(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】電気化学セル、電気化学セル用の支持体及び電気化学セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/63 20210101AFI20220901BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20220901BHJP
H01M 8/0273 20160101ALI20220901BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20220901BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20220901BHJP
C23C 4/10 20160101ALI20220901BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20220901BHJP
【FI】
C25B9/63
H01M8/1213
H01M8/0273
C25B1/23
C25B11/032
C23C4/10
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
(21)【出願番号】P 2018140934
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000231556
【氏名又は名称】日本精線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】加藤 之貴
(72)【発明者】
【氏名】沼田 優一
(72)【発明者】
【氏名】中島 慧人
(72)【発明者】
【氏名】高須 大輝
(72)【発明者】
【氏名】マリア カプリス アズセナ ネポムセノ
(72)【発明者】
【氏名】櫛 拓人
(72)【発明者】
【氏名】大井手 雄平
(72)【発明者】
【氏名】山際 勝也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正也
(72)【発明者】
【氏名】奥田 慎一
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-037329(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010435(WO,A1)
【文献】特開2017-174516(JP,A)
【文献】特開2016-195029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B
H01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有しかつ気体が通過不可能な金属材料からなる基体と、前記開口部を覆うように前記基体に配置され、かつ、気体が通過可能な材料からなる支持体と、前記支持体を覆うように前記支持体に対して第1の側に配置された酸化物層とを含む電気化学セルであって、
前記支持体は、耐熱性を有する金属繊維の焼結体であり、
前記支持体の外周縁側は、前記基体に、気体が通過不可能な接合部によって接合されており、
前記酸化物層は、前記支持体側から、拡散防止層、燃料極、電解質層及び空気極を順に含み、
前記拡散防止層は、前記酸化物層のうち最も前記支持体側に配置された層であり、
前記酸化物層は、前記支持体の全部を覆い、かつ、少なくとも、前記支持体及び前記接合部の境界である第1境界部を覆う層を含む、
電気化学セル。
【請求項2】
前記拡散防止層は、前記接合部の全部を覆い、かつ、少なくとも前記接合部及び前記基体の境界である第2境界部を覆う、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記酸化物層は、前記基体の前記第1の側の表面である第1面に延在し、
前記基体の前記第1面は、前記酸化物層で覆われていない非被覆部を含む、請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記
拡散防止層は、前記金属繊維の前記焼結体の空隙を橋渡しするように前記支持体の前記第1の側を覆う溶射層を含む、請求項1ないし3のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記酸化物層
の前記各層が溶射層である、請求項1ないし4のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記基体は、前記開口部の周囲に段差を有し、前記支持体の前記外周縁側が前記段差に載置されている、請求項1ないし5のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記接合部は、前記開口部の中心側に向かって、前記第1の側とは反対側の第2の側に傾斜しており、
前記接合部で囲まれた前記支持体の表面は、前記基体の前記第1の側の表面よりも前記第2の側に位置する、請求項1ないし6のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記第1境界部及び前記第2境界部の段差は、前記拡散防止層と前記燃料極との合計厚さよりも小さい、請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項9】
CO
2
を、COとO
2
に電気分解するためのものである、請求項1ないし8のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記支持体は、第1空隙率を有する第1領域と、前記第1空隙率よりも小さい第2空隙率を有する第2領域とを含み、前記第2領域は、前記第1領域と前記接合部との間に連続して形成されている、請求項1ないし9のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項11】
