IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 米澤 きく子の特許一覧 ▶ 株式会社メディソレーユの特許一覧

<>
  • 特許-双眼ルーペ及びその製作方法 図1
  • 特許-双眼ルーペ及びその製作方法 図2
  • 特許-双眼ルーペ及びその製作方法 図3
  • 特許-双眼ルーペ及びその製作方法 図4
  • 特許-双眼ルーペ及びその製作方法 図5
  • 特許-双眼ルーペ及びその製作方法 図6
  • 特許-双眼ルーペ及びその製作方法 図7
  • 特許-双眼ルーペ及びその製作方法 図8
  • 特許-双眼ルーペ及びその製作方法 図9
  • 特許-双眼ルーペ及びその製作方法 図10
  • 特許-双眼ルーペ及びその製作方法 図11
  • 特許-双眼ルーペ及びその製作方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】双眼ルーペ及びその製作方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 5/12 20060101AFI20220901BHJP
   G02B 25/00 20060101ALI20220901BHJP
   G02C 5/02 20060101ALI20220901BHJP
   G02C 7/08 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
G02C5/12
G02B25/00 Z
G02C5/02
G02C7/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018027724
(22)【出願日】2018-02-20
(65)【公開番号】P2019144373
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】515182129
【氏名又は名称】米澤 きく子
(73)【特許権者】
【識別番号】515182130
【氏名又は名称】株式会社メディソレーユ
(74)【代理人】
【識別番号】100098589
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 善章
(74)【代理人】
【識別番号】100098062
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 明彦
(74)【代理人】
【識別番号】100147599
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 匡孝
(72)【発明者】
【氏名】米澤 きく子
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3174805(JP,U)
【文献】特開2014-095855(JP,A)
【文献】特開2015-031770(JP,A)
【文献】特許第6233994(JP,B1)
【文献】実公昭61-044172(JP,Y2)
【文献】特開2001-100157(JP,A)
【文献】特開2005-107250(JP,A)
【文献】特開2003-215511(JP,A)
【文献】特開2017-129670(JP,A)
【文献】登録実用新案第3197221(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0022009(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
G02B 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手元の観察対象を拡大して見るための双眼ルーペの製作方法であって、
当該双眼ルーペは、左右一対のリム部、両方の前記リムを繋ぐブリッジ部、鼻当て部、を有する眼鏡フレームと、前記リム部にそれぞれ支持される一対のルーペ保持部材と、前記ルーペ保持部材に取り付けられて、それぞれが前記観察対象へ向くように前記ルーペ保持部材の面に対し所定の角度で固定される左右のルーペ本体と、から構成され、
