(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
B63B 11/02 20060101AFI20220901BHJP
【FI】
B63B11/02
(21)【出願番号】P 2018058251
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2020-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2017099061
(32)【優先日】2017-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503218067
【氏名又は名称】住友重機械マリンエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】岡山 優
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽介
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2013-0117425(KR,A)
【文献】実開昭55-175593(JP,U)
【文献】特開2017-036014(JP,A)
【文献】特開2015-202792(JP,A)
【文献】特開平08-119189(JP,A)
【文献】特開昭47-036391(JP,A)
【文献】SIGNIFICANT SHIPS OF 2016「TORDIS KNUTSEN:156,000dwt shuttle tanker」,2017年02月
【文献】船の科学,VOL.21 NO.5,日本,船舶技術協会,1968年05月10日,43頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 11/02
B63B 3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプが配置されるポンプ室と、前記ポンプ室より船首側に配置されるカーゴタンクと、液体を収容するスロップタンクと、を備えた船舶であって、
前記ポンプ室は、下部ポンプ室と、当該下部ポンプ室上に段差を介して配置された上部ポンプ室と、を備え、
前記下部ポンプ室の前記段差上に、前記スロップタンクが配置され、前記上部ポンプ室と前記スロップタンクとは、上甲板まで高さが延びるように形成され、
前記上部ポンプ室の横に前記スロップタンクの一部が配置され、
前記ポンプ室及び前記スロップタンクより船首側に前記カーゴタンクが配置されていることを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記下部ポンプ室の前記段差は、前記上部ポンプ室より船首側に突出する段差を備え、
この船首側に突出する段差上に、前記スロップタンクが配置されていることを特徴とする請求項1記載の船舶。
【請求項3】
前記下部ポンプ室の前記段差は、前記上部ポンプ室の左右両側へ突出する段差を備え、
この左右両側へ突出する段差上に、前記スロップタンクが配置されていることを特徴とする請求項1記載の船舶。
【請求項4】
前記下部ポンプ室と前記カーゴタンクとを隔てる下部ポンプ室前部横隔壁を貫通し、前記下部ポンプ室の前記ポンプと前記カーゴタンクとを繋ぐカーゴラインを備えることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の船舶。
【請求項5】
前記スロップタンクと前記カーゴタンクとを隔てるスロップタンク前部横隔壁に、船体の横方向に延びる水平ガーダを備え、
前記スロップタンクを形成する船尾側のスロップタンク後部横隔壁と、前記スロップタンク前部横隔壁との間には、縦方向に延びる補強用の複数のストラットが設けられていることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型の船舶の内部構造に関し、特にスロップタンクの配置に特徴のある船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タンカー等の船舶において、船尾側から船首側に向かって、主機等が配置される機関室、ポンプが配置されるポンプ室、スロップタンク、オイルを収容するカーゴオイルタンクが、横隔壁により仕切られてこの順に配設された船舶が知られている(例えば、特許文献1参照)。