IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ニコトランスミッションの特許一覧

<>
  • 特許-ハイブリッド型トランスミッション 図1
  • 特許-ハイブリッド型トランスミッション 図2
  • 特許-ハイブリッド型トランスミッション 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】ハイブリッド型トランスミッション
(51)【国際特許分類】
   B60K 6/36 20071001AFI20220901BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20220901BHJP
   B60K 6/387 20071001ALI20220901BHJP
   F16H 3/14 20060101ALN20220901BHJP
【FI】
B60K6/36 ZHV
B60K6/48
B60K6/387
F16H3/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018086531
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019189146
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】303025663
【氏名又は名称】株式会社日立ニコトランスミッション
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】内藤 英美
(72)【発明者】
【氏名】柄沢 亮
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 修如
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-030750(JP,A)
【文献】特開2014-136495(JP,A)
【文献】特開2009-090769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20- 6/547
B60W 10/00-20/50
F16H 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力が入力される第1入力軸と、
前記第1入力軸を介して入力された動力を出力する出力軸へ伝達するエンジン系変速手段と、
前記エンジン系変速手段に備えられ、前記エンジンの動力によって得られる油圧により作動圧を得る油圧クラッチと、
モータからの動力が入力される第2入力軸と、
前記第2入力軸を介して入力された動力を前記出力軸へ伝達するモータ系変速手段と、
前記モータ系変速手段に備えられるエア圧によって作動可能な構成としている噛み合いクラッチと、を有することを特徴とするハイブリッド型トランスミッション。
【請求項2】
前記噛み合いクラッチは、手動動作によって作動可能な構成としていることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド型トランスミッション。
【請求項3】
前記噛み合いクラッチは、前記エンジンの動力を前記モータに伝達する動力伝達系を構成する切替ポジションを備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド型トランスミッション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスミッションに係り、特に、エンジン駆動による車両の進行と、モータによる車両の進行の切り替えを可能としたハイブリッド型のトランスミッションに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンとモータの双方の駆動系を持つ、いわゆるハイブリッド型の車両は、様々なタイプのものが研究、開発されてきている。例えば特許文献1に開示されている鉄道車両は、駆動手段としてディーゼルエンジンとモータを備えるものであるが、それぞれを別々の車軸を駆動するように配置している。そして、低速運転時にモータを主体とした運転を行い、中高速運転時には、ディーゼルエンジンを主体とした運転を行うように構成している。また、特許文献1に開示されている車両では、減速時にはモータを発電機として活用し、ディーゼルエンジンは、モータによる運転中であってもアイドリング状態を維持する事が記載されている。
【0003】
これに対し、特許文献2に開示されている技術は、モータによる運転時には、エンジンを停止することも可能とする点が示されている。特許文献2に開示されているハイブリッド型の車両は、モータのみを稼働させた状態での運転や、エンジンのみを稼働させた状態での運転の他、エンジンでの車両運転時にモータの駆動力によるアシスト、および制動時におけるモータによるエネルギの回収(回生エネルギの取得)を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-350308号公報
【文献】特開2010-241390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示されている車両によれば、エンジンによる運転の他、モータのみの動力による運転も可能となる。しかし、特許文献1、2に開示されている車両はいずれも、モータの動力伝達系統を出力軸から切り離すことができない。このため、エンジンによる運転時にモータが駆動していない場合、意図しているか、していないかを問わず、モータは、実質的に抵抗として働き、エンジンの出力をロスしていることとなる。
【0006】
