(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】糖尿病を治療するためのシステム、組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/28 20060101AFI20220901BHJP
A61K 38/26 20060101ALI20220901BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220901BHJP
A61P 3/08 20060101ALI20220901BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20220901BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20220901BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220901BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220901BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
A61K38/28 ZMD
A61K38/26
A61P3/10
A61P3/08
A61K47/20
A61K47/22
A61K47/10
A61K9/08
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2019542088
(86)(22)【出願日】2018-02-02
(86)【国際出願番号】 US2018016647
(87)【国際公開番号】W WO2018144867
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2021-01-25
(32)【優先日】2017-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512072577
【氏名又は名称】ヴァンダービルト ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】チャーリントン アラン
(72)【発明者】
【氏名】マグス デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ ソウミトラ
(72)【発明者】
【氏名】ローズ クリストファー エイ
(72)【発明者】
【氏名】リン ジュイ-チェン
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-512255(JP,A)
【文献】特表2006-514990(JP,A)
【文献】特表2014-507484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/28
A61K 38/26
A61P 3/10
A61P 3/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において高血糖を治療または阻害し、かつ同時に低血糖を阻害するための、インスリンおよびグルカゴンを含む組成物であって、前記インスリンおよびグルカゴンが、
1:1~
6:1の間のインスリン:グルカゴンのモル比で共投与されるものであ
り、前記インスリンおよびグルカゴンが、同時に高血糖を治療または阻害しつつ低血糖を阻害するのに治療的に有効な量で投与されるものであり、
前記インスリンおよびグルカゴンの共投与が、前記インスリンを0.2~0.6mU/kg/分の基礎注入速度で投与し、前記グルカゴンを1~4ng/kg/分の基礎注入速度で投与することを含む、組成物。
【請求項2】
前記対象が、前記インスリンおよびグルカゴンを共投与する前には高血糖である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
インスリンおよびグルカゴンを含む合剤の形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記合剤が、
1mg/mL~
10mg/mLの間の濃度のインスリン、および
0.1mg/mL~
1mg/mLの間の濃度のグルカゴンを含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記合剤が、
3mg/mL~
5mg/mLの間の濃度のインスリン、および
0.1mg/mL~
0.8mg/mLの間の濃度のグルカゴンを含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記合剤が、1種または複数の非水性溶媒を含む溶媒を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
前記溶媒の
20%~
60%(v/v)の間が、前記1種または複数の非水性溶媒からなる、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも1種の非水性溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはN-メチルピロリドン(NMP)である、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
前記溶媒が、1種または複数の水性溶媒をさらに含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
前記溶媒の
40%(v/v)以下が、前記1種または複数の水性溶媒からなる、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記溶媒の
10%~
40%の間が、プロピレングリコール(PG)、グリセロール、またはPGとグリセロールとの組合せである、請求項6に記載の組成物。
【請求項12】
前記インスリンおよびグルカゴンの合剤が、注射としてまたは注入ポンプにおいて患者が取り扱う場合に十分な使用中の安定性を有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項13】
前記インスリンおよびグルカゴンが皮下投与されるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記インスリンが、肝選択的インスリンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記インスリンおよびグルカゴンが、
1:1~
5:1の間のインスリン:グルカゴンのモル比で共投与されるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記インスリンおよびグルカゴンが、
3:1~
6:1の間のインスリン:グルカゴンのモル比で共投与されるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記インスリンおよびグルカゴンが、
3:1~
5:1の間のインスリン:グルカゴンのモル比で共投与されるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記インスリンが
0.3~0.5mU/kg/分の基礎注入速度で投与されるものである、請求項
1に記載の組成物。
【請求項19】
前記グルカゴンが
2~3ng/kg/分の基礎注入速度で投与されるものである、請求項
1に記載の組成物。
【請求項20】
前記インスリンが、インスリンアナログを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
前記グルカゴンが、グルカゴンアナログを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
前記対象が、1型、2型、妊娠性、または他の形態の糖尿病を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項23】
前記インスリンおよびグルカゴンが共投与されるときに、前記対象が自律神経不全に関連する低血糖を示している、請求項
22に記載の組成物。
【請求項24】
1mg/mL~
10mg/mLの間の濃度でインスリンを含み、かつ
0.1mg/mL~
1mg/mLの間の濃度でグルカゴンを含む合剤であって、インスリン:グルカゴンのモル比は、
1:1~
6:1の間である、合剤。
【請求項25】
前記インスリン:グルカゴンのモル比が、
1:1~
5:1の間である、請求項
24に記載の合剤。
【請求項26】
前記インスリン:グルカゴンのモル比が、
3:1~
6:1の間である、請求項
24に記載の合剤。
【請求項27】
前記インスリン:グルカゴンのモル比が、
3:1~
5:1の間である、請求項
24に記載の合剤。
【請求項28】
前記インスリンが、
3mg/mL~
5mg/mLの間の濃度であり、前記グルカゴンが、
0.1mg/mL~
0.8mg/mLの間の濃度である、請求項
24に記載の合剤。
【請求項29】
1種または複数の水性溶媒および1種または複数の非水性溶媒を含む溶媒をさらに含む、請求項
24に記載の合剤。
【請求項30】
前記溶媒の
20%~
60%(v/v)の間が、1種または複数の非水性溶媒からなり、前記溶媒の
40%(v/v)以下が、1種または複数の水性溶媒からなる、請求項
29に記載の合剤。
【請求項31】
少なくとも1種の非水性溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはN-メチルピロリドン(NMP)である、請求項
29に記載の合剤。
【請求項32】
前記溶媒の
10%~
40%の間が、プロピレングリコール(PG)、グリセロール、またはPGとグリセロールとの組合せである、請求項
29に記載の合剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年2月3日出願の米国仮特許出願第62/454,613号の利益を主張するものであり、その内容はすべての目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
本開示は、糖尿病患者の治療、特にインスリンとグルカゴンとの共投与を含む治療のためのシステム、組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者の治療には、多くの場合、例えばシリンジによる注射またはインスリン送達ポンプを介したインスリンの送達が含まれる。低血糖は、T1DM患者が最も恐れている合併症である。低血糖を避けるためインスリンが過少量投与されるので、低血糖は、有効な治療に対する主な障壁である。結果として、多くの場合、現在の治療によって、望ましくない低血糖イベントおよび/または高血糖イベントを含む不適切な血糖制御がもたらされる。
血液グルコース変動および低血糖エピソードを低減しながら、糖尿病患者を治療するシステム、組成物、および方法が必要である。
【発明の概要】
【0003】
本明細書に記載のシステム、デバイス、および方法の実施形態は、糖尿病患者の治療のためのシステム、デバイス、および方法と関連し得る。
いくつかの態様では、本開示は、インスリンとグルカゴンとを対象に共投与することを含む治療方法を提供し、インスリンとグルカゴンとを、インスリン:グルカゴンのモル比約1:1~約6:1の間で共投与し、インスリンとグルカゴンとを、同時に、高血糖を治療または阻害するために、および低血糖を阻害するために、治療有効量で投与する。例えば、インスリンとグルカゴンとを、インスリン:グルカゴンのモル比約1:1~約5:1の間で、約3:1~約6:1の間で、または約3:1~約5:1の間で共投与してもよい。対象は、インスリンとグルカゴンを共投与する前には高血糖であり得る。いくつかの実施形態では、インスリンとグルカゴンとの共投与は、インスリンとグルカゴンとを含む合剤を対象に投与することを含んでもよい。合剤は、約1mg/mL~約10mg/mLの間の濃度のインスリン、および約0.1mg/mL~約1mg/mLの間の濃度のグルカゴンを含んでもよい。例えば、合剤は、約3mg/mL~約5mg/mLの間の濃度のインスリン、および約0.1mg/mL~約0.8mg/mLの間の濃度のグルカゴンを含んでもよい。合剤は、少なくとも1種の非水性溶媒(例えば、ジメチルスルホキシドおよび/またはN-メチルピロリドンなどの非プロトン性溶媒)を含む溶媒を含んでもよい。いくつかの実施形態では、溶媒の約20%~約60%(v/v)が、1種または複数の非水性溶媒からなる。溶媒はさらに、1種または複数の水性溶媒を含んでもよい。いくつかの実施形態では、溶媒の約40%(v/v)以下が、1種または複数の水性溶媒からなる。いくつかの実施形態では、溶媒の約10%~約40%(v/v)は、プロピレングリコール(PG)、グリセロール、またはPGとグリセロールとの組合せである。インスリンとグルカゴンとの共投与は、インスリンとグルカゴンとを皮下投与することを含んでもよい。インスリンとグルカゴンとの共投与は、インスリンを約0.2~0.6mU/kg/分の基礎注入速度で投与することおよびグルカゴンを約1~4ng/kg/分の基礎注入速度で投与することを含んでもよい。例えば、インスリンは、約0.3~0.5mU/kg/分の基礎注入速度で投与してもよく、および/またはグルカゴンは、約2~3ng/kg/分の基礎注入速度で投与してもよい。
【0004】
いくつかの態様では、本開示は、約1mg/mL~約10mg/mLの間の濃度のインスリン、および約0.1mg/mL~約1mg/mLの間の濃度のグルカゴンを含む合剤を提供し、インスリン:グルカゴンのモル比は、約1:1~約6:1の間である。例えば、インスリン:グルカゴンのモル比は、約1:1~約5:1の間、約3:1~約6:1の間、または約3:1~約5:1の間であってもよい。インスリンは、約3mg/mL~約5mg/mLの間の濃度であってもよく、グルカゴンは、約0.1mg/mL~約0.8mg/mLの間の濃度であってもよい。合剤は、1種または複数の水性溶媒および1種または複数の非水性溶媒(例えば、DMSOおよび/またはNMPなどの非プロトン性溶媒)を含む溶媒をさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、溶媒の約20%~約60%(v/v)が、1種または複数の非水性溶媒からなり得る。溶媒はさらに、1種または複数の水性溶媒を含んでもよい。いくつかの実施形態では、溶媒の約40%(v/v)以下が、1種または複数の水性溶媒からなり得る。いくつかの実施形態では、溶媒の約10%~約40%は、プロピレングリコール(PG)、グリセロール、またはPGとグリセロールとの組合せであり得る。
