IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人千葉工業大学の特許一覧

<>
  • 特許-情報処理装置および移動ロボット 図1
  • 特許-情報処理装置および移動ロボット 図2
  • 特許-情報処理装置および移動ロボット 図3
  • 特許-情報処理装置および移動ロボット 図4
  • 特許-情報処理装置および移動ロボット 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】情報処理装置および移動ロボット
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/89 20200101AFI20220901BHJP
【FI】
G01S17/89
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021504716
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010328
(87)【国際公開番号】W WO2020183659
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100167900
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 仁
(72)【発明者】
【氏名】友納 正裕
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0364717(US,A1)
【文献】特開2017-045447(JP,A)
【文献】特開2018-128314(JP,A)
【文献】特表2015-508163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - G01S 7/51
G01S 17/00 - G01S 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体が移動する環境の地図に基づいて移動体の自己位置を推定するための情報処理装置であって、
前記移動体の周囲の物体までの距離と方向を検出情報として検出する検出手段と、
前記検出手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記検出手段にて検出された検出情報の時系列と地図を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された検出情報に基づいて、前記移動体の周囲の地図を作成して前記記憶部に記憶させる地図作成部と、
前記憶部に記憶されている過去に作成された既存地図に基づいて、前記移動体の現在の自己位置を推定する既存地図自己位置推定部と、
前記記憶部に記憶されている現在作成中の現在地図に基づいて、前記移動体の現在の自己位置を推定する現在地図自己位置推定部と、
前記既存地図自己位置推定部および前記現在地図自己位置推定部にて推定された各自己位置の信頼度を評価する信頼度評価部と、
前記信頼度評価部にて評価された信頼度に基づいて、前記各自己位置の少なくともいずれか一方を更新する自己位置更新部と、
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載された情報処理装置において、
前記自己位置更新部は、前記既存地図自己位置推定部および前記現在地図自己位置推定部にて推定された各自己位置の移動量を算出し、算出された移動量に基づいて、前記各自己位置の少なくともいずれか一方を更新する
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された情報処理装置において、
前記自己位置更新部は、前記信頼度評価部にて評価された前記各自己位置の信頼度の低い地図の自己位置を高い地図の自己位置に基づいて更新する
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載された情報処理装置において、
前記信頼度評価部は、前記各自己位置の信頼度を示す重みを、前記各自己位置の信頼度が高くなるにしたがって大きく設定し、低くなるにしたがって小さく設定し、
前記自己位置更新部は、前記信頼度評価部にて設定された重みに基づいて、前記各自己位置の少なくともいずれか一方を更新する
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載された情報処理装置と、
前記移動体を移動させる移動手段と、
