(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】偏波保持ファイバ、光デバイス、偏波保持ファイバの母材、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/024 20060101AFI20220901BHJP
C03B 37/027 20060101ALI20220901BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
G02B6/024 301
C03B37/027 Z
G02B6/036
(21)【出願番号】P 2018055353
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2017056175
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】市井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】平川 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】林 和幸
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/005984(WO,A1)
【文献】実開昭60-028703(JP,U)
【文献】特開2009-145423(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0177846(US,A1)
【文献】米国特許第05309540(US,A)
【文献】特開2008-078629(JP,A)
【文献】特表2002-533743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/10
6/26-6/27
6/30-6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、
上記コアを内包する内側クラッドと、
上記内側クラッドを両側から挟み込む2つの応力付与部と、
上記内側クラッド及び上記2つの応力付与部を内包する外側クラッドと、を備え、
上記内側クラッドは、上記2つの応力付与部の各々に陥入しており、上記コアの断面は、上記2つの応力付与部の並び方向を長手方向とするように扁平し、
上記コアは、ゲルマニウムが添加された石英ガラスにより構成されており、
上記内側クラッドは、フッ素と、フッ素の屈折率低下作用を相殺するアップドーパントとが添加された石英ガラスにより構成されている、
ことを特徴とする偏波保持ファイバ。
【請求項2】
上記コアは、ゲルマニウムが添加され、かつ、フッ素が添加されない石英ガラスにより構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の偏波保持ファイバ。
【請求項3】
上記応力付与部は、ホウ素が添加された石英ガラスにより構成されている、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の偏波保持ファイバ。
【請求項4】
各断面における上記コアの溶融時粘度η1(z)、上記内側クラッドの溶融時粘度η2(z)、上記応力付与部の溶融時粘度η3(z)、及び外側クラッドの溶融時粘度η4(z)の間に、η3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つ、
ことを特徴とする請求項
1~3の何れか1項に記載の偏波保持ファイバ。
【請求項5】
上記アップドーパントは、リン及びゲルマニウムの一方又は両方を含んでいる、
ことを特徴とする請求項1~
4の何れか1項に記載の偏波保持ファイバ。
【請求項6】
請求項1~
5の何れか1項に記載の偏波保持ファイバと、
端面が上記偏波保持ファイバの端面と対向する光導波路であって、モードフィールドパターンが楕円形の光導波路と、を備えている、
ことを特徴とする光デバイス。
【請求項7】
請求項1~
5の何れか1項に記載の偏波保持ファイバと、
端面が上記偏波保持ファイバの端面に融着された光ファイバであって、モードフィールド径が上記偏波保持ファイバのモードフィールド径よりも大きい光ファイバと、を備えている、
ことを特徴とする光デバイス。
【請求項8】
請求項1~
5の何れか1項に記載の偏波保持ファイバと、
端面が上記偏波保持ファイバの一方の端面と対向する光導波路であって、モードフィールドパターンが楕円形の光導波路と、
端面が上記偏波保持ファイバの他方の端面に融着された光ファイバであって、モードフィールド径が上記偏波保持ファイバのモードフィールド径よりも大きい光ファイバと、を備えている、
ことを特徴とする光デバイス。
【請求項9】
コアと、
上記コアを内包する内側クラッドと、
上記内側クラッドを両側から挟み込む2つの応力付与部と、
上記内側クラッド及び上記2つの応力付与部を内包する外側クラッドと、を備え、
上記2つの応力付与部の各々は、上記内側クラッドに陥入し、
上記コアは、ゲルマニウムが添加された石英ガラスにより構成されており、
上記内側クラッドは、フッ素と、フッ素の屈折率低下作用を相殺するアップドーパントとが添加された石英ガラスにより構成さ
れ、
コアの断面が、2つの応力付与部の並び方向を長手方向とするように扁平する偏波保持ファイバを作成するための、母材である、
ことを特徴とする、
偏波保持ファイバの母材。
【請求項10】
上記母材のコアは、ゲルマニウムが添加され、かつ、フッ素が添加されない石英ガラスにより構成されている、
ことを特徴とする請求項9に記載の偏波保持ファイバの母材。
【請求項11】
各断面における上記コアの溶融時粘度η1(z)、上記内側クラッドの溶融時粘度η2(z)、上記応力付与部の溶融時粘度η3(z)、及び外側クラッドの溶融時粘度η4(z)の間に、η3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つ、
ことを特徴とする請求項
9または10に記載の偏波保持ファイバの母材。
【請求項12】
コアと、上記コアを内包する内側クラッドと、上記内側クラッドを両側から挟み込む2つの応力付与部と、上記内側クラッド及び上記2つの応力付与部を内包する外側クラッドと、を備えた母材を線引きする工程を含む偏波保持ファイバの製造方法であって、
上記母材において、上記2つの応力付与部の各々が上記内側クラッドに陥入しており、
上記偏波保持ファイバにおいて、上記内側クラッドが上記2つの応力付与部の各々に陥入しており、上記コアの断面が上記2つの応力付与部の並び方向を長手方向とするように扁平し、
上記コアは、ゲルマニウムが添加された石英ガラスにより構成されており、
上記内側クラッドは、フッ素と、フッ素の屈折率低下作用を相殺するアップドーパントとが添加された石英ガラスにより構成さ
れ、
前記母材から製造される前記偏波保持ファイバは、コアの断面が、2つの応力付与部の並び方向を長手方向とするように扁平する、
ことを特徴とする、偏波保持ファイバの製造方法。
【請求項13】
上記母材のコアは、ゲルマニウムが添加され、かつ、フッ素が添加されない石英ガラスにより構成されている、
ことを特徴とする請求項12に記載の偏波保持ファイバの製造方法。
【請求項14】
線引き中の上記母材において、温度が最も高くなる断面と細径化が終わる断面との間の断面における上記コアの溶融時粘度η1(z)、上記内側クラッドの溶融時粘度η2(z)、上記応力付与部の溶融時粘度η3(z)、及び外側クラッドの溶融時粘度η4(z)の間に、η3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つ、
ことを特徴とする請求項