前記鼻当て部は、前記ブリッジ部に着脱自在に取り付けられる中央部と、前記中央部から使用者の鼻を両脇から挟むように延びる一対のパッド支持体と、前記パッド支持体に装着されて使用者の鼻の両脇に接する鼻当てパッドと、を備え、
(A)前記パッド支持体どうしの間隔が使用者の鼻の両脇間の距離に応じた寸法である前記鼻当て部を選定して前記ブリッジ部に取り付けるステップと、
(B)前記鼻当て部が取り付けられた前記眼鏡フレームを着用した状態での使用者の瞳孔間距離を測定して、左右の前記ルーペ保持部材の面上における右瞳孔位置(X1、Y1)及び左瞳孔位置(X2、Y2)を決定するステップと、
(C)前記鼻当て部が取り付けられた前記眼鏡フレームを着用した状態での左右両眼の視線の先の前記観察対象から前記ルーペ保持部材までの距離A及び前記ルーペ保持部材を通る鉛直線に直交する水平方向距離Bを測定して、左右の前記ルーペ保持部材の面にそれぞれ装着する前記ルーペ本体の下方装着角度r1,r2を決定するステップと、
(D)前記鼻当て部が取り付けられた前記眼鏡フレームを着用した状態での使用者の右瞳孔位置(X1、Y1)及び左瞳孔位置(X2、Y2)と前記観察対象の位置との関係に基づいて、左右の前記ルーペ保持部材の面に装着する前記ルーペ本体の各内側装着角度p,qを決定するステップと、
(E)前記ブリッジ部から前記鼻当て部を外した状態で前記ルーペ保持部材の前記前記右瞳孔位置及び左瞳孔位置に開口を穿設し、前記ルーペ本体を前記開口に挿入し、前記下方装着角度r1,r2と、前記内側装着角度p,qとを保持した状態で固定するステップと、
(F)前記鼻当て部を再度前記ブリッジ部に取り付けた状態で左右の前記ルーペ本体を通して照射した検査光の収束点が前記観察対象の位置であるかを検査することで双眼ルーペの仕上がりを判断するステップと、
の各ステップを有することを特徴とする双眼ルーペの製作方法。
【請求項2】
前記(E)のステップにおいて、前記鼻当て部を再度前記ブリッジ部に取り付けるとき、左右の前記ルーペ本体を通して照射したルーペ本体固定確認光の収束点が観察対象の位置で前記ルーペ本体を固定する請求項に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項3】
(G)前記鼻当て部を前記ブリッジ部に取り付けた状態で使用者への装着状態を確認し調整するステップ、をさらに備える請求項1又は2に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項4】
前記鼻当て部は、一対の前記パッド支持体どうしの間隔が異なる複数の種類が用意されて、その中から選択された前記鼻当て部が前記中央部で前記ブリッジ部に取り付けられる請求項1に記載の双眼ルーペの製作方法。
【請求項5】
前記鼻当てパッドは、両方の前記パッド支持体に装着可能なよう馬蹄形状を有して、前記パッド支持体の間隔寸法に応じて変形自在な材料で構成される請求項に記載の双眼ルーペの製作方法
【請求項6】
前記鼻当てパッドは、鼻の両脇に接する部分に隆起部を有する請求項に記載の双眼ルーペの製作方法
【請求項7】
前記鼻当てパッドは、前記隆起部とほぼ背中合わせに、前記パッド支持体に取り付けるための取付部を備える請求項に記載の双眼ルーペの製作方法
【請求項8】
前記パッド支持体は、前記取付部と係合する取付孔を高さが異なる位置複数備えて、前記鼻当てパッドは、前記取付部が係合する前記取付孔に応じて、前記パッド支持体への取り付けの高さ位置が決まる請求項に記載の双眼ルーペの製作方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療手術や精密工作作業の際に使用される双眼ルーペの製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
