(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】ブレーキ装置及び鉄道車両
(51)【国際特許分類】
F16D 65/16 20060101AFI20220901BHJP
B61H 13/02 20060101ALI20220901BHJP
F16D 121/06 20120101ALN20220901BHJP
F16D 121/16 20120101ALN20220901BHJP
F16D 123/00 20120101ALN20220901BHJP
F16D 127/04 20120101ALN20220901BHJP
F16D 127/06 20120101ALN20220901BHJP
【FI】
F16D65/16
B61H13/02
F16D121:06
F16D121:16
F16D123:00
F16D127:04
F16D127:06
(21)【出願番号】P 2018121061
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】麻野 吉雄
(72)【発明者】
【氏名】大家 秀幸
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/042031(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/127769(WO,A2)
【文献】独国特許出願公開第04217231(DE,A1)
【文献】欧州特許第01457401(EP,B1)
【文献】特開平04-353059(JP,A)
【文献】米国特許第06186284(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00-5/14
B60T 1/00-7/10
B61H 1/00-15/00
F16C 1/00-1/28
F16D 49/00-71/04
F16H 19/00-37/16
F16H 49/00
G05G 1/00-25/04
F16D 121/06
F16D 121/16
F16D 123/00
F16D 127/04
F16D 127/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被押圧部材にブレーキ用摩擦部材をばね力によって押し当てることでブレーキ力を発生させるばねブレーキ機構と、
前記ブレーキ用摩擦部材に対するばね力の伝達を阻止することで前記ブレーキ力を解除する解除部と、を備え、
前記解除部は、鉄道車両の車軸の軸線方向の両側に配置され、前記ばねブレーキ機構に対して
接続される少なくとも2本のケーブル部を含み、前記ケーブル部と前記ばねブレーキ機構との間に設けられるてこ部を含み、
前記てこ部は、前記てこ部が回転軸を中心に回転可能に支持される支点部と、前記ケーブル部に接続される力点部と、前記ばねブレーキ機構に接続される作用点部と、を備える
ブレーキ装置。
【請求項2】
前記てこ部は、作用点を有する棒状部材であり、前記棒状部材の両端が2本のケーブル部のそれぞれに接続されている
請求項
1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記支点部から前記力点部までの距離が前記支点部から前記作用点部までの距離よりも長い
請求項
1に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
請求項
1~
3のいずれか一項に記載のブレーキ装置を備え、
前記ケーブル部が鉄道車両の台車の上を通って配置されている
鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置及び鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車輪の踏面に制輪子を押し当てることにより車輪に制動力を付与するブレーキ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載のブレーキ装置は、流体によりブレーキ力を発生させる流体ブレーキ機構と、ばねによりブレーキ力を発生させるばねブレーキ機構とを備えている。また、ブレーキ装置は、ばねブレーキ機構のブレーキ力を手動操作により解放するためのブレーキ手動解放装置を備えている。
【0003】
ブレーキ手動解放装置は、シリンダ本体から突出したラッチ部材がケーブル部を介して操作部に接続されている。そして、操作部を引っ張ったときには、ラッチ部材がシリンダ本体の外側に引き出されることにより、ばねブレーキ機構のブレーキ力が解放される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のようなブレーキ装置は、車輪のそばに設置されている。このため、鉄道車両の一方側にいる作業者が他方側のばねブレーキ機構を手動解放するときには、作業者が鉄道車両の反対側に回り込まなければならず、その作業効率の向上が望まれている。なお、車輪の踏面に接触して制動力を発生させるブレーキ装置に限らず、キャリパブレーキやレールブレーキ等のブレーキ装置でも同様の課題がある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ばねブレーキ機構のブレーキ力を手動操作により解放するときの作業効率を向上させることのできるブレーキ装置及び鉄道車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するブレーキ装置は、被押圧部材にブレーキ用摩擦部材をばね力によって押し当てることでブレーキ力を発生させるばねブレーキ機構と、前記ブレーキ用摩擦部材に対するばね力の伝達を阻止することで前記ブレーキ力を解除する解除部と、を備え、前記ばねブレーキ機構に対して前記解除部が複数設けられている。
【0008】
上記構成によれば、ばねブレーキ機構に対して複数の解除部が設けられ、これら解除部を操作することでブレーキ力を解除することができる。そして、鉄道車両の両側に解除部をそれぞれ設置することで、鉄道車両の一方側にいる作業者が他方側のばねブレーキ機構を手動解放するときに、作業者が鉄道車両の反対側に回り込む必要がなく、作業効率を向上させることができる。
【0009】
上記ブレーキ装置について、前記複数の解除部は、少なくとも2本のケーブル部を含むことが好ましい。
上記構成によれば、鉄道車両の両側に引き出される複数の解除部が少なくとも2本のケーブル部によって操作することができる。このため、ケーブル部によって操作する位置まで延出することができるため、ばねブレーキ機構まで近づかずにブレーキ力の解除操作を行うことができ、作業効率を向上させることができる。
【0010】
上記ブレーキ装置について、前記解除部は、前記ケーブル部と前記ばねブレーキ機構との間に設けられるてこ部を含み、前記てこ部は、前記てこ部が回転軸を中心に回転可能に支持される支点部と、前記ケーブル部に接続される力点部と、前記ばねブレーキ機構に接続される作用点部と、を備えることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、ケーブル部とばねブレーキ機構との間にてこ部が設けられて力点部がケーブル部に接続され、てこ部の作用点部がばねブレーキ機構に接続され、てこ部の支点部が回転軸に支持されるため、複数のてこ部を支持する部材を1つ設けるだけでよい。
【0012】
上記ブレーキ装置について、前記てこ部は、作用点を有する棒状部材であり、前記棒状部材の両端が2本のケーブル部のそれぞれに接続されていることが好ましい。