を備えたことを特徴とする移動ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置および移動ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動ロボットや自動運転車等の自律走行可能な移動体が自律走行するための技術として、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping) と称される自己位置推定と環境地図作成の技術が用いられている。環境地図としては、移動体の移動範囲における物体の有無に基づいて作成された占有格子地図や点群地図が用いられることがある。占有格子地図は、移動範囲の平面や空間を複数の区画(セル)に分割して記憶するとともに、分割した各区画に対して物体の有無に応じたセル値が付与されている。点群地図は、移動範囲の平面や空間に存在する物体を微小領域ごとに離散化した点(座標)として表し、その集合である点群データが地図として利用される。
【0003】
移動体が目的地まで自律走行する場合、現在地から目的地までの移動経路を求め、その移動経路に沿って目的地まで走行する。この際、効率よく移動するために、あらかじめ作成しておいた地図(既存地図)を用いて移動経路を算出し、その既存地図上で移動体が自己位置を確認(推定)しながら走行することが行われる。このような既存地図上での自己位置推定は、移動体の自律走行にとって不可欠の技術である。
【0004】
移動体の自己位置推定の技術として、距離センサの出力で得られる距離データ(検出情報)を用いて、予め準備した環境地図に対して移動体の位置合わせを行って自己位置を推定する方法が一般的である。移動体の位置合わせの方法として、例えば、ICP(Iterative Closest Point)といわれる方法があり、この方法では、点群データから抽出した点の集合の幾何学的特徴に基づき、環境地図の特徴部位と照合することにより移動体の位置を判別する(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の自己位置推定方法は、距離センサによって周辺を観測することで、物体表面を示す複数の三次元点を取得し、その観測結果に基づいて、複数の三次元点の特徴量を算出し、特徴量が特徴量閾値以上である複数の三次元点を近距離および遠距離の両方から抽出し、抽出した複数の三次元点と、環境地図が示す複数の三次元点とをマッチングすることで自己位置を推定する。
【0005】
一方、移動体の自己位置推定の技術として、車輪の回転角を用いて移動量(検出情報)を算出し、これにより自己位置を推定するオドメトリといわれる方法もあり、この方法では、移動量に基づく自己位置情報を環境地図と照合することにより移動体の位置を判別する。しかし、オドメトリに基づく自己位置推定方法では、車両が旋回した場合や車輪が空転した場合にオドメトリの誤差が発生することから、自己位置の推定精度が低下してしまう。このため、オドメトリに基づく自己位置推定と、前述したような距離センサを用いたICPに基づく位置合わせの方法と、を併用することによって、自己位置の推定精度を向上させようとする技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-083230号公報
【文献】特開2018-084492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載されたような従来の技術は、いずれも検出情報を予め準備した環境地図にマッチングさせることで移動体の自己位置を推定するものであるため、環境が変化した場合には、環境地図とのマッチングが困難になったり、マッチングの精度が低下したりすることから、自己位置の推定精度が大幅に低下してしまうことがある。
【0008】
本発明の目的は、環境の変化に対しても自己位置の推定精度を確保し、地図における自己位置の整合性を維持することができる情報処理装置および移動ロボットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の情報処理装置は、移動体が移動する環境の地図に基づいて移動体の自己位置を推定するための情報処理装置であって、前記移動体の周囲の物体までの距離と方向を検出情報として検出する検出手段と、前記検出手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記検出手段にて検出された検出情報の時系列と地図を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された検出情報に基づいて、前記移動体の周囲の地図を作成して前記記憶部に記憶させる地図作成部と、前記記憶部に記憶されている過去に作成された既存地図に基づいて、前記移動体の現在の自己位置を推定する既存地図自己位置推定部と、前記記憶部に記憶されている現在作成中の現在地図に基づいて、前記移動体の現在の自己位置を推定する現在地図自己位置推定部と、前記既存地図自己位置推定部および前記現在地図自己位置推定部にて推定された各自己位置の信頼度を評価する信頼度評価部と、前記信頼度評価部にて評価された信頼度に基づいて、前記各自己位置の少なくともいずれか一方を更新する自己位置更新部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