本発明では、エンジンとモータの双方のうちの一方のみの動力による運転時において、不使用の動力源を機械的に切り離すことを可能とするハイブリッド型トランスミッションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るハイブリッド型トランスミッションは、エンジンからの動力が入力される第1入力軸と、前記第1入力軸を介して入力された動力を出力する出力軸へ伝達するエンジン系変速手段と、前記エンジン系変速手段に備えられ、前記エンジンの動力によって得られる油圧により作動圧を得る油圧クラッチと、モータからの動力が入力される第2入力軸と、前記第2入力軸を介して入力された動力を前記出力軸へ伝達するモータ系変速手段と、前記モータ系変速手段に備えられる噛み合いクラッチと、を有することを特徴とする。
【0008】
また、上記のような特徴を有するハイブリッド型トランスミッションにおいて、前記噛み合いクラッチは、エア圧によって作動可能な構成とすると良い。このような特徴を有する事により、エンジンを停止させ、油圧を得られない場合であっても、噛み合いクラッチを作動させ、モータによる動力を出力軸へ伝達することが可能となる。
【0009】
また、上記のような特徴を有するハイブリッド型トランスミッションにおいて、前記噛み合いクラッチは、手動動作によって作動可能な構成とすることもできる。このような特徴を有する事により、エンジンを停止させ、油圧を得られない場合に加え、十分なエア圧の供給が得られない場合であっても、噛み合いクラッチを作動させ、モータによる動力を出力軸へ伝達することが可能となる。
【0010】
さらに、上記のような特徴を有するハイブリッド型トランスミッションにおいて、前記噛み合いクラッチは、前記エンジンの動力を前記モータに伝達する動力伝達系を構成する切替ポジションを備えるようにしても良い。このような特徴を有することにより、エンジンを動力とした運転時には、意図的に、モータをジェネレータとして働かせ、発電を行うことも可能となる。
【発明の効果】
【0011】
上記のような特徴を有するハイブリッド型トランスミッションによれば、エンジンとモータの双方のうちの一方のみの動力による運転時において、不使用の動力源を機械的に切り離すことが可能となる。よって、エンジンの動力による運転を行っている際に、モータが抵抗となり、出力ロスを招かないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係るトランスミッションの構成を示す模式図である。
図2】実施形態に係るトランスミッションにおける回転軸の配置関係を説明するための模式図である。
図3】第2実施形態に係るトランスミッションの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のハイブリッド型トランスミッションに係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明に係るハイブリッド型トランスミッションを構成する上で好適な形態の一部であり、その効果を奏する限りにおいて、構成の一部を変更した場合であっても、本発明の一部とみなすことができる。
【0014】
[第1実施形態]
まず、図1を参照して、第1実施形態に係るハイブリッド型トランスミッションについて説明する。本実施形態に係るハイブリッド型トランスミッション(以下、単にトランスミッション10と称す)は、第1入力軸12と第2入力軸24、出力軸32、エンジン系変速手段36、及びモータ系変速手段38を基本として構成されている。
【0015】
第1入力軸12は、エンジン(例えばディーゼルエンジン)からの動力が入力される軸であり、入力側には、カップリング14が備えられている。カップリング14は、エンジンの出力軸からの動力を伝達する回転軸16と、第1入力軸12との間に介在される継手である。図1に示すように、カップリング14を流体継手とすることで、油圧により、第1入力軸12に入力される動力の回転数やトルクの調節を行うことが可能となる。
【0016】
また、本実施形態に係る第1入力軸12には、ポンプ駆動用のギア20の他、エンジン系変速手段36を構成するバックギア36a1と、伝達ギア36a2を有する油圧クラッチ36aが備えられている。なお、ポンプ駆動用のギア20とは、第1入力軸12の回転に伴い回転し、油圧ポンプ22の駆動軸22aを回転させるための要素である。油圧ポンプ22は、エンジン系変速手段36を構成する油圧クラッチ36a,36b,36cを稼働させる作動油を供給する他、各摺動部に潤滑油を供給する役割を担う。
【0017】
第2入力軸24は、モータ26からの動力が入力される軸であり、カップリング28を介してモータ26の回転軸26aと接続される。第2入力軸24は、駆動モード選択軸40を含むモータ系変速手段38へ、モータ26の動力を伝達する要素である。第2入力軸24には、駆動モード選択軸40に動力を伝達するためのギア30が備えられている。駆動モード選択軸40には、噛み合いクラッチ42を備え、後段のギア44,46への動力の伝達、切り離しを可能な構成としている。
【0018】
本実施形態に係る噛み合いクラッチ42は、シフター部にエアシリンダ48を備える構成とされている。このような構成とすることで、噛み合いクラッチ42は、エア圧により、噛み合い状態と切離状態との切り替えを行うことが可能となる。なお、シフター部には、噛み合いクラッチ42の状態切替を手動で行うための切替レバー50も備えられている。このような構成とすることで、噛み合いクラッチ42の状態切替を行うためのエア圧が充分に確保できない場合であっても、噛み合いクラッチ42の状態切替を行うことが可能となる。
【0019】
出力軸32は、エンジン系変速手段36またはモータ系変速手段38を介して回転数、およびトルクが変換された動力の出力を行う役割を担う回転軸である。本実施形態の場合、エンジン系変速手段36およびモータ系変速手段38と出力軸32との間に、共通する変速軸34が介在されている。
【0020】
エンジン系変速手段36は、第1入力軸12と出力軸32(変速軸34)の間に介在される変速手段であり、複数の回転軸と複数のギア、および油圧クラッチ36a,36b,36cを介して動力の伝達、回転数、トルクの変換、および回転方向の変更を行う要素である。
【0021】
