(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】検査キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20220901BHJP
【FI】
G01N33/543 521
(21)【出願番号】P 2018122520
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】505145149
【氏名又は名称】株式会社ニチレイバイオサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 真二
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-248073(JP,A)
【文献】特開2005-037385(JP,A)
【文献】特表2015-535078(JP,A)
【文献】特開2009-085700(JP,A)
【文献】特開2014-219242(JP,A)
【文献】特開平10-185920(JP,A)
【文献】特開2010-032447(JP,A)
【文献】特開2009-229342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に検査ストリップが格納された検査キットであって、
前記検査ストリップは、
検体を含有した検体抽出液が付与されるサンプルパッドと、
前記サンプルパッドから展開された前記検体と特異的に反応して複合体を生成する標識物質が、湿潤状態で遊離可能に保持されたコンジュゲートパッドと、
毛細管現象によって展開された前記複合体と特異的に反応する捕捉物質が固定化されている検出領域を有したメンブランと、
前記メンブランから前記検体抽出液が展開される吸収パッドと、
前記メンブラン及び前記吸収パッドの一部が積層された積層部とを備え、
前記ケースは、
前記検査ストリップを載置する基体と、
前記サンプルパッドを外部に露出させる検体滴下開口部と、前記メンブランを外部に露出させる判定開口部とが形成され、前記基体と嵌合する蓋体とを備えており、
前記吸収パッドは、セルロース繊維で作製され、体積当たりの吸水量が0.37g/cm
3より大きく、厚さが0.17mm以上1.40mm以下であり、
下記の
式(1)の条件を満たす
検査キット。
0≦P≦18.8(P=100×(T-D)/T) ・・・(
1)
(前記Dは、前記ケース内の積層部格納空間の高さを示し、前記Tは、
前記検査ストリップを前記ケースに格納する前の前記積層部での前記検査ストリップの厚さを示し、前記Pは、前記積層部での前記検査ストリップの変形率を示す。)
【請求項2】
前記検査ストリップは、前記サンプルパッド、前記コンジュゲートパッド、前記メンブラン及び前記吸収パッドを支持するバッキングシートを備える
請求項1に記載の検査キット。
【請求項3】
前記基体は、前記検査ストリップを載置する台座を備え、
前記ケース内の前記積層部格納空間の高さが、前記積層部と向かい合う前記蓋体の内面の下端と前記台座の上端との間の距離である
請求項1又は2に記載の検査キット。
【請求項4】
前記コンジュゲートパッドがガラス繊維で作製されている
請求項1~
3のいずれか1項に記載の検査キット。
【請求項5】
前記サンプルパッドがガラス繊維で作製されている
請求項1~
4のいずれか1項に記載の検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスなどの感染症検査や妊娠検査において、簡易診断薬(POCT:Point Of Care Testing)が広く用いられている。POCTとしては、例えば、イムノクロマトグラフィーなどの免疫測定法の原理を用いた検査キットが知られている。イムノクロマトグラフィーは、検体を抽出した検体抽出液が毛細管現象によりメンブラン上を移動する際、検体抽出液中の検体としての抗原及び標識物質としての着色粒子を結合させた標識抗体により複合体が形成され、メンブランに塗布された捕捉物質としての捕捉抗体により複合体が捕捉されて、その複合体の集積を目視で確認する測定方法である。
【0003】
このようなイムノクロマトグラフィーを利用した検査キットには、標識抗体が湿潤状態で遊離可能に保持されているとともに、抗原捕捉抗体及び標識捕捉抗体が固定化されたイムノクロマト法用の検査ストリップと、検査ストリップに検体抽出液を滴下するための開口部や検査ストリップ上の免疫複合体の集積を確認できる開口部を有するケースが含まれている。
【0004】
検査ストリップは、例えば
図10Aに示す検査ストリップ110のように、帯状で軟質なバッキングシート11上に、展開方向xに沿ってサンプルパッドSPと、コンジュゲートパッドCPと、メンブランMと、吸収パッド111とが順に配置されている。検査ストリップ110は、サンプルパッドSPに検体抽出液が滴下されると、当該検体抽出液が毛細管現象によってコンジュゲートパッドCP、メンブランM及び吸収パッド111の順に展開される。
【0005】
コンジュゲートパッドCPは、例えば、所定抗原と特異的に反応し、着色粒子が結合された標識抗体A1と、当該抗原とは異なる種類の抗原と特異的に反応し、標識抗体A1とは異なる色の着色粒子が結合された標識抗体B1とを、湿潤状態で遊離可能に保持している。メンブランMには、コンジュゲートパッドCPから吸収パッド111に向けて、第1テストラインTL1、第2テストラインTL2及びコントロールラインCLが順に配置された検出領域が設けられている。検査ストリップ110では、コンジュゲートパッドCPを通過した検体抽出液が、毛細管現象によって第1テストラインTL1、第2テストラインTL2及びコントロールラインCLの順に通過できる。
【0006】
第1テストラインTL1には、標識抗体A1と同種の抗原に反応するが標識抗体A1とはエピトープが異なる抗原捕捉抗体A2が固定化されている。第2テストラインTL2には、標識抗体B1と同種の抗原に反応するが標識抗体B1とはエピトープが異なる抗原捕捉抗体B2が固定化されている。コントロールラインCLには、標識抗体A1、B1と特異的に反応する標識捕捉抗体rが固定化されている。
【0007】
検査キットを用いた検査では、まず、検査ストリップ110をケースに入れ、平らな面に水平に設置する。その後、ケースの開口部から、検体を抽出した検体抽出液を検査ストリップ110のサンプルパッドSPに滴下してサンプルパッドSPに検体抽出液を吸収させる。その後、検体抽出液がサンプルパッドSPに隣接するコンジュゲートパッドCPへ展開される。この際、
図10Aとの対応部分に同一符号を付して示す
図10Bのように、抗原G(標識抗体A1と特異的に反応する)が検体抽出液内に含まれていると、検体抽出液と共に抗原GもコンジュゲートパッドCPへ展開される。
【0008】
