(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】加熱コイル
(51)【国際特許分類】
H05B 6/36 20060101AFI20220901BHJP
C21D 1/10 20060101ALI20220901BHJP
C21D 1/42 20060101ALI20220901BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20220901BHJP
C21D 9/00 20060101ALN20220901BHJP
【FI】
H05B6/36 D
C21D1/10 R
C21D1/42 J
H05B6/10 371
C21D9/00 A
(21)【出願番号】P 2018100577
(22)【出願日】2018-05-25
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細木 真保
(72)【発明者】
【氏名】田中 嘉昌
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 昭一郎
(72)【発明者】
【氏名】小▲崎▼ 英幸
(72)【発明者】
【氏名】児玉 裕司
【審査官】石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許発明第00988374(FR,A)
【文献】特開昭58-016495(JP,A)
【文献】実開昭60-141096(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第00324721(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/02- 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の周面を有し、且つ前記周面から中心方向に延びる孔を有するワークの外周面に沿うように導体が巻かれており、
前記ワークの中心軸を中心に前記ワークを回転させながら前記外周面
を誘導加熱
する加熱装置に用いられる加熱コイルであって、
一つ又は互いに平行に延びる複数の前記導体
を含み、前記ワークの前記外周面の中心軸を含む対称面を挟んで対称となる第1加熱部及び第2加熱部を備え、
前記第1加熱部及び前記第2加熱部の前記導体は、前記ワークの前記外周面の軸方向及び周方向と交差する傾斜方向に延びている加熱コイル。
【請求項2】
請求項1記載の加熱コイルであって、
前記ワークの前記外周面の周方向と前記傾斜方向とのなす角度は40°以上50°以下である加熱コイル。
【請求項3】
請求項1又は2記載の加熱コイルであって、
前記導体の幅は、前記ワークの前記孔の直径より大きい加熱コイル。
【請求項4】
請求項3記載の加熱コイルであって、
前記導体の幅は、前記ワークの前記孔の直径の2倍以上3倍以下である加熱コイル。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項記載の加熱コイルであって、
前記第1加熱部及び前記第2加熱部の前記導体の両端に隣設されており、一つ又は互いに平行に延びる複数の前記導体
を含み、前記第1加熱部及び第2加熱部の前記導体を一続きに接続し且つ電源と電気的に接続される一対のリード部に接続する第1接続部及び第2接続部をさらに備え、
前記第1接続部及び前記第2接続部の前記導体は、前記ワークの前記外周面の周方向と平行に延びている加熱コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形状の周面を有し、且つ周面から中心方向に延びる孔を有するワークの外周面の誘導加熱に用いられる加熱コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールナットの内周面には中心方向に延びるリターンホールが形成されている。リターンホールが開口された状態でボールナットの内周面に誘導加熱が施された場合に、内周面の表層を周方向に流れる誘導電流が、リターンホールの周縁において内周面の軸方向に対向している両側の縁部で集中してしまい、誘導電流が集中する縁部が過加熱されて溶解する虞がある。このため、銅などからなるプラグがリターンホールに挿入された状態で内周面に誘導加熱が施され、リターンホールの縁部の過加熱が抑制されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-152242号公報