【0005】
本明細書に記載される技術は、その属性および付随する利点とともに、代表的な実施形態が例により説明される添付の図面と併せて以下の詳細な説明を考慮して、最もよく認識および理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の概念と一致する、単一のリザーバを備えた単一のポンプデバイスを含む、組成物を患者に送達するためのシステムを示す。
【
図1A】本発明の概念と一致する、2つのリザーバを備えた単一のポンプデバイスを含む、組成物を患者に送達するためのシステムを示す。
【
図1B】本発明の概念と一致する、2つのポンプデバイスを含む、組成物を患者に送達するためのシステムを示す。
【
図2-15】本発明の概念と一致する、出願人によって実施された哺乳動物試験からのデータを示す。
【
図16】本発明の概念と一致する、出願人によって実施された哺乳動物試験のプロトコルを示す。
【
図17-46】本発明の概念と一致する、出願人によって実施された哺乳動物試験からのデータを示す。
【
図47-48】本発明の概念と一致する、インスリンとグルカゴンとの合剤を使用した、出願人によって実施された哺乳動物試験からのデータを示す。
【
図49】本発明の概念と一致する、インスリン誘発性低血糖が現れた場合に、グルカゴンがグルコース産生を増加させかつ増加を維持する能力を評価するために、出願人によって実施された哺乳動物試験の実験タイムラインを示す。
【
図50-60】本発明の概念と一致する、インスリン誘発性低血糖が現れた場合に、グルカゴンがグルコース産生を増加させかつ増加を維持する能力を評価するために、出願人によって実施された哺乳動物試験のデータを示す。
【
図61-62】本発明の概念と一致する、基礎ホルモン補充を可能にし、有意な低血糖保護を提供する、インスリンとグルカゴンとの合剤の潜在力を評価するために出願人によって実施された哺乳動物試験からのデータを示す。
【
図63-65】本発明の概念と一致する、インスリンとグルカゴンとの共注入が、正常血糖を維持しながら、2つのホルモンの基礎内因性分泌を補充する能力を評価するために、出願人によって実施された哺乳動物試験からのデータを示す。
【
図66-67】本発明の概念と一致する、I/Gモル比4を維持しながら、インスリンおよびグルカゴンの基礎補充速度を減少させて、グルカゴンが正常血糖を維持するかどうかを判定するために出願人によって実施された哺乳類試験からのデータを示す。
【
図68-69】本発明の概念と一致する、0.4mU/kg/分の速度でのインスリン注入および1.38ng/kg/分の速度でのグルカゴン注入が、インスリンおよびグルカゴンの基礎分泌を効果的に補充して、インスリン誘発性低血糖を制限する能力を評価するために、出願人によって実施された哺乳動物試験からのデータを示す。
【
図70-73】本発明の概念と一致する、2~8℃で安定な注入ポンプで使用するための、インスリンとグルカゴンとの非水性合剤の開発を支援するために、出願人によって実施された哺乳動物試験からのデータを示す。
【
図74-76】本発明の概念と一致する、別個の溶液としてのインスリンおよびグルカゴンと比較して、インスリンとグルカゴンとの合剤溶液の治療的価値を評価するために、出願人によって実施された哺乳動物試験からのデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
ここで、本技術の本実施形態を詳細に参照し、その例を添付の図面に示す。同一かまたは同様の部分を指すために、図面全体を通じて同一の参照番号を使用する。
「含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの含む(comprising)の任意の形態)、「有する(having)」(ならびに「持つ(have)」および「有する(has)」などの有する(having)の任意の形態)、「含む(including)」(ならびに「含む(includes)」および「含む(include)」などの含む(including)の任意の形態)または「含む(containing)」(ならびに「含む(contains)」および「含む(contain)」などの含む(containing)の任意の形態)という単語は、本明細書で使用する場合、記載されている機能、整数、工程、操作、要素、および/または成分の存在を特定するが、1つまたは複数の他の機能、整数、工程、操作、要素、成分、および/またはそれらの群の存在または追加を排除するものではないと、理解されるであろう。
【0008】
本明細書では、第1、第2、第3などの用語を使用して種々の制限、要素、成分、領域、層および/またはセクションを説明するが、これらの制限、要素、成分、領域、層および/またはセクションは、これらの用語によって限定されるべきではない。これらの用語は、ある制限、要素、成分、領域、層またはセクションを、別の制限、要素、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用する。したがって、以下で論じる第1の制限、要素、成分、領域、層またはセクションは、本出願の教示から逸脱することなく、第2の制限、要素、成分、領域、層またはセクションと称することができる。
【0009】
さらに、ある要素が別の要素「上に」ある、別の要素に「付着(attached)」、「接続(connected)」または「結合(coupled)」していると呼ばれるとき、それは直接他の要素上に(on)もしくは他の要素上に(above)あり得るか、または他の要素に接続もしくは結合し得る、または1つもしくは複数の介在要素が存在し得る。対照的に、ある要素が別の要素「上に直接」ある、別の要素に「直接付着」、「直接接続」または「直接結合」していると呼ばれるとき、介在要素は存在しない。要素間の関係を説明するために使用する他の単語も同様に解釈するべきである(例えば、「間に」対「直接間に」、「隣接して」対「直接隣接して」など)。
【0010】
第1の要素が第2の要素の「中に」、「上に」および/または「内」にあると呼ばれるとき、第1の要素は、第2の要素の内部空間内に、第2の要素の一部内に(例えば、第2要素の壁内に)配置し得る;第2の要素の外面および/または内面に配置し得る;およびこれらの1つまたは複数の組合せで配置し得ることが、さらに理解される。
本発明で使用する場合、「近接」という用語は、参照される構成要素に比較的近い場所、参照される構成要素の上の、中の、および/または内の場所、または他の場所を含むものとする。
【0011】
「下に(beneath)」、「下部に(below)」、「下方に(lower)」、「上部に(above)」、「上方に(upper)」などの空間的に相対的な用語は、例えば、図に示すように、ある要素および/または特徴の別の要素との関係を説明するために使用し得る。さらに、空間的に相対的な用語は、図に示されている向きに加えて、使用中および/または動作中のデバイスの異なる向きを包含することを意図していることもさらに理解されよう。例えば、図中のデバイスをひっくり返すと、他の要素または機能の「下に」および/または「下部」に示されている要素は、他の要素または機能の「上部」に方向付けられる。デバイスは、別の方法で方向付けることができ(例えば、90度回転または他の方向付け)、本明細書で使用される空間的に相対的な記述子は、それに応じて解釈され得る。
【0012】
本明細書で使用する「低減する」、「低減すること」、「低減」などの用語は、ゼロへの低減を含む、量の低減を含み得る。発生の可能性を低減させることは、発生の防止を含むものとする。
本明細書で使用する「および/または」という用語は、2つの明記された特徴または構成要素のそれぞれの、他方を伴うかまたは伴わない特定の開示と解釈し得る。例えば、「Aおよび/またはB」は、(i)A、(ii)B、ならびに(iii)AおよびBのそれぞれの、あたかもそれぞれが本明細書に個別に記載されているかのような、特定の開示と解釈し得る。
【0013】
本明細書で使用する「インスリン」という用語は、ホルモンインスリン、および/または1つまたは複数の任意のインスリンアナログ(例えば、当業者に既知の1つまたは複数のインスリンアナログ)、例えばNPHインスリン、インスリンアスパルト、インスリングルリジン、インスリンリスプロ、および/または肝選択的インスリン(hepato-preferential insulin)を含むものとする。
本明細書で使用する「グルカゴン」という用語は、ホルモングルカゴン、および/または1つもしくは複数のグルカゴンアナログ(例えば、当業者に既知の1つまたは複数のグルカゴンアナログ)、例えばダシグルカゴン(ZP-4207、Zealand Pharmaceuticalsとしても知られる)、[Asp28]グルカゴン、[Asp28、Glu29]グルカゴン、[Asp28、Glu29]グルカゴン、および/またはグルカゴン-Cexなどを含むものとする。
明確にするため、別個の実施形態との関係において記載されている本発明の特定の特徴は、単一の実施形態に組み合わせて提供し得ると理解されている。逆に、簡潔にするために、単一の実施形態との関係において記載されている本発明の種々の特徴は、別個にまたは任意の好適な部分的組合せで提供し得る。例えば、(独立または従属)請求項のいずれか1項に記載されているすべての特徴は、所与の方法で組み合わせることができると理解されよう。
【0014】
インスリンおよびグルカゴンの両方を同時に、または少なくとも比較的同時に(本明細書では「同時に(simultaneously)」または「同時に(at the same time)」)送達することなどにより、糖尿病患者を治療するためのシステム、組成物および方法を、本明細書において提供する。例えば、同時送達には、0.1秒~90分の間の期間、0.1秒~60分の間の期間、または0.1秒~30分の間の期間内に発生する、いずれかの順序で送達される、第1の薬剤(例えばインスリン)量および第2の薬剤(例えばグルカゴン)量の連続送達が含まれる。
糖尿病患者の治療を改善するために、医原性低血糖のリスクを軽減するためにインスリンの修飾を実施することができる。低血糖に安全なインスリンを開発することにより、インスリン投与量を漸増することができ、そうすることで血漿グルコースの低値と高値を小さくすることができるであろう。血漿グルコースの変動がより調整されるということは、T1DM治療における非常に望ましい転帰であり、HbA1cの改善および他の合併症の低減につながるはずである。グルカゴンおよびインスリンは、肝臓におけるグルコース代謝に相対立する影響を及ぼし、グルカゴン注射はインスリンの過剰投与に起因する低血糖を克服するために長い間使用されてきた。グルカゴンは、血漿グルコースレベルが低い場合に、第1のホルモン反応者であることが知られている。非糖尿病患者では、低血糖に反応して分泌されるグルカゴンは、グルコース産生を刺激し、それにより血漿グルコースの低下を制限する。1型真性糖尿病(T1DM)患者では、アルファ細胞が機能不全(グルカゴンの細胞源)であり、グルカゴンは低血糖に反応して上昇しないため、自律神経系により大きな負担をかけ、その結果、自律神経系自体が機能不全になり得る。
【0015】
正常血糖/高血糖状態では、インスリン(I)は肝臓に対するグルカゴン(G)の作用を圧倒し(Steiner, et al, in Metabolism, 1990)、両方の注入速度が上昇すると、所定のI/Gモル比でインスリンがグルカゴンを支配するようになる。一方、グルカゴンは、低血糖状態ではインスリンとの競合において、はるかに有効である。本発明の概念のシステム、デバイス、および方法は、治療モダリティとして、インスリンとグルカゴンとを望ましいモル比で組み合わせて、インスリンが低血糖を誘発する程度を低下させながら、インスリンが高血糖を制御する能力を保持する。2つのペプチドホルモンの送達は、それらの個々の製剤の同時共投与によるか、ペプチドホルモンの合剤の投与によるものであり得る。このようにして、投与されたグルカゴンは、不完全なアルファ細胞反応を補って、自律神経系への要求を軽減する。この組合せは、グルコース耐性にほとんどまたはまったく影響を与えずに血糖降下作用の緩衝を提供する。出願人は、この望ましい治療結果を裏付けるために、インスリンとグルカゴンとの特定の比率を静脈内および皮下組織の両方に同時に送達する、以下に記載するインビボ実験を実施した。
【0016】
ここで
図1を参照して、本発明の概念と一致する、糖尿病患者を治療するためのシステムを示す。システム10は、ポンプ100および組成物200を含む。ポンプ100は、組成物200を取り囲み、貯蔵し、供給し、および/またはそうでなければ提供する(本明細書で一般に「提供する」)ために使用することができるリザーバ150を含むことができ、このように組成物200の持効的および/または断続的送達が可能になる。ポンプ100は、ポンプ100が、組成物200を、皮下組織;筋肉;静脈;および/または動脈のうちの1つまたは複数に送達する場合など、組成物200を1つまたは複数の患者の部位に送達するように構成することができる。組成物200は、組成物200が少なくともインスリン(例えば、インスリンおよび/またはインスリンアナログ、本明細書では「インスリン」)およびグルカゴン(例えば、別個の材料または合剤もしくはそうでなければ混合状態)を含む場合など、2つ以上の薬剤を含むことができる。組成物200は、少なくとも2つの薬剤の合剤または他の混合物を含むことができる。あるいは、組成物200は、第1の薬剤201a(例えば、少なくともインスリンを含む薬剤)と別個の第2の薬剤201b(例えば、第1の薬剤と混合されていない少なくともグルカゴンを含む薬剤)とを含むことができる。システム10によって患者に送達される第1の薬剤201aの量と第2の薬剤201bの量との比率(例えば、インスリン/グルカゴンモル比、またはI/Gモル比)は、予め決定することができ、および/またはそうでなければ制御(例えば最大に、最小に、および/または範囲内に制御)することができ、これにより例えば、患者にとって望ましい治療的利益および/または有害事象の欠如を達成することができる。