気体が通過可能な開口部を有する金属製の基体に、前記開口部を覆うように配置され、かつ、表面に酸化物層が載置される電気化学セル用の支持体であって、
前記酸化物層は、前記支持体側から、拡散防止層、燃料極、電解質層及び空気極を順に含み、
前記拡散防止層は、前記酸化物層のうち最も前記支持体側に配置された層であり、
前記支持体は、耐熱性を有する金属繊維の焼結体であり、
前記支持体は、第1空隙率を有する第1領域と、前記第1空隙率よりも小さい第2空隙率を有する第2領域とを含む、
電気化学セル用の支持体。
【請求項12】
請求項1ないし10のいずれかに記載の電気化学セルを製造するための方法であって、
前記支持体と前記基体とを接合した後に、前記酸化物層を形成する、電気化学セルの製造方法。
【請求項13】
前記支持体を、第1空隙率を有する第1領域と、前記第1領域よりも前記外周縁側に配されかつ前記第1空隙率よりも小さい第2空隙率を有する第2領域とを含んで形成し、
前記第2領域を前記基体に接合する、請求項12に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項14】
前記酸化物層を、前記支持体の上に、溶射によって形成する、請求項12又は13に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項15】
前記第1空隙率は、65%を超え、かつ、90%未満である、請求項10に記載の電気化学セル。
【請求項16】
前記第1空隙率は、65%を超え、かつ、90%未満である、請求項11に記載の電気化学セル用の支持体。
【請求項17】
前記第1空隙率は、65%を超え、かつ、90%未満である、請求項13に記載の電気化学セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル、電気化学セル用の支持体及び電気化学セルの製造方法に関し、詳しくは、固体酸化物形電気分解セルとして好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図9に示されるように、CO
2を還元してCOとO
2を生成し、CO
2の排出量を削減する能動的な炭素循環エネルギーシステム(ACRES:Active Carbon Recycling Energy System)が、例えば製鉄プロセスなどに利用されている。ACRESには、例えば、CO
2を還元するために、固体酸化物形電気分解セル(SOEC:Solid Oxide Electrolysis Cell)が用いられる。
【0003】
ACRESにおいて、SOECで生成されたCOは、還元剤として、製鉄原料であるFeOに供給される。これにより、FeとCO
2とが生成される。生成されたCO
2は、再び、SOECへ戻される。これらの一連のリサイクルフローは、大気中へのCO
2の排出削減及び還元剤であるCOの供給を両立し、製鉄市場への普及が期待されている。なお、
図9においてHTGRは高温ガス炉であり、PGはパワージェネレータである。
【0004】
SOECとして、例えば、固体酸化物を、セラミック電解質基板で支持したもの(CS-SOEC:Ceramic supported SOEC)が知られている。CS-SOECは、高い電解効率性能を有し、CO2の電気分解や、排熱を利用したH2Oの電気分解によるH2の生成等に広く利用されている(下記特許文献等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、大規模な炭素循環を効率良く行うためには、SOECを大型化し、大きな表面積を有する酸化物層及びそれを支持する支持体が必要になる。
【0007】
しかしながら、支持体の材料であるセラミックは高価であり、かつ、熱衝撃や機械衝撃に脆弱であるため壊れやすい。このような問題は、SOECの大型化に伴い顕著に現れる。したがって、セラミックの支持体は、大規模なSOECには適さないという問題があった。
【0008】
また、SOECは、気体の化学反応を利用するため、ガスリーク、すなわち、当該気体のセル外部への漏れが少ないことが本来的に要求される。
【0009】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、強度を確保しながらガスリークを抑制し、反応気体の還元効率等を高めうる電気化学セル、電気化学セル用の支持体及び電気化学セルの製造方法の提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、開口部を有しかつ気体が通過不可能な金属材料からなる基体と、前記開口部を覆うように前記基体に配置され、かつ、気体が通過可能な材料からなる支持体と、前記支持体を覆うように前記支持体に対して第1の側に配置された酸化物層とを含む電気化学セルであって、前記支持体は、耐熱性を有する金属繊維の焼結体であり、前記支持体の外周縁側は、前記基体に、気体が通過不可能な接合部によって接合されており、前記酸化物層は、前記支持体の全部を覆い、かつ、少なくとも、前記支持体及び前記接合部の境界である第1境界部を覆う層を含む。
【0011】
好ましい態様では、前記酸化物層は、最も前記支持体側に、前記接合部の全部を覆い、かつ、少なくとも前記接合部及び前記基体の境界である第2境界部を覆う層を含むことができる。
【0012】
好ましい態様では、前記酸化物層は、前記基体の前記第1の側の表面である第1面に延在し、前記基体の前記第1面は、前記酸化物層で覆われていない非被覆部を含むことができる。
【0013】