双眼ルーペは、手元の局所的な観察対象を拡大して視認する手段として、従来から、医療分野、精密工作、宝石加工等の各分野において広く使用されている。双眼ルーペには、使用者の耳に掛けて装着する眼鏡フレームを備えて、眼鏡フレームの左右のリムに取り付けられるルーペ支持部材にルーペ本体を装着するタイプのものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。このタイプの双眼ルーペは、ルーペ支持部材の面に開口を穿孔して、開口にルーペ本体が挿入されて固定されるが、この場合、左右のルーペ本体は手元の観察対象(焦点)に向けて収束するように、前記ルーペ支持部材の面に対して所定の角度で傾けた状態で固定される。
【0003】
一方、眼鏡フレームには、使用者の鼻の両脇を支持することで、眼鏡のずり落ちを防止する鼻当て部を備えられている。しかしながら、双眼ルーペにあっては、光学系を内蔵しているルーペ本体が装着されているため通常の眼鏡と比べて重くなりずれ落ちしやすくなっている。そのため、双眼ルーペでは、鼻当て部が使用者の鼻にフィットするように、念入りな調整を行って使用者に提供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-129670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような調整は、一対の鼻当て部の間隔を使用者の鼻の形に応じて狭めたり広げたりすることで行われる。しかしながら、特許文献1の鼻当て部はそれぞれがフレームに固定されているために、鼻当て部の間隔を拡げたり縮めたりしたときフレームが撓み変形することになる。
【0006】
そして、フレームが変形すると、フレームに支持されているルーペ支持部材も変形することになり、その結果、ルーペ本体の光軸もその変形方向に移動してしまい、ルーペ本体どうしの光軸の収束点がずれて、観察対象を鮮明に目視できなくなる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、鼻当て部の調整によるルーペ本体どうしの光軸の収束点の観察対象からのずれが抑制される双眼ルーペを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、手元の観察対象を拡大して見るための双眼ルーペの製作方法であって、当該双眼ルーペは、左右一対のリム部、両方の前記リムを繋ぐブリッジ部、鼻当て部、を有する眼鏡フレームと、前記リム部にそれぞれ支持される一対のルーペ保持部材と、前記ルーペ保持部材に取り付けられて、それぞれが前記観察対象へ向くように前記ルーペ保持部材の面に対し所定の角度で固定される左右のルーペ本体と、から構成され、前記鼻当て部は、前記ブリッジ部に着脱自在に取り付けられる中央部と、前記中央部から使用者の鼻を両脇から挟むように延びる一対のパッド支持体と、前記パッド支持体に装着されて使用者の鼻の両脇に接する鼻当てパッドと、を備えて、
(A)前記パッド支持体どうしの間隔が使用者の鼻の両脇間の距離に応じた寸法である前記鼻当て部を選定して前記ブリッジ部に取り付けるステップと、
(B)前記鼻当て部が取り付けられた前記眼鏡フレームを着用した状態での使用者の瞳孔間距離を測定して、左右の前記ルーペ保持部材の面上における右瞳孔位置(X1、Y1)及び左瞳孔位置(X2、Y2)を決定するステップと、
(C)前記鼻当て部が取り付けられた前記眼鏡フレームを着用した状態での左右両眼の視線の先の前記観察対象から前記ルーペ保持部材までの距離A及び前記ルーペ保持部材を通る鉛直線に直交する水平方向距離Bを測定して、左右の前記ルーペ保持部材の面にそれぞれ装着する前記ルーペ本体の下方装着角度r1,r2を決定するステップと、
(D)前記鼻当て部が取り付けられた前記眼鏡フレームを着用した状態での使用者の右瞳孔位置(X1、Y1)及び左瞳孔位置(X2、Y2)と前記観察対象の位置との関係に基づいて、左右の前記ルーペ保持部材の面に装着する前記ルーペ本体の各内側装着角度p,qを決定するステップと、
(E)前記ブリッジ部から前記鼻当て部を外した状態で前記ルーペ保持部材の前記前記右瞳孔位置及び左瞳孔位置に開口を穿設し、前記ルーペ本体を前記開口に挿入し、前記下方装着角度r1,r2と、前記内側装着角度p,qとを保持した状態で固定するステップと、
(F)前記鼻当て部を再度前記ブリッジ部に取り付けた状態で左右の前記ルーペ本体を通して照射した検査光の収束点が前記観察対象の位置であるかを検査することで双眼ルーペの仕上がりを判断するステップと、
