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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】金属粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/30 20060101AFI20220901BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20220901BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20220901BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20220901BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220901BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20220901BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
B22F9/30 Z
B22F1/16 100
C22C9/06
C22C19/03 E
C22C38/00 303S
H01F1/147 150
H01F1/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018551588
(86)(22)【出願日】2017-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2017040351
(87)【国際公開番号】W WO2018092664
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2016223134
(32)【優先日】2016-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000186762
【氏名又は名称】昭栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 峰人
(72)【発明者】
【氏名】木村 哲哉
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-330802(JP,A)
【文献】特開平11-124602(JP,A)
【文献】特開平11-071601(JP,A)
【文献】特開2007-126750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-1/18,9/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄化合物を含む熱分解性金属化合物と、熱分解して当該金属化合物から生成する金属と固溶しないガラス質を生成するガラス前駆体とを含む溶液を微細な液滴にし、当該液滴をキャリアガス中に分散させた状態で、還元性雰囲気下で前記金属化合物の分解温度及び前記ガラス前駆体の分解温度より高く、且つ、前記金属化合物から生成する金属の融点よりも高い温度で加熱することにより、当該金属からなる金属粉末を生成させると共に、当該金属粉末の表面近傍にガラス質を生成させて、表面に前記鉄化合物由来の鉄成分が含まれるガラス質薄膜を備えた鉄含有金属粉末を製造する方法であって、
前記ガラス質が酸化物基準でSiOを40質量%以上含むケイ酸塩系ガラスであり、
前記溶液中に、当該溶液に可溶であって前記加熱時に還元性を示す還元剤を、当該溶液全体に対する質量%で5~30質量%含み、
前記金属の融点Tmと、前記ガラス質の混合酸化物の液相温度Tmとが、下式(1)を満たすよう、前記ガラス前駆体を調製する、鉄含有金属粉末の製造方法。
-100〔℃〕≦(Tm-Tm)≦500〔℃〕・・・(1)
【請求項2】
前記融点Tmと、前記液相温度Tmとが、下式(2)を満たす請求項1に記載の金属粉末の製造方法。
-50〔℃〕≦(Tm-Tm)≦300〔℃〕 ・・・(2)
【請求項3】
前記融点Tmと前記液相温度Tmとが共に1100℃以上である請求項1又は2に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項4】
前記還元剤がメタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項5】