本実施形態の場合、油圧クラッチ36aを構成する伝達ギア36a2は、フロントギア36b1を備えた油圧クラッチ36bを構成する伝達ギア36b2に噛み合い、第1入力軸12の動力を油圧クラッチ36bの回転軸に伝達するように構成されている。
【0022】
本実施形態に係るトランスミッション10は、図2に示すように、出力軸32を取り囲むようにエンジン系変速手段36を構成する回転軸と、モータ系変速手段38を構成する回転軸が、それぞれ配置されている。そして、バックギア36a1とフロントギア36b1は共に、油圧クラッチ36cを構成する伝達ギア36c1に噛み合い、油圧クラッチ36aと油圧クラッチ36bのいずれかの稼働により、伝達される動力の回転方向を変化させることが可能に構成されている。
【0023】
モータ系変速手段38は、第2入力軸24と出力軸32(変速軸34)の間に介在される変速手段であり、複数の回転軸と複数のギアを有し、回転数、およびトルクの変換を行う要素である。上述したように、本実施形態に係るトランスミッション10は、出力軸32を囲むようにエンジン系変速手段36と、モータ系変速手段38が配置されており、それぞれ別個の動力伝達系統を備えている。そして、油圧クラッチ36a,36b、および噛み合いクラッチ42の切り替え稼働により、動力の回転方向や、伝達系統の切り替えが可能となる。
【0024】
このような構成のトランスミッション10では、エンジン駆動時には、油圧ポンプ22によって得られる油圧をエンジン系変速手段36に備えられた油圧クラッチ36a,36b,36cに作動油として供給することで、動力の伝達を可能にしている。なお、油圧ポンプ22は、各摺動部に対して潤滑油を供給する役割も担う。
【0025】
一方、エンジンを停止させ、モータ26により駆動を行う際には、エア圧により噛み合いクラッチ42を作動させ、モータ系変速手段38を介して、モータ26の動力を出力軸32に伝達する構成としている。なお、噛み合いクラッチ42を作動させるためのエア圧は、エンジン駆動時に図示しないコンプレッサを作動させて貯留しておけば良い。ここで、エンジン停止時における摺動部の潤滑油は、モータ26の回転軸26aに備えられたギア30から動力を得る潤滑ポンプ18によってまかなわれるように構成されている。油圧クラッチ36a,36b,36cの作動油を供給する必要の無い潤滑ポンプ18は、油圧ポンプ22に比べ、小さな容量のポンプとすることができる。
【0026】
[効果]
このような構成のトランスミッション10によれば、エンジンを停止した状態であっても、動力の伝達経路の切り替えを行い、モータ26による駆動が可能となる。また、エンジンによる駆動時には、出力軸32に対してモータ26の動力伝達系統を切り離すことができるため、モータ26が抵抗となり、大きな出力ロスを生じさせることも避けることができる。
【0027】
また、モータ26による駆動時には、エンジンを完全に停止させることができるため、排気ガスの排出が無い。よって、トンネル等の通気性の悪い空間を進行する場合であっても、当該空間を汚染することなく進むことが可能となる。このため、このような空間内で作業員が外部作業を行う場合であっても、作業員が排気ガスを吸引するといった事態を避けることができるようになる。
【0028】
また、このような構成のトランスミッション10を鉄道車両に搭載した場合には、エンジンによる動力が得られなくなった場合であっても、車両を移動させ、軌道からの退避を図ることが可能となる。よって、車両故障によって生じる後続車両への影響を小さなものとすることが可能となる。
【0029】
[第2実施形態]
次に、図3を参照して、本発明のハイブリッド型トランスミッションに係る第2実施形態について説明する。なお、本実施形態に係るトランスミッション10Aの殆どの構成は、上述した第1実施形態に係るトランスミッション10と同様である。よって、その構成を同一とする箇所には、図面に同一符号を附して詳細な説明を省略することとする。
【0030】
本実施形態に係るトランスミッション10Aと、第1実施形態に係るトランスミッション10とでは、駆動モード選択軸40の構成が異なる。第1実施形態に係るトランスミッション10における駆動モード選択軸40は、2ポジションの切り替えを可能とする噛み合いクラッチ42により、モータ系変速手段38の後段ギア44,46への接続と、切り離しとを可能な構成とされていた。これに対し、本実施形態に係る駆動モード選択軸40には、3ポジションの切り替えを可能とする噛み合いクラッチ42Aが備えられている。
【0031】
本実施形態の噛み合いクラッチ42aは、モータ26の動力を出力軸32へ伝達するためのポジション(モータ駆動ポジション)と、モータ26を駆動系から切り離すポジション(エンジン駆動ポジション)、およびエンジンの動力をモータ26へ伝達するためのポジション(ジェネレーションポジション)の切り替えを可能としている。
【0032】
エンジンの動力をモータ26へ伝達するためのポジションは、第1入力軸12から油圧ポンプ22への動力伝達を行うギア20の動力を、駆動モード選択軸40へ伝達することを可能にするものである。このようなポジションを選択することで意図的に、モータ26をジェネレータとして働かせることもできるようになる。
【0033】
その他の構成、作用、効果については、上述した第1実施形態に係るトランスミッション10と同様である。
【符号の説明】
【0034】
10,10A………トランスミッション、12………第1入力軸、14………カップリング、16………回転軸、18………潤滑ポンプ、20………ギア、22………油圧ポンプ、22a………駆動軸、24………第2入力軸、26………モータ、26a………回転軸、28………カップリング、30………ギア、32………出力軸、34………変速軸、36………エンジン系変速手段、36a,36b,36c………油圧クラッチ、36a1………バックギア、36a2………伝達ギア、36b1………フロントギア、36b2………伝達ギア、36c1………伝達ギア、38………モータ系変速手段、40………駆動モード選択軸、42………噛み合いクラッチ、44,46………ギア、48………エアシリンダ、50………切替レバー。
図1
図2
図3