コンジュゲートパッドCPでは、サンプルパッドSPから流入した検体抽出液が毛細管現象により展開され、保持していた標識抗体A1及び標識抗体B1が検体抽出液中に遊離される。その結果、検体抽出液中で標識抗体A1と抗原Gとが特異的に反応し、複合体Cが検体抽出液中に生成される。検体抽出液中の標識抗体B1は抗原Gとは反応しない。そのため、検体抽出液と共に、標識抗体B1と複合体CがメンブランMへ展開される。
【0009】
メンブランMでは、コンジュゲートパッドCPから流入した検体抽出液が毛細管現象により展開され、検出領域に到達する。検出領域の第1テストラインTL1では、抗原捕捉抗体A2と、複合体Cの抗原Gとが特異的に反応し、複合体Cが抗原捕捉抗体A2に捕捉され、複合体Cが第1テストラインTL1に集積する。第1テストラインTL1では、複合体Cの標識抗体A1の着色粒子によって、当該着色粒子と同色のラインが発現する。一方、第2テストラインTL2では、抗原Gと特異的な反応が生じない抗原捕捉抗体B2が固定化されているので、複合体Cは捕捉されず、ラインは発現しない。このように、検査キットの使用者は、複合体Cの集積を目視で確認でき、ラインの発現の有無から抗原Gが検体抽出液内に含まれているか否か判断できる(例えば、非特許文献参照)。
【0010】
また、コントロールラインCLでは、標識抗体A1、B1と特異的に反応する標識捕捉抗体rが固定化されているので、複合体Cの標識抗体A1と、標識抗体B1とが捕捉され、コントロールラインCLに集積し、標識抗体A1の着色粒子の色と標識抗体B1の着色粒子の色とを混合した色のラインが発現する。使用者は、コントロールラインCLでのラインの発現の有無から、検査が適切に行われたか判断できる。検出領域を通過した検体抽出液は、吸収パッド111に到達し、吸収パッド111に吸収される。
【0011】
このようなイムノクロマトグラフィーを利用した検査では、検体抽出液を滴下してからラインが発現するまでにある程度時間を要するため、所定の時間範囲内にラインの確認をすべきという判定時間が定められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】株式会社ニチレイバイオサイエンス「体外診断用医薬品 インフルエンザウイルスキット イムノファインTM FLU」、[online]、平成30年6月7日検索、インターネット(URL:http://www.nichirei.co.jp/bio/products/pdf2/522061_2.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、検査キットの使用者が多忙であったり、判定時間を厳密に測定していないなどの理由により、判定時間内に判定をすることができず、規定された判定時間後に、ラインの有無を判定してしまう場合もある。判定時間を超えて検査ストリップを放置しておくと、検出領域が乾燥し、吸収パッドが一旦吸収した検体抽出液が検出領域に逆流したり、コンジュゲートパッドに残っていた検体抽出液の二次リリースが生じたりし、検体抽出液中の標識物質が検出領域に滞留する。検出領域に標識物質が滞留すると、検出領域の視認性が低下したり、検出領域に滞留した標識物質がライン状に見えたり、非特異反応が出現したりするなど誤った判定につながる問題がある。そのため、検出領域への標識物質の滞留を抑制することが望まれている。
【0014】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、検出領域に標識物質が滞留することを抑制できる検査キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の検査キットは、ケース内に検査ストリップが格納された検査キットであって、前記検査ストリップは、検体を含有した検体抽出液が付与されるサンプルパッドと、前記サンプルパッドから展開された前記検体と特異的に反応して複合体を生成する標識物質が、湿潤状態で遊離可能に保持されたコンジュゲートパッドと、毛細管現象によって展開された前記複合体と特異的に反応する捕捉物質が固定化されている検出領域を有したメンブランと、前記メンブランから前記検体抽出液が展開される吸収パッドと、前記メンブラン及び前記吸収パッドの一部が積層された積層部とを備え、前記ケースは、前記検査ストリップを載置する基体と、前記サンプルパッドを外部に露出させる検体滴下開口部と、前記メンブランを外部に露出させる判定開口部とが形成され、前記基体と嵌合する蓋体とを備えており、前記吸収パッドは、セルロース繊維で作製され、体積当たりの吸水量が0.37g/cm3より大きく、厚さが0.17mm以上1.40mm以下であり、下記の式(1)の条件を満たす。
0≦P≦18.8(P=100×(T-D)/T) ・・・(1)
(前記Dは、前記ケース内の積層部格納空間の高さを示し、前記Tは、前記検査ストリップを前記ケースに格納する前の前記積層部での前記検査ストリップの厚さを示し、前記Pは、前記積層部での前記検査ストリップの変形率を示す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明の検査キットは、吸収パッドからの検体抽出液の逆流を抑制できるので、検出領域における標識物質の滞留を抑制できる。よって、検出領域の視認性が低下したり、検出領域で滞留した標識物質がライン状に見えたり、非特異反応が出現したりするなど誤った判定につながる問題が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態の検査キットの斜視図である。
【
図2】
図2Aは、ケースの蓋体の内面の構成を示す図であり、
図2Bは、ケースの基体の上面の構成を示す図である。
【
図3】
図3Aは、ケースの基体に検査ストリップが配置された状態を示す図であり、
図3Bは、検査ストリップの断面を示す図である。
【
図4】
図4Aは、検査ストリップが格納された状態のケースの断面図であり、
図4Bは、検査ストリップが格納されていない状態のケースの断面図である。
【
図6】厚手の吸収パッドの検体抽出液の吸水状態を説明する図である。
【
図7】薄手の吸収パッドの検体抽出液の吸水状態を説明する図である。
【
図8】吸収パッドの積層部の上面に力がかかったときの状況を説明する図である。
【
図9】吸収パッドの積層部の上面に力がかかっていないときの状況を説明する図である。
【
図10】
図10Aは、従来の検査キットに用いている検査ストリップの構成を示す概略図であり、
図10Bは、抗原を含んだ検体抽出液が検査ストリップを展開するときの様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1)本発明の実施形態の検査キットの構成
(1-1)全体構成
実施形態の検査キットは、従来の検査キットと同様に、検査ストリップと、検査時に検査ストリップを格納するケースとで構成されている。
図1は、検査ストリップがケース101に格納された状態の本実施形態の検査キット100の斜視図である。