スロップタンクは、カーゴオイルタンクを洗浄した油汚水を油水分離するためのものであり、これらの機関室、ポンプ室、スロップタンク、カーゴオイルタンクは、その高さが、船体の内底板から上甲板までとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、最近にあっては、船舶の軽荷重量(船舶の自重)を軽減することが求められている。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、スロップタンクを構成する隔壁等の部材を軽量化できる船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による船舶は、ポンプが配置されるポンプ室と、ポンプ室より船首側に配置されるカーゴタンクと、液体を収容するスロップタンクと、を備えた船舶であって、ポンプ室は、下部ポンプ室と、当該下部ポンプ室上に段差を介して配置された上部ポンプ室と、を備え、下部ポンプ室の段差上に、スロップタンクが配置され、ポンプ室及びスロップタンクより船首側にカーゴタンクが配置されていることを特徴としている。
【0007】
このような船舶によれば、スロップタンクは、下部ポンプ室の段差上に配置されるため、スロップタンクの底部が従来技術の内底板より上方に位置することになり、スロップタンクの水頭が従来より低くなる。このため、スロップタンクに溜められる油汚水を始めとした液体の力を低減可能となり、スロップタンクの構成部品の軽量化を図ることができる。
【0008】
ここで、下部ポンプ室の段差は、上部ポンプ室より船首側に突出する段差を備え、この船首側に突出する段差上に、スロップタンクが配置されていると、スロップタンクの容量を容易に確保できる。
【0009】
また、下部ポンプ室の段差は、上部ポンプ室の左右両側へ突出する段差を備え、この左右両側へ突出する段差上に、スロップタンクが配置されていても、スロップタンクの容量を容易に確保できる。
【0010】
また、下部ポンプ室とカーゴタンクとを隔てる下部ポンプ室前部横隔壁を貫通し、下部ポンプ室のポンプとカーゴタンクとを繋ぐカーゴラインを備えているのが好ましい。このような構成を採用した場合、カーゴラインは、下部ポンプ室とカーゴタンクを隔てる横隔壁を貫通するため、従来技術のような、カーゴラインが、ポンプ室とスロップタンクとを隔てる横隔壁、スロップタンクとカーゴタンクとを隔てる横隔壁の2つの横隔壁を貫通する場合に比して、貫通箇所が減っており、工作性を向上できる。また、スロップタンクに従来配置されていたカーゴラインがなくなるため、スロップタンクにおける例えば梯子等の艤装品の配置の自由度を高めることができる。
【0011】
また、スロップタンクとカーゴタンクとを隔てるスロップタンク前部横隔壁に、船体の横方向に延びる水平ガーダを備え、スロップタンクを形成する船尾側のスロップタンク後部横隔壁と、スロップタンク前部横隔壁との間には、船体の縦方向に延びる補強用の複数のストラットが設けられているのが好ましい。このような構成を採用した場合、水平ガーダに加えて、ストラットが複数設けられているため、水平ガーダを、大型化することなく小さいガーダとすることができ、軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明によれば、スロップタンクの構成部品の軽量化を図ることが可能な船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る船舶の船尾側を示し、上甲板下の平面図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿った断面図であり、船舶全体を示す図である。
【
図3】
図1のIII-III線に沿った断面図である。
【
図4】スロップタンク、ポンプ室、機関室及びコファダムを示す斜視図である。
【
図8】スロップタンクの構造を説明するための平面図である。
【
図9】スロップタンクの構造を説明するための縦断面図である。
【
図10】本発明の他の実施形態に係る船舶の船尾側を示し、スロップタンク、ポンプ室、機関室及びコファダムを示す斜視図である。
【
図11】比較例の船舶及び本発明の実施形態に係る船舶の船尾側の構造を示す断面図である。
【
図12】比較例の船舶の船尾側の構造を示す平面図である。
【
図13】比較例の船舶及び本発明の実施形態に係る船舶のレーダー照射による液面検出の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による船舶の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、「前」「後」の語は船体の進行方向に対応するものであり、「縦」の語は前後方向に対応するものであり、「横」の語は船体の左右(幅)方向に対応するものであり、「上」「下」の語は船体の上下方向に対応するものである。なお、「前」「後」と「縦」の語、「横」と「左」「右」の語は、文中適宜使い分けられている。また、図面においては、便宜上、各部材の板厚はほぼ省略されている。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る船舶の船尾側を示し、上甲板下の平面図、
