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  • 特許-酵母タンパク質の製造方法及び改良方法 図1
  • 特許-酵母タンパク質の製造方法及び改良方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】酵母タンパク質の製造方法及び改良方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 1/18 20060101AFI20220901BHJP
   A23J 3/20 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
A23J1/18
A23J3/20
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018150934
(22)【出願日】2018-08-10
(65)【公開番号】P2020025478
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺内 美結
(72)【発明者】
【氏名】東口 真人
(72)【発明者】
【氏名】小林 恵里奈
(72)【発明者】
【氏名】勝又 忠与次
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-524446(JP,A)
【文献】特開2004-238286(JP,A)
【文献】特開平09-067205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 1/18
A23J 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール濃度が0.2重量%以上の水溶液に、酵母由来タンパク質を添加、混合することによる、酵母タンパク質の分散性改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
酵母タンパク質を飲食品原料として、有効利用するための改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、栄養素材として利用されているだけでなく、抗酸化作用を持っていることから、化粧品、医薬品原料など、広く原料として利用されてきた(特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、タンパク質は、高分子物質であり、増粘性やゲル化性を有しているため、水への溶解性が悪く、さらに水への分散性も悪く、ダマを形成することがあり、各種製品に配合するには、制約があった(特許文献3)。
【0004】
タンパク質の溶解性などの改良には、乳化剤や糖類を添加する方法(特許文献4)、加水分解する方法が知られている。加水分解する方法としては、タンパク質分解酵素を用いる方法、酸又はアルカリを用いた方法が知られている。
【0005】
しかしながら、酵素分解による可溶化では、アミノ酸による苦味などを生じることがあり(特許文献5)、そのため、使用する酵素を選別するなどの工夫が必要であった。酸やアルカリによる可溶化では、高温での処理が必要であった。また、特許文献4は、造粒により、タンパク質の水への溶解性を改善している。
そのため、より簡便で、汎用的に利用できるタンパク質素材を得る製造方法が求められていた。
【0006】
タンパク質の原料として、植物由来のものが用いられている。例えば、穀類、豆類、いも類、それらの加工品であるグルテン、コーンタンパク、脱脂大豆、分離大豆タンパク質およびポテトタンパク質等が挙げられる。さらに、このような原料以外に酵母を原料とすることも知られている。酵母には核酸、アミノ酸、タンパク質、ペプチドなど豊富な呈味性成分や栄養成分が含まれており、その抽出物である酵母エキスは天然の調味料や健康食品、微生物用の培地など幅広い分野で用いられている。さらに、酵母から酵母エキスを抽出した後の酵母菌体はグルカンやマンナンなどの細胞壁成分や蛋白質、脂質などが主要な成分であり、これらを処理または有効利用する方法が種々検討されている。たとえば、特許文献6には、特定の酵素による処理により、酵母残渣から効率的にタンパク質を取得する方法が記載されている。特許文献7には、酵母エキス抽出残渣を特定の酵素で可溶化して排水処理する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-100175号公報
【文献】特開2018-16611号公報
【文献】特開2017-158572号公報
【文献】特許第6189567号
【文献】特開2006-94757号公報
【文献】WO2013/065732
【文献】特開平7-184640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願は、酵母や酵母残渣由来タンパク質の溶解性、分散性などを簡便な方法で改善し、調味料、栄養素材、化粧品、又は医薬品等に配合可能なタンパク質を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の解題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、酵母由来のタンパク質の分散性を改善する方法を見出し、本願発明を完成させた。
【0010】
本発明は、新規な酵母由来タンパク質の分散性改善方法に関するものである。
(1)エタノール濃度が0.2重量%以上の水溶液に、酵母由来タンパク質を添加、混合する工程を有する、酵母由来タンパク質を含む組成物の製造方法。
(2)エタノール濃度が0.2重量%以上の水溶液に、酵母由来タンパク質を添加、混合することによる、酵母タンパク質の分散性改良方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、分散性が改善した酵母由来のタンパク質を、小麦や大豆タンパク質の代替として使用でき、アレルゲン性が低いため、調味料原料、飲食品原料などに簡便に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】応力の測定データ