図1に示すように、検査キット100のケース101は、蓋体102と基体103とでなり、蓋体102と基体103とが嵌合することで内部に検査ストリップを格納する。なお、本実施形態では、ケース101の長手方向をx方向とし、ケース101の短手方向をy方向とし、ケース101の基体103の底面103a(
図2B参照)に対して鉛直方向をz方向としている。
【0019】
蓋体102は、蓋体102の上面に、周縁部が上面から窪んだ構成の検体滴下開口部105と、周縁部が蓋体102の上面から窪んだ構成の判定開口部106とが形成されている。検査キット100では、検体滴下開口部105の下部に、後述する検査ストリップのサンプルパッドが配置され、判定開口部106の下部に、後述する検査ストリップのメンブランに設けられた検出領域が配置されるようになされている。そのため、検査キット100では、検査ストリップをケース101に格納した状態で、検査対象者から採取した検体を抽出した検体抽出液を、検体滴下開口部105から外部に露出したサンプルパッドに滴下して検査を行い、判定開口部106から検出領域に現れた検査結果を目視で確認することができる。
【0020】
図2A、
図2Bに示すように、蓋体102の内面102aには、複数の嵌め込み部116が形成され、基体103の底面103aには、複数の突起部117が嵌め込み部116と対応する位置に形成されている。複数の突起部117が対応する嵌め込み部116にそれぞれ嵌め込まれて、蓋体102と基体103とが嵌合し、一体となってケース101となる。蓋体102は、判定開口部106の周縁部106aが上面側では窪んだ構成であるので、内面側では、判定開口部106の周縁部106aが内面102aから突出している。検体滴下開口部105の周縁部105aも同様に突出している。さらに、蓋体102の内面102aには、判定開口部106の周縁部106aと隣接して2つの凸部107が設けられている。凸部107は、周縁部106aより低く形成されている。
【0021】
基体103は、底面103aに、長手方向の検査ストリップの載置位置を決める複数の位置決め部114と、短手方向の検査ストリップの載置位置を決める複数の位置決め部115とを備えている。位置決め部114、115は、底面103aから突出した板状の部材であり、検査ストリップの長手方向及び短手方向への移動を制限することで、基体103の検査ストリップの載置位置を決める。基体103は、底面103aに、楕円柱形状の台座109と、台座109より低く、直方体形状をした3つの台座113とを備えている。台座109、113は、位置決め部114、115内の領域に設けられており、台座109、113上に検査ストリップが載置される。
【0022】
続いて
図3A、
図3Bを参照して、本実施形態の検査ストリップ1について説明する。
図3Aに示すように、検査ストリップ1は、バッキングシート11(
図3Aには不図示)上に、サンプルパッドSPと、コンジュゲートパッドCPと、メンブランMと、吸収パッドAbPとが順に配置されており、サンプルパッドSPに滴下され、吸収された検体抽出液が、毛細管現象によりx方向に沿ってコンジュゲートパッドCP、メンブランM及び吸収パッドAbPの順に展開できるようになされている。また、検査ストリップ1は、基体103内に形成された位置決め部114、115に囲まれた領域に載置されることにより、基体103に対して固定され、サンプルパッドSP、コンジュゲートパッドCP、メンブランM、及び吸収パッドAbPが基体103内の所定位置に位置決めされる。このとき、検査ストリップ1のサンプルパッドSP側が台座109(
図3Aには図示せず)上に載置される。なお、本実施形態では、検査ストリップ1のサンプルパッドSP側を上流側ともいい、吸収パッドAbP側を下流側ともいう。
【0023】
サンプルパッドSPは、検体としての抗原を含有した検体抽出液が付与される。サンプルパッドSPは、例えばガラス繊維で作製された濾紙であり、滴下された検体抽出液を吸収し、毛細管現象により検体抽出液を展開できる。本実施形態では、コンジュゲートパッドCPの端部上にサンプルパッドSPの端部が積層され、コンジュゲートパッドCPの膜厚分だけサンプルパッドSPが盛り上がっている。
【0024】
コンジュゲートパッドCPは、例えばガラス繊維で作製された濾紙であり、毛細管現象により検体抽出液を展開できる。コンジュゲートパッドCPは、サンプルパッドSPから展開された所定抗原と特異的に反応し、着色粒子が結合された標識抗体(
図3A、
図3Bには不図示)を、少なくとも1種類以上、湿潤状態で遊離可能に保持している。標識物質としての標識抗体は、検査対象によって変わる。本実施形態では、サンプルパッドSPと反対側のコンジュゲートパッドCPの端部が、隣接するメンブランMの端部に積層され、メンブランMの膜厚分だけコンジュゲートパッドCPが盛り上がっている。
【0025】
コンジュゲートパッドCPでは、サンプルパッドSPから、サンプルパッドSPとコンジュゲートパッドCPの積層部を介して検体抽出液が展開されると、検体抽出液が毛細管現象によりコンジュゲートパッドCPに展開されると共に、保持されている標識抗体が、検体抽出液中に遊離し、検体抽出液中の抗原と特異的に反応する。その結果、抗原と標識抗体の複合体が生成される。
【0026】
なお、本実施形態では、サンプルパッドSP及びコンジュゲートパッドCPは、ガラス繊維で作製されている。ガラス繊維製のサンプルパッドSP及びコンジュゲートパッドCPは、保持できる水分量が比較的少ないため、保持できる水分量の多いセルロース繊維製のサンプルパッドSPやコンジュゲートパッドCPを用いる場合よりも、検体の滴下液量が少なくて済む。そのため、ガラス繊維製のサンプルパッドSPやコンジュゲートパッドCPは、検体由来成分を原因とする目詰まりを起こしにくく、検体抽出液の展開がスムーズであるので好ましい。このように、サンプルパッドSPやコンジュゲートパッドCPは、ガラス繊維製であることが好ましいが、セルロース繊維や、パルプ繊維、綿など他の素材を用いて作製されていてもよい。また、本実施形態では、サンプルパッドSP及びコンジュゲートパッドCPに不織布を用いたが、毛細管現象が生じる素材であれば特に限定されず、織布や濾紙、他の紙素材であってもよい。
【0027】
メンブランMは、例えばニトロセルロースで作製されたメンブランであり、毛細管現象により検体抽出液を展開できる。メンブランMは、コンジュゲートパッドCPから吸収パッドAbPに向けて、第1テストラインTL1、第2テストラインTL2及びコントロールラインCLが順に配置された検出領域が設けられている。第1テストラインTL1は、所定抗原と特異的に反応する抗原捕捉抗体が捕捉物質として固定化されており、検体抽出液と共に毛細管現象によって展開された当該抗原を含む複合体を捕捉する。同様に、第2テストラインTL2は、第1テストラインTL1の抗原とは異なる所定抗原と特異的に反応する抗原捕捉抗体が捕捉物質として固定化されており、検体抽出液と共に毛細管現象によって展開された当該抗原を含む複合体を捕捉する。コントロールラインCLは、複数種類の標識抗体と特異的に反応する標識捕捉抗体が固定化されており、検体抽出液中の標識抗体及び複合体の標識抗体を捕捉する。