このような本発明によれば、自己位置更新部は、信頼度評価部にて評価された各自己位置の信頼度に基づいて、既存地図自己位置推定部および現在地図自己位置推定部にて推定された各自己位置の少なくともいずれか一方を更新するので、既存地図自己位置推定部および現在地図自己位置推定部にて推定された各自己位置の整合性をとることができる。したがって、繰り返し移動する環境が変化した場合であっても、既存地図および現在地図の両方に基づいて自己位置の信頼性を評価することで、環境の変化に対する自己位置の推定の精度を向上させることができる。
【0011】
本発明では、前記自己位置更新部は、前記既存地図自己位置推定部および前記現在地図自己位置推定部にて推定された各自己位置の移動量を算出し、算出された移動量に基づいて、前記各自己位置の少なくともいずれか一方を更新することが好ましい。
【0012】
このような構成によれば、自己位置更新部は、既存地図自己位置推定部および現在地図自己位置推定部にて推定された各自己位置の移動量を算出し、算出された移動量に基づいて、各自己位置の少なくともいずれか一方を更新するので、既存地図および現在地図の形状が異なる場合であっても各自己位置の整合性をとることができる。すなわち、同じ場所であっても、移動ロボットの走行経路は毎回異なり、センサノイズも異なるため、既存地図と現在地図の形状は一致しないことが多い。地図の形状が異なると、一方の地図での自己位置を他方の地図にそのまま流用しても、その地図と整合性がとれるとは限らない。これに対して、既存地図および現在地図における自己位置の移動量を算出してから、その移動量に基づいて、各自己位置を更新するようにすることで、誤差を低減しつつ自己位置の推定精度を高めることができる。
【0013】
本発明では、前記自己位置更新部は、前記信頼度評価部にて評価された前記各自己位置の信頼度の低い地図の自己位置を高い地図の自己位置に基づいて更新することが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、自己位置更新部は、信頼度評価部にて評価された各自己位置の信頼度の低い地図の自己位置を高い地図の自己位置に基づいて更新するので、各自己位置の推定精度を向上させることができる。
【0015】
本発明では、前記信頼度評価部は、前記各自己位置の信頼度を示す重みを、前記各自己位置の信頼度が高くなるにしたがって大きく設定し、低くなるにしたがって小さく設定し、前記自己位置更新部は、前記信頼度評価部にて設定された重みに基づいて、前記各自己位置の少なくともいずれか一方を更新することが好ましい。
【0016】
このような構成によれば、自己位置更新部は、信頼度評価部にて設定された各自己位置の信頼度を示す重みに基づいて、既存地図自己位置推定部および現在地図自己位置推定部にて推定された各自己位置の少なくともいずれか一方を更新するので、各自己位置の信頼度を段階的に評価することができ、効率よく各自己位置の整合性をとることができる。
【0017】
本発明の移動ロボットは、前記情報処理装置と、前記移動体を移動させる移動手段と、備えたことを特徴とする。
【0018】
このような本発明によれば、移動ロボットは、情報処理装置と移動手段とを備え、情報処理装置の制御手段が有する自己位置更新部は、信頼度評価部にて評価された各自己位置の信頼度に基づいて、既存地図自己位置推定部および現在地図自己位置推定部にて推定された各自己位置のいずれかを更新するので、既存地図自己位置推定部および現在地図自己位置推定部にて推定された各自己位置の整合性をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る移動ロボットのブロック図
図2】前記移動ロボットの地図作成および自己位置推定の動作を示す概念図
図3】前記移動ロボットの自己位置推定の様子を示す概念図
図4】前記移動ロボットの自己位置推定の様子を示す概念図
図5】前記移動ロボットの動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図1図5に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る移動ロボット1のブロック図である。
本実施形態の移動体である移動ロボット1は、図1に示すように、制御手段2と、検出手段3と、移動手段4と、を備え、制御手段2および検出手段3によって情報処理装置が構成されている。検出手段3は、移動ロボット1の周囲にビームを放射することで物体の有無を検出するレーザースキャナを有し、照射したビームごとに検出情報を取得する。移動ロボット1は、SLAM技術およびオドメトリによって自己位置を推定する。移動手段4は、モータ等の駆動部と、駆動部によって回転駆動される車輪と、を有し、移動ロボット1を自律走行させるとともに、車輪の回転角を用いて移動量(検出情報)を取得し、オドメトリにより自己位置を推定する。
