minの条件において、セルロースアセテートが溶媒に対して高い溶解性を示すと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10