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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-31
(45)【発行日】2022-09-08
(54)【発明の名称】飲料用粉末油脂
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20220901BHJP
   A23F 5/24 20060101ALN20220901BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20220901BHJP
【FI】
A23D9/00 514
A23F5/24
A23L23/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018171961
(22)【出願日】2018-09-13
(62)【分割の表示】P 2014103732の分割
【原出願日】2014-05-19
(65)【公開番号】P2018191655
(43)【公開日】2018-12-06
【審査請求日】2018-09-14
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 宜隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】伊野 大記
(72)【発明者】
【氏名】北谷 友希
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】大島 祥吾
【審判官】植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-95338(JP,A)
【文献】特開2011-223987(JP,A)
【文献】特開平7-87922(JP,A)
【文献】特開平7-107(JP,A)
【文献】特開2006-14629(JP,A)
【文献】特開2013-102757(JP,A)
【文献】特開2014-24972(JP,A)
【文献】パインデックス -澱粉分解物- 概要と基礎資料,日本,2017年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00 - 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂およびデキストリンを含む粉末油脂であって、
キストリンは50質量%水溶液の25℃測定時の粘度が50~500mPasであり、
粉末油脂の油脂含量は46~86質量%であり、
水に溶解した時のメディアン径は0.6~2.0μm
である粉末油脂。
【請求項2】
呈味油を含む請求項1に記載の粉末油脂。
【請求項3】
乳タンパクを含む請求項1または2のいずれかに記載の粉末油脂。
【請求項4】
2.5質量%水溶液のハンター白度が69以上である請求項1から3のいずれかに記載の粉末油脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化物を乾燥粉末化した粉末油脂であって、嗜好品飲料およびスープ類の調理素材または添加物として使用する粉末油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
嗜好品飲料の調理素材、またはその飲料時の添加物として油脂が使用されている。この場合の油脂(いわゆる「クリーマー」)は、天然の乳に類似した味、香り、舌ざわり、色合い(白色化)等を嗜好品飲料に付与することを目的としている。また、油脂はスープ類の調理素材として、油分の付加、あるいは舌ざわりを向上させるため、あるいはスープ類に所望の味や香りを付与するための調味材料(液体スープや粉末スープなど)を調製するための基材としても使用されている。
【0003】
これらの油脂としては液状のものと粉末状のものが知られているが、粉末油脂は液体成分を含まないために製品の少量化が可能であり、温度安定性等に優れるため、保管および流通が簡便である。また、使用時における適量分取が容易であるなどの利点を有している。
【0004】