上記構成によれば、ケーブル部が操作されると、棒状部材が支点部において回転して、作用点を駆動させることができる。
【0013】
上記ブレーキ装置について、前記支点部から前記力点部までの距離が前記支点部から前記作用点部までの距離よりも長いことが好ましい。
上記構成によれば、支点部と力点部との距離が支点部と作用点部との距離よりも長いため、作用させるために必要な力に対して操作する力を少なくすることができる。
【0014】
上記課題を解決する鉄道車両は、上記ブレーキ装置を備え、前記解除部が鉄道車両の両側に配置されている。
上記構成によれば、鉄道車両の両側に配置された解除部を操作することでブレーキ力を解除することができる。このため、鉄道車両の一方側にいる作業者が他方側のばねブレーキ機構を手動解放するときに、作業者が鉄道車両の反対側に回り込む必要がなく、作業効率を向上させることができる。
【0015】
上記課題を解決する鉄道車両は、上記ブレーキ装置を備え、前記ケーブル部が鉄道車両の台車の上を通って配置されている。
上記構成によれば、ばねブレーキ機構に対して複数の解除部が設けられ、これら解除部を操作することでブレーキ力を解除することができる。そして、鉄道車両の両側に解除部をそれぞれ設置することで、鉄道車両の一方側にいる作業者が他方側のばねブレーキ機構を手動解放するときに、作業者が鉄道車両の反対側に回り込む必要がなく、作業効率を向上させることができる。また、ケーブル部が台車の上を通っているので、鉄道車両の走行時においてケーブル部に付着する異物の量を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ばねブレーキ機構のブレーキ力を手動操作により解放するときの作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図4】同実施形態のブレーキ手動解放装置の正面図。
【
図5】同実施形態のブレーキ手動解放装置の接続部の側面図。
【
図6】(a)(b)は同実施形態のブレーキ手動解放装置の正面図。
【
図7】第2の実施形態のブレーキ手動解放装置の接続部の図であって、(a)側面図、(b)正面図。
【
図8】同実施形態のブレーキ手動解放装置の接続部の側面図。
【
図9】第3の実施形態のブレーキ手動解放装置の接続部の側面図。
【
図10】同実施形態のブレーキ手動解放装置の接続部の正面図。
【
図11】(a)(b)は同実施形態のブレーキ手動解放装置の接続部の側面図。
【
図12】(a)(b)は同実施形態のブレーキ手動解放装置の接続部の正面図。
【
図13】第4の実施形態のブレーキ手動解放装置の接続部の側面図。
【
図14】(a)(b)は同実施形態のブレーキ手動解放装置の接続部の側面図。
【
図15】第5の実施形態のブレーキ手動解放装置の接続部の側面図。
【
図16】(a)(b)は同実施形態のブレーキ手動解放装置の接続部の断面図。
【
図17】第6の実施の形態のブレーキ手動解放装置の接続部の側面図。
【
図18】(a)(b)は同実施形態のブレーキ手動解放装置の接続部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
図1~
図6を参照して、ブレーキ装置の第1の実施形態について説明する。
図1に示すように、ブレーキ装置100は、鉄道車両10の車軸11の両端に設けられた車輪12に対して制動力を付与する装置である。ブレーキ装置100は、ブレーキシリンダ装置200と、ブレーキ出力部300と、ブレーキ手動解放装置400と、を備えている。ブレーキ手動解放装置400は、車軸11の軸線方向の両側に向けて対をなして延びるケーブル部420を備えている。ケーブル部420は、台車の上を通って配置されている。
【0019】
図2及び
図3に示すように、ブレーキシリンダ装置200は、シリンダ本体210と、ロッド支持機構220と、流体ブレーキ機構230と、ばねブレーキ機構240と、ロック機構280とを備えている。ブレーキシリンダ装置200は、圧力流体としての圧縮空気の供給及び排出が行われることで、流体ブレーキ機構230及びばねブレーキ機構240のそれぞれが作動可能な装置として構成されている。
【0020】
シリンダ本体210は、筒状に形成されており、鉄道車両10の台車に固定されて設置されている。シリンダ本体210の内部には、ロッド支持機構220と、流体ブレーキ機構230と、ばねブレーキ機構240と、ロック機構280とが収容されている。
【0021】
ロッド支持機構220は、外側ケース部221と、内側ケース部222と、固定ローラ223と、可動ローラ224と、戻しばね225とを備えている。
外側ケース部221は、二つのケースユニット221a,221bにより構成されている。各ケースユニット221a,221bは、筒状をなしており、ロッド226の軸方向に直列に組み合わされて構成されている。また、各ケースユニット221a,221bは、シリンダ本体210に対してロッド226の軸線方向に沿って移動自在に支持されている。
【0022】
内側ケース部222は、外側ケース部221の内側に収容されている。内側ケース部222の内周面には、ロッド226の外周面に形成されたねじ部227が螺合するねじ孔228が形成されている。そして、ねじ孔228に対するねじ部227の螺合位置を変位させることで、ロッド226の内側ケース部222に対する相対位置を変位させる。
【0023】
固定ローラ223は、シリンダ本体210に対して回転自在に支持されている。可動ローラ224は、外側ケース部221に対して回転自在に支持されている。そして、各ローラ223,224は、ロッド226の軸線方向において離間して配置されている。
【0024】
戻しばね225は、圧縮された状態でシリンダ本体210の内部に配置されている。戻しばね225の第1の端部はシリンダ本体210の内壁に当接し、戻しばね225の第2の端部は外側ケース部221の先端に当接している。そして、戻しばね225は、外側ケース部221とともに、内側ケース部222及びこれに螺合するロッド226をシリンダ本体210の内側に退避させるように付勢する。
【0025】
流体ブレーキ機構230は、第1の圧力室231と、第1のばね232と、第1のピストン233とを備えている。そして、流体ブレーキ機構230は、流体としての圧縮空気の給排によって作動し、鉄道車両10の運転時の制動に用いられる。
【0026】
第1の圧力室231は、シリンダ本体210の内部を第1のピストン233によって区画することで形成されている。第1の圧力室231は、シリンダ本体210に設けられた第1のポート234に連通している。第1のポート234は、第1の圧縮空気供給源(図示略)に接続されている。第1の圧縮空気供給源から供給される圧縮空気は、上位のコントローラ(図示略)からの指令に基づいて作動するブレーキ制御装置(図示略)を介して第1のポート234に供給される。そして、第1のポート234からシリンダ本体210の第1の圧力室231に供給された圧縮空気は、コントローラからの指令に基づいてブレーキ制御装置を介して第1のポート234から排出される。
【0027】
第1のばね232は、シリンダ本体210の内部において第1のピストン233によって区画された領域に配置されており、第1のピストン233を介して第1の圧力室231に対向するように配置されている。第1のばね232は、圧縮された状態でシリンダ本体210の内部に配置されている。第1のばね232の第1の端部は第1のピストン233に当接して第1のピストン233を付勢する。また、第1のばね232の第2の端部はシリンダ本体210の内壁に固定されたばね受けプレート235に当接して支持されている。