図2は、
図1のII-II線に沿った断面図であり、船舶全体を示す図、
図3は、
図1のIII-III線に沿った断面図、
図4は、スロップタンク、ポンプ室、機関室及びコファダムを示す斜視図、
図5は、ポンプ室を示す斜視図、
図6は、機関室を示す斜視図、
図7は、コファダムを示す斜視図、
図8は、スロップタンクの構造を説明するための平面図、
図9は、スロップタンクの構造を説明するための縦断面図であり、船舶は、ここでは、オイルタンカーである。
【0016】
図2に示すように、船舶10は、船体11、推進器及び舵(不図示)を備え、船首部は、船体11の前方側(図示右側)に位置し、船尾部は、船体11の後方側(図示左側)に位置している。船体11は、天井面を構成する上甲板12と、
図1及び
図2に示すように、船体11の外殻を形成する外板(外壁)13と、外板13の船体内側に水密に設けられた内板(内壁)14とを備え、外板13及び内板14によって、二重船殻構造(ダブルハル構造)が構成されている。
【0017】
外板13は、船底側の外殻を構成する船底外板15と、船側側の外殻を構成する船側外板16と、を備える。一方、内板14は、船底側において縦方向に延在する内底板17と、船側側において縦方向に延在する縦通隔壁18と、を含む。
図2に示すように、船底の内底板17は、船首側から機関室20を形成する第1横隔壁31(詳しくは後述)まで延びており、
図1に示すように、船側の縦通隔壁18は、船首側からスロップタンク22を構成する第3横隔壁33(詳しくは後述)まで延びている。
【0018】
この船体11では、
図1及び
図2に示すように、内板14よりも内側に、船尾側から船首側に向かって中心線に沿って、機関室20、ポンプ室21、スロップタンク22、カーゴオイルタンク23~28がそれぞれ形成され、
図4に示すように、ポンプ室21の後部側方及び機関室20の側方には、コファダム29が形成される。上記各空間は、
図2に示すように、船体11の前後方向(縦方向)に沿って離間配置される第1横隔壁31~第10横隔壁40により仕切られている。
【0019】
具体的には、第1横隔壁31と第2横隔壁32との間には、主機等が配置される機関室20(
図4及び
図6参照)が形成され、第2横隔壁32の中央部と第3横隔壁33の中央部との間には、ポンプ室21を構成する上部ポンプ室21a(
図4及び
図5参照)が形成される。第2横隔壁32の中央部より外側と第3横隔壁33の中央部より外側との間には、主機等で用いる燃料タンクや空間であるコファダム29(
図3、
図4、
図7参照)が形成され、第3横隔壁33と第4横隔壁34の上部との間には、スロップタンク22(
図3及び
図4参照)が形成される。スロップタンク22は、カーゴオイルタンク23~28を洗浄した油汚水を蓄え、静置し油水分離するためのものであり、分離後の下層の水は船外に排出される。なお、スロップタンク22は、油汚水を溜める用途以外にも、カーゴオイルを積載して、カーゴオイルタンクとして使用する場合もある。
【0020】
図2に示すように、第4横隔壁34と第5横隔壁35との間には、重油等の液体を積載するカーゴオイルタンク23が形成され、同様に、第5横隔壁35~第10横隔壁40との間には、カーゴオイルタンク24~28がそれぞれ仕切られ形成される。また、
図1~
図4に示すように、外板13と内板14との間の空間は、バラスト水を張水するバラストタンク41とされている。このバラストタンク41も、
図1に示す第3横隔壁33~第10横隔壁40により前後方向に仕切られている。なお、スロップタンク22及びカーゴオイルタンク23~28並びにバラストタンク41は、
図1に示すように、左右方向中央に配置され前後方向に延びる縦通隔壁(センターラインバルクヘッド)50によって左右に仕切られている。因みに、縦通隔壁50は左右に2個以上並設されることもある。
【0021】
上部ポンプ室21aを有するポンプ室21は、
図2~
図5に示すように、その下部に下部ポンプ室21bを備える。下部ポンプ室21bと上部ポンプ室21aとは甲板51の位置を上下方向の境界部分として区分けされている。ただし、上部ポンプ室21aと下部ポンプ室21bとは、空間としては互いに連続している。
【0022】