【0028】
本実施形態では、メンブランMは、吸収パッドAbP側の端部において、隣接する吸収パッドAbPの端部が積層されて、メンブランM及び吸収パッドAbPの一部が積層された積層部3が形成されている。積層部3では、メンブランMの膜厚分だけ吸収パッドAbPが盛り上がっており、検査ストリップ1が厚くなっている。このようなメンブランMでは、コンジュゲートパッドCPから、コンジュゲートパッドCPとメンブランMの積層部を介して検体抽出液が展開されると、検体抽出液が、毛細管現象によりメンブランMに展開され、検出領域を通過して積層部3に到達する。このとき、検出領域では、検体抽出液中の複合体が第1テストラインTL1及び第2テストラインTL2のいずれかに捕捉され、複合体の標識抗体に結合した着色粒子と同じ色のラインが複合体を捕捉したテストラインに発現する。また、検体抽出液中の標識抗体及び複合体の標識抗体がコントロールラインCLに捕捉され、2種類の標識抗体にそれぞれ結合した着色粒子の色を混合した色のラインがコントロールラインCLに発現する。
【0029】
吸収パッドAbPは、積層部3を介してメンブランMから検体抽出液が展開される。吸収パッドAbPは、毛細管現象によってメンブランMの検体抽出液を吸収でき、メンブランMから余分な検体抽出液が除去される。本実施形態の吸収パッドAbPは、セルロース繊維で作製され、体積当たりの吸水量が0.37g/cm3より大きく、厚さが0.17mm以上1.40mm以下であり、かつ、ケース101との関係で、下記の式(1)又は下記の式(2)のいずれかの条件を満たす。
T<D ・・・(1)
0≦P≦18.8(P=100×(T-D)/T) ・・・(2)
ここで、Pは上記括弧内の式で定義される積層部3での検査ストリップ1の変形率であり、Dはケース101内の積層部格納空間の高さであり、Tは積層部3での検査ストリップ1の厚さである。なお、Tは、ケース101に格納する前の検査ストリップ1の厚さである。
【0030】
このように構成することで、検査ストリップ1では、吸収パッドAbPが力を受けて収縮することにより生じる吸収パッドAbPからメンブランMへの検体抽出液の逆流と、メンブランMの検出領域が乾燥することで生じる吸収パッドAbPからメンブランMへの検体抽出液の逆流とを抑制でき、メンブランMの検出領域に標識抗体が滞留することを抑制できる。このとき検査ストリップ1では、検出領域の乾燥が抑制されているので、コンジュゲートパッドCPからの検体抽出液の二次リリースも抑制され、より検出領域での標識抗体の滞留が抑制される。よって、検査キット100では、検出領域の視認性が低下したり、検出領域で滞留した標識抗体がライン状に見えたり、非特異反応が出現したりすることを減らし、誤判定を抑制できる。
【0031】
以下で、本実施形態の吸収パッドAbPの構成について、詳しく説明する。まず、積層部3での検査ストリップ1の厚さT及び積層部格納空間の高さDについて、より詳細に説明する。積層部3での検査ストリップ1の厚さTは、積層部3の厚さであり、バッキングシート11とメンブランMと吸収パッドAbPとの3層の合計厚さである。検査ストリップ1の厚さTは、例えばノギスなどを用いて、基体103と蓋体102とを嵌合して検査ストリップ1をケース101に格納する前に、積層部3の厚さを測定することで求められる。積層部格納空間の高さDの「積層部格納空間」という語句は、積層部3が格納されるケース101内の空間を指す。
図4Aに示すように、検査ストリップ1は、吸収パッドAbPなどが設けられた側を蓋体102に向けて、ケース101に格納される。このように検査ストリップ1がケース101に格納されたときに、積層部3が格納されるケース101内の領域が積層部格納空間である。本実施形態では、積層部3は、判定開口部106の下流側端部よりも下流側に格納されており、凸部107の下部に位置している。積層部3の下部には、積層部3の最近傍の台座113によってバッキングシート11と基体103の底面103aとの間に空間が形成されている。
【0032】
このような積層部格納空間を、検査ストリップ1が格納されていない状態のケース101の断面を示す
図4Bに表すと、
図4B中の点線で囲まれた領域120が積層部格納空間である。積層部格納空間の高さDは、この積層部格納空間の上端と下端との間の距離である。ここで、
図4Bに示すように、本実施形態では、ケース101の蓋体102に凸部107が形成されているため、凸部107の下端より蓋体102の内面102a側には積層部3を格納することができない。そのため、積層部格納空間の上端の位置は、積層部3の上面と向かい合う蓋体102の内面102aの下端、すなわち、凸部107の下端となる。
【0033】
一方で、積層部格納空間(領域120)の下部には、空間が存在する。この空間は、ケース101に検査ストリップ1が格納された際に、検査ストリップ1が台座113上に載置され、台座113によって底面103aから持ち上げられたことで、積層部3のバッキングシート11下部に形成された空間(
図4A参照)である。通常、積層部3がこの領域に格納されることはないので、積層部格納空間の下端は、台座113によって積層部3のバッキングシート11下部に形成される空間の上端となる。積層部3の領域では、検査ストリップ1の撓みや剛性により、検査ストリップ1が、台座113の上端とほぼ同じ高さにあるとみなすことができるので、本実施形態では、積層部格納空間の下端は、台座113の上端としている。
【0034】
積層部格納空間の高さDは、積層部格納空間の上端と下端との間の距離であるので、凸部107の下端(積層部3の上面と向かい合う蓋体102の内面102aの下端)と台座113の上端との間の距離、すなわち、凸部107の下端と台座113の上端との間の基体103の底面103aに対する鉛直方向の距離である。例えば、積層部格納空間の高さDは、凸部107の下端と、当該下端直下の基体103の底面103aとの間の距離と、台座113の底面103aからの高さとを測定し、凸部107の下端と基体103の底面103aとの間の距離から台座113の高さを減ずることで算出できる。
【0035】
なお、例えば、蓋体102が積層部3の上面と向かい合う位置に凸部107を備えていない場合は、蓋体102の内面102aが積層部格納空間の上端となる。例えば、ケース101に格納されたとき積層部3が判定開口部106の領域にかかっている場合は、判定開口部106の周縁部106aの下端が積層部格納空間の上端となる。また、基体103に台座113が設けられておらず、積層部3が基体103の底面103aに載置されているような場合は、底面103aが積層部格納空間の下端となる。
【0036】
続いて、式(1)(2)について説明する。式(1)の条件は、T<Dであり、積層部格納空間の高さDより積層部3での検査ストリップ1の厚さが小さいことである。これは、ケース101に検査ストリップ1を格納した際に、積層部3の上面が蓋体102の内面102aの下端(本実施形態の場合、凸部107の下端)に接しておらず、積層部3の上面と、積層部3の上面と向かい合う蓋体102の内面102aの下端との間に空間が形成されていることを意味している。
