(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】歯根管を研削する歯内治療用器具
(51)【国際特許分類】
A61C 5/42 20170101AFI20220901BHJP
A61C 5/44 20170101ALI20220901BHJP
【FI】
A61C5/42
A61C5/44
(21)【出願番号】P 2018520111
(86)(22)【出願日】2016-11-02
(86)【国際出願番号】 CH2016000140
(87)【国際公開番号】W WO2017075723
(87)【国際公開日】2017-05-11
【審査請求日】2019-10-29
(32)【優先日】2015-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516382870
【氏名又は名称】エフケージー デンタイア エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ルイヤー,ジャン-クラウド
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-533557(JP,A)
【文献】特表2012-501762(JP,A)
【文献】特開2004-166953(JP,A)
【文献】特表2006-514712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/42
A61C 5/44
A61C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶形状を有する歯科用工具又は器具の形成方法であって、
初期転移温度が10±5℃のニチノール線を選択し、
前記ニチノール線を
オーステナイト相において研磨して前記歯科用工具又は器具を形成することにより、第1の端部に隣接して配置される胴部と、対向する第2の先端部に隣接して配置される少なくとも1個の切断面を備える動作領域とを設け、
前記歯科用工具又は器具の前記動作領域を金型が有する少なくとも1個の突起の外形に合致させる
ために平方インチ当たり1000ポンド(約453Kg)より低い圧力を前記動作領域に加えることにより、前記動作領域を少なくとも1個の突起を備える成形形状に成形し、
前記歯科用工具又は器具を30~240分間、
かつ、200~375℃まで加熱して、
a)前記歯科用工具又は器具の前記初期転移温度を32.5±3℃の最終転移温度に変化させ、
b)前記少なくとも1個の突起を含む前記成形形状を記憶することにより、前記歯科用工具又は器具が前記最終転移温度以上の温度になると、前記歯科用工具又は器具は瞬時に前記少なくとも1個の突起を有する前記成形形状に自動的に復帰する、方法。
【請求項2】
前記歯科用工具又は器具を250~350℃まで加熱して、前記歯科用工具又は器具の前記初期転移温度を変化させ、前記少なくとも1個の突起を有する前記成形形状を30分~240分間記憶する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記歯科用工具又は器具の前記初期転移温度を前記最終転移温度に変化させ、前記歯科用工具又は器具が前記最終転移温度以上の温度になると前記少なくとも1個の突起を有する前記成形形状の記憶を容易にする温度まで前記歯科用工具又は器具を30分~240分間加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記歯科用工具又は器具の前記初期転移温度を前記最終転移温度に変化させ、前記歯科用工具又は器具が前記最終転移温度以上の温度になると前記少なくとも1個の突起を有する前記成形形状の記憶を容易にする温度まで前記歯科用工具又は器具を45分~90分間加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
回転具により回転されると、前記歯科用工具又は器具の範囲及び体積のうち少なくとも1つを増大させる湾曲形状及び弓状形状のうち少なくとも1つを有する前記少なくとも1個の突起を形成し、前記少なくとも1個の突起及び前記歯科用工具又は器具は平面を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記歯科用工具又は器具を捻転することなく、湾曲長さ又は弓状長さが1~16mmであって、前記歯科用工具又は器具の縦軸に対して測定される幅が0.1~3.0mmである前記少なくとも1個の突起を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記歯科用工具又は器具の少なくとも前記動作領域内に形成される前記少なくとも1個の突起に対応する陰型痕跡及び陽型痕跡を有する金型内に前記歯科用工具又は器具金型を置載することにより前記少なくとも1個の突起を有する前記成形形状を記憶し、
前記金型を介して、前記歯科用工具又は器具の前記動作領域に平方インチ当たり1000ポンド(約453Kg)より低い圧力を加え、
前記歯科用工具又は器具を200~375℃で30分~240分間加熱して、
1)前記歯科用工具又は器具の前記初期転移温度を前記最終転移温度に変化させ、
2)前記少なくとも1個の突起を有する前記成形形状を記憶する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記歯科用工具又は器具を内部に備える前記金型を加熱し、前記金型を急冷することにより前記歯科用工具又は器具を急速に冷却する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記金型を流体槽内で急冷することにより前記歯科用工具又は器具を急速に冷却する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記歯科用工具又は器具を保護ケース及び外装材内に梱包して前記歯科用工具又は器具を確実に滅菌し、
前記保護ケースを少なくとも部分的に透明となるよう形成し、
前記保護ケース表面に目盛りを設ける、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
駆動カップリングを前記歯科用工具又は器具の前記胴部へ取付けて、前記歯科用工具又は器具の回転駆動源への結合を容易にする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