粉末油脂の製法としては、粉末化基材に油脂を吸着させて粉末化するか、常温で固体の油脂を粉砕して粉末化するなどの方法が知られている。しかしながらこれらの方法により得られた粉末油脂は、飲料に溶解させた際の分散性が悪く、オイルアップしてしまうため、白度の向上や良好な風味が得られなかった。また、使用する油脂の融点により、使用できる飲料の種類が限られるといった問題もあった。
【0005】
一方、粉末化基材を含む水相と油脂組成物(油相)を攪拌、均一化することにより水中油型(oil in water: O/W)乳化物とし、これを乾燥粉末化することによって粉末油脂(以下、「O/W粉末油脂」と記載することがある)を製造する方法が知られている。このO/W粉末油脂は、飲料に添加した際の分散性が良く、微細な粒子が均一に分散するため、乳化安定性に優れている。
【0006】
O/W粉末油脂は、飲料の種類によって構成や組成が異なる。特に、油脂の含量はクリーマーとして使用する粉末油脂の場合は低く(特許文献1:25~45質量%、特許文献2:5~45質量%、特許文献3:25~50質量%、特許文献4:6~44質量%)、スープ類に使用する場合は高い(特許文献5:51.6~65.6質量%、特許文献6:70~80質量%)。
【0007】
粉末化基材としてはデキストリンや加工澱粉が使用されるが、その特性については詳しく検討されていない。例えば、粘度については、クリーマーとしての粉末油脂の製造に使用する加工澱粉(澱粉誘導体)の流動粘度が15~150秒であること(特許文献3)、デキストリンのDEについては、クリーマーとしての粉末油脂の製造に使用するデキストリンのDEが50以下(特許文献2)や10~70(特許文献4)であることが知られている程度である。
【0008】
また、粉末油脂の粒子径については、クリーマーとして使用される粉末油脂の水和後の粒子サイズが0.2~0.5μm(特許文献2)、粉末化する前の乳化物の粒子サイズが1.0~3.0μm(特許文献3)、脂肪粒子サイズが3.0μm以下(特許文献4)であることなどが知られている。ただし、水に再溶解した時の粒子径に基づく検討はされていない。
【0009】
なお、従来の飲料用のO/W粉末油脂は、対象となる飲料に応じて、その基本構成(油脂と粉末化基材)とは別の材料を必須の構成要件とすることもある。例えば、クリーマーとして使用する粉末油脂では、甘味料、タンパク質およびフレーバー(特許文献1)、スープ類に使用する粉末油脂では畜肉エキスや塩(特許文献5)、調味油やタンパク質(特許文献6)などである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2000-516098号公報
【文献】特開昭62-201541号公報
【文献】特開昭58-212743号公報
【文献】特開昭55-085357号公報
【文献】国際公開2010-021322号パンフレット
【文献】特開平3-049649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の飲料用の粉末油脂は対象となる飲料が限定的である。従って、嗜好品飲料のクリーマーとして使用されるO/W粉末油脂は他の飲料には不向きであり、スープ類の調理素材等として使用するO/W粉末油脂はクリーマーとしての使用には適していない。
【0012】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、嗜好品飲料およびスープ類の両方の調理素材または添加物として好適に使用することのできる汎用性の高いO/W粉末油脂を提供することを課題としている。すなわち、本発明は、嗜好品飲料およびスープ類のそれぞれに良好な風味やコク味、白濁感などを付与するとともに、飲料に添加した際の分散性、溶解性、乳化安定性(油浮きがないこと)などが良好であり、さらには粉末油脂の課題の一つである飲料添加時の流動性にも優れた粉末油脂を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、O/W粉末油脂における油脂含量、粉末化基材(デキストリン)の特性、および再溶解時の粒子経などのそれぞれについての最適範囲を決定することによって、上記の課題を解決した。
【0014】
