(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】非接触伝送用断熱材及び非接触伝送用断熱材を介した非接触伝送方法
(51)【国際特許分類】
H01F 38/14 20060101AFI20220901BHJP
B32B 3/10 20060101ALI20220901BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20220901BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20220901BHJP
H02J 50/12 20160101ALI20220901BHJP
H02J 50/80 20160101ALI20220901BHJP
H04B 5/02 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
H01F38/14
B32B3/10
B32B7/027
B32B15/04 Z
H02J50/12
H02J50/80
H04B5/02
(21)【出願番号】P 2018083317
(22)【出願日】2018-04-24
【審査請求日】2021-03-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・発行日:平成29年10月25日 刊行物:第61回宇宙科学技術連合講演会講演集(DVD-ROM)、一般社団法人 日本航空宇宙学会 ・論文番号JSASS-2017-4571、3G07 原子力レスで越夜可能な月面探査ローバの実現に向けた熱制御技術の研究 ・論文番号JSASS-2017-4572、3G08 月面探査用ローバへの非接触電力伝送に関する研究 ・開催日:平成29年10月27日 集会名:第61回宇宙科学技術連合講演会
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 洸輔
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 修平
(72)【発明者】
【氏名】本田 さゆり
(72)【発明者】
【氏名】畠中 龍太
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/145659(WO,A1)
【文献】特開2009-188076(JP,A)
【文献】特開2018-006674(JP,A)
【文献】特開2008-294385(JP,A)
【文献】特開2016-156412(JP,A)
【文献】特開平08-230099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/14
H04B 5/02
H02J 50/80
H02J 50/12
B32B 3/10
B32B 15/04
B32B 7/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、
前記基材層の第1面に設けられた第1金属層と、
を有し、
前記第1金属層には第1金属非被覆部が形成された断熱フィルム
と、
前記断熱フィルムを厚さ方向に挟んで、互いに対向するように配置され、互いの間で磁界を利用した電力又は信号の伝送を行う送電部及び受電部と、
を備える非接触伝送用断熱材。
【請求項2】
基材層と、
前記基材層の第1面に設けられた第1金属層と、
を有し、
前記第1金属層には第1金属非被覆部が形成された断熱フィルムを
複数備
え、
前記複数の断熱フィルムは、前記断熱フィルムの厚さ方向に積層されている非接触伝送用断熱材。
【請求項3】
前記第1金属非被覆部は、前記第1金属層の平面視において、所定の位置で密に形成され、前記所定の位置から離間するに従い漸次、疎になるように形成されている請求項1
又は2に記載の非接触伝送用断熱材。
【請求項4】
前記第1金属非被覆部は、前記第1金属層に複数形成され、
前記複数の第1金属非被覆部は、それぞれスリット状に形成され、
互いに間隔を空けて平行になるように配置されているか、格子状に配置されている請求項1
又は2に記載の非接触伝送用断熱材。
【請求項5】
前記第1金属非被覆部は、前記第1金属層に複数形成され、
前記複数の第1金属非被覆部は、それぞれスリット状に形成され、前記断熱フィルムの厚さ方向に見たときに放射状に配置されている請求項1
又は2に記載の非接触伝送用断熱材。
【請求項6】
前記断熱フィルムは、前記基材層における前記第1面とは反対側の第2面に設けられた第2金属層を備え、
前記第2金属層には第2金属非被覆部が形成され、
前記第1金属層の前記第1金属非被覆部及び前記第2金属層の前記第2金属非被覆部は、前記断熱フィルムの厚さ方向に互いに重ならない部分が形成されるように配置されている請求項1
から5のいずれか一項に記載の非接触伝送用断熱材。
【請求項7】
基材層と、
前記基材層の第1面に設けられた第1金属層と、
前記基材層における前記第1面とは反対側の第2面に設けられた第2金属層と、
を有する断熱フィルムを備え、
前記第1金属層には第1金属非被覆部が形成され、
前記第2金属層には第2金属非被覆部が形成され、
前記第1金属層の前記第1金属非被覆部及び前記第2金属層の前記第2金属非被覆部は、前記断熱フィルムの厚さ方向に互いに重ならないように配置されている非接触伝送用断熱材。
【請求項8】
基材層と、
前記基材層の第1面に設けられた第1金属層と、
を有し、
前記第1金属層には第1金属非被覆部が形成された断熱フィルムを備える非接触伝送用断熱材
を用いた非接触伝送方法であって、
