(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】ブーツ
(51)【国際特許分類】
F16D 3/84 20060101AFI20220901BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20220901BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
F16D3/84 P
F16D3/84 Q
F16J3/04 C
F16J15/52 C
(21)【出願番号】P 2018028493
(22)【出願日】2018-02-21
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】神野 知洋
(72)【発明者】
【氏名】大下 武範
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-520544(JP,A)
【文献】特表2020-514650(JP,A)
【文献】特開2005-188637(JP,A)
【文献】特開2009-068510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/84
F16J 3/04
F16J 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1伝達軸のアウターケースに第2伝達軸を嵌め込んだ等速ジョイントに装着され、帯状の締結部材で外周面を締め付けて前記等速ジョイントに締結固定されると共に、弾性体から構成されるブーツであって、
前記アウターケースが挿入される大径筒部と、
前記第2伝達軸に取り付けられる小径筒部と、
前記大径筒部および前記小径筒部を互いに連結すると共に前記大径筒部の軸方向に伸縮可能な蛇腹部とを備え、
前記大径筒部は、前記大径筒部の外周面を全周に亘り凹ませて前記締結部材が嵌まる締結溝と、
前記蛇腹部が連結される部位とは前記軸方向の反対側に開口して前記アウターケースが挿入される開口端部と、
前記締結溝を径方向内側に投影した位置の前記大径筒部の内周面から突出して全周に亘って連続する複数の環状のシールリップと、
前記シールリップよりも前記開口端部側の前記内周面から突出して全周に亘って
連続する突起部とを備え、
前記突起部の高さは、前記シールリップの高さよりも小さく設定され、
複数の前記シールリップは、前記締結溝の前記軸方向の中心位置に関して対称に形成され、互いの高さが同一に形成され
、
前記シールリップと前記突起部とは、前記軸方向に離隔して配置され、
前記大径筒部の軸心を含む断面において、前記シールリップと前記突起部との間の前記内周面までの前記軸心からの距離と、前記シールリップの前記蛇腹部側に連なる部位の前記内周面までの前記軸心からの距離とが同一に設定されていることを特徴とするブーツ。
【請求項2】
前記大径筒部の軸心を含む断面において、複数の前記シールリップの間における前記内周面までの前記軸心からの距離と、前記シールリップと前記突起部との間の前記内周面までの前記軸心からの距離とが同一に設定されていることを特徴とする請求項
1記載のブーツ。
【請求項3】
前記大径筒部の軸心を含む断面において、最も前記蛇腹部側の前記シールリップよりも前記蛇腹部側の前記内周面は、前記締結溝の径方向内側の全域で前記軸心と平行であることを特徴とする請求項1又は2に記載のブーツ。
【請求項4】
前記突起部の高さは、前記シールリップの高さの40%~85%に設定されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のブーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブーツに関し、特にシールリップによる面圧を確保しつつ挿入荷重を低減できるブーツに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の駆動軸(ドライブシャフト)や推進軸(プロペラシャフト)等に使用される等速ジョイントは、第1伝達軸のアウターケースに第2伝達軸を嵌め込んで構成され、第1伝達軸と第2伝達軸との連結部分にブーツが装着される。ブーツは、連結部分に潤滑用のグリスを封じ込めたり、連結部分への水や泥等の異物の浸入を防止するためのものであり、アウターケースが挿入される大径筒部と、第2伝達軸に取り付けられる小径筒部とを蛇腹部で連結して主に構成される(特許文献1)。