使用前に前記歯科用工具又は器具に沿って摺動可能な可調深度表示器を前記歯科用工具又は器具に設け、前記歯科用工具又は器具の動作端の任意の根管内での任意の挿入深度を表示する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記歯科用工具又は器具の外表面の欠陥又は変形を平滑化して、前記歯科用工具又は器具の使用中の破損及び/又は疲労に対する耐性を向上させる電解研磨処理を前記歯科用工具又は器具の前記外表面に対して行う、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
記憶形状を有する歯科用工具又は器具の形成方法であって、
初期転移温度が10±5℃のニチノール線を選択し、
前記ニチノール線を
オーステナイト相において研磨して前記歯科用工具又は器具形成することにより、第1の端部に隣接して配置される胴部と、対向する第2の先端部に隣接して配置される少なくとも1個の切断面を備える動作領域とを設け、
前記歯科用工具又は器具の前記動作領域を、金型が有する少なくとも1個の突起の外形に合致させる
ために、前記歯科用工具又は器具の前記動作領域
の温度変化のみでは不可逆な変形を
生じさせるのには不十分
である、平方インチ当たり1000ポンド(約453Kg)より低い圧力を前記動作領域のみに加えることにより、前記動作領域を少なくとも1個の突起を備える成形形状に成形し、
前記歯科用工具又は器具の外表面の欠陥又は変形を平滑化して、前記歯科用工具又は器具の使用中の破損及び/又は疲労に対する耐性を向上させる電解研磨処理を前記歯科用工具又は器具の前記外表面に対して行い、
前記歯科用工具又は器具を加熱して、
a)前記歯科用工具又は器具の前記初期転移温度を32.5±3℃の最終転移温度に変化させ、
b)直線状の胴部及び前記少なくとも1個の突起を含む前記成形形状を記憶することにより、前記歯科用工具又は器具が前記最終転移温度以上の温度になると、前記歯科用工具又は器具は瞬時に前記少なくとも1個の突起を有する前記成形形状に自動的に復帰する、方法。
【請求項15】
記憶形状を有する歯科用工具又は器具であって、
前記歯科用工具又は器具は、初期転移温度が10±5℃のニチノール線
で形成されており、
前記歯科用工具又は器具は32.5±3℃の最終転移温度を有し、
前記歯科用工具又は器具は第1の端部に隣接して配置される胴部と、対向する第2の端部に隣接して配置される動作領域とを備え、
前記歯科用工具又は器具の前記動作領域に沿って形成される少なくとも1個の細長形状の切断部と、
前記歯科用工具又は器具の前記動作領域内に形成される少なくとも1個の突起を有する記憶形状と、を備え
前記歯科用工具又は器具が最終転移温度より低い温度になると、前記歯科用工具又は器具は先端部の任意の根管への挿入を容易にする一時的形状又は構造に成形可能となるが、前記歯科用工具又は器具は前記最終転移温度以上の温度になるとすると瞬時に、自動的に前記少なくとも1個の突起を有する記憶形状に適合する、歯科用工具又は器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は詳細には患者の歯根管を研削する器具である歯内治療用器具に関し、前記器具は縦軸を有し、歯根管壁を形成及び/又は整形及び/又は切断及び/又は清掃する動作領域を備え、前記動作領域は取付部に取付可能な末端支持部材を備える。
【背景技術】
【0002】
充填物質を注入するため、動作部と呼ばれる活動部分を備える研削器具を用いて歯根管を清掃及び前処置するが、その目的は治療及び充填用の物質を注入するための前処理において根管を整形及び清掃することである。
【0003】
根管は、予備成形器具が導入できない狭窄部位又は楕円状部位を形成する複雑な湾曲断面及び狭窄断面を備える特定の形状を有する場合が多い。このためやすり(file)として知られる器具は場合によっては相反する特性を備えている必要がある:やすりは細いが耐性を有し、根管の湾曲に合致し、根管の先端に到達できるよう可撓性が必要であるが、同時に根管壁を整形及び切断できるだけの耐久性を保持することが求められる。
【0004】
上述した要件が原因で、歯科医は根管の形態に適合するよう様々な構成及び寸法を有する多種多様な工具を用いて徐々に作業して根管治療の前治療を行わなければならない。作業は可撓性の細い器具により開始し、次に根管が充填物質を注入できる大きさの内部空洞を有するまで断面を増大させる器具に交換する。この一連の作業は安全上の理由から時間を要する神経を使う作業であって、治療用充填物質が根管を完全に充填しなければならず、細菌が繁殖し感染症の原因となるのを防止するため、作成する空洞の基部に空気が残留することの無いよう注意が必要となる。
【0005】
上述の器具は根管に導入するのが困難である。更に、現時点で治療対象の根管の形態に適合し、前処理全てを一工程で行う汎用器具は存在しない。器具が破損して根管を塞いだり、器具が過加熱されて破損の原因となる危険性がある。ニッケル-チタン合金からなり機械駆動される器具を用いる場合も上述の危険性があることは公知であり、摩耗するため使用を通して歯科医が注意深く監視する必要がある。複数の異なる器具を連続して用いることは作業コストを増大させるのみならず、歯科医による作業が複雑になり、患者に対する危険性も高くなることは自明である。
【0006】
特許文献1は超弾性物質からなる歯内治療用器具及び方法を開示する。超弾性物質からなる棒部材が整形構造に構成されて器具を形成し、これにより前記器具が整形構造と異なる構造で根管に挿入され、歯内治療中に自身の整形構造に復帰する。前記棒部材を任意の器具形状に形成するため、前記棒部材は加熱した成型表面(典型的には約100°C~約200°C)間で圧縮(好ましくは約550MPa~約1500MPa)し、前記棒部材に圧力を加える。
【0007】