の各ステップを有することを特徴とする
【0009】
さらに、前記鼻当てパッドは、鼻の両脇に接する部分に隆起部を有するようにすれば、鼻との密着性が向上する。
【0010】
また、前記鼻当てパッドは、前記隆起部とほぼ背中合わせに、前記パッド支持体に取り付けるための取付部を備える。そして、前記パッド支持体は、前記取付部と係合する取付孔を高さが異なる位置複数備えて、前記鼻当てパッドは、前記取付部が係合する前記取付孔に応じて、前記パッド支持体への取り付けの高さ位置が決まる。
【0012】
ここで、(E)のステップにおいて、前記鼻当て部を再度前記ブリッジ部に取り付けるとき、左右の前記ルーペ本体を通して照射したルーペ本体固定確認光の収束点が観察対象の位置で前記ルーペ本体を固定するとよい。
【0013】
この製作方法によれば、パッド支持体の間隔が異なる鼻当て部の中から使用者の鼻の形に応じた大きさの鼻当て部を選定して取り付けた眼鏡フレームを着用した状態で、左右の前記ルーペ保持部材の面上における左右の瞳孔位置、下方装着角度r1,r2及び内側装着角度p,qを測定するために、測定結果は実際の使用に則したデータであるため使用者に適した双眼ルーペが制作される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の双眼ルーペによれば、パッド支持体をその中央部でブリッジ部に着脱自在に取り付ける構成であるから、双眼ルーペを製作する段階で使用者に合った鼻当て部を取り付けることができるため、完成後に鼻当て部を大きく調整することがない。また、若しパッド支持体の間隔を調整することになっても、鼻当て部は中央部でブリッジ部に取り付けられているため、パッド支持体はリム部とは直接的には連結されておらず、パッド支持体どうしの間隔調整でリム部が変形することがない。よって、ルーペ保持部材の変形で、ルーペ保持部材に取り付けられているルーペ本体どうしの光軸の収束点が観察対象からずれてしまうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る双眼ルーペの全体の構成図を示す。
図2】双眼ルーペを着用して作業をしている状態の説明図を示す。
図3】キャリアレンズにルーペを取り付ける際の下方装着角度の説明図を示す。
図4】ルーペをキャリアレンズに取り付ける際の内側装着角度p,qについての説明図を示す。
図5】鼻当て部の構成を示し、(a)はクリングスの外観図を示し、(b)は鼻当てパッドの外観図を示す。
図6】鼻当てパッドの構成を斜視図で示す。
図7図5に示す鼻当て部において、パッド支持体どうしの間隔が異なる種々のタイプを示す。
図8】クリングスの形状が異なる他の例の鼻当て部を、パッド支持体どうしの間隔が異なる種々のタイプで示す。
図9】本発明の実施形態に係る双眼ルーペの製作手順を説明するフローチャートを示す。
図10】ルーペ本体の下方装着角度を求める一例の説明図を示す。
図11】ルーペ本体の内側装着角度を測定する一例の説明図を示す。
図12】製作した双眼ルーペにおけるルーペ本体どうしの光軸の収束点の、観察対象からのずれを確認する説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面に基づき説明する。図1及び図2は、本発明の一実施形態に係る双眼ルーペ10を示している。双眼ルーペ10は、眼鏡フレーム1と、作業対象の像を拡大するための左右両眼に対応するルーペ本体2と、ルーペ本体2を眼鏡フレーム1に取り付けるためのルーペ保持部材であるキャリアレンズ4と、鼻当て部6とで構成される。
【0017】
眼鏡フレーム1は通常の眼鏡と略同じ構造を有しており、キャリアレンズ4が嵌め込まれるリム1aと、使用者の両耳に掛けられるテンプル1bと、左右のリム1aを繋ぐブリッジ1cと、鼻当て部6とを有する。眼鏡フレーム1を構成する素材には、錆び難く可撓性を有するチタン等の金属や合成樹脂等が使用される。そして、テンプル1bには、着用者の顔の両側を保護する遮蔽部材7や双眼ルーペを着用した状態で保持するためのストラップ8を、必要に応じて取り付けることができる。
【0018】