すなわち本発明によって提供される粉末油脂は、油脂を含む油脂組成物(油相)とデキストリン水溶液(水相)との水中油型乳化物を乾燥粉末化した粉末油脂であって、デキストリンは50質量%水溶液の25℃測定時の粘度が50~500mPasであり、油脂組成物の油脂含量は46~86質量%であり、水に溶解した時の粒子径は0.4~2.2μmであることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の粉末油脂は、デキストリンのDEが10~30であること、油脂組成物が呈味油を含むこと、乳タンパクを含むこと、2.5質量%水溶液のハンター白度が69以上であることをそれぞれ好ましい態様としている。
【0016】
なお、前記のデキストリンの粘度は、25℃において50質量%水溶液(加熱溶解し、放冷後水分調整)をB型粘度計(BH型)、No.1ローター、20rpm、30秒の条件で測定した値である。
【0017】
デキストリンのDE(Dextrose Equivalent)とはデキストリンの構成単位であるグルコース残基の鎖長の指標となるものであり、デキストリン中の還元糖の含有量(%)を示す値である。値が大きいほどデキストリンの鎖長は短くなる。
【0018】
水に溶解した時の粒子径は、粉末油脂の10質量%水溶解液を島津製作所製:SALD-2100湿式レーザー回折装置により測定し、粒子径分布の中央値を求めた値(メディアン径)である。
【0019】
ハンター白度は、粉末油脂を2.5質量%濃度で80~90℃の湯で溶解し、5gを反射測定用セルに分注し、Spectrophotometer SE6000(日本電色工業株式会社)にて白度(W(Lab))を測定した値である。測定方法は反射条件にて行い、光源はD65、視野は2°とした。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、粘度が50~500mPasであるデキストリンを採用することによって、被覆性の向上により、O/W粉末油脂の保存安定性が向上したり、O/W粉末油脂を飲料に添加する際の溶解性、流動性が向上する。また飲料のコク味を維持することもできる。
【0021】
油脂組成物中の油脂含量を46~86質量%とすることで、飲料に添加した際の白度、コク味の向上、乳化安定性の向上(油浮きの防止)、コク味維持が図られる。
【0022】
水に溶解した時のメディアン径が0.4~2.2μmの範囲とするように粉末化することによって、乳化安定性の向上、白度維持が図られる。
【0023】
さらに、デキストリンのDEを10~30の範囲とすることで、油脂本来の風味を維持することができ、油脂組成物が呈味油を含むことによって飲料のコク味を向上させることができ、乳タンパクを含むことで乳化安定性をさらに向上させることができ、2.5質量%水溶液のハンター白度が69以上とすることで、飲料の白濁感を向上させ、味(酸味、塩味、および苦味など)のカドがとれたまろやかな風味を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の粉末油脂は、油脂を含む油脂組成物(油相)とデキストリン(粉末化基材)水溶液(水相)とを攪拌、均一化することにより水中油型(O/W)乳化物とし、これを乾燥粉末化することによって得られる。
【0025】
1.油脂組成物(油相)
油脂組成物(油相)中の油脂としては、液体、固体の動植物油脂、硬化した動植物油脂、動植物油脂のエステル交換油、分別した液体油又は固体脂等、食用に適するものであれば特に限定されない。具体的には、ナタネ油、コーン油、大豆油、綿実油、サフラワー油、パーム油、ヤシ油、米糠油、ゴマ油、カカオ脂、オリーブ油、パーム核油等の植物性油脂、魚油、豚脂、牛脂、鶏脂、乳脂等の動物性油脂、およびこれらの油脂の水素添加油またはエステル交換油、あるいはこれらの油脂を分別して得られる液体油、固体脂等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0026】
油脂組成物は、呈味油を含んでもよい。呈味油は、呈味性を有する油脂や油溶性の呈味成分を用いるか、油脂に油溶性の呈味成分を添加することにより呈味性を有する油脂とすることができる。呈味性を有する油脂としては、食用油脂であれば特に限定されず、乳脂、ゴマ油、牛脂、豚脂、鶏油、ピーナツ油、アーモンド油、レモン油、ライム油、オレンジ油、オリーブ油、動植物油等に香味野菜の香気成分を付与した葱油、山椒油、ガーリック油、ジンジャー油、バターを加熱して焙煎臭を付与した焦がしバター油、動植物油脂の部分水素添加油等が挙げられる。また油溶性の呈味成分としては、バターフレーバー、ミルクフレーバー、クリームフレーバー、ナッツフレーバー、フルーツフレーバー、乳製品の酵素分解物等が挙げられる。油脂に呈味油を用いると、飲料のコク味をさらに向上させることができる。