前記器具が可撓性の金属合金からなる場合、前記器具は拡張した構造化形状で使用された後、機械的動作により基本形状に復帰するよう構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の根管処理の大きな問題は、施術者が治療の必要な根管の清掃及び整形に複数の歯内治療用やすりを使用しなければならない場合が多いことである。典型的には、当該器具一式は段階的により大径となる直径を有し、動作部の長さは略一定な場合が多いため段階的により先細となるやすり一式を含む。上述のようなやすり一式を用いて、任意の形状が得られるまで段階的に徐々に根管を拡大する。従来の方法において、拡大作業の際に歯の構造に望ましくない損傷その他影響を与えず、前記器具を備える物質に過度のねじり負荷又は圧力を加えないため、比較的小さい増分で階段的に拡大することが重要と考えられている。そのため、多くの場合、器具一式は個々の患者に対し一度だけ使用された後に廃棄されるが、一式に含まれる個々の器具もそれぞれそれなりの費用を要する。したがって、根管の治療/充填処理において任意の孔形状又は拡大量を得るために必要な歯内治療用やすりの数を制限する歯内治療用やすりの改良構造が求められている。
【0010】
本発明及びその主たる利点を、以下に説明する添付の図面を参照して様々な実施形態を記載して説明する:
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】歯根管への導入時において平らな螺旋刃の形状を有する本発明による器具を示す。
【
図1C】歯根管へ導入後の
図1Aの前記器具及び切断線1C-1Cに沿った歯の断面を示す。
【
図1D】歯根管へ導入後の
図1Aの前記器具及び切断線1D-1Dに沿った歯の断面を示す。
【
図2A】歯根管への導入時の本発明の器具の別の実施形態を示す。
【
図2C】
図2Aの切断線2C-2Cに沿った歯根の断面図を示す。
【
図2D】
図2Bの切断線2D-2Dに沿った歯根の断面図を示す。
【
図3A】本発明による拡大器と呼ばれる器具の別の変形例の歯根内における第1の動作状態を示す。
【
図3D】
図3Bの治療される歯根の軸3D-3Dに沿った断面図を示す。
【
図4A】歯根内において異なる動作構造を有する、
図3A~
図3Dに示す拡大器に類似の拡大器を示す。
【
図5A】管状器具と呼ばれる本発明の器具の歯根の動作不能位置に導入された変形例を示す。
【
図5B】動作不能位置に位置する、
図5Aに示す前記器具の動作領域の先端の拡大図を示す。
【
図6B】動作位置に配置された
図5Aの器具の動作領域の先端の拡大図である。
【
図7】本発明による歯科用工具又は器具の製造に用いられるニチノール線の概略図である。
【
図8】歯科用工具又は器具の動作領域を形成するニチノール線の研磨した第1の部分の概略図である。
【
図8A】従来の駆動カップリングを胴部に取付た
図8の研磨ニチノール線の拡大概略図である。
【
図9】洗浄及び電解研磨した本発明による歯科用工具又は器具の概略図である。
【
図10】任意の記憶形状を歯科用工具又は器具に成形する二部式金型の概略図である。
【
図11】歯科用工具又は器具を記憶され炉内で加熱される任意の形状に一致させるための、閉じた状態の二部式金型の概略図を示す。
【
図13】急冷後、記憶形状を有する歯科用工具又は器具を取出すために開放した二部式金型を示す。
【
図14】記憶形状を有する歯科用工具又は器具の概略図を示す。
【
図14A】転移温度より低い温度まで冷却後、直線状になった
図14の歯科用工具又は器具の概略図である。
【
図14B】マルテンサイト相まで適切に冷却後の
図14の直線状の歯科用工具又は器具を一部取出した状態の概略図である。
【
図15】保護ケース内に収められた記憶形状を有する歯科用工具又は器具の概略図である。
【
図16】歯科用工具又は器具を回転具に取付る典型的な工程の概略図である。
【
図16A】保護ケース内に収められたまま、回転具に取付た歯科用工具又は器具の概略図である。
【
図16B】回転具に取付た歯科用工具又は器具の一部を保護ケースから取出した状態の概略図である。
【
図16C】歯科用工具又は器具を保護ケースから部分的に引出した後、歯科用工具又は器具に沿って可調深度表示器を調節する概略図である。
【
図16D】マルテンサイト相からなり、回転具に取付けた直線状の歯科用工具又は器具が保護ケースから完全に引出され、根管に挿入可能な状態の概略図である。
【
図17】マルテンサイト相からなり、根管へ挿入直後で転移温度に到達する前の歯科用工具又は器具の概略図である。
【
図18】オーステナイト相へ転移し記憶形状に復帰した後の、典型的な根管の上部領域内で動作する本発明による歯科用工具又は器具の概略図である。
【
図19】歯科用工具又は器具の動作領域内に形成される少なくとも1個の折曲部、起伏部、湾曲部、不連続部、膨張部又は突起部により回転中に取囲まれる体積/範囲が増大した状態の概略図である。
【
図20】典型的な根管の中央部内で動作する本発明による歯科用工具又は器具の概略図である。
【
図21】典型的な根管のより低い部位内で動作する本発明による歯科用工具又は器具の概略図である。
【
図21A】
図21に示す根管の切断線21A-21Aに沿った断面図である。
【
図21B】
図21に示す根管の切断線21B-21Bに沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1A~
図1Dに示す器具は把持部の先端に取付けて、施術者が基本的に器具の縦軸A周囲の往復運動及び旋回運動を用いて、患者の略楕円状の歯根管の内表面を切削するよう構成される手動式器具である。前記器具10は、取付部14により保持される末端支持部材13内に延伸する少なくとも1本の金属線からなる動作領域11を備え、本実施例において、前記取付部14は施術者が前記器具を操作するための把持部である。
図1Aは、歯20の根管21への導入位置に配置した器具10を示す。当該位置において、器具10の動作領域11は基本位置と呼ばれる位置に配置され、本実施例において、動作領域11の根管21への導入を容易にし、根管に見られる狭窄部16を容易に通過できるよう略直線状である。動作領域11を構成する金属合金が「形状記憶」として知られる性質を有するため、動作領域11は室温において略直線状の基本構造を保持する。それ自体が公知の当該性質により、適切な金属合金は所定の温度範囲において初期幾何学的形状を有し、その他温度へ移行した後、異なる幾何学的形状を取ることが可能となる。本実施例において、前記器具のニッケル-チタン系合金からなる動作領域11は例えば0~35°C、好ましくは10~30°C、特に約20°Cの室温において略直線状であり、より高い温度では拡張した構造化形態となる。「低」温では、上記物質は「マルテンサイト」と呼ばれる相となり、前記器具の根管への導入を容易にする比較的可撓性及び可鍛性を有する形状からなる。より高い温度では、上記物質は「オーステナイト」として知られる相に移行し、前記器具は根管の形状に関わらず根管壁を整形可能な構造化形態となる。物質をマルテンサイト相からオーステナイト相へ変化させるため、物質に応じて0°C~60°C、好ましくは25°C~40°Cの温度範囲内の例えば上昇等の第1の温度変化を適用する。物質をオーステナイトからマルテンサイト相に戻すためには、物質に応じて例えば所定のニッケル合金の場合は60°C~0°Cの温度範囲、好ましくは40°C及び25°Cの変態値と呼ばれる値まで温度を下降させる等の第2の温度変化を適用する。