【0017】
ポンプ100は、ポンプ100が、組み込まれた針(例えば、皮下(SQ)空間、腹腔内(IP)空間、静脈、または動脈などの体の部位に、皮膚を通って配置された針);針(例えば、皮下空間、腹腔内空間、静脈、または動脈などの体の部位に皮膚を通って配置された針)を含む注入セット;および/またはカテーテル(例えば、皮下空間、腹腔内空間、静脈または動脈などの体の部位に皮膚を通って配置されたカテーテル)を含む流体送達要素130を含む場合など、患者の外部に配置されたポンプを含むことができる。あるいは、ポンプ100は、流体送達要素130がカテーテル、例えば皮下組織に埋め込まれたカテーテルを含む場合など、埋め込み型ポンプを含むことができる。ポンプ100は、針を介して患者の皮膚を通ってアクセス可能な補充ポートを含む埋め込み型ポンプを含むことができる。
ポンプ100は、シリンジドライブ;蠕動型ポンプアセンブリ;ロータリーポンプ;バネ駆動ポンプ;およびこれらの1つまたは複数の組合せからなる群から選択されるポンピング機構120などの、1つまたは複数のポンピング機構を含むことができる。リザーバ150は、リザーバ150が1つまたは複数のシリンジおよび/またはチャンバー(例えば、圧縮可能なチャンバー)を含む場合など、単一または複数のリザーバを含むことができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、組成物200は、インスリンとグルカゴンとの合剤を含み、例えばリザーバ150が合剤を提供する単一のリザーバを含む。組成物200は、グルカゴンと肝選択的インスリンとの合剤を含むことができる。肝選択的インスリンは肝臓に焦点を合わせた作用を強化し、グルカゴンは低血糖状態で有効な競合相手である。筋肉へのグルコース取込に対する合剤形態の非肝選択的インスリンの影響がより顕著であるので、合剤化組成物200における肝選択的インスリンの使用を、非肝選択的インスリンを含む合剤と比較して結果が改善するように構成することができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、組成物200は、約6未満のI/Gモル比、例えば約5未満、約4未満、または約3未満のI/G比を有するインスリンおよびグルカゴンを含む。いくつかの実施形態では、組成物200は、6未満であるが約1を超えるI/Gモル比、例えば約2を超えるまたは約3を超えるI/Gモル比を有するインスリンおよびグルカゴンを含む。いくつかの実施形態では、組成物200は、以下に記載する出願人の試験において使用するおおよそのI/Gモル比を有するインスリンおよびグルカゴンを含む。いくつかの実施形態では、組成物200は、約1mg/mL~約10mg/mLの間の濃度、例えば約3mg/mL~約5mg/mLの間の濃度のインスリンを含んでもよい。いくつかの実施形態では、組成物200は、約0.1mg/mL~約1mg/mLの間の濃度、例えば約0.1mg/mL~約0.8mg/mLの間の濃度のグルカゴンを含んでもよい。いくつかの実施形態では、組成物200は、以下に記載する出願人の試験において使用する濃度でインスリンおよびグルカゴンを含む。組成物200は、同時に、高血糖を治療または阻害するために、および低血糖を阻害するために、治療有効量で対象に投与し得る。例えば、組成物を、インスリンを約0.2~0.6mU/kg/分の間の基礎インスリン注入速度で投与し、グルカゴンを約1~4ng/kg/分の間の基礎注入速度で投与するような方法で投与してもよい。いくつかの実施形態では、組成物を、インスリンを約0.3~0.5mU/kg/分の間の基礎インスリン注入速度で投与し、グルカゴンを約2~3ng/kg/分の間の基礎注入速度で投与するような方法で投与してもよい。我々のデータは、食事を埋め合わせるためにインスリン注入速度を上げた場合、I/Gモル比3が、高血糖の治療に関して負の結果がほとんどなく、低血糖保護を提供することを示している。I/G比が低いと食後の高血糖を増加させるグルカゴンレベルが得られ、一方、I/Gモル比が高いと低血糖保護が不十分になりすぎる場合があるため、最適なI/Gモル比は2~6の間で変動する可能性がある。さらに、グルカゴンおよびインスリンアナログは、天然のヒトインスリンおよびグルカゴンと異なる効力を有することがあるため、インスリンアナログおよびグルカゴンアナログを使用するときの異なる効力を考慮して、最適比をさらに調整する必要がある。
【0020】
組成物200は、1種または複数の非水性溶媒および/または1種または複数の水性溶媒を含む溶媒をさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、溶媒の約20%~約60%(v/v)が、1種または複数の非水性溶媒からなり得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の非水性溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはN-メチルピロリドン(NMP)を含むがこれらに限定されない非プロトン性溶媒であり得る。溶媒はさらに、1種または複数の水性溶媒を含んでもよい。いくつかの実施形態では、溶媒の約40%(v/v)以下が、1種または複数の水性溶媒からなり得る。最後に、いくつかの実施形態では、溶媒の約10%~約40%は、プロピレングリコール(PG)、グリセロール、またはPGとグリセロールとの組合せであり得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、ポンプ100は、
図1Aに示すような二重リザーバを備えたポンプを含む。リザーバ150aは、第1の薬剤201a(例えば、インスリン)を提供するように構成することができ、一方、リザーバ150bは、第2の薬剤201b(例えば、グルカゴン)を提供するように構成することができる。これらの実施形態では、組成物200は、薬剤201aおよび別個の(混合していない)薬剤201bを一括して含む。薬剤201aおよび201bは、単一のポンピング機構120による投入および送達の前に混合することができる。リザーバ150aおよび150bにそれぞれ貯蔵された各薬剤201aおよび201bの濃度は、(例えば、本明細書に記載のインスリン対グルカゴンの所定のモル比を送達するための)各薬剤の主要成分の比率を決定するものとする。あるいは、ポンプ100は、2つのポンピング機構120(例えば、機構120aおよび120bは図示しないが独立して制御可能な機構)を含むことができ、薬剤150a対150bの所望の送達比を、それらの相対濃度に関係なく達成するように、ポンピングの流量を構成することができる(例えば、プログラムすることができるかまたはプログラム可能である)。
【0022】
いくつかの実施形態では、ポンプ100は、
図1Bに示されるような2つのポンプ、ポンプ100aおよび100bを含む。ポンプ100aは、第1の薬剤201a(例えば、インスリン)を提供するように構成することができるリザーバ150aを含む。ポンプ100bは、第2の薬剤201b(例えば、グルカゴン)を提供するように構成することができる第2のリザーバ150bを含むことができる。これらの実施形態では、組成物200は、薬剤201aおよび別個の(混合していない)薬剤201bを一括して含む。薬剤201a対薬剤201bの送達比は、2つの薬剤201aおよび201bそれぞれの濃度、ならびに2つのポンプ100aおよび100bそれぞれのプログラムされた流量の両方によって、(例えば、本明細書に記載の所定のインスリン対グルカゴンのモル比を送達するように)決定する。
【0023】
組成物200は、そのグルカゴンとインスリンとが協調して血液グルコースを厳密に調節するように構成し得る。インスリンは、血液から筋肉および脂肪組織へのグルコースの移動を促進し、肝臓によるグルコースの産生も阻害し、それによって血液グルコースレベルを低下させる。グルカゴンは肝臓のグルコース産生を刺激し、グルコースが血流に放出されて血液グルコースを上昇させる。糖尿病患者では、インスリンを分泌するベータ細胞とグルカゴンを分泌するアルファ細胞の両方に欠陥がある。この問題は、インスリン欠乏として現れ、グルコース利用の減少およびグルコース産生の増加をもたらす。同時に、グルカゴンの過剰もまた、グルコース産生の増加をもたらす。したがって、現在の治療アプローチがインスリンの分泌および作用を強化し、グルカゴンの分泌および作用を遮断することに焦点を合わせていることは驚くべきことではない。
【0024】
糖尿病患者の有効な治療に対する主要な障壁の1つは、特に1型糖尿病(T1D)患者における、正常なグルカゴン反応により低血糖に反応する能力の不備である。この不備により、T1Dの患者は、正常な(非糖尿病の)人よりも低血糖の影響を受けやすくなる。この欠陥の結果として、これらの患者の血液グルコースレベルは激しく変動し、著しい高血糖と低血糖の両方を示し、そのため、このような患者がインスリン治療のみによって血液グルコースレベルを適切に制御することは、非常に困難である。最近、閉ループインスリンポンプを使用している研究者は、高血液グルコース時にインスリンを、低血液グルコース時にグルカゴンを使用すると、低血糖と高血糖の両方の振幅を低下させることができるという結論に達した(例えば、New England Journal of Medicine, June 2014におけるRusselらによる出版物、およびDiabetes, Obesity and Metabolism, 2013におけるBakhtianらによる出版物に記載されているように)。リアルタイムグルコースセンサーおよび洗練されたアルゴリズムを使用して、閉ループシステムにおいてインスリンまたはグルカゴン注入のいずれかをトリガーしているにもかかわらず、血液グルコースのこのような変動を低減させて、低血糖エピソードを最小限に抑えるという重要な満たされない必要性がいまだに存在する。
【0025】
組成物200は、低血糖を最小限に抑えながら有益な治療効果を達成するための、インスリンの量とグルカゴンの量との間の特定の関係(例えば比率)を含む。組成物200は、そのような比率を含むことができ、および/またはそうでなければ、高インスリン血症および/または高グルカゴン血症による合併症を回避するように構成することができる。いくつかの実施形態では、システム10および組成物200を、高インスリン血症またはインスリン送達の増加との関係において、低血糖リスクを防ぐことができる十分なグルカゴンを患者に提供するように構成する。システム10は、約2ng/kg/分の速度で患者にグルカゴンを提供することができる。システム10は、0.5ng/kg/分を超える、または0.75ng/kg/分を超える速度でグルカゴンを提供することができ、これにより、インスリンレベルが上昇したときまたは注入速度が増加したときに、低血糖を防ぐことができる。代替的にまたは追加的に、システム10は、20ng/kg/分未満のグルカゴン注入速度を提供することができ、これにより過剰なグルカゴンによる代謝障害および/または心血管毒性のリスクの増加を回避することができる。いくつかの実施形態ではシステム10および組成物200は、前に定義されたグルカゴン注入のレベルに対して、グルコース恒常性を維持するように構成されたインスリンの注入速度を提供する。組成物200は、1:1~6:1の間のヒトインスリン:ヒトグルカゴンの比、例えば約1:1~5:1の間の比、約3:1~約6:1の間の比、または約3:1~約5:1の間の比を含むことができ、これによりグルコース効果を低下させるだけでなく、低血糖のリスクを低下させる。いくつかの実施形態では、システム10を、いかなる量のグルカゴンによっても克服できない過剰なインスリンの投与の可能性を低減させるように、3.2mU/kg/分未満のインスリン(例えば、ヒトインスリン)を投与するように構成してもよい。
【0026】
いくつかの実施形態では、システム10は、グルカゴンを、高インスリン血症の状態で、高グルカゴン血症からの毒性をもたらすことなく低血糖から保護するのに十分であるように構成される最小速度、例えば10ng/kg/分を超える速度で、または皮下に送達することができる20ng/kg/分で提供する。いくつかの実施形態では、組成物200は、システム10によって組成物200を介して送達されるグルカゴンとの関係において、グルコース恒常性の改善を可能にするように構成された比率でインスリン:グルカゴンを含む。一定のモル比を含む組成物200を投与することにより、インスリンがシステム10によって(例えばポンプ100を介して)ボーラス投与される場合でも、システム10は低血糖からの保護を提供する。
【0027】
出願人は、グルカゴンとインスリンとが相互作用して肝臓のグルコース産生を制御する方法が、現況の血漿グルコースレベルの影響を受けることを示す試験を実施した。例えば、正常血糖状態でインスリンとグルカゴンの両方のレベルをモル基準で4倍に上げると、グルカゴンの作用を支配するインスリンの作用が生じる。実際、グルカゴンの4倍の上昇が肝臓のグルコース産生を刺激する能力は、インスリンレベルも4倍に上昇する場合には80%まで低下する。低血糖状態では逆のことが起こる。出願人は、低血糖状態では、正常血糖状態におけるよりも、また高インスリンレベルの存在下におけるよりも、低グルコースの存在下で、グルカゴンの効果が3倍高くなることを示した。低血糖は、肝臓におけるインスリンシグナル伝達を解除し、それによりグルカゴンがより良好に作用することが実証された。このグルカゴンの効果の改善によって、インスリンとグルカゴンとの共投与が治療上の利点を提供するという逆説的な可能性がもたらされる。
【0028】