【0027】
本発明の粉末油脂における油脂含量(呈味油の油脂を含む。)は、46~86質量%、好ましくは50~80質量%、さらに好ましくは60~80質量%である。46質量%以上であると、飲料の白濁感やコク味を向上させることができ、86質量%以下であると、乳化安定性が向上し、オイルアップが起こりにくくなる。
【0028】
2.デキストリンの水溶液(水相)
O/W乳化物を調製するための水相は、粉末化基材としてのデキストリンを水に溶解して調製する。
【0029】
デキストリンは澱粉を化学的または酵素的方法により低分子化した澱粉部分加水分解物であり、市販品などを使用できる。澱粉の原料としては、コーン、キャッサバ、米、馬鈴薯、甘藷、小麦などを挙げることができる。本発明では、特に、50%水溶液の25℃測定時の粘度が50~500mPas、好ましくは65~450mPas、さらに好ましくは200~400mPasであるデキストリンを使用する。また、DEは好ましくは10~30、さらに好ましくは10~20、特に好ましくは10~15の範囲であるデキストリンを使用する。10以上であると、糊っぽい味がでることにより油脂本来の風味が出にくくなるのを抑制でき、30以下であると、甘味がでることにより油脂本来の風味が出にくくなるのを抑制できる。
【0030】
なおデキストリンは、O/W粉末油脂中の割合が10~60質量%となるように配合する。
【0031】
3.その他の成分
粉末化基材としては、上記のデキストリンの他、乳タンパク、大豆タンパク、小麦タンパク、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエーパウダー、バターミルクパウダー、小麦粉、デンプン、ゼラチン、増粘多糖類、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類、ラクトース、スクロース、マストース等の二糖類、オリゴ糖、トレハロース、プルラン等の糖類等を適宜に配合してもよい。
【0032】
乳タンパクとしては、例えば、酸カゼイン、レンネットカゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、ホエータンパク、それらの酵素分解物である乳ペプチド、ミルクプロテインコンセントレート、トータルミルクプロテイン等が挙げられる。中でも、非ミセル状態であるカゼインナトリウム、カゼインカリウム、ホエータンパク、乳ペプチド、酸カゼインなどを用いると、乳化安定性がさらに向上し、飲料に添加後、加熱殺菌等の熱処理を行っても、オイルアップが起こりにくくなる。カゼインは、アルカリの添加による中和やカルシウム封鎖剤の添加、あるいはpHを酸性に調整することによる沈澱などにより、リン酸カルシウム等で架橋しているミセル構造が破壊し、非ミセル状態となる。乳タンパクの添加量は、特に制限されないが、粉末化前の乳化物の粘度を考慮すると、粉末油脂全量に対して0.5~10.0質量%が好ましく、0.5~6.0質量%がさらに好ましい。
【0033】
デンプンとしては、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプン、緑豆デンプン、サゴデンプン、コーン、ワキシーコーン、馬鈴薯、タピオカ等を原料とし、これをエーテル化処理したカルボキシメチルデンプンや、エステル化処理したリン酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプン、エーテル化処理したヒドロキシプロピルデンプン、湿熱処理デンプン、酸処理デンプン、架橋処理デンプン、α化処理デンプン等が挙げられる。中でも、乳化安定性の面から、オクテニルコハク酸デンプンが好ましい。
【0034】
増粘多糖類としては、キサンタンガム、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、LMペクチン、HMペクチン等が挙げられる。中でも、乳化安定性の面から、アラビアガムが好ましい。
【0035】