【0037】
式(2)の条件は、0≦P≦18.8であり、変形率Pの範囲を定めている。変形率Pは、積層部3での検査ストリップ1の厚さTと積層部格納空間の高さDの差分を厚さTで割って規格化したものを百分率で表したものである(P=100×(T-D)/T)。積層部3での検査ストリップ1の厚さTが積層部格納空間の高さDより大きい場合、ケース101内で積層部3が収縮しないと格納できないので、積層部3の上面が蓋体102の内面102aの下端(本実施形態の場合、凸部107の下端)に押され、積層部3が当該下端によって力を受けて積層部3が収縮していると考えられる。そして、積層部3での検査ストリップ1の厚さTと積層部格納空間の高さDの差分が大きいほど、収縮量が多くならないと積層部格納空間に格納できないので、積層部3の収縮度合いも大きくなり、積層部3が受ける力も大きくなると解される。このように、変形率Pは、ケース101内で積層部3がどの程度収縮するかを表す指標であり、積層部3が受ける力を表す指標として用いることができる。
【0038】
なお、変形率Pが0のときは、積層部3が収縮していない、すなわち、積層部3が、積層部3の上面と向かい合う蓋体102の内面102aの下端と接しているが、当該下端から力は受けていないことを表す。よって、式(2)の条件は、積層部3が蓋体102の内面102aの下端から所定の大きさ以下の力を受けているか又は積層部3が当該下端に接しているが力は受けていない場合である。なお、T<Dの場合は、式(1)を満たすこととなるので、変形率Pの下限を0としている。上記の式(1)の条件を満たす場合は、積層部3の上面と、積層部3の上面と向かい合う蓋体102の内面102aの下端との間に空間が形成されているので、積層部3が、蓋体102の内面102aの下端から力を受けていない。
【0039】
次に、体積当たりの吸水量について説明する。本実施形態の単位体積当たりの吸水量は、下記の方法により測定された値である。まず、吸水量を測定したい吸収パッドAbPと同じ材質、厚さで、長さ9cm、幅0.40cmに裁断した吸水量の測定用吸収パッドを用意する。例えば、吸収パッドAbPは面積の大きな吸収パッドから切り出して作製されているので、当該切り出し元の吸収パッドから上記のサイズに裁断することにより、測定用吸収パッドを用意する。
【0040】
続いて、用意した測定用吸収パッドを電子天秤(PG403-S、メトラー・トレド社製)に乗せ、吸水前の測定用吸収パッドの重さW0[g]を測定する。そして、50mLの純水を高さ5mm程度に張ったトレイに、裁断した測定用吸収パッドを、長手方向に、トレイに対して鉛直になるように差し込み、純水を測定用吸収パッドに浸潤させる。その後、高さ4.0cmに純水が吸いあがるまで、測定用吸収パッドを静置する。高さ4.0cmまで純水が吸いあがったら、純水から測定用吸収パッドを取出し、吸水後の測定用吸収パッドの重さW1[g]を、上記の電子天秤で測定する。吸水後の測定用吸収パッドの重さW1から吸水前の測定用吸収パッドの重さW0を減じることで、吸水量ΔW[g]を算出する。吸水前の測定用吸収パッドの厚さをTa[mm]とすると、以下の式(3)により、体積当たりの吸水量A[g/cm
3]を算出できる。
【0041】
(1-2)作用及び効果
以上の構成において、検査キット100は、検査ストリップ1の吸収パッドAbPが、セルロース繊維で作製され、体積当たりの吸水量が0.37g/cm3より大きく、厚さが0.17mm以上1.40mm以下であり、式T<D又は式0≦P≦18.8(P=100×(T-D)/T)のいずれかの条件を満たすように構成した(Dは、ケース101内の積層部格納空間の高さを示し、Tは、積層部3での検査ストリップ1の厚さを示し、Pは、積層部3での検査ストリップ1の変形率を示す。)。
【0042】
よって、検査キット100は、吸収パッドAbPからの検体抽出液の逆流を抑制できるので、検出領域における標識物質(標識抗体)の滞留を抑制できる。よって、検出領域の視認性が低下したり、検出領域で滞留した標識抗体がライン状に見えたり、非特異反応が出現したりするなど誤った判定につながる問題が防止される。
【0043】
(2)他の実施形態
また、上述した実施形態においては、検体として抗原を適用し、標識物質として着色粒子を結合した標識抗体を適用し、捕捉物質として抗原捕捉抗体及び標識捕捉抗体を適用して、抗原抗体反応を利用したイムノクロマト法用検査ストリップについて述べたが、本発明はこれに限らず、その他種々の検体、標識物質、捕捉物質を適用して、例えば相補的核酸間反応や、リガンド・レセプター間反応を利用したクロマト法用の検査ストリップであっても良い。
【0044】
なお、抗体に結合させる着色粒子としては、着色ラテックス粒子や、金属ゾル(金コロイドなど)、蛍光ラテックス粒子、磁気ビーズ、酵素(アルカリホスファターゼなど)を適用してもよい。例えば着色ラテックス粒子や金コロイドを用いた場合には、第1テストラインTL1、第2テストラインTL2でのライン発現の有無を使用者が目視により確認できる。一方、蛍光ラテックス粒子を用いた場合には、第1テストラインTL1、第2テストラインTL2でのライン発現の有無を蛍光リーダなどにより確認する。
【0045】
さらに、他の実施形態としては、例えばインフルエンザウイルスの検出に用いる検査キットであってもよい。このようなインフルエンザウイルス用検査キットの検査ストリップは、上述した検査ストリップ1と基本的構成が同一であるものの、コンジュゲートパッドCPに保持される標識物質と、メンブランMの検出領域に固定化される捕捉物質とが、検査対象とするインフルエンザウイルスに応じた構成となる。
【0046】
例えば、A型インフルエンザウイルス及びB型インフルエンザウイルスの両方を検出可能な検査ストリップでは、標識物質として、A型インフルエンザウイルスと特異的に反応して複合体を生成する青色粒子標識抗A型抗体と、B型インフルエンザウイルスと特異的に反応して複合体を生成すると赤色粒子標識抗B型抗体とがコンジュゲートパッドCPに湿潤状態で遊離可能に保持されている。
【0047】
インフルエンザウイルス用の検査ストリップには、検出領域としての第1テストラインTL1、第2テストラインTL2、コントロールラインCLがメンブランMに設けられており、例えば第1テストラインTL1にA型インフルエンザウイルス抗体(例えば、マウス抗インフルエンザウイルスA型抗原モノクローナル抗体)が含まれ、第2テストラインTL2にB型インフルエンザウイルス抗体(例えば、マウス抗インフルエンザウイルスB型抗原モノクローナル抗体)が含まれ、コントロールラインCLにヤギ抗マウスIgG抗体(例えば、ヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体)が含まれている。
【0048】
