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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】共振装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/24 20060101AFI20220901BHJP
   H03H 9/10 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
H03H9/24 B
H03H9/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020553283
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2019040867
(87)【国際公開番号】W WO2020085188
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2018200146
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】梅田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】矢谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】河合 良太
(72)【発明者】
【氏名】井上 義久
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/008198(WO,A1)
【文献】特開2007-036915(JP,A)
【文献】特開2006-191356(JP,A)
【文献】特開2015-128268(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212677(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動部と、前記振動部の周囲の少なくとも一部に配置され、前記振動部を振動可能に保持する保持体と該保持体の上に形成される絶縁膜とを含む保持部と、を含む共振子と、
前記振動部の振動空間の少なくとも一部を形成する凹部を含む第1基板であって、前記第1基板の上に前記共振子が積層された、第1基板と、を備え、
前記絶縁膜の内側面は、前記凹部を定める前記第1基板の材料で形成された側壁の内面よりも外側に第1距離を空けて配置される、
共振装置。
【請求項2】
振動部と、前記振動部の周囲の少なくとも一部に配置され、前記振動部を振動可能に保持する保持体と該保持体の上に形成される絶縁膜とを含む保持部と、を含む共振子と、
前記振動部の振動空間の少なくとも一部を形成する凹部を含む第1基板であって、前記第1基板の上に前記共振子が積層された、第1基板と、を備え、
前記絶縁膜の内側面は、前記凹部を定める側壁の内面よりも外側に第1距離を空けて配置され、かつ、前記保持体の内側面から前記第1距離以上の第2距離を空けて配置される
振装置。
【請求項3】
前記第1距離は、5μm以上50μm以下である、
請求項1又は2に記載の共振装置。
【請求項4】
前記保持部は、前記共振子の主面を平面視したときに、枠形状を有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の共振装置。
【請求項5】
前記振動部は、複数の振動腕を含み、
前記第1基板は、前記複数の振動腕のうちの隣り合う2つの間に配置され、前記凹部から突起する突起部を含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載の共振装置。
【請求項6】
前記振動部は、圧電膜を含み、
前記圧電膜は、ウルツ鉱型六方晶構造を有する圧電体を主成分とする、
請求項1から5のいずれか一項に記載の共振装置。
【請求項7】
前記保持部は、圧電膜をさらに含み、
前記保持部の圧電膜と前記振動部の圧電膜とは、同一材料である、
請求項6に記載の共振装置。
【請求項8】
前記振動部は、前記圧電膜を間に挟んで対向するように配置される第1電極及び第2電極をさらに含み、
前記第1電極及び前記第2電極の少なくとも一方は、体心立方構造を有する金属を主成分とする、
請求項6又は7に記載の共振装置。
【請求項9】
前記共振子を間に挟んで前記第1基板と対向するように配置される第2基板をさらに備える、
請求項1から8のいずれか一項に記載の共振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて製造される共振子(以下、「MEMS振動子」ともいう。)が注目されている。
【0003】
MEMS振動子においては、製造ばらつきによって共振周波数にばらつきが生じることがある。そこで、MEMS振動子の製造中や製造後に、追加エッチング等によって周波数を調整することが行われる。
【0004】
例えば、基部と、基部からY軸方向に延出しZ軸方向に屈曲振動する振動腕と、振動腕に設けられ、振動腕を屈曲振動させる圧電体素子と、振動腕の圧電体素子よりも先端側に設けられた質量部とを有する振動片であって、圧電体素子は、少なくとも、第1の電極層と、第2の電極層と、これらの間に位置する圧電体層とを有し、質量部は、少なくとも1つの膜部を有し、この膜部は、圧電体素子を構成する層のうちのいずれか1つの層と同じ材料で構成されるものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-065293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の共振子は、矩形の振動部(振動体)が保持腕によって保持部に接続される構成となっており、保持部の表面は絶縁膜によって覆われる構成となっている。このような構成の共振子では、例えば薄膜形成時に発生する電界等によって、保持部における絶縁膜が帯電してしまう場合がある。また、従来の共振子において、特許文献1に記載されたようなイオンビームを用いた周波数調整方法を利用する場合、イオンビームが保持部に照射されることによって、保持部における絶縁膜が帯電してしまう場合がある。