【0021】
制御手段2は、CPU等の演算手段やROM、RAM等の記憶手段を備えて移動ロボット1の動作を制御するものであって、移動手段4を制御する移動制御部21と、検出手段3を制御する検出制御部22と、を備える。また、制御手段2は、後述するように移動ロボット1の周囲の地図を作成する地図作成部23と、移動ロボット1の自己位置を推定する既存地図自己位置推定部24および現在地図自己位置推定部25と、を備える。さらに、制御手段2は、既存地図自己位置推定部24および現在地図自己位置推定部25にて推定された各自己位置の信頼度を評価する信頼度評価部26と、信頼度評価部26にて評価された信頼度に基づいて、各自己位置のいずれかを更新する自己位置更新部27と、検出手段3が取得した検出情報や、地図作成部23が作成した地図、各種のデータ等を記憶する記憶部28と、を備えて構成されている。地図作成部23が作成する地図としては、占有格子地図や点群地図など任意の地図が利用可能であるが、以降では点群地図を作成する場合について説明する。
【0022】
検出手段3は、例えば、赤外線レーザー等のレーザー光を周囲に照射して物体までの距離を測定するレーザースキャナ(LIDAR(Light Detection and Ranging))を備える。このレーザースキャナは、自己位置であるセンサ中心と方位を基準位置(x,y,θ)とし、センサ中心からの距離と、センサ中心回りの角度(方向)と、に基づいて物体の有無や位置を検出する。この物体検出(以下では、単にスキャンと称することがある)では、レーザースキャナの1周期(例えば、1回転、360°)分の検出において、所定の解像度(例えば、1°)で照射されるレーザービームに基づき、1周期分の検出値を1単位(1スキャン)とし、この1スキャンの検出値がスキャン情報(検出情報)として時系列で記憶部28に記憶される。
【0023】
移動手段4は、駆動部によって回転駆動される車輪の回転角を検出することで、移動ロボット1の移動量を取得し、この移動量がオドメトリ情報(検出情報)として記憶部28に記憶される。本実施形態の移動ロボット1では、検出情報としてのスキャン情報およびオドメトリ情報に基づき、SLAM技術によって順次現在地図を作成しつつ自己位置を推定するとともに、過去に作成されて後述の方法により繰り返し更新され記憶部28に記憶された既存地図(参照地図)と検出情報とを照合することにより自己位置を推定する。以下では、SLAM技術による自己位置推定を単に「SLAM」と称し、参照地図との照合による自己位置推定を単に「LOC」(ローカライゼーション:Localization)と称することがある。このようなSLAMとLOCを併用した自己位置推定および地図作成の手法について図2図5を参照して説明する。
なお、既存地図は、過去に作成されて後述の方法により繰り返し更新され記憶部28に記憶されたものでなくてもよく、例えば、移動ロボット1の外部から転送されたものなどであってもよい。要するに、既存地図は、記憶部28に記憶されている過去に作成されたものであればよい。
【0024】
図2は、移動ロボット1の地図作成および自己位置推定の動作を示す概念図である。図2に示すように、移動ロボット1は、検出手段3からのスキャン情報と移動手段4からのオドメトリ情報とを取得すると、SLAMおよびLOCにより自己位置推定を行う。SLAMでは、現在地図を作成するとともに作成した現在地図に基づいて自己位置推定を行い、LOCでは、参照地図(既存地図)との照合による自己位置推定を行う。SLAMおよびLOCにより自己位置推定を行ったら、各自己位置の信頼度を評価して更新する。以上のように、本実施形態の移動ロボット1は、SLAMおよびLOCによる現在地図および参照地図の上での自己位置推定を並行して行う。
【0025】
図3、4は、移動ロボット1の自己位置推定の様子を示す概念図である。図3および図4のそれぞれにおいて、(A)は現在地図または参照地図上の物体を示す点群であり、(B)は検出手段3で検出したスキャン情報の点群であり、(C)は(A)および(B)の点群を重ねた状態を示す。ここでは、位置合わせの方法としてICPによるスキャンマッチングを用いた場合を例示し、現在地図または参照地図上の点群の形状と、スキャン情報の点群の形状とに基づき、例えば、ICPによる位置合わせを行うことにより移動ロボット1の自己位置を判別するものとする。スキャンマッチングは、移動ロボット1が第1位置から第2位置に移動した際に、第1位置で作成した現在地図(または過去に作成した参照地図)と、第2位置でスキャンしたスキャン情報と、の重なり度合が最適になるように移動ロボット1の自己位置(移動量)を推定する。SLAMでは、順次作成した現在地図とスキャン情報とを照合することで、自己位置を推定しつつ現在地図の更新を繰り返す。一方、LOCでは、過去に作成した参照地図とスキャン情報とを照合することで、参照地図上の自己位置を推定する。