特許文献1に開示されたブーツは、グリスや異物に対するシールに必要な面圧を確保するために、大径筒部の内周面から突出して全周に亘って連続する環状の3つのシールリップが設けられ、帯状の締結部材で大径筒部の外周面が締め付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の技術では、シールリップを高くするのに伴い、シールリップからアウターケースに付与される面圧は高くなるが、大径筒部へのアウターケースの挿入荷重が大きくなる。逆に、挿入荷重を小さくするためにシールリップを低くすると、シールリップによる面圧が低下して好ましくない。このように、シールリップによる面圧の確保と挿入荷重の低減とを両立できないという問題点がある。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、シールリップによる面圧を確保しつつ挿入荷重を低減できるブーツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のブーツは、第1伝達軸のアウターケースに第2伝達軸を嵌め込んだ等速ジョイントに装着され、帯状の締結部材で外周面を締め付けて前記等速ジョイントに締結固定されると共に、弾性体から構成されるものであって、前記アウターケースが挿入される大径筒部と、前記第2伝達軸に取り付けられる小径筒部と、前記大径筒部および前記小径筒部を互いに連結すると共に前記大径筒部の軸方向に伸縮可能な蛇腹部とを備え、前記大径筒部は、前記大径筒部の外周面を全周に亘り凹ませて前記締結部材が嵌まる締結溝と、前記蛇腹部が連結される部位とは前記軸方向の反対側に開口して前記アウターケースが挿入される開口端部と、前記締結溝を径方向内側に投影した位置の前記大径筒部の内周面から突出して全周に亘って連続する複数の環状のシールリップと、前記シールリップよりも前記開口端部側の前記内周面から突出して全周に亘って連続する突起部とを備え、前記突起部の高さは、前記シールリップの高さよりも小さく設定され、複数の前記シールリップは、前記締結溝の前記軸方向の中心位置に関して対称に形成され、互いの高さが同一に形成されている。前記シールリップと前記突起部とは、前記軸方向に離隔して配置され、前記大径筒部の軸心を含む断面において、前記シールリップと前記突起部との間の前記内周面までの前記軸心からの距離と、前記シールリップの前記蛇腹部側に連なる部位の前記内周面までの前記軸心からの距離とが同一に設定されている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載のブーツによれば、シールリップよりも開口端部側の大径筒部の内周面から突出する突起部の高さがシールリップの高さよりも小さく設定される。これにより、全周に亘って設けられる突起部にアウターケースを挿入して大径筒部が径方向外側へ少し広がった後、さらにシールリップにアウターケースを挿入して大径筒部が径方向外側へ広がる。そのため、大径筒部へのアウターケースの挿入荷重を突起部とシールリップとで分散できるので、シールリップを低くしてシールリップによる面圧を低下させることなく、アウターケースの挿入荷重の最大値を低減できる。これにより、シールリップによる面圧を確保しつつ、突起部により挿入荷重を低減できる。
複数のシールリップは、締結溝の軸方向の中心位置に関して対称に形成され、互いの高さが同一に形成されている。これにより、複数のシールリップによる面圧を均一に近づけることができる。
【0008】
シールリップと突起部とは軸方向に離隔して配置される。大径筒部の軸心を含む断面において、シールリップと突起部との間の内周面までの軸心からの距離と、シールリップの蛇腹部側に連なる部位の内周面までの軸心からの距離とが同一に設定されている。これにより、アウターケースにシールリップを押し付けるとき、シールリップを軸方向両側へ略均一に変形させることができると共に、突起部によりシールリップの変形が妨げられることを抑制できる。その結果、シールリップからアウターケースへの面圧を略均一にでき、シールリップによる面圧を高くできる。
【0009】
請求項2記載のブーツによれば、大径筒部の軸心を含む断面において、複数のシールリップの間における内周面までの軸心からの距離と、シールリップと突起部との間の内周面までの軸心からの距離とが同一に設定されている。これにより、請求項1の効果に加え、複数のシールリップによる面圧をより均一に近づけることができる。
【0010】
請求項3記載のブーツによれば、大径筒部の軸心を含む断面において、最も蛇腹部側のシールリップよりも蛇腹部側の内周面は、締結溝の径方向内側の全域で軸心と平行である。これにより、請求項1又は2と同様の効果が得られる。