前記熱分解性金属化合物と前記ガラス前駆体の前記溶液中での合計含有量が、熱分解により前記金属化合物から生成される金属成分量と、熱分解により前記ガラス前駆体から生成される酸化物基準でのガラス成分量とに換算しての両成分の合計濃度で20~100g/Lである請求項1乃至4の何れか1項に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項6】
前記金属がニッケル及び鉄を含む請求項1乃至5の何れか1項に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項7】
前記ニッケルと鉄の質量比が、ニッケル:鉄=40:60~85:15である請求項に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス質が酸化物基準でMgO、CaO、SrO、BaOからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1乃至7の何れか1項に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項9】
前記キャリアガス中に還元性ガスを1~20体積%含む請求項1乃至8の何れか1項記載の金属粉末の製造方法。
【請求項10】
前記還元性ガスが水素、一酸化炭素、メタン、アンモニアガスから成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項9に記載の金属粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス質薄膜で被覆された金属粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンやスマートフォンといったモバイル機器の小型化・高性能化・軽量化が顕著である。これらのモバイル機器の小型化・高性能化には、スイッチング電源の高周波数化が必要不可欠であり、これに伴い、モバイル機器に内蔵されたチョークコイルやインダクタ等の各種磁性素子の駆動周波数も、高周波数化への対応が求められている。ところが、磁性素子の駆動周波数が高周波数化した場合、各磁性素子が備える磁心において、渦電流による損失が増大するという問題が発生する。
【0003】
そこで軟磁性粉末の粒子表面に絶縁性材料を被覆して各粒子間に絶縁性材料被覆層を介在させ、磁心に発生する渦電流を当該粒子間で分断することで、高周波数で使用された場合の渦電流損失を低減することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、予め準備した軟磁性粉末に対し、メカノフュージョン等の粉末コーティング法、無電解メッキやゾル-ゲル等の湿式法、或いは、スパッタリング等の乾式法を用いて、軟磁性粉末表面に低融点ガラスからなる無機絶縁層を形成し、その後、更に無機絶縁層を形成した軟磁性粉末と樹脂粉末とを混合することによって、無機絶縁層と樹脂粒子層で表面被覆された軟磁性粉末が開示されている。
【0005】
特許文献2には、鉄系の軟磁性粉末の表面に、安価な材料を用いて、窒化ホウ素を主体とする被覆層を形成する複合被覆軟磁性粉末の製造方法が開示されている。具体的には予め準備した酸化鉄粉末、炭化珪素粉末、炭素粉末、硼珪酸ガラス粉末を、ミキサー等を用いて混合した後、得られた混合粉末を、窒素を含む非酸化性雰囲気中において1000~1600℃で熱処理することによって、Fe-Si合金粉末の表面に、硼珪酸ガラスの分解により生成した窒化ホウ素層と金属酸化物層を形成している。
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の被覆軟磁性粉末の製造方法では、予め軟磁性粉末を準備するため、場合によっては、予め準備する軟磁性粉末の粒径や粒度分布が適正範囲になるよう調整する必要がある。しかも、表面に絶縁層を形成するための被覆工程において、被覆する絶縁物の組成や被覆量の制御が必要不可欠となる。そのため、軟磁性粉末の表面に均一且つ均質な絶縁層を形成することが至難であった。
【0007】
特許文献3や特許文献4に記載されているように、軟磁性粉末そのものは従前より知られているガスアトマイズ法や機械的粉砕法、気相還元法によって製造するのが一般的であった。
【0008】
一方、主として導体ペーストに用いられる金属粉末の製造方法として、噴霧熱分解法が知られている。