キャリアレンズ4は、ルーペ本体2を支持する開口が穿設されており、ルーペ本体2はこの開口に嵌め込まれて、キャリアレンズ4の面に対して所定の角度で傾斜した状態で固定される。キャリアレンズ4を構成する素材は、必ずしも透明である必要はないが、観察者の手元方向の視野を広げるためには透明であることが好ましく、さらに視力の矯正を必要とする場合には矯正レンズを使用するが、視力の矯正が不要の場合は単なる透明ガラスであっても良い。この場合のレンズの材質は、ガラス又はプラスチックである。したがって、この場合のキャリアレンズ4は、ルーペ本体を支持するルーペ保持部材の機能と共に、必要に応じて、視力の矯正機能をも備えている。
【0019】
ルーペ本体2は、鏡筒の中に、観察対象の像を所定の倍率、例えば2.5倍の倍率で調整された拡大の光学系を内蔵している。本例でのルーペ本体2は固定倍率であるが、画角を例えば所定の倍率の範囲内で調整可能なタイプも用いることができる。
【0020】
ルーペ本体2をキャリアレンズ4に取り付ける際、左右のルーペ本体2が同じ焦点に向くように、それぞれキャリアレンズ4の面に対して所定角度で傾けた状態で取り付けられて固定される。この角度は、ルーペ本体2のキャリアレンズ4の平面を基準にしての下方装着角度r及び内側装着角度p,qである。また、ルーペ本体2のキャリアレンズ4への取り付け位置は、双眼ルーペの使用者の瞳孔間距離PDによって決められる。
【0021】
双眼ルーペ10は、図2に示すような前傾姿勢を執って作業を行うときに、その手元の作業操作箇所Wの観察対象を拡大して観察するのに使用される。このとき、使用者は、左右のルーペ本体2を通して両眼の視線を手先の位置にある作業操作箇所Wに集中させている。下方装着角度rは、図3で示すように、キャリアレンズ4にルーペ本体2を取り付けるときに、キャリアレンズ4の面からの垂直線に対する下向きの取り付け角度であり、焦点である観察対象部Wからキャリアレンズ5までの距離Mとキャリアレンズ5の中心を通る鉛直線に直交する水平方向距離Nとで決まる角度βと、着用者が手術を行うときのキャリアレンズ5の前傾角度αとで求めることができる。
【0022】
内側装着角度p,qは、図4に示すように、ホルダ3に装着した左右のルーペ本体2の先端が焦点の観察対象部Wに向くように、内側(鼻当て部6側)へのそれぞれの傾斜角度である。このときの角度は、瞳孔間距離PD、詳細には中心線L上の鼻中央の位置Oより左右両眼の瞳孔中心までのそれぞれ距離PD1,PD2及び位置Oから作業操作箇所Wまでの距離により決定される。
【0023】
そして、ルーペ本体2の接眼側には、必要に応じて焦点調整部5を取り付けることができる。焦点調整部5には、双眼ルーペ10の使用者が左右のルーペ本体2で対象を拡大して観察する際の視力を矯正するために、ルーペ本体2に合せて用いられる遠距離或いは近距離を補正するレンズを備える。
【0024】
鼻当て部6は、図5(a)に示すクリングス9と、図5(b)に示す鼻当てパッド15とから成る。クリングス9は、眼鏡フレーム1のブリッジ部1cにビスにより締付けて取り付けられる中央部12と、中央部12から下方へ使用者の鼻を両脇から挟むようにして延びている一対のパッド支持体13とで構成される。中央部12は、ブリッジ1cの側面、すなわち使用者の顔と対向する面に中央部12でビスにより締付けて取り付けられる。
【0025】
パッド支持体13の先端には、箱型の収容部14が設けられており、収容部14には、パッド支持体13の延びる方向に沿って複数の取付孔14aが形成されている。鼻当てパッド15の後述する取付部17は取付孔14aに嵌合して、鼻当てパッド15はパッド支持体13に取り付けられる。
【0026】
鼻当てパッド15は、図6に示すように、馬蹄形状のベース部16と、ベース部16から突出した、収容部14と接続するための取付部17と、ベース部16から隆起した隆起部18とを含んでいる。取付部17は、ベース部16の隆起部18の形成面と反対側の面に設けられている。
【0027】