さらに、保持部の絶縁膜に焦電体を使用する場合、温度変化による焦電効果によって、絶縁膜の界面に電荷が発生する。このように、振動部の周囲に配置される保持部の絶縁膜が帯電すると、絶縁膜の電荷によってクーロン力(静電力)が発生し、振動部のばね定数が変化する結果、共振周波数が変動していた。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、保持部の絶縁膜に帯電した電荷が共振周波数に与える影響を低減することのできる共振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る共振装置は、振動部と、振動部の周囲の少なくとも一部に配置され、振動部を振動可能に保持する保持体と該保持体の上に形成される絶縁膜とを含む保持部と、を含む共振子と、振動部の振動空間の少なくとも一部を形成する凹部を含む下蓋と、を備え、絶縁膜の内側面は、凹部を定める側壁の内面から第1距離を空けて配置される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保持部の絶縁膜に帯電した電荷が共振周波数に与える影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る共振装置の外観を概略的に示す斜視図である。
図2図2は、図1に示した共振装置の構造を概略的に示す分解斜視図である。
図3図3は、図2に示した共振子の構造を概略的に示す平面図である。
図4図4は、図2に示したIV-IV線に沿った共振装置の断面の構成を概略的に示す断面図である。
図5図5は、図3に示したV-V線に沿った振動腕の断面の構成を概略的に示す断面図である。
図6図6は、図3に示したVI-VI線に沿った共振子の断面の構成を概略的に示す断面図である。
図7図7は、本発明の第2実施形態に係る共振装置の構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の構成要素は同一又は類似の符号で表している。図面は例示であり、各部の寸法や形状は模式的なものであり、本発明の技術的範囲を当該実施形態に限定して解するべきではない。
【0012】
[第1実施形態]
まず、図1及び図2を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る共振装置の概略構成について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る共振装置1の外観を概略的に示す斜視図である。図2は、図1に示した共振装置1の構造を概略的に示す分解斜視図である。
【0013】
共振装置1は、下蓋20と、共振子10と、上蓋30と、を備えている。すなわち、共振装置1は、下蓋20と、共振子10と、上蓋30とが、この順で積層されて構成されている。下蓋20及び上蓋30は、共振子10を挟んで互いに対向するように配置されている。なお、下蓋20は本発明の「第1基板」の一例に相当し、上蓋30は本発明の「第2基板」の一例に相当する。
【0014】
以下において、共振装置1の各構成について説明する。なお、以下の説明では、共振装置1のうち上蓋30が設けられている側を上(又は表)、下蓋20が設けられている側を下(又は裏)、として説明する。
【0015】
共振子10は、MEMS技術を用いて製造されるMEMS振動子である。共振子10と下蓋20及び上蓋30とは、共振子10が封止され、共振子10の振動空間が形成されるように、接合されている。また、共振子10と下蓋20は、それぞれシリコン(Si)基板(以下、「Si基板」という)を用いて形成されており、Si基板同士が互いに接合されている。なお、共振子10及び下蓋20は、SOI基板を用いて形成されてもよい。
【0016】
上蓋30はXY平面に沿って平板状に広がっており、その裏面に例えば平たい直方体形状の凹部31が形成されている。凹部31は、側壁33に囲まれており、共振子10が振動する空間である振動空間の一部を形成する。なお、上蓋30は凹部31を有さず、平板状の構成でもよい。
【0017】
下蓋20は、XY平面に沿って設けられる矩形平板状の底板22と、底板22の周縁部からZ軸方向、つまり、下蓋20と共振子10との積層方向、に延びる側壁23と、を有する。下蓋20には、共振子10と対向する面において、底板22の表面と側壁23の内面とによって画定される凹部21が形成されている。凹部21は、共振子10の振動空間の少なくとも一部を形成する。
【0018】
前述した上蓋30と下蓋20とによって、共振子10の振動空間は気密に封止され、真空状態が維持される。この振動空間には、例えば不活性ガス等の気体が充填されてもよい。
【0019】
下蓋20の内面、すなわち底板22の表面には、底板22から振動空間内に突起する突起部50が形成される。突起部50の詳細な構成については後述する。
【0020】
次に、図3を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る共振子10の概略構成について説明する。同図は、図2に示した共振子10の構造を概略的に示す平面図である。
【0021】
図3に示すように、共振子10は、MEMS技術を用いて製造されるMEMS振動子であり、図3の直交座標系におけるXY平面内で面外振動する。なお、共振子10は、面外屈曲振動モードを用いた共振子に限定されるものではない。共振装置1の共振子は、例えば、広がり振動モード、厚み縦振動モード、ラム波振動モード、面内屈曲振動モード、表面波振動モードを用いるものであってもよい。これらの振動子は、例えば、タイミングデバイス、RFフィルタ、デュプレクサ、超音波トランスデューサー、ジャイロセンサ、加速度センサ等に応用される。また、アクチュエーター機能を持った圧電ミラー、圧電ジャイロ、光スキャナ型MEMSミラー、圧力センサ機能を持った圧電マイクロフォン、超音波振動センサ等に用いられてもよい。さらに、静電MEMS素子、電磁駆動MEMS素子、ピエゾ抵抗MEMS素子に適用してもよい。さらにまた、MHz振動子に適用して、MHz発振器に用いることも可能である。