【文献】特開2001-192734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2に記載された加熱方法では、多量のワークの誘導加熱に多量のプラグを必要とし、プラグをワークの周面の孔に挿入するために多大な工数を要し、生産性が低下する虞がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたものであり、誘導加熱されるワークの外周面に形成された孔の周縁における局所的な過加熱を抑制でき、生産性を高めることのできる加熱コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の加熱コイルは、断面円形状の外周面を有し且つ上記外周面から径方向に延びる孔を有するワークの上記外周面に沿うように導体が巻かれており、上記外周面の誘導加熱に用いられる加熱コイルであって、一つ又は互いに平行に延びる複数の上記導体をそれぞれ含み、上記ワークの上記外周面の中心軸を含む対称面を挟んで対称となる第1加熱部及び第2加熱部を備え、上記第1加熱部及び上記第2加熱部それぞれの上記導体は、上記ワークの上記外周面の軸方向及び周方向と交差する傾斜方向に延びている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、誘導加熱されるワークの周面に形成された孔の周縁の局所的な過熱を抑制でき、生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態を説明するための、加熱コイル及び加熱装置の一例の模式図である。
【
図7A】
図1の加熱装置によって誘導加熱されるワークの周面に流れる誘導電流を示す模式図である。
【
図7B】
図1の加熱装置によって誘導加熱されるワークの周面に流れる誘導電流を示す模式図である。
【
図9A】
図8の加熱コイルを用いて誘導加熱される場合のワークの周面に流れる誘導電流を示す模式図である。
【
図9B】
図8の加熱コイルを用いて誘導加熱される場合のワークの周面に流れる誘導電流を示す模式図である。
【
図11A】
図10の加熱コイルを用いて誘導加熱される場合のワークの周面に流れる誘導電流を示す模式図である。
【
図11B】
図10の加熱コイルを用いて誘導加熱される場合のワークの周面に流れる誘導電流を示す模式図である。
【
図12】本発明の実施形態を説明するための、加熱コイルの他の例の正面図である。
【
図15】実験例の焼入れされたワークの硬さ測定位置を示す模式図である。
【
図16】実験例1及び実験例2の硬さ測定結果を示すグラフである。
【
図17】実験例3及び実験例4の硬さ測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の実施形態を説明するための、加熱コイル及び加熱装置の一例を模式的に示し、
図2から
図4は、
図1の加熱コイルを示す。
【0010】
加熱装置1は、円柱状のワークW1の外周面を誘導加熱する定置型の加熱装置である。ワークW1は外周面から径方向に延びる孔Hを有する。孔Hは、貫通孔であってもよいし、止まり孔であってもよい。
【0011】
加熱装置1は、ワークW1の外周面を誘導加熱するための加熱コイル20と、加熱コイル20に高周波の交流電力を供給する電源2と、ワークW1及び加熱コイル20を支持する支持部3と、ワークW1をワークW1の中心軸Xまわりに回転させる回転駆動部4とを備える。
【0012】
加熱コイル20は、ワークW1の外周面に沿うように導体21が巻かれて構成されている。導体21には、例えば銅などの金属材料が用いられる。本例では、導体21は管材によって形成され、加熱コイル20の内部に一続きの流路が形成されており、この流路には水等の冷却媒体が流通される。誘導加熱されたワークW1の輻射熱によって加熱される加熱コイル20は、内部に流通される冷却媒体によって適宜冷却される。
