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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】枝付きガスケット
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/12 20060101AFI20220901BHJP
【FI】
F16J15/12 B
F16J15/12 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018092080
(22)【出願日】2018-05-11
(65)【公開番号】P2019196827
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 英男
(72)【発明者】
【氏名】藤原 優
(72)【発明者】
【氏名】高山 剛
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-007443(JP,U)
【文献】実開昭52-160045(JP,U)
【文献】実開昭54-053167(JP,U)
【文献】実開昭58-075937(JP,U)
【文献】特開昭55-002866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00-15/14
F16L 23/00-25/14
F28F 9/00-9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラー材とフープ材とを渦巻状に巻き重ねた渦巻形ガスケットからなる円環部と、
前記円環部の内側に設けられ、耐熱性の中芯材の外側を金属薄板で被覆したメタルジャケット形ガスケットからなる枝部と
前記円環部の内周部に設けられ、前記枝部と一体化されたメタルジャケット形ガスケットからなるリング部と
が結合された枝付きガスケットであって、
前記枝部の厚みは、前記円環部の厚みよりも大きい、枝付きガスケット。
【請求項2】
前記メタルジャケット形ガスケットの表面に、軟質材が貼り付けられている、請求項1に記載の枝付きガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枝付きガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器等では、内部の流体通路が仕切板で仕切られており、この仕切板をシールするためのガスケットとして、枝付きガスケットを用いることが知られている。
【0003】
従来の枝付きガスケットとして、ジャケット形ガスケットの外周に、ジャケット形ガスケットの厚みよりも厚い渦巻形ガスケットが嵌合された熱交換器用ガスケットが、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実公昭48-31156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された枝付きガスケットでは、枝部となるジャケット形ガスケットの厚みが、渦巻形ガスケットの厚みよりも薄いため、ガスケットの締め付け時に、ジャケット形ガスケットには低荷重しかかからない。そのため、枝部におけるシール性が十分に得られない。その結果、仕切板で仕切られた流体通路間に、流体の漏れが発生するため、例えば、熱交換器に使用した場合、温度の異なる流体が混在することになり、熱交換効率が低下するという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたもので、その主な目的は、枝部におけるシール性を高めた枝付きガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る枝付きガスケットは、フィラー材とフープ材とを渦巻状に巻き重ねた渦巻形ガスケットからなる円環部と、円環部の内側に設けられ、耐熱性の中芯材の外側を金属薄板で被覆したメタルジャケット形ガスケットからなる枝部とが結合された枝付きガスケットであって、枝部の厚みは、円環部の厚みよりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、枝部におけるシール性を高めた枝付きガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態における枝付きガスケットの構成を模式的に示した図で、(a)は平面図、(b)は、(a)のB-B線に沿った断面図である。
図2】(a)は、枝付きガスケットにおける円環部及び枝部の構造を示した断面図で、(b)は、(a)で示した円環部及び枝部を厚み方向に圧縮した状態を示した図である。
図3】渦巻形ガスケット及びメタルジャケット形ガスケットの一般的な圧縮特性(応力-歪み曲線)を示したグラフである。
図4】(a)は、本実施形態の枝付きガスケットにおける円環部及び枝部の構造を示した断面図で、(b)は、(a)で示した円環部及び枝部を厚み方向に圧縮した状態を示した図である。
図5】渦巻形ガスケット及びメタルジャケット形ガスケットの一般的な圧縮特性(応力-歪み曲線)を示したグラフである。