前記断熱フィルムを厚さ方向に挟んで、互いに対向するように配置された送電部と受電部との間の磁界を利用した電力又は信号の伝送を、前記送電部から前記受電部に供給された電力又は信号を電子機器に供給し、かつ、前記電子機器を外部環境から断熱するために用いる非接触伝送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触伝送技術による電力供給技術及び信号の伝送技術と、金属層を有する断熱フィルムによる断熱技術と、を両立させた非接触伝送用断熱材及び、この非接触伝送用断熱材を用いた非接触伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
将来的な月面や火星表面の探査においては、探査ローバは越夜をすること(長期間の日陰において各搭載機器の許容温度下限を担保し、日陰が明けて日照となった際に各搭載機器が正常に動作復帰すること)が求められる。エネルギー資源の少ない月及び火星等の地面上で越夜をする場合には、これまでは必ずラジオアイソトープヒーター(RHU)又は原子力電池(RTG)等の原子力を利用した装置が使用されてきた(例えば、非特許文献1及び2参照)。
【0003】
ただし、日本で宇宙分野においてRHU又はRTGを利用することは、原子力に関わる法規制や国内情勢、技術実績等の面で、非常に困難であると思われる。一方で、国際的には、越夜を想定した月及び火星等におけるミッションが多く立案されている。それらのミッションに日本が参画するためには、原子力を使用しないで越夜する技術が求められる。原子力を使用しない場合、月及び火星等における夜間の保温用熱源は、バッテリのみとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】“TECHNICAL ASPECTS OF SPACE NUCLEAR POWER SOURCES VII. Radioisotope Heater Units”, Leopold Summerer ESA Advanced Concepts Team, 18th December 2006 (version 1)
【文献】“NASA Technology Roadmaps TA 3: Space Power and Energy Storage”, National Aeronautics and Space Administration
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バッテリのみで原子力と同等の越夜に必要な保温のための熱量を確保しようとすると、膨大な量のバッテリが必要になる。従って、探査ローバから外部環境へ逃げていく熱を極力少なくすることで、越夜に必要な熱量を減少させる必要がある。
【0006】
一般的に、探査ローバが備える電子的な機器等が設置されている構体の外面は、多層断熱材(MLI)で覆われている。MLIは、数μm厚のポリエステル又はポリイミド製の基材層の両面又は片面に、アルミニウム等の金属を数μm~数十μmほど蒸着して形成した金属層を設けた断熱フィルムを複数層重ねて構成されている。金属層が赤外線による輻射熱を反射することにより、MLI内の機器等が外部環境から断熱される。
バッテリ等は、MLIで覆われた構体の内部に配置されている。
【0007】
原子力と同等の越夜に必要な保温のためには、MLIを用いた断熱だけでは限界があり、ヒーターを用いた保温が必要となる。そのためには、ヒーターの電力源ともなるバッテリに充電することが必要になる。しかしながら、バッテリと探査ローバの外部の電源とを伝送線で直接接続すると、その伝送線を通じて構体内部の熱が外部へと逃げてしまう。伝送線を伝わって逃げていく熱を無くすため、非接触伝送技術を用いて電力伝送や通信を行う事を提案する。
しかし、非接触伝送技術を用いて電力伝送や通信を行うときに、伝送を行うコイル間にMLIが存在すると、そのMLIを構成する断熱フィルムの金属層に渦電流が発生して、非接触伝送による伝送効率が低下するという問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するものであって、断熱フィルムによる断熱性能を従来と同等に維持しつつ、断熱フィルムを挟んだ磁界を利用した非接触伝送による電力又は信号の伝送を実現することができる非接触伝送用断熱材及び、この非接触伝送用断熱材を用いた非接触伝送方法を提供することを目的とする。本非接触伝送用断熱材は、電力及び通信/信号の伝送を非接触で行うため、伝送線を必要としない。従って、各搭載機器を載せた探査ローバの構体から外部搭載機器(太陽電池や車輪等)へ、伝送線を伝わって逃げていく熱量を無くすことが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の非接触伝送用断熱材は、基材層と、前記基材層の第1面に設けられた第1金属層と、を有し、前記第1金属層には第1金属非被覆部が形成された断熱フィルムと、前記断熱フィルムを厚さ方向に挟んで、互いに対向するように配置され、互いの間で磁界を利用した電力又は信号の伝送を行う送電部及び受電部と、を備えることを特徴としている。
この発明によれば、例えば、断熱フィルムを厚さ方向に挟んで、互いに対向するように送電部及び受電部を配置する。ここで言う送電部及び受電部は、電力伝送又は信号の伝送のどちらか一方、又は双方を行ってもよい。
送電部及び受電部がコイルを備える場合には、送電部に交流電流が供給されると、送電部から出た磁束により、第1金属層に渦電流が生じる。第1金属層に生じた渦電流から発生する磁束は、送電部から出た磁束を打ち消す方向に生じる。しかし、第1金属層に第1金属非被覆部が形成されているため、第1金属層に生じる渦電流の径は小さくなり、送電部から出た磁束を打ち消す力が弱くなる。従って、送電部から出た磁束は、密度が大きく低下することなく効率的に受電部に達する。磁束が両コイルの中心を通ると、電磁誘導により両コイルにそれぞれ電圧が生じて電流が流れる(以下、この現象を電力の供給又は信号の伝送と言う)。従って、第1金属層を有する断熱フィルムを挟んだ場合でも、送電部と受電部との間で磁界を利用した電力又は信号の伝送を実現することができる。