本実施形態の検査キット100は、このようなインフルエンザウイルス用の検査キット以外にも、例えば、RSウイルス、アデノウイルス又はA群β溶血性連鎖球菌用の検査キットとして用いることができる。この場合、標識物質や捕捉物質を、検査対象に合わせて適宜変更する。
【0049】
上記の実施形態では、第1テストラインTL1及び第2テストラインTL2を有する検査ストリップ1について説明してきたが、本発明はこれに限られない。検査対象によっては、テストラインは、1つでもよく、3つ以上であってもよい。また、ケース101の形状、サイズは特に限定されない。検査ストリップについても、本実施形態の吸収パッドAbPを備えていれば、形状やサイズは特に限定されない。
【0050】
(3)検証試験
検証試験では、実施例として、吸収パッドAbPの厚さや単位体積当たりの吸水量などの条件を変えて複数の本実施形態の検査ストリップ1を作製し、作製した検査ストリップ1をそれぞれケース101に格納し、検体抽出液をサンプルパッドSPに滴下してから所定時間後の検出領域における標識物質としての標識抗体の滞留の有無を評価した。また、比較例として、吸水量が0.37g/cm3以下の吸収パッド、厚さが1.40mmより大きい吸収パッド及びガラス繊維で作製された吸収パッドなどを有する検査ストリップを作製し、同様に、所定時間後の検出領域における標識抗体の滞留の有無を評価した。
【0051】
(3-1)検査ストリップの作製
(3-1-1)着色粒子が結合した標識抗体の調製
最初に、着色粒子が結合した標識抗体(以下、着色粒子結合標識抗体ともいう。)を調製した。本検証試験では青色の着色粒子が結合した標識抗体と赤色の着色粒子が結合した標識抗体との2種類を調製した。まず、青色の着色粒子が結合した標識抗体を作製した。着色粒子としての青色カルボキシルラテックス粒子(ポリスチレン、粒径400nm)の10%水分散液30μLと50mMのMES緩衝液(pH6.0)270μLとを混合した。次に、混合液にEDC(水溶性カルボジイミド)を最終濃度1%になるように添加し、室温で3時間活性化した。その後、遠心分離し、着色粒子を洗浄した後、1mg/mLに濃度調整した標識抗体としてのマウス抗インフルエンザウイルスA型抗体100μLを添加し、室温で一晩反応させ、標識抗体と着色粒子とを結合させた。遠心分離し、着色粒子結合標識抗体を洗浄した後、10%BSA/PBS溶液でブロッキングした。最後に、着色粒子結合標識抗体を遠心分離し、10%の濃度でスクロースを含み、1%の濃度でBSAを含むPBS溶液10mL中に遠心分離した着色粒子結合標識抗体を懸濁した後、超音波分散装置にかけ、青色粒子標識抗A型抗体分散液を得た。
【0052】
次に、赤色の着色粒子が結合した標識抗体を作製した。まず、赤色カルボキシルラテックス粒子(ポリスチレン、粒径400nm)の10%水分散液30μLと50mMのMES緩衝液(pH6.0)270μLとを混合した。次に、混合液にEDC(水溶性カルボジイミド)を最終濃度1%になるように添加し室温で3時間活性化した。その後、遠心分離し、着色粒子を洗浄した後、1mg/mLに濃度調整したマウス抗インフルエンザウイルスB型抗体100μLを添加し、室温で一晩反応させ、標識抗体と着色粒子とを結合させた。次に遠心分離し、着色粒子結合標識抗体を洗浄した後、10%BSA/PBS溶液でブロッキングした。最後に、着色粒子結合標識抗体を遠心分離し、10%の濃度でスクロースを含み、1%の濃度でBSAを含むPBS溶液10mL中に遠心分離した着色粒子結合標識抗体を懸濁した後、超音波分散装置にかけ、赤色粒子標識抗B型抗体分散液を得た。
【0053】
(3-1-2)コンジュゲートパッドの調製
青色粒子標識抗A型抗体分散液と赤色粒子標識抗B型抗体分散液とを混合することで着色粒子混合分散液を得た。その後、網の上に並べたガラス繊維で作製されたパッド(メルク社製)に、着色粒子混合分散液を45μL/cmの割合で塗布し、均一に塗り広げた後、オーブンで一晩乾燥し、コンジュゲートパッドCPを得た。このコンジュゲートパッドCPは、標識物質として、青色粒子標識抗A型抗体と赤色粒子標識抗B型抗体とを、湿潤状態で遊離可能に保持している。
【0054】
(3-1-3)抗体を固定化したメンブランの調製
まず、上記の着色粒子標識抗インフルエンザA型抗体とはエピトープが異なるマウス抗インフルエンザウイルスA型抗体をリン酸緩衝液で1.0mg/mLに濃度調整した溶液と、上記の着色粒子標識抗インフルエンザB型抗体とはエピトープが異なるマウス抗インフルエンザウイルスB型抗体をリン酸緩衝液で1.0mg/mLに濃度調整した溶液と、ヤギ抗マウスIgG抗体をリン酸緩衝液で1.0mg/mLに濃度調整した溶液とを作製した。
【0055】
次に、ニトロセルロースメンブランシート(メルク、縦3.0cm、横45cm)に、これらの溶液を、幅1mmのライン状に、所定の間隔を空けてそれぞれ塗布した。ニトロセルロースメンブランシートの横方向に溶液を塗布した。マウス抗インフルエンザウイルスA型抗体を塗布したラインを第1テストラインTL1、マウス抗インフルエンザウイルスB型抗体を塗布したラインを第2テストラインTL2、ヤギ抗マウスIgG抗体を塗布したラインをコントロールラインCLとした。
【0056】
塗布する位置はメンブランの短手方向の一端部から11mmの位置に第1テストラインTL1、14.5mmの位置に第2テストラインTL2、18.0mmの位置にコントロールラインCLが来るように設定した。塗布は、イムノクロマトグラフィー用ディスペンサーXYZ3050(バイオドット社製)を用い、1μL/cmの割合で塗布した。ライン塗布後のメンブランを10%の濃度でスキムミルクを含むPBS溶液で60分間ブロッキング処理した後、真空乾燥で一晩乾燥させて、抗体を固定化したメンブランMを得た。このメンブランMは、捕捉物質として、マウス抗インフルエンザウイルスA型抗体とマウス抗インフルエンザウイルスB型抗体とヤギ抗マウスIgG抗体とが固定化されている。
【0057】
(3-1-4)検査ストリップの組み立て
バッキングシート(Adhesives Research,Inc社製)に対して、上記の抗体を固定化したメンブランMを貼り合わせた後、作製したコンジュゲートパッドCPをメンブランMと数ミリ重なり合うように貼り合わせた。コンジュゲートパッドCPのメンブランMと反対側の端部に、サンプルパッドSPとして、ガラス繊維で作製されたパッド(メルク社製)を、コンジュゲートパッドCPに数ミリ重なるようにして貼り合わせた。そして、メンブランMのコンジュゲートパッドCPと反対側には、吸収パッドAbPをメンブランMと数ミリ重なるように張り合わせた。最後に、4mm幅に裁断して検査ストリップ1を得た。吸収パッドAbPの構成を種々変更して、複数の検査ストリップ1を作製した。比較例の検査ストリップも同様に作製した。なお、検証試験で使用したバッキングシートの厚さは0.337mmであり、ニトロセルロースメンブランの厚さは0.110mmであった。また、検証試験に用いるケース101の積層部格納空間の高さDは、1.50mmであった。
【0058】
(3-2)実施例及び比較例の検査ストリップの吸収パッドの構成