特許文献5、特許文献6及び特許文献7には、1種又は2種以上の熱分解性金属化合物を含む溶液を噴霧して微細な液滴にし、その液滴を該金属化合物の分解温度より高い温度、望ましくは該金属の融点近傍又はそれ以上の高温で加熱し、金属化合物を熱分解して金属粒子を生成する技術が開示されている。これらの噴霧熱分解法によれば、結晶性が良く、高密度かつ高分散性の金属粉末を得ることができ、粒径のコントロールも容易である。しかも噴霧熱分解法においては、目的とする金属粉末の原料である金属化合物溶液中に、当該金属粉末に固溶しにくい金属や半金属、或いはそれらの酸化物等の前駆体を添加しておくことにより、金属粉末の生成と同時に、その表面に被覆層を形成できるという優れた利点がある。これは噴霧熱分解法によって得られる金属粉末の結晶性が良好であり、しかも粒子内部に欠陥が少なく粒界をほとんど含まないことから、熱分解により生成した被覆物が金属粉末の内部に生成しにくく、粒子表面に弾き出され、表面近傍に高濃度に生成されることによるものと考えられている。その上、生成物の組成は基本的に溶液中の金属化合物の組成と一致するため、金属粉末のみならず被覆層の組成制御も容易である。
【0009】
以上のような理由から、噴霧熱分解法によって、新たな被覆工程を必要とすることなく、表面に被覆層を有する金属粒子を得ることができ、例えば本出願人による特許文献8には、噴霧熱分解法により、表面の少なくとも一部にガラス質薄膜で被覆された金属粉末を、新たな被覆工程を設けることなく製造する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開WO2005/015581公報(特許第4452240号)
【文献】特開2014-192454号公報
【文献】特開平9-256005号公報
【文献】特開2003-49203号公報
【文献】特公昭63-31522号公報
【文献】特開平6-172802号公報
【文献】特開平6-279816号公報
【文献】特開平10-330802号公報(特許第3206496号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献8に記載されている金属粉末は、主には積層セラミック電子部品の導体層を形成するための導体ペーストに用いられるものであり、特には導体ペーストの焼成における金属粉末の耐酸化性を改善することを目的に粉末表面をガラス質薄膜で被覆するものであることから、その目的のために有効量が付着しているのであれば、ガラス質薄膜は金属粉末表面全体を覆う必要がなく、金属粉末表面の少なくとも一部を被覆すればよいとされている。
【0012】
本発明者等の検討によれば、特許文献8に記載されている製法により、数多くのガラス組成と金属種の組み合わせにおいて、多種のガラス質薄膜で被覆された金属粉末を生成することができる。その一方、この方法によりガラス質薄膜で表面が均一に被覆された金属粉末を得ることは必ずしも容易ではない場合があり、少なくとも一部の金属種においては、金属粒子の生成、金属粒子表面へのガラス質薄膜の均一な被覆が行えず、ガラス質薄膜が金属粉末の表面の一部のみに偏って被覆される傾向が見られた。その場合、炉の加熱温度や雰囲気、冷却条件といった各種制御因子を厳密にコントロールすることである程度は改善されるが、制御すべき因子が多くなればなる程、制御因子を厳密にコントロールすることが難しくなる。
本発明者等の検討によれば、金属粉末が特に鉄(Fe)を含む軟磁性粉末である場合に、上述した傾向が強く見られた。
【0013】
そこで本発明は、噴霧熱分解法において、金属種に拘わらず、ガラス質薄膜が金属粉末の表面の一部のみに偏って被覆されることなく、表面全体に膜厚が均一且つガラス組成等が均質なガラス質薄膜を有する金属粉末を容易に得るための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を達する本発明は、鉄化合物を含む熱分解性金属化合物と、熱分解して当該金属化合物から生成する金属と固溶しないガラス質を生成するガラス前駆体とを含む溶液を微細な液滴にし、当該液滴をキャリアガス中に分散させた状態で、還元性雰囲気下で前記金属化合物の分解温度及び前記ガラス前駆体の分解温度より高く、且つ、前記金属化合物から生成する金属の融点よりも高い温度で加熱することにより、当該金属からなる金属粉末を生成させると共に、当該金属粉末の表面近傍にガラス質を生成させて、表面にガラス質薄膜を備えた鉄含有金属粉末を製造する方法であって、
前記ガラス質が酸化物基準でSiO を40質量%以上含むケイ酸塩系ガラスであり、
前記金属の融点Tmと、前記ガラス質の混合酸化物の液相温度Tmとが、下式(1)を満たすよう、前記ガラス前駆体を調製する金属粉末の製造方法である。