前記酸化物層は、最も前記支持体側の層として、前記金属繊維の前記焼結体の空隙を橋渡しするように前記支持体の前記第1の側を覆う溶射層を含むことができる。
【0014】
好ましい態様では、前記酸化物層は、前記支持体側から、拡散防止層、燃料極、電解質層及び空気極を順に含み、前記各層が溶射層とされても良い。
【0015】
好ましい態様では、前記支持体は、65%を超え、かつ、90%未満の空隙率を有することができる。
【0016】
好ましい態様では、前記基体は、前記開口部の周囲に段差を有し、前記支持体の前記外周縁側が前記段差に載置されても良い。
【0017】
好ましい態様では、前記接合部は、前記開口部の中心側に向かって、前記第1の側とは反対側の第2の側に傾斜しており、前記接合部で囲まれた前記支持体の表面は、前記基体の前記第1の側の表面よりも前記第2の側に位置することができる。
【0018】
好ましい態様では、前記酸化物層は、前記支持体側から、拡散防止層、燃料極、電解質層及び空気極を順に含み、前記第1境界部及び前記第2境界部の段差は、前記拡散防止層と前記燃料極との合計厚さよりも小さく形成されても良い。
【0019】
好ましい態様では、上記電気化学セルは、CO2を、COとO2に電気分解するために用いられても良い。
【0020】
好ましい態様では、前記支持体は、第1空隙率を有する第1領域と、前記第1空隙率よりも小さい第2空隙率を有する第2領域とを含み、前記第2領域は、前記第1領域と前記接合部との間に連続して形成されても良い。
【0021】
第2の発明は、気体が通過可能な開口部を有する金属製の基体に、前記開口部を覆うように配置され、かつ、表面に酸化物層が載置される電気化学セル用の支持体であって、前記支持体が、耐熱性を有する金属繊維の焼結体である。
【0022】
第2の発明において、好ましい態様では、前記支持体は、第1空隙率を有する第1領域と、前記第1空隙率よりも小さい第2空隙率を有する第2領域とを含むことができる。
【0023】
第3の発明は、請求項1ないし11のいずれかに記載の電気化学セルを製造するための方法であって、前記支持体と前記基体とを接合した後に、前記酸化物層を形成する、電気化学セルの製造方法である。
【0024】
好ましい態様では、前記支持体を、第1空隙率を有する第1領域と、前記第1領域よりも外周縁側に配されかつ前記第1空隙率よりも小さい第2空隙率を有する第2領域とを含んで形成し、前記第2領域を前記基体に接合することができる。
【0025】
好ましい態様では、前記酸化物層を、前記支持体の上に、溶射によって形成することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、酸化物層を支持するための支持体が、耐熱性を有する金属繊維の焼結体で構成される。このような支持体は、セラミックに比して安価であり、かつ、熱衝撃や機械衝撃に対して高い耐久性を具える。したがって、本発明の電気化学セルは、大規模なSOECに好適に利用できる。また、本発明の電気化学セルは、その支持体が高い強度を具えているので、例えば、SOEC自体の薄型化や、複数のSOECを積み重ねたスタックについても小型化が可能である。
【0027】
また、本発明の電気化学セルは、前記支持体が金属繊維の焼結体であるため、その内部に支持体の厚さ方向や平面方向にランダムに延びる複雑な流路が多数形成される。したがって、気体が前記支持体を通過する際に、支持体の内部のほぼ全体に満遍なく分散され、ひいては、気体を支持体から酸化物層側へ効率良く送り込むことが可能となる。その結果、酸化物層の例えば燃料極全体へ電子を均一に供給することができ、気体の反応効率を向上させることができる。他方、セラミックの支持体では、内部の空隙部分が離散的になりやすく、気体の分散効果に劣る。
【0028】
さらに、本発明の電気化学セルにおいて、前記支持体の外周縁側と基体とは、気体が通過不可能な接合部によって接合されている。このため、前記接合部でのガスリークが抑制される。
【0029】
また、本発明の電気化学セルにおいて、酸化物層は、前記支持体の全部を覆い、かつ、少なくとも、前記支持体及び前記接合部の境界である第1境界部を覆っている。このため、本発明の電気化学セルは、前記酸化物層によって、前記第1境界部からのガスリークを抑制することができる。したがって、本発明の電気化学セルは、気体の反応を効率的に行うことが可能であり、その結果、例えば、単位時間及び単位面積当たりの電気分解量(電気分解速度)を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態のSOECの平面図である。
【
図4】溶射層からなる拡散防止層の模式断面図である。
【
図5】(A)は支持体の段差を説明する要部拡大断面図、(B)は支持体の段差を説明する他の例の要部拡大断面図である。
【
図6】支持体と基体との接合工程を説明する断面図である。
【
図7】支持体と基体との接合後の状態を示す断面図である。
【
図9】ACRESの一例を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
[電気化学セルの構成]
図1は本発明の一実施形態の電気化学セル(以下、単に「セル」という場合がある。)1の平面図、
図2は
図1の底面図、
図3は
図1のIII-III線断面図である。本実施形態では、セル1がSOECとして使用される場合を説明する。
【0032】
図1~3において、本実施形態のセル1は、開口部Oを有する基体2と、開口部Oを覆うように基体2に配置された支持体3と、支持体3を覆うように支持体3に対して第1の側S1に配置された酸化物層4とを含む。なお、本明細書では、
図3に示されるように、支持体3を基準として、その酸化物層4側を前記第1の側S1とし、第1の側S1と反対側を第2の側S2として定義する。
【0033】