以下で、実施例及び比較例の検査ストリップの構成を説明する。
(実施例1)
実施例1の吸収パッドAbPは、濾紙No.590(アドバンテック東洋、厚さ0.93mm、セルロース繊維製)であり、単位体積当たりの吸水量は、0.96g/cm3であった。吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端との間に空間が形成されている、すなわち、下端と接触しない構成である。
【0059】
(比較例1)
比較例1の吸収パッドは、
図5に示すように、No.590の濾紙を厚さ0.06mmのプラスチックフィルムPFを挟んで2枚重ねにした構成である。変形率Pの影響を確認するために、濾紙の間にプラスチックフィルムPFを挟み、メンブランMと接していない濾紙は、変形率Pには寄与するが、吸水には寄与しないようにした。ケース101に検査ストリップを格納すると、吸収パッドが変形する構成である。
【0060】
(比較例2)
比較例2の吸収パッドは、
図5に示すように、比較例1の吸収パッドにさらにNo.590の濾紙を重ねた構成である。ケース101に検査ストリップを格納すると、吸収パッドが変形する構成である。
【0061】
(比較例3)
比較例3の吸収パッドは、濾紙No.1034-2(アドバンテック東洋、厚さ1.80mm、セルロース繊維製)であり、単位体積当たりの吸水量は、0.37g/cm3であった。ケース101に検査ストリップを格納すると、吸収パッドが変形する構成である。
【0062】
(比較例4)
比較例4の吸収パッドは、比較例3の吸収パッドを切断し、厚さを半分にした構成である。吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0063】
(実施例2)
実施例2の吸収パッドAbPは、実施例1の吸収パッドAbPを切断し、厚さを半分にした構成である。吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0064】
(実施例3)
実施例3の吸収パッドAbPは、実施例1の吸収パッドAbPと同じ構成であり、実施例2の吸収パッドAbPの約2倍の厚さとした。なお、実施例3、4、比較例5-7、実施例13-15は、吸収パッドの厚さの変化による影響のみを確認するために、蓋体102の判定開口部106の下流側の周縁部106aより下流側を除去したケース101を用いた。このケース101により、積層部3の上部には蓋体が存在せず、積層部3での検査ストリップ1の厚さが厚くなっても、検査ストリップが力を受けないようにした。すなわち、吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0065】
(実施例4)
実施例4の吸収パッドAbPは、実施例3の吸収パッドAbPに、実施例2の吸収パッドAbPを重ねた構成であり、実施例2の吸収パッドAbPの約3倍の厚さ(厚さ1.40mm)とした。
【0066】
(比較例5)
比較例5の吸収パッドは、実施例3の吸収パッドAbPを2枚重ねにした構成であり、実施例2の吸収パッドAbPの約4倍の厚さとした。
【0067】
(比較例6)
比較例6の吸収パッドは、実施例3の吸収パッドAbPを3枚重ねにした構成であり、実施例2の吸収パッドAbPの約6倍の厚さとした。
【0068】
(比較例7)
比較例7の吸収パッドは、比較例3の吸収パッドと同じ構成である。実施例とは、単位体積当たりの吸水量が異なり、比較例3とは、吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない点で異なる。
【0069】
(比較例8)
比較例8の吸収パッドは、ガラス濾紙DP‐70(アドバンテック東洋、厚さ0.52mm、ガラス繊維製)であり、吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0070】
(比較例9)
比較例9の吸収パッドは、ガラス濾紙GD‐120(アドバンテック東洋、厚さ0.51mm、ガラス繊維製)であり、吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0071】
(比較例10)
比較例10の吸収パッドは、ガラス濾紙GB‐140(アドバンテック東洋、厚さ0.56mm、ガラス繊維製)であり、吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0072】
(比較例11)
比較例11の吸収パッドは、ガラス濾紙GA‐200(アドバンテック東洋、厚さ0.74mm、ガラス繊維)であり、吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0073】
(実施例5)
実施例5の吸収パッドAbPは、濾紙No.50(アドバンテック東洋、厚さ0.25mm、セルロース繊維製)であり、単位体積当たりの吸水量は、6.13g/cm3であった。吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0074】
(実施例6)
実施例6の吸収パッドAbPは、濾紙No.51A(アドバンテック東洋、厚さ0.18mm、セルロース繊維製)であり、単位体積当たりの吸水量は、2.29g/cm3であった。吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0075】
(実施例7)
実施例7の吸収パッドAbPは、濾紙No.51B(アドバンテック東洋、厚さ0.17mm、セルロース繊維製)であり、単位体積当たりの吸水量は、1.43g/cm3であった。吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0076】
(実施例8)
実施例8の吸収パッドAbPは、濾紙No.514A(アドバンテック東洋、厚さ0.32mm、セルロース繊維製)であり、単位体積当たりの吸水量は、0.84g/cm3であった。吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0077】
(実施例9)
実施例9の吸収パッドAbPは、濾紙No.526(アドバンテック東洋、厚さ0.70mm、セルロース繊維製)であり、単位体積当たりの吸水量は、0.56g/cm3であった。吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0078】
(実施例10)
実施例10の吸収パッドAbPは、実施例1の吸収パッドAbPに、実施例7の吸収パッドAbPを重ねた構成である。ケース101に検査ストリップを格納すると、吸収パッドが変形する構成である。
【0079】
(実施例11)
実施例11の吸収パッドAbPは、実施例1の吸収パッドAbPに、実施例8の吸収パッドAbPを重ねた構成である。ケース101に検査ストリップを格納すると、吸収パッドが変形する構成である。
【0080】
(実施例12)