【0028】
第1のピストン233は、シリンダ本体210の内部を往復動可能に配置されている。第1のピストン233の第1の端部は、第1のポート234から第1の圧力室231に供給された圧縮空気によって押圧される。第1の圧力室231に圧縮空気が供給されることで、第1のばね232の付勢力に抗してブレーキ作動方向(
図2及び
図3における下方向)に移動する。
【0029】
図3に示すように、第1のピストン233の第2の端部には、ロッド駆動部236の基端部236aが固定されている。ロッド駆動部236の先端には先細り形状をなす楔部236bが形成されている。ロッド駆動部236の楔部236bは固定ローラ223と可動ローラ224との間に挿入されている。そして、第1のピストン233がブレーキ作動方向に移動したときには、ロッド駆動部236は、第1のピストン233と一体にブレーキ作動方向に移動する。また、ロッド駆動部236がブレーキ作動方向に移動したときには、ロッド駆動部236の楔部236bが可動ローラ224を固定ローラ223から遠ざける方向に付勢する。そして、可動ローラ224が固定ローラ223から遠ざかることで、ロッド226が車輪12に向かって移動する。その結果、ロッド226の先端に連結された制輪子頭301に保持されるブレーキ用摩擦部材としての制輪子302が被押圧部材としての鉄道車両10の車輪12の踏面12aに当接して制動力を付与する。
【0030】
ばねブレーキ機構240は、第2の圧力室241と、第2のばね242と、第2のピストン243と、軸部244と、伝達機構260とを備えている。そして、ばねブレーキ機構240は、第2のばね242によりブレーキ力を発生させ、鉄道車両10の駐車時に駐車状態を維持するために用いられる。
【0031】
第2の圧力室241は、シリンダ本体210の内部を第2のピストン243によって区画することで形成されている。第2の圧力室241は、シリンダ本体210に設けられた第2のポート246に連通している。第2のポート246は、第2の圧縮空気供給源(図示略)に接続されている。第2の圧縮空気供給源から供給される圧縮空気は、コントローラからの指令に基づいて作動するブレーキ制御装置を介して第2のポート246に供給される。そして、第2のポート246からシリンダ本体210の第2の圧力室241に供給された圧縮空気は、コントローラからの指令に基づいてブレーキ制御装置を介して第2のポート246から排出する。
【0032】
第2のばね242は、シリンダ本体210の内部において第2のピストン243によって区画された領域に配置されており、第2のピストン243を介して第2の圧力室241に対向するように配置されている。第2のばね242は、圧縮された状態でシリンダ本体210の内部に配置されている。第2のばね242の第1の端部はシリンダ本体210の端部の内壁に当接して支持されている。また、第2のばね242の第2の端部は第2のピストン243に当接して第2のピストン243を付勢する。
【0033】
第2のピストン243は、シリンダ本体210の内部を往復動可能に配置されている。第2のピストン243の第1の端部は、第2のポート246から第2の圧力室241に供給された圧縮空気によって押圧される。第2の圧力室241に圧縮空気が供給されることで、第2のばね242の付勢力に抗してブレーキ作動方向とは反対方向(
図2及び
図3における上方向)に移動するように構成されている。一方、第2のピストン243は、第2の圧力室241に供給された圧縮空気が第2のポート246を通じて排出されることで、第2のばね242の付勢力によりブレーキ作動方向(
図2及び
図3における下方向)に移動する。
【0034】
したがって、ばねブレーキ機構240は、第2の圧力室241に圧縮空気が供給されている状態から排出される状態へ移行することで第2のばね242の付勢力により第2のピストン243がブレーキ作動方向に移動するように構成されている。
【0035】
軸部244は、スピンドル250と、軸受251とを備えている。軸部244は、スピンドル250の端部において第1のピストン233に連結され、第1のピストン233とともに変位する。
【0036】
スピンドル250は、第1のピストン233とは別体に形成された軸状の部材であり、第1のピストン233から見てブレーキ解除方向に向かって突出している。そして、スピンドル250は、後述する伝達機構260とともに第2のばね242からの第2のピストン243を介した付勢力を第1のピストン233に伝達する。
【0037】
また、スピンドル250において第1のピストン233に連結される第1の端部には、環状の凸部250aが設けられている。第1のピストン233の径方向における中央部分には凹部234aが設けられている。第1のピストン233の凹部234aは、第1のピストン233がブレーキ作動方向に移動するときに、スピンドル250の端部の凸部250aと係合し、スピンドル250をブレーキ作動方向に付勢する。
【0038】
軸受251は、例えば、球状の部材として設けられ、第2のばね242からの第2のピストン243を介した付勢力によってスピンドル250に作用するスラスト荷重を受ける。軸受251は、ロッド駆動部236の基端部236aに形成された凹部236cに配置され、スピンドル250の第1の端部とロッド駆動部236の基端部236aとの間に介在している。
【0039】
伝達機構260は、噛み合い式のクラッチ機構であって、第2のピストン243のブレーキ作動方向の付勢力を第1のピストン233とともに変位する軸部244に伝達する。伝達機構260は、ねじ部261と、クラッチホイール262と、クラッチスリーブ263と、クラッチボックス264とを備える。なお、第2のピストン243の径方向の内側には、筒状部265が設けられている。筒状部265の内部には、伝達機構260が配置されている。
【0040】
ねじ部261は、スピンドル250の外周に形成された雄ねじ部であって、スピンドル250において第1のピストン233に連結される第1の端部とは反対側の第2の端部側に配置されている。
【0041】
クラッチホイール262は、ねじ部261に螺合する筒状のナット部材であって、スピンドル250と同心状に配置されている。クラッチホイール262の内周部には、ねじ部261に螺合する雌ねじ部が設けられている。クラッチホイール262は、筒状に形成されたクラッチボックス264の内側に配置され、クラッチボックス264に対して軸受266を介して軸部244の軸線方向への相対移動を規制しつつ回転自在に支持されている。これにより、クラッチホイール262は、ねじ部261に対して螺合する相対位置を変えながら、スピンドル250に対して軸方向に相対変位可能となっている。
【0042】
クラッチスリーブ263は、筒状の部材であって、クラッチボックス264の内側に配置されている。クラッチスリーブ263は、クラッチボックス264に対して、スピンドル250の軸方向と平行な方向に沿って移動自在に支持されている。クラッチスリーブ263におけるクラッチ作動方向の先端に位置する第1の端部は、クラッチホイール262におけるブレーキ解除方向の先端に位置する第1の端部に対向して配置されている。
【0043】
クラッチスリーブ263の第1の端部とクラッチホイール262の第1の端部との間には、回転止め機構が設けられている。回転止め機構は、クラッチスリーブ263の第1の端部に設けられた凹凸歯263aと、クラッチホイール262の第1の端部に設けられた凹凸歯262aとにより構成されている。
【0044】