図3に示されるように、酸化物層4は、支持体3側から、例えば、拡散防止層4a、燃料極(カソード)4b、電解質層4c及び空気極(アノード)4dを順に含む。
【0034】
本実施形態のセル1は、SOECとして、様々な用途に利用できる。一例として、上述したCO
2の電気還元反応プロセス(ACRES)に好適に利用される。このプロセスでは、
図3に示されるように、セル1の空気極4dと燃料極4bとの間に電圧が印加される。また、セル1の第2の側S2には、CO
2が、例えばN
2等の不活性のキャリアガスとともに供給される。
【0035】
支持体3を通過したCO2は、燃料極4bで電子2e-を受け取り、COとO2-に分解される。燃料極4bで分離したO2-は、イオン伝導体である電解質層4cを通って空気極4dへ移動する。空気極4dでは、O2-が電子2e-を放出し、O2となる。このO2は、セル1の第1の側S1から外部へと排出される。O2-から放出された電子2e-は、電気分解の電気エネルギーとして再び燃料極4bへと送られる。
【0036】
次に、本実施形態の電気化学セル1の各構成要素の具体例について説明する。
【0037】
[基体]
基体2は、気体が通過不可能な金属材料から構成される。これにより、セル1に供給される気体が、基体2からリークするのを抑制できる。このような金属材料としては、気体を透過しない程度の緻密組織を有するものであれば、特に限定されることなく様々な金属材料が採用可能であり、例えば、ステンレス鋼等が好適である。とりわけ、オーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS316)やフェライト系ステンレス鋼(例えば、SUS430又はSUS430LX)などが好適である。
【0038】
本実施形態において、基体2は、例えば、内部を貫通する開口部Oが形成された円筒状に構成されている。ただし、基体2は、円筒状以外にも、矩形筒状でも良く、目的や用途に応じて種々の形状を採用することができる。基体2は、第1の側S1の端面に、第1面20を有する。基体2の第1面20は、例えば、支持体3の外周縁側を支える面として利用される。
【0039】
[支持体]
支持体3は、開口部Oを覆うように基体2に配置されている。支持体3は、気体が通過可能な材料として、耐熱性を有する金属繊維の焼結体で構成されている。耐熱性を有する金属繊維材料としては、例えば、セル1の使用環境温度(例えば、900℃程度)よりも高い融点を有する金属材料が望ましく、とりわけ、ステンレス鋼が好適であり、好ましくは、フェライト系ステンレス鋼(例えば、SUS430又はSUS430LX)などが好適である。特に好ましくは、支持体3を構成する金属繊維は、基体2と同じ金属材料であるのが望ましい。
【0040】
金属繊維の焼結体は、セラミックなどに比べて安価であり、かつ、熱衝撃や機械衝撃に対して優れた耐久性を具える。したがって、本実施形態の支持体3は、例えば、酸化物層4として大きな表面積が必要な大規模な炭素循環システム等に好適に利用できる。したがって、本実施形態のセル1は、大規模なSOECに好適に利用できる。また、本実施形態のセル1は、その支持体3が基体2の存在により高い強度を具えているので、例えば、SOEC自体の薄型化が可能になる。
【0041】
さらに、支持体3が金属繊維の焼結体であるため、その内部に支持体3の厚さ方向や平面方向にランダムに延びる複雑な流路が多数形成される。したがって、気体が支持体3を通過する際に、支持体3の内部のほぼ全体に満遍なく分散され、ひいては、気体を支持体3から酸化物層4側へ効率良く送り込むことが可能となる。その結果、酸化物層4の例えば燃料極全体へ電子を均一に供給することができ、気体の反応効率を向上させることができる。他方、セラミックの支持体では、内部の空隙部分が離散的になりやすく、気体の分散効果に劣る。
【0042】
本実施形態の支持体3は、金属繊維を焼結し、その焼結体を、例えば、冷間プレスによって塑性変形させることにより、所望のシート形状に成形される。これにより、本実施形態の支持体3は、第1の側S1の一方の面と第2の側S2の他方の面との間で気体が通過可能であり、かつ、強度に優れた多孔質シート体として構成される。支持体3の厚さは、特に限定されるものではないが、セル1の小型化及び軽量化を図るために、例えば、0.3~1.5mmの範囲とされるのが望ましい。
【0043】
気体通過時の圧力損失を低減しながら支持体3の強度を高めるために、支持体3の金属繊維間の平均開口径は、好ましくは1~100μmの範囲とされる。このような支持体3を得るために、金属繊維には、例えば、平均繊維径が1~100μmの範囲、かつ、平均繊維長が0.5~100mmの範囲のものが好適である。なお、金属繊維としては、短繊維又は長繊維のいずれであっても良いが、生産性の観点では長繊維が望ましい。
【0044】
[接合部]
支持体3の外周縁側と基体2とは、接合部5によって接合されている。本実施形態では、接合部5は、溶融金属の固化物である溶接部によって形成されている。より具体的には、接合部5は、基体2と支持体3とが相互に溶融しかつ固化した緻密な金属組織により形成されている。接合部5は、
図1に示されるように、支持体3の外周縁側で環状に連続して設けられている。このような接合部5は、本質的に中実組織を有し、この部分において、気体が通過不可能とされる。したがって、本実施形態のセル1は、接合部5からのガスリークが抑制される。
【0045】
[酸化物層]
本実施形態の酸化物層4は、支持体3を通過した気体を反応させるための層である。したがって、気体の反応効率を高めるために、酸化物層4は、