本明細書に記載の本発明の概念は、インスリンとグルカゴンとを、正しい割合で共投与するかまたは合剤にすることにより、T1D患者のより積極的かつ安全な治療が可能になり、血糖値の長期制御が強化されることを教示する。摂食中および血液グルコースの上昇中に、本発明の概念のシステム、組成物および方法は、2つが比例的に増加するインスリンおよびグルカゴンの食前用量を提供し、追加のインスリンの影響が追加のグルカゴンの影響を無効にする。一方、低血糖の期間中には、上昇したインスリンは肝臓での効果が低下し、追加グルカゴンがグルコース産生の増加を促し、それにより低血糖を制限し、交感神経系の活性化の必要性を低減させる。本発明の概念は、これらの血糖変動を制限するグルカゴンとインスリンとの共投与および/または合剤を提供し、それによりHbAlcレベルを改善し、患者の糖尿病合併症を低減する。
本開示は、インスリンとグルカゴンとの定義された比率の共注入を使用して血液グルコースを制御すること;合剤化したインスリン グルカゴン混合物を使用して血液グルコースを制御すること;インスリンとグルカゴンとの混合物を使用して低血糖関連自律神経不全(HAAF)を低減すること;インスリン グルカゴン混合物を使用してインスリン媒介体重増加を防止すること;インスリン グルカゴン混合物を使用して肝臓における脂肪蓄積を制限すること、を提供する。本発明の概念は、T1D患者の血糖変動性を安全に低減し、それにより、より積極的な治療が可能になり、このことはHbAlcレベルの改善および合併症の低減を患者にもたらす。本明細書に記載されるように、本発明の概念のインスリンは、インスリン、インスリンのアナログ、および肝選択的インスリンなどの選択的に偏ったインスリンを含むことができる。
【0029】
通常、インスリンおよびグルカゴンは肝門脈に分泌され、こうして肝臓は、他のどの組織よりも2~3倍高いレベルにさらされる。一晩絶食した後、基礎I/Gモル分泌比は約10であるが、低血糖または高血糖の状態ではそれぞれ低レベル(たとえば約0)から高レベル(たとえば約240)まで変化し得る。出願人の予備実験では、2つのホルモンを末梢に注入する場合、グルカゴン注入速度が1.6ng/kg/分のとき、通常の空腹時グルコース代謝を維持するために約3~4のモル比が必要であることが示された。試験には、I/G比約20および約4で組成物200を送達することにより、インスリンの上昇が低血糖をもたらすか、または高血糖を防止する能力を調べることが含まれていた。
出願人は、高インスリンおよび高グルカゴンを共投与することの臨床的価値を裏付けるために、対象1、2、3および4と示された、4匹の意識のある対象(イヌ)のそれぞれについて、ペア試験(実験AおよびB)を行った。これらの試験結果を、
図2~15に示す。対象1および2では、ソマトスタチンを送達して内因性インスリンおよびグルカゴンの分泌を阻害し、両ホルモンを脚静脈から注入することによって補充し、0分で膵臓内分泌部(endocrine pancreas)を制御した。グルカゴンは1.6ng/kg/分(通常の分泌速度の約3倍)で注入し、インスリンは正常血糖を維持するために必要に応じて注入した。対象1では200~240μU/kg/分を要したが、対象2では340~380μU/kg/分を要した。対象1における実験A(
図2参照)の試験期間(140~320分)中に、血漿インスリンおよびグルカゴンは4倍に上昇し、実験Bでは同じ対象におけるインスリンは4.8倍に上昇し、グルカゴンは1.6ng/kg/分を維持した。対象2において、実験Bではインスリンとグルカゴンの両方が5.3倍増加したのに対し、実験Aでは、インスリンは5.8倍増加したが、グルカゴンは基礎を維持した(変化しなかった)。このようにして、グルカゴンの増加(対象1において基礎の4倍および対象2において基礎の5.3倍)のインスリン駆動低血糖に対する保護効果を評価した。
【0030】
図3は、上記の実験の試験期間において明らかな血漿グルコース変動を示すデータを示す。追加グルカゴンは、1の対象の血漿グルコースの低下を遅らせる傾向があったが、最も重要なことは、両対象で血漿グルコースがほぼ60mg/dLにリバウンドしたことであった(
図3に参照実験1A、2Bを示す)。基礎グルカゴンの存在下で、インスリンの同一の上昇がもたらされた場合、実験1Bおよび2Aでそれぞれ約40mg/dLおよび約50mg/dLの低血糖を持続させた。
図4は(1Aおよび2Bに示すように)、正味肝グルコース放出(NHGO)に対するインスリンの阻害効果が、追加グルカゴンの存在によって明らかに鈍化したことを示すデータを示している。
【0031】
図5は、肝臓内の血漿インスリンレベルが対象1における両実験で類似しており、対象2における血漿インスリンが実験BでAよりわずかに高かったことを示すデータを示している。対象2におけるこの結果は、対象2における実験Bでの低血糖の程度が、この対象の血漿インスリンレベルが多少高くても低下したので、
図3に示すデータがさらに顕著であることを示している。
図6は、血漿グルカゴンが、実験1Bおよび2Aでは基礎のままであったが、実験1Aおよび2Bでは(それぞれグルカゴン注入の4倍および5.3倍の増加により)上昇したことを確認するデータを示す。
図7は、グルコースが60mg/dLに戻ったときに、実験1Aおよび2Bで血漿コルチゾールレベルが低下したことを示すデータを示す。データはまた、グルカゴンが上昇すると動脈血中血漿エピネフリン変動が減少したことを示しており(1A、2B)、低血糖に対する交感神経系の反応が低下していることを示す。したがって、実験1Aおよび2Bでの血漿FFAの上昇がはるかに小さいことから明らかなように、脂肪分解反応も低下した(
図8を参照)。同様に、筋肉への交感神経ドライブは、グルカゴンの増加(1A、2B)の存在下で排除され、結果として血中ラクテートレベルの増加ははるかに小さくなった。予想どおり、インスリン±グルカゴンの増加により、血中アラニンレベルが低下した(
図9を参照)。
【0032】
明らかに、グルカゴンおよびインスリンが比例して増加した場合(単独でインスリンが増加するのとは対照的に)、追加グルカゴンの存在によって、インスリンに起因する血糖降下反応が鈍化し、そうでなければ血糖値レベルを保護するために必要であった神経系の活性化が低下した。したがって、CNS活性化の低下にもかかわらず、低血糖の改善が起こった。したがって、これらのデータは、本発明の概念を使用して、低血糖関連自律神経不全(HAAF)を低減できることを示唆している。
いくつかの実施形態では、本発明の概念のインスリンとグルカゴンとの合剤は、低血糖を制限するだけでなく、肝臓による食後のグルコース取込を有意に損なわない。この二重の利点は、2匹の対象(対象3および4)において実証された。対象1および2と同様に、ソマトスタチンを送達してインスリンおよびグルカゴンの分泌を阻害し、正常血糖を維持するために必要な、1.6ng/kg/分でのグルカゴン、およびインスリン(対象3では290μU/kg/分、対象4では280~350μU/kg/分)の両方を、脚静脈に補充することによって、膵臓のクランプをもたらした(
図2を参照)。140分で、インスリン注入速度を4倍もしくは6倍に増加させたが、グルカゴンは変化しないまま(3B、4A)か、または4倍もしくは6倍に増加させた(3A、4B)。同時に、脚静脈からグルコースを注入して、血糖値を2倍にした(約200mg/dL)。
【0033】
図10は、4つの実験すべてにおいて血漿グルコースレベルが>200mg/dLに上昇したことを示すデータを示している。
図11は、高インスリン血症と高血糖の複合刺激に反応して、肝臓が正味肝グルコース放出から正味肝グルコース取込(NHGU)に切り替わったことを示すデータを示している。追加グルカゴンは当初NHGUの増加を幾分遅らせたが、実験の最後の1時間までにNHGUはそれほど差がなかった(追加グルカゴンの存在下または不存在下においてそれぞれ、対象3では2.8対3.1mg/kg/分;対象4では4.8対5.1mg/kg/分)。
【0034】
図12は、対象3において2つの実験で血漿インスリンの増加が等しく、対象4において基礎グルカゴンの存在下でインスリンが適度に高いことを示すデータを示し、インスリンを追加すると、NHGUがさらに増加するはずであったので、これによりグルコースバランスデータがさらに印象的なものになっている。
図13は、血漿グルカゴンが実際に実験3Aおよび4Bで上昇したが、3Bおよび4Aでは上昇しなかったことを示すデータを示している。
図14は、脂肪分解の抑制が、血漿FFAとグリセロールの区別できない変化によって示されるように、4つの実験で同等であったことを示すデータを示す(グリセロールデータは示されていない)。同様に、血漿ラクテートの上昇も血中アラニンレベルの変化も、(
図14および15に示すように)4つの実験で違いがなかった。
したがって、追加グルカゴンの存在は、高インスリン/高血糖状態で肝臓がグルコースを吸収して貯蔵する能力にほとんどまたは全く影響を与えなかった。したがって、これらのデータは、インスリンの上昇下でグルカゴンを上昇させると、高血糖状態で脂肪分解を阻害するか、または正味肝グルコース取込をもたらすインスリンの能力をそれほど鈍らせることはなく、インスリン誘発性低血糖を制限することを示す。
【0035】
通常、インスリンおよびグルカゴンは肝門脈に分泌され、こうして肝臓は、他のどの組織よりも2~3倍高いレベルにさらされる。一晩絶食した後、基礎I/Gモル分泌比は約10であるが、低血糖または高血糖の存在、ならびにその他の要因によって広い範囲で変えることができる。予備実験では、末梢静脈のグルカゴン注入速度を1.6ng/kg/分(0.45pmol/kg/分;門脈への基礎分泌速度の3倍)に設定した。次いで、正常な空腹時グルコース代謝を維持するために、(1.62pmol/kg/分;I/Gモル比約3.7の)インスリンの末梢注入速度が必要であることが確立された。これを念頭に置いて、実験では、グルカゴンがインスリンに比例して増加した場合(I/Gモル比3~5)に、または1.6ng/kg/分を維持した場合に、インスリン注入の増加が低血糖をもたらす能力を調べた(I/Gモル比12~25)。
【0036】
インスリンのみを上昇させてI/Gモル比を増加させるのではなく、インスリンとグルカゴンを同時に上昇させる(例えば、I/Gモル比を基礎値に維持する)と、インスリン誘発性低血糖が制限されるという仮説を試験するために、4匹の意識のある対象(イヌ)について、ペア試験を実施した。対象1、2および5では、ソマトスタチンを送達して、0分で膵臓内分泌部の制御を確立し、内因性インスリンおよびグルカゴンの分泌を阻害し、両ホルモンを各対象の脚静脈から注入することによって補充した。実験は、グルカゴンを1.6ng/kg/分(通常の分泌速度の約3倍)で注入することを含み、インスリンは正常血糖を維持するために必要に応じて注入した。対象1では200~240μU/kg/分を要し、対象2では340~380μU/kg/分を要し、対象5では220~380μU/kg/分を要した。対象1における実験A(
図16)の試験期間(140~320分)中に、血漿インスリンは4倍に上昇し、グルカゴンは4倍に上昇し、一方、実験Bでは、インスリンは4.8倍に上昇し、グルカゴンは1.6ng/kg/分を変わらず維持した。対象2において、実験Bではインスリンとグルカゴンの両方が5.3倍増加したのに対し、実験Aでは、インスリンは5.8倍に増加したが、グルカゴンは基礎で維持された。対象5において、インスリンが実験Aでは4倍、実験Bでは6.9倍に増加し、グルカゴンが実験Aでは1.6ng/kg/分を維持し、実験Bでは6.9倍に増加した。このようにして、インスリン駆動低血糖に対するグルカゴンの増加の保護効果を評価した。対象6では、基礎クランプ期間はなかったが、試験期間(140~320分)中にインスリン注入が5倍増加し、グルカゴン注入は1.6ng/kg/分を維持するか、または5倍に増加した。
【0037】
図17~24は、上記の8つの実験のデータを示す。
図17、19、21、および23は、コントロール期間(斜線棒)、および実験期間の最後の2時間(白抜き棒)からのグルコースデータを示す。コントロール期間では、血漿グルコース、正味肝グルコース放出、インスリン、およびグルカゴンは、各対象における2つの実験で同等であった。対象1の実験期間(
図17)では、インスリンレベルは両方の実験で同等であったが、一方の場合にはグルカゴンは基礎(I/Gモル比12)を維持し、他方の場合にはグルカゴンを増加させてI/Gモル比3を明確に維持した。インスリンに比例してグルカゴンを上昇させ、正味肝グルコース放出を刺激し、これにより血漿グルコースレベルの低下が実質的に減少した(約8mg/dL)。
図17を参照して、対象1からのデータを示す。ソマトスタチンを注入して、実験期間中に膵臓内分泌部を不能にした。インスリンを、基礎速度(I/G比12)または4×Bの速度(I/G比3)でのグルカゴンの注入とともに、4×基礎(B)分泌速度の速度で対象1の脚静脈に3時間注入した。インスリン誘発性グルコース低下は、追加グルカゴン(42±1対50±3mg/dLの最下点)によるグルカゴン駆動肝グルコース産生の増加(2.8±0.2対1.9±0.2mg/kg/分)の結果として、減少した。データは、コントロール期間(斜線棒)および実験期間の最後の2時間(実線棒)からのものである。
【0038】
図19を参照して、対象2からのデータを示す。ソマトスタチンを注入して、実験期間中に膵臓内分泌部を不能にした。インスリンを、基礎速度(I/G比25)または6×Bの速度(I/G比5)でのグルカゴンの注入とともに、6×基礎(B)分泌速度の速度で対象2の脚静脈に3時間注入した。インスリン誘発性グルコース低下は、追加グルカゴン(52±1対57±3mg/dLの最下点)によるグルカゴン駆動肝グルコース産生の増加(2.3±0.2対4.6±1.4mg/kg/分)の結果として、減少した。データは、コントロール期間(斜線棒)および実験期間の最後の2時間(実線棒)からのものである。
【0039】
図21を参照して、対象5からのデータを示す。ソマトスタチンを注入して、実験期間中に膵臓内分泌部を不能にした。インスリンを、基礎速度(I/G比19)または7×Bの速度(I/G比3)でのグルカゴンの注入とともに、7×基礎(B)分泌速度の速度で対象5の脚静脈に3時間注入した。インスリン誘発性グルコース低下は、追加グルカゴン(39±1対40±1mg/dLの最下点)によるグルカゴン駆動肝グルコース産生の増加(0.7±0.2対1.4±0.2mg/kg/分)の結果として、減少した。データは、コントロール期間(斜線棒)および実験期間の最後の2時間(実線棒)からのものである。