そして、第2のピストン243がブレーキ作動方向に移動してスピンドル250に対して相対移動したときには、クラッチスリーブ263も第2のピストン243とともにスピンドル250に対して相対移動する。また、クラッチスリーブ263がクラッチホイール262に対して当接したときには、クラッチホイール262の凹凸歯262aとクラッチスリーブ263の凹凸歯263aとが噛み合うことで、クラッチスリーブ263とクラッチホイール262との相対回転が規制される。
【0045】
また、クラッチスリーブ263におけるクラッチ解除方向の先端に位置する第2の端部は、第2のピストン243の端部に対して軸受267を介して支持されている。軸受267は、クラッチスリーブ263の第2の端部を第2のピストン243に対してスピンドル250の中心軸線を中心として回転可能に支持しており、第2のピストン243の付勢力をクラッチスリーブ263に伝達する。
【0046】
クラッチボックス264は、筒状の部材であって、ねじ部261、クラッチホイール262、及びクラッチスリーブ263を収容している。クラッチボックス264は、シリンダ本体210の内部において、シリンダ本体210の筒状部265と第2のピストン243との間に配置されている。クラッチボックス264は、筒状部265と第2のピストン243とによってスピンドル250の軸方向と平行な方向に沿って摺動可能に支持されている。また、クラッチボックス264は、後述するロック機構280におけるラッチ部材281が係合していない状態では、シリンダ本体210の筒状部265と第2のピストン243に対してシリンダ本体210の周方向に沿って摺動可能となっている。なお、ラッチ部材281が解放部材に相当する。
【0047】
ロック機構280は、ばねブレーキ機構240をロック状態とし、このロック状態を解除することでばねブレーキ機構240のブレーキ力を解放する機構である。ロック機構280は、ラッチ部材281と、ラッチ付勢ばね282とを有している。
【0048】
ラッチ部材281は、シリンダ本体210の内部において第1の圧力室231と第2の圧力室241とを区画する領域に配置されている。ラッチ部材281は、棒状をなしており、シリンダ本体210の径方向に沿って延びるように配置されている。また、ラッチ部材281の第1の端部は、シリンダ本体210の外側に突出している。そして、ラッチ部材281の第1の端部とシリンダ本体210との間の隙間を閉塞するカバー部材283により、ラッチ部材281がシリンダ本体210の外部に脱落することが防止されている。また、ラッチ部材281の第2の端部は、ラッチ部材281の他の部位よりも広がった段部となっている。
【0049】
ラッチ付勢ばね282は、ラッチ部材281の第2の端部とカバー部材283との間に介設されており、ラッチ部材281をシリンダ本体210の内側に向けて付勢する。そして、ラッチ部材281の第2の端部の先端面に形成されたラッチ刃281aは、ラッチ付勢ばね282からの付勢力に基づき、伝達機構260のクラッチボックス264に係合する。これにより、ばねブレーキ機構240の作動時における軸部244の第2のピストン243に対する相対変位が規制され、ばねブレーキ機構240のブレーキ力が維持される。
【0050】
図2に示すように、ブレーキ出力部300は、制輪子頭301と、制輪子302とを備えている。制輪子頭301は、制輪子302を保持する部材であって、ロッド226の先端部に対して揺動自在に支持されている。また、制輪子頭301は、シリンダ本体210に対して揺動自在に連結されたハンガー部材303に対して揺動可能に支持されている。制輪子302は、制輪子頭301に保持される面とは反対側に位置する先端面が、鉄道車両10の車輪12の踏面12aに対して当接可能な制動面として機能する。
【0051】
次に、ブレーキ手動解放装置400について説明する。
図4に示すように、ブレーキ手動解放装置400は、手動操作によってロック機構280(ラッチ部材281)を操作する装置である。ブレーキ手動解放装置400によってロック機構280によるばねブレーキ機構240のロック状態を解除し、ばねブレーキ機構240のブレーキ力を解放することができる。ブレーキ手動解放装置400は、操作部410、ケーブル部420、及び接続部430を備えている。ケーブル部420の第1の端部には、操作部410が接続されている。また、ケーブル部420の第2の端部には、接続部430が接続されている。
【0052】
ケーブル部420は、中空状のアウターケーブル421とアウターケーブル421に挿通されるインナーケーブル422とを備えている。インナーケーブル422は、アウターケーブル421よりも長く、アウターケーブル421の両端部から突出している。
【0053】
アウターケーブル421の第1の端部には、第1取付部412が固定されている。第1取付部412の外周には、雄ねじが形成されている。第1取付部412には、ケーブル部420を固定する操作側ブラケット413が取り付けられている。操作側ブラケット413は、第1取付部412に環装されている。第1取付部412には2個のナット414,415が締結され、操作側ブラケット413がこれら2個のナット414,415に挟まれている。
【0054】
インナーケーブル422の第1の端部には、操作部410が接続されている。操作部410は、ブレーキ手動解放装置400を操作する際に把持される把持部411を備えている。インナーケーブル422の第1の端部のアウターケーブル421から突出した部分は、蛇腹形状の第1伸縮部416に被覆されている。操作部410が引っ張られるとインナーケーブル422の第1の端部側の突出量が長くなるため、第1伸縮部416が伸長する。一方、操作部410に対する引っ張り操作がなくなるとインナーケーブル422の第1の端部側の突出量が短くなるため、第1伸縮部416が短縮する。
【0055】
アウターケーブル421の第2の端部には、第2取付部442が固定されている。第2取付部442の外周には、雄ねじが形成されている。第2取付部442には、ケーブル部420を固定する接続側ブラケット443が取り付けられている。接続側ブラケット443は、第2取付部442に環装されている。第2取付部442には2個のナット444,445が締結され、接続側ブラケット443がこれら2個のナット444,445に挟まれている。
【0056】
具体的には、
図5に示すように、接続側ブラケット443には、厚み方向に貫通する2つの貫通孔(図示略)が形成されている。そして、ブレーキ手動解放装置400の2つのケーブル部420は、接続側ブラケット443の各対応する貫通孔に貫通している。
【0057】
図4に示すように、インナーケーブル422の第2の端部には、U字状の接続部材423が固定されている。第2取付部442と接続部材423との間には、インナーケーブル422を環装した状態で付勢ばね447が取り付けられている。付勢ばね447は、蛇腹形状の第2伸縮部446に被覆されている。付勢ばね447は、第2取付部442と接続部材423とが離間する方向に付勢し、第2伸縮部446が伸長した状態とする。操作部410が引っ張られるとインナーケーブル422の第2の端部側の突出量が短くなるため、第2伸縮部446が短縮する。一方、操作部410に対する引っ張り操作がなくなるとインナーケーブル422の第2の端部側の突出量が長くなるため、第2伸縮部446が伸長する。
【0058】