下部ポンプ室21bは、内底板17と、両側の船側外板16,16と、第4横隔壁34の下部52と、この第4横隔壁34の下部52に対向すると共に、内底板17及び両側の船側外板16,16に連結された下部ポンプ室後部横隔壁53と、これらの上蓋となる甲板51とで囲まれた空間である。第4横隔壁34の下部52は、第4横隔壁34の上部54に面一で繋がり、下部ポンプ室21bを形成する下部ポンプ室前部横隔壁となっている。
【0023】
上部ポンプ室21aは、下部ポンプ室21bの甲板51の略中央部から上方へ延びる略直方体形状の筒体であり(
図5参照)、上部ポンプ室21aと下部ポンプ室21bとは、甲板51を貫通する開口55を通して連通されている。
【0024】
上部ポンプ室21aのより具体的な形状を説明する。
図4に示すように、第3横隔壁33は、第2横隔壁32から所定間隔船首側に離間することで段差33aを有すると共に、その中央部がさらに船首側に向かって凸となることで段差33bを有する。この第3横隔壁33の船首側に向かって最も凸となる凸部56と当該凸部56に対向する第2横隔壁32の中央部とを、上下方向に延び左右方向に対向すると共に下部ポンプ室21bの甲板51に達する縦隔壁57,57により連結する。これにより、前述した直方体形状の上部ポンプ室21aが形成される(
図5参照)。
【0025】
なお、上述の説明では、各隔壁で空間を区切ることによってポンプ室21を構成していた。これに代えて、まずポンプ室21を形成し、このようなポンプ室21に対して、周辺から壁部を連結させることで、上述の
図3及び
図4に示すような形状を有する各隔壁32,33,34を構成してよい。すなわち、まず
図5に示す横方向に延びる下部ポンプ室21bと上下方向に延びる上部ポンプ室21aを形成する。これら下部ポンプ室21b及び上部ポンプ室21aより成るポンプ室21に対して、周囲から壁部を連結させることで、
図3及び
図4に示すような形状を有する第2横隔壁32、第3横隔壁33及び第4横隔壁34を構成してもよい。
【0026】
スロップタンク22は、
図2~
図4に示すように、上述した段差形状の第3横隔壁33と、第4横隔壁34の上部54と、両側の縦通隔壁18,18と、甲板51で囲まれる空間であり、甲板51上に配置される。甲板51は、上部ポンプ室21aと下部ポンプ室21bとの間の段差58を形成する。当該段差58は、上部ポンプ室21aより船首側に突出する部分である段差68を含む。そして、第3横隔壁33が、スロップタンク後部横隔壁を形成し、第4横隔壁34の上部54がスロップタンク前部横隔壁を形成している。なお、「段差」とは、上部ポンプ室21aを構成するために上下方向に延びる隔壁の下端と、下部ポンプ室21bを構成するために上下方向に延びる隔壁の上端との間で延びる、水平方向に沿って広がる壁部のことである。本実施形態では、「段差」を構成する壁部は、水平方向と平行に広がっているが、完全に水平方向と平行になっていなくともよく、水平方向に広がる方向成分を有している限り、傾斜、湾曲等していてもよい。
【0027】
また、
図9に示すように、スロップタンク前部横隔壁54とスロップタンク後部横隔壁33と上甲板12には、縦方向に延びるガーダ59が連結されている。このガーダ59は、横方向に沿って複数設けられている。また、
図8に示すように、スロップタンク前部横隔壁54には、船尾側に、横方向に延びる水平ガーダ(ホリゾンタルガーダ)60が連結される。この水平ガーダ60は、縦通隔壁18,18同士に連結され、
図9に示すように、上下方向に複数個(ここでは3つ)が設けられている。また、スロップタンク前部横隔壁54には、垂直方向に延びる垂直スチフナ61が連結されている。
図8及び
図9に示すように、スロップタンク後部横隔壁33とスロップタンク前部横隔壁54との間には、前後方向(縦方向)に延びスロップタンク後部横隔壁33と水平ガーダ60及び垂直スチフナ61とに連結されるストラット62が複数設けられている。ストラット62は、横方向に沿って複数(ここでは6つ)が配置されると共に、上下方向に沿って複数(ここでは2つ)が配置される。なお、水平ガーダ60は、スロップタンク前部横隔壁54の船尾側に連結されているが、船首側に連結されていても良い。この場合には、ストラット62は、スロップタンク前部横隔壁54に連結される。
【0028】
そして、