請求項4記載のブーツによれば、突起部の高さがシールリップの高さの40%~85%に設定される。これにより、大径筒部へのアウターケースの挿入荷重を突起部とシールリップとで効率よく分散させることができるので、請求項1から3のいずれかの効果に加え、アウターケースの挿入荷重の最大値をより低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施の形態におけるブーツが装着された等速ジョイントの断面図である。
【
図3】
図2のIII-III線におけるブーツの断面図である。
【
図4】
図3のIVで示す部分を拡大して示したブーツの部分拡大断面図である。
【
図6】第2実施の形態におけるブーツの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、
図1、
図2及び
図3を参照して、本発明の第1実施の形態におけるブーツ10について説明する。
図1はブーツ10が装着された等速ジョイント1の断面図である。
図2は無荷重状態のブーツ10の正面図である。
図3は
図2のIII-III線におけるブーツ10の断面図である。
図1では、第1伝達軸2(大径筒部11)の軸心O1と第2伝達軸3(小径筒部12)の軸心O2とが一致した状態を図示している。本明細書では特に指定がない限り、第1伝達軸2(大径筒部11)の軸心O1の軸方向を、単に軸方向として説明する。
【0013】
図1に示すように、ブーツ10は、等速ジョイント1の連結部分に装着される部材である。等速ジョイント1は、第1伝達軸2と第2伝達軸3との連結部分で角度を変化させながら回転力を等速で伝達させるものであり、自動車の駆動軸(ドライブシャフト)や推進軸(プロペラシャフト)等に使用される。本実施形態では、連結部分で伸縮可能かつ回転力を伝達可能なトリポートタイプの等速ジョイント1について説明する。
【0014】
等速ジョイント1の第1伝達軸2の先端には、一端が開口して他端が塞がれた筒状のアウターケース4が設けられている。このアウターケース4の内周面には、軸方向(
図1左右方向)に延びて設けられる3本の案内溝4aが周方向に等間隔(120°間隔)に配置される。アウターケース4の外周面には、3本の案内溝4aの間の位置に3本の取付溝4bが軸方向に延びて設けられる。軸心O1からアウターケース4の外周面までの距離は、軸方向に亘って略一定であり、取付溝4bにより周方向に異なる。
【0015】
等速ジョイント1の第2伝達軸3の先端には、3本のトラニオン5が軸直角方向に突出して設けられる。各トラニオン5には、複数本のニードルベアリング6を介して、リング状のローラ部材7が外嵌されている。このローラ部材7が案内溝4aに嵌まるように、第2伝達軸3をアウターケース4に嵌め込んで等速ジョイント1が構成される。
【0016】
このような等速ジョイント1は、例えばタイヤが上下動して、ドライブシャフトの有効長に変化が生じた場合でも、ローラ部材7が案内溝4aに沿って摺動することで、第1伝達軸2と第2伝達軸3とが相対的に位置変更(軸方向に伸縮)して、ドライブシャフトの有効長の変化を吸収することができる。
【0017】
ブーツ10は、等速ジョイント1の連結部分の潤滑に必要なグリスを内部に封じ込めると共に、連結部分への水や泥等の異物の浸入を防止する役割を担うものである。ブーツ10は、アウターケース4に取り付けられる大径筒部11と、第2伝達軸3に取り付けられる小径筒部12と、大径筒部11及び小径筒部12を互いに連結する蛇腹部13とを備える。ブーツ10を等速ジョイント1に装着した状態では、大径筒部11と第1伝達軸2との軸心O1が一致し、小径筒部12と第2伝達軸3との軸心O2が一致する。
【0018】
ブーツ10は、大径筒部11と小径筒部12と蛇腹部13とが熱可塑性エラストマー樹脂から一体に構成される。なお、ブーツ10の素材は弾性体であれば良く、熱可塑性エラストマー樹脂以外の弾性体としては、例えば熱硬化性エラストマー樹脂や合成ゴムが挙げられる。また、ブーツ10は、射出成形とブロー成形とを組み合わせて製造されるが、その他の既知の方法で製造しても良い。
【0019】
図1、
図2及び
図3に示すように、大径筒部11は略円筒状の部位である。大径筒部11は、軸方向の一端が蛇腹部13に連結し、軸方向の他端に外部へ開口する開口端部11aが設けられる。この開口端部11aから大径筒部11の内周面14側にアウターケース4を挿入した後、大径筒部11の外周面15に金属製の帯状の締結部材8を巻き付けて締め付けることで、大径筒部11がアウターケース4に締結固定される。
【0020】
大径筒部11は、内周面14がアウターケース4の外周面に対応した凹凸形状に形成されており、アウターケース4の外周面に密着可能、且つ、アウターケース4に対して相対回転不能に構成されている。詳しくは、大径筒部11の内周面14には、径方向内側へ膨出する3個の膨出部16が周方向に等間隔(120度間隔)に分散して配置されている。これら3個の膨出部16がアウターケース4の外周面に凹設された3本の取付溝4bにそれぞれ嵌まる。