また、O/W乳化物の調製に当たっては、必要に応じて乳化剤を適宜に配合することもできる。乳化剤は食品用であれば特に限定されることなく、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム等を用いることができる。中でも、風味や乳化安定性の面で、レシチンやグリセリン脂肪酸エステルを用いるのが好ましい。レシチンとしては、菜種、大豆、コーン、ヒマワリ、卵黄などから得られるリン脂質と粗油を含むペースト状の粗製レシチン、粗製レシチンをさらに精製した高純度レシチン、分別レシチン、酵素分解レシチンなどが挙げられる。グリセリン脂肪酸エステルとしては、油脂から得られる脂肪酸とグリセリンを反応させて製造されるモノエステルやジエステルなどが挙げられる。
【0036】
レシチンの添加量は、粉末油脂全量に対して0.1~1.0質量%が好ましく、0.1~0.7質量%がさらに好ましい。グリセリン脂肪酸エステルの添加量は、粉末油脂全量に対して0.1~15.0質量%が好ましく、0.5~10.0質量%がさらに好ましい。
【0037】
レシチンと非ミセル状態の乳タンパクを組み合わせると、粉末油脂の流動性や再溶解後の乳化安定性をさらに向上させることができ、オイルアップの抑制効果や白度が特に向上する。このような点を考慮すると、レシチンと非ミセル状態の乳タンパクとの質量比(レシチン/非ミセル状態の乳タンパク)は、0.03~0.2が好ましく、0.05~0.15がさらに好ましい。
【0038】
これらの乳化剤は、通常は、油溶性乳化剤は油相に、水溶性乳化剤は水相に配合する。
【0039】
油相および水相には、本発明の効果を損なわない範囲内において、酸化防止剤、着色料、フレーバー等を適宜に配合してもよい。
【0040】
4.O/W粉末油脂の調製
デキストリン水溶液(水相)に油脂組成物(油相)を添加し、ホモミキサー等で加温下にて攪拌後、ホモゲナイザー等で均質化することによりO/W乳化物とし、その後、乾燥粉末化してO/W粉末油脂を得る。水相と油相は、50~90℃、好ましくは65~85℃に加熱し、添加した成分を完全に溶解しておくことが望ましい。乳化工程は、50~90℃、好ましくは65~85℃に調温して行う。O/W乳化物を乾燥粉末化する方法としては、一般的に知られている噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法等を用いることができる。デキストリンを主成分とする粉末化基材は被覆材として機能し、乾燥後の本発明のO/W粉末油脂は、油脂が粉末化基材で覆われた(カプセル化した)形状となる。より具体的に以下の工程でO/W粉末油脂は調製される。
【0041】
乳化工程では、前記の各原料を乳化機の撹拌槽に投入して撹拌混合した後、圧力式ホモゲナイザーで油滴サイズを微細化する。原料の配合手順は、特に限定されないが、例えば、粉末化基材を水に室温で分散後、加熱下に攪拌して完全に溶解させた後、ホモミキサーで攪拌しながら、油脂を加熱溶解させたものを添加して乳化する。得られた乳化液は、圧力式ホモゲナイザーに供給することによって油滴サイズが微細化される。例えば、市販の圧力式ホモゲナイザーを用いて、10~250kg/cm2の程度の圧力をかけて均質化し、油滴サイズを微細化することができる。油滴サイズを微細化した乳化液は高圧ポンプで噴霧乾燥機の入口に供給し、高温熱風を吹き込み、噴霧乾燥機の槽内に上方から噴霧する。噴霧乾燥された粉末は槽内底部に堆積される。噴霧乾燥機としては、例えば、アトマイザー方式やノズル方式で噴霧するスプレードライヤーを用いることができる。次に、噴霧乾燥された粉末を噴霧乾燥機の槽内から取り出した後、振動流動槽などを搬送しながら冷風で冷却することによって、本発明の粉末油脂を製造することができる。なお、適宜のときに加熱殺菌工程などを設けることもできる。
【0042】
以上の工程により、10質量%水溶液におけるメディアン径が0.4~2.2μm、好ましくは0.5~2.1μm、さらに好ましくは0.6~2.0μmであり、2.5質量%水溶液のハンター白度が69以上であるO/W粉末油脂が得られる。なお、最終的に得られたO/W粉末油脂は0.5~2.0質量%程度の水分を含んでいる。
【0043】
5.飲料