図2に示すように、前述したポンプ室21の下部ポンプ室21bには、複数のポンプ48が配置される。また、機関室20において、機関室側(船尾側)へ突出する下部ポンプ室21bの段差上には、各ポンプ48を駆動するためのタービン49がそれぞれ配置される。また、ポンプ室21から各カーゴオイルタンク23~28へ延びるカーゴオイルライン47が配設される。カーゴオイルライン47は、下部ポンプ室前部横隔壁52(第4横隔壁34)を貫通して船首側へ延び、第5横隔壁35~第9横隔壁39を貫通する。ポンプ室21のポンプ48は、カーゴオイルライン47を通して、各カーゴオイルタンク23~28へオイルを供給したり、各カーゴオイルタンク23~28のオイルを排出したりする。
【0029】
また、カーゴオイルタンク23~28には、ポンプ室21及びスロップタンク22の位置から縦方向(前後方向)向かって等間隔に配置される複数のトランスリング(不図示)が設けられている。スロップタンク22は、下部ポンプ室21bの段差58上に位置しているため、スロップタンク22のトランスリングの前後方向の間隔は、カーゴオイルタンク23~28のトランスリング同士の間隔とは異なっていても良く、スロップタンク22の前後方向長さによっては、スロップタンク22にトランスリングを設けなくても良い。スロップタンク22に対して設けられるトランスリングは、1つであってもよく、2つ以上であっても良い。
【0030】
次に、本実施形態に係る船舶10の作用・効果について説明する。ここでは、船舶10の比較例に係る船舶の構成について説明する。
図11(a)に示すように、比較例の船舶は、第3横隔壁133と第4横隔壁134との間に形成されるスロップタンク122を有する。第3横隔壁133の下端は、内底板17まで延びている。従って、ポンプ室121の船首側には、上部ポンプ室121aと下部ポンプ室121bとの間に段差が設けられていない。このため、スロップタンク122の底部122aは内底板17の位置に形成される。スロップタンク122は、ポンプ室121の船首側に隣り合うように配置される。
【0031】
このような比較例に係る船舶では、
図12に示すように、ポンプ室121とカーゴオイルタンク23との間にスロップタンク122が設けられている。従って、スロップタンク122の底部122aにカーゴオイルライン47が配置される。そのため、スロップタンク122は、カーゴオイルライン47を配置するための面積を底部122aに確保している。更には、スロップタンク122は、レーダーで液面を検出するために、測定領域MPを底部122aに確保する必要がある。
図13に示すように、比較例のスロップタンク122の上部122bにレーダー式液面計160を配置した場合、当該レーダー式液面計160は、底部122aに設定された測定領域MPへ向かってビームを照射して液面を測定する。円形の測定領域MPとレーダー160との間に形成される円錐状の領域には、ビームと干渉しないように、他の部材及び艤装品が配置されないようにする必要がある。従って、当該円錐状の領域と干渉しないようにカーゴオイルライン47を配置する必要があるため、底部122aの面積を更に広くする必要がある。このように、スロップタンク122は、底部122aに広い面積を確保する必要があるため、それに伴って容量も大きくなる。従って、第4横隔壁134と第3横隔壁133との間の距離を大きく確保する必要があった。また、スロップタンク122は、内底板17の位置まで深さを有するため、油汚水を溜めたときに底部122a付近における水圧が大きくなる。そのため、当該水圧に耐えられるように、スロップタンク122の構成部品の厚みを大きくしたり、補強部材を設けるなどの設計が必要となる。
【0032】
これに対し、本実施形態の船舶10によれば、スロップタンク22が、下部ポンプ室21bの段差58上に配置されるため、スロップタンク22の底部が従来技術(例えば、上述の比較例の構造)の内底板17より上方に位置することになり、スロップタンク22の水頭が従来より低くなっている。このため、スロップタンク22に溜められる油汚水や積載されるカーゴオイルの水圧を低減可能となり、スロップタンク22の構成部品の軽量化を図ることができる。
【0033】
より詳細には、比較例のスロップタンク122の底部122aが内底板17の位置に設定されているのに対し、本実施形態のスロップタンク22の底部22aは、下部ポンプ室21bの段差58の位置に設定される。例えば、スロップタンク122の油汚水の液面とスロップタンク22の油汚水の液面を同一とした場合、深さが浅いスロップタンク22の方が水頭が低くなる。従って、底部122a付近に作用する水圧と底部22a付近に作用する水圧を比較したら、底部22a付近に作用する水圧の方が低くなる。また、比較例のようにスロップタンク122の容量が大きい場合は、考慮するべき慣性力も大きくなるが、本実施形態に係るスロップタンク22では考慮すべき慣性力も小さくすることができる。従って、作用する力が小さくなる分、本実施形態のスロップタンク22の構造部品を薄くしたり、補強部材を低減する事などが可能となる。これにより、スロップタンク22の構造部品の軽量化を図ることができる。