【0021】
なお、膨出部16には、開口端部11aに開口する複数の肉抜き穴16aが形成される。この肉抜き穴16aによって、膨出部16を軽量化できると共に、ブーツ10の成形時に膨出部16全体の冷却速度を均一化して膨出部16を精度良く成形できる。膨出部16を精度良く成形することで、大径筒部11とアウターケース4の外周面との間のシール性を向上できる。
【0022】
大径筒部11の外周面15には、全周に亘って連続的に凹む締結溝15aが形成されている。この締結溝15aは、幅(軸方向寸法)が帯状の締結部材8の幅と同一であり、締結溝15aに締結部材8が嵌まる。
【0023】
小径筒部12は、略円筒状の部位である。小径筒部12に第2伝達軸3を挿入した後、小径筒部12の外周面に金属製の帯状の締結部材9を巻き付けて締め付けることで、小径筒部12が第2伝達軸3に締結固定される。小径筒部12の外周面には締結部材9が嵌まる締結溝12aが設けられる。
【0024】
小径筒部12の内周面のうち締結溝12aを径方向内側に投影した部分には、小径筒部12と第2伝達軸3との間をシールするための2本のシールリップ12bが全周に亘って連続して設けられる。2本のシールリップ12bは、締結溝12aの軸方向の中心位置Cに関して対称に配置されると共に、高さが同一に設定される。即ち、2本のシールリップ12bは、締結溝12aの軸方向の中心位置Cに関して対称に形成されている。
【0025】
蛇腹部13は、軸方向に反復的に連続して形成される谷部と山部とを備え、軸方向に向けて伸縮可能に構成される。蛇腹部13は、大径筒部11側から小径筒部12側へ向かうにつれて全体的に縮径するテーパ状に形成されている。この蛇腹部13により形成される内部空間がグリスの封入空間となる。
【0026】
次に
図4を参照して大径筒部11について更に詳しく説明する。
図4は、
図3のIVで示す部分を拡大して示したブーツ10の部分拡大図である。
図4に示すように、大径筒部11には、内周面14から突出する2本のシールリップ17,18及び1本の突起部19が全周に亘って連続して設けられる。
【0027】
シールリップ17,18は、アウターケース4へ局所的な面圧を付与して、大径筒部11とアウターケース4との間をシールする部位である。シールリップ17,18は、締結溝15aを径方向内側に投影した位置の内周面14に設けられる。これにより、締結部材8で大径筒部11を締め付けたとき、シールリップ17,18をアウターケース4に確実に押し付けることができる。そのため、シールリップ17,18からアウターケース4に、大径筒部11とアウターケース4との間のシールに必要な面圧を付与できる。なお、シールリップ17,18の高さH1が大きい程、シールリップ17,18による面圧を高くでき、締結部材8を強く締めなくても、大径筒部11とアウターケース4との間のシール性を向上できる。
【0028】
シールリップ17,18は、締結溝15aの軸方向の中心位置Cに関して対称に配置されると共に、高さH1が同一に設定される。即ち、シールリップ17,18は、締結溝15aの軸方向の中心位置Cに関して対称に形成されている。これにより、結部材8で大径筒部11を締め付けたとき、シールリップ17,18からアウターケース4への面圧を略均一にでき、シールリップ17,18による面圧を高くできる。
【0029】
突起部19は、シールリップ17よりも開口端部11a側に配置される。突起部19の高さH2は、シールリップ17,18の高さH1よりも小さく設定される。突起部19の一部は、締結溝15aを径方向内側に投影した位置の内周面14に設けられる。これにより、締結部材8で大径筒部11を締め付けたとき、アウターケース4に突起部19を押し付けることができるので、全周に亘って連続した突起部19によっても大径筒部11とアウターケース4との間をシールできる。
【0030】
大径筒部11の内周面14は、シールリップ17,18よりも蛇腹部13側の第1部14aと、シールリップ17と突起部19との間の第2部14bと、開口端部11aから突起部19へ向かうにつれて縮径する縮径部14cと、縮径部14cと突起部19とを連結する平行部14dとを備える。
【0031】
第1部14a、第2部14b及び平行部14dは、軸心O1を含む断面において、大径筒部11の軸心O1と平行であり、軸心O1から第1部14a、第2部14b及び平行部14dまでの距離が、軸心O1からアウターケース4の外周面までの距離と略同一に設定される。なお、第1部14aは、シールリップ18を除いた部分である。
【0032】