12または13に記載の偏波保持ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平したコアを有する偏波保持ファイバに関する。また、そのような偏波保持を備えた光デバイス、そのような偏波保持ファイバの母材、及び、そのような偏波保持ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンフォトニクスの分野では、シリコン導波路に入力する光、又は、シリコン導波路から出力される光を伝送する伝送媒体として、偏波保持ファイバが広く用いられている。偏波保持ファイバとは、偏波モード間の結合を抑制することによって、偏波保持性能を高めた光ファイバのことを指す。例えば、コアに応力を与えるための応力付与部がクラッド内に設けられたPANDA(Polarization-maintaining AND Absorption-reducing)ファイバは、偏波保持ファイバの代表例である。
【0003】
2つの応力付与部を有する偏波保持ファイバでは、用途によっては、コアの断面が扁平している(真円形や正方形でなく、楕円形や長方形である)ことが好ましい。その理由は、第一に、コアの断面が扁平していることで、偏波保持性能を高めることができるからである。第二に、コアの断面が扁平していることで、偏波保持ファイバのモードフィールドを楕円形にすることができるからである。シリコン導波路のモードフィールは、通常、楕円形である。したがって、モードフィールドが楕円形である偏波保持ファイバの方が、モードフィールドが真円形である偏波保持ファイバよりも、シリコン導波路との接続損失を小さく抑えることができる。
【0004】
なお、コアの断面を扁平化することによって偏波保持性能を高めることができるのは、コアの断面の長手方向と2つの応力付与部の並び方向とが平行になり、応力付与部による複屈折とコアの扁平化による複屈折とが互いに強め合う場合である。コアの断面の長手方向と2つの応力付与部の並び方向とが垂直になる場合には、応力付与部による複屈折とコアの扁平化による複屈折とが互いに弱め合うため、偏波保持性能を高める効果は得られない。
【0005】
コアの断面が扁平した光ファイバを製造する方法としては、例えば、特許文献1に記載の製造方法が知られている。特許文献1によれば、以下の工程を実施することにより、コアの断面形状が楕円形の光ファイバを製造することができる。工程1:断面形状が真円形のコア部の全外周に第1次クラッド部を形成することによって、第1プリフォームを作成する。工程2:第1プリフォームの1次クラッド部の側部側の一部を第1プリフォームの長手方向に沿って外削することによって、第2プリフォームを作成する。工程3:第2プリフォームの1次クラッド部の全外周に2次クラッド部のスートを形成することによって、第3プリフォームを作成する。工程4:第3プリフォーム(スートロッド)を脱水雰囲気中で焼結により加熱し、第4プリフォームを形成する。この際、空孔部の消滅に伴う体積収縮が起こり、コア部の断面形状が真円形から楕円形に変化する。工程5:断面形状が真円形になるように第4プリフォームを外削することによって、第5プリフォームを作成する。工程6:第5プリフォームを線引きすることによって、断面形状が楕円形のコアを有する光ファイバを得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-365463号(2002年12月18日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法には、以下の問題があった。
【0008】
すなわち、特許文献1に記載の製造方法においては、プリフォームが完成するまでに2回の外削加工を必要とする。特に、コアの断面形状を十分な非円率を有する楕円形とするためには、第1プリフォームに対する外削を、外削された部分の半径が外削されていない部分の半径の1/2程度になるまで行う必要がある(特許文献1の
図2及び段落0024参照)。このため、外削に要する時間が長く、簡単に製造することができないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、2つの応力付与部を有し、コアの断面が扁平した偏波保持ファイバであって、簡単に製造することができる偏波保持ファイバを実現することにある。また、そのような偏波保持ファイバを備えた光デバイス、そのような偏波保持ファイバの母材、又は、そのような偏波保持ファイバの製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様に係る偏波保持ファイバは、コアと、上記コアを内包する内側クラッドと、上記内側クラッドを両側から挟み込む2つの応力付与部と、上記内側クラッド及び上記2つの応力付与部を内包する外側クラッドと、を備え、上記内側クラッドは、上記2つの応力付与部の各々に陥入しており、上記コアの断面は、上記2つの応力付与部の並び方向を長手方向とするように扁平している、ことを特徴とする。
【0011】
上記のように構成された偏波保持ファイバは、コアと、上記コアを内包する内側クラッドと、上記内側クラッドを両側から挟み込む2つの応力付与部と、上記内側クラッド及び上記2つの応力付与部を内包する外側クラッドと、を備え、上記2つの応力付与部の各々が上記内側クラッドに陥入している母材を線引きすることによって、簡単に製造することができる。したがって、上記の構成によれば、コアの断面が扁平した偏波保持ファイバであって、簡単に製造することができる偏波保持ファイバを実現することができる。なお、このような母材は、例えば、上記内側クラッドに陥入するようにドリルツール等を用いて形成された孔に、上記応力付与部の母材となるロッドを挿入することによって実現することができる。
【0012】
本発明の一態様に係る偏波保持ファイバにおいて、上記応力付与部は、ホウ素が添加された石英ガラスにより構成されている、ことが好ましい。
【0013】
上記の構成によれば、上記応力付与部の溶融時粘度を純粋石英ガラスの溶融時粘度よりも大幅に小さくすることができる。これにより、線引き後、上記応力付与部が硬化する時点を上記コア及び上記内側クラッドが硬化する時点よりも後にすることができる。このため、上記応力付与部に陥入するように上記内側クラッドを変形させると共に、断面が扁平になるように上記コアを変形させることができる。
【0014】
本発明の一態様に係る偏波保持ファイバにおいて、上記コアは、ゲルマニウムが添加された石英ガラスにより構成されており、上記内側クラッドは、フッ素と、フッ素の屈折率低下作用を相殺するアップドーパントとが添加された石英ガラスにより構成されている、ことが好ましい。
【0015】
上記の構成によれば、上記内側クラッドにフッ素が添加されているため、加熱により上記コアに添加されたゲルマニウムを上記内側クラッドに拡散させることができる。すなわち、上記の構成によれば、加熱によりコアが拡大するという性質を有する偏波保持ファイバを実現することができる。なお、上記内側クラッドには、フッ素の屈折率低下作用を相殺するアップドーパントが添加されているため、コアと内側クラッドとの屈折率差が失われる虞はない。したがって、光閉じ込め機能を損なうことなく、加熱によりコアが拡大するという性質を有する偏波保持ファイバを実現することができる。
【0016】
本発明の一態様に係る偏波保持ファイバにおいて、上記アップドーパントは、リン及びゲルマニウムの一方又は両方を含む、ことが好ましい。
【0017】
上記の構成によれば、リン及びゲルマニウムの一方又は両方の屈折率上昇作用によりフッ素の屈折率低下作用を相殺することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る偏波保持ファイバにおいて、各断面における上記コアの溶融時粘度η1(z)、上記内側クラッドの溶融時粘度η2(z)、上記応力付与部の溶融時粘度η3(z)、及び外側クラッドの溶融時粘度η4(z)の間に、η3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つ、ことが好ましい。
【0019】
