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特許7133219側鎖に環状ニトロキシドラジカルとトリアルコキシシリルを含む共重合体およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】側鎖に環状ニトロキシドラジカルとトリアルコキシシリルを含む共重合体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C08F 293/00 20060101AFI20220901BHJP
   C08F 8/32 20060101ALI20220901BHJP
   C08F 8/42 20060101ALI20220901BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20220901BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20220901BHJP
   A61K 31/785 20060101ALI20220901BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220901BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220901BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220901BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220901BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220901BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
C08F293/00
C08F8/32
C08F8/42
C08L53/00
C08F8/00
A61K31/785
A61P31/00
A61P35/00
A61K45/00
A61K47/02
A61K47/34
A61K9/51
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018562433
(86)(22)【出願日】2018-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2018001438
(87)【国際公開番号】W WO2018135592
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2017007964
(32)【優先日】2017-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長崎 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 拓也
(72)【発明者】
【氏名】ホン ビン ロン
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/052463(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/111801(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/133647(WO,A1)
【文献】特開2011-173960(JP,A)
【文献】特開2010-243563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 293/00
C08F 8/32
C08F 8/42
C08L 53/00
C08F 8/00
A61K 31/785
A61P 31/00
A61P 35/00
A61K 45/00
A61K 47/02
A61K 47/34
A61K 9/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I-a)で表される共重合体。
【化1】
式中、
Aは、非置換または置換C1-C12アルコキシを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基、式R'"CH-基を表し、ここで、R'およびR"は独立してC1-C4アルコキシまたはR'とR"は一緒になって-OCH2CH2O-、-O(CH23O-もしくは-O(CH24O-を表す。
1は、式
【化2】
で表される基から選ばれる
2 -R 1 において、2は-NH-または-O-であり、R1は、式
【化3】
のいずれかである。
3 -R 2 において、L3はL2と同義であり、R2は式:-(CH2k-Si(O-Alk)3で表され、各Alkは同一であるか、若しくは異なるC1-4アルキルである。
3 はクロロ、ブロモまたはヒドロキシルである。
はH、SHまたはS(C=S)-Phであり、Phは1または2個のメチルまたはメトキシで置換されていてもよいフェニルを表す。
mは2~10,000の整数を表す。
kは、1~18の整数を表す。
pは2~99の整数であり、qは1~99の整数であり、rは0または1~20の整数であり、ただし、p+q+rは3~100であり、p、qおよびrの付された反復単位は、ランダムに存在するが、一体となって、mの付された反復単位のブロックセグメントとは別のブロックセグメントを形成する。
【請求項2】
1がパラキシリレンまたはメタキシリレンであり、Alkが同一である、請求項1の共重合体。
【請求項3】
請求項1の式(I-a)で表される共重合体を用いて製造された、生物活性物質が封入または内包された製薬学的組成物。
【請求項4】
請求項1の式(I-a)で表される共重合体を用いて製造された、BNS-22〔8-[(3,4-ジヒドロ-2H-キノリン-1-イル)カルボニル]-5,7-ジメトキシ-4-プロピル-2H-クロメン-2-オン〕、ソラフェニブ(sorafenib)、カンプトテシン、パクリタキセルおよび抗癌性白金錯体からなる群より選ばれる疎水性抗腫瘍剤が封入または内包された製薬学的組成物。
【請求項5】
請求項3~のいずれか1の製薬学的組成物であって、水性媒体中でナノサイズのミセル粒子を形成する、組成物。