第2部14bは、シールリップ17と突起部19とを軸方向に離隔して配置させるための部位である。このように、シールリップ17と突起部19とを離隔させ、シールリップ17,18の軸方向両側に連なる第1部14a及び第2部14bまでの軸心O1からの距離を同一にすることで、アウターケース4にシールリップ17,18を押し付けるとき、シールリップ17,18を軸方向両側へ略均一に変形させることができると共に、突起部19によりシールリップ17の変形が妨げられることを抑制できる。その結果、シールリップ17,18からアウターケース4への面圧を略均一にでき、シールリップ17,18による面圧を高くできる。
【0033】
以上のようなブーツ10によれば、大径筒部11にアウターケース4を挿入するとき、まず、大径筒部11の内周面14の全周に設けられる突起部19にアウターケース4が挿入(圧入)されるので、大径筒部11が径方向外側へ少し広がる。その後、突起部19の高さH2よりも高さH1が大きいシールリップ17,18にアウターケース4が挿入されて、大径筒部11が径方向外側へさらに広がる。そのため、大径筒部11へのアウターケース4の挿入荷重を突起部19と、最も開口端部11a側のシールリップ17とで分散できる。
【0034】
ここで、大径筒部11へのアウターケース4の挿入荷重は、シールリップ17への挿入荷重と、突起部19への挿入荷重とのうちの最大値が支配的となる。よって、大径筒部11へのアウターケース4の挿入荷重を突起部19と、最も開口端部11a側のシールリップ17とで分散させることで、アウターケース4の挿入荷重の最大値を低減でき、アウターケース4を大径筒部11へ小さい力で挿入できる。
【0035】
よって、アウターケース4と大径筒部11との間のシールに必要な面圧をシールリップ17,18により確保しつつ、そのシールリップ17,18の開口端部11a側に配置される突起部19によりアウターケース4の挿入荷重を低減できる。即ち、挿入荷重を低減するためにシールリップ17,18の高さH1を小さくしてシールリップ17,18による面圧を低下させることなく、高さH1をそのままに突起部19により挿入荷重を低減できる。また、シールリップ17,18による面圧を高くするためにシールリップ17,18の高さH1を大きくしても、突起部19がなくて高さH1を大きくしない場合に比べて、突起部19により挿入荷重を低減できる。
【0036】
大径筒部11にアウターケース4を挿入するとき、軸心O1を含む断面において突起部19へ向かうにつれて縮径する縮径部14cに沿って、平行部14dまでアウターケース4を案内できる。さらに、軸心O1を含む断面において軸心O1に平行な平行部14dまでの軸心O1からの距離と、軸心O1からアウターケース4の外周面までの距離とが同一なので、平行部14dまで案内されたアウターケース4は、大径筒部11に対する径方向位置が決定される。そして、大径筒部11に対するアウターケース4の径方向位置が決定された状態で、アウターケース4を突起部19やシールリップ17,18に挿入できる。その結果、大径筒部11に対するアウターケース4の径方向位置のずれに起因して突起部19への挿入荷重が増大することを抑制できると共に、そのずれに起因してシールリップ17,18による面圧が周方向でばらつくことを抑制できる。
【0037】
なお、大径筒部11へのアウターケース4の挿入荷重は、シールリップ17,18の高さH1に対する突起部19の高さH2の比率(H2/H1)が大きい程、シールリップ17,18への挿入荷重が小さくなり、突起部19への挿入荷重が大きくなる。なお、シールリップ17,18は互いに高さH1が同じであるため、シールリップ17への挿入荷重よりも、開口端部11aから遠い側のシールリップ18への挿入荷重の方が若干小さくなる。よって、シールリップ17への挿入荷重と、突起部19への挿入荷重とが均一になるときに、アウターケース4の挿入荷重の最大値が最も小さくなる。
【0038】
次に
図5のグラフを参照して、H2/H1を変化させたときのシールリップ17及び突起部19への挿入荷重の変化について説明する。
図5のグラフは、横軸がH2/H1であり、縦軸が挿入荷重である。
図5のグラフ上には、シールリップ17への挿入荷重を円形で示し、突起部19への挿入荷重を三角形で示している。
図5は、H2/H1が100%の時における突起部19への挿入荷重を100%としたグラフである。なお、H2/H1と、シールリップ17及び突起部19への挿入荷重との関係は、H2/H1が100%の時における突起部19への挿入荷重の絶対値が変化しても、
図5と略同一の挙動を示す。
【0039】
図5に示すように、H2/H1が約75%で、シールリップ17への挿入荷重と、突起部19への挿入荷重とが略同一となり、H2/H1が100%の時に比べてシールリップ17及び突起部19への挿入荷重が約0.6倍となる。即ち、H2/H1が約75%でアウターケース4の挿入荷重の最大値が最も小さくなる。