【0022】
共振子10は、振動部120と、保持部140と、保持腕110と、ビアV1,V2,V3,V4と、を備える。
【0023】
振動部120は、図3の直交座標系におけるXY平面に沿って広がる矩形の輪郭を有している。振動部120は、保持部140の内側に配置されており、振動部120と保持部140との間には、所定の間隔で空間が形成されている。図3の例では、振動部120は、基部130と、4本の振動腕135A~135D(以下、まとめて「振動腕135」ともいう)と、を含んでいる。なお、振動腕の数は、4本に限定されず、例えば2本以上の任意の数に設定される。本実施形態において、各振動腕135と、基部130とは、一体に形成されている。
【0024】
基部130は、共振子10の主面を平面視(以下、単に「平面視」という)したときに、X軸方向に長辺131a、131b、Y軸方向に短辺131c、131dを有している。長辺131aは、基部130の前端の面(以下、「前端131A」ともいう)の一つの辺であり、長辺131bは基部130の後端の面(以下、「後端131B」ともいう)の一つの辺である。基部130において、前端131Aと後端131Bとは、互いに対向するように配置されている。
【0025】
基部130は、前端131Aにおいて、後述する振動腕135に接続され、後端131Bにおいて、後述する保持腕111、112に接続されている。なお、図3に示す例では、基部130は、平面視において略長方形の形状を有しているがこれに限定されるものではない。例えば、基部130は、長辺131aの垂直二等分線に沿って規定される仮想平面Pに対して略面対称に形成されていればよい。また、基部130は、例えば、長辺131bが131aより短い台形や、長辺131aを直径とする半円の形状であってもよい。また、長辺131a、131b、短辺131c、131dは直線に限定されるものではなく、曲線であってもよい。
【0026】
基部130において、前端131Aから後端131Bに向かう方向における、前端131Aと後端131Bとの最長距離である基部長(図3においては短辺131c、131dの長さ)は40μm程度である。また、基部長方向に直交する幅方向であって、基部130の側端同士の最長距離である基部幅(図3においては長辺131a、131bの長さ)は285μm程度である。
【0027】
振動腕135は、Y軸方向に延び、それぞれ同一のサイズを有している。振動腕135は、それぞれが基部130と保持部140との間にY軸方向に平行に設けられ、一端は、基部130の前端131Aと接続されて固定端となっており、他端は開放端となっている。また、振動腕135は、それぞれ、X軸方向に所定の間隔で、並列して設けられている。なお、振動腕135は、例えばX軸方向の幅が50μm程度、Y軸方向の長さが420μm程度である。
【0028】
振動腕135はそれぞれ開放端に、錘部Gを有している。錘部Gは、振動腕135の他の部位よりもX軸方向の幅が広い。錘部Gは、例えば、X軸方向の幅が70μm程度である。錘部Gは、振動腕135と同一プロセスによって一体形成される。錘部Gが形成されることで、振動腕135は、単位長さ当たりの重さが、固定端側よりも開放端側の方が重くなっている。従って、振動腕135が開放端側にそれぞれ錘部Gを有することで、各振動腕における上下方向の振動の振幅を大きくすることができる。
【0029】
本実施形態の振動部120では、X軸方向において、外側に2本の振動腕135A、135Dが配置されており、内側に2本の振動腕135B、135Cが配置されている。X軸方向における、振動腕135Bと135Cとの間隔W1は、X軸方向における、外側の振動腕135A(135D)と当該外側の振動腕135A(135D)に隣接する内側の振動腕135B(135C)との間の間隔W2よりも大きく設定される。間隔W1は例えば35μ程度、間隔W2は例えば25μm程度である。間隔W2は間隔W1より小さく設定することにより、振動特性が改善される。なお、共振装置1を小型化できるように、間隔W1を間隔W2よりも小さく設定してもよいし、等間隔に設定してもよい。
【0030】
振動部120の表面(上蓋30に対向する面)には、その全面を覆うように絶縁膜235が形成されている。さらに、振動腕135A~135Dにおける絶縁膜235の表面の一部には、それぞれ、導電膜236が形成されている。絶縁膜235及び導電膜236によって、振動部120の共振周波数を調整することができる。なお、絶縁膜235は、必ずしも振動部120の全面を覆う必要はないが、周波数調整における下地の電極膜、例えば図4の金属層E2、及び、圧電膜、例えば図4の圧電薄膜F3、へのダメージを保護する上で、振動部120の全面を覆う方が好ましい。
【0031】
導電膜236は、振動部120における、他の領域よりも振動による平均変位の大きい領域の少なくとも一部において、その表面が露出するように、絶縁膜235上に形成されている。具体的には、導電膜236は、振動腕135の先端、即ち錘部Gに形成される。一方、絶縁膜235は、振動腕135におけるその他の領域において、その表面が露出している。この実施例では、振動腕135の先端まで導電膜236が形成され、先端部では絶縁膜235は全く露出していないが、絶縁膜235の一部が露出する様に、導電膜236を振動腕135の先端部には形成されない構成も可能である。なお、振動腕135の根本側(基部130と接続する側)に第2の導電膜を形成してもよい。この場合、周波数調整に伴う、周波数の温度特性の変化を抑制する事ができる。
【0032】
保持部140は、XY平面に沿って矩形の枠状に形成される。保持部140は、平面視において枠形状を有し、XY平面に沿って振動部120の外側を囲むように配置されている。このように、保持部140が平面視において枠形状を有することにより、振動部120を囲む保持部140を容易に実現することができる。
【0033】
なお、保持部140は、振動部120の周囲の少なくとも一部に配置されていればよく、枠形状に限定されるものではない。例えば、保持部140は、振動部120を保持し、また、上蓋30及び下蓋20と接合できる程度に、振動部120の周囲に配置されていればよい。
【0034】