【0040】
図23を参照して、対象6からのデータを示す。ソマトスタチンを注入して、実験期間中に膵臓内分泌部を不能にした。インスリンを、基礎速度(I/G比19)または5×Bの速度(I/G比4)でのグルカゴンの注入とともに、5×基礎(B)分泌速度の速度で対象6の脚静脈に3時間注入した。インスリン誘発性グルコース低下は、追加グルカゴン(45±2対46±2mg/dLの最下点)によって変化せず、正味肝グルコース産生は測定されなかった。データは、コントロール期間(斜線棒)および実験期間の最後の2時間(実線棒)からのものである。
【0041】
図18、20、22、および24は、グルカゴンの上昇がインスリンの上昇を伴うと、血中のコルチゾールおよびエピネフリンが減少し、脂肪の脂肪分解反応が減少し、これにより筋肉のグリコーゲン分解反応が減少したことを示している。
図18は、グルカゴンの増加(I/Gモル比3)および/または血漿グルコースの低下の減少が、コルチゾール放出およびエピネフリン分泌に関連する低血糖の減少をもたらしたことを示すデータを示している。これにより、低血糖駆動の脂肪分解効果が低下し(NEFAの増加の縮小)、筋肉のグリコーゲン分解の低血糖に関連する上昇が減少した(血中ラクテートの増加の縮小)。対象2(
図19および20)では、低血糖保護がより少なく(5mg/dL)、交感神経系の反応の低下も対象1と比べてやや小さかったということを除いて、同じパターンが見られた。対象5(
図21および22)では、低I/Gモル比による低血糖保護がほとんどなかった(約1mg/dL)が、なお、低血糖に対する交感神経系の反応の実質的低下があったということを除いて、同じパターンが見られた。同様に、対象6(
図23および24)では、低血糖保護は最小限であったが、グルカゴンの上昇(すなわち、I/Gモル比が低い)の存在下では、低血糖に対する交感神経系の反応が劇的に減少した。
図18を参照して、対象1からのデータを示す。ソマトスタチンを注入して、実験期間中に膵臓内分泌部を不能にした。(基礎グルカゴンを維持するのではなく)グルカゴン注入の比例上昇が存在する状態で、インスリン注入を増加させると、低血糖に対する自律神経系の反応が半分になり(Epi 1130±122対668±100pg/mLおよびコルチゾール8.0±0.9対4.6±1.3μg/dL)、その結果、脂肪分解の増加(NEFA;Δ865対Δ385μmol/L)および筋肉グリコーゲン分解の増加(ラクテートΔ662対Δ64μmol/L)がはるかに小さくなった。データは、コントロール期間(斜線棒)および実験期間の最後の2時間(実線棒)からのものである。
【0042】
ここで
図20を参照して、対象2からのデータを示す。ソマトスタチンを注入して、実験期間中に膵臓内分泌部を不能にした。(基礎グルカゴンを維持するのではなく)グルカゴン注入の比例上昇が存在する状態で、インスリン注入を増加させると、低血糖に対する自律神経系の反応が1/3まで減少し(Epi 3318±523対2449±547pg/mLおよびコルチゾール6.4±0.8対4.5±1.3μg/dL)、その結果、脂肪分解の増加(NEFA;Δ121対Δ9μmol/L)および筋肉グリコーゲン分解の増加(ラクテートΔ1690対Δ1162μmol/L)がはるかに小さくなった。データは、コントロール期間(斜線棒)および実験期間の最後の2時間(実線棒)からのものである。
ここで
図22を参照して、対象5からのデータを示す。ソマトスタチンを注入して、実験期間中に膵臓内分泌部を不能にした。(基礎グルカゴンを維持するのではなく)グルカゴン注入の比例上昇が存在する状態で、インスリン注入を増加させると、低血糖に対する自律神経系の反応が1/3まで減少し(Epi 1841±393対1207±300pg/mLおよびコルチゾール10.5±0.8対8.8±1.2μg/dL)、その結果、脂肪分解の増加(NEFA;Δ242対Δ0μmol/L)および筋肉グリコーゲン分解の増加(ラクテートΔ575対Δ253μmol/L)がはるかに小さくなった。データは、コントロール期間(斜線棒)および実験期間の最後の2時間(実線棒)からのものである。
【0043】
ここで
図24を参照して、対象6からのデータを示す。ソマトスタチンを注入して、実験期間中に膵臓内分泌部を不能にした。(基礎グルカゴンを維持するのではなく)グルカゴン注入の比例上昇が存在する状態で、インスリン注入を増加させると、低血糖に対する自律神経系の反応が半分になり(Epi 3060±450対1334±195pg/mLおよびコルチゾール9.3±1.2対4.8±1.4μg/dL)、その結果、脂肪分解の増加(NEFA;Δ182対Δ68μmol/L)および筋肉グリコーゲン分解の増加(ラクテートΔ396対Δ105μmol/L)が減少した。データは、コントロール期間(斜線棒)および実験期間の最後の2時間(実線棒)からのものである。
【0044】
全体として、これらのデータは、高インスリン血症が、比例的に変化したグルカゴンの存在下で生じると(低I/Gモル比の持続)、ほとんどのイヌ対象において低血糖の深度が低下し、重要なことに、すべての動物において血糖を防御するための交感神経系への依存性を低減することができることを示している。インスリンと並行してグルカゴンを上昇させると、インスリンに対する血糖降下反応が低下すると同時に、血糖を防御するための交感神経系への依存性が低減する。血漿グルコースが40代の場合、血糖のわずかな違い(2~5mg/dL)が、インスリン誘発性低血糖に対する拮抗ホルモン反応に劇的な影響を与える場合があることを強調しておくべきである。したがって、グルコースの低下の振幅のわずかな減少でさえ臨床的に重要である。
インスリン送達の増加に対して低いI/Gモル比を維持することによって低血糖および/またはそれに対する反応を防ぐ場合、そのことにより高血糖状態でインスリン作用が損なわれるかどうかに関して疑問が生じる。出願人は、2匹の対象(対象3と4)においてペア実験を実施した。プロトコル(
図25に示す)は、140分間のクランプ期間(上記の低血糖試験と同様)と、それに続く実験期間からなり、ここで、グルコースを約210ng/dLでクランプし、インスリンを4~5.7倍増加させ、一方グルカゴンは基礎を維持する(1.6ng/kg/分から変更なし)か、または増加させた(4または6倍)。
【0045】
図26および27は、同様のデータを示し、正味肝グルコース取込、脂肪分解抑制およびラクテートレベルは、追加グルカゴンによって実質的に影響を受けなかったことを示している。したがって、低I/Gモル比(例えば3~5)でのインスリンとグルカゴンとの共注入は、高血糖状態での肝臓のグルコース取込に有害な影響を与えることなく、低血糖を防ぐ。
ここで
図26を参照して、対象3からのデータを示す。実験期間中に、ソマトスタチンを注入して、膵臓内分泌部を不能にした。インスリンは、1×Bまたは4×Bグルカゴンとともに、4×基礎(B)の速度で3時間注入した。グルコースレベルは約210mg/dLでクランプした。追加グルカゴン(それぞれ4×B対1×Bで、I/Gモル比を16から4に変更した)は、正味肝グルコース放出(1.5±0.1mg/kg/分)から取込(2.4±0.2対3.0±0.2mg/kg/分)への切り替えにも、血漿NEFAの抑制(567±3μmol/Lから116±21μmol/Lまで対89±10μmol/Lまで)にも、血中ラクテートの増加(582±51μmol/Lから1141±40μmol/Lまで対1040±65μmol/Lまで)にも、影響を与えなかった。データは、コントロール期間(斜線棒)および実験期間の最後の2時間(実線棒)からのものである。
【0046】
ここで
図27を参照して、対象4からのデータを示す。実験期間中に、ソマトスタチンを注入して、膵臓内分泌部を不能にした。インスリンは、1×Bまたは6×Bグルカゴンとともに、6×基礎(B)の速度で3時間注入した。グルコースレベルは約210mg/dLでクランプした。追加グルカゴン(それぞれ6×B対1×Bで、I/Gモル比を16から4に変更した)は、正味肝グルコース放出(1.52.4±0.2mg/kg/分)から取込(4.9±0.3対4.2±0.4mg/kg/分)への切り替えにも、血漿NEFAの抑制(371±94μmol/Lから47±10μmol/Lまで対41±3μmol/Lまで)にも、血中ラクテートの増加(819±182μmol/Lから1040±74μmol/Lまで対845±38μmol/Lまで)にも、影響を与えなかった。データは、コントロール期間(斜線棒)および実験期間の最後の2時間(実線棒)からのものである。
【0047】
図28~34は、経時的にプロットした4匹の低血糖対象および2匹の高血糖対象(上記)からの平均データを示している。低血糖対象では、グルカゴンが比例して増加したか(I/Gモル比3~5)、増加しなかった(I/Gモル比12~25)にかかわらず、インスリンの増加(約50μU/ml)が類似していた。グルカゴンは約180pg/mL増加したか、または有意な変化はなかった。
図29は、上昇したグルカゴンの存在下で、血漿グルコースのインスリン誘発性低下の減少があったことを示すデータを示している。この減少は、正味肝グルコース放出の増加に関連しており、おそらくそれによってもたらされた。低血糖に対するエピネフリンおよびコルチゾールの反応は(
図30に示すように)、グルカゴンが上昇すると減少した。同様に、NEFA(脂肪分解)および血中ラクテート(筋肉グリコーゲン分解)の低血糖駆動上昇は、(
図31に示すように)追加グルカゴンの存在によって減少した。
【0048】
図32~34は、高血糖試験の経時的な平均データを示す。この場合も、グルカゴンが上昇したかどうかにかかわらず、同様にインスリンは上昇した。両プロトコルで、血漿グルコースレベルは約210mg/dLでクランプした。インスリンおよびグルコースの上昇に反応して、肝臓は正味グルコース放出から取込に切り替わった。正味肝グルコース取込への移行は、グルカゴンが上昇した場合に、幾分よりゆっくり起こったが、実験期間の最後の90分にわたって、正味肝グルコース取込に差はなかった。同様に、FFA(脂肪分解)の低下およびラクテート(肝臓からのラクテートの漏出)の上昇はほぼ同一であった。したがって、低I/Gモル比を有する組成物200は、高血糖状態で肝臓のグルコース取込を著しく損なうことなく低血糖から保護することができた。
【0049】
出願人のさらなる試験には、インスリンとグルカゴンとの皮下共投与が含まれる。実験は、
図1Bを参照して上述した注入ポンプ100aおよび100bなどの2つの注入ポンプを使用して実施した。このタイプの最初の8つの実験(4匹の対象、対象7、8、9、および10のそれぞれに2つ)のそれぞれは、コントロール期間(-30~0分)とそれに続く期間(0~180分)からなり、対象にソマトスタチンを注入して膵臓内分泌部を阻害した。同時に、インスリン(0.3または0.4mU/kg/分)およびグルカゴン(1.6~2.0ng/kg/分)の基礎注入を与えた。目標は、血漿グルコースレベルを基礎値でクランプすることであった。明らかに、ソマトスタチンは内因性インスリンおよびグルカゴンの分泌を迅速に阻害し、皮下注入によって適時に基礎ホルモンレベルを回復することはできなかった。血漿グルカゴンおよびインスリンの両レベルは、最初は低下し(15分)、回復するのに1~2時間かかった。別の対象(対象11)における4つの追加実験では、ソマトスタチン注入の開始を60分または90分遅らせて、インスリンおよびグルカゴンの一時的な低下を防いだ。対象ごとに平均値は1~28μU/mLの範囲であったが、0.4mU/kg/分のインスリン注入速度によって、基礎期間の終わりまでに10~12μU/mLの平均動脈血中血漿インスリンレベルが生じた。したがって、血漿インスリンの上昇の遅延に関する問題に加えて、皮下送達経路を使用する場合に明らかな固有の変動性が高かった。それにもかかわらず、0.4mU/kg/分(平均で)のインスリン注入速度は、基礎補充に適切であった。
【0050】
基礎クランプ期間の後、インスリン注入速度の4倍の増加がもたらされたが、グルカゴンは4倍増加したか、または基礎を維持した。したがって、I/Gモル比は、対象7において3.8または15.0のいずれか、対象8、9、10ならびに11AおよびBにおいて4または16、ならびに対象11CおよびDにおいて2.9および11.5であった(
図35、36)。実験計画における微妙な差異が生じたが、対象間のばらつきを考慮して、データは4匹の対象からのもので、そのうちの1匹(対象15)は、2回試験した。血糖が40mg/dLを下回り、グルコースクランプが必要なため、グルコースレベルが有効なエンドポイントになるのを防ぐため、ある1匹の対象のデータは含まなかった。ベースライン期間の後、インスリン注入速度が増加し、血漿インスリンは両群において同様に、約45μU/mLまで上昇した(
図37)。明らかに、血漿グルカゴンレベルは、I/G比4の群ではほぼ150pg/mLまで上昇したが、I/G比16の群では変化しなかった(
図38)。その結果、両群において血漿グルコースが低下したが、I/Gモル比4の場合、低下は遅れ、かつ減少した(
図39)。ベースラインの差を調整し、拡大スケールでプロットした場合、血漿グルコースの低下は、I/Gモル比が低い群において約10mdL減少した(
図40)。本明細書に記載のIV注入実験と同様に、より低いI/Gモル比は、低血糖に対するエピネフリンおよびコルチゾール反応の低下と関連していた(
図41;データは、低血糖期間の最後の1時間からの平均値)。
【0051】
皮下ホルモン注入を使用したさらなる試験では、I/Gモル比4対16を維持して、対象の脚静脈への10mg/kg/分でのグルコースのIV注入に反応する対象の能力に対する影響を調べた(
図42)。この場合も、実験は、コントロール期間(-30~0分)、基礎クランプ期間(0~150分)、グルコース注入期間(150~360分)からなっていた。ソマトスタチンを0分で注入開始して膵臓内分泌部を不能にし、インスリンおよびグルカゴンをそれぞれ0.4mU/kg/分および2ng/kg/分の速度で注入した(I/Gモル比4.1)。皮下低血糖試験の同じ期間に示されたように、基礎期間中に血漿グルコースがわずかに低下した(