【0040】
H2/H1の変化に対するシールリップ17への挿入荷重の変化は、H2/H1の変化に対する突起部19への挿入荷重の変化と比べて小さくなっている。そのため、アウターケース4の挿入荷重としてシールリップ17への挿入荷重が支配的となる場合であって、H2/H1が約75%よりも小さい場合には、比較的広い範囲でアウターケース4の挿入荷重の最大値を低減した状態を維持できる。一方、アウターケース4の挿入荷重として突起部19への挿入荷重が支配的となる場合であって、H2/H1が約75%よりも大きい場合には、比較的狭い範囲でアウターケース4の挿入荷重の最大値を低減した状態を維持できる。
【0041】
また、締結部材8の締め付け力にもよるが、H2/H1が大きいと、突起部19によってシールリップ17のシール性が低下する可能性がある。H2/H1が小さければ、突起部19がない場合のシールリップ17のシール性に近づくが、アウターケース4の挿入荷重の最大値を小さくし難く、大径筒部11にアウターケース4を挿入する設備の大型化の可能性や、人が作業する場合に非力な人では大径筒部11にアウターケース4を挿入できない可能性がある。
【0042】
H2/H1を40%~85%の範囲に設定することで、シールリップ17のシール性を向上させながら、シールリップ17への挿入荷重と、突起部19への挿入荷重とを効率よく分散させて、アウターケース4の挿入荷重の最大値を低減できる。さらに、H2/H1を55%~80%の範囲に設定することで、シールリップ17のシール性をより向上させながら、シールリップ17への挿入荷重と、突起部19への挿入荷重とをより効率よく分散させて、アウターケース4の挿入荷重の最大値をより一層低減できる。
【0043】
次に
図6を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、大径筒部11の内周面14に2本のシールリップ17,18が設けられる場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、大径筒部21の内周面14に1本のシールリップ22が設けられる場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図6は第2実施の形態におけるブーツ20の部分拡大断面図である。
【0044】
図6に示すように、ブーツ20の大径筒部21には、内周面14から突出する1本のシールリップ22及び1本の突起部19が全周に亘って連続して設けられる。シールリップ22は、アウターケース4へ局所的な面圧を付与して、大径筒部21とアウターケース4との間をシールする部位である。シールリップ22は、突起部19に関して開口端部11aと反対側に配置される。
【0045】
シールリップ22は、締結溝15aを径方向内側に投影した位置の内周面14に設けられる。シールリップ22は、締結溝15aの軸方向の中心位置Cに関して対称に形成されている。これにより、締結部材8で大径筒部11を締め付けたとき、シールリップ22からアウターケース4への面圧を略均一にでき、シールリップ22による面圧を高くできる。
【0046】
第2実施の形態におけるブーツ20によれば、第1実施の形態におけるブーツ10と同様に、アウターケース4と大径筒部21との間のシールに必要な面圧をシールリップ22により確保しつつ、そのシールリップ22の開口端部11a側に配置される突起部19により大径筒部21へのアウターケース4の挿入荷重を低減できる。
【0047】
第2実施の形態では内周面14に設けられるシールリップ22が1本のみなので、2本のシールリップ17,18が内周面14に設けられる第1実施の形態に比べて、シールリップ22と突起部19とを軸方向に大きく離隔させることができる。これにより、シールリップ22の変形が突起部19によって妨げられることをより抑制できる。その結果、シールリップ22による面圧をより高くできる。
【0048】
以上、上記各実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、大径筒部11,21や小径筒部12、蛇腹部13等の各部形状や各部寸法を適宜変更しても良い。
【0049】
上記各実施の形態では、トリポートタイプの等速ジョイント1にブーツ10,20を装着する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1伝達軸2と第2伝達軸3との連結部分で伸縮するトリポートタイプ以外の摺動式等速ジョイントにブーツ10,20を装着しても良く、連結部分で伸縮しない固定式等速ジョイントにブーツ10,20を装着しても良い。
【0050】