上記の構成によれば、コアの断面が扁平した偏波保持ファイバであって、より一層簡単に製造することができる偏波保持ファイバを実現することができる。
【0020】
本発明の一態様に係る光デバイスは、本発明の一態様に係る偏波保持ファイバと、端面が上記偏波保持ファイバの端面と対向する光導波路であって、モードフィールドパターンが楕円形の光導波路とを備えている、ことが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、上記偏波保持ファイバのモードフィールドパターンを、上記光導波路のモードフィールドパターンと同様、楕円形にすることができる。したがって、接続損失の小さい光デバイスを実現することができる。
【0022】
本発明の一態様に係る光デバイスは、本発明の一態様に係る偏波保持ファイバと、端面が上記偏波保持ファイバの端面に融着された光ファイバであって、モードフィールド径が上記偏波保持ファイバのモードフィールド径よりも大きい光ファイバとを備えている、ことが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、上記偏波保持ファイバのコアが、ゲルマニウムが添加された石英ガラスにより構成されており、上記偏波保持ファイバの内側クラッドが、フッ素と、フッ素の屈折率低下作用を相殺するアップドーパントとが添加された石英ガラスにより構成されている場合、上記偏波保持ファイバのモードフィールド径を上記光ファイバのモードフィールド径に整合させるモードフィールド変換部を、上記偏波保持ファイバを上記光ファイバに融着する際に簡単に形成することができる。
【0024】
本発明の一態様に係る光デバイスは、本発明の一態様に係る偏波保持ファイバと、端面が上記偏波保持ファイバの一方の端面と対向する光導波路であって、モードフィールドパターンが楕円形の光導波路と、端面が上記偏波保持ファイバの他方の端面に融着された光ファイバであって、モードフィールド径が上記偏波保持ファイバのモードフィールド径よりも大きい光ファイバと、を備えている、ことが好ましい。
【0025】
上記の構成によれば、上記偏波保持ファイバのモードフィールドパターンを、上記光導波路のモードフィールドパターンと同様、楕円形にすることができる。したがって、上記偏波保持ファイバと上記光導波路との接続損失を小さく抑えることができる。また、上記の構成によれば、上記偏波保持ファイバのコアが、ゲルマニウムが添加された石英ガラスにより構成されており、上記偏波保持ファイバの内側クラッドが、フッ素と、フッ素の屈折率低下作用を相殺するアップドーパントとが添加された石英ガラスにより構成されている場合、上記偏波保持ファイバのモードフィールド径を上記光ファイバのモードフィールド径に整合させるモードフィールド変換部を、上記偏波保持ファイバを上記光ファイバに融着する際に簡単に形成することができる。したがって、上記偏波保持ファイバと上記光ファイバとの接続損失を小さく抑えることができる。
【0026】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る偏波保持ファイバの母材は、コアと、上記コアを内包する内側クラッドと、上記内側クラッドを両側から挟み込む2つの応力付与部と、上記内側クラッド及び上記2つの応力付与部を内包する外側クラッドと、を備え、上記2つの応力付与部の各々は、上記内側クラッドに陥入している、ことを特徴とする。
【0027】
上記の構成によれば、上記母材を線引きすることによって、断面が扁平な偏波保持ファイバを容易に得ることが可能な偏波保持ファイバの母材を実現できる。
【0028】
本発明の一態様に係る偏波保持ファイバの母材において、各断面における上記コアの溶融時粘度η1(z)、上記内側クラッドの溶融時粘度η2(z)、上記応力付与部の溶融時粘度η3(z)、及び外側クラッドの溶融時粘度η4(z)の間に、η3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つ、ことが好ましい。
【0029】
上記の構成によれば、上記母材を線引きすることによって、断面が扁平な偏波保持ファイバをより一層容易に得ることが可能な偏波保持ファイバの母材を実現できる。
【0030】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る偏波保持ファイバの製造方法は、コアと、上記コアを内包する内側クラッドと、上記内側クラッドを両側から挟み込む2つの応力付与部と、上記内側クラッド及び上記2つの応力付与部を内包する外側クラッドと、を備えた母材を線引きする工程を含む偏波保持ファイバの製造方法であって、上記母材において、上記2つの応力付与部の各々が上記内側クラッドに陥入しており、上記偏波保持ファイバにおいて、上記内側クラッドが上記2つの応力付与部の各々に陥入しており、上記コアの断面が上記2つの応力付与部の並び方向を長手方向とするように扁平している、ことを特徴とする。
【0031】
上記の構成によれば、断面が扁平な偏波保持ファイバを簡単に製造することができる。
【0032】
本発明の一態様に係る偏波保持ファイバの製造方法において、線引き中の上記偏波保持ファイバで温度が最も高くなる断面と細径化が終わる断面との間の断面における上記コアの溶融時粘度η1(z)、上記内側クラッドの溶融時粘度η2(z)、上記応力付与部の溶融時粘度η3(z)、及び外側クラッドの溶融時粘度η4(z)の間に、η3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つ、ことが好ましい。
【0033】
上記の構成によれば、断面が扁平な偏波保持ファイバをより一層簡単に製造することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一態様によれば、コアの断面が扁平した偏波保持ファイバであって、簡単に製造することができる偏波保持ファイバを実現することができる。また、本発明の一態様によれば、そのような偏波保持ファイバを備えた光デバイス、そのような偏波保持ファイバの母材、又は、そのような偏波保持ファイバの製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の一実施形態に係る偏波保持ファイバの構造を示す図である。(a)は、その偏波保持ファイバの横断面を示す断面図ある。(b)は、(a)に示す断面のAA’直線における屈折率分布を示すグラフである。(c)は、(a)に示す断面のBB’直線における屈折率分布を示すグラフである。
【
図2】
図1に示す偏波保持ファイバの製造方法を示す図である。
【
図3】
図2に示す製造方法により製造された偏波保持ファイバの断面写真である。
【
図4】(a)は、比較例に係る母材における緒元の定義を示す図である。(b)は、比較例に係る偏波保持ファイバにおける緒元の定義を示す図である。
【
図5】(a)は、実施例に係る母材における緒元の定義を示す図である。(b)は、実施例に係る偏波保持ファイバにおける緒元の定義を示す図である。
【
図6】
図1に示す偏波保持ファイバを適用可能な光デバイスの側面図である。
【
図7】(a)は、
図6に示す光デバイスが備える基板型光導波路の正面図である。(b)は、
図5に示す光デバイスが備える第1光ファイバの正面図である。
【
図8】(a)は、
図6に示す光デバイスが備える基板型光導波路のモードフィールドパターンを示すグラフである。(b)は、
図6に示す光デバイスが備える第1光ファイバのモードフィールドパターンを示すグラフである。
【
図9】線引き時の偏波保持ファイバの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(偏波保持ファイバの構造)
本発明の一実施形態に係る偏波保持ファイバ1の構造について、
図1を参照して説明する。
図1の(a)は、偏波保持ファイバ1の横断面を示す断面図である。
図1の(b)は、
図1の(a)に示す断面のAA’直線における偏波保持ファイバ1の屈折率分布を示すグラフである。
図1の(c)は、