【請求項6】
請求項1または2の共重合体と
(i)Si(O-Alk)4で表され、各Alkは同一であるか、若しくは異なるC1-4アルキルである、テトラアルコキシシラン、または
(ii)ナノサイズのシリカ粒子を含有する透析容器中の水可溶性溶液に生理活性物質としてのポリ(第四級アミン)抗菌性化合物または疎水性抗癌剤を共存させ、周囲温度以下の温度において水に対して透析する工程を含んでなる、生物活性物質が封入または内包されたシリカ含有レドックスナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水部がポリエチレングリコール(PEG)、疎水部がポリスチレンからなり、その疎水部側鎖にラジカル消去機能を有する環状ニトロキシドラジカルおよびトリアルコキシシランがそれぞれ共有結合した共重合体、並びに当該共重合体の生理活性物質のキャリヤーとしての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
親水部がポリエチレングリコール(PEG)、疎水部がポリスチレンからなり、その疎水部側鎖にラジカル消去機能を有する環状ニトロキシドラジカルを含む共重合体は、環状ニトロキシドラジカルが高分子化されることにより生体環境下で安定性を獲得した上で、ニトロキシドラジカルが発揮し得るレドックス機能を利用して、生体内における過剰な活性酸素等の産生、存在に起因するとみなせる各種障害を予防または治療できることが確認されている(例えば、特許文献1:WO 2009/133647参照)。このような共重合体とシリカを含む有機-無機ハイブリッド複合体のナノ粒子は、当該共重合体を含むが、シリカを含まない系で自動的に組織化して作製して得られる有機ナノ粒子に比べ、酸性条件下等において安定性が向上し、また、一定の薬剤のキャリヤーとして使用できることも確認されている(例えば、特許文献2:WO 2013/118783又は非特許文献1:Hossain A. et al., J.Drug.Target,2014;22(7):638-647参照)。
【0003】
しかし、必ずしも、当該複合体のナノ粒子中に薬剤を効率よく詰め込む(または内包する)ことができない場合があり、特に、処理条件下で薬剤が変性等することにより活性に悪影響を受ける可能性のある薬剤を対象とするときには改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO 2009/133647
【文献】WO 2013/118783
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hossain A. et al., J.Drug.Target,2014;22(7):638-647
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の問題点、特に、薬剤の活性に悪影響を及ぼす可能性のより少ない条件下で薬物(又は生理活性物質)を効率よく封入することができ、かつ、疎水部側鎖に含まれる環状ニトロキシドラジカルの機能を発現できる共重合体を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、今ここに、親水部がポリエチレングリコール(PEG)、疎水部がポリスチレンからなり、その疎水部側鎖にレドックスまたはラジカル消去機能を有する環状ニトロキシドラジカルを含む共重合体において、前記疎水部側鎖に環状ニトロキシドラジカルに加え、トリアルコキシシリル基を共有結合的に導入すると、当該共重合体それら自体が架橋することにより各種溶液中で安定なナノ粒子を形成するだけでなく、当該共重合体とテトラアルコキシシラン若しくはナノサイズのシリカとを、また、これらの系にさらに一定の薬物を共存させて処理すると、周囲温度以下、例えば、10℃~30℃において、効率よく生理活性物質または薬物を高含有率で封入したシリカ含有レドックスナノ粒子を提供できることを見出した。
【0008】
したがって、本発明によれば、次の態様の発明が提供される。
(1) 下記式(I)で表される共重合体。
【0009】
【0010】
式中、
Aは、非置換または置換C1-C12アルコキシを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基、式R'"CH-基を表し、ここで、R'およびR"は独立してC1-C4アルコキシまたはR'とR"は一緒になって-OCH2CH2O-、-O(CH23O-もしくは-O(CH24O-を表す。
【0011】
1は、式
【0012】
【0013】
で表される基から選ばれるか、または
単結合、-(CH2bS-、-CO(CH2bS-、-(CH2bNH-、-(CH2bCO-、-CO-、-OCOO-、-CONH-からなる群より選ばれてもよい。
【0014】
Xは、個々に次の(a)、(b)および(c)に記載される基を含んでなり:
(a)L2-R1で表され、L2は-(CH2a-NH-(CH2a-または-(CH2a-O-(CH2a-であり、R1は、式
【0015】
【0016】
のいずれかである。
(b)L3-R2で表され、L3はL2と同義であり、R2は式:-(CH2k-Si(O-Alk)3で表され、各Alkは同一であるか、若しくは異なるC1-4アルキルである。
(c)R3で表され、R3はクロロ、ブロモまたはヒドロキシルである。
且つ、(a)と(b)と(c)を有するポリマー主鎖中の単位(unit)はランダムに存在し、(a)を有する単位は2~99の範囲内にあり、(b)を有する単位は1~98の範囲内にあり、(c)を有する単位は存在しないか、若しくは1~20の範囲内にあり、ただし、これらの単位の総数はnとなる。
【0017】
ZはH、SHまたはS(C=S)-Phであり、Phは1または2個のメチルまたはメトキシで置換されていてもよいフェニルを表す。
【0018】
各aは、独立して0又は1~5の整数であり、
bは1~5の整数であり、
kは1~18の整数であり、
mは2~10,000の整数を表し、
nは3~100の整数を表す。
【0019】
(2) L1がパラキシリレン,メタキシリレンまたは-CH2CH2S-であり、L2が-NH-または-O-であり、Alkが同一である、上記(1)に記載の共重合体。
【0020】
(3) (1)の式(I)で表される共重合体とポリ(第四級アミン)抗菌活性化合物とを含んでなる製薬学的組成物。