上記第1実施の形態では2本のシールリップ17,18が大径筒部11の内周面14に設けられる場合について説明し、上記第2実施の形態では1本のシールリップ22が大径筒部21の内周面14に設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。内周面14にシールリップを3本以上設けても良い。この場合にも複数のシールリップによる面圧を高くするため、締結溝15aの軸方向の中心位置Cに関して対称に複数のシールリップを形成することが好ましい。
【0051】
なお、1本のシールリップ22を中心位置Cに関して非対称に形成しても良く、複数のシールリップを中心位置Cに関して非対称に配置しても良い。但し、複数のシールリップを中心位置Cに関して非対称に設ける場合であっても、各シールリップによる面圧を確保するため、各シールリップの高さH1を全て同一にする必要がある。
【0052】
上記各実施の形態では、突起部19が全周に亘って連続して設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。突起部19はアウターケース4と大径筒部11,21との間をシールするためのものではないので、複数の点状部位や線状部位から構成される突起部19を全周に亘って並べて設けることは当然可能である。なお、大径筒部11,21にアウターケース4を挿入するとき、シールリップ17,18,22にアウターケース4が挿入される前に、大径筒部11,21を全体的に広げる(拡径させる)必要があるので、突起部19を全周に亘って設ける必要がある。また、突起部19を構成する複数の点状部位や線状部位の周方向間隔が短い方が突起部19によって大径筒部11,21を全体的に広げ易くできる。さらに、突起部19が周方向に連続している方が突起部19によって大径筒部11,21をより一層広げ易くできる。
【0053】
上記各実施の形態では、突起部19の一部が締結溝15aを径方向内側に投影した位置の内周面14に設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。締結溝15aを径方向内側に投影した位置の内周面14に突起部19の全体を設けても良い。また、締結溝15aを径方向内側に投影した位置以外の内周面14に突起部19の全体を設けても良い。この場合には、締結部材8とアウターケース4との間に突起部19が挟まらないので、シールリップ17,18,22からアウターケース4に付与される面圧が突起部19によって軸方向に不均一になることを抑制できる。
【0054】
上記各実施の形態では、軸心O1からアウターケース4の外周面までの距離が軸方向に亘って略一定であり、軸心O1から第1部14a、第2部14b及び平行部14dまでの距離が、軸心O1からアウターケース4の外周面までの距離と同一である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。軸心O1を含む断面において、アウターケース4の外周面と、内周面14(第1部14a、第2部14b及び平行部14d)とに互いに嵌合する凸部および凹部を設けても良い。この場合、軸心O1を含む断面において、軸心O1からの距離が最小となる部分の内周面14に設けられるシールリップ17,18,22よりも開口端部11a側であって、軸心O1からの距離が最小となる部分の内周面14に突起部19を設ければ良い。これにより、シールリップ17,18,22による面圧を確保しつつアウターケース4の挿入荷重を低減できる。
【0055】
上記各実施の形態では、軸心O1を含む断面において、軸心O1から平行部14dまでの距離と、軸心O1からアウターケース4の外周面までの距離とが同一である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。軸心O1を含む断面において軸心O1から平行部14dまでの距離が、軸心O1からアウターケース4の外周面までの距離以下であれば、縮径部14cに沿って平行部14dまで案内されたアウターケース4の径方向位置が決定される。なお、軸心O1を含む断面において軸心O1から平行部14dまでの距離と、軸心O1からアウターケース4の外周面までの距離とが略同一であれば、平行部14dまで案内されたアウターケース4の径方向位置を決定しつつ、平行部14dへのアウターケース4の挿入荷重を低減できる。
【符号の説明】
【0056】
1 等速ジョイント
2 第1伝達軸
3 第2伝達軸
4 アウターケース
8 締結部材
10,20 ブーツ
11,21 大径筒部
11a 開口端部
12 小径筒部
13 蛇腹部
14 内周面
14c 縮径部
14d 平行部
15 外周面
15a 締結溝
17,18,22 シールリップ
19 突起部
O1 軸心