接続部430は、インナーケーブル422の第2の端部に設けられた接続部材423に接続されている。接続部430は、てこ部材434を備えている。てこ部材434は、シリンダ本体210に設けられた支持部211に対して回転軸441によって回動可能に取り付けられている。ラッチ部材281には、リング部材284が取り付けられている。てこ部材434は、リング部材284に引っ掛けられ、リング部材284を介してロック機構280のラッチ部材281に連結されている。すなわち、ロック機構280に対してブレーキ手動解放装置400の2個のケーブル部420が設けられている。
【0059】
てこ部材434は、各ケーブル部420に対してそれぞれ設けられている。すなわち、リング部材284には、左側てこ部材434L及び右側てこ部材434Rの2個が引っ掛けられている。左側てこ部材434L及び右側てこ部材434Rは、線対称の形状である。
【0060】
てこ部材434は、回転軸441に環装される円筒状の軸部434Aを備えている。てこ部材434は、軸部434Aの支持部211寄りの一端部から延びて接続部材423に連結される第1延出部434Bと、軸部434Aの他端部から延びてリング部材284に連結される第2延出部434Cとを備えている。
【0061】
U字状の接続部材423には、てこ部材434の第1延出部434Bの先端が連結されている。接続部材423とてこ部材434とは、てこ部材434の第1延出部434Bを接続部材423のU字部で挟み、ピン437を挿通させることで連結することができる。てこ部材434の第1延出部434Bの先端が力点部に相当する。
【0062】
図4に示すように、てこ部材434は、支点部、力点部、及び作用点部を有した状態で一体に形成されている。
てこ部材434の支点部は、シリンダ本体210の支持部211に固定された回転軸441に環装された軸部434Aである。そして、てこ部材434は、てこ部材434の支点部を支点として支持部211に対して回転軸441を中心として回動可能に支持されている。
【0063】
てこ部材434の力点部は、ピン437によって接続部材423に連結されている第1延出部434Bの端部である。そして、ケーブル部420の第1の端部に設けられた操作部410が操作されたときには、操作部410を通じて入力された操作力がケーブル部420を介しててこ部材434の力点部に伝達される。
【0064】
てこ部材434の作用点部は、ラッチ部材281のリング部材284に連結された第2延出部434Cの端部である。
そして、
図6(a)に示すように、てこ部材434の作用点部は、ブレーキ手動解放装置400の初期状態では、シリンダ本体210の内部に向けて付勢されているラッチ部材281によってリング部材284を介して引っ張られている。これにより、てこ部材434は、てこ部材434の作用点部がてこ部材434の支点部を中心としてシリンダ本体210の内部に向けて引き込まれるように付勢されている。
【0065】
ここで、
図6(b)に示すように、操作部410を通じて入力される操作力がケーブル部420を介しててこ部材434の力点部である第1延出部434Bの端部に伝達される。このとき、てこ部材434は、てこ部材434の支点部である軸部434Aを中心としててこ部材434の作用点部である第2延出部434Cの端部を回転軸441から遠ざける方向に回転させる。そして、てこ部材434の回転力がてこ部材434の作用点部である第2延出部434Cの端部からリング部材284を介してラッチ部材281に伝達される。
【0066】
これにより、ラッチ部材281は、シリンダ本体210の外側に向かって引き出されることにより、ラッチ部材281の先端面に設けられたラッチ刃281aが伝達機構260のクラッチボックス264から離間する。その結果、ばねブレーキ機構240の作動時における軸部244の第2のピストン243に対する相対変位が許容され、ばねブレーキ機構240のブレーキ力が解放される。
【0067】
以上説明したように、上記第1の実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)ばねブレーキ機構240に対してブレーキ手動解放装置400の複数のケーブル部420が設けられ、これらケーブル部420を操作することでブレーキ力を解除することができる。そして、鉄道車両10の両側にケーブル部420をそれぞれ設置することで、鉄道車両10の一方側にいる作業者が他方側のばねブレーキ機構240を手動解放するときに、作業者が鉄道車両10の反対側に回り込む必要がなく、作業効率を向上させることができる。
【0068】
(2)2本のケーブル部420によってブレーキ手動解放装置400を操作することができる。このため、ケーブル部420によって操作する位置まで延出することができるため、ばねブレーキ機構240まで近づかずにブレーキ力の解除操作を行うことができ、作業効率を向上させることができる。
【0069】
(3)ケーブル部420とばねブレーキ機構240との間にてこ部材434が設けられて力点部となる第1延出部434Bが接続され、てこ部材434の作用点部となる第2延出部434Cがばねブレーキ機構240のラッチ部材281に接続され、てこ部材434の支点部となる軸部434Aが回転軸441に支持されるため、複数のてこ部材434を支持する部材を1つ設けるだけでよい。
【0070】
(4)ケーブル部420が台車の上を通っているので、鉄道車両10の走行時においてケーブル部420に付着する異物の量を抑制することができる。
【0071】
(第2の実施形態)
次に、
図7及び
図8を参照して、ブレーキ装置の第2の実施形態について説明する。なお、第2の実施形態は、ブレーキ手動解放装置における接続部の構成が第1の実施形態と異なる。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については重複する説明を省略する。
【0072】
図7(a)、(b)に示すように、ブレーキ手動解放装置400の2つのインナーケーブル422の第2の端部には、U字状の接続部材423が固定されている。接続部材423は、棒状のバランス棒438の端部に連結されている。バランス棒438の両端には、各接続部材423を連結するための孔が設けられている。各接続部材423は、バランス棒438の端部をU字部で挟み、ピン437を挿通させることで連結することができる。接続部材423は、接続側ブラケット443に設けられた当て部450に当接している。
【0073】
バランス棒438は、てこ部材434を貫通することでてこ部材434と連結されている。てこ部材434には、バランス棒438が貫通する貫通孔434Dが設けられている。
【0074】
図8に示すように、ブレーキ手動解放装置400の一方のケーブル部420(同図に示す例では右側)の操作部410を引っ張ったときには、同ケーブル部420に接続された接続部材423が当て部450から図中上方に離間する。
【0075】
一方、ブレーキ手動解放装置400の他方のケーブル部420(同図に示す例では左側)は位置が不変のため、同ケーブル部420に接続された接続部材423が当て部450に当接した状態を維持する。その結果、当て部450に当接した接続部材423のピン437を回転中心として、2つの接続部材423の間を接続するバランス棒438が揺動する。
【0076】
このとき、接続部材423は、水平方向に対して斜めに傾くため、てこ部材434の貫通孔434Dの孔縁が接続部材423の側面に対して上下両側から係合する。その結果、てこ部材434は、接続部材423の揺動に伴って、力点部である貫通孔434Dが移動する。そして、てこ部材434は、支点部である軸部434Aを中心として作用点部である第2延出部434Cをシリンダ本体210から遠ざかる方向に回転する。すると、てこ部材434の回転力が第2延出部434Cからリング部材284を介してラッチ部材281に伝達する。その結果、リング部材284に連結されるラッチ部材281の第1の端部がシリンダ本体210の外側に向かって引き出されることにより、ばねブレーキ機構240のブレーキ力が解放される。