【0013】
記憶特性を有する有益な合金の主な例としては銅-亜鉛-アルミニウム-ニッケル、銅-アルミニウム-ニッケル及び亜鉛-銅-金-鉄合金が挙げられる。類似の性質を有する他の合金を用いてもよいことは自明である。
【0014】
温度上昇は前記器具の基部に内蔵の加熱手段を用いて加速してもよく、又は例えば根管の消毒に用いられる次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)等の外部手段を用いて加速してもよい。当該化合物は現在、当該分野において施術者が用いる加熱シリンジにより注入してもよい。
【0015】
図1B~
図1Dは、器具10の動作領域11の拡張した構造化形状を示す。
図1C及び1Dに示すように、本実施例における動作領域11は基本的に根管21の全空間を充填する平らな螺旋刃の形状を有する。前記螺旋刃は非常に可撓性が高いため根管21の内部形状及び外形に適合する。根管の狭窄部16において、螺旋刃のループ部17は根管21の底部及び入口にそれぞれ対応する拡大部18及び19に比べて顕著ではない。
【0016】
図2A~
図2Dは機械駆動式の本発明による器具10を示し、前記器具10は根管を2本有する臼歯系の歯20において根管21のうちの1本に係合する。
図2A~
図2Cにおいて、基本構造において動作領域11は略直線状なため根管21への導入が容易である。
図2B及び
図2Dにおいて、動作領域11は、患者の身体との接触又は器具10を支持する取付部14に設けられる加熱抵抗器(図示せず)による温度上昇を受けて、拡張構造化形態となる。図示の例において、前記器具は機械的に回転され、その構造化状態においてコルク栓抜き形状をなす。また、器具10の動作領域11は安定して十分な可撓性を有するため、根管21の略円錐状の断面に適合する断面を有する。このため、動作領域11は温度上昇又は温度変化を受けて拡張構造化形態となる形状記憶を有する金属合金線からなる。前記器具が目的に合わせて平滑化、切断、又は研磨する工具として機能するため、前記線は断面が略円形又は角型であってもよい。施術者は治療対象の根管の初期形状に応じて、異なる又は補完的機能を備える複数の器具を用いてもよい。
【0017】
図3A~
図3Dは、機械駆動式の本発明による器具の別の実施形態を示す。拡大器と呼ばれる前記器具10は、根管の形状及び寸法に適合させる、又は根管をその後の根管治療に適した形状及び寸法にするための「機械加工」を可能とする特定の特性を有する。
図3A及び
図3Cに示す状態の器具10を歯20の前記根管21のうちの1本に導入する。前記根管は中央部に微小な膨張部21a、その先に狭窄部21bを備える。器具10の動作領域11は当該構造に適合する。
図2A~
図2Dに記載の前記器具と同様に、前記器具は取付部14により機械的に回転され、構成する金属線の断面に応じた動作により、根管21の壁部を機械加工、切断、研磨又は平滑化する。本実施例において、目的は充填物質の導入を容易にするするために狭窄部21bを除去しつつ根管上部を拡大することである。そのために、
図3B及び
図3Dに示すように器具10は拡張し、略円形断面を有するコルク栓抜き形状となって、歯本体の物質を切断又は磨滅させることにより壁部に作用する。
【0018】
図4A及び
図4Bに示す実施形態において、根管21の形状を円錐形にするため器具10は基本的に動作領域11の上部30において拡張する。動作領域11は根管21をどのような形状にするかに応じて、切断用、研磨用又は平滑化用に構成されてもよい。
【0019】
図5A及び
図5Bは器具10の別の実施形態を示し、動作領域11は略管状であって捻転した外観を有する。前記動作領域11の下端部12は軸方向において所定の長さで分岐しており、
図5Bに示す2個の分割部12a,12bを備える。前記動作領域(
図5Bに先端部12の拡大図を示す)が動作不能位置にある場合、前記2個の分割部12a,12bは動作領域11のその他部分に対して軸方向に延伸する形で並列する。構造が直線状の管状であるため、器具10の前記動作領域を根管21内に容易に導入できる。
図6A及び
図6Bに示す動作位置において、下端部12は温度上昇を受けて前記器具10を形成する合金の形状記憶特性により開放し、旋回取付部14が前記工具を回転すると前記2個の分割部12a,12bは互いに対して略開放した円錐形を形成する角度を形成する。歯科医の目的は根管21の先端部に、充填用ペースト材を投入し、根管基部において空気の微小気泡が封入されるのを防止するための拡大空洞22を形成することである。空気の微小気泡は細菌及び虫歯を増殖させ、多少なりとも長期的な感染を引き起こす酸素を含有する。
【0020】
次に
図7-
図21Bにおいて、本発明の別の実施形態を説明する。本実施形態は上述した実施形態に非常に類似しているため、同一の部材には同一の参照番号を付して本実施形態と上述の実施形態との差異のみ詳述する。
【0021】
本実施形態によれば、本発明による前記歯科用工具又は器具10はニチノール線32(典型的にはニッケル約56重量%及びチタン約44重量%等)により製造する。
図7を参照して、前記ニチノール線32は前記ニチノール線32を任意の歯科用工具又は器具に機械加工するために、室温(カ氏約72度又はセ氏約22度)においてオーステナイト相を有する。すなわち、前記ニチノール線32が転移温度より低い温度の場合、前記ニチノール線はマルテンサイト相を有し、マルテンサイト相において前記ニチノール線32は通常柔軟で、可鍛性を有し、及び/又は任意の形状に一時的に変形可能、例えば任意の曲折構造又は形状、又はその他任意の構造又は形状に操作可能である。しかしながら、前記ニチノール線32の温度が本実施例においては典型的には室温より十分に低い転移温度以上の温度になると、前記ニチノール線32はより硬質となるオーステナイト相に自然及び自動的に復帰し、