【0021】
(4) (3)の組成物であって、前記抗菌活性化合物が式:
【0022】
【0023】
式中、
Aは-(CH2j-で表され、jは0又は1~17の整数であり、
Rは水素原子またはメチルであり、
フェニルは、水素原子の1~5個の少なくとも1つがC1-6アルキル、C1-6アルコキシまたはヒドロキシで置換されていてもよい、
で表される、化合物である、組成物。
【0024】
(5) (1)の式(I)で表される共重合体と疎水性抗癌剤とを含んでなる製薬学的組成物。
【0025】
(6) (5)の組成物であって、疎水性抗癌剤がBNS-22〔8-[(3,4-ジヒドロ-2H-キノリン-1-イル)カルボニル]-5,7-ジメトキシ-4-プロピル-2H-クロメン-2-オン〕、ソラフェニブ(sorafenib)、カンプトテシン、パクリタキセルおよび抗癌性白金錯体からなる群より選ばれる、組成物。
【0026】
(7) (3)~(6)のいずれか1の組成物であって、水性媒体中でナノサイズのミセル粒子を形成する、組成物。
【0027】
(8) 生物活性物質が封入または内包された医療用シリカ含有レドックスナノ粒子であって、該シリカ含有ナノ粒子は、ナノサイズのシリカ粒子に(1)で定義した式(I)で表される共重合体の-L3-(CH2k-Si(O-Alk)3を介して固定されており、かつ、該シリカ粒子に生理活性物質が結合または吸着されている構造を有する、シリカ含有レドックスナノ粒子。
【0028】
(9) 上記(8)に記載のシリカ含有レドックスナノ粒子であって、生理活性物質が式
【0029】
【0030】
式中、
Aは-(CH2j-で表され、jは0又は1~17の整数であり、
Rは水素原子またはメチルであり、
フェニルは、水素原子の1~5個の少なくとも1つがC1-6アルキル、C1-6アルコキシまたはヒドロキシで置換されていてもよい、
で表される、抗菌化合物、またはBNS-22、ソラフェニブ(sorafenib)、カンプトテシン、パクリタキセルおよび抗癌性白金錯体からなる群より選ばれる抗癌剤である、ナノ粒子。
【0031】
(10) (1)に記載の共重合体単独または当該共重合体と
(i)Si(O-Alk)4で表され、各Alkは同一であるか、若しくは異なるC1-4アルキルである、テトラアルコキシシラン、または
(ii)ナノサイズのシリカ粒子を含有する透析容器中の水可溶性溶液に生理活性物質としてのポリ(第四級アミン)抗菌性化合物または疎水性抗癌剤を共存させ、周囲温度以下の温度において水に対して透析する工程を含んでなる、生物活性物質が詰め込まれたシリカ含有レドックスナノ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、式(I)で表される共重合体が提供され、当該共重合体はそれら自体が架橋することにより各種溶液中で安定なナノ粒子を形成するだけでなく、当該共重合体それら単独または当該共重合体とテトラアルコキシシラン若しくはナノサイズのシリカとを、また、これらの系にさらに一定の生理活性物質を共存させて処理することにより、効率よく生理活性物質を詰め込んだシリカ含有レドックスナノ粒子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】製造例1で製造されたPEG-b-PCMSのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラムによる分離スペクトルと1H NMRスペクトル。
図2】製造例3で製造されたBMA-PEG-b-PDMAEMAの1H NMRスペクトル。
図3】製造例4で製造されたBDMA-PEG-b-PTMAEMAの1H NMRスペクトル。
図4】製造例5で製造されるTEOSを用いたシリカ含有レドックスナノ粒子(siRNP)の光散乱スペクトル(左:高イオン強度下、右:pH=2下)。
図5】製造例5で製造されるTEOSを用いたシリカ含有レドックスナノ粒子(siRNP)について、左図は各粒子のポリマー当りのSi含有量を示し、右図各粒子の粒子径を示す。
図6】製造例6で得られたsiRNPの高イオン強度下での光散乱スペクトル(左図)であり、酸性下での光散乱スペクトル(右図)。
図7】製造例7で得られたsiRNPの高イオン強度下での光散乱スペクトル(左図)であり、酸性下での光散乱スペクトル(右図)。
図8】試験2における、BAECによる毒性評価の結果。
図9】試験2における、BAECによるより高い濃度での毒性評価の結果。
図10】製造例9(1)におけるシリカ含有レドックスナノ粒子の薬物封入効率を示す。
図11】製造例9(2)における薬物封入シリカ含有レドックスナノ粒子の酸性下での安定性試験の結果。
図12】製造例9(3)における、in vitroでの薬物放出試験の結果。
図13】製造例9(4)における、in vivo での薬物放出試験の結果。
図14】製造例9(4)におけるAUC分析の結果。
図15】試験3におけるCation siRNPのマウス腹腔内における抗菌能評価試験のプロトコールの概要
図16】試験3の抗菌能評価試験の結果。
図17】~[図19] 試験4におけるCation siRNPのマウス腹腔内投与時の毒性評価試験の結果。
図20】製造例10で調製されたsorafenib siRNPの線維症に対する評価試験の結果。
【発明の詳細な記述】
【0034】
(A)共重合体について
式(I)で表される共重合体は、代替的に、次の式で表すことができる。
(I-a)
【0035】
【0036】
式中、A、L1、Z、m、L2-R1、L3-R2、R3は上記式(I)について定義したのと同義であり、pは2~99の整数であり、qは1~99の整数であり、rは0(ゼロ)又は1~20の整数であり、ただし、p+q+rは3~100(n)であり、p、qおよびrの付された反復単位は、ランダムにそんざいするが、一体となって、mの付された反復単位のブロックセグメントとは別のブロックセグメントを形成する。
【0037】
この共重合体は、水性溶液または均質な分散体において、高イオン強度下(例えば、0.3Mの水溶液)および酸性下(pH=2.0)において、簡単に崩壊することのないナノサイズ(平均約25~約45nm)の粒子を形成する。
【0038】
本発明に関して、ナノサイズの粒子またはナノ粒子とは、それらを含む水性溶液または均質な分散体において、動的散乱光(DLS)による解析を行った場合に、平均粒径がナノメートルのサイズ範囲内にある粒子を意味する。