ベース部16は、柔軟で弾力性を有したエラストマ材料から形成されており、概略平行に延びる二つの鼻側面対向部16aと、二つの鼻側面対向部16aを接続する中間部16bとを含む馬蹄形状を有している。エラストマ材料としては、例えばシリコンゴムなどを用いることができる。中間部16bは、鼻側面対向部16aよりも幅が細くなっていることが好ましい。例えば、鼻側面対向部16aの幅を8.3mmとするのに対して、中間部16bの幅を4.5mmとさせることが好ましい。このような構成により、中間部16bをより変形させやすくなり、クリングス9への装着のために湾曲させることが容易となる。
【0028】
隆起部18は、エラストマ材料から形成されており、ベース部16の長手方向の両端部にあって、パッド支持体13に取り付けられる面とは反対の鼻と直接接する面に隆起するように設けられている。隆起部18は、ベース部16の厚さの半分程度の高さだけ表面から隆起していることが好ましい。例えば、ベース部16の厚さを2.5mmとしたときに、隆起部18をベース部16の面から1.3mmだけ隆起していることが好ましい。
【0029】
そして、隆起部18は、ベース部16と同じエラストマ材料から形成されていることが好ましく、エラストマ材料としては、ベース部16と同様に、例えば、シリコンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム又はポリイソプレンゴム材の何れかを用いることができる。また、隆起部18は、湾曲した凸状表面を有している。図示されている実施形態では、隆起部18は、ベース部16と別部材として形成され、ベース部16に溶着されているが、ベース部16と一体的に成形することも可能である。
【0030】
取付部17は、ベース部16や隆起部18を形成するエラストマ材料よりも硬い樹脂材料から形成されており、ベース部16の長手方向の両端部においてパッド支持体13に取り付けられる面から突出して設けられている。取付部17は、隆起部18の中心よりも中間部16b側に配置されることが好ましい。樹脂材料として、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどを用いることができる。
【0031】
鼻当てパッド15は、左右の取付部17をそれぞれ左右のパッド支持体13の同じ高さ位置にある取付孔14aに嵌合させることで、パッド支持体13に取り付けられて鼻当て部6が完成する。クリングス9は、図7に示すように、パッド支持体13どうしの間隔が異なる複数種類M,S,Oが用意されており、使用者の鼻の形状に応じて、最適な寸法のクリングス9が選択されて、鼻当てパッド15が取り付けられる。このとき、取付部17を嵌合させる取付孔14aを選択することで、鼻当てパッド15に取り付ける高さ位置も調整でき、様々な鼻の形状に合わせて、鼻当てパッド15と鼻との接触具合を調節することが可能となる。そして、クリングス9は、中央部12をブリッジ1cの側面、すなわち使用者の顔と対向する面に中央部12でビスにより締付けて取り付けられる。
【0032】
図5に示した鼻当て部6は、両パッド支持体13どうしの間隔は、中央部12を中心とする両者の開放角度により決まるが、図8に示すクリングス9の他の例では、中央部12の亘りの寸法を違えることで、パッド支持体13どうしの間隔を異ならせており、L,M,S,Oの4種類が用意される。また、図8に示すクリングス9では、中央部12は、ブリッジ1cの下面にビスにより締付けて取り付けられる。尚、鼻当てパッド15は、前述したように可撓性と伸縮性を備えるために、図5及び図6の全てのタイプのクリングス9に取り付けることができる。
【0033】
このように、双眼ルーペ10は、使用者の鼻の形に応じてパッド支持体13どうしの間隔が最適なクリングス9が選ばれるために、双眼ルーペ10の製作後に使用者が試着したとき、パッド支持体13どうしの間隔を大きく調整することがなく、間隔を拡げたり狭めたりすることでルーペ本体2の焦点にずれを生じてしまうことがない。そして、パッド支持体13どうしの間隔を微調整のために多少拡げたり狭めたりするときでも、鼻当て部6は中央部12でブリッジ1cに取り付けるために、パッド支持体13を動かしても、それによって眼鏡フレーム1が歪み、ルーペ本体2の焦点にずれを生じることもない。
【0034】
上記の双眼ルーペ10の製作は、図9に示す手順に沿って進められる。以下、具体的に説明する。