また、例えば、第1金属非被覆部の面積を第1金属層の面積に対して極僅かにすることにより、断熱フィルムによる断熱性能を従来と同等に維持することができる。
また、断熱フィルムを挟んだ磁界を利用した電力伝送を、より簡単に実現することができる。
【0010】
本発明の他の非接触伝送用断熱材は、基材層と、前記基材層の第1面に設けられた第1金属層と、を有し、前記第1金属層には第1金属非被覆部が形成された断熱フィルムを複数備え、前記複数の断熱フィルムは、前記断熱フィルムの厚さ方向に積層されていることを特徴としている。
この発明によれば、複数の断熱フィルムの第1金属層により、断熱性能を高めることができる。
【0011】
また、上記の非接触伝送用断熱材において、前記第1金属非被覆部は、前記第1金属層の平面視において、所定の位置で密に形成され、前記所定の位置から離間するに従い漸次、疎になるように形成されていてもよい。
この発明によれば、例えば送電部がコイルを備える場合には、所定の位置とコイルの中心軸とが一致するようにコイルを配置する。このとき、コイルから出た磁束により、第1金属層には、前記所定の位置を中心とした渦電流が生じる。しかし、第1金属非被覆部により、第1金属層に生じる渦電流の強さは、所定の位置に向かうに従い小さくなる。そして、所定の位置に向かうに従い、送電部から出た磁束を打ち消す力が弱くなる。従って、送電部と受電部との間の電力伝送を効率的に行うことができる。
【0012】
また、上記の非接触伝送用断熱材において、前記第1金属非被覆部は、前記第1金属層に複数形成され、前記複数の第1金属非被覆部は、それぞれスリット状に形成され、互いに間隔を空けて平行になるように配置されているか、格子状に配置されていてもよい。
この発明によれば、第1金属層に複数の第1金属非被覆部を容易に設けることができる。
【0013】
また、上記の非接触伝送用断熱材において、前記第1金属非被覆部は、前記第1金属層に複数形成され、前記複数の第1金属非被覆部は、それぞれスリット状に形成され、前記断熱フィルムの厚さ方向に見たときに放射状に配置されていてもよい。
この発明によれば、例えば送電部がコイルを備える場合には、放射状の形状の中心とコイルの中心軸とが一致するようにコイルを配置する。このとき、コイルから出た磁束により、第1金属層には、前記放射状の形状の中心を中心とした渦電流が生じる。しかし、スリット状の複数の第1金属非被覆部により、第1金属層に生じる渦電流の径は小さくなり、送電部から出た磁束を打ち消す力が弱くなる。従って、送電部と受電部との間の電力伝送を効率的に行うことができる。
【0014】
また、上記の非接触伝送用断熱材において、前記断熱フィルムは、前記基材層における前記第1面とは反対側の第2面に設けられた第2金属層を備え、前記第2金属層には第2金属非被覆部が形成され、前記第1金属層の前記第1金属非被覆部及び前記第2金属層の前記第2金属非被覆部は、前記断熱フィルムの厚さ方向に互いに重ならない部分が形成されるように配置されていてもよい。
この発明によれば、第1金属層の第1金属非被覆部を通過して厚さ方向に進んで第2金属層に向かう赤外線は、第2金属層における第2金属非被覆部が形成されていない部分で反射される。従って、断熱フィルムの断熱性能を従来と同等に維持することができる。
【0015】
本発明の別の他の非接触伝送用断熱材は、基材層と、前記基材層の第1面に設けられた第1金属層と、前記基材層における前記第1面とは反対側の第2面に設けられた第2金属層と、を有する断熱フィルムを備え、前記第1金属層には第1金属非被覆部が形成され、前記第2金属層には第2金属非被覆部が形成され、前記第1金属層の前記第1金属非被覆部及び前記第2金属層の前記第2金属非被覆部は、前記断熱フィルムの厚さ方向に互いに重ならないように配置されていることを特徴としている。
【0016】
また、本発明の非接触伝送方法は、基材層と、前記基材層の第1面に設けられた第1金属層と、を有し、前記第1金属層には第1金属非被覆部が形成された断熱フィルムを備える非接触伝送用断熱材を用いた非接触伝送方法であって、前記断熱フィルムを厚さ方向に挟んで、互いに対向するように配置された送電部と受電部との間の磁界を利用した電力又は信号の伝送を、前記送電部から前記受電部に供給された電力又は信号を電子機器に供給し、かつ、前記電子機器を外部環境から断熱するために用いることを特徴としている。
この発明によれば、送電部と受電部との間の磁界を利用した電力又は信号の伝送では、送電部と受電部とを離間させることができる。断熱フィルムを厚さ方向に挟むように送電部及び受電部を配置して、送電部から受電部に供給された電力又は信号がさらに供給される電子機器を外部環境から断熱することにより、送電部と受電部との間の磁界を利用した電力又は信号の伝送を、電力の供給又は信号の伝送だけでなく、電子機器の断熱にも有効に用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の非接触伝送用断熱材及び非接触伝送方法によれば、断熱フィルムによる断熱性能を従来と同等に維持しつつ、断熱フィルムを挟んだ磁界を利用した電力又は信号の伝送を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態の非接触伝送用断熱材が用いられる探査ローバを模式的に示す一部を破断した正面図である。
【
図2】従来のMLI及び非接触伝送用MLIを分解した縦断面図である。
【
図3】同探査ローバが備える非接触伝送用MLIの縦断面図である。
【