【0039】
当該粒子表面が化学反応性を示さないことが望ましい場合には、Aは、非置換C1-12アルコキシが好ましく、C1-6アルコキシがより好ましく、C1アルコキシ(メチル)が最も好ましい。
【0040】
Aの定義に限定されるものでなく、本発明全体を通して、Ca-zアルコキシ若しくはアルキルのように表示される場合、炭素原子数a個~z個を有する直鎖若しくは分岐のアルコキシ若しくはアルキルを意味し、アルキル部分若しくはアルキルとしては、限定されるものでないが、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、ウンデシル等を挙げることができる。
【0041】
1としては、パラキシリレン若しくはメタキシリレン、または-(CH22S-の連結基であることが好ましく、L2としては,定義中のaがゼロ(0)である、-NH-または-O-であることが好ましく、-NH-がより好ましい。L1及びL2の様に結合の方向性により、異なる意味を有する場合には、記載された方向性において結合するものと意図されており、例えば、-(CH22S-の連結基にあっては、S原子が式(I)のnの付された反復単位と結合することを意味する。
【0042】
式(I)において(a)、(b)および(c)に記載される基を有するポリマー主鎖中の単位、または式(I-a)においてp、q及びrの付された単位の中、(c)に記載される基を有するポリマー主鎖中の単位、または式(I-a)においてrの付された単位は、本発明の目的を達成するためには存在しなくてもよい。
【0043】
-R2において、LはLと同義であり、好ましくは-NH-又は-O-であり、Rは-(CH2k-Si(O-Alk)3であり、kは2~12の整数が好ましく、3~8の整数がより好ましい。また、mは12~1000が好ましく、50~500がより好ましく、nは6~80が好ましく、10~60がより好ましく、pは3~80の整数であり、qは3~80の整数であり、rは存在しないものが好ましく、pおよびqはそれぞれ5以上であることが好ましい。
【0044】
このような共重合は、水、イオン強度の高められたまたは緩衝剤を含む水性媒体または水性溶液中で、疎水部をコアとし、親水部をシェルとするナノサイズのミセル粒子または粒子として存在し得る。
【0045】
前記共重合体は、限定されるものでないが、その親水部がポリエチレングリコール(PEG)、疎水部がポリスチレンを含んでなり、その疎水部側鎖にハロメチレン、特にクロロメチルを含む共重合体(以下、PEG-b-PCMSともいう)を原料とし、PCMSのハロメチレンを介して環状ニトロキシドラジカルおよび基-L-Rであって、L3がNH又はOであり、Rが(CH2k-Si(O-Alk)3である基を共有結合的に導入することにより首尾よく提供できる。L3は、PCMSに当該基を導入する際に、L3の相当する部分にアミノまたはヒドロキシル基を有する化合物を反応体として利用すればよい。PEG-b-PCMSは、一般的には、WO 2016/052463または前記特許文献1に記載された方法により製造できる。前者に記載の方法の典型的なものは、後述する製造例において説明する。
【0046】
(B)共重合体の使用について
式(I)で表される共重合体は、それら自体でナノサイズの粒子を形成できるが、これらの粒子を形成する際に、Si(O-Alk)4(ここで、各Alkは同一であるか、若しくは異なるC1-4アルキルであり、好ましくは、同一である。)のテトラアルコキシシランまたはナノサイズのシリカ(シリカゾル)を共存させることによる、コア中に存在し得る、シリカの含有量を制御、増大でき、特に、テトラアルコキシシランを用いると、その使用量に応じて増大するシリカ含有量の粒子を得ることができる。こうして、本発明によれば、コア領域にシリカを含有し、その周辺に式(I)の共重合体に由来する疎水性セグメント部が存在し、当該コアを取り巻くシェル部に親水性セグメント部のPEG鎖が存在する、ナノサイズのシリカ含有粒子を提供できる。かようなナノサイズのシリカ含有粒子は、それらに含まれるシリカを利用して、例えば、体内の汚染物質を吸着除去するのに使用できる点でも、有用である。
【0047】
ところで、例えば、非特許文献1に記載されるように、従来のシリカ含有粒子レッドクス粒子は、一般的な生理活性物質にとっては悪影響を受けやすい比較的に高い温度(例えば、80℃)で作成する必要があるが、式(I)の共重合体では、基L-Rの、-NH-若しくは-O-を介した-(CH2k-Si(O-Alk)3の存在により、比較的低い温度(周囲温度以下、例えば、10℃~30℃)において目的とするナノサイズのシリカ含有粒子レッドクス粒子を作製できる点、さらには、テトラアルコキシシランを用いて得られるシリカ含有量を制御できる点に特徴がある。また、かような特徴は、粒子の形成できる系に種々の生理活性物質〔ポリ(第四級アミン)殺菌剤や疎水性抗癌剤のようにまったく化学的特徴を異にする〕を共存させて粒子を形成しても失われない。したがって、本発明によれば、上記のようなナノ粒子を形成するこができる、式(I)の共重合体(必要により、ナノサイズのシリカ(シリカゾル)由来のシリカと共に)とポリ(第四級アミン)抗菌活性化合物または疎水性抗癌剤とを含んでなる製薬学的組成物も提供できる。組成物における式(I)の共重合体、場合により含まれるナノサイズのシリカ(シリカゾル)由来のシリカおよび生理活性物質の混合比は、選択される各成分によって最適値が変動するが、水性媒体中でナノミセルを形成することが出来るものであれば限定されず、このましい比率は後述の製造例、試験例を参照して決定することが出来る。
【0048】
かような組成物から水性媒体中で形成されたナノサイズのミセル粒子は、例えば、凍結乾燥、遠心分離、等をすることにより、上記の(8)の態様のシリカ含有レドックスナノ粒子を提供することもできる。
【0049】
生物活性物質若しくは薬物含有または非含有ナノ粒子は、高イオン強度下での凝集がなく、酸性下でアミノ基のプロトン化状態でも崩壊しない安定な粒子であり、しかも、生理活性物質として抗菌活性化合物または抗癌剤を含有するときには、所期の生理活性を発揮する一方で、正常なヒト内皮細胞に対しては毒性を殆ど示さない点に特徴を有する。
【0050】