図7に概略示す通り典型的には直線構造又は形状を有する製造時の初期構造又は形状に自然に復帰する。前記ニチノール線32はオーステナイト相において、前記ニチノール線32を当該技術分野で慣行されている通り歯科用工具又は器具10に機械加工/研磨/変更する際に特に良く適合し有益な、製造時の直線構造又は形状を常時有する。
【0022】
本発明によれば、前記歯科用工具又は器具10を製造する際、まず前記歯科用工具又は器具10の製造に適切なニチノール線32選択する。前記歯科用工具又は器具10は患者の口内で用いるためのものであるため、前記ニチノール線32及び製造される歯科用工具又は器具10の最終転移温度は望ましくは体温よりやや低い温度、すなわち、カ氏約90.5±4度(すなわちセ氏32.5±3度)である。しかしながら、その他用途に対しては、カ氏約90.5±4度(すなわち、セ氏32.5±3度)より高い又は低い別の転移温度を有するニチノール線32を本発明の精神及び範囲から逸脱することなく使用可能であるものとする。
【0023】
当該技術分野で慣行されている通り、従来方法により製造された選択したニチノール線32は、通常、従来通り超弾性特性を有する。すなわち、前記ニチノール線32は、前記ニチノール線32が初期転移温度より低い温度に保持される限り略可鍛性を有する、又は任意の構造又は形状に一時的に変形可能なマルテンサイト相と、前記ニチノール線32の温度が初期転移温度に到達又はそれを超過すると典型的には直線構造又は形状である製造時の元の構造又は形状に自動的に復帰するオーステナイト相とを備える。
【0024】
本発明によれば、以下に更に詳述する通り、製造される歯科用工具又は器具10は体温よりやや低い最終転移温度、すなわちカ氏約90.5±4度(すなわちセ氏32.5±3度)を有する。しかしながら、前記ニチノール線32の製造工程において、前記ニチノール線32の初期転移温度は望ましくは典型的には室温より十分に低い。これにより、前記ニチノール線32は室温において確実にオーステナイト相、すなわち比較的堅固であり、前記ニチノール線32を室温において歯科用工具又は器具10に機械加工/研磨/変更する際に効果的である。
【0025】
前記歯科用工具又は器具10の製造に適切なニチノール線32を選択した後、前記ニチノール線32を研磨又は切断加工(
図8及び
図8A)し、例えばらせん状の切断面又は端部である縦長又は細長形状の切断面又は端部34を少なくとも1個、前記ニチノール線32の例えば典型的にはらせん形状の第1の部分のみの長さ方向の長さ又はA軸に沿って切断又はその他方法で形成する。
図8に概略示す通り、前記ニチノール線32の前記研磨した第1の部分は前記歯科用工具又は器具10の動作領域11を略形成する。前記ニチノール線32の対向する第2の端部は略非研磨又は非加工に保持されるため、前記歯科用工具又は器具10の胴部38を形成する。前記歯科用工具又は器具10の前記対向する非研磨の端部が形成する胴部38は、結合による補助により使用中に前記歯科用工具又は器具10を補助する。
【0026】
研磨工程が完了すると、次に前記歯科用工具又は器具10を任意の長さに切断する。その後、
図8Aに示すように、従来の回転具59により前記歯科用工具又は器具10の結合及び把持を容易にする従来の駆動カップリング55を従来方法により前記歯科用工具又は器具10の前記胴部38に取付る。
【0027】
なお、動作領域11は単純に研磨、切断又はその他類似の機械加工のみにより形成する。過去には、超高圧及び低温等の所定の条件下で捻転運動を与えることにより前記線32の切断面をらせん状としていた。しかしながら、当該捻転運動は前記ニチノール線32を不必要に圧迫し望ましくない疲労の原因となるため、避ける必要がある。圧迫及び疲労は前記歯科用工具又は器具10において回転量及び/又は折曲量を制限し、その後の破損の原因となることは知られている。すなわち、定格負荷のみを繰返し加えたり除去したりした後に、周期的に加えられた圧力のうち最大圧力が最大引張強度よりかなり低いのみならず、前記器具又は工具10のマルテンサイト相又はオーステナイト相のいずれかの降伏応力より大幅に低かった場合でも、破損が発生する傾向がある。このため、先行技術による線は早く破損又は破砕する傾向があり、このため一般的には1回のみの使用に適している。
【0028】
前記歯科用工具又は器具10の前記動作領域11に沿って少なくとも1個の縦長又は細長形状の切断面又は端部34を形成し、前記駆動カップリング55を取付た後、次に前記歯科用工具又は器具10を洗浄及び電解研磨する。当該洗浄及び電解研磨工程中に、前記歯科用工具又は器具10の外表面から例えば0.01~0.03mm(
図8B参照)等の非常に薄い層又は部分35を除去する。このように前記歯科用工具又は器具10の外表面から非常に薄い層又は部分35を電解研磨により除去することにより、前記歯科用工具又は器具10を研磨する際に外表面に発生する場合がある非常に小さい亀裂又はその他欠陥又は変形33を外形から除去又は少なくとも平滑化でき、この電解研磨により前記歯科用工具又は器具10の使用中の破損及び/又は疲労に対する耐性が向上する。
【0029】
上述の工程により、根管処理を行う際に前記歯科用工具又は器具10を破砕及び/又は破損することなく少なくとも数分程度の長さの時間に渡って約900±100rpmの回転速度で回転させることが可能となり、前記歯科用工具又は器具10の耐用年数を延長し、前記歯科用工具又は器具10が使用中に不意に破損又は破砕し、前記歯科用工具又は器具10の破損又は破砕した部分が根管内に残される可能性を最小限に抑えることができるよう前記歯科用工具又は器具10が構成される。
【0030】
歯科用工具又は器具10を洗浄及び電解研磨及び任意の長さに切断した後、前記歯科用工具又は器具10は次にa)前記歯科用工具又は器具10の転移温度が体温程度又は体温よりやや低くなるよう初期転移温度を最終転移温度に変化させ、b)前記歯科用工具又は器具10の前記動作領域11内に沿って形成される折曲部、起伏部、湾曲部、不連続部、膨張部又は突起部36を少なくとも1個有する任意の形状又は構造を記憶するよう熱成形できる状態となる。
図14に示すように、前記少なくとも1個の突起部36は前記動作領域11の一部のみに沿って形成し、通常前記歯科用工具又は器具10の自由端に配置又は隣接し、前記胴部38から間隔を介して離して配置する。典型的には、前記少なくとも1個の突起部36は前記歯科用工具又は器具10の前記胴部38より自由端に近くなるよう形成する。前記歯科用工具又は器具10の前記少なくとも1個の突起部36及び前記胴部38は1つの平面に形成され配置される。更に、前記歯科用工具又は器具10内で誘発される圧力を最低限に抑えるため、金型42内に置載されている場合は前記歯科用工具又は器具10を好ましくは捻転しない。