【0026】
図3は、SLAMによるスキャンマッチングの様子を示すものであり、現在地図上の点群とスキャン情報の点群とがよく重なっており、マッチングが良好な状態が示されている。図4は、LOCによるスキャンマッチングの様子を示すものであり、参照地図上の点群とスキャン情報の点群とが部分的にずれており、マッチングが不良な状態が示されている。すなわち、図4(A)の参照地図に対して、図4(B)の位置A1,A2で示す部分のスキャン情報がずれており、これは過去に作成した参照地図上に存在した物体と、現在の物体とで位置や形状が変化した可能性を示している。しかし、このような物体位置などの環境変化に対して、参照地図に基づくLOCでは自己位置を正しく推定することができない可能性がある。そこで、例えば、前述したICPによるスキャンマッチングでは、参照地図に対するスキャン情報のマッチングのスコアを次の式(1)で算出する。このマッチングスコアG(x)は、図3のようにマッチングが良好な状態であるほど小さくなり、図4のようにマッチングが不良な状態になれば大きくなる。
【0027】
【数1】
…(1)
【0028】
式(1)において、
x: 時刻tでのロボット位置(x,y,θ)
R,t:xの回転行列、並進成分であり、次式(2)で表される
:時刻tのスキャン内のi番目の点
ji:pに対応する時刻t-1のスキャン内の点。jiはiに対応する点の番号。
【0029】
【数2】
…(2)
【0030】
以上のように、推定した自己位置についてマッチングスコアを算出し、マッチングスコアに基づいて信頼度を設定することで、SLAMおよびLOCで推定した各自己位置の信頼度を評価し、評価した信頼度に基づいて、各自己位置のいずれかを更新する。このようなSLAMおよびLOCによる各自己位置の信頼度評価および自己位置更新の方法については後述する。
【0031】
本実施形態の移動ロボット1では、SLAMによって現在地図を作成するとともに自己位置を推定し、LOCが参照地図を参照しつつ自己位置を推定し、それぞれが推定した自己位置の良い方を採用する。このような自己位置推定方法によれば、現在地図上でのSLAMと参照地図上での自己位置推定を並行して行うため、互いに補い合う効果が得られる。すなわち、SLAMおよびLOCのいずれか一方が自己位置推定を失敗したとしても、他方が成功すれば復帰できるので、ロバスト性が向上する。
【0032】
また、計測データであるスキャン情報やオドメトリ情報の状態がよくないと、SLAMで推定する自己位置に大きな誤差が生じることから、作成する現在地図が崩れてしまうことがあり、その場合には、スキャン情報が正常になっても正しい位置に復帰するのが難しい。そこで、LOCを併用することで、参照地図を基準にできるため、スキャン情報が正常化すれば正しい自己位置を推定できる可能性を高くすることができる。さらに、移動ロボット1が参照地図の範囲外に出てしまうと、地図がないためにスキャンマッチングが行えず、LOCはオドメトリ情報だけで自己位置を推定することになるが、オドメトリ情報だけでは位置誤差が累積して、自己位置を見失う可能性がある。そこで、SLAMを併用することで、移動ロボット1の位置を推定し続けられるので、SLAMで推定した自己位置をLOCが取り入れることで、オドメトリ情報だけの場合よりも精度の高い自己位置が得られるため、参照地図の範囲に戻った時に復帰しやすくなるという効果も得られる。
【0033】
次に、図5も参照して移動ロボット1の動作について詳しく説明する。図5は、移動ロボット1の動作を示すフローチャートである。なお、ここでは、移動ロボット1の走行に係る動作については説明を省略し、走行に伴う自己位置推定、現在地図の作成手順に着目して説明する。
【0034】
制御手段2の移動制御部21によって移動手段が駆動制御され移動ロボット1の走行が開始されると、検出制御部22によって検出手段3が駆動制御されて周囲の物体の検出が開始される(検出情報取得工程:ステップST11)。検出情報取得工程(ステップST11)において、検出制御部22は、検出手段3によって周囲の物体を検出したスキャン情報(検出情報)を取得するとともに、取得したスキャン情報を記憶部28に記憶させる。さらに、検出制御部22は、移動手段4の車輪の回転角から移動量を検出したオドメトリ情報(検出情報)を取得するとともに、取得したオドメトリ情報を記憶部28に記憶させる。
【0035】
制御手段2は、記憶部28に記憶されたスキャン情報およびオドメトリ情報と作成した現在地図、および記憶部28に記憶された参照地図(既存地図)に基づいて、移動ロボット1の自己位置を推定する(自己位置推定工程:ステップST12)。自己位置推定工程(ステップST12)は、SLAMによる自己位置の推定手順であるステップST21~ST23と、LOCによる自己位置の推定手順であるステップST31~ST33と、を並行して実行する。