【0077】
以上説明したように、上記第2の実施形態によれば、上記第1の実施形態の効果(1)、(2)、及び(4)に加えて、以下に示す効果を得ることができる。
(5)ケーブル部420が操作されると、バランス棒438が支点部となる軸部434Aにおいて回転して、作用点となる第2延出部434Cを駆動させることができる。
【0078】
(6)ブレーキ手動解放装置400の一方のケーブル部420の操作部410が引っ張られたときには、ブレーキ手動解放装置400の他方のケーブル部420における接続部材423のピン437を回転中心としてバランス棒438が揺動する。そして、バランス棒438がてこ部材434の貫通孔434Dの孔縁に係合することで、てこ部材434が回転する。すなわち、接続部材423の移動距離に対するてこ部材434の貫通孔434Dの移動距離がほぼ半分であるため、ブレーキ手動解放装置400の操作力を半分に減少させることができる。
【0079】
(第3の実施形態)
次に、
図9~
図12を参照して、ブレーキ装置の第3の実施形態について説明する。なお、第3の実施形態は、ブレーキ手動解放装置における接続部の構成が第1の実施形態と異なる。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については重複する説明を省略する。
【0080】
図9に示すように、ブレーキ手動解放装置400の2つのケーブル部420は、水平方向において互いに対向するように延びており、各々のケーブル部420のインナーケーブル422に固定された接続部材423には、略L字状をなす伝達部材460が回転可能にピン437によって連結されている。各々の伝達部材460のL字の角部には、シリンダ本体210に支持された回転軸461が設けられている。伝達部材460のL字における第1端部462は、接続部材423に連結されている。伝達部材460の接続部材423が連結された第1端部462と反対側の端部である第2端部463は、シリンダ本体210に形成された当て部470に当接している。
【0081】
図10に示すように、各々の伝達部材460の第2端部463端部は、てこ部材434の第1延出部434Bに係合している。なお、各々の伝達部材460は、てこ部材434の第1延出部434Bの延出方向において並行に配置され、互いに異なる位置にて第1延出部434Bに係合している。
【0082】
そして、
図11(a)に示すように、ブレーキ手動解放装置400の一方の操作部410(同図に示す例では右側)を引っ張ったときには、同ケーブル部420の接続部材423も併せて水平方向に移動する。すると、伝達部材460は、接続部材423と連結された端部が水平方向に移動することにより、回転軸461を中心として時計回りに回転する。なお、左側のケーブル部420であれば、伝達部材460は反時計回りに回転する。
【0083】
その結果、
図11(b)に示すように、伝達部材460は、回転軸461を支点として第2端部463が上方に回転する。そして、伝達部材460は、てこ部材434の第1延出部434Bを下方から持ち上げる。
【0084】
このとき、
図12(a)に示すように、操作部410を引っ張っていない状態では、てこ部材434は、第1延出部434Bが水平方向に沿って配置されている。ケーブル部420の接続部材423の移動方向とラッチ部材281の移動方向とはねじれの位置関係であり、ラッチ部材281とケーブル部420の第2の端部との配置がねじれの位置であってもブレーキ手動解放装置400を設置することができる。
【0085】
一方、
図12(b)に示すように、伝達部材460が回転軸461を支点として第2端部463が上方に回転すると、てこ部材434は、回転軸441を支点として第1延出部434Bが水平方向に対して傾斜するように持ち上がる。そして、てこ部材434は、支点部である回転軸441を中心として作用点部である第2延出部434Cをシリンダ本体210から遠ざかる方向に回転する。すると、てこ部材434の回転力が第2延出部434Cからリング部材284を介してラッチ部材281に伝達する。その結果、リング部材284に連結されるラッチ部材281の第1の端部がシリンダ本体210の外側に向かって引き出されることにより、ばねブレーキ機構240のブレーキ力が解放される。
【0086】
以上説明したように、上記第3の実施形態によれば、上記第1の実施形態の効果(1)、(2)、及び(4)に加えて、以下に示す効果を得ることができる。
(7)各ケーブル部420に設けられる伝達部材460の変位を、ラッチ部材281に接続されるてこ部材434に伝達するため、てこ部材434に対する伝達部材460の配置方向を変更することで、複数のケーブル部420の設置位置の自由度を高めることができる。
【0087】
(第4の実施形態)
次に、
図13及び
図14を参照して、ブレーキ装置の第4の実施形態について説明する。なお、第4の実施形態は、ブレーキ手動解放装置におけるケーブル部420の配置が第3の実施形態と異なる。したがって、以下の説明においては、第3の実施形態と相違する構成について主に説明し、第3の実施形態と同様の構成については重複する説明を省略する。
【0088】
図13に示すように、ブレーキ手動解放装置400の2つのケーブル部420は、斜め下方から延びており、各々のケーブル部420に固定された接続部材423には、L字を開いた形状である伝達部材460が回転軸461を中心として回転可能に設けられている。各々の伝達部材460の角部には、シリンダ本体210に軸支された回転軸461を中心として回転可能に設けられている。伝達部材460の第1端部462は、接続部材423に連結されている。伝達部材460の接続部材423が連結された第1端部462と反対側の端部である第2端部463は、シリンダ本体210に設けられた当て部470に当接している。ケーブル部420の接続部材423の移動方向とラッチ部材281の移動方向とはねじれの位置関係であり、ケーブル部420の接続部材423は斜め上下方向に移動する。このため、ラッチ部材281とケーブル部420との配置がねじれの位置で且つ接続部材423が斜め上下方向に移動してもブレーキ手動解放装置400を設置することができる。
【0089】
また、各々の伝達部材460の第2端部463は、てこ部材434の第1延出部434Bに係合している。なお、各々の伝達部材460は、てこ部材434の第1延出部434Bの延出方向において並行に配置され、互いに異なる位置にて第1延出部434Bに係合している。
【0090】
そして、
図14(a)に示すように、ブレーキ手動解放装置400の一方の操作部410(同図に示す例では右側)を引っ張ったときには、同ケーブル部420の接続部材423も併せて斜め下方に移動する。すると、伝達部材460は、接続部材423と連結された端部が斜め図中下方に移動することにより、回転軸461を中心として時計回りに回転する。なお、左側のケーブル部420であれば、伝達部材460は反時計回りに回転する。
【0091】
その結果、
図14(b)に示すように、伝達部材460の第2端部463は、回転軸461を支点として第2端部463が図中上方に回転する。そして、伝達部材460は、てこ部材434の第1延出部434Bを図中下方から持ち上げる。
【0092】