-100〔℃〕≦(Tm-Tm)≦500〔℃〕・・・(1)
【発明の効果】
【0015】
本発明により、数多く複雑な制御因子を厳密に制御することなく膜厚が均一で、且つガラス組成等が均質なガラス質薄膜を有する金属粉末を比較的容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る、表面にガラス質薄膜を備えた金属粉末の粒子全体像を示す透過電子顕微鏡(TEM)像である。
図2図1の粒子の一部を示すTEM像である。
図3図2の粒子のライン分析結果である。
図4図1の粒子の一部を示すTEM像である。
図5図4をニッケルで元素マッピングした結果である。
図6図4を鉄で元素マッピングした結果である。
図7図4をバリウムで元素マッピングした結果である。
図8図4を珪素で元素マッピングした結果である。
図9図4を酸素で元素マッピングした結果である。
図10】実験例17による粒子表面を示すTEM像である。
図11】相平衡図の一例としての、BaO-CaO-SiOガラスの相平衡図(質量%換算)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
特許文献8に記載されている噴霧熱分解法において、一部のガラス組成と金属種との組合せにおいてガラス質薄膜が金属粉末の表面の一部のみに偏って被覆されやすい傾向が見られる理由は定かではない。しかしながら、金属粉末が特に鉄(Fe)を含む軟磁性粉末である場合に、上述した傾向が強く見られた。本発明者等は種々の追試を行い、一般的に鉄を含む金属には融点の高いものが多いことや、原料として用いられる鉄含有化合物に還元しにくい化合物が多いこと、更には、鉄を含む金属が、ガラスとの濡れ性が比較的良くないものが多いこと、などが一因となっているのではないかと推定し、当該推定に基づき鋭意研究を進めた結果、本発明を完成するに到った。
【0018】
〔金属粉末について〕
本発明において金属粉末としては特に限定はなく、単一金属の粉末の他、合金の粉末を含むが、本発明の作用効果は、比較的高い融点を持つ金属粉末を製造する場合に、より享受することができる。それ故、前記金属の融点(Tm)としては900℃以上が好ましく、1100℃以上であることが特に好ましい。
【0019】
前記金属には鉄が含まれていることが好ましく、特にニッケルと鉄を含むニッケル-鉄合金であることが好ましい。ニッケルと鉄の含有量は限定されるものではないが、好ましくはニッケルと鉄との質量比がニッケル:鉄=40:60~85:15の範囲内にあり、中でもパーマロイ(ニッケル含有量が78.5質量%付近のニッケル-鉄合金)は高い透磁率が得られることから、本発明に好適である。
【0020】
なお、本明細書において符合「~」を用いて示された数値範囲は、特に断らない限り「~」の前後に記載される数値を含む範囲を示すものとする。また「主成分」とは含有量が50質量%を超える成分をいう。
【0021】
ニッケル-鉄合金には更にモリブデンや銅、クロム等の金属が含まれていても良い。
【0022】
金属粉末の粒径に限定はないが、好ましくは平均粒径が0.2~20μm程度である。
【0023】
〔ガラス質薄膜について〕
ガラス質薄膜を構成するガラス質(単にガラスという場合もある)としては、非晶質のものでも、非晶質膜中に結晶を含んでいるものであってもよいが、金属の融点(Tm)と、当該ガラスの成分を酸化物の混合物(ここでは「混合酸化物」という)として捉えた場合の液相温度(Tm)との差(=Tm-Tm)が-100℃以上、500℃以下の範囲内にあることが好ましい。すなわち、本発明は下式(1)を満たしていることが好ましい。
-100〔℃〕≦(Tm-Tm)≦500〔℃〕 ・・・(1)
金属の融点Tmと液相温度Tmとが前出の条件を満たしている場合には、金属粉末表面全体をガラス質薄膜で被覆することが容易になる。
(Tm-Tm)の値は、-100℃を下回るとガラス原料(ガラス前駆体)からのガラス化が起きにくくなり、また500℃を上回ると生成したガラスの流動性が高すぎるために、ガラスの金属粉末表面上での偏析や当該表面の一部露出等が生じやすくなり、どちらの場合でも金属粉末表面全体をガラス質薄膜で被覆することが難しくなる。
より好ましくは、(Tm-Tm)は-80~400℃の範囲内であり、特に好ましくは-50~300℃の範囲内である。すなわち、本発明は下式(2)を満たしていることが特に好ましい。
-50〔℃〕≦(Tm-Tm)≦300〔℃〕 ・・・(2)