図4】同非接触伝送用MLIを従来のMLIに取付けた状態の平面図である。
【
図5】同非接触伝送用MLIの非接触伝送用断熱フィルム1層の横断面図である。
【
図6】同非接触伝送用断熱フィルムの平面図である。
【
図7】変形例の非接触伝送用断熱フィルムの平面図である。
【
図9】本発明の第1実施形態の変形例における非接触伝送用MLIの平面図である。
【
図10】本発明の第2実施形態の探査ローバを模式的に示す一部を破断した正面図である。
【
図11】周波数に対する電力伝送効率を測定した実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る非接触伝送用断熱材の第1実施形態を、適用対象を探査ローバとした場合を例にとって、
図1から
図8を参照しながら説明する。
図1に示すように、探査ローバ1は、各搭載機器を内包する構体11と、本実施形態の非接触伝送部(非接触伝送用断熱材)16と、太陽電池36と、駆動モータ(駆動部)46と、制御部(電子機器)51と、を備えている。
タイヤ12は、支持板37で支持されたシャフト12aにより回転可能に支持されている。タイヤ12は、月及び火星等の地面Gに接触している。
【0020】
構体11は、例えば箱状に形成されている。構体11の上部には、貫通孔11aが形成されている。
図1及び
図2に示すように、構体11は、従来のMLI13により外側から覆われている。MLI13は、公知の構成のものである。なお、
図2では、後述するMLI13及び非接触伝送用MLI17を分解して示していて、MLI13と非接触伝送用MLI17とを糸28により縫合する構成は示していない。
図2に示すように、MLI13は、例えば、基層13cと、金属層13dとが積層されて構成されている。
基層13cは、ポリエステルフィルムやポリイミドフィルム等の電気的絶縁性を有する材料でシート状に形成されている。金属層13dは、アルミニウム等の金属でシート状に形成されている。
基層13cの両面に金属層13dが設けられ、従来の断熱フィルム13eが構成される。
厚さ方向に隣り合う断熱フィルム13eの間には、間隔保持部材27が配置されていてもよい。間隔保持部材27は、例えばポリエステルネットで形成されている。
【0021】
図1に示すように、MLI13の一部分には、MLI13を構成する各層を上下方向に貫通する貫通孔13aが形成されている。貫通孔13aは、平面視で矩形状に形成されている。
MLI13に対する貫通孔13aの面積比(後述する非接触伝送用MLI17の面積比)は、小さい。この面積比は、例えば数%程度である。
【0022】
非接触伝送部16は、非接触伝送用MLI17と、給電コイル(送電部)18と、受電コイル(受電部)19と、を備えている。構体11の内部には、例えば後述する整流回路40、PCU41、バッテリ42、及び制御部51等が搭載されている。
図2及び
図3に示すように、非接触伝送用MLI17は、非接触伝送用断熱フィルム(断熱フィルム)22が、非接触伝送用断熱フィルム22の厚さ方向に複数積層されて構成されている。
例えば、非接触伝送用断熱フィルム22は、
図4に示す平面視で矩形状に形成されている。なお、非接触伝送用断熱フィルム22の平面視における形状は矩形状に限定されず、六角形状等の多角形状や円形状等でもよい。
【0023】
図2、
図5及び
図6に示すように、例えば非接触伝送用断熱フィルム22は、基材層23と、第1金属層24と、第2金属層25と、を備えている。
基材層23は、基層13cと同様に構成されている。基材層23の厚さは、例えば9μm(マイクロメートル)である。
第1金属層24は、アルミニウム、銀等の金属でシート状に形成されている。金属層24,25は、例えば蒸着により形成されている。なお、基材層23に、圧延などによりシート状に形成された金属層24,25を貼り付けて、非接触伝送用断熱フィルム22を構成してもよい。第1金属層24には、第1金属層24を厚さ方向に貫通する第1金属非被覆部24aが複数形成されている。なお、第1金属層24における複数の第1金属非被覆部24a以外の部分が、金属蒸着部である。
各第1金属非被覆部24aは、それぞれスリット状(細長い切り込み状)に形成されている。複数の第1金属非被覆部24aは、互いに間隔を空けて、互いに平行又は格子状になるように配置されている。第1金属非被覆部24aは、基材層23の第1面23aに設けられている。第1金属非被覆部24aは、基材層23の第1面23aを被覆していない。
第1金属非被覆部24aは、基材層23の第1面23aに沿って第1金属層24の各端まで延びていることが好ましい。第1金属層24に形成される第1金属非被覆部24aの数は複数に限定されず、1つでもよい。
【0024】
図5に示すように、第2金属層25は、第1金属層24と同様に構成されている。第2金属層25には、第2金属層25を厚さ方向に貫通する第2金属非被覆部25aが複数形成されている。各第2金属非被覆部25aは、それぞれスリット状に形成されている。複数の第2金属非被覆部25aは、互いに間隔を空けて、互いに平行又は格子状になるように配置されている。第2金属層25は、基材層23における第1面23aとは反対側の第2面23bに設けられている。第2面23bは、基材層23における第1面23aとは反対側の面である。第2金属非被覆部25aは、基材層23の第2面23bを被覆していない。
第2金属非被覆部25aは、基材層23の第1面23aに沿って第2金属層25の各端まで延びていることが好ましい。第2金属層25に形成される第2金属非被覆部25aの数は複数に限定されず、1つでもよい。
【0025】