図1の(a)に示す断面のBB’直線における偏波保持ファイバ1の屈折率分布を示すグラフである。
【0037】
偏波保持ファイバ1は、
図1の(a)に示すように、コア11と、コア11を内包する内側クラッド12と、内側クラッド12を両側から挟み込む2つの応力付与部13a~13bと、内側クラッド12及び2つの応力付与部13a~13bを内包する外側クラッド14と、を備えている。
【0038】
内側クラッド12は、2つの応力付与部13a~13bの各々に陥入している。このため、内側クラッド12の断面形状は、円形状になるのに対して、内側クラッド12の左側に位置する応力付与部13aの断面形状は、右側に欠けのある円形状になり、内側クラッド12の右側に位置する応力付与部13bの断面形状は、左側に欠けのある円形状になる。また、コア11の断面形状は、2つの応力付与部13a~13bの並び方向が長軸方向となるように扁平した形状(本実施形態においては、扁平した円形状、すなわち、楕円形状)になる。ここで、2つの応力付与部13a~13bの並び方向とは、第1の応力付与部13aの中心と第2の応力付与部13bの中心とを通る直線と平行な方向のことを指す。
【0039】
コア11は、ゲルマニウム(Ge)が添加された石英ガラスにより構成されている。コア11に添加されるゲルマニウムは、石英ガラスの屈折率を上昇させる作用を有する。このため、コア11の屈折率n1は、純粋石英ガラスの屈折率n0(約1.46)よりも高くなる。また、コア11の溶融時粘度η1は、純粋石英ガラスの溶融時粘度η0と実質的に同一、又は、純粋石英ガラスの溶融時粘度η0よりも僅かに小さい値となる。
【0040】
なお、本実施形態においては、ゲルマニウムをアップドーパントとしてコア11に添加する構成を採用しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、ゲルマニウムに加えてリン及びアルミニウムの一方又は両方をアップドーパントとしてコア11に添加する構成を採用してもよい。或いは、酸化ゲルマニウムや塩素等をアップドーパントとしてコア11に添加する構成を採用してもよい。何れのアップドーパントを用いる場合であっても、その濃度を適宜調整することにより、後述する外側クラッド14の屈折率n4(純粋石英ガラスの屈折率と実質的に同一)に対するコア11の屈折率n1の比屈折率差を1.0%以上にすることができる。なお、コア11にゲルマニウムを添加する構成を採用する場合、コア11おけるゲルマニウムの濃度は、例えば、10~30wt%とすることができる。
【0041】
内側クラッド12は、リン(P)及びフッ素(F)が共添加された石英ガラスにより構成されている。内側クラッド12に添加されるリンは、石英ガラスの屈折率を上昇させる作用と、石英ガラスの溶融時粘度を低下させる作用と、を有する。一方、内側クラッド12に添加されるフッ素は、融着のための加熱に際してコア11に添加されたゲルマニウムが内側クラッド12へと拡散することを促進する作用と、石英ガラスの屈折率を低下させる作用とを有する。内側クラッド12に添加されるリン及びフッ素の濃度は、リンの有する屈折率上昇作用とフッ素の有する屈折率低下作用とが互いに相殺するように調整されている。このため、内側クラッド12の屈折率n2は、純粋石英ガラスの屈折率と実質的に同一になる。また、内側クラッド12の溶融時粘度η2は、純粋石英ガラスの溶融時粘度η0よりも低くなる。
【0042】
なお、本実施形態においては、リンをアップドーパントとして内側クラッド12に添加する構成を採用しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、リンの代わりにゲルマニウム(Ge)をアップドーパントして内側クラッド12に添加する構成を採用してもよいし、リンに加えてゲルマニウムをアップドーパントとして内側クラッド12に添加してもよい。内側クラッド12におけるフッ素の濃度が高い場合であっても、リン及びゲルマニウムの両方を内側クラッド12に添加することにより、後述する外側クラッド14の屈折率n4(純粋石英ガラスの屈折率と実質的に同一)に対する内側クラッド12の屈折率n2の比屈折率差を0.1%以下にすることができる。なお、内側クラッド12にリン、ゲルマニウム、及びフッ素を添加する構成を採用する場合、内側クラッド12におけるリン及びゲルマニウムの濃度は、それぞれ、例えば、0.5~2.0wt%及び1.5~5.0wt%とすることができる。内側クラッド12におけるフッ素の濃度は、外側クラッド14の屈折率n4に対する内側クラッド12の屈折率n2の比屈折率差が0.1%以下になるように設定すればよい。
【0043】
2つの応力付与部13a~13bは、それぞれ、ホウ素(B)が添加された石英ガラスにより構成されている。これら応力付与部13a~13bに添加されるホウ素は、石英ガラスの屈折率を低下させる作用と、石英ガラスの溶融時粘度を低下させる作用とを有する。このため、これら応力付与部13a~13bの屈折率n3は、純粋石英ガラスの屈折率n0よりも低くなる。また、これら応力付与部13a~13bの溶融時粘度η3は、純粋石英ガラスの溶融時粘度η0よりも低くなる。なお、2つの応力付与部13a~13bにホウ素(B)を添加する構成に代えて、2つの応力付与部13a~13bに酸化ホウ素(B2O3)を添加する構成を採用してもよい。この場合、2つの応力付与部13a~13bにおける酸化ホウ素の濃度は、例えば、15~25mol%に設定すればよい。
【0044】
外側クラッド14は、塩素(Cl)以外のドーパントが意図的に添加されていない石英ガラスにより構成されている。すなわち、外側クラッド14を構成する石英ガラスには、屈折率上昇作用を有する塩素以外のアップドーパントも屈折率低下作用を有するダウンドーパントも添加されていない。ここで、外側クラッド14における塩素の濃度は、外側クラッド14の屈折率n4に対する内側クラッド12の屈折率n2の比屈折率差が0.1%以下になるように設定すればよい。このため、外側クラッド14の屈折率n4は、純粋石英ガラスの屈折率n0と実質的に同一になる。また、外側クラッド14の溶融時粘度η4は、純粋石英ガラスの溶融時粘度η0と実質的に同一である。
【0045】
以上のように、コア11、内側クラッド12、応力付与部13a~13b、及び外側クラッド14の屈折率n1、n2、n3、及びn4の間には、n3<n2≒n4<n1という関係が成り立つ。偏波保持ファイバ1が光閉じ込め機能を有するのは、この関係(特にn2<n1)による。
【0046】
また、コア11、内側クラッド12、応力付与部13a~13b、及び外側クラッド14の溶融時粘度η1、η2、η3、及びη4の間には、η3≪η2≪η1<η4という関係が成り立つ。ここで、η3≪η2という関係が成り立つのは、応力付与部13a~13bに添加されるホウ素の方が、内側クラッド12に添加されるリンよりも粘度低下作用が強いからである。偏波保持ファイバ1が偏波保持能力を有するのは、この関係(特にη3≪η2≪η1)による(理由については、「偏波保持ファイバの製造方法」を参照のこと)。ここで、コア11、内側クラッド12、応力付与部13a~13b、及び外側クラッド14の各部におけるそれぞれのドーパント濃度は、η3≪η2≪η1<η4を満たす様に、設定されていればよい。例えば、コア11にゲルマニウムを添加する構成を採用し、内側クラッド12にリン、ゲルマニウム、及びフッ素を添加する構成を採用し、2つの応力付与部13a~13bに酸化ホウ素(B2O3)を添加する構成を採用し、外側クラッド14に塩素(Cl)以外のドーパントが意図的に添加されていない石英ガラスを採用する場合は、それぞれ以下のドーパント濃度が、η3≪η2≪η1<η4を満たす様に設定されていればよい。すなわち、コア11おけるゲルマニウムの濃度を、例えば、10~30wt%と設定し、内側クラッド12におけるリン及びゲルマニウムの濃度を、それぞれ、例えば、0.5~2.0wt%及び1.5~5.0wt%と設定し、内側クラッド12における酸化ホウ素の濃度を、外側クラッド14の屈折率n4に対する内側クラッド12の屈折率n2の比屈折率差が0.1%以下になるように設定し、2つの応力付与部13a~13bにおける酸化ホウ素の濃度を、例えば、15~25mol%と設定し、外側クラッド14における塩素の濃度を、外側クラッド14の屈折率n4に対する内側クラッド12の屈折率n2の比屈折率差が0.1%以下になるように設定し、さらに、η3≪η2≪η1<η4を満たす様に設定されていればよい。