したがって、こうして提供される、抗菌剤や抗癌剤を封入または内包したシリカ含有粒子レドックスナノ粒子は、水性媒体中で、可溶化または均一に分散した溶液または液剤として提供できるのであらゆる形態にある非経口製剤または経口製剤を調製するのに使用できる。前記シリカ含有粒子レドックスナノ粒子は凍結乾燥することにより固形物として提供できるので、それ自体の当該技術分野で常用されている賦形剤、希釈剤を利用して錠剤、丸薬、顆粒剤として提供することもできる。なお、本発明に関し、封入と内包の語は、互換可能な語として用いられている。
【0051】
かようなナノ粒子は、上記の(10)に記載した態様の製造方法により、都合よく提供できる。ここで、式(I)の共重合体とテトラアルコキシシランまたはナノサイズのシリカ粒子と生理活性物質は、水可溶性の有機溶媒、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)等の溶液として透析容器に充填される。当該容器の形状は問わないが、使用に耐えられる形態にあるものであればいずれでもよく、例えば、分画分子量12kDa~14kDaの透析チュ―ブであることができる。透析は水に対して行われ、目的のシリカ含有レドックスナノ粒子が形成されるのに十分な時間、十分な回数行われる。具体的な条件についは、後述するので、当業者であれば、それらを参照して、必要があれば改変して、実施できる。
【0052】
生理活性物質には、上述するとおり、化学的特徴を全く異にするポリ(第四級アミン)殺菌剤や疎水性抗癌剤に上記方法が適用できるので、それ自体公知のポリ(第四級アミン)殺菌剤や疎水性抗癌剤であって、本発明の目的に沿うものであればいずれも包含される。代表的な、前記抗菌剤は、式
【0053】
【0054】
式中、
Aは-(CH2j-で表され、jは0又は1~17の整数であり、
Rは水素原子またはメチルであり、
フェニルは、水素原子の1~5個の少なくとも1つがC1-6アルキル、C1-6アルコキシまたはヒドロキシで置換されていてもよい、
で表される、抗菌化合物を挙げることができる。他方、疎水性抗癌剤としては、BNS-22〔8-[(3,4-ジヒドロ-2H-キノリン-1-イル)カルボニル]-5,7-ジメトキシ-4-プロピル-2H-クロメン-2-オン〕、ソラフェニブ(sorafenib)、カンプトテシン、パクリタキセル、抗癌性白金錯体(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン)等を挙げることができる。
【0055】
前記抗菌剤に関して、一般的には、次の反応スキームに従い、製造できる。
【0056】
【0057】
また、疎水性抗癌剤は、それ自体公知であり、BNS-22に見られるような低い水溶性を有する化合物であればいずれも利用することできる。
【0058】
生理活性物質を封入したシリカ含有レドックスナノ粒子は、生理活性物質の特性、化学構造により最大封入量が変動するのと特定できないが、例えば、生理活性物質が後述するBDMA-PEG-b-PTMAEMAであり、毒性が低いものは、式(I)の共重合体対生理活性物質は、質量比にて、2:1~400:1、好ましくは、4:1~200:1とすることができる。
【0059】
当該技術分野では、抗菌ペプチドはその両親媒性とカチオン性によって選択的に静電的作用によってバクテリアの膜を破壊し殺菌作用を持つことが知られつつある。従来のペニシリンなどに代表される抗生物質は、タンパク質の機能阻害などをもとに抗菌能を発揮するため、しばしば耐性菌を作り出すことが大きな問題とされてきたが、抗菌ペプチドは物理的破壊に基づくため比較的耐性菌を創出しにくいことが考えられいくつかの研究が進められている。近年ではペプチドのみならず、これを模倣した抗菌ポリマーの開発も進められている。上記の本発明の抗菌剤が詰め込まれたナノ粒子は、かようなトレンドに沿うものでもある。くわえて、当該粒子内に同時に含有される、環状ニトロキシドラジカルのレドックス機能、また、シリカの吸着機能が発揮されることから、例えば、細菌性腹膜炎、特に、腹膜透析患者の腹腔内感染症の予防および/または治療に好適に使用できる。また、抗癌剤が詰め込まれたまたは内包されたシリカ含有レドックスナノ粒子は、酸性条件下、高イオン強度下で安定であり、前述したとおり、非経口投与に加えて、経口投与できることから、消化器系の癌の予防および/または治療に好適に使用できる。
【0060】
上記のような疾患の治療に使用する場合の、生理活性物質の詰め込まれたシリカ含有レドックスナノ粒子の用量は、疾患の種類程度等により最適値が変動するので限定的でなく、例えば、小規模の動物実験を実施して得られるデータ等に基づいて専門医が決定することができる。
【実施例
【0061】
以下、具体例を参照に本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、それらに限定されることを意図するものでない。
【0062】
製造例1:ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(クロロメチルスチレン)(PEG-b-PCMS) ジブロック共重合体の合成
PEG-b-PCMSは、次の合成スキーム1に従い合成した:
【0063】
【0064】
末端にヒドロキシ基を持つメトキシポリエチレングリコール(PEG-OH)(Mn:5000;3mmol,15g)を110℃で12時間真空引きすることによって脱水を行った。その後窒素雰囲気にした後テトラヒドロフラン(THF)を60mL加えた。次いで、そこにn-ブチルリチウム(BuLi)(0.384g,6mmol)を加えた。更にα,α’-ジクロロパラキシレン(5.25g,30mmol)を加えることによりポリエチレングリコール-クロロパラキシレン(PEG-Cl)を合成した。イソプロピルアルコールに対して沈殿させることで精製処理を行った(収量13.77g、収率91.8%)。二硫化炭素(0.974g,12.8mmol)とベンゾマグネシウムブロマイド(末端に連鎖開始剤をもつポリエチレングリコール(PEG-CTA)を回収した(収量7.76g,収率 97%)。PEG-CTA(Mn:5000;0.7mmol,3.5g)を反応容器に加えた。次に、反応容器中を真空にした後、窒素ガスを吹き込む操作を3回繰り返すことにより、反応容器内を窒素雰囲気にした。反応容器に1アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(114.9mg,0.7mmol)とクロロメチルスチレン(21mmol,3mL)を加え、60℃まで加熱し、24時間攪拌した。反応混合物をポリクロロエチルスチレンホモポリマーに対しての良溶媒であるジエチルエーテルを用いて3回洗浄操作を行った後、ベンゼン凍結乾燥を行い、肌色の粉体を得た。これによりポリエチレングリコール-ポリクロロメチルスチレン(PEG-b-PCMS)の合成が完了し、収量は、4.45gだった(収率72%)。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラムによる分離スペクトルとNMRスペクトルを図1に示す。