第1金属層24の第1金属非被覆部24a及び第2金属層25の第2金属非被覆部25aは、厚さ方向に互いに重ならない部分が形成されるように配置されていることが好ましい。すなわち、第2金属層25において第1金属非被覆部24aに対して厚さ方向に対向する部分には、第2金属非被覆部25aは形成されていない。同様に、第1金属層24において第2金属非被覆部25aに対して厚さ方向に対向する部分には、第1金属非被覆部24aは形成されていない。ただし、金属非被覆部24a,25aを格子状に配置した場合等では、第1金属非被覆部24a及び第2金属非被覆部25aが厚さ方向に重なる部分が生じることがある。
金属層24,25の厚さは、例えばそれぞれが25nm以上100nm以下である。
【0026】
なお、
図7に示す非接触伝送用断熱フィルム22Cのように、スリット状に形成された複数の第1金属非被覆部24aが、厚さ方向に見たときに格子状に配置されていてもよい。
非接触伝送用断熱フィルム22Cでは、複数の第1金属非被覆部24aの一部が、基材層23の第1面23aに沿う方向に延びるように形成されている。そして、複数の第1金属非被覆部24aの残部が、基材層23の第1面23aに沿い、かつ複数の第1金属非被覆部24aの一部が延びる方向と直交する方向に延びるように形成されている。
【0027】
図8に示すように、非接触伝送用MLI17において、厚さ方向に隣り合う非接触伝送用断熱フィルム22の間には、間隔保持部材27が配置されていてもよい。以下では、厚さ方向に隣り合う非接触伝送用断熱フィルム22の一方を非接触伝送用断熱フィルム(第1非接触伝送用断熱フィルム)22A、他方を非接触伝送用断熱フィルム(第2非接触伝送用断熱フィルム)22Bとも言う。
非接触伝送用断熱フィルム22A,22Bのうち、間隔保持部材27を介して対向する(又は互いに接触する)非接触伝送用断熱フィルム22Aの第1金属層24の第1金属非被覆部24a及び非接触伝送用断熱フィルム22Bの第2金属層25の第2金属非被覆部25aは、厚さ方向に互いに重ならないように配置されていることが好ましい。なお、非接触伝送用断熱フィルム22Aの第1金属非被覆部24a及び非接触伝送用断熱フィルム22Bの第1金属非被覆部24aは、厚さ方向に互いに重なっていてもよい。非接触伝送用断熱フィルム22Aの第2金属非被覆部25a及び非接触伝送用断熱フィルム22Bの第2金属非被覆部25aは、厚さ方向に互いに重なっていてもよい。
【0028】
図4に示すように、非接触伝送用MLI17の中央部は、MLI13の貫通孔13a内に配置されている。MLI13における貫通孔13aの開口周縁部と非接触伝送用MLI17の外縁部とは、宇宙用の糸28等により縫合されている。なお、MLI13における貫通孔13aの開口周縁部と非接触伝送用MLI17の外縁部とは、アルミニウム蒸着テープ等により接続されてもよい。
なお、図示はしないが、コイル18,19とは別に、非接触伝送用MLI17を厚さ方向に挟むように一対のコイルを配置し、これら一対のコイルを用いた電磁結合により通信(信号の伝送)を行ってもよい。
【0029】
また、MLI13に、貫通孔13aとは別の貫通孔を形成し、MLI13におけるこの別の貫通孔の開口周縁部に非接触伝送用MLI17と同様に構成された別の非接触伝送用MLIを取付けてもよい。そして、この別の非接触伝送用MLIを厚さ方向に挟むように一対のコイルを配置し、これら一対のコイルを用いた電磁結合により通信を行ってもよい。
このように、電力伝送及び通信をMLI13に取付けた1つの非接触伝送用MLI17を用いて行ってもよいし、MLI13に取付けた1つ又は複数の非接触伝送用MLI17で電力伝送のみを行い、MLI13に取付けた他の1つ又は複数の非接触伝送用MLI17で通信のみを行いように構成してもよい。
【0030】
給電コイル18及び受電コイル19は、素線を螺旋状に巻いて構成されている。
図3及び
図4に示すように、コイル18,19は、非接触伝送用MLI17(の金属非被覆部24a,25a)に、厚さ方向に対向する。コイル18,19は、非接触伝送用MLI17を厚さ方向に挟んで、互いに対向するように配置されている。給電コイル18は、非接触伝送用MLI17を構成する非接触伝送用断熱フィルム22のうち、第1金属層24及び第2金属層25の一方に対向している。受電コイル19は、非接触伝送用MLI17を構成する非接触伝送用断熱フィルム22のうち、第1金属層24及び第2金属層25の他方に対向している。
コイル18,19の外径は、厚さ方向に見たときに非接触伝送用MLI17の外縁部内に配置される。
給電コイル18は、非接触伝送用MLI17の一方側(宇宙側)に配置されている。受電コイル19は、非接触伝送用MLI17の他方側(構体11側)に配置されている。
なお、受電コイル19は、非接触伝送用MLI17の一方側に配置されてもよい。この場合、給電コイル18は、非接触伝送用MLI17の他方側に配置される。コイル18,19は、互いの螺旋の中心軸が一致するように配置されていることが好ましい。
【0031】
太陽電池36は、例えば可視光線を受けると、直流電流を発生する。
図1に示すように、太陽電池36は、MLI13よりも上方に配置され、支持板37により太陽電池36の下方から支持されている。構体11は、支持板37等により、例えば高断熱支持構造35等で吊り下げられている。
太陽電池36で発生した直流電流は、インバータ38で交流電流に変換される。インバータ38で変換された交流電流は、給電コイル18に供給される。給電コイル18側の回路には、共振コンデンサが直列に設けられていることが好ましい。
給電コイル18に交流電流が供給されると、受電コイル19は給電コイル18との間で磁界を利用した電力伝送を行う。
【0032】
受電コイル19は、非接触伝送用MLI17を厚さ方向に挟んだ給電コイル18の反対側に配置されている。受電コイル19は、整流回路40を介してPCU(Power Control Unit)41に接続されている。受電コイル19のリード線19aは、整流回路40に接続されるまでに、構体11の貫通孔11aに挿入されている。