図43)。150分で、グルコース注入を開始し、インスリン注入速度を4倍にし、一方、グルカゴン注入を4倍にするか、または基礎のままにしてI/Gモル比をそれぞれ4.1または16.2にした。グルコース変動は、I/G比4の群においてわずかに高かったが、これは、150分のベースライン値の差に起因するものであり(
図43)、データをベースラインからの変化としてプロットした場合に(
図44)、追加グルカゴンの効果は全くなかった。
図45に見られるように、血漿インスリンの上昇は2つの群において同一であり、一方グルカゴンは、I/G比4の群では上昇したが、I/G比16の群では上昇しなかった(
図46)。
【0052】
出願人のさらなる試験には、インスリンとグルカゴンとの合剤を皮下投与することが含まれる。これらの実験からのデータは、
図47~48に示す。対象12では、2つの実験(AおよびB)を実施した。実験Aでは、ジメチルスルホキシド(DMSO)中のI/Gモル比12のグルカゴンとインスリンとの合剤溶液を、試験日に皮下組織に配置されたカテーテルを介して、約20マイクロリットル/時間(グルカゴン2.6ng/kg/分およびインスリン1.6mU/kg/分)の速度で注入した。注入期間中、血漿グルコースは約30分でドリフトし始め、最終的には最後の1時間は約44mg/dLでプラトーになった(
図47を参照)。その後、2日目に、I/Gモル比3のDMSO中の別のグルカゴンとインスリンの合剤溶液を使用して、試験を繰り返した。この合剤はまた、約20マイクロリットル/時(グルカゴン10.2ng/kg/分およびインスリン1.6mU/kg/分)で注入した。この場合、グルコースの初期上昇があり、その後、実験Aで見られたのと同様に、150分で最小値まで低下した。しかし、その後、血漿グルコースレベルは約56mg/dLでプラトーを上昇させた(
図47を参照)。したがって、インスリンおよびグルカゴンの独立した皮下注入で発生したように、インスリンの上昇によってもたらされる低血糖の程度は、グルカゴンの同時上昇によって著しく低下した。血漿中のインスリンレベルは2つの実験で類似しており(最後の1時間は35対31μU/mL)、実験Aではグルカゴンは低いままであり(60pg/ml)、実験Bでは121pg/mlに上昇した(
図48を参照)。これらのデータにより、2つの重要な原則が確立された。第一に、相溶性のある溶媒中でインスリンとグルカゴンとを合剤化することは明らかに可能であり、したがってこれらのペプチドホルモンを1つの溶液で共投与することができる。第二に、2つのホルモンに対する生物学的反応は、それらが独立して皮下に注入されるか、または合剤化された混合物として注入されるかにかかわらず類似している。両方の場合において、インスリン注入を4倍にし、グルカゴンを付随的に比例して上昇させると(I/Gモル比3)、インスリン誘発性低血糖が約10~12mg/dLまで減少した。この効果は、自律神経系の活性化の有意な低下に関連する可能性が非常に高い。
【0053】
まとめると、本明細書に記載の試験によって、1つまたは複数の形態での皮下インスリンおよびグルカゴン送達に使用するための有効なI/Gモル比を確立した。これらの試験はまた、インスリンを上昇させながら低I/Gモル比を維持することにより、インスリンが高血糖に対処する能力を大幅に妨げることなく低血糖を防ぐことを示すIV注入データを確認する。
【0054】
ここで
図49~60を参照して、本発明の概念と一致する、出願人によって実施された試験の結果を示す。これらの試験では、インスリン誘発性低血糖が現れた場合に、グルカゴンがグルコース産生を増加させかつ増加を維持する能力を評価する。これらの試験の結果は、インスリン誘発性低血糖が現れた場合に、グルカゴンが有意かつ持続的なグルコース産生をもたらすことができることを示す。以下に記載のように、データは、グルカゴンが肝臓に対して時間依存的な効果ではなく二相性の効果を有することを示す。グルカゴンは、グルコースの急速なバーストをもたらし、その後、グルコース産生の第2相の延長が続く。このことは、インスリン誘発性低血糖の存在下で、グルカゴンが長時間(たとえば、少なくとも4時間)機能し続けることを示している。これらの試験は、体がグルカゴンのレベルの増加を認識しており、それに応じて、低血糖に対する体の交感神経系の反応を低下させることを示している。低血糖に対する交感神経系の反応の低下は、脳が血漿グルカゴンを感知することができ、血糖値の制御においてグルカゴンと交感神経系との間に相互関係があることを示唆している。脳はグルカゴンレベルを監視し、過剰グルカゴンが存在すると、所与の低血糖に対する交感神経系の反応を低下させる。これにより、グルコースのさらなる低下が可能になり、中枢神経系の反応がより大幅に増加し、それにより低血糖に対する保護が強化される。これらの試験は、本発明の概念のインスリンおよびグルカゴン合剤溶液が糖尿病患者に安全かつ有効な治療的価値を提供できることを実証している。
【0055】
出願人は、本発明の概念のインスリンおよびグルカゴン合剤溶液の治療的価値を裏付けるために、8匹の意識のある対象(イヌ)のそれぞれについて試験を行った。8匹の対象を4匹の対象からなる2つの群に分け、第1の群を基礎グルカゴン群(Ba GGN)、第2の群を高グルカゴン群(Hi GGN)と示した。この試験の結果を
図49~60に示す。
各イヌ対象は副腎摘出し、グルココルチコイドおよびミネラルコルチコイドで処置して、血液中のこれらのホルモンの基礎レベルを維持し、低血糖誘発性グルコース産生反応がエピネフリンではなくグルカゴンに起因することができるようにした。カテーテルを、血管内に配置して血液を(例えば、動脈、肝門脈)に供給し、肝臓から(例えば、肝静脈)血液を排出した。血流プローブを肝動脈および門脈の周囲に配置して、動静脈差(AV)法を使用して、正味肝グルコース放出(HGO)を計算できるようにした。さらに、トレーサー法(3-3Hグルコースなど)を使用して、肝臓のグルコース産生(HGP)を評価した。手術からの回復後、一晩絶食した後、意識状態の各対象において実験を行った。
【0056】
図49は、8匹の対象のそれぞれに用いた実験タイムラインを示す。トレーサー注入は-140分で開始し、100分が平衡化された。-40分~0分のコントロール期間の後に、270分の試験期間が続いた。0分で、ソマトスタチン(SRIF)を注入して、膵臓内分泌部を不能にした。インスリンを0.8mU/kg/分で脚静脈に注入して、低血糖を発生させた。30分で開始して、グルカゴンも1または8ng/kg/分で脚静脈に注入した(例えば、Ba GGN対象の場合は1ng/kg/分で、Hi GGN対象の場合は8ng/kg/分で)。必要に応じてグルコースを注入して、2つの群のグルコース低下率を一致させ、どちらの群においても血漿グルコースレベルが40mg/dLを下回らないようにした。
【0057】
図50は、両群において動脈血中インスリンレベルが約10μU/mLから約40μU/mLに増加したことを示すデータを示している。
図51は、Ba GGN群では動脈血中グルカゴンレベルが基礎(例えば、約45pg/mL)のままであったが、Hi GGN群では約270pg/mLに増加したことを示すデータを示している。
図52は、副腎摘出術および基礎ホルモン補充に起因する、両群で基礎のままのコルチゾール濃度(例えば、2.5μg/dL)を示すデータを示している。
図53は、副腎摘出術および基礎ホルモン補充に起因する、両群で基礎のままのエピネフリン濃度(例えば、50~75pg/mL)を示すデータを示している。
図54は、両群について、実験の最後の2.5時間に動脈血中血漿グルコースが同等に減少し、同様のレベルでプラトーに達した(例えば、Ba GGN群では42mg/dL、およびHi GGN群では40mg/dL)ことを示すデータを示す。
図55は、各群のグルコース曲線を一致させるのに必要なグルコース注入速度を示すデータを示している。Ba GGN群の場合、グルコースは30分で注入を開始し(例えば、グルカゴン注入と同時に)、最後の2.5時間は平均約2.8mg/kg/分で実験中に継続した。Hi GGN群の場合、グルコースは2時間から注入し、注入速度は約0.8mg/kg/分まで徐々に増加させた。
【0058】
図56は、正味肝グルコース放出を示すデータを示している。両群において、インスリンの増加とグルカゴンの減少の結果として、正味肝グルコース放出は0~30分にわたって減少した。30分でグルカゴンを注入した後、Ba GGN群の正味肝グルコース放出は約0.4mg/kg/分を維持した。30分でグルカゴンを注入した後、Hi GGN群の正味肝グルコース放出は約7mg/kg/分に急速に増加し、その後約90分の時間をかけて減少し、実験の最後の2.5時間で最終的に2.4mg/kg/分の平均速度に達した。このようなデータは、低血糖の存在下では、インスリンの上昇が継続して存在するにもかかわらず、グルカゴンの増加により約2~2.5mg/kg/分のグルコース産生の増加が維持されることを示す。
図57は、3-3Hグルコーストレーサーにより測定したグルコース産生データを示し、
図56を参照した上述のように、正味肝グルコースバランスデータを確認する。
図58Aは、両群において、低血糖により血漿ノルエピネフリンの増加が生じたことを示すデータを示している。このデータは、体全体の神経終末からのノルエピネフリンの溢出(例えば、交感神経系の緊張)を反映し、インスリン誘発性低血糖時に脂肪分解を刺激するシグナルを反映している。
図58Bは、Ba GGN群における血漿ノルエピネフリンの増加がHi GGN群の増加の2倍であったことを示すデータを示している。
【0059】
図59AおよびBは、Hi GGN群では、Ba GGN群と比較して、動脈血中グリセロールレベルを使用して評価した場合、低血糖により脂肪分解反応の低下が生じたことを示すデータを示している。低血糖に対する脂肪分解反応は、高グルカゴンの存在下で約60%低下した。
図60は、Hi GGN群では、動脈血中遊離脂肪酸レベルを使用して評価した場合、Ba GGN群と比較して、低血糖により脂肪分解反応の低下が生じたことを示すデータを示している。
ここで
図61~62を参照して、本発明の概念と一致する、出願人によって実施された試験の結果を示す。これらの試験では、本発明の概念のインスリンとグルカゴンとの合剤の潜在力を評価して、合剤は、基礎ホルモン補充を可能にし、有意な低血糖保護を提供するように構成した。これらの試験結果は、最適化されたインスリン対グルカゴン(I/G)のモル比が1を超え10未満であることを示す。以下に記載するように、インスリンを0.4mU/kg/分(±20%)の速度で、グルカゴンを2.1ng/kg/分(±20%)の速度で、I/Gモル比4で皮下共注入すると、血漿グルコースレベル偏位が極小で2つのホルモンの基礎分泌を補充することができる。これらの試験結果は、インスリンが4倍に増加する場合にI/Gモル比が維持されると、インスリン誘発性低血糖が有意に減少し、かつ中枢神経系活性化が明らかに低下することも示す。これらの試験は、様々なI/Gモル比のインスリンおよびグルカゴン合剤溶液の有効性をさらに調べるために、意識のあるイヌ対象で行った。
【0060】
皮下注入インスリンの薬物動態(PK)および薬力学的(PD)特性をよりよく理解するために、予備実験を実施した。
図61は、本発明の概念と一致する、意識のあるイヌ対象における皮下インスリン注入に関するデータを示す。以下に記載するように、インスリン注入速度を4倍に増加させると、動脈血中インスリンレベルが約90分の遅延時間で約4倍に増加することを示す。一晩絶食したイヌでは、ベースライン動脈血中血漿インスリンは、-30分~0分で7.1±0.7μM/mLであった。インスリンを0.4mU/kg/分で90分間皮下注入した後、動脈血中血漿インスリンは9.4±0.8μU/mLに増加し、これは、内因的に放出されたインスリンと注入されたインスリンの両方を反映している。90分で、ソマトスタチン注入を開始して、膵臓内分泌部を不能にした。内因性インスリン分泌は急速に停止し(C-ペプチドの減少によって示されるように)、内因性インスリン分泌に起因するインスリンは30分以内に枯渇した。基礎ホルモン補充期間の最後の30分間(例えば、150~180分)、動脈血中インスリンは平均9.8±1.4μU/mLであり、皮下注入のみに起因していた。したがって、インスリンを0.4mU/kg/分で皮下送達した場合、動脈血中インスリンはベースラインから約40%増加した。この増加は、内因性インスリン分泌が末梢静脈インスリン送達によって補充されるときに、正常血糖を維持するために必要な動脈血中インスリンの増加に類似している。肝臓内のインスリンレベルは、ベースラインで約17μU/mL(門脈への内因性インスリン放出のため-30分~0分)、および基礎ホルモン補充期間中(例えば、内因性の分泌が阻害されたとき)に7.8μU/mL、ほぼ50%の減少であったと推定される。したがって、皮下インスリン注入速度0.4mU/kg/分により、ベータ細胞機能を欠く1型糖尿病のヒトへの皮下インスリン投与で通常見られる臨床状況を再現した。インスリンチャレンジ期間中にインスリン注入速度を4倍に増加させると、動脈血中インスリンレベルが90分以内に34.5±2.9μU/mLに増加し、その後、最小限に増加し、最終的には38.8±3.5μU/mLに達した。これらのデータに基づいて、システムを「プライム」するために(すなわち、ソマトスタチン注入のない状態でのインスリン注入)、約90分の皮下インスリン注入(20μL/時間)が必要であると判断した。0.4mU/kg/分の速度での皮下インスリン注入により、基礎インスリン補充およびインスリン注入速度が4倍に増加し、動脈血中インスリンが4倍に増加する。
【0061】
図62は、意識のあるイヌ対象における皮下グルカゴン注入に関するデータを示す。以下に記載するように、グルカゴン注入速度を4倍に増加させると(Hi GGN群と呼ぶ)、動脈血中グルカゴンレベルが1~2時間にわたって増加し、その後減少した。これらの実験では、Mercodiaアッセイを使用してグルカゴンを測定し、その精度が向上しているため、血漿グルカゴンレベルは以前の試験におけるものよりも低いという点に留意すべきである。3匹のイヌ対象における動脈血中グルカゴンレベルのピーク上昇倍数は、それぞれ3.7、5.7、および6.8(xバー=5.4)であった。一晩絶食したイヌでは(青色の点で示され、Ba GGNと呼ぶ)、ベースライン動脈血中血漿グルカゴンは-30分~0分で7.5±1.2pg/mLであり、肝臓で約15pg/mLの予測レベルをもたらす(例えば、内因性のグルカゴンの門脈への分泌の結果として)。