液相温度Tmは、ガラス質の組成に影響される。従って本発明においては、目的とする金属の融点Tmに対して上述した条件が満たされるようにガラス組成を決め、ガラス原料(ガラス前駆体)の調製を行う。
【0024】
本発明者等の検討によれば、金属粉末が鉄を含む場合は、ケイ酸塩系のガラスを使用することで、TmとTmとが前出の条件を満足し易くなる。本発明の場合、特にガラス質薄膜中でのSiO含有量が、酸化物基準で40質量%以上含まれているものを用いると良い。金属の融点Tmによっても異なるが、Tmは900℃以上であることが好ましく、特に好ましくは1100℃以上である。
【0025】
ケイ酸塩系ガラスにはアルカリ土類金属が含まれていることが好ましく、具体的には、酸化物基準でMgO、CaO、SrO、BaOから成る群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、特には、アルカリ土類金属は酸化物基準で20質量%以上含んでいることが好ましい。
【0026】
本発明において液相温度Tmは、一例として図11に示したような相平衡図から求めることができるが、その他、必要に応じて示差熱分析(DTA)や示差走査熱量測定(DSC)における吸熱挙動から求めることもできる。
【0027】
なお、後述する通り、本発明の製造方法において金属粉末に鉄が含まれる場合、その金属粉末表面のガラス質薄膜中にも鉄成分の存在を確認することができる。ガラス原料(前駆体)には鉄系の化合物を用いていないことから、当該ガラス中の鉄成分は、金属粉末の原料として用いた金属化合物に含まれる鉄化合物由来のものであり、加熱時にガラス中に拡散したものと考えられる。そしてガラス中に鉄成分が含まれていることによって、金属粉末中の鉄成分とガラスとの濡れ性が改善され、その結果として、鉄を含む金属粉末に対しても強固なガラス被膜を形成することが可能になったと本発明者等は推測する。
【0028】
〔噴霧熱分解法について〕
本発明の金属粉末は、噴霧熱分解法によって製造される。具体的には、熱分解性の金属化合物と、熱分解して当該金属化合物から生成する金属と固溶しないガラス質を生成するガラス前駆体とを含む溶液を微細な液滴にし、当該液滴をキャリアガス中に分散させた状態で、前記金属化合物の分解温度及び前記ガラス前駆体の分解温度より高く、且つ、前記金属化合物から生成する金属の融点よりも高い温度で加熱することにより、当該金属からなる金属粉末を生成させると共に、当該金属粉末の表面近傍にガラス質を生成させて、表面にガラス質薄膜を備えた金属粉末を製造する。
【0029】
本発明において、金属粒子の出発化合物である熱分解性の金属化合物としては、金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化物、アンモニウム塩、リン酸塩、カルボン酸塩、金属アルコラート、樹脂酸塩などの熱分解性塩の1種又は2種以上や複塩や錯塩が使用される。2種以上の金属の塩を混合使用すれば2種以上の金属の合金粒子や混合粒子を得ることができる。この主成分金属化合物を、水や、アセトン、エーテル等の有機溶剤あるいはこれらの混合溶剤中に溶解した溶液に、ガラスを形成するガラス前駆体の1種又は2種以上を添加する。
【0030】
ガラス前駆体は、熱分解後生じる酸化物(ガラス)が、本法による金属粒子生成条件では金属粒子中に固溶せず、ガラス化するようなものであれば制限はない。ガラス前駆体としては、例えば硼酸、珪酸、燐酸や各種硼酸塩、珪酸塩、燐酸塩、又種々の金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化物、アンモニウム塩、燐酸塩、カルボン酸塩、アルコラート、樹脂酸塩などの熱分解性塩や複塩や錯塩などから適宜選択されて使用される。
【0031】
本発明において、金属化合物とガラス前駆体の混合溶液は超音波式、二流体ノズル式等の噴霧器により微細な液滴とし、次いで金属化合物の分解温度及びガラス前駆体の分解温度より高い温度で加熱することにより熱分解を行う。金属化合物として、2種以上の化合物を混合する場合は、分解温度が一番高い金属化合物の分解温度より高い温度で加熱する。
本発明において、加熱処理は主成分金属の融点又はそれ以上の高温で行う。なお、融点より低い加熱温度でもガラス成分の弾き出しの効果を得ることはできるが、その場合、結晶性の良い金属粉末が得られず、その形状も不均一になるため、高密度化や分散性が不十分なものとなる。
【0032】