【0065】
製造例2:TEMPOとシリカをランダムに結合させたスチレンポリマーを有するジブロックポリマー(PEG-b-PMNT-Si)の合成
PEG-b-PMNT-Siは以下のスキーム2に従って合成した;
【0066】
【0067】
反応容器に、PEG-b-PCMS(Mn:8878;1.191g,0.14mmol)を加えた。8mLのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)で溶解した。次に、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル(Amino-TEMPO)(2.5g,14.6mmol)を4mLのDMFに溶解し反応容器に加え、アミノプロピルトリメトキシサイレーン(APTMS)(0.261g,1.46mmol)を加えて室温で24時間攪拌を行った。
【0068】
製造例3:ベンジルメチルアミン-PEG-b-ポリメタクリル酸[2-(N,N-ジメチル)アミノエチル] (BMA-PEG-b-PDMAEMA)の合成
BMA-PEG-b-PDMAEMAは以下のスキーム3に従って合成された:
【0069】
【0070】
反応器に150mLのTHF、1-フェニルエチレンジアミン0.3gおよびカリウムナフタレン(3mL、0.9M)を加え、更にエチレンオキシド12gを入れて室温で24時間撹拌し、アニオン重合により末端がベンジルメチルアミンのポリエチレングリコールを合成した。その後ジメチルアミノエチルメタクリル酸(12g)を入れて室温で24時間撹拌し、ベンジルメチルアミンポリエチレングリコール-b-ポリメタクリル酸[2-(N,N-ジメチル)アミノエチル]を合成した。ジエチルエーテルによる沈殿精製を行った。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラムによる分離スペクトルとNMRスペクトルを図2に示す。
【0071】
製造例4:ベンジルジメチルアミン-PEG-b-ポリメタクリル酸[2-(N,N,N-トリメチル)アミノエチル](BDMA-PEG-b-PTMAEMA)の合成
BDMA-PEG-b-PTMAEMAは以下のスキーム4にしたがって合成された:
【0072】
【0073】
反応器にBMA-PEG-b-PDMAEMA(6g)を入れて、THF(30mL)に溶解しヨウ化メチル(5g)を追加した。室温で24時間撹拌した。イソプロピルアルコールによって沈殿精製を行い、黄色の粉体を得た。NMRスペクトルを図3に示す。
【0074】
製造例5:TEOSを用いたシリカ含有レドックスナノ粒子(siRNP)の設計
製造例2で得られたPEG-b-PMNT-Si反応混合物を2.8g(活性成分480mg含有)、テトラエトキシシラン(TEOS)を333mgおよびDMF48mLを混合し、透析チューブ(分画分子量12KDa-14kDa)に入れ、2Lの水に対して透析した。12時間ごとに水を5回交換した。得られた溶液を高イオン強度水(NaCl=0.3M)および酸性水(pH=2.0)に調製し、24時間後に光散乱およびゼータ電位を測定した結果を図4に纏める。
【0075】
図4から高イオン強度下での平均粒径および表面のゼータ電位は、それぞれ38.3nm、-0.6mVであり、pH=2.0下での平均粒径および表面のゼータ電位は、それぞれ39.8nm、14.6mVであり、高イオン強度下での凝集がなく、酸性下でアミノ基のプロトン化状態でも崩壊しない安定な粒子であることが確認される。調製前後でESR強度は全く変化せず、これまでの問題であった熱処理なしに安定なシリカ含有レドックスナノ粒子の作製が可能となった。
【0076】
次に同様にして透析し(I)PEG-b-PMNTのミセル、(II)PEG-b-PMNT-Siのナノ粒子、(III)PEG-b-PMNT-SiとTEOSを60%(SiO2 weight/polymer weight)混合したナノ粒子の3種類の透析物を得た。その結果、動的散乱光(DLS)による解析によると図5右図の通りの粒子径をもつ粒子を得ることが出来これらのSi含有量を誘導結合プラズマ発行分光分析(ICP-MASS)によって解析した結果、TEOS導入量に応じて図5の通りのシリカ含有量の粒子を得ることが出来た。
【0077】
製造例6:シリカゾルを用いたsiRNPの設計
製造例2で得られたPEG-b-PMNT-Si反応混合物を2.8g(活性成分480mg含有)、メタノールシリカゾル(日産化学製、10-15nm)を320mgおよびDMF48mLを混合し、透析チューブ(分画分子量1KDa-14kDa)に入れ、2Lの水に対して透析する。12時間ごとに水を5回交換した。得られた溶液を高イオン強度水(NaCl=0.3M)および酸性水(pH=2.0)に調製し、24時間後に光散乱およびゼータ電位を測定した結果を図6に纏める。図6から高イオン強度下での平均粒径および表面のゼータ電位は、それぞれ42.0nm、-0.17mVであり、pH=2.0下での平均粒径および表面のゼータ電位は、それぞれ36.2nm、15.2mVであり、高イオン強度下での凝集がなく、酸性下でアミノ基のプロトン化状態でも崩壊しない安定な粒子であることが確認される。
【0078】
調製前後でESR強度は全く変化せず、これまでの問題であった熱処理なしに安定なシリカ含有レドックスナノ粒子の作製が可能となった。
【0079】
製造例7