【0035】
(A)使用者の鼻の形に応じた鼻当て部6の選択と装着
パッド支持体13どうしの間隔が使用者の鼻の両脇間の距離に応じた寸法である鼻当て部6を選定して、その中央部12をブリッジ部1cに取り付ける。
【0036】
(B)瞳孔間距離の測定とキャリアレンズ4の面上での左右両眼の瞳孔と対向する位置の決定
瞳孔間距離を測定するには、PDメーターを用いて測定するのが一般的である。PDメーターは、一端に測定者用の見口、他方に被測定者が本体内部を見通す窓が設けられており、被測定者は、本体内部に映し出されている指標を注視するようこの窓に両眼を近づける。そして、測定者が、見口を覗きながら必要な操作を行って被測定者の左右の瞳孔を合致させたとき、PDメーターはそのときの像を光学的に読み取ることで、瞳孔間距離及び被測定者の鼻中央より左右の瞳孔中心までの距離を測定して表示する。このとき、PDメーターは、例えば、予め設定された両眼の焦点距離40cmに基づいて測定を行っている。瞳孔間距離PD、すなわち鼻中央の位置Cより左右両眼の瞳孔中心までのそれぞれ距離PD1,PD2が測定されて、右瞳孔位置(X1、Y1)及び左瞳孔位置(X2、Y2)に対応するキャリアレンズ4の面上でのルーペ本体2の取り付け位置を決定する。
【0037】
(C)ルーペ本体の下方装着角度r1,r2の決定
ブリッジ部1aから鼻当て部6をいったん取り外した眼鏡フレーム1を着用した使用者に、双眼ルーペ10を着用したときに執る図2に示すような作業姿勢を再現してもらう。そして、この作業姿勢での、左右両眼の視線の先の対象部からキャリアレンズ4までの距離M及びキャリアレンズ4を通る鉛直線に直交する水平方向距離Nをメジャーで実測して、求めた距離A,Bからこの辺に挟まれた角度βを求める。さらに、作業姿勢における前傾角度αを測定して、前傾角度α及び角度βから、左右のルーペ2をキャリアレンズ5に取り付ける際の下向きの角度である下方装着角度を導き出す。この場合、使用者の左右両側から測定して、左右のルーペ本体2のそれぞれの下方装着角度r1,r2求める。
【0038】
下方装着角度r1,r2は、使用者の作業姿勢を側方から撮影した画像からコンピュータの演算処理により求めることができる。図10は、使用者の作業姿勢を左側から撮影した画像を示しており、コンピュータは、次のプログラムで左側のルーペ本体2の下方装着角度r1を求める。
【0039】
先ず、双眼ルーペ10の製作者が表示画面22上での眼鏡フレーム1のテンプル部とフレーム1との接続部分6のポイントp1と作業操作箇所のポイントp2との2点を入力デバイスのマウス等にて直接ポイントアウトすることにより、コンピュータは、画像上のポイントp1とポイントp2の間の距離とカメラ11Bの撮像倍率とから距離Mを演算する。
【0040】
そして、製作者が表示画面22上でキャリアレンズ5を通る鉛直線V1と水平方向で直交するポイントp3と作業操作箇所のポイントp2との2点をポイントアウトすることにより、コンピュータは、画像上のポイントp2とポイントp3の間の距離と撮像倍率とから実際のこの距離Nを演算することで、角度βを導き出す。
【0041】
次に、製作者が表示画面22上で作業者の背骨を通る鉛直線V1に対する作業者の後頭部の傾斜線M1とを画面上に描くことで、コンピュータは、作業者が掛けているフレーム1の前傾角度αを演算して、左のルーペ本体の下方装着角度r1が導き出す。同様に使用者の作業姿勢を右側から撮影した画像についても同様の処理を行うことで、コンピュータは、右のルーペ本体の下方装着角度r2を導き出す。
【0042】
(D)ルーペ本体の内側装着角度p,qの決定
瞳孔間距離の測定で電子的に特定した作業者の右瞳孔位置(X1、Y1)及び左瞳孔位置(X2、Y2)に対応して、左右のキャリアレンズ5に施したマーク(×印)までの距離を測定する。測定はメジャーを用いて計測しても良いが、図11に示すレーザー計測機21が利用できる。このときの測定手順としては、作業者の顔面をレーザーシールドした上で、レーザー計測機21をフレーム1の中心点Oを通る中心線L上の作業操作箇所Wに設置する、そして、この状態でレーザー計測機21の位置を変更することなく、レーザー照射口21aが左右のキャリアレンズ4の各マーキング箇所にレーザー光が当たるようにレーザー計測機21を左右に振ることで、各マーキング箇所まで距離C,Dが計測されて表示部21bにそれぞれ表示される。そして、既に求めている鼻中央の位置Oより左右両眼の瞳孔中心までのそれぞれ距離PD1,PD2と距離C,Dから内側装着角度p,qが求めることができる。