【0047】
(偏波保持ファイバの製造方法)
次に、
図1に示す偏波保持ファイバ1の製造方法について、
図2を参照して説明する。
図2は、偏波保持ファイバ1の製造方法を示す図である。
【0048】
まず、母材1Aを用意する。母材1Aは、例えば、コア11、内側クラッド12、及び外側クラッド14を含む母材に、ドリルツール等を用いて2つの孔を形成し、この孔に各応力付与部13a~13bの母材となるロッドを挿入することよって製造することができる。母材1Aも偏波保持ファイバ1と同様の断面構造を有している。ただし、偏波保持ファイバ1においては、内側クラッド12が各応力付与部13a~13bに陥入している(内側クラッド12が凸、応力付与部13a~13bが凹)のに対して、母材1Aにおいては、各応力付与部13a~13b(或いは、各応力付与部13a~13bが挿入される孔)が内側クラッド12に陥入している(内側クラッド12が凹、応力付与部13a~13bが凸)。また、偏波保持ファイバ1においては、コア11の断面形状が楕円形状(扁平した円形状)であるのに対して、母材1Aにおいては、コア11の断面形状が円形状である。
【0049】
次に、母材1Aを溶融延伸することにより、偏波保持ファイバ1Bを得る。偏波保持ファイバ1Bにおいては、コア11、内側クラッド12、応力付与部13a~13b、及び外側クラッド14が何れも溶融した状態にある。
【0050】
次に、偏波保持ファイバ1Bを冷却することにより、偏波保持ファイバ1Cを得る。偏波保持ファイバ1Cにおいては、外側クラッド14が凝固した状態にあり、コア11、内側クラッド12、及び応力付与部13a~13bが溶融した状態にある。このように、外側クラッド14が、コア11、内側クラッド12、及び応力付与部13a~13bよりも先に凝固するのは、外側クラッド14の粘度η4が、コア11、内側クラッド12、及び応力付与部13a~13bの粘度η1、η2、及びη3よりも高いことによる。
【0051】
次に、偏波保持ファイバ1Cを冷却することにより、偏波保持ファイバ1Dを得る。偏波保持ファイバ1Dにおいては、コア11、内側クラッド12、及び、外側クラッド14が凝固した状態にあり、応力付与部13a~13bが溶融した状態にある。このように、コア11、内側クラッド12、及び外側クラッド14が、応力付与部13a~13bよりも先に凝固する主たる理由は、コア11、内側クラッド12、及び外側クラッド14の粘度η1、η2、及びη4が、応力付与部13a~13bの粘度η3よりも高いことによる。
【0052】
コア11及び内側クラッド12が凝固する際、応力付与部13a~13bが溶融状態にある。このため、内側クラッド12は、表面張力によって断面形状が円形になるように変形する。この際、コア11は、内側クラッド12から受ける応力によって断面形状が楕円形になるように変形する。
【0053】
最後に、偏波保持ファイバ1Dを冷却することにより、偏波保持ファイバ1を得る。偏波保持ファイバ1においては、コア11、内側クラッド12、応力付与部13a~13b、及び、外側クラッド14が何れも凝固した状態にある。偏波保持ファイバ1においては、後に凝固した応力付与部13a~13bから先に凝固した内側クラッド12及びコア11に対して応力が作用する。この応力により、偏波保持ファイバ1は、偏波保持機能を発現する。ここで、上述した偏波保持ファイバ1Bは溶融した母材1Aと言い換えることができ、上述した偏波保持ファイバ1C、1Dは溶融後に冷却された母材1Aと言い換えることができる。
【0054】
上記の製造方法に従って製造された偏波保持ファイバ1の断面写真を
図3に示す。この断面写真によれば、コア11の断面形状が楕円形であることが確かめられる。
【0055】
なお、ここでは、母材1Aにおけるコア11の断面形状を円形状とすることによって、偏波保持ファイバ1におけるコア11の断面形状は楕円形状(扁平した円形状)とする製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、母材1Aにおけるコア11の断面形状を正方形状とすることによって、偏波保持ファイバ1におけるコア11の断面形状を長方形状(扁平した正方形状)とすることができる。より一般的に言うと、上記の製造方法に従って製造した偏波保持ファイバ1におけるコア11の断面形状は、母材1Aにおけるコア11の断面形状を扁平化した形状になる。
【0056】
(実施例及び比較例)
コア直径、内側クラッド直径、外側クラッド直径、応力付与部間隔、バリア厚み、孔直径、応力付与部直径、及び外周厚みを下記の表1のように設定した母材を用意した。負のバリア厚みを持つ母材は、各応力付与部が内側クラッドに陥入している母材であり、実施例である。正のバリア厚みを持つ母材は、各応力付与部が内側クラッドから離間している母材であり、比較例である。なお、比較例1~3に係る母材における緒元の定義については、
図4の(a)を参照されたい。また、実施例1~3に係る母材における緒元の定義については、
図5の(a)を参照されたい。なお、比較例1~3に係る母材においては、
図4の(a)に示すように、母材の中心から応力付与部の並び方向と平行に伸びる半直線をLとして、内側クラッドの外縁を構成する円と半直線Lとの交点Pから、応力付与部の母材となるロッドが挿入される孔の外縁を構成する円と半直線Lとの交点Qまでの距離がバリア厚みの絶対値となる。一方、実施例1~3に係る母材においては、
図5の(a)に示すように、母材の中心から応力付与部の並び方向と平行に伸びる半直線をLとして、内側クラッドの外縁と重なる円と半直線Lとの交点Pから、応力付与部の母材となるロッドが挿入される孔の外縁を構成する円と半直線Lとの交点Qまでの距離がバリア厚みの絶対値となる。
【0057】
上述した製造方法に従って各母材から偏波保持ファイバを製造した。できあがった各偏波保持ファイバのコア直径(コア長軸径とコア短軸径との平均値)、内側クラッド直径、外側クラッド直径、応力付与部間隔、応力付与部直径、及びバリア厚みを測定し、下記の表1に示す測定結果を得た。なお、実施例1~3に係る偏波保持ファイバのバリア厚みについては、母材のバリア厚みから推定される推定値を下記の表1に記載した。また、コア非円率は、コア長軸径及びコア短軸径を測定し、コア非円率={(コア長軸径-コア短軸径)/(コア長軸径とコア短軸径との平均値)}×100に従って算出した値を下記の表1に記載した。なお、比較例1~3に係る偏波保持ファイバにおける緒元の定義については、
図4の(b)を参照されたい。また、実施例1~3に係る偏波保持ファイバにおける緒元の定義については、
図5の(b)を参照されたい。なお、比較例1~3に係る偏波保持ファイバにおいては、
図4の(b)に示すように、偏波保持ファイバの中心から応力付与部の並び方向と平行に伸びる半直線をL’として、内側クラッドの外縁を構成する円と半直線L’との交点P’から、応力付与部の外縁を構成する円と半直線L’との交点Q’までの距離がバリア厚みの絶対値となる。一方、実施例1~3に係る偏波保持ファイバにおいては、
図5の(b)に示すように、偏波保持ファイバの中心から応力付与部の並び方向と平行に伸びる半直線をL’として、内側クラッドの外縁を構成する円と半直線L’との交点P’から、応力付与部の外縁と重なる円と半直線L’との交点Q’までの距離がバリア厚みの絶対値となる。
【表1】
【0058】