本実施形態においては、保持部140は一体形成される角柱形状の枠体140a~140dを含んでいる。枠体140aは、図3に示すように、振動腕135の開放端に対向して、長手方向がX軸に平行に設けられる。枠体140bは、基部130の後端131Bに対向して、長手方向がX軸に平行に設けられる。枠体140cは、基部130の側端(短辺131c)及び振動腕135Aに対向して、長手方向がY軸に平行に設けられ、その両端で枠体140a、140bの一端にそれぞれ接続される。枠体140dは、基部130の側端(短辺131d)及び振動腕135Dに対向して、長手方向がY軸に平行に設けられ、その両端で枠体140a、140bの他端にそれぞれ接続される。
【0035】
保持部140は、その略全面が絶縁膜235で覆われている。
【0036】
保持腕111及び保持腕112は、保持部140の内側に配置され、基部130の後端131Bと枠体140c、140dとを接続する。図3に示すように、保持腕111と保持腕112とは、基部130のX軸方向の中心線に沿ってYZ平面に平行に規定される仮想平面Pに対して略面対称に形成される。
【0037】
保持腕111は、腕111a、111b、111c、111dを含んでいる。保持腕111は、一端が基部130の後端131Bに接続しており、そこから枠体140bに向かって延びている。そして、保持腕111は、枠体140cに向かう方向(すなわち、X軸方向)に屈曲し、さらに枠体140aに向かう方向(すなわち、Y軸方向)に屈曲し、再び枠体140cに向かう方向(すなわち、X軸方向)に屈曲して、他端が枠体140cに接続している。
【0038】
腕111aは、基部130と枠体140bとの間に、枠体140cに対向して、長手方向がY軸に平行になるように配置されている。腕111aは、一端が、後端131Bにおいて基部130と接続しており、そこから後端131Bに対して略垂直、すなわち、Y軸方向に延びている。腕111aのX軸方向の中心を通る軸は、振動腕135Aの中心線よりも内側に配置されることが好ましく、図3の例では、腕111aは、振動腕135Aと135Bとの間に配置されている。また腕111aの他端は、その側面において、腕111bの一端に接続されている。腕111aは、X軸方向に規定される幅が20μm程度であり、Y軸方向に規定される長さが40μmである。
【0039】
腕111bは、基部130と枠体140bとの間に、枠体140bに対向して、長手方向がX軸方向に平行になるように配置されている。腕111bは、一端が、腕111aの他端であって枠体140cに対向する側の側面に接続し、そこから腕111aに対して略垂直、すなわち、X軸方向に延びている。また、腕111bの他端は、腕111cの一端であって振動部120と対向する側の側面に接続している。腕111bは、例えばY軸方向に規定される幅が20μm程度であり、X軸方向に規定される長さが75μm程度である。
【0040】
腕111cは、基部130と枠体140cとの間に、枠体140cに対向して、長手方向がY軸方向に平行になるように配置されている。腕111cの一端は、その側面において、腕111bの他端に接続されており、他端は、腕111dの一端に接続されている。腕111cは、例えばX軸方向に規定される幅が20μm程度、Y軸方向に規定される長さが140μm程度である。
【0041】
腕111dは、基部130と枠体140cとの間に、枠体140aに対向して、長手方向が軸方向に平行になるように配置されている。腕111dの一端は、腕111cの他端であって枠体140cと対向する側の側面に接続している。また、腕111dは、他端が、振動腕135Aと基部130との接続箇所付近に対向する位置において、枠体140cと接続しており、そこから枠体140cに対して略垂直、すなわち、X軸方向に延びている。腕111dは、例えばY軸方向に規定される幅が20μm程度、X軸方向に規定される長さが10μm程度である。
【0042】
このように、保持腕111は、腕111aにおいて基部130と接続し、腕111aと腕111bとの接続箇所、腕111bと腕111cとの接続箇所、及び腕111cと腕111dとの接続箇所で屈曲した後に、保持部140へと接続する構成となっている。
【0043】
保持腕112は、腕112a、112b、112c、112dを含んでいる。保持腕112は、一端が基部130の後端131Bに接続しており、そこから枠体140bに向かって延びている。そして、保持腕112は、枠体140dに向かう方向(すなわち、X軸方向)に屈曲し、さらに枠体140aに向かう方向(すなわち、Y軸方向)に屈曲して、再び枠体140dに向かう方向(すなわち、X軸方向)屈曲し、他端が枠体140dに接続している。
【0044】
なお、腕112a、112b、112c、112dの構成は、それぞれ腕111a、111b、111c、111dと対称な構成であるため、詳細な説明については省略する。
【0045】
ビアV1、V2、V3、V4は、振動腕135における先端部近傍に形成された金属が充填された孔であり、振動腕135A~135Dそれぞれに形成された導電膜236と、後述する金属層E2(図6参照)とを電気的に接続させる。図6においては、破線は電気的な接続を示しており、点線は、特にビアV1、V2、V3、V4による電気的な接続を示している。
【0046】
詳細については後述するが、ビアV1、V2、V3、V4は、それぞれ振動腕135A、135B、135C、135Dの先端部における導電膜236が露出する領域と、絶縁膜235が露出する領域の境界近傍に形成される。本実施形態では、錘部Gの固定端側の端部に形成されている。
【0047】
ビアV6、V7は、保持部140における保持腕111又は112との接続箇所近傍に形成されることが好ましい。図3の例では、ビアV6は枠体140cにおける保持腕111(腕111d)との接続箇所近傍に形成されており、ビアV7は枠体140dにおける保持腕112(腕112d)との接続箇所近傍に形成されている。なお、ビアV6、V7が形成される位置は、この例に限定されず、保持部140の任意の位置に形成されてよい。
【0048】
ビアV6、ビアV7は、後述する金属層E2(上部電極)と外部の駆動電源とを接続させるための端子が形成されている。これにより、振動部120に駆動電源が与えられる。