本発明の粉末油脂は、嗜好品飲料のクリーマーとしても、スープ類の調理素材としても好適に使用することができる。嗜好品飲料としてはコーヒー、紅茶、ココア、おしるこ、抹茶等である。本発明の粉末油脂は、これらの嗜好品飲料の製造時の調理素材として、または嗜好品飲料を飲用する際の添加物して使用することができる。また、乳性飲料や酸性飲料等に風味やコク、白度を付与するための調理素材としても使用することができる。さらに、スープ類としては、コンソメ、ポタージュ、とんこつスープ等のラーメンスープ、トムヤムクン、酸辣湯等の中華スープ、カレースープ等が挙げられる。これらのスープ類の調理素材として使用することもでき、あるいはスープ類の調味材料(粉末スープなど)の基材としても使用することができる。
【0044】
なお、本発明の粉末油脂は、使用対象の飲料に応じて、以下の構成を採用することが好ましい。
【0045】
すなわち、クリーマーとして使用する場合は、デキストリン粘度:60~500mPas、デキストリンDE:10~30、メディアン径:0.4~1.2μm、ハンター白度:77以上である。一方、スープ類に使用する場合は、デキストリン粘度:200~500mPas、デキストリンDE:10~23、メディアン径:1.0~2.2μm、ハンター白度:70以上である。
【実施例
【0046】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
(1)粉末油脂の調製
表1にそれぞれの配合(質量部)を示した粉末油脂(実施例1~14)を調製した。材料は全て市販品を使用した。油脂組成物を70℃に調温して油相とし、同じく水に粉末化基材を添加して70℃に調温して水相とした。水相に油相を添加し、ホモミキサーで攪拌した後、ホモゲナイザーで10~150kg/cm2の圧力をかけて均質化してO/W型乳化物を得た。乳化は70℃で行った。この乳化物をノズル式スプレードライヤーを用いて、水分1.3質量%を目標に噴霧乾燥し、粉末油脂を得た(噴霧乾燥条件:入口温度210℃)。
【0047】
また、表2に配合(質量部)を示した粉末油脂(比較例1~6)を実施例の粉末油脂と同様の方法により調製した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
(2)再溶解後の評価
[オイルアップ]
粉末油脂を10質量%になるよう水に溶解し、オイルアップの状態を目視により以下の基準で評価した。
評価基準
5点:油浮きがない。
4点:油浮きがかすかにある。
3点:油浮きが少しある。
2点:油浮きがある。
1点:油浮きがかなりある。
【0051】
[メディアン径(μm)]
粉末油脂を10質量%になるよう水に溶解し、島津製作所製:SALD-2300湿式レーザー回折装置により測定し、粒子径分布の中央値として求めた。
【0052】
[白度]
粉末油脂を2.5質量%となるよう80~90℃の湯に溶解し、5gを反射測定用セルに分注し、Spectrophotometer SE6000(日本電色工業株式会社)にて白度(W(Lab))を測定した。測定方法は反射条件にて行い、光源はD65、視野は2°とした。得られた数値から以下の基準で白度を評価した。
評価基準
5点:77以上
4点:72以上77未満
3点:69以上72未満
2点:66以上69未満
1点:66未満
【0053】
(3)粉末油脂の評価
[溶解性]
40℃の水197gに粉末油脂3gを入れ、薬さじで30秒間攪拌し、粉末油脂の溶け方を以下の基準で評価した。
評価基準
5点:溶け残りがない。
4点:溶け残りがあまりない。
3点:溶け残りが少しある。
2点:溶け残りがある。
1点:溶け残りがかなりある。
【0054】
[手触り]
粉末油脂を手に取り、触感、目視にて、以下の基準で評価した。
評価基準
5点:粉が均一で、流動性が非常に良い。
4点:粉が均一で、流動性が良い。
3点:粉がやや不均一であるが、流動性が良い。
2点:粉が不均一で、流動性が悪い。
1点:粉が不均一で、流動性がかなり悪い。
【0055】
[風味]
粉末油脂をパネル12人により試食し、油脂本来の風味が出ていて、風味が良好であるか官能評価を行い、以下の基準で評価した。
評価基準
5点:9名以上が良好であると評価した。
4点:8~7名が良好であると評価した。
3点:6~5名が良好であると評価した。
2点:4~3名が良好であると評価した。
1点:良好であると評価したのは2名以下であった。
【0056】
(4)コーンポタージュの評価