加熱時の雰囲気は、金属化合物やガラス前駆体の種類、加熱温度などに応じて酸化性、還元性、不活性雰囲気が適宜選択されるが、金属が卑金属を主成分とする金属粉末を製造する場合には、還元性雰囲気にすることが特に好ましい。その場合、溶液に可溶で、且つ、非加熱時(たとえば噴霧溶液の調製時)には還元性を示さず、加熱時のみに還元性を示す還元剤を溶液中に添加しておくことが好ましい。還元剤の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコールから成る群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。なお卑金属は特に限定されるものではないが、鉄、コバルト、ニッケル、銅、等が好ましく、特に本発明は鉄、ニッケル及びこれらを含む合金であることが好ましい。
使用する金属化合物の種類にも因るが、溶液中に添加する還元剤は、溶液全体での含有量が質量%で、5~30質量%となるように添加することが好ましい。
【0033】
還元剤量は多い方が金属化合物の還元に有利であるが、噴霧熱分解法の場合、溶液の濃度の上昇を招き、噴霧が困難になる。溶液中に添加する還元剤量が上記範囲内であれば、たとえ還元しにくい金属化合物を用いた場合であっても、その多くを還元することができ、且つ、溶液の噴霧にも支障をきたさない。
また本発明においては、必要に応じて、上記還元剤の使用に加えて更に、微細な液滴を搬送するキャリアガスに還元性ガスを1~20体積%の範囲で含有することが好ましい。還元性ガスの例としては、水素、一酸化炭素、メタン、アンモニアガスから成る群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。溶液中に還元剤を含有させると共に、キャリアガスに還元性ガスを含ませることで、特に還元しにくい金属化合物を用いた場合でも、溶液中の還元剤量を増やすことなく、溶液の噴霧に支障をきたさずに容易に還元をコントロールしながら噴霧熱分解を行うことができる。
【0034】
本発明は、原料混合溶液から噴霧熱分解法により金属粉末を生成するものであるから、熱分解性金属化合物とガラス前駆体の各成分の組成、金属化合物に対するガラス前駆体の添加量を選択することにより目的とする表面にガラス質薄膜を有する金属粉末を得ることができる。熱分解性金属化合物とガラス前駆体との混合溶液中での合計含有量は、熱分解により当該金属化合物から生成される金属成分量と、熱分解により当該ガラス前駆体から生成される酸化物基準でのガラス成分量とに換算しての混合溶液中での両成分の合計濃度で500g/L未満であり、制御のし易さなどの観点から好適には20~100g/Lである。2種以上の金属を含む金属化合物あるいは2種以上の金属化合物を用いて2種以上の金属を含む金属粉末粒子を生成する場合には、前記の金属成分量は、熱分解でこれらの金属化合物から生成される合計金属成分量である。混合溶液中での金属化合物とガラス前駆体の混合比は、噴霧熱分解により得ようとする金属量成分に対する酸化物基準でのガラス成分量の質量比によって決められる。金属化合物から生成される金属成分量に対して、ガラス前駆体から生成される酸化物基準でのガラス成分量が0.1質量%より少ないと効果がない。一方、ガラス前駆体の添加量が過剰になると、ガラス前駆体から生成するガラスが金属粒子表面の一部のみに偏って生成され、粒子表面全体をガラス質薄膜で均一に被覆することが困難になる。それ故、生成するガラスの密度にもよるが、ガラス前駆体は、前記酸化物基準でのガラス成分量で、前記金属成分量に対して0.1~20質量%となるように添加するのが実用的であり、特には0.5~15質量%となるように添加するのが望ましい。本発明の製造方法は、均質なガラス質薄膜で表面全体が均一に被覆された金属粉末粒子を容易に得ることを可能にするものであるが、極く一部に実用上は問題とはならない程度の多少不均一なガラス質薄膜を備えた金属粉末粒子を製造することもある。本発明の製造方法で得られる金属粉末は実用上問題とはならないこのような粉末を除外するものではない。
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0036】
〔実験例1〕
表1に示す金属が得られるよう秤量した硝酸ニッケル六水和物、硝酸鉄を、同表に示した溶液中の金属成分濃度になるように水に溶解し、これに、表1に示すガラス成分[表中のガラス組成の数値は、酸化物に換算したときの合計質量数に対する含有割合を質量%で示したものである。また表中のガラス成分添加量は、金属成分量に対しての酸化物基準でのガラス成分量(質量%)であり、表2、3においても同様である。]が得られるよう秤量したテトラエチルオルソシリケート(TEOS)及び硝酸バリウムと、還元剤としてエチレングリコール(MEG)とを添加・混合して原料溶液を作製した。なお、表1並びに表2、3に示した溶液中の金属成分濃度(g/L)は、熱分解により金属化合物から生成する金属成分に換算しての、溶液1Lあたりの金属化合物含有量である。また、表1並びに表2、3に示した溶液中の還元剤量は溶液全体に対する還元剤の含有量(質量%)である。