【0013】
図2から
図4に示すように、加熱コイル20は、第1加熱部22と、第2加熱部23とを備える。第1加熱部22は、ワークW1の軸方向D1及び周方向D2と交差する傾斜方向D3に延びる導体21aを含み、第2加熱部23もまた、傾斜方向D3に延びる導体21bを含んでおり、第1加熱部22と第2加熱部23とは、ワークW1の中心軸Xを含む対称面Sを挟んで対称となっている。
【0014】
本例では、第1加熱部22の導体21a及び第2加熱部23の導体21bは、平面視にて半円弧状に形成されており、導体21a及び導体21bそれぞれの一端は互いに接続されており、第1加熱部22の導体21a及び第2加熱部23の導体21bそれぞれの他端は、同じく導体21からなる一対のリード部24に接続されている。一対のリード部24が電源2と電気的に接続され、電源2から加熱コイル20に交流電力が供給される。
【0015】
なお、第1加熱部22及び第2加熱部23は、互いに平行に延びる複数の導体を含んでもよい。
図5及び
図6に示す例では、第1加熱部22は二つの導体21a1,21a2を含み、第2加熱部23もまた二つの導体21b1,21b2を含み、導体21a1、導体21b1、導体21a2、そして導体21b2がこの順に一続きに接続されており、両端の導体21a1及び導体21b2が一対のリード部24に接続されている。
【0016】
支持部3は、ワークW1を支持するワーク支持部10と、加熱コイル20を支持するコイル支持部11とを含む。
【0017】
ワーク支持部10は、ワークW1の中心軸X上に配置された一対のセンター12を有し、一対のセンター12によってワークW1を軸方向D1に挟み込んでワークW1を支持している。コイル支持部11は、加熱コイル20の一対のリード部24を位置固定に支持している。コイル支持部11に支持された加熱コイル20の第1加熱部22及び第2加熱部23は、ワークW1の外周面のうち孔Hを含む領域A1に対向して配置されている。
【0018】
回転駆動部4は、ワーク支持部10の一対のセンター12を回転駆動する。これにより、ワーク支持部10に支持されたワークW1が中心軸Xまわりに回転される。
【0019】
加熱装置1によってワークW1が誘導加熱される際には、回転駆動部4によってワークW1が中心軸Xまわりに回転され、加熱コイル20の第1加熱部22及び第2加熱部23が対向して配置されているワークW1の外周面の領域A1が全周にわたって誘導加熱される。
【0020】
図7A及び
図7Bは、加熱装置1によって誘導加熱されるワークW1の外周面に流れる誘導電流を模式的に示す。
【0021】
誘導電流は、加熱コイル20の第1加熱部22の導体21a及び第2加熱部23の導体21bに沿ってワークW1の外周面の表層を流れる。
【0022】
第1加熱部22の導体21aは、上記のとおりワークW1の軸方向D1及び周方向D2と交差する傾斜方向D3に延びており、導体21aに沿って流れる誘導電流Iは、ワークW1の外周面の表層を傾斜方向D3に流れる。第2加熱部23の導体21bもまた傾斜方向D3に延びており、導体21bに沿って流れる誘導電流Iは、ワークW1の外周面の表層を傾斜方向D3に流れる。
【0023】
図7Aに示す、ワークW1の孔Hが第1加熱部22の導体21aに重なって配置された状態で、導体21aに沿って流れる誘導電流Iは孔Hを迂回して流れる。この場合に、孔Hの周縁において傾斜方向D3と直交する方向D4に対向している両側の縁部E1,E2では電流密度が相対的に高まる。
【0024】
ワークW1が中心軸Xまわりに回転され、
図7Bに示す、ワークW1の孔Hが第2加熱部23の導体21bに重なって配置された状態で、導体21bに沿って流れる誘導電流Iは孔Hを迂回して流れる。この場合に、孔Hの周縁において傾斜方向D3と直交する方向D4に対向している両側の縁部E3,E4では電流密度が相対的に高まる。
【0025】