【0031】
前記少なくとも1個の突起部36は略湾曲又は弓状形状を有し、約1~16mmの長さL(前記歯科用工具又は器具10の縦軸Aに沿って測定)及び約0.1~約3.0mm程度の幅W(前記歯科用工具又は器具10の前記縦軸Aに対して測定)を有する。前記歯科用工具又は器具10の前記動作領域11が記憶する前記少なくとも1個の突起部36の全体形状は、本発明の精神及び範囲から逸脱しない範囲で用途毎に異なっていてもよい。前記少なくとも1個の突起部36の態様において重要な点は、前記歯科用工具又は器具10が回転すると、前記少なくとも1個の突起部36が前記歯科用工具又は器具10が回転する際に取囲む範囲及び/又は体積を増大させることである。このように前記歯科用工具又は器具10の範囲及び/又は体積を増大させることにより、特に通常は歯髄を完全には除去不可能な根管の複雑な湾曲部及び狭窄部において、根管の内表面から歯髄をより完全に切削及び除去することが容易になる。更に、本発明によれば、個々の用途に応じて、任意の2個以上の連続突起36を前記動作領域内に順次形成してもよい(図示せず)。
【0032】
上述した通り、前記歯科用工具又は器具10は製造工程において室温でオーステナイト相であることが非常に望ましい。すなわち、本実施例において、前記歯科用工具又は器具10が典型的にはカ氏約50±10度(セ氏10±5度)等の初期転移温度より高い温度である限り、前記歯科用工具又は器具10は可鍛性を有さず、又は一時的にも変形不可能である。したがって、前記歯科用工具又は器具10の前記動作領域11を任意の形状、すなわち、任意の前記少なくとも1個の突起部36の形状に容易に合致させる、又は成形することは不可能である。
【0033】
本発明によれば、前記歯科用工具又は器具10を金型40内に置載し、上部金型の重量等の最小圧力のみ加え、前記歯科用工具又は器具10を任意の時間に渡って任意の温度まで加熱することにより前記歯科用工具又は器具10の初期転移温度を変化させる。
図10に概略示す通り、前記基部型(base mold)42は前記少なくとも1個の突起部36の陰型痕跡(negative impression)48を含む空洞46を内部に有する。前記金型40の各空洞46は歯科用工具又は器具10を受け収容するための寸法及び形状を有し、前記歯科用工具又は器具10の前記動作領域11を前記任意の少なくとも1個の突起部36に成形する。当初に前記歯科用工具又は器具10を前記基部型42の前記空洞46内に置載した際は、前記歯科用工具又は器具10はまだオーステナイト相となっているため、前記歯科用工具又は器具10の前記動作領域11は、前記基部型42内に形成される、前記歯科用工具又は器具10の最終製品において得られる任意の形状である前記陰型痕跡48の外形に一致又は合致しない。
【0034】
まだオーステナイト相の前記歯科用工具又は器具10を前記基部型42内に形成される前記少なくとも1個の突起部36の外形に近似および合致させるため、対をなす上部金型44は、前記歯科用工具又は器具10を前記金型40の前記空洞46内に封入するよう前記基部型42に係合する。上述した通り、前記上部金型44は前記歯科用工具又は器具10の前記動作領域11に形成する前記少なくとも1個の突起部36の前記陰型痕跡48に対応する対をなす陽型(positive)痕跡50を有する。したがって、
図14に概略示す通り、前記少なくとも1個の突起部36の前記陽型痕跡50を備える前記上部金型44は前記基部型42と嵌合し、前記歯科用工具又は器具10の前記動作領域11は、前記歯科用工具又は器具10の最終製品が取得及び記憶する任意の構造又は形状である前記基部型42の前記対をなす陰型痕跡48及び陽型痕跡50の外形に適合、合致及び近似するよう強制又は誘導する。前記歯科用工具又は器具10の圧迫を完全に避けるため、前記上部金型44には最小圧力のみが加わるものとし、例えば典型的には平方インチ(6.4516平方センチメートル)当たり1000ポンド(約453Kg)より非常に低く、より好ましくは平方インチ当たり100ポンド(約45,3Kg)より低く、最も好ましくは平方インチ当たり10ポンド(約4,53Kg)程度より低い。すなわち、前記少なくとも1個の突起部36の前記陰型痕跡48及び対をなす前記陽型痕跡50は少なくとも前記歯科用工具又は器具10の前記動作領域の外形、寸法及び/又は直径と同じ大きさの形状、寸法及び/又は直径を有し(好ましくは適宜間隙を備える)、これにより本発明は前記歯科用工具又は器具10の寸法/直径を物理的に変更するのではなく、前記歯科用工具又は器具10を任意の形状に単に再構成する。典型的には、続いて前記金型40内で加熱するために前記歯科用工具又は器具10を記憶する新たな任意の形状に再構成又は再設定するために必要な最小力は平方インチ当たり100ポンドより小さく、より好ましくは平方インチ当たり10ポンドより小さく、最も好ましくは平方インチ当たり数ポンド(1ポンド=約453グラム)より小さい。上述の通り、前記動作領域11に加わる力が最小であることにより、前記歯科用工具又は器具10において永久的変形(すなわち、温度変化のみでは不可逆な変形)が発生しない。当該最小力は単に、前記歯科用工具又は器具10の新たな記憶形状への再構成又は再設定、及び保持を容易にし、これにより、上述した加熱及び冷却工程後に前記歯科用工具又は器具10は、前記歯科用工具又は器具10の新たに記憶される超弾性構造が
図14に概略示す通り直線状の胴部38及び非直線状の動作領域11を備える新たな形状を記憶する。
【0035】
前記上部金型44及び基部型42を相互に嵌合させる場合、最小の力又は圧力のみ必要なため、金属疲労の可能性を最小にできる。更に、前記歯科用工具又は器具10は全く圧迫されない。その後、歯科用工具又は器具10が少なくとも1個収容された前記金型40を従来の加熱器45により任意の温度まで加熱する。前記歯科用工具又は器具10に供給する熱はa)歯科用工具又は器具10の製造時の初期転移温度を最終転移温度に変化させ、b)例えば
図11に概略示す通り前記金型40内に形成される少なくとも1個の突起部36の成形形状を永久に「記憶する」よう構成される。
【0036】