各実施例および比較例の粉末油脂を用いて、下記に示す配合で、混合し撹拌しながら80℃に加熱しコーンポタージュを作製した。
【0057】
スイートコーン缶詰 100質量部
牛乳 300質量部
粉末油脂 50質量部
食塩 少々
コショウ 少々
作製したコーンポタージュについて以下の試験を行った。
[オイルアップ]
コーンポタージュの表面状態を目視し、前記(2)[オイルアップ]と同様の基準によりオイルアップを評価した。
[コク味]
パネル12人により試食し、油脂の風味が良く出ていて、油のギトギト感がなく、良好なコク味であるかを以下の基準で官能評価した。
評価基準
5点:9名以上が良好であると評価した。
4点:8~7名が良好であると評価した。
3点:6~5名が良好であると評価した。
2点:4~3名が良好であると評価した。
1点:良好であると評価したのは2名以下であった。
【0058】
[塩カド]
パネル12人により試食し、塩カドが取れ、まろやかで、良好な塩味であるかを、以下の基準で官能評価した。
評価基準
5点:9名以上が良好であると評価した。
4点:8~7名が良好であると評価した。
3点:6~5名が良好であると評価した。
2点:4~3名が良好であると評価した。
1点:良好であると評価したのは2名以下であった。
【0059】
[風味]
パネル12人により試食し、まろやかな油脂の風味が出ていて、糊っぽさや強い甘さのようなコーンポタージュとして違和感のある味がなく、良好な風味であるか、以下の基準で官能評価した。
評価基準
5点:9名以上が良好であると評価した。
4点:8~7名が良好であると評価した。
3点:6~5名が良好であると評価した。
2点:4~3名が良好であると評価した。
1点:良好であると評価したのは2名以下であった。
【0060】
(5)コーヒーの評価
下記の配合比率で、コーヒー抽出液に砂糖、粉末油脂を入れ、加温溶解した後、熱湯を注ぎ、完全に溶解してコーヒーを作製した。
【0061】
コーヒー抽出液※ 30
砂糖 5
粉末油脂 1
お湯 64
※20質量%濃度になるよう湯にコーヒー粉末(市販品)を溶かし、リン酸水素2ナトリウムでpH6.56に調整した。
【0062】
作製したコーヒーについて以下の試験を行った。
【0063】
[オイルアップ]
コーヒーの表面状態を目視し、前記(2)[オイルアップ]と同様の基準によりオイルアップを評価した。
【0064】
[コク味]
パネル12人により試飲し、油脂の風味が良く出ていて、油のギトギト感がなく、良好なコク味であるかを以下の基準で官能評価した。
評価基準
5点:9名以上が良好であると評価した。
4点:8~7名が良好であると評価した。
3点:6~5名が良好であると評価した。
2点:4~3名が良好であると評価した。
1点:良好であると評価したのは2名以下であった。
【0065】
[白濁感]
コーヒーの液色を目視し、以下の基準で白濁感を評価した。
評価基準
5点:非常に強く白濁している。
4点:強く白濁している。
3点:白濁している。
2点:少し白濁している。
1点:あまり白濁していない。
【0066】
[風味]
パネル12人により試飲し、油脂のしつこさがなく清涼感を損ねない油脂の風味が出ていて、糊っぽさのようなコーヒーとして違和感のある味がなく、風味が良好であるかを、以下の基準で官能評価した。
評価基準
5点:9名以上が良好であると評価した。
4点:8~7名が良好であると評価した。
3点:6~5名が良好であると評価した。
2点:4~3名が良好であると評価した。
1点:良好であると評価したのは2名以下であった。
【0067】
(6)結果
実施例1~14の粉末油脂について、以上の各評価の結果を表3(コーンポタージュ)および表4(コーヒー)に示した。また比較例1~6の粉末油脂についての評価結果を表5(コーンポタージュ)および表6(コーヒー)に示した。
【0068】
表3~6に示したとおり、実施例1~14の粉末油脂は、メディアン径以外の9項目の評価点の合計(最高45点)が36点から45点と極めて良好な結果を示したのに対し、比較例1~6の合計点数は18点から27点と低い評価であった。
【0069】
また、粉末油脂の配合は実施例と同一でありながら、メディアン径が5.0μmである粉末油脂(比較例4)は評価合計点が26であった。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】