実施例1~3では、コアの非円率を20%以上とすることができた。また、実施例1~2では、コアの非円率を50%以上とすることができた。また、実施例2では、コアの非円率を80%以上とすることができた。すなわち、母材におけるバリア厚みの絶対値を大きくするほど、すなわち、各応力付与部を内側クラッドに深く陥入させるほど、コアの非円率が大きくなることが確かめられた。
【0059】
更に、実施例1~3及び比較例1~3に対して、モードフィールドパターンを測定した。具体的には、1次元ファーフィールドパターン法によるモードフィールド径測定を、偏波保持ファイバを30°ずつ回転させながら繰り返すことによって、モードフィールド径の回転方向依存性を求めた。その結果、実施例1では、4.0±0.9μm、実施例2では、4.0±1.3μm、実施例3では、4.0±0.4μmという測定結果が得られた。これらの結果は、実施例1~3において楕円形状の電界分布が形成されていることを示す。一方、比較例1~3では、モードフィールド径の変動(4.0±αμmのα)が0.3μm以下となった。これらの結果は、比較例1~3において略円形状の電界分布が形成されていることを示す。
【0060】
なお、実施例1~3及び比較例1~3の母材において、コアに添加したドーパントは、ゲルマニウムのみであった。また、コアにおけるゲルマニウムの濃度は、22wt%であった。また、これらの母材において、内側クラッドに添加したドーパントは、リン、ゲルマニウム、フッ素であった。内側クラッドにおけるリンの濃度は、0.8wt%であり、内側クラッドにおけるゲルマニウムの濃度は、2.9wt%であった。内側クラッドにおけるフッ素の濃度は、内側クラッドと外側クラッドとの比屈折率差が0.0%となるように調整した。また、これらの母材において、応力付与部に添加したドーパントは、酸化ホウ素(B
2O
3)であった。応力付与部における酸化ホウ素(B
2O
3)の濃度は、約20mol%であった。
図3に示した偏波保持ファイバ1は、このようなドーパントが添加された実施例1の母材を線引きすることによって得られたものである。
【0061】
なお、
図4の(a)及び
図5の(a)に示すように、偏波保持ファイバの母材においては、応力付与部の母材となるロッドの側面と該ロッドが挿入される孔の内壁との間に隙間がある。この隙間は、線引きの際に、ロッドが溶融して低粘度のガラスとなり、この低粘度のガラスが孔を満たすように広がることで解消される。このため、できあがった偏波保持ファイバの断面における応力付与部の位置及びサイズは、母材の断面における孔の位置及びサイズから推定することができる。
【0062】
(適用例)
偏波保持ファイバ1は、基板型光導波路と光ファイバとを備えた光デバイスに好適に利用することができる。このような光デバイス2について、
図6~
図8を参照して説明する。
【0063】
図6は、光デバイス2の側面図である。光デバイス2は、
図6に示すように、基板型光導波路21と、第1光ファイバ22と、第2光ファイバ23とを備えている。基板型光導波路21は、その端面を第1光ファイバ22の一方の端面と対向させることによって、第1光ファイバ22と光学的に接続されている。第2光ファイバ23は、その端面を第1光ファイバ22の他方の端面に融着することによって、第1光ファイバ22と物理的かつ光学的に接続されている。なお、互いに対向する基板型光導波路21の端面と偏波保持ファイバ1の端面との間には、空間光学系が設けられていてもよい。
【0064】
基板型光導波路21は、例えば、シリコン製のコア211を有するシリコン導波路である。基板型光導波路21のコア径は、後述する第1光ファイバ22のコア径よりも小さい。このため、基板型光導波路21のコア211の端面のうち、第1光ファイバ22のコア221に対向する端面の近傍には、基板型光導波路21のモードフィールド径を第1光ファイバ22のモードフィールド径に整合させるためのモードフィールド径変換部212が設けられている。
【0065】
図7の(a)は、基板型光導波路21の端面のうち、第1光ファイバ22に対向する端面21aを示す正面図である。基板型光導波路21のコア211の断面(端面)形状は、
図7の(a)に示すように、x軸方向を長手方向とする長方形である。このため、基板型光導波路21のモードフィールドパターンは、x軸方向を長手方向とする楕円になる。
【0066】
第1光ファイバ22は、例えば、ガラス製のコア221を有するガラスファイバであり、図示しない応力付与部により偏波保持機能を有している。第1光ファイバ22のコア径は、後述する第2光ファイバ23のコア径よりも小さい。このため、第1光ファイバ22のコア221の端面のうち、第2光ファイバ23のコア231に対向する端面の近傍には、第1光ファイバ22のモードフィールド径を第2光ファイバ23のモードフィールド径と整合させるためのモードフィールド径変換部222が設けられている。
【0067】
図7の(b)は、第1光ファイバ22の端面のうち、基板型光導波路21に対向する端面22aを示す正面図である。第1光ファイバ22のコア221の断面(端面)形状は、
図7の(b)に示すように、x軸方向を長手方向とする楕円形である。このため、第1光ファイバ22のモードフィールドパターンは、基板型光導波路21のモードフィールドパターンと同様、x軸を長手方向とする楕円形になる。このため、基板型光導波路21と第1光ファイバ22との接続損失を小さく抑えることができる。
【0068】
第2光ファイバ23は、例えば、ガラス製のコア231を有するガラスファイバであり、図示しない応力付与部により偏波保持機能を有している。第2光ファイバ23のコア231の断面(端面)形状は円形である。
【0069】
上述した偏波保持ファイバ1は、この光デバイス2における第1光ファイバ22として好適に利用することができる。
【0070】
なお、偏波保持ファイバ1の内側クラッド12には、上述したように、フッ素が添加されている。このフッ素は、加熱によりコア11に添加されたゲルマニウムの拡散を促進する作用を有する。このため、第1光ファイバ22として偏波保持ファイバ1を用いた場合、第1光ファイバ22を第2光ファイバ23に融着する際の熱で第1光ファイバ22のコア径を融着点近傍において拡大することができる。このため、第1光ファイバ22として偏波保持ファイバ1を用いた場合、第1光ファイバ22を第2光ファイバ23に融着するだけで、モードフィールド径変換部222を容易に実現することができる。
【0071】
図8の(a)は、基板型光導波路21のモードフィールドパターンを示すグラフである。
図8の(a)において、鎖線は、コア211の中心軸を通りx軸に平行な直線上での電界分布を表し、点線は、コア211の中心軸を通りy軸に平行な直線上での電界分布を表す。
図8の(b)は、第1光ファイバ22(偏波保持ファイバ1)のモードフィールドパターンを示すグラフである。
図8の(b)において、鎖線は、コア221の中心軸を通りx軸に平行な直線上での電界分布を表し、点線は、コア221の中心軸を通りy軸に平行な直線上での電界分布を表す。これらのグラフを比較すると、基板型光導波路21のモードフィールドパターンと第1光ファイバ22のモードフィールドパターンとが良く一致していることが見て取れる。
【0072】
なお、ここでは、基板型光導波路21と、第1光ファイバ22と、第2光ファイバ23とを備えた光デバイス2において、偏波保持ファイバ1を第1光ファイバ22として用いる適用例について説明したが、これに限定されない。例えば、基板型光導波路21を省略した光デバイス2、すなわち、第1光ファイバ22と第2光ファイバ23とを備えた光デバイス2において、偏波保持ファイバ1を第1光ファイバ22として用いてもよい。或いは、第2光ファイバ23を省略した光デバイス2、すなわち、基板型光導波路21と第1光ファイバ22とを備えた光デバイス2において、偏波保持ファイバ1を第1光ファイバ22として用いてもよい。
【0073】
(溶融時粘度に関する補足)