図61に示すように、0分でのSQインスリン注入の開始と同時に、グルカゴンも2.1ng/kg/分の速度で皮下注入した。グルカゴンを90分間皮下注入した後、動脈血中血漿グルカゴンは平均21.5±4.0pg/mLに増加し、これは、内因的に放出されたグルカゴンと注入されたグルカゴンの両方を反映している。ソマトスタチン注入の開始から30分以内に、(例えば、内因性グルカゴン分泌を阻害するため)、動脈血中グルカゴンレベルは約15.0±4.5pg/mLに減少し、ベースライングルカゴン値の2倍に近いレベルを示した。したがって、2.1ng/kg/分の速度での注入による肝類洞内のグルカゴンのレベルは、そのベースライン値に近いと推定することができる。基礎グルカゴン注入速度が2.1ng/kg/分のままであるインスリンチャレンジ期間中、動脈血中グルカゴンレベルは3.5時間維持された。
【0062】
ここで
図63~65を参照して、本発明の概念と一致する、出願人によって実施された試験の結果を示す。これらの試験では、最適な補充速度での本発明の概念のインスリンとグルカゴンとの共注入の能力を評価して、共注入を、正常血糖を維持しながら、2つのホルモンの基礎内因性分泌を補充するように構成した。
【0063】
図63AおよびBは、本発明の概念のインスリンとグルカゴンとの共注入中のホルモン濃度に関するデータを示す。インスリンは0.4mU/kg/分の速度で注入し、グルカゴンは2.1ng/kg/分の速度で注入した。0~180分のプライミングおよび基礎補充期間中、I/Gモル比は4であった。180分でのインスリンチャレンジ期間の開始時に、インスリン注入は4倍に増加して1.6mU/kg/分になり、一方、グルカゴンは4倍に増加して8.4ng/kg/分になったか、(I/Gモル比4、Hi GGN群と呼ぶ)または2.1ng/kg/分で基礎を維持した(I/Gモル比16、Ba GGN群と呼ぶ)。
図63Aに示すように、両群の動脈血中インスリンレベルは非常に類似しており、インスリンチャレンジ期間中に約4倍に増加した。
図63Bに示すように、インスリンチャレンジ期間中、動脈血中グルカゴンレベルはBa GGN群では基礎のままであり、Hi GGN群では5倍超に増加した。
【0064】
図64A~Cは、本発明の概念のインスリンとグルカゴンとの共注入中のグルコース濃度に関するデータを示す。インスリンは0.4mU/kg/分の速度で注入し、グルカゴンは2.1ng/kg/分の速度で注入した。0~180分のプライミングおよび基礎補充期間中、I/Gモル比は4であった。180分でのインスリンチャレンジ期間の開始時に、インスリン注入は4倍に増加して1.6mU/kg/分になり、一方、グルカゴンは4倍に増加して8.4ng/kg/分になったか、(I/Gモル比4、Hi GGN群と呼ぶ)または2.1ng/kg/分で基礎を維持した(I/Gモル比16、Ba GGN群と呼ぶ)。
図64Aに示すように、血漿グルコースレベルは、120~180分の基礎ホルモン補充期間中、約100mg/dLで安定であり、0.4mU/kg/分の速度での皮下インスリンの注入および2.1ng/kg/分の速度でのグルカゴンの注入により、内因性のインスリンおよびグルカゴンの分泌をうまく補充することができることを示す。しかし、グルカゴンがI/Gモル比16で基礎のままであった場合、血漿グルコースレベルは90分にわたって低下し、実験の最後の1時間で約41mg/dLでプラトーになった。
図64AおよびBに示すように、I/Gモル比を4に維持すると、グルコースレベルははるかにゆっくりと低下し、実験の最後の1時間で平均約46mg/dLになった。
図64Cに示すように、Ba GGN群では、グルコースを約0.8mg/kg/分の速度で注入して、血漿グルコースレベルが40mg/dLを下回るのを防いだ。Hi GGN群におけるグルコース注入とグルカゴンの時間依存性の(ピークからの)44%減少の両方により、データは、グルカゴンによってもたらされる低血糖保護を過小評価した。それにもかかわらず、データは、追加グルカゴンの存在がインスリンの血糖降下作用を最小限に抑えることを示している。
【0065】
図65A~Dは、本発明の概念のインスリンとグルカゴンとの共注入中のエピネフリンおよびコルチゾール濃度に関するデータを示す。インスリンは1.6mU/kg/分の速度で注入した。グルカゴンは、基礎の4倍の速度の8.4ng/kg/分で注入したか(I/Gモル比4、Hi GGN群と呼ぶ)、または2.1ng/kg/分で基礎を維持した(I/Gモル比16、Ba GGN群と呼ぶ)。追加グルカゴンの存在下で、(例えば、中枢神経系の活性化から生じる)エピネフリンおよびコルチゾールのレベルの増加は、それぞれ約50%および30%減少した。さらに、中枢神経系の関与の減少にもかかわらず、血糖の改善が観察された。このことは、血糖をさらに防御するための中枢神経系の可用性が向上していることを示す。
【0066】
ここで
図66および67を参照して、本発明の概念と一致する、出願人によって実施された試験の結果を示す。これらの試験は、I/Gモル比を4に維持するがインスリンおよびグルカゴンの基礎補充率を低下させても、正常血糖が維持されるかどうかを判断するために実施した。インスリン感受性は個体間で異なり、すべての動物が同じ基礎補充率のインスリンおよびグルカゴンを必要とするわけではないことを考えると、これは重要である。
【0067】
図66AおよびBは、本発明の概念のインスリンとグルカゴンとの共注入中のホルモン濃度に関するデータを示す。インスリンは0.32mU/kg/分の速度で注入し、グルカゴンは1.68ng/kg/分の速度で注入した。0~180分のプライミングおよび基礎補充期間中、I/Gモル比は4であった。180分でのインスリンチャレンジ期間の開始時に、インスリン注入は4倍に増加して1.28mU/kg/分になり、一方、グルカゴンは4倍に増加して6.72ng/kg/分になったか(I/Gモル比4、Hi GGN群と呼ぶ)、または1.68ng/kg/分で基礎を維持した(I/Gモル比16、Ba GGN群と呼ぶ)。
図66Aに示すように、基礎ホルモン補充期間の最後の1時間のインスリンレベルは、平均わずか6μU/mLであり、インスリン注入速度の低下と一致していた。
図66Bに示すように、基礎ホルモン補充期間の最後の1時間のグルカゴンレベルは、平均わずか約9pg/mLであり、グルカゴン注入の減少と一致していた。
【0068】
図67AおよびBは、本発明の概念のインスリンとグルカゴンとの共注入中のグルコース濃度に関するデータを示す。インスリンは0.32mU/kg/分の速度で注入し、グルカゴンは1.68ng/kg/分の速度で注入した。0~180分のプライミングおよび基礎補充期間中、I/Gモル比は4であった。180分でのインスリンチャレンジ期間の開始時に、インスリン注入は4倍に増加して1.28mU/kg/分になり、一方、グルカゴンは4倍に増加して6.72ng/kg/分になったか(I/Gモル比4、Hi GGN群と呼ぶ)、または1.68ng/kg/分で基礎を維持した(I/Gモル比16、Ba GGN群と呼ぶ)。
図67AおよびBに示すように、基礎ホルモン補充期間中の血漿グルコースレベルは、
図64を参照して上述したものとほぼ同一であった。このデータは、インスリンおよびグルカゴンの両方の血漿レベルが低下したため、注入の減少の効果が互いに相殺されたことを示唆している。グルカゴンの上昇がない場合のインスリンの4倍の増加(たとえば、1.28mU/kg/分)によって、血漿グルコースは、390分で最終レベルの37mg/dLまでゆっくりと減少した。付随するグルカゴンの4倍の増加によって、血漿グルコースは、390分で最終レベルの約50mg/dLまでゆっくりと減少した。したがって、I/Gモル比4での本発明の概念のインスリンとグルカゴンとの共投与は、所定の個体に必要なとき、インスリンおよびグルカゴンの絶対基礎補充率を適度に変更する(約20%)場合でも、低血糖に対する保護を提供する。
【0069】
ここで
図68および69を参照して、本発明の概念と一致する、出願人によって実施された試験の結果を示す。これらの試験では、本発明の概念と一致する、0.4mU/kg/分の速度でのインスリン注入および1.38ng/kg/分の速度でのグルカゴン注入(I/Gモル比6)の、インスリンおよびグルカゴンの基礎分泌を効果的に補充して、インスリン誘発性低血糖を制限する能力を評価する。
図68AおよびBは、本発明の概念のインスリンとグルカゴンとの共注入中のホルモン濃度に関するデータを示す。インスリンは0.4mU/kg/分の速度で注入し、グルカゴンは1.38ng/kg/分の速度で注入した。0~180分のプライミングおよび基礎補充期間中、I/Gモル比は6であった。180分でのインスリンチャレンジ期間の開始時に、インスリン注入は4倍に増加して1.6mU/kg/分になり、一方、グルカゴンは4倍に増加して5.56ng/kg/分になったか(I/Gモル比6、Hi GGN群と呼ぶ)、または1.39ng/kg/分で基礎を維持した(I/Gモル比24、Ba GGN群と呼ぶ)。
図68Aに示すように、基礎ホルモン補充期間中、インスリンレベルは、上述の
図61を参照したものに類似していた。注入速度の4倍の増加に反応して発生したインスリンレベルの増加も、上述の
図61を参照したものに類似したレベルに近づいた。
図68Bに示すように、基礎ホルモン補充期間とグルカゴン注入速度が4倍に増加したときの両方における2.1ng/kg/分の注入速度と比較して、1.38ng/kg/分の注入速度でグルカゴンレベルの増加は少なくなった。
【0070】
図69A~Dは、本発明の概念のインスリンとグルカゴンとの共注入中のグルコース濃度に関するデータを示す。インスリンは0.4mU/kg/分の速度で注入し、グルカゴンは1.38ng/kg/分の速度で注入した。0~180分のプライミングおよび基礎補充期間中、I/Gモル比は6であった。180分でのインスリンチャレンジ期間の開始時に、インスリン注入は4倍に増加して1.6mU/kg/分になり、一方、グルカゴンは4倍に増加して5.52ng/kg/分になったか(I/Gモル比6、Hi GGN群と呼ぶ、)または1.38ng/kg/分で基礎を維持した(I/Gモル比24、Ba GGN群と呼ぶ)。
図69Aに示すように、I/Gモル比が6の場合、基礎ホルモン補充期間における血漿グルコースレベルは80mg/dLに低下した。
図69Bに示すように、グルコースを注入して、血漿グルコースレベルがさらに低下する(例えば、80mg/dL未満)のを防いだ。
図69CおよびDに示すように、基礎グルコース群においてわずかに多くのグルコースを注入しているにもかかわらず、インスリン誘発性低血糖からの保護は2mg/dLであった。
【0071】
ここで
図70~73を参照して、本発明の概念と一致する、出願人によって実施された試験の結果を示す。これらの試験は、ポンプシステムと適合性があり、2~8℃で安定であり、撹拌条件下でも安定である、上記のシステム10のポンプ100などの注入ポンプで使用するための非水性共溶媒を含むインスリンとグルカゴンとの合剤の開発を支援するために実施した。課題には、非水性溶液合剤のインスリンとグルカゴンの、有機溶媒との溶解度、および注入ポンプ100との合剤の適合性が含まれる。溶解度と安定性の向上を達成する目的で、2つのアプローチを用いた、すなわち、アセトン、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、酢酸エチル、グリセロール、メタノール、N-メチルピロリドン(NMP)、ポリエチレングリコール、およびプロピレングリコール(PG)などの純粋な有機溶媒、ならびに水溶液と混合した有機溶媒の溶液などの共溶媒、および添加剤を加えた主要な共溶媒混合物の付加。
これらの試験は、1~10mg/mLの間のインスリンの目標濃度および0.1~1.0mg/mLの間のグルカゴンの目標濃度、より具体的には3~5mg/mLのインスリン濃度および0.1~0.8mg/mLのグルカゴン濃度で実施した。10~20μL/時間の間のU-100の基礎インスリン速度、および固定インスリン用量でのI/Gモル比3~16を想定した。
【0072】
図70および70A~70Cは、イヌ対象に投与したときのDMSO中のインスリンとグルカゴンとの3つの合剤に関するデータを示している。合剤の濃度を測定するために、試料を0.01N HClで希釈し、次いで逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)法で分析した。インスリンおよびグルカゴンの保持時間は、それぞれ10.7分および14.6分である。
図70に示すように、合剤AB-160003-01は、4.48mg/mLのインスリンと0.83mg/mLのグルカゴンとを含み、合剤AB-160002-01は、4.48mg/mLのインスリンと0.21mg/mLのグルカゴンとを含み、合剤AB-160001-01は、1.08mg/mLのインスリンと0.21mg/mLのグルカゴンとを含む。モル比は、合剤AB-160003-01およびAB-160001-01の両方について3を含む。合剤AB-160002-01についてモル比は12を含む。
【0073】
1.0mg/mLのインスリンと0.5mg/mLのグルカゴンとを含むDMSO中の合剤について、撹拌試験を実施した。一定分量の試料を、最長7日間3つの状態に置いた、すなわち、0rpmで5℃(コントロールとして)、50rpmで25℃、および50rpmで37℃。試料を0.01N HClで希釈し、次いでRP-HPLCで分析した。活性成分(インスリンおよびグルカゴン)の回収率を計算し、以下の表に列挙した。インスリンとグルカゴンの両方は、7日間の撹拌後に良好な回収率を示した。
【0074】
【0075】