実施例12の吸収パッドAbPは、実施例1の吸収パッドAbPに実施例2の吸収パッドAbPを重ねた構成である。ケース101に検査ストリップを格納すると、吸収パッドが変形する構成である。
【0081】
(実施例13)
実施例13の吸収パッドAbPは、実施例10の吸収パッドと同じ構成である。吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0082】
(実施例14)
実施例14の吸収パッドAbPは、実施例11の吸収パッドと同じ構成である。吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0083】
(実施例15)
実施例15の吸収パッドAbPは、実施例12の吸収パッドと同じ構成である。吸収パッドの上面と吸収パッドの上面と向かい合う蓋体の内面の下端とが接触しない構成である。
【0084】
各実施例及び比較例の吸収パッドの構成の詳細は、下記の表1、表2に示した。
【表1】
【0085】
【0086】
(3-3)検出領域における標識抗体の滞留の有無の確認
各実施例及び比較例に対して、検体抽出液をサンプルパッドに滴下してから所定時間後の検出領域における標識物質としての標識抗体の滞留の有無を評価した。検体抽出液としては、150mMリン酸緩衝液に、0.5%の濃度でTriton X‐100、0.1%の濃度でBSA、0.09%の濃度でアジ化ナトリウムを混合した溶液を用いた。ケース101の検体滴下開口部105からサンプルパッドに当該検体抽出液を55μL滴下し反応させた。滴下から10分後~35分後まで5分間隔で検出領域における標識抗体の滞留の有無を調べた。その結果を上記の表1、表2に示した。
【0087】
表1、表2に示すように、各実施例では10分~35分で判定に影響を及ぼすような標識抗体の滞留が認められなかった。一方、各比較例では、10分~30分までに判定に影響を及ぼすような標識抗体の滞留が認められた。
【0088】
実施例1、10、11、12と比較例1、2の結果から、変形率Pが0以上18.8以下であれば、35分経過しても標識抗体の滞留が確認されず、標識抗体の滞留を抑制できることが確認できた。また、変形率Pが高いほど、すなわち、積層部3が受ける力が大きいほど、標識抗体の滞留が早期に出現した。
【0089】
実施例2、3、4及び比較例5、6の結果から、吸収パッドAbPの厚さが1.40mm以下であれば、35分経過しても標識抗体の滞留が確認されず、標識抗体の滞留を抑制できることが確認できた。また、実施例5-9、13-15を見ても同様の傾向が確認でき、吸収パッドの厚さが、0.17mm以上1.40mm以下の範囲で、標識抗体の滞留を抑制できることが確認できた。なお、実施例4、比較例5、6の結果から、同一素材(単位体積当たりの吸水量も同じ)で吸収パッドの厚さが増すほど、標識抗体の滞留が早く出現した。
【0090】
実施例1、5-15及び比較例4、8-11の結果から、吸収パッドAbPがセルロース繊維で作製され、体積当たりの吸水量が0.37g/cm3より大きければ、35分経過しても標識抗体の滞留が確認されず、標識抗体の滞留を抑制できることが確認できた。
【0091】
(3-4)考察
まず、検出領域が乾燥することで起こる検出領域における標識抗体の滞留の抑制の観点で最適な吸収パッドAbPは、イムノクロマトグラフィーで一般的に用いられているセルロース繊維製であり、かつ、体積当たりの吸水量が0.37g/cm3より大きいものであった。セルロース繊維製の吸収パッドは、水分の保持量が多いという特徴があり、さらに体積当たりの吸水量が0.37g/cm3より大きいため、このような吸収パッドAbPは、単位面積当たりの水分の保持量が高く、吸収パッドAbP内により多くの水分を保持できる。そのため、吸収パッドAbPでは、水分の保持量のキャパシティが限界を超えて吸収パッドAbPが保持していた水分が放出されることが起きにくいと考えられる。したがって、吸収パッドAbPから検体抽出液が再リリースされにくく、吸収パッドAbPから逆流する標識抗体も抑制されると考えられる。よって、セルロース繊維製の吸収パッドAbPの中でも体積当たりの吸水量が0.37g/cm3より大きいものが良好な結果となったと考えられる。
【0092】
次に、厚さが1.50mmを超える厚手の吸収パッドよりも、厚さが1.40mm以下の比較的薄手の吸収パッドのほうが、標識抗体の滞留が抑制されたことについて検討する。
図6に示すように、厚手の吸収パッドAbP
aの場合、厚み方向にも毛細管現象による吸水が進むため、時間が経過しても吸水性能が大きく落ちることなく維持される。その結果、検出領域の乾燥が早期に生じ、吸収パッドAbP
aからの逆流やコンジュゲートパッドCPからの標識抗体の二次リリースも早期に発生し、検出領域における標識抗体の滞留が生じたものと考えられる。
【0093】
一方で、比較的薄手の吸収パッドAbPでは、
図7に示すように、時間の経過とともに吸水可能な濡れていない部分までの吸収パッドAbP内での検体抽出液の移動距離が長くなってくるため、吸収パッドAbPの吸水性能が低下していくと考えられる。その結果、検出領域の乾燥が抑制され、標識抗体の滞留が抑制されたと考えられる。
【0094】
続いて、積層部での検査ストリップの厚さTがケース内の積層部格納空間の高さDよりも小さい又は変形率Pが0≦P≦18.8を満たすことで、検出領域が乾燥することで起こる検出領域における標識抗体の滞留が抑制されることについて考える。
【0095】
図8に示すように、吸収パッドAbP
bの積層部の上面に、積層部の上面と向かい合う蓋体の内面の下端によって強い力が加えられている(変形率Pが18.8より大きい)場合は、検体抽出液を含んだ吸収パッドAbP
bがメンブランMとしっかり接触するため逆流が早く起こったと考えられる。一方、
図9に示すように、吸収パッドAbPの積層部の上面と蓋体の下端との間に空間が形成されている、あるいは、吸収パッドAbPの積層部が比較的小さい力を受けている(変形率Pが0≦P≦18.8)場合は、検体抽出液を含んだ吸収パッドAbPとメンブランMの接触がそれほど強くなく、吸収パッドAbPが少し反って浮いた状態となるため逆流が起こりづらくなったからであると考えられる。なお、
図6-9では、説明の便宜上、バッキングシートを図示していない。
【0096】
以上から、吸収パッドAbPが、セルロース繊維で作製され、体積当たりの吸水量が0.37g/cm3より大きいこと、吸収パッドAbPの厚さが0.17mm以上1.40mm以下であること、式T<D又は式0≦P≦18.8を満たすことを組み合わせることで、検出領域が乾燥することで起こる検出領域における標識抗体の滞留が顕著に抑制されると考えられる。
【符号の説明】
【0097】
1 検査ストリップ
11 バッキングシート
101 ケース
102 蓋体
103 基体
111、AbP、AbPa、AbPb 吸収パッド
SP サンプルパッド
CP コンジュゲートパッド
M メンブラン
TL1 第1テストライン
TL2 第2テストライン
CL コントロールライン