当該工程を行った結果、前記歯科用工具又は器具10を前記金型40内で十分な長さの時間加熱し、次に冷却すると、以下に詳述する通り前記歯科用工具又は器具10は前記金型40内に形成される前記少なくとも1個の突起部36の前記対をなす陰型48及び陽型痕跡50の形状を記憶する。更に、このように前記金型40内で十分な長さの時間加熱することにより、前記歯科用工具又は器具10の初期転移温度がカ氏約50±10度(セ氏10±5度)の初期転移温度から体温よりやや低い最終転移温度、すなわちカ氏約90.5±4度(すなわちセ氏32.5±3度)に変化する。その結果、その後に前記歯科用工具又は器具10の温度が最終転移温度以上となる度、すなわち前記歯科用工具又は器具10がオーステナイト相となる度に、前記歯科用工具又は器具10は前記少なくとも1個の突起部36の、前記金型40の前記対をなす陰型痕跡48及び陽型痕跡50を反映する当該記憶される成形形状に常時自動的に復帰する。
【0037】
加熱工程中に、前記歯科用工具又は器具10をa)前記歯科用工具又は器具10の前記成形形状の記憶を容易にし、b)前記歯科用工具又は器具10の初期転移温度の新たな最終転移温度への変化を容易にする十分な温度まで加熱する。すなわち、前記歯科用工具又は器具10の元の転移温度の変化及び成形形状の記憶を容易にする加熱温度は、典型的にはカ氏392~707度(セ氏200~375度)で30分~240分加熱する。より好ましくは、前記歯科用工具又は器具10の元の転移温度から新たな最終転移温度への変化及び成形形状の記憶を容易にする加熱温度はカ氏482~662度(セ氏250~350度)であって、最も好ましくは、前記歯科用工具又は器具10の転移温度の変化及び成形形状の記憶を容易にする加熱温度はカ氏約572度(セ氏300度)である。より好ましくは、前記歯科用工具又は器具10の元の転移温度から新たな最終転移温度への変化及び成形形状の記憶を容易にする加熱時間は45~90分である。
【0038】
前記歯科用工具又は器具10が前記金型40内に収容され、任意の記憶温度で任意の時間加熱される間に、前記歯科用工具又は器具10は略焼戻され、これにより元の記憶形状が、前記歯科用工具又は器具10が新たな最終転移温度以上となる度、すなわち前記歯科用工具又は器具10がオーステナイト相となる度に前記歯科用工具又は器具10が常時自動的に適合及び復帰する新たな記憶形状に変更される。すなわち、前記歯科用工具又は器具10のマルテンサイト相がオーステナイト相に転移する度に瞬時に、前記歯科用工具又は器具10は当該新たな記憶形状を記憶し自動的に適合する。
【0039】
前記歯科用工具又は器具10を前記金型40内で任意の温度まで任意の時間加熱した後、
図12に概略示す通り、前記金型40及び前記歯科用工具又は器具10を流体槽52(冷水等)内で急速に冷却、すなわち急冷する。このように前記歯科用工具又は器具10を急冷することにより、前記歯科用工具又は器具10の焼鈍し及び前記少なくとも1個の突起部36の形状記憶が容易になる。
【0040】
図13に概略示す通り、急冷処理後、前記上部の第2の金型44を前記基部型42から分離して前記金型40を開放し、歯科用工具又は器具10を取出可能にする。上述の工程を行った結果、a)前記歯科用工具又は器具10の元の転移温度を体温よりやや低い最終転移温度、すなわちカ氏約90.5±4度(すなわちセ氏32.5±3度)に変化させ、b)前記歯科用工具又は器具10が前記少なくとも1個の突起部36の成形形状を記憶し、前記歯科用工具又は器具10のマルテンサイト相がオーステナイト相に転移する度に瞬時に当該記憶形状に適合する。前記歯科用工具又は器具10が最終転移温度より低い温度の場合、前記歯科用工具又は器具10はマルテンサイト相であって、折曲可能又は成形可能である。
【0041】
しかしながら、前記少なくとも1個の突起部36を形成する当該記憶形状により、前記歯科用工具又は器具10の梱包、保管及び/又は運搬が困難となる。この問題に対応するため、
図14に概略示す通り、例えば前記歯科用工具又は器具10が室温においてマルテンサイト相となるよう、製造後に前記歯科用工具又は器具10に冷却用/消毒用液体又は気体を噴霧することにより十分に冷却して、前記歯科用工具又は器具10を消毒し、最終転移温度より低い温度にしてもよい。その後、
図14Bに概略示す通り、前記歯科用工具又は器具10を保護カバー又はケース54等の適切な梱包に容易に挿入又は取外すため、前記歯科用工具又は器具10の前記少なくとも1個の突起部36を(
図14Aに概略示す通り)手動で真っすぐにしてもよい。
【0042】
上述した通り、前記歯科用工具又は器具10を確実に保護するため、前記歯科用工具又は器具10を製造及び殺菌した後、前記保護カバー又はケース54内に梱包する。前記保護ケース54は、典型的には前記歯科用工具又は器具10の少なくとも前記動作領域11及び少なくとも前記胴部38の一部を内部の筒状区画内で近接して受けて収容する薄い中空ケースであり、一方で前記歯科用工具又は器具10の前記駆動カップリング55は前記保護ケース54外側に配置され、外部環境に露出する。すなわち、前記駆動カップリング55は従来方法により回転具59と容易に係合できるよう保持する。これにより、前記歯科用工具又は器具10の前記駆動カップリング55を任意の回転具59に容易に取付可能である。最後に、前記保護ケース54内に収容された前記歯科用工具又は器具10を使用するまで前記歯科用工具又は器具10を滅菌状態に保持する従来の保護用梱包部材内に梱包する。
【0043】
前記保護ケース54は好ましくは少なくとも部分的に透明であって、これにより前記歯科用工具又は器具10が前記保護ケース54を介して少なくとも部分的に視認できる。前記保護ケース54は第1の開口端において開放しており、第2の閉口端において完全に閉鎖する。前記保護ケース54の外表面は目盛り56を備え、前記目盛り56は前記保護ケース54の前記第1の開口端60において0.0cm等の初期測定値で開始し、典型的には第2の閉口端に隣接する25cm等の最大測定値で終了する。前記歯科用工具又は器具10の前記胴部38は可調深度表示器58を支持する。前記可調深度表示器58は歯科医が使用前に前記歯科用工具又は器具10に沿って摺動することにより、前記歯科用工具又は器具10の動作端を任意の根管に挿入する際の任意の深度を表示可能である。
【0044】
歯科医は患者の治療対象の歯根管の深さを決定すると、前記駆動カップリング55を、前記歯科用工具又は器具10を使用中に900±100rpm等の任意の回転速度で駆動する適切な従来の回転具59(
図16及び