上述したように、コア11、内側クラッド12、応力付与部13a~13b、外側クラッド14の溶融時粘度η1、η2、η3、η4の間には、η3≪η2≪η1<η4という関係が成り立つ。なお、η3とη2との間の不等号「≪」は、η3とη2との差がη1とη4との差よりも大きいことを意味し、η3とη2との差が特定の値よりも大きいことを意味しない。同様に、η2とη1との間の不等号「≪」は、η2とη1との差がη1とη4との差よりも大きいことを意味し、η2とη1との差が特定の値よりも大きいことを意味しない。以下、コア11、内側クラッド12、応力付与部13a~13b、外側クラッド14の溶融時粘度η1、η2、η3、η4に関して、
図9を参照して補足する。
【0074】
図9は、偏波保持ファイバ1の線引き中の母材1Aを表す側面図、XY平面となるA-A’線における断面(以下、A-A’断面と称する)の断面図、B-B’線、及びXY平面となるC-C’線における断面(以下、C-C’断面と称する)の断面図である。ここで、
図9によるとA-A’断面の断面図とC-C’断面の断面図とは、図面の理解促進のため同一のサイズで描かれているが、実際のサイズは互いに異なる。母材1Aは、
図9に示すように、線引き炉内で細径化される。
図9に示すA-A’断面は、細径化が始まる断面、つまり、溶融が始まる断面である。したがって、A-A’断面より上方では、母材1Aの直径が線引き前の母材1Aの直径に一致し、A-A’断面より下方では、母材1Aの直径が線引き前の母材1Aの直径よりも小さくなる。また、
図9に示すC-C’断面は、細径化が終わる断面、つまり、溶融が終わる断面であり、もしくは、凝固が終わって偏波保持ファイバ1が完成する際の断面である。したがって、C-C’断面より上方では、母材1Aの直径が線引き後の母材1Aの直径よりも大きくなり、C-C’断面より下方では、母材1Aの直径が線引き後の母材1Aの直径に一致する。また、
図9に示すB-B’線は、母材1Aの温度が最も高くなる領域を
図9のX軸方向に延在する線状に示した仮想線であり、A-A’断面とC-C’断面との間に位置する。なお、母材1AのA-A’断面からC-C’断面までの区間は、「ネックダウン」と呼ばれることもある。A-A’断面は、ネックダウンの始まる断面と言い換えることができる。また、C-C’断面は、ネックダウンの終わる断面と言い換えることができる。また、線引き後の母材1Aは、偏波保持ファイバ1と言い換えることができる。
【0075】
ところで、溶融が始まってから溶融が終わるまでの母材1Aにおいて、すなわち、A-A’断面からC-C’断面までの母材1Aにおいて、溶融時粘度η1、η2、η3、η4のそれぞれの値は、Z軸方向の位置毎およびXY平面となる断面毎に異なり得る。なぜなら、溶融時粘度η1、η2、η3、η4は、それぞれ、母材1Aの温度に依存し、母材1Aの温度は、位置毎に異なり得るからである。そこで、位置(x、y、z)における溶融時粘度η1、η2、η3、η4を、それぞれ、η1(x、y、z)、η2(x、y、z)、η3(x、y、z)、η4(x、y、z)と表す。ここで、z軸は、母材1Aの長手方向に平行な座標軸であり、x軸及びy軸は、母材1Aの長手方向に直交する座標軸である。
【0076】
A-A’断面からC-C’断面までの各断面におけるη1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)は、それぞれ、その断面における溶融時粘度η1(x、y、z)、η2(x、y、z)、η3(x、y、z)、η4(x、y、z)の空間平均として定義される。例えば、A-A’断面における溶融時粘度η1(zA)、η2(zA)、η3(zA)、η4(zA)は、それぞれ、A-A’断面における溶融時粘度η1(x、y、zA)、η2(x、y、zA)、η3(x、y、zA)、η4(x、y、zA)の空間平均として定義される。また、B-B’線における断面(以下、B-B’断面と称する)の溶融時粘度η1(zB)、η2(zB)、η3(zB)、η4(zB)は、それぞれ、B-B’断面における溶融時粘度η1(x、y、zB)、η2(x、y、zB)、η3(x、y、zB)、η4(x、y、zB)の空間平均として定義される。また、C-C’断面における溶融時粘度η1(zC)、η2(zC)、η3(zC)、η4(zC)は、それぞれ、C-C’断面における溶融時粘度η1(x、y、zC)、η2(x、y、zC)、η3(x、y、zC)、η4(x、y、zC)の空間平均として定義される。
【0077】
A-A’断面からC-C’断面までの各断面における溶融時粘度η1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)のそれぞれの値は、XY平面となる断面毎に異なり得る。しかしながら、コア11の扁平化を実現するうえで本質的な点は、A-A’断面からC-C’断面までの各断面における溶融時粘度η1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)の値ではなく、A-A’断面からC-C’断面までの各断面における溶融時粘度η1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)の大小関係である。
【0078】
なお、本実施形態においては、下記の条件1を満たす母材1Aについて説明したが、これに限定されない。すなわち、下記の条件2または条件3を満たす母材1Aであっても、下記の条件1を満たす母材1Aと同様、コア11の扁平化を実現することができる。
【0079】
条件1:A-A’断面からC-C’断面までの任意の断面における溶融時粘度η1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)の間に、η3(z)≪η2(z)≪η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つ。また、この大小関係は、少なくとも冷却過程における溶融時粘度のη3(z)≪η2(z)≪η1(z)<η4(z)という大小関係でも成り立つ。また、この大小関係は、少なくとも冷却過程における溶融時粘度のη3(z)<η2(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係でも成り立つ。
【0080】
条件2:少なくとも冷却過程における溶融時粘度η1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)の間に、η3(z)<η1(z)<η2(z)<η4(z)という大小関係が成り立つ。
【0081】
条件3:少なくとも冷却過程における溶融時粘度η1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)の間に、η3(z)<η2(z)=η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つ。
【0082】
ここで、上述した条件1~3は、以下の通り纏めることができる。すなわち、少なくとも冷却過程における溶融時粘度η1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)の間に、η3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つ。ここで、冷却過程前後においては、溶融時粘度η1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)の間に、η3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係は必ずしも成立している必要はないが、この大小関係は成立していてもよい。
【0083】