図6】渦巻形ガスケット及びメタルジャケット形ガスケットの一般的な圧縮特性(応力-歪み曲線)を示したグラフである。
図7】枝付きガスケットの枝部におけるシール性を試験した試験装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態における枝付きガスケットの構成を模式的に示した図で、図1(a)は平面図、図1(b)は、図1(a)のB-B線に沿った断面図である。
【0012】
図1(a)、(b)に示すように、本実施形態における枝付きガスケット1は、フィラー材とフープ材とを渦巻状に巻き重ねた渦巻形ガスケットからなる円環部10と、円環部10の内側に設けられ、耐熱性の中芯材の外側を金属薄板で被覆したメタルジャケット形ガスケットからなる枝部11Aとが結合された構成となっている。そして、図1(b)に示すように、枝部11Aの厚みは、円環部10の厚みよりも大きくなっている。
【0013】
なお、本実施形態では、円環部10の内周部には、枝部11Aと一体化されたメタルジャケット形ガスケットからなるリング部11Bがさらに設けられている。また、渦巻形ガスケットからなる円環部10の外側には、金属製の補強リング(外輪)12がさらに設けられている。また、メタルジャケット形ガスケットの表面は、軟質材20がさらに貼り付けられている。
【0014】
本実施形態における渦巻形ガスケットとしては、例えば、ステンレス鋼等の金属材料からなるフープ材と、PTFE(テトラフルオロエリレン)や黒鉛等の材料からなるフィラー材とが、渦巻状に巻き重ねられた構成のものを用いることができる。なお、本実施形態において、フープ材及びフィラー材に用いる材料は、これらに限定されるものではない。
【0015】
また、本実施形態におけるメタルジャケット形ガスケットとしては、例えば、無機質鉱物等の材料からなる中芯材 の外側を、炭素鋼等の材料からなる金属薄板で被覆した構造のものを用いることができる。なお、本実施形態において、中芯材及び金属薄板に用いる材料は、これらに限定されるものではない。
【0016】
また、メタルジャケット形ガスケットの表面に貼り付けられる軟質材20は、例えば、セラミックファイバーや膨張黒鉛等の材料からなるシートを用いることができる。
【0017】
次に、本実施形態における枝付きガスケット1の作用効果について説明する。
【0018】
図2(a)は、枝付きガスケットにおける円環部(渦巻形ガスケット)10、及び枝部(メタルジャケット形ガスケット)11Aの構造を示した断面図で、本図では、円環部(渦巻形ガスケット)10の厚みL、及び、枝部(メタルジャケット形ガスケット)11Aの厚みLは、同じとしている。
【0019】
図2(b)は、図2(a)で示した円環部(渦巻形ガスケット)10、及び枝部(メタルジャケット形ガスケット)11Aを、2つのフランジ30で挟んで、厚み方向に圧縮した状態を示した図である。ここで、円環部(渦巻形ガスケット)10、及び枝部(メタルジャケット形ガスケット)11Aの厚みはLとなっている。すなわち、渦巻形ガスケット、及びメタルジャケット形ガスケットは、同じ圧縮率で圧縮されている。
【0020】
図3は、渦巻形ガスケット、及びメタルジャケット形ガスケットの一般的な圧縮特性(応力-歪み曲線)を示したグラフで、(A)で示したグラフが、渦巻形ガスケットの応力-歪み曲線、(B)で示したグラフが、メタルジャケット形ガスケットの応力-歪み曲線である。
【0021】
渦巻形ガスケットは、金属製のフープ材が、断面波形(例えば、V字形またはW字形)になっているのに対し、メタルジャケット形ガスケットは、中芯材を被覆する金属薄板が、中芯材の角部に、僅かな曲線を有する形状になっている。そのため、図3に示すように、同じ圧縮歪み(圧縮率)εに対して、渦巻形ガスケットの圧縮応力σの方が、メタルジャケット形ガスケットの圧縮応力σよりも大きくなる。
【0022】
従って、図2(b)に示した状態において、円環部(渦巻形ガスケット)10及び枝部(メタルジャケット形ガスケット)11Aは、同じ圧縮歪み(圧縮率)になっているため、フランジ30が枝部11Aから受ける反力は、円環部10から受ける反力よりも小さくなる。そのため、枝部11Aにおけるシール性が十分に発揮されず、その結果、仕切板を有する熱交換器を、枝付きガスケットで密封した際、仕切板で仕切られた流体通路間に、流体の漏れが発生し、熱交換効率が低下するという問題が生じる。
【0023】
図4(a)は、本実施形態における枝付きガスケットの円環部(渦巻形ガスケット)10、及び枝部(メタルジャケット形ガスケット)11Aの構造を示した断面図で、枝部(メタルジャケット形ガスケット)11Aの厚みLは、円環部(渦巻形ガスケット)10の厚みLよりも厚くなっている。
【0024】
図4(b)は、図4(a)で示した円環部(渦巻形ガスケット)10、及び枝部(メタルジャケット形ガスケット)11Aを、2つのフランジ30で挟んで、厚み方向に圧縮した状態を示した図である。ここで、円環部(渦巻形ガスケット)10、及び枝部(メタルジャケット形ガスケット)11Aの厚みはLとなっている。すなわち、メタルジャケット形ガスケットの圧縮率は、渦巻形ガスケットの圧縮率よりも大きくなっている。
【0025】