【0049】
突起部50は、振動腕135Bと振動腕135Cの間に突起するように下蓋20に形成されている。本実施形態では、突起部50は、振動腕135B、135Cに平行に延びる角柱形状に形成されている。突起部50の振動腕135に沿った方向の長さは240μm程度、当該方向に直交する長さ(幅)は15μm程度である。なお、突起部50の数は、1つである場合に限定されず、2以上の複数であってもよい。
【0050】
次に、図4から図6を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る共振装置1の積層構造について説明する。図4は、図2に示したIV-IV線に沿った共振装置1の断面の構成を概略的に示す断面図である。図5は、図3に示したV-V線に沿った振動腕135Dの断面の構成を概略的に示す断面図である。図6は、図3に示したVI-VI線に沿った共振子10の断面の構成を概略的に示す断面図である。なお、図2に示したIV-IV線は、枠体140a,140bに平行な線である。
【0051】
図4に示すように、上蓋30は、所定の厚みのシリコン(Si)ウエハ(以下、「Siウエハ」という)S3により形成されている。上蓋30は、その周辺部(側壁33)で後述する接合層40によって共振子10の保持部140と接合されている。上蓋30における、共振子10に対向する表面及び裏面は、図示しない酸化ケイ素膜に覆われていることが好ましい。酸化ケイ素膜は、例えばSiウエハS3の表面の酸化や、化学気相蒸着(CVD: Chemical Vapor Deposition)によって、SiウエハS3の表面に形成される。
【0052】
また、上蓋30の共振子10と対向する面と反対側の面には、図示しない端子が形成されている。端子は、上蓋30に形成された貫通孔に不純物ドープされた多結晶シリコン(Poly-Si)、銅(Cu)、金(Au)、不純物ドープされた単結晶シリコン等の導電性材料が充填されて形成される。端子は、ビアV6、V7と接続されており、外部電源と共振子10とを電気的に接続させる配線としての機能を有する。
【0053】
下蓋20の底板22及び側壁23は、Si(シリコン)ウエハS1により、一体的に形成されている。また、下蓋20は、側壁23の上面によって、共振子10の保持部140と接合されている。Z軸方向に規定される下蓋20の厚みは例えば、150μm、凹部21の深さは例えば50μmである。なお、SiウエハS1は、縮退されていないシリコンから形成されており、その抵抗率は例えば16mΩ・cm以上である。
【0054】
上蓋30の周縁部と保持部140との間には、接合層40が形成されており、この接合層40によって、上蓋30が保持部140と接合される。接合層40は、例えばAu(金)膜及びSn(錫)膜から形成されている。
【0055】
突起部50は、下蓋20のSiウエハS1と一体形成されている。突起部50は、下蓋20の底板22から振動腕135Bと振動腕135Cとの間に突起している。このように、突起部50が振動腕135Bと振動腕135Cとの間に配置され、下蓋20の底板22から突起することにより、下蓋20の剛性を高めることができ、下蓋20の上で形成される共振子10の撓みや、下蓋20の反りの発生を抑制することが可能になる。
【0056】
共振子10における、保持部140、基部130、振動腕135、及び保持腕111,112は、同一プロセスで一体的に形成される。共振子10は、基板の一例であるシリコン(Si)基板(以下、「Si基板F2」という)の上に、金属層E1が積層されている。そして、金属層E1の上には、金属層E1を覆うように、圧電薄膜F3が積層されており、さらに、圧電薄膜F3の表面には、金属層E2が積層されている。金属層E2の上には、金属層E2を覆うように、絶縁膜235が積層されている。振動部120上においては、さらに、絶縁膜235上に、導電膜236が積層されている。本実施例では、金属層E2は、振動腕135の先端まで延在しない構成になっている。これにより、金属層E1や導電膜236との短絡による特性変化を抑制することができる。このように、金属層E2は、振動腕135の先端まで延在させない様にパターニングする方が好ましいが、振動腕135の先端まで延在させてもよい。また、Si基板F2に低抵抗となる縮退シリコン基板を用いることで、Si基板F2自体が金属層E1を兼ねることができ、金属層E1を省略することも可能である。なお、金属層E1は本発明の「第1電極」の一例に相当し、金属層E2は本発明の「第2電極」の一例に相当する。
【0057】
Si基板F2は、例えば、厚さ6μm程度の縮退したn型シリコン(Si)半導体から形成されており、n型ドーパントとしてリン(P)やヒ素(As)、アンチモン(Sb)等を含むことができる。また、Si基板F2に用いられる縮退Siの抵抗は、例えば1.6mΩ・cm未満であり、より好ましくは1.2mΩ・cm以下である。さらに、Si基板F2の下面には、温度特性補正層の一例として、酸化ケイ素(例えばSiO2)層F21が形成されている。これにより、温度特性を向上させることが可能になる。
【0058】
本実施形態において、酸化ケイ素層F21は、当該酸化ケイ素層F21をSi基板F2に形成しない場合と比べて、Si基板F2に温度特性補正層を形成したときの振動部120における周波数の温度係数、つまり、温度当たりの変化率を、少なくとも常温近傍において低減する機能を有する層をいう。振動部120が酸化ケイ素層F21を有することにより、例えば、Si基板F2と金属層E1、E2と圧電薄膜F3及び酸化ケイ素層F21とによる積層構造体の共振周波数において、温度に伴う変化を低減することができる。なお、保持部140における酸化ケイ素層F21及びSi基板F2は、本発明の「保持体」の一例に相当する。
【0059】
共振子10において、酸化ケイ素層F21は、均一の厚みで形成されることが好ましい。なお、均一の厚みとは、酸化ケイ素層F21の厚みのばらつきが、厚みの平均値から±20%以内であることをいう。
【0060】