ここで、上述した条件1~3の各条件において、コア11、内側クラッド12、応力付与部13a~13b、及び外側クラッド14の各部におけるそれぞれのドーパント濃度は、η3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)を満たす様に、設定されていればよい。例えば、コア11にゲルマニウムを添加する構成を採用し、内側クラッド12にリン、ゲルマニウム、及びフッ素を添加する構成を採用し、2つの応力付与部13a~13bに酸化ホウ素(B2O3)を添加する構成を採用し、外側クラッド14に塩素(Cl)以外のドーパントが意図的に添加されていない石英ガラスを採用する場合は、それぞれ以下のドーパント濃度が、η3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)を満たす様に設定されていればよい。すなわち、コア11おけるゲルマニウムの濃度を、例えば、10~30wt%と設定し、内側クラッド12におけるリン及びゲルマニウムの濃度を、それぞれ、例えば、0.5~2.0wt%及び1.5~5.0wt%と設定し、内側クラッド12における酸化ホウ素の濃度を、外側クラッド14の屈折率n4に対する内側クラッド12の屈折率n2の比屈折率差が0.1%以下になるように設定し、2つの応力付与部13a~13bにおける酸化ホウ素の濃度を、例えば、15~25mol%と設定し、外側クラッド14における塩素の濃度を、外側クラッド14の屈折率n4に対する内側クラッド12の屈折率n2の比屈折率差が0.1%以下になるように設定し、さらに、η3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)を満たす様に設定されていればよい。
【0084】
また、上述した条件1~3の各条件において、母材1Aの温度は、以下の(条件1)および(条件2)を満たす様に設定されていればよい。
【0085】
(条件1)少なくとも冷却過程直前におけるコア11、内側クラッド12、応力付与部13a~13b、及び外側クラッド14の各部のぞれぞれの温度が溶融温度以上を満たす。(条件2)少なくとも冷却過程における溶融時粘度η1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)の間に、η3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つ。
【0086】
ここで、「冷却過程における溶融時粘度η1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)」とは、温度が最も高くなるB-B’断面と細径化が終わるC-C’断面との間に挟まれた任意の断面における溶融時粘度η1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)のことを意味する。このため、溶融された母材1Aの冷却は、主としてB-B’断面とC-C’断面との間で行われ得る。
【0087】
また、ここでは、A-A’断面からC-C’断面までの各断面におけるη1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)の定義として、その断面における溶融時粘度η1(x、y、z)、η2(x、y、z)、η3(x、y、z)、η4(x、y、z)の空間平均を採用したが、これに限定されない。すなわち、A-A’断面からC-C’断面までの各断面におけるη1(z)、η2(z)、η3(z)、η4(z)の定義として、(a)その断面における溶融時粘度η1(x、y、z)、η2(x、y、z)、η3(x、y、z)、η4(x、y、z)の最小値を採用することもできるし、(b)その断面における溶融時粘度η1(x、y、z)、η2(x、y、z)、η3(x、y、z)、η4(x、y、z)の最大値を採用することもできるし、(c)その断面における溶融時粘度η1(x、y、z)、η2(x、y、z)、η3(x、y、z)、η4(x、y、z)の中央値を採用することもできる。これらの定義を採用した場合であっても、上記の条件1を満たす母材1Aであれば、コア11の扁平化を実現することができる。また、上記の条件2を満たす母材1Aであれば、コア11の扁平化を実現することができる。
【0088】
なお、上記の条件2を満たす母材1Aにおいては、当該母材1Aを溶融した際、任意の断面においてη3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つ。また、上記の条件2を満たす母材1Aから製造された偏波保持ファイバ1は、当該偏波保持ファイバ1を溶融した際、任意の断面においてη3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つ。すなわち、上記の製造方法に用いられる母材1Aは、溶融した際に任意の断面においてη3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つことによって特徴付けることができる。同様に、上記の製造方法により製造された偏波保持ファイバ1は、溶融した際に任意の断面においてη3(z)<η2(z)<η4(z)、かつ、η3(z)<η1(z)<η4(z)という大小関係が成り立つことによって特徴付けることができる。
【0089】
(効果に関する補足)
コア11にゲルマニウムが添加されると共に内側クラッド12にフッ素やリンなどのドーパントが共添加された偏波保持ファイバ1は、モードフィールド径が偏波保持ファイバ1よりも大きい、断面が円形のコアを有する他の光ファイバと融着接続する場合に、接続損失を小さく抑えることができるという効果を奏する。このような効果を奏する理由は、少なくとも2つある。
【0090】
第1の理由は、TEC(Thermally Diffused Expanded Core)技術として広く知られているように、融着接続時の加熱によってコア11に添加されたゲルマニウムが内側クラッド12に拡散し、その結果、偏波保持ファイバ1のモードフィールド径が拡大することである。第2の理由は、下記参考文献に示されているように、融着接続時の加熱によってコア11に添加されたゲルマニウムが内側クラッド12に拡散する際に、偏波保持ファイバ1のコアの断面の扁平度が低下する(例えば、楕円であったコアの断面が真円に近づく)ことである。
【0091】
参考文献:H. YOKOTA, et al., “Design of Polarization-Maintaning Optical Fiber Suitable for Thermally-Diffused Expanded Core Techniques,” IEICE TRANS. COMMUN., VOL. E80-B, NO. 4, pp516-521, APRIL 1997.
【0092】
なお、コア11にゲルマニウムが添加されると共に内側クラッド12にドーパントが共添加された偏波保持ファイバ1は、モードフィールドパターンが楕円形の基板型光導波路と接続する場合に、接続損失を小さく抑えることができるという効果を奏する。偏波保持ファイバ1と基板型光導波路との接続は、偏波保持ファイバ1を加熱することなく、コアの断面を扁平化した状態に保ったまま実現することができるからである。したがって、コア11にゲルマニウムが添加されると共に内側クラッド12にドーパントが共添加された偏波保持ファイバ1は、(a)モードフィールド径が偏波保持ファイバ1よりも大きい、断面が円形のコアを有する他の光ファイバと融着接続する場合に、偏波保持ファイバ1のモードフィールド径が他の光ファイバのモードフィールド径に近づきやすくなるため、接続損失を小さく抑えることができるという利点と、(b)モードフィールドパターンが楕円形の基板型光導波路と接続する場合に、接続損失を小さく抑えることができるという利点を兼ね備えた、優れた偏波保持ファイバであると言える。また、偏波保持ファイバ1を備えた光デバイス2(
図6~8参照)も、同様の利点を兼ね備えた、優れた光デバイスであると言える。
【0093】
〔付記事項〕
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
1 偏波保持ファイバ
11 コア
12 内側クラッド
13a~13b 応力付与部
14 外側クラッド
1A 偏波保持ファイバの母材
2 光デバイス
21 基板型光導波路(光導波路)
22 第1光ファイバ(偏波保持ファイバ)
23 第2光ファイバ