図5は、図3と同様に、渦巻形ガスケット、及びメタルジャケット形ガスケットの一般的な圧縮特性(応力-歪み曲線)を示したグラフで、(A)で示したグラフが、渦巻形ガスケットの応力-歪み曲線、(B)で示したグラフが、メタルジャケット形ガスケットの応力-歪み曲線である。
【0026】
図4(b)に示した状態において、枝部(メタルジャケット形ガスケット)11Aの圧縮率は、円環部(渦巻形ガスケット)10の圧縮率よりも大きくなっている。そこで、図5に示すように、枝部11Aの圧縮歪み(圧縮率)εを、枝部11Aにおける圧縮応力が、円環部10の圧縮歪み(圧縮率)εにおける圧縮応力σと同じになるように、枝部11Aの厚みLを設定することによって、フランジ30が枝部11Aから受ける反力を、円環部10から受ける反力と揃えることができる。これにより、枝部11Aにおけるシール性を、円環部10におけるシール性と同等にすることができるため、仕切板を有する熱交換器を、枝付きガスケットで密封した際、仕切板で仕切られた流体通路間に、流体の漏れが発生するのを抑制することができる。
【0027】
なお、上記の説明では、フランジ30が枝部11Aから受ける反力と、円環部10から受ける反力と揃えるようにしたが、必ずしも、円環部10におけるシール性を、枝部11Aにおけるシール性に揃えなくてもよい。通常、円環部10は、外部(大気)との圧力差に対してシール性を確保する必要があるのに対し、枝部11Aは、仕切板間の差圧に対してシール性を確保すればよい。従って、この場合、図4(b)に示した状態において、フランジ30が枝部11Aから受ける反力を、仕切板間の漏れが生じない範囲で、円環部10から受ける反力よりも小さく設定してもよい。
【0028】
すなわち、図6に示すように、枝部11Aの圧縮歪み(圧縮率)εを、枝部11Aにおける圧縮応力σが、円環部10の圧縮歪み(圧縮率)εにおける圧縮応力σよりも小さくなるように、枝部11Aの厚みLを設定してもよい。なお、この場合でも、枝部11における圧縮応力σは、図3に示した枝部11における圧縮応力σよりも大きくなるため、枝部11Aにおけるシール性は維持される。
【0029】
本実施形態における枝付きガスケットの枝部11Aにおけるシール性を、図7に示した試験装置を用いて評価した。なお、試験には、以下のような構造の枝付きガスケットを用いた。
【0030】
ステンレスからなるV字形に加工されたフープ材と、 膨張黒鉛からなるフィラー材とを重ね合わせて巻回して、厚さ4.5mmmの渦巻形ガスケット(円環部)を作製した。また、無機質鉱物からなる中芯材の外側を、炭素鋼からなる金属薄板で被覆して、厚さ5.9mmのメタルジャケット形ガスケット(枝部)を作製した。そして、作製したメタルジャケット形ガスケットを、渦巻形ガスケットの内側に嵌合させて、枝付きガスケットを作製した。
【0031】
図7に示すように、作製した枝付きガスケットを、試験フランジ40A、40Bで挟んで、油圧プレス50A、50Bで圧縮した。試験フランジ40A、40Bで挟まれた空間は、枝部11Aによって、A室とB室とに仕切られている。A室は、試験フランジ40B内に形成された連通管41に連通しており、配管60を通じて、外部から所定の水圧(100kPa)を加えた。この状態で、A室からB室への漏れの有無を、圧力計61の変化、及びB室での試験フランジに付着する水滴の有無で確認した。その結果、本実施形態における枝付きガスケットでは、圧力計61の変化、及びB室での試験フランジに付着する水滴は確認されなかった。一方、渦巻形ガスケット(円環部)とメタルジャケット形ガスケット(枝部)の厚みを同じにした枝付きガスケットでは、圧力計61の変化、及びB室での試験フランジに付着する水滴が、共に確認された。
【0032】
本実施形態における枝付きガスケットでは、ジャケット形ガスケットからなる枝部11Aの厚みを、渦巻形ガスケットからなる円環部10の厚みよりも厚くすることによって、枝部11Aにおけるシール性を高めた枝付きガスケットを得ることができる。なお、枝部11Aの厚みは、ジャケット形ガスケットの圧縮特性(応力-歪み曲線)や、仕切板間の差圧等によって、要求されるシール性に応じて、適宜決めればよい。
【0033】
また、円環部10の内周部に、枝部11Aと一体化されたメタルジャケット形ガスケットからなるリング部11Bを設けることによって、外部シール性をさらに向上させることができる。
【0034】
また、メタルジャケット形ガスケットの表面に、軟質材20を貼り付けることによって、ガスケットと機器との接触面が馴染むため、枝部11Aでのシール性をさらに向上させることができる。
【0035】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。例えば、上記実施形態では、枝付きガスケットを熱交換器に適用する例を説明したが、これに限定されず、例えば、加熱器等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 枝付きガスケット
10 円環部
11A 枝部
11B リング部
12 補強リング(外輪)
20 軟質材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7