図2】水への溶解性
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の分散性とは、ダマ(継粉)になりにくく、水への溶解、分散性が向上したことをいい、酵母由来タンパク質以外の素材との混合する場合には、混合時の作業性が向上したことをいう。
【0014】
本発明でいう酵母は、食用酵母として利用可能なものである。例えば、ビール酵母、パン酵母、清酒酵母に分類される酵母や、酵母エキスの原料として用いられる、サッカロマイセス・セレビシエやキャンディダ・ユティリスなどが利用可能である。
【0015】
本発明でいう酵母残渣は、酵母を第一の使用目的の使用済み酵母菌体である。例えば、第一の使用目的が、ビールの発酵での使用であれば、ビール製造工程から排出された酵母菌体、第一の使用目的が酵母エキスの製造であれば、酵母から酵母エキスなどの成分を抽出した後の、酵母菌体である。酵母エキスの抽出方法に制限はなく、一般的に行われている、熱水抽出、アルカリ抽出、自己消化処理、物理的破砕処理、細胞液溶解酵素などの酵素処理などの処理後に酵母エキスを抽出するなど抽出方法により抽出された後の酵母残渣を用いることができる。
【0016】
本発明では、酵母菌体又は酵母残渣に含まれるタンパク質を改良する方法であり、原料として、酵母菌体又は酵母残渣を利用することができる。酵母菌体は、培養後の菌体を培地成分等の洗浄後使用ことができる。乾燥後の菌体を使用してもよい。本発明で原料とする酵母菌体中のタンパク質含量は、乾燥重量で菌体中に50重量%以上含むものを使用することが好ましい。50重量%に満たない場合は、細胞壁溶解酵素により、酵母細胞壁を分解除去することで、タンパク質含量を高めることができる。
【0017】
酵母残渣を原料とする場合は、乾燥重量で酵母残渣中のタンパク質が50重量%以上含む酵母残渣を使用することが好ましい。酵母エキス抽出後の酵母残渣は、通常、タンパク質含量が高いが、ビール製造工程から排出された酵母は、タンパク質含量が低いことがあるため、前段と同様に、細胞壁溶解酵素により、酵母細胞壁を分解除去することで、タンパク質含量を高めることができる。
【0018】
本発明は、酵母由来のタンパク質を含む組成物に、エタノールを混合することで、酵母由来のタンパク質組成物の分散性を改善することができる。
【0019】
本発明で使用するエタノールは、食品に使用できるものであれば、制限なく使用することができる。みりんなどの発酵食品中に含まれるエタノールを使用することもできる。日本酒などの酒類を利用することもできる。
【0020】
本発明の分散性改良方法は、エタノール濃度が0.2重量%以上の水溶液、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは2.0重量%以上の水溶液に、酵母由来タンパク質組成物を添加、混合することで、酵母由来タンパク質の分散性を改善することができる。より具体的には、例えば、水とエタノールを混合しエタノール2.0重量%水溶液を作成する。当該水溶液に、エタノール水溶液と等重量の酵母菌体又は酵母残渣である、酵母タンパク質を含む組成物を添加し混合する。本発明では、エタノール濃度が低濃度でも酵母タンパク質の改良効果があるため、エタノール濃度は、低濃度でも良い。
【0021】
前段の方法により改良された酵母由来タンパク質は、そのまま、食品素材の原料とすることができる。混合したエタノール水溶液を乾燥により除去しても良い。
【0022】
みりんなどのエタノールを含む発酵調味料や酒類などの場合は、酵母菌体又は酵母残渣である、酵母タンパク質を含む組成物を混合するだけでも良い。みりんなどは、液体で利用するため、前段のように、酵母菌体等との混合液を作ることなく、酵母菌体等を直接みりん等に添加して使用することもできる。みりん等においては、酵母由来タンパク質を分散させることができるため、タンパク質やその分解物であるペプチドを豊富に含む調味料として利用することができる。
【実施例
【0023】
以下の実施例にて、本発明の実施例を示し、より詳細に説明するが、本発明は、以下の記載に限定されない。
【実施例1】
【0024】
酵母残渣(「KR酵母」(興人ライフサイエンス社製))を用いて、酵母由来タンパク質の改良を行った。本実施例で用いた酵母残渣中のタンパク質含量は、ケルダール法にて、タンパク換算で算出し、59.94%のタンパク質含量であった。表1に示す混合比で、水とエタノールを混合し、酵母残渣50gとエタノール水溶液50gをスパチュラで混合した。混合後、100ml容のビーカーに混合物を入れて、押し固めた。この時、各サンプルの高さを同一となるように調整した。
【0025】
【表1】
【0026】
調整後、テクスチャーアナライザー(株式会社島津製作所 EZ-SX 500N)用いて各資料の応力を測定した。テクスチャーアナライザーの測定条件は、圧縮応力30%圧縮、圧縮回数1回、試料の高さ19mm、試料の重量100gとした。測定は2回行い、2回の平均を表2及び図1に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
エタノール濃度が高いほど、エタノール水溶液への添加により、酵母残渣の応力が減少することが分かった。
【0029】
次に、応力の減少が水への分散性、溶解性に影響があるかを調べるため、応力測定時と同様に、表1のエタノール水溶液(1g)にKR酵母(1g)を混合し、略直方体状に成形した。
成形した試料を50mlの水が入った50ml容のビーカーに静かに投入し静置した。静置後、0秒、60秒、15時間後の結果を示す写真を図2に示す。
【0030】
エタノールが混合した水溶液で処理した酵母残渣は、応力の低下に伴って、水中での静置で崩壊し、水への分散性が向上していることが分かった。0.5重量%のエタノール水溶液に混合した酵母残渣においても、水中で崩壊していたため、当該濃度のエタノール水溶液においても、酵母残渣の分散性を改善することが確認できた。
図1
図2