なお、酸化ケイ素層F21は、Si基板F2の上面に形成されてもよいし、Si基板F2の上面と下面の双方に形成されてもよい。また、保持部140において、Si基板F2の下面には、酸化ケイ素層F21が形成されていなくてもよい。
【0061】
金属層E1、E2は、例えば厚さ0.1μm以上0.2μm以下程度であり、成膜後に、エッチング等により所望の形状にパターニングされる。金属層E1、E2は、例えば、Mo(モリブデン)、タングステン(W)等を用いて形成される。このように、金属層E1、E2は、結晶構造が体心立方構造である金属を主成分とすることが好ましい。これにより、共振子10の下部電極及び上部電極に適した金属層E1、E2を容易に実現することができる。
【0062】
金属層E1は、例えば振動部120において、下部電極、フロート電極、又はグランド電極としての機能を果たすように、形成される。本実施例では、下部電極となっている。また、金属層E1は、保持腕111,112や保持部140上において、共振子10の外部に設けられた交流電源に下部電極又はグランド電極を接続するための配線としての機能を果たすように、形成される。
【0063】
一方、金属層E2は、振動部120において、上部電極としての機能を果たすように、形成される。また、金属層E2は、保持腕111、112や保持部140上において、共振子10の外部に設けられた回路に上部電極を接続するための配線としての機能を果たすように、形成される。
【0064】
なお、交流電源又はグランドから下部配線又は上部配線への接続にあたっては、上蓋30の外面に電極を形成して、当該電極が回路と下部配線又は上部配線とを接続する構成や、上蓋30内にビアを形成し、当該ビアの内部に導電性材料を充填して配線を設け、当該配線が交流電源と下部配線又は上部配線とを接続する構成が用いられてもよい。
【0065】
圧電薄膜F3は、印加された電圧を振動に変換する圧電体の薄膜である。
【0066】
圧電薄膜F3は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)等の窒化物や酸化物を主成分とすることができる。なお、窒化スカンジウムアルミニウムは、窒化アルミニウムにおけるアルミニウムの一部がスカンジウムに置換されたものであり、スカンジウムの代わりにマグネシウム(Mg)及びニオブ(Nb)やマグネシウム(Mg)及びジルコニウム(Zr)等の2元素で置換されていてもよい。このように、圧電薄膜F3は、結晶構造がウルツ鉱型六方晶構造を有する圧電体を主成分とすることが好ましい。これにより、共振子10に適した圧電薄膜F3を容易に実現することができる。
【0067】
圧電薄膜F3は、振動部120と保持部140とにおいて、異なる材料で形成されていてもよい。但し、振動部120の圧電薄膜F3と保持部140の圧電薄膜F3とは、同一材料であることが好ましい。これにより、振動部120及び保持部140を同一プロセスで形成することができ、共振子10の製造工程を簡略化することができる。
【0068】
また、圧電薄膜F3は、例えば1μmの厚さを有するが、0.2μmから2μm程度の厚さを用いることも可能である。
【0069】
圧電薄膜F3は、金属層E1、E2によって圧電薄膜F3に印加される電界に応じて、XY平面の面内方向すなわちY軸方向に伸縮する。この圧電薄膜F3の伸縮によって、振動腕135は、下蓋20及び上蓋30の内面に向かってその開放端を変位させ、面外の屈曲振動モードで振動する。
【0070】
なお、本実施形態では、4本腕の面外屈曲振動モードにおいて、上部電極を分割して、それぞれ交流電源に接続することで、内腕2本と外腕2本とが互いに逆方向に屈曲振動する構成となっているが、これに限定されるものではない。例えば、振動腕が1本の構成や、面内屈曲振動モードで振動する構成でもよい。
【0071】
絶縁膜235は、絶縁体の層であり、エッチングによる質量低減の速度が導電膜236より遅い材料により形成される。質量低減速度は、エッチング速度、つまり、単位時間あたりに除去される厚みと密度との積により表される。
【0072】
絶縁膜235は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)等の圧電膜の他、窒化シリコン(SiN)、酸化シリコン(SiO)、酸化アルミナ(Al)、五酸化タンタル(Ta)等の絶縁膜で形成される。絶縁膜235の厚さは、圧電薄膜F3の厚さの半分以下の長さで形成され、本実施形態では、例えば0.2μm程度である。なお、絶縁膜235のより好ましい厚さは、圧電薄膜F3の厚さの4分の1程度である。さらに、絶縁膜235が窒化アルミニウム(AlN)等の圧電体によって形成される場合には、圧電薄膜F3と同じ配向を持った圧電体が用いられることが好ましい。
【0073】
導電膜236は、導電体の層であり、振動部120の略全面に形成された後、エッチング等の加工により所定の領域のみに形成される。導電膜236は、エッチングによる質量低減の速度が絶縁膜235より速い材料により形成される。導電膜236は、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)等の金属によって形成される。
【0074】
なお、絶縁膜235と導電膜236とは、質量低減速度の関係が前述したとおりであれば、エッチング速度の大小関係は任意である。
【0075】
本実施形態に係る共振装置1では、前述したような共振子10が形成された後、導電膜236の膜厚を調整するトリミング工程が行われる。
【0076】
トリミング工程では、まず、共振子10の共振周波数を測定し、狙い周波数に対する偏差を算出する。次に、算出した周波数偏差に基づき、導電膜236の膜厚を調整する。導電膜236の膜厚の調整は、例えばアルゴン(Ar)イオンビームを共振装置1の全面に対して照射して、導電膜236をエッチングすることによって行うことができる。イオンビームは共振子10よりも広い範囲に照射することが可能である。なお、本実施形態では、イオンビームによりエッチングを行う例を示すが、エッチング方法は、これに限定されるものではない。さらに、導電膜236の膜厚が調整されると、共振子10の洗浄を行い、飛び散った膜を除去することが好ましい。
【0077】
図5に示すように、金属層E2は、導電膜236と重なり合う領域がなるべく小さくなるように、その面積が調整されて形成される。