ここで、第1加熱部22(導体21a)と第2加熱部23(導体21b)とは、上記のとおりワークW1の中心軸Xを含む対称面Sを挟んで対称となっている。ワークW1の周方向D2と第1加熱部22の導体21a及び第2加熱部23の導体21bが延びる傾斜方向D3とのなす角度をθとしたときに、導体21aに沿って流れる誘導電流Iの電流密度が高まる縁部E1と、導体21bに沿って流れる誘導電流Iの電流密度が高まる縁部E3とは、孔Hの中心まわりに角度2θ回転した位置関係にあり、同様に、縁部E2と縁部E4とは、孔Hの中心まわりに角度2θ回転した位置関係にある。
【0026】
孔Hの周縁における誘導電流Iの電流密度の高まりは、ワークW1の回転に応じて縁部E1,E2と縁部E3,E4との間で交互に生じ、縁部E1,E2と縁部E3,E4とが上記のとおり互いにずれていることにより、孔Hの周縁における局所的な過加熱が抑制される。
【0027】
孔Hの周縁の局所的な過加熱を抑制する観点から、縁部E1と縁部E3との重なり、及び縁部E2と縁部E4との重なりが小さいほど好ましく、ワークW1の周方向D2と第1加熱部22の導体21a及び第2加熱部23の導体21bが延びる傾斜方向D3とのなす角度θは、好ましくは40°以上50°以下であり、より好ましくは45°である。
【0028】
また、第1加熱部22の導体21a及び第2加熱部23の導体21bの幅Wは、ワークW1の孔Hの直径より大きいことが好ましく、孔Hの直径の2倍以上3倍以下であることがより好ましい。なお、導体21a,21bの幅Wは、導体21a,21bが延びる傾斜方向D3と直交する方向D4の寸法をいう。例えば、孔Hが第1加熱部22の導体21aに重なって配置された状態で、導体21aの幅Wが孔Hの直径より大きい場合に、導体21aに沿って流れる誘導電流Iの一部が縁部E1及び/又は縁部E2の外側を流れ、縁部E1,E2での電流密度の高まりが抑制される。これにより、孔Hの周縁における局所的な過加熱が一層抑制される。
【0029】
図8は、参考例の加熱コイルを示し、
図9A及び
図9Bは、
図8の加熱コイルを用いてワークW1が誘導加熱される場合に、ワークW1の外周面に流れる誘導電流を模式的に示す。
【0030】
図8に示す加熱コイルでは、第1加熱部22の導体21a1,21a2、及び第2加熱部23の導体21b1,21b2がワークW1の周方向D2と略平行に配置されている。この場合、
図9A及び
図9Bに示すように、ワークW1の回転にかかわらず、誘導電流Iは、孔Hの周縁において周方向D2と直交する方向、すなわち軸方向D1に対向している両側の縁部E5,E6に集中してしまい、縁部E5,E6が過加熱される。
【0031】
図10は、他の参考例の加熱コイルを示し、
図11A及び
図11Bは、
図10の加熱コイルを用いてワークW1が誘導加熱される場合に、ワークW1の外周面に流れる誘導電流を模式的に示す。
【0032】
図10に示す加熱コイルでは、第1加熱部22の導体21a及び第2加熱部23の導体21bがワークW1の軸方向D1と略平行に配置されている。この場合、
図11A及び
図11Bに示すように、ワークW1の回転にかかわらず、誘導電流Iは、孔Hの周縁において軸方向D1と直交する方向、すなわち周方向D2に対向している両側の縁部E7,E8に集中してしまい、縁部E7,E8が過加熱される。
【0033】
図12及び
図13は、本発明の実施形態を説明するための加熱コイルの他の例を示す。
【0034】
図12及び
図13に示す加熱コイル30は、ワークW1の外周面に沿うように導体31が巻かれて構成されており、上述した加熱装置1において、加熱コイル20に替えてワークW1の誘導加熱に用いられるものである。
【0035】
加熱コイル30は、第1加熱部32及び第2加熱部33と、第1接続部35及び第2接続部36とを備える。
【0036】
第1加熱部32は、ワークW1の軸方向D1及び周方向D2と交差する傾斜方向D3に延びる導体31aを含み、第2加熱部33もまた、傾斜方向D3に延びる導体31bを含んでおり、第1加熱部32と第2加熱部33とは、ワークW1の中心軸Xを含む対称面Sを挟んで対称となっている。
【0037】