図1~3に示されるように、第1の側S1において、支持体3の全部(全面)を覆うように配置されている。また、酸化物層4は、支持体3の全部を覆うことに加え、少なくとも、支持体3及び接合部5の境界である第1境界部E1を覆う層を含んでいる。ここで、「第1境界部E1を覆う」とは、本実施形態のように、第1境界部E1が円周をなす場合、その周方向の全範囲に亘って第1境界部E1を覆うことを意味する。このため、本実施形態のセル1は、第1境界部E1からのガスリークを、酸化物層4の少なくとも1層による被覆によって抑制することができる。したがって、本実施形態のセル1では、気体の単位時間及び単位面積当たりの電気分解量(電気分解速度)を増加させることができる。酸化物層4は、通常、複数の層で構成されるが、ガスリークを抑制するという観点では、緻密な酸化物層の少なくとも一つの層が第1境界部E1を覆っていれば良い。一方、ガスリークをさらに抑制しながら、気体との反応効率をより高めるためには、酸化物層4を構成する全ての層が第1境界部E1を覆うことが望ましく、
図3にはこのような好ましい態様が示されている。
【0046】
さらに好ましい態様として、本実施形態の酸化物層4は、少なくとも最も支持体3側の層(本実施形態では拡散防止層4a)が、接合部5の全部を覆い、かつ、少なくとも接合部5及び基体2の境界である第2境界部E2を覆うように構成されている。このため、本実施形態のセル1は、第2境界部E2からのガスリークを、酸化物層4によって抑制することができる。したがって、本実施形態の電気化学セル1では、気体の単位時間、単位面積当たりの電気分解量(電気分解速度)をさらに高めることができる。
【0047】
また、本実施形態の酸化物層4は、気体が支持体3を経由して第1の側S1の面方向へほぼ均一かつ広範囲に拡散するため、有効電極面積を増加することも可能となる。
【0048】
本実施形態のセル1が単体のボタンセルとして利用される場合、酸化物層4は、基体2の第1面20の全部を覆うように配置されても良い。他の態様として、本実施形態のセル1がスタックとして利用される場合、酸化物層4は、基体2の第1の側S1の表面である第1面20に延在する場合でも、第1面20を完全に覆わないように構成される。これにより、基体2の第1面20は、酸化物層4で覆われていない非被覆部22を含む。この非被覆部22は、基体2同士を互いに接合するときの溶接箇所として好適に利用することができる。
【0049】
上述のように、本実施形態の酸化物層4は、支持体3側から、拡散防止層4a、燃料極(カソード層)4b、電解質層4c及び空気極(アノード層)4dを順に含む。
【0050】
[拡散防止層]
拡散防止層4aは、酸化物層4のうち最も支持体3側に配された層である。
図4に模式的に示されるように、本実施形態の拡散防止層4aは、支持体3の金属繊維3fの焼結体の空隙を橋渡しするように支持体3の第1の側S1に接触する溶射層(溶射については、後述する。)を含むことができる。この溶射層からなる拡散防止層4aは、支持体3の第1の側S1の表面を連続して覆うものであるが、支持体3の厚さ方向においては、表面側のみを覆うものである。このため、支持体3の第2の側S2には、金属繊維3f間に十分な空隙がそのまま確保され、上述の気体の効率的な分散を妨げることはない。
【0051】
本実施形態のセル1は、例えば、900℃程度の高温環境下で使用される。拡散防止層4aは、高温環境下において、熱膨張率の相違で発生する支持体3と燃料極4bとの間の応力を緩和し、剥離による破損を防止する。また、拡散防止層4は、基体2と燃料極4bとの間で拡散による金属原子の相互移動を防止する。拡散防止層4aには、例えば、アルカリ土類金属置換したクロム酸ランタン系ペロブスカイト材料であるLSCCr(La0.6Sr0.2Ca0.2CrO3)が用いられる。
【0052】
他の態様では、拡散防止層4aには、3価希土類により置換された酸化セリウム(希土類ドープドセリア)が採用されても良い。拡散防止層4aの平均厚さは、例えば、5~60μmの範囲が望ましい。
【0053】
上述のように、本実施形態の拡散防止層4aは、接合部5の全部を覆い、かつ、第2境界部E2を覆うように形成されている。
【0054】
[燃料極(カソード)]
燃料極4bは電極層であり、電子を受け取り、酸化物イオンを生成させる機能を有する。燃料極4bは、例えば、多孔質なNi-YSZからなり、イオン伝導性物質であるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)と、電子伝導性物質であるNiとを含むサーメットにより形成されている。
【0055】
イオン伝導性物質には、希土類ドープドセリアに置き換えた材料であっても良く、電子伝導性物質には、Co、Cu、Fe、Mn等で部分置換した材料が用いられても良い。
【0056】
燃料極4bの平均厚さは、例えば、5~70μmの範囲である。また、本実施形態の燃料極4bは、その外周縁が、第1境界部E1及び第2境界部E2を覆って、拡散防止層4a上に位置するように延在している。
【0057】
[電解質層]
電解質層(固体電解質層)4cは電極間でイオンを伝導する役割を果たす。また、電解質層4cは、緻密質の酸化物層であり、ガス雰囲気の隔壁としての機能を有する。したがって、酸化物層4において、少なくとも電解質層4cが、支持体3の全部を覆い、かつ、少なくとも、第1境界部E1を覆う層を構成することが望ましい。電解質層4cは、緻密な固体電解質材料(例えば、YSZ:Yttria-stabilized zirconia:イットリア安定化ジルコニア)からなる。ジルコニアを安定化させる置換種としては、Y以外の他の希土類元素でも良く、アルカリ土類金属で置換された安定化ジルコニアでも良い。電解質層4cの厚さが大きくなると、ガスリークを抑制しやすくなり、単位時間、単位面積当たりの電気分解量(電気分解速度)も大きくなる一方、電気分解に必要な抵抗が増加し電力が増加する。したがって、電解質層4cの厚さは、ガスリークが抑制できる範囲でなるべく小さいことが望ましい。このような観点より、電解質層4cの平均厚さ(すなわち、燃料極4bと空気極4dとの間の距離)は、例えば、5~330μmの範囲とされる。