【0078】
ビアV4は、金属層E1の表面が露出するように絶縁膜235、金属層E2及び圧電薄膜F3の一部を除去した孔に導電体237が充填されて形成される。ビアV4に充填される導電体237は、例えばMo(モリブデン)やアルミニウム(Al)等である。導電膜236と金属層E1はビアV4に充填された導電体237を介して電気的に接続されている。これにより、絶縁膜235に帯電された電荷を金属層E1へと移動させることができる。そして、金属層E1へ移動させた電荷は、金属層E1に接続された外部との接続端子を介して、共振装置1の外部へ逃がすことができる。このように、本実施形態に係る共振子10は、振動部120上に形成された絶縁膜235に電荷が帯電することを抑制できるため、振動部120に帯電した電荷による共振周波数の変動を防止することができる。
【0079】
ここで、金属層E1と導電膜236とを接続させた場合、絶縁膜235と圧電薄膜F3とには逆方向の電界が印加されることになる。このため、金属層E2と導電膜236との重なり合う領域が大きいと、共振子10の振動が阻害されてしまう。本実施形態に係る共振子10では、金属層E2と導電膜236との重なり合う領域がなるべく小さくなるように設定されている。これにより、絶縁膜235に印加される電界によって、圧電薄膜F3の振動が阻害されることを抑制することができる。なお、ビアV1、V2、V3の接続態様、及び材質、効果等は、ビアV4と同様であるため、図示及びその説明を省略する。
【0080】
図6に示すように、本実施形態では、外側の振動腕135A、135Dに印加される電界の位相と、内側の振動腕135B、135Cに印加される電界の位相とが互いに逆位相になるように設定されている。これにより、外側の振動腕135A、135Dと内側の振動腕135B、135Cとが互いに逆方向に変位する。例えば、外側の振動腕135A、135Dが上蓋30の内面に向かって開放端を変位すると、内側の振動腕135B、135Cは下蓋20の内面に向かって開放端を変位する。
【0081】
このため、本実施形態に係る共振子10では、逆位相の振動時、すなわち、振動腕135Aと振動腕135Bとの間で、Y軸に平行に延びる中心軸r1周りに振動腕135Aと振動腕135Bとが上下逆方向に振動する。また、振動腕135Cと振動腕135Dとの間で、Y軸に平行に延びる中心軸r2周りに振動腕135Cと振動腕135Dとが上下逆方向に振動する。これにより、中心軸r1とr2とで互いに逆方向の捩れモーメントが生じ、基部130で屈曲振動が発生する。
【0082】
ここで、保持部140と下蓋20の側壁23との位置関係について、説明する。
【0083】
従来、保持部140の内側側面(以下、「内側面」という)は、側壁23の内面23aと一致又は略一致するように配置されていた。このため、絶縁膜235を含む保持部140は、振動腕135を含む振動部120の周辺に配置されていた。
【0084】
保持部140の絶縁膜235は、様々な要因によって帯電してしまう場合がある。例えば、共振子10において薄膜形成時に発生する電界等によって保持部140における絶縁膜235が帯電する。また、振動部120に周波数調整用の膜を形成し、イオンビーム等によって共振周波数を調整する場合には、イオンビームが保持部140にも照射されることによって、保持部140における絶縁膜235が帯電してしまう。さらに、絶縁膜235に焦電体を使用した場合には、温度変化による焦電効果によって、絶縁膜235の界面に電荷が発生する。
【0085】
これらの要因によって、振動部120の周囲に配置される保持部140の絶縁膜235が帯電した場合、絶縁膜235の電荷によってクーロン力(静電力)が発生し、振動部120のばね定数が変化する結果、共振周波数が変動してしまう。
【0086】
これに対し、本実施形態では、図4に示すように、枠体140cの内側面は、側壁23の内面23aから第1距離D1を空けて配置されている。同様に、枠体140dの内側面は、側壁23の内面23aから第1距離D1を空けて配置されている。
【0087】
また、図示しない枠体140a及び枠体140bも同様に、それぞれの内側面は、側壁23の内面23aから第1距離D1を空けて配置されている。各枠体140a~140dの内側面の第1距離D1は、同一である場合に限定されず、略同一であってもよい。
【0088】
このように、保持部140に含まれる絶縁膜235の内側面が、側壁23の内面23aから第1距離D1を空けて配置されることにより、側壁23の内面23aから距離を空けずに配置する場合と比較して、保持部140と振動腕135を含む振動部120との距離を広げることができ、保持部140の絶縁膜235に帯電した電荷が、振動部120の周辺に発生することを抑制することができる。従って、保持部140の絶縁膜235に帯電した電荷が共振周波数に与える影響を低減することができる。
【0089】
第1距離D1は、例えば5μm以上50μm以下であることが好ましい。これにより、共振装置1の薄型化、小型化を図りつつ、保持部140の電荷が共振周波数に与える影響を効果的に低減することができる。
【0090】
保持部140の内側面を側壁23の内面23aから距離を空けて配置するためには、例えばエッチング等によって振動腕135と保持部140との間をリリースする際に、保持部140のエッチング幅を従来よりも広げるようにすればよい。このように、保持部140の内側面は、マスクを増やしたり、形成工程を増やしたりすることなく、側壁23の内面23aから第1距離D1を空けることができるので、保持部140の電荷が共振周波数に与える影響を安価に低減することができる。
【0091】
[第2実施形態]
第2実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0092】
図7は、本発明の第2実施形態に係る共振装置2の構成を概略的に示す断面図である。図7は、第1実施形態の図4に対応する図である。
【0093】