【0043】
このように、ルーペ本体2の各内側装着角度p,qは、前記鼻当て部が取り付けられた前記眼鏡フレームを着用した状態での使用者の右瞳孔位置(X1、Y1)及び左瞳孔位置(X2、Y2)と観察対象の位置(作業操作箇所W)との関係に基づいて決定されるが、この場合、作業操作箇所Wからフレーム1の中心点Oまでの距離Gを測定し、この距離Gと距離C,Dからでも各内側装着角度p,q求めることができる。或いは、距離Gと距離PD1,PD2とでも、各内側装着角度p,q求めることができる。
【0044】
(E)ルーペ本体をキャリアレンズに取り付ける
鼻当て部6をいったんブリッジ部1aから取り外して、画像データから得た右瞳孔位置(X1、Y1)及び左瞳孔位置(X2、Y2)の値と、求めた下方装着角度r1,r2及び内側装着角度p,qとからキャリアレンズ5にルーペ本体2を挿入する位置をNC加工機にプログラムし、挿入部分を切削加工してキャリアレンズ5の表面を刳り抜いて開口を穿設する。そして、開口の穿設後、ルーペ本体2を開口からキャリアレンズ5に挿入し、レーザー位置決め機によって、下方装着角度r1,r2及び内側装着角度p,qの調整を行い取付部3によりルーペ本体2を開口に嵌め込み接着材にて接着する。このとき、ブリッジ部1cに取り付けた状態で、左右のルーペ本体2を通して照射したルーペ本体固定確認光の収束点が観察対象の位置でルーペ本体2を固定する。
【0045】
(F)双眼ルーペの仕上がりの判定
ルーペ本体2の固定を確認するために、左右の前記ルーペ本体2を通して照射した左右のレーザー光の収束点が観察対象の位置であるかを検査することで双眼ルーペ10の仕上がりを判断する。例えば、双眼ルーペ10による観察対象Wの位置に5ミリメートルの方眼を備える図12に示すスクリーン20を配置して、レーザー光を各ルーペ本体2から照射する。収束点が観察対象の位置で一致していると(a)に示すように、1個のスポットSのみが現れる。
【0046】
ルーペ本体2をキャリアレンズ5に取り付ける際に誤差があると、図12の(b)乃至(d)に示すように、レーザー光の収束点が観察対象の位置と一致せずに2個のスポットS1,S2が現れる。(b)は、内側装着角度p,qに誤差があって、ルーペ本体2の互いの光軸が横にずれを生じているときである。(c)は、内側装着角度p,qに加えて、下方装着角度r1,r2にも誤差があって、ルーペ本体2の互いの光軸が横と上下の何れにもずれを生じているときである。(d)は、下方装着角度r1,r2に誤差があって、ルーペ本体2の互いの光軸が上下でずれを生じているときである。この結果に基づき、ルーペ本体2の光軸の収束点が観察対象の位置と一致するよう調整される。
【0047】
(G)鼻当て部の調整
鼻当て部6をブリッジ部1cに取り付けた状態で使用者への装着状態を確認、調整する。
【0048】
本双眼ルーペの製作方法によれば、使用者の鼻の形に応じた鼻当て部6が取り付けられた眼鏡フレームを着用した状態で、瞳孔間距離や下方装着角度r1,r2及び内側装着角度p,qを求めるために、結果は使用者の実情に合っており、収束点と観察対象の位置とには大きな差は生じない。したがって、調整する場合でも、パッド支持体13に若干の変形を加える或いは取付孔14aに高さ位置を変えて、ルーペ本体2の光軸を観察対象の位置に収束させる程度ですみ、ルーペ本体2を付け替える等の大規模な修正を行う必要がない。
【符号の説明】
【0049】
1 眼鏡フレーム
1a リム部
1c ブリッジ部
2 ルーペ本体
4 キャリアレンズ(ルーペ保持部材)
6 鼻当て部
10 双眼ルーペ
12 中央部
13 パッド支持体
14a 取付孔
15 鼻当てパッド
17 取付部
18 隆起部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12