磁界を利用した電力伝送により給電コイル18から受電コイル19に交流電流が伝送されると、この交流電流は、整流回路40及びPCU41により、例えば大きさがほぼ一定な直流電流に変換され、バッテリ(蓄電池)42に蓄えられたり、駆動モータ46及び制御部51に供給されたりする。PCU41には、制御部51以外の内部機器(機器)が接続されていてもよい。なお、受電コイル19側の回路には、共振コンデンサが直列に設けられていることが好ましい。
バッテリ42は、直流電流を蓄える。整流回路40、PCU41、バッテリ42、及び制御部51は、構体11内に配置されている。
【0033】
駆動モータ46は、例えば直流電流が供給されると、タイヤ12を駆動し、シャフト12a周りに回転する。これにより、地面G上を探査ローバ1が移動する。
なお、太陽電池36が発生した直流電流を、DC/DCコンバータ47で所定の大きさに変換し、駆動モータ46に供給してもよい。この場合、DC/DCコンバータ47は、前述の支持板37により支持される。
【0034】
制御部51は、図示しないCPU(Central Processing Unit)及びメモリ等を備えている。CPUは、駆動モータ46等を制御する。メモリには、CPUを制御するための制御プログラム等が記憶されている。
なお、MLI13に対する非接触伝送用MLI17の面積比が小さいため、MLI13,17による断熱性能は、従来のMLIと同等に維持される。MLI13に複数の非接触伝送用MLI17が取付けられる場合にも、MLI13に対する複数の非接触伝送用MLI17全体の面積比を小さく抑えることにより、MLI13及び複数の非接触伝送用MLI17による断熱性能は、従来のMLIと同等に維持される。
【0035】
次に、以上のように構成された探査ローバ1の動作について説明する。
月及び火星等の地面G上に、探査ローバ1を配置する。このとき、探査ローバ1は真空環境下、又は地球上に比べて気圧が低い環境下にさらされる。バッテリ42は、内部に蓄えられた直流電流を制御部51に供給する。制御部51は、制御プログラムに基づいてバッテリ42から駆動モータ46に直流電流を供給する。タイヤ12がシャフト12a周りに回転し、地面G上を探査ローバ1が移動する。
日中において太陽電池36が可視光線を受けると、太陽電池36は直流電流を発生する。太陽電池36で発生した直流電流は、インバータ38で交流電流に変換される。インバータ38で変換された交流電流は、給電コイル18に供給される。
【0036】
給電コイル18に交流電流が供給されると、給電コイル18から出た磁束により、非接触伝送用MLI17の金属層24,25に渦電流が生じる。金属層24,25に生じた渦電流から発生する磁束は、給電コイル18から出た磁束を打ち消す方向に生じる。具体的には、
図6に示すように、非接触伝送用MLI17の非接触伝送用断熱フィルム22上に給電コイル18が二点鎖線L1で示すように、第1金属層24の中心と給電コイル18の軸とが一致するように配置されているとする。この場合、渦電流は二点鎖線L2、L3で示すように、第1金属層24上の給電コイル18の投影形状に対して同心円状に流れようとする。
しかし、第1金属層24に第1金属非被覆部24aが形成されているため、二点鎖線L2、L3による渦電流の流れが、第1金属非被覆部24aにより遮られる。第1金属層24に生じる渦電流の径は小さくなり、給電コイル18から出た磁束を打ち消す力が弱くなる。従って、給電コイル18から出た磁束は、密度が大きく低下することなく効率的に受電コイル19に達し、受電コイル19に交流電流が誘起される。
受電コイル19に誘起された交流電流は、整流回路40及びPCU41により所定の大きさの直流電流に変換され、バッテリ42に蓄えられたり、駆動モータ46及び制御部51に供給されたりする。
【0037】
制御部51及び内部機器等から発した赤外線による輻射熱は、MLI13の金属層13d、及び非接触伝送用MLI17の金属層24,25で反射され、MLI13及び非接触伝送用MLI17内が外部から断熱される。このため、特に夜間において、MLI13及び非接触伝送用MLI17内の温度が、制御部51及び内部機器等の許容温度以下に下がることが防止され、探査ローバ1は越夜をすることが可能になる。
このように、非接触伝送部16は、断熱と非接触伝送を両立した構成である。
【0038】
また、本実施形態の非接触伝送方法は、非接触伝送部16を用いた方法である。非接触伝送方法は、非接触伝送用MLI17を厚さ方向に挟んで互いに対向するように配置された給電コイル18と受電コイル19との間の磁界を利用した電力伝送を、給電コイル18から受電コイル19に供給された電力を適宜直流電流に変換して制御部51等に供給し、かつ、制御部51等を外部から断熱するために用いる。
このとき、非接触伝送用MLI17を、給電コイル18と受電コイル19との間に配置してもよい。次に、太陽電池36から給電コイル18に交流電流を供給してもよい。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の非接触伝送部16によれば、給電コイル18に交流電流が供給されると、給電コイル18から出た磁束により、非接触伝送用MLI17の金属層24,25に渦電流が生じる。金属層24,25に生じた渦電流から発生する磁束は、給電コイル18から出た磁束を打ち消す方向に生じる。しかし、金属層24,25に金属非被覆部24a,25aが形成されているため、金属層24,25に生じる渦電流の径は小さくなり、給電コイル18から出た磁束を打ち消す力が弱くなる。従って、給電コイル18から出た磁束は、密度が大きく低下することなく効率的に受電コイル19に達する。磁束が両コイル18,19の中心を通ると、電磁誘導により給電コイル18から受電コイル19に電力が供給される。従って、金属層24,25を有する非接触伝送用MLI17を挟んだ場合でも、給電コイル18と受電コイル19との間で磁界を利用した電力伝送を実現することができる。