本例では、第1加熱部32の導体31a及び第2加熱部33の導体31bは、平面視にて中心角度180°未満の円弧状に形成されており、導体31a及び導体31bそれぞれの一端は、第1接続部35の導体31cを介して互いに接続されており、導体31a及び導体31bそれぞれの他端は、第2接続部36の一対の導体31dを介して一対のリード部34に接続されている。
【0038】
第1加熱部32の導体31a及び第2加熱部33の導体31bの一端側に隣設され、導体31a,31bを一続きに接続している第1接続部35の導体31cは、ワークW1の周方向D2と平行に円弧状に延びている。導体31a,31bの他端側に隣設され、導体31a,31bを一対のリード部34に接続している第2接続部36の一対の導体31dもまた、ワークW1の周方向D2と平行に円弧状に延びている。
【0039】
加熱コイル30を備えた加熱装置1によってワークW1が誘導加熱される際には、ワークW1が中心軸Xまわりに回転される。加熱コイル30の第1加熱部32及び第2加熱部33並びに第1接続部35及び第2接続部36が対向して配置されているワークW1の外周面の領域A2が全周に亘って加熱される。
【0040】
上述した加熱コイル20の場合と同様に、孔Hの周縁における誘導電流Iの電流密度の高まりが、ワークW1の回転に応じて縁部E1,E2と縁部E3,E4との間で交互に生じ、縁部E1,E2と縁部E3,E4とが互いにずれていることにより、孔Hの周縁における局所的な過加熱が抑制される。
【0041】
また、ワークW1の外周面の領域A2の軸方向両端部に対向して配置されている第1接続部35の導体31c及び第2接続部36の一対の導体31dがワークW1の周方向D2と平行に円弧状に延びており、領域A2の軸方向両端部の発熱量が相対的に多くなっている。領域A2の軸方向両端部では、これらの端部に隣設されている外側領域に熱が散逸し易いところ、領域A2の軸方向両端部の発熱量を相対的に多くすることにより、領域A2の加熱温度を均一化することができる。
【0042】
なお、本例においても、第1加熱部32及び第2加熱部33は、互いに平行に延びる複数の導体を含んでもよく、第1加熱部32及び第2加熱部33が複数の導体を含む場合に、第1加熱部32及び第2加熱部33の導体を一続きに接続し且つ一対のリード部34に接続する第1接続部35及び第2接続部36もまた、平行に延びる複数の導体をそれぞれ含んで構成される。
【0043】
ここまで、加熱コイル20又は加熱コイル30を備える加熱装置1は、定置型の加熱装置であるものとして説明したが、ワークW1が比較的長尺である場合に、加熱コイル20又は加熱コイル30とワークW1とをワークW1の軸方向D1に相対的に並進移動させながらワークW1の外周面を全長に亘って誘導加熱する移動型の加熱装置として構成することもできる。
【0044】
また、加熱コイル20又は加熱コイル30を備える加熱装置1は、円柱状のワークW1の外周面を誘導加熱するものとして説明したが、
図14に示すように、円筒状のワークW2の内周面の誘導加熱にも適用可能であり、ワークW2が内周面から径方向に延びる孔Hを有する場合に、孔Hの周縁における局所的な過加熱を抑制することができる。
【0045】
以下、実験例について説明する。
【0046】
実験例1では、AISI4150材(JIS-SCM445相当材)からなる外径50mmの円柱状のワークであって外周面に内径6mmの孔を有するワークを、
図5及び
図6に示した加熱コイルを用いて移動加熱し、加熱後に急冷して焼入れした。実験例1の加熱コイルにおいて、ワークの周方向D2と第1加熱部22の導体21a1,21a2及び第2加熱部23の導体21b1,21b2が延びる傾斜方向D3とのなす角度θは45°とした。
【0047】
実験例2では、実験例1と同じワークを、
図8に示した加熱コイルを用いて、実験例1と同じ焼入れ条件(移動速度、電力、回転数、等)にて焼入れした。実験例2の加熱コイルにおいて、第1加熱部22の導体21a1,21a2及び第2加熱部23の導体21b1,21b2はワークの周方向D2と平行に延びており、上記角度θは0°である。なお、加熱コイルの外径及び内径並びに導体幅は、実験例1の加熱コイルと実験例2の加熱コイルとで同一とした。
【0048】