【0034】
また、下部ポンプ室21bの段差58は、上部ポンプ室21aより船首側に突出する段差68を備え、この船首側に突出する段差68上に、スロップタンク22が配置されているため、スロップタンク22の容量を容易に確保できる。
【0035】
また、カーゴオイルライン47は、下部ポンプ室21bとカーゴオイルタンク23を隔てる下部ポンプ室前部横隔壁52を貫通するため、従来技術のような、カーゴオイルラインが、ポンプ室とスロップタンクとを隔てる横隔壁、スロップタンクとカーゴオイルタンクとを隔てる横隔壁の2つの横隔壁を貫通する場合に比して、貫通箇所が減っており、工作性の向上が図られている。また、スロップタンク22には、従来配置されていたカーゴオイルライン47がなくなるため、スロップタンク22における例えば梯子等の艤装品の配置の自由度を高めることができる。
【0036】
また、比較例に係るスロップタンク122では、底部122aにカーゴオイルライン47を配置するための面積を確保する必要があるため、スロップタンク122の容量が大きくなっていた。これに対し、本実施形態に係るスロップタンク22では、カーゴオイルライン47を配置するための面積を確保する必要がなくなる。従って、底部22aの面積は、油水分離性能を確保するための必要最低限の面積に抑えることも可能となる。これにより、スロップタンク22の容量を小さくすることができる。
【0037】
図11(b)に示すように、スロップタンク22の容量を小さくすることで、第4横隔壁34を比較例の第4横隔壁134に比して大きく船尾側へ寄せることができる。ここで、ポンプ室21は、スロップタンク22を配置するための段差58を確保すべく、下部ポンプ室21bを船首側へ張り出させる構成を有している。従って、下部ポンプ室21bの船首側の容量を増やした分、上部ポンプ室21aの容量を小さくすることが可能となる。例えば、比較例において上部ポンプ室121aに配置されていた構造物150は、下部ポンプ室21bの段差58の下側のスペースに配置可能となる。これにより、第3横隔壁33を比較例の第3横隔壁133よりも船尾側へ寄せることが可能となり、それに伴ってスロップタンク22を更に船尾側へ寄せることが可能となる。以上により、本実施形態に係る船舶10は、比較例に比して、カーゴオイルタンク23の容量を大きくすることが可能となる。
【0038】
また、スロップタンク22とカーゴオイルタンク23とを隔てるスロップタンク前部横隔壁54に、船体11の横方向に延びる水平ガーダ60を備え、スロップタンク22を形成するスロップタンク後部横隔壁33と、スロップタンク前部横隔壁54との間に、縦方向に延びる補強用の複数のストラット62が設けられている、すなわち、水平ガーダ60に加えて、ストラット62が複数設けられているため、水平ガーダ60を、大型化することなく小さいガーダとすることができ、軽量化を図ることができる。
【0039】
より詳細には、比較例のスロップタンク122は、容量が大きいため、第3横隔壁133と第4横隔壁134との間の寸法が大きくなっていた。このように寸法の大きい箇所に縦方向に延びるストラットを設けた場合、当該ストラットは座屈に対して弱くなるため、十分な強度を確保し難い場合がある。従って、比較例のスロップタンク122は、ストラットを設ける事が出来ない分、大きな水平ガーダ153が必要であり、且つ、水平ガーダ153でレーダーの測定領域MPと干渉しないように第4横隔壁134の船頭側に平行ガーダ153を設けることで強度を確保していた(例えば、
図12を参照)。これに対し、本実施形態のスロップタンク22は、容量が小さく縦方向の寸法が小さいため、ストラットの座屈の影響を小さくできる。すなわち、スロップタンク22に対して複数のストラット62を設けることが可能となることで、その分、比較例に比して水平ガーダ60を小さくすることが可能となる。更には、水平ガーダ60を小さくできる分、第4横隔壁134の船尾側に水平ガーダ60を設けてもレーダーの測定領域MPと干渉することを回避できる。このように、本実施形態では、水平ガーダ60を第4横隔壁134の船尾側に設けることが可能となる。更には、水平ガーダ60を船尾側に設けることで、ストラット62のスパンを短くすることができ、軽量化を図ることができるという相乗効果も得ることができる。
【0040】