製造例2で得られたPEG-b-PMNT-Si反応混合物を2.8g(活性成分480mg含有)、DMF48mLを混合し、透析チューブ(分画分子量12KDa-14kDa)に入れ、)の水に対して透析する。12時間ごとに水を)5回交換した。得られた溶液を高イオン強度水(NaCl=0.3M)および酸性水(pH=2.0)に調製し、24時間後に光散乱およびゼータ電位を測定した結果を図7に纏める。図7から高イオン強度下での平均粒径および表面のゼータ電位は、73.1nm、1.26mVであり、酸性下の平均粒径および表面のゼータ電位は45.9nm、20.2mVであり、高イオン強度下での凝集がなく、酸性下でアミノ基のプロトン化状態でも崩壊しない安定な粒子であることが確認される。
【0080】
調製前後でESR強度は全く変化せず、これまでの問題であった熱処理なしに安定なシリカ含有レドックスナノ粒子の作製が可能となった。
【0081】
製造例8:シリカ含有カチオン性レドックスナノ粒子(Cation siRNP)の設計
DMF中に溶解したPEG-b-PMNT-Si(130.9mg)とTHFに溶解したBDMA-PEG-b-PTMAEMA(104mg)とTEOSを混合した後アンモニア水(0.7mL)を加えて撹拌し透析膜に入れて水に対して透析を行った。混合量は表1に従う。12時間後6時間後3時間後と2Lの水を3回交換し、動的散乱光によって平均粒子径を測定した。これにより30~60nmのナノ粒子が形成されていることを確認した。シリカの混合量依存的に粒子径が変わることを確認した。これらの結果を表2に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
同様の方法にして、PEG-b-PMNT-SiとBDMA-PEG-b-PTMAEMAの導入量の比率を異なったものを複数作成した。比率は表2に従う。BDMA-PEG-b-PTMAEMAの減少によりゼータ電位が変化すること、粒子径に影響を与えないことを観察した。結果を下記の表3にまとめて示す。
【0085】
【0086】
試験1:シリカ含有カチオン性レドックスナノ粒子(Cation siRNP)のスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(JCM2151)に対する抗菌効果の評価
上記のように作製したCation siRNPをミューラーヒントン培養液と混合して段階希釈し、50μLごと分注し、そこに同培養液中の1×106 CFU/mLのStaphylococcus aureus(JCM2151)(国立研究開発法人 理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室から入手)を50μずつ96ウェルプレート中で混合した。20時間培養し最小増殖阻止濃度(MIC)を算出することによりその抗菌能を確認した。濃度はPEG―b―PMNT―Siポリマー換算による。その結果を表4に示す。
【0087】
【0088】
試験2:シリカ含有レドックスナノ粒子のウシ大動脈内皮細胞(Bovine aortic endothelial cell)に対する毒性評価
決定したMIC濃度での毒性を正常組織細胞であるBovine aortic endothelial cell(BAEC)を用いて評価した。
【0089】
ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)中Fetal bovine serum(FBS))濃度10%の培養液を用いて培養を行った。96 wellプレートに細胞を5000細胞ずつまいた後24時間後に細胞に対して各ナノ粒子をMIC濃度投与した。その後、24時間後にWST-8 kit試薬を用いて、試薬滴下後2時間後の450nmの吸光度を測定し、ブランクの測定値を引いた後に、Control(対照)の値で割ることで、生存比率を算出した。その結果を図8に示す。図8よりPEG-b-PMNT-SiとBDMA-PEG-b-PTMAEMAの導入比率によって毒性と抗菌能を調整できることがわかった。このことにより、毒性が低く抗菌能を持つ最適な比率を決定し、シリカ含有レドックスナノ粒子を創出した。また、より高い2倍3倍MIC濃度でのナノ粒子の毒性を評価しけた結果、毒性が出ない傾向があることを示唆する。結果を図9に示す。
【0090】
製造例9:BNS-22およびシリカ含有レドックスナノ粒子(BNS-22 siRNP)の設計
(1)ナノ粒子の製造例
ナノ粒子中にBNS-22を封入するために、DMF中に溶解したPEG-b-PMNT-Si(50mg)溶液中にBNS-22を10mg(ポリマー重量に対して20重量%)若しくは20mg(ポリマー重量に対して40重量%)加えて24時間撹拌した。次いで、24時間水に対して透析を行った。こうして得られたナノ粒子をsiRNPと略称する。
【0091】
また、DMF中に溶解したPEG-b-PMNT-Si(50mg)溶液中にTEOS 90μL(83.97mg)および、それぞれBNS-22を10mgもしくは20mg加え、24時間撹拌した。次いで、24時間水に対して透析を行った。こうして得られるナノ粒子はDLS測定により約80nmの平均粒径を有していた。以下、かような粒子をsiRNP+TEOSと称する。透析後、BNS-22の封入は315nmの最大吸収波長をもつBNS-22の特性を利用し吸光度を測定することによって評価した。結果を図10に示す。
【0092】
図10から、BNS-22の封入効率は従来法のナノ粒子であるRNP(N)(例えば、特許文献1参照)が7~8%なのに対しsiRNPは10~12%と有意に増加することを確認した。TEOSをナノ粒子形成系に共存させることにすることによって、得られるsiRNP+TEOS粒子においては、更に封入効率が17~18%と増加した。RNP(N)に高量で薬物を封入させようとしたときは白濁したが、siRNPの時にそれが透明の液体となっていることからもsiRNPがRNP(N)に比べて高い薬物封入効率を有することがわかる。
【0093】
(2)ナノ粒子の酸性条件下での安定性試験
(1)にしたがって得られた各ナノ粒子含有溶液を酸性水(pH=2.5:胃の中の状態)に調製し、粒子の形状を経時的にDLS測定により評価した。結果を図11に示す。
【0094】
図11からsiRNPおよびsiRNP+TEOSは従来法により作製できるRNP-Nに比べて低酸性条件下でより安定であることがわかる。
【0095】
(3)ナノ粒子からの薬物の放出試験
siRNP+TEOSを0.5重量%の水溶液(pH=2.5およびpH=7.5)を室温下に静置し、遊離の薬物量を経時的に測定した。その結果を図12に示す。