【0036】
SLAMによる自己位置の推定手順として、制御手段2は、それまでに作成された現在地図と、スキャン情報およびオドメトリ情報と、に基づいて、現在地図自己位置推定部25に移動ロボット1の現在の自己位置を推定させる。さらに、制御手段2は、地図作成部23に現在地図を作成させ、作成した現在地図を記憶部28に記憶させる(現在地図作成および現在地図に基づく自己位置推定工程:ステップST21)。次に、現在地図自己位置推定部25は、算出した自己位置と一時刻前の自己位置とに基づいて、その間の移動量を算出する(移動量算出工程:ステップST22)。このようにしてSLAMによる現在の自己位置が推定されたら、制御手段2は、信頼度評価部26に自己位置の信頼度を評価させる(信頼度評価工程:ステップST23)。信頼度評価工程(ステップST23)において、信頼度評価部26は、前述したスキャンマッチングの結果に基づいて、自己位置の信頼度を算出する。例えば、マッチングスコアから信頼度を決めてもよいし、マッチした点の個数から信頼度を決めてもよい。前者ではマッチングスコアが小さいほど信頼度が大きく、後者では点数が多いほど信頼度は大きくなるように適当な変換を施す。また、信頼度が所定の閾値より小さい場合は、信頼度を0にしてもよい。
【0037】
LOCによる自己位置の推定手順として、制御手段2は、記憶部28に記憶された参照地図と、スキャン情報およびオドメトリ情報と、に基づいて、既存地図自己位置推定部24に移動ロボット1の現在の自己位置を推定させる(参照地図に基づく自己位置推定工程:ステップST31)。次に、既存地図自己位置推定部24は、算出した自己位置と一時刻前の自己位置とに基づいて、その間の移動量を算出する(移動量算出工程:ステップST32)。このようにしてLOCによる現在の自己位置が推定されたら、制御手段2は、信頼度評価部26に自己位置の信頼度を評価させる(信頼度評価工程:ステップST33)。信頼度評価工程(ステップST33)において、信頼度評価部26は、前述したスキャンマッチングの結果に基づいて、自己位置の信頼度を算出する。例えば、マッチングスコアから信頼度を決めてもよいし、マッチした点の個数から信頼度を決めてもよい。前者ではマッチングスコアが小さいほど信頼度が大きく、後者では点数が多いほど信頼度は大きくなるように適当な変換を施す。また、信頼度が所定の閾値より小さい場合は、信頼度を0にしてもよい。
【0038】
以上のように、SLAMおよびLOCによってそれぞれの自己位置が推定され、各自己位置の信頼度を評価したら、制御手段2は、信頼度評価部26にSLAMおよびLOCの各自己位置の信頼度に基づいて、信頼度が高いほど高い重みを各自己位置に設定する(重み付け工程:ステップST13)。すなわち、例えば、SLAMによる自己位置の信頼度が80%であり、LOCによる自己位置の信頼度が60%であれば、SLAMによる自己位置の重みを0.57(=80/(80+60))とし、LOCによる自己位置の重みを0.43(=60/(80+60))と設定する。
【0039】
次に、制御手段2は、自己位置更新部27にSLAMおよびLOCの各自己位置の重みに基づいて、各自己位置の少なくともいずれか一方を更新する(自己位置更新工程:ステップST14)。自己位置更新部27は、前記移動量算出工程(ステップST23,ST32)で算出した各自己位置の移動量と、重み付け工程(ステップST13)で設定した各自己位置の重みと、に基づいて、各自己位置を更新する。なお、自己位置更新工程(ステップST14)では、各自己位置の重みに基づかず、信頼度の高い自己位置によって信頼度の低い自己位置を更新(書き換え)してもよい。これは前述の閾値より小さい信頼度を0にした場合に相当する。また、SLAMおよびLOCの自己位置の信頼度がそれぞれ閾値より大きい場合は、それぞれで推定した自己位置をそのまま用いてもよい。ただし、一方の自己位置の信頼度が閾値より小さくなった場合は、他方の自己位置で書き換える。
【0040】
次に、制御手段2は、ステップST15にて移動ロボット1の走行を継続するか否かを判断する。ステップST15で走行を継続する場合、再び検出情報取得工程(ステップST11)に戻り、上述した各工程を繰り返す。ステップST15で走行を継続しない場合、制御手段2は、移動ロボット1の走行を停止させるとともに、各部の動作を停止させる。
【0041】
このような本実施形態によれば、以下の作用・効果を奏することができる。
(1)移動ロボット1は、制御手段2の信頼度評価部26にて評価されたSLAMおよびLOCで推定した各自己位置の信頼度に基づいて、自己位置更新部27が各自己位置のいずれかを更新するので、既存地図自己位置推定部24および現在地図自己位置推定部25にて推定された各自己位置の整合性をとることができる。したがって、移動ロボット1は、繰り返し移動する環境が変化した場合であっても、参照地図および現在地図の両方に基づいて自己位置の信頼性を評価することで、環境の変化に対する自己位置の推定の精度を向上させることができる。