図71AおよびBは、本発明の概念と一致する、非水性溶媒中のインスリンおよびグルカゴンの溶解度にそれぞれ関連するデータを示す。上清中のインスリンおよびグルカゴンの濃度をRP-HPLCで分析した。DMSOおよびNMPの両方が、インスリン(例えば8mg/mLを超える濃度)およびグルカゴン(例えば1mg/mLを超える濃度)に対して良好な溶解度を示す。グリセロールおよびプロピレングリコールの両方が、グルカゴンに対しては良好な溶解度(例えば、2.5mg/mLを超える濃度)を示すが、インスリンに対しては不十分な溶解度(例えば、2mg/mL未満の濃度)を示す。誘電率が25~70の間の非水性溶媒、例えば、N-メチルピロリドン(32)、メタノール(33)、N,N-ジメチルホルムアミド(37)、アセトニトリル(38)、ジメチルアセトアミド(38)、DMSO(47)、炭酸プロピレン(65)などの溶媒(括弧内に誘電率)は、グルカゴンに対して比較的高い溶解度を有する。
【0076】
図72AおよびBは、本発明の概念と一致して、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはリン酸緩衝液(PB)、およびビタミンE TPGSと混合した非水性有機溶媒を含む共溶媒であって、非水性有機共溶媒が、この製剤の少なくとも60%を構成していた共溶媒中のインスリンとグルカゴンとの合剤の溶解度に関するデータを示している。上清中のインスリンおよびグルカゴンの濃度をRP-HPLCで分析した。60%の有機溶媒を含む溶液では、グルカゴンはPBへのより良好な溶解度を示した。
図72Aに示すように、以下の共溶媒、すなわち、5%ビタミンE TPGS;10%DMSO;10%NMP;10%PG;および10%グリセロールのうちの少なくとも1つと混合して、75~95%PBSを含むインスリンとグルカゴンとの合剤の溶解度を観察した。95%PBSおよび5%ビタミンE TPGSと混合した場合、インスリンの個別のDS溶解度は1.38mg/mL、グルカゴンは0.25mg/mLであった。
図72Bに示すように、以下の共溶媒、すなわち4.5%ビタミンE TPGS;30%DMSO;30%NMP;30%PG;30%グリセロール、および1%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のうちの少なくとも1つと混合して、34.5~35.5%PBを含む、本発明の概念のインスリンとグルカゴンとの合剤の溶解度を観察した。インスリンの目標濃度を、34.5~35.5%PBを含むすべての共溶媒で観察した。さらに、34.5~35.5%PBS、4.5%ビタミンE TPGS、30%DMSO、および30%PGを含む第1の共溶媒、ならびに34.5~35.5%PBS、4.5%ビタミンE TPGS、30%DMSO、および30%グリセロールを含む第2の共溶媒において、グルカゴンの目標濃度を観察した。
【0077】
図73は、最大40%の水性PB(pH7.8)と混合した非水性有機溶媒を含む共溶媒中のインスリンとグルカゴンとのそれぞれの溶解度に関するデータを示している。共溶媒は、本発明の概念と一致する、以下の有機溶媒、すなわち、NMP;PG;グリセロール;およびDMSOうちの少なくとも1つを含み、共溶媒または共溶媒混合物がこの配合剤の少なくとも60%を構成する。上清中のインスリンおよびグルカゴンの濃度をRP-HPLCで分析した。30%以上の有機溶媒を含む溶液では、100%PB中でのグルカゴンの溶解度(例えば、0.02mg/mL未満)とは対照的に、グルカゴンはPB中でより良好な溶解度(例えば、0.1~0.3mg/mL)を示した。インスリンは、有機共溶媒が混合物の30%を超える場合、試験したすべての共溶媒中で目標濃度を示した。
ここで
図74~76を参照して、本発明の概念と一致する、出願人によって実施された試験の結果を示す。これらの試験は、別個の溶液としてのインスリンおよびグルカゴンと比較して、インスリンとグルカゴンとの合剤溶液の治療的価値を評価するために、イヌ対象において実施した。
【0078】
インスリンとグルカゴンとの合剤は、DMSO中のグルカゴンのストック溶液をPGおよびPB(pH7.4)で希釈し、その後インスリンを添加することにより調製した。グルカゴンDMSOストック溶液は、グルカゴンを0.55mg/mLの濃度でDMSO中に溶解させ、PGで0.12mg/mLに希釈し、その後PB(例えば20mM、pH7.4)で希釈して、4:2:4(グルカゴンDMSOストック溶液:PG:PB)の体積比で調製した。所望の量のインスリンをグルカゴン溶液に添加して(例えば、0.12mg/mL)、0.83mg/mLのインスリン濃度を達成した。インスリン対グルカゴンのモル比は4である。最終の合剤は、透明かつ無色であることを観察した。
【0079】
合剤中のインスリンおよびグルカゴンの濃度をRP-HPLCで分析した。合剤の試料を0.01N HClで希釈した。希釈された合剤は、ダイオードアレイ検出器(DAD)を備え、さらに5μmのZorbax SB-C8、流量1mL/分の4.6×250mmカラム、214nmの紫外線検出、および50μlの注入量を具備する、Agilent HPLCを使用して分析した。カラム温度は30°Cに維持し、試料チャンバーは5°Cに維持した。移動相は、Milli-Q水(移動相A)中の0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)とアセトニトリル(移動相B)中の0.1%TFAとの組合せで構成した。移動相の組合せは、5分間、70%イソクラティック移動相Aで開始し、次いで、毎分0.5%の比率で移動相Aが60%に減少し、その後、より高いパーセンテージの移動相Bで5分間カラム洗浄を行った。
【0080】
図74は、別個の溶液としてのインスリンとグルカゴンとの共注入と比較した、合剤の注入中の血漿グルコースレベルに関するデータを示す。90~390分の期間中に、イヌ対象にソマトスタチンを投与して、膵臓内分泌部を不能にした。0~180分の期間中に、インスリンを0.4mU/kg/分の速度で、グルカゴンを2.1ng/kg/分の速度で、別個の溶液として(Ba GGN群と呼ぶ)、または合剤として(Hi GGN群と呼ぶ)基礎量で皮下注入した。180分で、Ba GGNおよびHi GGN群の両方において、インスリン注入速度が1.6mU/kg/分に増加した。グルカゴン注入速度はBa GGN群では基礎を維持したが、Hi GGN群では8.4ng/kg/分に増加した。
90~180分の基礎ホルモン補充期間中、グルコースレベルは、Ba GGN群において100mg/dLであった。グルコースレベルは、Hi GGN群において80mg/dLに近く、それにより、合剤におけるインスリン作用の優位性を示した。180~390分のインスリンチャレンジ期間中、グルコースレベルは、I/Gモル比16のBa GGN群で41mg/dLに減少した。I/Gモル比4を維持するためにグルカゴンレベルを4倍に増加すると(
図76に示すように)、Hi GGN群ではグルコースレベルがわずか56mg/dLに低下した。
【0081】
図75は、合剤中のインスリン、または別個の溶液としてのインスリンの注入中の、動脈血中インスリンレベルに関連するデータを示す。0~180分のプライミングおよび基礎補充期間中に、インスリンを0.4mU/kg/分の速度で、単一溶液(Ba GGN群と呼ぶ)として、またはグルカゴンとの合剤(Hi GGN群と呼ぶ)で皮下注入した。180~390分のチャレンジ期間中、Ba GGNおよびHi GGN両群において、インスリンを1.6mU/kg/分の速度で皮下注入し、前者はグルカゴンとの合剤中にあった。インスリンレベルは、両群で同様に増加した。
【0082】
図76は、別個の溶液としてのグルカゴンの注入と比較した、合剤の注入中の動脈血中グルカゴンレベルに関するデータを示す。Ba GGN群において単一溶液として、0~390分の実験全体で、グルカゴンを2.1ng/kg/分の速度で皮下注入した。グルカゴンは、Hi GGN群において最初の180分間、インスリンとの合剤で2.1ng/kg/分の速度で注入した。180~390分のチャレンジ期間中、Hi GGN群において、インスリンとの合剤でグルカゴンを8.4ng/kg/分の速度で皮下注入した。グルカゴンレベルは約4倍に増加した。
図75および76に示す実験中に、0~180分のプライミングおよび補充期間中、I/Gモル比は両群において4であった。180~390分のインスリンチャレンジ期間中、I/Gモル比はBa GGN群において16に増加し、Hi GGN群では4のままであった。
【0083】
本開示の態様は、以下の条項に記載される本発明においてさらに具体化し得る。
第1項:インスリンとグルカゴンとを対象に共投与することを含む治療方法であって、インスリンとグルカゴンとを、インスリン:グルカゴンのモル比約1:1~約6:1の間で共投与し、インスリンとグルカゴンとを、同時に、高血糖を治療または阻害するために、および低血糖を阻害するために、治療有効量で投与する方法。
第2項:対象が、インスリンとグルカゴンとを共投与する前には高血糖である、第1項の方法。
第3項:インスリンとグルカゴンとの共投与が、インスリンとグルカゴンとを含む合剤を対象に投与することを含む、第1項または第2項いずれかの方法。
第4項:合剤が、約1mg/mL~約10mg/mLの間の濃度のインスリン、および約0.1mg/mL~約1mg/mLの間の濃度のグルカゴンを含む、第3項の方法。
第5項:合剤が、約3mg/mL~約5mg/mLの間の濃度のインスリン、および約0.1mg/mL~約0.8mg/mLの間の濃度のグルカゴンを含む、第3項または第4項いずれかの方法。
【0084】
第6項:合剤が、1種または複数の非水性溶媒を含む溶媒を含む、第3項から第5項までのいずれか1項の方法。
第7項:溶媒の約20%~約60%(v/v)が、1種または複数の非水性溶媒からなる、第6項の方法。
第8項:少なくとも1種の非水性溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはN-メチルピロリドン(NMP)である、第6項または第7項のいずれかの方法。
第9項:溶媒がさらに、1種または複数の水性溶媒を含む、第6項から第8項までのいずれか1項の方法。
第10項:溶媒の約40%(v/v)以下が、1種または複数の水性溶媒からなる、第9項の方法。
【0085】
第11項:溶媒の約10%~約40%(v/v)が、プロピレングリコール(PG)、グリセロール、またはPGとグリセロールとの組合せである、第6項から第10項までのいずれか1項の方法。
第12項:インスリンおよびグルカゴンの合剤が、注射としてまたは注入ポンプにおいて患者が取り扱う場合に十分な使用中の安定性を有する、第3項から第10項までのいずれか1項の方法。
第13項:インスリンとグルカゴンとの共投与が、インスリンとグルカゴンとを皮下投与することを含む、前記条項のいずれか1項の方法。
第14項:インスリンが、肝選択的インスリンを含む、前記条項のいずれか1項の方法。
【0086】
第15項:インスリンとグルカゴンとを、インスリン:グルカゴンのモル比約1:1~約5:1の間で共投与する、前記条項のいずれか1項の方法。
第16項:インスリンとグルカゴンとを、インスリン:グルカゴンのモル比約3:1~約6:1の間で共投与する、前記条項のいずれか1項の方法。
第17項:インスリンとグルカゴンとを、インスリン:グルカゴンのモル比約3:1~約5:1の間で共投与する、前記条項のいずれか1項の方法。
第18項:インスリンとグルカゴンとの共投与が、インスリンを約0.2~0.6mU/kg/分の基礎注入速度で投与することおよびグルカゴンを約1~4ng/kg/分の基礎注入速度で投与することを含む、前記条項のいずれか1項の方法。
第19項:インスリンとグルカゴンとの共投与が、インスリンを約0.3~0.5mU/kg/分の基礎注入速度で投与することを含む、第18項の方法。
【0087】
第20項:インスリンとグルカゴンとの共投与が、グルカゴンを約2~3ng/kg/分の基礎注入速度で投与することを含む、第18項または第19項のいずれかの方法。
第21項:インスリンが、インスリンアナログを含む、前記条項のいずれか1項の方法。
第22項:グルカゴンが、グルカゴンアナログを含む、前記条項のいずれか1項の方法。
第23項:対象が、1型、2型、妊娠性、または他の形態の糖尿病を有する、前記条項のいずれか1項の方法。
第24項、ここではインスリンおよびグルカゴンを共投与する場合、対象が自律神経不全に関連する低血糖を示す。
【0088】
第25項:約1mg/mL~約10mg/mLの間の濃度のインスリン、および約0.1mg/mL~約1mg/mLの間の濃度のグルカゴンを含む、合剤であって、インスリン:グルカゴンのモル比は、約1:1~約6:1の間である、合剤。
第26項:インスリン:グルカゴンのモル比が、約1:1~約5:1の間である、第25項の合剤。
第27項:インスリン:グルカゴンのモル比が、約3:1~約6:1の間である、第25項または第26項のいずれかの合剤。
第28項:インスリン:グルカゴンのモル比が、約3:1~約5:1の間である、第25項から第27項までのいずれか1項の合剤。
第29項:インスリンが、約3mg/mL~約5mg/mLの間の濃度であり、グルカゴンが、約0.1mg/mL~約0.8mg/mLの間の濃度である、第25項から第28項までのいずれか1項の合剤。
【0089】
第30項:1種または複数の水性溶媒および1種または複数の非水性溶媒を含む溶媒をさらに含む、第25項から第29項までのいずれか1項の合剤。
第31項:溶媒の約20%~約60%(v/v)が、1種または複数の非水性溶媒からなり、溶媒の約40%(v/v)以下が、1種または複数の水性溶媒からなる、第30項の合剤。
第32項:少なくとも1種の非水性溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはN-メチルピロリドン(NMP)である、第30項または第31項のいずれかの方法。
第33項:溶媒の約10%~約40%が、プロピレングリコール(PG)、グリセロール、またはPGとグリセロールとの組合せである、第30項から第32項までのいずれか1項の方法。
上述の実施形態は、例示的な例としてのみ機能すると理解されるべきであり、さらなる実施形態が想定される。任意のある実施形態に関して本明細書に記載された特徴は、単独で、または記載された他の特徴と組み合わせて使用してもよく、また、任意の他の実施形態の1つまたは複数の特徴と組み合わせて、または任意の他の実施形態を任意に組み合わせて使用してもよい。さらに、添付の特許請求の範囲に定義されている本発明の範囲から逸脱することなく、上記に記載されていない均等物および変更もまた使用してもよい。