そして、てこ部材434は、回転軸441に環装された支点となる軸部434Aを中心として作用点である第2延出部434Cがシリンダ本体210から遠ざかる方向に回転する。すると、てこ部材434の回転力がリング部材284に連結されるラッチ部材281に伝達する。その結果、リング部材284に連結されるラッチ部材281の第1の端部がシリンダ本体210の外側に向かって引き出されることにより、ばねブレーキ機構240のブレーキ力が解放される。
【0093】
以上説明したように、上記第4の実施形態によれば、上記第1の実施形態の効果(1)、(2)、及び(4)に加えて、以下に示す効果を得ることができる。
(8)各ケーブル部420に設けられる伝達部材460の変位を、ラッチ部材281に接続されるてこ部材434に伝達するため、てこ部材434に対する伝達部材460の配置方向を変更することで、複数のケーブル部420の設置位置の自由度を高めることができる。
【0094】
(第5の実施形態)
次に、
図15及び
図16を参照して、ブレーキ装置の第5の実施形態について説明する。なお、第5の実施形態は、ブレーキ手動解放装置におけるケーブル部と接続部との接続構成が第1の実施形態と異なる。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については重複する説明を省略する。
【0095】
図15に示すように、ブレーキ手動解放装置400の2つのケーブル部420の第2の端部には、中継機構600が設けられている。中継機構600の一端には2本のケーブル部420が接続され、中継機構600の他端には1本の接続ケーブル650が接続されている。接続ケーブル650は、第1~4の実施形態のケーブル部420の第2の端部と同様の構成であって、てこ部材434に接続する端部と反対側の端部が中継機構600の筐体610内に挿通している。すなわち、中継機構600は、2本のケーブル部420と、1本の接続ケーブル650とを中継する。中継機構600とラッチ部材281との間には、第2取付部542、接続側ブラケット543、ナット544,545、第2伸縮部546の1組のみが設けられている。接続側ブラケット543は、シリンダ本体210に固定されている。また、中継機構600からてこ部材434までが接続部として機能する。
【0096】
中継機構600の筐体610は、第2取付部542に固定されている。中継機構600の筐体610には移動部材620が収容されている。この移動部材620には、ケーブル部420のインナーケーブル422の第2の端部が図中上下方向に貫通している。そして、移動部材620の下端から突出したケーブル部420のインナーケーブル422の第2の端部の先端部位にはかしめ部材630が固定されている。移動部材620は、かしめ部材630が当接することによってインナーケーブル422と一体となって図中上下方向に移動する。また、移動部材620の中央部には、接続ケーブル650が挿通されている。接続ケーブル650の第1の端部の移動部材620の上端から突出した部位には、かしめ部材660が固定されている。このかしめ部材660は、移動部材620に固定されている。よって接続ケーブル650と移動部材620とは一体となって図中上下方向に移動する。
【0097】
図16(a)に示すように、接続ケーブル650の第2の端部には、U字状の接続部材523が固定されている。接続部材523は、てこ部材434に接続される。第2取付部542と接続部材523との間には、接続ケーブル650を環装した状態で付勢ばね547が取り付けられている。付勢ばね547は、蛇腹形状の第2伸縮部546に被覆されている。付勢ばね547は、第2取付部542と接続部材523とが離間する方向に付勢し、第2伸縮部546が伸長した状態とする。操作部410が引っ張られて、移動部材620が移動すると接続ケーブル650の第2の端部側の突出量が短くなるため、第2伸縮部546が短縮する。一方、操作部410に対する引っ張り操作がなくなると接続ケーブル650の第2の端部側の突出量が長くなるため、第2伸縮部546が伸長する。
【0098】
ここで、
図16(b)に示すように、ブレーキ手動解放装置400の一方の操作部410(同図に示す例では左側)を引っ張ったときには、同ケーブル部420の第2の端部の図中上方への移動に伴って移動部材620が図中上方に移動する。このとき、他方のケーブル部420の第2の端部は移動せず、他方のケーブル部420のインナーケーブル422を挿通した状態で移動部材620が移動する。その結果、移動部材620の移動に伴って接続ケーブル650が付勢ばね547の付勢力に抗して図中上方に移動し、接続ケーブル650の第2の端部に固定された接続部材523が図中上方に移動する。
【0099】
その後、
図15に示すように、接続部材523の図中上方への移動に伴って、てこ部材434が図中上方に引っ張られる。そして、てこ部材434は、回転軸441に環装された支点となる軸部434Aを中心として作用点である第2延出部434Cがシリンダ本体210から遠ざかるように回転する。そして、てこ部材434の回転力がリング部材284を介してラッチ部材281に伝達する。その結果、リング部材284に連結されるラッチ部材281の第1の端部がシリンダ本体210の外側に向かって引き出されることにより、ばねブレーキ機構240のブレーキ力が解放される。
【0100】
以上説明したように、上記第5の実施形態によれば、上記第1の実施形態の効果(1)、(2)、及び(4)に加えて、以下に示す効果を得ることができる。
(9)ケーブル部420の各々が中継機構600によって1本の接続ケーブル650に連結される。そのため、ケーブル部420を鉄道車両10に取り付けるときには、接続ケーブル650とてこ部材434との構成はそのままで、ケーブル部420を中継機構600に接続することで取り付けることができる。
【0101】
(第6の実施形態)
次に、
図17及び
図18に参照して、ブレーキ装置の第6の実施形態について説明する。なお、第6の実施形態は、ブレーキ手動解放装置における中継機構の構成が第5の実施形態と異なる。したがって、以下の説明においては、第5の実施形態と相違する構成について主に説明し、第5の実施形態と同様の構成については重複する説明を省略する。
【0102】
図17に示すように、ブレーキ手動解放装置400の2つのケーブル部420の第2の端部には、中継機構700が設けられている。中継機構700の一端には2本のケーブル部420が接続され、中継機構700の他端には1本の接続ケーブル770が接続されている。接続ケーブル770は、第1~4の実施形態のケーブル部420の第2の端部と同様の構成であって、てこ部材434に接続する端部と反対側の端部が中継機構700の筐体710内に挿通している。すなわち、中継機構700は、2本のケーブル部420と、1本の接続ケーブル770とを中継する。中継機構700とラッチ部材281との間には、第2取付部542、接続側ブラケット543、ナット544,545、第2伸縮部546の1組のみが設けられている。接続側ブラケット543は、シリンダ本体210に固定されている。また、中継機構700からてこ部材434までが接続部として機能する。
【0103】