【0058】
電解質層4cは、燃料極4bと空気極4dとが導通しないように、これらの間に位置するのみならず、それよりも下方に位置する燃料極4b及び拡散防止層4aを完全に覆うように形成されることが重要である。これにより、燃料極4bと空気極4dとの間で絶縁破壊や短絡が防止される。本実施形態の電解質層4cは、接合部5の全部を覆い、かつ、燃料極4bを越えて、基体2の第1面20上に位置するように延在している。このような電解質層4cは、燃料極4bの外周縁をも覆うことで、電気分解がなされていない状態の気体を燃料極4bの外周縁側から漏れ出すことを防止することも可能となる。
【0059】
[空気極(アノード)]
空気極4dは、電極層であり、酸化物イオンを酸素分子に変換し、電子を生成する機能を有する。空気極4dは、例えば、LSCF(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ)からなる。空気極4dは、イオン伝導性物質と、電子伝導性物質により構成される必要があり、それぞれの特性を兼ね備えた混合伝導性材料が用いられる。混合伝導性材料としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))等が挙げられる。空気極4dの平均厚さは、例えば、5~70μmの範囲とされる。
【0060】
本実施形態の空気極4dは、接合部5の全部を覆い、かつ、第2境界部E2を覆うように形成されているが、その外周縁は、電解質層4cを超えることなく、その手前で終端している。
【0061】
[セルの製造方法]
次に、本実施形態のセル1の好適な製造方法の一例が説明される。
【0062】
[基体の準備]
基体2は、機械加工、鋳造、鍛造、プレス等、様々な方法で形成される。
図5(A)には、基体2の第1面20の開口部O付近の要部拡大図が示されている。
図5(A)に示されるように、好ましい態様では、第1面20の開口部Oの周囲に、例えば、段差24が形成され、この段差24に、支持体3の外周縁側が載置される。段差24は、基体2に対して、支持体3を容易に位置決めするのに役立つ。また、支持体3は、段差24によって、安定的に基体2に保持されるので、例えば、両者を溶接(後述)により接合する際の作業性を向上させるのにも役立つ。段差は、
図5(A)に示されるように、第1面20と平行な面のみならず、
図5(B)に示されるように、開口部Oの中心側に向かって第2の側S2に角度θで傾斜する斜面を有するものでも良い。本実施形態では、
図5(B)の態様が採用されている。
【0063】
[基体と支持体との接合]
図6に示されるように、基体2の段差24に支持体3が仮置きされた後、基体2と支持体3の外周縁側とが溶接によって接合される。溶接は、例えば、レーザー溶接が好適である。本実施形態では、基体2と支持体3とにレーザービームLBが照射され、両者が溶融一体化し、かつ、固化する。これにより、
図7に示されるように、緻密な組織の溶接部、すなわち、接合部5が得られる。このような接合部5は、一般に滑らかな表面を呈するので、接合部5と酸化物層4との接着強度を高め、かつ、酸化物層4でのクラックの発生防止などにも役立つ。
【0064】
[接合部の傾斜]
図7に示されるように、本実施形態の接合部5は、開口部Oの中心側に向かって、第2の側S2に傾斜している。そして、接合部5で囲まれた支持体3は、基体2の第1の側S1の表面(第1面20)よりも第2の側S2に位置している。このような傾斜は、
図5(B)に示した基体2の段差24によって容易に形成される。好ましい態様では、支持体3及び接合部5の両方の表面は、基体2の第1面20よりも第2の側S2(図において低所)に位置する。
【0065】
[支持体の外周縁側の緻密組織]
焼結金属である多孔質の支持体3は、溶接時、熱が瞬時に伝わりやすいため、意図しない溶け落ちが生じる場合がある。したがって、支持体3と基体2との溶接には、熟練者による高い溶接技術が必要とされる。このような溶接作業を簡素化しつつ高い接合強度の接合部5を得るために、支持体3の外周縁側には、予め、空隙率が相対的に小さい領域(すなわち、相対的に緻密化された領域)を設けておくことが望ましい。なお、空隙率は、対象領域の見かけの総体積に対する空隙部分の体積の比で表される。
【0066】
図8には、上述のような支持体3の一例の平面図が示される。
図8に示されるように、支持体3は、第1空隙率を有する第1領域31と、第1空隙率よりも小さい第2空隙率を有する第2領域32とを含む。第2領域32は、例えば、支持体3の外周縁3eからある幅W1の範囲で環状に形成されている。
【0067】
支持体3の第1領域31は、相対的に高い空隙率を有するので、電気分解に必要な気体の通過及び気体の拡散促進を妨げない。一方、第2領域32は、相対的に低い空隙率を有するため、その金属組織が緻密化する。したがって、第2領域32を基体2と溶接する場合、支持体3(第2領域32)の意図しない溶け落ちなどが抑制され、比較的簡単に強度に優れた溶接継手を形成することができる。また、基体2と支持体3の第2領域32とを接合するため、両者の間での通電性が向上する。
【0068】
[第1領域]
好ましい態様では、支持体3において、第1領域31の第1空隙率は、例えば、65%を超え、かつ、90%未満とされる。第1空隙率が65%以下になると、流路抵抗が大きくなるため、気体の拡散促進が阻害されるおそれがある。逆に、第1空隙率が90%以上になると、支持体3としての剛性が低下するおそれがある。これらの観点より、より好ましい態様では、第1空隙率は、70%を超え、かつ、85%未満とされる。
【0069】
[第2領域]
支持体3の第2領域32は、例えば、製造工程において、金属繊維の焼結後、第1領域31よりも大きな圧縮率で冷間プレスされる。これにより、第2領域32は、第1領域31よりも小さい空隙率を有する。また、第2領域32は、第1領域31よりも小さい厚さで形成される。