また、本実施形態にあっては、スロップタンク22を構成する上甲板12に、液面を検出するためのレーダー式液面計(不図示)を配設して、スロップタンク22の液面を検出するようにしている。このため、以下の作用・効果を奏する。すなわち、スロップタンク22の底部が従来に比して上方に位置することになり、レーダー照射するのに必要なタンク底部の面積を従来に比して小さくでき、艤装品の配置の自由度が一層高くなる。また、スロップタンク22には、レーダー照射の最大の邪魔となるカーゴオイルライン47がないため、照射位置(レーダー式液面計の配置)の制約を低減できる。
【0041】
より詳細には、
図13(b)に示すように、測定領域MPが設定される底部22aは、比較例の底部122aよりも高い位置に設定されている。従って、底部122aの測定領域MPの直径をD1とし、底部22aの測定領域MPの直径D2とした場合、底部22aの測定領域MPの直径D2の方が小さくなる。従って、レーダー照射を行うのに必要な底部22aの面積を比較例に比して小さくすることができる。
【0042】
さらに、本実施形態にあっては、上述したように、スロップタンク22においてトランスリングはあってもなくても良く、また、トランスリングを設ける場合、スロップタンク22のトランスリングの前後方向の間隔を、カーゴオイルタンク23~28のトランスリング同士の前後方向の間隔に揃える必要がないため、スロップタンク22を前後方向に短くできる。その結果、スロップタンク22の軽量化を一層図ることができる。なお、このように、スロップタンク22を従来に比して前後方向に短くしているが、スロップタンク22に、従来技術のスロップタンクに入れる場合と同量の油汚水を入れた場合には、従来技術のスロップタンクに入れる場合よりも水頭が上がることになるので、油水分離の性能は維持できる。
【0043】
図10は、本発明の他の実施形態に係る船舶の船尾側を示し、スロップタンク、ポンプ室、機関室及びコファダムを示す斜視図である。
【0044】
この実施形態が先の実施形態と違う点は、先の実施形態の上部ポンプ室21aの船首側の横隔壁(第3横隔壁33の凸部56(
図4参照))をさらに船首側に位置させて下部ポンプ室21bの下部ポンプ室前部横隔壁52と面一とすると共に、上部ポンプ室21aと下部ポンプ室21bとの間の段差58を、上部ポンプ室21aの左右両側へ突出する段差69,69とし、スロップタンク22を、ポンプ室21より船首側へ位置させることなく、上部ポンプ室21aの左右両側の段差69,69上に配置した点である。このように構成しても、先の実施形態と同様に、スロップタンク22の容量を容易に確保できる。
【0045】
なお、スロップタンク22は、左舷側の槽と右舷側の槽との二つの槽に仕切られている。一方の槽では、新たに供給されてきた油汚水を溜めておき、油水分離を行う。他方の槽では、一方の槽で油水分離された処理水を溜めておく。従って、一方の槽と他方の槽との間は、連通流路で接続されている。
図10の形態を採用した場合、スロップタンク22の一方の槽と他方の槽とは、離間された状態で配置されている。従って、スロップタンク22の外側に配管を設け、当該配管で両方の槽が接続される。一方、
図4の形態では、一方の槽と他方の槽とは、一枚の仕切り用の隔壁を挟んで隣接した状態で配置されている。従って、仕切り用の隔壁に連通孔を設けることで、両方の槽が接続される。このように、
図4の形態を採用した場合、スロップタンク22の外側に配置される配管を省略することができる。
【0046】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、上記実施形態においては、タンクをカーゴオイルタンクとし、船舶をオイルタンカーとしているが、液化天然ガスをカーゴタンクに収容し、カーゴオイルラインをカーゴラインとしたLPG船や、液体をカーゴタンクに収容した船舶等に対しても適用でき、また、二重船殻構造を採用していない船舶に対しても適用でき、また、前述したように、スロップタンク22は、油汚水以外にも、タイミングによっては、カーゴタンクに収容される液体が溜められてもよい。本発明は、ポンプが配置されるポンプ室と、液体を収容するスロップタンクと、ポンプ室より船首側に配置されるカーゴタンクと、を備えた船舶に対して適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
10…船舶、11…船体、21…ポンプ室、21a…上部ポンプ室、21b…下部ポンプ室、22…スロップタンク、23~28…カーゴオイルタンク(カーゴタンク)、33…スロップタンク後部横隔壁(第3横隔壁)、47…カーゴオイルライン(カーゴライン)、48…ポンプ、52…下部ポンプ室前部横隔壁(第4横隔壁の下部)、54…スロップタンク前部横隔壁(第4横隔壁の上部)、58,68,69…段差、60…水平ガーダ、62…ストラット。