また、非接触伝送用断熱フィルム22に設けられた金属非被覆部24a,25aの総面積は、構体11を囲む従来のMLI13及び非接触伝送用MLI17を構成する各層の金属蒸着部の面積と比較して十分に小さい(1%未満)ため、非接触伝送用MLI17による断熱性能を従来のMLIと同等に維持することができる。
【0040】
非接触伝送部16がコイル18,19を備えるため、非接触伝送用MLI17を挟んだ磁界を利用した電力伝送を、より簡単に実現することができる。
第1金属層24の第1金属非被覆部24a及び第2金属層25の第2金属非被覆部25aは、厚さ方向に互いに重ならないように配置されている。このため、第1金属層24の第1金属非被覆部24aを通過して厚さ方向に進んで第2金属層25に向かう赤外線は、第2金属層25における第2金属非被覆部25aが形成されていない部分で反射される。さらに、金属非被覆部24a,25aの総面積は金属蒸着部の面積と比較して十分に小さい。例えば、従来のMLI13を構成する断熱フィルム13eの金属蒸着部と非接触伝送用断熱フィルム22の金属蒸着部の合計面積と比較すると、金属非被覆部24a,25aの総面積は1%未満である。従って、非接触伝送用MLI17の断熱性能を高め、非接触伝送用MLI17の断熱性能を従来のMLI13と同等に維持できる。
【0041】
複数の第1金属非被覆部24aは、それぞれスリット状に形成され、互いに間隔を空けて平行又は格子状になるように配置されている。互いに平行に配置された複数の第1金属非被覆部24aでは、複数の第1金属非被覆部24aの全部が延びる方向が互いに等しく、格子状に配置された複数の第1金属非被覆部24aでは、複数の第1金属非被覆部24aの一部が延びる方向が互いに等しい。このため、第1金属層24に複数の第1金属非被覆部24aを容易に設けることができる。
非接触伝送用MLI17は、複数の非接触伝送用断熱フィルム22が厚さ方向に積層されて構成されている。従って、複数の非接触伝送用断熱フィルム22の金属層24,25により、断熱性能を高めることができる。
【0042】
また、本実施形態の非接触伝送方法によれば、給電コイル18と受電コイル19との間の磁界を利用した電力伝送では、給電コイル18と受電コイル19とを離間させることができる。非接触伝送用MLI17を厚さ方向に挟むように給電コイル18及び受電コイル19を配置して、給電コイル18から受電コイル19に供給された電力がさらに供給される制御部51等を外部環境から断熱することにより、給電コイル18と受電コイル19との間の磁界を利用した電力伝送を、電力の供給だけでなく、制御部51等の断熱にも有効に用いることができる。
【0043】
本実施形態の非接触伝送部16は、以下に説明するようにその構成を様々に変形させることができる。
図9に示す非接触伝送用MLI56の第1金属層57のように、スリット状に形成された複数の第1金属非被覆部57aは、厚さ方向に見た平面視において、放射状に配置されていてもよい。すなわち、複数の第1金属非被覆部57aは、所定の軸線O周りに互いに間隔を空けて配置されている。この変形例では、軸線Oは平面視における第1金属層57の中央に配置され、軸線O周りに8つの第1金属非被覆部57aが形成されている。複数の第1金属非被覆部57aの軸線O側の端部は、それぞれ軸線Oに達していて、互いに連結されている。
複数の第1金属非被覆部57aは、第1金属層57の平面視において、軸線Oの近傍(所定の位置)には第1金属層57の単位面積当たり密に形成され、軸線Oから離間するに従い漸次、第1金属層57の単位面積当たり疎になるように形成されている。
【0044】
この変形例の非接触伝送用MLI56では、放射状の形状の中心と給電コイル18の中心軸とが一致するように、二点鎖線L6で示すように給電コイル18を配置する。このとき、給電コイル18から出た磁束により、第1金属層57には、前記放射状の形状の中心を中心として二点鎖線L7、L8で示すように第1金属層57上の給電コイル18の投影形状に対して同心円状に流れる渦電流が生じる。しかし、スリット状の複数の第1金属非被覆部57aにより、第1金属層57に生じる渦電流の強さは、軸線Oに向かうに従い小さくなる。そして、軸線Oに向かうに従い、給電コイル18から出た磁束を打ち消す力が弱くなる。従って、給電コイル18と受電コイル19との間の電力伝送を効率的に行うことができる。
なお、所定の位置は、第1金属層57の中央である軸線Oの近傍であるとしたが、所定の位置はこれに限定されない。例えば、所定の位置は第1金属層57の隅部等でもよい。
【0045】
この変形例の非接触伝送用MLI56では、非接触伝送用MLI56が第2金属層を備えていてもよい。そして、この第2金属層に、複数の第1金属非被覆部57aと同様に、スリット状に形成されるとともに放射状に配置された複数の第2金属非被覆部が形成されてもよい。この場合、複数の第2金属非被覆部は、複数の第1金属非被覆部57aと厚さ方向に重ならないように、複数の第1金属非被覆部57aに対して軸線O周りに位相(向き)をずらして配置することが好ましい。
【0046】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図10を参照しながら説明するが、前記実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図10に示すように、本実施形態の探査ローバ2は、第1実施形態の非接触伝送部16、インバータ38、DC/DCコンバータ47に代えて、非接触伝送部66を備えている。