図15に示すとおり、ワークの孔の周縁とワークの周方向D2との交差位置を孔の周縁における0°位置及び180°位置とし、ワークの孔の周縁とワークの軸方向D1との交差位置を孔の周縁における90°位置及び270°位置として、実験例1及び実験例2の焼入れされたワークの孔の周縁における0°位置、90°位置、180°位置、及び270°位置の各位置の硬さ(HV0.3)を測定し、有効硬化層深さを評価した。測定結果を
図16に示す。
【0049】
図16に示す測定結果から、実験例2では、90°位置及び270°位置の有効硬化層深さが0°位置及び180°位置の有効硬化層深さよりも大きくなっていることがわかる。
図9A及び
図9Bに示したとおり、実験例2の加熱コイルでは、ワークの回転にかかわらず、誘導電流Iがワークの孔の周縁における90°位置及び270°位置の縁部に集中してしまい、90°位置及び270°位置の縁部が過加熱されたことが要因として考えられる。
【0050】
一方、実験例1では、0°位置及び180°位置の有効効果層深さと90°位置及び270°位置の有効効果層深さとの差が実験例2に比べて縮小されており、両者は概ね一致している。
図7A及び
図7Bに示したとおり、実験例1の加熱コイルによれば、誘導電流の電流密度の高まりが、ワークの回転に応じて45°位置及び225°位置の縁部と、135°位置及び315°位置の縁部との間で交互に生じ、孔の周縁における局所的な過加熱が抑制され、均熱化されたものと認められる。
【0051】
次に、実験例3では、JIS-S55C材からなる外径38.5mmの円柱状のワークであって外周面に内径8.5mmの孔を有するワークを、
図2から
図4に示した加熱コイルを用いて定置加熱し、加熱後に急冷して焼入れした。実験例3の加熱コイルにおいて、ワークの周方向D2と第1加熱部22の導体21a及び第2加熱部23の導体21bが延びる傾斜方向D3とのなす角度θは40°とした。
【0052】
実験例4では、実験例3と同じワークを、
図10に示した加熱コイルを用いて、実験例3と同じ焼入れ条件(電力、回転数、等)にて焼入れした。実験例4の加熱コイルにおいて、第1加熱部22の導体21a及び第2加熱部23の導体21bはワークの軸方向D1と平行に延びており、上記角度θは90°である。
【0053】
実験例3及び実験例4の焼入れされたワークの孔の周縁における0°位置、90°位置、180°位置、及び270°位置の各位置の硬さ(HV0.3)を測定し、有効硬化層深さを評価した。測定結果を
図17に示す。
【0054】
図17に示す測定結果から、実験例4では、0°位置及び180°位置の有効硬化層深さが90°位置及び270°位置の有効硬化層深さよりも大きくなっていることがわかる。
図11A及び
図11Bに示したとおり、実験例4の加熱コイルでは、ワークの回転にかかわらず、誘導電流Iがワークの孔の周縁における0°位置及び180°位置の縁部に集中してしまい、0°位置及び180°位置の縁部が過加熱されることが要因として考えられる。
【0055】
一方、実験例3では、0°位置及び180°位置の有効効果層深さと90°位置及び270°位置の有効効果層深さとの差が実験例4に比べて縮小されており、両者は概ね一致している。
図7A及び
図7Bに示したとおり、実験例4の加熱コイルによれば、誘導電流の電流密度の高まりが、ワークの回転に応じて50°位置及び230°位置の縁部と、130°位置及び310°位置の縁部との間で交互に生じ、孔の周縁における局所的な過加熱が抑制され、均熱化されたものと認められる。
【符号の説明】
【0056】
1 加熱装置
2 電源
3 支持部
4 回転駆動部
10 ワーク支持部
11 コイル支持部
12 センター
20 加熱コイル
21,21a,21a1,21a2,21b,21b1,21b2 導体
22 第1加熱部
23 第2加熱部
24 リード部
30 加熱コイル
31 導体
31a,31b,31c,31d 導体
32 第1加熱部
33 第2加熱部
34 リード部
35 第1接続部
36 第2接続部
D1 軸方向
D2 周方向
D3 傾斜方向
D4 傾斜方向と方向
E1~E8 孔の縁部
H ワークの周面の孔
I 誘導電流
O 加熱コイルの中心
S 対称面
W 導体幅
W1 ワーク
W2 ワーク
X ワークの中心軸