【0070】
支持体3において、第2領域32の第2空隙率は、例えば、第1空隙率よりも小さければ良いが、好ましくは第1空隙率の65%未満が望ましい。これにより、第2領域32と基体2との溶接性が高められ、生産性が向上する。他方、第2空隙率が過度に小さくなると、第1領域31と第2領域32との境界近傍で剛性段差が生じ、その部分にクラックが発生しやすくなるなど、支持体3の強度低下を招くおそれがある。このような観点より、第2領域32の第2空隙率は、第1領域31の第1空隙率の50%以上、より好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上とされる。
【0071】
上記空隙率に関し、粉末を固めて製作したセラミック支持体や、多孔質金属基板に穿孔加工を施した支持体では、金属繊維の焼結体と比較して高空隙率の構造体とすることが難しい。具体的には、セラミックや多孔質金属基板の空隙率はせいぜい30%~40%程度であるが、金属繊維の焼結体では、それよりも大きできる。すなわち、比較的高空隙率の金属繊維の焼結体は、比較的低空隙率のセラミックや多孔質金属基板と比較して流路抵抗が小さい為、気体の拡散を促進させることができる。従って、高空隙率で製作可能な金属繊維焼結体を支持体3に採用することで、気体を支持体3から酸化物層4側へより効率良く送り込むことが可能となる。
【0072】
[接合部と第2領域との関係性]
図7に示されるように、本実施形態では、支持体3の第2領域32は、全て接合部5として利用されるのではなく、その一部が接合部5と第1領域31との間に残っている。本実施形態では、支持体3の周縁に、環状の第2領域32が残存している。もし、第2領域32が全て接合部5として溶接された場合、空隙率が大きい第1領域31と、本質的に中実な接合部5との境界近傍で形成されたより大きな剛性段差に応力が集中し、耐久性が低下する原因となる。本実施形態のように、第2領域32を、第1領域31と接合部5との間に介在させることにより、支持体3の空隙率を外周縁側に向かって段階的に小さくなるように変化させることができ、ひいては、支持体3への負荷を分散させることができる。これは、支持体3の耐久性を向上させるのに役立つ。
【0073】
また、好ましい態様では、第1境界部E1での段差及び第2境界部E2での段差(これらの段差は、いずれも
図7での上下方向の段差である)は、極力小さく構成されることが望ましい。特に、これらの段差は、拡散防止層4aと燃料極4bとの合計厚さよりも小さいことが望ましい。換言すると、接合部5と支持体3との境界、及び、接合部5と基体2との境界は、いずれも、非常に小さな凹凸がある程度であり、本質的に滑らかに構成されていることが望ましい。このような滑らかな面は、溶接によって接合部5を形成することで得られ、それを可能とすることが溶接の利点の1つでもある。これにより、接合部5と支持体3との境界である第1境界部E1、及び接合部5と基体2との境界である第2境界部E2を覆うように酸化物層4を形成した場合であっても、第1境界部E1や第2境界部E2での段差に起因して酸化物層4の内部でクラックが発生することを防止することができる。
【0074】
[接合部の変形例]
接合部5を得るための溶接方法としては、レーザー溶接以外にも、例えば、プラズマ溶接やTIG溶接など様々な方法が採用できる。また、接合部5は、溶接以外の方法で形成され得る、例えば、接合部5は、基体2と支持体3とが熱圧着により一体化された熱圧着部とされても良い。
【0075】
[酸化物層の製法]
酸化物層4は、例えば、全ての層が溶射によって形成された溶射層からなる。溶射は、前述のように、金属繊維の焼結体の空隙の上(第1の側S1)を橋渡し(ブリッジ)するように成膜することができるので、本実施の形態の支持体3のような空隙を有する金属繊維の焼結体上に均一な層を形成するのに適する。また、溶射であれば、空隙率が異なる第1領域31及び第2領域32に対しても、一度の施工で成膜が可能である。さらに溶射であれば、多孔質の酸化物層と緻密質の酸化物層とを作り分けることができる。例えば、拡散防止層4a、燃料極4b、空気極4dは多孔質の酸化物層であることが求められ、電解質層4cは緻密質の酸化物層であることが求められるが、溶射によってこれらの層を全て形成できる。
【0076】
また、表面が微細な凹凸を有する下地の上に成膜できる点も溶射の特徴の一つと言える。上記のように、空隙を有する金属繊維の焼結体への成膜は溶射が適しているが、その場合、残りの層も溶射で形成した方が有利である。例えば、酸化物層を形成するためにCVD層やPVD層を間に挟むとなると、下地面を平滑にするための研磨が必要になり、また、CVD層やPVD層の上に溶射するとなると下地面を粗面化する必要が出てくるため、工程が増えるほか、下地面が削れてしまう問題がある。また、溶射は、広い範囲を比較的高速で成膜できるので、製造効率が良く、比較的大面積の電気化学セルを作製するのに適している。溶射の態様としては、大気プラズマ溶射が特に好適であり、大気プラズマ溶射であれば、真空チャンバに非処理体を入れることなく施工が可能であるので寸法の制約が無い。但し、酸化物層4は、上記製法に限定されるものではなく、例えば、印刷焼付法、AD法又はスパッタ法などで成膜されても良い。
【0077】
[その他の態様等]
上記実施形態では、セル1は、電気エネルギー及び熱エネルギーを使用してCO2を電解するSOECを例にとり説明したが、例えば、H2OをH2とO2に電気分解するSOECとして適用されても良い。また、本実施形態のセル1は、H2とO2とを燃焼させて発電する固体酸化物形燃料電池(SOFC)などにも使用できるのは言うまでもない。
【0078】