【0047】
従来のMLI13の貫通孔13aは、MLI13における下方(地面G側)の部分に形成されている。
非接触伝送部66は、前述の非接触伝送用MLI17及び受電コイル19を備えている。非接触伝送用MLI17は、MLI13における貫通孔13aの開口周縁部に取付けられている。
【0048】
本実施形態の探査ローバ2は、給電ステーション3とともに用いられる。
給電ステーション3は、前述の給電コイル18と、インバータ38と、蓄電部71と、を備えている。給電コイル18は、例えば、地面Gに設置されるか、地面Gから数cmの深さに埋設されている。蓄電部71は、インバータ38に直流電流を供給する。インバータ38は、直流電流を交流電流に変換し、給電コイル18に供給する。
【0049】
次に、このように構成された探査ローバ2の動作について説明する。
まず、給電ステーション3上に探査ローバ2が停止する。このとき、給電ステーション3の給電コイル18上に、探査ローバ2の受電コイル19が配置されるようにする。このとき、給電コイル18及び受電コイル19は、非接触伝送用MLI17を厚さ方向に挟む。第1実施形態と同様に、給電コイル18に交流電流が供給されると、受電コイル19に電力が供給され、バッテリ42に直流電流が蓄えられる。
バッテリ42の充電が終了すると、探査ローバ2は給電ステーション3から移動して、所定のミッションを行う。バッテリ42の充電量が所定の量以下になると、探査ローバ2は給電ステーション3に戻り、バッテリ42の充電を行う。
【0050】
以上説明したように、本実施形態の探査ローバ2によっても、第1実施形態の探査ローバ1と同様の効果を奏することができる。
さらに、探査ローバ2は、逐一、給電ステーション3に戻ることで電力を充電することにより、夜間や永久影の地域でも活動することができる。
【0051】
なお、探査ローバが受電コイル19及び非接触伝送用MLI17を備え、給電用ローバが給電コイル18、及び非接触伝送用MLI17を備えるように構成してもよい。
この変形例では、探査ローバの受電コイル19が探査ローバの非接触伝送用MLI17を介して給電用ローバの非接触伝送用MLI17を厚さ方向に挟んだ給電コイル18の反対側に配置されると、磁界を利用した電力伝送により給電コイル18から受電コイル19に電力が供給される。
【0052】
以上、本発明の第1実施形態及び第2実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。さらに、各実施形態で示した構成のそれぞれを適宜組み合わせて利用できることは、言うまでもない。
例えば、前記第1実施形態及び第2実施形態では、非接触伝送用MLI17は1層の非接触伝送用断熱フィルム22で構成されてもよい。非接触伝送用断熱フィルム22が最外層に用いられる場合、非接触伝送用断熱フィルム22は第2金属層25を備えなくてもよい。
第1金属非被覆部はスリット状に形成されたものに限定されず、金属層の外縁部に達する切欠き状に形成されたものであってもよい。
【0053】
(実施例)
以下では、本発明の実施例及び比較例を具体的に示してより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
非接触伝送用断熱フィルムは、基材層及び第1金属層で構成されるとした。平面視において、層集合体は100mm×100mmの矩形状に形成されているとした。第1金属層に第1金属非被覆部が形成されていないものを、サンプル1として作製した。
図5に示す、スリット状の第1金属非被覆部が形成されていない幅L11、及び第1金属非被覆部の幅L12を下記のように設定して、以下に説明するサンプル2~サンプル4を作製した。
【0054】
サンプル2:幅L11は7mm、幅L12は1mm。
サンプル3:幅L11は14mm、幅L12は2mm。
サンプル4:幅L11は21mm、幅L12は3mm。
なお、サンプル2~サンプル4では、平面視において、第1金属層の面積に対する第1金属非被覆部の面積の割合は12:88として、一定にした。サンプル4よりもサンプル3、サンプル3よりもサンプル2の方が、スリット状の第1金属非被覆部が密に形成されている。サンプル1が比較例、サンプル2~サンプル4が実施例となる。
【0055】
サンプル1~サンプル4に対して、一方側に給電コイル、他方側に受電コイルを配置し、給電コイルと受電コイルとの間で磁界を利用した電力伝送を行った。給電コイルに供給する交流電流の周波数を、100kHz、678kHz、1MHzをターゲットとして変化させ、周波数に対する電力伝送効率を測定した。なお、ここで言う電力伝送効率は、給電コイルに入力した電力に対する、受電コイルに伝送された電力の比率のことを意味する。
実験結果を、
図10に示す。
図10の横軸は周波数(kHz)を表し、縦軸は電力伝送効率(%)を表す。実線で示した線L16は、サンプル1の実験結果を表す。同様に、点線で示した線L17はサンプル2の実験結果を表し、一点鎖線で示した線L18はサンプル3の実験結果を表し、二点鎖線で示した線L19はサンプル4の実験結果を表す。
【0056】
サンプル1の比較例に比べて、サンプル2~サンプル4の実施例では、いずれの周波数においても電力伝送効率が高くなることが分かった。
周波数が678kHz及び1MHzと、比較的高い場合において、第1金属非被覆部が密に形成されている方が電力伝送効率が高くなることが分かった。
【符号の説明】
【0057】
16,66 非接触伝送部(非接触伝送用断熱材)
18 給電コイル(送電部)
19 受電コイル(受電部)
22 非接触伝送用断熱フィルム(断熱フィルム)
23 基材層
23a 第1面
23b 第2面
24,57 第1金属層
24a,57a 第1金属非被覆部
25 第2金属層
25a 第2金属非被覆部
51 制御部(電子機器)