図7に示すように、共振装置2は、保持部140の一部に段差が形成されている。すなわち、保持部140において、酸化ケイ素層F21及びSi基板F2の内側面は、側壁23の内面23aと略一致するように配置されている。なお、枠体140cにおける酸化ケイ素層F21及びSi基板F2の内側面は、X軸正方向側に突出していてもよい。また、枠体140dにおける酸化ケイ素層F21及びSi基板F2の内側面は、X軸負方向側に突出していてもよい。
【0094】
一方、保持部140において、金属層E1、圧電薄膜F3、金属層E2、絶縁膜235、及び導電膜236の内側面は、側壁23の内面23aから第1距離D1を空けて配置されている。
【0095】
また、保持部140において、金属層E1、圧電薄膜F3、金属層E2、絶縁膜235、及び導電膜236の内側面は、酸化ケイ素層F21及びSi基板F2の内側面から第2距離D2を空けて配置されている。酸化ケイ素層F21及びSi基板F2の内側面からの第2距離D2は、側壁23の内面23aからの第1距離D1以上に設定されている(第2距離D2≧第1距離D1)。
【0096】
このように、保持部140において、絶縁膜235の内側面が、酸化ケイ素層F21及びSi基板F2の内側面から第1距離D1以上の第2距離D2を空けて配置されることにより、保持部140の酸化ケイ素層F21及びSi基板F2は、振動部120の近くに配置されるので、例えば共振子10に衝撃が加わって振動部120の振動腕135が変位したときに、ストッパーの機能を果たし、振動腕135の変位を抑制することが可能となる。従って、振動腕135の折れを防止することができる。
【0097】
保持部140において、金属層E1、圧電薄膜F3、金属層E2、絶縁膜235、及び導電膜236の内側面を、酸化ケイ素層F21及びSi基板F2の内側面から距離を空けて配置するためには、まず、エッチング等によって金属層E1、圧電薄膜F3、金属層E2、絶縁膜235、及び導電膜236を除去しつつ、酸化ケイ素層F21及びSi基板F2を残す。これにより、共振子10において保持部140となる部分に凹部が形成される。次に、エッチング等によって振動腕135と保持部140との間をリリースする。
【0098】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明した。本発明の一実施形態に係る共振装置は、保持部に含まれる絶縁膜の内側面が、凹部を定める側壁の内面から第1距離を空けて配置される。これにより、側壁の内面から距離を空けずに配置する場合と比較して、保持部と振動腕を含む振動部との距離を広げることができ、保持部の絶縁膜に帯電した電荷が、振動部の周辺に発生することを抑制することができる。従って、保持部の絶縁膜に帯電した電荷が共振周波数に与える影響を低減することができる。
【0099】
また、前述した共振装置において、保持部において、絶縁膜の内側面が、酸化ケイ素層及びSi基板の内側面から第1距離以上の第2距離を空けて配置される。これにより、保持部の酸化ケイ素層及びSi基板は、振動部の近くに配置されるので、例えば共振子に衝撃が加わって振動部の振動腕が変位したときに、ストッパーの機能を果たし、振動腕の変位を抑制することが可能となる。従って、振動腕の折れを防止することができる。
【0100】
また、前述した共振装置において、第1距離は、5μm以上50μm以下である。これにより、共振装置の薄型化、小型化を図りつつ、保持部の電荷が共振周波数に与える影響を効果的に低減することができる。
【0101】
また、前述した共振装置において、保持部が、共振子の主面を平面視したときに、枠形状を有する。これにより、振動部を囲む保持部を容易に実現することができる。
【0102】
また、前述した共振装置において、突起部が、複数の振動腕のうちの隣り合う2つの間に配置され、凹部から突起することにより、下蓋の剛性を高めることができ、下蓋の上で形成される共振子の撓みや、下蓋の反りの発生を抑制することが可能になる。
【0103】
また、前述した共振装置において、圧電薄膜は、ウルツ鉱型六方晶構造を有する圧電体を主成分である。これにより、共振子に適した圧電薄膜を容易に実現することができる。
【0104】
また、前述した共振装置において、保持部の圧電薄膜と振動部の圧電薄膜とが、同一材料である。これにより、振動部及び保持部を同一プロセスで形成することができ、共振子の製造工程を簡略化することができる。
【0105】
また、前述した共振装置において、金属層の少なくとも一方は、体心立方構造を有する金属を主成分とする。これにより、共振子の下部電極及び上部電極に適した金属層を容易に実現することができる。
【0106】
また、前述した共振装置において、共振子を間に挟んで下蓋と対向するように配置される上蓋を備える。これにより、共振子の振動空間を気密に封止することが可能となり、高真空を維持することができる。
【0107】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。すなわち、各実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもなく、これらも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0108】
1…共振装置、2…共振装置、10…共振子、20…下蓋、21…凹部、22…底板、23…側壁、23a…内面、30…上蓋、31…凹部、33…側壁、40…接合層、50…突起部、110…保持腕、111…保持腕、111a,111b,111c,111d…腕、112…保持腕、112a,112b,112c,112d…腕、120…振動部、130…基部、131a…長辺、131A…前端、131b…長辺、131B…後端、131c…短辺、131d…短辺、135,135A,135B,135C,135D…振動腕、140…保持部、140a,140b,140c,140d…枠体、235…絶縁膜、236…導電膜、237…導電体、D1…第1距離、D2…第2距離、E1,E2…金属層、F2…Si基板、F3…圧電薄膜、F21…酸化ケイ素層、G…錘部、P…仮想平面、r1,r2…中心軸、S1…Siウエハ、S3…Siウエハ、V1,V2,V3,V4,V6,V7…ビア、W1,W2…間隔。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7