また、セル1は、単体で使用されるのみならず、複数のセル1を積み重ねて作られたスタックとして利用されても良い。特に、製鉄業でのCO2還元には、10000m2オーダーのセル面積が望まれる。本実施形態のセル1によれば、酸化物層4の大面積化、スタック化で小型大面積セルスタックが構成可能である。同様に、本実施形態のセル1は、従来困難であったメガワット又はギガワットオーダーの電気出力を有するSOFC用のスタックにも応用できる。
【0079】
以上、本発明のいくつかの実施形態が説明されたが、本発明は、本明細書において開示された特定の実施形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載された発明思想に含まれる全ての改造例、均等例及び変形例を含む。
【実施例】
【0080】
本発明の効果を確認するために、以下の具体的な実験が行われた。ただし、本発明は、このような具体例に限定して解釈されるものではない。
【0081】
図1~3の基本構造を有する電気化学セルが、表1の仕様に基づいて試作され(実施例、比較例)、それらを用いて、CO
2の電気分解反応試験が行われた。なお、実施例及び比較例の比較では、支持体の構造及び電解質層の厚さのみを異ならせた。
【0082】
[比較例1]
比較例1の支持体は、以下の仕様を有する多孔質金属基盤に、ドリルで多数の貫通孔を空けたものである。
基盤の形状:円形(直径20mm×厚さ1.0mm)
基盤の材料:SUS430
貫通孔:直径0.5mm、ピッチ1.0mm
【0083】
[実施例1-3]
実施例1-3の支持体は、耐熱性を有する金属繊維の焼結体からなる。詳細な共通仕様は、次のとおりである。
金属繊維の材料:SUS430
金属繊維の平均繊維径:8μm
金属繊維の平均繊維長:30μm
金属繊維の平均開口径:20μm
支持体の第1領域の厚さ:1mm
【0084】
試験では、セルの基体の第2の側S2(カソード側)に気密にアルミナチューブが接続され、このチューブを介してセルの第2の側S2に、CO2とキャリアガスN2が供給された。電気分解反応では、カソード側で、COとO2-が生成され、CO、未反応CO2及びキャリアガスN2は、いずれもガス分析装置へ送られた。セルの基体の第1の側S1(アノード側)にも、気密にアルミナチューブが接続された。アノード側では、O2-が電解質層を移動し、電位を受け取ってO2が生成され、O2は、キャリアガスN2とともに、ガス分析装置へと送られた。試験装置での反応温度は800℃とされた。また、セルには、参照電極として、Pt線が溶接された。
【0085】
試験結果として、評価パラメータは、次のとおりである。
【0086】
<リーク率>
カソード側で測定されるアノード側から流入したN2の流入率が測定された。すなわち、リーク率は、アノード側からカソード側に流入した窒素物質量(mol)を、カソード側アルゴン物質量(mol)及びアノード側からカソード側に流入した窒素物質量(mol))の合計量で除すことにより計算された。数値が小さいほど、ガスリークが小さく、良好であることを示す。
【0087】
<電流密度>
カソード-アノード間を流通する電極1cm2あたりの電流値であり、数値が大きいほど好ましい。
【0088】
<CO又はO2生成速度>
電気分解によるCO又はO2の生成速度であり、数値が大きいほど好ましい。
【0089】
テストの結果などを表1に示す。
【0090】
【0091】
表1から明らかなように、CO生成速度に関し、電解質層が同一厚さの比較例1及び実施例1を比較すると、実施例1は比較例1に対し1.8倍の向上が見られた。O2生成速度も同様であった。
【0092】
電流密度に関しても、実施例1は比較例1に比べて約2.5%向上していることがわかった。これは、実施例1の支持体が数十ミクロンオーダーでカソード面全体に均一に電子を供給でき、効率良く電気分解が進んだ結果と考えられる。一方、比較例1では、貫通孔が分散し、カソード面への電子供給に偏在があったため、電流密度が低下したと考えられる。
【0093】
実施例1~3を比較すると、電解質層が厚くなるほどリーク率が小さくなっている(9.70%→3.81%)ことがわかる。これに伴い、電解質層が厚くなるほどCO生成速度も向上している(0.63μmol・s-1・cm-2→1.05μmol・s-1・cm-2)。このように、電解質層を厚くすることにより、反応気体のセル間の漏洩、再反応が減り、効率よくCO、O2の生成が進行することがわかる。
【0094】
比較例1及び実施例1の比較では、第1領域の空隙率が大きくなると、セル電気抵抗が小さくなり、電流密度が向上する。このため、CO、O2ともに、実施例1は比較例1よりも高い電気分解速度を得た。これは、次の理由によるものである。
a)金属繊維を支持体として基体と溶接により接合部を形成することで、通電性および均一性といった電気分解における電子伝導性が全体的に向上して未反応気体量減少に寄与する。
b)カソード側の金属繊維が拡散防止層及びカソードとμmの単位で緻密にかつセル全域に接合され、電気分解におけるセル全域に電流が供給され、かつ、全域で
CO2→CO+0.5O2
の反応が進行し、未反応気体量減少に寄与する。
【0095】
すなわち、気体の面方向への拡散が促進されるといった有効電極面積をフルに活用した電気分解の仕組が確立された結果である。
【0096】
なお、試験の前後において、セルの断面をデジタル顕微鏡で観察したが、支持体や接合部のクラックや破損の異常は確認されなかった。
【符号の説明】
【0097】
1 電気化学セル
2 基体
3 支持体
3e 外周縁
4 酸化物層
4a 拡散防止層
4b 燃料極
4c 電解質層
4d 空気極
5 接合部
20 第1面
22 非被覆部
24 段差
31 第1領域
32 第2領域
E1 第1境界部
E2 第2境界部
O 開口部
S1 第1の側
S2 第2の側