図16A参照)に取付る。歯科医は前記駆動カップリング55の露出端を前記回転具59にしっかり取り付けると、前記歯科用工具又は器具10の一部を前記保護ケース54から取出し可能となり、前記歯科用工具又は器具10の前記動作領域11の前記保護ケース54内に保持されたままの部分までの十分な距離が患者の治療対象の歯根管の予め定めた深度に等しい(
図16B)。次に、歯科医は前記可調深度表示器58が前記保護ケース54の前記第1の開口端60に隣接するまで、前記可調深度表示器58を前記歯科用工具又は器具10に沿って前記胴部38から対向する前記動作領域11に向かって摺動させる(
図16C)。上記工程の結果、前記可調深度表示器58は、前記可調深度表示器58が患者の治療対象の歯に近接し隣接する/近接すると瞬時に、前記歯科用工具又は器具10が根管に十分及び完全に挿入されており、それ以上根管に挿入すべきではないことを歯科医に可視的に表示する。すなわち、前記可調深度表示器58は前記歯科用工具又は器具10の使用中に歯科医に対する停止表示器として機能する。
【0045】
前記歯科用工具又は器具10を前記保護ケース54から完全に取出す前に、典型的には前記歯科用工具又は器具10を例えば圧縮空気(図示せず)等の従来の冷却用圧縮気体又は液体を噴霧することにより冷却する。冷却用圧縮気体又は液体は前記保護ケース54を徐々に冷却し、このように前記保護ケース54を冷却することにより、前記歯科用工具又は器具10の次に少なくとも前記動作領域11が最終転移温度より低い温度まで十分に冷却され、これにより前記歯科用工具又は器具10の前記動作領域11を略直線構造、微湾曲構造、曲折構造、又はその他任意の形状又は構造に一時的に操作、成形又は合致可能となる。例えば、前記歯科用工具又は器具10が前記保護ケース54側で冷却され、前記保護ケース54内及び側に配置されている間に前記回転具59を駆動させて前記歯科用工具又は器具10を回転させて、前記歯科用工具又は器具10の前記動作領域11を
図16Dに示すように直線形状等に任意の直線構造又は形状に一時的に変形させてもよい。
図17に概略示す通り、上記したような直線、湾曲又は曲折構造等の任意の構造又は形状により、歯科医は前記歯科用工具又は器具10の先端部を治療対象の歯根管の入口孔により容易に挿入可能となる。
【0046】
しかしながら、
図18に示すように、前記歯科用工具又は器具10の温度が典型的には体温である歯により加熱されると瞬時に、前記歯科用工具又は器具10のマルテンサイト相がオーステナイト相に瞬間的及び自動的に転移し、前記歯科用工具又は器具10は同時に前記少なくとも1個の突起部36の記憶形状に適合及び合致するものとする。前記記憶形状は柔軟なマルテンサイト相より多少硬質なため、
図20、
図21、
図21A及び
図21Bに概略示す通り、より効果的に治療対象の歯根管の内表面から歯髄を切削又は除去可能であるものとする。歯髄は通常、現在入手可能な先行技術による歯科用工具では完全に清掃及び除去不可能であるが、前記歯科用工具又は器具10の前記少なくとも1個の突起部36は根管の筒状又は管状形状の部位及び領域、及び楕円状及びその他非筒状の部位及び領域から、歯髄を除去、清掃及び一掃するのに非常に効果的である。
【0047】
本発明によれば、前記歯科用工具又は器具10の前記少なくとも1個の突起部36を前記回転具59により回転させると、前記歯科用工具又は器具10が包囲及び/又は取囲む範囲及び体積61(
図19)が増大する。
【0048】
図17に概略示す通り、前記歯科用工具又は器具10が単純に直線形状又は構造を有する場合、前記歯科用工具又は器具10がオーステナイト相を有する際に取囲む範囲又は体積61は単純に、前記歯科用工具又は器具10が形成する体積に等しいものとする。当該図から明らかなように、歯科医が前記歯科用工具又は器具10を操作して、特に典型的には歯髄を完全に除去及び清掃するのが容易にではない複雑な湾曲断面及び狭窄断面を有する部位において、根管内表面から歯髄を全て完全に清掃及び除去するは非常に困難である。
【0049】
前記回転具59により前記歯科用工具又は器具10を回転させた際の、前記歯科用工具又は器具10の前記少なくとも1個の突起部36の範囲及び体積を増大させたことにより、特に典型的には歯髄を完全に除去及び清掃するのが容易にではない複雑な湾曲断面及び狭窄断面を有する部位において、前記少なくとも1個の突起部36の切断面又は端部34は根管内表面に密接に接触し切削する。すなわち、前記少なくとも1個の突起部36の記憶形状は、使用中において前記切断面又は端部34と根管内表面との一定で密接な接触を保持し易くする。このような根管内表面との一定で密接な接触は前記歯科用工具又は器具10が根管内に配置されている間中一定して連続的に保持され、例えば歯科医が前記歯科用工具又は器具10を根管底部に対して穏やかに出し入れして穿刺する間中一定して保持される。前記歯科用工具又は器具10の前記少なくとも1個の突起部36が根管内で回転させられることにより増大する範囲及び体積は、歯科医による往復の穿刺運動に結合されて、治療中の根管内の歯髄全てが完全に除去可能となる。
【0050】
好ましくは、本発明での使用においてニチノール線はニッケル54~57重量パーセント及びチタン43~46重量パーセントを含有する。
【0051】
前記歯科用工具又は器具10を根管から完全に取出した後、前記歯科用工具又は器具10を適切に廃棄、又は例えば従来の冷却用及び消毒用圧縮気体又は液体を噴霧して冷却してもよい。消毒用及び冷却用圧縮液体又は気体は前記歯科用工具又は器具10の少なくとも前記動作領域11を最終転移温度より低い温度に冷却する。最初に形成された際と同様に、次に前記歯科用工具又は器具10の前記動作領域11を略直線構造、微湾曲構造、曲折構造、又はその他任意の形状又は構造に一時的に操作、成形又は合致させることが可能となる。このような操作により、歯科医が前記歯科用工具又は器具10の先端部を消毒済保護ケース54の入口孔に容易に挿入できる。その後、前記歯科用工具又は器具10をマルテンサイト相の状態で後の使用まで保管してもよい。
【0052】
本発明は上述した実施形態に制限されず、異なる変更又は変形を行ってもよい。詳細には、上述した変形例は手動及び機械により駆動されるが、超音波振動を用いて前記器具10を制御してもよい。更に、選択した形態に応じて根管の前処理は異なっていてもよい。また、上述の変形は、前記器具10を構成する金属線の形状を平滑又は鋭利、丸型又は角型の形状等とすることにより行ってもよい。