【0042】
(2)制御手段2の自己位置更新部27は、SLAMおよびLOCで推定した各自己位置の移動量を算出し、算出された移動量に基づいて、各自己位置のいずれかを更新するので、参照地図および現在地図の形状が異なる場合であっても各自己位置の整合性をとることができ、誤差を低減しつつ自己位置の推定精度を高めることができる。
【0043】
(3)自己位置更新部27は、信頼度評価部26にて設定された各自己位置の信頼度を示す重みに基づいて、SLAMおよびLOCで推定した各自己位置の少なくともいずれか一方を更新するので、各自己位置の信頼度を段階的に評価することができ、効率よく各自己位置の整合性をとることができる。一方、自己位置更新部27は、各自己位置の重みに基づかず、信頼度の高い自己位置によって信頼度の低い自己位置を書き換えてもよく、これによれば、計算コストを抑制することができる。
【0044】
〔実施形態の変形〕
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、移動ロボット1として具体的なものを例示しなかったが、移動ロボット(移動体)としては、サービスロボット、ホームロボットなどの移動ロボットであって、より具体的には、掃除ロボットや警備ロボット、運搬ロボット、案内ロボットなどが例示できる。さらに、移動体としては、自動運転自動車や作業車などであってもよい。さらに、移動体の移動範囲は、二次元平面空間に限らず、三次元空間であってもよく、その場合には移動体がドローンなどの飛行体であってもよい。すなわち、前記実施形態では、SLAM技術として、2D-SLAMを用いた例を示したが、本発明の情報処理装置は、三次元空間を対象にした3D-SLAMにも応用可能である。
【0045】
前記実施形態では、移動ロボット1が制御手段2を備え、この制御手段2に地図作成部23や自己位置推定部24,25等が設けられていたが、情報処理装置としては、移動ロボット1ではなく、移動ロボット1と通信可能な他の機器に設けられ、他の機器によって作成された地図に基づいて移動ロボット1が自律走行するように構成されていてもよい。また、移動体としては、移動手段を備えていなくてもよく、検出手段が設置された台車等を使用者が手動で移動させつつ周囲を検出するような構成であってもよい。
【0046】
前記実施形態では、参照地図(既存地図)および現在地図として点群地図を用いたが、各地図は点群地図に限らず、占有格子地図でもよいし、他の地図であってもよい。また、前記実施形態では、検出手段としてレーザースキャナを有したものを例示したが、これに限らず、検出手段は、各種の距離センサや撮像装置など任意のものが利用可能である。また、前記実施形態では、移動手段の車輪の回転角に基づいてオドメトリ情報を取得したが、これに限らず、光学的な手段で計測した移動量や、ジャイロスコープやIMJ(Inertial Measurement Unit)で計測した回転角をオドメトリ情報に利用してもよい。
【0047】
前記実施形態では、自己位置更新部27は、SLAMおよびLOCで推定した各自己位置の移動量を算出し、算出された移動量に基づいて、各自己位置のいずれかを更新したが、移動量によらずに、推定した各自己位置同士を参照地図上または現在地図上で重ねて、自己位置を更新してもよい。すなわち、前記実施形態では、参照地図および現在地図の地図形状が異なり、その地図上で各自己位置同士を重ねるのは困難であることから、各自己位置から移動量を算出してから自己位置を更新するものとしたが、参照地図および現在地図の地図座標系を適切に相互変換できれば、それらの地図間で自己位置(座標値)を直接的に重ね合わせることが可能となり、移動量を算出しなくても自己位置を更新することができる。また、前記実施形態では、SLAMおよびLOCで推定した自己位置に対し、ポーズグラフの結合によって地図結合を行ったが、地図の結合方法は、ポーズグラフを利用したものに限らず、他の結合方法を採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明は、環境の変化に対しても自己位置の推定精度を確保し、地図における自己位置の整合性を維持することができる情報処理装置および移動ロボットに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 移動ロボット
2 制御手段
3 検出手段
4 移動手段
23 地図作成部
24 既存地図自己位置推定部
25 現在地図自己位置推定部
26 信頼度評価部
27 自己位置更新部
28 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5