この原料溶液を、超音波噴霧器を用いて微細な液滴とし、表1に示す流量の窒素ガスをキャリアとして、電気炉で1550℃に加熱されたセラミック管中に供給した。液滴は加熱ゾーンを通って加熱分解され、粉末の状態で捕集した。
【0037】
X線回折を行った結果、捕集した粉末はニッケル-鉄合金からなる粉末であり、それ以外の回折線は検出されなかった。また当該粉末を5%希塩酸で洗浄したところ、ニッケルや鉄が殆ど溶解していないにもかかわらず、洗浄後の粉末中の添加物量が大幅に減少した。
【0038】
図1は捕集した直後の当該粉末の粒子全体像を示すTEM像であり、当該粉末をエネルギー分散型X線分析(EDX)により図2中の矢印の方向にライン分析を行った結果を図3に示す。なお、図1に小粒径の粉末が見られるが、これらは必要に応じて分級処理を行うことにより、更に粒径の揃った粉末を得ることができる。
【0039】
また図5~9は、図4に示す当該粉末のTEM像からニッケル、鉄、バリウム、珪素、酸素の各元素でそれぞれマッピングした結果である。以上の分析から、当該粉末はニッケル-鉄合金粉末の表面に、珪素とバリウムが高濃度に生成され、X線的に非晶質で、均質なBaO-SiOガラスの状態で存在していることが示された。また図6に示される通り、ニッケル-鉄合金粉末の表面のガラス質薄膜中に鉄の存在が確認できた。
【0040】
表1に当該合金の融点(Tm)及び当該ガラス成分の混合酸化物について相平衡図から求めた液相温度(Tm)、元素マッピングによる面積から求めた粒子表面に対するガラス被覆率〔%〕と、TEM像から求めたガラス質薄膜厚〔nm〕を併記する。
【0041】
【表1】
【0042】
〔実験例2〕
ガラス成分を表1記載の通りとなるようにした以外は実験例1と同様にして、BaO-SiOガラス質薄膜で被覆されたニッケル-鉄合金粉末を得た。実験例1と同様に行った分析結果を表1に併記する。
【0043】
〔実験例3~17〕
各実験例において、金属組成、ガラス成分、ガラス成分の添加量及び溶液に添加する還元剤量[溶液全体に対する還元剤の含有量(質量%)]を表1記載の通りとなるようにした以外は実験例1、2と同様に、ガラス質薄膜で被覆されたニッケル-鉄合金粉末を得た。なお、ガラス成分のカルシウム源としては硝酸カルシウムを、また、マンガン源としては硝酸マンガンを、更にビスマス源としてはクエン酸ビスマスを使用した。実験例1と同様に行った分析結果を表1に併記する。
【0044】
なお実験例17は図10に示す通り、ガラス質薄膜が金属粉末の表面の一部のみに偏って生成されている様子が観察されたため、ガラス質薄膜厚の測定を行わなかった。実験例17では融点Tmと液相温度Tmとの差が大きいため、このような結果になったものと推測される。
【0045】
〔実験例18~21〕
各実験例において、金属成分として硝酸鉄を用い、溶液中の金属成分濃度、ガラス成分を表2に記載の通りになるようにし、キャリアガスに表2に示した還元剤を添加した以外は実験例1と同様にして、ガラス質薄膜で被覆された鉄粉末を得た。溶液中の還元剤量は前記と同様に溶液全体に対する還元剤の含有量(質量%)である。また、これらの実験例ではキャリアガスとしての窒素ガスに対し、表2に記載した量(体積%)の水素ガスと一酸化炭素を添加した。実験例1と同様に行った分析結果を表2に併記する。
【0046】
実験例19の鉄粉末の表面にガラス質薄膜厚が均一でない領域がごく僅かに見られたが、実用上は使用可能なものであった。
【0047】
【表2】
【0048】
〔実験例22~26〕
実験例1において、金属組成、溶液中の金属成分濃度、ガラス成分、及び溶液に添加する還元剤[溶液中の還元剤量は溶液全体に対する含有量(質量%)]を表3記載となるように変更した以外は実験例1と同様にしてガラス質薄膜で被覆された金属粉末を得た。なお、実験例22には還元剤としてテトラエチレングリコール(TEG)を用い、実験例23~25では実験例1と同様のMEGを用いた。実験例26では還元剤を用いなかった。実験例1と同様に行った分析結果を表3に併記する。
【0049】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11