【0096】
図12から、siRNP+TEOSは、pH=2.5およびpH=7.5いずれにおいてもナノ粒子から徐々に放出されることがわかる。
【0097】
(4)ナノ粒子の薬物動態試験
上記(1)で得られるBNS-22含有siRNP(BNS-22@siRNP+TEOS:上記で一番薬物内包率の高かったもの)の0.75重量%の水溶液を8週齢のマウス(ICR mice)に経口摂取させた。動物から経時的に血液を採取し、薬物の血漿濃度を検出した。対照として、薬物0.5重量%のカルボキシメチルセルロース液(BNS-22(CMC0.5%))を同様に経口摂取させた。結果を図13に示す。
【0098】
結果を、AUC分析の結果と共に図14に示す。
【0099】
図から、BNS-22@siRNPの経口投与後、高濃度のBNS-22が血中で検出された。生物学的利用能を厳密に評価するため、血中薬物濃度時間面積(Area under the curve: AUC)による分液を行った結果、BNS-22@siRNPのAUCはBNS-22と比べて大幅に増加することが確認された。これらの結果は、siRNPによるBNS-22の生物学的利用能の向上を示唆する。
【0100】
試験3:シリカ含有カチオン性レドックスナノ粒子(Cation siRNP)のマウス腹腔内における抗菌能評価
この試験は、作製したカチオン性シリカ含有レドックスナノ粒子(Cationic siRNP)を用いて、腹膜透析患者において腹腔内に菌が入り込む状況を想定しマウスを用いて抗菌能の評価を行った。
ICRマウスの腹腔内にバクテリアであるStaphylococcus aureus(JCM2151株)を1×10 CFU注射した。その後Cationic siRNPをPEG-b-PMNT-Si濃度に換算して250mg/Kg(マウス体重),125mg/Kg,61.25mg/Kg投与した。12時間後に腹腔内を生理食塩水で洗浄し、洗浄液をTSB-agar培地で培養しコロニー数を比較した。
【0101】
プロトコール:
8週齢のICR(Cr)マウスの腹腔内にS.aureus(JCM2151) 1×10 CFU(500μL)を注入。試験は、1群6匹で実施した。プロトコールの概要を図15に示し、試験の結果を図16に示す。
図16から、250mg/Kgの濃度で顕著に抗菌能を示しそれ以下の濃度においてもその傾向が見られたことがわかる。
【0102】
試験4:カチオン性シリカ含有レドックスナノ粒子のマウス腹腔内投与時の毒性評価
腹腔内にCationic siRNPを投与したときの毒性を血中マーカー及び血中電解質濃度を測定することで評価した。すなわちICRマウス(9週齢、ICR(Cr);1群5匹)腹腔内にPEG-b-PMNT-Si濃度換算で250mg/Kg(マウス体重)(G.2群)、 62.5mg/Kg(G.3群)でCationic siRNPの投与を行った。なお、非処置対照を(G.1群)とした。24時間後に心臓より採血を行い、次いで遠心分離を行って血球細胞を除去した後、血清中のタンパクについてFUJIFILM乾式臨床化学分析装置富士ドライケム7000V(富士フィルム株式買会社製)を用いて測定した。結果を図17、18、19に示す。これらの図から、Cationic siRNPはマウス腹腔内において抗菌性を示す濃度において顕著な全身毒性が認められないものとみなせる。
【0103】
製造例10:ソラフェニブおよびシリカ含有レドックスナノ粒子(sorafenib siRNP)の設計
【0104】
(1)はじめに
はじめに、経口キナーゼ阻害剤であるソラフェニブ(sorafenib)は、進行性肝癌や腎癌の使用されてきた。最近、動物の肝線維症モデルにおいて抗線維症活性を示すことも知られている。しかし、水中での極めて低い溶解性や低いバイオアベイラビティーに起因して臨床環境下でのその使用は限定されていた。
【0105】
本製造例および試験では、前述のsiRNP中へのソラフェニブの封入および可溶化について試みる。
【0106】
(2)ナノ粒子の製造例及びそれらの特性の決定
種々のTEOS(SiOの~75%)含有DMFの1mL中にPEG-siPMNTの100mgを入れたバイアルにソラフェニブ10mgを加えた。次いで、NH20μLを加え、混合物を室温で2時間撹拌した。混合物を透析膜チューブ(MWCO 3.5kDa)に移し、蒸留水に対し透析した。透析中、透析液を数度交換した。
【0107】
薬物封入効率(EE)および薬物封入能(LC)を254nmにおけるUVの検出を用いるHPLCによって決定した。結果を下記表5に示す。
【0108】
注: 薬物内包率(EE)(%)=ナノ粒子中の薬物重量/用いた薬物重量
薬物詰め込み能(%)=ナノ粒子中の薬物重量/用いたナノ粒子重量
【0109】
(3)抗線維症活性の評価
肝線維症の病原において重要な役割を担う肝星細胞(hepatic stella cell)の不死化細胞株:TWNT-1(CVCL J364)を用いソラフェニブおよびsorafenib@siRNPについて抗線維症活性を評価した。増殖アッセイ(MMT kit)を用い、種々の濃度のソラフェニブおよびsorafenib@siRNPを96-ウエルプレート(5000細胞/well)に加え、2日間インキュベートした。このアッセイでは、sorafenib@siRNPはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に溶解できたが、遊離のソラフェニブはジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解する必要があったことに注意する必要がある。評価の結果を図20に示す。左図はTWNT-1に対する評価結果であり、右図は正常な内皮細胞(BAEC)に対する評価結果である。
【0110】
左図からsorafenib@siRNPはTWNT-1の増殖を阻害するソラフェニブの活性を維持し、抗線維症効果を示すことがわかる。他方、右図からsorafenib@siRNPは遊離のソラフェニブに比べて正常な内皮細胞に対して有意に優れた低毒性を示す。この結果は、siRNPの使用がソラフェニブのように疎水性薬物を可溶化できると同時に、薬物の生物活性を保持する一方で、正常細胞に対する悪影響を抑制できることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20