中継機構700の筐体710は、第2取付部542に固定されている。中継機構700の筐体710には連結板750が収容されている。この連結板750には、ケーブル部420のインナーケーブル422の第2の端部が図中上方から連結されている。連結板750の両端部には、コロ730が設けられている。各々のコロ730は、結合ピン740によって回転可能に連結板750に連結されている。ケーブル部420の第2の端部の先端には、ケーブルピン720が固定されている。各コロ730には、対応するケーブルピン720が連結されている。これにより、連結板750の両端部とケーブル部420とは一体となって図中上下方向に移動する。また、連結板750の中央部には、接続ケーブル770が挿通されている。接続ケーブル770の第1の端部の連結板750の上端から突出した部位には、かしめ部材760が固定されている。このかしめ部材760は、連結板750に固定されている。よって、この接続ケーブル770と連結板750とは一体となって図中上下方向に移動する。また、連結板750の中央部には、接続ケーブル650が挿通されている。接続ケーブル650の第1の端部のうち連結板750の上端から突出した部位にはかしめ部材760が固定されている。このかしめ部材760は、連結板750に固定されている。よって接続ケーブル650と連結板750とは一体となって図中上下方向に移動する。
【0104】
図18(a)に示すように、接続ケーブル770の第2の端部には、U字状の接続部材523が固定されている。接続部材523は、てこ部材434に接続される。第2取付部542と接続部材523との間には、接続ケーブル770を環装した状態で付勢ばね547が取り付けられている。付勢ばね547は、蛇腹形状の第2伸縮部546に被覆されている。付勢ばね547は、第2取付部542と接続部材523とが離間する方向に付勢し、第2伸縮部546が伸長した状態とする。操作部410が引っ張られて、連結板750が移動すると接続ケーブル770の第2の端部側の突出量が短くなるため、第2伸縮部546が短縮する。一方、操作部410に対する引っ張り操作がなくなると接続ケーブル770の第2の端部側の突出量が長くなるため、第2伸縮部546が伸長する。
【0105】
ここで、
図18(b)に示すように、ブレーキ手動解放装置400の一方の操作部410(同図に示す例では左側)を引っ張ったときには、同ケーブル部420に接続されたコロ730が筐体710の底面から図中上方に離間する。このとき、ブレーキ手動解放装置400の他方のケーブル部420(同図に示す例では右側)は位置が不変のため、同ケーブル部420に接続されたコロ730は筐体710の底面に当接した状態を維持する。その結果、筐体710の底面に当接したコロ730を回転中心として、2つのコロ730の間を接続する連結板750が揺動する。
【0106】
そして、連結板750と接続ケーブル770との連結部位が図中上方に移動することに伴って、接続ケーブル770が付勢ばね547の付勢力に抗して図中上方に移動し、接続ケーブル770の第2の端部に固定された接続部材523が図中上方に移動する。
【0107】
その後、
図17に示すように、接続部材523の図中上方への移動に伴って、てこ部材434が図中上方に引っ張られる。そして、てこ部材434は、回転軸441に環装された支点となる軸部434Aを中心として作用点である第2延出部434Cがシリンダ本体210から遠ざかるように回転する。そして、てこ部材434の回転力がリング部材284を介してラッチ部材281に伝達する。その結果、リング部材284に連結されるラッチ部材281の第1の端部がシリンダ本体210の外側に向かって引き出されることにより、ばねブレーキ機構240のブレーキ力が解放される。
【0108】
以上説明したように、上記第6の実施形態によれば、上記第1の実施形態の効果(1)、(2)、(4)及び上記第5の実施形態の効果(9)に加えて、以下に示す効果を得ることができる。
【0109】
(10)ブレーキ手動解放装置400の一方のケーブル部420の操作部410が引っ張られたときには、ブレーキ手動解放装置400の他方のケーブル部420に接続されたコロ730を回転中心として連結板750が揺動する。そして、連結板750の中央部に挿通された接続ケーブル770が図中上方に移動する。すなわち、インナーケーブル422の移動距離に対する接続ケーブル770の移動距離がほぼ半分であるため、ブレーキ手動解放装置400の操作力を半分に減少させることができる。
【0110】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のような形態にて実施することもできる。
・上記各実施形態では、ラッチ部材281とてこ部材434とをリング部材284を介して連結したが、ラッチ部材281とてこ部材434とを直接連結してもよい。
【0111】
・上記第5,6の実施形態では、中継機構600,700の筐体610,710を第2取付部442に固定した。しかしながら、中継機構600,700の筐体610,710を接続側ブラケット443に固定してもよい。また、中継機構600,700の筐体610,710をシリンダ本体210に直接固定してもよい。
【0112】
・上記各実施形態においては、ブレーキ手動解放装置400がブレーキシリンダ装置200よりも車輪12側となる位置に設けられた形態とした。しかしながら、ブレーキ手動解放装置400がブレーキシリンダ装置200から見て車輪12とは反対側となる位置に設けてもよい。また、ブレーキ手動解放装置400をブレーキシリンダ装置200の任意の位置に設けてもよい。
【0113】
・上記各実施形態においては、流体ブレーキ機構230及びばねブレーキ機構240に用いられる圧力流体として圧縮空気が適用したが、例えば圧油を圧力流体として用いてもよい。
【0114】
・上記各実施形態では、車輪12の踏面12aに接触して制動力を発生させるブレーキ装置に適用したが、被押圧部材にブレーキ用摩擦部材が押し当てられるキャリパブレーキやレールブレーキ等のブレーキ装置に適用してもよい。
【0115】
・上記各実施形態において、ブレーキ手動解放装置400の操作部410が手動によって操作されるようにした。しかしながら、ブレーキ手動解放装置400の操作部410に操作部410を操作する操作装置を接続して、ブレーキ手動解放装置400の操作部410を操作装置によって操作するようにしてもよい。操作装置に有線又は無線の通信機能を持たせれば、ブレーキ手動解放装置400を遠隔で操作することができるようになる。
【0116】
・上記各実施形態では、ブレーキ手動解放装置400は複数のケーブル部420を備えたが、ロック機構280のラッチ部材281を操作することができる複数の部材であれば、ケーブル部420に限らず、棒等の他の部材であってもよい。
【符号の説明】
【0117】
10…鉄道車両、11…車軸、12…被押圧部材としての車輪、100…ブレーキ装置、240…ばねブレーキ機構、281…ラッチ部材、284…リング部材、302…ブレーキ用摩擦部材としての制輪子、400…解除部としてのブレーキ手動解放装置、410…操作部、411…把持部、412…第1取付部、413…操作側ブラケット、414,415…ナット、416…第1伸縮部、420…ケーブル部、421…アウターケーブル、422…インナーケーブル、423…接続部材、430…接続部、434…てこ部材、434A…支点部としての軸部、434B…力点部としての第1延出部、434C…作用点部としての第2延出部、434D…貫通孔、438…バランス棒、441…回転軸、442…第2取付部、443…接続側ブラケット、444,445…ナット、446…第2伸縮部、447…付勢ばね、450…当て部、460…伝達部材、461…回転軸、462…第1端部、463…第2端部、470…当て部、523…接続部材、542…第2取付部、543…接続側ブラケット、544…ナット、545…ナット、546…第2伸縮部、547…付勢ばね、600…中継機構、610…筐体、620…移動部材、630…かしめ部材、650…接続ケーブル、660…かしめ部材、700…中継機構、710…筐体、720…ケーブルピン、730…コロ、740…結合ピン、750…連結板、760…かしめ部材、770…接続ケーブル。